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徳島文理大学研究紀要 第 98 号 令和元 9 総説 査読有り 年齢犯罪曲線から見た非行と犯罪 小 板 清 文 本稿は 公的な犯罪統計を用いながら 非行少年のうち 受刑者にまで至っている者の比率を調べることで 少 年非行と成人犯罪との連続性について調べた また 年齢犯罪曲線 age-crime cu

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1 はじめに  筆者は,長年,少年鑑別所で勤務してきた。少年鑑別 所とは,家庭裁判所が審判を行う前に,資質鑑別の必要 性を認めた非行少年の身柄を約 4 週間収容して,観護 処遇と資質鑑別を行う法務省所管の矯正施設である。少 年鑑別所に収容されるのは,重大な非行を引き起こした り,いろいろな非行を繰り返したりしている,主とし て 14 歳から 19 歳までの少年たちである。こうした非行 少年たちは,非行性が比較的軽い段階にある者から非常 に深化している者まで,問題性の程度はかなり多様であ る。そのうち,14 歳,15 歳の低年齢の者は,早期に非行 化している少年たちで,本人の資質面の問題や家庭環境 の負因が輻輳している者が多く,改善更生に向けての処 遇には困難が予想されたり,その予後が危惧されたりす ることが少なくない。しかしながら,そうした非行少年 の多くが,矯正教育を受けてもなお犯罪を繰り返し,受 刑者になるというわけではない。  平成 30 年版犯罪白書(2018)1)によれば,刑事施設に 初めて入所する若年(20 歳代)受刑者のうち,少年院入 院歴を有する者の比率は,最近 5 年間の入所受刑者で見 ると,20.0 %ないし 21.5 %で推移している。これは,若 年受刑者の多くは,少年院を経験していないことを意味 している。つまり,10 代に非行化した少年たちも,年齢 が 20 歳に近づいたり,20 代に達した後は,犯罪行動か ら遠ざかる者が多いということである。この事実を端的 に表しているものの一つに犯罪学で重要視されている年 齢犯罪曲線がある(図 3 参照)。年齢犯罪曲線は,横軸に 年齢,縦軸に非行・犯罪者の人口比(又は実数)を分布 させたもので,この分布の形状は,時代,地域,人種な どによってほとんど左右されない普遍性があり(Hirschi & Gottfredson, 19832)),「犯罪学における最も重要な秩

序性」(Nagin & Land, 19933)p.330)と呼ばれている。 年齢犯罪曲線からすれば,少年非行については, 比較的 短期間で終息している場合が多い との見方をするのが 適当と思われる。  本稿では,法務省と警察庁が公表している犯罪統計な どを用いながら,非行少年(少年鑑別所入所者や少年院 入院者)のうち,犯罪者(刑事施設入所者(受刑者))に まで至っている者の比率を調べることで,少年非行と成 人犯罪との関連性や連続性について把握する。また,年 齢犯罪曲線に関する国内外の研究をまとめた上で,最近 の生物社会学的犯罪学や犯罪発達理論の研究動向につい ても概観してみたい。 2 Moffittの反社会性の 2 タイプ  Moffitt(1993)4)は,現在も継続中のニュージーラン ドの縦断的コホート研究(Dunedin Multidisciplinary Health & Development Study; 1972 年から 1973 年生ま れの 1,037 人の男子に対して 2 年おきに面接調査等を実 施する健康と発達に関する学際的研究)の知見等に基づ き,犯罪者は,人生の早期から犯罪に手を染め,その 生涯にわたって犯罪を続ける生涯持続型( Life-Course-Persistent)と,青年期に非行に走るものの,その後,青 年期の終わりともに非行から離脱していく青年期限定型 (Adolescence-Limited)とに分けることができるとして いる(以下,「Moffitt仮説」という)。そして,前者は, 神経心理学的及び気質的機能障害を有し,低IQ,多動 性,不注意,否定的情動性,低衝動抑制の特徴が認めら れやすい一方で,後者には,そうした顕著な神経心理学 的な問題や継続的なパーソナリティ機能障害を抱えてい る者は少ないとしている。また,前者の生涯持続型は, 男性人口の約 5%にあたるものの,この少数の者たちが

年齢犯罪曲線から見た非行と犯罪

小  板  清  文

 本稿は,公的な犯罪統計を用いながら,非行少年のうち,受刑者にまで至っている者の比率を調べることで,少 年非行と成人犯罪との連続性について調べた。また,年齢犯罪曲線(age-crime curve)に関する国内外の研究をま とめた上で,最新の犯罪発達理論(developmental and life-course criminology),生物社会学的犯罪学(biosocial

criminology)の研究動向,脳科学の知見についても把握した。年齢犯罪曲線に関する研究は,ヒトの発達や社会的

な成熟とも深く関連している興味深い研究分野であり,社会的な逸脱行動の理解やそれへの対応を考える上で,総合 的・学際的な分析・検討の視点を必要とする,重要な研究分野と考えられる。

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全犯罪の約 50%に関与しており,後者の青年期限定型 は,若者の犯罪者のうちの約 85%を占めているとされ ている。

