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経済政策としての経済教育の展開(I) : 諸外国における政策との比較から(投稿原稿(査読付))

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Ⅰ.はじめに

 2013 年 2 月に政府と日銀はインフレターゲティング 政策として 2%の物価上昇を目指すことに同意した。 今後はデフレ不況の脱却のために物価上昇を目指すと いう世界でも類のないインフレターゲティング政策が とられることとなった。1)インフレターゲティング政 策の成功のためには,金融当局と市場とのコミュニ ケーションが求められる。2)そのため市場を形成する 消費者の金融や経済に関する適切な理解が必要となる。  このように一般市民に経済や金融に関する知識が求 められる状況となり,その普及のための取り組みが増 えている。政府は金融市場の活性化のために 2005 年 を金融教育元年として,金融知識の普及のための取組 を行った。また,悪質商法や振り込め詐欺等の増加か ら 2012 年 12 月には消費者教育の推進に関する法律が 施行されている。学校教育における経済教育の推進の ために,学習指導要領において消費者教育等の観点か ら経済分野の内容が増えている。しかしながら,様々 な取組は増えてはいるが,現在の学校教育では経済的 知識に関する教育が十分に行われているとは言い難い。  本稿では諸外国における経済教育の現状を分析し, それに基づいて日本における経済政策としての経済教 育の展開を考察する。先進諸国では少子高齢化による 国内市場の縮小と,それに伴う経済のグローバル化が 進んでいる。そのような背景から諸外国においては経 済に関する教育によって個々人の生活を改善し,経済 活動をより活発化することの重要性が認識されており, 経済教育が積極的に推進されている。それは経済政策 の一環として取り組まれている。  諸外国の経済教育の取組に比べて日本の取組が遅れ ていることが,経済に関する問題解決能力を低下させ, 若者の就労意欲を失わせ,国際競争力を低下させる一 因となっている。また,悪質商法の流行等の消費者問 題,さらには新規産業の創出の妨げとなり,景気低迷 の一因となっている。  これらを踏まえて,経済政策としての日本型の経済 教育について考察する。

Ⅱ.諸外国における経済教育

3)  経済教育の目的は人々の生活を豊かにし,経済を発 展させるためである。そのため明確な目的を持って経 済に関する内容を扱うことが求められる。本章では諸 外国における経済教育の現状を分析し,それぞれの国 の特徴を示す。比較検討する国は,アメリカ,イギリ ス,ドイツ,韓国,フィンランド,そして日本の 6 カ 国である。消費者教育や金融教育はこれらの国々では いずれも推進されているが,ある意味では国家目標が 異なるので,単純な比較はできない。しかし,個別経 済事情と世界経済のグローバル化という共通した経済 環境との調整の中で,各国がどのように経済教育に取 り組んでいるかについて比較する意義はある。個別事 情を概観すると,資本主義市場経済の最も発展した段 階の先進国として,また大きな困難にも直面するアメ リカ,世界の金融センターの一つとして国策として金 融立国を推進しているイギリス,EU のなかで最も影 響力を持ち EU の安定的発展に対して大きな責任を持 つ経済大国としてのドイツ,朝鮮半島の南北対立の中 で北よりも格段に経済発展を追求している韓国,EU の一員としての豊かな北欧の小国としてさらに福祉を 充実させたいとするフィンランド,そして,アジアの 中で中国と共に経済交流を一層発展させることを目指 す日本,と特徴付ける事が可能である。

Article

The Journal of

Economic Education No.32, September, 2013

論文

経済政策としての

経済教育の展開(Ⅰ)

─諸外国における政策との比較から─

Deployment of the Economic Education as the Economic Policy (I) : From the Comparison with the Policy in Foreign Countries

水野 英雄(椙山女学園大学)

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1.アメリカにおける経済教育  アメリカでは教育は州政府の管轄であり,教育制度 は州ごとに異なっている。政府による規制や市場への 介入は最低限で良いという思想であり,教育に関して も日本の学習指導要領のような統一した基準やカリ キュラムは定められていない。そのため,各学校の裁 量が広く認められており,例えば宗教に基づいた教育 なども可能となっている。  経済教育に関しても政府による主導ではなく,民間 の NPO 団体が中心となり全国展開して大きな影響力 を持っており,各地域には支部を設置して強力なネッ トワークによって推進している。政府はそのような民 間主導による経済教育を支援するための法律を制定し ている。  教科書に関してはアメリカには日本のような検定制 度はなく,執筆者の裁量が認められている。また,教 科書の採択は各自治体毎に教育委員会において選定さ れるのではなく,学校毎に選定される。  日本の高等学校の「政治・経済」の教科書では,市 場メカニズムによる価格の決定や景気変動と経済政策 のような経済理論に基づいた内容は数ページしかな い。4)それに対してアメリカでは学校教育の中で経済 の科目があることから,経済理論に基づいた内容が数 十ページにもわたっている。また,実例が豊富であり, 経済理論を現実の問題として関心を持って学べるよう に工夫されている。さらには,実社会で生きていくた めに必要な具体的な内容についても扱っている。例え ば,資金調達に関してどのような方法があるのか,そ のメリットやデメリットについてまで詳細に書かれて いる。銀行等の金融機関の利用方法も具体的に示され ている。  それに対して日本の教科書では経済は政治と同じよ うな扱いとなっており,経済理論に基づいた考え方や, その実社会での活用よりも「制度や仕組みを教える」 ことに重点が置かれている。このことは経済教育に対 する考え方の差であり,アメリカでは経済が如何に自 分達の生活に身近なものであるかという点に重点が置 かれており,かつその利用方法を具体的に教えるとい う思想に基づいている。5, 6)  先に述べたように,アメリカの経済教育は民間主導 であるが,その中心となっている民間の NPO 団体に ついて考察する。最も有名なものは CEE(Council on Economic Education:前身はNCEE:全米経済教育協 議会)である。CEE は 1949 年に経済危機に対して市 民の経済リテラシーを高めることで対処するために,

