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mRNA-Seqによる奈良県内の主要品目からのウイルス・ウイロイドの網羅的検出とその実用性評価

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Ann. Rept. Kansai Pl. Prot. (62): 39-45 (2020)

mRNA-Seq による奈良県内の主要品目からの

ウイルス・ウイロイドの網羅的検出とその実用性評価

浅野峻介・芳田侃大・平山喜彦

Shunsuke Asano, Kandai Yoshida and Yoshihiko Hirayama: Detection of a wide range of viruses

and viroids collected in Nara Prefecture fields by mRNA-Seq and evaluation of the detection system

Abstract

Detection of viruses and viroids is mainly conducted by RT-PCR using specific primers for the identification of plant pathogens. However, it is difficult and time-consuming to detect pathogenic viruses using these methods for new strains, unexpected species, or infection of new host plants; in these circumstances, different methods need to be employed. Messenger RNA sequencing technology (mRNA-Seq) detects a wide range of viruses and viroids in a single experiment. Here, we describe a model case in which we detected RNA viruses, DNA viruses, and viroids collected from Nara Prefecture fields using mRNA-Seq and developed an RNA extraction method and data analysis for the establishment of this system. The RNA extraction method was optimized to improve the quality of RNA in chrysanthemum plant tissue. The reduction of the plant tissue in the RNA extraction buffer resulted in the improvement of RNA yields and quality. By introducing the criteria for read number and genome coverage, we detected RNA viruses (cucumber mosaic virus (CMV), tomato spotted wilt virus (TSWV)) and viroids (chrysanthemum stunt viroid (CSVd), chrysanthemum chlorotic mottle viroid (CChMVd)), but not DNA viruses (tomato yellow curl leaf virus (TYLCV), dahlia mosaic virus (DMV)). In addition to the read number and the genome coverage, the average nucleotide sequence identity of reads detected by BLAST homology search and the average length of the identical region are important for judging whether the virus and viroid have infected the plants. These results indicate that the mRNA-seq could detect a wide range of RNA viruses and viroids in plants.

Key words: RNA sequencing, RNA extraction, RNA virus, BLAST 植物病害の適切な防除を行うためには病原体の同定を 行うことが重要である。ウイルス・ウイロイド感染によ る主な病徴であるモザイク,矮化,葉の萎縮は生理障害 に酷似していることが多く,症状のみで診断を行うこと は困難であるためRT-PCR などの遺伝子診断が主に利用 されている。この際,ウイルス・ウイロイド種を類推し て特異的プライマーを用いたRT-PCR での検定を行う。 しかし,想定外のウイルス・ウイロイド種や新系統のウ イルス・ウイロイドが感染していた場合には,検出する ことはできない。検出範囲を広げて属レベルでの保存 領域を対象としたユニバーサルプライマーを用いた PCR による検出方法は開発されているが(Eiras et al., 2001),全てのウイルスまたはウイロイドを対象とした 手法は開発されていない。 近年,プライマー,プローブ及び抗体に頼らない次世 代 シ ー ケ ン ス(Next-Generation Sequencing:NGS) を 用いた網羅的な塩基配列検出技術が,ウイルス・ウイ ロイドの検出に利用されている(Barba et al.,2014)。 多くの植物ウイルスおよびすべてのウイロイドはRNA のゲノムを有しているため(吉川,2013),messenger RNA(mRNA)を網羅的に解析できる mRNA sequencing (mRNA-Seq) で の 検 出 が 可 能 と な っ て い る。mRNA-Seq で使用する RNA の精製方法について,真核生物を 対象としたトランスクリプトーム解析ではmRNA 末端 のpolyA-tail を oligo-dT で捕捉する手法が主となってい るが(illumina,2018),polyA-tail を持たないウイルス やウイロイドは捕捉できない。そこで,原核生物を対象 とする際に用いられるrRNA を選択的に分解する手法を

奈良県農業研究開発センター Nara Prefecture Agricultural Research and Development Center 2020年2月14日受理

