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公務員の人事管理に関する一考察 : モチベーションを中心に(吉田修教授退官記念論文集)

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公務員の人事管理に関する一考察

一 モチベ ー シ ョンを中心 に一 I 序 わが国の公務員 は,国 家公務員が83万人,地 方公務員が327万人 と一大職業 1 ) 集団 を形成 している。そ して彼 らの仕事 は,国 家や国民生活 に直接 ・間接影響 を及ぼす。その公務員 を取 り巻 く環境 は,こ この ところ厳 しさを増す一方であ る。 とりわけ民間企業の経営危機や リス トラを背景 に,公 務員の働 きぶ りや処 遇 に対す る風当た りが強 くなっている。行政改革 をめ く`る議論のなかで も,公 務員のマネジメン トに論及 されることが多い。 しか し,公 務員 に対する批判のなかには抽象的 ・感情的な内容の もの も多 く, 必ず しも建設的な議論が行 われているとはいいがたい。 また改革 をめ ぐる議論 は理念が先行 しがちであ り,公 務員個人に焦点 を当てた分析や検討は少ない。 実際 に改革の主体 となる人事院や総務庁の報告書棒 も,能 力主義の導入,専 門 化,外 部か らの人材登用 など制度面での改革は提言 されているが,制 度の対象 となる公務員個人についての踏み込んだ分析 はみ られない。 制度改革のためには,日 標 を明確 にするとともに,一 方で個人の視点,個 人 の論理 を踏 まえてお く必要がある。い くら高遇な理想 を掲げ立派な制度 をつ くっ て も,そ れが公務員 自身の実像 とかけ離れていれば効果は期待で きず,結 局は 画餅 に終わる。 人事制度改革のひとつの目的は,業 務の効率性 を高め,仕 事の成果 を向上 さ せ ることにあるといって もよい。そ してそれは,公 務員 自身がいかに動機づけ 1)国 家公務員は1997年度末,地 方公務員は1996年4月 1日現在。いずれも特別職を除 く。 人事院編 「平成10年版公務員白書』。 2)人 事院編 『公務員人事管理の改革』1998年,総 務庁人事局編 『公務員改革への提言』19 97年。 肇 田 太

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76 吉 田修教授退官記念論文集 (第317号) られ能力 を発揮で きるかによるところが大 きい。 本稿 では,公 務員のモチベーシ ョンを理論的に考察 し,新 しい公務員像 に基 づいた人事管理 について述べ てみたい。 なお,ひ とくちに公務員 といって も職種 は多様であるが,本 稿では一般的な 議論の際 にイメージされている公務員像 に近い職種 を主たる対象 とす る。具体 的には,国 家 ・地方 ともに一般職で, しかもとくに断 りのないかぎり行政職を 念頭 に置いて論 じることにす る。 工 公 務員 とモチベーシ ョン 1.外 的報酬 による動機づけ 公務員 も労働者であることにかわ りはないが,組 織の目的ならびに置かれて いる立場の特殊性か ら,民 間企業で働 く労働者 とは異なる側面 も合わせ もつ。 ここでは,組 織の一員 としての普遍性 と公務員 としての特殊性の両方 を念頭 に 置 きなが ら,モ チベーシ ョンの構造 について理論的に説明 してお きたぃ。 人間の動機づけ (モチベーシ ョン)は ,外 発的な動機づけと内発的な動機づ けに分 けることがで きる。前者 は金銭,地 位,名 声 など外部か ら与えられるも の,す なわち外 的報酬 による動機づけであ り,後 者 は仕事の面 白さや達成感 な ど仕事 自体 に内在する報酬,す なわち内的報酬 による動機づけである。 外発 的 な動 機づ けの メカニズ ム を説 明す る理論 の ひ とつ と して,V.H. Vroomや ,Porter&Lawler(1968)な どに代表 される期待理論がある5期 待理 論 による と,モ チベーシ ョンの大 きさは,「期待」す なわち努力が報酬 につな が る主観的な可能性 と,「報酬の魅力」 を掛 け合わせ た ものによって決 まる。 なお期待 は,努 力が仕事の業績 につながる期待 と,業 績が報酬 につながる期待 に分けて考 えることもで きる。 この うち報酬の魅力 は,そ れが欲求 をどの程度満たす ことがで きるかを意味 す る。欲求には さまざまな種類があるが,と くに喚起 されている欲求 を充足す るうえで効率的な報酬 ほど魅力が大 きくなる。 一般 に行政組織のような階層制においては,上 位のポス トに昇進するほどさ

