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過去の反実帰結を表すフランス語の半過去形と過去前未来形

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(1)

過去の反実帰結を表すフランス語の半過去形と過去

前未来形

著者

曽我 祐典

雑誌名

人文論究

67

1

ページ

61-78

発行年

2017-05-20

URL

http://hdl.handle.net/10236/00025776

(2)

過去の反実帰結を表すフランス語の

半過去形と過去前未来形

曽 我 祐 典

0.は じ め に

発話者は,条件節 si P によって設定した過去の反実条件の帰結を,たいて いは(1)のように過去前未来形(条件法過去)で,ときに(2),(3)のよう に半過去形または大過去で表す(1)

( 1 )Si mes parents avaient été moins âgés, on aurait pu dire que c’était le leur[=leur enfant].

(H. Grémillon 2010, Le confident, Folio, 85) ( 2 )Si dans l’arène du Palais de justice de Paris, l’avocat général

Ray-mond Lindon(le père de l’éditeur)ne s’était acharné à la(= Pauline Dubuisson)détruire, tout était là pour que l’on s’apercût déjà que le crime était accidentel.

(L’Obs 2664 du 26 nov. au 2 déc. 2015, 126) ( 3 )Si le vent n’avait pas tourné, j’avais perdu ma maison avant même

l’intervention des pompiers.

このような時制使用は,アスペクト・モダリティ・テンスのすべてに複雑に

────────────

⑴ 本稿に示す発話例のうちで出典を記していないものは,インフォーマントの協力を 得て作成したものである。インフォーマントは Olivier Birmann 氏(関西学院大 学),Jean-Paul Honoré 氏(Univ. Paris-Est),Adriana Rico-Yokoyama 氏(関 西大学)の 3 名である。

(3)

かかわる操作である。すでに曽我(2016 b)で論じたが,(1)のように過去 前未来形を用いる場合について示した仮説には問題があることがその後の考察 で分かってきた。そこで,本稿では,まず,現在の反実帰結の表現法を踏まえ て仮説の問題点を修正したい。さらに,過去の反実帰結を表す si P, Q の帰結 節と比較して,いわゆる「間一髪の半過去形」を用いる〈副詞句+帰結節〉の 特異な点を明らかにしたい。 本題に入る前に,発話者がおもな過去時制をどのように用いるかについて, 本稿の考えかたを示しておこう。 ( 4 )a. 発話者には,発話時点を含む時間的広がり(現在スペース)にいる という意識がある。そして,その意識を保ったまま,なんらかのき っかけで,ある過去の場面(過去スペース)を思い描いてそこにい る気持になることがある(2) b. 過去スペースにいる気持になっている発話者は,そこにある事態を 表すとき,事行のアスペクトが非完了であれば半過去形を,完了で あれば大過去形を用いる(完了用法)。そして,過去スペースより 前の出来事を表すときも,大過去形を用いる(先行用法)。 c. 過去スペースにいる気持になっている発話者は,そこから未来方向 を展望して思い描く事態を表すとき,事行が非完了であれば過去未 来形(条件法現在)を,完了であれば過去前未来形(条件法過去) を用いる(完了用法)。過去未来のある時点より前の出来事を表す ときも,過去前未来形を用いる(先行用法)。 なお,本稿では,「完了」を,事行の開始から終了までの全過程が実現して いる段階・局面(いわゆる完了結果・完了状態)について用いる。また,「非 完了」を,完了以外のさまざまなアスペクト(事行を展開中と捉える「未完 了」,事行の開始から終了までの全過程をひとまとまりに捉える「総括」,事行 ──────────── ⑵ より正確には,「あるスペース(現在スペース,過去スペースなど)より前のスペ ース(以前スペース)を想起してそこにいる気持になることがある」と言うべきで あるが,本稿では簡略な表現にとどめておく。 62 過去の反実帰結を表すフランス語の半過去形と過去前未来形

(4)

