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なぜプロセスが重要なのか? : 造形活動と資質・能力の発揮

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(1)Title. なぜプロセスが重要なのか? : 造形活動と資質・能力の発揮. Author(s). 阿部, 宏行. Citation. 北海道教育大学紀要. 教育科学編, 67(2): 193-202. Issue Date. 2017-02. URL. http://s-ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/123456789/8188. Rights. Hokkaido University of Education.

(2) 北海道教育大学紀要(教育科学編)第67巻 第₂号 Journal of Hokkaido University of Education(Education)Vol. 67, No.2. 平 成 29 年 ₂ 月 February, 2017. なぜプロセスが重要なのか? 造形活動と資質・能力の発揮. 阿 部 宏 行 北海道教育大学岩見沢校美術教育研究室. Why is the process important? Formative art activities and demonstrating talents and abilities. ABE Hiroyuki Department of Art Education, Iwamizawa Campus, Hokkaido University of Education. 概 要 図画工作の指導と評価においては,評価対象を結果としての作品から,活動中の子どもの姿 を見取ろうとしている。子どもの資質・能力の育成が謳われ,子どもの活動の現れから何を見 取るのか,その具体と重要性を造形活動で獲得される「知識」を基に造形活動で育まれる資質・ 能力の育成について論述する。. 1 はじめに 子どもは,感性や想像力を働かせて,他者と協. 踏まえたものである。しかし,学校教育の図画工 作などの指導においては,「教授」を中心とする 指導が色濃く残る手続きの多い指導も見られる。. 働しながら,創造することの楽しさを感じるとと もに思考・判断し表現するなどの造形的な創造活 動の基礎的な能力を育み,情操を養っている。. 2 研究方法. 人間が生まれながらに備えている諸能力を生活. ここでは図画工作などの子どもの造形活動の作. する環境の中で,対象に働きかけたり,その対象. 品から,子どもの資質・能力の発揮を評価するの. からの働きかけに,自らの資質・能力を発揮した. ではなく,造形活動のプロセスで起こる行動から. りして,問題を解決しながら,さらに能力を更新. 読み解くことを研究対象としている。具体的には,. して,自らの新たな資質・能力としているのであ. 造形活動を記録した動画から,場面を抽出し,そ. る。. の行動の意味するところを検証するものである。. これらの学力観は, 「社会構成主義」の考えを. 事例1は,幼稚園児(3歳)の絵をかく表現場. 193.

(3) 阿 部 宏 行. 面から,事例2は小学校1年生(6歳)の造形遊. の能力を働かせて,その対象の中から自分の表現. びの場面から抽出している。. に生かそうとして,選択・判断しているのである。. 抽出の観点にあたっては国立教育政策研究セン. 時間と空間を共有するプロセスまでもが鑑賞の対. ターの評価規準を基に,平成30年に全面実施され. 象となっている。. る新学習指導要領の骨格をなす,育成する学力の. その中で概念や知識を獲得し,新たな能力とし. 「3つの柱」 (知識・技能,思考・判断・表現力等,. て蓄えられているのである。. 学びに向かう力・人間性等)を踏まえた評価規準 を先行的に検証した。. 【活動記録】 午前10時19分から撮影開始する。3歳児の教室. 3 記録と考察. には,多くの子どもたちは,園庭での外遊びに出. ⑴ なぜプロセスか? 子どもの造形活動をみとる場合「作品」ではな く 「プロセス」 に重点を置くのはどうしてだろう。 それは,作品からの読み取り・見取り以上に,子 どもの造形的な資質能力を見取ることができるか らに他ならない。 A 事例1 札幌市立きくすいもとまち幼稚園 平成28年7月6日(水). ①撮影13秒 3歳児のA児(左)・B児(右) が絵をかいている。A児の口は出来 上がっているようにみえる。. 午前10時19分記録開始 年少組(3歳児 A児・B児) 【活動の概要】 3歳の幼児2名(A児左・B児右)が,自由に 絵をかいている。 幼児のA児(左)は,向かい合うB児(右)と, 絵かきに夢中になっている。 A児は向かいに位置するB児の絵を視線の先に 据える。その視線は,B児の絵の口元に固定され. ②撮影53秒 A児:視線の先にあるB児の開い ている口の舌を確認する。. る。できあがったように見えた絵の口(くち)を かき変えるという行動にでる。まず,自分の口の 舌を出して触るのである。その後,黒のクレヨン を選び,線をかき足して開いた口をかいたのであ る。また,茶色のクレヨンを選びなおし,口の中 を茶色で塗り出したのである。明らかに,B児の かいている口の舌を捉えて,自分の口の表現を変 えたのである。 友だちの絵は,鑑賞の対象として存在し,鑑賞. 194. ③撮影57秒 A児:自分の舌を指さして触り, 口には舌のあることをB児に伝える。.

