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中学校段階におけるバスケットボールの絶対評価基準の設定 -技能的特性と機能的特性の観点から-

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Academic year: 2021

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(1)学位論文. 中学校段階におけるバスケットボールの絶対評価基準の設定 一技能的特性と機能的特性の観点から一. 兵庫教育大学大学院. 学校教育研究科. 教科・領域教育学専攻. 生活・健康系コース. MO6280G. 芹澤 博一.

(2) 学位論文要旨. 中学校段階におけるバスケットボールの絶対評価基準の設定 一技能的特性と機能的特性の観点から一.

(3) 中学校段階におけるバスケットボールの絶対評価基準の設定 一技能的特性と機能的特性の観点から一 門 攻 教科・領域教育学 コース. 生活・健康系(保健体育). 学籍番号 MO6280G 氏 名 芹澤 博一. 1.目 的. 本研究では、まず(i)学制発布以降の学校教育 における評価の変遷・変化の契機を検討した。次い で、(11)体育科の「基礎・基本」を明確にし、球 技バスケットボールの具体的教育内容を措定すると ともに、(i五)バスケットボールの基本シュートを 明らかにした。さらに、(iv)普遍的価値と考えら れる「技能的特性に触れているか」「機能的特性に 触れているか」を拠り所として、個人技能、集団技 能、ならびに戦術理解二等について授業における実 態を測定し、文部科学省の言う「十分満足できる」 「概ね満足できる」の絶対評価基準を設定した。. (2)測定項目 ①ゲーム場面から離れた個人技能 a.レイアップシュート成功数/10本(ドリブルから) b.ワンハンドシュート成功数/10本(ピボットターンから). c.ドリブル得点=ドリブルでの得点/30秒. (8の字1周4点) d,ドリブル技術=ドリブル得点/走得点×100 ②ゲーム様相での集団技能 a.攻撃完了率篇シュート数/ボール獲得数×100 b.シュート成功率=シュート成功数/シュート数×100 c.速攻創出率=速攻数/ボール獲得数×100. d.連携シュート率. H.方 法 1.学校教育における評価小史 教育評価研究、ならびに学校教育評価史に関する 文献を対象に、学制発布から現在に至るまでの学校 教育と教科保健体育における評価の変遷契機を検討. =パスを使ったシュート数/ボール獲得数×100 e.ゴール下連携シュート率 =アシストシュート数:/ボール獲得数×100. f.ゴール下連携シュート率2. 2.教育内容の措定. =アシストシュート数/連携シュート数×100 g.ゴール下連携シュート成功率 コアシストシュート成功数/アシストシュート数×100 ③ペーパーテストによる認識度. 基礎・基本についての考え方を文献的に整理し、 球技バスケットボールの基礎・基本を明確化し、教. a.戦術に関する二二(5点×8間=40点) b.技術・ルールに関する問題(5回目12問=60点). し、移行要因を分析した。. 育内容を措定した。. 3.基本シュートの明確化 (1)対象 静・岡県下のG中学校に在籍する3年生男子20名。. (3)基準設定の拠り所とする観点 ① 技能的特性に触れているかの観点を、単元後半 のリーグ戦(6分1ピリオド制)を対象に、保健体 育科教員2名が5段階でゲームパフォーマンスレベ. (2)測定方法 ①「レイアップシュート群(10人)、以下L群」と 「ワンハンドシュート群(10人)、以下0群」の2. ル(GPL)を評価した。 ② 機能的特性に触れているかの観点を、ゲーム終 了後に、ゲームで感じる楽しさを5段階でアンケー. 群(4チーム)を設定した。それぞれに6日間(15分/ 日)ドリブルからのレイアップシュートとピボット ターンからのワンハンドシュートだけをノーマーク の状態で練習させた。. 皿.結果ならびに考察. ②毎時間の練習後、10本中のシュート成功数を記 録させた。. ③7時間目にL群と0群による4試合の対抗戦(6 分2ピリオド制、5対5)を行わせ、ゲーム様相を VTRに撮影し、シュート出現数、成功数、シュー ト地点(制限区域内、制限区域外、スリーポイント. ト調査した。. 1.学校教育における評価小史 学校教育における評価は8期、保健体育科におけ る評価は10期の時代にまとめられた。また、義務 教育段階における絶対評価基準作成の留意点とし て、「何を教えるのか」という教育内容や基礎・基 本を明確にし、その評価規準について量的な基準で 明示されなければならないと考えられた。. ライン外)、ならびに使用シュート技術を分析した。. 2.教育内容の措定 4.授業における絶対評価基準の設定 (1)対象 静岡県下のG中学校に在籍する3年生男子78名、1 年生男子75名。. 生涯スポーツの基礎・基本を培う義務教育段階の 保健体育科の中核的教育内容は、運動技能におき、 これと関わって、他の目標(教育内容)を達成でき るように教えなければならないと考えられた。.

(4) また、各運動種目の基礎は土台、基本は柱に相当 すると捉えるのがひとつの有効な方法で、バスケッ トボールの基礎技術は、ピボット動作であり、基本 技術はパス、ドリブル、シュート、キャッチの4つ でおさえられた。そして、攻防相乱型シュートゲー ムの戦術課題は「ズレを創出して突くパスを入れる (極致はシュート)」であり、攻めの基本戦術は「ゴ. な相関関係が得られたもの、両者ともに有意な相関 関係が得られたもの、両者ともに有意な相関関係が 得られなかったものの4っに分類された。 また、技能的特性よりも機能的特性の方が高い相 関関係の得られる傾向が認められた。さらに、両学 年を通じて、技能的特性、機能的特性の両面で有意 な相関関係が認められる評価項目は存在しなかっ. ールとボールを結ぶ線上にディフェンスを置かな い」、守りの基本戦術は「ゴールとオフェンスの一 直線上にポジションをとる」とおさえられた。すな わち、これらが、バスケットボールにおける義務教. た。. 育段階の中核的教育内容と措定された。. すなわち、①攻撃完了率は、3年:53∼72%、 1年:41∼63%、②シュート成功率は、3年:12 ∼30%、1年:5∼19%、③速攻創出率は、3年. 3.基本シュートの明確化 0群のワンハンドシュートの使用頻度は、22.5本 /12分、出現率は70%、L群は12.8本/12分、出現 率は60%であり、群群のワンハンドシュート出現 数には有意な差が認められた。また、0群のワンハ ンドシュート成功数とその割合は、5.3本(64%)で、L 群2.3本(47%)よりも有意に高値を示した。. 一方、レイアップシュートの使用頻度は、O群は 5.5本/12分(17%)、L群は5.8本/12分(27%)で、. 差は認められなかった。. また、ワンハンドシュートは制限区域外でも用い られていたが、レイアップシュートは制限区域内の みに限られた。. すなわち、レイアップシュートのみを練習したL 群も、ゲームにおいてワンハンドシュートを多用す ることが認められた。このことは、ワンハンドシュ ートがゲームで必要不可欠な技術で、より基本シュ ートであることを示唆していると考えられた。. そこで、両学年に共通して有意な相関関係が認め られた集団技能の項目について、「概ね満足できる」 レベルを個人技能と同様に設定した。. :6∼14%、1年:5∼6%、④連携シュート率は、. 3年:16∼34%、1年:5∼31%と設定された。 (3)戦術理解度について 戦術理解度(戦術、技術・ルール)は、技能的特 性との問にのみ有意な相関関係が得られた。また、 学年差は認められなかった。. したがって、「概ね満足できる」レベルは、技能 的特性「2∼4」の範囲で全学年共通の基準を設定 した。. すなわち、両学年ともに、①戦術に関する認識度 テストは、25∼32/40点、②技術・ルールに関する 認識度テストは、32∼44/60点と設定された。 技能的特性との問にのみ相関関係が認められたこ とは、「わかる」ことが「できる」ことの前提であ ることを示唆するとともに、「わかる」と「楽しさ」 の間には、技能的要因が介在していることを示唆し ていると考えられた。. 4.授業における絶対評価基準の設定 (1)個人技能について 技能的特性から見ても機能的特性から見ても、4 つの個人技能の成績との間には、有意な相関関係が 両学年とも認められ、「概ね満足できる」レベルは ほぼ同値を示した。また、機能的特性よりも技能的 特性との相関関係が強い傾向が認められ、すべての 評価項目で学年差が認められた。 本研究では、技能的特性と機能的特性に触れてい るかどうかを重視し、個人技能のすべての評価項目 において、「概ね満足できる」レベルは、技能的特 性、機能的特性の「2∼4」の範囲に設定した。 すなわち、①レイアップシュート成功数は、3年 :5∼8/10本、1年:3∼6/10本、②ワンハンド. シュート成功数は、3年:5∼7/10本、1年:3 ∼5/10本、③ドリブル得点は、3年:15∼17点/30 秒、1年:11ん14点/30秒、④ドリブル技術は、. 3年:88∼91点、1年:75∼85点と設定された。. なお、(1)(2)で学年差の認められた評価項目. については、3年と1年の中間の成績を2年の「概 ね満足できる」レベルに設定した。. lV.まとめ 普遍的価値である技能的特性に触れているか、機 能的特性に触れているかを拠り所として、個人技能、 集団技能、戦術理解度について絶対評価基準の設定 を試みた。. その結果、個人技能については、レイアップシュ ート成功数、ワンハンドシュート成功数、ドリブル 得点、集団技能については、攻撃完了率、シュート 成功率、速攻創出率、連携シュート率、そして戦術 と技術・ルールに関する認識度テストの9項目を精 選して評価すればよいと考えられた。 (本研究の一部は、日本体育学会第58回大会、および日 本スポーツ教育学会第27回大会で発表した。). (2)集団技能について 集団技能の各測定項目は、技能動特性のみに有意 な相関関係が得られたもの、機能的特性のみに有意. 主任指導教員(後藤 幸弘). 指導教員(後藤幸弘).