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用いて,ゲノム末端の配列に影響されずにウイルス・ ウイロイドのRNA を精製することができる(神谷ら, 2017)。 mRNA-Seq で使用する RNA の純度および分解度には 高い水準が求められており,純度は吸光度基準ではO.D. 260/280 が1.7以上,O.D. 260/230 が1.8以上であり,分解 度はRNA の分解度を示す RIN(RNA integrity number) 値が6.3以上とされている(Filgen,2019)。ただし植物 種によってRNA の抽出しやすさは異なり,多糖類の多 いイチゴやキクでは高品質のRNA を抽出することが困 難となっている。これらについては抽出方法の検討や前 処理により多糖類を除去する手法などにより対応してい るものの(塩飽ら,1996;鳴坂ら,2018),作業工程が 多くなるため,簡易なRNA 抽出法の確立が求められて いる。 これまでにmRNA-Seq による網羅的技術を用いてウ イルス・ウイロイドの検出に成功した報告は数多く認め られるものの,具体的な検出の過程や詳細なデータを示 したものは数少ない。そこで,本報告ではRNA の品質 について,キクを対象としたカラムを用いた抽出法で, サンプル量の違いが及ぼす影響を評価し,さらに奈良県 内での主要なウイルス・ウイロイドを対象にmRNA-Seq による網羅的検出を行い,感染の有無を判断するための データ解析基準を示す。

材料および方法

1.RNA 抽出方法の比較 (1)供試植物およびRNA 抽出 キク‘春日の紅’の最上位展開葉 100 mg を供試し, RNeasy Plant Mini Kit(Qiagen)を用いて RNA 抽出を 行った。バッファーに対するサンプル量が異なる以下 の手法1と手法2により実施した。手法1ではβ-ME (β-mercaptoethanol)を 10 μl/ml添加したbuffer RLT 450 μl に凍結摩砕したサンプル 100 mg を懸濁して QiAshredder スピンカラム(紫)に投入し,2分間,15,000 rpm で遠 心分離した。ライセートに半量のエタノールを添加して 混和後,RNeasy スピンカラム(ピンク)に投入し,以 下はプロトコル通りの手順で作業を実施した。手法2で は,凍結摩砕したサンプル 100 mg を 50 mg に二分し, それぞれを上記と同様のbuffer RLT 450 μl に懸濁して異 なるQiAshredder スピンカラムに投入した。これらを上 記と同様に遠心分離した後,それぞれのライセートに半 量のエタノールを添加して混和し,同一のRNeasy スピ ンカラムに投入し,以下はプロトコル通りの手順で作業 を実施した。両手法について14反復で試験を実施し,同 一反復については同じ葉を使用した。 RNA の濃度,純度の測定には NanoDropOne(Thermofisher Scientific)を使用した。 2.mRNA-Seq によるウイルス・ウイロイドの検出 (1)供試植物

Tomato spotted wilt virus(TSWV)または dahlia mosaic virus(DMV)に感染したダリア,cucumber mosaic virus (CMV)に感染したビンカ,tomato yellow curl virus(TYLCV)

に感染したトマトを2018年に奈良県内の圃場から採取し た。Chrysanthemum stunt viroid(CSVd)は配列の異な る3系統(Asano et al.,2020)を供試した。CSVd(DDBJ accession number LC433628,LC433629)に感染したダ リアをそれぞれ2014年に北海道,2015年に長野県の圃場 から採取した。さらに上記の系統と異なるCSVd(DDBJ accession number X16408)に感染したキクを奈良県内の 圃場から2012年に採取した。 (2)ウイルス・ウイロイド検定 供試植物のウイルス・ウイロイドの感染確認を行っ た。TSWV,DMV,CSVd の 検 定 は Asano et al.(2015) の方法に基づいてmicro tissue direct RT-PCR により実 施した。CMV については CMV イムノストリップキッ ト(agdia)用いた Rapid immunofilter paper assay(RIPA 法)により,TYLCV については黄化葉巻病診断キット (ニッポンジーン)を用いたLAMP 法により実施した。 (3)RNA 抽出

RNA の 抽 出 は 各 サ ン プ ル の 葉 100 mg を 用 い て RNeasy Plant Mini Kit(QIAGEN)を用いて上記の手法 1または2により実施した。

抽出したRNA の品質は NanoDrop One(Thermo Fisher Scientific),Quant-iT RiboGreen RNA Assay Kit(Thermo Fisher Scientific),2100 bioanalyzer(Agilent)を用いて 測定した。

(4)RNA-Seq

RNA の精製および mRNA-Seq 解析を Filgen 株式会社 に委託した。RNA の精製は rRNA removed by Ribo-zero & strand specific(TruSeq® Stranded Total RNA Library

Prep Plant;Illumina) に よ り 実 施 し た。mRNA-Seq は Illumina NovaSeq6000 を用いて,PE 150,strand-specific library 5 Gb raw data の条件で実施した。

mRNA-Seq により得られた塩基配列情報(fasta ファ イル)を対象にBLAST 検索(相同性検索)を実施した。 一度に1,600万リードの検索を実施するため Local 環境下 でウイルス・ウイロイドの塩基配列データベースを構築 した。なおデータベースにはNCBI の Complete Refseq release of viral and viroid sequences(https://www.ncbi.