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守 ・―… … 中 宇 揮 呼 TT守 =巧 ―∼ 中S――‐‐ ‐‐や ― ‐f r 公務員の人事管理に関する一考察 77 まざまな欲求が高い水準で充足 される構造 になっている。そのため,昇 進はと くに魅力的な報酬 となる傾向がある。 他方の要素である期待 は,業 績が個人の能力 ・努力 に依存するような仕事で あるほ ど,ま た業績主義が徹底 されているほど大 きくなると考 えられる。 もうひ とつの理論 として,Adams(1963)に 代表 される公平理論がある。公 平理論 によると,報 酬の価値はそれが他人 と比べて公平か否かによって決 まる。 なお公平性 は,仕 事 に対するインプッ トとアウ トプッ トの比率で判断 され,比 率が等 しくない場合 には等 しくなるように行動す ると考 えられる。 た とえば能力や仕事内容が 自分 と同 じような他人 と比べた とき,同 じ時間働 いているにもかかわらず 自分の賃金の方が低 ければ,バ ランスをとるために仕 事の質 を落 とそ うとす る。逆 に自分の賃金の方が高い と判断す る と,そ れにふ さわ しい ように仕事の質 を上げようとする。賃金 に見合 った働 き方 をしようと す るためである。 2.内 発 的動機づ け 一方,内 発的な動機づけは,仕 事内容がチヤレンジングで変化があ り,ま た 自律 的であるほど大 きくなる。 そ して,Deci(1975)は ,内 発 的 に動機づ け られている場合 に外 的報酬が与 えられる と,モ チベーシ ョンがかえって低下する場合があることを実験 によつ て明 らかに している。行為の意味が,仕 事その ものか ら金銭の獲得 などに移 っ て しまうためである。人間を動機づけるうえで,金 銭 などの外的報酬が万能で はないことを示唆するもの といえる。 内発的な動機づ け と関連が深い ものに自我 による動機づけがある。期待 メカ ニズムによる動機づけは,個 人にとつて価値のあるものを獲得する手段 として 有効 な場合 に生 じるのに対 し,自 我 による動機づけは自分の 自我 を高めようと す る,あ るいは自我 と行動 を調和 させ ようとするところか ら生 じる。 自分 を価 値 のある存在 として認めるためには,そ れにふ さわ しい態度や振 る舞いが必要 になるのである。 したがつて,何 かを獲得する手段 としてよりも,行 動その も

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78 苦 田修教授退官記念論文集 (第317号) の に意味 が あ るのであ る。 公務員 には と くに利他 的精神 ,倫 理観 や 自覚が要求 され るが,こ の こ とは世 間が公 務員 に対 し自我 に よる動機づ け とそ こか ら生 まれ る高 い冷時 を期待 して い る もの と解釈 す る こ とがで きる。 ただ し自我 は,外 的報酬 と無 関係 で はない。 フランス語 の 「ノーブ レス ・オ ブ リー ジュ」 (身分 が高 ければ義務 も重 い),あ るいはキ ャリア官僚 の猛 烈 な働 きぶ りに象徴 され る ように,自 我 に よる動機 づ けは と くに社会 的 な地位 や一種 のエ リー ト意識 と切 り離す こ とがで きない。 と くに 日本 人 については,も とも と自我 が未熟 なゆえに組織 の なかで認 め られ るこ とが重要である とい う指摘 も め ある。 なお内発 的動機づ けは,A.H.Maslowの 自己実現や尊敬 ・自尊の欲求 (高 次の欲求),あ るいはF.Herzbergの 「動機づけ要因」 と関係が深い。 したがっ て,内 発 的に動機づけ られるためには,衣 食住 などの生活や人間関係 など,低 次の欲求あるいは 「衛生要因」が一定の水準で充足 されていることが必要 と考 えられる。 Ⅲ 動 機づけの限界 昨今,公 務員のモラール (士気)が 低下 しているとい う指摘がある。モラー ルの低下 を直接裏付けるような資料 は少ないが,た とえば田尾 (1990)の よう に,自 治体職員のモチベーシ ョンが低い水準 にあることを実証 した研究 もある。 か りに公務員のモチベーシ ョンが低下 している,あ るいは低い水準 にあるとす るとその原因は どこにあるのか。わが国の公務員が置かれている環境,な らび にマネジメン トのなかにその原因を探 ってみたい。 近年の公務員 を取 り巻 く環境のひとつに経済的な条件の厳 しさがあげ られる。 かつて行財政改革の さなかに人事院 (人事委員会)勧 告の実施が見送 られたこ とがあった。今 日で も財政が逼迫するたびに,勧 告の凍結や完全実施の是否が 議論 される。 また職場 レベルでは,経 費節約のための取 り組みが行われている。 3)下 崎 (1991)

