●授賞理由 決定論的変分推論はベイジアンニューラルネットワー クにおいて,重みの確率分布を分布のまま順伝搬を行 う手法である.本研究はクラス分類を行うベイジアン CNNにおいて,softmax 関数手前までの計算を決定論的 変分推論を用いて計算する手法を提案している.計算機 実験により,提案手法によって得られる分布が十分なサ ンプリングを行った場合の理想的な分布を良く近似して いること,学習データが少ない状況でも安定した性能を 示すこと,計算効率に優れていることを示した.サンプ リングのための計算コストが増大するという既存手法の 課題に対処できる効果的な推論法であり,特に,学習デー タサイズを小さくしたときでも精度が落ちづらいという 特徴は実用上も有用であるという複数の選考委員の良い 評価を得ており,授賞に値するものとして選定した. ●アブストラクト 深層学習における不確かさの表現は大きなテーマであ る.予測の不確かさを捉えることで医療診断での患者の ふるい分け,判断できない場合での他のシステムへの意 思決定の委託,より重要なデータの活用など,数多くの メリットが存在し,物体検出,強化学習に応用されている. ベイジアンニューラルネットワーク(Bayesian Neural Networks:BNN)は重みを確率変数として扱うことで モデルの不確かさやデータに依存する不確かさを定量的 に評価することのできる手法である.現在提案されてい る BNN の計算手法として,重みにガウス分布を仮定す る変分推論(Variational Inference:VI)や,NN の過 学習を抑える手法として提案された Dropout を利用する 手法が存在する.これらはともに順伝搬演算時に重み, あるいは活性をサンプリングし,これを複数回行うこと で予測の分布を計算する手法である.十分な回数のサン プリングを行うことで予測分布を得ることができるが, 一般に十分なサンプリング回数は明らかではない.また, サンプリング回数に比例してその演算量は増大する.こ れに対し,決定論的変分推論(Deterministic Variational Inference:DVI)では確率分布として表現されている重 みをサンプリングせず,出力のモーメントに関して順伝 搬演算を行うことで予測の分布を得る手法である.これ により,乱数を生成する必要がなく,一度の順伝搬演算 によって予測分布を得ることができる.CNN において は,VI,Dropout に基づくベイジアン CNN がすでに提 案されている.しかし,DVI に基づく手法は,全結合層 の NN,回帰問題に適用されたものにとどまり,いまだ に分類問題においては実現されていない.この原因は, 回帰問題では予測分布はガウス分布として表現でき,誤 差関数を容易に計算できるが,分類問題では softmax 関 数の取扱いが難しく,そのままでは出力の分布を解析的 に計算できないためである. 本研究では DVI による BCNN の実現に向け,softmax 関数の入力の分布までを DVI によって計算し,取扱い の難しい softmax 関数についてはサンプリングにより誤 差関数の計算を行う手法を提案した.評価では,VI で 十分な回数のサンプリングを行った場合の統計量を DVI によって近似できることを示した.また,既存手法で ある VI,Dropout と提案手法を 5 層の CNN に適用し, MNISTで精度比較を行い,提案手法が学習データサイ ズに対してロバストであり,また計算効率に優れること を示した. 今後の展望として,CNN の構成要素であるプーリン グ層や,バッチ正規化層の DVI への拡張があげられる. また本研究では softmax 関数においてサンプリングを用 いたが,完全にサンプリングフリーな BCNN の実現を 目指し,出力の分布を近似する方式について研究を進め たい. 人工知能基本問題研究会:SIG-FPAI-B902-06 2020 年 1 月 30 日
決定論的変分推論によるベイジアンCNNの検討
平山 侑樹,浅井 哲也,本村 真人,高前田 伸也
平山 侑樹(学生会員) 2019年北海道大学工学部情報エレクトロニクス学科 卒業.現在,同大学院情報科学院情報科学専攻博士 前期課程在学中.統計的機械学習およびそのハード ウェア実装に興味をもつ. 本村 真人(正会員) 1987年京都大学修士(物理学),1996 年京都大学博 士(工学).2011 年北海道大学大学院情報科学研究 科教授,2019 年東京工業大学教授(AI コンピュー ティング研究ユニット).深層学習,機械学習,最 適化技法などのハードウェアアーキテクチャとその LSI実現に関する研究に従事. 浅井 哲也(正会員) 北海道大学大学院情報科学研究院教授.1999 年豊橋 技術科学大学大学院工学研究科博士課程修了.2016 年度より現職.博士(工学).脳型集積回路,新探 求素子のための非ノイマンアーキテクチャ,非線形 問題とその応用に関する研究に従事. 高前田 伸也(正会員) 2009年東京工業大学工学部情報工学科卒業.2011 年同大学院情報理工学研究科修士課程修了.2014 年同研究科博士課程修了.博士(工学).2011 ∼ 14 年まで日本学術振興会特別研究員.2014 ∼ 16 年 まで奈良先端科学技術大学院大学情報科学研究科助 教.2016 ∼ 19 年まで北海道大学大学院情報科学研 究科准教授.2019 年から東京大学大学院情報理工学 系研究科准教授.2018年10月からJSTさきがけ研究者.コンピュータアー キテクチャ,ハードウェア高位設計技術,機械学習に関する研究に従事.
●授賞理由 本論文は,モデルフリーの強化学習における決定論 的方策勾配手法の安定性向上を目指し,行動価値関数に 加えて過去の方策を利用する学習モデルを提案するもの である.具体的には,多様な方策を再現できるほうが局 所最適解に陥りにくいとの考察から,変分自己符号化器 (VAE)を用いて任意の良さをもつ方策を再現する埋込 みモデルを構築し,方策更新の安定化のために利用して いる.本論文での取組みは,過去の方策を利用すること で安定的な学習を促すという視点に加え,悪い方策から 離れるという指針を示した点,VAE を用いた柔軟な方策 埋込みモデルを実現している点で,独創性が高い試みで あるといえる.また,VAE を用いた方策の埋込みと利用 というアイディアは適用範囲が広く,その波及効果の大 きさからも将来性が高いと判断できる.以上の理由より, 授賞候補としてふさわしいと考える. ●アブストラクト 近年,強化学習分野において,状態に対して一意な行 動を出力する決定的方策を用いた方策勾配手法が提案さ れ,環境のサンプル効率とモデルの性能を大きく向上さ せた.その一方で,状態に対して確率的に行動を出力す る確率的方策と比較し,方策の学習の安定性が低くなっ てしまうという問題が指摘されている. このような背景のもと,本研究では,方策埋込みを 利用した安定的な方策更新手法を検討し,評価実験を 通してその性能を調査した.本研究の貢献は,方策の性 能に基づいた方策の埋込み手法 PE(Policy Embedding model)の提案,および,方策埋込みモデルを利用した 安定的な方策の更新方法の提案の 2 点である.PE は, さまざまな状態に対して任意の良さの方策を再現可能に するモデルであり,生成モデルの一つである Variational Auto-Encoderを拡張し,状態と方策の良さを条件として 行動を学習する.方策の良さの指標として,本研究では, 現在の行動価値関数を基準とした相対的な指標である相 対行動価値,方策に従った場合に得られるエピソード報 酬を基準とした絶対的な指標であるエピソード報酬価値 の二つを新たに提案した.一方,方策埋込みモデルを利 用した安定的な方策の更新では,行動価値関数だけでな く PE を利用して推定した過去の悪い方策も用いて方策 の勾配を計算する.この方法では,現在の方策と過去の 悪い方策の距離を方策の誤差関数に加え,行動価値関数 の値を大きくしつつ悪い方策から離れるように方策を更 新するため,より安定的な学習が期待できる.また,現 在の方策と過去の悪い方策の距離を行動価値関数以外の 教師信号として利用することで,局所最適解の回避も期 待できる. 評価実験では,強化学習手法のベンチマークに広く使 用されている物理シミュレーション環境 MuJoCo におけ るタスクを通して,手法の性能を評価した.比較手法に は,近年提案され MuJoCo の複数タスクで高いスコアを 示した TD3 を用いた.なお,公平な比較のために,提案 手法を適用するベース手法も TD3 とした.実験結果から, 方策埋込みモデルの方策再現性能に関して,入力した行 動の良さに応じた性能の方策を生成できることを確認し た.また,提案手法を適用した TD3 は従来の TD3 よりも, 最大累積報酬の平均値が高くなり,かつ,学習曲線の標 準偏差が全体的に低くなることを確認した.これらの結 果は,提案手法において,生成した過去の悪い方策から 離れるように方策を更新することが安定的な方策の更新 に寄与することを示唆するものといえる. 知識ベースシステム研究会:SIG-KBS-B902-03 2019 年 11 月 22 日