 Tittle(2000)5)は,上記のTerrie Moffittと彼女の同 僚が取り扱っているデータは,社会学,犯罪学,心理 学,医学,遺伝学,神経科学の専門科学者の共同作業に よって集積された犯罪のライフコースパターンに関する 革新的なアプローチとして評価している。また,Moffitt (1993)4)は,この研究業績によって,ストックホルム犯 罪学賞という犯罪学の名誉ある賞を受賞している。さ らに,Moffitt(2018)6)は,1993 年以降,ここ 25 年間 の自身の犯罪発達理論に関する研究の動向や発展(100 以上の縦断的研究と最新のいくつかの有力な研究をレ ビュー)について評論している。  岡邊(2007)7)は,1978 年と 1986 年に出生した男子で, 17 歳までにQ県内の警察で非行記録が残された,それ ぞれ 4,637 人と 3,763 人のデータに対して,セミパラメ トリック混合ポアソン回帰モデリングアプローチを用い て,3 グループを典型的なグループとして析出している。 その 3 つとは,「非行なし群」,「低レベル非行群」(12 歳 前後から非行がスタートし,低レベルながら 14~15 歳 でピークを形成するグループ),「高レベル非行群」(10 歳前後から非行が始まり,14 歳をピークに高いレベルで 非行を繰り返すグループ)で,三者の割合は,1978 年コ ホートでそれぞれ 70.5 %,28.4 %,1.1 %,1986 年コホー トでそれぞれ 80.3 %,18.5 %,1.2 %であった。なお,3 グループのうち,2 つ目の「低レベル非行群」は,Moffitt 仮説の「青年期限定型」に,3 つ目の「高レベル非行群」 は「生涯持続型」に近いと見られる。岡邊(2007)7)自身 は,Moffitt(1993)4)の分類犯罪学的枠組みを我が国の 非行の態様の説明に用いることには消極的であるが,筆 者は,我が国の警察補導の縦断的コホート研究によって も,Moffittの 2 つタイプの犯罪性が確認されているも のと考えている。 3 Moffittの犯罪発達理論と非行犯罪者の予後調査の 結果  Moffitt仮説のうち,非行問題として特に重大なのは, 人数は少ないにしても,多くの犯罪を早期から繰り返し てしまう生涯持続型である。少年鑑別所入所少年につい て見れば,それは,中学生の時点で既に多くの逸脱行動 を繰り返し,14,15 歳で少年鑑別所に入所する低年齢少 年が生涯持続型に該当すると思われる。  小板(2013)8)は,2006 年にA少年鑑別所を退所した 924 人の非行少年について,再非行による少年鑑別所へ の再入所の有無について,約 7 年間の追跡調査をしたと ころ,全体の 30.5 %の者に再入所が認められ,特に,14 歳(97 人)と 15 歳(120 人)の再入所率は,それぞれ 49.5 %,49.2 %と高かった。しかしながら,両者では, 刑事施設への入所が確認された者は 0 人であった。ただ し,これには,少年鑑別所退所時の年齢が 14,15 歳の 場合,追跡期間中に 20 歳を超えてしまうため,追跡期 間が短くなってしまうという問題がある。そこで,予備 調査において,1999 年に同少年鑑別所を退所した 885 人 に対して同様の追跡調査(約 14 年間)を行ったところ, 全体の刑事施設への再入率が 8.2 %で,14 歳と 15 歳の 刑事施設への再入率はそれぞれ 6.2 %と 8.8 %と,特段 の高率を示してはいなかった。さらに,筆者が他の少年 鑑別所に勤務していた 2017 年当時,1,471 人の少年鑑別 所退所少年の刑事施設への再入率を約 15 年間追跡調査 したところ,118 人(再入率 8.0 %)に刑事施設への再 入所が認められたものの,生涯持続型に該当すると考え られる低年齢の少年鑑別所入所少年たちにおいて,刑事 施設への高い入所率は見られなかった(初回の少年鑑別 所入所歴が 14 歳と 15 歳であった者は,118 人中 24 人, 20.3 %)。  岡本(2002)9)は,少年鑑別所に入所した男子少年 137 人に対して 7~11 年間の追跡調査を行ったところ,22 人の者に受刑歴が認められ,受刑の有無を従属変数にし たロジスティック回帰分析では,母親と同居していない こと,無職であること,少年鑑別所入所年齢が低いこと, 少年院送致等の処分歴があることが有意であったと報告 している。  少年鑑別所退所者のうち,少年院送致となるのは 30 %弱(平成 30 年版犯罪白書,20181))の問題性が進ん でいる少年たちである。犯罪白書には,毎年,少年院出 院者の少年院への再入院率と刑事施設への入所率が掲載 されている。平成 30 年版犯罪白書(2018)1)によれば, 2004 年から 2013 年までに全国の少年院を出院した者の 少年院への 5 年以内の再入院率が 14.5 %ないし 16.5 % で推移している一方,刑事施設への 5 年以内の入所率 は,5.8 %ないし 7.9 %となっている。少年院入院者は, 少年鑑別所入所者以上に非行性が進んだ者(生涯持続型 に該当しやすい)と考えられるところ,少年院を出院後 も犯罪を重ね,短期間(少年院出院後 5 年以内)で受刑 にまで至っている者は,少年院出院者全体の 10%に満 たないのである。  非行を繰り返し,少年時代に保護処分として,保護観 察,又は少年院送致の処分を受けた者が,毎年の入所受 刑者のうちどの程度の比率を占めているかについて,平 成 30 年版犯罪白書(2018)1)は,2013 年から 2017 年ま での 5 年分について,初入・再入別,年齢層別の人員を 掲載している。  図 1 は,最近 5 年間の刑事施設入所者の合計を年齢層 別,初入・再入別に構成比で見たものである。図 1 から 分かるように,我が国の刑事施設に入所している者を年

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齢層別,初入・再入別に見た場合,最も多数を占めてい る(典型的な受刑者)のは,保護処分歴を持たない 40 歳代と 50 歳から 64 歳までの再入受刑者であり,全体で 見ても,保護処分歴を有する受刑者の比率は 25.4 %に留 まっている。このように,我が国の受刑者の場合,保護 処分歴を有する者(早期から犯罪歴を重ねていた者)は 4 人に 1 人程度で,受刑者の大半(74.6 %)は,成人後 (20 歳以降)に本格的に犯罪行動を重ねるようになった 者たちとなる。  図 2 は,最近 5 年間の刑事施設入所者のうち保護処分 を有する者の比率を初入・再入別,年齢層別に見たもの である。これによると,初入者でも再入者でも,年齢層 が上がるにつれて保護処分歴を有する者の比率は低下し ている。これは,年齢が進むにつれて,刑事施設入所者 のうち,保護処分を有する者の割合(存在感)は低下す る方向にあることを示しており,我が国の場合,生涯持 続型とみなされる犯罪者は加齢と共に漸減する傾向にあ ると見られる。 図 1 刑事施設入所者の年齢層別,初入再入別 構成比(最近 5 年間の合計) 図 2 刑事施設入所者のうち保護処分歴を有する者の  年齢層別,初入再入別の比率(最近 5 年間) 4 年齢犯罪曲線について  上述したように,我が国においては,非行少年の多く が成人後も犯罪を繰り返し,本格的な犯罪者(受刑者) にまでなってしまっている者は比較的少なく(1 割弱), 多くの者は 20 歳までに,あるいは 20 歳代後半までに犯 罪の道から離脱している。

