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オノマトペ ─生活を快適にする情報技術─

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Academic year: 2021

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1.は じ め に

近年,製品から発生する騒音をなくす低騒音化だけで なく,音を活用して新たな付加価値を見いだす快音化が 注目され,所望の音色を付与する快音設計が行われてい る [戸井 12].例えば,環境音や騒音の分野では,パー ソナルコンピュータやその周辺機器から発生する音によ りオフィスや家庭の音環境が悪化し,これらのオフィス 機器から発生する音に対する対策が望まれている [田中 01].そこで近年,音の快・不快や音質評価の研究が盛 んになってきている. 音を人はどのように知覚し認識しているのか,その主 な要因を特定するための研究が音響学分野で行われてい るが,従来の音響に関する研究では,被験者が音源から 知覚する特徴を調査するうえで,「静かな─騒々しい」や 「鈍い─鋭い」といった形容詞が用いられることが多い. しかし,[坂本 13a] は,形容詞による評価が多用されて いる触覚認知に関する研究において,形容詞よりもオノ マトペ(擬音語・擬態語の総称)のほうが,触素材の微 細な違いや人が感じる触質感を直接的に表現できること を実験により示している.また,オノマトペには,素材 の物理的質感に加えて,快・不快などの感性的な質感も 内包されるとし,触素材の印象を測るうえで有効である としている.[渡邉 11] は,オノマトペの音韻と触覚に 関する快・不快の関係性の研究を行い,オノマトペの音 韻と快・不快評価の関係には音象徴的な結び付きが存在 することを示している.音象徴性とは,オノマトペが表 す感覚イメージとそれを構成する音韻との間に強い結び 付きがあることである [Ramachandran 01]. 本稿では,感覚情報が音韻に反映されるオノマトペの 音象徴性に着目し,著者らが開発したオノマトペが表す 感性的印象を数量化する情報技術を用いることで,生活 を快適にする一手段である快音づくりに貢献できる可能 性について議論したい. 音の快・不快に関する研究の多くは,快音とはどのよ うな振幅,周波数をしているのかといった課題に対し, 音響特徴などの物理量のみに着目したものである [山口 13]が,環境音や騒音の音響特徴量へオノマトペを用い ている研究もある. [田中 01] は,プリンタや複写機の操作音に対して, 擬音語による自由記述実験を行い,得られた擬音語の音 声学的パラメータをもとに操作音を分類することで,操 作音のような非定常音についても,サイン音のような定 常音を対象とした場合と同様,擬音語が音響特徴量に対 応しているかどうかという点について検討している.そ のうえで,操作音から感じられる快適性や製品イメージ の印象評価実験を行い,快適性や製品イメージに影響し ていると考えられる音響的特徴を検討している.結果と して,レーザプリンタと複写機の操作音を対象として, 擬音語による自由記述実験と製品イメージの印象評価実 験については,刺激に対する被験者の擬音語表現は多様 であるが,音声学的パラメータの類似度に基づき操作音 を分類すると,操作音の音響的特徴と対応した分類をす ることができることを示している.サイン音のような定 常音だけではなく,操作音のような非定常音に対しても その音響的特徴を捉えるのに,擬音語表現が有効である ことが確認されている.また,音が不快な印象を生む原 因と考えられる高周波のエネルギーが多い衝突音に対し ては,有声子音の閉鎖音が多く用いられるなど,快適性 や製品イメージに関連する音の音響的特徴と擬音語表現 の特徴に対応が見られるとしている.音から受けるさま ざまな印象と対応する擬音語表現が明らかになれば,日 常用いられる擬音語表現を,SD 法などとは異なった, 一般の人がよりなじみやすい音質評価の方法として利用 できるのではないかと考えられる [石原 05]. また,[高田 02] は,騒音という観点からオノマトペ を用いた音質評価の可能性を検討している.音質評価を

オ ノ マ ト ペ

─生活を快適にする情報技術─

Onomatopoeia

 ─ Technology to Make a Life Pleasant ─

坂本 真樹

電気通信大学大学院情報理工学研究科

Maki Sakamoto Graduate School of Informatics and Engineering, University of Electro-Communications. [email protected], http://www.sakamoto-lab.hc.uec.ac.jp