の繰り返しを捉える「反復」など)について用いる。

1.帰結を過去前未来形で表すしくみ

すでに述べたように,帰結節における時制使用は,アスペクト・モダリテ ィ・テンスに複雑にかかわる操作である。ここでは,現在の反実帰結を表すと きの時制使用のしくみを踏まえて,過去の反実帰結を過去前未来形で表すしく みを再検討し,曽我(2016 b)で提案した仮説の問題点を修正しよう。 1.1.現在の反実帰結を表す過去未来形・過去前未来形 現在の反実条件 P が含む事行は完了のこともあるが,本稿では,議論が煩 雑になるのを避けるために,非完了の場合に話をかぎる。対応する帰結 Q は, 過去未来形または過去前未来形で表すことが知られている。 1.1.1.帰結を過去未来形・過去前未来形で表す発話例 現在の反実条件 P は,半過去形または大過去形で表すことが知られている。 そのしくみは,曽我(2016 a, 49-52)で明らかにしたとおりである(3) Pの帰結 Q を表す時制であるが,まず,事行が非完了の(5)-(8)を見よ う。発話者は,過去未来形で表している。

( 5 )Si le nouveau chef parlait mieux le français, ça faciliterait bien notre travail.

( 6 )Si elle aimait le poisson, je lui préparerais un bon plat de truite. ( 7 )Elle parle de cet écrivain sans le connaître. Si elle le connaissait

un peu, elle serait d’un autre avis.

──────────── ⑶ 半過去形と大過去形は,次のように使い分けていると考えられる:現在の反実の P (事行は非完了)を表すとき,発話者は si P に半過去形を用いる。ただし,「自分 が事態 E を現実と捉えていると相手が思って,E と両立しない P を反実と解釈し てくれる」と判断するにいたらず,P を反実として打ち出す必要を感じるときは大 過去形を用いる。詳細については曽我(2016 a, 51)を参照。 63 過去の反実帰結を表すフランス語の半過去形と過去前未来形

(5)

( 8 )Elle n’est toujours pas arrivée. Si elle était là, on pourrait com-mencer dans dix minutes.

次の(9),(10)の場合,事行はやはり非完了だが,過去前未来形で表して いる。

( 9 )En ce moment à la Sorbonne ils sont en pleine discussion sur L’Etranger. Si Camus avait été avec eux, cela aurait enrichi le débat.

(10)Ils sont à l’aéroport ? Malheureusement je suis bloqué au bureau. Si j’avais pu me libérer, je me serais fait un plaisir d’aller les cher-cher.

こんどは,事行が完了の場合である。(11)-(13)の発話者は,過去前未来 形で表している。

(11)Si j’avais son adresse e-mail, je l’aurais déjà mise au courant. (12)Si la mer était moins houleuse, ils y seraient arrivés depuis

longtemps.

(13)Il teste ta voix, c’est un excellent signe. S’il n’avait pas voulu de toi, il aurait déjà cessé de t’appeler. Je parie que bientôt il souhai-tera te revoir.(A. Wiazemsky 2007, Jeune fille, Folio, 23)

Qは,事行が非完了のときは,(5)-(8)のように過去未来形で表すのが普 通である(ただし,(9),(10)のように P を大過去形で表す場合は,過去前 未来形で表す)。事行が完了のときは,(11)-(13)のように過去前未来形で表 すのが普通である。現在の反実条件 P の帰結 Q を表す時制は,表 1 のように 示すことができる。 表1 現在の反実の P の帰結 Q を表す時制 現在の P 現在・未来の Q 非完了 非完了 完了 半過去形 過去未来形 過去前未来形 大過去形 過去前未来形 64 過去の反実帰結を表すフランス語の半過去形と過去前未来形

(6)

