<判例研究> 株式売渡請求の通知・公告後に株式を
譲り受けた者による売買価格決定申立ての可否 :
マツヤ事件 : 最高裁第二小法廷平成二九年八月三
〇日決定民集七一巻六号一〇〇〇頁
著者
笹川 敏彦
雑誌名
判例研究
巻
71
号
3
ページ
21(1290)-41(1270)
発行年
2020-11-30
URL
http://hdl.handle.net/10236/00029160
【判例研究】
関西学院大学商法研究会
株式売渡請
求の通知
・
公告後に株式を
譲り受けた
者による売買価格決定
申立ての可否
:
マツヤ事件
最高裁第二小法廷平成二九年八月三〇日決 (1) 定民集七一巻六号一〇 〇〇頁笹
川
敏
彦
一 事実の概要 Z社(利害関係参加人・利害関係参加人・利害関係参加 人 : アルピコホールディングス株式会社)は、平成二七年 一〇月九日、JASDAQ上場会社であり、振替株式を発 行 す るA社( 対象会社 ( 会社一七 九条二項 ) : 株式会社マ ツヤ)を完全子会社化する取引の一環とし (2) て、A社株式を 一株二三〇円で買い付ける旨の公開買付け(以下「本件公 開買付け」という)を行うことを公表し、併せて、①本件 公開買付けによりZ社がA社株式の全てを取得できなかっ た場合には 、 会社法一七九条に基づく株式売渡請求の 手 続 (3) 等により、Z社がA社株式の全てを取得する予定である こと、②この際、売渡株式一株当たりの対 (4) 価を本件公開買 付けの公開買付価格と同額とする予定であること、③その 際には、A社の取締役会が当該株式売渡請求を承認する予 定であることをJASDAQにおいて公表した。A社は、 同日、本件公開買付けに賛同する旨を公表した。本件公開 買付けは、同年一〇月一六日から同年一一月三〇日までの 間実施され、その結果、Z社のA社に対する議決権保有割 合は九五・二八%となった。同年一二月一日、Z社はその 旨を報道機関に公表するとともに、その旨を記載した公開 買付報告書を提出した。 Z社は、平成二七年一二月八日、A社に対して、会社法 一七九条の三第一項に基づき、A社株式一株当たり二三〇 円を対価とし、平成二八年一月二日を取得日(Z社が売渡 株式を取得する日。会社一七九条の二第一項五号)とする 株式売渡請求(以下「本件売渡請求」という)を行う旨を 通知した。これを受けて、A社は、平成二七年一二月八日、 取締役会において本件売渡請求を承認する旨の決議を行い (会社一七九条の三第三項) 、その旨をJASDAQにおい 株式売渡請求の通知・公告後に株式を譲り受けた者による売買価格決定申立ての可否 二一て公表した。また、A社は、会社法一七九条の四第一項一 号および社債 、 株式等の振替に関 す る 法 律(以 下、 「振 替 法」という)一六一条二項に基づき、上記の承認をした旨 および対価の額等の事項について(定款所定の方法で)公 告(以下「本件公告」という)し (5) た。 X(申立人・抗告人・抗告人)は、平成二七年一二月二 八日、会社法一七九条の八第一項の規定に基づき、長野地 方裁判所に対して、A社株式三〇〇〇株 (以下 「本件株式」 という)の売買価格決定の申立て(以下「本件申立て」と いう)を行い、その後同月二九日に一〇〇株、同月三〇日 に二九〇〇株をそれぞれ取得した。 原々審(長野地決平成二八年八月一二日民集七一巻六号 一〇〇九頁)は、A社がZ社の本件売渡請求を承認する旨 を決議し、その旨が公表された後に売渡株式を取得した株 主は、不利益を被ることが決定され、そのことを知り得た 後にあえて株式を取得するものであって、会社法一七九条 の八第一項による申立てを認めてこれを保護する必要はな いから、売買価格決定の申立適格を欠くというべきである として、Xの申立てを不適法として却下した。 Xは即時抗告をしたが、原審(東京高決平成二九年一月 三一日民集七一巻六号一〇一五頁)は、XはA社がZ社の 本件売渡請求を承認したことを公告した後にZ社株式を取 得した者であり 、 〔 その意思に関わらず一方 的 に 、 売 渡 株 式等について、特別支配株主との間における売買契約上の 売主の立場に置かれるというかかる〕法律関係が形成され たことを当然の前提として対象会社の株式等を譲り受けた 者であるから、会社法は、このような者の経済的利益を確 保するために、価格決定の申立権を認める趣旨とは解し難 い。したがってXは、売買価格決定の申立適格を欠くこと から、Xの申立てを不適法として抗告を棄却した。 これに対して、Xは、売買価格決定の申立てをすること ができる株主について、会社法はこれを制限する旨の規定 はなく、特別支配株主は取得日の前日までは株式等売渡請 求を撤回することができるとされているのに、Xが本件公 告後に本件株式を取得したことを理由に売買価格決定の申 立適格がないとした原審の判断には、同法一七九条の八第 一項等の解釈を誤る法令違反があるとして、許可抗告申立 てを行った。 二 決定要旨 抗告棄却 「 〔 ① 〕 特別支配株主の株式売渡請求 は 、 その株式売渡 二二 判 例 研 究
請求に係る株式を発行している対象会社が、株主総会の決 議を経ることなく、これを承認し、その旨及び対価の額等 を売渡株主に対し通知又は公告するこ と ( 〔 会 社 〕 法 一 七 九条の四第一項一号、社債、株式等の振替に関する法律一 六一条二項)により、個々の売渡株主の承諾を要しないで 法律上当然に、特別支配株主と売渡株主との間に売渡株式 についての売買契約が成立したのと同様の法律関係が生ず ることになり ( 法一七九条の四第三項 ) 、 特別支 配株主が 株式売渡請求において定めた取得日に売渡株式の全部を取 得するものである(法一七九条の九第一項) 。 〔②〕法一七 九条の八第一項が売買価格決定の申立ての制度を設けた趣 旨は、上記の通知又は公告により、その時点における対象 会社の株主が、その意思にかかわらず定められた対価の額 で株式を売り渡すことになることから、そのような株主で あって上記の対価の額に不服がある者に対し適正な対価を 得る機会を与えることにあると解さ れるのであり 、 〔 ③ 〕 上記の通知又は公告により株式を売り渡すことになること が確定した後に売渡株式を譲り受けた者は、同項による保 護の対象として想定されていないと解するのが相当である。 〔④〕したがって、上記の通知又は公告がされた後に売 渡株式を譲り受けた者は、売買価格決定の申立てをするこ とができないというべきである。 〔⑤〕Xは、本件公告後に本件株式を譲り受けた者であ るから 、 売買価格決定の申立てをするこ とができない 。 」 ( 〔 〕内は評釈者) 三 検討 1 本決定の意義 本件は、二段階買収による完全子会社化を目的に、特別 支配株主による株式売渡請求(会社一七九条)を利用した キャッシュ・アウトを行った際に、売渡請求の通知または 公告(会一七九条の三第一項二項・振替一六一条二項。以 下 、 「 通 知 ・ 公 告 」 という ) がなされた 後に売渡株式を譲 り受けた者に対し、売買価格決定の申立て(会社一七九条 の八第一項)が認められるか否かが争われた事案である。 会社法の文言上、売買価格決定の申立権者である売渡株主 については、特段の限定がないものと解することができる ことから、申立権者の範囲は必ずしも明確ではな (6) い。従来 の下級審裁判例において申立権者の範囲について判示する 公刊裁判例が存在しないとこ (7) ろ、本決定は、対象会社によ る売渡請求の通知・公告後に売渡株式を譲り受けた者は、 売買価格決定の申立てをすることができない旨を判示して 株式売渡請求の通知・公告後に株式を譲り受けた者による売買価格決定申立ての可否 二三