学習の安定化のために方策の埋め込みを
利用する強化学習手法の検討
梅本 晴弥,豊田 哲也,大原 剛三
梅本 晴弥(正会員) 2018年青山学院大学理工学部情報テクノロジー学 科卒業.2020 年同大学院理工学研究科理工学専攻 知能情報コース博士前期課程修了.2020 年より Arithmer株式会社に入社.修士(工学).研究分野 は強化学習,金融やヘルスケアなどへの機械学習の 応用など. 大原 剛三(正会員) 1995年大阪大学大学院基礎工学研究科博士前期課 程修了.1996 年日本学術振興会特別研究員(DC2). 1997年大阪大学産業科学研究所助手,同助教を経て, 2009年青山学院大学理工学部情報テクノロジー学科 准教授,2017 年同教授.データマイニング,機械学習, 社会ネットワーク分析の研究に従事.博士(工学). IEEE,AAAI,情報処理学会,電子情報通信学会各 会員. 豊田 哲也(正会員) 2012年筑波大学大学院システム情報工学研究科博 士後期課程修了.2011 年日本学術振興会特別研究 員(DC2),2012 年国立情報学研究所融合プロジェ クト特任研究員,2015 年青山学院大学理工学部情報 テクノロジー学科助教を経て,2020 年より東邦大学 理学部情報科学科講師,現在に至る.博士(工学). テキストマイニング,教育・学習支援システム開発, 日本語教育の研究に従事.
●授賞理由 本論文は,異なる専門性をもつ複数の人間が一人のオ ペレータとして話す遠隔対話サービスの検討のために, 二人の人間が一人のガイド役として話した場合のガイド 役とユーザ役の満足度を,二人の人間が別々のガイド役 として話した場合および一人の人間が一人のガイド役と して話した場合と比較した結果,ユーザ役は不満を覚え ず,ガイド役は学びに関する満足度を高めたことを報告 している.独自性の高い設定での研究であり,対話サー ビスの構築に有益な結果が得られており,授賞に値する. ●アブストラクト 対話サービスの実現には,高度な専門性をもってユー ザと対話するオペレータの存在が欠かせない.しかし単 独で高度な専門性をもつオペレータは不足しがちである. そこで我々は,専門性の異なる複数のオペレータを協働 させて,要求される専門性を満たすと同時に,オペレー タの成長を促す手法を研究している. 本論文では,異なる専門性をもつ複数のオペレータが 一人の話者であるかのように話す遠隔対話システムを提 案した.このようなシステムは,単独のオペレータでは 実現困難な,より専門的な対話サービスの実現に役立つ と考えられる.本システムを使用する複数のオペレータ は,ユーザからは一人の話者に見えるよう,互いに発言 タイミングや発言内容を調整する.その結果,オペレー タは他のオペレータの発言を自分の発言のように捉えや すく,他のオペレータからの学びを得やすいことが期待 される.またユーザにとっても,一人を相手に話をすれ ばよいため,話しやすいことが期待される. 本論文では,異なる専門性をもつ二人のオペレータが 一人として話すテキストチャット対話を収集し,提案シ ステムが対話内容や満足感に与える影響を分析した.対 話は二つの都道府県の旅行案内についてのものとし,オ ペレータの専門性は「ある都道府県の旅行案内能力」を 指すものとした.二人のオペレータは,提案システムを 用い,一人の話者であるかのようにユーザと話した.比 較条件として,二人のオペレータがそのまま二人の話者 として話す条件,単独の一人だけで話す条件を用いた. 対話観察およびアンケート分析の結果,提案システムは, 専門性の異なるオペレータの協働により二つの都道府県 の旅行案内を実現し,オペレータの学びの満足感を高め たことが明らかになった.またユーザも,問題なく対話 を遂行できることが確認できた. 今後は,どのような分担がオペレータ間で行われたか という点と,オペレータはどのような学びを得たかとい う点を詳細に分析する必要がある.また,オペレータの 専門性の組合せ方(知識による専門性と,話し方の専門 性の組合せなど)についても検討し,提案システムがど のような特徴をもつ対話サービスに有効かを検証してい く必要がある. 言語・音声理解と対話処理研究会:SIG-SLUD-088-06 2020 年 3 月 1 日
二人の話者が一人の話者として対話することに
よる対話内容・満足度への影響
有本 庸浩,東中 竜一郎,田中 宏,川西 隆仁,杉山 弘晃,澤田 宏,石黒 浩
有本 庸浩(正会員) 2015年大阪大学大学院基礎工学研究科博士前期課程 修了.2018 年同研究科博士後期課程修了.博士(工 学).同年,日本電信電話株式会社入社.人と対話 するコミュニケーションロボット,遠隔対話システ ムに関する研究に従事. 田中 宏(正会員) 2012年に神戸大学にて学位を取得,2014 年および 2017年に奈良先端科学技術大学院大学にて修士号お よび博士号を取得.博士(工学).2017 年より NTT CS研究所にて音声合成・音声変換の研究に従事し, 深層生成モデルを用いた音声信号処理に特に興味を もつ.奈良先端科学技術大学院大学優秀学生賞や日 本音響学会第 47 回粟屋潔学術奨励賞を受賞. 澤田 宏(正会員) 1991年京都大学工学部情報工学科卒業.1993 年同 大学院工学研究科情報工学専攻修士課程修了.2001 年京都大学博士(情報学).1993 年日本電信電話株 式会社(NTT)入社.以来,計算機アーキテクチャ, 信号処理,機械学習の研究に従事.現在,NTT コ ミュニケーション科学基礎研究所協創情報研究部部 長(上席特別研究員).IEEE Fellow,電子情報通信 学会フェロー,日本音響学会会員. 東中 竜一郎(正会員) 2001年慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修 士課程,2008 年博士課程修了.2001 年日本電信電 話株式会社入社.2020 年より名古屋大学大学院情報 学研究科教授,NTT 上席特別研究員.質問応答シス テム・音声対話システムの研究開発に従事.博士(学 術).著書に「Python でつくる対話システム」(オー ム社,2019)など.言語処理学会,情報処理学会, 電子情報通信学会,ACM 各会員. 杉山 弘晃(正会員) 2007年東京大学工学部機械情報工学科卒業.2009 年同大学院情報理工学系研究科知能機械情報学専攻 修士課程修了.同年,日本電信電話株式会社入社. 人と自然な対話を行う雑談対話システムの研究に従 事.博士(工学).IEEE,情報処理学会,言語処理 学会各会員. 川西 隆仁(正会員) 1998年奈良先端科学技術大学院大学情報科学研究科 博士前期課程修了.同年,日本電信電話株式会社入 社.2006 年奈良先端科学技術大学院大学情報科学研 究科博士後期課程修了.現在,日本電信電話株式会 社 NTT コミュニケーション科学基礎研究所主幹研 究員・グループリーダ.博士(工学).メディア認識・ 探索・生成・配信の研究開発に従事.2012 年度日本 応用数理学会ベストオーサー賞などを受賞. 石黒 浩(正会員) 1991年大阪大学大学院基礎工学研究科博士課程修 了.工学博士.その後,京都大学大学院情報学研 究科助教授,大阪大学大学院工学研究科教授など を経て,2009 年より大阪大学基礎工学研究科教授. ATR石黒浩特別研究所客員所長(ATR フェロー). 2017年から大阪大学栄誉教授.専門は,ロボット学, アンドロイドサイエンス,センサネットワークなど. 2011年大阪文化賞受賞.2015 年文部科学大臣表彰受賞.
