原 著
轡麟,。斜面,肇錆〕
ポリウレタン製人工血管の基礎研究
第2報
長期間移植後の変化に関する検討
東京女子医科大学 第三外科学教室(主任 ナカ ガワ ヨシ ヒコ 中 川 芳 彦 太田和夫教授) (受付 平成5年3月24日) Experimental St紐dies on Polyurethane Vascular Grafts for Hemodialysis Part II・Patency, Complicatiolls, and Histological Studies after Long・term Implantation Yoshihiko NAKAGAWA Department of Surgery III(Director:Prof. Kazuo OTA) Tokyo Women’s Medical College Anew synthetic vascular graft has been fabricated from polyetherpolyurethane(PEU)using an innovat量ve casting method. Five types of PEU grafts(PEUGs)were prepared in this experimental study. PEUGs with a smooth surface and those with a rough surface were implanted in group ls and group lr, respectively. PEUGs with a rough surface were implanted within 2 cm from anastomotic sites in group lar. Crimped PEUGs incorporating kn量tted polyester fibers(PE・PEUGs)and having a rough三nternal surface were孟mplanted in group 2r。 The graft used in group 2rg was the same one used in group 2r except for a gelatin coating. Arteriovenous fistulas between carotid arteries and j ugular veins using PEUG(ID,5.5 mm;wall thickness,0.9 mm)and PE−PEUG(ID,5.5 mm;wall thickness,0.7 mm)were created in 48 dogs. All grafts were removed before or after the.occlusion, and observed macroscopica11y and microscopically. The cumulative patency rates of grafts in group 2rg were higher than those obtained in the other groups. Intimal hyperplasia at the anastomotic sites in group 2rg was also less than in the other groups. Aneurysmal d圭latation and rupture were not observed except in 6 infected grafts. No seroma formation was observed ln any of these grafts. Microscopically, moderate foreign body reactions were found in all grafts, however no histologicai evidence of carcinogenic reaction was observed in any of these specimens. It is concluded that in general the polyurethane graft is durable and non−carcinogen量。 and has an acceptable patency rate in dogs during an observation period of 14 months. The 2rg graft having a rough surface coated with gelatin, was found to be particularly useful in improving patency rate. 