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Behçet 病,サルコイドーシス,再発性多発軟骨炎―診断と鑑別を中心にー

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Academic year: 2021

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はじめに 耳鼻咽喉科領域に関連した膠原病を取り上げた本 シリーズは,これまで耳鼻咽喉科展望 58 巻に 4 回 にわたり,Sjögren 症候群,血管炎,IgG4 関連疾患 について述べてきたが,多臓器疾患である膠原病領 域にはこれら以外にも耳鼻咽喉領域の所見が重要と なる疾患が存在する。頭頸部には多数の器官や組織 が密集しており,それぞれが炎症の母地となりうる ため,疾患も症候も多彩である。第 5 回目の本稿で は,Behçet 病,サルコイドーシス,再発性多発軟 骨炎について,日常診療で耳鼻咽喉科の先生方にも 役立つ話題を,当科で経験した症例を絡めて解説し ていく。 Ⅰ. Behçet 病 Behçet病は,1937 年にトルコの皮膚科医 Hulusi Behçetによりはじめて報告された,口腔粘膜のア フタ性潰瘍,皮膚症状,眼炎(ぶどう膜炎),外陰 部潰瘍を 4 主徴とした急性炎症性発作を反復する原 因不明の全身性炎症性疾患である1)。日本から中東 にかけてのシルクロードに沿って多発することは有 名であるが,日本は最多発国のひとつで,特に北海 道を含む北日本に多い。厚生労働省により特定疾患 に定められており,平成 25 年度の特定疾患医療受 給者数は 19,147 人となっている。本疾患の中心病 態は,好中球の病的活性化により引き起こされる血 管炎,特に静脈炎と考えられている。自己免疫的機 序は証明されておらず,HLA―B51 と A26 の保有率 が有意に高く,遺伝性の要素が考えられている2) 自己抗体などの疾患特異的マーカーがない(HLA― B51は陰性例も多く,診断の決め手にならない), 症状は同時にすべて揃うとは限らない,4 主症状す べてが出現すること(完全型)はむしろ少ない,な どの理由から,診断は必ずしも容易ではなく,除外 診断が重要である。そして,厚生労働省の診断基準 (表 1)を用いるが,言い換えればこれで診断をす るしか適切な方法がないのである。 Behçet病において耳鼻咽喉科医が関与する機会 は主要症候のひとつである口内炎が現れたときであ ろう。単独で初発症状となることも多く,これを主 訴に耳鼻咽喉科または口腔外科を初診し,そこで本 疾患が疑われ内科に紹介となるケースも多い。明ら かな他の特徴的症状を合併していない場合でも(つ まり口内炎単独であっても),多発難治性であった 場合,本疾患想定のもとでたびたび耳鼻咽喉科医か ら相談をうける。口内炎は本疾患で唯一,ほぼ必発 の症状であるという点で非常に重要である。しか し,Behçet 病の診断は,診断基準にある他の項目 を満たすことが必要で,口内炎単独ではどんな状況 でも Behçet 病疑い と し か 診 断 で き ず,こ の こ と は,口内炎のみの症例を内科医に依頼しても Behçet 病と確定診断されないことを意味する(診断できた 場合は,内科医が他の所見を見つけたときである)。 口内炎のみの症例では,他疾患の鑑別が重要にな る。主な口内炎の原因を表 2 に示した3)。一般的に 口内炎といえば,口腔粘膜に数ミリ大の灰白色の小 斑(アフタ)が形成されるアフタ性口内炎を指す が,若年時を中心に多くの人が経験する再発性アフ タ 性 口 内 炎 ; Recurrent Aphthous Stomatitis (RAS)をはじめ,様々な状況で日常的に誰にでも 東京慈恵会医科大学内科学講座リウマチ・膠原病内科 境界領域