(9),(10),(13)の P は,事行が非完了であるが,発話者は反実であるこ とをはっきり打ち出そうとして大過去形で表している。では,Q はどうか。 (9),(10)の事行は非完了で(13)の事行は完了であるが,どちらも過去前 未来形で表している。条件を大過去形で表す場合,対応する帰結はつねに過去 前未来形で表すわけで,非完了か完了かの区別は表示しないことになる。 1.1.2.帰結を過去未来形・過去前未来形で表すしくみ それでは,帰結 Q を過去未来形または過去前未来形で表すしくみを検討し よう。(5)-(13)のどの場合も,発話者は,現在スペース(下の図 1 の上の楕 円)にいて,現在スペースのなんらかの事態 E を念頭において,それと両立 しない反実の事態 P を思い描く。そして,現在スペースにいるという意識を 保ったまま,P のある場面,すなわち反実 P スペース(図 1 の下の楕円)に いる気持になり,P の帰結としてそこにあるだろうと推量する事態 Q を思い 描く。 発話者は,そのような Q を,事行が非完了のときは過去未来形で,完了の ときは過去前未来形でそれぞれ表す。P の反実性をはっきり打ち出すために大 過去形で表す場合は,反実 P スペースにあるだろうと推量する Q を,事行が 非完了か完了かにかかわらず過去前未来形で表す。 (5)-(13)の Q は,現在スペースにいる発話者にとって反実である一方,反 図1 65 過去の反実帰結を表すフランス語の半過去形と過去前未来形

(7)

実 P スペースにいる気持になっている発話者にとってはそこにあるだろうと 推量する(したがって,不確定な)事態である。(4 c)に示したように,過去 未来形は,過去スペースから未来方向を展望して思い描く事態(つまり,現在 スペースから時間的に隔たった事態)を表すことを基本的なはたらきとする時 制であり,「現在スペースの現実から遠い」というモダリティが表せる。また, 過去前未来形は,現在スペースから時間的にさらに大きく隔たった事態が表せ る時制であり,「現在スペースの現実からきわめて遠い」というモダリティが 表せる。(9),(10),(13)の発話者は,大過去形によって P の反実性をはっ きり打ち出す(P を現実からきわめて遠い事態として表す)から,その P の ある反実 P スペースは現在スペースの現実からきわめて遠い。そこにあるだ ろうと推量する Q は,現在スペースにいる発話者にとって現実からきわめて 遠い事態だから,事行が非完了のときも過去前未来形で表すのである。一方, 半過去形と大過去形は,確定的というモダリティを表すから,発話者が推量す る不確定な Q については用いられない。 以上のことから,現在の反実条件(事行は非完了)の帰結を表すしくみは (14)のように示すことができる。 (14)a. 発話者は,ある現在の事態 E を踏まえて,それと両立しない反実 の事態 P のある場面(反実 P スペース)を半過去形または大過去 形の si P によって設定する。 b. 発話者は,反実 P スペースにいる気持になり,P の帰結としてそ こにあるだろうと推量する事態 Q を思い描いて,事行が非完了で あれば過去未来形で,完了であれば過去前未来形で表す。ただし, P(事行は非完了)の反実性をはっきり打ち出すために大過去形で 表す場合は,Q を過去前未来形で表す。 Pと Q のあいだにあるのは,前件 protase と後件 apodose という論理的な 関係であって,時間的な前後関係ではない。(14 b)の「そこにあるだろう」 が重要である。すなわち,Q は,P のある場面にあるだろうと発話者が推量 する(したがって,不確定な)事態なのである。 66 過去の反実帰結を表すフランス語の半過去形と過去前未来形

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1.2.過去の反実帰結を表す過去前未来形 上では,現在の反実帰結を表すしくみが(14)のとおりであることを見た。 ここでは,それを踏まえて,過去の反実帰結を過去前未来形で表すしくみを再 検討し,曽我(2016 b)で提案した仮説の問題点を修正しよう。 1.2.1.帰結を過去前未来形で表す発話例 発話者は,過去の反実の P のある反実 P スペースを条件節 si P で設定す るとき,原則として大過去形を用いる。P の帰結 Q を表すためには,多くの 場合,過去前未来形を用いる。例として(15)-(19)を示そう。

(15)Si elle avait présenté le contrat à ce moment-là, elle aurait

em-porté l’affaire.