(4) なぜプロセスが重要なのか?. ④撮影65秒 A児:黒のクレヨンに持ち替えて 口の形を変化させる。. B児の作品 ★撮影記録:15分16秒 . 【考察】 ⑴ 表現行為と鑑賞行為 これら幼児の表現活動は「かき,かきかえ,か く」という一連の活動を連続させながら,互いに, ものやことの認識や概念を深めつつ,新たな表現 方法や技法を学び,表現する喜びを味わっていた。 表現する時間を共有することは,互いが鑑賞の ⑤撮影75秒 B児:A児が茶色で舌を塗り込ん でいるところを見る。. 対象となることであり,表現方法やイメージも共 有することになる。自分の表現も,友だちの表現 も,良質な鑑賞対象といえる。. たので数名の幼児と教師がいるだけである。既に,. この前提にあるのは,「自発」を保障する幼児. お絵かきが始まっていた状態から撮影を開始し. 教育の基本である「遊びを通して」という教育理. た。ビデオカメラは筆者が手持ちで行った。. 念がある。子どもが自分で,自発的に遊び(活動). この一連の活動には言語活動も伴って行われて. を選択し,自らの判断で学びを共有していること. いる。うなずきやつぶやきなども含めると実に多. が重要なのである。. 彩な表現活動が営まれている。. 自発的な活動が保障されることで,子どもの造. 活動のあとA児の絵には,ピンクのハートがか. 形的な活動は自主的になり,さらに表現を含めて,. かれ,同じようにB児には,サクランボと言いな. 自らを高める「主体」が育つのである。「主体性」. がらサクランボがかかれた。二人の作品は,互い. は,環境の中で,対象に働きかけ,働きを受けて,. に影響し合って完成を迎えた。. 状況に応じて諸能力を発揮して育成されるのであ る。友だち同士で絵をかくことは,大人の言う「遊 んでいるのではなく,学んでいる」のである。子 ども(幼児)にとって,遊びと学びは同意義であ る。 ⑵ 鑑賞行為の対象 巷にあふれる独立して行われている大人の芸術 作品を鑑賞対象とする「鑑賞の学習」が,子ども の鑑賞の学習から,乖離するのは,鑑賞対象を自. A児の作品. ら選び・判断する立場にないことである。. 195.

