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DNAでも区別できない核酸塩基 (ウラシルとチミン) の識別手で操るナノテク (Hand-Operating Nanotechnology) を駆使して達成

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Academic year: 2021

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同時発表: 筑波研究学園都市記者会(資料配布) 文部科学記者会(資料配布) 科学記者会(資料配布)

DNA でも区別できない核酸塩基(ウラシルとチミン)の識別

手で操るナノテク(

Hand-Operating Nanotechnology

)を駆使して達成

平成22年9月15日 独立行政法人物質・材料研究機構 概 要 1.独立行政法人物質・材料研究機構(理事長:潮田資勝)国際ナノアーキテクトニクス 研究拠点(拠点長:青野正和)の有賀克彦主任研究者らは、大阪市立大学と共同で、 遺伝コード(核酸塩基)のウラシル(U)をチミン(T)に対して 60 倍以上の感度で 識別する人工膜を開発した。この両遺伝コードは、DNA ですら区別できない。 2.デオキシリボ核酸(DNA)やリボ核酸(RNA)は生体分子の設計図であり、DNA か ら RNA あるいは DNA 同士の間で精密な遺伝情報の伝達を行う。核酸塩基のうち T と U の構造の違いは炭素一つ分しかなく、誤って混在した場合には DNA はそれを 区別できなくなり、病気や突然変異の原因ともなる。したがって、この非常に構造の 似た T と U を確実に区別できる手法の開発が必要となっている。 3.本グループは、アームドシクロノナンという分子を新たに合成し、それを水面上で膜 として手で圧縮しながら適宜歪ませることにより T と U を区別できる最適な構造を 人為的に微調整して作り出すという方法を開発した。この方法により、最大64倍の 精度でこれら二つの核酸塩基を見分けるという「DNA ですら出来ない」識別に成功 した。この方法は伸縮自在のポリマーの表面やゲルを用いておこなうことも可能であ り、DNA の遺伝配列の精密分析や、遺伝子疾患の検出、不斉アミノ酸などの他の生 体物質の精密センシングにも応用できる。 4.本研究は、同グループが世界に先駆けて開発を進めている「手で操るナノテク (Hand-Operating Nanotechnology)」という新技術を駆使して達成された。本技術では、 分子マシンなどの機能分子を界面に配列させた膜とし、その膜を手で圧縮するような 簡単な操作で機能分子のナノメートルレベルの動きを制御するものである。この技術 を用いれば、分子を掴んだり放したり、ドラッグデリバリーを行ったり、物質を思い のままに配列させたりなどの「ナノテク機能」が、手の動きなどの日常操作で行うこ とができるようになる。 5.本研究は、独立行政法人科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業チーム型研究 (CREST)「プロセスインテグレーションに向けた高機能ナノ構造体の創出」研究領 域(研究総括:入江正浩 立教大学 理学部 教授)における研究課題「ナノとマクロを つなぐ動的界面ナノテクノロジー」(研究代表者:有賀克彦)の一環として行われた。

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研究の背景 タンパク質などの生物を構成する物質の設計図はデオキシリボ核酸(DNA)に書き込ま れており、その情報がリボ核酸(RNA)に写し取られて設計図通りの生体物質を生み出す。 また、DNA 間で情報を写し取ることによって親から子への遺伝情報の引継ぎがなされる。 DNA は、アデニン(A)、チミン(T)、シトシン(C)、グアニン(G)の4つの核酸塩基 から構成されており、それらがどのように並ぶかによって生体の設計図が描かれる。また、 RNA は T の代わりにウラシル(U)を持っている。これらは、A と T(あるいは U)が、 また、G と C が必ずペアを作ることによって、DNA や RNA の鎖はお互いを張り合わせ るようにして認識したり、転写・複製したりする。DNA や RNA の塩基配列を読み取る ことは、遺伝情報の解明や潜在的に潜む遺伝疾患を発見などの医療方面や、人物の特定に よる犯罪捜査などの社会活動の面でも重要である。つまり、DNA の核酸塩基を識別するこ とは、生命活動や人間活動の根本に関与する問題といえる。 これらの核酸塩基のうち、チミン(T)とウラシル(U)はその構造が非常によく似てい る。具体的には炭素一つ(メチル基 CH3 一つ)分の構造の差しかなく、これらを見分ける

