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網膜変性疾患の原因遺伝子の探索に関する研究 利用統計を見る

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網膜変性疾患の原因遺伝子の探索に関する研究

著者

押川 未央

学位授与大学

東洋大学

取得学位

博士

学位の分野

工学

報告番号

甲第232号

学位授与年月日

2009-03-25

URL

http://id.nii.ac.jp/1060/00003955/

Creative Commons : 表示 - 非営利 - 改変禁止 http://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/3.0/deed.ja

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2008年度

網膜変性疾患の原因遺伝子の探索に関する研究

東洋大学大学院工学研究科博士後期課程

 バイオ・応用化学専攻 46BOO50001

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目 次 第一章 序論  1.1緒言_____...  1.2遺伝性網膜変性疾患__..  1.3疾患関連遺伝子の探索法.  1.4網膜色素上皮細胞____  1、5本研究の目的..._  L6本論文の構成__

235689

第二章 ヒト網膜色素上皮細胞株ARPE・19の発現プロフィール解析  2.1 緒言______  2.2 材料と方法__   2.2.1細胞培養およびtotal RNAの抽出   2.2.2ベクタープライマー   2、23 V一キャッピング法によるcDNA合成   2.2.4cDNAライブラリーの作製   2.2.5プラスミド抽出とシークエンス   2.2.6BLAST検索およびアノテーション   2.2.7 遺伝子総数の概算   2.2.8定量的リアルタイムPCR  2。3 結果______   2.3」cDNAライブラリーの概要   2.3.2完全長cDNAの評価   2.3.3発現プロフィール解析   2.3.4ライブラリーが含有する遺伝子総数の概算   2.3.5転写開始点の解析   2.3.6長鎖転写産物の解析   2.3.7完全長cDNAのクu−一ンの取得数とmRNA含有量との相関   2.3.8未登録転写産物  2.4 考察_______  2.5 結言_____シシー“.... ,15 .17 ..20 ..27 ..29

(5)

3.2 材料と方法._____..一一_._._  3.2.1タンパク質をコードする新規転写産物の探索  3.2.2細胞培養およびtotal RNAの抽出  3,2.3 RT−PCRによる細胞特異性解析  3.2.4GFP融合タンパク質による局在解析  3.2.5UniGeneデータベース検索 33 結果_____.....  3.3.1新規遺伝子候補の取得  3.3.2アミノ酸配列解析  3.3.3RT−PCRによる細胞特異性解析  3.3.4GFP融合タンパク質による局在解析  3.3.5UniGene・EST・ProfileViewerによる発現プロフィール解析 3.4 考察______.______.______.__._______._... 35 結言______..._______.._._____._.______..._ ..48 ,,50 ..55 ,,57 第四章 Arylsulfatase 1の機能解析  4.1 緒言______.______.______.___.__一一.___  4.2 材料と方法_____._.____.________.____   4.2.l cDNAスクリーニング   4.2.2RT−PCRによる細胞特異性解析   4.2.3UniGeneデータベースによる発現プロフィール解析   4.2.4発現ベクターの構築   4.2.5部位特異的変異導入   4.2.6細胞培養   4.2.7 遺伝子導入   4.2.8免疫細胞化学   4.2.9 タンパク質抽出液の調製   4.2.10ウェスタンブロッティング   4.2.11アリルスルファターゼアッセイ  4.3 結果______..._____._.._____.______..__._,   4.3.1スルファターゼ関連遺伝子のcDNAの取得   4.3.2ARSIの発現プロフィール解析   43.3ARSI発現ベクターの作製   4.3.4ARSIの細胞内局在解析   4.3,5FLAG融合タンパク質の検出

缶㈲

..72

(6)

  43.6ARSI誘導体タンパク質の検出   43フ細胞抽出液のアリルスルファターゼ活性   43.8培養上清のアリルスルファターゼ活性  4.4 考察___一一  4.5 結言_____._______._.____.______..___...__、___『 第五章 網膜色素変性症患者におけるarylsulfatase 1遺伝子の変異探索 :1籠三:::::::::::::::::::::::::::::::::::::1:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::1::::::::::::   5.2.1被験者   5.2.2DNAサンプルの調製   5.2.3 塩基配列解析  5.3 結果__.____._____. 5.3.1 。ryl,ulf。,。、el遺伝子元;二繊㌫“…”…’’’’’’’’’’””””’’’’’”シt−  5.4 考察__.___.______.______._____.__.___.._____.,  5.5 結言._____.______.___.____.__.______.______,。.. 第六章 総括______一..一一_______.______.______.______.._ 参考文献______.______....______.______.______._____. 調寸舌辛...㊨............................................今........台.....................◆シ.ひ’◆◇............,...............◆.◆、...............

8278

78

9Qノ

99 O0 O1

  1 

1 5 0 1

9801

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第一章

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1.1緒言

 1990年に国際研究コンソーシアムのヒトゲノムプロジェクトが開始され、民間の米セレラ・ ジェノミクス社と互いに競いながらゲノム解読を進め、その結果ヒトの遺伝子の総数が明らか になってきた。当初、ヒトの遺伝子数は10万個を超えると推測されていたが、2001年の段階 でヒトのゲノムは3万から4万個の遺伝子をコードしているにすぎないという研究結果が発表 された12)。2003年4,月には約1%の配列を除く全塩基配列の解読が完了し、より精度の高いヒ トゲノム地図が作製された。その結果、タンパク質をコードするヒトの遺伝子数は2001年の予 測よりもさらに少ない2万から2万5千程度であることが分った3)。またmRNAを鋳型に作ら れた完全長cDNAの解析もゲノム研究において非常に重要であり、ゲノムプロジェクトと並行 してcDNAの収集が進められた。これはまずマウスについて先攻し、2001年に理化学研究所の Functional annotation of Mouse(FANTOM)コンソーシアムがマウス遺伝子のエンサイクロペデ ィアを作成した45)。ヒトについてもそれを追う形で整備され、2004年には約21,㎜クローン の完全長cDNAが発表された6・7)。  ゲノム解読の進捗に伴い、ゲノムワイドで一度に大量の遺伝子を解析できる様々な技術が求 められ開発されてきた。例えばDNAマイクロアレイはスライドグラスやシリコン、ナイロン メンブレンなどの基板上にDNAを固定し、ハイブリダイゼーション法により相補的なDNAま たはRNAを定量的もしくは定性的に解析できる手法である819)。また最近では、エマルジョン PCR法やブリッジPCR法を利用し、一度に数百万から数十億の塩基配列の解析を可能とする 超ハイスループットな次世代シーケンサーが次々と開発され、ゲノムやトランスクリプトーム の解析に威力を発揮している10,11)。  ゲノムや遺伝子の研究における最も重要な目的の一つは、疾患の原因を同定することである。 大規模な遺伝子解析ツールは、遺伝子発現解析や一塩基多型または塩基変異などの検出効率を 飛躍的に向上させ、疾患関連遺伝子の同定を促進させてきた12−15)。実際、ヒト遺伝性疾患デー タベース(Online Mendelian lnheritance in Man;OMIM)16)への登録件数はゲノムの情報が出揃っ た2㎜年頃にピークを迎えており、現在で}ま約6,㎜の疾患表現型と12,㎜を超える遺伝子が 登録されている。また、ヒトDNA変異データベース(Human・Gene・Mutation・Database;HGMD)17) への登録件数は現在に至るまで衰えず、2008年3月現在、3,159遺伝子から83,729の変異が登 録されている。  数多くの遺伝子変異が報告されているにも関わらず、それらの変異が引き起こす病態や症状 の分子メカニズムはほとんど解明されていない。また変異の存在する遺伝子座は特定されてい ても遺伝子自体がクローニングされていない場合もある。発症の分子メカニズムを理解するた めには疾患遺伝子をクローニングし、機能を明らかにする必要がある。また遺伝子は単独で機 能しているのではなく、様々な因子が相互作用して働いている。そのため、細胞内で発現して