緒 言 生体内に埋植された人工血管は,それ自体が抗 血栓性を保てるのであれば,グラフト内面に血漿 蛋白や血球成分の付着を一切起こさない材質であ ることが望ましいn.しかし実際の人工血管開発 の経緯は,むしろ表面にできるだけ早くフィブリ ンを付着させて自己の内皮細胞で被ってしまい, 血液との接触面に安定な内皮細胞層を生じさせる という全く逆の方向で目的を達しようとしてき た2).すなわち,人工材料やその表面構造ならびに 性状を改良し鋤,さらに被覆処置など5}6)を加え, 初期血栓の形成を軽減させるとともに内皮細胞の 新生を促進させる工夫がなされてきた.のであ る2).これら.の研究の過程から,Dacronおよび Teflonの人工血管が一般の血管外科領域で頻用 されるようになったη∼9).しかし,これらのグラフトの中で,透析用ブラッドアクセスとして用いう
るものは,Tenonを延伸加工したexpanded
polytetrafluoroethylene(E−PTFE)グラフトlo)心12) のみである.このグラフトは,可土性,抗血栓性, 開存性がよく,縫合しやすいなど,幾つかの優れ た性質を具備しているが,吻合部における内膜肥 厚などのため晩期に閉塞することも多く,しかも, 本来透析用として作製されていないので,頻回の 穿刺による動脈瘤の形成13)14)や穿刺後の針孔から の止血不良など,解決しなくてはならない点も残 されていた.そこでわれわれは,弾力性,抗血栓 性,生体適合性に優れた材料として,現存のポリ マーのうちでは最も優れた素材と考えられている セグメント化ポリウレタン5)15)∼17>に着目し,透析 用ブラッドアクセスとしての応用を試みた. ブラッドアクセス用人工血管を半永久的に生体 内に移植する場合,長期間開存し,頻回の穿刺後 も物理的強度を失わず,抗原性も軽微で腫瘍発現 性を持たないことが条件と考えられる。今回は, ポリウレタンの長期埋植後の材料そのものの変化 ならびに病理組織学的所見を雑種成犬を用いた 動・静脈シャントモデルで検討したので報告する. 材料および方法 1.素材 使用した人工血管の素材は,ポリエーテル型ポ リウレタン(polyether−polyurethane, PEU)であ る.その構造式および合成過程は,第1報で詳述 してある.これにより得られたポリウレタン溶液 から湿式成形法により人工血管を作製した. 表1 ポリエーテル型ポリウレタングラフトの構造 グラフト 内面構造 全体構造 内径 肉厚 1s 全面滑面 グラフト1 iPEU) 1r 全面粗面 ループ状 ヨ腹無し 5.5mm 0.9mm lar 吻合部粗面 2r 全面粗面 グラ7ト2 iPE−PEU) 2rg 全面粗面,ゼラチン被覆 直管状 ヨ腹有り 5.5mm 0,7∼ O.9mm PEU: polyetherpolyurethane, PE−PEU: polyester・ polyetherpolyurethane. 2.グラフト(表1,図1) 検討の対象となったグラフトは2種類である. 内径5.5mm,肉厚0.9mmのPEUグラフトをグラ フト1とした.その断面は,外膜面に向かうほど1s
1r2r
2rg
内面(X300) 断面(×40) 外面(x300) 内面(x300) 瓢i や 講 義 内面(x300) 内面(X300) 断面(×40)舞灘
断面(×40) 断面(×40) 外面(X300) 外面(X300) 外面(X30の 図1 ポリエーテル型ポリウレタソグラフトの電顕像 グラフト1s:グラフト断面は外膜面に向かうほど緻 密になるスポンジ様構造を呈し,内面には5∼10μm のvoidsを有する. グラフト1r:1sと同一の断面構造を有するが,グラ フトの全内面に30∼100μmのvoidsを有し,オープ ンセル構造を呈している. グラフト2r:メリヤス編みしたポリエステル繊維 (90デニール)をグラフトの骨格とし,PEUで被覆 し,グラフトを作製した.内面構造は1rと同一で, 30∼100μmのvoidsを有するオープンセル構造を 呈している. グラフト2rg:2rと同一の断面,内面構造を有する が,内面にゼラチンを薄く被覆してある.緻密になるスポンジ様構造を呈している.壁構造 の性状によりさらに3種の群に分けた.すなわち, 内面に5∼10μmのvoidsを有する以外は全面滑 面(smooth surface)のグラフトを1s,全面に 30∼100μmのvoidsを有するオープンセル構造 を付与した全面粗面(rough surface)のグラフト を1r,グラフト1sと基本構造は同一であるが断端 3cmのみに30∼100μmの粗面化処理を施した吻 合部粗面(rough surface on anastomotic sites) のグラフト1arとした. メリヤス編み(knitted)したポリエステル繊維 (90デニール)をグラフトの骨格とし,PEUで被覆 した内径5.5mm,肉厚0.7∼0.9mmのポリエステ ルーポリエーテル型ポリウレタン(PE・PEU)グラ フトをグラフト2とした.本グラフトでは屈曲 (kinking)を防ぐため,あらかじめ全長にわたっ て蛇腹加工が施してある.このグラフトは内面構 造の違いによりさらに2種類のサブグループに分 類した.すなわち,グラフト1rと同様に全面に