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公務員の人事管理に関する一考察 79 -例 をあげれば,電 気代節約のため真夏でも冷房を切る事務所がある。問題は, それが本当に効率的か どうかである。 ここではとくにモチベーシ ョンの面から 考 えてみる。 まず,公 務員の給与の性質について建前論 を述べてお きたい。公務員の給与 は,本 来国や 自治体の財政状況 とは切 り離 して決定 されるべ きものである。な ぜ ならば,公 務員 自身が歳入 を増や した り歳出を削減 して財政黒字 を増やすこ とはで きないか らである。財政黒字がい くら大 きくて も人事院勧告 を上回る賃 上げを行 うことはで きないの と同様,赤 字の場合 にも勧告 どお り支給 されるの が筋である。 それにもかかわ らず勧告の実施が見送 られた り完全実施 されなかったならば, 公務員の間に一種の不公平感が広がる。冷房節約のケースについて も,真 夏に 冷房 をつけて仕事 をするのが常識であれば社会的に不公平な扱いを受けている と映る。 公平理論 によると,彼 らはインプ ッ トとアウ トプッ トのバ ランスをとるため にイ ンプ ッ トを控 える行動 をとると予想 される。た とえば,意 識的に仕事 を遅 らせた り,日 に見 えない ところで 「手抜 き」 をすることが考えられる。公務員 の仕事,と りわけ現行のシステムでは成果 を把握することが難 しいために,そ の ようないわゆるモラル ・ハザー ドが生 じやすいのである。 ただ し今 日の不況下では,民 間企業に比べて身分が安定 しているという事実 がアウ トプ ッ ト (誘因)の 評価 を高め,モ チベーシ ョンを向上 させる方向に作 用 していることは否定で きない。 環境変化の もうひとつの特徴 として,国 民 (市民)の 目が厳 しくなったこと があげ られる。なかには,市 民が庁舎のなかで一 日中公務員の仕事ぶ りを監視 しているケース もあるとい う。 また職場 においては,勤 務態度や 日常の振 る舞 いに対する監視が強化 される傾向にある。市民の 「誤解」 を招かないために, 「出張 は二人以上で行 くこと」 とか,「勤務 中無断で席 を立たない」 とい うよ うな達 しが流 されることもある。 行動 に対す るコン トロールは,「職務専念義務」,す なわち 「職員は,法 律又

