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高齢救急患者の現状と問題点   -当院救命救急センターにおける過去5年間の分析から-

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Academic year: 2021

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(1)

   救急患者 救命救急センター

高齢救急患者の現状と問題点

当院救命救急センターにおける過去5年間の分析から

山屋保藤崎

高秋安宮

元 直 幸 敦 田

陰藤本井坂

山加山櫻大

り     ノ   エフ    う    ウ 信

潔樹吉史

廣 博 英 次 二 新 蔵 武 達 祐 沼

川田橋橋

小 小 村

高本

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匡薫屯

     糸

はじめに

 本邦における急激な人口高齢化現象は社会の 様々な側面に大きな影響を及ぼしている。とりわ け医学分野では高齢者に特徴的な疾病構造,ある いは高い罹病率に伴い,救急医療の現場でも高齢 救急患者に不可避的な多くの問題点が存在してい る。本稿では仙台市立病院救命救急センターにお ける高齢救急患者について過去5年間の実情を概 説すると共に,高齢者救急に関わる問題点につい て言及する。 方 法  過去5年間(1996年1月∼2000年12月)に仙 台市立病院救命救急センターを受診した患者を

75歳以上の高齢者群と75歳未満の2群に分類

し,これらについて受診患者数の年次推移,入院 率および入院患者数の年次推移,受診患者および 入院患者の病態別分類等について検討を加えた。 結 果  当院救命救急センターを受診する救急患者数は 1996年11965人,1997年11808人,1998年11909 人,1999年12044人,2000年13443人であり(図 1),救急車による搬入患者数も年々増加し,2000 年には4619人となり(図2),CPAOA患者数も 1996年の78人から200年には185人と倍増して いた(図3)。救急受診患者の年齢分布をみてみる と,他の年齢層では年毎のぼらつきがあるのに対 し,70歳以上では年々増加している傾向が認めら れた(図4)。75歳以上の高齢者群では1996年の

927人から2000年には1196人と約270人増加し

ていた(図5)。救急受診患者数全体が増加してい るため,高齢者が占める割り合いを見ると1996年 の7.8%から2000年には8.9%と毎年増加してい ることが明かとなった(図6)。これら救急受診患 者の年次推移を対1996年比でみると,2000年に は総受診者数が12.4%,75歳未満患者が11.0%の 増加であったのに対し,75歳以上の高齢救急患者 数は29.0%増加していた(図7)。また救急患者の 病態別分類をみてみると5年間を通じて常に外傷 12000>kc 9000 6000 3000 13442 11965 11808 11go9 12044 鉄 o 0 0 z パ ぷ o 1 1 仙台市立病院救命救急センター *同 医療福祉相談室  1996    1997   1998   1999   2000 図1.救急センター受診患者数の年次推移

(2)

が最多で,次いで,呼吸器疾患,消化器疾患,中 枢神経疾患,循環器疾患,熱傷・中毒・溺水,そ の他の順であった(図8)。これに対し75歳未満と 75歳以上を2000年のデータから分析してみる と,75歳未満は全体と同様の分布であったが,高 齢者群では外傷が最多であるものの比率は減少し ており,中枢神経疾患が第2位で約2倍に,循環 器疾患が3位で3倍強となっていた(図9)。 5000 2000 1996    1997    1998    1999    2000 図2.救急車による搬入患者数の年次推移 200 150 100 50 0 185 / / 165 / / 124 /

105

/ ♂ 78 / 嚇麗1

1 1996    1997    1998    1999    2000 図3.CPAOA患者数の年次推移 4000 3000 2000 1000 o 0・  10−  20−  30・  40−  50・  60・  70・  80−  90一  図4.年代別救急センター受診患者数(1996−2000) 1196 1200 800 400 0 人

927 927 964

磁 1055 願 1 | 1996   1997   1998   1999   2000 図5.高齢救急患者数の年次推移 10 5 0 9 7.8   7.8   / ノ1 ’      8.8   8.9       ユ 一 1 1 1996   1997   1998   1999   2000   図6.高齢救急患者の割合

(3)

 一方,全体の救急入院患者数,入院率はともに 年々増加しているが(図10),75歳未満と75歳以 上の高齢者群には入院率に大きな差があり,高齢 者群では2000年で46.8%と75歳未満群の約2 30 20 10 0 ・10 9 []受診者数 29.0 ‥