30∼100μmのvoidsを有するものをグラフト2
r,2rと同一のグラフト内,外面に牛ゼラチン (gelatin)を被覆したグラフトを2rgとした.本グ ラフトにおける被覆には,所定濃度のゼラチン水 溶液を含浸させたのち,所定濃度のグルタールア ルデヒド水溶液によって架橋処理する方法を用い た. 各グラフトともnon−porousで, water porosity はOm1/120mmHg/cm2/minである. 3.動物実験グラフト1および2(全長13∼15cm)を体重
9∼28kgの雑種成犬48頭(1s;9頭,1r;6頭,1 ar;16頭,2r;6頭,2rg;11頭)の頸部に移植し て動静脈(AV)シャントを作製し,それらの実験 動物を1s群,1r群,1ar群,2r群,2rg群とした. グラフト移植術は,各群とも右総:頸動脈と等外頸 静脈にそれぞれpolypropylene縫合針(ネスピレ ン⑧6適)を用いて連続縫合により端側吻合で行っ た.術後2週より18G針にて穿刺実験を施行した. 術後合併症の有無,開存性を観察したのち,適宜 摘出し,肉眼所見,病理所見(光顕,電顕)を検 討した. 術中,グラフトにpreclottingの前処置はせず, また術前,術中,術後を通じてヘパリンなどの抗 凝固療法は行わなかった. 4.酵素組織化学的検査 0.1Mカコジル酸緩衝2%パラホルムアルデヒ ドと2.5%グルタールアルデヒドの混合液を用い て摘出組織を固定し,同緩衝液で洗浄後,Kimら の方法18)により2−naphtylthioacetate(NTA)を基 質とするエステラーゼ活性染色を行った.その後, 組織を樹脂包埋し,厚切り切片トルイジンブルー 染色標本の光顕的観察の後,電顕用にトリミング して超薄切片を作製し,酢酸ウラニルおよびクエ ソ酸鉛の重染色を施して電顕にて観察を行った. 成 績 1.合併症 手術時の吻合操作の失敗や麻酔,術後早期の動 物飼育上のトラブルにより脱落した実験犬を除く33頭(1s群5頭,1r群5頭,1ar群14頭,2r群3
頭,2gr群6頭)は,いずれの群においても,グラ フト破裂,動脈瘤形成,血清腫の形成は1頭も認 められなかった. 2.開存性 各群の開存性を図2に示す.1s群では,5頭全 1s群 (n=5) 1r群 (n=5) 1ar群 (n器14) 2r群 (n=3) 2rg群 (n=6) 1M 2M 3M 6M 12M ×:閉塞i n:開存i 図2 グラフト各戸の開存性 術後観察中に閉塞したものは直後に標本を摘出し,開 存しているものに適宜摘出した。舗
灘議議
論
レ 挙.乙箏麟 図3 1ar群の摘出標本(4ヵ月後閉塞) 左図(静脈側吻合部):静脈側縫合線上のパンヌスは厚さ2mmで,内膜の先進部には 血栓が付着していた. 右図(動脈輪吻合部):動脈側縫合線上のパンヌスは厚さ1mmで,新生内膜は縫合線 より20mmまで伸長していたが,粗面化処理部以遠では内膜の固着は不十分であっ た.響
避続撃ウ欝輪羅
灘難
羅 灘顎舞 藁麟灘一 図4 1ar群の摘出標本(14ヵ月後開存) 左図(静脈側吻合部):縫合線上に膜様のパンヌス形成を認め,吻合部の内径は20%となっていた. 新生内膜の伸長はスムーズであったが,20mm以遠には伸びていない. 右図(動脈側吻合部):縫合線上のパンヌスは薄く,膜様の狭窄は認められない.新生内膜は縫合線 上より20mmまで伸び,グラフトへの固着は1s群よりも強固であった.例が1ヵ月以内に閉塞した.1r群では,1s群に比 較し開存期間は延長したが,2ヵ月以上の開飼犬 はなかった.1ar群は,最長14ヵ月開存しており, 14頭中8頭が60日以上,12頭が30日以上開存した. 2r群は全例50日以内に閉塞したが,2rg群は最長 11ヵ月,6頭中5頭は90日以上開存し,30日以内 の閉塞例はなかった. 3.摘出標本の肉眼所見 吻合部内膜肥厚(パンヌス)はグラフト1sで最 も過剰に形成される傾向にあり,移植1ヵ月後で は既に縫合線上には3mmの厚みとなっており, パンヌス先進部のグラフト内面への固着は不良で あった.1ar群で術後3週から4カ,月までの期間 に閉塞直後に観察し得た例では,動脈側(A側), 静脈側(V側)ともパンヌスの増生が認められ, 特にV側では吻合面上でこれによる膜様の狭窄 を呈しており,グラフト内腔に赤色1血栓が形成さ れていた.しかし,A側では膜様の増殖は軽度で, パンヌスは1∼2mmと薄く,吻合面での内膜移行 はスムーズであった.