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nlm.nih.gov/genome/viruses/)を使用した。上記のリファ レ ン ス 配 列 にhisat2(https://ccb.jhu.edu/software/hisat2/ index.shtml)を用いてマッピングを実施した。リファ レンスのゲノム長に対するマッピング率はIntegrative Genomic Viewer(IGV:http://software.broadinstitute.org/ software/igv/)を用いて計測した。解析用のパソコン にはMacBook Pro(13-inch,Late 2013,メモリ16 GB) (Apple)を使用した。

結   果

1.RNA 抽出方法の比較 抽出バッファーに対するキクの葉の凍結サンプル量を 100 mg にした手法(手法1)および 50 mg に半減した 手法(手法2)では,RNA の濃度はそれぞれ 29 ng/μl, 130 ng/μl となり,サンプル量を半分に減らすことで収 量の増加が認められた(表1)。RNA の純度の指標であ るO.D. 260/280 はそれぞれ1.9,2.0であり,大きな差は 認められなかった。一方で,O.D. 260/230 はそれぞれ0.2, 1.6であり,サンプル量を減らすことで純度が向上する 傾向が認められた。RNA の分解度の指標である RIN 値 はそれぞれ2.8,8.4となり,サンプル量を減らすことで 低分解度のRNA が得られた。 2.mRNA-Seq によるウイルス・ウイロイドの検出 (1)供試植物および抽出RNA 供 試 し た 植 物 葉 か らRT-PCR,LAMP 法 あ る い は RIPA 法により CMV,TSWV,CSVd,CChMVd,DMV, TYLCV が検出された。

mRNA-Seq に供試する RNA の濃度について,NanoDrop One で測定した値は 82~859 ng/μl であり,RiboGreen で は 46~568 ng/μl であった(表2)。なお,いずれのサンプ ルにおいてもRiboGreenで測定した際に低い値を示した。

O.D. 260/280 および O.D. 260/230 が基準値を満たした

表1 キクのサンプル量別のRNeasy Plant Mini Kit による抽出 RNA の濃度,純度および分解度

抽出方法 測定項目 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 平均 サンプル 通常量 濃度(ng/uL) 124 64 54 53 15 14 13 11 8 9 10 11 13 13 29 O.D. 260/280 1.9 1.8 1.8 1.8 1.7 1.9 2.0 2.1 2.0 2.0 1.9 1.9 1.7 2.1 1.9 O.D. 260/230 0.2 0.3 0.1 0.2 0.4 0.4 0.7 0.1 0.1 0.0 0.1 0.1 0.3 0.0 0.2 RIN 値 3.4 2.6 2.5 2.6 n.d.a n.d. n.d. n.d. n.d. n.d. n.d. n.d. n.d. n.d. 2.8 サンプル 半量 濃度(ng/uL) 150 130 143 168 100 141 197 124 134 115 147 84 99 91 130 O.D. 260/280 2.0 2.0 2.0 2.0 2.0 2.0 2.0 2.0 2.0 1.9 1.9 2.0 2.0 2.1 2.0 O.D. 260/230 1.8 1.8 1.8 2.2 2 2 2.2 1.6 1.5 1.4 1.1 1.5 0.6 0.9 1.6 RIN 値 9.4 7.3 8.2 8.6 n.d. n.d. n.d. n.d. n.d. n.d. n.d. n.d. n.d. n.d. 8.4 太字:濃度が 100 ng/μl 以上,O.D. 260/280が1.7以上2.2以下,O.D. 260/230が1.8以上2.2以下,RIN 値が6.3以上。

