地 域 資 源 活
用 に
基
づ
く
地
域 づ く り
TRegional
Development
Based
on
Regional
Resources
宮 崎
清
MIYAZAKI
Kiyoshi
放送 大 学特 任教
授The
Open
University
ofJapan
1 .
地
域 振 興へ の 新 た な ま な ざ し1970
年 代 半 ば か ら、
「地 域 主 義 」 が 唱 えられるよう になっ た。
そ して、
地 域 主 義とは、
「一
定 地 域の住民が、
そ の地 域の 風土 的 個 性
を 背 景 に、
その地 域の共 同 体 に 対 して一
体 感
を も ち、
地 域の行 政 的・
経 済 的 自立 と文 化 的独
立性
とを追 求
する こ と をいう」(
玉 野 #1977
) と 定 義づ け ら れ た。
「地 方 主義
」 か ら識 別 する た め、
「地 域 主 義 」 は、
「内発 的
地域
主義
」 と も呼ば
れた。
ま た、
この 「地 域 主 義 」 におい て は、
「地 域 」が次の よ う な 姿で描 か れ た。
「地 域 という(
中略)
人間等
身大
の視 座
に 立つ と、
その世 界の中 に 生 活 者 という地 域の担い手 が 現わ れ ま す。
国家
や 国 民 とい う概 念 だ けでは な しに、
生活者
とい う(
中
略)
地 域の担い手の姿 を 見つ め ま す と、
日常 的 貰 任 をもっ て生活
し て いる 人 た ちの顔 や か た ち や ふ る まいが 浮 か び 上 がっ てき ます。
そ の生 活 者たち は、
地 域 に お ける土 と水
からなる日常性
の生態的 生
活 環 境の中で、
生 命 を 生み出し、
生 命を育て、
生命 を 守っ て い る」(
玉野 井1985
)。
な ぜ
、
上 述のよう な 「地域 主義
」 が 唱 え ら れるよう になっ た の であろ う。 それを解
くには、
戦 後の日 本 に お ける地 域 開 発の 歴史を 顧 み る必 要が あ る。
それは、
およ そ、
次の3
期 に 分 けら れる。
第
1
期は、
戦 争 直 後の 「応 急 期」 である。
焦 土と化 し た 国 土 復 興のた め に、
政府
は 「復
興 国 土計
画 要 綱」(
1946
年 ) を 設 け、
食 糧 生 産 と地 方 都 市の復興 に 基づいて経 済力 を充 実さ せる こと に 力 を 注いだ。
第
2
期 は、
「回 復 期 」 とも呼べ る も の で、
「国土総 合 開 発 法」 (1950
年 ) が 設 け ら れて以 降の ことである。
こ の時
期の地 域 振 興は、
「都 府 県 総 合 開 発 コ 「地 方総 合 開
発」 「特 定
地 域 開 発」 の3
つを視
野に入 れ た もの であっ た が、
と り わ け国内
の後進 地 域開 発 に主 力が注が れ、
電 力 開 発 が 最 重 要 視 し て展 開
さ れた。 「離 島振
興法
」 「積
雪 地 振 興 法」 な ど に よる開 発 が 進め ら れ た の も、
こ の時
期であ る。
や がて、
1950
年の朝 鮮戦 争
による特 需
と連 合 軍に よ る重工 業 再 建 許 可 を 契 機 とし て、
日本の地 域 開発 は第
3
期
に突
入 す る。
第
3
期 は、
都 市 化・
工業 化 が 急 速 に 進 展した 厂成長期 」 で あ る。 「首 都 建
設法
」(
1950
年)
や 「首 都 圏 整 備 法」(
1956
年 〉
に象 徴
さ れ る よ う に、
第3
期には、
既 成 市 街 地の再 開 発
、
新 市
街 地
の 工業
開 発、
近 郊 地 帯の緑 地 保 全 を 柱とする整備
に力が 注がれた。
し か し、
人口 と工 場の一
極 集 中
、
地価
の高 騰
、
環境
の悪 化、
過 密・
過 疎 な ど、
都 市 化 と工業 化の進展 の な か で、
日 本 列 島に さ まざ ま な 歪 み が 生 起 してき た。
「全国 総 合 開
発」(
1960
年 )
は、
その よ う な 歪みを 調 整 するため に、
全 国を 過密
地 域・
整 備 地 域・
開 発 地 域の3
つ に 区 分 して全体
的均衡
を 図っ て い こ うとす る もの であった。
だ が、
総じ て経 済 開発 に力 点 が 置 か れ、
公 害 問 題 や 過 疎・
過 密 地 域の拡 大 な ど、
依 然
と し て歪 みの是 正には ほ ど 遠い状 態 を 呈 していた。
こ のよ う な 戦 後 か ら 高 度 経 済 成 長 期 に 至る日
本
に お ける国
土 開 発 計 画の 経 緯のなかで、
広 く国
民の間
に、
「地域
主義
」 の概
念
に 立つ地 域 開 発へ の志 向 が 高 まっ てき た。
そ れ ま で の 「上 か ら の開 発」 「外 発 的 (exogenous)
発 展」に代
わっ て 「もう ひ とつ の発 展」 「内
発 的 (endogenous ) 発 展」が 求め ら れ る よ う に なっ たの であ る。
そ れ は、
次の5
つを 主 たる内 容
とする も の で あ る (鶴 見・
川 田1989
)。
単に物 財の増 大の み を志 向 する の で はな く、
人 びとの精 神 的・
物 質 的 な 基 本 的 必 要 を 充 足 す る開 発。
そ れ ぞれの地 域の歴 史 性
・
風 土 性・
社 会 性に根 ざ した開
発。それぞれの地 域 に
内
在 す る 資 源・
知 恵の利 活 用 に 準 拠し て、
地 域経済
の自
立性を めざ す 開 発。
そ れ ぞ れの地 域 のエ コロジ カルな環 境保 全
を保
証 す る 開 発。
それぞれの地 域 の歩 むべき 方 向に関し て地 域 住 民 自ら が意 思 決 定
・
政 策 決 定 に 参 加できる開 発。
2 .