パンヌス先進部は,3週間 後で5mm,3ヵ月後で1.5∼2.Ocmまで認められ たが粗面化処理部より以遠には存在しなかった (図3).1ar群の開存例では,8ヵ月後,14ヵ月後 ともV側に膜様のパンヌスを認めたが,A側吻合 部はスムーズで,パンヌスの縫合線上での厚さは 1∼2mm程度であった(図4). A側のパンヌス先 進部は2cmまで伸び,グラフトの固着は1s群より 強固であった.V側の吻合面上でのパンヌスの突 出は8ヵ月後で3mm,14ヵ月後で4mm(図4)で あった.一方,6ヵ月後でパンヌスの全く観察さ れない例も1ar群で1例あった.1r群は全例早期 に閉塞したため開判例の観察は不可能であった が,パソヌスは1ar群と同様であった、 2rg群の開存例では,移植後4,6,9ヵ月に標 本を摘出した.その肉眼所見では,吻合部におい てはA側,V側とも新生内膜の移行はスムーズ で,パンヌスは6ヵ月以後のV側で軽度認められ たのみで他の標本には厚いパンヌスは認められな かった.4,6,9ヵ月後ではグラフト内面の蛇 腹の谷に全領域にわたって赤色血栓が付着してお り,また9ヵ月後のグラフト中央部のV側寄りに
A側吻合部 V側吻合部
図5 2rg群の摘出標本(9ヵ月後開存) 吻合部のパンヌス形成は軽度で,縫合線上では狭窄は なかった.グラフト中央部の一部には,仮性内膜が島 状に存在していた. は光沢のある仮性内膜が島状に存在していた(図 5). 4.摘出標本の組織所見 1s群では1ヵ月以上の開総総は得られなかっ た.移植後28日の閉塞例での光顕像では,グラフ トの内部にはエオジンに染まったプラズマ様物質 が一部に満たされていたが,白血球.毛細血管, 線維芽細胞などの細胞成分は認められなかった. 吻合部では,A側, V側ともに5mmの内皮細胞の 伸長がみられたが,新生内膜には線維芽細胞,膠原繊維によるパソヌスが厚く形成されていた.内 膜面には薄い線維性の膜様物が認められた.外膜 面には,線維芽細胞と毛細血管を中心とする線維 性結合組織が形成されており,白血球浸潤などの 異物反応は軽微であったが,グラフト内への組織 の侵入は認められなかった.28日後の電顕像では, グラフト内膜面の一部にフィブリンが薄い編み目 を形成している部分もあったが,大部分の内膜面 には少数の血球成分の付着を認めるのみであっ た. グラフト1arの光顕所見では,吻合部内面は3 週後で5mm,8ヵ月後で10mmまで内皮の伸長が 認められたが,仮性内膜先進部に内皮細胞は存在 せず,グラフトとの間隙には赤血球を主体とする 血栓が形成されていた.グラフト1arの電顕所見 では,移植後3ヵ月で吻合部のグラフト粗面化処 理部への組織の侵入が観察された(図6). 図6 1ar群吻合部近傍の電顕像(3ヵ月後開存) グラフト内膜面の粗面化処理部分への新生内膜組織 の侵入が観察された. グラフト2rgの光顕所見では,内皮細胞の伸長
は,移植7日目でV側吻合部から15mm,移植4
ヵ月目でA側吻合部から15mm, V側で30mmま で認められたが,9ヵ月目になってもA,V側と もにそれ以上の内皮の伸長は観察されなかった (図7).グラフト中央部の組織所見では,4ヵ月 目から,一部に内皮細胞様細胞が認められ,9カ 月目にも観察されたが,いずれも一部にとどまっ た.マッソンートリクロム染色による光顕像では, 仮性内膜下の膠原線維は,吻合部から遠ざかるほ ど疎となっていた(図7).グラフト内部には4カ 月目まではエオジン好性の無構造物質を認めるの みであったが,6,9ヵ月目の標本では,内部に 単核球や線維芽細胞,膠原線維,毛細血管の侵入 している部分が認められた.グラフト外周には, 各標本とも新生血管および結合織の増生,リンパ 球を主体とする軽度の細胞浸潤が認められた.9 ヵ月目の一部標本では異物巨細胞や単核球の集 籏,毛細血管の増生など,中等度の異物反応が観 察されたが(図8),前腫瘍形成を予想させる非定 型的細胞増殖巣はいずれの標本でも観察されな かった.電顕像では,グラフトと接触する外周部 で材料様物質を貧食し,変性に陥った組織球様細 胞がみられた(図9). 5.酵素組織化学的検査の所見 2rg群で12ヵ月生体内に埋門された1検体の NTAエステラー・ぜ活性の観察では, NTAエステ ラーゼ活性陽性を示す穎粒は認められなかった (図10). 考 察 ブラヅドアクセス用の代用血管は,最初に自家 静脈が利用され40),ついでボバイングラフト41),膀 帯静脈グラフト42)などの生体材料を用いたグラフ トが用いられるようになったが,これらは耐久性, 開存性に問題があり,現在ではほとんど使用され ていない.現在,唯一市販され,透析用として広 く使用されているE−PTFEグラフト5)6)81は,可苛 性が良好で縫合しやすく,開存性に優れるなど, 幾つかの優れた性質を具備している.しかし,吻 合部における内膜肥厚のため2年以上経過すると 高頻度に閉塞し,しかも,本来透析用として設計苧 { へ彗漁号 ζ .