おり、最高裁が初めて売買価格決定の申立権者の範囲につ いて明らかにしたという点で、理論的にも実務的にも重要 な意義を有す (8) る。 以下では、まず株式等売渡請求制度の概要について述べ (2) 、次に売買価格決定の申立権者の範囲に関する本決定 の立場とこれを批判する見解について 検 討 す る(3) 。さ らに、特別支配株主の株式売渡請求の撤回と申立権の範囲 の関係について述べた原決定(4)と、売渡株主の申立権 の有無を判断する基準時について述べた原々決定(5)に 関して若干の言及を行い、最後に本決定の射程について検 討する(6) 。 2 株式等売渡請求制度の概要 平成二六年改正前会社法の下における実務では、キャッ シュ ・ アウトの手法として 、 全部取得条項付 種類株式の 取得 ( 会社一七一条一項 ) の 方法が用 いられることが多 かっ (9) た。しかし、この手法による場合は、常に対象会社の 株主総会の特別決議を要 す る こ と に な る た め 、 キ ャ ッ シュ・アウトの完了までに長期間を要し、時間的・手続的 コストが大きいことが指摘されてい ( 10) た。また、第一段階を 公開買付けとする二段階買収の場合では、公開買付完了後 第二段階のキャッシュ・アウトまでの間に長期間を要する と、公開買付けに応募しない株主が不安定な立場に置かれ、 公開買付けの強圧性が高まるとの指摘もなされてい ( 11) た。そ こで、機動的なキャッシュ・アウトを可能にするため、同 年の改正会社法において、対象会社の総株主の議決権の九 〇%以上を有する者(特別支配株主)は、対象会社の株主 総会決議を要することなく、対象会社の他の株主(売渡株 主)全員に対し、その保有する株式(売渡株式)全部の売 渡しを請求することができるとする制度が設けられた(会 社一七九条一 ( 12) 項 ) 。 これを特別支配株主の株式等売渡 請 求 という。 株式等売渡請求は、一種の形成権の行使であ ( 13) り、対象会 社の承認(会社一七九条の三第一項。取締役会設置会社に おいては取締役会の承認が必 要 ( 同 三 ( 14) 項) )を 経 て、対 象 会社から売渡株主等に対し、対価等の事項に関する通知・ 公告 ( 会社一七九条の三第一項二項 、 振替一六 一 条 二 ( 15) 項) がなされると、特別支配株主から売渡株主等に対して株式 等売渡請求がなされたものとみなされ(会社一七九条の四 第三項 ) 、 これにより 、 売渡株主等の個別の承諾 を要する ことなく、特別支配株主と売渡株主等との間に売渡株式に ついて売買契約が成立したのと同様の法律関係が生じるこ 二四 判 例 研 究
とにな ( 16) る。そして、特別支配株主が定めた取得日(会社一 七九条の二第一項五号)に、法律上当然に、売渡株主等か ら特別支配株主に対する売渡株式等の譲渡の効力が生じ、 特 別 支配株主が売渡株式等の全部を取得することになる (会社一七九条の九第一項) 。 このように、株式等売渡請求がなされることにより、対 象会社の少数株主は、その意思にかかわらず自らの有する 対象会社の株式を売り渡すことになるから、これらの売渡 株主等の利益を保護するため、前述のように株式等売渡請 求には対象会社の承認を要すること ( 会社一七九条 の 三 ) 等とされ、また、売渡株主等がその利益を確保する方法と して 、 売渡株式等の取得の差止請求 ( 会社一七 九条の七 ) 、 売買価格決定の申立て(会社一七九条の八)および売渡株 式等の取得の無効の訴え(会社八四六条の二)が用意され ている。 3 売買価格決定の申立権者の範囲 ⑴ 本決定の理解 本決定は、まず会社法一七九条の四第一項一号(および 振替法一六一条二項)に定められた事項の通知・公告によ り、株式売渡請求を行った特別支配株主と売渡株主との間 には、売渡株式についての売買契約が成立したのと同様の 法律関係が生じると述べている ( 決 定 要 旨 ① ) 。 このよう な理解は 、 平成二六年改正会社法の立案担当者の 説 ( 17) 明に 沿ったものであ ( 18) る。次に、本決定は、売買価格決定の申立 制度の趣旨は、当該通知・公告により、その時点における 対象会社の株主が、その意思にかかわらず定められた対価 の額で株式を売り渡すことになるから 、 そのよ うな株主 ( 通 知 ・ 公告時点の株主 ) であって上記の対価の 額に不服 がある者に対し適正な対価を得る機会を与えることにある と す る ( 決 定要旨 ② ) 。 その上で 、 通 知 ・ 公告により 「 株 式 を売り渡すことが確定した後に売渡株式を譲り受けた 者」は、申立制度による保護の対象として想定されていな い(決定要旨③)として、売買価格決定の申立てをするこ とができない(決定要旨④)と述べてい ( 19) る。 調査官解説によれば、本決定は、通知・公告によって株 式 売渡請求の事実や具体的な対価等が対外的に明らかに なった後にあえて売渡株式を譲り受けた者には、当該対価 の額に関して不服をいう機会を与える必要性は乏しいと考 えたものとされ ( 20) る。というのも、株式売渡請求において基 本的に保護の対象として想定されている株主は、自らの意 思にかかわらず株式を売り渡す立場に置かれることとなる 株式売渡請求の通知・公告後に株式を譲り受けた者による売買価格決定申立ての可否 二五
株主、すなわち売渡株主として株式を売り渡すことになる 関係が確定的に生じる(通知・公告以前からの株主であっ て)通知・公告の時点において株主である者であると考え られるからであ ( 21) るとされる。 また、本決定においては、実質的には、特別支配株主に よる株式等売渡請求がなされることが確実視される中で、 差益を得ようとする行為を許容することはできないという 価値判断がその背景にあると推測されるとも指摘され ( 22) る。 従来、組織再編や全部取得条項付種類株式の全部取得の 場合にも、株主総会決議の成立によって当該行為が行われ たことが確定するから、決議後に株式を譲り受けた株主は 保護に値せず、株式買取請求権・価格決定申立権を認める 必要がないとする見解が一般的であっ ( 23) た。こうした見解も また、総会決議後に株式を譲り受けた者は、当該決議の内 容に関する情報を知りつつ、または容易に知りうる状況で 株式を譲り受けたと評価できるという考え方を前提にして お ( 24) り、本決定は、このような考え方と整合的である。 こ の よ う に 、 本 決 定 が 採 用 し た 解 釈 は 、 他 の キ ャ ッ シュ・アウト手段がとられた場合との平仄が強く意識され たものと推察され ( 25) る。 ⑵ 本決定に対する二つの批判とその妥当性 しかしながら、本決定の考え方には、次の二つの批判が 有力になされている。すなわち、①特別支配株主に対する 規律づけが弱められること、および②売渡請求がなされて いることを知らずに売渡株式を譲り受けた者が保護されな いというものである。以下では、これらの批判とその妥当 性について検討する。 ⅰ 規律づけが弱められるという批判 売買価格決定の申立てには、裁判所が対価の額の公正さ を判断する機会を事後的に設けることで、特別支配株主が 著しく不当な対価で株式を取得することを事前に抑止する という機能があるとされる。本決定は、申立権を有する売 渡株主の範囲を限定するものであるから、価格決定の申立 てを通じた抑止効果(規律づけ。経営者や多数株主が不当 な対価を決定することを抑止または是正すること)が弱め られる点で問題になるとの指摘がなされてい ( 26) る。 具体的にいえば、売渡請求に関する通知・公告の後に、 定められている対価の額が公正な価格よりも低いとの判断 のもとに、公正な価格との差額を得る目的で売渡株式を譲 受け、売買価格決定を申し立てるという可能性を排除する 二六 判 例 研 究