Keywords:

onomatopoeia, affective evaluation system, comfort, sound, individual variation visualization. 「Well-being Computing」

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行う際に,多数の形容詞対尺度を用い,音のさまざまな 印象的側面を測定する Semantic Differential 法(SD 法) を適用し,音質に影響する音響的特徴を明らかにすると いった手順を踏む場合が多いが,音に対する主観的印象 を評価することになじみが薄い一般の人を対象とした場 合,こういった方法が利用しやすい手段であるとは言い 難いとしている.そして,複写機やプリンタの操作音を 対象として,その音響的特徴を擬音語表現によって捉え る試みを行っている.擬音語表現の類似性に基づいて操 作音を分類することにより,擬音語が操作音のどのよう な音響的特徴を捉えているのかを検討した結果,各被験 者による擬音語表現には個人差があり,一つの操作音に 対してさまざまな表現が見られたが,音声学的特徴に着 目すると,被験者間に共通した部分が多いことを指摘し ている.音響的特徴の類似した操作音が同じクラスタに 分類されたことにより,擬音語表現が操作音の音響的特 徴を捉えるのに有効であると示している.このように, 音響特徴量とオノマトペを対応付けた研究もわずかなが ら行われているが,音の評価に個人差があるということ についての対応方法の検討が課題となっている. そこで本稿では,快音づくりにオノマトペをより効果 的に用いるための方法として,オノマトペが表す印象を 数量化するシステムの活用と,個人差に対応するシステ ムの活用を提案したい.

2.オノマトペによる快音づくりの可能性

2・1 効果音の快・不快とオノマトペ § 1 実験刺激 効果音の感性評価傾向をオノマトペによって調査す るため,快と評価されると思われる音刺激と不快と評 価されると思われる音刺激がそれぞれ半数になるよう に,機械音(ビープ音などの電子音)と環境音(駆動 音のような実在する外界の物音や,それを模倣した音) を選定した.具体的には,Google で「効果音」という ワード検索した際の上位三つのサイト(2014 年 10 月 27日付け),「効果音 『機械系音』 by On-Jin ∼音人∼」 (http://on-jin.com/sound/meka.php),「効果音ラボ」 (http://soundeffect-lab.info/),「魔王魂」(http:// maoudamashii.jokersounds.com/)から,機械音・環境 音に該当する音を選定した. これらのカテゴリーの全音源,総計 2 164 音の中から, ほぼ同じ音と推定され,同じオノマトペで表される可能 性のある音を除外した.続いて,使用する刺激を著者ら の主観により快・不快に分類し,快と思われる刺激 70 音と不快と思われる刺激 70 音(計 140 刺激)を選定した. さらに,選定した刺激を用いて予備実験を行った.