口75才未満

一 一

口75才以上

      1&8駕ロ

     麺一

.o

1       [ 1 1 1997 1998 1999 2000 図7.救急患者数の年次推移(対1996年比) 倍の入院率であった。また過去5年間の救急入院 患者全体の病態別分類をみると呼吸器疾患と消化 器疾患が1,2位を占め,次いで外傷,中枢神経疾 患,循環器疾患,中毒・熱傷・溺水の順であった (図11)。これに対し,75歳未満と75歳以上を 2000年のデータから分析してみると,75歳未満は 全体と同様の分布であったが,高齢者群では外傷 が最多の入院となり,次いで中枢神経疾患が第2 位で1.4倍,循環器疾患が第3位で3.8倍であった (図12)。 考 察  当院は人口コ00万人の政令指定都市唯一の自治 体病院であり,当院救命救急センターにおける救 急受診患者数および救急車搬入件数は依然仙台市 人4000 2000 o

∠=フ 願

口 ㎞

∠:〃

o

l        l  循環器  呼吸器 消化器 中枢神経熱傷・中毒・ 外傷      溺水 図8.病態別救急センター受診患者数(1996−2000)

75才未満n=12246

         熱傷

その他纏駄

     27 O%、

469

鐙6%  呼吸器

    碧鰐噂

  75才以上n=11g6

中圭       202%

循環器

152%t       125%

   中枢神経

    196%・ 図9.病態別救急センター受診患者(75歳未満vs 75歳以上)(2000年)

(4)

0 0 0 8 0 0 6 0 0 4 0 0 2 0 ‘ ’    全体      25.99i

/承

 轟

75才未満

       23.9 1 l       l 75才以上46.8g。 ,96,97,98t99’OO  ,96197,98,99100   t96’97,98T99,00        図10.入院率の年次推移 循環器  呼吸器  消化器 中枢神経熱傷、中毒、外傷       溺水     図11.病態別救急入院患者数(1996−2000)

75才未満 n=2927    75才以上n=560

  そのitk 4:蚕秀’◆:::’“’  14.4%  図12.

外傷

146%

 呼吸器

 2L1%

 肩化器

2航7%

  \2て竺L/

病態別救急入院患者(75歳未満vs 75歳以上)(2000年) 循環壽・

186%

中枢神経

216%

  10;5% 15」2%

(5)

内の病院群の中で最多である。過去5年間にわた る分析の結果から当院救命救急センターにおける 高齢救急患者の動向と幾つかの特徴が浮き彫りに された。すなわち,1)75歳以上の高齢救急患者は 一貫して増加傾向を示していた。2)このような 増加傾向は救急患者全体の増加が過去5年間で 12.4%であったのに対し,高齢救急患者数増加は 29.0%と顕著であった。3)救急受診患者の病態 別分類は高齢救急患者と75歳未満の2群間に明 らかな差を認めた。4)高齢救急受診患者の入院 率は46.8%であり,75歳未満のおよそ2倍であっ た。5)救急入院患者の病態別分類においてもやは り高齢者と75歳未満では明らかな分布の違いが 認められた。  本邦における特徴的な年齢別人口構成から高齢 化社会の到来は不可避であるが,現実にはすでに そのような時代に突入していることは今回の検討 からも裏付けられるものと思われる。しかし,単 純に高齢者人口の増加だけが,本来重症の三次救 急患者の救命を目的とする救命救急センターにお ける高齢救急患者の増加に単純に直結するとは言 い切れず,現実にはこれ以外にも様々な要因がか らみあっていると考える。たとえば患者サイドの 受診行動とそれを取り巻く医療環境の変化であ る。かかりつけ医が往診し,在宅での看取りまで 幅広く行っていた時代は過ぎ去り,日中のみの診 療を主体とするクリニック開業医が増加し,他方 患者サイドには大病院指向が根強く存在する。ま た核家族化(高齢者世帯)と共働き世帯の増加は 在宅医療を困難なものとしており,導入された介 護保険で在宅治療の問題点がすべて解決される筈 もなく,死生観の変化は自宅での看取りをさらに 困難なものとしている。仙台市における救急医療 体制,特に入院を必要とする二次救急患者の受け 入れシステムの不備も問題である。当院救命救急 センターの時間帯別受診患者数ではいわゆる準夜 深夜帯が53.6%を占め,また曜日別では土日祝日 が平日の1.5倍であった(1)。これらの因子が結果 的に高齢救急患者の増加,高齢者を多く含む