必要性はないとされる。かえってそのような申立てを認め た方が、①費用や時間の不足から自らは売買価格決定を申 し立てられない(主として零細な)株主に対し、差益取得 目的を有する株式譲受人に対価の額を上回る価格で株式を 売却する機会を与えることができ、さらに②特別支配株主 に対してもまた公正な価格で売渡請求をするよう動機づけ ることができるという点で、望ましいとされ ( 27) る。 また②については、通知・公告後に譲り受けた株主にも 売買価格決定の申立てを認めることで、投機目的で市場か ら株式を譲り受けた者等による価格決定の申立てが増加し う ( 28) る。そのため、特別支配株主は、価格決定の申立てが増 加しないよう、より妥当と思われる対価の額を提示すると いう抑止効果が期待されると主張され ( 29) る。 ⅱ 規律づけが弱められるという批判の妥当性 しかし、右の批判には、次のような反論ができる。 すなわち、第一に、対価が著しく不当である場合には、 売渡株式取得の差止事由とされ(会社一七九条の七第一項 三号 ) 、 また売渡株式取得の無効事由に該当 す る ( 会 社 八 四六条の二第一項)と解されることか ( 30) ら、このような抑止 機能を、売買価格決定の申立てに期待する必要性は高くな いことであ ( 31) る。 第二に、特別支配株主に対する規律づけが強すぎると効 率的な企業再編すら行われなくなるから、少数株主保護の ための制度とはいえ、申立権を有する売渡株主の範囲は広 ければ広いほど望ましいものとはいえないとされ ( 32) る。 第三に、裁判所による価格決定の効力は申立てに係る売 渡株式についてのみ生じると解されるか ( 33) ら、売渡株式の売 買価格の適正性を一般的に図るために申立権をより広く認 めるべきとの要請があるとは考えにくいことであ ( 34) る。価格 決定の申立ては、もっぱら個別の売渡株主の保護を目的と するものと解するのが相当であ ( 35) る。 第四に、かかる抑止機能を肯定的に択えるとしても、差 益取得目的でまたは抑止機能のために株式を譲り受けて権 利行使をしようとする者は 、 ( 公開買付けの情報の公 表 後 から)株式等売渡請求の通知・公告前までの間に株式を譲 り受ければよいのであって、通知・公告後に譲り受けた分 についてまで価格決定の申立てを認める必要はないものと され ( 36) る。かかる期間の間に、投資ファンドなどは株式を譲 り受けることができるであろうから、通知・公告後の申立 てを認めなくとも、抑止機能は発揮できるとされ ( 37) る。 第五に、そもそも、このように抑止機能を重視する観点 株式売渡請求の通知・公告後に株式を譲り受けた者による売買価格決定申立ての可否 二七
から、企業再編の可能性やこれが確定したことを認識しつ つ株式を譲り受けた者に、その規律づけを担わせるという 仕方には、違和感がないとはいえない。また現行制度の枠 組みでは、前述のように、権利行使をした株主しか救済さ れな ( 38) い。それゆえ、抑止効果とはいっても、限定的なもの であると思われ ( 39) る。結局のところ、この問題は、通知・公 告後株主による特別支配株主への抑止効果をどの程度積極 的に評価するのか、また、その抑止効果との関係で当該株 主による機会主義的行動をどの程度許容するのかという問 題に帰着するように思われる。 ⅲ 善意の譲受人が保護されないという批判とその妥当 性 次に、通知・公告後に売渡請求がなされていることを知 らずに株式を譲り受けた者には 、 ( かりに差益取得目 的 の 株式譲受人には申立権を認めないという立場を採ったとし ても)少なくとも申立権を認めるべきではないかという批 判がある ( 40) 。 しかし、この批判についても次のような反論ができる。 すなわち、第一に、公開買付前置型のキャッシュ・アウト の事案では、それらの株主がキャッシュ・アウトの事実を 知らないということは稀であ ( 41) り、そのような問題はほとん ど生じないのではないかと思われることであ ( 42) る。 もっとも、対象となる株式が振替株式の場合に「売渡株 式を譲り受けた者」を自己の振替口座簿に増加の記録を受 けた者(振替一四〇条)と解したときには、公告の直前に 証券取引所で成立した取引についての振替口座簿への記録 は取引成立日から三日 ( 43) 後(すなわち公告後)になるから、 本決定に従えば、かかる譲受人は売買価格決定の申立てが できなくなりそうであ ( 44) る。このような譲受人は保護される べきであるという問題は残りうる。しかし、このような場 合には 、 「 通知又は公告の後に譲り受けた 」 と い う事実認 定の問題として、保護の対象に含めるべきであろ ( 45) う。 また、第二に、通知・公告後の譲受人は、当該売渡株式 が、定められた対価で取得日に取得されることを織り込ん だ価格で譲り受けているはずであ ( 46) り、当該価格で譲り受け た譲受人は、たとえ株式売渡請求の事実ないし内容を知ら なくと ( 47) も 、 「 その意思 にかかわら ず … … 株式を売り渡す 」 ( 決定要旨 ③ ) 者にはならないと考えることもでき る こ と であ ( 48) る。 そもそも本件の特殊性として、Xは、あらかじめ裁判所 に売買価格決定の申立て ( 平成二 七年一二月二八日 ) を 二八 判 例 研 究
行った後に、対象会社の株式を譲り受けた者であった(同 月二九日に一〇〇株、同月三〇日に二九〇〇株を取得して いる ) 。 したがっ て 、 X は当然 、 株式売渡 請 求の事実を認 識して株式を譲り受けたといえる 。 それゆ え 、 「 その意思 にかかわら ず … … 株式を譲 り 渡 す 」 ( 決定要旨 ③ ) 者には あたらない ( 49) 。したがって、本件でXの申立てを認めなかっ たことは妥当であると思われる。 4 原決定について 特別支配株主による売渡請求の撤 回と申立権の範囲との関係 本決定では、特別支配株主による売渡請求の撤回(会社 一七九条の六)と申立権の範囲との関係については言及し ていない ( 50) が、原決定では、この点について判示しているの で、ここで若干の検討を行う。 Xは、原審において、次のような主張を行った。すなわ ち、特別支配株主は、取得日の前日までは株式等売渡請求 を撤回できるのであるから、これとの均衡上、同日までに 対象会社の株式を取得した者については売買価格決定の申 立権が認められるべきであり、また、株主が売買価格決定 の申立てをすることで特別支配株主に撤回を促すこともで きるのであるから、このような投資手法も保護されるべき である。 これに対し、原決定は、次のように述べ、その主張を退 けている 。 すなわち 、 「 法が特別支配株主に対し 株式等売 渡請求の撤回(法一七九条の六)を認めたのは、株式等売 渡請求がなされた後に、特 ! 別 ! 支 ! 配 ! 株 ! 主 ! の ! 財 ! 務 ! 状 ! 態 ! が ! 悪 ! 化 ! し ! て ! 対 ! 価 ! の ! 交 ! 付 ! が ! 困 ! 難 ! と ! な ! っ ! た ! 場 ! 合 ! 等 ! 、 ! 売 ! 渡 ! 株 ! 主 ! 等 ! の ! 利 ! 益 ! 保 ! 護 ! が ! 必 ! 要 ! な ! 限 ! 定 ! さ ! れ ! た ! 場 ! 合 ! を ! 想 ! 定 ! す ! る ! も ! の ! で ! あ ! り ! 、かつ、 対象会社の承認後は、対象会社の承諾を得た場合に限り撤 回を許すものであるところ ( 法一七九条の 六第一項 ) 、 法 がこのような撤回制度を設けていることと売買価格決定の 申立権をどの範囲の株主等に付与するかということとは、 何らの関連性もない。ましてや、Xが主張するような投資 手法を可能とするために、特別支配株主から売渡株主等へ の売渡請求がなされた後に対象会社の株式等を取得した者 にも売買価格決定の申立権を付与すべきとの議論は、撤回 制度の趣旨にも反し 、 本末転倒というべき で あ る 」 ( 傍 点 は評釈者) 。 このように原決定は、特別支配株主による撤回が認めら れる場合について 、 「 特別支配株主の財務状態が悪化 し て 対価の交付が困難となった場合等、売渡株主等の利益保護 が必要な限定された場合」とした。そして、特別支配株主 株式売渡請求の通知・公告後に株式を譲り受けた者による売買価格決定申立ての可否 二九