JCEE(Joint Council on Economic Education, 全米経 済教育合同協議会)として設立された。その後,1993 年より NCEE(National Council on Economic Educa-tion,全米経済教育協議会)に改組され,2009 年から は CEE となっている。CEE では経済教育の普及のた めに,教員用のテキストの出版や教材の開発を行うと ともに,州レベルの協議会と大学内に設置されている 経済教育センターと協力し,ワークショップ等を開催 している。また CEE は,全国に統一した経済学習内 容の基準として 1997 年に「Voluntary National Con-tent Standard in Economics(経済学習のスタンダード 20)」を発表した。これは,1994 年に施行された「ア メリカ教育法」の主要科目の中に「経済学」が導入さ れたことを受けて経済教育をより広めるために作られ たもので,実質的には経済に関する学習指導要領のよ うな役割を果たしている。この基準には大きく 20 の スタンダードが書かれており,生徒が論理的思考や意 思決定に欠かせない経済知識を学ぶ際に教員が生徒に 対して指導する内容が示されている。7)  同じように全米に影響力を持つ民間団体の一つに Jump$tart(Jump$tart Coalition for Personal Financial Literacy,全米金融教育連盟)がある。Jump$tart は 1990 年代の教育改革の中で縮小傾向にあった金融教 育の分野を立て直すために設立されたものであり,現 在は全米の金融と経済の教育に関する 100 以上の団体 が加盟している。1997 年には「K−128)教育における 金融教育の全国基準」を発表し,幼稚園から義務教育 が修了するまでの全国的な基準を示した。この基準に は 4 つの領域(所得,金銭管理,支払いとクレジット, 貯蓄と投資)が用意されており,各領域は幅広い内容 を含むものとなっている。例えば,「所得」の領域で は職業選択,具体的には個人が受ける教育水準や個人 が身につけた技術レベルに応じて所得水準が決まるこ と,即ちキャリア教育やパーソナルファイナンス教育 をも内包した内容となっている。金融教育は「生きる ための力を身につけること」と考えられているために, その扱う領域は広範囲なものとなっている。また,隔 年程度の頻度で個人の金融知識の水準に関するアン ケート調査を実施しており,それに基づいて新たな金 融カリキュラムの制定や各種のセミナーの開催など金 融教育の推進のための活動を行っている。  これまでみてきたように,アメリカの経済教育の特 徴としては,民間主導であることが挙げられる。アメ リカでは日本のような学習指導要領が定められていな いために,その代わりとなるスタンダードを民間団体

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が作成している。民間団体はスタンダードの作成や教 材開発以外にも,州が採用した教員の研修等を行って おり,政府から多くの補助金が支給されている。  教育内容に関しては,経済学の学問的な知識に基づ いたものとなっており,かつ,資金調達などの具体的 な内容を扱っている。また,その教育の方法は体験型 教材の活用などによる実践的なものとなっている。  これらのことから,経済に関して学ぶべきかどうか について検討すべき点は,次の諸点にあると考えられ る。 ①経済理論に基づいた思考力 ②現実の経済事象 ③生活や職業に直結した内容  これらが積極的に教えられていることがアメリカの 経済教育の特徴である。 2.イギリスにおける経済教育  イギリスにおける経済教育は政府主導で行われてい る。その背景にはサッチャー政権による改革政策とそ れに伴う弊害がある。具体的には,金融ビッグバンに よって金融商品が多様化・複雑化し,金融市場の活性 化につながったが,一方で経済や金融に関する知識を 持たない者が金融商品の購入で不利益を被り,さらに はその補償のために多額の賠償を支払うことになった。 同様に,社会保障の分野でも大幅な改革が行われ,公 的年金の縮小と私的年金への移行によって私的年金を めぐる保険会社の競争が激化し,年金の不正販売が問 題となった。その結果,当時の監督官庁であった証券 投資委員会(SIB,Securities and Investment Board) は顧客に賠償金を支払うことになった。これらの一連 の出来事は消費者の金融システムへの信頼を大きく失 わせた。  1997 年に誕生したブレア政権のもとでは,これら の一連の出来事への反省を踏まえて大幅な金融監督体 制の見直しが行われ,2000 年に金融サービス市場法 が制定され,金融監督のために新たに FSA(Financial Services Authority,金融サービス機構)9)が設置され た。また,年金不正販売において問題となった消費者 の金融リテラシーの不足が重要な課題とされ,FSA の法的責務の一つに金融教育の推進が定められた。  その後,優先課題として金融教育を学校教育カリ キュラムに盛り込むことが決まり,2003 年に「金融 判断能力に関する国家戦略」が制定され,表 1 の国家 戦略で示された重点教育プロジェクトと目標数値に示 されるように,全ての社会人に中立・公正なアドバイ スができること,学生が社会人になるまでに必要な金 銭管理能力を身につけること,低所得者や若年層など で金融リテラシー不足が深刻な消費者への教育の実施 など,幅広い年代に対して目標が掲げられた。  そのような目標を踏まえて,学校教育において具体 的なカリキュラムが制定され,活用されている。イギ リスでは 2000 年に大幅に改定されたナショナルカリ キュラム(National Curriculum)10)において金融教育 を積極的に導入し,さらに2000年7月には小中学校向 けに学年ごとに到達すべき目標や,数学,総合学習科 目,11)シチズンシップ12)など既存の科目との学習内 容の関連が定められた。さらにはガイドブック『個人 金融教育による金融能力』(financial capability through personal financial education, guidance for schools at key stage 1&2 3&4)を発行した。経済教育の内容が 含まれたシチズンシップは 2002 年に必修化し,2008 年には総合学習科目も「個人の経済活動と金融判断能 力の育成」と「個人の生活能力の向上」に細分化され た。このようにイギリスでは独立した経済教育という 科目ではないが,各科目の中に明確に金融教育が含ま れており,金融教育の意義が理解されており,金融教 表 1 国家戦略で示された重点教育プロジェクトと目標数値 ①「学校教育支援」……2011 年までに約 4,000 校の 180 万人の中学生を対象。 ②「青少年教育」……約 230 万人の大学生と約 110 万人のニート層を対象。 ③「職場教育」……2011 年までに 400 万人の雇用者に情報提供,約 50 万人を無料セミナーに招待。 ④「金融情報発信の強化策」……FSA の専用ホームページへ年間 400 万アクセスを目標。 ⑤「ウェブサイト上での生活診断ツール等の提供」……利用者実績の集計。 ⑥「子供のいる夫婦に対する情報提供」……2011 年までに 150 万組の夫婦を対象。 ⑦「中立・公正なアドバイスの提供」……具体的計画の決定後に目標を設定予定。  ─本国家戦略では,上記プロジェクトを中心に 2011 年までに,延べ 1,000 万人を対象に金融教育を実施することを 目標としている。 出所:FSA(2006)に基づき作成 出典:福原敏恭(2010)「グローバルに拡大する金融教育ニーズと英国における金融教育の動向─ポスト・クライシスの金融教育 に向けて─」金融広報中央委員会 http://www.shiruporuto.jp/teach/consumer/report3/pdf/ron100817.pdf