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80 吉 田修教授退官記念論文集 (第317号) は命令 の定 め る場合 を除いては,そ の勤務 時 間お よび職務上 の注意力 のすべ て をその職責遂行 の ため に用 い,政 府が なすべ き責 を有 す る職務 にのみ従事 しな けれ ば な らない」 (国家公務 員法 第 101条)と い う規定 に法 的根 拠 を求 め る こ と が で きる。業績 を直接 測定す る こ とが困難 なため,結 果 よ りもプロセスで管理 しようとす るのであ る。 そこにあるのは,仕 事へのインプッ トを管理 しておけばアウ トプ ッ トは必然 的に大 きくなる とい う発想である。た とえていえば,水 を目的地 に流すために は途中で漏れない ように しておけばよい とい うの と同 じである。 この ような考 え方は,イ ンプッ トがアウ トプッ トに比例 し,ま たモニタリングも比較的容易 な単純労働 には当てはまる。 しか し知的労働 や創造的な仕事 においては,捕 捉可能なインプッ トと実際の 成果 との関連 は希薄である。 したがつて,監 視 によって仕事の質 を高めること は不可能に近い。そればか りか,モ チベーシ ョンの面ではかえって逆効果 にな る場合 もある。 本来,「全体へ の奉仕」 を目的 とす る公務員の仕事 においては働 きがい (仕 事の意味)を 見 出 しやす く,内 発的な動機づけは大 きい と考 えられる。 しか し, 態度や行動への統制が強 ま り自律性が低下す る と,働 くことの意味が仕事 の内 容 か ら態度や行動 とい う表面的な ものに転化す る。 さらに,個 人の 自我 を低下 させる可能性 もある。 自らの倫理観や行動基準で はな く,外 部か らのそれに支配 されているとい う感覚 を抱 くようになるためで ある。 一方,期 待型のモチベーションはどうか。期待型のモチベーションにおいて は,昇 進 (ポス ト)や 給与 ・賞与が大 きな意味 をもつ。そ してそれ らが業績 に リンク していることが重要である。 ところが行政改革 に伴 い役職のポス トは削減 される傾向にある。 また,い わ ゆる 「団塊の世代」 を中心 に,管 理職適齢期 を迎 えた職員が増加 している。そ の結果,管 理職に就 くことので きる確率は低下 し,就 任年齢 も以前 より高 くなっ た。すなわち,努 力 (あるいは業績)が 報酬 に結びつ く期待 は低下 しているの

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公務員の人事管理 に関す る一考察 8 1 である。 役職ポス トその ものの魅力 も低下 している可能性がある。た とえば,財 政の 厳 しい 自治体 な どでは幹部の報酬がカッ トされた り交際費が削減 されるケース がある。 また高級官僚の不祥事 などによって,管 理職ポス トその ものが必ず し も尊敬 の対象ではな くなっている。 とくに官尊民卑の思想や立身出世主義が幅 を利かせた戦前 と比べれば,社 会的地位が低下 していることはいうまで もない。 逆 に,幹 部の責任や仕事の負担 は重 くなる傾向にある。有馬 (1995)は自治体 職員の昇進 に伴 う負の誘因に着 日しているが,昇 進はそ もそ も報酬 として用い られるだけでな く機能的な要請 に基づ くものであることを考えれば,負 担の増 大 は当然 ともいえる。そ して正の誘因が減少するなかで負の誘因が増大すれば, 魅力が低下するのは明 らかである。 昇進 に比べ ると金銭的報酬 はより純粋 な動機づけの手段である。先 に掲げた 人事院や総務庁の報告書では,今 後の人事管理 において能力や実績 に応 じた処 遇 を行 うよう求めている。 また一部の自治体 などでは,す でに能力主義 に基づ いた報酬制度が取 り入れ られている。 しか し,公 務 とい う仕事の性格上,業 績 を金銭的に評価 しに くい うえ,今 日 の財政状況や社会通念 に照 らして も,高 額の報酬 を支給 した り職員間に極端な 格差 を設けることは難 しい。なお報酬 にはシンボリックな意味 も含 まれてはい るが,個 々人の賞与の額などが公開 されない限 り,能 力 ・業績の象徴 としての 意味 をもたす ことはで きない。そ して,か りに能力主義が評価者の裁量が入 り やすい中途半端 なものにとどまるならば,内 発的動機づけを低下 させ るマイナ ス面の方が大 きくなる可能性 もある。 結論的 にいえば,公 務員 を取 り巻 く環境の変化 によってモチベーシ ョンは低 下 している可能性が高い。 しか も成果の捕捉が困難 な以上,表 面的な勤勉 さと 裏腹 に,実 質的なモチベーシ ョンは限 りな く低下する危険性がある。現在の組 織やマネジメン トの枠組みのなかで公務員 を動機づけるには限界があるとい う ことである。