予備 実験では,被験者(男 6 名,女 1 名,平均年齢 23.29 歳, 標準偏差 1.98)に 140 刺激を聞かせ,その際に各音か ら直感的に想起したオノマトペと,それぞれの音の「快 ─不快」に関する 7 段階(非常に快:+3,快:+2,や や快:+1,どちらともいえない:0,不快も同じく−1 ∼−3 までの 3 段階)の評価値を回答させた.予備実験 により得た「快─不快」に関する 7 段階評価より快の値(評 価値が 0 以上)または不快の値(評価値が 0 未満)を示 した刺激を,本実験に使用する刺激として選定した. 以上の手続きにより,実験で用いる機械音 30 音,環 境音 30 音,計 60 音が選定された. § 2 実験実施 18∼ 26 歳(平均年齢 21.32 歳,標準偏差 1.87)の大 学生 46 名(男性 40 名,女性 6 名)を被験者として,電 気通信大学内研究室にて実験を行った.被験者にはイヤ ホンとして ELAP の RD-ST01(再生周波数帯域:20 ∼ 20 000 Hz,インピーダンス:20 Ω)を装着してもらい, 実験刺激を聞いてもらった.刺激音の平均提示時間は約 2.44秒だった.続いて,実験刺激から喚起されたオノ マトペを自由に回答させた.オノマトペの回答時間は約 30秒となった.さらに,「快─不快」,「好きな─嫌いな」,「楽 しい─つまらない」,「上品な─下品な」,「安心な─不安な」, 「高級感のある─安っぽい」という尺度を用いて,各音の 印象を 7 段階 SD 法(非常に快:+3,快:+2,やや快: +1,どちらともいえない:0,不快も同じく−1 ∼−3 までの 3 段階)により回答してもらった.これらの 6 尺 度に対して定量評価させることにより,後述するオノマ トペの音印象を数量化するシステムが算出する数値と対 応させることが可能となり,より正確に感性印象を把握 することができる.実験は PC の画面に表示したエクセ ルシートで,オノマトペの自由記述と 7 段階 SD 法によ る回答をしてもらった.実験刺激音は,エクセルシート の各番号(1, 2, 3 など)をクリックすることにより再生 されるようにした. § 3 実験結果 はじめに,実験刺激音に快・不快の違いが感じられて いたかどうかを調べた.全 60 種類の実験刺激に対し, 46名の被験者が「快─不快」の評価尺度について回答し た値(被験者評価値)を実験刺激ごとに集計した.被験 者評価値の平均値−0.232(分散 1.44)を基準値とし, 各刺激の快・不快評価値に対して両側 t 検定を行った結 果,1%水準で 24 刺激が有意に快を,24 刺激が有意に 不快を示した(表 1).また,5%水準を含めると,27 刺 激が有意に快を示した.有意差のあるものには有意水準 を,*:p < 0.05,**:p < 0.01 を示した.このことから, 快と評価される刺激音と不快と評価される刺激音が約半 数ずつ存在することが確認された. 次に,各実験刺激から想起された代表的なオノマトペ を選定した.各実験刺激に対して最も多く回答され,か つ出現率が全体の 10%以上のオノマトペを代表オノマ トペとした.各刺激に対する代表オノマトペとその出現 率を表 2 に示す.

