キーワード 沖縄県,離島 , 精神保健福祉,アルコール依存症,統合失調症
Key Words Okinawa Prefecture,Isolated island,Mental health welfare,Alcoholism,Schizophrenia
間 文彦
1 )*,安孫子 尚子
1 ),稲垣 絹代
2 )Fumihiko Hazama,Shoko Abiko,Kinuyo Inagaki Current Status of Mental Health Welfare in Okinawa Prefecture
− Focusing on Patients with Alcoholism,Schizophrenia −
沖縄県における精神保健福祉の現状
~アルコール依存症・統合失調症患者に焦点を当てて~
聖泉看護学研究 Seisen J. Nurs. Stud., Vol. 8. pp.73-76, 2019
そ の 他
1 )聖泉大学大学院看護学研究科 Graduate School of Nursing,Seisen University 2 )名桜大学総合研究所 Meio University human health Sciences Institute
*E-Mail [email protected]
Ⅰ.はじめに
聖泉大学大学院看護学研究科,地域・精神保健 看護学領域では,地域・精神保健看護学特論Ⅱに おいて,沖縄県の歴史や文化を踏まえた公衆衛生, 精神保健看護を学ぶために現地でのフィールド ワークを 3 年間継続して行ってきた.フィールド ワークでは,沖縄本島,石垣市,竹富町・西表島, 宮古島市にある保健所,市役所,診療所に勤務す る医師,看護師,保健師等の説明や,実際の場面 を見学し,離島の地域保健活動について考える機 会を得た.これまでの 3 年間を振り返り,特に, アルコール依存症・統合失調症について,沖縄県 の離島の地域の文化や歴史的背景,治療および処 遇の現状を確認したうえで,沖縄での精神障害者 に対する課題を検討する.Ⅱ.フィールドワークの概要
フィールドワークの実施にあたっては,研究科 教授会において稲垣絹代教授より学外フィールド ワークを実施することを報告し,承諾を得た.ま た,稲垣絹代教授より計画書を大学教務課,学長, 研究科長に提示し承諾を得ると同時に,施設への 協力依頼や,講義いただく講師等の内諾を得た. フィールドワークでの講義や聞き取りは,沖縄 県の離島,石垣市,宮古島市の地域精神医療に関 わっている保健師 6 名,精神科病棟を併設する看 護師 3 名,名桜大学教授 2 名に行った.その内容 は,精神障害者数,主な精神障害の疾病種別や特 徴,処遇に対することで,事前学習は沖縄県のホー ムページを中心に書籍や新聞掲載記事を参考に 行った.Ⅲ.フィールドワークの実際
1 .沖縄県の精神疾患に対する治療および 処遇の現状 1 )沖縄県内のアルコール依存症・統合失調症 の状況 日本全国の精神病床数は,334,258床であり, 沖縄県の精神病床を有する医療施設は25施設,病 床数は5,387床である.沖縄県内の医療施設を除 く精神科診療所および精神科外来は61施設,病床 普及率(人口万対)は37.6床であり,全国の27.1 床に比べて大きく上回っている.病床数の所在を 確認すると,沖縄本島の南部・中部に集中してい るのが特徴的である.離島では石垣市,宮古島市 にそれぞれ 1 施設(沖縄県保健医療地域保健課, 2017)である. ─ 73 ─沖縄県における精神疾患をもつ在院患者の年齢 別内訳は40歳未満が8.3%,40歳以上65歳未満が 42.5%を占めている.また,在院期間は 1 か月未 満が12.5%, 3 か月以上 6 か月未満が9.0%, 6 か 月以上 1 年未満が9.9%と10%以内に対し, 1 年 以 上 5 年 未 満 が29.6 %, 5 年 以 上10年 未 満 が 13.7%,10年以上20年未満は8.6%,20年以上は 5.6%であり,在院期間長期化の現状がある.そ の理由として考えられるのは,在宅医療を支える グループホームや訪問看護体制が不十分であり, 特に離島では,医師,保健師,看護師の離島の診 療所への定期的な訪問が天候悪化に伴いできない ことが考えられる. 