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1.2 遺伝性網膜変性疾患  眼は動物の持つ五感(視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚)のうちでも特に重要な感覚器官であ り、外界から得る全情報の約80%を担っているといわれている。眼球の一番内側の層である網 膜は視細胞をはじめとする様々な神経細胞が存在し、視覚情報の伝達において最も重要なとこ ろである(Figure l−1)。また、眼は他の臓器に比べ遺伝性疾患が多く発症することが知られてお り、OMIMに登録されている約6,㎜種類の疾患のうち、3分の1は何らかの徴候が眼に現れ る。遺伝性の眼疾患の中には治療が困難で失明に至るものも多く、網膜色素変性症(retinitis pigmentosa;RP)もそのような難治性疾患の1つであり、発症の原因解明や治療法の開発が強く 望まれている。  RPは遺伝性網膜変性疾患の中で最も発症頻度の高い疾患であり、人種の差はなく4,㎜人に 1人の割合で発症し、全世界で100万人以上の患者がいると推定されている18)。RPは進行性の 視細胞の変性・減少による網膜機能低下と網膜色素上皮を含む網膜全体の萎縮を呈する一連の 疾患群を指す19)。遺伝形式には常染色体優性、常染色体劣性、X連鎖性劣性遺伝があり、さら にperipherin/RDS(PRPH2)とretinal outer segment membrane protein l(ROMI)が関与する2遺 伝子性遺伝も報告されている2°)。日本では家族歴の認められない散発例が最も多いが、遺伝傾 向が認められない場合でも遺伝子に異常があると考えるのが一般的である。  近年、遺伝子解析技術の進歩により様々な疾患の原因遺伝子が同定されており、ウェブサイ トのRetNet(http:〃wwwsph.uth、tmc.edu/Retnet/)にはRPや黄斑変性、アッシャー症候群等の遺 伝性網膜疾患に関連する遺伝子の情報が掲載されている(Table l−1)。それらの中には染色体上 へのマッピングはされているが、まだクローン化されていない遺伝子もある。これまでに同定 されているRPの原因遺伝子は視細胞や網膜色素上皮細胞など網膜細胞に特異的に発現してい るものが多く、光受容体タンパク質のrhodopsin(RHO)や視細胞外節円盤の構造維持に必須の タンパク質であるperipherin/RDS(PRPH2)、光伝達に関係するrod cGMP phosphOdiesterase beta subunit(PDE6B)など視細胞の機能に重要な働きをする遺伝子が含まれる。 RP原因遺伝子のほ とんどは欧米で発見されたものであり、RHOは欧米人の常染色体優性RPの主要な原因遺伝子 となっている(20−25%)21)。一方、日本ではarrestin(SAG)22)とguanylate cyclase−activating protein 2(GUCAIB)23)、 retinal fascin(FSCN2)24)などが発見されているが、日本人の主要なRP原因 遺伝子は報告されていない。これらの遺伝子の変異はRPの原因になるだけではなく、PRPH2 やGUCAIBas)、 FNCN225)は黄斑変性、 PDE6BやRHO、 SAG26)はRPの類縁疾患である先天停止 性夜盲の原因遺伝子にもなっている。その他のRP原因遺伝子もcone−rodジストロフィーや非 定型網膜色素変性症の一つであるLeber先天性黒内障(Leber’s congenita1 amaurosis;LCA)など 様々な網膜疾患に関与している。  種々の網膜変性モデル動物において、塩基性線維芽細胞増殖因子(basic fibroblast growth factor;bFGF)や毛様体神経栄養因子(ciliary neurotrophic factor;CNTF)、脳由来神経栄養因子 (brain−derived neurotrophic factor;BDNF)の硝子体への注入は視細胞の保護に有効であることが

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証明されており27,28)、ヒトでの臨床試験も行われている29)。しかし、これらの方法は疾患の根 本的な原因を断つものではなく、また変性した視細胞を回復することは出来ない。  遺伝子の変異が原因となる網膜変性疾患には遺伝子治療が有効であると考えられ、これまで に多くの研究が行われている。欧米では、PRPH2に変異を持つマウスやRPE65をノックアウ トしたイヌを用いたRP疾患モデル動物における遺伝子治療の実験で、視細胞の機能が回復し たという例が報告されており、RPにおける遺伝子治療の有効性が証明されてきている3°31)。さ らに最近では、RPE65の変異を有するLCA患者において、遺伝子治療による視機能の回復が 報告され32・33)、将来的に遺伝性網膜変性疾患の治療法として遺伝子治療が行われることが期待 される。

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L3疾患関連遺伝子の探索法

 疾患原因遺伝子を同定する方法は、主にファンクショナルクローニング、ポジショナルクロ ーニング、および候補遺伝子アプローチの3つのアプローチ法に分けられる。1980年以降の分 子生物学の進歩により、遺伝性疾患の分子レベルでの解析が可能になると、まずファンクショ ナルクローニングを中心として疾患の原因遺伝子が単離されるようになった。  ファンクショナルクローニングは疾患を引き起こす原因タンパク質が知られているような機 能既知のものに応用されてきた手法で、タンパク質のアミノ酸配列を利用してDNA配列を推 察し、疾患原因遺伝子を遺伝子ライブラリーからスクリーニングする。このような手法はフェ ニルケトン尿症などの先天的代謝異常疾患で成果を挙げてきた34)。しかし、多くの遺伝子疾患 において生化学的な異常がはっきりと同定されないことも多い。  1980年代後半にはポジショナルクローニングや候補遺伝子アプローチという手法が主流と なり、疾患の生化学的異常が不明であっても原因遺伝子のクローニングが可能になった。ポジ ショナルクローニング法ではまず遺伝性疾患を有する家系を収集し、遺伝子マーカーを用いた 連鎖解析に基づき疾患原因遺伝子の染色体座位を決定する。そのため、ポジショナルクローニ ングはメンデル遺伝性を示す疾患の原因遺伝子検索に威力を発揮し、嚢胞性繊維症や網膜芽細 胞腫などほとんどの単一遺伝子疾患の原因遺伝子を同定している35,36)。  候補遺伝子アプローチは「ある組織に特異的に発現される遺伝子に異常が起きれば、その組 織に病気が起こることが予想できる」という前提の下、疾患に関連する可能性のある候補遺伝 子を選定し、遺伝子ライブラリーの情報を駆使して対象患者の遺伝子の塩基配列を徹底的に分 析する方法である19)。罹患者にのみ異常が認められた場合には、その候補遺伝子を原因遺伝子 として確定できる。この手法を用いて、原因遺伝子が多数存在する肥大性心筋症の他、様々な 疾患の原因遺伝子が見つかっている37・38)。  ヒトゲノムの配列が明らかとなった現在では、効率的に原因遺伝子を検索するために、ポジ ショナルクローニングと候補遺伝子アプローチを組み合わせたポジショナルキャンディデート (位置的候補遺伝子検索)法も用いられている。すでにヒトゲノム配列が判っているため、デ ータベースからexpressed sequence tag(EST)や完全長cDNAの配列を検索することで遺伝子を 染色体上にマッピングすることができ、さらに遺伝子の網羅的な発現情報をデータベースから 得ることで、迅速に候補遺伝子を選定することが可能である。