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育を学校の授業で扱うことは政府の方針となっている。  金融教育に関する特徴的な政府の取り組みとしては, 財 務 省 が 運 営 し て い る 子 供 信 託 基 金(The Child Trust Funds)があげられる。子供信託基金は,子ど も名義の税制優遇措置を伴う預金口座を開設し,その 運用を通じて投資・貯蓄について学ぶことで金融教育 の推進を図る制度である。対象は2002年9月以降に生 まれた子どもで,政府から出生時と満 7 歳の 2 回にわ たって給付金が支払われ,支給を受けた親は子どもの ために市中銀行に預金口座を開設して運用する。1 年 間で一定額まで追加して預金することも可能で,運用 益は非課税となる。子どもが 16 歳になると運用を親 から子どもに引継ぎ,18 歳からは子ども自身で引き 出して使えるようになる。この制度の目的は,口座の 運用を通じて子どもと保護者が計画的な運用,貯蓄が 出来るようにすることと,第 2 回支給時には学校教育 においても扱い,学校と家庭の両方で資金運用につい て学ぶことである。親は子どものためにお金を貯める ものの子どもはどうやってお金が手に入ったかは知ら ないことが多い。それを自分名義の口座を持つことで 幼いうちから家族と共に考える機会を得,学校で自分 の預金の意義を理解し,さらには学校と家庭と両方で 学ぶことを通じて相乗的なメリットを得られる。但し, 18 歳以降の使途は自由であることから,本当に子ど もたちが学校教育で学んだ運用の方法を活かして自分 の人生に役立つようにお金を使っているのかという問 題があり,そのため 18 歳までに学校や家庭で運用に ついてどれだけ意識を高められるかが課題である。  イギリスにおいても政府だけでなく民間団体が積極 的に金融教育を推進している。その特徴として,政府 が金融教育を推進する団体に補助金を出しており,官 民一体となって綿密な連携をしながら金融教育を進め ていることである。例えば,PFEG(Personal Finan-cial Education Group)は学校における金融教育の中 心的な役割を担っており,学校向けの教材の開発や教 員向けのセミナー,コンサルティングサービスなどで 学校に赴くといったように金融教育に深く関わってい る。イギリスでは教員の経済に関する知識の不足とい う課題があるため,このような民間団体による支援は 有益なものとなっている。13)  イギリスでは政府主導による取り組み,具体的には 子供信託基金のような制度を通して子どもと保護者, さらには教員も金融に親しみやすい状況を作るという 工夫がなされている。 3.ドイツにおける経済教育14)  日本と同じように少子高齢化が進むドイツにおいて も経済教育の拡充が求められている。ドイツでは日本 と同様に独立した経済の科目はなく,各教科の中で経 済を学んでいる。教育制度は日本と大きく異なり,義 務教育段階の最初の 4 年間は基礎学校に通い,その先 は自分の進路によって職業教育か高等教育かを選択す ることになる。15)そのため選択した学校によって経済 教育が行われる頻度や目的が異なることになる。多く の州では経済分野が扱われるようになるのは,前期中 等教育段階(第 5 〜 9,10 学年)である。16)  経済教育において扱われる内容には 2 つの系統があ る。ひとつは職業準備教科の中で扱われるものである。 職業準備教科において扱われる経済教育の内容は,消 費や労働,職業といったものであり,主に経済生活に 焦点をあて,現在や将来において適切な経済行為を行 う能力を身につけるためのものである。職業に従事す るための導入の役割も担っており,卒業したらすぐに 仕事につく卒業生が多い基幹学校17)を中心に行われ ている。  もうひとつは公民科教科の中で行われる経済教育で ある。ドイツでは公民科の代表的な存在であるゾチア ルクンデの中で経済もその一部として扱われることが 多い。この科目はどの学校種でも設置されており,前 述の職業準備教科が経済生活に焦点をあてたものであ るのに対して,ゾチアルクンデは経済の仕組みを学ぶ ものである。例えば,ザールラントの学校では一国全 体や国際的なレベルのマクロ経済的な問題を取り上げ ており,ドイツの経済や EU による経済統合について 学んでいる。即ち,一国経済だけでなく,周辺諸国と の関係を踏まえての経済の大きな仕組みを理解するこ とを目的として学んでいる。  公民科目の中で経済を扱うという方法は日本とよく 似ているが,ドイツの場合には EU という経済統合に 参加していることから,より具体的にグローバル経済 システムを理解することが求められている。  しかしながら,もともとは政治教育のために作られ たゾチアルクンデであるために,経済の比重は高くな いという課題もある。また,経済の仕組みを理解する ことにとどめ,実践に使える力を育成するという考え 方には至っていない。これらの課題は日本の公民科教 育と共通するものである。  そのため,ドイツ経済教育学会は,2009 年に初等 中等教育段階において 5 つのコンピテンス領域を中心 とした「ドイツ経済教育学会版教育スタンダード」を