(16)Si ce témoin n’avait pas arrêté l’hémorragie, elle serait morte. (17)Si le vent n’avait pas tourné, j’aurais perdu ma maison. (18)S’il y avait eu un baccalauréat au mois de juin, je l’aurais raté. (19)Si mes parents avaient été moins âgés, on aurait pu dire que

c’était le leur[=leur enfant].(=1)

1.2.2.帰結を過去前未来形で表すしくみ 過去の反実帰結を過去前未来形で表す場合について,曽我(2016 b, 113) では(20)のような仮説を示した。 (20)発話者は,過去の反実 P スペースにいる気持になって,P の帰結が Q (事行は非完了・完了)だと推量し,過去前未来形で表す。 この(20)からは,発話者が Q を反実 P スペースに対してどのように位置 づけているか明らかでない。しかし,つづく説明中の「反実 P スペースから 思い描く反実の Q」という表現からも分かるように,(20)は「反実 P スペ ースから未来方向を展望して Q を思い描く」ということを述べているのであ る。そのことは,説明の後の「図 3 反実 P スペースから推量する Q」にお いて,反実 P スペースを示す楕円の右上方に Q を配置していることにも表れ 67 過去の反実帰結を表すフランス語の半過去形と過去前未来形

(9)

ている。しかし,このように,Q を反実 P スペースよりも未来方向にある事 態と考えるのは誤りである。上で(14 b)について述べたように,P と Q の あいだにあるのは,前件と後件という論理的な関係であって,時間的な前後関 係ではない。Q を過去前未来形で表すしくみは,(21)のように示すべきであ った(4) (21)a. 発話者は,過去の事態 E のある過去スペースにいる気持ちになり, Eと両立しない反実の事態 P を思い描いて,条件節 si P によって 表す。 b. 発話者は,過去の反実 P スペースにいる気持になり,P の帰結と してそこにあるだろうと推量する事態 Q(事行は多く非完了,と きに完了)を思い描いて,過去前未来形で表す。 (14 b)の場合と同じように「そこにあるだろう」が重要である。すなわち, 発話者は,P がある場面には Q があるだろうと推量するのである。 このように考えると,曽我(2016, 113)の図 3 は,Q を反実 P スペースの 内部に位置づけるように修正した図 2 にする必要がある。 では,Q を表すために過去前未来形を用いることは,どのように説明でき るだろうか。(15)-(19)のような場合,発話者は,E のある過去スペースに おいて反実の P を思い描き,P のある反実 P スペースにいる気持になって, Pの帰結としてそこにあるだろうと推量する事態が Q である。たとえば, (15)の場合,発話者は,「そのとき契約書を提示した」という過去の反実の Pの帰結が「契約を勝ち取る」という Q だろうと推量している。(16)-(19) の場合も同様で,発話者は,P の帰結が Q だろうと推量している。 Qは,過去の反実 P スペースの事態として思い描くのだから,現在スペー スにいる発話者にとって,過去の反実の事態にほかならない。一方,反実 P ──────────── ⑷ Q の事行のアスペクトについては,(21 b)のように「事態 Q(事行は多く非完 了,ときに完了)」とする方が言語実態をより正確に表すことになる。帰結節に容 認されるのは過去前未来形だけだから,事行が非完了か完了かを時制によっては表 示しない。 68 過去の反実帰結を表すフランス語の半過去形と過去前未来形

(10)

スペースにいる気持の発話者にとっては,そこにあるだろうと推量する(つま り,不確定と捉える)事態である。過去の反実 P スペースの不確定な事態と なると,それを表す時制として,半過去形も大過去形も適格でない。どちら も,過去スペースの確定的な事態を表すことを基本のはたらきとする時制だか らである。また,過去未来形も,(4 c)に示したように過去スペースから未来 方向を展望して思い描く事態(つまり,過去スペースにおいて「ありそう」と 捉える事態)を表す時制だから,適格でない。それに対して,過去前未来形 は,(4 c)に示したように過去スペースから展望する過去未来のある時点から 過去方向に遡ったある時点の事態を表す用法(先行用法)をもつ時制であり, 反実のモダリティを表す能力をもっともよくそなえている。そのために,発話 者が過去の反実 P スペースにおいて不確定と捉える事態を表すことができる のである。