●授賞理由 本論文は対話における焦点アノテーションの基準とし て,対話行為ごとに異なる基準を用いるという基準を提 案している.提案した基準自体の評価は行われていない ものの,対話行為ごとに基準を変えるという視点は新し く,かつ妥当性も高い手法であるという評価が出た.コー パスへのアノテーションも進められているほか,研究会 での参加者の反応も良く,授賞に値する. ●アブストラクト 現在の音声対話システムは特定の対話課題(タスク) については実用レベルに達しつつある.将来的には,こ のような社会的な対話タスクにおいて,より深くて長い 対話を扱うことが期待される.そのためには,現在のよ うにユーザの発話を表層的に理解するのではなく,可能 な限り深いレベルにおいて理解する必要がある. こうした深い理解を実現するための要素技術の一つと して焦点解析があげられる.対話における焦点(focus) とは,話し手と聞き手の間ですでに共有されている情報 (旧情報)に対して新たに付加される要素であり,その後 の主題の元になりやすいものである.直観的に言えば, ユーザ発話の焦点が認識できることは,その発話の「要点」 を理解できているということであり,深い理解の実現に とっては応用可能性が高い技術であるといえる.ユーザ 発話内の焦点を自動的に認識するためには学習データが 必要となるが,焦点は対話の状況や文脈に依存する.し たがって,明確なアノテーション基準と,これに従って 人手で付与された高精度のアノテーションデータが求め られる. 本研究では,人間どうしでなされるような自然な対話 を指向した焦点のアノテーション基準を提案した.具体 的には,長い発話単位(Long Utterance Unit:LUU) で分割される各発話に対して,対話行為(Dialog Act: DA)ごとに異なる基準を作成した.そして,我々が収録 を進めているヒューマンロボットインタラクションコー パスに対して,上記の基準で焦点アノテーションを実施 した.このコーパスの対話タスクは,傾聴,就職面接, お見合いで構成されている.例えば,傾聴において「今 日は京都検定のお話をしようかと思っております」とい う発話に対しては「京都検定」が焦点となり,さらにそ れに続く「京都の文化や歴史に関する検定試験でござい ます」という発話に対しては「京都の分野や歴史」が焦 点となる.後者に含まれる「検定試験」は旧情報であり 焦点とはみなされないことに注意されたい.アノテーショ ン結果を分析したところ,LUU の数に対して,質問,言 明といった対話行為では焦点の数は LUU と同程度,応 答では焦点の数は LUU の数の約 8 割となった.焦点の 形態素を調べたところ,4 割ほどが名詞のみ,次いで 1.5 割ほどが名詞+助詞+動詞という形態素であった.今後 は,このアノテーションデータを用いて焦点の自動認識 モデルの構築に取り組む予定である.また,本研究で提 案したアノテーション基準は特定の対話タスクに依存す るものではないため,今後さまざまな対話研究で活用さ れることが期待される. 言語・音声理解と対話処理研究会:SIG-SLUD-086-03 2019 年 8 月 31 日
ヒューマンロボットインタラクションコーパスへの
焦点アノテーションの基準と予備的分析
春日 悠生,井上 昂治,山本 賢太,高梨 克也,河原 達也
春日 悠生(学生会員) 2018年京都大学大学院人間・環境学研究科修士課程 修了.同年,日本学術振興会特別研究員(DC1).現在, 京都大学大学院人間・環境学研究科博士後期課程在 学中.日本語終助詞の意味機能記述に関する研究に 従事. 山本 賢太(学生会員) 2020年京都大学大学院情報学研究科修士課程修了. 同年,日本学術振興会特別研究員(DC1).現在, 京都大学大学院情報学研究科博士後期課程在学中. 音声対話システムに関する研究に従事. 井上 昂治(正会員) 2015年京都大学大学院情報学研究科修士課程修了. 同年,日本学術振興会特別研究員(DC1).2018 年 京都大学大学院情報学研究科博士後期課程研究指導 認定退学.現在,京都大学大学院助教.博士(情報学). 音声対話システム,音声言語処理,マルチモーダル 信号処理に関する研究に従事.情報処理学会,日本 音響学会,電子情報通信学会各会員. 高梨 克也(正会員) 2000年京都大学大学院人間・環境学研究科博士課 程単位取得退学.博士(情報学).滋賀県立大学人 間文化学部教授.主著に,「多人数インタラクショ ンの分析手法」(オーム社,2009),「基礎から分か る会話コミュニケーションの分析法」(ナカニシヤ 出版,2016).日本認知科学会,言語処理学会,社 会言語科学会,日本語用論学会,日本質的心理学会, 日本生態心理学会,組織学会各会員. 河原 達也(正会員) 京都大学大学院情報学研究科教授.音声情報処理, 特に音声認識および対話システムに関する研究に 従事.主著に,「音声認識システム(改訂 2 版)」, 「音声対話システム」(いずれもオーム社,2016, 2006).IEEE Fellow.情報処理学会,日本音響学会, 電子情報通信学会,言語処理学会各会員.日本学術 会議連携会員.