 Loeber & Farrington(2014)10)は,各国での犯罪に関 する研究において,最も一貫性のある結果の一つが年齢 犯罪曲線であるとし,そのピークは 15 歳から 19 歳の間 に形成されることが多いという。また,そのカーブは, 加齢に伴って各個人の犯罪性向が変化することによって 生じるという考え方と,生涯持続型や青年期限定型と いったいくつかのサブグループによって形成されている とする考え方があるとしている。年齢犯罪曲線の研究で は,暴力犯罪のほうが窃盗犯よりもそのピークが遅れて 認められること,女子の方が男子よりもそのピークの年 齢が早いこと(Farrington, 198611)),社会的に不利な立 場にある若者においてそのピークが高くて広いことなど が明らかになっている(Loeber & Farrington, 201410)

p.12)。

 犯罪年齢曲線研究の端緒は,Ulmer & Steffensmeier

(2014)12)によれば,Adolphe Quetelet(1831/1984 )13) 研究にまでさかのぼることができる。わが国における文 献でも,寺澤(1934ab)14)15)の「犯罪統計に関する教育 的考察」に最も初期の犯罪年齢曲線を見ることができる など,年齢と犯罪率との関連性への関心は,犯罪学にお いては,古くて新しい研究課題でもある。

 Hirshi & Gottfredsonは,年齢と犯罪との関連性に関

する研究(Hirshi & Gottfredson, 19832))を発展させ, 1990 年に A General Theory of Crime 16)を著し,それ までの主な犯罪学に関する文献や研究を総括した上で, 加齢に伴って犯罪率が変化するという年齢効果が犯罪学 研究において,最も重視すべき事実であると結論づけ, 自己統制の低下が犯罪傾向を高めることを一つの包括的 な理論として提供している(以下,「Hirschiの低自己統 制理論」という)。同著は,発刊以来,米国における社 会学中心の犯罪学研究に対して,大きな衝撃を与え続け ている。また,同著は,それまでの犯罪学の研究を容赦 なく批判し,自説に沿った研究結果を根拠にして,大胆 な主張(どのような犯罪の原因も自己統制の低下だけに よって説明できるとするもの)を繰り返したもので,同 著の真偽を確かめようとする実証研究や議論を促すと同 時に,多くの疑問や批判を巻き起こすこととなった。こ の著書は,1996 年に松本忠久氏によって邦訳されていた ものの,その後本書が絶版となったことで,約 20 年振 りの 2018 年 9 月に大渕憲一氏によって新訳書が発刊さ れた。Hirschiらが展開した低自己統制論は,1990 年に 原著が発刊され,30 年近くを経た今日においても,犯罪 原因論として広く知られ,犯罪学以外の分野からの関心 も高まっている(大渕,201816),序 4)。

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5 我が国における年齢犯罪曲線の研究  我が国において,年齢犯罪曲線そのものを研究対象と した実証的研究は,今のところ森・津富(2007)17)しか 挙げることができない。森・津富(2007)17)は,年齢犯 罪曲線を説明することができるとしている,Hirschiの 低自己統制理論とMoffitt仮説のうち,どちらがより説 明力が高いのか,実証的研究によって明らかにしよう とした論争を紹介し(Uggen, 200018); Bartusch, Lynam,

Moffitt & Silva, 199719); Osgood, McMorris & Potenza, 200220)),いかにその比較研究が困難であるかを解説し た上で,ユニークな研究手法と巧みな統計分析を駆使し て,この議論に加わっている。森・津富(2007)17)は, 591 人の少年鑑別所退所少年の再入所率を比例ハザード モデルの線形予測子の部分が 1 次式で構成されるモデ ルを当てはめ,両者のモデルが異なったデータを生成す るという想定の下に比較を行い,Moffitt仮説のほうが, Hirschiの低自己統制理論よりもデータへの適合度が高 いことを示した。  河野・岡本(2013)21)は,2011 年における我が国の年 齢犯罪曲線(刑法犯検挙・補導人員の人口比の年齢分布) を図示している。図 3 は,河野・岡本(2013)21)が作成 した図に同年の女子の分布状況を加えたものである。こ れは,警察庁によって公表されているデータを使用して 作成しているため,20 歳未満とそれ以上の年齢層とは 年齢幅が異なり,横軸には若干のひずみが加わっている 図といえようが,犯罪年齢曲線は,全体と女子の両者で はっきりと確認することができる。なお,図 3 ではピー クの年齢は 15 歳になっている。  犯罪白書は,毎年,警察庁の検挙・補導人員と総務省 が公表している人口統計を用いて,生年の違いによって 少年期(12 歳から 19 歳まで)の年齢犯罪曲線がどのよ うに異なっているか,疑似的なコホート調査の結果を掲 載している。平成 30 年版犯罪白書(2018)1)には,1971 年生まれから 1998 年生まれの 28 の年次(コホート)の 刑法犯検挙・補導人員の人口比(非行率)が載っている。 これによると,28 個のコホート中,15 歳が非行率のピー クであったコホートが 14 で最も多く,14 歳と 16 歳のコ ホートが同じく 7 となり,15 歳をピークとしている図 3 は,ほぼ典型的な少年期の分布を示しているものと思わ れる。  また,17 歳までにQ県の警察が作成した非行記録の全 数調査を実施した岡邊(2007)7)の研究においても,非行 の発生がピークとなる年齢は,1978 年コホートでは 14 歳,1986 年コホートでは 15 歳となっている。  ところで,我が国の刑法犯検挙人員は,2004 年をピー クに漸減傾向をたどり続けている。このことが,年齢犯 罪曲線にどのような影響を与えているかを見たのが図 4 である。刑法犯の検挙・補導人員がそれぞれ高い水準に あった 2006 年と 2011 年については,少年期にはっき りとしたピークが認められるものの,刑法犯の検挙・補 導人員が減少した 2016 年では少年期にあるはずのピー クが見えにくくなり,少年期で最も高い 16 歳の非行率 (人口千人当たりの非行率 9.4)よりも,20~24 歳の年 齢層の犯罪率(人口千人当たりの非行率 9.7)のほうが 高くなっている。近年の少年非行率の減少によって,我 が国においては,年齢犯罪曲線が消失し始めているよう に見える。しかし,これには,最近 14 年間の少年非行 率の減少傾向が大きく影響している。2003 年から一貫 して少年非行率は減少し続け,2003 年から 2017 年では, 71.7 %減である。その一方で,成人(20 歳以上の者)の 犯罪率の減少は,ピークの 2005 年から同じく漸減傾向 を続けているものの,2017 年までの減少率は 44.0 %に 留まっている。このように,2016 年の年齢犯罪曲線に は,若い年齢層において非行率(犯罪率)の低下が大き く進んだことによる影響が表れている。 図 3 2011 年中に刑法犯(交通関係業過を除く)で検挙 (13 歳までは補導)された者の年齢(層)別の人口比(警 察庁,2012総務省,2012) 図 4 刑法犯(交通関係業過自動車運転過失致死傷を除く) で検挙(13 歳までは補導)された男子の年齢(層)別の 人口比(警察庁,2007,2012,2017総務省,2007,2012,2017)