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1.4 網膜色素上皮細胞  網膜の構造を模式的に示すと、強膜側から硝子体側に向かって網膜色素上皮層(retinal pigment epithelium; RPE)、光受容層(photoreceptive layer)、外境界膜(outer limiting membrane)、 外穎粒層(outer nuclear layer)、外網状層(outer plexiform layer)、内穎粒層(inner nuclear layer)、 内網状層(inner plexiform layer)、神経節細胞層(ganglion cell layer)、視神経繊維層(optic nerve fiber layer)、内境界膜(inner limiting membrane)の10層に分けられる(Figure 1−1)。このうち 最も外側の色素上皮層を除き、硝子体側の9層は感覚網膜とよばれる。  RPEは視覚情報の伝達には直接関与しないが、網膜の構造を支える重要な機能を担っている。 RPEの主な機能を列挙すると、(i)網膜への栄養および代謝物質の輸送、(ii)血液網膜関門、(iii)網 膜下腔の水分吸収のポンプ作用、(iv)ムコ多糖の生合成、(v)光の吸収と散乱の防止、(vi)ビタミ ンAの貯蔵と視物質の再合成、(vii)視細胞外節の貧食、などがある39・40)。  網膜には網膜中心動静脈から分岐した血管が硝子体側から内頼粒層にかけて分布しているが、 外網状層からRPEには血管が存在しない。そのため、この無血管性の領域は栄養の供給を脈絡 膜に頼っている。さらにRPEの細胞間はtight junctionで結合し、外血液網膜関門として脈絡膜 から網膜下腔への物質輸送は高分子物質が入り込まないように選択的になっている。RPEは脈 絡膜から網膜外層に栄養を供給する一方、網膜下腔の水分を脈絡膜に送り、感覚網膜内のイオ ンや神経伝達物質などの微小環境を維持している。  感覚網膜側のRPE頂部の突起には視細胞外節を囲む円柱鞘と網膜下腔に伸びる微絨毛があ る。RPEと感覚網膜とは特別な接合構造はないが、 RPEは網膜下腔のムコ多糖体を生合成し、 視細胞との間に接着能を持たせている。また、感覚網膜が透明な組織であるのに対し、RPEは メラニン穎粒が多数存在する色素細胞であり、視細胞外節を通過した光を吸収して光が視細胞 外節へ反射するのを防いでいる。  視覚情報伝達を行うためには光エネルギーを吸収する視物質が必要であり、視物質の合成と 分解は視細胞とRPEが連係して行っている。視物質とは視細胞外節に存在し、光を吸収して 受容器電位を発生させるオプシンと呼ばれる感光色素タンパク質のことであり、ヒトの場合発 色団として11−cis一レチナールがシッフ結合している。視細胞には明暗を認識する暗所視の桿体 と色を識別する明所視の錐体があり、それぞれの視細胞は吸収波長の異なるオプシンを生産す る。RPEには幾つもの機能があるが、光伝達に関して最も重要なのは脈絡膜から取り込んだビ タミンAを滑面小胞体に貯蔵し視細胞に供給することと、視細胞のオプシンから解離した不活 性型のa11−trans一レチノールから活性型の異性体である11−cis一レチナールを再生させるための酵 素を含んでいることである。脊椎動物のRPEと桿体視細胞外節におけるレチノールの代謝を Figure l−2に示す41)。  視細胞外節は不飽和脂肪酸に富み、容易に過酸化を受けやすくなっている。光暴露によって

(13)

いる。RPEに接している視細胞外節の十数枚の円盤i膜は外節から脱落し、 RPEに(食)食作用 (phag㏄ytosis)で取り込まれる。取り込まれた円盤膜はファゴソーム(phagosome)となり・リ ソソーム(lysosome)の各種の分解酵素によって分解される。オプシンはアミノ酸レベルまで、 脂質も脂肪酸レベルまで分解されると再び視細胞外節に運び込まれ、大部分は視物質として、 または円盤膜の脂質として再利用される。  外節の円盤膜は1個の視細胞に約1000枚程度あり、1日平均100枚から120枚程度脱落し、 これと同じ数の円盤膜が視細胞で新しく合成され外節の基部に追加される。この計算でいくと、 10−12日で全ての円盤膜が新しいものと入れ代わることになる。  このように網膜の視細胞は光の暴露によって損傷するため、絶えず新生を繰り返さなければ ならない。その代謝を支えているのがRPEであり、網膜の機能維持に必須の細胞である。実際 に、受容体型チロシンキナーゼ遺伝子(c−mer proto−oncogene tyrosine kinase;MERTK)は growth−arrest−specific protein 6(Gas6)をリガンドとして視細胞の外節と結合し、アポトーシス細 胞に特有の細胞表面上に露出したホスファチジルセリンを認識してマクロファージによるアポ トーシス細胞の食食を仲介する42)。このMertkに変異を持つラットを用いた実験では、 RPEが 視細胞の外節を食食できなくなり老化した円盤膜が蓄積した結果、視細胞がアポトーシスを引 き起こすことが知られている43)。また視物質の代謝に関与するcellular retinaldehyde binding protein l(CRALBP)もRPの原因遺伝子であることが報告されている“)。

(14)

L5 本研究の目的

 遺伝性網膜変性疾患の原因遺伝子の多くは視物質のロドプシンをはじめとして視細胞で特異 的に発現する遺伝子である。しかし、網膜は視細胞以外にも多くの種類の細胞で構成されてお り(Figure l−1)、これらの細胞由来の原因遺伝子も多数存在すると考えられる。特にRPEは前 述したように視物質の代謝や円盤膜の分解・再生に重要な役割を果たしており、これらの機能 が障害されるとRPを発症することが分っている。しかし、これまでの網膜変性疾患の原因遺 伝子探索は視細胞を中心に行われており、RPEではほとんど行われていない。そのため、 RPE には未だ同定されていない網膜変性疾患に関連する遺伝子が存在するものと考えられる。  そこで本研究では、前述した候補遺伝子アプローチの手法によりRPEで特異的に発現してい る遺伝子の中からRPを含めた網膜変性疾患の原因遺伝子を探索することを目的とした。まず、 本研究室で作製したヒト網膜色素上皮細胞株ARPE−19由来完全長cDNAライブラリーの網羅的 な発現遺伝子解析を行い、詳細な発現プロフィールを作製した。取得した完全長cDNAの中か らRPEに特異的または優位に発現している遺伝子を探索し、その遺伝子を原因遺伝子候補とし てRP患者のゲノムDNAを用いて候補遺伝子の変異探索および機能解析を行った。

(15)

1.6 本論文の構成  本章では疾患研究におけるヒトゲノム解析の意義と、遺伝性疾患の原因遺伝子を同定するこ との重要性を述べた。ゲノムおよびcDNAの膨大な情報が得られるようになった現在も、原因 遺伝子が同定されていない遺伝性網膜変性疾患が数多くあることから、それらの原因遺伝子を 探索することを目的とした。  第二章では網膜疾患の原因遺伝子の探索に先立ち、網膜色素上皮細胞株ARPE−19の完全長 cDNAライブラリーの作製と評価について述べる。国立障害者リハビリテーションセンター研 究所障害工学研究部にて開発されたベクターキャッピング法を用いて完全長cDNAライブラリ ーを作製し、取得したcDNAクローンの網羅的な5’末端部分塩基配列解析から詳細な発現プロ フィールを作製した。  第三章では、ARPE−19細胞の発現プロフィールから網膜色素上皮細胞に特異的または優位に 発現する遺伝子を逆転写PCR法およびコンピューターでの解析により選別し、これまでに機能 が解明されていない遺伝子についてアミノ酸配列解析およびGFP融合タンパク質による解析 を行なった。その結果、スルファターゼの一種であるarylsulfatase I(ARSI)の完全長cDNAを 取得し、これを網膜変性疾患の原因遺伝子候補とした。  第四章ではARSIの機能解析にっいて述べる。一般にスルファターゼはリソソームに局在し、 プロテオグリカンや硫脂質などの硫酸エステルを加水分解する酵素群である。本章ではARSI の局在解析と低分子の芳香族基質を用いたアリルスルファターゼ活性測定を行い、ARSIが酸 性のリソソーム酵素ではなく中性の分泌型のスルファターゼであることを示す。  網膜色素変性症の患者において遺伝子の変異が見いだされる場合、その遺伝子が疾患に関与 する可能性が高まる。そこで第五章では、日本人網膜色素変性症患者68名のゲノムDNAの塩 基配列解析を行い、ARSI遺伝子の変異探索を行った。  最後に第六章において、本研究で得られた結果を総括し、将来の展望について述べる。

(16)

(a) 一BrOch membrane

 1\

1. Retinal Pigment Epithelium  (RPE) 2.Photoreceptive layer   (Outer segment)   (lnner Segment) 3.Outer limiting membrane 4.Outer nuclear Iayer 5.Outer piexiform layer 6.lnner nUCIear iayer 7」nner plexiform layer ]8・・Gangli・n・cell・1・y・・

ユニ蒜i=。,

Figure 1’1. Structure of human retina. (a)retinal pigment epithelial cell,(b)cone photoreceptor cell,(c)rod photoreceptor cell, (d)bipolar cell,(e)horizonta1 cell,(f)amacrine cell,(g)MUIIar cell,(h)ganglion cell.

(17)

Table 1・1. Gene and locus symbOls by retinal disease category(one or more diseases per gene/10cus).