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↑吻合部.漫揖
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タ }く κ 中 5 弱 Ψ 励 ρ ゑ 議讐鑓鐸:耀躍『,饗.。. 舜 二 境 ♪ ヰ 蔭 ’浄 ρρ ρ ^ 、か 几 ^匹,熟・:藻盤爺
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A側内面(移植後9ヶ月) 中央部→ 吻合部より 5mm 吻合部より10mm 吻合部より15mm 吻合部より20mm ←中央部 V側内面(移植後9ヶ月) 吻合部↑ 撚.研. 梅 茎 蟻 6’吻舗より30mm 吻合部より20mm 吻合部よ・,10mm 吻合部
図7 2rg群の光顕像(9ヵ月後難存) 動脈側吻合部からの新生内皮細胞の伸長は,縫合線から20mmまで観察された(上段).静脈側は, 30mmまで観察された(下段).図8 2rg群グラフト外膜面の光顕像(9ヵ月後継存) グラフト周囲には,一部に中等度の異物反応(巨細 胞,肉芽組織の増生)が観察されたが,非定型的細 胞増殖巣は認められなかった. ・灘麟,
騨
図9 2rg群の電顕像(6ヵ月総懸) グラフトと接触する外周部で,材料様物質を貧食し, 変性に陥った組織球様細胞がみられた. されたものではないため,頻回の穿刺による動脈 瘤の形成や穿刺後の針孔からの止血が不良なこ と,術後の浮腫や血清腫の形成など,解決しなく 図10NTAエステラーゼ反応(2rg群,12ヵ月後) 電顕での観察で,NTA・エステラーゼ活性陽性を示 す八二は認められなかった. てはならない点も残されている.そこでわれわれ は,弾力性,抗血栓性,生体適合性などに優れた 材料として,最近脚光を浴びているセグメント化 ポリウレタンに着目し,透析用ブラッドアクセス としての応用をめざした. 一般に,高分子材料を用いて人工血管を設計し 生体内に半永久的に移植する場合,それが長期間 血液と接触し続けたまま開存し,生体血管と近似 した弾性,伸展性などの物性を維持し,長時間の 拍動性内圧によっても物理的強度を失わず,抗原 性も軽微で腫瘍発現性を持たないことなどが条件 となる.セグメント化ポリウレタンは現存する医 用高分子材料のうち,これらの点において優れた 材料と目されている43).特に弾性体としての力学 的性質および抜群の耐疲労性から,人工心臓の表 面材料19)や大動脈バルーソバソピソグのバルー ン20)の素材として応用されるようになった.さら に分子設計の際に合成原料を変えることによっ て,あるいは表面を化学修飾することによって多 彩な表面構造のものを作製することが可能である ため,小口径人工血管15》16)などへの応用も検討さ れている.われわれの着目したポリエーテル型ポ リウレタンは,in vitroでの抗血栓性の評価(ポリ ウレタン表面への粘着血小板数,血小板偽足形成 の形態変化,Quenched・Lee−White法による血小 板およびフィブリノーゲンの変化)で,良好な抗 血栓性が確認され47),人工血管用の新素材として期待される. 生体材料を用いた代用血管(ボバイングラフト, 膀帯静脈など)など内外面の疎通性(porosity)が ほとんどない人工血管を動・静脈シャントとして 移植した場合,グラフトの長期団坐性に関わる要 因,すなわち晩期閉塞の原因として,グラフトの 屈曲,圧迫などの機械的な原因や感染を除くと, その大部分が吻合部内膜肥厚(パンヌス)による ものである.パンヌス形成の原因としては現在, ①compliance mismatch24)25),②流体力学的因 子26),③慢性的な内膜の損傷27)など28)が挙げられ ている.AVシャントを作製し,血流を再開する と,吻合部で渦流,ジェットが発生する.この渦 流は,吻合部で自己血管と人工血管のコンプライ アンスの差が大きいほど顕著となり,渦流に曝露 される部位の内膜は肥厚する.この内膜肥厚は動 脈側吻合部よりも静脈側吻合部に強く認められ る52).これは,静脈側が新生内膜の伸長方向が血流’ と反対になっていることから,新生内膜の先進部 が血液のジェットによって常に損傷を受けて剥離 され,グラフトからめくり上げられた状態におか れ,その間隙に血栓が付着することによって新生 内膜が厚くなり,それが繰り返されることによっ てパンヌスがより強く形成され器質化が進むもの と考えられる22).さらに,薄い吻合部静脈壁が強い 動脈の拍動流のジェットに曝露されるために,そ の部位の静脈壁は数cmにわたって次第に肥厚, 狭窄を起こし,パンヌス形成が助長されるものと 推察される.吻合部のパンヌス形成を抑制し,グ ラフトの開存性を向上させるためには吻合部が新 生内膜で速やかに被覆され,安定化することが動