(5) 阿 部 宏 行. 鑑賞の能力は,表現の活動の中で発揮されるこ. 多くは「感じる」ことを大切にしている。. とを重要視しなければならないのである。. 感覚の陶冶は,「気付き」だけで育成されるも. 学習指導要領上でも「効果が望める場合に,独. のではない。体性感覚の全てが連動して感じ取る. 立して行うこともできる」としている。これは絵. ことに大きな意味を持つのが美術であり,芸術で. に対する規準が 「内」にある子どもと,自身の「外」. あるといえる。気配など目に見えぬものまで,感. に規準のある大人との違いを考慮する必要があ. 覚の陶冶の範疇なのである。. 1) る。. 感じて,気付くことから,感情が動き,想像力. 国内外の美術文化理解などは,成長ともに自身. が働き,表現として発現するのが芸術であるが,. の「内」にある規準から「外」が形成される大人. 疑問や検証といった思考の世界へ誘われるのが認. にとって,効果があがるといえる。この場合の大. 知や認識を重要視する科学的で,論理的な教科で. 人とは,宮坂元裕のいう「美術教育」であり,小. ある。. 学校は「造形教育」と「美術教育」のどちらも存 2) 在する「図画工作」なのである。. 10歳前後から始まる「美術教育」では,「外」. 4 図画工作における資質・能力. にある美術文化の存在をスタートさせることは有. ⑴ 造形活動における「知識」. 益であるといえる。美術作品の文化価値を鑑賞す. 生きる知識である。技能を伴ってはじめて実感. るには,主観的な見方だけではなく,自分から離. のある知識となり身体化され暗黙知となる。. れたところにある「価値」を見出すことができる 発達的な観点の育ちが必要だからである。学年齢. B 事例2 「こすり出し」の実践から. でいうと小学生5・6年生から段階的に,独立し. 沖縄県琉球大学附属小学校1年生. た鑑賞の学習を行うことができるといえる。. 平成28年6月28日(火). 鑑賞の学習も,また,表現や鑑賞する能力の発. 指導者 河辺 志保教諭. 達を見定めて行う必要がある。また,子どもの絵. 図工室 . を並べて,見合う・競い合うなどでも,子どもの. 記録写真:当日筆者,事前事後は担当教員. 絵(作品)を芸術性等の大人の論理で行ってはい 3) けない根拠になる。. 【活動の概要】. 子どもの鑑賞は,子ども自身が決めるという自. 1年生のクレヨンを使ったこすり出しをする造. 主的な活動のもとに,子ども自身を取り巻く環境. 形遊びの実践である。あらかじめ細長いポリエチ. すべてが対象になり得る。日々生活する環境にお. レンのカサ袋と通常の形状のポリエチレンを用意. いて,情報は無尽蔵である。その中から,子ども. し,子どもたちに校舎内で色々な場所でこすり出. 自身が,選び,判断するのである。一方的な情報. すことを提案して前時の授業を終えている。本時. がそのまま受け入れられるのではない。自身の判. では,色々な場所でこすり出した袋を抱えて準備. 断で,取捨選択するという自発的で主体的な行為. して待っている。教師は,こすり出した袋を使っ. のもとに行われることに大きな意味があるのであ. て何ができるかを提案した。活動開始となり,さ. る。. らにこすり出したり,袋を並べたりして,道をつ くり出す子どもがいる。一つの道に他の友だちも. ⑶ 「気付く」と「感じる」. つなげはじめ見る見るうちに,道は広がり長く. 小学校の生活科は「気付く」ことを重要視して. なっていった。さらにつなげようとしたとき,こ. いる。気付くことは,認識や認知に向かうスター. すり出した袋が底をついた。そこで新たな袋をも. トといえるからである。しかし,美術(芸術)の. らって,道にしようとしたとき,ある子どもが「そ. 196.