Disease Ca!e o Ma ed Loci(not ldentified) Ma ed and ldentified Genes

Bardet−Biedl syndrome, autosomal recessive none ARL6, BBSI,BBS2, BBS4, BBS5, BBS7,

BBS9, BBS10, BBS12, MKKS, TRIM32,

TTC8

Chorioretinal atro h or de eneration autosomal dominant MCDR1 RGR, TEADI

Cone or cone−rod dystrophy, autosomal dominant CORD4, RCD1 AIPL1,CRX, GUCAIA, GUCY2D,

PITPNM3, PROM1,RIMSI,SEMA4A,

UNCI19

Cone or cone−rod dystrophy, autosomal recessive CORD8, CORD9 ABCA4, CACNA2D4, CNGB3,

RAX2, RDH5

KCNV2,

Cone or cone−rod d stro h  X−linked

COD2 COD4

RPGR

Con enital stationa ni ht blindness, autosomal dominant none GNAT1,PDE6B, RHO

Con enital stationa ni ht blindness autosomal recessive none CABP4, GRK1,GRM6, RDH5, SAG

Con enjtal stationa  ni ht blindness, X−linked none CACNA1 F, NYX

Deatness alone or s ndromic autosomal dominant none

WFS1

Deatness alone or syndromic, autosomal recessive none CDH23, DFNB31,MYO7A, PCDH15,

USHtc

Leber con enital amaurosis, autosomal dominant none CRX, IMPDHI

Leber congenital amaurosis, autosomal recessive LCA3, LCA9 AIPLI,CEP290, CRB1,CRX, GUCY2D,

LCA5, LRAT, RD3, RDHt2, RPE65, RPGRIP1,TULPI Macular degeneration, autosomal dominant BCMAD, BSMD, MCDRI,MCDR3, MCDR4, MCDR5, MDDC BEST1,ClQTNF5, EFEMP1,ELOVL4, FSCN2, GUCAIB, HMCN1,PROMI, PRPH2, TIMP3

Macular de eneration autosomal recessive none ABCA4, CFH

Macular de eneration×・linked none

RPGR

Ocular・retinal develo mental disease autosomal dominant none

VCAN

Otic atro h autosomal dominant

OPA40PA5

OPAf

Otic atro h autosomal recessive

OPA6

none

(18)

Table 1・1. continued

Disease Cate o Ma ed Loci(not ldentified) Ma ed and ldentified Genes

Retinitis pigmentosa, autosomal dominant RP33 CA4, CRX, FSCN2, GUCAIB, IMPDH1, NR2E3, NRL PRPF3, PRPF8, PRPF31, PRPH2, RDH12, RHO, ROMI,RP1,RP9, SEMA4A, TOPORS Retinitis pigmentosa, autosomal recessive RP22, RP28, RP29, RP32 ABCA4, CERKL, CNGAI,CNGBI,CRBI, EYS, IDH3B, LRAT, MERTK, NR2E3, NRL, PDE6A, PDE6B, PRCD, PROM1,RGR, RHO, RLBPt,RP1,RPE65, SAG, TULPI,

USH2A

Retin川s i mentosa, X・linked RP6 RP23, RP24, RP34 RP2, RPGR Syndromic/systemic diseases with retinopathy, autosomal dominant

CORD1,CRV

ABCC6, ATXN7, COLIIA1,COL2A1,JAG1, KCNJ13, PAX2, VCAN 口 Syndromic!syStemic diseases with retinopathy, aUtOSOmal reCeSSiVe AXPCI,CORS2, FHASD, JBTS1, LOC61 9531,MRST, WFS2 ABCC6, AHI1,ALMS1,CC2D2A, CEP290, CLN3, COLgA1,INVS, IQCBI, LRP5, MTR NPHP1,NPHP3, NPHP4,0PA3, PANK2, PEXI,PEX7, PHYH, PXMP3, RPGRIPIL, TTPA, WFSI Sndromic/s temic diseases with retino ath X・linked

TIMM8A

Usher syndrome, autosomal reCessive USHIE, USH2B CDH23, CLRNI,DFNB31,GPR98, MYO7A,

PCDH15, USHIC, USHIG, USH2A

Other retinopathy, autosomal dominant CACD, CODA1,EVR3, MCDR4, VRNI BEST1,CRBI,FZD4, LRP5, OPNlSW,

RB1

Other retinopathy, aUtosomal recessive

ACHMI,RNANC

BESTI,CDH3, CNGA3, CNGB3, CYP4V2,

GNAT2, LRP5, MFRR NR2E3,0AT,

PROMI,RBP4, RGS9, RGS9BR RLBPt

(19)

       all−trans・       Re’in°1       ↓ CRALBP     CRALBP       CRALBP

哉縞  繍      a儒瓢’

↓↑  ↓↑      ↓↑

 11’ds・∠←11−RDH、11℃is・      a‖・trans・∠t− LRAT −alトtrans・  Retinat        Retinol      Retinyt         Rθtinol       \ISOMノθste「s 11−cis・ Retinal

lRBP

Retina∫ Pigment Epithθ伽η 5μわ1●〃カaれSρacθ lRBp a

翻’

       月od Oロ句r Sθgmθnr       − lt−cis−      Opsin    Rho     Rho★       all−trans一       ぷ7Retinol

Re伽ヘー一縞=需⇔牝雛』DH

       }

Piasma

MθmbranE

DiSCルfθmbrane Figure l・2. The mammalian rOd visual cycle. Depiction of some of the known reactions involved in regeneration of rOd visual pigmentS. The tip of a rod photoreceptor and one disc membrane are shown with the a(ljacent retinal pigment epithelium(RPE). The enzymes of RPE are shown ass㏄iated with a continuous, internal membrane in the absence of evidence of their 10calization. CRALBP is depicted as an acceptor of 11−cis−retinol or 11−cis−retinal generated by isomerohydrolase or 11−RDH, respectively. Isom, isomerohydrolase;LRAT, lecithin−retinoid acyltransferase;IRB P, interphotor㏄eptor retinoid−binding protein;RDH, photoreceptor retinol dehydrogenase; 11−RDH,11−cis−retinol dehydrogeneses.(Saari JC. Biochemistry of visual pigment regeneration. The Friedenwald Lecture.1nvest Ophthalmol Vis Sci.2000;41:337−348)

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       第二章

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2.1緒言

 ヒトゲノムプロジェクトの終了により、ヒトを構成する遺伝情報の総体が明らかとなった13)。 ポストシークエンスでは、ゲノム上に記された全ての遺伝子および遺伝子がコードするタンパ ク質の全貌を解明していくことが求められている。そのためには、すべての転写産物について プロモータ領域を決定し、どのように転写制御されているのか、またどの遺伝子がどの細胞で どのくらい発現しているのかを知ることは重要である。また個々の細胞や組織における遺伝子 ネットワークを解明することは、生態学や病理学の分子メカニズムを理解するための大きな手 がかりとなる。  近年、種々の完全長cDNA合成法45−48)やDNAマイクロアレイによるハイブリダイゼーショ ン法9,49)、Serial Analysis of Gene Expression(SAGE)などのタグシークエンス法50.53)が開発され、 完全長の転写産物6,7,M)および発現プロフィール55.57)の大規模解析が行なわれてきた。その結果、 選択的転写開始点ss)、選択的スプライシング57)および選択的ポリアデニル化6°)によって、同一 の遺伝子座から複数の転写産物が生成されていることや、多数のアンチセンスRNA61162)または 非翻訳RNA6・7)が存在することが明らかとなった。さらに、ゲノムタイリングアレイなどの解析 から63胸、いまだ相当な数の転写産物がデータベースに登録されていないことが示された。  包括的に遺伝子を収集するために、これらの情報は様々な細胞や組織から蓄積されてきたが、 今後は転写制御ネットワークを解明するために、単一種の細胞におけるより詳細な解析が必要 である。しかし、これまでに用いられてきたcDNAライブラリー作製法では多様な転写産物に は対応できない。さらに同一の遺伝子座から転写される産物が複数存在し、それぞれアイソフ ォームが異なる機能を有している場合、それらを個別に解析する必要が生じる。Expression sequence tag(EST)やDNAマイクロアレイによる従来の解析法では、細胞に発現する全てのア イソフォームの全塩基配列があらかじめ判っていないとそれらのアイソフォームを区別するこ とはできず、詳細な解析を行なうには不十分である。これらの問題はバイアスのない完全長 cDNAライブラリーを作製することによって全ての転写産物が取得可能となるため、解決する ことができる。しかし、発現量の少ない希少遺伝子や長鎖の遺伝子の発現量を変化させずに、 完全長cDNAライブラリーを作製することは非常に困難である。  すでに述べたように、完全長cDNAを合成する方法はいくつか考案されており、原理に基づ いて次に示す4つの方法に大別することができる。  テーリング法はmRNAのキャップ部位まで伸長した第一鎖cDNAに、末端転移酵素によって ホモオリゴマーを付加する方法である65・66)。ただし、付加するヌクレオチドの数を厳密に制御 することができないため、数が多すぎると塩基配列の解析が困難になる。また分解したmRNA からも不完全なcDNAが合成されるので、完全長かどうかの判定はできない。