脈一動脈バイパスにおいても圧差の大きいAV
シャントにおいても重要と考えられる2)5)30). 吻合部における人工血管表面への内皮細胞層形 成は,次の順序で起こると考えられる.まず,異 物表面に移植直後の数秒から数分以内に血漿蛋白 の吸着が起こり,ついでそこに血小板が粘着し, 活性化された血小板の放出反応が惹起され,さら に凝集して血小板血栓となる.一方,Hageman因 子も異物表面によって活性化され,一連の内因系 凝固因子が次々活性化されて,ついにはフィブリ ノーゲンを不溶化フィブリンに変え,それが血小 板血栓や赤血球などを包み込んで血栓を形成し, やがて血小板,白血球,フィブリンが増加し,雪 だるま状になる.このような血栓塊が内腔を狭窄 しないうちに線維芽細胞や平滑筋細胞が吻合部断 端から:増殖し,最後には内皮細胞が表面を覆えば, その人工血管は抗血栓性を獲得したことになる. 素早く内皮細胞を被覆させるための至適内面構造 についてはいまだ議論されているが,Matsumoto ら48)は内径3mm, pore size 20∼30μmのE−PTFE グラフトを用いて犬大腿動脈に移植し,4.5ヵ月以上の観察で100%の開存性を報告した.また
Campbellら53)は種・々のpore sizeのE・PTFEグ ラフトを犬に移植し,最低4ヵ月の観察でpore size 34μm以上のものは,内膜の過剰増殖が起こ り,丁丁性も不良であったが,34μm以下では96% と驚異的な下下率を報告した.これらの結果から, E−PTFEグラフトのpore sizeは平均30μmとさ れ,現在に至っている.しかし,現実には市販の E−PTFEグラフトの開存性は必ずしも良好では なく,吻合部内膜肥厚も未解決の問題として残さ れており,その対策としてグラフト断端近傍の粗 面化処理30)などさまざまな試みがなされている. われわれの関発したポリウレタングラフトでは, smooth surfaceの1sでは,1r,1ar(30∼100μm のpore sizeを有する群)に比較してパソヌスは 最も過剰に形成される傾向にあり,グラフト内面 への新生内膜の固着は不良であった.これは新生 内膜伸長の最初の段階であるフィブリソの付着, 血小板の付着がsmooth surfaceでは起こりにく く,新生内膜断端はグラフト内面に固着できず次 第に厚さを増したためと患われた.rough surface のグラフト(1ar,1r)では,粗面化処理によるア ンカリング効果によりフィブリノーゲン,血小板 が付着しやすくなり,新生内膜の吻合部近傍での 固着を強め,パンヌス形成が抑制された。1ar,1r とも,吻合面上でのパソヌスによる模様の狭窄は V側で強度であったが,この機序は,E・PTFEグ ラフトの場合と同様に,V側では新生内膜の伸長 が血流と逆方向になっているために新生内膜の先 進部が血液のジェヅトによって剥離され,間隙に血栓が付着し,それが繰り返ざれることによって パソヌスがより強く形成された22>と考えられ.る. さらに,吻合部静脈が強い動脈の拍動流によって 障害を受けるため,その部位が次第に肥厚し,狭 窄を起こしたこともパンヌス形成の一因となって いるものと推察された.ポリウレタンは抗血栓性 においてE−PTFEよりも優れている反面,フィブ リノーゲン,血小板の付着は不良で,新生内膜の グラフト内面への固着はE−PTFEグラフトより も悪いものと推察され,長期開存性には問題が残 されよう21)∼23).一方,蛇腹加工したPE−PEUグラ フト(2r,2rg)では飛躍的に開存性が向上し(図 2),吻合部内膜の性状がグラフト1r,1rgに比較 してさらにスムーズとなることが観察された.こ れは,移植後初期の段階(数時間から10日)で蛇 腹の谷の部分に赤色血栓が形成され,そこが足が かりとして新生内膜が伸長し,吻合部近傍で早期 に内皮細胞で被覆されたためと推察され,蛇腹加 工が吻合部パンヌスの抑制に寄与していることが 示唆された. 内外面の疎通性を有さない(non−porous)人工 .血管,すなわち贋帯静脈グラフト,ボバイソグラ フトなどでは,内皮細胞は吻合部自己血管の断端 から分裂増殖して伸長するのみと考えられてお り31),その限界は,縫合線より20mmとされる.