(6) なぜプロセスが重要なのか?. こでこするといいよ。」と,場所を指さし,友だ ちにアドバイスした。こすり出そうとした子ども はうれしそうな表情で応えた。ここでは,前時で 行ったこすり出しの経験が,「知識」として,身 体に埋め込まれ,その知識が,あらたな課題に対 して生きて働いている。自分の「知識」を友だち にも広げ,その友だちにも「知識」が伝わった瞬 間でもあった。楽しい活動の中で「うれしい」と. イ 袋をつなげ,長い道をつくろうとするC児. いう実感が得られることが重要な意味をもつ。 C児は,前時で校内の色々な場所で,こすり出 ⑵ 「知識」が生きることの意味. しをして,場所による固有の模様ができることを. ① 前時の子どもの思い. 理解している。そこに,G児が仲間に加わりたい. 薄い紙やポリ袋にクレヨンでこすると,それぞ. ことと,活動に必要なこすり出す模様と場所をた. れの凸凹に応じた模様を写しだすことができるこ. ずねてきた。. とを理解している。凹凸に応じた模様の違いから, 活動の終わりには,予想した模様と実際の活動か ら得られる模様に一致が見られる。. ウ 友だちの参加に拍手で応えるC児. C児は,仲間に加わることを歓迎し,拍手する とともに,こすり出す場所を考えた。しばらく考 ア 校舎内にある凸凹にクレヨンでこする児童. え,「まっすぐなところ」(平らなところ)とつぶ やきながら,前面にあるコーナーを示した。G児. ② 本時の子どもの思い. は,そのコーナーに行きこすり出しを始めた。. 前時までにこすり出したポリエチレンの袋が手 元に複数枚ある。また,こすり出した経験が「知 識」として蓄えられている。教師からの提案で並 べたりつないだりして楽しい活動ができるとも に,こすり出した模様を使って自分の思いを表す ことができる。 (知識の活用) 【C児の活動から】 ここではC児の造形活動を基に,子どもにとっ て「知識」が生きる意味をとらえ,資質・能力の. エ まっすぐなところとつぶやき指さすC児. 育成の観点で検証する。. 197.

(7) 阿 部 宏 行. 経験したことが身体化され「知識」として体得. 出すときに,H児がガムテープの側面で円形をつ. された。体得された「知識」は,創造的な活動に. くりだしていることから,同様の方法で試みて,. よって,新たな問題の解決に生かされた。身の回. 自転車に乗った自分を完成させた。授業の後半に,. りにあるものを活用して,新しいものをつくりだ. 交流の場が設定され,D児の自転車が紹介された。. すことができるという喜びを友だちと共有すると. 振り返りの交流場面で,D児はガムテープを自. ともに,新たな能力として身体化され記憶された. 転車の車輪に見立てたことや,こすり出しの新し. 4) 。このことから,体験から得られた「知 (暗黙知). い方法についてほめられた。同時にこれは,友だ. 識」は,暗黙知および身体知として理解され資質. ちH児から教わった方法であったので,H児の「ぼ. となる。さらに新たな課題に遭遇したり,求めら. くが教えたんだよ。」の声に,拍手して友だちと. れたりすると, 「知識」が立ち上がり,問題を解. 喜びを分かち合っている。. 決しようとする。その場合,理解する能力ととも. 宮坂元裕は,造形活動による「知識」について. に,技能も一緒に発揮され,資質として蓄積され. 「自分が体験することによって獲得した知識であ. ることがほとんどである。. り,なおかつ,いつでも実践において取り出して,. 子どもの造形活動において,唯一無二は「プロ. 使えるよう整理されているもののことを言うので. セス」を友だちと共有していることである。子ど. ある。まさに『知っているだけではなくできるよ. もにとって,単に「作品」に止まっているのでは. うになる』知識でなくてはならない。『知ってい. なく,できあがるまでの時間もともに共有し「作. るけれどできない』という知識は図画工作ではほ. 品」に埋め込まれていくのである。造形活動を通. 5) として,活動場面で, とんど意味をなさない。」. して,喜びなどの感情が交差し,互いの思いが共. 知識は使われることに意味があることを論じてい. 有された作品としてできあがるのである。. る。 D児は,友だちから得られた情報を自分なりに. ⑶ 協働で学ぶ意味. 取り入れ技能とともに,知識も拡充させている。. 【D児の活動から】 D児は,前時のこすり出しの時に,細長い傘袋 をこすり出しながら, 「こいのぼり」をイメージ して,2つの「こいのぼり」と,緑色でこいのぼ りを付けるポールをつくった。本時は,教師から 提案のあと,すぐに乾燥棚の側面を利用して,こ いのぼりがそよぐ場面を絵のように構成した。 そのこいのぼりの下の開いた空間に,自転車に 乗る自分の姿を加えようとした。自転車をこすり. カ H児に向かって拍手するD児. 「技能」は自身の一代限りのものであるが,技 術や技法は共有できる。互いに技術や技法を活動 の中で交流し,体験を通して自らの技能として高 めている。D児の場合,友だちが行っていた表現 に関する方法や技法も「知識」として獲得され, 本時の中で,自らこすり出して,色々な表現をす ることができることを「知識」として蓄積し,技 オ こいのぼりと自転車の前で説明するD児. 198. 能も知識同様に,活動のプロセスの中で養われ高.