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 公表されている犯罪統計を用いて,1955 年から 2005 年までの 50 年間で年齢犯罪曲線がどのように変化した かを 10 年間隔で調べたものが図 5 である。これによる と,1955 年と 1965 年頃は,そのピークが 20~24 歳に あったものが,我が国が高度成長期を経た 1975 年にな ると最近のものと同様に 14,15 歳をピークとするもの に変わっている。これは,戦後,若者において見られた 成熟前傾現象が顕著に見られた時期とも連動しているよ うに思われて興味深い。 図 5 年齢層別の刑法犯検挙補導人員の人口比 (人口 10 万人当たり)の比較(総務省及び警察庁の ホームページに掲載されている資料による)

 Ellis & Walsh(2000)22)は,罪種によってそのピーク が若干異なることを報告している。そこで,罪種によっ て,年齢犯罪曲線の形がどのように異なるかを見たのが 図 6-1,6-2 である。図 6-1 では,窃盗犯と粗暴犯とでは カーブの山の高さがかなり異なっていることがわかる。 このことは,Moffitt(1993)4)の青年期限定型が比較的 軽微な窃盗犯に数多く惹起するという論述とも一致して いるように思われる。窃盗犯とその他の刑法犯のカーブ が比較的類似していることがどのようなことを意味して いるのであろうか。Gottfedson & Hirschi(1990)16)は, 「研究は,犯罪者たちが何でも屋であることを示してい るので,彼らは,結局,同じ人たちなのである」(大渕訳, 2018:p.68)と,犯罪者のバーサテリティ(versatility in offending)を強調している。この考えは,窃盗を行う犯 罪者とその他の罪種の犯罪者との間に,大きな質的な違 いはないという主張である。図 6-1 において,窃盗とそ の他(粗暴犯を除く)のカーブが比較的類似しているこ

とは,Gottfedson & Hirschiの主張に沿った傾向と見る

ことができるかもしれない。  図 6-2 は,粗暴犯と性犯の一部の罪種を見たもので, 同じく粗暴犯である傷害と恐喝が類似したカーブをして いる一方で,強盗と性犯(強姦,強制わいせつ)とはそ れぞれ異なった形状を示しており,罪種の特徴を表して いるものとも考えられる。 6 最近の海外における年齢犯罪曲線に関する研究  海外では,特に米国を中心に年齢犯罪曲線に関する研 究が毎年のように行われている。以下,2013 年以降で, 規模の大きな調査研究について簡単に紹介したい。  Shulman Stenberg & Piquero(2013)23)は,年齢犯罪 曲線がヒトの発達よりも経済状態による影響を強く受け たものであるとの研究結果(Brown & Males, 201124))を 再確認するため,米国の全国縦断的青年調査(National Longitudinal Survey of Youth 1997)を用いて,経済状 態をコントロールして検証した。その結果,Brown &

Males(2011)24)の指摘とは異なり,青年期に犯罪率の

ピークが見られる年齢犯罪曲線を再確認している。  Sweeten, Piquero & Stenberg(2013)25)は,1,300 人 の青年犯罪者(初回調査面接の平均年齢 16.4 歳)に対 する年間の追跡調査結果をマルチレベル縦断的モデル (multilevel longitudinal models)を用いて分析した結果 15 歳から 25 歳にかけての犯罪率の減少の 69%を就職 や結婚,刑事司法制度に対する認識,不良交友からの影 響,被害体験や離婚経験,衝動性をコントロールする力, 図 6-1 2011 年中に窃盗犯,粗暴犯,その他(交通関係業 過を除く)で検挙(13 歳までは補導)された男子の年齢(層) 罪種別の人口比(警察庁,2012総務省,2012) 図 6-2 2011 年中に傷害,強盗,強盗強制わいせつ, 恐喝で検挙(13 歳までは補導)された男子の年齢(層)別罪種別の人口比(警察庁,2012総務省,2012)

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犯罪行動選好傾向等によって説明することができると指 摘した。そして,これらの要因の発達に伴う変化によっ て,Gottfedson & Hirschi(1990)16)の見解(年齢犯罪 曲線を生物学的・社会学的・心理学的要因で説明するこ とは困難とする考え)とは異なり,年齢犯罪曲線の全部 ではないにしても,そのほとんどは説明可能と結論づけ た。  Jennissen(2014)26)は,オランダ国内に居住してい るアフリカ系カリブ人において,他の少数民族よりも際 立って犯罪率が高いことを年齢犯罪曲線の視点から分析 したところ,欠損家庭の比率と,45 歳までの男子の犯罪 率の高さが関連していることを明らかにしている。  Loeber, Farrington, Hipwell, Stepp, Pardini & Ahonen

(2015)27)は,米国での縦断的調査結果(Pittsburgh Youth

Study とPittsburgh Girls Study)を用いて犯罪年齢曲線 と犯罪頻度曲線を調べたところ,男子では,窃盗と暴力 犯罪において典型的な年齢犯罪曲線が認められたもの の,女子では,典型的な形状は得られず,犯行のピーク も男性よりも早かった。また,犯罪頻度の年齢分布は, 男子では,年齢犯罪曲線に似たものであったが,女子に ついては,平板な形状を示していた。  Liu(2015)28)は,年齢犯罪曲線に性差が見られるも のか,自己報告型の非行・犯罪縦断的調査である米国の 全国縦断的青年調査(National Longitudinal Survey of