「ないない尽 く
し 」から
の転 換
上 記の
5
つを内容
と する地 域開
発へ の希求
は、
いず
れ も、
経 済 成 長 優 先 型の発展へ の内省
、
ほ ん も の の豊
か さへ の内 省、
エ コ ロジ カ ル な 生 活 環 境 形 成へ の志 向、
地域
ア イ デ ンティティの 確立、
自 立・
自存の地 域 社 会 形 成の必要性、
進路
選択に関す る自
己 決 定の徹 底 化 な ど、
と り わ け1960
年代 半
ばか ら1970
年
代 半ば に かけて の地 域 開 発 とそれ が も たらす歪 み に対す る批 判 のなかか ら 生 起 し た もの であっ た。
こ の時 期 を 境として
、
人 び との地域
を眺
める 眼 は 大 き く 転 換 し た。都
市 に あっ て、
人 ぴ とは、
緑 地の希 少
化、
空気の汚 染、
汚 濁 度を増 す 河 川 が 都 市の象徴
にな りつ つ ある こ と に疑 問 を 投げ
かけ始
め た。
ま た、
地 方にあっ て、
人び と は、
過疎の進 行、
都市
生 活 者と の経 済 的 格 差の拡 大、
工場廃棄 物
の投 棄場
と化
し て い く 自 己の環 境 に 対 し、
疑いの眼 を 向け る よ う に なっ た。
総14
デ サ イ ン 学 研 究 特 集 号Special lss
凵
eo 「Japanese Society torthe Sclence of DesLgnNII-Electronic Library Service
じて、
都 市
におい ても、
地 方においても、
人 びとは、
そ れ まで の経 済 最優
先 型の地 域 開発 に対 する危 機 感 を 増 大 さ せていっ た の であ る。そ して
、
例えば 地 方に お い て、
人 びと は、
自己 の環 境 を 次の よ う な 眼で眺
め、
再評価
するよ うになっ た。
「森 林 はいず れ ゴ ルフ場 化さ れ る も の と こ れ ま で観 念し ていた が、
森 林 は森 林と して次世 代
に受
け渡
していく必要
が ある の では ないか」 「こ こ に は工場 も 百貨 店
は な い けれ
ど、
自然
豊 か な 山 や 川 や 田 畑 が あ り、
新 鮮な 空気
に恵ま れ た か けがえ のない地では ない のか」 「春
に は山菜
、
秋
に は茸
を提 供
し てく れる山 に 抱 か れて の生 活 は、
都 市で は味
わ う こ と の でき ない貴 重 な 自 然 との共 生の姿 そ のものなの で は な いか」。人
び との眼 は、
それ まで の 「ないな い尽く し」 か ら、
徐
々 に転 換したの である。
そ の転 換 は、
「そ れ ぞ れの地域
に歴史
を通 じ て伝
承 さ れてぎ た さ ま ざ ま な 資 源 を 大 切に し、
自
ら の手で そ の資 源 を 守 り発 展 さ せてい くことこ そ、
等 身 大
の地域 開
発 なの では ないか」 という 方 向へ の転 換で あっ た。
「逆 転
の発想
」 「過 疎
を 逆 手 に」 な どの標
語 が 生 ま れ た の も、
この よ う な 人 び と に よ る価 値 観の転 換の産 物であっ た (宮 崎・
三橋
、
1993
)
。そして
、
いま、
お よ そ地 域開
発・
地 域 振 興 といえ ば、
それ ぞ れの地 域 に内在
す るさ まぎまな資源
に準 拠
して、
そ れ を 維 持・
発 展し、
そ れ ぞ れ の地 域の ア イ デ ン ティティを よ り一
層 明 確 に して い く実 践
であ
る と の了解
が、
広 く共 有 さ れるよ う に なっ て い る。
ま た、
地域社
会に お け る経 済 的 自立 も、
そ のよ う な 視 点 を 堅持
す ること によっての み可能
であるとの認 識 が 築 か れつ つ ある。3
.
さ ま ざ まな 地 域 資 源
地 域 (region) と は
、
空 間 的 に一
定の領域
を も ち、
共
同の ルー
ル に基 づい て、
人 び と が 日 常 的・
非 日常 的 な 生 活 を 展 開し て い る場である (木 内1968
)。
およそ、
地 域は、一
夜に し て 成 立 し ない。
人 び とが 生 活 を 展 開 してき た軌
跡 が表 出
され、
現
に人 び と が 生 活 して い る 場こそ、
地域だ か ら で あ る。
そ れ ゆ え、
地 域 に は、
歴 史 (過 去・
現在
・
未来 )
があ
る。 そ の歴史
と は、
人 びと が周 囲に存 在す る さ まざま な資源 を活用・
産 出し て き た もの の総 体、
現 に産 出
して いる も の の総 体
、
さ ら に、
将 来 に 産 出 して い こうと して いる も の の総体
に ほ かならない。
とこ ろ で
、
そ れ ぞ れの地 域
に内 在
するさ ま ざ ま な 資 源 に 準 拠 して地 域 振 興 を 図っ ていく に あたり、
どのような資
源に着
目す る必 要 が あ るの だ ろ う か。
い っ た い、
地 域 資源 と は何 なのだろ うか。
資 源 (resources
)
と は、
単に八一
ドな 物 質の みを意
味しな い。
人 間性
・
風 土性
・
歴史
1
生そ して生 活 文 化 な ど、
お よ そ 全て のソフ トを含め、
資 源と い う概
念 が用 いられる。
それ ゆ え 資 源 と は、
地 域に内 在
す る物 質
的な らびに非 物 質 的 な もの の総 体と いえる。
例 え ば
、
地 理学
にお い て は、
地 域 資 源
とし て次
の事 項
を挙
げる (木 内1968
)。
位 置・
環 境に関す る資 源 :自然 的 位置、
人 文 的 位 置、
土 地・
景観
、
気侯
、
水
圏、
生物
。社 会
生 活 に 関 す る 資 源 :生 活 様 式、
生活内 容
、
行 政、
村
落、
都 市。
経 済 活 動 に 関 す る
資
源 ;農 牧 業
、
林業
、
水 産業
、
鉱業
、
製
造業
、
建設
業、
流 通・
サー
ビス業、
交
通・
通信。
人口
・
社 会 集団 に関 す る 資 源 ;人 口変 化
、
社 会集
団。文
化
に関
する資 源 :言葉
・
方 言、
宗 教、
伝 承・
芸能
、
物 質
文化
、
教 育・
学 術 な ど。
ま た
、
地域
の活 性化
に寄
与 する可能性
を 内 包 し た 資 源つ ま り 「地 域 活 性 化 資 源 」 と いう観 点
から は、
次
が挙
げ ら れる(
全国
農 業 協 同 組 合 中 央 会1991
)
。
類 型1
・
自 然 資源 :[非 生 物 資 源 ] (鉱 物、
地 質・
地 形、
星、
気 象
、
雪
、
水
・
温泉
、
海
・
河 川・
湖 沼・
溜 池、
地 熱・
海
水 づ毎洋
エ ネ ルギー、
土 地・
土 壌、
山、
遊休
地等 )
、
[
植 物 資
源] (
山菜
・
茸
・
山葡 萄
、
米
・
野 菜・
果 物 等 の農 産 物、
そ の他
の植 物
、
森 林
等)
、
[