(5) 学位論文. 中学校段階におけるバスケットボールの絶対評価基準の設定 一技能的特性と機能的特性の観点から一.

(6) 目 次. 第1章 緒 言 文献. 華年章 学校教育における評価小史. ページ. 1. 5. 7. 第1節 目的. 7. 第2節 方法. 7. 1.対象. 7. 2.分析手順. 7. 第3節 結果ならびに考察. 7. 1.学校教育における評価の変遷. 7. (1)卒業試験制度の時代(1872∼1900). 7. (2)平常点重視の時代(1901∼1915). 8. (3)評価研究高揚の時代(1916∼1940). 8. (4)錬磨育成の時代(1941∼1947). 9. (5)選抜・管理目的の時代(1948∼1966). 9. (6)二重帳簿の時代(1967∼1979). 10. (7)絶対評価を加味した相対評価の時代(1980∼2001). 10. (8)「基準」が不可欠な時代(2002∼). 11. 2.保健体育科における評価の変遷. 11. (1)評価のなかった時代(1872∼1880). 11. (2)点数による評価の時代(1881∼1915). 12. (3)目標標準による評価の時代(1916∼1927). 12. (4)運動能力、調整力を評価した時代(1928∼1940). 12. (5)心身一体を目指した時代(1941∼1950). 12. (6)記録を数値化して評価した時代(1951∼1969). 12. (7)体力重視の時代(1970∼1976). 13. (8)楽しさ重視の時代(1977∼1990). 13. (9)関心・意欲・態度重視の時代(1991∼2001). 13. (10)教育内容を明確にすべき時代(2002∼). 13. 第4節 小括. 14. 文献. 16. 第四章 教育内容の措定の考え方. 18. 第1節 目的. 18. 第2節 方法. 18. 1.対象. 18. 2.措定手順. 18.

(7) 第3節 結果ならびに考察. 18. 1.「基礎・基本」の考え方. 18. 2.保健体育科の「基礎・基本」の考え方. 19. 3.バスケットボールの「基礎・基本」ならびに教育内容の措定. 20. 第4節 小鉢. 21. 文献. 22. 第IV章 バスケットボールにおける基本シュートの明確化. 23. 第1節 目的. 23. 第2節 方法. 24. 1.対象. 24. 2.測定方法. 24. 第3節 結果ならびに考察. 24. 1.シュート技術の練習による伸び. 24. 2.ゲームにおけるシュート出現数ならびに成功数とそれらの割合. 25. 3.ゲームにおけるシュートのゾーン別割合. 26. 第4節 小豆. 26. 文献. 27. 第V章 バスケットボールの授業における絶対評価基準の設定. 29. 第1節 目的. 29. 第2節 方法. 29. 1.評価基準の設定項目の選択. 29. (1)個人技能について. 29. (2)集団技能について. 30. (3)戦術理解度について. 31. (4)基準(レベル)設定の拠り所とする観点について. 31. 2.対象. 32. 3.測定方法. 33. (1)シュート技術. 33. (2)ドリブル技術. 33. (3)集団技能. 33. (4)戦術理解度. 33. (5)ゲームパフォーマンスレベル:GPL(技能的特性). 36. (6)ゲームで感じる楽しさ(機能的特性). 36. 4.絶対評価基準設定の基本的な考え方. 36. 第3節 結果ならびに考察. 1.中学3年生について (1)個人技能の絶対評価基準の設定. 37 37 37.

(8) ①技能的特性の観点から. 37. ②機能的特性の観点から. 37. (2)集団技能の絶対評価基準の設定. 39. ①技能的特性の観点から(チーム平均値). 39. ②機能的特性の観点から(チーム平均値). 39. (3)戦術理解度の絶対評価基準の設定. 42. ①技能的特性の観点から. 42. ②機能的特性の観点から. 42. 2.中学1年生について. 44. (1)個人技能の絶対評価基準の設定. 44. ①技能的特性の観点から. 44. ②機能的特性の観点から. 44. (2)集団技能の絶対評価基準の設定. 46. ①技能的特性の観点から(チーム平均値). 46. ②機能的特性の観点から(チーム平均値). 46. (3)戦術理解度の絶対評価基準の設定. 49. ①技能的特性の観点から. 49. ②機能的特性の観点から. 49. 3.評価項目の精選. 51. 4.設定基準における分布率. 51. 第4節 小括 1.個人技能について 2.集団技能について 3.戦術理解度について. 52. 文献. 54. 52. 52 53. 第VI章 総 括. 56. 第皿章 今後の課題. 58. 謝辞. 付録資料.

(9) 第1章 緒 言 評価は、大きく絶対評価注1)と相対評価に分. と、義務教育の目標の明確化、学習指導要領の. けることができる1〃)17)。学習者の達成度や到達. 見直しの観点を示した。. 度、そして学力保障という点では、絶対評価は 長所であり、相対評価は短所と言える。また、 相対評価は、集団内での相対的位置関係の把握 や選抜、管理という点では長所である。一方、 絶対評価は、到達基準設定の困難さや基準につ いて共通理解を得られにくいという点では短所 と言える。このように両評価法には、一長一短. 2002年に絶対評価が導入されたにもかかわ らず、到達目標の設定がなされず、このような 答申が遅れて成されるという不思議な事実が認 められる。. また、中央教育審議会教育課程部会の審議経 過38)においても、「すべての子どもたちに共通 して最低限必要なもの(いわゆるミニマム)を 社会全体としての必要性や保護者のニーズ等を 踏まえっっ、目的として特定することが必要で ある。」と示された。しかし、具体的なミニマ. があり、歴史的に揺れ動いてきたと考えられる。. 評価の目的は、「学習者が自分自身の姿に気 づき、自己認識できる」「教師が学習者の実態 を把握できる」「教師が目標実現に向けた新た な手だてを考えることができる」ところ等にあ る。すなわち、教師にとっての評価の本質は、 「よりよい授業の構築」のためのものであると. ムは未だに特定されていないのが現状である 注2). B. 保健体育科において、絶対評価基準が設定さ れてこなかった要因として、「何を教えるのか」. 言える。しかし、評価研究は、これまでに種々 行われてきたが、教育評価がもつ意義や授業改 善への着目という点では、必ずしも十分な機能 を果たしてきたとは言えないように感じる。 本研究では、まず学校教育における評価を文 献的に概観し、変遷・変化の契機を検討し、2002 年以降、絶対評価が叫ばれるようになった要因 や絶対評価(規準・基準)を行う際の留意点を 諄い出すことを第一の目的とした。 目標が到達されているかどうかの学力を保障 するために、絶対評価が導入された。しかし、. という教育内容や「どこまで達成させるのか」 という基準について、必ずしも一致した見解が 得られてこなかったことが挙げられる。教育内. 容が明確でない限り、評価基準を設定できない ことは道理であろう。. 前述の中央教育審議会の答申にもあるよう に、全国共通の絶対評価基準を設定する必要が あるにもかかわらず、文部科学省は、その設定 を学校現場に任せ、混乱させている現状がある 6)34). B. ①「義務教育の内容・水準は、ナショナル・ス タンダードとして、全国的に一定基準のものを 定め、その実現が保障されることが必要であ. 絶対評価がなされるためには、教育内容を明 確にすることが、必然的な課題となる。また、 義務教育段階においては、生徒に「ここまでは 身につけさせなければならない」あるいは「こ れを教えなければならない」という教育内容が. る。」. あるはずである。. ②「義務教育段階の学校教育で、具体的にどの ような資質能力を育成することが求められるの かを明らかにすること、すなわち、義務教育の 到達目標を明確化することが必要である。」 ③「義務教育の目標を明確化するため、学習指 導要領において、各教科の到達目標を明確に示 すことが必要である。また、学習の評価につい ても、目標に照らして子どもたちのより確実な 習得に資するようにすることなど、具体的な評 価の在り方について今後検討が必要である。」. したがって、義務教育段階では、本来絶対評 価がなされるべきであり、また、到達度や達成 度についても学習者や保護者に説明できる責任. 2005年の中央教育審議会の答申37)では、. (結果責任)が問われている35)。. すなわち、絶対評価基準を作成するためには、. 義務教育段階における教育内容を措定し、「基 礎・基本」を明確にすることが、基底的条件と なる。このことによって、指導と評価の一体化 も可能になると言える。. ところで、「基礎・基本」の重要性は、これ 一1一.