●授賞理由 本論文は,本来は well-structured な問題であるが,学 習者自身にとって ill-structured な状態になっている問題 の解決における支援として,思考の外在的操作化を提案 し,その妥当性を算数文章題を対象とした学習支援環境 の小学校での利用事例データに基づき報告している.ill-structuredな問題は,解の可能性を探索的に考える「事 例空間」とそこでの探索の基準の可能性を考える「ルー ル空間」の二つの問題空間の探索によって解くことがで き,この二つの問題空間を構成することが学習者に求め られる.開発された学習環境では,算数文章題における 立式を対象とし,文章(言語表現)から数量関係の抽出 による図的な空間表現の作成,数量関係の空間表現から の数式表現の作成,という 2 段階の事例空間での探索と して「事例空間の明示化」をし,数量に文章中の意味を 学習者に付与させることで「ルール空間の構成要素の提 供」をする.小学校での利用事例で得られたデータから, 「事例空間の明示化」だけの学習環境では事例空間におけ る言語表現から空間表現への変換で意味的間違いが多く 発生していること,「ルール空間の構成要素の提供」を追 加した学習環境では同様に言語表現から空間表現への変 換での意味的間違いが依然として多いが,変換した後で の意味付けの間違いが学習が進むにつれ減少しているこ とが観察でき,ルール空間の構成に貢献していることが 推定される.本論文のように認知科学における知見をベー スとして工学的に学習環境を構築して,そこで起きてい る学習を分析することで提案の有効性,妥当性を示す取 組みは数少なく,新規性が高いうえに,データに基づき 分析しているため信頼性も高い.以上より,新規性,有 効性,信頼性に優れた将来性の高い論文であると判断し, 本論文を研究会優秀賞に推挙する. ●アブストラクト 本論文は,本来は well-structured な問題であるが,学 習者自身にとって ill-structured な状態になっている問 題の解決における支援として,学習対象の構造の再構成 による思考の外在的操作化というものを提案し,その妥 当性を小学校での算数文章題を対象とした学習支援環境 の利用事例データに基づき報告している.ill-structured な問題というのは,初期状態は明確であるが,制約や可 能な行動,終了状態といった問題の「ルール」が明確で はないものであり,問題解決者自身でそれらを設定した うえで問題解決することが求められる.例えば,設計な どは ill-structured な問題の典型例であり,これを well-structuredな問題として定義するのは難しい.この難し さは,「ルール」を設定するための探索を行う「ルール空 間」をそもそも構成できないというものから,「ルール空 間」の探索結果として不完全なルールを設定して解の存 在しない「事例空間」を構成してしまい,その中で解を 求めようと探索してしまうことによっても生じる.本論 文では学校教育で学ぶ基本的な内容でも解けない,学べ ないという状況に陥っている学習者が少なからず存在す るのは,well-structured な問題と定義可能なものでも, 学習者にとっては ill-structured な問題になってしまって いるためであると仮定する.そして,それならば,本来 の well-structured な問題で設定される「ルール空間」を 使い,その構成要素を提供することで学習者の「ルール 空間」の構成を支援することが可能であるとして,学習 支援を行うことを目指している.開発された学習環境で は,算数文章題における立式を対象とし,文章(言語表現) から数量関係の抽出による図的な空間表現の作成,数量 関係の空間表現からの数式表現の作成,という 2 段階の 事例空間での探索として「事例空間の明示化」をし,数 量に文章中の意味を学習者に付与させることで「ルール 空間の構成要素の提供」をする.小学校での利用事例で 得られたデータから,「事例空間の明示化」だけの学習環 境では事例空間における言語表現から空間表現への変換 で意味的間違いが多く発生していること,「ルール空間の 構成要素の提供」を追加した学習環境では同様に言語表 現から空間表現への変換での意味的間違いが依然として 多いが,変換した後での意味付けの間違いが学習が進む につれ減少していることが観察でき,ルール空間の構成 に貢献していることが推定される. 先進的学習科学と工学研究会:SIG-ALST-B901-03 2019 年 7 月 6 日
空間表現を媒介とした言語・数式表現間の
変換としての和差算数文章題の定式化と
学習環境の設計
林 雄介,津高 七海,岩井 健吾,稲村 健太,服部 公祐,平嶋 宗
林 雄介(正会員) 1998年大阪大学基礎工学部システム工学科卒業. 2003年同大学院基礎工学研究科博士後期課程修了. 北陸先端科学技術大学院大学知識科学研究科助手, 大阪大学産業科学研究所特任助教(常勤),名古屋 大学情報基盤センター准教授を経て,2012 年より広 島大学大学院工学研究院准教授(2020 年より大学院 先進理工系科学研究科に改組).博士(工学).オン トロジー工学,学習工学に関する研究に従事. 岩井 健吾(学生会員) 2016年広島工業大学情報学部卒業.2018 年広島大 学大学院工学研究科博士前期課程修了.同年より同 研究科博士後期課程在学.学習工学に関する研究に 従事. 平嶋 宗(正会員) 1986年大阪大学工学部応用物理学科卒業.1991 年 同大学院工学研究科博士課程修了.同年,大阪大学 産業科学研究所助手,同講師,九州工業大学情報工 学部助教授を経て,2004 年より広島大学大学院工学 研究科教授(2020 年より大学院先進理工系科学研究 科に改組).人間を系に含んだ計算機システムの高 度化,特に学習工学に関する研究に従事.工学博士.
●授賞理由 オープンエンドかつ非構造な学習空間における主体的 な学習プロセスをいかに適応的に支援するかは,当該分 野でのチャレンジングな研究課題となっている.本論文 は,この課題に対して Web 調べ学習を題材とした Web のマイクロワールドを提案するとともに,その研究成果 を論じている.本マイクロワールドの特徴は,調べ学習 の主体性を損なわずにモデルベースに学び方を学習者が 習得してスキル向上を図る点にある.そして,そのため に LOD(Linked Open Data)を基盤に,①学習者のス キルに応じた演習問題の生成,②問題解決としての調べ 学習のプロセス診断とそれに基づく適応的支援を実現し ている.また,ケーススタディの結果,生成された演習 問題および学習プロセス診断の妥当性,および適応的支 援の有効性が確かめられている.同時に,LOD を基盤と する支援の限界も明らかにしている.こうしたオープン エンドかつ非構造な Web 空間における学習の主体性維持 と適応的支援の両立は,非常に独創的な研究成果であり, 有効性評価はやや限定的であるものの,理論的かつ技術 的に信頼性が認められる.以上から,本論文は研究会優 秀賞に値すると判断した. ●アブストラクト 現代の知識社会を生き抜くうえで,Web を活用して調 べ学習するスキルは極めて重要であり,現在初等・中等 教育からその指導が試みられている.しかしながら,教 員が Web の特徴を生かした調べ学習でのあるべき学び方 を指南することはまれである.著者らは,これまで Web 調べ学習のモデルをデザインして学び方を定義し,学び 方の習得による学習スキル向上支援を検討してきた. ここでの Web 調べ学習とは,学習課題に関連した情 報(Web ページ)を単に検索することではなく,学習向 けに構造化されていない Web 空間を学習者が主体的に探 究しながら,課題に関連する多種多様な項目や項目間の 関係を学び,その中からさらに調べるべき項目を部分課 題として展開し,学習課題を網羅的に学ぶことである. Web調べ学習スキルの向上には,こうした課題展開を含 めた学び方の習得が必須であり,モデル(手本)に沿っ て学ぶ経験を積むとともに,学習者自ら課題展開プロセ スやその成果物となる課題構造の善し悪しを見直すこと が不可欠である.しかしながら,Web 空間で主体的に遂 行される Web 調べ学習について解となる課題展開プロセ スや課題構造を事前準備することは容易ではなく,学び 方の習得を適応的に支援することは非常に難しい. そこで,本論文では調べ学習の主体性を損なわずモデ ルどおりの学び方の習得を図る Web マイクロワールドを 提案した.本マイクロワールドでは,筆者らが開発して きた認知ツールを用いて遂行されるモデルベースの Web 調べ学習に対して,LOD(Linked Open Data)を基盤に, ①学習者のスキルに応じた演習問題の生成,②課題展開 プロセスの診断とそれに基づく適応的支援,を可能とす る仕組みを実現している.①では,学習課題から展開で きる部分課題候補群を LOD から抽出して学習者に提示 することを演習問題と定義し,提示候補数や課題との関 連度を調整することで問題の難易度を変更することがで きる.また,②では展開された課題間の関連度・類似度 を LOD で算出し,課題展開の適切さ(妥当性と十分性) を推定し,妥当でない展開へのリフレクションや不十分 な展開に対する展開すべき部分課題の推薦による適応的 支援を施す.また,本論文ではケーススタディを実施し, ①と②の妥当性・有効性,および LOD を基盤とする適 応的支援の限界を明らかにした. 以上のように,オープンエンドかつ非構造な Web 空間 における学習の主体性維持と適応的支援の両立は,当該 分野でもユニークな試みであり,独創性の高い研究成果 と考えられる. 先進的学習科学と工学研究会:SIG-ALST-B903-17 2020 年 3 月 10 日
Web 調べ学習スキル向上を目的とした
マイクロワールドの構築
柏原 昭博,佐藤 禎紀,萩原 未来,太田 光一,長谷川 忍,鷹岡 亮
柏原 昭博(正会員) 1987年徳島大学工学部情報工学科卒業.1989 年同 大学院修士課程修了.1992 年大阪大学大学院博士課 程修了.大阪大学産業科学研究所助手,講師,助教 授を経て,2003 年電気通信大学情報通信工学科助教 授,2011 年同大学院情報理工学研究科教授,現在に 至る.博士(工学).学習工学,特に Web 調べ学習, 知識外化,学習支援ロボットなどを題材とした学び のモデルデザインに関する研究に従事. 萩原 未来(正会員) 2018年電気通信大学情報理工学部総合情報学科卒 業.2020 年同大学院博士前期課程修了.在学中, Webを用いた調べ学習における学ぶべき課題の推薦 による学習者の支援と,Web 調べ学習の演習問題の 難易度調整によるスキル獲得のための足場づくりを 行う研究に従事. 長谷川 忍(正会員) 1998年大阪大学基礎工学部卒業.2002 年同大学院 博士後期課程修了.同年,北陸先端科学技術大学院 大学情報科学科センター助手.2004 年同大学遠隔教 育研究センター助教授,2015 年より同大学情報社 会基盤研究センター准教授.博士(工学).地理的・ 時間的な分散環境におけるインタラクションを通じ た学習支援に関する研究に従事.AACE,教育シス テム情報学会,電子情報通信学会,教育工学会,情報処理学会各会員. 太田 光一(正会員) 2005年電気通信大学情報工学部卒業.2011 年同大 学院博士後期課程修了.同年,(株)教育測定研究 所,2015 年(一財)日本生涯学習総合研究所を経て, 2019年より北陸先端科学技術大学院大学情報社会基 盤研究センター助教.博士(工学).Web を用いた 主体的学習支援に関する研究に従事.教育システム 情報学会会員. 鷹岡 亮(正会員) 1992年東京学芸大学教育学部卒業.1997 年電気通 信大学大学院情報システム学研究科博士後期課程単 位修得満期退学.博士(工学).1997 年電気通信大 学大学院情報システム学研究科助手.1999 年山口 大学教育学部講師,助教授,准教授を経て,2014 年 より教授,現在に至る.学習モデル・学習支援技術, 情報教育・教育の情報化に関する研究・教育実践に 従事. 佐藤 禎紀(正会員) 2018年電気通信大学情報理工学部総合情報学科卒 業.2020 年同大学院博士前期課程修了.在学中, Web調べ学習における主体的学習の診断手法につい ての研究に従事.