動 物 資 源 ] (プラ ンク ト ン類、
昆虫 魚介類
、
野鳥
、
牛
馬、
そ の他の陸・
海・
空の動 物 )、
[排 泄 物・
落ち葉等
の有
効利
用]
。
類 型II
・
生 産 資 源 :[農 産 物 加工 食 品] (
山 菜
・
茸
、
漬 物
、
干
し物
、
缶 詰
、
豆腐
・
味 噌・
醤 油・
蕎 麦 等 〉、
[畜
産物 加
工品] (
牛 乳
、
チー
ズ・
バター
等
の乳 加工品、
ハム等の肉加 工品 等)
、
[
農 林
生 産 物 加工品 ] (藁・
竹 細工等、
紙、
桐箪笥
、
他
の木
工製
品、
動物
の剥製
、
そ の他
の工 芸 品・
民 芸 品 等 )、
[水産物
加 工品] (
乾
物、
缶 詰 等の魚 介 類 加 工品、
魚
介 類の 工芸
・
美 術 品等 )
、
[
生 産 加工品
の残 滓 や 生 産 資 源の有効
利用・
リ サ イ リ ル品 な ど ]。
類 型III
・
景 観 資 源 :匚自然 的
景観 ] (
森 林
、
海 岸
、
山 河、
湖 沼・
溜 池・
ク リー
ク、
田 畑 等)
、
匚
社
会 (人工) 景 観 ] (石垣、
建 物、
家 並 み、
公 園・
庭 園、
遺跡
・
文化
財 等)
、
[生 活 景 観 ] (炭 焼 き、
干 し 柿・
干 し 大根 等
の干物
、
稲 架
、
音
や 煙・
臭い、
手 入の行 き届いた生垣・
庭・
花 壇 等の生 活 感・
潤いのある風 景 等 )、
[総 合 景 観コ (
自然
景観
・
社 会景 観
・
生 活 景 観のバラン ス と して の快さ を伴
っ た景観 等)
。
類 型IV
・
人 文 資 源 :[文 化 資 源]
種 種の文 化
・
スポ
ー
ツ・
保養
施 設 (美 術 館・
博 物 館・
工芸 館、
アス レチック施
設、
ク ア八ウ ス等 )、
種 種の制 度 や 組 織 (研 究・
生 涯学 習・
住民活
動シ ス テ ム を 含 む )、
伝 統 的 社 会 風土 (
開放性
、
住
民の主体 性
・
学 習
力 等 )、
種 種の技 術 (生 活 技 術、
有 機農
法・
そ の他
の生 産 技 術 等 )、
無 形 文 化 財 (芸 能、
祭
り、
行 事
、
民話 等)
、
各 種
イベン ト、
情 報 ネッ トワー
ク、
農 林・
工・
商 (
産 出・
加工・
流 通 )の連 携、
交 通システム等
、
[
人 的 資
源]
歴 史 的著
名 人、
種 種の高 度 技 能 保 有 者、
家族・
男女・
世 代間関 係の特 色、
種 種の地 域 住 民 活 動(
生 活環 境
整備
や環
境 保 護 活 動 等 を 含 む )、
種 種の交 流 活 動(
朝
市
、
都 市
・
農村 交
流 や国 際
交 流 等の活 動 等 )。
講
鞴
1
∵ ∵
∵
『
一4 .
地 域資
源 の 再 認 識 に 基 づ く 地域 振 興
さ ま
ざ
ま な 地 域 資 源の再 発 見・
再確
認 は、
内発 的地 域 振
興の出 発 点であ る
。
その再 発 見・
再確 認
の行 為
は、
実 地
調査
・
実
態 調査
・
野 外 調 査 (field
survey> な どと呼 ばれ る 地域に出 向いて の調 査によっ て行 わ れ る
。
ま た、
地 域調
査におい て は、
観 察
(
observation)
、
測 定 (measurement )、
面接(
interview
)
、
アンケ
ー
ト (enquete ) な どの手 法 が、
通常
、
複 合 的
に用い られ る。
も ち ろ ん、
地 域 調 査 に よっ て採 集 さ れた さ まざま な資
料 を、
文 字、
写 真・
ビ デ オ な どの映 像、
録音
な ど として、
記録
に と ど め ること が必 要である、
地
域 資
源の再 発 見・
再 確 認のた めの地 域 調 査 は、
当該
の地域
住 民に 加 え、
行 政 担 当 者 や 外 部の専 門 家 が 混じっ たチー
ム で実
施
すること が望 ま れる。
これ は、
当 該の地 域 住民 に とっ て は 「当
た り前
」 と して見 落と されがち な 資 源 まで含
め て、
すべ て の地域 資
源の発掘
を 可能
にするた めである。
外 部 専 門 家 が 地 域 調査
のグ ルー
プ に 入 るこ と に よっ て、
地 域住
民が と も する と見 落と し が ちな 資 源の 存 在 が 確 認 さ れる こ と も少な く な い。
例えば
、
1
本の木 も、
地 域 住 民 に とっ ては、
以 前 から存在
して いた も の、
日ごろ か ら接 してきた ものだ けに、
そ の資 源と し て の価
値
が判
定で き ない場 合 も あ る。
しか し、
外部
の眼
で それ を眺
め る と、
木の肌の美し さ・
力 強 さ、
秋の色 変 わ りや落葉
の美
し さ な ど が、
資
源の価
値と して発 見 さ れるか もしれない。
ま た、
山 菜 を 採取 す る地 域の 人 び と の暮ら し は、
地 域 住 民 に とっ てはご く「
当
た り前
」 であっ ても、
外部
の者
にとっ ては 「自 然と の共 生」 が 生 きて い る暮
ら し として認 識 さ れ る か も しれ ない。
さ ら に は、
裏 山か ら採
取し た自然 素 材を用い て の 山 籠づく り は、
地 域 住 民にとっ て は昔
から行
っ てき たこ と で特 段の目 新 し さ は な く と も、
外 部の 眼 か ら し て み る と、
それは、
今 日に生 きる自 立・
自 存の生活
の表象
であ り、
自然素 材
のや さ し さ と 美 し さ と が 凝 縮 さ れ た 生 活用 具 であり、
し か も、
裏 山か ら自 然 素 材 を 適 度 に 採 取 して く ること が 裏 山の成 長 を 手助
けする ことにつな がっ て いる な ど、
さ ま ざ ま な 価 値の凝 縮 体と し て と ら え られる かも し れ ない。
こう して、
地 域 資 源の発 掘
を内 外
の者
の混 成 チー
ムで実 施 すること は、
地元住
民 の資
源を眺める 眼の転 換 に つながるば
か りか、
外 部の者に とっ て も、
地 元 住 民か ら さ まざ ま に教 授されることの喜 び を 得る機 会でも ある。地 域
資
源の発 掘と再 評 価 は、
決し て、
単眼的に な しては な ら ない。
1
方 向
の視点
か らでは、
対 象の有 する1
側面
しか 浮 上し ない。
複眼的・
多
面的 な視 点を堅 持して、
資 源 発 掘 とそ の 再 評 価 が な さ れ なけれ ばな ら な い。
「木 を み る 視 点 」 「林 をみ る視 点」 「森 をみ る視 点」 を複 合して、
地 域 資 源の発 掘・
再 評 価に あ たる必要
が ある。当然
、
「木 を み る 視 点」 に おい ても、
地表
に 現 れ て い る部
分 だ け を眺め るの でな く、
木の根元や 地中
の様
相
な どに思いを巡
ら して、
全 体 的 に 観 察 する こと が肝 要 で あ16
デザイ ン学研 究特集冒.