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発表した。このスタンダード自体は法的な拘束力をも たないが,にもかかわらず詳細なスタンダードを定め た理由は次の 2 点である。  1 点目は,経済教育の改革を進める実質的な方向を 定めるためである。ドイツでは経済を学ぶ機会はある ものの限定的であり,経済のコンピテンスや発想を身 につける機会は少ない。また,経済教育の推進,拡充 が様々な団体によって行われているために考え方が異 なっており,経済教育の目的や方法が定まっていない。 ドイツの各州文部大臣会議では経済の理解を活かし, 自立的で責任ある行為が行えるように現在の経済関連 科目の中での経済教育の発展を望んでいる。その一方 で,ドイツ使用者団体全国連合とドイツ労働組合総同 盟では経済や雇用のシステムの中でよりよく生きるた めに既存の枠組みを活かし,改変できるようにするた めに独立教科としての経済教育を主張している。この ようにそれぞれの立場から様々な拡充が求められてお り,それに応えるものとして経済教育学会としての指 針を示したのである。  2 点目は,経済教育の改革に向けた条件整備である。 経済教育に関する内容を提言しても実行することは難 しい。そのためどのような内容を学習者に学ばせたい のかというインプット指向のパフォーマンススタン ダード18)でなく,学習者が何をできるようにするか のアウトプット指向のパフォーマンススタンダードを 採用し,学校種や州が違ったり,関連教科が違ったり しても統一的な基準をもとに評価・改善ができるよう にするという目的のもとでスタンダードを作成したの である。  上記のような理由から作成されたスタンダードは 5 つのコンピテンス領域(Kompetenzbereich)(「決定 を経済的に基礎づける」(第 1 領域)「行為を経済的に 分析する」(第 2 領域)「経済の体系的連関を説明づけ る」(第 3 領域)「経済の枠組み条件を理解し共同形成 する」(第 4 領域)「コンフリクトを広い視野から倫理 的に評価判断する」(第 5 領域))からなっている。第 1 領域では,欲求や費用対効果を踏まえた消費行為の 決定や費用と利潤を踏まえた販売・生産行為の決定を 行えるようにする能力を求めている。そしてこの第 1 領域を基盤とし,それを取り囲むよう発展させたもの が,第 2 〜 5 領域である。第 2 領域では,消費,労働 などの経済行為の成り立ちを要因と結び付けてより深 く考えることができる能力を,第 3 領域では国内での 流通や消費など,国レベルでの経済構造過程を理解で きる能力を,第 4 領域では,地方自治体や学校などの 公的立場を取り上げ,自分自身の利益だけでない公的 立場の役割を説明できる能力を,第 5 領域では,立場 の単純な相違や対立,その理由を見定める能力,即ち, 様々な立場(たとえば,環境と経済など)から利害関 係を考え,行為の決定や判断の基準を見極める能力を 要求している。また,経済教育では,自分に身近に直 接的にかかわる経済生活と自分が暮らしていく中で間 接的にかかわる経済社会(国や地方自治体など)の両 方を考えることのできる力を身につけなければならな いことから,このスタンダードの領域はこれらの両方 を満たすものとなっている。  ドイツでの経済教育は州や学校によって異なり,限 定的なものであったが,経済教育学会版スタンダード によって経済社会と経済生活の両方に必要とされる能 力を明確に示したことで,経済教育のビジョンが描き やすくなった。日本においてもこのスタンダードのよ うな経済教育に特化した指標が示されることで経済教 育へのニーズに基づいた具体的な内容を考えることが 可能となる。 4.韓国における経済教育19)  同じアジアの国であり,日本とも教育の性質が似て いる韓国の経済教育について考察する。韓国の義務教 育は日本と同じように 9 年間であり,小学校 3 年生か ら社会科が始まり,中学校 3 年にあたる時期に経済に ついて学ぶ。内容に関しては日本とは異なった特徴を 持っている。日本の場合には,小学校では地域の消費 生活,産業から始まり,高学年ではわが国の産業と国 民生活との関連性を学ぶ。それに対して韓国では第 4 学年での「経済生活と望ましい選択」の単元の中で, 資源の希少性の中では多くの選択の場があること,ま た国民は生産者や消費者として選択の重要性を認識し, 経済的な意思決定のための能力を育成することを求め ている。このような「希少性」「選択」「経済意思決定 能力」は経済を学ぶ上での前提の概念であるが,日本 では高校までの学校教育では扱われることはなく,大 学の経済学の授業において初めて扱われる内容である。 その内容を小学校の時点で韓国が扱う理由は,韓国は 市場経済の優越を学ぶことが国民の経済教育の出発点 と位置付けているためである。つまり,韓国は市場経 済システムに基づいた世界経済の中で激しい競争下に あることと,その競争に勝ち抜くことで韓国の国家と しての存続を図ることを小学校の段階で正しく教えな ければならないという認識があるためである。  韓国経済教育学会 2009 年報告書『国内外の経済教

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育の現状及び示唆点』の「研究の必要性と目的」の中 では (省略)…一国家の経済の成果は短期的に資源配分に 影響を及ぼす政府の政策に関わっているが,長期的 には当該国民の市場経済に対する理解の程度に関 わっていると言っても過言ではない…(省略)20) という表記があり,韓国の経済教育の目的は個人レベ ルの合理的な消費活動の必要性だけでなく国家も見据 えていることが理解できる。  このように日本と韓国では教える時期には大きな差 はないが,日本の経済教育が資本主義と社会主義の両 方の内容に基づいているのに対して,韓国では市場経 済システムを念頭に置いて自国の経済状況を学ばせる 経済教育が行われていることには大きな違いがある。  しかしながら,高等学校における経済教育に関して は,大学受験の影響から経済分野の教育が充実してい るとは言い難い。韓国開発研究院(Korean Develop-ment Institution)経済教育チーム長の金振栄主席研 究員は「韓米日の学校経済教育の比較」の調査結果を 2009 年経済教育学会第 25 回全国大会において発表し た。調査結果では,日韓の中高生はアメリカに比べ経 済科目の履修比率が著しく少なく,「経済教育の成果 の評価:経済理解力」では経済教育の効果はアメリカ に比べて低いということが示された。21)また,学校教 育の経済担当の教員も大学時代の経済専攻者が日本以 上に少ないことがわかった。このように教員が経済学 を学んでいないために経済科目を選択する教員が減り, 教員自身が経済科目をおもしろくないと感じていると いう状況は日本とよく似ており,韓国も日本と同様な 経済教育についての問題を抱えていることが示される。  次に,実際の韓国の経済の履修状況はどのように なっているのかを示すために,現在より古い課程の状 況ではあるが 2007 年まで使われていた第 7 次教育課 程22)に基づいて分析する。この課程では社会科を歴 史,地理,一般社会にわけ,さらに一般社会を政治・ 経済・社会文化・法の 4 つの独立した単元と分類して いる。経済が科目として独立したことで内容を深める ことが可能になったが,表 2 の韓国の高校の社会科選 択科目別生徒数と比率に示されるように実際には選択 科目が多いために経済科目を選択せずに卒業する者も 多く,高校で経済を学ばなくても卒業できてしまうと いう問題がある。  表 3 は釜山の高校での「経済」開設現況の調査結果 である。23)対象は進学高校に限って実施しているが, 経済を開設していない高校は 34 校(37.3%)もある。 その理由として,経済科目は履修者が少ないこと,大 学修学能力試験24)でよい結果が得にくいこと,教員 の授業負担が大きいことが挙げられている。また,逆 に理系でも開講されている学校や,どちらか一方にな りがちな「政治」と「経済」が両方とも開講されてい る学校もあり,経済を教えることの出来る教員の有無 もかかわっていると考えられる。高校で経済を履修す る生徒が少ないことは大学修学能力試験の経済選択の 減少にもつながっており,学校でのさらなる経済受講 の減少という悪循環になっている。  韓国の高校は経済を受験科目に適さない,学びにく いものとして捉えてしまっているため,履修しにくい 状況となっているが,生きていくための身近なものと いう認識が教員にも生徒にも増えれば,受験で学ぼう とする学生も増え,受講したい生徒も増えると考えら れる。25)  現在は 2009 年改定教育課程が用いられており,こ の課程において大きく変更されたのは,「学習負担を 減らし,学習効果を高めること」や「配慮と分かち合 いを実践する仁徳教育を追及すること」などを通じて 表 2 韓国の高校の社会科選択科目別生徒数と比率 区分 科目 単位数 選択 生徒数 比率 一般選択 人間社会と環境 4 55,927 4.8% 深化選択 韓国地理 8 215,870 18.4% 世界地理 8 46,927 4.0% 経済地理 6 15,120 1.3% 計 277,917 23.7% 韓国近・現代史 8 263,461 22.4% 世界史 8 77,425 6.6% 計 340,886 29.0% 法と社会 6 84,949 7.2% 政治 6 93,027 7.9% 経済 6 103,305 8.8% 社会・文化 8 218,738 18.6% 計 500,019 42.5% 資料:教育課程基礎研究会会議資料(2004 年 9 月) 出典:姜泰権(2008)「韓国の高校における経済教育の現状─ 釜山を中心に─」『経済教育』第 27 号 22 ページ 表 3 「経済」開設現況(総集計) 区分 開設学校 未開設学校 生徒選択による 計 開設 学校 未開設学校 学校数 16 34 18 23 91 比率(%) 17.6 37.3 19.8 25.3 100 出典:姜泰権(2008)「韓国の高校における経済教育の現状─ 釜山を中心に─」『経済教育』第 27 号 23 ページ