(8) なぜプロセスが重要なのか?. められることになる。. 感性的な理解に基づいて得られたものが「知識」 であり,感じ取ったり,味わったりしながら獲得. ⑷ 「感じ取る」知識と共有する知識. することとしている。 「わかる」ではなく「感じる」. C児の活動は,前時で得られた「知識」が,本. ということになる。だから他教科のように「何が. 時の活動に生きて使われたことを意味する。そこ. わかったか」と結果を問うのでもなく,まずは,. には身体知ともいえる手や体全体の感触もある。. 感じ取ること,そのこと自体が重要なのである。. 単なる「知っている」という段階ではない。知り. その上で「わかる」のである。だから,実感が伴. 得たことが,次の場面で生かされ,使うことがで. うのである。. きたことは,重要な意味を持つのである。また,. これらは体験を通して身に付いたことを,振り. D児についても,友だちとのかかわりの中で生ま. 返ることで「なんかいい」など, 「知識」や「技能」. れた「知識」の共有は,技能(こすり出す)とい. を感覚的にとらえることができる。しかし,端的. う体験を通して,自らの新たな「知識」となった. に言葉で表わされるものではない「暗黙知」なの. のである。. である。 ⑵ 「鑑賞の領域」と「鑑賞の活動」 「鑑賞の能力」 昭和52年の小学校の学習指導要領の図画工作に おいて, 「絵画,彫塑,デザイン,工作及び鑑賞」 の5領域は「表現」と「鑑賞」の2領域となった。 そして,鑑賞に関する取扱いについては「小学校 段階では表現学習を中心とし,鑑賞学習は表現学 習に付随して行うことを原則としている。」とし 7) た。. キ 次時のD児の活動. このことから,表現と鑑賞は不離一体,表裏の 関係にあるが,表現の喜びを味わわせることを重. 5 知識と資質・能力. 視した教科の目標であることや,児童の造形活動 の実態から,表現活動の時間の中で,鑑賞学習を. ⑴ 「鑑賞の能力」と「知識・理解」. 位置付けることが効果的である。そのため表現内. 平成5年の文部省から出された「新しい学力観」. 容を踏まえ,題材や課題に応じて鑑賞の指導を行. の知識と鑑賞の能力の関係について,当時の西野. うことが重要であるとしている。「原則として」. 範夫(初等中等教育局視学官)は次のように記述. としたのは,展覧会などの機会に作品鑑賞するこ. している。 「他の多くの教科は「知識・理解」となっ. とも考えられることから,独立して鑑賞のみの学. ていますが,図画工作では,「鑑賞の能力」をあ. 習を必要に応じて行えるようにしたものである。. げています。鑑賞の活動は,作品などのよさや美. 表現に付随して行う鑑賞指導の留意点では,鑑. しさなどを自分の感覚や感情をはたらかせ,感じ. 賞に充てる時数は特に示していないが題材に応じ. とったり, 味わったりすることを楽しむものです。. て適宜行うこと,また,導入時の鑑賞は,主とし. このような活動の在り方は,表現の活動において. て表現意図や様式について行い,展開時には,主. も展開され,表現と鑑賞の創造活動を支える資質. として表現技法を鑑賞し,終末時には,鑑賞を通. や能力です。これは,感性的な理解が中心となる. して作品の見方,鑑賞態度を育てることを明示し. ので,ここに位置付けられたものです。」(下線 . ている。. 6). 筆者). これらはあくまで「領域」の関係を示したもの. 199.

