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ヴィジュアル・リテラシーの授業開発(Ⅵ) -見学事前指導への活用-

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(1)Title. ヴィジュアル・リテラシーの授業開発(Ⅵ) −見学事前指導への活用 −. Author(s). 鹿内, 信善; 尾関, 俊浩; 安達, 聖. Citation. 北海道教育大学紀要. 教育科学編, 60(2): 125-140. Issue Date. 2010-02. URL. http://s-ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/123456789/1108. Rights. Hokkaido University of Education.

(2) 北海道教育大学紀要(教育科学編)第60巻 第2号 JournalofHokkaidoUniversityofEducation(Education)Vol.60,No.2. 平成22年2 月 February,2010. ヴィジュアル・リテラシーの授業開発(Ⅵ) 一見学事前指導への活用−. 鹿内 信幸・尾関 俊浩*・安達 聖**. 北海道教育大学札幌枚教育心理学研究室 *北海道教育大学札幌枚物理学研究室 **筑波大学大学院数理物質科学研究科. DevelopmentoftheClassofVisualLiteracy(Ⅵ) SHIKANAINobuyoshi,*ozEKIToshihiro,and**ADACHISatoru DepartmentofEducationalPsychology,SapporoCampus,HokkaidoUniversityofEducation. *DepartmentofPhysics,SapporoCampus,HokkaidoUniversityofEducation *当nstituteofAppliedPhysics,UniversityofTsukuba. 概 要 筆者らは,ヴィジュアル・リテラシー. を育成するための教材開発・授業開発研究を進めてきた。またヴィ. ジュアルテキストの読解活動を取り入れた大学授業改善研究も行ってきた。今回はこの2つの研究を融合さ せた,本学の「有志組織が自主的に行うFD活動」に位置づけられる実践研究を報告していく。. Ⅰ.問 題 研究の位置づけ. 鹿内他(2007,200ぬ,2008b,2009a,2009b). 鹿内他の,これまでの大学授業改善研究は,札 幌大学・道都大学等の教員と共同で行ってきた。. また改善対象とした授業も他大学の授業であっ た。今回は,これまでの研究成果を反映させつつ,. は,大学間共同による授業改善研究を重ねてきた。. 北海道教育大学の学内教員共同による授業改善研. これらの研究で,一貫して見出されていることが. 究を行う。本研究は,本学の「有志組織が自主的. ある。それは,ヴィジュアルテキスト読解活動の. に行うFD活動」に位置づけられる実践報告論文. 導入が大学授業を改善する有効な方略になる,と. である。. いうことである。ヴィジュアルテキストの読解活 動を取り入れることには,次のような効用がある。 学習者の学習意欲を高める,学習者の授業満足度 を高める,学習者参加型の授業をつくりやすい,等。. 授業改善キーワードとしての読解力 本研究は「読解力(リテラシー)」をキーワー ドにした授業改善研究である。しかし最近,「読. 125.

(3) 庭内 信善・尾関 俊浩・安達 聖. 解力」をキーワードにして授業改善を議論してい. の育成方法を身につけておくことは,重要な「教. く「ブーム」が一段落してきた感がある。たとえ. 師力」となるものと思われる。. ば青山(2009)は次のように述べている。「読解 ヴィジ ュアル・リテラシー. 力ブームが落ち着き,このところ『書くこと』を テーマに掲げる研究会が多い。読んだことの何を. PISA型リテラシーについてはすでにいろいろ. 受け止め,どのように考えたかを表明しなければ. なところで何度も紹介されている。再掲する必要. 意味をなし得ない。行き着いた先が『書くこと』. もないくらいよく知られていることである。しか. といったところか。『書くこと』は考えを深め,. し,本論文の論旨を整えるため,ここで簡単に. 確かなものとする手立てとなり,自分の考えを表. PISA型リテラシーについてまとめておく。. 現するための術でもあるから,当然の流れと言え. PISAでは,読みの対象となるテキス1、を①「連. 続型」と②「非連続型」の2つに分けている。以. る。(青山2009,p.71)」. 下①②の説明は,国立教育政策研究所(2004,. 青山の主張の中にある「読解力」とは「PISA 型読解力」のことである。一頃は「読解力ブーム といわれるほどの熱い議論が繰り広げられてい. 」. p.150)によるものである。 ①「連続型テキスト」は,通常,文と段落から. た。その直接のきっかけとなったのはPISAであ. 構成され,物語,解説,記述,議論・説得,. る。たとえば2007年には,「中学校・高等学校. 指示,文書または記録などに分類できる。. PISA型『読解力』」「リテラシー. と授業改善−. ②「非連続型テキスト」は,データを視覚的に. PISAを契機とした現代リテラシー教育の探究」. 表現した図・グラフ,表・マトリスク,技術. 等のタイトルをつけた書物が数多く公刊されてい. 的な説明などの図,地図,書式などに分類で. た。ところが,2009年になると,このようなブー. きる。. ムが「落ち着いてきた」。そういう実感を確かに. 「図,画像,地図,表,グラフなどの視覚的な. もつことができる。実際に,「月刊国語教育研究」. 表現(国立教育政策研究所2004,p.16)」を,. などに掲載される研究会案内では,「読解力」を. PISAでは,非連続型テキストとよんでいるので. テーマにしたものが少なくなってきている。. ある。ヴィジュアルテキストを読み解く能力は,. しかしこのことは,決してPISA型読解力が重 要でなくなったということを意味するものではな い。青山も正しく分析しているように「読んだこ. PISA型学力を構成する重要な要素となっている。 このためヴィジュアルテキスト読解力の育成は. 授業開発研究の重要なテーマになってきている。. との何を受け止め,どのように考えたかを表明」. 「みること」を授業に取り入れる研究は世界的規. させるために「書くこと」にも関心が向けられる. 模で広がっている。奥泉(2006)は,「見ること」. ようになってきたのである。あくまでも「書くこ. に関する英語圏のカリキュラムや文献を概観して. と」に「読んだこと(読解)」が先行しているの. いる。そして「ビジュアルリテラシー」という概. である。. 念をキーワードとして取り出している。(奥泉は. 「読解力」がまず重要である。見かけのブーム. 「ビジュアル」と表記しているのでその表記にし. は落ち着いたが,PISA型読解力(リテラシー). たがって引用する。)「ビジュアルリテラシーとは,. は,今後しばらくは,有力なリテラシーモデルで. 絵や写真,図表,動画といった視覚的テクストを. あり続けるものであると思われる。PTSA型リテ. 読み解き・発信する力のことである。(奥泉2006,. ラシーあるいはPISA型学力が唯一のリテラシー. p.38)」つまり,ヴィジュアルテキストの読解力. モデル・学力モデルではない。しかし,これから. と読み解いた内容の発信力を含んだ能力がヴィ. の教育をリードしていくモデルのひとつではあ. ジュアル・リテラシーなのである。. る。このためPISA型リテラシー・PISA型学力. 126.