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吉田修教授退官記念論文集 (第317号 ) Ⅳ 組 織人モデルから仕事人モデルヘ 1 . 組 織人モデル としての行政組織 筆者 は,個 人の組織 と仕事 に対する関わ り方 を 「組織人モデル」 と 「仕事人 モデル」で説明 している (図を参照)。 組織人モデル 組 織 ︵仕 事 ︶ 最大 限 の コ ミッ トメ ン ト 主要 な 欲求の充足 図 組 織 人 モ デ ル と仕 事 人 モ デ ル 仕事人モデル 組織人モデルは,所 属組織 に対 してコミットし,組 織か ら獲得する誘因によっ て高次お よび低次の欲求 を充足するとい う関わ り方である。前述 したように, 伝統的な階層組織 においては,高 い地位 に昇進す ることによつて多様 な欲求が 充足 される構造 になっている。 しか も,よ り高い地位 によ り早 く昇進す るほど 欲求の充足度 も高い。そ して,よ り高 くよ り早 く昇進するためには,組 織 に対 して よ り大 きな貢献 をす ることが必要である。 ただ し実際には,貢 献度は第三者の 目をとお して評価 される。 しか も,一 般 にホワイ トカラーの場合 には業績の評価が難 しいため,多 様 な要素 を勘案 して 「総合的」 に評価 されるのが普通である。 とくに日本の企業や行政組織では, 態度や意欲 な どの情意面が重視 され,能 力 について も主観的 ・抽象的な評価が 行 われる傾 向があると そのため個人 に とってはいかに高 く評価 されるかが主た る関心事 とな り,高 く評価 されるためには態度や意欲 をとお して自らを評価者 にアピール し続 けることが必要になるのである。 4 ) た とえば加護野 ほか ( 1 9 8 3 ) は, 日 本 の企業ではアウ トプ ッ トではな く行動 に対す るコ ン トロールが厳 しく行 われていることを明 らかに している。 限定 された コ ミッ トメン ト [ 満足基準]

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公務員の人事管理に関する一考察 83 ところで,客 観的な貢献度ではなく 「最大限」の貢献をするという行動原理 は,組 織の視点からも合理性がある。 一般的な賃金制度のもとでは報酬の額は弾力性に乏しいため,能 力の高い者 が特別に大 きな貢献をしても,そ れに応 じた報酬か支払われるわけではない。 したがって,最 大限の貢献をした場合には組織に超過利得が発生することにな る。逆に報酬 と見合 うだけの貢献 しかしなければ,超 過利得は発生 しない。そ のため組織にとっては,個 々人から最大限の貢献を引き出すことが必要なので ある。情意考課を中心にした評価制度,そ れに前述 した職務専念義務は,最 大 限の貢献を引 き出すための装置であるということができる。 村松 (1994)は,日 本の行政システムの特徴 を 「最大動員システム」 と呼んで いる。 またかつて高級官僚の間では,「無際限無定量」に働 くべ しという精神 論が唱えられた。業績尺度が曖味な行政組織において,組 織人モデルのような 働 き方が とくに求められてきたことを象徴的に物語っている。 問題は,こ のように業績 と報酬 (金銭だけでなく昇進 も含まれる)と の結び つきが弱 く, しかもその間に評価 という曖味さを多分に含んだプロセスが介在 する以上,本 当の意味でのモチベーションは生 じにくいというところにある。 「休 まず遅れず働かず」 と那論 されるような働 きぶ りや,頻 繁でかつ長時間に わたる会議 ・残業などによって勤勉 さを装うファサー ド (外観を繕うこと)な どは,こ のようなシステムから派生する一種の病理現象 といえる。 また逆に,昇 進の機会が乏 しく 「最大限」の貢献を期待できない者を動機づ ける手段 ももたない。身分保障を盾にした 「開き直 り」が生 じた場合にも,曖 味な業績尺度 と責任体制のもとでは対処 しきれないのが現実である。 すなわち,前 節で述べたような動機づけの低下につながる要因だけではなく, 組織人モデルとそれを前提にしたマネジメン トには構造的な限界があるという ことを示 している。 2.仕 事人化 と公務員 一方,仕 事人モデルでは,個 人は所属組織よりも仕事に対 してコミットし,

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84 吉 田修教授退官記念論文集 (第317号)