は、取得日の前日まで撤回ができるから、それとの均衡上、 同日までに対象会社の株式を取得した者にも申立権が認め られるというXの主張を退け、株式売渡請求の撤回と申立 権の範囲とは無関係であると述べている。 もっとも立案担当者によれば、前述の「特別支配株主の 財務状態が悪化し、対価の交付が困難となった場合等」の ほか 、 対象会社の取締役は 、 対象会社に対す る善管注意 義務に基づき撤回を承諾するかどうかを判断しなければな らないとした上で 、 特別支配株主の求め る 撤 回 に「合 理 的な理由がある場合」に限って、これを承諾するとされて お ( 51) り、原決定が判示するところよりも撤回の認められる範 囲が広いと読めなくもな ( 52) い。 平成二六年改正会社法の立法過程では、売渡請求の撤回 は売渡株主にとって不利益になることが多いと指摘しつつ も、特別支配株主の想定を超える数量の売渡株式について 価格決定の申立てがなされた場合を例に挙げ、この場合に も撤回が認められると述べられることもあっ ( 53) た。本件のX も、このような理解に依拠して抗告理由を述べているよう であ ( 54) る。しかし、このような理由にもとづく撤回は、むし ろ特別支配株主側の経営判断を尊重するものであり、売渡 株主等にとっては不利益となる場合が少なくないから、容 易に認められるべきではないとする見解があ ( 55) る。そのよう な見解からすると、原決定の判示は適切であったと考えら れる。 5 原々決定について 売渡株主の申立権の有無を判断 する基準 ( 56) 時 原々審においては、Xより、売渡株主の申立権の有無を 判断する基準時について、①特別支配株主が生じ、その旨 の「公表」がなされた時点を基準とする見解(公開買付け の終了時点。本件でいえば平成二七年一二月一日)と、② 対象会社の承認がなされ、その旨が「公表」された時点を 基準とする見解(対象会社の承認に関する開示の時点。本 件でいえば同年一二月八日)が主張された。原々決定は、 この点につき①の見解を退け、②の見解を採用し ( 57) た。 これに対し、原決定は、本決定と同じように、②の見解 ではなく、対象会社の通知・公告の時点(本件でいえば平 成二七年一二月九日(または八 ( 58) 日) )を基準とした。 ①の時点では、原々決定の指摘するように、対象会社の 取締役会による承認はもとより、その前提となる株式等売 渡請求も行われていない。また、②の時点であっても、特 別支配株主と売渡株主等との間に売買契約が成立したのと 三〇 判 例 研 究
同様の法律関係はいまだ生じていない。 さらに、原々決定の用いた「公表」という概念は、いつ の時点をもって「公表」されたとみるかが必ずしも明確で はないため 、 「 公表 」 を基準として株主の申立権 の有無を 決めると、無用の紛争を生じさせる危険があると指摘され る。すなわち、公開買付前置型の場合には、公開買付報告 書の提出が強 制されるため ( 金商二七条の三 ) 、 それを もって「公表」がなされたとみてもよいとして ( 59) も、 「公表」 は会社法上予定される行為ではないため、対象会社が非上 場会社の場合には、難しい問題が生じる。したがって、本 決定のように対象会社の通知・公告を基準とすることが妥 当であると思われ ( 60) る。 6 本決定の射程 ⑴ 通知の場合にも及ぶか 本件では、対象会社が振替株式発行会社であったため、 通知ではなく公告が行われた ( 振替一六一 条 二 項 ) 。 し か し 、 本決定は 、 公 告と通知を区別することな く判示して いるため 、 振替株式発行会社でない対象会社によって 通 知が行われた場合にも、本決定の射程は及ぶものと考えら れ ( 61) る。 ⑵ 売渡新株予約権者による売買価格決定の申立権にも 及ぶのか 本決定は、売買価格決定の申立てをすることができる株 主の範囲について判示したものであるが、新株予約権売渡 請求(会社一七九条三項)がなされた場合において売買価 格決定の申立てをすることができる新株予約権者の範囲に ついても、本決定の射程が及ぶと考えられよ ( 62) う。 ⑶ 通知・公告後に買い増した株式についても売買価格 決定の申立てができるか 対象会社による通知・公告の時点で株主であった者が、 当該通知・公告後に買い増した株式についても売買価格決 定の申立てができるか。本決定は、この点について何も判 断していないと考えられ ( 63) る。 ⑷ 名義書換が未了であった者に売買価格決定の申立権 が認められるか 通知・公告前に株式を譲り受けていたものの株主名簿の 名義書換が未了であった者に売買価格決定の申立権が認め られるか。本決定はこの点について何らの判断も示してい な ( 64) い 。 ただし原決定は 、 ( 売渡請求後に株式を譲 り受けた 株式売渡請求の通知・公告後に株式を譲り受けた者による売買価格決定申立ての可否 三一
者には申立権がないとの解釈は、当該請求前に株式を譲受 け、名義書換を失念している株主の権利を不当に害するこ とになるとの X の主張に対して 、 ) 株主名簿の名 義書換を していない株主(失念株主)は、その地位を会社および第 三者に対抗することができず ( 会社一三〇 条 一 項 ) 、 会 社 からの通知を受けるべき立場にない ( 会社一二六条 一 項 ) ところ、特別支配株主の株式等売渡請求の制度はこれを当 然の前提としていると判示し、失念株主の申立権について 否定的に解している。 もっとも学説の中には、原決定について、失念株主も、 「 そ の意思にかかわらず定められた対価の額で株式を売り 渡すことになる 」 ( 決定要 旨②)者 で あ り、 通知を受ける べき立場にないことをもって、申立権がないと解すべきで はないとする見解もあ ( 65) る。 しかし、失念株主は、たとえ剰余金の配当(会社四五三 条) 、株式の分割(会社一八三条) 、株主割当の募集株式の 発行(会社二〇二条)が名義上の株主(譲渡人)に対して なされた場合であっても会社には譲渡を対抗できない立場 にあるのだから ( 会社一三〇条一項二項 ) 、 その こととの 均衡上、価格決定の申立権についても会社に対して主張で きないものと解され ( 66) る。 ⑸ 相続などの一般承継の場合に及ぶか 本決定は、一般的な株式取引によって譲り受けた者の申 立権を問題としており、相続などの一般承継によって株式 を譲り受けた者はその対象には含まれないであろ ( 67) う。 ⑹ 売渡株式取得の差止請求や無効の訴えは提起できる か 通知 ・ 公告後の株式譲受人は売渡株式取 得の差止請求 (会社一七九条の七) や無効の訴え (会社八四六条の二) が 提起できるか。本決定は、この点について何らの判断も示 していないものと思われ ( 68) る。 ⑺ 全部取得条項付種類株式などの場合にも及ぶか 本件は特別支配株主の株式売渡請求の事案であるが、全 部取得条項付種類株式の全部取得の事案にも、本決定の射 程は及ぶであろう。すなわち、本決定の判示に鑑みると、 全部取得条項付種類株式の全部取得のほかにも、組織再編 ( 吸収合併もしくは株式交換 ) および株式併合の場合 に お いても、株主総会決議によって当該行為が実施されること および対価の額が確定するから、当該総会決議後の株式譲 受人には価格決定の申立てまたは株式買取請求権の行使が 三二 判 例 研 究