(4) ヴィジュアル・リテラシーの授業開発(Ⅵ) ヴィジ. いように構想して(清水他1990,p.16)」いかな. ュアルテキストの読解を取り入れることの. 意義. ければならない。このことの重要性は,これまで. 本学の学生は,将来教師になる可能性が高い。. に繰り返し指摘されてきている。しかし実際には,. 将来,ヴィジュアル・リテラシーを育成する側に なる者は,自らもヴィジュアル・リテラシー. 見学時の「追究のめあて」「問題意識」を効果的 を身. に引き出している実践は少ない。その理由を清水. につけておく必要がある。ヴィジュアル・リテラ. 他は次のように分析している。「教師というもの. シーを習得するためには,ヴィジュアルテキスト. はとかく,自分自身の立てた枠だけのなかで子ど. を読み解く体験を何度も重ねていく必要がある。. もたちを動かしていこうとする方向で,見学・調. しかし,どのような絵図や写真であっても読解可. 査の抽象化・教材化を行いがちで,結果的に,子. 能なテキス1、になるわけではない。ヴィジュア. どもたちの自主的で具体的な追究への手がかりを. ル・リテラシーを育成するためには,読解可能な. 失わせている場合が少なくありません。(清水他. ヴィジュアルテキストを作成する必要がある。さ. 1990,p.14)」. らに,上述した定義に合致したヴィジュアル・リ テラシーを育成していくために授業の工夫もしな ければならない。. (2007)が提案している研究や実践は,見学授業 をデザインしていくための重要な手がかりとなる。. 本研究では,将来教師になる可能性が高い学生 たちにヴィジュアル・リテラシー. このような状況の中で,高田他(2006)や高橋. を身につけさせ. るため,次の2つを目的とした実践を進めていく。 ①読解可能なヴィジュアルテキストを作成する。 (郭それを用いた授業モデルを開発する。. 高田他(2006)と高橋(2007)はともに,見学 の事前指導にヴィジュアルテキストを活用してい る。 高田他は,次のように述べている。「見学・調. 査活動をすることにより,直接体験や実物に触れ る体験を通してよりリアルな社会科学習を展開す. これまでの研究と実践. 前述したように鹿内他(2007,200ぬ,2008b,. ることができる。これにより,児童の知的好奇心. を高め,学習への動機付けや学習の深化を図るこ. 2009a,2009b)は,ヴィジュアルテキストの読. とができるのである。/しかし,見学・調査活動. 解活動を取り入れた,大学授業の改善研究を進め. も,ただ活動をすればそのような効果が期待でき. てきた。さらに鹿内(2003),鹿内他(たとえば. るわけではない。…実際の見学・調査活動へ行く. 2009c)は,ヴィジュアルテキストの読解から始. 前の段階で,活動をより効果的に展開するための. める作文授業の開発を続けている。. 観察の観点が,学習者個々に意識される必要があ. 鹿内他の一連の研究ではいずれも,「みること」. る。(高田他2006,p.53)」. に着目した「新しい試み」を提案してきている。. 「観察の観点」を児童にもたせる工夫をしてい. しかし「みること」による学習だけを取り上げれ. る実践例として高橋(2007)をあげることができ. ば,従来の教科指導の中でも,数多くの実践がな. る。高橋は見学の事前指導においてヴィジュアル. されてきている。それは「見学」である。社会科. テキストを活用している。高橋はヴィジュアルテ. では,とくに「見学」が重視されている。社会科. キストから,児童の問題意識を引き出し,その間. 教育に関連する教育雑誌にも,見学指導について. 題を見学時の観点にさせている。. の論文が数多く発表されている。. 見学指導に関する従来の論文では,次のような. 高橋は「かまぼこ工場」を見学場所にしている。. また高橋が見学事前指導のために用意したヴィ. ことが指摘されている。「見学・調査を,授業の. ジュアルテキストは,かまぼこ工場の「工場内配. なかにただ孤立的に導入しているのではなくて,. 置図」である。この手続きについて高橋は次のよ. 子どもたちの自主的な追究のめあてと切り離さな. うに解説している。「まず,実際に見学してみな. 127.

(5) 庭内 信善・尾関 俊浩・安達 聖. いと解決できない問題をもたせたい。そこで,『工. 他や高橋が提案しているような照合的特性を含ん. 場内配置図』を提示した。これには,学習のねら. だヴィジュアルテキスト(教材)開発を進めてい. いとなる『かまぼこ作りの工夫』を考える手がか. く必要がある。. りが含まれている。かまぼこ作りと結び付かない. また,情報のズレや欠如を引き出す授業方法の. 部屋が含まれているのがミソである。(高橋2007,. 工夫も必要になってくる。授業方法の工夫によっ. p.33)」. て,情報のズレや欠如を引き出すことができる。. 子どもたちはこの工場内配置図を読み解くこと. によって,次のような問題意識をもつようになる。 「れいきゃく室が多いのはなぜか。/シャワー室. そのひとつの方法は,協同学習の活用である。他. 者の意見や考えを聞くことによっても,情報のズ レや欠如を引き出すことができる。. がある意味を知りたい。/クリーンルームとはど. 高田他(2006)が開発した教材はPC上で学習. んな部屋か。(高橋2007,p.33)」これらの問題. が進められるように設計されている。そのことに. 意識が見学時の観点になる。高橋は子どもたちの. よる利便性は高く,これからの学習指導の中に取. 既有知識と,配置図が含んでいる情報のズレを問. り入れられていく大きな可能性をもっている。し. 題意識喚起の手段としている。. かし,現在の教室環境では,写真(ヴィジュアル. 高田他(2006)は,見学指導に活用するヴィジュ. テキスト)を紙媒体で呈示した方が協同学習に活. アルテキストを自作している。高田他は,デジタ. 用しやすいように思われる。そこで本研究では,. ルカメラで撮影した写真を用いている。このため. 紙媒体で呈示できる写真教材(ヴィジュアルテキ. 鹿内他がヴィジュアルテキストとよんでいるもの. スト)を開発し,見学の事前指導に役立てていく。. を,高田他は「デジタルコンテンツ」とよんでい る。高田他が開発しているデジタルコンテンツの ひとつに「わらじ」がある。高田他は,学習者に,. わら束の写真と完成品としてのわらじの写真を呈 示するシステムをつくっている。「わら束」と「わ. Ⅰ.実験授業の実際 Ⅰ−1 授業者・学習者・授業科目等 授業者は本論文の第1筆者鹿内である。授業改. らじ」,この2つの写真の間には大きな見かけ上. 善研究の対象とするのは,鹿内が担当している「教. の違いがある。「わら束」は,どのようにしたら「わ. 育心理学演習I」である。学習者はこの科目を受. らじ」になるのであろうか。高田らの研究では,. 講している学生15名である。. わら束の写真とわらじの写真の間にある,情報の 欠如によって,学習を動機づけようとしている。 情報のズレや情報の欠如を生み出す刺激の特徴 を文芸批評では「曖昧」とよび,心理学では「照. この科目のシラバスには「授業概要」として次 の事項を掲げてある。「新しい学力,ヴィジュア ル・リテラシーについて学びます。『看る』『見る』 『可視化』『pISA型学力』『非連続型テキスト』『発. 合的特性」とよんでいる。よび方はいろいろある. 信』等がキーワードになります。」また実験授業は,. が照合的特性は情報収集活動(学習活動)を動機. シラバス中の「授業計画」に記してある「ヴィジュ. づける。. アル・リテラシーの教材づくり」単元の中で行う。. 前述したように,PISAの影響もあり,現在「み. したがって本研究は,「研究のための研究」とし. ること」の教育が注目されている。「みること」. て行うものではない。カリキュラムおよびシラバ. の教育をどのように進めていったらよいのかを考. ス内容に準拠して行うものである。授業形態は,. えるための重要な方向性を高田他(2006)と高橋. 5人1グループの小集団協同学習を採用した。. (2007)は与えてくれている。しかし高田他や高. 橋のような研究・実践報告はあまりなされていな い。見学事前指導を効果的に行うためには,高田. 128. Ⅰ−2 授業の概略. 授業は2時限配当で行う。1時限は90分。「見.