Youth 1997)を用いて分析したその結果,一般的な犯罪

行為においては,男女間の年齢犯罪曲線は類似していた ものの,自己報告された検挙歴では,その形状に差異が 認められた。また,早期に非行を経験していた者の場合, 逮捕歴が見られなくなる時期に性差が見られた。  Kim & Bushway(2018)29)は,米国の全国縦断的青年 調査(National Longitudinal Survey of Youth 1997)を 用いて,一般的な犯罪行為,逮捕歴,薬物乱用歴につい ての各コホートに特有の成長曲線モデル(growth curve models)の推定を行った上で,隣接するコホート間の年 齢犯罪曲線の比較を行っている。その結果,過去の研究 結果よりもコホート効果が小さかったこと,また,それ は一部の調査項目にしか見られないこと等を明らかにし ている。  最近の年齢犯罪曲線に関する研究は,Sweeten, Piquero & Stenberg(2013)25)の研究を除くと,年齢犯罪曲線の 形状や特徴を縦断的な調査データを数理モデルによって 解析したものが多く,年齢犯罪曲線の理論的・総合的な 検討を行うよりも,より精緻な統計解析を行うことに重 点が置かれているように思われる。 7 年齢犯罪曲線と犯罪発達理論  Walsh(2015,松浦訳 2017)30)は,年齢犯罪曲線を説 明した後に,有力な犯罪発達研究・理論として以下の 4 つを紹介している。  1 つ目は,Agnew(2005)31)の 5 つの領域(①パーソ ナリティ要因(易怒性,低自己統制),②家庭要因(親 の不適切な養育,結婚生活の失敗等),③学校要因(学 業不良,低学歴等),④不良交友要因(不良仲間からの 影響等),⑤職場要因(失業,犯罪性を持つ職場仲間か らの影響等))による犯罪発達理論である。Agnew & White(1992)32)は,ストレス(緊張)を経験した人す べてが犯罪を行うわけではないことを説明するために, ストレスから逸脱行動に至る人には特別な性質があると 仮定した。その上で,Tellegen(1985)33)の負の情動性 (negative emotionality)と自制心(constraint)に注目 して,自身の理論の①パーソナリティ要因に組み込んで いる。そして,生物学的要因(自律神経系や脳内化学変 化)が,①パーソナリティ要因には直接影響を与える一 方で,②~⑤については,間接的に影響を与えるとして いる(Agnew, 200531)p.213)。  Walsh(2015)30)は,「青年期の未熟な行動はこの時 期の脳の未成熟と関連があり,彼らの脳は猛烈な勢いで 再編成 しているので,さらに興奮しやすくなるのだ」 (松浦訳,2017:p.318)というAgnewの主張を紹介した 上で,「青年期の脳が変化するちょうど同時期に,攻撃 性や競合性を る傾向のあるホルモンが大量に分泌され る。このように青年期における神経学的かつ内分泌学的 変化は,易怒性(低セルフコントロール)を助長させる」 (松浦訳,2017:p.318)と述べている。  2 つ目は,Farrington(2003ab)34)35)のケンブリッジ 非行発達研究(主として 1953 年に南ロンドン・ケンブ リッジ地区に生まれた 411 人の少年たちを 8 歳から約 40 年にわたって面接法などを用いて継続調査したもの) に基づいて,社会的学習理論,社会統制理論,ラベリン グ理論,緊張理論,合理的選択理論等の広汎な概念を統 合した反社会性形成モデルである。大渕(2006)36)によ れば,ケンブリッジ非行発達研究の当初の目的は,①都 市部の男性における非行と犯罪行為の発達を記述するこ と,②それを予測させる要因は何であるか明らかにする こと,③どのように非行が始まり,それがどのように成 人の犯罪に結びつくのかを分析すること,④多くの非行 が 20 代で終息するのはなぜか,などであったと解説し ている(大渕,2006:p.168)。そして,非行・犯罪を予測 させる児童期のリスク要因として,児童期の問題行動, 衝動性,低い知的活動,家族の犯罪,家族の貧困,不十 分な育児などを挙げている。  3 つ目は,Moffitt(1993)4)の犯罪発達理論である。 Henry et al.(1996)37)によれば,生涯持続型の犯罪者 は,全体のわずか 7%であったが,彼らは全非行・犯 罪の 50%以上に関与していたという。また,Moffitt & Walsh(2003)38)によれば,青年期限定型の犯罪者は,

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安価な物品の窃盗など,比較的軽微な犯罪に留まる傾向 があったが,生涯持続型の犯罪者は,暴行,強盗,レイ プなどの凶悪犯罪に関与する傾向が強かった。Moffitt (1993)4)は,青年期限定型の犯罪者は,いわゆる普通の 若者であり,彼らの犯罪とは仲間集団でハメを外したも のであって,何ら持続的なパーソナリティ機能障害を反 映したものではなく,若者の犯罪者の少なくとも 85% は青年期限定型であるとしている。また,「青年期限定 型の犯罪とは,年齢と歴史的時代の傾向が生んだ産物で ある」(Moffitt, 1993:p.692)と,現代が若者に成熟の ギャップを経験させる時代になっていることを指摘して いる。そして,青年期限定型の若者は,心理学的には健 康であるので,「健康な若者は偶然の変化に柔軟に対応 する」(Moffitt, 1993:p.690)と犯罪から離脱する力が強 いとしている。  Walsh(2015)30)は,青年期限定型の非行からの離脱 過程について,「突然反社会的行動から離脱する者(青 年期限定型の犯罪者)もいれば,ゆっくりとした過程で 離脱する者もいる。それは個人特性や,どうやって反社 会的仲間集団に加入したか,どんな向社会的機会を手に 入れるかなどの組み合わせに大きく依存する」(松浦訳, 2017:p.321)と述べている。