Spec「al IssueefJapanese SocietソfortheSclenceo「Desjgn
Vol
、
19−
1 Ne.
73 2011 る。
ときには、
根 元の枯 葉
を 手にとっ て どの よ うな生 物
が棲息
してい る か を 調べた り、
枯 葉 を 踏み し め る と き の や わ ら か な足 の感 覚 を確 か め ること も 欠 か せ ない。微視 的
・
巨視 的 観 察
を 行 うと とも に、
見る・
聞 く・
触 れる・
嗅ぐ・
味
わ う の 五感を総 動 員 して、
対 象の価 値 を 確 認 する ことが肝 要
である。 地 域 資 源の発 掘・
再 評 価に従 事した 者は、
次の ス テ ップ と し て、
発 見 さ れ た さ ま ざ ま な 資 源の リス トアップ、
それ
ぞれの資
源の関 係 性、
そ して、
なぜ貴 重 な資
源 なのかを整
理し、
広 く 地 域 住 民 に そ れ ら を 提示する。
同時に、
個々 の資
源を ど の よ う に してより豊かな 資 源として磨 き 上 げ、
利活
用し て いくか の具体
的 方向
性 を、
多 面 的に思 考・
展 開 する。
さ ら に、
資
源と資 源と の結 びつけ 方 を 思 考 し、
提 示 する。
こ のと き、
地 域住
民か ら、
個々の資 源の利 活 用 に 関 する提 案、
資 源 相互 の関係
づけ に閧す る 提 案 な ど を、
積 極 的 に聴 取 する こと が 必要
である。な お
、
地 域 資 源の利 活 用 に 基づく 地 域 振 興 計画
の策
定に際
し、
最 初 か ら 大 境 模 な 展 開 を 志 向 する こと は極
めて危 険
であ
る。
とも す ると、
「金 が ない から でき ない 」 「金
をどこ からか もっ て こな け れ ば ならない」 と の考え に賄
って し ま う か らであ る。
まずは、
「小 さ なこ と 」 「やろう と 思えばできる こ と」 「金 はな くともできること」 から着 手 すべきで あ る。
そ の よ う な実 践の積 み 重 ねのな かで、
すべて の地 域 住民 の問
に、
地域 資
源 活 用 に 基 づ く 地域 振 興の重 要 性の認 識、
ひ とりひ と り の 地域住 民 がそ の担
い手 に な れ る可 能 性の確 認 な ど が 広 ま り、
共有
さ れて い く。
こ こ か ら、
等 身 大の地 域 振 興、
自 立・
自存の地 域 振興が始
まる。5 .
「故 郷
づく り
」 のた め
の地 域 資 源 発 掘
と伸
展『興 業 意見 』 を ま と め た の は
、
今 日の通 商 産 業 省の 前 身であ る農 商 務省
の役
人・
前
田正名 (
ま えだ・
ま さ な )で ある (宮 崎・
三橋
、
1990
)
。 明治 時 代
は勧
業 興 国 を キー
ワー
ド に 国づ く り が 進め られ た 時 代 だ が、
そ れ は、
福 沢 諭 吉が主 導 し た 大工 業 優 先 政 策 に 支 え ら れてい た。欧米
の進
んだ諸技
術 をいわ ば 鋳 型 に とっ て 日本に移 植 し て く る こ と に よっ て、
それはな さ れ た。
国 金 体 がそ のような 流 れのなか に あった とき、
前 田 は 次の よ う に 考 え た。
「日本 各 地に は、
そ れ ぞ れ の 地 域の風土 と対 応 し、
長い歴 史のな かで刻 ま れてき た 地場産 業
が あ る。 国づく り は、
その よ う な 地 場 産 業の育 成 を図 る こ と な く してな し え な い」 と。前
田の主 張 は、
当 時の省 庁のな かで必 ずしも支 持
され な かっ た。
前 田は高 級 官 僚の座 を他 に譲
り、
野に下っ た。 そし て、
いわ ゆ る 「前
田 行 脚」 を 展 開 した。
草 鞋
履き・
脚 絆 姿で、
前
田 は 全国各
地を まわ り、
辻 説 法 を行
った。 町村
民た ちを前
に して、
前
田 は 説いた。
「皆 さ んの地に は、
さ まざま な 資 源があ る で し ょう。
そ れ らは、
先 祖 た ち か ら引
き継
がれ
て き たものに相
違 あ り ま せ ん。
そ れ は、
か け が えのない地 域の 財産です。
ぜNII-Electronic Library Service
ひ、
そ れら の資
源を再 評価
し て、
そ の資
源 が さら に伸展
し てい く よう な町づ く り、
村 づく り を展 開し て くださ い」 と。
こ の前 田の訴 えのなか か ら、
いわ ゆる 「 町 是」 「村是
」 づ く りが 生 ま れた。
それは、
今 日の 「地域計
画」 の走り である。
もち ろ ん
前
田の生
き た時代
と今
日 とでは時代
そ のものが 大 き く異 なる が、
国づ く り の本質 論
と い う視
点か ら み る と変 わ りは ない。
いず
れの国にあっ て も、
国
づ く り と は、
そ の国 が 歩 んで き た 歴史
のうえ に新
たな 歴史
を積
み重
ねて刻
んで い く もの で あ る。
木に竹を接ぐ方式だけ が、
国 づく り で は な い。
歴 史に は、
民 族の 血 が流
れ、
地 域住
民の心 が 反映
し ている。
地 域 資 源 と は、
そ の よ う な民族
の血、
地 域 住民 の心の表 象に ほか ならな い。
こ のよ う な意 味に お いて
、
地域 資源 の 再 発 見・
再 評価に基づ く地 域 振 興計
画の策 定
・
実践
は、
それぞれの国
の、
それぞれの 地 域の ア イ デンテ ィ ティを よ り 明確 化
し て い く た め に 不 可欠で あ る。
前
田の生
きた時代
と は比べ も の にならない速度
と 規模
で 国 際 化 が 進 行 して いく今
日である か ら こ そ、
地域 資 源
の再 発
見・
再 評 価に基づ くデ ザ イン活 動が欠か せ な い の で あ る。
そ の よ う な デ ザ イン活 動が欠 落
する と、
国の ア イ デ ン ティテ ィ、
地 域のアイデンテ ィ テ ィ は喪
失 し て し ま う。
「故 郷」 とは
何
であろ う。 ひ とりひ とりが 生 ま れ 成 長 してき た空 間・
時 間と し て の 「故
郷」 に は そ れ ぞ れ に大 切に し て輝 か せてき た 資 源 が あ り、
ひ と り ひ と りがそ れ にか か わる実 践 を もっ て い て こそ、
は じ め て、
か け が え の な い 「故 郷 」 にな りえ る。
その意 味
に おい て、
地 域資
源の発掘
と再 評価
に基 づ く地 域 づ く りは、
「故 郷
づく り」 で もある。
6 .