(3)

2・2 オノマトペと効果音の快・不快傾向の可視化 § 1 オノマトペで表される音の印象の定量化 藤沢ら [藤沢 06] は,評価実験により音韻特性要素の 有無が擬音語の印象に与える影響を数値化し,その線形 和で印象が決定されると仮定することで,数量化理論第 Ⅰ類により擬音語の音韻と印象評価値の関係を次式のよ うにモデル化している. 2 1

+

=

X

X

+

X

3

+

X

4

+

X + Const.

5

(1) ここで,Yˆ はある尺度についての印象の予測評価値, X1∼はそれぞれ子音行,濁音・半濁音,拗音,母音,語 尾が音の印象に与える影響の大きさを表している.藤沢 ら [藤沢 06] はこのモデルに基づいて評価実験結果の分 析を行い,表 4 に記載する音響特徴に関連する 15 組の 形容語尺度対と 21 個の音韻特性について,表 3 にあげ るようなイメージ評価数量を得ている. 本研究では,あるオノマトペ表現の構成要素からその 表現の与えるイメージを評価することが可能であると考 え,システムの設計を行った.藤沢ら [藤沢 06] による オノマトペを構成する各音韻の有無がイメージに与える 影響からオノマトペが表す印象値を推定するモデルを, 任意のオノマトペに適用可能なように補正を加え,構築 するシステムの計算に用いた.このモデルに基づき,15 組の形容語尺度対それぞれについて,形態素解析より得 られたオノマトペを構成するすべての音韻要素のイメー ジ数量を用いて計算し,オノマトペのイメージ評価値と する. 表 1 実験刺激ごとの快・不快の違い No. 平均値 分散値 No. 平均値 分散値 1 2.33** 0.68 31 0.26** 0.79 2 −0.84** 1.13 32 −1.28** 1.22 3 1.33** 1.37 33 1.08** 0.86 4 −1.96** 1.25 34 0.09 1.77 5 0.93** 1.37 35 −1.34** 2.18 6 −1.93** 1.14 36 0.56** 1.02 7 0.78** 1.79 37 −1.27** 1.51 8 −1.97** 0.95 38 0.13* 0.96 9 −2.45** 0.92 39 −1.33** 1.81 10 1.48** 1.28 40 0.86** 1.24 11 1.30** 1.25 41 0.35** 0.71 12 −1.39** 2.87 42 −1.10** 1.15 13 −0.54 2.04 43 0.25 1.54 14 1.20** 1.08 44 0.84** 0.75 15 1.13** 0.98 45 0.18 1.55 16 −1.54** 1.67 46 −1.03** 0.94 17 1.14** 1.24 47 −1.11** 1.42 18 1.00** 1.13 48 0.61** 1.22 19 0.98** 1.37 49 −1.83** 1.29 20 −0.39 2.44 50 −1.18** 1.64 21 1.26** 1.26 51 0.56** 1.20 22 0.74** 1.06 52 −1.38** 0.80 23 −1.86** 1.00 53 0.21* 1.25 24 0.39* 1.85 54 −1.97** 0.73 25 0.56** 0.99 55 0.13 1.13 26 1.48** 0.78 56 −1.06** 1.52 27 −0.44 1.62 57 0.75** 0.83 28 −1.76** 2.17 58 −2.26** 0.62 29 −0.05 2.55 59 −1.61** 0.77 30 1.49** 1.50 60 −0.49 1.26 表 3 音韻特性と擬音語印象評価値(一部) 評価尺度 子音行 濁音 /t/ /n/ /r/ 濁音 半濁音 明るい─暗い 0.09 −0.21 1.21 −1.29 0.69 澄んだ─濁った 0.00 −0.45 0.77 −2.47 0.11 快い─不快な 0.52 0.80 1.66 −0.99 0.20 重い─軽い 0.02 0.42 −0.30 2.58 0.01 騒々しい─静かな −0.26 −0.81 −0.07 1.56 0.55 表 2 実験刺激ごとの快・不快の違い No. オノマトペ 出現率 No. オノマトペ 出現率 1 しゃん 26% 31 ぽ 37% 2 ぶいーん 19% 32 ぴっぴっぴ 20% 3 ぴーん 14% 33 かこん 15% 4 どんどん 39% 34 からんからん 16% 5 ぱん 17% 35 どどどど 34% 6 ざー 18% 36 ぴーん 49% 7 しゃらん 13% 37 ぶーぶー 37% 8 ぶいーん 36% 38 かちゃ 15% 9 びー 24% 39 どどどど 25% 10 ぴーん 18% 40 ぽちゃん 31% 11 ぴーん 18% 41 こん 12% 12 ちりんちりん 10% 42 がしゃん 13% 13 ぴゅーん 10% 43 ぽちゃん 16% 14 とーん 23% 44 ぽーん 49% 15 きーん 13% 45 ぴー 25% 16 ざー 23% 46 ぶー 16% 17 しゃん 34% 47 どるんどるん 14% 18 ぴーん 14% 48 ぽぴゅん 13% 19 ぴこん 10% 49 ぶぶー 28% 20 ざーざー 14% 50 ぎりぎり 18% 21 ぽん 26% 51 ぴよん 18% 22 たーん 21% 52 ぶー 53% 23 ぶっ 28% 53 ぽわん 16% 24 かーん 24% 54 ぴー 18% 25 ぽっ 20% 55 ぽこん 16% 26 ぽん 43% 56 ぶるぶる 20% 27 がしゃん 18% 57 ぴろん 15% 28 ういーん 18% 58 きーん 21% 29 ぶくぶく 13% 59 がががが 16% 30 ごろごろ 30% 60 がしゃーん 14%

(4)