Behçet

病,サルコイドーシス,再発性多発軟骨炎

―診断と鑑別を中心にー

ふる や かず ひろ

キーワード:Behçet 病,サルコイドーシス,再発性多発軟骨炎,天疱瘡,菊池病

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出現しうる(表 3)4)。Behçet 病でみられるのもこ のアフタ性口内炎であり,外見や生検で両者を区別 することは困難である。ただし,RAS を含む一般 的なアフタ性口内炎は通常 1∼2 週間程度で消失す るが,それに対して,頻繁に再発を繰り返す,常に 出現している(3 週間以上),多発している(5 個以 上),大型化する,発熱を伴う,という場合には, 他の所見が乏しくても本疾患を疑う必要がある。さ らに,Behçet 病の口内炎は有痛性であるというこ とは忘れてはいけない(本疾患と並んで口内炎を呈 する代表的な膠原病である全身性エリテマトーデス は無痛性が多い)。問診でしか口内炎の事実が確認 できない場合や,診察で口内炎が認められても軽度 であった場合,それが他の因子によるものか Behçet 病によるものかの区別はしばしば困難である。 Behçet病の口内炎は自然治癒する例もある。治 療はステロイド外用薬を適宜使うほか,白血球遊走 抑制効果を期待してコルヒチンを処方することがあ る。そのほかの病変の治療については本稿では割愛 する。 下記に当科で経験した 2 例を紹介する。いずれも 難治性の口腔潰瘍から当初は Behçet 病を疑った。 結論から述べると 2 例とも他疾患であった。難治性 多発性口腔潰瘍をみた場合にまず本疾患を想起する のは誤りではないが,先入観は禁物である。 症 例 1:49 歳,男性 主 訴:口腔内有痛性潰瘍,体重減少 現病歴:6 ヵ月前より口腔内疼痛が,3 ヵ月前よ 表 1 厚生労働省ベーチェット病診断基準(2010 年小改訂)より,主要項目の項のみ抜粋 (1)主症状 1.口腔粘膜の再発性アフタ性潰瘍 2.皮膚症状 (a)結節性紅斑様皮疹 (b)皮下の血栓性静脈炎 (c)毛嚢炎様皮疹,痤瘡様皮疹 参考所見:皮膚の被刺激性亢進 3.眼症状 (a)虹彩毛様体炎 (b)網膜ぶどう膜炎(網脈絡膜炎) (c)以下の所見があれば(a)(b)に準じる (a)(b)を経過したと思われる虹彩後癒着,水晶体上色素沈着,網脈絡膜萎縮,視神経萎縮, 併発白内障,続発緑内障,眼球癆 4.外陰部潰瘍 (2)副症状 1.変形や硬直を伴わない関節炎 2.副睾丸炎 3.回盲部潰瘍で代表される消化器病変 4.血管病変 5.中等度以上の中枢神経病変 (3)病型診断の基準 1.完全型 経過中に 4 主症状が出現したもの 2.不全型 (a)経過中に 3 主症状,あるいは 2 主症状と 2 副症状が出現したもの (b)経過中に定型的眼症状とその他の 1 主症状,あるいは 2 副症状が出現したもの 3.疑い 主症状の一部が出現するが,不全型の条件を満たさないもの,及び定型的な副症状が反復あるい は増悪するもの 4.特殊病変 (a)腸管(型)ベーチェット病―腹痛,潜血反応の有無を確認する。 (b)血管(型)ベーチェット病―大動脈,小動脈,大小静脈障害の別を確認する。 (c)神経(型)ベーチェット病―頭痛,麻痺,脳脊髄症型,精神症状などの有無を確認する。

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り口腔内に潰瘍が出現した。1 ヵ月前より食事摂取 困難となったため近医耳鼻咽喉科を受診した。Pred-nisolone 15mg/day,loxoprofen,ビタミン C 製剤, ビタミン B1・B6・B12 複合薬を処方され内服した が,改善を認めなかった。2 週間前 prednisolone を betamethasone 1.5mg/dayに切り替えたがやはり改 善しなかった。なお,当院初診までの 4 ヵ月間で体 重が 25kg 減少した。当院耳鼻 咽 喉 科 を 受 診 し, Behçet病などの膠原病類縁 疾 患 を 疑 わ れ 当 科 受 診,精査加療目的にて入院となった。 既往歴:適応障害にて内服加療中 家族歴:特記事項なし 入院時身体所見:身長 173cm,体重 63kg,体温 36.2℃,血 圧 97/68mmHg,脈 拍 96 回/分・整。両 眼部に異常を認めず。口腔内に多発するびらん・潰 瘍あり。頸部リンパ節を触知せず。心雑音,肺雑音 聴取せず。腹部は平坦で軟,腸蠕動音正常。下腿浮 腫なし。関節腫脹なし。明らかな皮疹なし。 血液検査所見:WBC 6,600/μl,Hb 15.1g/dl,Plt

29.0万/μl,AST 39IU/l,ALT 44IU/l,LDH 189IU /l,ALP 196IU/l,γ―GT 61IU/l,T―Bil 0.8mg/dl, TP 7.4g/dl,Alb 3.9g/dl,UN 43mg/dl,Cr 1.09mg /dl,Fe 91μg/dl,Zn 108μg/dl,Cu 121μg/dl,CRP 0.42mg/dl,IgG 1,038mg/dl,IgA 454mg/dl,IgM 55mg/dl,抗核抗体 40 倍未満,β―D グルカン<4.0 pg/ml,抗 HIV 抗体(―),抗 HZV IgM 抗体 0.18(―)。 抗 HZV IgG 抗体<2.0(―),抗デスモグレイン 1 抗 体<3.0U/ml,抗 デ ス モ グ レ イ ン 3 抗 体 1,000.0U/ ml。 全身単純 CT:両側口蓋扁桃の石灰化(扁桃炎後 変化の疑い)。その他頸部臓器に異常なし。脳実質, 肺野,縦隔,横隔膜下臓器に異常なし。病的リンパ 節腫大なし。 咽頭ファイバー検査:口腔内∼下咽頭に粘膜の発 赤,びらんあり。悪性示唆する所見なし。 上部消化管内視鏡:食道切歯 25cm に異所性胃粘 膜を疑う所見あり。 下部消化管内視鏡:異常なし。 表 2 口内炎を呈する代表的な疾患3) 疾患名 口腔粘膜病変 ウイルス性口内炎 (1)単純疱疹 水疱,びらん (2)帯状疱疹 水疱,びらん,痂皮 (3)ヘルパンギーナ 水疱,アフタ (4)手足口病 アフタ (5)麻疹 白斑(Koplik 斑) (6)風疹 紅斑(Forschheimer 斑) カンジダ性口内炎 (7)口腔カンジダ症 白苔 水疱性口内炎,びらん性口内炎,カタル性口内炎 (8)尋常性天疱瘡 水疱,びらん (9)類天疱瘡 水疱,びらん (10)扁平苔癬 白斑,びらん (11)移植片対宿主病(GVHD) 白斑,びらん,潰瘍 (12)多形滲出性紅斑((1)∼(4)) 紅斑,水疱,びらん アフタ性口内炎 (13)Behçet 病 アフタ (14)Sweet 病 アフタ (15)Crohn 病 アフタ,潰瘍,肉芽腫 (16)周期性好中球減少症((1)(3)(4)) アフタ 潰瘍性口内炎 (17)急性壊死性潰瘍性歯肉炎 歯肉の壊死,潰瘍 (18)全身性エリテマトーデス(SLE) 白斑,潰瘍 (19)白血病 腫脹,出血,潰瘍