ことは困難を極める。事実、DNA も RNA も T や U の認識には同じアデニン(A)を 用いている。通常は、T は DNA 上に、U は RNA 上に別々に存在するので問題はないの であるが、何らかの事故で同一鎖状に T と U が出来てしまった場合には、DNA はそれ らを区別できなくなってしまう。たとえば、光照射によって DNA 上にあるシトシン(C) が U に変わってしまうという副反応が知られている。この場合、C からできた U と DNA 上に元々ある T は、DNA では区別し得ないので、実質的に遺伝情報が書き換えら れてしまうことになり、突然変異や疾病の原因になりうる。したがって、非常に似た構造 の T と U を区別して検出する方法の開発は大変重要である。 研究の進展 1. T と U のように極めて似た構造を識別できる人工分子を化学合成によって開発する のは超分子化学者の夢であるが、極めて困難な課題であり容易には実現できない。我々 はそのような認識分子を精密に合成開発する代わりに、“だいたいよい構造”の分子を 作っておき、圧力をかけて化合物を徐々に歪ませることによって、認識に最も適した 形を人為的に微調整して生み出すという新しい方法論を取った(図1)。 2. 具体的には、アームドシクロノナンという分子を“だいたいよい構造の認識分子”と して新たに合成し、これを T や U の検出に用いた。この分子の構造を最適な認識構 造にするため水面上に単分子の厚さの膜として並べ、膜の横方向から圧力を徐々にか けていき、その分子の形を連続的に徐々に歪ませた。この単分子膜に下水相から T や U などの検体分子が吸着すると吸着量に応じて様々な物性が変わるが、特に表面張力 の値が鋭敏に変化することを利用すると、表面張力の変化量から結合した検体分子の 量を算出することができる。様々な条件において膜にどのくらいの強さで T や U が 結合するかを調べたところ、最適条件(共存するリチウムイオンが 10 mM で表面圧

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力が 35 mN/m)で、この膜が 64 倍の精度で U を選択的に識別できることがわかっ た(図2)。 3. 本方法では分子一つ分の厚さの膜を用いるので、簡単な力で圧力をかけることができ る。例えば、膜の存在する水面の両端にバーをおいておき、それを手で簡単に押すこ とによって、上記のような最適な分子識別構造が得られる。この方法では、非常に難 しい構造の識別を手間隙かけて合成する必要もなく、高価な装置を使う必要もない。 このように、手による簡便な操作で分子の精密識別などのナノテクノロジー機能が得 られることから、本研究は「ハンドオペレイティングナノテクノロジー(Hand Operating Nanotechnology):手で操るナノテク」として提唱される新しい手法の一環として研究 されている。

新技術:手で操るナノテク(Hand Operating Nanotechnology)とは?

手で操るナノテク(ハンドオペレイティング・ナノテクノロジー)は同研究グループで世 界に先駆けて開発を進めている新しい技術体系で、我々自身がナノを操り日常的な動作で ナノテク機能を操作するためのものである。実際上、手で自由に分子やナノ構造の一つ一 つを制御することは不可能なので、本技術では超分子の考え方を利用する。例えば、図3 に示した、開いたり閉じたりする分子マシンを手で駆動するようにするため、水面上に分 子一つ分の厚さの超分子膜として並べ、膜を手で横方向に自由に動かして、その膜の中の 分子の動きでターゲットとなる別の分子を捕捉したり放出したりする。これは、このよう な超分子膜では、膜面方向には手で動かせるような大きなレベルの変化を起こすことがで き、その一方で、膜の垂直方向には分子レベルやナノメートルレベルの現象が起こせるこ と、つまりマクロ(大きな)動きとナノテク機能がカップリングできるという発想によっ ている。同様な操作は、水の上だけではなく自由に伸縮できるフィルムを使ってもできる と考えられ、携帯型のシステムも開発できる。そうすれば、毒物の捕捉・センシングから 薬物の投与、あるいは化学物質を介した電気信号の伝達、ナノ物質の自由配列化まで、す べて我々の手で操ることが可能になる。結果として、ナノテクの技術は誰でも自由に使え る「隣のナノテク」となり、その本当の便利さを国民が実感できるようになるはずである。 波及効果および発展 1. この研究の方法は、柔らかいポリマーやゲルなどを用いて行うことも原理的に可能で あり、様々なセンシングデバイスと組み合わせることができる。このような核酸塩基 の精密な認識は、DNA 中に潜在的に存在する遺伝的欠損の検出や個人的な遺伝的な 差異を解明する上で大変有用な方法論となる。 2. 本方法は DNA の核酸塩基の識別にとどまらず、様々な生体分子の精密識別に用いら れる。特に、生体関連物質は構造の些細な違いによって薬物になったり、毒物になっ たりすることが知られており、それらの識別の不備によって様々な薬害がもたらされ