ロー
マ テリ
アル
に おける 資 源循 環
シ ス テ ム20
世紀
、
人類
は、
高
分子化 学の成 果 とし て、
石 油 化 学 製 品 を手
に入れ
た。 そ し て、
それ は 人 類の伝 統 的 な 生 産 と消 費の ス タ イ ル を激 変さ せた。
人 類 史のな かでも 未 曾 有の大 量 生 産・
大量 消 費
の出 現
である。
プラ スチック が 生 み 出 し た 新 た な 生 産・
消 費の スタイ ルは、
利 便 な 生 活 を もた ら し た だけでな く、
お よ そすべ て の国 々の社 会・
経 済・
文 化 に多
大 な 影 響 を 及ぼ
し た。 しかしな が ら、
利 便
な 生 活の構 築に寄 与してき た石 油 化 学 製 品 は、
ひ とつ の大 き な 欠 点 を 有 して い る。
「土に還ら ない 」 こ と である。
廃 棄 さ れた石 油 化 学 製 品は、
半水 久 的 に、
土に 還 っ て は くれ ない。
焼 却 す ると、
ダ
イ オ キシンや環境
ホル モン な どの 有 害 物 質 を 発 生 さ せ る。
残っ た 灰 も完
全に土に戻る こ と はな い。
た と え 土 に還っ て くれ るプ ラスチッ ク が開 発さ れ た と し て も、
その土 か ら再 び プ ラスチックが生
ま れて く る こ と はない。 つ ま り、
近 代 化 学の成 果 と しての プ ラ ス チッ ク は、
い まだ、
「資 源 循 環 シス テム 」 を構 築
し え て いない。八 イテ ク (高 度 技 術 )の
象
徴と し て の入工素 材・
プラ ス チック に 対 し、
木・
草・
蔓・
樹 皮 などの ロー
マテ リ ア ル (Low
MateriaD
と 呼 ば れる自 然 素 材 は、
お よ そ すべ て 「資
源 循 環シ ス テム」 を も ち あ わ せて いる。
自 然のな か か ら 必 要 量 を 採 取 し、
それ を 素 材 と してさ ま ざ ま な 道 具 を 製 作・
使 用し、
道 具に 寿 命 が 到 来 す る と焼 却 し た り腐 熟 さ せ た り して、
土 に 還 す。
そ し て、
そ の土 か ら、
再 び、
新 た な 自然 素 材が成 長して い く。
自 然 素 材の 「資 源 循 環 システ ム 」 に は、
不 要 な ものを 捨て去 るとい う 意 味で の廃 棄という概 念はない。
寿 命の到 来し た 道具 類 を 焼 却 ない し腐 熟 させ るこ とが、
す な わち、
土を肥 やし、
新
た な 生 命 体 を 育 む糧になっ て い た か らで あ る。
こう して、
ロー
マ テ リアル・
自然 素 材の 「資 源 循 環シス テム 1 は、
自然
の世
界 と 人 間の生 活 と を 不 断 に 結 びつ けてき た。
また、
焼 却・
腐熟
さ せても 環 境 汚 染 を も た ら すこ とも なかっ た。
ロー
マテ リ ア ル と 呼 ば れ る 自然 素 材 は、
現 代 社 会 が 抱 え る環境
問 題に しっ か りと 対 応 し えるもの づく りを 展 開 す る に あたっ て、
いま再び、
認 識 を 新 た に し、
評 価 され るべきであ ろ う。
6 .
1.
ロー
マテ リ ア ル と しての 藁今日 の 工業 社 会 が 到 来 する直 前 まで
、
さ まざ
ま なロー
マテ リ ア ルが 生 活の全 面に おい て活 用されて き た。
特に、
山 岳が国土 面 積のお よそ70
% を 占 め る 日本 におい ては、
木 材
がそ の代 表
格であっ た。
こ の木 と並 んで、
藁 (わ ら)
も 有効
に 活 用されて き た。
しか し、
今 日の 工 業 社 会の急 速 な進 展の な かで、
藁は ほ と ん ど活 用 さ れ な くなっ てい る。
かつ ては、
この国 に おい て は、
稲 を 育てること が、
米を得る と と も に、
藁 を 得 るこ と を 意 味 していた。
「米 をつくらば
土 肥 やせ」 「土 を肥 やさ ば藁つく れ」 と言い伝
え ら れ て き た ほどに、
藁 は、
最終 的
に は 「養 (
やしない)
」 「肥(
こ え)
」 とし て、
田 畑を肥 沃にする素であっ た。 同 時に、
米 を 収 穫した 後の藁は、
日本
人の衣食住
・
生産
・
運搬
・
遊戯
な どの生活
のほ ぼ 全 般 に わ たっ て、
活 用されて き た。 そ の活
用の幅
の広
さ と豊 か な 知 恵 が 凝 縮された活 用 技 術は、
こ の 地球に お け る広 範な稲 作 文 化 圏の なかで も、
日本
が他
を凌 駕
し て い る(
宮 崎
1995
)
。
し か し な が ら、
い ま や、
日本に お い て は、
藁 が 生 活 素 材 とし て の使 命
を終
え、
米
の収 穫
と同
時 に 小 さ く切 り刻 ま れ、
野 焼 き さ れ て し まっ ている。
しか も、
そ の野 焼 き は、
大 地 を肥 や すの ではな く、
大 地のな か に 棲 息 し大 地 を 肥 や しつづけて き た 微生
物・
小 動 物の命 を 絶っ て し まっ て い るの で あ る。
藁 は
、
今 日、
生 活 素 材 と して の使
命 を終
え て し まっ て い い の だろう か。
日 本 全 国で1
年 間に収 穫される藁を 用 い て太さ1
cm ほどの藁 縄 を 綯っ た と する と、
なん と、
地 球
と月と の間 を40
往 復 以 上でき る 長 さに達 する。
ま さ に 天文 学的 な 量 の藁
が、
この 日本で、
毎 年 生 産されて い るの であ る(
宮崎
1985
)
。
土 中の微 生 物
・
小 動 物 を 殺 戮 す るの で な く、
これ から の日本
が 向 か うべ き 方 向は、
藁を 生活 素材
と し て活用 し、
藁 製 道具 に総
鋳
二
:
∵∴
∵
∵
寿 命 が 到 来したと き に は
、
かつ て の よ う に大 地に戻し、
微 生 物・
小 動 物の活 性化
を 手 助 け する肥え とすることなの では ない か。
いま、
木
と と もに日本
を代 表
す るロー
マテ リア ル の 藁 の 活 用 と、
そ れ による本来
的な 「資
源 循 環シ ス テ ム」 の再 構 築が求 め られている。こ のような 視 点に基 づく実 践
事
例を紹
介し よ う。
6.
2.