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食道粘膜生検病理:食道粘膜基底層上部にて裂隙 形成あり。尋常性天疱瘡の組織像に類似。 入院後経過:眼炎や陰部潰瘍,定型的皮疹はなく Behçet病に関してはあくまでも疑いであった。上 下部内視鏡検査では Crohn 病などの炎症性腸疾患 を示唆する所見は認めなかった。亜鉛などのミネラ ル欠乏やビタミン欠乏も否定的であった。また悪性 腫瘍や口腔真菌症などの感染症の存在も明らかでな かった。口腔粘膜に水疱性病変が認められたことか ら尋常性天疱瘡を疑い,抗デスモグレイン抗体を測 定したところ,強陽性であった。さらに,食道粘膜 生検で尋常性天疱瘡に類似した組織像を認めた。そ こで,粘膜優位型の尋常性天疱瘡を疑い,口腔潰瘍 生検を行った。口腔潰瘍生検の結果,表皮基底膜直 上に限局した棘融解,水疱形成と,水疱内と真皮浅 層の炎症細胞浸潤がみられ(図 1),尋常性天疱瘡 の診断となった。 解 説:本症例は難治性重症口内炎から Behçet 病が疑われ,耳鼻咽喉科より膠原病内科転科となっ た例である。しかし,最終的には尋常性天疱瘡と診 断され,皮膚科に再転科となった。天疱瘡は,表皮 細胞間の接着因子であるデスモグレイン(Dsg)を 抗原とする自己免疫性疾患であり,皮膚粘膜の表皮 細胞間の接着が障害される結果,皮膚の水疱形成や 粘膜のびらんを呈する難病である。標的抗原となる アイソフォーム Dsg1,Dsg3 のうち,Dsg3 が陽性 となる尋常性天疱瘡では,Dsg1 と Dsg3 共に陽性 となり皮膚と粘膜双方に病変がみられる皮膚粘膜型 と,本例のような Dsg3 単独陽性で粘膜病変のみを 呈す粘膜優位型がある。そして一番特徴的な粘膜病 変は口腔粘膜の難治性びらん,潰瘍である。初発症 状としての頻度も高い5) 表 3 アフタ性口内炎に関連した病因因子4) 局所性 外傷 喫煙 唾液腺組織調節異常 微生物性 細菌性:ブドウ球菌 ウイルス性:水痘帯状疱疹,サイトメガロ 全身性 Behçet病 MAGIC症候群 Crohn病 潰瘍性大腸炎 HIV感染症 PFAPAまたは Marshall 症候群 周期性好中球減少症 ストレス:精神的不均衡,生理周期 栄養性 グルテン感受性腸症候群 鉄,葉酸,亜鉛欠乏 ビタミン B1,B2,B6,B12 欠乏 遺伝性 民族性 HLAハプロタイプ アレルギー性/免疫性 局所 T リンパ球細胞傷害性 異常 CD4:CD8 比 サイトカイン濃度調節異常 微生物誘導性過敏症 ラウリル酸ナトリウム感受性 食物感受性 その他 抗酸化物質 非ステロイド性消炎鎮痛剤 β 阻害薬 免疫抑制剤