(6) ヴィジュアル・リテラシー の授業開発(Ⅵ). 学の事前指導」「見学指導」にそれぞれ1時限配 当する。今回の授業研究のメインになるのは,「見 学の事前指導」部分である。この授業では見学場 所で撮影した写真6枚をヴィジュアルテキストに する。これらの写真を便宜的に,次のようによん でおく。①非常ベル②レッドハンドル③ドアレ バー(弧ビニールカーテン(9Bドア⑥モコモコ。な. おこれらの写真はすべて,本論文の第1筆者鹿内 が撮影したものである。. これら6枚の写真をグループで話し合いながら 読み解いてもらう。鹿内(2003)はヴィジュアル. 目標呈示. 見学というのは,これまでの学校教育でも取 り入れられてきた,見るということをつかった 学習指導法です。ところが,みなさんは見学指. 導どうしたらいいか,そのスキルを身につけて ないと思うんですね。今日は,見学指導をどう. いうふうにしてやっていったらいいのかってい う,見学の事前指導の方法を勉強します。 Ⅱ一3−1写真1(非常ベル)読解ステップ 授業を受けた学習者の感想を先に読んだ方が,. テキストの読解は次の3つの活動によって行われ. このステップの流れを理解しやすい。そこでまず. ると考えている。(丑変換−テキスト中で記述され. 学習者1の感想を例示しておく。. ている概念や内容を別のことばに言い換えたり,. 学習者1の感想. ある種の記号表示法を他の表示法に変えたりする. 活動。②要素関連づけ−テキストを構成している 諸要素を相互に関連づける活動。③外挿−テキス ト中で記述されている内容を超えて,結果につい て推量したり結果を予測したりすることにより, 発展的に考えていく活動。なお,テキスト中の要 素と自己の既有知識中の要素を関連づける活動も. ひとつの非常ベルから,実に色々な意見が出 てくるなあと思いました。写真一枚渡されて, それを見て様々なことを推測するたびに,「こ れは何だろう」「もっと知りたい!」という気 持ちになりました。また,他の人の意見が自分. の考えもつかないことだと,素直に『よくそん なことに気が付くな』『すごいな』というように,. 要素関連づけに含んでおく。. 本研究では,これら3つの活動を引き出しやす いと仮定される写真(ヴィジュアルテキスト)を. 受け入れていくのも楽しかったです。. 学習者1が述べているように,この授業は1枚. 開発する。したがって,上記3つの活動を引き出. の写真から始まる。その写真,非常ベルの写真は,. せているかどうかということは,今回開発する. 次の教示によって配布する。. ヴィジュアルテキストの有効性を評価する基準の. 写真呈示教示. ひとつになる。. Ⅰ一3 見学事前指導授業の流れ Ⅰ一3−0 導入と目標呈示 導入発間. 見学場所はすごく近いんですけども,この学 校の中にあります。で,そこにこういうものが. あります(写真1配布)。この写真から見学場 所がどこか想像してください。. 見るということをキーワードにして授業をつ くる勉強をしてきました。今日はその続きです。 見る活動を取り入れた代表的な学習方法があり. ます。それは何でしょう。 この発間に対し,看図作文・鑑賞・写生・社会 見学という答えが出された。この中から授業者は 「見学」を取り上げ,次のように目標を呈示した。. 写真1 非常ベル. 129.

(7) 庭内 信善・尾関 俊浩・安達 聖 S S. 以下に写真配布後になされた学習者たちの発言. 何かなあ。. S S. 記録を載せておく。前述したように,この授業は. 何かのストックだよね。5. S S S. あー,本当だ。6 何か割れちゃったらつけるみたいを′. S. ループの発言である。. S. いる。以下の記録は,学習者1が所属しているグ. S. 5人グループによる小集団協同学習形態で行って. (笑). 非常用にそんなのいるの?7. S (笑)え?. (笑). S 非常用。. 割れるってことは,押すってこと。8. S 何だろう?. うーん,たぶん。. T さあ,どこでしょう?どんなところでしょう。. これ使い捨てだよね,たしか。. S 火があるところ。. S うーん。. S 何だろ,これ。. S あ,なるほど。. S 非常ベルついてる,どっかの教室?. S そんなストックするほど必要なのかな。. S うーん。. S じゃあめっちゃ何かいろいろあるとこなん. S ボイラー室。. じゃないですか?. Ss (笑). S あー。. S うーん。でも壁の感じはめっちゃ白いから,. S 危険がたくさんみたいな。(笑). 明るいところかなって。. S じゃあめっちゃいろいろあるとこね。(笑). Ss うーん。ふーん。うんうん。. S 化学室,とかそういう。. S 何か公共の施設っぼい。. S 何だろうね,それこそだから学校の裏とかそ. S 学校の中?. ういうあれだとおれは思ったんだけど。. S うん。. S 学校の裏。. S でしょ?. S 何か障がい者用トイレとか。. S 何か見たことない?. S うん。. S ある。何かある気する。. S あー。でもこんな何か押すのに大変そうかっ. S どっかで。. ていう…力いりそうって(不明)。. S S S S S S S. どっかで。. S 指力はいりそうじゃない?. 何か,無造作にありそう。廊下とか歩いてたら。. S (笑)指力。. うん。. S そっか。. 何だろうね。その右側のね。1. (後略). うん。 この何かモニヨってやつですか?. モニヨって引くか知らないけど,このモ ニヨってしたやつ。. 上掲の記録は,写真1非常ベルをヴィジュアル テキストにした話し合い活動の約半分である。こ こでは半分しか載せていない。それでもこれだけ. S 何だろう?. たくさんの発言が出てくるのである。学習者1が. Ss うーん。(数秒思考。). 感想で述べているように「ひとつの非常ベルから,. S 何かホース…2. 実に色々な意見が出てくる」。しかも,写真読解. S S S. 下のストックっぼくない?3. のプロセスには,授業者は一切介入していない。. ふた?4. ここではきわめて密度の高い学習者参加型の授業. あー。. が成立している。.