(10) までの学習指導要領お)24)の改訂において繰り返. 究極の目標. し指摘されてきた。また、教育現場に立つ誰も. 『生涯に亘って主体的に運動を享受できる』. がその重要性を口にする。しかし、言葉だけが. 『的確な判断に基づく行動力の育成』 ・勝敗に侃る請問題を爵決するカ. 先行し、その内実は曖昧であり、「基礎・基本」. ・からだを整えるカ. が具体的に明確にされていないのが現状であ. 近い目標. る。. 情意的目標. そこで、本研究では、「基礎・基本」の考え 方を明確にし、球技バスケットボールの具体的 教育内容を措定することを第二の目的とした。 社会的行動目標. 中学校体育分野には8つの運動領域25)があ り、球技も8種目示されている。本来ならば、 すべての領域・種目において、教育内容を措定. (守る・かかわる). 認識的目標 (分かる). 図1−1 体育科の目標構造(後藤,1988). し、絶対評価基準を設定しなければならないが、. まず球技領域の攻防相乱型シュートゲームの中 からバスケットボールを対象とした。. 体育科の究極の目標は、「生涯に亘って主体的 に運動を享受できる」「的確な判断に基づく行 動力の育成」とまとめられている。. その理由は、球技領域の特徴を次のようにま とめることができ、教材価値の高い種目と考え. さらに、後藤ら7)12)は、ゲーム形式を中心に. られるからである。. 球技を分類し、戦術課題は、「マトを突く」「ズ. 第一に、球技領域は、他の領域よりも戦術行 動や作戦が重要となる。特に、複数人数での球 技は、運動課題を解決・達成させることを通し て、生徒の学びを深め、仲間の大切さや自己の 役割を明確にさせ得る。また、運動課題を集団 で解決し、達成することは、楽しさを深めるこ. レを突く」「ズレを創り出して突く」注3)の3 つにまとめられるとしている(図1−2)。. この分類法によれば、現行の学習指導要領に 示されている8つのボールゲーム26)は、攻防相 乱型シュートゲーム(バスケットボール・ハン ドボール・サッカー)、地理的攻防分離型ゲー. とにもつながる。. ム、(バレーボールと卓球・テニス・バドミン トン)、時間的攻防分離型ゲーム(ソフトボー. 第二に、ゲームは勝つための工夫を楽しむこ とが本質であり、勝つための工夫のひとつに作. ル)の3つの型(4つの形態)に分類できる。 攻防二丁型シュートゲームは、攻防入り乱れ てゲームを展開するという特性がある。また、 攻防分離型(地理的、時間的)ゲームは、作戦 遂行を直接守備側に邪魔されないという特性が ある。したがって、攻防相等型シュートゲーム. 戦がある19)。すなわち、チームで作戦を立て、. その作戦が成功したか否かによって、さらにチ ームでの新たな作戦を立てる工夫を楽しめるこ とである。そして、錯綜する攻防の中で、自チ ームの作戦に適した個人の役割を果たすための 技能の習得が自覚されやすいことである。 換言すれば、図1−14)に示す体育科の究極の. _/. 目標となる「的確な判断に基づく行動力の育成」. シュートゲーム型 バスケットボール. サッカ. ゴールの形状. ハンドボール. 囲『一 一聯藍;. に適した種目のひとつであると考えられること. 障取りゲーム型 ア刈カンフツトポール. ズレを創り出して突く. ラグビー. にある。. 後藤が指摘するように、体育科は、個人技能 や集団技能が上手になるといった「技能的目 標」、技術や戦術がわかるといった「認識的目 標」、ルールやマナーを守り、協力できるとい った「社会的行動目標」の達成を通して、運動. 嚢. 守りの有無. 攻守交代系 二二 ソフトポー’レ (時間的). 一僥…. 協力・遣虞聖口和ゲーム,サーワルバス,9ケローウ宰一. が楽しめる、好きになるといった「情意的目標」. 自己責任・遺四型ゲーム・ゴルスポー・ルグ. の達成を目指す教科であると考えられる。これ らの構造論は、図1−1のように示されており、. 図1−2 ボールゲームの分類(後藤・林,2001) 一2一.

(11) は、錯綜するゲーム状況の中で、他の形式のゲ ームに比し、より的確な判断が要求される。こ のことは、前述したように、体育科の究極の目. しかし、バスケットボールに用いられるシュ ート動作様式は、多種多様で、いずれのシュー トが基本であるかについては、必ずしも一致し. 標である「的確な判断に基づく行動力の育成」. た見解が得られていない13)3D36)。. (図L1)につながる可能性の高いことを示唆. 後述するように、基本は少ない方が望ましい。. している。. また、どのシュートから教えた方が技能が高ま るかという指導の系統性の問題もある。 そこで、本研究では、バスケットボールの種 々あるシュート技術の中から、いずれのシュー トが基本であるかをゲームでの使用頻度や成功 数、出現数をもとに、明確化することを第三の. したがって、球技領域における攻防相二型シ ュー gゲームの学習は、保健体育科の中でも、 教育的価値が高いと言える。 攻防相乱型シュートゲームのバスケットボー ルは、サッカー、ハンドボールと同様に、「ズ レを創り出して突く」が戦術課題となる。換言 すれば、「連携的な作戦や戦術を駆使して相対 峙する敵を破り攻撃・得点する」ことが運動課 題となる。したがって、守備側はゴールとボー ルの一直線上、すなわちシュートコースをまず. 目的とした。. ところで、最近見聞する「指導と評価の一体 化」「真正な評価」等の問題6)16>は、教育内容(教. えるべき内容)が不明確なことが誘因・原因と して生じているように考えられる。 ボールーゲームにおける絶対評価基準を設定 するためには、基礎・基本や教育内容を明確に する必要がある。先行研究を概観すると、本研 究と同様の考えに基づくものがいくつか報告さ れている。すなわち、後藤、松本5)によって、. 防ぐことが課題となる。一方、攻撃側はパス注4). やドリブルによってシュートコースを創出する ことで、「ズレを創り出して突く」という戦術 課題が生じる。. しかし、バスケットボールやハンドボールは、. サッカーとは異なり、ボールを手で扱うため、. 作戦遂行の確率が高いという特性を備えてい. 小学生を対象とした、サッカーのドリブル、リ フティングの評価基準や集団技能を評価する方. る。また、バスケットボールやハンドボールは、. 法が示されている。また、中学生を対象として、. ゲームに出場するすべての選手がシュートを決. ゲームパフォーマンスと個人技能、楽しさの関 係から、授業におけるサッカーのリフティング. め得る可能性も高いゲームでもある。すなわち、. サッカーとは違い全員がゴール前に上がり、攻 撃参加できるという条件から、シュートをして みたいという欲求が生じ、シュート技術を獲得 し、シュートを決める喜びへと発展する可能性. 評価基準表が作成されている(後藤、高橋8))。. が高いと考えられる。また、シュートの成否は、. されている。. 勝敗にも大きくかかわり、成功すれば快感を呼. しかし、中学校体育科のバスケットボールを 対象とした妥当性のある絶対評価基準は著者の 管見の範囲では見当たらない。. また、長井、後藤28)によって、バレーボールの. 学習開始の適時期を究明する中で、ゲームを楽 しめる技能レベルと個人技能の評価基準が提案. び起こすプレー3)でもある。. 手でボールを操作するバスケットボールとハ ンドボールの相違は、ゴールの形状と設置方法 にある。すなわち、シュートの動作様式が大き く異なり、第IV章で述べるように、バスケット ボールには、独自のシュート動作がある。この. 2002年に国立教育政策研究所教育課程セン ターがひとつの絶対評価規準注5)を設けた結果、 それを受けて作成された各県の規準注6)注7)は提. 案されているが、「運動の技能」ひとつを取っ てみても明確な教育内容が把握できにくく、評 価基準が示されていないのが実態である。 本研究では、「規準」を「観点」、「基準」を 「レベル」注8)とおさえ、研究を進める。換言. ようなシュートを24秒以内に遂行しなければ ならないという特性がある。したがって、バス ケットボールでは、シュート技術を身につけな い限り、技能特性に触れたとは言えないと考え られる。このことは、バスケットボールにおい て、シュートの絶対評価基準を設定することが、 必要不可欠であることを示唆している。. すれば、「規準」は「教育内容」であり、「基 礎・基本」は教育内容の本質と捉えることがで き、また、「基準」を設定する上での重要な観 一3一.