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天疱瘡は通常皮膚科領域で扱われる疾患で,皮疹 を認める場合には患者はまず皮膚科を受診すると思 うので,皮膚科医以外の医師が診断するケースは少 ないだろう。しかし,粘膜優位型で皮膚症状に乏し く,口腔潰瘍で初発した場合は,耳鼻咽喉科を受診 することも多い。本例では,口腔内病変については 悪性を示唆する所見に乏しく,はじめは生検を行わ なかった。しかし,天疱瘡のように,病理所見によ って診断に迫れる疾患もあるということも念頭に置 いたうえで生検の是非を考える必要がある。本例で は,抗デスモグレイン抗体を測定したことが診断に 繋がった。このように粘膜型尋常性天疱瘡は,診療 科の狭間に陥りやすい疾患である。口内炎が中心症 状の症例では,鑑別が重要であるということを改め て考えさせられた症例であった。 症 例 2:34 歳,女性 主 訴:発熱,口腔・外陰部潰瘍 現病歴:3 ヵ月前頃より易疲労感,倦怠感を自覚 し,徐々に増悪していた。2 ヵ月前より発熱および 左耳介後部有痛性結節を自覚し耳鼻咽喉科医を受診 し,リンパ節炎との診断にて抗生剤を処方され内服 開始後,リンパ節腫脹は軽快した。しかし発熱は持 続し,口腔潰瘍や外陰部潰瘍も出現するようになっ た。1 週間前より 39℃ 台まで発熱するようになっ たため Behçet 病などが疑われ,当院当科外来を紹 介受診,精査加療目的にて入院となった。 既往歴:特記事項なし 家族歴:特記事項なし 入院時身体所見:身長 150cm,体重 44kg,体温 38.2℃,血圧 112/68mmHg,脈拍 70 回/分・整。 眼瞼結膜貧血なし,眼球結膜黄染なし。頭頸部に明 らかな皮疹を認めず。上歯肉および下唇口に 5mm 大の潰瘍あり。左頸部に圧痛を伴う弾性硬のリンパ 節を触知。心雑音,肺雑音聴取せず。腹部は平坦で 軟,腸蠕動音正常。下腿浮腫なし。関節腫脹なし。 右小陰唇に 10mm 大の潰瘍形成あり。 血液検査所見:WBC 3,700/μl,Hb 11.1g/dl,Plt 22.9万/μl,AST 30IU/l,ALT 22IU/l,LDH 326IU/l, ALP 362IU/l,γ―GT 48IU/l,T―Bil 0.3mg/dl,TP 6.9 g/dl,Alb 3.6dl,UN 9mg/dl,Cr 0.69mg/dl,CRP 1.79mg/dl,IgG 1291mg/dl,IgA 185mg/dl,IgM 158 mg/dl,抗 核 抗 体 陰 性,抗 ds―DNA 抗 体<10U/ ml,抗 Sm 抗体<7.0U/ml,抗 SS―A 抗体<7.0U/ml, C―ANCA<1.0EU,P―ANCA<1.0EU,抗 HSV IgM 抗体 0.44(―),抗 HSV IgG 抗体 259(+),EB―VCA IgG40倍,EB―VCA IgM<10 倍,EB―EBNA40 倍 抗 CMV IgM 抗 体 1.07(+/―),抗 CMV IgG 抗 体 9.7(+)。 尿検査所見:比 重 1.050, PH 8.5,蛋 白(―),糖 (―),潜血(+/―)。 頸胸腹部造影 CT:明らかな粗大病変なし。 ガリウムシンチグラフィ:両側頸部リンパ節に集 積あり。 眼科診察:ブドウ膜炎なし。 口唇,右小陰唇擦過細胞診:ヘルペス感染を示唆 する細胞なし。 頸部リンパ節針吸引細胞診:小型リンパ球が主体 で一部にやや大型リンパ球が混在。各成熟段階のリ ンパ球が含まれるが,明らかな核異型なし。細胞崩 壊した壊死物と,それらを貪食したマクロファージ が目立つ。好中球はみられない。 入院後経過:Behçet 病については,診断基準主 症状のアフタ性潰瘍と外陰部潰瘍を認め,2 項目を 満たす。しかし,他の主症状はなく,また副症状や 特殊型 Behçet の存在を示唆する所見も得られなか った。血液検査や潰瘍部細胞診(Tzanck 試験)の 結果からは単純ヘルペス感染症も否定的であった。 頸部リンパ節生検を検討したが,美容上の問題で患 者本人が拒否したため,吸引細胞診を行った。その 結果,壊死性組織球性リンパ節炎を強く疑わせる病 理像が得られた。入院後は自然に解熱傾向となり, 入院 7 日目には消炎鎮痛薬なしでも発熱を認めなく なり,腫脹していた頸部リンパ節も縮小した。ま 図 1 症例 1 の口腔潰瘍部病理像 離開した表皮の棘細胞層と基底細胞層の間に棘融解細 胞がみられ,間隙と真皮浅層に炎症細胞浸潤を伴う。