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「未来社会が要求する創造的な人材育成」を行うこと を目標とした点である。26)即ち,日本では授業内容を 増やしてゆとり教育世代の学力低下の是正を目標にし たのに対して,韓国では履修科目数の過多による負担 を減らすことで激しい受験競争27)の弊害をなくすこ とが求められたのである。  韓国の教育課程や目標を見てみると,経済教育の推 進は日本と同様に選択科目や教える能力のある人材に よる制約から難しいという現状があるものの,広い視 野をもって経済教育を捉え学習を進めている様子が理 解できる。また,市場経済システムを積極的に教えて いくことが行われている。日本においても経済教育の 機会を増やしていくとともに,市場経済システムとい う現在の経済の考え方を明確に示していく必要がある。 5.フィンランドにおける経済教育28)  日本における教育改革の議論が進む中で,創造性を 高める教育が行われている国としてフィンランドが取 り上げられることが多い。フィンランドの教育課程の 特徴として,高等教育に力を入れていることが挙げら れる。フィンランドでは 1930 年代のアメリカの世界 恐慌の影響を大きく受け,多数の失業者が生じた。特 に,高学歴者に比べて低学歴者の方が被害が大きかっ た。そのため国民の教育への機会均等が強く求められ るようになった。戦争によって阻まれたものの,1946 年には新法が施行され,従来の 2 年制下級小学校と 4 年制上級小学校と 2 年制補修学校の制度から,7 年制 小学校と1年制補修学校に,さらに1957年には新しい 国民学校法の制定により 6 年制本科と 2 年制市民学校 の 8 年の義務教育に改定された。その結果,教育の平 等がかなりの程度実現し,能力のある人材が高等教育 機関に進学できないという事態は改善された。1968 年には現在にもつながる6・3制(小学校6年・中学校 3 年)を統合した総合制学校に改定され,義務教育が 9 年制となった。1999 年には,義務教育課程が 9 年一 貫に統合された。その理由は 1996 年から始められた 国の理数教育改善(LUMA)プロジェクトによって, 高学年の教科担当が低学年の学級担任を補助する授業 運営に効果があったためである。また,フィンランド の学校教育課程は完全無償になっており,大学には何 度でも入学し直すことが可能となっている。さらには, 専門職に関しては高等教育を修了していないと就くこ とが出来ない。  教員に関しても同様であり,高等教育による養成に よって高い資質が求められてきた。1960 年代までは 大学だけではなく専門学校で学ぶことでも教員免許が 取得できたが,専門性が十分ではないといった問題が 指摘されるようになった。そのため 1971 年に教員教 育法が施行され,各大学の教育学部には教育学科29) が設置され,総合制学校や中等学校の教員を志願する 者はすべてこの学科で教育を受けることになった。  その特徴としては,30) ①教員教育は大学入学資格の上に 4 年間行われ,あ らゆる教育職志望者について教育機関は同一。た だし,幼稚園や低学年担任はやや長い養成機関が 必要。(現在は 6 年) ②志望する学校によってレベルは異なるが,教員志 望の学生は同じ機関のなかで同じ講義に出席が可 能。 ③教員養成機関や実習を通して教員に不適当と考え る人の転科がしやすいように配慮。31) ④総合制教育学校や高学年の担任をするものは他学 部の専攻科目の履修が可能。教科の専門家である とともに教育の専門家となるように工夫する。  (下線部は筆者による。) などがある。この新しい教員養成教育の目的は,教員 は単に教科の専門知識を備えているだけでは不十分で あって教育課程の中で発展段階にある児童・生徒を個 人だけでなく集団や社会の一員として把握する柔軟な 思考力を持つ必要があり,それによって個々の児童・ 生徒の問題を解決していく必要があるというもので あった。日本では現在は教育改革の一環として教員養 成改革の重要性が指摘されており,6 年制による教員 養成の高度化やそのためのカリキュラムの検討が行わ れており,フィンランドの教員養成はこれらの先駆と なるものである。  また,④に関しては,教育学部における専門教育の 課題に通じるものがある。「教科の専門家であるとと もに教育の専門家となるように工夫する。」というこ とは,学力低下が問題となっており,教員の専門科目 を教える能力の向上が求められている日本の教員養成 における課題でもある。そのため「教科学」のような 教員養成のための専門教育が提唱されている。特に経 済教育に関しては専門知識の教育が必要であり,教科 学としての取り組みも行われている。32)  教員養成課程における経済分野に関する専門教育の 観点から,公民の教科書においてどのように経済分野 が扱われているか考察する。フィンランドの公民の教 科書には「個人の家計」「国民経済」「経済政策」など の項目を含めた数十ページにわたる経済の記述がある。