(12) 点となる。. 〈」と言い、これを防ごうとする防御者をボー ルを運ぼうとする線上からズレさせる戦術行為 を言う。したがって、シュートは「突くパス」. また、絶対評価基準を設定する場合、何らか の拠り所が必要となる。体育科においては、技 能特性に触れた楽しさを味わわせることが望ま. の極致となる9>。. れている4)9)。. 注4)パスの機能を、①運ぶ、②ズレを創る(横. そこで、本研究では、措定したバスケットボ ールの教育内容と基礎・基本を受け、普遍的な 価値と考えられる「技能的特性に触れているか」. パス)、③突く(縦パス)と捉えるm)。. 注5)保健体育:球技の評価規準の具体例20) 【運動の技能】. 「機能的特性に触れているか」注9)を拠り所と. ①今もっている技能を発揮してゲームを行うこ. し、個人技能、集団技能、ならびに戦術理解二. とができる。. 等について、授業における実態を測定し、文部 科学省の言う「十分満足できる」「概ね満足で. ②チームや自分の能力に適した課題の練習やゲ ームを通して集団的技能を高めることができ. きる」22)のレベルの絶対評価基準を設定するこ. る。. とを第四の目的とした。. ③相手チームに対応した作戦でゲームができ. すなわち、本研究では、まず、第H章におい て、学校教育における評価を文献的に概観し、 変遷・変化の契機を検討し、現在の絶対評価へ 移行された要因や絶対評価規準や基準を設定す. る。. 注6)球技領域における「概ね満足できる」静 岡県評価規準モデル30). 【関心・意欲・態度】:球技の特性に関心をも ち、楽しさや喜びを味わえるように進んで取り. る際の留意点を見い出そうとした。. 次いで、第皿章において、保健体育科の「基 礎・基本」の考え方を明確にし、球技バスケッ. 組もうとする。また、チームにおける自己の役 割を果たし、その責任を果たし、互いに協力し て練習やゲームをしょうとする。 【思考・判断】:チームの課題や自分の能力に 適した課題の解決を目指して、ルールを工夫し たり作戦を立てたりして練習の仕方やゲームの 仕方を工夫することができる。 【運動の技能】:選択した球技種目の特性に応 じた技能を身につけ、作戦を生かした攻防を展. トボールの教育内容の措定を試みた。. さらに、第IV章において、バスケットボール の種々あるシュート技術の中からいずれのシュ ートが基本であるかを明らかにしょうとした。 最後に、第V章において、措定された教育内 容と基礎・基本に基づき、普遍的な価値と考え られる「技能的特性に触れているか」「機能的 特性に触れているか」を拠り所として、文部科 学省の言う「十分満足できる」「概ね満足でき る」の絶対評価基準の設定を試みることを目的. 開してゲームができる。. 【知識・理解】:選択した球技種目の特性や学. び方や技術の構造、合理的な練習の仕方を理解 するとともに、競技や審判の方法を理解し、知. とした。. 識を身につけている。. 注7)球技領域(バスケットボール)における. 注 注1)絶対評価は、到達度評価、認定評価、個. 「概ね満足できる」神奈川県評価規準18). 人内評価等’5>33)、歴史的に様々な意味内容を持. 【運動の技能】. ち合わせてきたが、本研究では、「目標に準拠. ①パス、キャッチ、ドリブル、シュートの動作. した評価」としての「絶対評価」と捉えている。. ができる。. 注2)ミニマムがすべて数値化されることによ って、体力育成重視主義が復活するという懸念 や数値目標に置き換えなくても説明責任は果た せる、また、具体的にすべてミニマムとして提. ②速攻やカットインプレー、ポストプレーの動 作ができる。. ③相手の攻撃に対して、ディフェンスの動作が できる。. 示することは不可能である等の見解1>2D27)32>があ. ④練習やゲームで、チームで立てた攻撃や防御 についての作戦の動作ができる。 注8)浅田2)は、『「評価規準」とは、教育目標. る。. 注3)防御者の後方にボールを運ぶ行為を「突 一4一.