ワラ ボー
収 穫 後
1
ケ月間天 日乾 操さ せ た藁
を束
ねて、
円 柱 伏の棒を つ く る。
全 長50cm 、
直 径
6cm
である。端
か ら }Ocm
間 隔で、
藁 束 を しっ か り結 わえ る。
そ の よ う に し て制作
し た藁 棒 「ワ ラ ボー
」 に 上 か ら 力 を 加 えて、
圧縮 強度
を測 定
してみ る。
1
本
の 「ワ ラボー
」 が、
なん と、
約
120kg
の荷 重
に 耐 え られ ること が 判明 した。
この 「ワ ラボ
ー
」3
本
を脚
と し た椅
子 をつ く る。
理 論 的 に は、
360kg
の荷 重 がか か っ て も十
分に耐え られる椅 子であ る。
ま た、
「ワ ラボー
」 をユ ニ ット とし て構 造体
を組
み立
てる。
そ して、
幼 稚 園 児 た ちに 自 由に使
っ て も らっ た。
園 児た ち は、
「内 に 入る 」 「座る」「ぶ ら下 がる」 「登
る」 「飛 び降
り る」 「家 に 見 立て る」 な ど、
実に さ まざま な遊び をつ く り だす。
「ワラ ボー
」 を並べ たマ ット、
馬形
の乗
り物
、
思い思いに組
み 立てる ユ ニ ッ ト遊具
な ど も、
使
っ て も ら う。 園 児 た ち か ら は、
「安 心 (ぶつ けても 痛くない、
けがを し な い な ど)
」 「心 地 よい (柔ら か くて温 かい、
香 りが するな ど)
」「手軽 (
軽
い の で運べ る、
手
頃 な寸 法
な ど)
」、
そ して、
「楽 しい (さ ま ざまな 遊 び がで き る、
共 同で遊べる な ど)」 の感 想 が 聞 か れ た。
「ワラ ボ
ー
」 の活 用 は、
さ ま ざ まに展 開可能である。
野外
モ ニ ュ メン トに も な る。
巨 大 な ジャング ル ジ ム もつ くれる 。住宅
の構 造 体と して 活 用 すること も不可 能で はない。
もちろ ん
、
「ワ ラボ
ー
」 の寿 命 は、
木 材 や 金 属、
プラ ス チッ ク な ど に比べ、
相 対 的に短い。
自 然の う ち に風 化 してい く。
し かし、
「もの 」 は単
に寿命
が 長 け れば
よいの では ない。
いま や、
寿 命 が 訪れ た と き に ど の よ う に環 境を傷めずに処 理 す ることが できるか を、
デザインのコ ンセプト と してしっ か りと据 えるこ と が 肝要
である。 そ のよう な視 点
か ら 「ワラボ
ー
」 の活 用 を 眺 める と、
ロー
マ テ リ ア ル の藁
が実に今 日 的かつ未 来 的 な 価 値 を 内包 している こと は 明らかであ
る。 し かも、
こ の日本 に おいて は、
毎 年、
天文 学 的 な量 の藁
が 生 産さ れて い る。
6.
3 .
籾 殻 燻 炭 に よ る 水質浄 化
かつては 調 理 用
・
風 呂用・
洗 濯用 などさ まざま に活 用 するこ とができ た 水 路の多 く が、
今 日では、
汚染
さ れて し ま っ て い る。
家の前 に 水 路 が あっ ても、
生 活 とは無 縁になっ て し まっ て いる 場 合 が 少 な くない。
稲 作
地 域の多
くの水路
も、
その例 外
で は ない。
汚染
の元 凶 は家庭
から流
れ出
る生
活雑 排
水であ る。
米 を 育て る農 村 地 域にあっ て は、
そ の 汚染
さ れ た水が田に流 れ 込18
デ ザ イン学研 究 特集 号 Speclal I$sueofJapaneseSocietyfortheScienceofDesign Vol.
19.
1 No.
732011 み、
作 物 に 影響
を 及 ぼ しか ね ない。汚 染 され た 水 路の水 質 を 改 善 するため に
、
稲作
地帯
で毎年
大 量 に 産 出 さ れ る 籾 殻 を 活 用 する手 立てを試行
した。 ロー
マ テ リ アルの 籾 殻 も かつ て は さ ま ざ まに活用 さ れて い たが、
今日 で は、
活 用 さ れ ない ま ま に ほ と ん ど が 焼却
さ れて 灰 と化
し て し まっ て い る。
脱 穀 後 に玄 米 を 採 取 す る 際 に入 手できる
籾
殻に火
をつけ、
適 度に炭 化 する。
「籾 殻 燻 炭 」 づく りである。自然 素材
は お よ そ多
孔 質 樽 造 を な して いるが、
炭 化によっ て、
よ り一
層多
孔質
化が進 展 す る。
籾 殻 も 同様
である(
近藤
・
青木
・
宮 崎
1998
)
。 この 「籾 殻 燻 炭 」 を 袋 詰 めし、
水路
に浮 かべ て お く。一
定 期
間 後 に 汚 濁 し た 水 質の透 視 度 が増
し、
浄化
さ れ、
次
のような変化
が 生 じる。
上 流 地 点で は魚 類 が 棲 息で き な い ほどに 汚染
さ れ た 水 質 が、
袋 詰 め した 「籾
殻 燻炭
」を 通 過した 下流地 点
では、
水
素 イ オン指 数の上 昇 がみ られ、
魚 類の繁 殖 が可能
な ほどに な る。
ま た、
上 流 地 点では 水 生植 物
の根腐
れ が 生 じるほ どに汚染
さ れ た 水 質 が、
「籾
殻 燻炭
」の下 流で は、
溶 存 酵素
が増加
し て 根 腐 れ を 生 じ ないほどに浄 化さ れ る。
水路
に浮
かべた籾
殻 燻 炭 に は 多 数の微 生 物 が付 着
し、
水質 浄 化
の相乗 作
用 を 果た し て い る。
水に浮 かべ た 「籾 殻 燻 炭 」 の袋に菖
蒲などの 水生植
物の根 を植 えつける こと に よっ て、
水路
に花
を咲
かせ る こ と も可能
で ある。
菖 蒲 や 水 草 が、
ま た、
水 質 浄 化の役 割を担う (近藤・
宮 崎、
1997
)
。
こ の 「籾 殻 燻 炭 」 は、
特 に、
家 庭 か らの雑 排 水のな かに含 ま れ る油成
分の浄 化 に 有 効であ る。
倍 率 を500
倍 ぐ らいに して電 子 顕 微 鏡で覗 くと、
「籾 殻 燻 炭 」 の小 さ な 孔のな かに汚
泥の元 凶であ る無数
の微 粒 子 が 閉 じ込 め られている こと が わ かる。
秋の収 穫 時に は、
新しい 「籾 殻 燻 炭 」 と交 替 する。
そ して、
微 粒
子 を無数
に閉じ込めた 「籾
殻 燻 炭 」 は 堆 肥 と して 田畑に戻 す。水 路
に浮
かべ た 「籾
殻 燻 炭」 は、
水 質 浄 化 機 能 だ けでな く、
有機 質 堆
肥と して大 地に戻され る。
こ の 試 行 も、
「資 源 循環
シ ス テ ム」 の再構 築
を目標
と し た、
ロー
マテ リ ア ルの活 用 法 である (近 藤・
宮 崎
1998
)
。
7 、ID
=Design
in
lndustrial
Age
上 記の 「ワ ラボ
ー
」 の椅
子・
遊
具 ならびに 「籾 殻燻
炭」 に よ る水 質 浄 化 は、
地 域 社 会に お い て毎 年
大 量 に産 出されな が らも 今 日では ほ とん ど活 か さ れて いない ロー
マテ リアルの有効
活 用 を め ざ した もの である。環 境 問 題の解 決に は
、
そ れ ぞ れ の地 域に存在