 アンカーライゲーション法は第一鎖cDNAを合成後、アルカリ処理やRNaseHによって

mRNAを分解し、一本鎖となったcDNAの3’末端に配列既知のオリゴヌクレオチドアンカーを T4 RNA ligaseを用いて連結した後、 PCRによって増幅する方法である67)。 T4 RNA ligaseによ

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るDNA同士の結合活性が低いことや、 PCR反応時に生じる人工的な変異などが問題となる。  オリゴキャッピング法はキャップ構造をRNAオリゴマー68)やDNA−RNAキメラオリゴマ・−45) などのオリゴマーで置換する方法である。原理的には完全長cDNAのみが合成されるはずであ るが、5−10μ9という大量のpoly(A)RNAを必要とする上、 mRNAを処理する工程が多く、こ の段階で分解したmRNAから合成されたcDNAが含まれる場合もある。  キャップトラッピング法はキャップ構造を有するmRNAを選別して鋳型とする方法であり、 抗キャップ抗体によって選別したmRNAを鋳型にする方法69)や、キャップ構造にビオチンを付 加し、アビジン固定化担体で選別したmRNAを鋳型として用いる方法tk5)などがある。  いずれにしても、これら従来のcDNA合成法は操作中にmRNAの分解などの影響を受けて不 完全なcDNAが合成されたり、 PCRを用いる場合は遺伝子ごとに増幅効率が異なったりする。 したがって、細胞内での各転写産物の発現量を反映した完全長cDNAライブラリー作製にはこ れらの方法は適さない。そこで本研究室(国立障害者リハビリテーションセンター研究所、障 害工学研究部)では、ベクターキャッピング(V一キャッピング)法という新たな完全長cDNA 合成法を開発した(Figure 2−1)7°)。この方法は、まずdTテールを付加したベクタープライマー を用いてmRNAに相補的な第一鎖cDNAを合成した後、cDNA一ベクター構築物をT4 RNA ligase によってセルフライゲーションし、最後にmRNAを第二鎖cDNAで置き換える。本法は従来法 に比べ作業数がわずか3工程と少ないため、バイアスのない完全長cDNAライブラリーの作製 に適していると考えられる。実際、V一キャッピング法で作製したライブラリーは95%以上の完 全長cDNAを含み、さらに5’端にゲノム配列には存在しない余分なグアニン(G)が付加する ため、取得したcDNAが完全長であることを容易に判定できる利点がある。  本章では、ヒト網膜色素上皮細胞株AR.PE−19から抽出したtotal RNAを用いて、 V一キャッピ ング法により完全長cDNAライブラリーを作製し、詳細な解析を行った。そして、作製したラ イブラリーが完全長cDNAの収集だけでなく、正確な発現プロフィール解析に有用であること を示す。

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2.2材料と方法

2.2.1細胞培養およびtotal・RNAの抽出  ヒト網膜色素上皮細胞株ARPE−19はAmerican Type Culture Collection(ATCC)より分譲され た。培養は10%の非動化したウシ胎児血清(fetal bovine serum;FBS)を添加したDulbecco’s modified eagle’smedium:nutrient mixture F−12(Gibco)中で、5%CO2雰囲気下、37℃で70−80%コ ンフルエントになるまで培養した。細胞はO.0591・ Trypsin−EDTA(Gibco)にて処理し、 ISOGEN (NIPPON GENE)を用いてtota1 RNAを抽出した。 2.2.2ベクタープライマー  プラスミドベクター pKAIU5およびpGCAP10はpKA Iベクターを改良して作製された43)。 pKA I U5はpKAIの開始点をpUC l9の開始点と置換し、 BstXI部位の配列をCCACCCCCCTGGから CCAGGGGGGTGGに変更した。 pGCAPIOはpKA I U5のクローニングサイトEcoRI−BstXI−EcoRV− KpnlをSwal−EcoRI−FseI−EcoRV−Kpnlに置換した。 pKA I U5およびpGCAP10のヌクレオチド配列は GenBank/EMBL/DDBJからそれぞれAB Igl256およびAB371573の登録番号で取得可能である。プ ラスミドpKA I U5とpGCAP10をKρnlで消化した後、 terminal deoxy−nucleotidyl transferase(TdT, TaKaRa Bio)を用いて、 OkayamaとBergの方法65)に従い約60ヌクレオチドのdTテールを付加した。 dTテールしたプラスミドベクターをEcoRVで消化し、アガロースゲル電気泳動による精製を行 った後、ベクタープライマーとして使用した。 2.2.3V一キャッピング法によるcDNA合成  V一キャッピング法(Figure 2−1)を用いて、ARPE−19細胞のtotal RNAからLib4(ARe)とLib−2 (ARi)の二種類のライブラリーを作製した。 Lib−1は5pgのtotal RNAと0.3μgのpKA l U5由 来ベクタープライマーを混合し、65℃で5分間変性させた後、75mM KCI、3mM MgCl2、5mM dithiothreitol(DTT)、1.25 mM each dNTP、2 U/pl RNase lnhivitor(TaKaRa Bio)、10 Ufpt1 SuperScript IITM reverse transcriptase(lnv itrogen)を含む20川の50・mM・Tris−HCI(pH8.3)中で42℃、3時間イ ンキュベートし、mRNAに相補的な第一鎖cDNAを合成した。その後、phenol/ chloroform/ isoamyl alcohol(PCI)抽出およびエタノール沈殿により精製し、25・mM・Tris−HCI(pH 7.5)、5mM MgC12、 10mM 2−mercaptoethanol、2mM DTT、0.5 mM adenosine triphosphate(AT P),25qo polyethyleneglycol (pEG6000, nacarai tesque)、0.4 U/ptl RNase inhivitor、1.2 U/ptl T4 RNA ligase(TaKaRa Bio)を含む 100 plの反応溶液中にて20℃で一晩セルフライゲーションを行った。 PCI抽出およびエタノー ル沈殿により精製した後、20・mM・Tris−HC1(pH 7.5)、4 mM MgCl2、10 mM(NH4)2SO4、100・mM・KCI、 50μg/ml bov ine serum albumin(BSA)、0.1mM each dNTP、 O.03 Utμ1 RNaseH(TaKaRa Bio)、O.3 U/ptl Escherichia coli DNA polymerase I(New England Biolabs)、0、6 U/μl E.coli DNA ligase(TaKaRa Bio) を含む100 plの反応溶液中で12℃、5時間インキュベートし、第二鎖cDNAを合成した。その 後、PCI抽出およびエタノール沈殿を2回行い、ペレットを50μ1のTEに溶解した。 Lib−2は5