(13) や教育内容であり、「評価基準」は、評価規準 で示された目標をどの程度達成したかという量 的尺度である。あるいは、評価の目標や行動な ど質的な拠り所を示すものが「評価規準」であ. 一,体育科教育学研究,20(1):15−26.. 7)後藤幸弘・北山雅央(2005)各種ボールゲー. ムを貫く戦術(攻撃課題)の系統性の追求一勝 つことの工夫を学習できる一貫カリキュラム構 築に向けて一,日本教科教育学会誌,28(2). り、その評価規準の達成や発達の状況の程度(レ. ベル)を判定するための量的、尺度的な到達度 の拠り所を示すものを「評価基準」とする。』 としており、規準と基準には明確な相違のある. :61−70.. ことを指摘している。. ならびに楽しさの関係,兵庫教育大学研究紀要,. 8)後藤;幸弘・高橋潤(2005)サッカーのリフテ. ィング能力と個人技能、ゲームパフォーマンス. また、橋本mは、「規準と基準は異質であり、. 26:126−137.. 到達度を判定するものは基準である」としてい る。すなわち、基準は、何らかの能力について の量的な望ましさの程度や水準の意味を含んで いるとし、到達度評価の解釈の枠組みを以下の. ゲーム」を中心とするバスケットボールの特性 に触れる学習過程一高学年児童を対象として. ように示している。. 10)後藤幸弘(2007)種目主義を超えた義務教育. クライテリオン1. クライテリオンH. (質的規準). (質的規準). 9)後藤幸弘・古賀秀和・松本靖(2006)「課題. 一,兵庫教育大学研究紀要,28:137−151.. 段階ボールゲーム・カリキュラムの構築一ゲー ム形式と戦術課題ならびに適時期について一,. スタンタ㌧ド. 兵庫教育大学研究紀要,30:193−208.. i量的基準). 11)橋本重治(1981)到達度評価の研究その方法 図1−3 到達度評価解釈の枠組み(橋本,1981). と研究,pp.58−63,図書文化:東京.. 12)林修・後藤幸弘(1997)ボールゲーム学習に. 注9)運動の特性を、運動の欲求や必要を充足 する視点から捉えたものを「機能的特性」と言 うのに対し、運動の技術構造や運動課題解決の ための技術の視点から捉えたものを「技能的特. おける教材配列に関する事例二二三一小学校中 学年期に配当する過渡二相二型ゲームを求めて. 性」と言う29)。. の指導体系,pp.44−57,梓出版社:松戸.. 一,スポーツ教育学研究,17(2):105416.. 13)稲垣安二・石川武(1978)バスケットボール 14)梶田二一(1983)教育評価,pp.153−163,有. 文. 献. 斐閣:東京.. 1)青木哲也(2006)体育の新しい学習内容とし. 15)梶田二一(2002)教育評価,pp.l14−l16,有. てのミニマムースポーツの本質を学ぶ一,体育. 斐閣:東京.. 科教育,54(2):56−57.. 16)梶田叡一(2004)絶対評価〈目標準拠評価〉. 2)浅田匡(2005)教育目標と評価基準を考える,. とは何か,pp。124−127,小学館:東京.. pp.6−15,人間教育研究協議会「教育評価の課題. 17)梶田叡一(2007)教育評価入門一学びと育ち. を問い直す」,金子書房:東京.. の確かめのために一,pp.91−92,協同出版:東. 3)学校体育研究同志会(1988)楽しい体育シリ. 京.. ーズ⑥バスケットボール・ラグハンド,. 18)神奈川県教育委員会(2004)評価資料集■一. pp.12−13,ベースボールマガジン社:東京.. 評価活動の参考資料として一中学校.. 4)後藤幸弘(1988)新学習指導要領と体育科(中. 19)北山雅央・廣瀬武史・藤井隆志・後藤幸弘 (2005)攻防相乱型シュートゲームに立ち上げる 小学校期のゲーム学年配当試案一ゲーム様式と 戦術課題の系統性を基に一,実技教育研究,. 学校)の課題,体育と保健,32:2−7.. 5)後藤幸弘・松本靖(2001)サッカーにおける. 楽しさと戦術行動に関わる能力との関係一児童 の意識とゲーム様相の実態から一,兵庫教育大. 19:1−10.. 学紀要,21:4i−52.. 20)国立教育政策研究所教育課程センター. 6)後藤幸弘(2003)技能の評価と指導の一体化. (2002)評価規準の作成、評価方法の工夫改善の. を目指して一教育内容の明確な授業のために. ための参考資料(中学校)一評価規準、評価方 一5一.

(14) 法等の研究開発(報告)一.. とく一学力保障のための評価論入門一,. 21)三木四郎(2006)体育における「身体能力」. pp.132−133,日本標準:東京.. の考え方,体育科教育,54(2):14−17.. 36)手嶋舜(1985)バスケットボールの教科指導. 22)文部科学省(2001)小学校児童指導要録、中. 一小学校におけるバスケットボール指導一,. 学校生徒指導要録、高等学校生徒指導要録、中 等教育学校生徒指導要録並びに盲学校、聾学校 及び養護学校の小学部児童指導要録、中学部生 徒指導要録及び高等部生徒指導要録の改善等に. pp.87−92,不昧堂出版:東京.. 37)中央教育審議会答申(2005)新しい時代の義 務教育を創造する.. 38)中央教育審議会初等中等教育分科会教育課 程部会(2005)健やかな体を育む教育の在り方に 関する専門部会審議経過概要.. ついて(通知).. 23)文部省(1989)中学校学習指導要領,p.1,. 大蔵省印刷局:東京. 24)文部省(1998)中学校学習指導要領,p.1, 大蔵省印刷局:東京.. 25)文部省(1999)中学校学習指導要領解説保健 体育編,p.79,東山書房:京都.. 26)文部省(1999)中学校学習指導要領解説保健 体育編,p.44,東山書房:京都. 27)本村清人(2007)中教審の議論から体育のカ. リキュラムを構想する,体育科教育,55(3) :14−17.. 28)長井功・後藤幸弘(2002)小学校4年生から. 中学3年生の学習成果からみたバレーボール学 習開始の適時期について,大阪体育学研究, 40:1−15.. 29)佐伯聰夫著(1995)第1部体育授業の基礎理. 論 7.体育授業の学習内容 4.運動領域の 特性と分類,pp.120−122,宇土正彦監修,阪田. 尚彦・高橋健夫・細江文利編「学校体育授業事 典」,大修館書店:東京.. 30)静岡県校長会(2002)静岡県評価規準モデル. 中学校編,p.205,静岡教育出版社:静岡. 31)Stiehle藍G。・KonzagJ.・D6bleLH.(唐木國彦 監訳)(1993)ボールゲーム指導事典,pp.168−175,. 大急雷書店:東京.. 32)高橋健夫(2006)体育のミニマムとは何か一. 「健やかな体を育む教育の在り方に関する専門 部会」における論議を中心に一,体育科教育,54 (2):10−13.. 33)田中耕治(2002)指導要録の改訂と学力問題 一学力評価論の直面する課題一,pp.3−4,三学 出版:大津.. 34)田中耕治(2004)学力と評価の”今”を読み. とく一学力保障のための評価論入門一, pp.78−80,日本標準:東京.. 35)田中耕治(2004)学力と評価の”今”を読み 一6一.

(15) 第皿章 学校教育における評価小史 第1節 目 的. 2.分析手順 教育評価に関する文献から、学制発布から現 在に至るまでの学校教育における評価変遷の契 機を検討し、期に分類した。また、それぞれの. 教育と評価は常に隣り合わせにある。何のた めの評価なのかを教師は自問自答し、教育に当 たってきた。それ故、明治5年に近代公教育が スタートして以来、学校教育における評価の占 める割合は極めて大きいものであった。しかし、. 時代を命名し、移行の要因を分析した。. 教育評価がもつ意義や授業改善への着目という 点では、必ずしも十分な機能を果たしてきたと. 第3節 結果ならびに考察 1.学校教育における評価の変遷 近代公教育がスタートした明治以降の学校教. は言えない。そのため、評価法は時代とともに 変遷を繰り返してきた。. 育における評価の変遷を概観すると図H4の. 歴史的変遷を概観すると、評価は、大きく分 けて絶対評価と相対評価が揺れ動いてきたと見 ることができる。絶対評価は、学習者の達成度 や到達度、そして学力保障という点で長所であ るが、到達基準設定の困難さや基準について共 通理解を得られにくいという点では短所と言え る。一方、相対評価は集団内での相対的位置関 係の把握や選抜、管理という点では長所である が、学力保障という点では短所である。このよ うに両評価法には、一長一短があり、歴史的に. ように8期にまとめることができた。. 18鞭置型繍代 11901亀1915平常点重視の時代. 擁白山の. 鰯. [1916司9萌0評価研究高揚の時代 齊磨 .・. 欄・悩7錬磨誠鱒代. 変化してきたと考えられる。. したがって、どのような歴史的背景の中で評 価方法が生まれたのか、どのように評価方法が 改善されたのかの歴史的変遷を概観することは 意味あることと考えられる。. @ 吼一・. 罵しr 自良鞭噸.…、. 厩一. 一. 勲,搬朔糎. 19⑱・1966選抜。管理目的の時代. 、・’. @∵ヂ;’㌔定避. 多. 賃. !1967・1979二聾渤離 鴬r 囁、鼻. 畠.’冨三. [1嚇勘1聖職堅肥樋の鰍 撫£懸盤顯、毒. そこで、本章では、学制発布以降の学校教育 における評価を文献的に概観し、変遷・変化の 契機を検討し、小史をまとめ、現在の絶対評価. 庫「. 撫. へ移行された要因や絶対評価規準・基準を設定 する際の留意点を纏い出すことを目的とした。. 「基準」が不可欠な時代1. @ ら. 甕_儲開示. 図ll−1 学校教育における評価の時代変遷区分. 第2節 方 法. (1)卒業試験制度の時代(1872∼1900). 近代公教育制度は、明治5年の学制が出発点 であり、試験による評価が大きな割合を占めて いた。当時は、学級制ではなく、年齢が異なる 様々な生徒が同じ学力水準で編成される等級制 が採用されていた。すなわち、試験の合否によ って、進級・落第の制度として、学業試験があ. 1.対象 学校教育における評価と教科保健体育におけ る評価の2つの変遷を対象とした。 また、文献については、1875年から2004年 までに刊行された教育評価研究、ならびに学校 教育評価史’)2)3)4)5)‘)7)9)10)’2)13)翻5)蓋7)34)35)36)37)38)39)に関す. る計13冊、及び文部省内教卑語編纂による「明. った。. 治以降教育制度発達史(1938)」27)認)29)30)と文部省. 長野県では、第8級(卒業試験)試験法の合 否判断の基準は、各教科の成点を定め、減点法 により総合点を出し、その満点の二分の一以上. 総務局調査課による「国民学校並びに幼稚園関 係法令の沿革(1943)31)」を対象とした。 一7一.