図 1 は「ぽにょ」の出力結果例である.滑らかでやわら かく,丸みがあり潤いがある音印象であることがわかる. § 2 オノマトペで表される効果音の評価傾向の可視化 実験刺激ごとに得られたオノマトペをオノマトペの音 印象評価システムに入力し,尺度ごとに得られた評価値 の平均値をその刺激の評価値として集計した. 次に,形容詞対 15 尺度から快・不快の尺度を除い た 14 尺度を変数として,実験刺激ごとの評価値の主成 分分析を行った.快・不快の尺度に関して,本研究は 快・不快のバブルチャートの作成も目的としているため マッピングの際の尺度からは除いた.第 2 主成分まで で 86%の累積寄与率となったため,14 尺度のデータを 二次元上で表すために第 2 主成分までを用いることとし た.表 4 に各尺度の主成分負荷量の例を示す. 解析は R で行った.第 1 主成分を横軸,第 2 主成分 を縦軸として考え,二次元分布図上でそれぞれの尺度を 配置した.ここで,尺度は「汚い ─きれいな」のように 対になっていることから,点対称の位置に尺度を配置す ることとした.実験刺激 60 種から想起されたオノマト ペのシステム評価値と主成分の関係性を主成分得点で把 握し,第 1 主成分を横軸,第 2 主成分を縦軸として各実 験刺激から想起された代表オノマトペを二次元分布図上 に配置した. さらに,実験から得られた各音刺激の快・不快の評価 値を用いてバブルチャートを作成し,オノマトペマップ と合わせることで図 2 のように快・不快の評価値の可視 化を行った.バブルチャートにおける音刺激を表すバブ ルはオノマトペマップにおける各音刺激の代表オノマト ペの位置に配置されている.また,バブルの面積が快・ 不快の評価値に比例するものとなっている.この快・不 快の評価値とは,各音刺激について被験者が 7 段階で評 定した快・不快評価の平均値である. 図 2 で,快の評価値(正の値)を表しているバブルを 濃い灰色,不快の評価値(負の値)を表しているバブル を薄い灰色として視覚的に理解しやすいようにした.第 3象限に示された音刺激および代表オノマトペの多くは 快の値を示し,第 1 象限に示された音刺激および代表オ ノマトペの多くは不快の値を示していることがわかる. 快評価傾向のある効果音は,「しゃん」,「ぽぴゅん」,「ぴ こん」といったオノマトペで表され,それらのオノマト 表 4 14 尺度の主成分負荷量の一部 尺度 第 1 主成分 第 2 主成分 汚い─きれいな −0.264 0.215 ざらざらした─滑らかな −0.252 0.302 暗い─明るい −0.316 0.039 粗い─きめの細かい −0.329 0.075 濁った─澄んだ −0.434 0.090 やわらかい─かたい −0.045 − 0.369 丸みのある─とげどげしい −0.017 − 0.608 鈍い─鋭い −0.305 − 0.370 図 1 出力結果例 図 2 効果音を表すオノマトペの二次元分布図上への配置と効果音の快・不快評価傾向

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ペがもつ印象評価尺度から,第 2 象限に位置する細くて, 軽い尺度と関連すること,および第 3 象限に位置する明 るく,澄んだ,きめの細かい,きれいで,滑らかで,静 かな尺度と関連する傾向があることがわかった.一方, 不快評価傾向のある効果音は,「ざー」,「ぶいーん」,「ど んどん」,「がががが」といったオノマトペで表され,そ れらのオノマトペがもつ印象評価尺度から,第 1 象限に 位置するざらざらした,騒々しい,汚い,粗い,暗いと いう尺度と関連すること,および第 4 象限に位置する, 重い,地味な,鈍いといった尺度と関連することがわか る.すべての音から想起されたオノマトペを二次元マッ プ上に配置することで,その音の快・不快評価に影響の ある音の特徴(音に関連する評価尺度)を把握すること が可能であると考えられる.