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最初の「個人と消費」では「ローンの仕組み」や「雇 用」またその中でも「就労証明書」など日本の中学校 では触れることはないが,移民の多いヨーロッパにお いては生徒の今後の生活に関わる身近な内容を扱って いる。また,EU とのかかわりや失業といった国レベ ル,世界レベルの内容も細かく扱っている。この教科 書を監訳した高橋睦子は,「フィンランドの現代社会 の教科書は著者がすべて現役の教員であり,現場をよ く知っているからこそ生徒の抱えている問題点をうま く取り入れている。また,この教科書を通して,メ ディアや統計を鵜呑みにするのでなく,批判的に観察 し,自分の意見を理由をつけて説明する力を身につけ させることを目標にしている。だからこそ,より具体 的な内容を扱っている」(下線部は筆者による。)と フィンランドの教科書の特徴を捉えている。日本の教 科書は制度に関する記述が中心であり,問題に対する 考え方を学ぶ機会が少ない。経済的知識としてローン や家を買うなどの具体的な内容を扱うことは限られて いるために,経済に対する問題意識も低い。日本にお いてもフィンランドの教科書のような考え方や具体的 な内容を扱うことで,中学生の段階から個人や市民と して,また社会全体の観点からの知識や考え方を学ぶ 機会を提供すべきである。  フィンランドにおける具体的な経済教育の内容とし ては,消費者教育があげられる。フィンランドをはじ めとした北欧諸国では,1960 年代という早い段階か ら消費者団体と消費者行政機関との協力体制のもとで 消費者教育が行われてきた。福祉国家である北欧諸国 にとって消費者教育は「家政」「市民教科」「工芸」な ど様々な分野の中で重要な位置づけとされた。1993 年には「学校における消費者教育に関するヨーロッパ 会議(European Conference on Consumer Education in School)」において,消費者教育は①経済における 消費者の役割,②広告とマーケティング,③消費と環 境,等の問題を扱う,独立科目ではないが,他の科目 において重要な事項として扱われる内容として認めら れた。33)また,この会議を受けて,1995 年に北欧閣僚 評議会は「北欧諸国における消費者教育─学校での消 費者教育の目標─」というアクションプランを発表し た。このアクションプランは①家計②消費者の権利と 責任③広告と影響力④消費と環境⑤食育⑥製品の安全 性と生活上の安全という 6 つの領域に分類され,それ ぞれの目標が掲げられた。  日本においても 2012 年 12 月に消費者教育の推進に 関する法律が施行され,学校における消費者教育の取 り組みが増えている。消費者教育が独立した科目では ないという点に関しては日本と同じであることから, フィンランドにおける消費者教育は先駆的な事例とし て意義を持つものである。34) 6.諸外国の経済教育の共通点と課題  これまでみてきたように,国によって様々な背景が あるもののそれぞれの国に合わせて経済教育の必要性 が見出され,経済教育が発展してきたことが理解でき た。以下において各国の共通点を整理する。 ①政府がしっかりと主導している。民間も協力して いる。 ②学校教育において積極的に取り組まれている。 ③体系的なカリキュラムが整備されている。 ④実際の体験を重視している。 ⑤教えられる人材がいる。その育成が行われている。  表 4 の各国の経済教育の比較は,これらの観点に適 合しているか否かを示したものである。◎で示された 点が多い国ほど経済教育が充実しており,特に,学校 における取組が充実している国ほど,経済的知識の普 及が可能となっている。 表 4 各国の経済教育の比較 アメリカ イギリス ドイツ 韓国 フィンランド ①政府がしっかりと主導している。民間も 協力している。 ◎ ◎ ○ ○ ○ ②学校教育において積極的に取り組まれて いる。 ◎ ◎ ○ ○ ○ ③体系的なカリキュラムが整備されている。 ◎ ◎ △ ○ ○ ④実際の体験を重視している。 ◎ ○ △ △ ○ ⑤教えられる人材がいる。その育成が行わ れている。 ○ ○ △ △ ○ ◎ 積極的に取り組まれている ○ 取り組まれている △ 取り組まれていない 出典:筆者作成