(8) ヴィジュアル・リテラシーの授業開発(Ⅵ). 次に,上にあげた討論記録中の各発言を分析し. Ⅰ−3−2 写真2(レッドハンドル)読解ステッ. てみる。下線1発言で,写真テキストを構成する. プ. ヴィジュアル要素を言語に変換する活動が始まっ. ている。下線2・3・4で,変換候補が出され, 下線5・6で変換を確定している。. 下線7は,要素A「非常ベル本体」と要素B「何 かのストック」を関連づけた疑問である。ここで は要素関連づけ活動がなされていることになる。. 下線8以下の発言では,要素関連づけを根拠にし た外挿活動が始まっていく。さらに,写真1に写っ. ていることをデータにして,「ここがどこか」と いうところまで外挿活動が進んでいく。. 写真2 レッドハンドル. この授業は,3つの学習グループをつくって 行っている。そのため写真1の読解活動が一段落. 写真呈示時に授業者は何も発間や指示をしてい. したところで,授業者は,全体のまとめをしてい. ない。それでも自然に,次のような討論が行われ. る。3つのグループからは,この非常ベルがある. ていく。. 場所として次の仮説が出された。「ボイラー室・ 食堂の厨房・実験系の部屋・警備室・天文台・ト. イレ」。このうちトイレ仮説だけは以下の会話に より棄却し,写真2の読解に入っていく。. (前略). S え,ガラスって,これどういう状況?ガラス の下にバルブあるよね?. S そうなんですよね。 T はい。Eさんはトイレじゃないって言ってた んですねn. E はい。. T なんでトイレじゃないんですか? E 先生がさっき予約が必要って言ったから。ト イレは…。. S じゃあどうなってるの? S なん,なん,あれ? S ガラスっていうか,あのビニールの何かこう いうやつかも。. S うん。 S うーん。. T そうですね。. S うんうんうん。. Ss (笑). S うにうにしてるやつ。. S 入ってこられても困るけどなあ。. S あー。ん。で結局さあ,何だろうね。. T 合理的ですね。そういうのもちゃんと根拠に. S 何がですか?. してください。. S ん,その何でこう…. Ss (笑). S 場所?. T トイレはなしですね。. S 場所場所,何でこういうものがあるんだろう. Ss (笑). T はい,じゃあ次。ここにはもうひとつこんな ものもあります。. ねって。 S え,何か,何かをシャットアウトしたいんじゃ ないですか?. S うーん。回して何をするものかだよね。 S うん。たしかに。開けるものかも知れない。 S うーん。. 131.

(9) 鹿内 借善・尾関 俊浩・安達 聖. T この赤い十字形のやつ,回して何するものな んでしょう。話し合ってみてください。9. 弱にすぎない。また写真2の読解に関して授業者 がした発間は下線9だけである。学習者たちは,. S ん−?. 自ら,問題や疑問を見つけ出し,それを解決する. S 何する?. ためにたくさんの話し合いをしている。写真2も. S 開くとかじゃないの。. 学習者の自発性を引き出すよいヴィジュアルテキ. S たぶん出てくる。開くはないんじゃない。扉. ストになっている。. 自体はさあ,たぶんガラス側についてるしょ。. ここでは,写真1の読解について行ったような. ガラス側っていうか,この赤い側についてない. 発言分析は省略する。しかし,上掲の発言記録か. から。何か出てくるのかな?ガスとか?. らも明らかなように,ヴィジュアルテキスト読解. S えっ?. に必要な3つの活動,変換・要素関連づけ・外挿,. S 完全に,ドアを,隙間を密閉するやつかなあ. が活発になされている。. とは思いました。. 話し合いがある程度進んだら,「わかったこと」. S あー。. を各グループごとに発表させる。各グループから. S 何か動くのか。回すと。. いろいろな仮説が出される。しかし,この時点で. S 密封するやつ?. は「仮説」のままにしておく。各グループから意. S うんうん。. 見を出させたあと写真3を配布する。. S 右手で回すんだよね。きっと。. Ⅰ一3−3 写真3(ドアレバー)読解ステップ. S (笑)回してみないとわかんない。 Ss (笑). S 回したっけ,これが,こっちにこうズレてっ て,ここがオープンされて,ここをドウンツみ たいな。 S あー。あ?なるほど。. S ここを回さないと,これには,これをいじれ ないけど,これいじるやつかな?何か押せそう じゃない?. S うーん。. 写真3 ドアレバー. S 回すとこれがズレて。 S でもこれズラすっていうか,何かもっと軽い 感じだと私は想像する。何か。. このステップでも授業者は何も発閲していない。 写真を渡すだけで次のような討論が始まっていく(. S 割とからからって開くみたいな。 S 暖簾みたいな。 S うーん。. S すごい密閉してる。そしてこの黒いのすごい 気になる。10これ。. S わかんないな,そこ。ん−。. S あー。. S 何だろこれ。. S 何だろう。ケーブルかなんか?電気?. S でもね,何かこの取っ手っぼいのは押せそう. S うん,電気系のものを何か想像した。うーん。. な気はするんだよね,左側の。 (後略). S 何だろう。 S ん?これさあ,これとつながってるのこれ? S こうドアっぼくつながってるのか,ここに何. ここに載せたのは,写真2読解記録の3分の1. 132. か空間があるのか。.