精神障害者の疾患別内訳は,統合失調症が 63.0%を占めている.次いで器質性精神障害が 23.6%,アルコール使用による精神および行動障 害が3.7%である.一方,気分障害は4.9%である. 内因性精神障害から鑑みれば気分障害患者数が少 なく,統合失調症の占める割合は全国平均である. 沖縄県においては精神障害者が施設から地域で 安心して治療を継続し,家族も含めた関わり方に ついて改革を行っている(沖縄県保健医療部地域 保健課,2017).しかしながら,精神障害者数は, 離島という小さな村ほど状況把握に困難が生じ, その関わり方において地域差があることは歪めな い. 保健師からみた精神疾患をもつ住民に対する関 わり方に関する聞き取りでは,「沖縄県外に就職 後,統合失調症やうつ病を発症し沖縄県内の精神 科病院に入院する患者がいる」,「地域住民は少し 変かなと思っていた」,「地域内の付き合いに問題 が生じて相談に来る」などであった.今後の課題 としては,保健所を中心とした相談窓口の充実や, 住民に対する関わりを強化するための家庭訪問の 機会を増やし,精神障害者の早期治療,退院支援, 在宅医療に向けての取り組みが重要である. 2 .石垣市の治療および処遇の現状 石垣市の人口は平成27年度,47,600人であり, 市内にある医療機関は県立八重山病院(精神科病 床数50床)と法人 1 施設,健康を支援する機関は, 保健所 1 か所,竹富町 1 か所である(沖縄県保健 医療部地域保健課,2017).石垣市の住民の平均 寿命は男性79.5歳,女性86.6歳と沖縄県全体と比 較しても短いのが現状である.その原因と考えら れているのは,生活習慣を起因とする疾病による 死亡である. 1 )石垣市の飲酒の治療および処遇状況 石垣市は,八重山諸島の中心的位置にあり,年 間を通じた観光客の多いことが特徴的である.石 垣港からはフェリーを利用して,竹富島,西表島 の離島に渡り観光をする.そのなかで,観光客は もちろん石垣市の住民もアルコール飲用率は高 い.理由としては,観光地特有の居酒屋をはじめ とする飲食店が街に多く点在し,多くの観光客と 住民は飲酒の機会が多いことであり,その飲用率 の高さの結果として,アルコール性肝炎やアル コール依存症患者も多いのが現状である. 竹富町保健所の保健師は,フェリーを利用して 西表島・竹富島診療所へ定期的に訪問している. しかしながら,フェリーは天候に左右されるため 定期的な訪問が困難であり,各島ではアルコール 依存症の継続的治療に困難をきたしている要因と なっている.また,石垣市内の竹富町保健所で行 う断酒会や家族会についても定期的開催が困難で ある.アルコールに起因する疾患に対して入院治 療が必要な患者は,市内にある県立八重山病院が アルコール専門治療体制が整っていないこともあ り,沖縄本島の専門治療病院で治療・看護援助を 受けているのが現状である.退院後は,保健所間 の連携は行われているが,離島であるがゆえに継 続治療が困難をきたしている. 2 )石垣市の統合失調症患者の治療および処遇 状況 県立八重山病院の精神科病床は50床である.統 合失調症患者数は人口比率から鑑みても多いのが 現状である.精神科の治療を要する患者は,急性 期を過ぎると退院し,在宅医療に移行しているが, 治療の継続ができていない現状がある.治療継続 できない要因の 1 つが地域住民の精神障害に対す る捉え方と早期からの対応の不十分さである.担 当する保健師の聞き取りからは,「地域住民は(精 神障害者に対して)少し変かなと思っていた」, 「(精神疾患の症状による)地域内の付き合いに問 題が生じて相談に来る」といった,精神疾患の早 期発見の遅れを確認した.症状の進行後に入院治 療となり,退院しても地域での治療継続への支援 が十分行われないまま生活している現状が考えら れる.また,多くの統合失調症患者は,沖縄本島 の精神病院で治療を受けている.アルコール関連 ─ 74 ─ 聖泉看護学研究 8 巻(2019)