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た,新たな口腔・陰部潰瘍の出現も認めなくなっ た。CRP も 0.15mg/dl へと正常化した。リン パ 節 細胞診の結果と self―limiting な経過より,菊池病と 診断し,入院 11 日目に退院となった。 解 説:本例は初診時に口腔潰瘍のほか陰部潰瘍 も認めていたが,Behçet 病については疑いレベル であった。菊池病は菊池6),藤本ら7)により 1972 年 に報告された頸部リンパ節炎を主症状とする疾患 で,その病理学的特徴を表して組織球性壊死性リン パ節炎とも呼ばれる。原因は不明で,40 歳未満の 女性に多い。無治療でも 1∼2 ヵ月で自然治癒する ことの多い良性疾患である。節外症状として,熱や 先行する上気道症状,紅斑,関節炎などを呈するこ とがあるが,口腔内潰瘍も 10% 程度にみられる8) このような症状は Behçet 病の症状に似ているので 鑑別が難しいことがある。一方,表在リンパ節腫脹 は,多くの膠原病領域疾患でみられるが,意外にも Behçet病では一般的でない。本症例では明らかな リンパ節腫脹に加えその細胞診で組織球性壊死性リ ンパ節炎を強く示唆する所見が得られているので菊 池病と診断するのが妥当と考えた。 しかし陰部潰瘍について,問題は残る。検索した 限り,菊池病の節外症状として陰部潰瘍の報告はな かった。したがって,①菊池病の節外症状で陰部潰 瘍を呈した稀な例であった,②(関連性はともかく) 菊池病と Behçet 病が併存していた,③菊池病とも Behçet病とも関連のない偶 発 的 な 陰 部 潰 瘍 だ っ た,のいずれかと考えられるが,結論を出すのは難 しい。 Ⅱ. サルコイドーシス サ ル コ イ ド ー シ ス は,1877 年 に 英 国 の 内 科 医 Hutchinsonにより初めて報告された慢性肉芽腫性 疾患である9)。その特徴と診断の要点は,1991 年の 第 12 回国際サルコイドーシス会議で提唱された, 「サルコイドーシスは,①原因不明の多臓器疾患で ある,②その病理組織は非乾酪性類上皮細胞肉芽腫 である,③免疫学的には皮膚の遅延型過敏反応が抑 制されている,④診断には臨床および X 線所見に 加えて罹患部位に類上皮細胞肉芽腫が存在すれば診 断が確実になる,⑤病変部位における CD4 陽性 T 細胞/CD8 陽性 T 細胞比の増加(Th―1 型反応)がみ られる,⑥その他の検査所見としては血清 ACE 活 性が上昇,ガリウムの取り込みの増加,Ca 代謝の 異常,気管支粘膜の蛍光血管造影所見の異常があ る,⑦経過として多くは自然治癒するが,潜行性発 病とくに多臓器に肺外病変のある例は慢性に進行 し,線維化に進展する場合もある,⑧副腎皮質ホル モン剤の治療は症状を改善させ,肉芽腫形成を抑制 し,血清 ACE 値とガリウムの取り込みを正常化す る。」という概念である10)。本邦において特定疾患 に指定されており,平成 25 年の医療受給者証所持 患者数は 24,487 人にのぼる。無症候にて無治療経 過観察のみとなる場合も多いが,実害的な臓器障害 が認められる場合にはステロイド治療が行われるこ ともある。予後は,自然治癒することも多く比較的 良好だが,心病変合併例など一部不良な例も存在す る。罹患臓器は肺をはじめとして,肺門部リンパ節 や皮膚,眼,心臓,神経,筋など全身の様々な臓器 に及ぶ。しかし治療対象となる罹患臓器は単一であ ることも少なくなく,その場合該当臓器の診療科(呼 吸器科,循環器科,眼科など)で診断から治療まで 行われてしまうことも多いため,意外にも膠原病科 で診療している患者数は少ない。 以下に,当科で経験したサルコイドーシス症例の 中で,特徴的な頭頸部病変を呈した 1 例を経験した ので記載する。 症 例 3:39 歳,女性 主 訴:発熱,両側耳下腺腫脹,口渇感,呼吸苦 現病歴:2 ヵ月前より両眼の充血,眼脂,霧視を 自覚し近医眼科を受診,花粉症の診断にてステロイ ド点眼を処方されていた。1 ヵ月前より,特に朝方 に左耳下部の腫脹,疼痛,熱感がみられるようにな った。その後,顔面の浮腫と全身の倦怠感が出現す るようになったため近医耳鼻咽喉科を受診し,抗生 剤(Cefditoren Pivoxil:メイアクトⓇ)と解熱鎮痛 薬の処方を受け内服したが,改善しなかった。7 日 前に当院耳鼻咽喉科を受診し,両側耳下腺と両側涙 腺の腫脹を指摘されたが,外来経過観察方針となっ た。しかし 3 日前より夜間 38℃ 台の発熱(弛張熱) と発熱時の四肢関節痛が出現するようになり,発熱 と唾液腺腫脹,多発関節痛の原因精査目的にて当科 を受診し入院となった。 既往歴:23∼24 歳時に鼻と顎の美容形成術,豊 胸術 家族歴:特記事項なし 入院時身体所見:身長 155cm,体重 48kg,体温 36.8℃,血圧 112/62mmHg,脈拍 86 回/分・整。

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29 31 30 31 両側(右側優位)眼瞼結膜充血あり。口腔内乾燥あ り,発赤腫脹なし。両側涙腺腫脹,両側耳下腺腫脹 で圧痛あり。頸部リンパ節腫脹あり。心雑音,肺雑 音聴取せず。腹部は平坦で軟,腸蠕動音正常。下腿 浮腫なし。関節腫脹なし。左三叉神経第 2 枝領域に soft touch 8/10,pin prick 2/10 の感覚鈍麻を認め る。