(10) ヴィジュアル・リテラシー の授業開発(Ⅵ). S ああ−。そういうこと。. てたり…. S どっちが内側?. S あれあれ?. S どっちだろう?何か,でも,これ外につけて. S あれれ?. も意味ない気が。. S 要は,薬品に光さえ当たらなければ,反応後. S うーん。. は光吸収しないようにできてるから問題はな. S こっちが外?. い。. S かなあって。でも密閉しちゃったら自分出れ ない。 (中略). S 要はたぶんさ,これ簡単には開かないように. S 光を入れない,とか。 S あ,密閉して。. S そうそうそう。 S 言っても,そうなるとさ,…必要なくない?. できてるわけでしょ。で,たぶんそのさっき,. S うーん。. このさ,回してどうこうってのはたぶんだから. S 回す必要はなくない?回すって,オンかオフ. 閉めるためなのか調節するためなのかわかんな. いけど,普通の取っ手じゃダメな理由があるわ. かでいいわけでしょ,光入れないんだったら。 (中略). けじゃん。だからそれなりの特別な用途がある. んだろうなあと。何かガラス板って聞いたら何 か化学系しか出てこなくなったっていう〈. S うーん。. このあと「全然わかんなくなってきた」という. 発言が学習者から出てきた。そこで授業者は次の ような支援をした。. S 回す必要,回すってか回して何があるかって わかんないとでもわかんないよな。. T ちょっと整理しましょうね。えーと,さっき. S いや何かでも,密閉する系だと…。. の,こっち(写真2)がこの裏になりますから,. S うーん。. ここから入ります。で入っていくとこう(写真. S 私は信じてなりません。. 3)なってます。入った人はどうやって出てく. Ss (笑). るのですか?…うん,はい。早かった。. S 密閉,かあー,うーん,うん,大いにあると 思います。 (中略). S 銀の部分,押して,普通に出てくる。 T 銀の部分押して出てくるんですね。出てくる んです。はい。いいですね。異論ないですね。. S そんなに密閉するものあるかなあ。. はい,そして,じゃあこれ赤い方はどんなとき. S うーん。. 回すのですか?そして回すとどうなるのです. S 何か,うちにレントゲンを焼く暗室があるん. か?そこの結論をグループで出してください。. ですよ。 S すご−。. どんなとき,赤いのを回すか。回すとどうなる のか。. S うちにあるの? S うち病院なので。. この間題についてグループ討議させた。討議が. S ああ。. 進むと学習者から「すっきりした」という発言が. S それであるんですけど,でも,歯科用なので. 出てきた。それを受けて,次のようなまとめをした。. 大きくはないんですけど,何かそこを(不明), レントゲン室自体はあれなんですけど,すごい. T すっきりした?じゃあすっきりした,はい。. 密閉とかあれなんですけど,でも暗室を(不. Ⅰさんから,どんなときにどうするか,はい。. 明)って開けて,何ならお父さん開けっばでやっ. lえーと,この赤いノブの裏側が3枚目の紙に. 133.

(11) 鹿内 借善・尾関 俊浩・安達 聖. なるんですよね。 T はい,そうです。. で押して外に出ることができる。」 なお下線10のような疑問は次の写真読解プロセ. lあのう,この3枚日のドアノブ,ノブってい. スでも出てくる。しかしこの疑問に対する答えは. うかわかんないんですけど,左側の部分につな. この時間内で出さない。次時に行う実際の見学活. がってる気がします。. 動を動機づけるアイテムとする。. T 赤いのがここにつながっている。はい,じゃ. Ⅰ一3−4 写真4(ビニールカーテン)読解ス. あ図解しましょうね。こういうまあ四角っぼい. テップ. のと,バーがついたのと2つのパーツがありま すね。. l の,その左側の部分とつながってるってグ ループでは考えて。. T 赤いのはここにつながっている。はい,とい うのがそこのグループ。つながっている。 lで万が一その,表側のドアノブがガシャンっ て鍵じゃないけど閉まっちゃったとしたら,内 側にいる人は出られなくなっちゃって,そのと. きにあのう,赤いノブをギエッギエッギエッ ギエッって回すと,こう,このように押されて, オーつて上がってくるんですよ。. 写真4の授業は次のようにして進めていった。. T 言葉で説明して。. Ss (笑). 丁 場所としてはこんな感じになるんです。そし. l あのう,この連結部分みたいなのが…. てこれ(写真2)の上にこれ(ビニールカーテ. T ここの,連結部分,いい言葉ですね。はい。. ン)が,ここ(写真4)につながる。. lから圧力がかって,ドアノブが,こう垂直に 上がってくるんですよ。. S やっぱりつながってるじゃ−ん。 Ss (口々にいろいろ言っている). T あー。これがね。. T そうそうそうそう,こうなって。. l 脱出することができる。. S これがこうなって。. T ああ,なるほど。はい,かなりいいですね。. S こんな部屋あるの?大学に。. l はい。. S ふーん。. Ss (大笑). S 何だこれ。. T はい,すごくいいですよ。すごくいいってこ. S 電気系ですか。. とあとでわかります。. S ような気がする。 S カーテンね。. このあと,学習者Ⅰの発言を材料にしたグルー. S ボイラー室にこんなの,ない。. プ討議を行わせる。グループ討議は約7分間行っ. S うーん。. ていた。そのあと授業者から次のようなフィード. S 熱気がこない。(笑). バックをした。「学習者Ⅰの説明はほぼ正解であ. S どんだけ熱いの。(笑). る。研究者が閉じ込められたとき赤い十字のハン. S 先生そしたらこん引こ余裕で撮ってないよね。. ドルを回す。そうすると,その反対側にある固定. S そうだよね。. 部分が外れて下に落ちる。それによってドアを手. S 天井(不明)。. 134.