(9) 阿 部 宏 行. であり,表現する中で,子どもの「鑑賞」が行わ. 放任の指導は,新たな知識の積み上げも,更新. れ,その「鑑賞の活動」に働く能力を「鑑賞の能. も易きに流れて行われず身に付かない。子どもが. 力」としたのである。鑑賞する時間を授業で設け. 主体的に活動から,新たな知識や技能を獲得して. なければ「鑑賞の能力」は働かないということも. いる実感を伴う汎用性のある「生きる知識」(概. ないし, 大人の美術作品を鑑賞対象としていない。. 念的知識)を重要視した授業づくりが必要となる。. 「鑑賞の能力」は感性を働かせて「感じ取る」 ことであって,それは同時に感性的な働きによっ. ⑴ 「知識・理解」を鑑賞の能力とした問題. て「知識・理解」を包括している主体的な行為な. 前述の平成5年の「新しい学力観」においては,. のである。 「 「知識・理解」は,子供たち自ら,主. 「知識・理解」を「鑑賞の能力」とし「鑑賞の活. 8). 体的な活動を通して獲得するものです。」. 動は,作品などのよさや美しさなどを自分の感覚. 創造的な造形活動において「知識・理解」は,. や感情をはたらかせ,感じとったり,味わったり. 人間, 自然, 社会,文化などのことがらを単に「知っ. することを楽しむものです。このような活動の在. ている」というような従来陥りがちなこととは異. り方は,表現の活動においても展開され,表現と. なる。新しい学力観において目指しているのは,. 11) (下 鑑賞の創造活動を支える資質や能力です。」. 子どもたちが自分の思いなどを実現しようとして. 線筆者)と記述している。. 主体的な学習活動を通して,自ら獲得するもので. 当時は「鑑賞の能力」を「知識・理解」に置き. あり,自己実現に活かすことができる思考や表現. 換えることは,子どもの主体的な活動を「知識・. などの体系に組み込まれたものとして「知識・理. 理解」を先行させ「教える」授業を流布させるこ. 解」を位置付けている。すなわち,主体的に,考. とを危惧したともいえる。しかし,この設定から. えたり,判断したり,創造的に表現したり,行動. 20年以上を経て,図画工作で,子どもにとっての. したりすることを支えるものである。それは決し. 「知識」は「感じること」にとどまって「何が生. て,教え込まれるようなものではない。したがっ. きて働く知識なのか」を顕在化させないままに. て,その指導方法などの転換が強く求められ,新. なっている現状があるといえる。. しい知識などを獲得する資質や能力とともに,そ れを獲得できるようにする支援が必要になる。. ⑵ 身体化される知識 ① 芸術における「知識」の浮上. 6 「知識」と資質・能力. 平成28年5月の中央教育審議会の芸術ワーキン ググループのとりまとめにおいて,芸術系教科・. 新しい学力観の教育において目指しているの. 科目における「知識」について,一人一人が感性. は,子どもたちが自分の思いなどを生かした主体. などを働かせて様々なことを感じ取りながら考. 的な学習活動を通して, 「新しい知識などを獲得. え,自分なりに理解し,表現したり鑑賞したりす. する資質や能力とともにそれを獲得するようにす. る喜びにつながっていくものである。また体を動. 9). る必要があります。」 としている。. かす活動なども含むような学習過程を通じて,知. ここでは,どのようなものを「知識」とするか. 識が個別の感じ方や考え方等に応じて構造化され. については論じていない。. ることや,さらに新たな学習過程を経験すること. 「図画工作は子供の過去の経験と試行錯誤だけ. を通じて再構築され,知識が更新されていくこと. に頼ると放任になり,一部の子供だけのものにと. が重要としている。なお,いわゆる「概念的な知. どまってしまう。したがって,他の教科にはない. 識」の習得が一般概念の習得にとどまるものでは. 指導法が必要となる。それは,知識の獲得方法で. ないことに留意する必要があるとしている。. 10). ある。 」. 200. このことを踏まえて,「知識」に関しては,発.