す るロー
マテ リ ア ル と して の 自 然 素材
を有
効利
用 可能
な資
源と し て活 用 す る視 点 を 堅 持 しつ つ、
思索と実 践を重ね る こ と が必 要で あ る。
「自 然 との共 生」 という人類
の今
日的 課題
に応
え る た めに も、
原 材 料の 大 半 を 海 外 から輸入 し、
かつ て は さ まざま に活 用さ れて いNII-Electronic Library Service
た ロー
マ テ リ ア ルを大
量廃 棄
し て し まってい る我 が 国 におい ては
、
ロー
マ テ リ ア ル の有す る効 能 を 再 発 見・
再 評 価 して生 活 素材
と し て活
か し て い くため の デザ インが、
不 断 に展 開 さ れていく 必要が あ ろ う
。
ID
(
industrial
design
)
は、
我 が 国 に おいては、
「工業 デ ザ イン」 と呼 ばれ て きたこ と に象 徴 さ れるよ う に
、
工 業 的 手 段 を前提
と して成
立 するものと 考 え ら れて き た。
この よ う な 認 識 に 対し て、
今 後
は、
「工業化 時 代
に お ける デザ イン (design
in
industrial
age)
」 の あ り方の 思考と そ の実 践そ のものがiD
であ ると の認識
が必
要であろ う。 デザ インは、
自 然の収 奪 な くして は成り 立 た な い 工業
に の み奉 仕 する実 践では ないか らであ る。
「工
業 化 時代
にお ける デザ イン」 と して のID
に あっ ては、
お のずと、
旧来
のID
におい て見 過E’
さ れてぎ た 「自 然との共 生 」 の 理念
が、
そ の基 底 に 据 え ら れ る。
自 然 を 守 り育て る デ ザ イ ン、
自
然の産 物 を 最 大 限に活 用 する デザ イン、
自 然との不 断の循環
を保 障
する デザ インが め ざ さ れ る。
ま た、
新 しいID
に あっ て は、
それ
ぞれの地 域に存
在 する自 然 資 源の有 効 活 用に関 する 探 究が な さ れ る。
そ のようなID
の世 界のな かで、
ロー
マテ リ ア ル は、
しっ か り と位 置
づけ ら れるに 椙 違 ない。
8
.
内 発 的 地 域 振 興
の視
座 地 域 振興計 画の策 定 と 実 践へ の デザ イン の 参 画は、
単に、
ハー
ドとし て の 「もの 」 の計 画・
設 計 に と ど ま らない。
地 域の 歴史・
環
境・
社 会・
産 業 な ど を 総 合 的 にと ら え たうえで、
人ぴ と のあるべ き 生活
文化
を 具 体 的 に 提 起 す る 社 会 的 実 践 も、
ま た、
デザイ ン であるか らであ る。
私た ち は、
デ ザ インと い う行 為が、
広い裾野 の うえに成 立 し、
広範
な社
会的 諸
要素
の秩 序
あ る組
み立てに 寄 与 す る 実 践であること を、
改
め て認識
す る必要 が ある。
近 年の国 際 化
・
情 報 化 など の進 展は、
私たちの生活
を 大 き く 変 容 さ せつ つあ る。
地 域のあ り方も、
そ の例 外
で はない。
国際 化・
情 報 化の進 行のな かで、
いま、
そ れぞれの地域
には、
当該
地 域 固 有の特 質を発 揮し な が ら、
自 立・
自 存し て い く こ とが 求 め ら れている。
ま た、
その た め に は、
これ まで しば し ば行
わ れ てき た工 場 誘 致 や 大型観 光施設誘
致などの外 部 依 存 型・
重 厚 長 大 型の地 域 振 興 策では な く、
地 域のさ ま ざ ま な 資 源 を 最 大 限 に 利 活 用 する、
内
発 的な地 域 開発 の必 要 性 が 高 まっ ている。
個々 の地 域が有
する多様
な潜在
的資
源の発 掘 と その多 面 的 活 用 に 依 拠 す る 内 発 的 地域振
興は、
高 齢化
・
過疎 化
な どの地 域が抱え る 諸 問 題へ の対応
策と し て の みならず、
自 立・
自存の観 点 から し ても、
ま すます重
要 な概 念
となってい る。
そ れ ぞ れの地 域に最 も適 合し た振 興 計 画の策 定と遂 行は、
お よそ、
すべて の地 域 住 民 が自
らの意 志
を明確
に し、
地 域社
会の自 覚 的・
主 体 的 な 担い 手になるこ と に よっ て は じ め てなし え る の である。
この よ う な
内
発 的 地 域 振興 を 志 向 する に際し、
「地 域 産 業 ク ラスター
」 の概 念
は不 可 避である。9 .
産 業
ク ラスタ
ー
と地 域 開 発
内
発的地 域 振
興計 画
の策 定
と実践
にとっ て、
地 場の産 業 を 活 性 化 すること は極
め て重 要である。
それは、
地 域の経 済 的 基 盤 を確
立 する た め の みならず、
地 域 に 生活
する人 び との生 き 生 き と し た活動 を保
証し、
地 域にお ける生 活 文 化 を 健 全 な か た ちで 確 立 す る ため に も有 意 義
なことである。産業 展 開の 形態に は
、
「既存の地 場 産 業の転 換 」 と 「新 規の地 場 産 業
の創 出
」 の2
つ が ある(
清 成1987
)。
そのいず れ に おい ても、
製
品 開発と い う視 点
からだ けでな く、
地 域 固 有のさ まざま な資 源を有
効に活用 しつつ、
地 域にお ける諸 産 業 が 相 互 に効
果的
な結
びつ き を 形 成できるよ う に計 画 す ること が求め ら れる。
い
ず
れの地域
の産業 構
造 も クラ スター
(cluster)・
房 (ふ さ ) と し て と ら え る こ とができる。
クラ スター
と は、
互いに 密 接 に 関連
づ けられ
た構
造の単位
である。
葡 萄の1
粒1
粒 が 互いに 結 びつい て か た ま り と し て の房 を 形 成し ているよ う に、
多 くの場合
、
個
々の産業
は他
の産業
と 互いに 結 びつ き な が ら は じ めて存 立し え て い る。地域に お け る産
業
の展 開に際し ては、
個々 の産 業が有 機 的に密接
な関係
を なし、
それ が 基 礎となっ て地 域の産 業 全 体が ひ と つの秩 序
あ る ま と まり とし て構 造 化 さ れるよ う に、
計 画・
設計
さ れ ね ばな
らない。 しか し な が ら、
これ まで の地 域 振 興 に おい て は、
こ のような 概 念 が 有 効に活 用 さ れてきた と は必ず
し もい えない。
これ か らの地 域 振 興 計 画の策 定・
実 践 に は、
当 該 地
域に暮らす 人 び との生 活・
労 働 を 全 体 的かつ総 合 的に見 渡し、
個 々の生 活・
労 働 が 直 接 的 あ るい は間接 的
に関連
づけ られて地 域 全 体の生 産 活 動が活 性 化さ れ る よ う な、
ク ラ スター
と し て の 産 業 構 造の構築
が めざ
され な け れ ば ならない。9.