(12) ヴィジュアル・リテラシーの授業開発(Ⅵ). S 何か天井(不明)。. こで本ステップでは,これまでのステップで出さ. S 本当だ。何だろう。. れた予想を確認するための写真を呈示する。それ. S この黒いチューブみたいの相変わらず気にな. が写真5である。. る。. T (写真5配布). (中略). S ボイラー室って意見はいま配られた写真の上 のモコモコが…. S こんなとこあるんだ。 S へ−。. T よく気が付きましたね。. S へ−。低温実験室。. S 普通のボイラー室にあった。証言する意見が. S 何を実験するんだ。電力?2.2って何?. あったのと,理科の実験室だって言った人は,. S 温度じゃない?. 3枚日のあの左端の机が理科室っぼい。. S 何かその下の2.2%(不明). S 確かに。. S あ,違う。. S うん。. S 電力設定器。. T はい,ですね。モコモコよく気が付きました. S 本当だ。. ね。あとでモコモコの写真見せますね。モコモ. S 電力設定器。よくわからんけど,ま,そういう。. コは何なんだろうか。ポイントです。. T はい,これからわかることまとめてください。. S B。 これに続く討論で,学習者たちはいくつかあっ. S 電気系。. た仮説を「ここは何かの実験室である」というひ. T あ,いいですね。B。. とつの仮説に放り込んでいく。また「モコモコ」. S B。Aもありますよね。. と「ビニールカーテン」を関連づけながら(要素. 関連づけ),何の実験室かを外挿していく(約10. (中略). T はい,そうですよね。いまMさんがこっちが. 分間話し合い。記録は省略)。. 手前,下がAで後ろがBだって言ったんですね。. Ⅰ−3−5 写真5(Bドア)読解ステップ. でYさんがいまBの部屋いくためにドア2個 人っていかなきゃだめだって,厳重だ。さあじゃ あ何でこの実験室A・Bと2つ必要なんでしょ うか。その理由を考えてください。 (中略). S Bの方が,より低温だから,危ないから,二 重にしなきゃいけない。. T Bの方がより低温。それから,はい。Yさん も早く気付きましたけども。理由どうしてか。 Y Bの方が寒い理由ですか?じゃないと,Aの 写真5 Bドア. 方があったかくないと,Bに行くまでに寒くて。 Ss (笑). 「ヴィジュアルテキストの読解→それに基づく. T 寒くて。それもありますね。実験する人が寒. 予想→別のヴィジュアルテキストで予想の正誤を. いっていうのは大きい理由ですよね。そうです. 確認」。こういう授業展開にすると,学習者の動. よね。はい,えーと,正解です。Bの方がマイ. 機づけと,授業への満足度が高まる。このことは. ナス5度からマイナス25度まで。. 鹿内他の実験授業で繰り返し観察されている。そ. Ss(歓声をあげる)11. 135.

(13) 鹿内 借善・尾閑 俊浩・安達 聖. T で,あとこっち下の方は,Aの方はプラス10. Ss (口々にいろいろ言っている). 度からマイマス5度まで,冷やすことができま. S モコモコ1個しかない。. す。. S 本当だ。 S 何だ,これ。. ここでは下線11の反応に注目したい。授業記録. T 何でしょう,これね。これ図面にもかいてあ. で紹介してきたように,学習者たちは真剣に議論. りますね。ただし(括弧)にしてます。. してひとつの予想に到達している。その予想が確. S これが何とか装置?. かめられたときの喜びは大きい。この喜びが,授. T これかなり大事な装置なんです。. 業に対する満足度の高さにつながっていく。. S 何だこれ。. Ⅱ−3−6 写真6(モコモコ)読解ステップ このあと約3分間,モコモコが何であるか話し 合わせた。ただし,これが何であるかの答えはこ の時間では出さない。これも,次時に行う見学に. 対する動機づけを高めるアイテムにする。本時の 授業は次のようにして締めくくった。 T S. はいそれでは,再来週見学に行きます「. S T. やったあ。12. S. わーい。13. T. 写真6 モコモコ. さらにそこにはものすごいものがあるのです。 ゝ ス_つ○. 内緒。 Ss (笑). T 本当にえっ?と思うものがあるのです。 S 何だろう。 T はい,で,ここまでのところで,まだ作業は いくつかあります。ふりかえりをまず書いてく ださい。. ここまで授業が進むと学習者たちは次時の見学 に対してきわめて強い動機をもつようになる。そ れは下線12・13発言からもよくわかる。今回開発 したヴィジュアルテキストと授業の工夫は優れた 動機づけ効果をもつものである。 なおふりかえり(本時の感想と次時に確かめた いこと)の記入まで含めて1時限90分である。. T さっきみんなが言っていたモコモコですけど も,この写真です。(写真6配布). 136. Ⅱ.見学指導 2時限日は実際に低温実験室を見学する。学校.

(14) ヴィジュアル・リテラシーの授業開発(Ⅵ). 行事の都合により見学は事前指導の2週間後に 行った。見学後,学習者には「低温実験室見聞録」 を書いてもらった。実際にどのように見学をした か,学習者はそこで何を学んだか,見学の事前指. 導は実際の見学にどのような効果をもたらした. 「時計や携帯電話は,狂う可能性があるので,. 貴重品と一緒に研究室に置いていってくださ い。」. 教授のその言葉に私の思考は再び動き出す。 (時計が狂う…?強い磁力と,低温?いった. か。このようなことは学生が書いた「見聞録」を 読むことによってよく把握できる。そこで次に学 習者2がまとめてくれた見聞録を紹介する。 学習者2の低温実験室見聞録 「実録!見学しよう∼低温実験室∼」. い,なんの関係が…。). 207教室から研究室に移り,他の学生とも磁 力に関係するなにかがあるのだろうという話 や,今日の服装を誤ったなどという話をしてい たら,理科の実験室が並ぶ階へと着いていた。 鹿内先生が,実験室の場所をど忘れするという. 前回までのあらすじ ヴィジュアルテキストを用いた鹿内先生. による巧みな授業のおかげで,すっかり低 温実験室に興味を持った私たち。自分たち の通い続けていた大学内にまだまだ未知の. 世界が隠されていたことを知って,ただな らぬ興奮を覚えたのであった…!!. 小さなハプニングにもみまわれたが,私たちは 無事,とある実験室の前へ到着したのである。 白衣に長髪を後ろで束ねた,私よりかは幾分 年上の男性を鹿内先生は我々に紹介した。彼は, 安達さんといい,本学の大学院を卒業し,筑波. 大学の博士課程へすすんだと言う。その道(と いっても,その“道’’がなんであるか,この時. 1講が終了し,私は惜然とした。今日は,低. 点で私たちは知らない)のエキスパートらしい。. 温実験室に見学へ行くのである。前回の講義が. 彼の紹介もそこそこに,私たちは実験室へ入る. 終わった時から楽しみにしていた筈であったの. ことになった。私とUは他の学生より薄着で. に,なぜか自分は今日,ワイシャツの中にTシャ. あったため,実験室に備え付けられた防寒着を. ツを着ただけの軽装備で学校に来てしまった。. 借りる事になった。冬用の羽毛布団をそのまま. これから見学に行くであろう場所は,マイナス. コートの形にしたような分厚い防寒着である。. 25℃にもなり得る極寒であるのに,だ。しかし,. 後に聞いた話によると,そのコートは「ゼロポ. その不安もどこへやら,やはり見学に行くとい. イント」という名前で,ヒマラヤの山頂に行く. う昂揚感が勝り,いつしか私の思考は低温実験. 際にでも着用するような優れた防寒着だったよ. 室とやらではなにが行われているのか,という. うだ。ちなみに,Yがブーツを借りていたが,. ことへと変わっていった。. これもコートと同じくらいしっかりした作りの. 1講目で,207教室を使用していた人達が廊 下へと姿を現すと,私たちは浮き足だった様子 で教室へと吸いこまれていった。いつにも増し て教授が現れるのが待ち遠しい。. 数分後,時刻通り魔内先生は現れた。彼もま た,学生たちを彼らの未知の領域へ導けること が喜ばしいことがその表情から読み取れた。 「では,行きましょうか。」 教授の言葉に,私たち学生は笑みを浮かべて 立ち上がった(. ように見えた。Yが言ったように“可愛い’’か は別問題として…。. 安達さんと鹿内先生に誘導されるがままに実 験室に入ると,そこにはまた,大きな壁があっ た。 (ああ,この中が低温実験室に違いない!). そう思う私を鹿内先生は,「もっと部屋の奥 へ入って下さい。」と,…壁の脇にある狭い道. へ入るよう急かした。そこは,大人2人がぎり ぎりですれ違えるくらいの幅しかなく,明らか. 137.