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 アメリカやイギリスはほぼ全ての項目について取り 組まれており,そのことが高い経済教育の水準を達成 している。  各国ともに共通して課題となるのが「⑤教えられる 人材がいる。その育成が行われている。」という項目 である。どんなによい制度やカリキュラムを整備して も,実際に教える能力を持った人材がいなければ,経 済教育の実践は不可能であり,人材の育成が経済教育 の普及には欠かすことのできない条件となっている。 以下は次号(Ⅱ)に続く。 註 1) 毎年 2%の物価上昇が続けば 20 年後には物価水準は約 1.5 倍となり,物価上昇に比例する賃金上昇や消費の増加, さらには税収の増加による財政の再建が期待できる。 2) 諸外国のインフレターゲティング政策はインフレの抑制 のために採用されており,一定の成果をあげている。 3) 本章は鵜飼遥佳(2013)『学校と家庭の連携による経済教 育─よりよく社会を生きるために─』第 3 章「諸外国に おける経済教育の現状」愛知教育大学卒業論文に基づい ている。 4) 日本の教科書は検定制度に基づいているため,殆どの教 科書の記述内容は同一であり,市場メカニズムや外部性 (ミクロ経済学)に関する内容で 4 ページ程度,景気変動 と経済政策(マクロ経済学)で 4 ページ程度となっている。 5) アメリカの教科書の日本語訳としてはゲーリー E. クレイ トン著,大和証券商品企画部訳,大和総研教育事業部監 訳(2005)『アメリカの高校生が学ぶ経済学─原理から実 践へ─』WAVE 出版がある。日本の教科書と違う点は, ①分量が多いこと(原書は 626 ページであるが,翻訳さ れているのは 369 ページ),②経済理論に基づいているこ と,③実例に基づいて実社会での活用に重点が置かれて いること,が挙げられる。 6) アメリカの教育は大学教育も含めて MBA(Master of Business Administration,経営学修士)のような実学的 な志向が強い。 7) NCEE やその定める経済学習のスタンダードに関しては 加納正雄はじめ多くの研究者が分析を行っており,日本 における同様のスタンダードの導入の可能性を示してい る。詳しくそれらの諸研究を参照。 8) Kindergarten(幼稚園)から第 12 学年(日本の中学 3 年) までの教育課程。 9) イギリスの金融機関連合が組織する民間の機関であるが, 法律によって設置が定められている。 10) 日本における学習指導要領と同様の教育基準であり, 1989 年より導入された。 11) 社会人に必要なライフスキルの習得を目的とした科目 “personal, social, health and economic education” 12) 1990 年に成立し,2002 年に必修化した科目で日本の公民 科にあたる。イギリスの社会科は長年にわたって歴史と 地理しか扱っていなかった。 13) 日本の教員についても同様の指摘がなされている 14) 本節は主に服部一秀(2009)「ドイツおける経済教育の動 向─ドイツ経済教育学会版教育スタンダードに焦点化し て─」に依拠している。 15) 但し,最初の 2 年間は学校間の変更が可能なシステムに なっている。 16) ドイツのでは各州によって教育制度が異なっており,日 本の文部科学大臣にあたる役職も州ごとに存在する。 17) 基幹学校とは特定の職業に就くための教育を受ける学校 であり,その卒業生の多くが職業学校や企業に進み,職 人などを目指す者が多い。そのため,すぐに仕事に役立 つ経済教育が必要とされている。 18) パフォーマンススタンダードとは,達成基準を示すもの である。 19) 本節は裴光雄(2012)「韓国の教員養成における経済教育 ─ソウル教育大学の経済学特殊講義の事例紹介─」岩田 年浩,水野英雄編著『教員養成における経済教育の課題 と展望』に依拠している。 20) 前掲書 196 ページより引用 21) 前掲書 195 ページより引用 22) 教育課程は日本の学習指導要領に該当し,第 7 次教育課 程は 1997 年から 2007 年まで使われていた。 23) 姜泰権(2008)「韓国の高校における経済教育の現状─釜 山を中心に─」23-24 ページに基づいて分析している。 24) 日本の大学入試センター試験と同様の試験である。 25) 日本の大学受験も同様の傾向がある。 26) 裴光雄(2012)「韓国の教員養成における経済教育─ソウ ル教育大学の経済学特殊講義の事例紹介─」岩田年浩, 水野英雄編著『教員養成における経済教育の課題と展望』 198 ページより引用。 27) 韓国は日本以上に学歴社会であり,大学進学率が高く, そのための受験競争が激しい国である。 28) 本節は中嶋博(2005)「フィンランドの教育の歴史と背 景」庄井良信・中嶋博編著『フィンランドに学ぶ教育と 学力』に依拠している。 29) それまでは各学科の課程を終えた後で教育学を学んでい たが,教育学科の設立によって教員養成に特化すること となった。 30) 前掲書 325-326 ページを参照。 31) 日本の教員養成系学部では教員免許の取得を卒業要件と しており,進路変更は容易ではなく,教員になる適性の ない者であっても教員になるという前提で学ばなければ ならない。 32) 詳しくは水野英雄(2011)「教員養成における経済教育の 展開─児童・生徒の「生きる力」を育むために─」,水野 英雄・鵜飼遥佳・前田宗誉・村井望(2012)「社会科にお ける経済分野の教科開発学における展開」他を参照。 33) 北欧閣僚評議会編(2003)『北欧の消費者教育─共生の思 想を育む学校でのアプローチ─』100 ページより引用。 34) 但し,フィンランドと日本の人口の規模や経済の発展状 況は異なっていることから,フィンランドの制度がその まま日本に適応するとは考えていない。 参考文献 [1] 岩田年浩・水野英雄(2011)「教員養成系学部ではどのよ うな経済の授業が行われているのか─教員養成系学部へ の調査結果から─」『経済教育』第 30 号 [2] 岩田年浩・水野英雄編著(2012)『教員養成における経済 教育の課題と展望』三恵社 [3] 魚住忠久・山根栄次・宮原悟・栗原久編著(2005)『グ ローバル時代の経済リテラシー 新しい経済教育を作る』 ミネルヴァ書房 [4] 鵜飼遥佳(2013)「学校と家庭の連携による経済教育─よ りよく社会を生きるために─」愛知教育大学卒業論文 [5] 鵜飼遥佳・前田宗誉・村井望(2011)「先生のための金融 教育(小学校編/中高編)」日本銀行『第 7 回日銀グラン