1,
歴 史 的 生 産 活 動にみられる産 業
クラ スター
伝 統 的 産 業の
多
く は、
た と え そ の ひ とつひとつが 小 規 模 と は いえ、
数 多 くの多様
な業 種
が極
め て密接
に績
びつくこと に よっ て全 体 的 な クラスター
を な し、
そ の 歴史 的展 開が 遂 げられてき た。
漆 製 品 産 業を
事
例に考
え て みよう。
さ ま ざ ま な 漆 製 品の生産
は、
漆
の木
の栽培
・
管
理、
塗料
と して の漆の採 取、
漆 製 品の木 地 を な す木材
の栽 培・
伐 採・
製 材・
乾 燥、
木 地の加工、
漆の下塗
り・
中
塗 り・
上 塗 り・
加 飾、
そ して、
完 成 品の流 通 な ど、
多
岐
に わ た る多く の業 種 が 互いに 連 関して存 在 するこ と に よ り、
は じ めて可能
で ある。
ま た、
そこに は、
山 師、
漆 掻
き、
木
地師
、
塗師
、
加飾 師
、
商
いな ど、
そ れ ぞ れに専 門 的な技 能・
技 術 を保 持し た 人 び とが互 い に結 びつ き な が ら存 在 して い る。 これ蘓 鱗
1
二∴:
∴
隠
らの 業 種と それ を 支 える技 能
・
技 術のどれ か ひ とつ で も欠け た ら、
漆 製 品 産 業 は 存 立 する こと ができ ない。
こ のよう な業種
間 およ び 技 能・
技 術 間の全体
的結
びつ きの う え に、
伝統
的 な 漆 製 品 産 業 は 成 立 していた。
「分 業に基 づく協
業」 と い う形 態のク ラス ター
を、
伝 統 的 な 漆製 品
産業
はなし て い た の であ る。
ま た、
このよ う な 個 々の業 種と技 能・
技 術が 全体 的な ク ラスター
と して構 造 化 さ れて い ては じ めて、
当 該
地域
の人
びと の生
活・
労 働 が 生 き 生 き と していたの である(
伝 産協 会
1980
)
。
漆 製 品 産 業 ば か りでは ない
。
それぞれの地域
で育
まれてきた 地 場 産 業は、
およ そ、
人 び との生 活・
労 働 を 通じ て の社
会的共生
そのもので あ り、
個 々の生 産 活 動 が 相 互 に関
連し て全体 的
な ク ラスター
を形 成 して い る。
地 場 産業
が 地域
に根
ざし た産 業
と いわ れ る ゆえ んは、
そ れ を 支 える幅 広い裾野が互 い に連 関しつ つ、
全 体と して ひ とつ の クラス ター
を なし て い るから に ほ かな らない。
原 材 料の生 産、
数 々の製 造工程と そ れ こ と に 必要と さ れ る 道 具・
用 具の供 給、
そ して、
流 通 な ど、
地場
産業
に お い て は、
多くの人 びとの業 が 相 互 に支 援しあっ て い る。
そ れ は、
ま た、
地域
の風 土 に 適 合 し、
地 域 に お ける雇 用の維持
・
創 出
に寄
与す る と と も に、
広 く社 会 的 需 要 に 応 えつつ、
当 該 地 域の特 色 づく りや地域 経済
の活 性 化・
発 展 に 貢 献 してき た(
森
1960
)
。
し か し な が ら
、
近 年の 生 活 文 化の変容
に と も ない、
伝 統 的
な 地 場 産業
のな か に も その 存 続が危ぶ ま れる も のが現 わ れつ つあ る。
地 場 産業
が当
該地域の風土・
歴 史・
社 会・
生 活 文化
と深
く 切 り結
ん だ 人 びと の営為
であることを 考 え れ ば、一
端 滅 びて し まうとそ の復
興 が 困難
な ゆえ に、
な ん と しても その健 全 な 維 持・
発展 の た め の計
画・
設 計が な され ねばならない (通 商 産 業 省2000
)
。
そ の よ う な と き、
地 場 産 業
を ク ラスター
構 造 と し て把 握 し、
そ のクラ スター
内の 弱体
化し た部 分 や 欠 損 部 分 を保 全・
修 復 し、
全 体 と して のクラ スター
を活性 化
して い く た めの 手 立てが 講 じられる必要が ある。
9
.
2
.
ク ラスター
の把 握・
分 析 に基 づ く地域
産業
の創 出地 域
産
業 を ク ラス ター
と して把 握・
分析
する こ と は、
次
の よ う な新た な産 業 創 出 に もつな がる。
例
えば、
葡 萄産
地が ワイン生 産 をめざ すこ と を想 定して考え て み よ う。
こ の場 合、
まず
、
ワイン生 産 を 志 向 するため に は、
主 原料
の葡萄
の生産
を活性
化 しな け れ ば ならない。
ワ イ ン生 産 を 目標
に掲
げる こ と が、
派 生 して、
葡 萄 生 産の活性 化
とい う新
た な 需 要を生 起さ せ る。
そ れ ば か りでは ない。
ワ イ ン産業
が自
立・
自存
する た めに 必 要 な、
釀 造 工 場の設 立・
運営
、
瓶
やラベ ル の意 匠 決定、
瓶・
ラ ベ ル・
包 装 な どの製 造、
そ し て、
製 品 流 通機 関
の創 設
な ど、
さまざ
ま な 領 域 に お ける業 が 派 生 する。
さ ら に は、
ワ イ ン と 地域 農 産 物とを 結 びつけ た新
製品
の開 発
・
販 売、
レ ス トランな どの観
光・
サー
ビス業の展 開 な ど、
全体
の関20
デ ザ イ ン学 研 究 特 集 号Special lssueofJapaneseSocietytorthe Science of Deslgn
Vol