(15) 庭内 信善・尾関 俊浩・安達 聖. に実験で使われるのだろうと予測できるパソコ. そして,いよいよ低温実験室Bへ入る時が来. ンとなにやら重そうなが機械が一式置いてあっ. た。中の気温はマイナス13℃,真冬でもあまり. た。うねうねとパソコンから伸びる配線を踏ま. ない気温だ。写真で見たビニールのカーテンを. ないように気を付けながら私たちは奥へ奥へと. ぬける。冷凍庫の中の乾燥した冷たい匂いがし. 進んだ。ただでさえ,狭い道の脇には枝切りバ. た。. サミや救命胴衣などが積んであった。部屋の最 奥につくと,更に雪かきに使うような鉄製のス コップやスキーが見えた。 (雪山の救助隊…?). はじめに誰かが異変に気付いた。 「ボールペンの出が悪い!」. なるほど,マイナス13℃という気温はボール. ペンのペン先をも凍らせるらしい。シャープペ. そこで,ひとまず安達さんへの質問はないか. ン・鉛筆組は勝ち誇ったような表情を浮かべた. と鹿内先生が声をあげた。いくつかの質問がさ. が,彼らも手がかじかんでくるのには,抵抗は. れた結果,彼は標高1900mの旭岳や,冬の日. できず,苦戦していた。. 本海へ出かけてなんらかの研究を行っていると. 言うこと,今回の見学のメインがMRIである ことがわかった。. (救助…じゃないのか。でも,MRIって病院 にあるやつじゃ…。). 「部屋も段々明るくなってきたし。」. 安達さんがまた,何気ない口調でそう言った。 確かに入った時より,部屋全体が明るくなった 気がして天井をみると,低温室Bの蛍光灯はガ ラスの管に包まれていることに気付いた。なん. 質問を終え私の頭の中では,わかったことが. とマイナス25℃の世界では蛍光灯も凍り付いて. 増えたのに,わからないことも増えていく一方. しまうらしい。部屋が明るくなったのも,蛍光. であった。. 灯があたたまり,ガラスのくもりがなくなった. 疑問は解かれないまま,待ちに待った低温実. からということだ。後に話されたことだが,低. 験室に入る瞬間が来た。写真で見た,あの重い. 温室Aにはエアーカーテンが,低温室Bにはビ. 扉が開けられる。低温室Aの温度は6℃で,ま. ニールのカーテンがつけられているのも,エ. だ冬布団のコートの本領は発揮されない。白い. アーカーテンの機械がマイナス25℃では作動し. 壁,金属の床に試験管やビーカー,それにパソ. ないからという極めて単純で,驚くべき理由が. コン。寒いこと意外は,案外普通の研究室と変. あったのである。人間と言う生き物が,いかに. わらないような風景である。. あたたかい環境で文明を作り上げてきたかがう. まず,私たちは天井付近に吊るされた,白い 筒の正体に迫った。やはり,そこからは冷気が 出ていた。安達さんによれば,室内の温度にム. ラを出さないための設備であるらしい。実験室 内に風が生じることは極力少ない方がよいとい. かがえるのではないか。 「寒いのに,息が白くならないのはなぜだと思 いますか。」. 鹿内先生の言葉にまたハツとする。確かに, こんなに寒いのに息は見えない。. うことであった。「ほらね。」と,なんでもない. 「湿度が低いから…?」. ような顔をした安達さんが発泡スチロールの板. 「そうです!では,なぜ湿度が低いと白く見え. で私の顔をあおいだ。瞬間,私は声にならない. 悲鳴をあげ身を縮めた。風が起きることによっ て,体感温度が下がることを実感させてくれた のは嬉しいだが,それなりに覚悟をつけさせて ほしかったというのが本音である。. 138. ないのですか。」. 私の浅い科学力では,もう答えることができ なかった。 「すぐに蒸発するからですか?」. Sだ。優秀な後輩だ。鹿内先生もほめたたえ.