わ れわれの開発したポリウレタングラフトもnon− porousであり,1ar群の摘出標本による検:討で は,新生内膜の先進部は,V側で3週間後で5mm, 3ヵ月後で15∼20mm, A側で8ヵ月後,14ヵ月後 とも20mmであり,これまでの動脈一動脈・ミイパ スによる報告32)と同等であった.1r群は全例早期 に閉塞し,その開存性は1ar群と比較し不良で あったが,1r群と内面構造の同一であるポリウレ タソグラフトの臨床例での検討44)45)では良好な開 存性が得られたことより,グラフトの粗面化処理 は吻合部のみのものと全面に施したものとで新生 血管の伸長およびパンヌスの発生頻度,程度には 差はないものと思われた. 理想的な抗血栓性材料を有する人工血管が見い だせない現時点では,グラフト内面全体を早期に 自己の内皮細胞で被覆する方法の一つとして,自 家組織片移植法の導入54)が試みられている.しか し,E−PTFEグラフト,われわれの開発したPEU グラフトではグラフトの構造上,グラフト内面全 体には内皮細胞を被覆させることは無理であろ う.しかし,現実には,ロング・ミイパスのE−PTFE 移植術後も内皮細胞は被覆されないまま長期に開 存している症例は多く32)、内膜被覆の絶対的必要 性については今後ち議論がなされるべきところで ある49).さらに,グラフトの長期開門性を得るには 貫通性のある構造(porous)であることが必要で あるとされているが49),われわれの用いた貫通性 のないグラフト(non−porous)でも長期二丁性を 得られたことより,貫通性の是非についても今後 議論されるべきであろう. ゼラチンは,動物の骨や皮などの結合織を構成 する主要タンパク質であるコラーゲンを加水分解 して得られる水溶性の動物性蛋白質で,平均分子 量は15,000∼250,000である.このゼラチンは,生 体に安全で仮性内膜の形成阻害はなく,ゲル形成 能,ゾルーゲル変換能,粘性に優れるため,最近 ではダクロソ大口径人工血管に被覆してプレ・ク ロッティング不要の人工血管として臨床応用さ れ,良好な成績をおさめている46).さらにゼラチン には新生内膜の促進作用,フィブロネクチンを介 しての組織治癒促進作用33)34)があることも報告さ れており,小口径人工血管内面に被覆することの 有用性が示唆されている.そこでわれわれはPE−
PEUグラフトのAVシャントとしての開存性向
上をめざし,グラフト表面にゼラチンの被覆を試 みた.2rg群(ゼラチン被覆群)では,グラフト移 植初期の段階(数時間から10日)で蛇腹の谷の部 分に赤色血栓が形成されており,そこを足がかり としてゼラチン未処理群よりも早期に新生内膜が 伸長し,吻合部近傍は内皮細胞で被覆されていた. 2rg群(ゼラチン被覆群)の観察期間が10ヵ月と短 く,結論を出すことはできないが,2rg群で飛躍的 に三三性が向上し,パンヌスの形成も軽微であっ たことより,ゼラチンの被覆は有用と考えられた. なお,ゼラチン被覆処理の過程で,ゼラチンはで きるだけ薄く,しかもpore内面にまで被覆でき るように工夫し,そのグラフトの表面構造(poresize)を変化させないように留意すべきであるこ とが,われわれの研究過程で明らかにされた. セグメント化ポリウレタンが生体適合性に優れ ることは,これまで数多く報告されている37)が,反 面,その腫瘍発現性を.危惧する報告38)50)51)もある. 1960年代にHuepe士50)により,1970年代にAutian ら51》によりポリウレタンの腫瘍形成性が研究さ れ,その腫瘍形成性が示されている.今井ら38)は, セグメント化ポリウレタンの各種素材フィルムを ラットの皮下に埋植し,腫瘍形成を観察した結果, それは原料のジフェニルメタンジイソシアネイト (MDDに起因するとした.しかし,・有機溶媒によ る抽出操作によって溶出性物質を除去し,精製す ることにより,腫瘍形成症の弱い,安全性のかな り高い材料となると報告38)している.さらに Boretos19)は,犬への皮下埋植試験で発癌徴候は 認めなかったと報告している.腫瘍形成性につい てわれわれの施行したすべての摘出標本の病理的 検索からは,各標本とも,異物巨細胞や単核球の 集籏,毛細血管の増生など,中等度の異物反応が 観察されたが,.前腫瘍形成を予想させる非定型的 細胞増殖巣は観察されなかった.さらに,酵素組 .織化学的検査(NTAエステラーゼ活性).による腫 瘍発現性に関する研究からは,NTA・エステラ「 ゼ活性陽性を示す地声.は認められず,ポリウレタ ンの腫瘍発現性は将来の臨床応用に際して問題な いものと思われた.