血液検査所見:WBC 41,700/μl,Hb 13.9g/dl,Plt 28.4万/μl,AST 24IU/l,ALT 17IU/l,LDH 240IU /l,ALP 193IU/l,γ―GT 27IU/l,T―Bil 0.6mg/dl,TP 7.7g/dl,Alb 4.2g/dl,Amy 169IU/l(total S 82%, total P 18%),UN 11mg/dl,Cr 0.65mg/dl,CRP 0.04 mg/dl,IgG 1516mg/dl,IgA 180mg/dl,IgM 240 mg/dl,IgG4 18.5mg/dl,RF 2.0IU/ml,抗核抗体 40 倍(Homogeneous,Speckled),抗 SS―A 抗 体<7.0 U/ml,抗 SS―B 抗 体<7.0U/ml,ACE 28.7U/l(基 準:21.4 未満),リゾチーム 15.9μg/ml,sIL―2R 2,490 U/ml,抗ムンプ ス IgG 抗 体 2.0,抗 ム ン プ ス IgM 抗体 0.10。 胸部単純 X 線:左肺門部のリンパ節腫脹。 頸胸部単純 CT:左側優 位 に 両 側 耳 下 腺,顎 下 腺,涙腺のびまん性腫大と不均一な造影効果。有意 な頸部リンパ節腫脹なし。両側肺門部に辺縁の平滑 で境界明瞭な腫大リンパ節を多数認める。鼻,顎形 成術後。 頸部造影 MRI:両側耳下腺の腫脹(図 2)。拡散 強調像での信号上昇と,造影増強効果を伴う。縦隔 上部にリンパ節腫大。 Ga シンチグラフィー:両側顎下腺に一致して強 い集積。 眼底所見:眼内細胞数上昇,虹彩結節,豚脂様付 着物。 左耳下腺生検:多数のリンパ球浸潤と多核巨細 胞,非乾酪性肉芽腫(図 3)。 入院後経過:肺門部リンパ節腫脹,眼病変,唾液 腺病変,血清 ACE,リゾチーム,sIL―2R 上昇,さ らに耳下腺生検での非乾酪性肉芽腫の存在を認めた ことより,サルコイドーシスの組織診断群(確実 例)と診断した。さらに,眼病変と耳下腺病変に加 え発熱を伴っているので,サルコイドーシスの一亜 型である Heerfordt 症候群であり,三叉神経麻痺は みられるが,顔面神経麻痺は伴っていないことから その不全型と考えられた。心臓超音波検査と Holter 心電図では異常所見を認めず,心サルコイドーシス は否定的であった。Prednisolone 30mg/day 内服に て治療開始後,翌日には両側耳下腺の腫脹は著明に 改善し,治療開始 6 日目に退院となった。 解 説:Heerfordt 症候群は,ぶどう膜炎・耳下 腺腫脹・顔面神経麻痺を三主徴に発熱を伴う,サル コイドーシスの一亜型である11,12)。本症例は顔面神 経麻痺を伴っていなかったため不全型(2 主徴+発 熱)に分類されたが,顔面神経麻痺の代わりに三叉 神経麻痺を伴っており,稀な症例であった13) 。Heer-図 3 症例 2 の耳下腺部病理像(100 倍)(文献 13)よ り転載) 多核巨細胞(arrow head)と,それを取り囲む上皮細 胞様組織球(類上皮細胞)による非壊死性炎症性病巣が みられる(非乾酪性類上皮細胞肉芽腫)。 図 2 症例 2 の頸部 MRI 所見 両側耳下腺の著明なびまん性腫大を認める(arrow head)。

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fordt症候群の発生頻度は報告によりまち ま ち だ が,Darlington ら の 報 告 で は サ ル コ イ ド ー シ ス 1,000症例中 16 例(1.6%)であり,一つの症候群 として独立してはいるものの,非常に稀な疾患であ る14)。全身性炎症性疾患にみられる両側唾液腺腫脹 としては,腫瘍性や感染性のものを除けばやはり Sjögren症候群や Mikulicz 病などが圧倒的に高頻度 なので,初診の段階ではわれわれもまずはこれらを 想起することが多い。サルコイドーシスで唾液腺腫 脹が起こりうることは知っていても,本症例のよう にぶどう膜炎や肺門リンパ節腫脹など比較的サルコ イドーシスを連想しやすい他臓器病変の合併でもな ければ,はじめから鑑別の上位に挙がることは少な い。所見が揃わない場合や生検ができない場合な ど,診断が遅れたり,たどり着かないケースもあり 得るため,気をつけたいところである。本例のよう に頭頸部領域にサルコイドーシスが発生する頻度 は,古いデータだが McCaffrey らの報告では 2,319 例中 220 例(9%)で,眼 40% と皮 膚 26% が 多 く を占め,鼻 13%,神経 6%,喉頭 6%,唾液腺 4%, 頸部リンパ節 4%,中耳 1% と続いている15)。耳鼻咽 喉科医が接する機会は少ないかもしれないが,あら ゆる頭頸部器官にサルコイド病変は発生しうるとい う事実は是非知っておいていただきたい。 なお,この症例は臨床免疫学会誌に発表したもの を本原稿用にかえて記載した。 Ⅲ. 再発性多発軟骨炎 再発性多発軟骨炎は,全身の軟骨組織に原因不明 の炎症を起こし,腫脹,破壊をきたす難治性の慢性 疾患である。1923 年に Jaksch von Wartenhorst に より初めて報告され16),1960 年に Pearson らが現在 の病名に命名した17)。2015 年 1 月 1 日より本邦の特 定疾患に新たに指定され,重症度によっては助成金 の受給が可能となった。本邦における患者数は推定 400∼500 人程度18)で,前 2 疾患と比較してもかな り稀な疾患である。罹患部位は,関節軟骨と並んで 軟骨組織の多い頭頸部,特に耳鼻咽喉領域の器官に 集中している。なお軟骨組織のみならず,コラーゲ ンやプロテオグリカンの豊富な皮膚や眼,心血管系 にも病変を生じることがある(表 4)19,20)が,ここ では耳鼻咽喉科領域の症状を中心に解説する。 表 4 再発性多発軟骨炎患者の臨床的特徴 プロフィール McAdamら19) Okaら20)(本邦) 男女比 83:76 127:112 平均年齢 57(6∼104) 平均発症年齢 44 53(3∼97) 罹病期間(年) 5.3(1∼33) 罹患部位 初発時(%) 全経過(%) 初発時(%) 全経過(%) 外耳 26 89 57 78 内耳 6.4 46 3.8 27 鼻軟骨 13 72 2.1 39 気道 14 56 17 50 喉頭 20 気管気管支 41 眼 14 65 9.2 46 結膜 15 強膜 26 ぶどう膜 11 関節 23 81 6.2 39 皮膚 17 13 心血管系 24 7.1 神経系 2.9 9.6 腎 6.7 骨髄(異形成) 1.7