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ygのtotal RNAとO. i5 U9のpGCAPIO由来ベクタープライマーを混合し、65℃で5分間変性さ せた後、SuperScript IIITM reverse transcriptase(lnvitrogen)を用いて45℃で3時間逆転写反応を行 った。200μ1の反応溶液中でEcoRI消化を37℃でL5時間行った後、 Lib.1と同様にセルフライ ゲーションおよび第二鎖の合成を行った。 2.2.4cl)NAライブラリL・一一・の作製  1μ1のcDNAと20μ1のE.coli DH 12Sセルを混合し、 MicroPulser(Bio−Rad Laboratories)を使 用してエレクトロポレーション法により形質転換を行った。形質転換体はlm1のSOC培地(2% tryptone, O.5qo yeast extract,0.05%NaCl,20 mM glucose,10 mM MgCl2,10mM MgSO4)に懸濁して、 37℃で1時間振盤培養後、100μg/mLのアンピシリンを添加したLB寒天培地(1%tryptone, O.5% yeast extract,1%NaCl,1.8%agar)に塗布した。寒天培地上に生育したコロニーをピックアップ し、96−wellまたは384−wellプレートを用いてLB/アンピシリン培地で一晩振盟培養した後、50% グリセロールを添加し、−80℃で保管した。 2.2.5プラスミド抽出とシークエンス  シークエンス反応の鋳型DNAは、 Lib−1ではMG768プラスミドDNA抽出システム(Hitachi Koki)により抽出されたプラスミドDNAを、Lib−2ではillustra TempliPhiTM DNA amplification kit (GE Healthcare)を用いて増幅したDNAをそれぞれ使用した。 cDNAの5’末端部分の塩基配列 はBigDye@Terminator Cycle sequencing FS Ready reaction kitを用いて標識し、キャピラリーDNA シーケンサー(Applied Biosystems)にて解析した。cDNAの全塩基配列はWizard⑧ Plus Minipreps DNA Purification System(Promega)を用いて抽出したプラスミドを鋳型とし、プライマーウォー キングにより決定した。 2.2.6BLAST検索およびアノテーション  決定したcDNAの5’末端配列は最初に、 GENETYX−PDB(GENETYX Co.)ソフトウェアを使 用して当研究室のヒト完全長cDNAデータベース(Homo−Protein cDNA bank)43)での検索を行っ た。リボソームRNAやミトコンドリア由来の配列などの大量に存在する遺伝子の大部分は、 この検索によって選別することができる。当研究室のデータベースの登録配列と合致しなかっ た配列は、BLASTアルゴリズム69)により、National Center for Biotechnology lnformation(NCBI)の ヒトゲノムデータベース検索を行なった。5’末端配列をNCBIのMap Viewerで確認すると、ほ とんどは既知遺伝子の第一エキソン上に位置づけられるが、問い合わせた配列が遺伝子の上流 に同じ向きで存在する場合は、その遺伝子に帰属する。Entrez GeneやUniGeneを含むMap Viewerとリンクしているウェブサイトを通し、問い合わせ配列に対応した遺伝子の名前、シン

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2.2.7遺伝子総数の概算  生態学の分野において、特定領域内に生息する種の数の算出に用いられる非サンプリング補 外法と統計的サンプリング法の二つの方法73)に従って、ライブラリーに含まれる遺伝子の総数 を概算した。前者は負の指数モデルや双曲線モデルなどの漸近的なモデルを遺伝子累積曲線に 当てはめる方法で74)、曲線の当てはめはソフトフェアKaleidaGraph(Symergy Software)を用い て実行した。後者は高度に不均質な集団に対して改良された方法で、存在量に基づく範囲推定 モデル(abundance−based coverage estimator;ACE−1)を使用し、 Species Prediction and Diversity Estimation(SPADE)アルゴリズムを用いて計算した75)。 2.2.8定量的リアルタイムPCR  OIigo(dT)30をプライマーとして、 SuperScript IIITM reverse transcriptase(lnvitrogen)を用いて20 pgのARPE−19 total RNAから第一鎖cDNAを合成した。合成したcDNAを95℃で5分間変性 してから10mg/m1のRNaseA(Wako Pure Chemical)を添加して37℃で30分間インキュベート し、RNAを分解した。未反応のoligo(dT)3。を除去するために、Wizard⑧ PCR Preps DNA Purification System(Promega)を用いて一本鎖cDNAを精製した。リアルタイムPCRはTaqMan⑬Universal Master Mix(Applied Biosystems)を使用し、製品プロトコールに従ってABI PRISぽ7㎜ Sequence Detection System(Applied Biosystems)によって実行した。反応には300μgのtotal RNA に相当する一本鎖cDNAを鋳型として用いた。 TaqMan⑧Gene Expression Assays(Applied Biosystems)によって設計されたプローブ・プライマーセットを使用して、 actin beta(ACTB, 1{s99999903_m1), cofilin 1(CFL1, HsOO830568_g 1)、 filamin A(FLNA, HsOO l55065_m l). filamin B (FLNB, HsOO l 81698_m l), glyceraldehyde phosphate dehydrogenase(GAPDH, Hs99999905_m 1), guanylate kinase 1(GUK 1, HsOO 176133_m 1), myosin heavy chain 9(MYH9, HsOO 159522_m l), retinoic acid induced l 4(RAI l 4, HsOO210238_m 1)のアッセイを行った。それぞれの遺伝子の発現 量は、遺伝子ごとに濃度既知のcDNAのプラスミドクローンを鋳型として作製した検量線から 算出した。

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2.3結果

2.3.1cDNAライブラリーの概要  ARPE−19細胞のtotal RNAを出発材料とし、 V一キャッピング法を用いて二種類のライブラリ ーLib−1およびLib−2を作製した。 Lib−1からは10,176クローンを無作為に抽出し、宿主大腸菌 のグリセロールストックを96−wellプレートで保管している。 Lib−1から取得したこれらのクロ ーンの名前はAReおよびARfとした。 Lib−2はLib−1とは異なるロットのtotal RNAを使用し、 第一鎖cDNAの合成後にEcoRI消化を追加した方法で作製した。 Lib−2のcDNAによる大腸菌 の形質転換は異なる時期に2回行った。それぞれのバッチからクローンを無作為に選別し、1 回目のクローンはARiとして96−wellプレート(6,528クローン)に、2回目のクロ・一ンはARiS として384−wellプレート(76,800クローン)に保管した。ここでは、 ARe/ARfとARiの全クロ ーンとARisの7,296クローンについてcDNAの5’末端のワンパスシーケンス解析を行った。  Table 2−1にワンパスシークエンス解析によって分類された、それぞれのライブラリーのクロ ーンを示した。いずれのライブラリーでも90%以上のクローンから高品質の配列データが得ら れた。残りのクローンの配列を読み出せなかった理由には、(i)ベクターのシーケンスプライマ ー部位の欠失、(ii)異なるクローンの混入、(iii)鋳型DNA調製の失敗などが考えられる。多く の場合は、シーケンスの波形が確認できないことやcDNAのすぐ上流に位置する制限酵素部位 で切断できないことから、(i)の理由によるものである。また、どのライブラリーでもインサー トの入っていないベクターが見られるが(3.3−3.9%)、これはベクタープライマーを調製したと きに、制限酵素で切断されなかったベクターを除去しきれなかったためと考えられる。  Lib−1には5’末端にdTテールが付いたクローンが含まれている(1.gqe)。これらのクローンの 下流配列を調べてみたところ、cDNAが逆向きに挿入されており、そのcDNAの5’末端がベク ターの平滑化されたKpnl切断端に結合していた。つまり、これらのクローンは意図した位置の 反対側にdTテールが付いた異常なベクタープライマーによって作られたものである。線状ベ クタープラスミドへのdTテールの付加はTdTを用いて行った。 TdTは1)NAの3℃H末端に デオキシリボヌクレオチドを重合する酵素であるため、本来二本鎖DNAのセンス・アンチセ ンス鎖それぞれの3’末端にdTが付加される。しかし、逆向きのcDNAクローンの存在は線状 ベクタープラスミドへのdTテールの付加がまれに片方の末端にのみ起こることを示している。 また、dTテーリングを行なった後は、反対側に付加したdTテールをEco RVによる切断で除去 しているが、多少切れ残ってしまう問題点があった。改良法で作製したLib−2では、このよう なdTテールから始まるクローンは追加したEcoRI処理の段階で除去されており、ARiライブ ラリーではo,16%、ARiSライブラリーではo.13%と大幅に減少した。  ベクター由来の配列が挿入されたクローンも上記と同じように説明できる。pKAIU5をベク タープライマーとして用いたLib−1では、約5%のcDNAの5’末端にATCcTGの挿入が見られ