(16) が合格とされていた32)注1)。. (2)平常点重視の時代(1901∼1915). 東京師範学校では、「総点100点を秀逸とし、. 50点以上を及第とし、50点に充たざるを落第. 試験制度の廃止により、卒業試験のみの評価 ではなく、日常の授業での評価が行われるよう. とす」と定め、採点を減点法としていた。また、. になった。すなわち、「試験」から「考査」注3). 「作文の評価は、甲・乙・丙・丁の4等に分け、. への転換である。このことで、教師は、普段の 素行を観察・査定し、考査の結果から評語で評 点とするなど、平素の学業を重視する評価に変 化した。その結果、点数による絶対評価は消失 し、具体的な評価方法が確立されないまま、主 観に陥りやすい具体的基準のない評価となっ た。そのため、学力が低下した2)という指摘が. それぞれに20点、15点、10点、5点を配し、 浄書の評価は二二、此々、佳の3等にし、それ ぞれに15点、10点、5点を配した」15)と示さ れている。. このように、学制以降の近代公教育の評価は、. 具体的な点数を基準とした絶対評価であり、そ の裏には落第制度が存在していた。落第者の中 には、不受験によるものと受験による原級留置. なされた。. 換言すれば、学力評価ではない態度・品行中 心の平常点を重視したあまり、学力保障、評価 の客観性という点では、難点があったと言える。 その結果、新しい教育測定や評価方法が研究さ れ、平常点を重視する評価は減退していくこと. があり、40人学級に換算すると4∼7人存在 した37)とされている。また、落第により中退者 を生み出したとも言われている1)。. 教育令(1880>27)の第23条を受け、小学校教 則綱領(1881)28)が定められた。この制定によっ. になったと考えられた。. て、教授すべき内容や各教科の目的が明確にな り、評価する上でもある程度の条件が整えられ. (3)評価研究高揚の時代(1916∼1940). たと考えられる。. この時期には、評価の信頼性、客観性という 点から、いくつかの評価法が開発されていた. また、小学校教則大綱(1891)2’)では、試験の. 目的を教授上の参考、卒業認定上に役立てるこ とに限定した。その背景として、褒賞と競争に より、試験本来の目的ではないという批判や問 題点が指摘されてきたことが伺える。また、大. 注4). B. 表II−1は、東京女高師附属小学校での国語 科の読方の評価観点と目標標準(基準)を示し たものである。. 綱の説明の中で、評価法を点数法から適当な評 語に変えることとしている注2>。すなわち、試. 表ll−1 国語科の読み方の評価観点と目標標準 (評語による基準). 験のもつ競争的機能を実質的に緩和しようとす る主旨の制定であったと読み取ることができ る。. 発音(正、不正、明、不明). すなわち、1800年代は、教科内容を試験し、 点数によって絶対評価していたと考えられる。. 文字(確、不確、多、少) 読方. 基準を設け、絶対評価をしてきたことは、評 価本来の目的を担っていたと考えられるが、試 験結果のみへの関心が集中してしまい、学習者 の主体形成という観点が欠落していたとの批判 もあった。換言すれば、生徒の学力保障のため の絶対評価ではなく、学力を選別するための絶 対評価であったと推察された。 しかし、小学校令施行規則(1900)30)第23条. 朗読(良、可、不可) 読解(明、不明). 話方(明、不明、巧、拙) 応用(適、不適、多、少). 東京女高師附属小学校では、教授細目から、. 各教科の内容をいくつかの評価観点として示 し、その観点における目標標準(基準)を掲げ た11)注5)。. で、平素の成績を考査するべきであることと試 験により心身の発育を害するという理由から、 卒業認定のための試験制度は廃止された。この ことによって、評価は次の時代へと変遷した。. しかし、この目標標準(基準)は、客観性を 高める考査標準として位置づけられたが、逆に 学習到達度を見極める尺度を欠落させる結果と 一8一.

(17) 競争は排除されるという背景がこの時代の評価. なった。すなわち、方向性の強い目標標準(基 準)であったため、その内実や具体は提示され ることはなく、必ずしも学習到達度は評価でき. 観を表している。. すなわち、国民学校では、「良」に基準を置 き、その程度に達すれば全員「良」でもよいと いう、ある意味、絶対評価の本質をもつもので あった。しかし、この絶対評価は、学力を測定 する評価ではなかった。1941年版の学籍簿で は各教科内に科目評語記入欄を配置し、評定は. なかったという問題点を生じさせた。この点は、. 現在の絶対評価が抱える基準の設定とも類似し ている。. 市川10)注6)は、1916年に5段階相対評価を提. 案していた。評定・評語を優・甲・乙・丙・劣 の5段階とし、正常分配曲線に基づき、点法を. 10点法から優・良・可の3段階方式の絶対評 価に変更された3)。. 配当すれば、劣は7点前後で落第、丙は30点 前後、乙は50点前後、甲は70点前後、優は90. このような姿勢を示していた文部省の意向に 反して、正規分布曲線に基づく相対評価を行う. 点前後になるとするものである。 また、丸山(1936)17)は、考査簿に記入して. 国民学校も少数認められた4)注7>。これは、絶対. 評価の「良」基準の設定が困難であったことや 観点の目標が方向性の強いものであり、主観的 評価にならざるを得なかったためであると考え. おく評語に応ずる頻数の割合を表H−2のよう にし、5段階相対評価方式を示した。そして、 3段階に分ける場合には甲が16%、乙が68%、 丙が16%となるようにすればよいとしている。. られる。. すなわち、この時期から、相対評価と絶対評 価の論争が、始まっていたと推察される。 終戦により、国民学校は再び小学校となり、 評価も次の時代へ変遷した。. 表ll−2 5段階相対評価における評語に応ずる 頻数の割合 評 語. 甲. 乙. 丙. 丁. 戊. (5)選抜・管理目的の時代(1948∼1966) 頻 数. 7%. 24%. 38%. 24%. 1948年の学i籍簿(現指導要録)改訂により、. 7%. 正規分布に基づく5段階の相対評価が採用され た。戦後の学習指導要領(試案)’8)に始まり、. すなわち、1900年代の前半に、統計学的に 客観的な相対評価基準の設定方法が定着したと. 数次にわたって改訂されてきている学習指導要. 考えられる。. ではなく、抽象的な方向性を示すものがほとん どであった。現行の学習指導要領26)にも同じこ. 領20)22)2〃)25)では、教育目標や指導内容が具体的. また、教科の成績を全国統一の10点法で評. とが言える。学習指導要領に具体的な到達基準 が示されなかったこと、そして、選抜手段や管 理目的には合理的で簡便な方法としての利点が あることから、指導要録や通知票に5段階相対 評価法が導入されたと考えられる。このことに よって、教師側は、評価の本質的意義を忘れ、 評価することの自覚を失い、必ずしも学習者の 学力を保障することのできない、学習者の序列 を決める相対評価と化してしまったと言える。. 定するように定めた学籍簿(現指導要録)が、. 1938年に公布された。しかし、1941年に国民 学校令が公布され、社会情勢の大きな変化によ り、評価も次の時代へと変遷することとなった。. (4)錬磨育成の時代(1941∼1947). 1941年に国民学校令3Dが公布され、第1条 で、「国民学校ハ皇国ノ道二則リテ初等普通教 育ヲ施シ国民ノ基礎的錬成ヲ成スヲ以テ目的ト ス」と目的が示され、教育勅語の理念を教科、 教育活動へ貫徹することが目指された。 錬磨育成によって基礎を身につけることが必 然的なものとされ、知育偏重を批判していった 国民学校体制であったと言えよう。すなわち、 ファシズム体制下では、個が抑圧され、対立や. 5段階相対評価法の問題点は、梶田(2002)12) ・天野(1993)5)によって、次のようにまとめら れている。. ①集団内での相対的位置関係(順位)は把握で きるが、教師は児童・生徒の様子やどの程度ま で学力を身につけたかの実態を把握しにくい。 一9一.