2.「間一髪の半過去形」の〈副詞句+帰結節〉の特徴

過去の反実条件に対応する帰結としは,現在・未来の事態も考えられるが, 図2 69 過去の反実帰結を表すフランス語の半過去形と過去前未来形

(11)

ここでは過去の事態の場合に話をかぎる。si P, Q の帰結節に用いる時制は, たいていは過去前未来形であるが,ときに半過去形または大過去形のこともあ る。その場合と比較して,帰結を「間一髪の半過去形」の〈副詞句+帰結節〉 で表す場合の特異な点を明らかにしよう。 2.1.過去の反実帰結を表す半過去形・大過去形 上で述べたように過去の反実帰結を表すために発話者が半過去形または大過 去形を用いることがあるわけだが,そのしくみは曽我(2016 b, 114-121)で 明らかにしたとおりである。まず,半過去形・大過去形を用いるしくみを確認 しておこう。 2.1.1.si P, Q の帰結節の半過去形・大過去形 過去の反実条件節 si P には,P の事行が非完了でも完了でも,原則として 大過去形を用いることが知られている。曽我(2016 a, 54-60)で述べたとお り,発話者にとっての出発点は,なんらかの過去の現実の事態 E である。E は,たとえば下の(15’)-(17’)のように,発話場面の諸要素や先行文脈などを きっかけに記憶から取り出す現実の出来事(elle n’a pas présenté ... ; ce témoin a arrêté ... ; le vent a tourné ...)のこともあれば,(18’),(19’)の ように,ある過去スペースにいる気持になってそこにあると捉える事態(il n’y avait pas de ... ; mes parents n’étaient pas ...)のこともある。いずれに せよ,発話者は,あらかじめ過去の事態 E を意識している。そして,(現在ス ペースにいるという意識を保ったまま)E のある過去スペースにいる気持に なり,E と両立しない反実の事態 P を思い描いて,大過去形で表す。(4 b) に示したように,大過去形は,過去スペースより前の出来事を表す用法(先行 用法)をもつ時制(つまり,現在スペースから時間的に大きく隔たった事態を 表すことのできる時制)であり,si P に用いて「過去スペースの現実から遠 い」というモダリティを表すことができるのである。 発話者は,P の帰結 Q を(15’a)-(19’a)のように半過去形で表すことがあ 70 過去の反実帰結を表すフランス語の半過去形と過去前未来形

(12)

る。ま た,と き に 大 過 去 形 で 表 す こ と も あ る。(15’b)- (19’b)は,(15’a)-(19’a)の帰結節の半過去形を大過去形に変えたものであるが,インフォーマ

ントは,(15’b)-(17’b)を容認し,(18’b),(19’b)を容認しない。

(15’)a. Si elle avait présenté le contrat à ce moment-là, elle emportait l’affaire.

b. Si elle avait présenté le contrat à ce moment-là, elle avait

em-porté l’affaire.

(16’)a. Si ce témoin n’avait pas arrêté l’hémorragie, elle mourait. b. Si ce témoin n’avait pas arrêté l’hémorragie, elle était morte. (17’)a. Si le vent n’avait pas tourné, je perdais ma maison.

b. Si le vent n’avait pas tourné, j’avais perdu ma maison.(=3) (18’)a. S’il y avait eu un baccalauréat au mois de juin, je le ratais.

b.* S’il y avait eu un baccalauréat au mois de juin, je l’avais raté. (19’)a. Si mes parents avaient été moins âgés, on pouvait dire que

c’était le leur[=leur enfant].

b.* Si mes parents avaient été moins âgés, on avait pu dire que c’était le leur[=leur enfant].