 4 つ目は,Sampson & Laubのライフコース理論であ る。Sampson & Laub(1993)39)は,Glueck & Clueck (1950)40)が行った 500 人の非行少年の追跡調査データ (1930~1960 年代にかけて集積)を再分析し,どのよ うな犯罪者であっても,結婚したり,安定した仕事に就 き社会的絆をもつことで,犯罪から立ち直ることができ ることを示した。この理論では,ソーシャルキャピタル (人々が持つ信頼関係や人間関係のこと)とターニング ポイント(向社会的方向へと人生を方向付けるライフイ ベント)の重要性を強調している。そして,児童期から 成人後期まで犯罪行為を継続させる高リスク経路をたど る者には両者は見られにくいものの,犯罪からの離脱を 果たすことができる低リスク経路の者には,ソーシャル キャピタルを積み上げるうちに良好な結婚や就職といっ たターニングポイントを経て,犯罪からの離脱に至ると 考えている。なお,本邦では,Sampson & Laub(1993) 39)の理論を検証するために,非行を経験した人たちが刊 行した自伝の分析等を行った白井ら(2000,2001,2002, 2003 ,2005,2011)41-46)の継続的な研究がある。  Walsh(2015)30)は,Sampson & Laub(1993)39)の研 究の紹介の最後に,Glueck夫妻が始めた 500 人の非行 少年の追跡調査において,Sampson & Laubが追跡でき たのは 52 人のみであったが,「その全員が 70 歳までに 犯罪から離脱していた。しかも児童期の高リスクであっ たか低リスクであったかや,彼らの蓄積してたソーシャ ルキャピタルのレベルなどは関係なかったのだ。人は年 をとると,若いときに楽しんできた多くの活動から離れ ていくのとまったく同様に,全ての犯罪者も 加齢とと もに ,最終的には犯罪から足を洗う,ということを意味 している」(松浦訳,2017:p.325)と記載している。こ うした見解は,Gottfedson & Hirschi(1990)16)の「加齢 に伴う犯罪減少は存在する。この減少は,人の変化ある いは非犯罪的状況への曝露によって説明されないので, 我々に残された結論は,それが生体の厳然たる加齢によ るものであるというものである。」(大渕訳,2018:p.129) とも一致している。  以上,Walsh(2015)30)がまとめた犯罪発達理論であ る。  一方,友田(2016ab,2017)47-49)は,被虐待体験が脳 に及ぼす影響に関する研究成果を報告しながら,思春期 や青年期が非行・犯罪といった衝動的な逸脱行動に至り やすい時期であること(年齢犯罪曲線が上昇しやすい時 期にあること)を強調している。  友田(2017)49)によれば,近年,10 代の若者では感情 をつかさどる大脳辺縁系と衝動的行動を抑制する前頭前 皮質の成熟がミスマッチしていることが明らかになって いる(Giedd et al., 1996, 1999)50)51)。これは,1990 年以 降のMRIをはじめとする最近の脳科学や神経科学にお ける測定技術の向上によって把握することができるよう になった青年期の加齢に伴う脳とホルモンの発達のアン バランスを端的に示したもので,青年期の前期から一つ のピークを形成する年齢犯罪曲線が生じる原因をデータ でもって説明しているものと考えられる。また,Walsh (2015)30)は,青年期の脳が変化するちょうど同時期に, 攻撃性や競争心を る傾向のあるホルモンが大量に分泌 される。このように青年期における神経学的かつ内分泌 学的変化は,易怒性(低自己統制)を助長させると説明 している。最近の生物社会学的犯罪学からすると,年齢 犯罪曲線は,脳の前頭前皮質の成熟と衝動性を る性ホ ルモン分泌のアンバランスによって説明することが定説 化してきているとしている。  同様に,笠井(2018)52)は,「思春期は,高度に発達し た前頭前野などに人に特有の神経回路が最終的に成熟を 遂げるライフステージである。それを基盤とするメタ認 知機能が成熟するとともに,第二次性徴に伴う性ホルモ ンのサージとあいまって,同性代の他者(ピア)の中で の自分の位置づけにセンシティブになる」(2018:p.264) と解説している。そして,「思春期の心身の発達を支え るうえで,その脳・心理基盤を解明することは重要であ る」(笠井,2018:p.265)とした上で,2012 年から開始 されている「青春期の健康・発達コホート研究」(Tokyo Teen Cohort project)」では,約 3,300 組の 10 歳の児童 とその親を 2 年ごとに訪問調査し,うち約 300 組のサブ サンプルにはMRI等の生物学的情報も取得するという,

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アジア初・最大規模コホート研究が進行中であることを 紹介している。

8 生物学的な影響の色濃い年齢犯罪曲線

 Walsh(2015)30)は,2003 年に開催されたニューヨーク

科学アカデミー会議(New York Academy of Science) において,White(2004)53)が提出した,青年期の脳の 発達と反社会的行動との関連性に関する 4 つの重要な メッセージを紹介している(松浦訳,2017:p.311)。 (1)青年期を特徴づけるほとんどの行動の背景には,10 代の若者が直面する両親との 藤,リスク選好行 動,情動的混沌の経験といった環境的影響と相互作 用する,生物学的基盤が存在する。 (2)肉体的に成熟した身体と,成熟途上にある神経シス テム間のアンバランスにより,これらの行動は説明 できる可能性がある。 (3)青年期における報酬への感受性は成人のそれとは異 なり,同様に快楽感情を獲得する際でも,青年期に おいてはより高いレベルの新奇性と刺激を求める。 (4)適宜な指導と理解を示すことにより,比較的スムー ズ に 青 年 期 の 移 行 が 可 能 となる(White, 2004: p.4)。  一方,友田(2017)49)は,「前頭前皮質の成熟は 20 代 後半まで進行する。一方で,感情と報酬感を制御してい る大脳辺縁系の発達は,まだ前頭前皮質が未熟な 10 歳 頃に始まる思春期にホルモン量が増えて成熟が促され る。ヒトの脳は胎児期,乳幼児期,思春期に爆発的に成 長するが,その時期は脆弱な時期でもある。特に 10 代 の若者では感情を司る大脳辺縁系と衝動的行動を抑制す る前頭前皮質の成熟がミスマッチしているからだ。すな わち,この不均衡のために前頭前皮質が未成熟な 10 代 の少年たちは危険な行動に走りがちだが,一方で環境が 適切に整えられれば,それに素早く適応することも十分 に可能な「脳の可塑性」(脳領域間のネットワークを変更 することによって環境に応じて変化できる)も考慮でき る。」と彼女の最近の虐待経験を有する者の脳画像の解 析研究から,極めて貴重な知見を提供している。 9 犯罪性向と遺伝  これまで年齢犯罪曲線の研究を見てくる中で,犯罪性 向には生物学的な要因が強く関係していることを確認し てきた。それでは,犯罪性は親から子へと遺伝しやすい ものであろうか。親の犯罪性の有無と子どもの非行の有 無について調べた遺伝行動学の研究として,Mednick, Gabrielli & Hutchings(1984)54)がある。