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た歴史がある。本方法は、生体分子の精密な構造を容易に識別する手段となり、この ような悲劇を未然に防ぐためにも有効である。例えば、本方法によってアミノ酸の L 体と D 体を圧力に応じて識別できることも、我々は実証している。 問い合わせ先: 〒305-0047 茨城県つくば市千現1-2-1 独立行政法人物質・材料研究機構 広報室 TEL:029-859-2026 FAX:029-859-2017 研究内容に関すること: 独立行政法人物質・材料研究機構 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点 主任研究者 有賀 克彦(ありが かつひこ) TEL:029-860-4597 FAX:029-860-4832 E-Mail:ARIGA.Katsuhiko@nims.go.jp

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【用語解説】 1)デオキシリボ核酸(DNA)とリボ核酸(RNA) 生物の設計図であり遺伝情報を蓄える高分子、リン酸と糖からなるポリマーのバッ クボーンに核酸塩基(次項)が構造単位ごとにぶら下がっている。この核酸塩基が ぶら下がっている配列が生体の設計図そのものであり、それによってどのようなタ ンパク質が作られるかなどが決められている。DNA と RNA はその構成分子である 糖部分の構造が異なる。DNA の情報が RNA に写し取られて、その情報をもとにタ ンパク質が合成される。また、DNA から DNA へと構造が写し取られることによっ て情報が複製される。母親と父親の DNA 情報を子が引き継ぐことによって、遺伝 情報の引継ぎがなされる。 2)核酸塩基

DNA や RNA の遺伝情報をになうもので、DNA はアデニン(A)、チミン(T)、シ トシン(C)、グアニン(G)の4つの核酸塩基から構成され、RNA は A、G、C、 ウラシル(U)を持っている。A と T(あるいは U)が、また、G と C が必ずペ アを作ることによって、分子から分子へと情報が写し取られる。この核酸塩基が置 き換わってしまうと、突然変異や病気などの生命の重篤な危機が起こる。 3)アームドシクロノナン 環状化合物シクロノナンに様々な官能基が腕の様についている分子。本研究ではコ レステロールの腕がついたものを用いた。比較的容易に合成できる有機分子。 4)分子マシン 回ったり、折れ曲がったり、物をつかんだりなど機械のような働きをする分子。科 学的には最先端技術の粋ではあるが、操作法が必ずしも簡易ではないため実用性に 劣ると考えられてきた。 5)超分子 分子と分子が集まって、個々の分子を超えるような超機能を発揮するもの。198 7年のノーベル化学賞の対象。 6)組織「国際ナノアーキテクトニクス」について 世界トップレベル研究拠点形成プログラム(WPI プログラム)に 2007 年に採択さ れた5拠点のひとつであり、ナノテクノロジー技術により物質科学研究を推進する 世界屈指の研究拠点形成を目指すもの。今回の研究成果は、手による操作という非 常に簡単な方法で分子レベルの現象をコントロールするという、世界的にも例を見 ないナノテクノロジーの新しい概念を提唱しており、本プロジェクトに大きく寄与 するものである。

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図 1 水面上に広がった膜を手で圧縮するだけで核酸塩基の精密な識別ができる条件を 探せる。

図 2 ウラシルとチミンの結合曲線。ウラシルがチミンに対して非常に強く認識される。

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分子を捕まえる

分子を放す

ターゲット分子

(薬物など)

分子の動きをコントロール

(ナノテクの世界)

図3 分子マシンによるターゲット分子の捕捉と放出。

図 2  ウラシルとチミンの結合曲線。ウラシルがチミンに対して非常に強く認識される。

参照

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