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(1)

代償性肺成長に基づく術後呼吸予備能の正確な評価を目指す、

生体肺移植ドナーにおける調査研究

京都大学大学院 医学研究科 呼吸器外科

講師 陳 豊史

(共同研究者)

京都大学大学院 医学研究科 呼吸器外科  教授 伊達 洋至

はじめに

世界において、悪性腫瘍の死亡原因の筆頭である「肺癌」は、中高年や高齢者が罹患し、 外科手術が唯一の根治療法である。しかしながら、一般的に、成人のヒトの肺は再生しない といわれているため、肺の切除限界が問題となる。実臨床では、低肺機能のために標準手術 を断念する事は少なくないが、術後に、予想外の機能回復を経験することも多い。 一方、動物実験レベルでは、肺切除後の残存肺重量・容積・DNA 量が肺損失を代償する ように回復することが知られ、代償性肺成長(Compensatory lung growth:CLG)と呼ば

れる[1]。前述のような術後の予想外の肺機能回復の一因として、気腫肺部分の切除による volume reduction 効果などがあげられるが、肺の CLG が成人のヒトでも起こっている可能 性を否定はできない。 したがって、成人のヒト肺におけるCLGを確認することは非常に重要で、その正しい理解は、 肺切除後の正確な肺機能の予測を可能にし、さらに、中高年や高齢者が、「肺癌」における 根治療法である標準手術を受ける機会を失わないためにも喫緊の課題である。 肺切除後の CLG を正しく理解し、中高年や高齢者に多い肺癌患者の術後呼吸予備能を正確 に評価することを目的に、生体肺移植ドナー肺切除前後のデータを調査研究する。 また、倫理的観点から残存肺の組織検体採取は難しいため、大動物を用いた肺切除実験も 行い、動物実験データと前述の調査に基づく臨床データとの相関を中心に検討を行いたい。

結 果

1.ドナー肺手術における術前後の呼吸機能の検討 2009 年 7 月から 2014 年 3 月まで京都大学呼吸器外科にて施行した、生体肺移植ドナーの 67 例を調査対象とし、術前と術後 1 年後の肺機能を詳細に比較した。ドナーは健常肺であり、

(2)

92 — 閉塞性肺疾患などの病的肺による影響を除外可能である。予測される残存肺機能は、残存 する区域数から右下葉切除で 14/19 (73.7%)、左下葉切除で 15/19 (78.9%)として算出した。 術後の肺機能回復率を予測値における実測値の割合として評価した。 右ドナー(右下葉切除術)36 例、左ドナー(左下葉切除術)31 例であった。 努力性肺活量(FVC)の経時的変化を図1に、1 秒量(FEV1)の経時的変化を図 2 に示す。赤 破線は術前値で、青破線は切除による術後の予測血値であるが、ともに、術直後に予測値ま で低下するが、継時的に回復が見られた。なお、FVC、FEV1 の回復率は、予測より大きく回 復することが確認された。

図 1       図 2

1 秒率(FEV1%)については、図 3 に示すように、低下を示さなかったことから、FVC の増加 は、気腫性変化を伴うものではないと判断された。

図 3 

また、図 4、図 5 に示すように、右下葉切除の方が、左下葉切除より、肺の回復率は有意 に良好であった。

(3)

 図 4       図 5

2.ドナー手術における肺容量の変化についての考察 2009年7月から2012年3月までの生体肺葉移植ドナー 41例につき、退院後に、胸水貯留など、 再入院を含めた処置や慎重な経過観察が必要であった症例を除いた 35 例につき、CT データ を用いた肺容量の解析を行った。手法については、これまでに報告している手法[2]を用いた。 右下葉切除によって、26.2 ± 2.1% の肺が摘出されるが、術後 1 年では、肺容量は、99.0 ± 9.9% まで回復していた。これは、術後予測される肺容量を 100% とすると、134 ± 15% まで 肺容量が増大していることを意味する。さらに詳しく検討すると、手術側(右側)では、173 ± 22%、非手術側(左側)では、113 ± 16% であった。手術側をさらに検討すると、上葉では、 153 ± 31%、中葉では、204 ± 38% であった(図 6)。 一方、左下葉切除によって、22.2 ± 3.0% の肺が摘出されるが、術後 1 年では、肺容量は、 90.0 ± 8.5% まで回復していた。これは、術後予測される肺容量を 100% とすると、116 ± 10% まで肺容量が増大していることを意味する。さらに詳しく検討すると、手術側(左側)で は、137 ± 18%、非手術側(右側)では、106 ± 8% であった。 そこで、左右の比較を行うと、肺容量においても、常に右下葉切除後の方が肺の回復率は 良好であった。