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両側耳介軟骨部の発赤腫脹疼痛(耳介軟骨炎)は, 初発症状としてだけでなく経過中に出現する頻度も 最多であり,かつ所見も特徴的であることから,診 断にあたり最も重要な所見である。初発症状が耳介 軟骨炎のみであれば,まずは耳鼻咽喉科を受診する ケースが多いと思われる。高度に障害されると,耳 介はカリフラワー状の変形をきたす。なお,軟骨の ない耳垂は侵されないということが虫咬傷や凍傷な ど他の原因によるものとの鑑別に役立つ。外耳のみ ならず,内耳にも炎症が及び,蝸牛・前庭神経障害 として片側性または両側性の感音難聴やめまい症状 を呈することもある。鼻軟骨に炎症が起きた場合 は,疼痛(圧痛),鼻漏,鼻出血などの症状がはじ めはみられるが,慢性化するにつれ鼻軟骨が破壊さ れ鞍鼻を呈する。鞍鼻が特徴的所見である全身性炎 症性疾患といえばこのほかに多発血管炎性肉芽腫症 (旧称 Wegener 肉芽腫症)が有名であるが,そちら のほうが圧倒的に罹患率の高い疾患であるため,誤 診に注意する必要がある。 喉頭および気管気管支の気道軟骨炎は,本疾患の 予後を最も左右する重要な所見である。本邦の再発 性多発性軟骨炎症例を集計した岡らの報告では,全 239例のうちほぼ半数の 119 例が気道軟骨炎を起こ している。全体の死亡率は 9.0%(22 例)であるが, うち 8 例を気道障害による死亡が占める20)。気道軟 骨の炎症とその周囲の浮腫により,症状としては嗄 声や乾性咳嗽などから始まる。進行すると気管軟骨 は破壊性に変形し,やがて周囲の気道壁結合組織と 共に瘢痕拘縮を起こす非可逆的変化となる。症状は 悪化に伴い喘鳴,失声,呼吸困難を呈し,放置すれ ば気道閉塞による呼吸不全や肺炎を起こし死に至 る。内科治療を行っても気道狭窄が進行する場合は 気道内ステント留置の適応となる。また急性に経過 し,緊急気管切開が必要になることもあるので注意 が必要である。 Behçet病などと同様,CRP 上昇や赤沈亢進など の非特異的炎症所見は認めるが,本疾患にも特徴的 な検査所見はない。抗Ⅱ型コラーゲン抗体陽性例が 多いが,診断条件となり得るほど感度・特異度は高 くない。診断は症状や画像所見,血液学的炎症所 見,病理組織学的所見により総合的に行う。診断基 準としては McAdam の提唱したもの19)を一部改訂 した Damiani の基準21)が用いられることが多く, 本邦の特定疾患医療受給者証交付のための認定基準 もこれに準じている(表 5)。6 つの診断項目のうち 4つが耳鼻咽喉科領域の所見であることに注目して いただきたい。希少疾患ゆえ標準的治療プロトコー ルは存在せず,多くの膠原病領域の疾患と同様,ス テロイド治療が主体となる。しかし治療抵抗例も多 く,特に重篤となりやすい気道病変や血管病変を合 併している場合には,免疫抑制剤や抗 TNF―α 阻害 剤などの生物学的製剤の使用が試みられる。 再発性多発軟骨炎というと外耳の所見にばかり気 を取られがちであるが,予後を左右するのは気道病 変である。外耳の所見がほとんどなく,気道病変が 主体の症例も存在する。このようなケースで耳鼻咽 喉科を受診してもおかしくない例を経験したので呈 示する。 表 5 再発性多発軟骨炎の診断基準 診断基準項目(McAdam ら19) ・両側性の耳介軟骨炎 ・非びらん性,血清反応陰性,炎症性多発関節炎 ・鼻軟骨炎 ・眼の炎症:結膜炎,角膜炎,強膜炎,上強膜炎,ぶどう膜炎 ・気道軟骨炎:喉頭あるいは気管・気管支の軟骨炎 ・蝸牛あるいは前庭機能障害:神経性難聴,耳鳴,めまい 診断基準(Damiani ら20) ・上記の 3 つ以上が陽性 ・上記の 1 つ以上が陽性で,確定的な組織所見が得られる ・上記が解剖学的に離れた 2 箇所以上で陽性で,ステロイド/ダプソン治療に反応