サンプル通常量:buffer RLT450μl にキクの凍結粉砕サンプルを 100 mg 加え,抽出を行った。 サンプル半量:buffer RLT450μl にキクの凍結粉砕サンプルを 50 mg 加え,これを2本分用いて抽出を行った。 a no data 表2 mRNA-Seq に使用した RNA の品質 分類 ウイルス・ウイロイド種 植物種 感染の確認 濃度(ng/μl) b O.D. 260/280 260/230O.D. RIN 値 NanoDrop RiboGreen RNA ウイルス TSWV ダリア RT-PCR 859 568 2.2 2 6.2 CMV ビンカ イムノストリップ 82 46 2.2 1.8 3.6 DNA ウイルス TYLCV トマト LAMP 610 356 2.2 2.3 5.9 DMV ダリア RT-PCR 403 268 2.2 2.4 N/Ad ウイロイド CSVd(No. X16408) キク RT-PCR 239 109 2.15 1.84 6.2 CSVd(LC433628) ダリア RT-PCR 361 265 2.2 1.9 7.3 CSVd(LC433629) ダリア RT-PCR 355 245 2.1 2.1 5.8 CChMVd キク RT-PCR 311 186 2.2 2.1 7.3 Bulka 184 n.d.c 1.9 2.3 7.1 a 各植物より抽出した total RNA をリボグリーンで測定した値に基づいて等量混合した Bulk の RNA を mRNA 解析に使用した。 b NanoDrop One または Quant-iT RiboGreen RNA Assay Kit で測定した。

c no data

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全8サンプル中6サンプルでRIN 値が5.8以上となり, RNA の分解度が低いと評価された。 (2)mRNA-Seq で得られたリードの解析 mRNA-Seq により得られた16,917,491リードを BLAST 検索した結果を表3に示した。BLAST 検索の結果,感 染が確認されているRNA ウイルスである CMV,TSWV に つ い て は 2 万 ~12万 リ ー ド, ウ イ ロ イ ド で あ る CSVd,CChMVd については5千~8千リードが抽出さ れた。一方,DNA ウイルスである DMV については206 リードのみが抽出され,TYLCV については全く抽出さ れなかった。 感染しているRNA ウイルス,ウイロイドについては 抽出されたリードの平均相同性は 95%,平均相同性領 域は 143 bp であった(表4)。一方,感染が確認されて いないものの,BLAST 検索での抽出数が多い RNA ウイ ルス・ウイロイド種については相同性領域が 67~117 bp と短く,相同性が約 80%と低い特徴が認められた。なお, DMV については相同性領域 145 bp であったが,相同性 が 82%と低かった。 RNA ウイルス・ウイロイドをリファレンス配列に マッピングしたところ,カバー率は,CMV,TSWV で はゲノム分節により異なり,CMV では 51~99%であっ たが,TSWV では 24~66%であった(表5)。ウイロイ ドについては,CSVd,CChMVd ともに 100%であった。 DMV については 43%であった。 CSVd 3系統間で多型がある6箇所の塩基すべてで正 表3 ウイルス・ウイロイド種を対象としたBLAST 検索により抽出された RNA-Seq により得られたリード数 ウイルス・ウイロイド種の塩基配列 リード数

Cucumber mosaic virus RNA 3, complete sequencea 121,864

Prochlorococcus phage P-RSM4, complete genome 89,221

Tomato spotted wilt virus RNA S, complete sequence 78,603

Cucumber mosaic virus RNA 1, complete sequence 68,824

Cucumber mosaic virus RNA 2, complete sequence 66,579

Tomato spotted wilt virus RNA M, complete sequence 30,570

Tomato spotted wilt virus RNA L, complete sequence 20,061 Pepper chlorotic spot virus isolate 14YV733 segment L, complete sequence 15,227

Tomato chlorotic spot virus isolate DR segment S, complete sequence 8,387

Chrysanthemum stunt viroid, complete genome 7,982 Citrus exocortis viroid, complete genome 5,194

Chrysanthemum chlorotic mottle viroid, complete genome 4,859 Tomato apical stunt viroid, complete genome 4,727 Tobacco streak virus RNA 1, complete sequence 4,269 Shamonda virus N and NSs genes, segment S, genomic RNA, isolate Ib An 5550 4,152 Chrysanthemum stem necrosis virus isolate PD4412741 segment M, complete sequence 3,646 Gayfeather mild mottle virus RNA 1, complete sequence 3,028 Tomato aspermy virus RNA 1, complete sequence 2,490 Zucchini lethal chlorosis virus isolate ZLCV-SP segment M, complete sequence 2,319 Peanut stunt virus RNA 3, complete sequence 2,088 Tobacco streak virus RNA 3, complete sequence 1,780 Tobacco streak virus putative viral polymerase and putative 2b protein genes, complete cds 1,770 Groundnut ringspot and Tomato chlorotic spot virus reassortant segment M, complete genome 1,566 Cyprinid herpesvirus 1 strain NG-J1, complete genome 1,440 Tomato chlorotic spot virus isolate DR segment M, complete sequence 1,392 Gayfeather mild mottle virus RNA 3, complete sequence 1,115 Tomato chlorotic spot virus isolate DR segment L, complete sequence 863 Groundnut ringspot and Tomato chlorotic spot virus reassortant segment L, complete genome 713 他 ウイルス・ウイロイド19種 608~225