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プリ〜キャンパスからの提言〜』 論文 http://www.boj.or.jp/announcements/release_2011/data/ rel111214a3.pdf プレゼンテーション資料 http://www.boj.or.jp/announcements/release_2011/data/ rel111214a4.pdf 審査講評 http://www.boj.or.jp/announcements/release_2011/data/ rel111214a11.pdf [6] 梅下隆芳・水野英雄(2009)「地域の企業等との産学連携 による経済教育」『産学官連携による実習等授業の教育効 果に関する研究─社会的ニーズを踏まえた人材育成のた めの試み─』報告書 愛知教育大学 [7] 大藪千穂(2012)『家庭経済学』放送大学教育振興会 [8] 加納正雄(2005)「アメリカの NCEE と日本の「公民」の 経済教育の比較研究─市場と価格の理論をめぐって─」 『滋賀大学教育学部紀要 教育科学』第 55 号 [9] 加納正雄(2006)「アメリカの NCEE と日本の経済教育の 比較研究─利潤追求,競争,市場経済の評価に関して─」 『滋賀大学教育学部紀要 教育科学』第 56 号 [10] 加納正雄(2007)「アメリカの NCEE と日本の経済教育の 比較研究─金融教育に関して─」『滋賀大学教育学部紀要  教育科学』第 57 号 [11] 加納正雄(2008)「アメリカの NCEE と日本の経済教育の 比較研究─仕事と職業に関して─」『滋賀大学教育学部紀 要 教育科学』第 58 号 [12] 加納正雄(2009)「効率と公正を学ぶための経済教育」 『滋賀大学教育学部紀要 教育科学』第 59 号 [13] 姜泰権(2008)「韓国の高校における経済教育の現状─釜 山を中心に─」『経済教育』第 27 号 [14] 金融広報中央委員会・知るぽると 各種資料・ホーム ページ http://www.shiruporuto.jp/ [15] 金融広報中央委員会(2009)『金融教育プログラム─社会 の中で生きる力を育む授業とはー』 [16] 金融庁(2004)「初等中等教育段階における金融経済教育 に関するアンケート」 [17] 金 融 庁(2005)「 金 融 教 育 に 関 す る 国 際 比 較 」2005 年  http://www.fsa.go.jp/news/newsj/16/singi/f-20050524-1/02.pdf [18] 金融庁総務企画局政策課(2006)「初等中等教育段階にお ける金融経済教育に関するアンケート調査結果報告書」  http://www.fsa.go.jp/news/newsj/16/sonota/f-20040831- 3b.pdf [19] ゲーリー E. クレイトン著,大和証券商品企画部訳,大和 総研教育事業部監訳(2005)『アメリカの高校生が学ぶ経 済学─原理から実践へ─』WAVE 出版 [20] 庄井良信・中嶋博編著(2005)『フィンランドに学ぶ教育 と学力』明石書店 [21] 証券知識普及プロジェクト・金融証券知識の普及に関す る NPO 連絡協議会(2005)「学校における経済・金融教 育の実態調査」http://www.jafp.or.jp/about/research/file s/houkoku.pdf [22] 消費者教育支援センター著(2000)『経済学習のスタン ダード 20─21 世紀のアメリカ経済教育─』 [23] 消費者庁(2012)「 消費者教育の推進に関する法律の概要」 http://www.caa.go.jp/information/pdf/kyouiku_gaiyou. pdf [24] 全国銀行協会(2008)「金融経済教育の一層の充実に向け て」http://www.zenginkyo.or.jp/news/entryitems/news2 00229_1.pdf [25] タルヤ・ホンカネン,ヘイッキ・マルヨマキ,エイヤ・ パコラ,カリ・ラヤラ著,高橋睦子監訳,ペトリ・ニエ メラ,藤井ニエメラ・みどり訳(2011)『フィンランド  中学校現代社会教科書─15 歳市民社会へのたびだち─』 明石書店 [26] 中央教育審議会(2012)「教職生活の全体を通じた教員の 資質能力の総合的な向上方策について(答申)」http:// www.mext.go.jp/component/b_menu/shingi/toushin/__ icsFiles/afieldfile/2012/08/30/1325094_1.pdf [27] 内閣府経済社会総合研究所(財団法人日本経済教育セン ター委託研究)(2005)『経済教育に関する研究会』中間 報告書 [28] 服部一秀(2009)「ドイツおける経済教育の動向─ドイツ 経済教育学会版教育スタンダードに焦点化して─」『山梨 大学教育人間科学部紀要』第 11 巻 [28] 福原 敏恭(2008)「金融イノベーションの進展と米国にお ける金融教育の動向─サブプライム問題発生後の状況─」 金融広報中央委員会 http://www.shiruporuto.jp/teach/co nsumer/report2/pdf/ron081017.pdf [29] 福原 敏恭(2010)「グローバルに拡大する金融教育ニーズ と英国における金融教育の動向─ポスト・クライシスの 金融教育に向けて─」金融広報中央委員会 http://www. shiruporuto.jp/teach/consumer/report3/pdf/ron100816. pdf [30] 裴光雄(2012)「韓国の教員養成における経済教育─ソウ ル教育大学の経済学特殊講義の事例紹介─」岩田年浩, 水野英雄編著『教員養成における経済教育の課題と展望』 三恵社 [31] 北欧閣僚評議会編(2003)『北欧の消費者教育─共生の思 想を育む学校でのアプローチ─』新評社 [32] 文部科学省(2008)『中学校学習指導要領解説社会編』 [33] 宮原悟(2010)「「経済教育」研究(第 5 報)─中学校新 学習指導要領社会科「公民的分野」における「対立と合 意」「効率と公正」をめぐって─」『名古屋女子大学紀要  人文・社会編』第 56 号 [34] 水野英雄(2005)「経済教育の必要性と目標─初等教育か らの連続性を求めて─」『経済教育』第 24 号 [35] 水野英雄(2010)「教員需要の変動と養成政策」『愛知教 育大学研究報告』第 59 輯 愛知教育大学 [36] 水野英雄(2010)『少子化時代の教員需要と教員育成の課 題』愛知教育大学出版会 [37] 水野英雄(2010)「産学官連携による実習等を活用した教 員養成」『日本教育大学協会研究年報』第 28 集 日本教 育大学協会 [38] 水野英雄(2011)「教員養成における経済教育の展開─児 童・生徒の「生きる力」を育むために─」『2011 教科開発 学研究発表会大会発表論文集』愛知教育大学・静岡大学 [39] 水野英雄(2011)「教員養成における経済教育の現状と課 題」『日本教育大学協会研究年報』第 29 集 日本教育大 学協会 [40] 水野英雄・鵜飼遥佳・前田宗誉・村井望(2012)「社会科 における経済分野の教科開発学における展開」『2012 教科 開発学研究発表会大会発表論文集』愛知教育大学・静岡 大学 [41] 水野英雄(2013)「経済システムの変化と学習指導要領に おける「対立と合意,効率と公正」の概念の教員養成に おける理解」『第 3 回教科開発学研究会発表論文集 2013』 愛知教育大学・静岡大学 [42] 文部科学省 学習指導要領・各種資料・ホームページ  http://www.mext.go.jp [43] 山根栄次(2006)『金融教育のマニフェスト』明治図書出版

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謝辞  本稿は愛知教育大学における鵜飼遥佳の卒業研究『学校と家 庭の連携による経済教育─よりよく社会を生きるために─』の 研究成果を水野英雄と共に経済政策の観点から発展させたもの である。また,本稿の教員養成における経済教育に関する部分 は,筆者のうちの鵜飼遥佳が前田宗誉氏,村井望氏と共に 2011 年の日本銀行主催の『第 7 回日銀グランプリ〜キャンパスから の提言〜』において優秀賞を受賞した「先生のための金融教育 (小学校編/中高編)」にて研究を行った内容を発展させ,水野 英雄の研究成果を加えて執筆している。 共同研究を行った前田 宗誉氏,村井望氏,日本銀行並びに貴重なコメントを頂いた審 査員の皆様に厚くお礼申し上げます。  本稿の作成に当たり査読者より貴重なコメントを頂きました ことを深く感謝申し上げます。  尚,本稿で示された内容は筆者らの個人的見解であり,筆者 らの所属する組織の見解を示すものではありません。

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