認められないことになろ ( 69) う。 ⑻ 基準日後取得株主にも及ぶか 本決定の判断は、前述のように、株主総会決議後に株式 を取得した者による株式買取請求を否定する解釈と整合的 であ ( 70) り、この結論は、株主総会前であるが基準日後に取得 した株主について価格決定の申立てが認められるというこ れまでの一連の下級審裁判例の動 ( 71) 向を確認する内容である と解されよ ( 72) う。 ⑼ 公開買付後、通知・公告前に譲り受けた株主の申立 権にも及ぶか 本決定は、通知・公告後に譲り受けた株主の申立権が問 題となった事案であって、公開買付後ではあるが通知・公 告前に譲り受けた株主の申立権の問題については、最高裁 は何も述べていないと解することも不可能ではないとする 見解もある ( 73) が、本決定は、このような株主に対しては、申 立権を認める趣旨であると考えられ ( 74) る。 7 本決定と「特段の事情」 本決定は 、 「 特段の事情のない限り 」 という 留保を付さ れていないが、調査官解説によれば、通知・公告後に売渡 株式を譲り受けたが、売買価格決定の申立てによる保護の 対象とするのを相当とする特段の事情が存在する場合が仮 にあるとして、そのような場合であっても、個別の事案の 判断として同申立てを認める余地を否定するという趣旨で はないとされ ( 75) る。 (1) 以下、これを本決定という。本決定の決定文は、本文記載の 民集のほか、判時二三五二号九一頁、判タ一四四二号五八頁、金 判一五二六号八頁・一五三〇号八頁、金法二〇八〇号七四頁、資 料版商事四〇四号一六二頁等にも掲載されている。本決定の評釈 として、鳥山恭一「判批」法セミ七五五号(二〇一七年)一一一 頁、松尾健一「判批」法教四四七号(二〇一七年)一四九頁、弥 永真生 「 判 批 」 ジュリ一五一三号 ( 二 〇 一 七 年 ) 二 頁 、 辰 巳 郁 「判批」 金法二〇八〇号 (二〇一七年) 四四頁、林孝宗 「判批」 ひ ろば七一巻三(二〇一八年)六三頁、加藤貴仁「判批」重判平成 二九年度 (ジュリ臨増一五一八号) 一〇二頁、山本真知子 「判批」 新 ・ 判 例 解 説 W atch 22 号 ( 二 〇 一 八 年 ) 一 三 七 頁 、 髙 橋 真 弓 「 判 批 」 民商一五四巻二号 ( 二〇一八年 ) 三四二頁 、 久保田 安 彦 「 判 批 」 リマークス五七号 ( 二〇一八年 ) 八 八 頁 、 福島洋尚 ・ 判 評七一七号(二〇一八年)一三頁、伊藤吉洋「判批」法学八二巻 五号(二〇一八年)八三頁等がある。また、本決定の調査官解説 として、松田敦子「判批」ジュリ一五一六号(二〇一八年)九〇 頁 〔 松 田 ・ ジュリと引用 〕 、 松田敦子 「 判 批 」 曹時七〇 巻一一号 (二〇一八年)二一一頁〔松田・曹時と引用〕がある。 株式売渡請求の通知・公告後に株式を譲り受けた者による売買価格決定申立ての可否 三三
(2) 平成二七年一〇月九日時点において、A社はZ社の持分法適 用関連会社であった ( 議 決 権 保 有 割 合 は 、 二 七 ・ 七 九 % )( 辰 巳・前掲注(1)四四頁) 。 (3) 本件公開買付けにより、Z社のA社に対する議決権保有割合 が九〇%以上となった場合は、本文記載の株式売渡請求の手続に より、同割合が九〇%未満となった場合は、株式併合の手続(会 社一八〇条)により、Z社がA社株式のすべてを取得する予定で あることが公表された。 (4) かかる対価は、会社法施行規則上、株式売渡対価(会社則三 三条の五第二項、会社一七九条の二第一項二号)と呼ばれる(伊 藤・前掲注(1)八六頁) 。 (5) 本件公告の具体的な日付は本決定だけでなく、原決定・原々 決定においても認定されていないが、日刊新聞紙による公告は、 平成二七年一二月九日である(同日付日本経済新聞朝刊二五面。 辰 巳・前 掲 注(1)四 五 頁 )。 た だ し、調 査 官 解説によれば 、 本 件公告は、JASDAQにおける公表と同日である平成二七年一 二月八日であるとされている(松田・前掲注(1)曹時二二三頁 注1) 。 (6) ⑴ 売買価格決定の申立てが認められる「売渡株主」の範囲 について、文理解釈の試みがなされているが、その解釈は分かれ ている ( 江頭憲治郎 = 中村直人編著 『 論 点 体 系 会 社 法 ・ 補 巻 』 ( 第一法規 、 二〇一五年 ) 一 五 二 頁 - 一五三頁 〔 前田修志 〕 、 松 田・前 掲 注(1) 法曹二二三頁 - 二 二 四 頁参照 )。 すなわち 、 ① 対象会社が株式売渡請求を承認した場合には「売渡株主」に通知 することを要するとされていることから(会社一七九条の四第一 項一号) 、対象会 社による通知の相手方が会社法一七九条の八第 一項の「売渡株主」になると解する見解が示されている(弥永・ 前 掲 注(1)二 頁 - 三頁 )。 この見解に立 つ と 、 通 知 ・ 公告後に 売渡株式を譲り受けた者は、価格決定の申立権が認められないこ とになる。これに対し、②申立権が認められる「売渡株主」とは、 「株式売渡請求によりその有する対象会社の株式を売り渡す株主」 (会社一 七九条の二第一項二号 ) を指すと考えられるので 、 同 一 七九条の八第一項の「売渡株主」とは取得日において対象会社の 株式を有している株主であると考える見解がある(前田・前掲注 (6)一五二頁 - 一五三頁) 。②の見解は、①の見解とは異なり、 通知・公告後に売渡株式を譲り受けた者の申立権を文理上は排除 しないものである(同旨、髙橋・前掲注(1)三四六頁) 。 しかしながら、①の見解については、次のような批判が考えら れる。すなわち、第一に、会社法一七九条の八第一項は申立権者 を 「 売渡株主等 」 としているが 、 「 売渡株主等 」 の初出は同 一 七 九条の四第一項一号にあり、同号では「売渡株主等」を定義して いる。それゆえ①の見解では、同一七九条の八第一項の売渡株主 等とは、同一七九条の四第一項一号の売渡株主等(取得日の二〇 日前の時点で対象会社が通知をすべき者)であるとの解釈が導か れたものと推測される。しかし、同一七九条の四第一項一号にお いては、売渡株主等は、売渡株主および売渡新株予約権者を指す と い う ことが単に定義されているだけである 。 「 売渡株主 」 そ の ものの定義は、②の見解が説くように、同一七九条の二第一項二 号でなされているのであり、すなわち株式売渡請求によりその有 する対象会社の株式を売り渡す株主であるとされている。 第 二 に 、 会社法一七九条の一〇第三項は 、「 取得日に売渡株主 等であった者」と規定し、また同八四六条の二第二項一号は、無 効の訴えの提訴権者として「取得日において売渡株主(……)で あった者」と規定している。これらの規定は、①の見解とは整合 三四 判 例 研 究