CPAOA患者の激増につながったものと思われ

る。  高齢救急患者の病態もより若年者層と比較して 明らかに異なっていた。救命救急センター受診の 高齢患者では,75歳未満群よりも中枢神経疾患が 約2倍,循環器疾患が3倍強,救急入院患者では 高齢者群において中枢神経疾患が1.4倍,循環器 疾患は3.8倍であり,それぞれ受診,入院とも2,3 位を占めていた。中枢神経疾患の多くは脳血管性 障害であり,循環器疾患とともに加齢に伴う全身 の血管の老化の表現形式と捉えることが可能であ る。この両者は本邦における3大死因の2つであ り,大多数が急激に発症することから救急患者と して搬入される場合が殆どである。今後さらに人 口高齢化が進行していくことを考慮すれば,この 救急2大疾患に起因する救急患者はさらに増加す るものと考える。  当院救命救急センターにおける病態別の受診患 者数では高齢者群および75歳未満群の両者で外 傷が最多であった。一方,病態別救急入院患者で は75歳未満群では外傷が第3位であったのに対 し,高齢者群では外傷が第1位であった。これは 高齢者に特徴的な転倒等の軽微な外傷による大腿 骨頸部骨折がその要因と考えられた。  さて,救急患者の入院率も高齢者群では極めて 高く,75歳未満の23.9%に対して46.8%と約2 倍に達していた。75歳以上の高齢救急患者は2人 に1人が入院することになるが,これは既往疾患 を有しているケースが多いこと,また上述の循環 器疾患や脳血管性障害,また外傷では大腿骨頸部 骨折など入院の対象となる傷病の多いこと,さら に高齢者のみの世帯では安易に帰宅経過観察措置 がとりにくいなどの理由によるものと思われる。 しかし,高齢者は入院による環境の変化に対応困 難な場合もあり,結果的に数週間の入院によって 痴呆症状が出現あるいは進行することも観察され る。また,入院当初からより若年層にくらべて APACHE score(2,3)等による評価からも重症 度が高い傾向が観察されている。核家族化や共働 き世帯の増加はこのような高齢患者の家庭内復帰 を困難なものとし,後方施設の受け入れ体制も不 十分である。これらすべての要因が結果的に入院 期間の長期化につながり,時に救命救急センター

(6)

における円滑な救急患者受け入れの阻害因子にな り得る。  高齢者の定義は本邦でも様々であるが,本稿で は75歳以上を高齢者と規定して分析した。しか し,これを65歳以上,あるいは70歳以上として もこのような傾向は一定であった。65歳以上,70 歳以上,75歳以上のすべての年齢層において,救 急外来受診患者数(図13),その割合(図14),救 急入院患者数(図15),その割合(図16)は年々 増加傾向にある。

おわりに

 人口の高齢化が進む中で,脳血管性障害,循環 器疾患,大腿骨頸部骨折など高齢者に特徴的な病 態を多く含む高齢救急患者の増加は必然的であ り,今後ますます増加の一歩をたどるものと思わ れる。高齢患者は既存疾患を有していることが多 く,また当初から重症度も高く,様々な要因で家 庭内復帰が困難なケースも多く,結果的に入院が 長期化する傾向にある。救急医療を充実させるた めには,初療の段階から高齢者だけでなく,新生 児からのすべての年齢層を対象に,後方支援医療

7

       75才一65才一    70才・      1

ぷ 一

 ,﹃﹄

6

l   l   l l   l   l   l   l 1 i96‘97t98,99‘00  ,96t97‘98,99100  ,96り7,98’99tOO  図13.高齢救急患者数の年次推移(65歳一,70歳一,75歳一) 65才・    1 % 70才・ % 75才・ 196t97198’99,00  t96,97,98199’OO   ,96 t97,98,99,00   図14.高齢救急患者の割合(65歳一,70歳一,75歳一)

(7)

65才・ 70才一 75才一 卿一 ダ ll

ぷ ー /

     ぷ

1 !96’97’98†99tOO  t96!97「98!99,00  ’96¶97t98t99,00 図15.高齢救急入院患者数の年次推移(65歳一,70歳一,75歳一) 65才・ 70才・ 75才・ %     22 % 16 % 7 ∠コ δ

ぷ ダ ∠コ ぷ 汐 |   1 l      l   l   i       l ,96,97198,99’00  ,96,97,98,99tOO  ,96t97t98i99’OO  図16.高齢救急入院患者の割合(65歳一,70歳一,75歳一) 施設までを視野に入れた救急医療システムの整備 構築が不可欠である。         文   献 1)亀山元信他:過去5年間における救急セン   ター外来受診患者の概要一1996−2000年のデータ   ベース解析一.仙台市立病院医誌(in press) 2)Knaus WA et a1:APACHE−acute physiology   and  chronic  health  evaluation: a   physiologically based classification system.   Crit Care Med 9:591−597,1981 3)Knaus WA et al:APACHE II:Aseverity of   disease classification system. Crit Care Med   13:818−829,1985

参照

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