過去の反実仮定の帰結を表すときは,表 2 のように,場合に応じて三つの 時制のどれかを用いるわけである。 2.1.2.帰結を半過去形・大過去形で表すしくみ 過去の反実帰結を半過去形または大過去形で表すしくみは,曽我(2016 b, 114-121)で明らかにしたとおりである。すなわち,発話者は,反実 P スペー 表2 過去の反実の P の帰結 Q を表す時制 過去の P 過去の Q 非完了・完了 非完了 完了 大過去形 半過去形 大過去形 過去前未来形 71 過去の反実帰結を表すフランス語の半過去形と過去前未来形

(13)

スにいる気持になり,P の帰結としてそこに確かにある事態 Q を思い描く。 たとえば,(15’a)または(15’b)の発話者は,それぞれ「そのとき契約書を 提示した」という反実の P のある反実 P スペースにいる気持になり,P の帰 結としてそこに確かにある事態としてそれぞれ「契約を勝ち取る」(事行は非 完了)または「契約を勝ち取っている」(事行は完了)という Q を思い描いて いる。この操作は,残りの発話例の場合も同様だと考えられる。 Qを表すために半過去形と大過去形のどちらを用いるかは,明らかに Q の 事行のアスペクトが非完了か完了かによる。実際,(15’b)-(17’b)の場合にイ ンフォーマントが大過去形を容認するのは,事行が完了の Q が帰結として十 分ありそうな事態だからである。一方,(18’b),(19’b)の場合に大過去形を 容認しないのは,事行が完了の Q が帰結としてありそうにない事態だからで ある。すなわち,事行が非完了の「バカロレアに不合格になる」,「言える」と いう Q を帰結として思い描くことはごく自然だから半過去形は容認されるが, 完了の「バカロレアに不合格になっている」,「言えるようになっている」とい う Q は帰結として考えにくいために,それを表す大過去形は容認されないの である。 Qは,反実 P スペースの事態だから,現在スペースにいる発話者にとって 反実であるが,反実 P スペースにいる気持の発話者にとっては,そこに確か にある,確定的な事態である。ところで,過去の反実 P スペースは,注 2 に 述べた「以前スペース」の一種である。したがって,過去の反実 P スペース にいる気持になって,そこに確かにある Q を表すときに半過去形または大過 去形を用いるのは自然なことである。他の発話例の場合も同様で,反実 P ス ペースにいる気持の発話者にとって,Q はそこに確かにある,確定的な事態 である。そして,「以前スペース」の事態について確定的というモダリティを 表す適性をそなえている時制は,半過去形と大過去形である。このように両時 制とも用いうるので,Q の事行が非完了か完了かを表示するために,両者を 使い分けていると説明できる。 発話者は,過去の反実の Q を表すとき,(22)のように時制を用いている 72 過去の反実帰結を表すフランス語の半過去形と過去前未来形

(14)

と考えられる。 (22)a. 発話者は,過去の事態 E のある過去スペースにいる気持ちになり, Eと両立しない反実の事態 P を思い描いて,条件節 si P によって 表す。 b. 発話者は,過去の反実 P スペースにいる気持になり,P の帰結と してそこに確かにある事態 Q を思い描いて,事行が非完了であれ ば半過去形で,完了であれば大過去形で表す。 2.2.過去の反実帰結を表す「間一髪の半過去形」 過去の反実帰結をいわゆる「間一髪の半過去形」で表す〈副詞句+帰結節〉 については,文法書や Berthonneau et Kleiber(2003, 2006),渡邊(2007, 2014),井元(2010)などに興味深い記述・説明がある。それらを参考に,こ こでは,過去の反実帰結を si P, Q の帰結節で表す場合と比較して,特異な点 を考えよう。 2.2.1.副詞句による条件の設定 文法書や論考が指摘するように,帰結節に先行する副詞句が条件 P を設定 する際に決定的に重要な役割を担っていることはまちがいない。条件 P の設 定のしかたを検討するために,Berthonneau et Kleiber(2006)が示す発話 例のいくつかを見ていこう(括弧内は出典のページ)。副詞句は,時間的な内 容を表すものとそうでないものに分けることができる。 時間的内容の副詞句としては,時点を表す〈時間表現+plus tard〉と時間 量(持続の長さ)を表す〈時間表現+de plus〉,encore un peu, un peu plus などがある。