(18) ②相対評価により、教師は授業評価という観点 で、指導過程の調整や授業研究がおろそかにな り、児童・生徒の学力保障を妨げることにつな. 把握し、いかに指導していくか、そして、到達 目標の達成に終始するといった機械的な活動に 陥ってしまうのではないかといった点である。 さらに、「規準」と「基準」の異質性や明確 性を打ち出さなければならないという問題も生. がる可能性が高い。. ③相対評価は、児童・生徒に何をどれだけ教え なければならないかについての客観的基準を持 ち合わせていない。. ④学力の評価は、一人一人の児童・生徒の到達 すべき基準が明確に設定されていないと成り立 たない。. ⑤5段階相対評価の原則によって、.ある集団で. は「3」と評価されても到達すべき水準に達し ている生徒と、ある集団では到達すべき水準に 達していなくても「4」と評価された生徒とを 比較すれば客観性のある評価とは一概に言えな い。. ⑥相対評価は、子どもの間に競争主義的風潮を 育てるから非教育的であり、相対評価による評 点は、子ども同士の問での相対的学力差を示す だけのものであって、個々の子どもが実際に達 成した学力の中身を全く示してくれないから無 意味である。. 上述したように、相対評価には、様々な問題 点のあることが指摘・批判され、相対評価を見 直していくという風潮が全国各地で1960年初 頭から見られるようになった34)。その結果、生 徒の学力を保障する評価法の研究が進み、次の 時代へ変遷する契機となった。. じた。. 一言で言えば、到達度評価は、量的な尺度と して示されるべきであるが、明確な到達基準が 打ち出されてこなかったことが問題なのであ る。これは、現在における絶対評価基準を設定 する際における課題でもある。 1971年の指導要録改訂時に、「通信簿の記載 は、指導要録の記載をそのまま転用することは 必ずしも適当ではない。通信簿の記載は自由だ が、指導要録記入は相対評価である。」と法的 に明示された。すなわち、到達度型で記入した 通信簿を5段階評価に編成して指導要録の記載 を行うという、二重帳簿に直面せざるを得なか った時代である。到達度評価と相対評価は相反 し、通信簿と指導要録に一貫性のない二重帳簿 を生み出したと言える。. 「規準」と「基準」の異質性を明確に打ち出 さなかったことによる到達目標の曖昧さや通信 簿と指導要録に一貫性のないことが、次の時代 への変遷契機となった。. (7)絶対評価を加味した相対評価の時代(1980 ∼2001). 1980年の指導要録改訂では、初めて観点別 (6)二重帳簿の時代(1967∼1979). 教育目標を到達目標として設定し、その目標 に到達できたかどうかを評価しようとする相対 評価型の通信簿を改善するために、到達度評価 の考えが浮上してきた。この到達度評価は、絶 対評価の考えを含み、客観的な到達目標を基準 に評価するものである。すなわち、到達度評価 は本来、すべての学習者の学力保障を目指し、 学習活動に見通しを与えるために機能しなけれ ばならない35)ものである。また、学習進行に伴 う評価時期によって、診断的評価、形成的評価、. 総括的評価7)として、学習者のつまずきや達成 ・到達を把握しようとするものである。. しかし、通信簿記載方法の改善が展開されて いく中で問題点も明らかになってきた。到達目 標の修正や点検、また未到達生徒のつまずきを. 学習状況が導入され、目標達成を「+」と「一」. で表示し、評定は小学校、中学校ともに5段階 の相対評価にすることが法的に明示された。. また、1991年目指導要録改訂では、評価の 観点を4観点とし、観点別学習状況を「A」 「B」「C」の3段階の絶対評価とし、評定は 小学校では3段階、中学校では5段階の相対評 価にすることが法的に明示された。. すなわち、到達度評価の目標を4つの観点に 整理し、それぞれについて到達度を測ることと した。しかし、観点別を絶対評価とし、評定を 相対評価としている点から、絶対評価を加味し た相対評価となった。このことは、今まで引き ずってきた評価の目的を、相対評価の選抜手段 や管理目的とする考え方から払拭できなかった ことによるものではないかと考えられる。 一10一.

(19) 絶対評価と相対評価の混合により、整合性の. 2.保健体育科における評価の変遷 保健体育科の評価の変遷と特徴を概観すると. ない評価になったことは事実である。到達度評 価の時代からの課題でもあった、客観的な基準. 図n−3のように、10の時代にまとめることが. の欠如が客観性のない単なる観点別絶対評価と. できた。. 化してしまった大きな要因と言えよう。. これらのことから、評定と観点別評価に整合 性が求められ、情報開示にも対応でき、また、. i1872∼1880三儀のなかった時代. 基礎・基本の習得を図り、学力保障もできるよ. 臼881補915点数による評価の時代. うにすること等々が求められたことが、目標に 準拠した絶対評価の時代へ移行した契機と考え. 1り916・》1927自篠標準1:よる評儀の時代. 100点四点5殺二目手伍. 纈. r強・適9鶉』r良・可・不可」. られた。. 11. 襯臓心力柵蝋蒲f融棚軌.. (8)「基準」が不可欠な時代(2002∼) 1941∼195D心身一体を目指した時代. これまでの評価の歴史的経緯から、2000年12. 体籔邦轍」鷹勤. 月の教育課程審議会16)では、目標準拠評価の重. 1195ト槻醐化して二二曜轟謹織霧. 要性、適切性が検討された。また、2002年、 観点別評価だけではなく、評定評価も絶対評価 (目標準拠評価)へと全面転換された’4)。. 目標に準拠した評価への全面転換は、方向目 標から目標準拠への転換だけではなく、学習指 導の在り方や教育の在り方そのものの再検討で もある。. 2002∼. 敦育内容を明硅にすべき時代. また、基礎・基本重視の教育への転換であり、. 教育観そのものの転換として捉え、実践してい かなければならないと考えられる。. 鰍騨嘆 、籟嚇囎化謹. 図ll−3 体育科における評価の時代区分とその 特徴. ドイツでは、原級留置と呼ばれる措置、いわ ゆる落第が義務教育段階でも行われている39)。. (1)評価のなかった時代(1872∼1880). 能力がないのではなく、もう一度学習し、しっ かりと身につけさせ、生徒の学力を保障してい. 明治5年(1872)、学制によって教科「体術」. 低ここまでは身につけさせなければならない教. が示され、スタートした。しかし、実施方法や 内容は明確にされておらず、卒業試験としての 教育評価の時代であったことから推察すると、. 育内容があることによる。. ペーパーテストでの体術についての評価はなか. るのである。すなわち、義務教育段階では、最. 現在、日本の義務教育には、落第制度がない。. ったと思われる。. 到達基準に達していなければ、本来は落第であ る。しかし、教育は、ドイツのように身につい たかどうかを測り、学習者の学力を保障しなけ. 1873年に、教科名が「体術」から「体操」 へと変更されたが、小学校教則綱領公布(1881). まで、体操は加除可能な教科として取り扱われ ていた。また、指導者や施設等の問題で、必ず しも計画的に行われていなかったため、教科と して評価はなされていなかったと考えられる。. ればならない。. このことからも、義務教育段階では、本来、. 教育内容を明確に措定し、その教育内容を基に 絶対評価が本質的になされるべきであり、さら. しかし、小学校教則綱領(1881)により、遊技、. に、その基準を明確にしていくことが必然的で あると考えられる。しかし、原級留置制度を確. 徒手体操、器械体操と教授すべき内容として、. 明確に定められたことが、点数による評価を生 み出した契機と考えられた。. 立できないことが、客観的な絶対評価基準を設 定できない隠れた一つの要因であると推察され る。. 一11.