仕事をとおして自分の日標を達成する。それによつて高次の欲求を充足する。

所属組織からは,仕 事に必要な条件を獲得 し,ま た身分の安定など低次の欲求

を充足するための手段 を得 る。それに必要な範囲で組織 に対 してコミッ トする のである。組織 に対する貢献の仕方 も組織人 とは異 な り,あ くまで も自分の仕 事の成果 をとお して組織 の利益 に貢献す るところに特徴がある。 典型的な仕事人は,キ ヤリア形成 において もまた仕事の範囲 も所属組織 の内 部 に限定 されない。すなわち,彼 らにとつて組織 はオープン ・システムである。 筆者が,全 国の主要大企業 に雇用 されるホワイ トカラーを対象にして行った 調査 による と,研 究職,情 報処理技術者 といった技術系の専門的職種,そ れに 事務系 で も営業 ・マーケテ イング,財 務 ・経理 とい う比較的専 門性の高い職種 〕 には,組織人モデルよ りも仕事人モデルに近い態度や行動パ ター ンがみ られた。 そ して総務庁の労働力調査 によると,管 理的職業 に従事する者の数が横這い ない し微増傾向で推移 しているのに対 し,専 門的 ・技術的職業従事者は,実 数 ・構成比の両方 において急激な増加傾向を示 している。また,各 種意識調査の 結果 には,管 理職 よりも専 門職 を志向する者が増加する傾向が表れている。 このように,わ が国で も個人の態度 ・行動様式 ならびに志向の両面において, 仕事人化の傾向が強 まっている。そ して,さ まざまな業種の企業で仕事人 を前 0 提 に した組織 とマネジメン トが構築 されるようになって きている。 公務員の世界 も,こ の ような社会的変化 と無縁ではない。高度化・複雑化す るエーズに応 えるためには,プ ロフェッシ ョナル としての能力が求め られる。 そ もそ もM.Weberの 官僚制モデルに従 うな らば,公 務員 は本来 プロフェッシ ョ ナルであるはずである。 しか し,現 在の採用 システム,人 事制度が存続する以 上,彼 らは本当のプロフェッシ ョナルにはな り得 ない。 地方 自治体の職員 について田尾 (1990)は,客 観的な指標か らみて彼 らがプロ フェッショナルであるとはいえないにもかかわらず,利 害調整のためにプロフェッ シ ヨナルな権威 を装わなければならない立場 にあると指摘 している。極端 な場 (1994)。 (近刊)。 田 田 太 太

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公務員の人事管理に関する一考察 85 合 ,人 事異動 に よって全 く未経験 の部署 の責任者 に就 く場合 もある。 それで も 着任 す る とそ の 日か ら当該分 野 の プロで あ るかの ご とき行動 が求 め られ,責 任 が問われ る ところに矛盾が あ る。真 の意味 で プロフェ ッシ ョナル (ただ し職業 社会学上 の厳格 な定義 を意味 しない)と しての公務員 を任用 し,キ ャリア を形 成 させ る こ とが重 要 とい え よう。 また前述 したように,組 織内での評価 を意識 した受動的な動機づけではな く, 成果 につながる自発的なモチベーシ ョンを引 き出す ことが求め られている。 そのためには,行 政組織 において も仕事人 を前提 に したマネジメン トヘ と転 換 してい くことが必要である。 3.人 事制度の改革 それでは,仕 事人 を前提 に したマネジメン ト,と りわけモチベーシ ョンと関 係が深い人事制度 は どうあるべ きかについて考 えてみたい。 公務員 はプロフェッシ ヨナルでなければならない とい う立場 をとる以上,各 ポス トには専 門家 を据 え,仕 事 とその成果が社会的に評価 される仕組みをつ く る必要がある。一部の地方 自治体では,特 定のポス トにはその分野の専門家 を 就 けているケースがある。 しか し,専 門家 として育つには仕事 を軸 に したキヤリア形成が行われなけれ な らず,組 織内部の人事だけでは限界がある。 したがって役所間はもちろん, 民 間 も含 めた人事交流が欠かせ ない。その際,公 務員の仕事内容が どの程度外 部汎用性 を備 えているかが問われるが, とくにサー ビス行政などは比較的汎用 性が高いはずである。 キ ャリア形成だけでな く,評 価や昇進の制度,そ れに服務 に関する基準 も改 革が必要 になる。 賃金や賞与などの金銭的な報酬 については,前 述 したような制約があ り,そ れによって動機づけることは難 しい。一方,昇 進 ・昇格 については,こ れまで 以上 に業績 ・成果中心へ と改めるべ きであろう。それは,期 待 メカニズムによ るモチベーシ ョンを向上 させ ると同時 に,主 観的で曖味な評価 を排除 し公平性