 Mednick, Gabrielli & Hutchings(1984)54)は,表 1 と図 7 のように,集計された結果を基にして,「犯罪

の原因の一部は遺伝である(partial genetic etiology)」

(Mednick, 1984:p.892)と結論づけている。これに対

して,Gottfedson & Hirschi(1990)16)が,Mednick のデータ分析には誤りがあると激しく批判したことは 有名で,これに対してRowe(2002)55)は,「私はデン マークでも,地方においては,養子の犯罪行動に遺伝 は影響しないとするGottdfedson & Hirschiの結論を信 じない。スウエーデンや米国で行われたその他の養子 研究も,犯罪性向の遺伝的伝達(genetic transmission) を支持している(Bohman et al., 198256)Cloninger et

al., 198257)Cadoret et al., 199558)Rowe, Almeida &

Jacobson, 199059))。」(津富訳,2009:p.34)との見解を 示している。 表 1 実父と養父にわけたときの刑法犯によって有罪 判決を受けた養子(男子)の割合 図 7 表 1 を図示したもの  双生児研究は,行動遺伝研究デザインの中で数多く 用いられており,非行性や犯罪性の遺伝率についても 相当な文献が積み上げられている。Rhee & Waldman

(2002)60)によれば,独立に行われた 42 個の双生児研究 と,10 個の養子研究に対してメタ分析を行ったところ, パーソナリティ特性であるところの攻撃性と反社会的行 動は,同程度・中程度の遺伝的影響を持つことがあると している。  Lyons(1996)61)は,ベトナム戦争に従軍した双生児の 自己報告型の非行・犯罪調査について分析を行い,遺伝 と環境が犯罪行動に及ぼす影響の大きさの比較を行った ところ,15 歳未満の犯罪行動については環境による効果 のほうが,15 歳以上の犯罪行為については遺伝による効 果のほうが大きいとしている。

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め結果(10 個の犯罪歴の双生児間の一致率,6 個の非行 歴の双生児間の一致率)を紹介している。表 2-1(非行 歴)と表 2-2(犯罪歴)は,Ishikawa & Raine(2001)62) の結果を筆者が集計したもので,図 8 は,表 2-1 と表 2-2 の一致率を図示したものである。表 2-1 と表 2-2 か ら,非行歴の場合,一卵性双生児(遺伝要因と環境要因 が双生児間でほぼ同じと推定)と二卵性双生児(環境要 因は同じ遺伝環境はある程度異なっていると推定)の差 異(15.7 %)が小さい一方で,犯罪歴の場合は,双生児 間の差異(22.1 %)が大きくなっていることがわかる。 これは,Lyons(1996)61)の研究結果と同じ傾向を示す もので,生育環境や生活環境が少年非行に及ぼす影響の 大きいことと,加齢に伴って双生児間でお互いの生活環 境が大きく変化することで,少年時代の生育環境の影響 は減退し,むしろ遺伝による効果が残存しやすくなるこ とを示している。 表 2-1 双生児間の非行歴の一致度 表 2-2 双生児間の犯罪歴の一致度 図 8 一卵性双生児と二卵性双生児の非行歴犯罪歴別の一致率 10 まとめ

 Loeber & Farrington(2014)10)は,年齢犯罪曲線の形 成に影響を与えている要因として 10 個の要因を挙げて いる(①自己統制力の個人内の変化,②脳の成熟,③社 会認識の変化,④生活面での危険因子(破壊行動や非行) と保全因子,⑤家庭,友達関係(不良交友),学校生活, ⑥精神疾患と物質への依存,⑦重要なライフイベント (結婚や就職),⑧犯罪への機会・接近因子,⑨近隣の生 活環境(不良な生活環境),⑩公的機関からの指導や介 入)。このうち,①,④,⑤及び⑨については,年齢犯罪 曲線を押し上げる要因と考えている。また,①と②につ いては,これまでのいくつかの研究結果からして,他の 要因よりも強く影響しているものとして注目すべきと述 べている(Loeber & Farrington, 201410)p.14)。  近年,脳科学や神経科学は測定技術の向上に伴い,急 速に多くの成果をもたらしており,特に社会学の理論を 中核としていた米国の犯罪学は,大きく変貌を遂げよう としている(赤羽,201763))。山口(2015)64)は,「少年 という存在は,通常,25 歳程度までは類型的に認知統制 機能が脆弱であり,衝動的行動を制御する能力が未成熟 であるとするのが,今世紀の脳科学・精神科学の発見で ある」(山口,2015:p.37)と言明し,少年法の目的の再 考を提案している。  ただし,脳科学や神経科学が,非行・犯罪行動を含む すべての人間の判断や行動のメカニズムを説明する時代 が到来すると言っているわけではない。友田(2017)49) の論文では,カード当てゲームをしている子どもたちの fMRIを用いて脳の活性化領域の研究について紹介して いる。つまり,特徴的な判断や行動を行う状況や場面を 把握した上で,脳画像の収集や各種生理学的な検査を実 施することに意味があるのである。これまでどおり認知 過程や行動様式に詳しく焦点を当てようとする心理学的 な視点や知見はやはり重要であり,脳科学者・生理学者 と心理学の研究者が共同研究する必要性が飛躍的に高 まっている。

 Baker, Bezdjian & Raine(2006)65)は,「行動の遺伝 子について理解が深まるほど,環境の重要性があらため て認識される。」(p.44)と,脳の可塑性や適応力との関 係から,環境との相互作用の捉え方の重要性を示唆して いる。したがって,犯罪心理学の研究者は,脳科学・神 経科学の長足な進展から従来の心理学の研究手法が取り 残されないためには,ただ単に最新の脳科学の研究動向 を座視するだけではなく,これまで以上に人間の認知・ 行動レベルの査定・測定方法の精度を向上させるための 工夫・努力をするとともに,脳科学者や神経生理学者と の協働を通じて,これまでにはできなかった新たな研究 手法や研究テーマを追い求めていくことになると思われ る。  特に,非行・犯罪の研究の場合,研究対象者の人権や プライバシー,研究への協力依頼や同意の得方等,倫理 的な制約が小さくないが,Hirschiの低自己統制理論が 犯罪の一般理論を追い求めることの重要性を指摘したよ