(20) (2)点数による評価の時代(1881∼1915). 体操科の本質的目的を捉えたものとも言える。. 小学校教則綱領(1881)制定後、1888年には、. しかし、学習態度や姿勢、特性の観点について. 普通体操や兵式体操も内容として規定された。. は、問題点が残された。. 長野県では、「体操科ハ徒手運動、器械運動 其実地二演習セシメテ其熟否ヲ試ムルモノト. 社会情勢の大きな変化を受けて、国民学校令 が公布され、評価は、次の時代へと変遷した。. ス、得点百点」と規定された33)注8)。. このようなことから、他教科の試験と同様に 体操科も点数として評価していたことが伺える が、どのような基準で点数を配し、評語による 評定を行っていたかについては明確ではない。 すなわち、他教科と同様に、評価の客観性が求 められたことが次の時代への変遷の契機となっ たと考えられた。. (5)心身一体を目指した時代(1941∼195①) 国民学校令(1941)が公布され、「体操科」は. 「二二科」と名称を変え、心身一体の修練、精 神の錬磨が目的とされた。戦時下の社会情勢は、 鍛錬主義を重んじ、三一科が重視された。また、. 高等科男子においては、「教練」を主な内容と し、「団体行動や躾」「姿勢」などの習得が目 指された9)。. は「意志」と「動作」であった。児童教育. すなわち、科目は体操(体操・教練・遊技・ 競技・衛生)と武道の2っで、評定は優・良・ 可の3段階評語とされた。しかし、評価観点や. (1921)11)注‘〉に、成績通知票には意志が「強」、. 目標標準(基準)のない、「良」に基準を置き、. 動作が「良」と示されていることから、観点「意. その程度に達すれば全員「良」でもよいという、. 志」は「強・適・弱」、観点「動作」は「良・. 本来の絶対評価の機能を果たしていないもので. 可・不可」などの評語で評価されていたと推察. あったと言える。. (3)目標標準による評価の時代(1916∼1927). 東京女高師附属小学校の体操科の評価の観点. 終戦により、国民学校は小学校となり、次の. される。. しかし、目標標準(基準)は設定されたもの の、方向性の強いものであったため、必ずしも 学習到達度を評価できなかったという問題があ. 時代へと評価も変遷した。. った。体育科の中核となる評価観点が、「意志」. ∼1969). と「動作」で良いのかと、その内容を具体的に 設定する必要が求められたことが契機となり、 次の時代へと変遷したと考えられた。. 戦後の体育科では、様々な運動種目が採用さ れた。したがって、評価観点は増大し、得点や 記録を数値化したり、教師の主観で学習態度を 数値化したりして、評価していた時代である。. (6)記録を数値化して評価した時代(1951. 戦後の学習指導要領(試案)’9)や指導書2’)に. (4)運動能力、調整力を評価した時代(1928 ∼1940). は、評価について、「走・跳・投・懸垂は数値. 昭和の時代に入ると、評価の観点がより詳細 になった。渡邊36)は「学習態度」「姿勢」「徳. 化して習熟度を評価する」「各種スポーツでは、. 性」「機能」の4つの観点を提示している。「機 能」に調整力と運動能力を挙げ、調整力は、行. 進、懸垂、倒立、転回、跳躍、正確投、バスケ ットゴールシュートなどで、運動能力は、走力、. 跳力、投力、懸垂力としている。. 観点を詳細にしたことで、方向目標ではない 評価が可能となったと言える。また、体育科の 中核が運動能力であると考えられ、上記に示し た数値化できる調整力と運動能力を観点にした ことは、主観に流されることなく評価できると いう点では、画期的であったと言える。また、. 重要な要素を抽出し、結果を客観的に示す」の 記載が見られる。さらに、「器械運動では成功 した種目数で評価する」「記録等で測定が困難 な場合は3段階から5段階による評定尺度によ って評価する」等の評価方法も記載されている。 保健体育科は、運動技能を中心とした評価が 主流となり、いわゆる「運動ができる子、上手 な子」が体育の成績が良いとされ、パフォーマ ンスによる評価が大きな割合を示した時代であ ったと言える。しかし、スポーツ種目のパフォ ーマンスのみによって相対評価することの問題 点が批判され、次の時代へと変遷した。 12一.

(21) (7)体力重:視の時代(1970∼1976). オリンピック東京大会(1964)の影響を受け て、昭和43年に改訂された学習指導要領にお いて、従前の「活動力」が「体力」と改められ、. 体力の向上を目指された。指導書23)では、「体. 操領域の中で体力を高め、動きに重点を置いた 形で評価する」「体力診断テストは現状を把握 し、問題点を明確にするため、年に1・2回実 施して総合的に体力を評価する」と記載された。. このような背景には、社会環境の変化に伴う. モータリゼーション化による運動不足や体格の 伸長は見られるものの、それに見合った体力が ついていないこと等の問題が指摘されたことに よる。. 体力については、測定法や評価基準は設定さ れたが、運動技能の動き方やフォームについて の評価は不十分で、評定尺度を利用した客観的 な評価が必要であるとされ、客観的評価の確立 が求められた。. った。また、具体的な評価法は、「関心・意欲 ・態度」を重視するというものであった。指導 要録にはこれらの観点項目が示され、観点別評 価を行うことが法的に明記された。 「関心・意欲・態度」の形成を前提に「思考 を深め」、「判断力を養い」、「技能を身につけ」、. その結果として「知識・理解に至る」という学 力観である。しかし、実際には判断力をはじめ、. 身についていない観点は多く、また、その具体 的内実が示されないままにされたことが、評価 についても妥当性や客観1生について、多くの問 題を残すものとなった。. ところで、技能を向上させることが体育を好 きにさせる基底的要因である8)ことから、体育 科においては、技能を中核的な教育内容として 教えていかなければ、「関心・意欲・態度」は これに向けて育成されないと考えられる。 学習指導要領が法的に根拠をもつようになっ た昭和33年(1958)以降、特に昭和44年(1969) 以降、「体力重視の時代」「楽しさ重視の時代」. 「関心・意欲・態度重視の時代」など、学習指. (8)楽しさ重視の時代(1977∼1990). 昭和52年の学習指導要領改訂において、保 健体育科の目標は、運動に親しむ習慣や楽しさ を味わうといったものになった。すなわち、「学. 校体育校内を出ず」との批判を受けて、生涯ス ポーツへの基盤づくりが、義務教育段階の学校 体育の課題となった。. しかし、楽しさを追求するあまり、運動技能 や体力がおろそかになり、教師側も明確な教育. 導要領の改訂に特徴は見せたが、明確な目標や 到達基準は明示されなかった、といっても過言 ではない。これは、体育科の教育内容や基準に ついて、必ずしも一致した見解が得られてこな かったことによるものと考えられた。しかし、 時代は説明責任を求められるようになり、評価 も目標に準拠した時代へと変遷した。 (10)教育内容を明確にすべき時代(2002∼). 内容を示すことができず、体育の時間が「遊び」. となってしまったとの批判が生じた。. このころから学校独自の到達度評価が行われ ていたが、教育内容が明確でなかったため、何 を以て到達とすればいいか、という基準の設定 について議論が深まることはなかった。 換言すれば、「楽しい体育」がもつ功罪両面 の課題は、今日も受け継がれ、楽しさのメカニ ズムを含め、楽しさをどのように考えるのか、 またそれをどのように評価するのかという課題 である。. すべての教科において、相対評価が見直され るべきものとして今日を迎えた。絶対評価に移 行されながらも保健体育科の絶対評価基準の設 定はままならないのが現状である。絶対評価の 意義をおさえ、教育内容を明確にした絶対評価. 基準の設定が望まれている時代であると言え る。. 以上の結果、「卒業試験制度の時代(1872∼ 1900)」の学力を選別するための絶対評価は、 生徒の学力を保障できない評価として問題が残. (9)関心・意欲・態度重視の時代(1991∼ 2001). 平成元年の学習指導要領改訂、平成3年の指 導要録改訂のキーワードは、「新学旧観」であ. された。. 「評価研究高揚の時代(1916∼1940)」の目 標標準による評価は、観点別評価の前身である が、方向的目標でしか設定されず、学習到達二 一13一.

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