疾患患者と同じ状況にあることの説明があった. 3 .宮古島市の治療および処遇の現状 宮古島市人口は,平成27年,53,812人,市内の 医療機関は県立宮古病院(精神病床数50床)法人 2 施設,健康を支援する機関は,保健センター 2 ヶ 所である. 宮古島市の住民の平均寿命は,男性78.0歳,女 性86.2歳と沖縄県内と比較すると平均寿命が短い ことが現状である.その原因と考えられているの は,生活習慣に起因する疾患での死亡である.生 活習慣病の原因には,メタボリックシンドローム, 飲酒量状況,飲酒頻度が関係していることが指摘 されている. 宮古島市国保医療費の現状は,平成28年,41.3 億円(KDB)であり,詳細としては悪性新生物4.6 億円(20.6%)精神3.7億円(16.7%)であり,非 常に精神疾患の医療費割合が高い. 1 )宮古島市民の飲酒の治療および処遇状況 宮古島市民の飲酒量は, 1 回 6 ドリンク以上の 頻度が高く,また飲酒状況,オーディット点数も 全国の約 5 倍をしめている.宮古島市民の飲酒の 機会や飲酒量が多い理由は,飲酒に対する文化の 違いが指摘されている.宮古島市民には古来より, オト-リの飲酒文化が根強く育まれている.古来 泡盛が少なかった時代にみんなで泡盛を分け合う 飲酒文化があった.現在でも,住民は,特に青年 期から老年期に至るまで,祭りや祝い事(なあふ い祝い・入学式・成人式・合格祝い・地域の行事 など)があれば,家族で祝う,さらに地域住民の 全員で祝っている.祝いの席は,飲酒の機会とな ることから,飲酒量の増加となり,その結果,生 活習慣病,アルコール性肝炎,メタボリックシン ドローム等に繋がっていると示唆されている. 宮古島市では,飲酒によるアルコール関連疾患 患者が多く,治療が必要であるがアルコール治療 専門病院が開設されていないためにほとんどの患 者は,沖縄本島の専門治療病院で治療・看護援助 を受けているのが現状である.このような現状の 中では,治療の継続が困難であり,保健師の訪問 による生活習慣の指導が必要となる.また,地域 での断酒会や飲酒対策の取り組みも大きな課題だ と説明があった. 2 )宮古島市の統合失調症患者の治療および処 遇状況 県立宮古病院の精神科病床数は50床である.精 神科の治療を要する患者は,急性期を過ぎると退 院し,在宅医療に移行しているが,治療の継続が できていない現状がある.保健師からの聞き取り では,統合失調症患者の割合が多いにも関わらず, 地域住民が精神疾患患者に対する捉え方が,「あ の人はちょっと変わった人や,なんかおかしなこ とを言っている」という程度で,特に問題だとは 捉えられていないことが印象的であった.また, 多くの統合失調症患者は,沖縄本島の精神病院で 治療を受けている.アルコール関連疾患患者と同 じ状況にあることの説明があった. 宮古島市では診療所で薬物療法を中心に治療が おこなわれているが,継続した服薬指導が必要と なり家族を含めた関わりが必要であることが課題 である.
Ⅲ.まとめ
沖縄県における精神障害者の現状としては,精 神科病床を有している病院は,沖縄本島の南部・ 中部に集中しているのが特徴である.統合失調症 においては,疾患別では63.0%を占めており,統 合失調症の発症率からみても全国差はなかった. アルコール依存症患者数は3.7%である.アルコー ル依存症患者は離脱症状を脱したら早期に退院 し,長期入院には至っていないと考えられる.理 由として,離島においてはアルコール専門病院が 少ないことや,アルコールに対して寛容な地域で あることが考えられる.しかしながら,退院後再 飲酒を繰り返すことにより,生活習慣病を併発す る.アルコール性肝炎や高血圧症,糖尿病などは, アルコール専門病院以外の一般科病院で治療を 行っていることが考えられ,生活習慣の飲酒に対 する支援が十分に行われず,本当の解決には至ら ないと考える. 沖縄県にある離島のアルコール依存症・統合失 調症患者の継続的治療・援助は,診療所を中心に 薬物療法がおこなわれている.そのことにより, 継続した服薬指導を家族も含めた関わりが課題で あると考えられる. 沖縄本島,沖縄県離島の石垣市,宮古島市の精 神医療については,やはりアルコール飲用が大き な問題として考えられた.また,統合失調症患者 ─ 75 ─ 沖縄県における精神保健福祉の現状~アルコール依存症・統合失調症患者に焦点を当てて~の継続的治療・援助が離島では十分とは言えず, 沖縄本島に依存していることが明らかとなった. 診療所を中心に薬物療法がおこなわれているなか で,継続した服薬指導が必要となり,家族を含め た関わりが必要であることが明らかとなった.