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うに,非行や犯罪もヒトの行動の一つでしかなく,他の 研究分野とはっきりと色分けされることはむしろ弊害と 思われる。その点,年齢犯罪曲線は,本稿で見てきたよ うに,脳の発達,性ホルモンとの関連性,発達心理学の 知見と深く関連しており,興味深い重要な研究テーマで あることに間違いはない。また,河野(2018)66)は,青 年期特有の発達的特徴を考慮した上で,自己破壊的行動 の関連要因について検討する場合,年齢犯罪曲線の存在 を忘れてはならないことを指摘している。  ヒトの犯罪性は青年期の中期にそのピークを迎えた 後,成人期前期に急激に減少し,その後は安定した減少 傾向を示すという事実について,Gottfedson & Hirschi

(1990)16)は,「容赦ない事実こそ,犯罪を行う人たちの 年齢分布である」(大渕訳,2018:p.119)と結論づけて いる。年齢犯罪曲線は,ヒトの社会的な逸脱行動の生起 率は,たとえ一度は上昇しても加齢と共に必ず下降(改 善する,緩和する)という厳然とした事実を提供してお り,犯罪者の予後に対して否定的になりがちな我々に対 して,「犯罪者にはどの年齢においても再起の可能性を 残している」ことを示唆しているものと捉えられる。  Gottfedson & Hirschi(1990)16)は,「例えば,家族,学 校,親交パターンの効果は,常に,それらの影響域内の 人々の犯罪行動を低減させる方向を指している。家族, 学校,親交の規制的影響を最も必要としている人はそれ らの影響域外にいる傾向があり,それこそが大きな問題 である。」(大渕訳,2018:p.153)と身近な者との人間関 係や地域社会から犯罪者を排除したり,孤立させたりす るのではなく,彼らが必要としている人たち(親族や友 人,指導・監督者)の影響下に置くことが再犯を防ぐ上 で,最も重要としている。また,Hirschiの低自己統制理 論では,たとえ自己統制力が低く,非行・犯罪に陥りや すい者(例えば,生涯持続型の犯罪者)でも,外的な統 制を強く受け続けている間は,再犯しにくいことをはっ きりと認めている。  以上,最近の年齢犯罪曲線に関する研究を概観すれ ば,再犯防止のためには,非行少年や犯罪者に対して, より厳しい処分やより長い身柄の拘束によって再犯予防 の効果を上げようとするよりも,長期的な視野に立っ て,支援や指導がいつでも受けられる枠組みから逸脱し ないようにさせながら,Sampson & Laub(1993)39) 提案しているソーシャルキャピタルの蓄積を果たさせる ことが最も効果的であり,更生への近道と思われる。 【引用文献】 1)法務総合研究所 2018 平成 30 年版犯罪白書 法 務省法務総合研究所 http://www.moj.go.jp/housouken/houso_hakusho2. html(2019 年 1 月 28 日取得).

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―Sampson & Laubの検討― 大阪教育大学教育研

究所報,35,37-50. 42)白井利明・岡本英生・福田研次・栃尾順子・小玉彰 二・河野荘子・清水美里・大田貴巳・林幹也・林照 子・岡本由実子 2001 非行からの少年の立ち直り に関する生涯発達的研究(Ⅱ)―ライフヒストリー の分析― 大阪教育大学教育研究所報,36,41-57. 43)白井利明・福田研次・岡本英生・栃尾順子・柏尾眞 津子・妹尾隆史・小玉彰二・木村知美・宝めぐみ・ 本歩・田中亮子 2002 非行からの少年の立ち直 りに関する生涯発達的研究(Ⅲ):リスク因子から の回復のライフヒストリー 大阪教育大学教育研究 所報,37,35-54. 44)白井利明・岡本英生・河野荘子・安部晴子・木村知 美・近藤淳哉・北野亜也子 2003 非行からの少年 の立ち直りに関する生涯発達的研究(Ⅳ)―わが国 における縦断研究の展望― 大阪教育大学教育研究 所報,38,7-16. 45)白井利明・岡本英生・栃尾順子・河野荘子・近藤淳 哉・福田研次・柏尾眞津子・小玉彰二・木村知美・ 宝めぐみ・ 本歩・田中亮子 2005 非行からの少 年の立ち直りに関する生涯発達的研究(Ⅴ):非行 から立ち直った人への面接調査から 大阪教育大学 紀要 第Ⅳ部門 教育科学,54(1),111-129. 46)白井利明・岡本英生・小玉彰二・近藤淳哉・井上和 則・堀尾良弘・福田研次・安部晴子 2011 非行か らの少年の立ち直りに関する生涯発達的研究(Ⅵ) ―「出会いの構造」モデルの検証 大阪教育大学紀 要 第Ⅳ部門,60(1),59-74. 47)友田明美 2016a 小児の虐待―脳科学的な解析か ら― 小児科臨床,69(10),1613-1622. 48)友田明美 2016b 被虐待者の脳科学研究(特集  子ども虐待とケア)児童青年精神医学とその近接領 域,57(5),719-729 49)友田明美 2017 脳科学・神経科学と少年非行:Ⅰ  課題研究 脳科学と少年司法 犯罪社会学研究, 42 ,11-18.

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事象を考える―松木・齋藤論文へのコメント 青年 心理学研究,30,58-61.

A discussion of crime and delinquency by age-crime curve

Kiyofumi Koita

Summary

This research investigated the ratio of juvenile delinquents who became convicts by using public

criminal statistics to examine the continuity between juvenile delinquency and adult crime. Moreover, after

surveying research within and outside of the country on the age-crime curve, this research overviewed the

research trends in the latest developmental and life-course criminology and biosocial criminology as well

as knowledge on brain science. The research on the age-crime curve is an interesting research area deeply

related to human development and social maturity, and it is considered an important research area that

requires integrated and interdisciplinary examination upon understanding social deviant behavior and

considering how to respond to it.

Keywords: age-crime curve, developmental and life-course criminology, Adolescence-Limited,

Life-Course-Persistent, biosocial criminology

参照

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