せず、②の見解を前提とするものであると思われる。 第三に、①の見解によれば、特別支配株主は、通知・公告の後 に売渡株式を譲り受けた者から取得日に売渡株式を取得すること ができないとの解釈も可能になり、そうすると株式売渡請求の目 的が達せられな くなるという問題が生じる ( 第三点につき 、 松 田・前掲注(1)曹時二二四頁。同旨、福島・前掲注(1)一六 二頁) 。 したがって、会社法一七九条の八第一項は、②の見解が主張す るように、特段の限定を付すことなく売渡株主に申立権を認めて いるのであって、文理上は、申立権が認められる売渡株主に制限 はないという理解(鳥山・前掲注(1)一一一頁、辰巳・前掲注 (1)四 七 頁、山 本・前 掲 注(1)二 頁、林・前 掲 注(1)六 七 頁、福島・前掲注(1)一六二頁)が妥当であると思われる。そ れゆえ、申立権者の範囲は、なお実質的な解釈を要する問題であ る(髙橋・前掲注(1)三四六頁) 。 ⑵ なお 、「 売渡株主 」 という文言は 、 価格決 定の申立て ( 会 社一七九条の八)だけでなく、前述の対象会社が通知をすべき者 (会社一七九条の四第一項一号) 、事前開示書面等の閲覧・謄写等 の 交付請求 ( 会社一七九条の五第二項 ) 、 取得の差止請求 ( 会 社 一 七 九 条の七第一項 ) 、 事後開示書面等の閲覧 ・ 謄写等の交付請 求 ( 会 社一七九条の一〇第三項 ) 、 取得の無効の訴え ( 会社八四 六条の二第二項一号)などにおいても用いられている。これらの 場面においても、価格決定の申立ての場面と同様に、売渡株主の 範囲については、原則として法文上は特段の限定はなく、解釈に 委ねられるものと思われる。 (7) 下級審裁判例では、いずれも未公刊ながら、対象会社による 通知・公告後に売渡株式を譲り受けた株主が売買価格決定の申立 てをすることができるか否かが争われた裁判例が存在するが、そ の大多数は本件の原決定と同様に申立適格を否定し申立てを不適 法として却下している ( 松 田 ・ 前掲 注(1)ジ ュ リ九一頁 ) 。 た とえば、東京高決平成二八年九月三〇日公刊物未登載は、本件の 原決定と同様に、通知又は公告の後に株式等を取得した者は、株 式等売渡請求において株主等の利益保護を図るために設けられた 各制度による保護を受けることは予定されていない等として、申 立適格を否定している ( 松 田 ・ 前掲 注(1)曹 時 二一九頁 ) 。 他 方で 、 さいたま地決平成二九年一月二五日公刊物 未 登 載 ( LEX/ DB 25549406 )は、特別支配株主が取得日 の前日までは対象会社 の承諾を得て株式売渡請求を撤回することができる(会社一七九 条の六)ことから、対象会社による通知または公告後に売渡株式 を取得したとしても株式の継続保有による株価上昇に対する期待 がないとは決めつけられず、売買価格決定の申立ての制度により 保護すべき利益がないともいえないとして申立適格を認めている ( もっとも結論としては 、 特 別支配 株主の定めた対価と同額を もって売買価格としている(松田・前掲注(1)ジュリ九一頁 - 九二頁、松田・前掲注(1)曹時二一九 - 二二〇頁) )。 (8) 松田・前掲注(1)ジュリ九三頁。 (9) 対象会社の株主総会の決議を経ずに行うキャッシュ・アウト の方法としては、金銭を対価とする略式株式交換(会社七八四条 一項)も存在するが、税制上の理由から、従来はあまり利用され なかった ( 田中亘 『 会社法 』 ( 東京大学出版会 、 第 二 版 、 二 〇 一 八年 ) 六一七頁 )。 これは 、 金銭を対価とする組織再編 で は 、 税 法上、非適格組織再編とされ、不利な取扱いを受けるためであっ た ( 法税六二条一項 ・ 六二条の九 )。 しかし 、 平成二九年の 税 制 改正により、金銭を対価とする合併および株式交換も、一定の場 株式売渡請求の通知・公告後に株式を譲り受けた者による売買価格決定申立ての可否 三五
合には適格組織再編と認められ、評価益課税が避けられることに なった(平 成二九年改正後法税二条一二号の八 ・ 一二号の一七 ) (田中・前掲注(9)六二七頁) 。 ( 10) 坂本三郎ほか「平成二六年改正会社法の解説」坂本三郎編著 『立法担当者 による平成二六年改正会社法の解説 』 別冊商事三九 三号(二〇一五年)一八一頁。 ( 11) 坂本ほか・前掲注( 10)一八一頁。 ( 12) また、対象会社が新株予約権を発行しているときは、株式に 加えて新株予約権の売渡しを請求することもできる(会社一七九 条 二 項 ) 。 さらに 、 新株予約権付社債を発行している場合は 、 新 株 予 約 権に加えて社債部分の売渡しも請求できる ( 同三項 ) 。 以 下、本評釈では、売渡しの対象を株式の場合に限定し、新株予約 権や新株予約権付社債の場合については言及しない。 ( 13) 坂本ほか・前掲注( 10)一八二頁。特別支配株主が株式等売 渡請求をするには、対価として交付する金銭の額や取得日などの 一定の事項を定めて対象会社に通知し、その後、本文で記すよう に、対象会社の承認を得なければならない(会社一七九条の二、 一七九条の三) 。 ( 14) 対象会社の取締役は、善管注意義務を尽くして、売渡請求が 対象会社の株主の利益となるかどうかを判断したうえで、承認の 有 無を決定しなければならないと解される ( 田 中 ・ 前掲 注(9) 六一八頁) 。 ( 15) 売渡株主に対する通知は、株主の地位を奪うという事柄の重 大性に鑑み、公開会社であっても、公告をもって代えることがで きない(会社一七九条の四第二項。もっとも、売渡新株予約権者 および登録 質権者への通知は公告に代えることができる ) 。 ただ し、振替株式発行会社では、振替法の規定により、株主への通知 で はなく公告が義務づけられる ( 振替一六一条二項 )( 田中 ・ 前 掲 注(9) 六一八頁 )。 これは 、 振替株式について は 、 株主名簿 上の名義人が真の株主等とは必ずしも一致しないため、株主名簿 上の名義人である株主等に通知を行っても意味がないと考えられ るから、公告を義務づけたものであるとされる(高橋康文 = 尾崎 輝宏 『 逐条解説新社債 、 株式等振替法 』 ( 金融財政事情研究 会 、 二〇一六年 ) 三五七頁 ‐ 三五八頁 )。 さらに 、 実質的な考慮 と し ては、振替株式の発行会社は上場会社であって、公告による周知 がかなりできること、株式等売渡請求は多くの場合、二段階買収 の一環として利用されることが予想され、すでに第一段階の公開 買付けがなされた時点において 、 その会社 の 株 主 に は キ ャ ッ シュ・アウトがなされるであろうことはある程度分かっていると いうことが指摘されている(岩原紳作「会社法制の見直しに関す る要綱案の解説」別冊商事法務編集部編『会社法制の見直しに関 する要綱の概要』別冊商事三七二号(二〇一二年)三五頁) 。 ( 16) 坂本ほか・前掲注( 10)一八一頁。 ( 17) 前掲注( 16)およびこれに対応する本文参照。 ( 18) 辰巳・前掲注(1)四六頁。 ( 19) 本決定のこのような構造について、久保田・前掲注(1)八 九頁は次のように指摘する。すなわち、本決定は、決定要旨②の 判示の論理的帰結であるかのように、決定要旨③の判示を導くが、 本来、③の判示を導くためには、通知・公告後の株式譲受人には、 通知・公告の時点の株主について②で述べたような事情のないこ と(つまり「その意思にかかわらず」特別支配株主の定めた対価 の額で株式を売り渡すことになるわけではないこと)が必要であ る。このことに鑑みると、本決定は明示はしていないものの、対 象会社による通知・公告後の株式譲受人は、株式売渡請求の事実 三六 判 例 研 究