図 6

(4)

94 — 3.大動物実験の進捗状況 上記、ヒトのドナーの術前後の呼吸機能および CT volumetry のデータを用いた解析によ り、CLG を示唆する結果を得られたが、組織学的検討を行うために、以下のような動物実験 を開始した。現在予備実験を終了し、本実験を始めた段階であり、今回呈示できるデータは ないが、実験プロトコールを以下に述べる。 月齢 12 か月程度のビーグル成犬を用い、第 1 日目に CT 撮影を行う。この際、全身麻酔下 の気管挿管、人工呼吸器管理とし、肺の条件を一定とする。CT を撮影後、右肺全摘術を行 う。これは全体の -58% の肺容量・肺血管床減少にあたり、残存左肺は 2.4 倍に体積増加す ると考えられる。対照群として開胸コントロール群と右二葉切除(-32%の肺損失)群をおき、 各群 n = 5 とする。術後 1、3、6 か月に CT 撮影を行う。この CT データを解析し、「肺組織量」 を算出する。また、術後 6 か月で犠牲死を行い、組織学的な評価を行う。これらの所見を合 わせて解析し、対照群と比較することで、術後肺の経時的な質的変化を評価する。

考 察

FVC、FEV1 ともに、術直後に予測値まで低下するが、継時的に回復が見られた。なお、 FVC、FEV1 の回復率は、予測より大きく回復することが確認された。これは、潜在的な肺の potential が利用されているだけなのかもしれないが、CLG を示唆する強い所見でもある。 さらに、FEV1% については、低下を示さなかったことから、FVC の増加は、気腫性変化を伴 うものではないと判断された。Alveolar dilatation のレベルなのか、CLG が存在している のかは、大動物を用いた組織レベルでの検討が必要であろう。 興味深いことに、右下葉切除の方が、左下葉切除より、肺の回復率は有意に良好であっ た。これについては、よりたくさんの肺を切除したほうが、残存肺に、機械的刺激、いわゆ る「stretch」がかかるのであろうが、それがヒトの肺においても明確に示されたのは世界 初であり、非常に興味深い所見である。この理由としては、気道系の自由度の問題(右肺の 中葉の分葉と左肺における舌区との違い)や、左右における心臓の存在や横隔膜の接地面の 左右差などが影響するのであろうが、今後の画像学的な検討をこの観点から進めていく方針 である。 また、今後、さらに、CT 画像を集積して、肺容量の解析、さらには、「仮想肺重量」[3] 検討を行う方針である。可能であれば、京都大学大学院医学研究科呼吸器内科とコラボレー ションを行い、COPD の検討に用いられている d 値を用いた検討も追加する予定である。 最後に、上記検討結果の証明のために、大動物を用いた実験系を立ち上げたので、大動物 における肺切除後の CT を用いた解析を今後、継続して行い、組織学的所見との相関などを 検討していく方針である。これによって、CLG を呼吸機能や画像学の観点からだけでなく、 組織学的にも証明していくことを目標に、研究を進める予定である。

(5)

要 約

肺における代償性肺成長(Compensatory lung growth:CLG)の存在は、成人のヒト肺では、 未だ不明である。そこで、肺切除後の CLG を正しく理解し、肺癌患者の術後呼吸予備能を正 確に評価することを目的に、生体肺移植ドナー肺切除前後のデータを調査する研究を行った。 肺機能、肺容量につては、CLG を示唆する所見を得られた。さらに、大動物を用いた肺切除 実験も行い、動物実験データと臨床データとの相関を中心に検討し、肺切除後の CLG のメカ ニズムについて、客観的な考察を開始している。一般的に再生しないとされる肺において、 肺独自のメカニズムである CLG を解明することは、肺再生研究を促進させる。本研究は、生 体肺移植ドナーというヒトの健常肺を用いた調査に基づく解析で、CLG を含めた純粋な肺再 生の検討が可能であるという点からも非常に有用で、本研究結果をもとに、生体肺移植や脳 死肺移植のレシピエントにおける術後の肺機能や肺容量についても、さらに深い検討が可能 となり、CLG が実際に、ヒトの肺において、どのように起こっているのかについても今後解 明されるであろう。

文 献

1. Hsia CC. Signals and mechanisms of compensatory lung growth. J Appl Physiol 2004; 97: 1992-8. 2. Chen F, Kubo T, Shoji T, Fujinaga T, Bando T, Date H. Comparison of pulmonary function test and

computed tomography volumetry in living lung donors. J Heart Lung Transplant 2011; 30: 572-5. 3. Mizobuchi T, Chen F, Yoshino I, Iwata T, Yoshida S, Bando T, Date H. Radiologic evaluation for

参照

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