(23)Un instant plus tard, le train déraillait.(p.12)

(24)Heureusement que la cavalerie est arrivée. Une minute de plus, Lucky Luke était prisonnier des Indiens.(p.9)

(25)Encore un peu, le train déraillait.(p.8)

73 過去の反実帰結を表すフランス語の半過去形と過去前未来形

(15)

(26)Un peu plus, je rentrais dans le pylône.(p.9)

非時間的内容の副詞句としては,〈名詞+de plus/de moins〉,〈encore+名 詞〉,un peu plus などがある。

(27)Un mot de plus, il prenait une gifle.(p.9)

(28)Deux kilos de moins, je rentrais dans ma robe.(p.9) (29)Encore un verre, il tombait raide.(p.9)

(30)Mais tu es fou de m’avoir bousculé ainsi ! Un peu plus, je tombais. (p.28)

これら副詞句の多くが副詞 plus, moins, encore を含んでいることからも分 かるように,発話時点に先立って,比較の基準となるなんらかの過去の現実の 事態 E が発話者の意識にのぼっていることは確かである。そして,副詞句は, Berthonneau et Kleiber(2006)が指摘するとおり,その E にかかわると考 えられる。 (23)-(26)の副詞句は,意味内容が「∼より一瞬おそく,∼より 1 分多く, ∼より少し多く」であり,E の時点または持続の長さを表している。(27)-(30)の副詞句は,意味内容が「∼よりもひとこと多く,∼よりも 2 キロ少な く,∼よりも一杯多く,∼より少し強く」であり,E に非時間的な領域でか かわっている。 (23)-(26)の発話者は,E に「ほんの少しおそく」または「ほんの少し長 く」という要素を加えた過去の反実の事態 P を,副詞句によって喚起してい る。たとえば,(23)の発話者は,「ある瞬間に運転士が適切な処置をした」 といった過去の現実の E を踏まえ,「E より一瞬おそく運転士が適切な処置を した」という反実の P を思い描いて副詞句によって喚起している。(27)-(30) の発話者は,E に「ほんの少し多く・少なく,ほんの少し強く」という要素 を加えた過去の反実の P を,副詞句によって喚起している。たとえば,(27) の発話者は,「ある数の口答えを彼はした」といった E を踏まえ,「E よりひ とこと多く彼が口答えをした」という反実の P を思い描いて,副詞句によっ て喚起している。残りの(24)-(26)と(27)-(30)の場合も,発話者は,過 74 過去の反実帰結を表すフランス語の半過去形と過去前未来形

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去のなんらかの現実の E を踏まえ,E とわずかに異なる反実の P を思い描い て,副詞句によって喚起している。 si P, Qの構文の場合は,P を条件節 si P によって明示的に「表す」のであ るが,〈副詞句+帰結節〉の場合は,E を踏まえて,それとわずかに異なる過 去の反実の P を副詞句によって「喚起する」のである。 2.2.2.帰結を「間一髪の半過去形」で表すしくみ 発話者は,副詞句で喚起した反実の P の帰結として,事態 Q を半過去形で 表す。そのしくみを具体的に検討するために,(23)と(27)をもういちど取 り上げよう。

(23)Un instant plus tard, le train déraillait. (27)Un mot de plus, il prenait une gifle.