●授賞理由 本論文は,ロボット聴覚技術を鳥類の歌の役割の理解 に応用することを目的として,生成モデルを用いて仮想 の鳥の歌を生成し,著者らが構築する鳴き声の二次元定 位手法に基づくプレイバック実験に応用したものである. 具体的には,森林のウグイスに対して,録音から得られ た H 型,L 型,VAE で生成して得られた両者の混合型 の歌を再生した場合の行動傾向(鳴き返す歌の種類・頻度・ 歌う位置)を分析し,対象個体は混合音を認識するがそ の度合いは小さいことなどを論じた.生成モデルに基づ く鳴き声の音響特徴分析は生物音響学分野でも注目され るが,フィールドでの実験への適用と音源定位技術によ る行動観測との融合は前例がない.生成手法や実験自体 は極めて予備的段階にあるものの,反応傾向の定量的検 討まで試みており,鳥類生態の観測調査への実応用に向 けて今後の進展が期待できるため,研究会優秀賞に値す ると判断する. ●アブストラクト 鳥類にとって歌(さえずり)は,縄張りの主張や求愛 などに用いられる重要な意思伝達手段であり,時間・空 間・音響といったさまざまな次元で種間・個体間相互作 用をもたらす.我々は,歌う鳥の集団を,歌を介して相 互作用する複雑系とみなし,その理解を目的としてロボッ ト聴覚オープンソースソフトウェア HARK をベースに した鳥類の鳴き声の録音分析システム HARKBird を構 築している.HARKBird はマイクアレーによる録音から 鳴き声のタイミングや方向(位置)の推定,音源の自動 抽出など基本機能を提供し,我々はその発展・応用を検 討している. 本研究では,再生音が鳥類個体に与える影響を調査す るプレイバック実験と深層学習に基づく生成モデルを活 用することで,歌の音響特性が鳥類の行動に与える影響 をより理解するための枠組みの構築を検討した. 具 体 的 に は, 変 分 オ ー ト エ ン コ ー ダ(Variational Autoencoder:VAE)に,ウグイス(Horornis diphone) の 2 種類(H 型;縄張り宣言・求愛,L 型;警戒)の歌 を学習させ,学習後の VAE の特徴空間から人工的な歌 の生成を行った.ウグイスの H 型,L 型の歌それぞれの 録音からグレースケールのスペクトログラム画像を作成 し,データセットとして VAE を学習させる.得られた 特徴空間において H 型,L 型および複合音の画像を生成 し,その画像を再度音声信号に変換することで人工的な 歌を生成した.生成した H 型・L 型およびその中間の歌 を利用して,ウグイス 1 個体の縄張り内でプレイバック 実験を行い,生成音を歌として認識し得るか,認識した 場合,その中でも役割に違いのある H 型と L 型の中間の 歌(混合歌)にどのような反応を示すかについて,複数 のマイクアレーを用いた音源の二次元定位と個体の用い る歌の傾向の調査を行った. 結果,再生した生成音 3 種に対してウグイス個体はい ずれも明らかな反応を示した.一般にウグイスは縄張り 内の他個体に対しては L 型を多く用い,近づく傾向があ り,生成音の H 型,L 型を再生時には時間的学習効果の 影響を考慮してもその傾向が確認された.一方で,H 型 と L 型の混合歌に対しては最も反応が弱く,遠くで H 型 の歌を歌いがちであった.混合歌は対象個体にとって同 種に近いが聞きなれない歌であるため,警戒しつつも戸 惑う状況であったことが示唆される. 以上から,生成モデルから生成した歌がプレイバック 実験などの鳥類の歌コミュニケーションにおける音響的 相互作用理解に利用可能であることが示された.今後は, 歌のどの構成要素がその認識に重要な役割をもつかなど, より VAE の特性を生かした歌構造の役割やその適応性 に関する知見を得たい. AI チャレンジ研究会:SIG-Challenge-055-02 2019 年 11 月 22 日
生成モデルに基づく鳴き声を用いた鳥類に
対するプレイバック実験の試行
炭谷 晋司,鈴木 麗璽,松林 志保,有田 隆也,中臺 一博,奥乃 博
炭谷 晋司(学生会員) 2015年阿南工業高等専門学校制御情報工学科卒業. 2017年名古屋大学情報文化学部自然情報学科卒業. 2019年同大学院情報学研究科博士前期課程修了.現 在は同研究科博士後期課程在籍,2020 年度より日本 学術振興会特別研究員(DC2).鳥類集団の鳴き声 を介した相互作用理解の研究に従事.日本生態学会, 日本鳥学会各会員. 松林 志保(正会員)
2005年 Duke University, Nicholas School of the Environment にて Master of Forestry および Master of Environmental Management修了.2013年University of North Texasに て Environmental Science の Ph.D.修了.名古屋大学大学院情報科学研究科協力 研究員を経て 2017 年大阪大学大学院工学研究科付 属オープンイノベーション教育研究センター助教, 2019年から同研究科ビジネスエンジニアリング専攻特任准教授.聴き分 けるロボットを用いた鳥類自動観測と歌に基づく生態理解,生息地管理 に関する研究に従事.日本鳥学会,日本景観生態学会各会員. 中臺 一博(正会員) 1993年東京大学工学部電気工学科卒業,1995 年 同大学院工学系研究科情報工学専攻修士課程修了. NTT,NTT コムウェア,JST ERATO 北野プロジェ クトを経て,2003 年より(株)ホンダ・リサーチ・ インスティチュート・ジャパン勤務.プリンシパル サイエンティスト.博士(工学).2006 ∼ 15 年ま で東京工業大学大学院情報理工学研究科客員准教 授,連携准教授,連携教授兼務.2016 年より,東京工業大学工学院シス テム制御系特定教授,2017 年より同特任教授兼務.2011 ∼ 18 年,早稲 田大学理工学術院創造理工学研究科客員教授兼務.ロボット聴覚,実時 間情報統合,音環境理解の研究に従事.2015 ∼ 16 年本学会理事,2017 ∼ 18 年日本ロボット学会理事,日本ロボット学会,情報処理学会,日本 音響学会,ヒューマンインタフェース学会,IEEE 各会員. 有田 隆也(正会員) 1983年東京大学工学部計数工学科卒業.1988 年同 大学院工学系研究科博士課程修了.工学博士.名古 屋工業大学講師,カリフォルニア大学ロサンゼルス 校客員研究員を経て,現在,名古屋大学大学院情報 学研究科教授(情報学部兼務).人工生命や複雑系 科学の研究に従事.進化ダイナミクス,言語や心の 進化,仮想生物進化に興味をもつ.情報処理学会, 電子情報通信学会,日本認知科学会などの各会員. 奥乃 博(正会員) 1972年東京大学教養学部基礎科学科卒業.博士(工 学).NTT 研究所,ERATO 北野プロジェクト,東 京理科大学理工学部,京都大学大学院情報学研究科, 早稲田大学リーディング大学院を経て,退職.現在, 早稲田大学ヒューマンロボット共創研究所招聘研究 員.京都大学名誉教授.Amity 大学名誉教授.音環 境理解,ロボット聴覚の研究に従事.IEEE,情報 処理学会,日本ロボット学会の各フェロー. 鈴木 麗璽(正会員) 2003年名古屋大学大学院人間情報学研究科博士課程 修了.博士(学術).カリフォルニア大学ロサンゼ ルス校客員研究員を経て,現在,名古屋大学大学院 情報学研究科准教授(情報学部兼務).人工世界で 生命現象を理解し応用する人工生命研究に従事.進 化と学習,協力行動の進化,進化とニッチ構築のモ デル研究や,鳥類の歌行動の生態分析などに興味を もつ.International Society of Artifi cial Life,情報処理学会,日本生態 学会,日本鳥学会など各会員.