や当該請求の内容(対価の額など)に関する情報を知りつつ、あ るいは容易に知りうる状況で、あえて株式を譲り受けたと評価で きるとの考え方に立っていると理解できるとされる。なお、決定 要旨②と③の関係につき、これとは異なる読み方をするものとし て、伊藤・前掲注(1)八六頁 - 八七頁参照。 ( 20) 松田・前掲注(1)ジュリ九二頁。 ( 21) 松田・前掲注(1)曹時二二一頁。 ( 22) 福島・前掲注(1)一六四頁。 ( 23) 組織再編につき 、 江頭憲治郎 『 株式会社 法 』 ( 有 斐 閣 、 第 七 版 、 二〇一七年 ) 八四五頁 、 上柳克郎ほか編 『 新版注釈会 社 法 ⑸』二八八頁〔宍戸善一〕等。全部取得条項付種類株式の全部取 得につき 、 田中秀幸 「 判 解 」 最判解民事篇 平 成 二 二 年 度(下) ( 二〇一四年 ) 七六七頁 、 酒巻俊雄 = 龍田節編集代表 『 逐 条 解 説 会社法⑵』一四一頁〔岡田昌浩〕等。 ( 24) 江頭・前掲注( 23)八四五頁、久保田・前掲注(1)九〇頁。 ( 25) 松田・前掲注(1)ジュリ九二頁、福島・前掲注(1)一六 一頁。 ( 26) 田 中 亘 「 商 法学における法解釈の方法 」 民商一五四巻一号 ( 二〇一八年 ) 六二頁 、 加 藤 ・ 前掲 注(1)一 〇 三 頁、 髙橋陽一 「 平成二九年 度会社関係重要判例の分 析〔上〕 」 商事二一七六号 (二〇一八年) 八頁、久保田・前掲注 (1) 九〇頁 - 九一頁、林・ 前掲注(1)六八頁 - 六九頁、福島・前掲注(1)一六四頁 - 一 六五頁。組織再編におけるこのような抑止機能を強調する先駆的 な業績として、藤田友敬「新会社法における株式買取請求権」江 頭憲治郎先生還暦記念『企業法の理論(上) 』(商事法務、二〇〇 七年)二七六頁、二九五頁 - 二九六頁、三〇一頁 - 三〇二頁参照。 ( 27) 田中・前掲注( 26)六二頁。このような規律づけを重視する 立場からは、本決定においてかかる規律づけに対する最高裁の考 えが述べられるべきであったとされる(田中・前掲注( 26)六一 頁 - 六二頁、加藤・前掲注(1)一〇三頁) 。 ( 28) 具体的には、通知・公告後の市場価格は対価の額を下回るこ とはなく、特別支配株主は定められた対価の額で売渡株式を取得 するであろうから、通知・公告後の株式譲受人はリスクを取らな いで、売買価格決定の申立てによって利得する可能性が生じる。 したがって、定められた対価の額が公正な価格よりも低いと判断 するならば、通知・公告後に投機目的でとりあえず売渡株式を譲 受け、売買価格決定の申立てを行う者が増加することが考えられ る(林・前 掲 注(1)七 〇 頁 ) 。 も っ と も 、 こ の よ うな機会主義 的行動は必ずしも望ましいものとは思われない。 ( 29) 林・前掲注(1)六八頁。 ( 30) 田中・前掲注(9)六一九頁、六二〇頁。 ( 31) 松尾・前掲注(1)一四九頁。ただし、差止事由や無効事由 に該当するためには、著 ! し ! く ! 不当な対価の額でなければならず、 単 ! に ! 不当な対価の額であるときには、いずれの事由にも該当しな いと考えられる。学説は、取得対価の単なる不当性(株式の公正 な価格に比して低額であること)は、原則として売買価格決定手 続 ( 会社一七九条の 八 ) により争わせれば足りると解している (田中・前掲注(9)六二〇頁) 。そのように解するならば、差止 制度や無効制度は、抑止機能として十分なものであるとはいえな いかもしれない。また、そもそも通知・公告後株主に、差止請求 権や無効の訴えが認められるかどうかという問題もある(後述6 ⑹) 。 ( 32) 飯田秀総「東京地決平成二五年九月一七日(セレブリックス 事件決定)の判批」商事二一三六号(二〇一七年)五二頁 - 五三 株式売渡請求の通知・公告後に株式を譲り受けた者による売買価格決定申立ての可否 三七
頁、加藤・前掲注(1)一〇三頁。飯田・前掲注( 32)五二頁 - 五三頁は、基準日後に全部取得条項付種類株式を取得した株主の 取得価格決定申立権を否定する文脈で、本文のように述べる。 ( 33) 前田・前掲注(6)一五三頁 - 一五四頁。 ( 34) 松田・前掲注(1)ジュリ九二頁。 ( 35) 松田・前掲注(1)曹時二二一頁。 ( 36) 岩原紳作編 『 会社法コンメンタール補巻 平成二六年改 正』 (商事法務、二〇一九年) 二五八頁 - 二五九頁 〔飯田秀総〕 は、 基準日後株主の価格決定申立権を否定する文脈で、かかる株主は、 基準日前に株式を取得すればよいのであり、基準日後の取得分ま で株式買取請求権を認める必要はないとされる。そのような主張 に 併 せ て 、 株式等売渡請求権の場合についても 、 伊 藤 ・ 前掲注 (1)九一頁を引用して、本文のように述べられる。 ( 37) 飯田・前掲注( 36)二五九頁。 ( 38) 東京高判平成二五・四・一七判時二一九〇号九六頁〔レック ス損害賠償事件〕参照。 ( 39) 和田宗久・金判一四五二号(二〇一四年)五頁、拙稿「基準 日後株主と株式買取請求権・取得価格決定申立権」岸田雅雄先生 古稀記念 『 現代商事法の諸問題 』( 成文堂 、 二〇一六年 ) 四 七 〇 頁 - 四七一頁参照。 ( 40) 田中・前掲注( 26)六二頁、髙橋・前掲注(1)三四七頁以 下。 ( 41) 同旨、髙橋・前掲注(1)三五〇頁注 17。ただし、小規模閉 鎖会社では、株主総会決議が求められるキャッシュ・アウトに比 べ、周知の機会も少なく、株式売渡請求がなされたことを知らず に株式を譲り受けることも考えられる(髙橋・前掲注(1)三五 〇 頁 ) 。 か か る会社における周知手段としては 、 名簿上の株主に 対する通知(会社一二六条一項。坂本ほか・前掲注( 10)一八六 頁)と書面等の備置・閲覧(会社一七九条の五)を行えば足りる。 このような場合に、例外なく株式譲受人の悪意を擬制するのは難 しいとされる(髙橋・前掲注(1)三五〇頁 - 三五一頁(もっと も、このような場合には、譲渡人に対して売買契約上の責任を問 うという手段はある(松尾・前掲注(1)一四九頁) )。 この点に関連して、立法過程では、非公開会社は株式等売渡請 求制度の対象外とすべきであるとの議論もなされていた(岩原・ 前掲注 ( 15) 三一頁 - 三二頁 )。 立法論としては 、 非 公 開会社は 当該制度の対象外とすべきものと思われる。 ( 42) 本件のような公開買付前置型のキャッシュ・アウトでは、ま ず、キャッシュ・アウト価格を公開買付価格と同一価格とする予 定を公開買付届出書(金商二七条の三)等で買収者が公表する。 ま た 、 本件では 、 対象会社も意見表明報告書 ( 金商二七条一〇 ) 等で賛同意見を表明している。そして、公開買付報告書(金商二 七条の一三 ) 等で公開買 付 け の 結 果 が 公 表 さ れ る と 、 キ ャ ッ シュ・アウト価格で株式売渡請求が行われることが確実な状況で あることが明らかとなる。通知・公告後株主は、これらの内容を 知っていたかまたは容易に知り得た状況で、株式を譲り受けたと いえる。それゆえ、公開買付前置型の場合には、通知・公告後株 主が不測の不利益を被ったとは考えられないであろう(飯田・前 掲注( 32)五三頁参照) 。 ( 43) 日本証券業協会「株式等の決済期間短縮化(T+2化)に関 する検討状況に つ い て 」( http:/ /www .jsda.or .jp/shijyo/minasama/ 20150313173226.html )〔 アクセス日二〇二〇年八月 二 四 日 〕( 二 〇一九年七月一六日から決済日は、取引日から三営業日〔従来は 四営業日〕に短縮された) 。 三八 判 例 研 究