発話者は,過去の現実の E を踏まえて,E とわずかに異なる反実の P を思 い描き,それを副詞句によって喚起している。そして,P のある反実 P スペ ースにいる気持になり,(22 b)に示した si P, Q の場合と同じように,そこ に P の帰結として確かにある事態として,(23)であれば「列車が脱線する」 という Q(事行は非完了:総括)を,(27)であれば「平手打ちを食らう」と いう Q(事行は非完了:総括)をそれぞれ思い描き,それを半過去形で表し ている。 他の発話例の場合も同様で,反実 P スペースにいる気持の発話者にとって, Qはそこに確かにある,確定的な事態である。したがって,Q を表すしくみ は,(31)のように示すことができる。 (31)a. 発話者は,過去の事態 E のある過去スペースにいる気持ちになり, Eに対してわずかな差異のある反実の事態 P を思い描いて,副詞 句によって喚起する。 b. 発話者は,P のある反実 P スペースにいる気持になり,P の帰結 としてそこに確かにある事態 Q を思い描いて,半過去形で表す。 発話者は,P がある場面には帰結 Q があると断定する姿勢で表している。 75 過去の反実帰結を表すフランス語の半過去形と過去前未来形

(17)

その点は,2.1. で見た,si P, Q の帰結節に半過去形・大過去形を用いる場合 と同じである。si P, Q の帰結節については,曽我(2016 b, 120)で「相手が 反実 P スペースにおいて Q に立ち会っている気持になるように臨場感のある 表現をしている」と述べたが,〈副詞句+帰結節〉についても同じことが言え るだろう。 それだけでなく,副詞句につづく帰結節で表す Q は,過去においてもう少 しで現実になるところだった事態(「間一髪」の事態)だから,切迫感もある ことになる。それは,副詞句が E と P のあいだの「わずかな差異」を表すこ とに由来すると説明できる。

3.お わ り に

本稿では,過去の反実帰結にかかわる二つの課題に取り組んだ。一つは,si P, Qの帰結節において過去前未来形で表すしくみを再検討し,曽我(2016 b) の仮説の問題点を修正することであった。そのために,現在の反実帰結を過去 未来形・過去前未来形で表すしくみを踏まえて,P と Q のあいだに認められ るのは前件と後件という論理的関係であって,時間的な前後関係ではないこと を確認した。そして,(21)のような仮説を示した。 (21)a. 発話者は,過去の事態 E のある過去スペースにいる気持ちになり, Eと両立しない反実の事態 P を思い描いて,条件節 si P によって 表す。 b. 発話者は,過去の反実 P スペースにいる気持になり,P の帰結と してそこにあるだろうと推量する事態 Q を思い描いて,過去前未 来形で表す。 二つ目の課題は,「間一髪の半過去形」を用いる〈副詞句+帰結節〉の特異 な点を明らかにすることであった。まず,表現のしくみが(31)のようであ ることを見た。 (31)a. 発話者は,過去の事態 E のある過去スペースにいる気持ちになり, 76 過去の反実帰結を表すフランス語の半過去形と過去前未来形

(18)

Eに対してわずかな差異のある反実の事態 P を思い描いて,副詞 句によって喚起する。 b. 発話者は,P のある反実 P スペースにいる気持になり,P の帰結 としてそこに確かにある事態 Q を思い描いて,半過去形で表す。 そして,過去の反実条件と帰結を si P, Q で表す場合と比較して,〈副詞句 +帰結節〉には次のような特異な点が認められることを見た。 (32)a. 発話者は,条件 P を,明示的に表さず,過去の現実の事態 E との わずかな差異を表す副詞句によって喚起する。 b. 半過去形で表す帰結 Q には,切迫感がともなう。 もちろん,(32)の a と b は深くかかわっている。Q が確定的であるだけ でなく,切迫感をともなう事態であることには,条件 P を設定するために十 分にことばを用いる si P の場合とちがって,副詞句の場合は「わずかな差異」 を表すにとどめることも貢献していると考えられる。 過去においてもう少しで現実になるところだった帰結を〈副詞句+帰結節〉 で表す場合については,副詞句による条件の設定のしくみや帰結の事行のアス ペクト表示などについて,不明なままになっている点が少なくない。それらの 解明を次の課題としたい。 主要参考文献

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参照

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