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31 31 症 例 4:64 歳,男性 主 訴:咳,痰 現病歴:3 ヵ月前より咳,痰,倦怠感が出現。感 冒と思い様子をみていたが改善せず,1 ヵ月前に柏 病院呼吸器内科を受診した。胸部 CT,MRI 検査に て気管支壁の肥厚を指摘され,再発性多発軟骨炎の 疑いにて同院リウマチ・膠原病内科受診した。その 時点で咳嗽症状の悪化傾向を呈しており,同日より prednisolone 40mg/day内 服 開 始 と な っ た。5 日 後,さらなる精査と加療継続目的にて当院当科入院 となった。 既 往 歴:55 歳 時:高 血 圧 症,60 歳 時:心 房 細 動,63 歳時:副鼻腔炎 家族歴:特記事項なし 入院時身体所見:身長 170cm,体重 70kg,体温 36.8℃,血 圧 114/64mmHg,脈 拍 82 回/分・整。 眼瞼結膜貧血・黄染なし。外耳部異常なし。頸部リ ンパ節腫脹なし。心雑音,肺雑音聴取せず。腹部は 平坦で軟,腸蠕動音正常。下腿浮腫なし。左第一趾 腫脹,熱感あり。 血液検査所見:WBC 7,100/μl,RBC 410 万/μl, Hb 11.4g/dl,Plt 36.2 万/μl,AST 26IU/l,ALT 18IU /l,LDH 206IU/l,ALP 215IU/l,γ―GT 41IU/l,T― Bil 1.1mg/dl,TP 7.4g/dl,Alb 3.3g/dl,UN 18mg/ dl,Cr 0.75mg/dl,CRP 2.52mg/dl,ESR 76mm/hr, IgG 1,522mg/dl,IgA 331mg/dl,IgM 57mg/dl,RF

3.9IU/ml,MMP―3 470ng/ml(36.9―121),抗核抗体 陰性,C―ANCA<10EU,P―ANCA<10EU 頸胸部単純 CT:気管支および気管支壁の平滑な 肥厚を認めるが,気管膜様部は相対的に保たれてい る(図 4)。呼気 CT にて肺野濃度は一部やや不均 一に保たれており,上記病変に関連した air trapping の反映を疑う変化あり。 入院後経過:入院後も prednisolone 40mg/day に て治療を継続したところ,治療開始 20 日 目 に は CRP 0.50mg/dlまで低下し,咳嗽や喀痰,呼吸苦症 状も改善した。28 日目の胸部 MRI では気管軟骨炎 の所見も消失していたため,prednisolone を 35mg/ dayまで減量し,37 日目(入院 32 日目)に退院と なった。 解 説:本症例を McAdam―Damiani の診断基準 に照らし合わせると,厳密には再発性多発軟骨炎の 確定診断に至らない。しかし本疾患で明確にみられ た喉頭気管支軟骨周囲炎はやはり本疾患の代表的か つ特徴的所見であり,また単関節ながら左第一趾に 関節炎を認め,prednisolone 治療に反応を示したこ とから,再発性多発軟骨炎が最も疑わしいと考え た。軟骨破壊マーカーである MMP―3(マトリック スメタロプロテイナーゼ 3)が著明高値であること も診断を後押ししている。本例は当外来初診となっ た時点で,入院に先立って prednisolone 治療が開 始されているが,これは気管軟骨炎の急性増悪によ り容易に急性呼吸不全をきたしうるという危険を考 えてのことであった。このように,再発性多発軟骨 炎が疑われ特に気管軟骨炎の存在が強く示唆される 場合には,確定診断を待たずに治療に踏み切る必要 がある。 おわりに 本稿では,耳鼻咽喉科と膠原病内科の境界領域の 疾患の例として,Behçet 病,サルコイドーシス, 再発性多発軟骨炎と,さらに症例提示の中で尋常性 天疱瘡(粘膜型)と菊池病も取り上げた。Behçet 病の項では疾患を通して口内炎の背景を特定するこ との難しさを,サルコイドーシスの項ではさまざま な臓器病変を呈する疾患という中にあって耳下腺腫 大が特徴的な亜型(Heerfordt 症候群)が存在する ということを,再発性多発軟骨炎の項では予後を左 右する気道軟骨炎という所見の重要さを,それぞれ の主題として述べたつもりである。両科間の連携が 図 4 症例 4 の胸部 CT 所見(縦隔条件) 気管壁の全周性肥厚を認める。

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重要となるのは治療よりも恐らく診断の場面におい てであろう。なかでも,生検が必要なときである。 本稿で呈示した症例のうち症例 4 を除く 3 症例は, 病理組織が診断の決め手となっていた。しかし,特 に頭頸部器官の生検の場合は,処置の侵襲度の高さ から実施を保留・断念せざるを得なかったり,また 若年女性を中心に美容上の問題から同意が得られな かったりすることが多いのも実情である。そして生 検が行えないために診断に難渋することも度々経験 する。生検を行うか見送るかの判断,見送った場合 の診断へのアプローチ方法の選択,また診断後の治 療戦略を決める,などの場面においても,どちらか 単科で完結するのでなく,さまざまな病態の背景に 応じて,両科間で足りない部分を補い合いながら, 常に同じ方向を向いて診療に臨むことができれば理 想である。本稿が耳鼻咽喉科の先生方の診療の役に 立ち,今後の両科の連携に活きれば幸いである。 参 考 文 献

1) Hulusi B:Über rez idivierende, aphthose, durch ein virus verursachte Geschwure am Munde, am Auge und an Genitalien. Dermatol Wochenschr 105:1152―1157, 1937. 2) 近藤直実,平家俊男:自己炎症性疾患・自然免 疫不全症とその近縁疾患.診断と治療社,2012. 3) 森 裕介,槻木恵一:【歯科からみえる全身疾 患】全身疾 患 に 伴 う 口 腔 粘 膜 病 変.臨 床 検 査 52:381―387,2008.

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alleles and symptoms associated with Heerfordt’s syndrome in sarcoidosis. Eur Respir J 38: 1151 ― 1157, 2011.

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21) Damiani JM, Levine HL:Relapsing polychondri-tis―report of ten cases. Laryngoscope 89:929― 946, 1979.

参照

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