●授賞理由 本論文は,歌舞伎における中核的人物の「心」・「振 り」・「歌詞」を中心とする歌舞伎上演構造の提案に触発 され,物語生成の観点から『京鹿子娘道成寺』の舞台 上演構造に関する分析を行い,逆にその構造あるいは それに類する構造を,物語プロットの記述から生成す るシステムについての構想と予備的考察を示している. 位置付けとしては,これまで著者らが行ってきた,統 合的・学際的な物語生成研究あるいはポストナラトロ ジーの中核を成す,統合物語生成システム(Integrated Narrative Generation System:INGS)における物語表 現機構の一つである.さらに,芸能情報システム(Geino Information System:GIS)にも関係している.このよ うに,日本の古典を題材にして大規模な物語生成システ ムへと発展していくものである.本研究はことば工学的 にはもちろん,人工知能における作品の生成という意味 でも授賞に値すると考える. ●アブストラクト 本論文で取り上げた『京鹿子娘道成寺』は,歌舞伎舞 踊を代表する作品である.その題材となった「道成寺伝 説」の物語は,仏教説話,能,読み物,絵画などのジャ ンルに描かれ,江戸時代になって歌舞伎に取り入れられ て『京鹿子娘道成寺』となった.近年の歌舞伎では,CG や初音ミクなどの映像表現技術を利用する試みも増えて いるが,シナリオやストーリーといった物語を扱う技術 はまだ導入されていない.そこで私達は,将来的に,自 動生成された物語をさらに歌舞伎の舞台上演構造の生成 へつなげることを目的に,本研究を始めた.その第一歩 として,本論文では,[渡辺 86] の『娘道成寺』に記載さ れている,『京鹿子娘道成寺』の舞台の,「心」・「振り」・ 「歌詞」を主とした構造表を基盤とし,それを物語生成と いう新しい視点から拡張することを試みた. 論文の初めの部分では,現在に至るまでの道成寺伝説 の歴史についてまとめている.その最古の文献とされて いるのは『本朝法華経験記』(『大日本國法華経驗記』)の 中の一挿話であり,『今昔物語集』中の挿話を経て,室町 時代には絵巻『道成寺縁起』が誕生した.さらに,能『鐘 巻』や『道成寺』に基づき,近世に入って歌舞伎作品に も取り入られた.現代では,道成寺伝説はコンピュータ ゲームにも取り入れられている.例えば,スマホゲーム 『Fate Grand Order』には,道成寺伝説に登場する「清姫」
が実際にキャラクタとして登場している. 次いで論文の主要部分では,渡辺 保による『京鹿子娘 道成寺』の構造表を,今回の目的である「舞台上演構造」 という観点から拡張した.具体的には,表の項目として 「人」・「詞章」・「楽器」・「場面」を追加し,舞台構造の記 述をさらに詳細化し,Common Lisp でデータ化した. 今後の基本方針は,私達が共同で研究・開発している 統合物語生成システム(Integrated Narrative Generation System:INGS)[Ogata 20a, Ogata 20b] によって生成 された物語の骨組から,舞台上演構造生成の対象となる 物語を作成し,最終的に,上記の拡張された表に示され たような構造を生成し,それを映像や音楽などを使って 表現することである. さらに,歌舞伎舞踊だけでなく,台詞劇も対象に,浄 瑠璃歌舞伎と純歌舞伎,時代物と世話物など歌舞伎のジャ ンル全体に調査・分析そしてシステム化の範囲を広げて 行きたい.最後に,筆頭著者の個人的な夢はゲームを実 際につくることであり,本研究もゆくゆくはゲームに結 び付けて行こうと考えている.
◇ 参 考 文 献 ◇
[Ogata 20a] Ogata, T.: Toward an Integrated Approach to Narrative Generation: Emerging Research and Opportunities, Hershey, PA, USA, IGI Global(2020)
[Ogata 20b] Ogata, T.: Internal and External Narrative Generation Based on Post-Narratology: Emerging Research and Opportunities, Hershey, PA, USA, IGI Global(2020) [渡辺 86] 渡辺 保:娘道成寺,東京,駸々堂出版(1986)
ことば工学研究会:SIG-LSE-B902-03 2019 年 12 月 13 日
物語プロットからの歌舞伎の舞台上演構造の
生成を目的とした『京鹿子娘道成寺』の分析
河合 珠空(学生会員) 青森県生まれ.2017 年 4 月岩手県立大学ソフトウェ ア情報学部ソフトウェア情報学科入学.現在,同大 学同学部在学中.大学の講義,また研究室の活動を 通して,日本の伝統文化である歌舞伎に関心をもち, 物語生成システムの研究の一環として,歌舞伎の『京 鹿子娘道成寺』を題材にし,歌舞伎の舞台上演構造 の調査・分析から自動生成を目指す研究に従事.ゲー ムに興味があり,将来は,実際に自分でゲームを作成したいと考えている. 日本認知科学会学生会員. 小方 孝(正会員) 1958年神奈川県生まれ.1983 年早稲田大学社会科 学部社会科学科卒業.民間企業を経て,1992 年筑 波大学大学院経営・政策科学研究科修士課程修了. 1995年東京大学大学院工学系研究科先端学際工学専 攻修了,博士(工学).東京大学先端科学技術研究セ ンター研究員を経て,1997 ∼ 2005 年山梨大学助教 授(工学部∼大学院医学・工学総合研究部),2005 年より岩手県立大学教授(ソフトウェア情報学部).AI・認知科学とナラ トロジー・文学理論などを融合した物語生成システムの研究に従事.最 近の興味の中心は歌舞伎.大学では哲学も教えている.