(10) なぜプロセスが重要なのか?. 達の段階に応じて整理していく必要があるとし,. いう受動的な面だけではなく,感じ取って自己を. 「①〔共通事項〕を学習の支えとして,諸要素(音. 形成していくこと,新しい意味や価値を創造して. 楽を形づくっている要素,形や色,書を構成する. いくことなども含めて「感性」の働きなのである。. 要素など)の働きについて実感を伴いながら理解. また,「感性」は知性と一体化して創造性の根幹. し,表現や鑑賞などに生かすことができるように. をなすものである。. すること」 「②芸術に関する歴史や文化的意義を,. 芸術系教科・科目は,感性を育みながら,子ど. 表現や鑑賞の活動を通して,自己との関わりの中. もたちの創造性も一緒に育んでいるのである。. 12). で理解すること」 としている。. このように今後進む学習指導要領の策定の基本. これらの「知識」の内容は, 「思考力・判断力・. にも据えられている「感性」を働かせて新たな意. 表現力等」を育成する過程で育まれたり,思考・. 味や価値を創造する造形活動は,「知っているこ. 判断・表現する際に活用されたりすることが重要. と」として,潜在化されている「暗黙知」を顕在. であるが,「知識」においてはその内容の理解の. 化させ,意識して行動することや,成長を確かめ. 質に主眼があり,「思考力・判断力・表現力等」. るメタ認知の役割にも言及しつつ共有化できるも. においては,それらを活用した表現意図や構想,. のにしなければならない。. 鑑賞の質に主眼がある。(下線筆者) 芸術分野における「知識」は,一人一人が感性. ③ 子どもの活動を評価する. を働かせて様々なことを感じ取りながら考え,自. これまでに,子どもの造形活動にどのような意. 分なりに理解し,表現したり鑑賞したりする喜び. 味があるのかを「知識」という観点から論じてき. につながっていくものであることが重要であると. た。. している。. 本来,子どもの造形活動の見取りは,子どもの. 身体を動かす活動なども含むような学習過程を. 姿を評価するという立場で,新しい学力観のもと. 通じて,知識が一人一人の個別の感じ方や考え方. 「造形への関心・意欲・態度」 「発想や構想の能力」. 等に応じて構造化・身体化されることや,さらに. 「創造的な技能」「鑑賞の能力」の4つの観点別. 新たな学習過程を経験することを通じて再構築さ. 評価で行ってきた。. れ,知識が更新される授業づくりが重要である。. しかし,従来から作品の出来栄えを評価するこ とに慣れ親しんだ評価観から,子どもの姿を評価. ② 感性を働かせて獲得する「知識」. することへの根強い不安感がある。相対評価など. 前述の芸術ワーキングのとりまとめで,芸術系. 比べることで見える,作品の構図やできばえ・丁. 教科・科目の「見方・考え方」の特徴は,知性と. 寧さなど,固定的で共通の評価基準を求める教師. 感性の両方を働かせて対象を捉えることである。. の意識から生まれている。子ども観を変換するこ. 知性だけでは捉えられないことを,身体を通して,. とから「評価観」を変えることである。評価観が. 知性と感性を融合させながら捉えていくことが,. 変わると「授業観」が変わり,「指導観」も変わ. 他教科等以上に芸術系教科・科目が担っている学. るのである。教授者としての教師ではなく,子ど. びであるとしている。また,個別性の重視による. もの成長を支援する「支援者」としての立場が強. 多様性の包容,多様な価値を認める柔軟な発想や. く求められているといえる。. 他者との協働,自己表現とともに自己を形成して いくこと,自分の感情のメタ認知なども含まれて おり,そこにも,芸術系教科・科目を学ぶ意義や. 7 おわりに. 必要性があるのである。. これまで子どもの造形活動のプロセスにみる資. また,特に重要な「感性」の働きは,感じると. 質・能力の発揮について事例を挙げながら論じて. 201.