(16) ヴィジュアル・リテラシーの授業開発(Ⅵ). ていた。. 最後に,部屋を出てから実験室設置にかかっ. さて,そんな話をしているうちに,学生たち. た予算を聞いた。なんと,2∼3千万円という. の限界が近付いてきたようだ。0やMが身を縮. 回答が返ってきた。そのうちの1千2百万円は. めて震えている。私自身も,こんな万全なもの. あのMRIの装置の磁石がしめているらしい。. さっきまで,自分は3千万円の中にいたのか. を着ていれば大丈夫であろうと思っていたが,. 上着の下方や袖から冷気が侵入してきて,しっ. …と私は溜息をついた。. かりと寒さを感じていた。安達さんは,この部. (注:学習者2の見聞録には,実際に安達が行っ. 屋に慣れているから大丈夫だということもわか. た説明と異なる部分がある。ここでは,それら. るが,鹿内先生が寒いという様子でないのは,. を訂正せず載せた。). 彼の知的好奇心のなせる技なのであろうかと私 は思った。. マイナス13℃の世界に慣れたせいか,低温室 Aは低温ではなくなった気がした。ここからが,. 美味しいところだ。MRIの謎がついに明かさ れる。金属の四角い枠の中に,8cmくらいの 隙間を開けて両脇に金属の塊。私は,鹿内先生. から差し出されたアルミの板をその隙間にさし 込む。手応えを感じる。磁石同士の反発のよう な,磁石に吸い寄せられるような…。しかし, 持っているのは鉄ではなく,アルミ板。不可思. 議な世界が目の前にあった。それだけ強力な磁 力を持ったものらしい。. 次に見せられたのは,パソコンの画面の白黒 写真。MRIで取った映像らしい。少しぼって りしたハート型で,中央に楕円に近いものが ぼっかりと浮いているなにかの断面図。何枚か の写真を連続で見せられて,どうやらそれは球 体のようであるとわかった。 「アメリカンチェリーですか。」 鹿内先生が言った。納得!と同時に,先に当. てられてしまったことを私は悔やんだ。安達さ んがMRIから筒を取り出す。黒く光っている のはまさしくチェリー。MRIは,液体を映し 出す装置だということ,それを利用して彼は雪 や氷の性質を調べる雪氷学という分野の研究を. していると教えられた。なだれが起きる原因と なる雪を調査し,なだれが起こりそうな場所を 特定したり,船や灯台につく氷をどう予防する かの研究をしているということだった(. Ⅳ.考 察 本研究の目的のひとつは,読解可能なヴィジュ アルテキストを作成することであった。Ⅲ−3− 1でとくに詳しく見たように,学習者たちは,本 研究で作成した写真をテキストにして,変換・要 素関連づけ・外挿活動を活発に行っていた。これ は,本研究で開発した教材が,読解可能なヴィジュ アルテキストになっていることを示している。. 本研究ではヴィジュアルテキストの読解を,見 学の動機づけ・見学の観点設定に活用することも. 目的としていた。Ⅲ−3−6の発言記録からも明 らかなように,学習者たちは見学事前指導によっ て,次時の見学に対して強く動機づけられるよう になっている。このことは,学習者2の見聞録か らもみてとることができる。また,事前指導によっ て見学の観点もまとまってきている。そのため学 習者は実際の見学で多くのことを見て学び,聞い て学んでいる。見学後の「見聞録」ではどの学習 者も,学び取った大量の情報を書いてくれている。 前述したように最近は,見て学んだことを何ら かのテキストにして発信する力も含めてヴィジュ アル・リテラシー. をとらえている。今回参加した. すべての学習者が充実した見聞録をまとめてくれ ている。これは,本研究で開発した教材・授業方. 式は,発信力まで含めたヴィジュアル・リテラ シーを引き出すものになっていることを示してい る。. 学習者2はふりかえり時の感想として次のこと. 139.

(17) 庭内 信善・尾関 俊浩・安達 聖 −『入門演習』授業への活用−」『札幌大学総合論叢』. を書いている。. 24号19−39. 学習者2の感想. 鹿内借善・伊藤裕康・石川清英・伊藤公紀・石田ゆき. 推理ゲームみたいで楽しかった。はやく次の 写真を見たいけど,いつまでも相談していたい ような。写真が出てくるたびに,疑問がでてく. 2008a 「ヴィジュアル・リテラシーの授業開発(Ⅱ). 一学習者参加型授業に活用可能なヴィジュアルテキス トの作成−」 『道都大学紀要美術学部』34号 27−45. 鹿内借善・伊藤裕康・石打ゆき・伊藤公紀・石川清英・. るのが面白くて仕方がない!グループの人と相. 渡辺聡 2008b 「ヴィジュアル・リテラシーの授業開. 談して「これだ!」つてなった時の満足感も最. 発(Ⅲ)一景観教育に活用可能なヴィジュアルテキス. トの作成−」 『北海道生涯学習研究』8号109−118. 高です。. 鹿内信善・伊藤裕康・石川清英・石田ゆき・伊藤公紀. 本研究で開発した教材は「いつまでも相談して いたいような」気持ちにさせてくれる。つまり, ここで開発したヴィジュアルテキストは,協同学. 2009a 「ヴィジュアルテキストの読解指導を取りれた 大学授業の改善(Ⅰ)−『景観行政論』導入部分の授 業づくり−」 『道都大学紀要美術学部』35号. 鹿内信善・伊藤裕康・石川清英・石田ゆき・伊藤公紀. 習を進めるための効果的なツールとなりうるもの. 2009b 「ヴィジュアルテキストの読解指導を取りれた. である。. 大学授業の改善(Ⅱ)−『花時計』を教材にした『景. 今回の授業内容は,学習者が教師になってから 見学指導を行うときに役立つものである。また. 観行政論』の授業づくり−」『道都大学紀要美術学部』 35号. 鹿内信善・石田ゆき・兄玉重嘉・栗原裕一 2009c 「看. PISA型学力を育てる方法にもなりうる。これら. 凶作文の授業開発(ⅩⅠ)−ストーリーコーチング機. は大切な「教師力」となるものである。ヴィジュ. 能を高めた絵図の作成−」 『北海道教育大学紀要(教. アルテキストの読解活動を取り入れつつ,教師力 を高めていく授業レパートリーをさらに積み上げ. 育科学編)』 60巻1号 337−352 清水毅四郎・市川文夫・小林秀夫1990 『子どもを自 主的にする社会科見学・調査の活用1+黎明書房 高田敏実・益子典文他 2006 「/ト学校社会科における. ていきたい。. 見学・調査活動を支援するデジタルコンテンツの設計 と開発」 『岐阜大学カリキュラム開発研究』23巻2. 文 献. 号 53−60. 高橋宏昌 2007 「社会科の見学活動を生かす授業づく. 青山由紀 2009 「編集後記」 『月刊国語教育研究』 448号 71. 国立教育政策研究所 2004 『生きるための知識と技能. り」 『授業の研究』 33. 田中孝一(監) 2007 『中学校・高等学校PISA型「読 解力」』 明治書院. −OECD生徒の学習到達度調査(PISA)−¶ ぎょう せい 日本教育方法学会(編) 2007 『リテラシーと授業改. 付 記. 善−PISAを契機とした現代リテラシー教育の探究−¶. 図書文化 奥泉香 2006 「『見ること』の学習を,言語教育に組み 込む叶能性の検討」 リテラシーズ研究会(編) 『リ テラシーズ2−ことば・文化・社会の日本語教育ヘー¶ 37−50 くろしお出版. 本研究は科学研究費補助金基盤研究(C)・課 題番号21530969(研究代表者:鹿内信善,研究テー. マ「ヴィジュアルテキストを創造的に読む力を育 てる教材開発・授業開発」)によって行った。. 尾関俊浩・安達聖 2008 「新設の低温微風速恒温室と 低温重用MRI装置を用いた雪氷実験に関する一考」 『寒冷地技術論文報告集』21巻 411−414. 鹿内信善 2003 『やる気をひきだす看図作文の授業一 創造的[読み書き]の理論と実践−¶ 春風社. 鹿内信善・伊藤公紀・石田ゆき・渡辺聴・伊藤裕康 2007 「ヴィジュアル・リテラシーの授業開発(Ⅰ). 140. (鹿内 信善 北海道教育大学札幌校教授) (尾関 俊浩 北海道教育大学札幌校准教授) (安達 聖 筑波大学大学院学生).

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参照

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