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Lib−2の2.8%のクローンにおいてEcoRI消化が不十分であったため、ベクターのEcoRI−Eco RV 間の配列(CGGCCGGCCGAT)が残存していた。 2.3.2完全長cl)NAの評価  cDNAの5’末端配列を用いて、当研究室のヒト完全長cDNAデータベースおよびBLASTア ルゴリズムを用いたNCBI RefSeqデータベースとヒトゲノムデータベースの検索を行った。ラ イブラリーの中にはミトコンドリアゲノムに由来する転写産物(cDNAを保有するクローンの 約1%)やrRNA(<0.06%)のcDNAを含んでいた。ミトコンドリアのクローンを除けば、全て の配列はヒトゲノム上にマップすることができた。  ライブラリーから取得したほとんどの完全長cDNAクロー一ンは既知の遺伝子であり、RefSeq に登録されたクローンと近い転写開始点(transcriptional start site;TSS)を有していた。中には RefSeqの5’末端配列と一致しない配列もあったが、これらは恐らくRefSeqよりも5’一非翻訳領 域(untranslated reasion;UTR)が長いか、または選択的プロモータの使用によってTSSが異なる ために生じたクローンである。問い合わせたクローンの配列がRefSeqの第1エキソンよりも上 流にあるか、他のmRNAやEST配列を介してRefSeqと連結できる場合、 RefSeqと問い合わせ 配列の間に共有配列がなくてもそのクローンはRefSeqに対応した遺伝子であるとした。その結 果、ARe/ARfライブラリーから8,275クローン、 ARiから5,586クローン、 ARiSから6,090ク ローンが完全長cDNAとして同定された。  ほとんどのクローン(Lib−1では93.6%、 Lib−2では92.3%)には、5’末端にゲノム配列には存 在しないGまたはNG(N:T,TT, G etc.)が余分に付加されていた。このGの存在は、 mRNAか ら第一鎖cDNA合成時に使用する逆転写酵素のTdT様活性により、mRNAのキャップ構造の 7−methyl G(m7G)に依存して相補鎖の3’末端にCが付加された結果である(Figure 2−1)。この現 象は、5’末端にGまたはAのキャップアナログを結合させたモデルmRNAを鋳型として合成 したcDNAにそれぞれ対応する塩基が付加されることから実証されている7°)。すなわち、 V一 キャッピング法で合成したcDNAの5’末端へのGの付加は、 cDNAがmRNAのキャップ部位 から始まる完全長であることを示している。  中には余分なGが付加されていないクローンも存在し、このようなクローンは既知遺伝子の 第1エキソンの上流から始まっていればその遺伝子の完全長cDNAであると考えられた。また、 Aluのような反復配列を含んだクローンも正確にゲノム上にマップすることができた。不完全 なcDNAは大抵poly(A)テールを有する短い配列であるが、既知の遺伝子座に位置せず、さら に5’末端に余分なGを持っている場合は、短いcDNAでも完全長であると考えられた。従って、 cDNAを保有する全てのクローンから完全長のクローンの割合を計算すると、ARe/ARfは 95.5%、ARiは95,2%、 ARiSは95.1%となった。転写産物ごとに完全長率を調べても、発現量 の多い転写産物では94−100%の非常に高い完全長率を示した。このことは、細胞内に存在する mRNAは分解されずに無傷のままであることを意味している。しかし、とりわけ長鎖のmRNA

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はRNA抽出の間に分解されていく傾向が見られた。 cDNA全体の95%は完全長であるが、残 りの5%の不完全なcDNAのうち約10%は6kb以一ヒの長鎖mRNAの分解物に由来した。 RNA 分解に起因するバイアスは避けられないものであるが、V一キャッピング法は精製されたRNA の組成を正確に反映していると言える。  Lib−1、 Lib−2合わせて19,951クローンの完全長cDNAのうち、1,123クローン(5.6%)は5’ 末端のGが付加されていなかった。これらのG付加のない遺伝子は2つのグループに分類でき る。1つめのグループ(625クローン)は5’末端がAから始まるクローンから成る。もう1つの グループ(309クローン)はピリミジン塩基に富んだ配列から始まる5’−terminal oligopyrimidine tract(5’−TOP)遺伝子ファミリーであり、主にリボソームタンパク質から成るフ6)。 Table 2−2に、 同一のTSSを有する5’−G−freeクローン((}一)が3つ以上取得されている遺伝子を示した。 NDUFB 11を除き、それぞれの(}一クローンと同じTSSから始まるG付加クローン(G+)が取 得されていることから、これらのGクローンが完全長であることに留意しなければならない。 16種類の5’−TOP遺伝子におけるG一クローン含有率はO.04−031であり、一方A開始の遺伝子 では15種類のうち12種類の遺伝子で0.38−LOの5’−TOP遺伝子よりも高いG含有率を示した。 Gが付加しないA開始の遺伝子の5’末端に保存された配列は見いだせなかったが、5’末端の配 列がキャップ構造の付加あるいは脱離に影響を及ぼすことを示唆する事実を発見した。 5’−ACCACGCACG...から始まるMT2A遺伝子を82クローン取得し、そのうちの44クローンは 余分なGを有していたが、38クu一ンにはGの付加はみられなかった(Table 2−2)。さらに、 そのMT2A遺伝子の4番目のAから開始するクローン(5’−ACGCACG_)も43クローン取得 したが、これらにはすべてGが付加されていた。これらの事実から、5’末端の3つのヌクレオ チド配列の存在がG−freeクローンの生成を引き起こすことが示唆された。 2.3.3発現プロフィール解析  ARPE−19細胞の3種類のcDNAライブラリーから計19,95 1クローンの完全長cDNAを取得 した(Table 2−1)。これらのクローンはヒトゲノム上へのマッピングの結果、4,513種類の遺伝 子クラスターに分類することができた。  Table 2−3にcDNAライブラリーから取得された完全長の遺伝子を合計取得クn−一ン数の多い 順に記載し、Figure 2−2Aには発現頻度の高い遺伝子の度数分布を示した。最も多く含まれるの はGAPDHとFrH1(各248クローン、含有率1.2%)であり、次いでlooクローン以上(≧05%) 取得された遺伝子は、発現量の多い順にACTB、 ACTGI、EEFIA1、VIM、 RPL41、MT2A、 RPL1、 CRYAB、 TMSB10、 RPS3、 RPL10となっていた。さらに10クローン以上(≧0.05%)の遺伝子 の数は310種類で(Table・2−3)、これらは同定した遺伝子4513種類のうちのわずか6.gq・に過ぎ なかった。その内訳を見ると、リボソームタンパク質が79種類含まれており、主要な構成成分