3.個人差に対応するシステム

[坂本 16] では,これまで定量的に議論することが難 しかった個人の触質感の感じ方の違いを,詳細に把握, 共有するための手法・システムを提案している.この 手法では,ある範囲の触素材群の関係性を表した触素材 マップと,その範囲の触質感を表現するオノマトペマッ プをあらかじめ用意し,二つのマップのすり合わせを行 い,そのすり合わせ方の違いによって個人個人の触質感 の感じ方の違いを把握することとした.具体的には,触 素材マップ上にオノマトペマップを重畳するとともに, いくつかのオノマトペをそれが最も表すと感じられる触 素材の位置へと移動させる.このとき,オノマトペが表 す触質感を数量化できるシステム [清水 14] を介在させ ることで,少数のオノマトペの位置を操作するだけで, ほかのオノマトペも適切に移動させ,オノマトペマップ 全体の配置を変更できるようにする.これにより,少な い手順でユーザの評価が可能になり,個人個人の触質感 認知の違いを少ない時間,負担で実現できる.例えば, 触質感認知の年代差や性差など,属性に基づいた大規模 調査が可能になると考えられる. 実装例では,[Sakamoto 13b] によって標準化された 50種類の触素材を用いた.その触素材を,視覚を遮断 した 21 ∼ 24 歳(平均 22.8 歳)の被験者 10 名(男性 6 名,女性 4 名)に一つずつランダムに提示し,利き手の 人指し指で横になぞる動作と押す動作で触れてもらい, 「温かい─冷たい」,「かたい─やわらかい」,「弾力のある─ 弾力のない」,「湿った─乾いた」,「滑る─粘つく」,「凸凹 な─平らな」,「なめらかな─粗い」の 7 尺度において 7 段 階評定法で回答を求めた.そして,各素材の尺度ごとの 平均評定値から各素材間の相関係数を算出し,多次元尺 度構成法によって触素材マップを作成した.別途,次の 手順によりオノマトペマップを作成する. 一般的な触感を表すオノマトペとして 2 モーラ(拍, おおよそ 2 音節に相当する)繰返し型のオノマトペ 307 語を用意し,それらを“○△○△した手触り”(○△○ △はオノマトペ)という検索語で Google 検索を行い (2012 年 7 月 6 日実施,Internet Explorer 9),ヒット 数が 1 000 件以上のオノマトペ 43 語を選定した.次に, 選定された 43 語を「オノマトペ質感印象評価システム」 に入力し,43 語それぞれに対して,触素材の評価と同 じ「温かい─冷たい」,「かたい─やわらかい」,「弾力のあ る─弾力のない」,「湿った─乾いた」,「滑る─粘つく」,「凸 凹な─平らな」,「なめらかな─粗い」の 7 尺度の評価値を 得た.「オノマトペ質感印象評価システム」[清水 14] は, 日本語のオノマトペが,語を構成する音韻と語が表す感 覚イメージとの間に強い結び付きがあることを利用し, オノマトペの音韻を入力するだけで,その質感印象を予 測するシステムである.例えば,第 1 モーラに /s/ を含 むオノマトペ(「サラサラ」など)は滑らかで乾いた触 感と結び付くことが知られており,システムは,このよ うな音象徴性を反映した触質感の違いを数量化すること ができる.43 語のオノマトペの各 7 尺度の評価値を主 成分分析し,第 1 主成分を横軸,第 2 主成分を縦軸とし てマップを作成する. 次に,触素材マップとオノマトペマップをユーザの主 観に合うようにすり合わせるシステムについて述べる. はじめに,タッチパネル機能の付いた画面に,オノマト ペマップが触素材マップの上に触感印象がある程度合う ように重畳された状態で表示する(図 3).二つのマッ プはそれぞれ異なるデータで独立に作成されたものであ るが,同じ 7 尺度を使用しているため,触素材の印象評 価値,オノマトペマップの軸を参考にして,中心点を合 わせ,座標値を調整し,800×600(横×縦)ピクセル の画面上に重ね合わせた. そして,ユーザはオノマトペマップ上の各オノマトペ の位置を,それが最も表すと感じられる触素材の位置へ と移動させる.このとき,本システムの大きな特徴とし て,ユーザが一つのオノマトペを移動させると,その他 のオノマトペも「オノマトペ質感印象評価システム」の 出力に基づくオノマトペ間の類似度に合わせて自動的に 移動する.そうすることで,マップ上にすべてのオノマ 図 3 システムを操作しているユーザの様子

(6)