( 44) 加藤・前掲注(1)一〇三頁。 ( 45) 同旨、松田・前掲注(1)曹時二二九頁注 29。 ( 46) 松尾・前掲注(1)一四九頁。 ( 47) そのような場合であって、当該対価より高い価格で売渡株式 を譲り受けた者は 、 前 述(注( 41)) の よ う に 、 譲 渡 人 の売買契 約上の責任が問題となるであろう (松尾・前掲注 (1) 一四九頁) 。 ( 48) 髙橋・前掲注(1)三五〇頁は、このような考え方を紹介す るものの、結論として反対される。 ( 49) 髙橋・前掲注(1)三五一頁。 ( 50) Xの許可抗告理由ではこの点が改めて主張されているが(民 集 七 一 巻六号一〇〇四頁 - 一〇〇六頁 ) 、 本決定ではこれを取り 上げていない。なお、前掲・さいたま地決平成二九年一月二五日 (前掲注(7) )参照。 ( 51) 坂本ほか・前掲注( 10)一八九頁注 124。 ( 52) したがって、撤回がいかなる場合に認められるかは、今後の 議論や裁判例に委ねられているとされる(弥永・前掲注(1)三 頁、髙橋・前掲注(1)三五二頁 - 三五三頁) 。 ( 53) 岩原・前掲注( 15)三六頁。 ( 54) X は 、 前述のように 、 「 株主が売買価格決定の申立てをす る ことで特別支配株主に撤回を促すこともできる」と主張する。 ( 55) 髙橋・前掲注(1)三五四頁。 ( 56) 辰巳・前掲注(1)四九頁。 ( 57) 辰巳・前掲注(1)四九頁。 ( 58) 前掲注(5)参照。 ( 59) 久保田・前掲注(1)九〇頁。 ( 60) 辰巳・前掲注(1)四九頁。 ( 61) 辰巳・前掲注(1)五〇頁、山本・前掲注(1)四頁、久保 田・前掲注(1)九一頁。 ( 62) 辰巳・前掲注(1)五〇頁、久保田・前掲注(1)九一頁。 ただし 、 調査官解説 で は 、 この点は何ら判示していないとする (松田・前掲注 (1) ジュリ九三頁。とくに松田・前掲注 (1) 曹 時二二三頁注 33) 。 ( 63) 松尾・前掲注(1)一四九頁、山本・前掲注(1)四頁、髙 橋・前掲注(1)三五一頁注 26、久保田・前掲注(1)九一頁。 本決定の論理に よ れ ば 、 売買価格決定の申立制度の趣旨は 、 通 知・公告により株式の売渡しが「確定する」ところ(その後に株 式売渡請求が撤回される(会社一七九条の六)こともありうるこ と を 鑑 みると 、 正確にいえば 、「 撤回されないことを条件として 確定した」といえる(伊藤・前掲注(1)九四頁) ) 、まさにその 時点の株主を保護するものであると解されており(松田・前掲注 (1)曹時二二一頁 - 二二二頁) 、通知・公告後の買い増しについ ては否定的に解 されることになるのではなかろうか 。 な お 、 加 藤・前掲注(1)一〇三頁は、本決定は、通知・公告後に買い増 された株式の申立権について明示していないが、かりに最高裁が 前述の抑止機能を重視しないのであれば、この点について否定的 な立場がとられるとされる。もっとも、当該株主が申立てに要す る費用に見合うようにするために株式を買い増す余地を認めると いう観点(松尾・前掲注(1)一四九頁)からは、通知・公告後 に買い増された株式について申立権が肯定されるべきであるとす る見解(福島・前掲注(1)一六四頁)もありうる。 ( 64) 松田・前掲注(1)ジュリ九三頁。 ( 65) 髙橋・前掲注(1)三五四頁。 ( 66) 拙稿 「 判 批 ( 東京地決平成二五年九月一七日 ) 」 札幌学 院 法 学三二巻二号(二〇一六年)五六頁。東京地決平成二一年一〇月 株式売渡請求の通知・公告後に株式を譲り受けた者による売買価格決定申立ての可否 三九
一九日金判一三二九号三〇頁参照〔吸収合併のケースにおいて、 総会基準日に名義書換未了であった株主に対し、株式買取請求権 (会社七八五条一項)を否定した事案〕 。 ( 67) 山本・前掲注(1)一四〇頁、林・前掲注(1)六九頁。 ( 68) 松田・前掲注(1)ジュリ九三頁。松尾・前掲注(1)一四 九頁は、通知・公告後の株式譲受人であっても、差止請求および 無効の訴えの提起が肯定されることを前提としているように読め る(前述3⑵ ⅱ) 。 ( 69) 鳥山・前掲注(1)一一一頁、辰巳・前掲注(1)五〇頁 - 五二頁、久保田・前掲注 (1) 九一頁 (なお、伊藤・前掲注 (1) 九三頁は、本決定の射程としては、全部取得条項付種類株式の全 部取得等の 決議後ではなく 、 ( 当該決議により確定した行為が対 外的に明らかになる)通知・公告(会社一七二条二項、一八一条 一項、一八二条の四第三項、振替一六一条二項等)後または公表 ( 全部取得等に係る適時開示 やEDINET における臨時報告 書 の 公 表〔伊 藤・前 掲 注(1)九 九 頁 〕) 後の株式譲受人 について 、 価格決定の申立て等ができないと解すべきであるとされる) 。 右の見解に対し、本決定は、株式売渡請求のような株主総会決 議が行われない類型において価格決定申立権が認められる株主の 範囲に関する判断であって、たとえば全部取得条項付種類株式の 全部取得のような株主総会決議が必要な場合の解釈にまでその射 程は当然に及ぶとはいえないと解する見解もある(山本・前掲注 (1)一四〇頁、飯田・前掲注( 36)二五七頁) 。というのも、た とえば全部取得条項付種類株式の場合には、反対株主の要件とし て、事前の反対通知と総会での反対という要件(会社一七二条一 項一号)が課されている点で、特別支配株主の売渡請求の場合と 問題状況が異なっているとみることもできるからであるとされる (久 保 田・前 掲 注(1)九 一 頁。飯 田・前 掲 注 ( 36) 二五七頁 。 ただし、全部取得条項付種類株式に関し、事前の反対通知を要求 する必要性が低いことを指摘するものとして、弥永真生「反対株 主の株式買取請求と全部取得条項付種類株式の取得価格 決 定 ( 上 )」 商事一九二一号 ( 二 〇 一 一 年 ) 五 頁 、 拙 稿 ・ 前 掲 注 ( 39) 四五〇頁 - 四五一頁参照) 。 もっとも、二段階目のキャッシュ・アウトの種類によって、価 格決定の申立権者の範囲に差異が生じることには疑問があるとす る見解もある(公開買付けの終了日を基準にすると、通知・公告 の時期と株主総会の時期は大きく異なる(加藤・前掲注(1)一 〇三頁。前者は後者よりも短い〔伊藤・前掲注(1)九八 - 九九 頁注 51参 照 〕 ) ) 。 加 藤 ・ 前 掲 注(1) 一〇三頁は 、 最高裁が 、 最 判平成二八年七月一日〔ジェイコム事件〕において形式ではなく 実質を重視して、二段階買収を一体の取引として位置づけたと解 されることから、二段階目の取引において売買価格決定の申立て 等を行うことができる株主の範囲については、可能なかぎり統一 的な解釈がなされるべきであると指摘する。 なお、略式組織再編の場合に本決定の射程が及ぶかどうかに関 しては、いまだ問題として残っているものと考えられる(同旨、 辰巳・前掲注(1)五一頁) 。 ( 70) 松田・前掲注(1)曹時二二二頁。 ( 71) 東京地決平成二五年七月三一日資料版商事三五八号一四八頁 〔グッドマンジャパン事件〕 、東京地決平成二五年九月一七日金判 一 四 二 七号五四頁 〔 セレブリックス事件 〕 、 東京地決平成二五年 一 一 月 六日金判一四三一号五二頁 〔 エース交易事件 〕、 東京地決 平成二七年三月四日民集七〇巻六号七七頁〔ジュピターテレコム 事件第一審〕 、東 京地決平成二七年三月二五日金判一四六七号三 四〇 判 例 研 究
四頁〔東宝 不動産事件第一審 〕 、 東京高決平成二八年三月二八日 金判一四九一号三二頁〔東宝不動産事件控訴審〕など。 ( 72) 鳥山・前掲注(1)一一一頁。 ( 73) 飯田・前掲注( 36)二五七頁。飯田・前掲注( 36)二五七頁 - 二五八頁は 、 本決定は 、 このように 、 公開買付後であるが通 知・公告前に譲り受けた株主の申立権については何も述べていな いとした上で、もしそうだとすると、本決定と基準日後株主の価 格決定申立権を否定する見解(飯田・前掲注( 36)二五六頁。た とえば、拙稿・前掲注( 39)四五二頁 - 四五三頁参照)とは抵触 しないとする。 ( 74) 同旨、久保田・前掲注(1)九〇頁。 ( 75) 松田・前掲注(1)曹時二二二頁 - 二二三頁。たとえば、振 替株式の譲受けは公告前に行われたが、振替口座簿への記録のみ が公告後になった場合 (前掲注 ( 44) とこれに対応する本文参照) などが想定されよう。 株式売渡請求の通知・公告後に株式を譲り受けた者による売買価格決定申立ての可否 四一