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が判った。  同一細胞に由来する異なるcDNAライブラリーにおける発現頻度のバイアスを調べるために、 ライブラリー間の発現プロフィールを比較した。Figure 2−3Aでは同一のライブラリー(Lib−2) の異なるバッチ(ARiとARis)間で、含有率が0.1%以上の遺伝子の発現頻度の比較を行った。 サンプリング数が少ないためにプロットは散乱しているが、ARiとARis間の相関は極めて高 い(相関関数=094)。取得した遣伝子の中には、一方のライブラリーには多く含まれるが、も う片方からは1つも取得できないものも数多くあり、解析数が少ない場合にはサンプリングの バイアスを考慮に入れなければならない。  Figure 2−3BにはLib−1とLib−2間の比較を示した。発現量の高い上位10クローンはかなりば らっきが大きいが、全体的な相関は高かった(相関関数=0.87)。この2つのライブラリーは異 なるロットのRNAから、若干異なるプロトコールで作製された。ここで観察されるばらつき はプロトコールの違いよりもRNAのuットの違いに因るところが大きいと考えられる。例え ば、CRYABの発現量は熱ストレスや高張ストレスなどの細胞培養条件で大きく変動すること が知られているT,78)。また、GAPDHはLib−1では最も数が多いが、 Lib−2では5番目となって おり、GAPDHの発現量も培養液中のカルシウムやインシュリン、酸素により変化する7981}。 つまり、培養条件の違いによってこれらの遺伝子の発現量が変化し、ライブラリーに依存した ばらっきが生じたと推察された。 2.3.4ライブラリーが含有する遺伝子総数の概算  cDNAの5’末端のワンパスシークエンス解析を行ったクローンはライブラリーの一部に過ぎ ず、ライブラリー全体に何種類の遺伝子が含まれているのかは判らない。ライブラリーが含有 するすべてのクローンを解析することは現実的には不可能であるため、Lib−1およびLib−2にお いて、これまでに解析したデータに基づいてそれぞれのライブラリーが含有する遺伝子の総数 を算出した。  Figure 2−4Aに解析したクローン数の関数としてプロットした遺伝子の累積数を示した。取得 した遺伝子の累積数は漸近的に増加し、Lib−1ではlo,176クローンの解析から2,702種類、 Lib−2 では1,3824クローンの解析から3,429種類の遺伝子がそれぞれ得られたが、本研究で解析を行 った範囲では飽和には至らなかった。これらの実測値へのカーブフィッティングは負の指数モ デルと双曲線モデルを含む、6つの漸近モデルを用いて実行した。結果として、最も適合した のは双曲線D,ニStα/(β+tα)であった。 D,は遺伝子の累積数、 tは解析したクローン数、 Sは漸近 値、αおよびβはデータから求まるパラメータである。sの値はLib−1では14,348、 Lib−2では11,563 であった。Lib..2の漸近値を用いると、24,㎜クローンの解析で累積遺伝子数は4,578となる。 これは実際に本研究で観測された遺伝子数4,513と近似している。もし、48,㎜クローンある いは96,㎜クローンの解析を行ったとしても、取得できる遺伝子数はそれぞれ6,177(53.4%)と 7,717(66.79・)に過ぎない。

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 マウス網膜のESTライブラリーを解析した例では、存在量に基づく範囲推定モデルACEに よって、RPEノ脈絡膜ライブラリー中に10,400−ll,500種類、網膜全体では11,700−13,000種類の 遺伝子クラスターが存在すると予測されている82)。ACEは観測された種のデータを低頻度と高 頻度のグループに分割し、低頻度のグループのデータのみを用いて欠けている種(missing species)の数を推定するモデルである。本研究ではより高度に不均質な集団に対して改良され たモデルであるAcE−1を用いて、 Lib−1とLib−2に含まれる総遺伝子数を算出した。 I oクロー ン以下の遺伝子の数から計算すると、Figure 2−4Bに示すようにLib−1では8,019、 Lib−2では8,469 種類となった。これらの値は累積曲線を用いた予測よりも小さい。したがって、ARPE−19細胞 のライブラリーには8,000−14,000種類の遺伝子が存在すると予測され、数多くの遺伝子が未だ 同定されずに残存していることが示唆された。 2.3.5転写開始点の解析  転写開始点(TSS)の位置は、プロモーター領域を特定し、遺伝子発現の転写制御を理解する ために有用な情報を与える。完全長cDNAクローンの5’末端配列解析の利点はTSSの膨大な情 報を有していることである83)。そこで、V一キャッピング法で作製したcDNAライブラリーから 取得した高発現遺伝子について、転写開始点アイソフォームのTSS分布の決定を行った。発現 量の多い上位ll遺伝子、 GAPDH、 FrHl、 AcTB、 AcTG1、 EEFIA1、 vlM、 RPIAI、 MT2A、 RPL 1、 CRYAB、 TMSB10(Table 2−3)はそれぞれのクラスターにおいて94−100%の高い割合で 完全長cDNAを含んでいた。さらに、不完全なcDNAはほとんどが最後のエキソンから開始す るか、あるいは5’末端にキャップ構造に依存したGが付加されないため、容易に識別すること ができた。  ll遺伝子のTss分布をLib−1とLib−2の2つのライブラリーとDBTssから取得し1°)、比較 を行った。遺伝子ごとに最も頻度の高いTSSは、 RPL1とCRYABを除いて、3つの分布間で一 致した。EEFIAIではほぼ単一のTSSのみが検出されたが、その他の遺伝子では通常複数の高 頻度のTSSが存在した。 Figure 2−5にGAPDH、 ACTGI、 MT2A、 RPLP1、 CRYABのTSS分布 間の比較例を示した。優先的なTSSは10塩基程度の領域のクラスターを形成しており、これ は恐らくこれらのTSSの上流にコアプロモーターエレメントの1つであるTATAボックスが存 在するためだと考えられる。また、CRYABは広範囲に頻度の低いTSSが散在していた。  どの遺伝子でも、2つのライブラリーとDBTSSのTSS分布パターンは若干の差異はあるも のの、よく類似していた。しかし、ここで特筆すべきはDBTSSのデータは様々な組織から取 得されていることである。つまり、高発現のハウスキーピング遺伝子においてはTSSの分布パ ターンには組織特異性がないことを示唆している。また、DBTSSでは選択的プロモーターの使 用によってTSSが生じることも示している10)。実際、 Lib−1およびLib−2から取得したGAPDH とVIMのクローンでは第1イントロンにTSSが観察され、 CRYABでは主要なTSSクラスタ

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って発生したものと考えられる。 2.3.6長鎖転写産物の解析  本研究で収集した完全長cDNAの平均鎖長を遺伝子クラスター数または取得クローン数に基 づいて計算すると、それぞれ2.46kbpとL68 kbpとなる。ライブラリー中には7kbp以上の長 鎖クローンも多数存在しており(Table・2−4)、 V一キャッピング法では長鎖のクローンも完全長で 取得することが可能であることを示している。RefSeqデータに記載されているmRNA鎖長は、 取得したcDNAクローンの鎖長と異なることが多い。これは選択的スプライシングや選択的ポ リアデニル化によって、鎖長の異なるアイソフォームが生成されているためである。そこで、 RefSeqで6kbp以上の鎖長のmRNAに該当するクローンを選別し、cDNAインサートの実際の 鎖長を制限酵素消化後にアガロースゲル電気泳動することにより調べた。cDNAインサートの 上流にはEcoRI(Lib−1)またはswal(Lib−2)、下流にNotl部位が隣接するため、 poly(A)テールを 含んだcDNAをプラスミドベクターから切り出すことができる。また、いくつかのクローンで は全長の塩基配列を決定し、poly(A)テールを含まない正確な鎖長を調べた。  最も長いcDNAはgolgin B 1(GOLGB I)をコードするll,199 bpのクローンであった。ゴルジ 膜内在性タンパク質であるGOLGB 1は約400 kDaの巨大分子であり、もともとは‘giantin’と 名付けられていた。このcDNAのコード領域をRefSeqの配列と比較すると、15 bpの挿入が2 箇所、っまり10アミノ酸残基の挿入が確認され、選択的スプライシングアイソフォームである と考えられた。また、9箇所の一塩基変異が見いだされ、そのうちの1つはコード領域内の 2,958−2,965に位置するAストレッチへの一塩基の挿入であり、フレームシフトを引き起こすも のであった。しかし、この挿入はARPE−19細胞のゲノムDNAには見られなかったため、第一 鎖cDNA合成時の逆転写酵素による読み違いであると考えられた。  8kbp以上の長鎖のcDNAであるfilamin A(FLNA)とfilamin B(FLNB)はARPE−19細胞のラ イブラリーから複数のクローンが取得された。FLNAについて全8クローンの全塩基配列を決 定した結果、Figure 2−6Aでエキソンイントロン構造を図示した3種類のスプライシングアイソ フォームを同定した。最も長いアイソフォームであるisoform 1に相当するクローンは3っ取得 されており、これらは同一のTSSを示した。 isoform 2はisoform 1のTSSから6塩基下流から 始まり、29番目のエキソンが欠けることにより8アミノ酸残基の欠失を引き起こす。Isoform 3 はisoform 2と同じTSSを有し、 isoform 1の第36エキソンの途中から第41エキソンの途中ま でが削れて305アミノ酸残基が欠失している。RefSeqはisoform 2と一致するが、RefSeqは様々 な研究者から報告された複数の配列を用いて組み立てられているため、正確であるかは疑わし い。一方、4っのFLNBクローンは驚くべきことにFigure 2−6Bに図示したようにすべて異なる スプライシングパターンを示した。これらの結果は、単一の細胞で複数のスプライシングアイ ソフォームが発現していることを示している。

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