しかし,今後もこの点に関し ては十分検討してゆかなけれぽならない. 結 論 ポリエーテル型ポリウレタソグラフトでは,グ ラフトの内面構造を30∼100μmの粗面化処理し, 蛇腹構造を付与し,さらにゼラチンで表面を被覆 することにより,内皮細胞のグラフト内への伸長 をスムーズに.し,開存性を高めることが可能で あった. ポリエーテル型ポリウレタンは,生体適合性に 優れ,生体内に長期埋評しても,異物反応は軽微 で腫瘍発現性は問題ないと結論された. 稿を終えるにあたり,本研究のご指導,ご校閲を 賜った第三外科主任太田和夫教授に心より感謝の意 を述べさせていただきます.また技術面などで,いろ いろとご指導いただいた第三外科阿岸鉄三教授,寺岡 慧教授に深謝するとともに,実験にご協力をいただい た第三外科および泌尿器科の諸氏にお礼申しあげま す.さらに,酵素組織化学検査で多大のご協力をいた だいた食品薬品安全センター秦野研究所今井 清先 生,著者の度重なる注文にも対応し,人工血管を作製, 提供いただいた宇部興産千葉研究所坂本永吉氏,金子 憲明氏,平田吉見氏に深謝する次第です. 文 献 1)Fujiwara Y, Co臨n LH, Adams D et aL Use of GQretex grafts for replacement of superior and inferior vena cava. J Thorac Cardiovasc Surg 67:774−779, 1974. 2)丹沢 宏:医用高分子の抗血栓性.医学のあゆみ 105:357−362, 1979 3)Clark RE, Boyd.JC, Moran JF et al: New principles govering the tissue reactivity of prosthetic materials. J Surg Res 16:510−522, 1974 4)野一色泰晴,山根義久,森 有一:超極細繊維製 人工血管の特徴.人工臓器 15:331−334,1986 5)Noisbiki Y, Nagaoka S, Mori Y et a1:Appli. cation of porous heparinized polymer to vas・ cular graft. Tans Am Soc Artif Int Organs 27: 213−218, 1981 6)Langergren HR, Erikson JC:Plastics with astable surface monolayer of cross−linked heparin:Preparation and evaluation. Trans Amer Soc Artif Int Organs 17:10−13,1971 7)中川芳彦,太田和夫,佐々木優里ほか:新しいポ リエーテル型ポリウレタン人工血管についての検 討.人工臓器 16:1428−1431,1987 8)Campbell CD, Brooks DH, Bahnson HT et a1: The use.of expanded microporous polytetrafluoroethylene for limb salvage:A preliminary report. Surgery 79:485−491,1976 9)Matsumoto H, Hasegawa T, Saisusa M et al: Anew vascular prosthesis for a small caliver artery. Surgery 74:519−523, 1973 10)Baker LD, Johnso駐 JM, Goldfarb D: Expanded polytetrafluoroethylene(PTFE)sub・ cutaneous arteriovenous conduit:An improved vascular access for chronic. hemodialysis. Trans Am Soc Artif Int Organs 22:382−387, 1976 11)Tellis VA, Kohlberg WI, VeitL FJ et al: Expanded polytetrafluoroethylene gra至ts fistu董a for chronic hemodialysis. Ann Surg 189: 101−105, 1979
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