トペを配置し直さなくても,少数のオノマトペを移動す るだけで,全体の配置が調整されることになる.つまり, 本システムは,ユーザがいくつかのオノマトペを移動さ せることを何度か行うことで,個人の主観に合ったオノ マトペ全体の関係性を効率的に調整するものである.オ ノマトペを自動的に移動させるアルゴリズムの詳細につ いては [坂本 16] を参照されたい. この研究では,ユーザが二次元マップ上に配置された 複数のオノマトペを自由に操作し,そのオノマトペで表 すのに最も適していると感じる素材へと移動・保存し, 個人の触感空間を可視化できるシステムを提案したもの であるが,同様のことは効果音についても適用できると 考えられる.音を聞いたときの印象に合った少数のオノ マトペを操作するだけで,ほかのオノマトペも類似度分 だけ移動するアルゴリズムにより,短時間でその人の音 の好みが把握できるため,例えば長時間の複雑な実験が 困難な高齢者にとっても負担の少ない手法を実現でき る.このシステムにより,個人の感じ方の違いをより微 細に把握し,年齢などによって感覚が異なり得る人のイ メージを尊重し,寄り添い,コミュニケーション支援を 行えることが期待できる.

4.お わ り に

我々の日常は,生活を快適にするために開発された電 化製品であふれている.さらに,それらの電化製品には, その操作感を快適にするために,音が付与されているこ とが多い.しかし,便利な電化製品とさまざまな音に囲 まれれば生活が快適になるとは限らない.生活を快適に するには,不快音を取り除くだけでなく,快音を付与す る必要があるかもしれないし,個人の感じ方の違いにも 対応する必要がある.例えば,若年者と高齢者では手触 りの感じ方に違いがあることが著者の研究室での実験で 確認されている [Kosahara 16].高齢化が進む社会で, すべての人が快適な生活ができるように情報技術に何が できるのか.本稿で紹介した直感的な表現であるオノマ トペを用いた簡易なシステムは,その一つの試みである. 謝 辞 本研究は JSPS 科研費新学術領域研究質感脳情報 学 JP23125510 および JP25135713 および多元質感知 JP15H05922の助成を受けたものである.

◇ 参 考 文 献 ◇

[戸井 12] 戸井武司:音響利用による質感向上のための快音設計, 映像情報メディア学会誌:映像情報メディア,Vol. 66, No. 5, pp. 379-384(2012) [藤沢 06] 藤沢 望,尾畑文野,高田正幸,岩宮眞一郎:2 モーラの 擬音語からイメージされる音の印象,日本音響学会誌,Vol. 62, No. 11, pp. 774-783(2006) [石原 05] 石原一志,駒谷和範,尾形哲也,奥乃 博:環境音を対象 とした擬音語自動認識 :擬音語表現における音素決定曖昧性の 解消,人工知能学会論文誌,Vol. 20, No. 3, pp. 229-236(2005) [Kosahara 16] Kosahara, M., Watanabe, J., Hiranuma, Y., Doizaki, R., Matsuda, T. and Sakamoto, M.: A system to visualize tactile perceptual space of young and old people, AAAI 2016 Spring Symposium Series(2016)

[Ramachandran 01] Ramachandran, V. S. and Hubbard, E. M.: Synaesthesia: A window into perception, thought and language, J. Consciousness Studies, Vol. 8, No. 12, pp. 3-34 (2001)

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著 者 紹 介

坂本 真樹(正会員) 1998年 3 月東京大学大学院総合文化研究科言語情 報科学専攻博士課程修了.東京大学大学院総合文化 研究科言語情報科学攻助手,電気通信大学電気通信 学部准教授を経て,2015 年 4 月より同大学院情報 理工学研究科教授.情報処理学会,日本バーチャル リアリティ学会,感性工学会,日本認知科学会など の各会員.博士(学術).

図 1 は「ぽにょ」の出力結果例である.滑らかでやわら かく, 丸みがあり潤いがある音印象であることがわかる. § 2 オノマトペで表される効果音の評価傾向の可視化 実験刺激ごとに得られたオノマトペをオノマトペの音 印象評価システムに入力し,尺度ごとに得られた評価値 の平均値をその刺激の評価値として集計した. 次に,形容詞対 15 尺度から快・不快の尺度を除い た 14 尺度を変数として,実験刺激ごとの評価値の主成 分分析を行った.快・不快の尺度に関して,本研究は 快・不快のバブルチャートの作成も目的として

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