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吉 田惨教授退官記念論文集 (第317号 ) を高めるためである。上位管理職への昇進 に際 して も,他 の組織での実績,あ るいは発揮 された能力 による選抜が基本 になる。 ただ し,金 銭的報酬 と同様 ,昇 進 による動機づけにも限界があることはすで に述べ たとお りである。すなわち行政組織内部の資源 に依存する限 り,高 いモ チベーシ ョンを期待することは難 しい。 そ こで考 えられるのは,外 部の資源 を活用することである。それは金銭的 も しくは物質的なものに限定 されない。た とえば,プ ロフェ ッシ ョナル として組 織 の外部で活躍する機会 を与 えることである。 これまで公務員 については,兼 業禁止規定や職務専念義務 などの制度的な縛 りがあることに加 え,不 祥事発生 に対す る過度の警戒 などか ら,外 部で活躍する機会その ものを制約するケース が多かった。 しか しそれによって公務員のプロ意識,モ チベーシ ョンをそ ぐこ とになっては,ま さに角 を矯めて牛 を紋す ことにな りかねない。公務員 をプロ フェ ッシ ヨナル と位置づけるならば,仕 事 に関連する外部の活動 も仕事の延長 と解釈す ることがで きる。不祥事の防止策はその うえで講 じるべ きではなかろ うか。 なお,外 部での活躍が必ず しも実務 に還元 されない とい う批判 もあ り得るが, そ もそ も行政のプロとして評価 されるためには仕事上の実績が不可欠であるた め,両 者 はむ しろ相乗的に働 くと考 えられる。 また,モ チベーションの面だけでな く,匿 名性 を逆手に取ったモラル ・ハザー ドを防止するためにも,個 人の権限 と責任 を明確 にする必要がある。それには 集団的な執務体制や意思決定制度 を見直 さなければならず,職 務構造か ら仕事 の遂行方法 にいたるまでの改革が避 け られない。 ところで昨今,公 務員の間にも一般の労働者 と同様,私 生活 を重視する傾向 が強 まっている。た とえば人事院が行 った 「I種 新採用職員等へのアンケー ト 調査」 には,「 どの ようなタイプの国家公務員 にな りたい と思いますか」 とい う質問項 目があるが,1995年 の調査では 「充実 した私生活 を楽 しむタイプ」 と い う回答が31.2%(2つ 以内回答)に 達 し,増 加する傾向を示 している。彼 ら がいわゆるエ リー ト官僚の候補生であることを考 えると,他 の公務員が少な く

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公務員の人事管理に関する一考察 87 ともそれ と同等以上 に私生活 を重視 していることは推 して知ることがで きる。 彼 らが高次の欲求 によって動機づけられるためには,そ の前提 として仕事 と 私生活 を両立で きることが不可欠である。 しか し,典 型的な組織人モデルで働 く以上,仕 事 と私生活の トレー ドオフが避け られないことは前述 したとお りで ある。それに対 して仕事人の場合 には,成 果が求められる反面,プ ロセスにお ける自律性 は大 きい。公務員の業績は把握することが難 しい とい う問題は残 る が,仕 事 を専 門化 し職務 を明確化することによって業績によるチェックもある 程度可能 になるはずである。 V 結 公務員 に対する周囲の日,要 求はある意味で一面的である。経費削減,網 紀 粛正 に象徴 されるようにインプッ トが厳 しく監視 される反面,個 々人の仕事の 成果す なわちアウ トプッ トが具体的に問われることは少ない。その結果,放 置 してお くと自発的なモチベーシ ョンは低下 し,努 力の方向は本来必要な仕事か ら逸脱 してい くおそれがある。 それを防 ぐには,組 織人モデルを前提 にしたマネジメン トから脱却すること, そ して公務員 自身が仕事人 として働 き,キ ャリアを形成で きるようなシステム を構築することが必要である。「公務 とい う仕事の特殊性」 を大義名分 に,民 間企業 における改革や社会の変化 に対 して超然 とした態度 をとり続けることは で きない。特殊性 を踏 まえたうえで,新 しいシステムヘ と転換 してい くことが 求め られているのである。 本稿 では人事制度改革のなかで も,と くに個人のモチベーシ ョンに焦点 を当 てて試論 を述べ るにとどめた。

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88 吉 田修教授退官記念論文集 (第317号) 主要参考文献

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参照

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