●授賞理由 本論文は,指先で軽く接触している二者の立位姿勢の 足圧中心を計測し,二者の時系列のダイナミクスに対し 非線形時系列解析を行い,複数の時間スケールにまたが る協調関係を定量的に評価している.対人間の協調を基 礎的なレベルから丁寧に検証してわかりやすくまとめて いて,さまざまな展開が期待でき,今後の研究分野の嚆 矢となる可能性があると評価されていた.研究会での参 加者の反応も良く,授賞に値する. ●アブストラクト リハビリテーションの領域では,療法士が患者に軽く 触れるだけで,患者は安心して立つことができるという 事例がある.人は性別や年齢,体格,姿勢緊張,障害の 有無などさまざまな要因により,立位姿勢の姿勢制御方 略が異なる.相手の立位姿勢を阻害することなくサポー トするためには技術が必要となるが,療法士と患者間に はどのような相互関係が構築されているであろうか. 床反力計を用いて立位姿勢を計測すると,足圧中心 (Center of Pressure:CoP)の微小な動揺を観測するこ とができ,姿勢制御のバランス機能を理解するために, 動揺の総軌跡長や平均速度,周径面積,分散などの基本 統計量を指標とした研究が行われてきた.しかし,動揺 の面積や分散の大小は,必ずしも立位姿勢のバランスの 善し悪しにつながるわけではない.動揺には,個人の姿 勢制御方略による機能的な揺らぎが含まれていると考え られ,1990 年以降,立位姿勢の刻一刻と変化する動揺の ダイナミクス(動的特性)に関する研究が行われてきた. 2000年以降は,CoP のフラクタル性(自己相似性)に 関する研究が多く発表され,時間スケールごとの揺らぎ 特性から,姿勢制御方略やバランス機能を理解しようと する研究が行われている. 本研究の目的は,人が人に触れて立位姿勢を保持する という,療法士と患者間で見られるような接触による二 者間関係の基礎的な知見を得ることであり,二者の立位 動揺におけるフラクタル性の相関関係を調べ,協調のダ イナミクスの客観的側面を明らかとすることである.二 者の結合条件を,接触・視覚要因に分けることで,結合 強度の違いによるフラクタル形成の違いにも着目してい る. 成人の男女 20 名が実験に参加し,既知同性を条件に 10組のペアをつくり,立位動揺の二者同時測定実験を 行った.データ解析では,トレンド除去相互相関解析法 (Detrended Cross-Correlation Analysis:DCCA)を用い て,接触による協調ダイナミクスがどのような時間スケー ル(時間窓のサイズ)で形成されているかを調べた.実 験の結果,接触条件では,視覚要因にかかわらず,時間 スケールが 4 秒程度まで徐々に相関が強くなり,以降は, 時間スケールが大きくなったとしても,相関の強さは変 わらない傾向であった.非接触条件では,視覚のみの結 合条件で接触条件と類似する傾向であったが,相関は弱 かった. 実験結果から,二者の協調は長い時間スケールにおい て構築されやすいことがわかった.さらに,ペアによっ ては短い時間スケールでも協調を構築している組も見ら れ,詳細に解析を進めることで,二者の相性,相手の動 揺に合わせることがうまい人,集中して取り組めた時間 帯,局所的な修正ができない限界の時間スケールなど, 検討できる可能性があるではないかと考える. 身体知研究会:SIG-SKL-028-04 2019 年 6 月 15 日
立位姿勢動揺の対人間協調ダイナミクス
井川 大樹,三浦 哲都,工藤 和俊
著 者 紹 介 井川 大樹(正会員) 2009年埼玉県立大学保健医療福祉学部作業療法学科 卒業.2019 年東京大学大学院総合文化研究科修士課 程修了.修士(学術).2020 年東京保健医療専門職 大学リハビリテーション学部作業療法学科助教.リ ハビリテーション従事者が避けては通れない,「人 の身体に手で触れる」ことの基礎研究を行い,「触 れる」ことが人に与える影響の理解を目指している. 工藤 和俊(正会員) 1998年東京大学大学院総合文化研究科博士課程修 了,博士(学術).2002 ∼ 03 年米国コネチカット 大学知覚と行為の生態学研究センター客員研究員. 現在,東京大学大学院情報学環・学際情報学府准教 授.スポーツ・ダンス・音楽演奏を含む人間の身体 技能について,非線形力学系モデルなどを援用しつ つ,緊張・呼吸,リズム・協調,空間認知・空間的 制御,意思決定・系列行為という階層構造から理解することを目指して いる. 三浦 哲都(正会員) 2012年東京大学大学院総合文化研究科博士課程修 了.博士(学術).2012 年日本学術振興会特別研究員 (PD).2014 年 Université Montpellier 1EuroMov (仏)客員研究員.2015 年早稲田大学スポーツ科学 学術院助教.2017 年東京大学大学院総合文化研究科 助教.現在,早稲田大学人間科学学術院准教授.●授賞理由 本研究は,大手電力会社が公表している高頻度電力需 要データを分析することによって,高い速報性をもって 製造業の活動状況を推計する新たなモデルを提案したも のである.具体的には,製造業の生産活動と電力需要と の相関関係を踏まえ,電力需要の高頻度データに対して 主成分分析をかけ生産活動の程度を推計する正則化回帰 モデルを構築した.製造業などの生産活動に関する公式 な統計値として経済産業省が集計する鉱工業生産指数が あるが,提案手法では同指数の公表よりも 1 か月程度早 い推計を可能とした.また提案手法を用いた生産指数の 推計結果は,同指数の公表前に集計される従来の予測値 より高い予測精度をもつことが確認された.製造業の生 産活動の活況度合いを早く正確に把握する本研究はまさ に「社会における AI」研究会の趣旨にふさわしいもので あり,また社会にとってきわめて有意義な成果である. したがって,本研究を研究会優秀賞として推薦する. ●アブストラクト 昨今,経済分析において,従来の経済統計を補完する 形で,さまざまなデータを活用する流れが進んでいる. これらは,オルタナティブデータと呼ばれ,高頻度の売 上データや物流データ,多様な経済活動を捉えたビッグ データ,さらには経済動態を物理的に観測した画像や, さまざまなテキストといった非構造化データなど多岐に わたる.オルタナティブデータを使用するメリットは, その情報の豊富さに加え,速報性の高さもあげられる. 景気全般の動向を捉えるうえでは,製造業の生産活動 の活況度合いをいち早く把握することが重要である.本 研究では,一般に製造業が生産活動を行う際には電力が 消費される点を踏まえ,大手電力会社が公表する日中の 電力需要の高頻度データ(5 分ごとの電力の消費データ) の変動パターンを解析することで,製造業の活動状況を 高い速報性をもって推計するナウキャスティングモデル を構築した.具体的には,日中の電力需要の高頻度デー タに対して主成分分析を行うことで,電力消費の変動パ ターンを表す主成分ファクタを抽出し,それらを説明変 数として,製造業の生産活動を推計する正則化回帰モデ ルを構築した. 製造業などの生産活動を表す公式統計としては,経済 産業省が集計する鉱工業生産指数があげられる.ただし, 同指数は対象月の集計結果が翌月末に公表されることか ら,公表までに若干の時間差が存在する.本提案手法に 基づくと,対象月の電力消費データが取得可能となる翌 月月初には,製造業の生産活動の推計が可能となること から,公式統計の鉱工業生産指数の公表よりも 1 か月程 度早い製造業活動の推計が可能となった.さらに,本手 法に基づく生産指数の推計結果は,同指数の公表前に集 計された市場予想平均値と比較して,高い予測精度が実 現できることを確認した. 社会における AI 研究会:SIG-SAI-035-01 2019 年 11 月 23 日