(11) 阿 部 宏 行. きた。. p39. その中で「自分がほめられることは,かかわっ. ■暗黙知(マイケル・ポランニーの暗黙知). た友人もほめられること」 「子ども同士の学びに は喜びが伴う」 「自分たちで見つけた知識は共有 され,波及効果や汎用性があること」 「うれしい と感じる瞬間が授業に保障されていること」など, 「知識」からのアプローチでは,解決しきれない 課題も提示された。 また,ここでいう「知識」と「情報」との関係 は,蓄えられた「知識」は,発信することで,受 け手には「情報」となり,蓄えられることで,受. ⑴ われわれは自分たちのはっきり言えることの多く のことを知りうるし,事実知っている。 ⑵ このような知識はわれわれの個人的な裏づけを もっている。 ⑶ われわれの認識の枠組みの実在性と性格は焦点的 にも捉えられず,われわれの行動のうちに副次的に あらわれるだけである。 (下線筆者) 5)宮坂元裕『 「図画工作」という考え方』黎明社,2016, p134 6)文部省『小学校図画工作指導資料 新しい学力観に 立 つ 図 画 工 作 の 学 習 指 導 の 創 造 』 日 本 文 教 出 版, 1993,p200. け手の「知識」になるという一般的な概念を根拠. 7)文部省『小学校指導書 図画工作編』1978,p102. としているが精査が必要である。. 8)文部省『小学校図画工作指導資料 新しい学力観に. さらに,プロセスの重要性を論じることは,そ のプロセスで起こっていることを評価することと 不可分である。今後は「子どもの活動の姿を評価 する」ことの意味や方法なども含めて研究を進め ることが浮き彫りになった。 中村雄二郎は,M・ポランニーの言葉として. 立つ図画工作の学習指導の創造』日本文教出版,1993, p197 9)同,p200 10)宮坂元裕『 「図画工作」という考え方』黎明社,2016, p134 11)文部省『小学校図画工作指導資料 新しい学力観に 立つ図画工作の学習指導の創造』日本文教出版,1993, p197. 「 《生きているものの能力についてわれわれが観. 12)文部科学省中央教育審議会『小・中・高を通じ,図. 察することは,同種の能力への依拠と相呼応しな. 画工作科,美術科,芸術科(美術,工芸)において,. ければならない。》つまり,対象のもつ能力に応. 育成すべき資質・能力の整理(検討のたたき台) 【中教. じた能力によるのでなければ,立ち入った観察や 13) (下線筆者) 認識は不可能だというのである。 」. と説明している。子どもの活動の評価において, 何より 「子ども理解」が最優先されることである。 その上で,子どもの能力を見極める教師の資質・ 能力が問われている。 巷でいう「パフォーマンス課題・パフォーマン ス評価」「評価規準とルーブリック(質的な採点 指針) 」なども,評価の裏付けとして研究を進め ていきたい。. 註および参考文献 1)宮坂元裕『「造形教育」という考え方』日本文教出版, 2006 2)宮坂元裕『「図画工作」という考え方』黎明社,2016 3)鬼丸吉弘『児童画のロゴス 身体性と視覚』勁草社, 1981 4)中村雄二郎『臨床の知とは何か』岩波新書,1992,. 202. 審 芸術ワーキングのとりまとめ】 』平成28年5月26日 付け 13)中村雄二郎「臨床の知とは何か」岩波新書,1992, p42. (岩見沢校教授).

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自分ではおかしいと思って も、「自分の体は汚れてい るのではないか」「ひどい ことを周りの人にしたので

これも、行政にしかできないようなことではあるかと思うのですが、公共インフラに