高頻度電力需要データを用いた製造業活動の
ナウキャスティングモデルの構築
水門 善之,和泉 潔,坂地 泰紀,島田 尚,松島 裕康
著 者 紹 介 水門 善之(正会員) 2005年慶應義塾大学理工学部管理工学科卒業.2007 年東京大学大学院新領域創成科学研究科修士課程修 了.2007 年野村證券株式会社入社,金融経済研究 所所属.2013 年米国ミシガン大学経営大学院修了. MBA.2017 年度本学会研究会優秀賞受賞.2018 年 東京大学大学院工学系研究科博士後期課程入学.現 在,野村證券株式会社金融経済研究所シニアエコノ ミスト. 坂地 泰紀(正会員) 2012年豊橋技術科学大学大学院工学研究科博士後期 課程電子・情報工学専攻修了.博士(工学).2012 年(株)ドワンゴ入社.2013 年成蹊大学理工学部情 報科学科助教.2017 年東京大学大学院工学系研究科 システム創成学専攻助教を経て,2018 年より同専攻 特任講師.自然言語処理,特に,テキストマイニン グの研究に従事. 和泉 潔(正会員) 1993年東京大学教養学部基礎科学科第二卒業.1998 年同大学院総合文化研究科広域学専攻博士課程修 了.博士(学術).1998 年より電子技術総合研究所(現 産業技術総合研究所)勤務を経て,2010 年より東 京大学大学院工学系研究科システム創成学専攻准教 授.2015 年より同教授.専門は知能情報学.研究テー マは,金融市場における AI 応用技術,特に金融デー タマイニング,人工市場シミュレーション,投資行動モデリングなど.て博士号取得.JST BIRD 研究員,JST ERATO 研 究員,東京大学大学院工学系研究科物理工学専攻助 教,特任講師を経て 2018 年より東京大学大学院工 学系研究科システム創成学専攻および数理情報教育 研究センター准教授.研究内容は生物,生態系,経済・ 社会系などを対象にした統計物理学. 松島 裕康(正会員) 2013年 3 月電気通信大学大学院情報理工学研究科総 合情報学専攻博士後期課程修了.博士(工学).2013 年 4 月から産業技術総合研究所にて特別研究員, 2018年 4 月から東京大学大学院工学系研究科システ ム創成学専攻にて特任助教を経て,現在,滋賀大学 データサイエンス教育研究センター准教授.マルチ エージェントシミュレーション,機械学習,進化計 算の研究に従事.
●授賞理由 本論文は,製造業や介護などの分野において求められ ている,熟練者の知識を集約して人材育成や人為的ミス 防止に活用するための方法について論じている.このよ うな観点での知識記述に関する先行研究としては,作業 マニュアルなどに含まれる行為の手順に加えて,各行為 の目的を明確に記述する手法が提案されている.しかし, 実際の作業現場を対象とする場合,両者がすべて記述さ れた教科書のような資料が存在することは少なく,さら に現場固有の作業やそれに付随する知識が存在し,現場 ごとに必要な記述を専門家が工数をかけて作成すること は現実的ではない.本論文では,このような知識記述を 現場主体で効率的に実施する手法について提案し,介護 現場を対象としたワークショップを通じてその効果を検 証した.さらに,現場主体の効率的な知識記述を支援す る対話システムの機能を検討し,自然言語処理を用いた 知識記述支援機能を試作している.研究としては発展途 上の段階であるが,少子高齢化が進行する中で知識の継 承と有効活用を目指すという社会的に重要な課題に取り 組んでおり,その実用化によって多大な貢献が期待でき るため,授賞に値する. ●アブストラクト 団塊世代の熟練作業者の定年退職による知識流出を背 景に,介護現場や製造業において,熟練者の知識を集約し, 人材育成やヒューマンエラーの予防に活用できる技術が 求められている.それらの知識流出の対策の一環として, それぞれの現場では作業工程の各行為の手順の把握を目 的としたマニュアルが作成されている.しかし,それら のマニュアルはその行為が果たすべき目的については記 述されておらず,熟練者の判断などに関する知識を十分 にカバーしきれていないという問題を抱えている. 本研究では,知識構築専門家による共通知識を必要と せず,作業者が自ら現場固有の知識を構築できる新たな 手法の提案と,その構築を支援する対話システムの構築 を目的とした.本稿は,作業工程を時系列で構造化した「作 業フロー」とその作業の目的を構造化した「目的指向ツ リー」による知識構造化手法を新たに提案している.加 えて,介護士の協力のもと介護業務に関するワークショッ プ形式での知識構造化の予備実験の構成・結果について 論じている.その後,それらの知見をもとに対話システ ムをどのように構築していくかについて考察している. 知識構造化予備実験の結果,作業フローと目的指向 ツリーを組み合わせた本提案手法により,研究者による 前準備時間の短縮,熟練者から新たな目的の獲得が見ら れた.一方で,今回の予備実験で得られた知識はワーク ショップに参加したファシリテータによる支援のもと表 出されたものが多かった.具体的には,作業フローに対 して熟練者が違和感を覚えても,どのような行為をどの 箇所に追加すべきかなどがすぐさま思い浮かばないケー スがあり,その場合にファシリテータは手順を一つずつ 振り返る手伝いをしていた.また,「確認する」や「準備 する」などといった行為ノードに着目し,熟練者に詳細 な説明や,確認する際に意識している内容などについて, ファシリテータによる詳細な議論の対象の選定が行われ ていた.これらの知見から,知識構造化予備実験におけ るファシリテータの質問様式や着目点から,知識構造化 を機械的に支援できる可能性について考察し,知識構造 化を支援する対話システムの構成について検討を行った. 今後は,知識構造化を支援する対話システムの構築を 進めるとともに,構造化知識を共有し,実際の業務に役 立てるシステムの構築についても行う予定である. 知識・技術・技能の伝承支援研究会:SIG-KST-037-03 2019 年 8 月 6 日
現場主体による目的指向構造化知識の手法と
対話システムによる支援の検討
伊集院 幸輝,小早川 真衣子,西村 拓一
伊集院 幸輝(正会員) 2019年同志社大学大学院博士後期課程修了,博士(工 学).現在,産業技術総合研究所人間拡張研究セン ター産総研特別研究員として,知識伝承を支援する ための知識の構造化手法とその支援システムに関す る研究に従事.このほか,対面会話における非言語 情報の機能に関する研究に興味をもつ. 西村 拓一(正会員) 1992年東京大学大学院修士課程を修了.同年,日 本鋼管株式会社に入社.1995 年新情報処理開発機 構(RWCP)に出向,2000 年博士(工学,大阪大 学・白井良明教授)2001 年産業技術総合研究所入所 後,サイバーアシスト研究センター,サービス工学 研究センター,人工知能研究センターサービスイン テリジェンス研究チーム長.現在,人間拡張研究セ ンター.身体動作分析,知識構造化による知識とコトの共有に関する研 究に興味をもつ. 小早川 真衣子(正会員) 2019年東京藝術大学大学院美術研究科デザイン専攻 修了.博士(美術).多摩美術大学研究員,愛知淑 徳大学コミュニティ・コラボレーションセンター助 教,産業技術総合研究所人工知能研究センター特別 研究員を経て,2019 年 9 月より千葉工業大学先進 工学部知能メディア工学科助教.産業技術総合研究 所人間拡張研究センター外来研究員.社会的に展開 するデザインの実践とその方法・方法論の研究に従事.