Dahlia mosaic virus clone pDaMV-p2, complete genomeb 206

他 ウイルス・ウイロイド192種 200~1

a 太字は供試サンプルでの感染が確認されているウイルス・ウイロイド種。

b DMV は供試サンプルでの感染は確認されているが,mRNA-Seq では非検出と判断された。

tomato yellow curl leaf virus は供試サンプルでの感染は確認されているが,mRNA-Seq ではリードが全く抽出さ れなかった。

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確な塩基配列が検出された(表6)。

考   察

本報告では,mRNA-Seq を用いたウイルス・ウイロ イドの網羅的検出における技術的な障壁となるRNA 抽 出およびデータ解析について検討を行った。高純度の RNA 抽出が困難であるキクにおいて,RNA 抽出バッ ファーに対するサンプル量を減らすことで,RNA の収 量,純度の向上およびRNA の分解度の低減が確認され た。データ解析については,感染しているウイルス・ウ イロイドを判別するにはBLAST 検索およびマッピング を行うことが有望であることが示唆された。感染して いるウイルス・ウイロイドはBLAST 検索で抽出される リード数が多く,また抽出されたリードは相同性が高 く,さらに相同性を示す部位が長いという特徴を示した。 表4 BLAST 検索で抽出されたリードのウイルス・ウイロイド種との相同性の平均値および相同性領域の平均長 感染の有無 BLAST 検索結果 相同性(%) 相同性領域(bp) 感染a Cucumber mosaic virus RNA 3, complete sequence 93.4 147.4

Tomato spotted wilt virus RNA S, complete sequence 94.9 148.2 Cucumber mosaic virus RNA 1, complete sequence 96.5 148.0 Cucumber mosaic virus RNA 2, complete sequence 96.0 140.4 Tomato spotted wilt virus RNA M, complete sequence 93.6 139.8 Tomato spotted wilt virus RNA L, complete sequence 93.9 148.8 Chrysanthemum stunt viroid, complete genome 96.9 127.6 Chrysanthemum chlorotic mottle viroid, complete genome 98.0 148.8

平均 95.4 143.6

Dahlia mosaic virus clone pDaMV-p2, complete genomeb 88.4 145.0

非感染 Pepper chlorotic spot virus isolate 14YV733 segment L, complete sequence 92.7 67.4 Tomato chlorotic spot virus isolate DR segment S, complete sequence 85.8 142.2 Citrus exocortis viroid, complete genome 91.4 64.0 Tomato apical stunt viroid, complete genome 82.4 116.9

平均 88.1 97.6 mRNA-Seq で得られたリードを BLAST 検索し,各ウイルス・ウイロイド種別に抽出されたリードについて相同性および相同 性領域の長さの平均値を算出した。 a mRNA-Seq に供試した植物サンプルでの感染が確認されている。 b BLAST 検索で抽出されたリード数が少ないことから,mRNA-Seq では非検出と判断された。 表5 mRNA-Seq により得られたリードのリファレンスゲノ ムへのマッピング ウイルス・ウイロイド種 カバー率(%) CMV RNA 1 99.2(3,329/3,357)b CMV RNA 2 95.1(2,900/3,050) CMV RNA 3 50.8(1,125/2,216) TSWV RNA L 32.0(2,849/8,897) TSWV RNA M 23.9(1,152/4,821) TSWV RNA S 65.5(1,911/2,916) CSVd 100.0(354/354) CChMVd 100.0(399/399) DMVb 42.9(3,390/7,899) a リードのカバー長 / リファレンスゲノム長 b mRNA-seq では非検出と判断された。 表6 mRNA-Seq によるキク矮化ウイロイド(CSVd)系統の塩基配列の多型の検出状況 多型部位 塩基の割合(%) 総検出数 塩基配列の多型とCSVd 系統 A T G C 64 55 0 44 0 1,335 A:LC433628, LC433629 G:X16408 65 44 0 56 0 1,335 G:LC433628, LC433629 A:X16408 169 46 0 54 0 2,666 A:LC433628, X16408 G:LC433629 190 0 53 0 47 2,490 T:LC433628, X16408 C:LC433629 298 77 0 23 0 856 A:LC433629, X16408 G:LC433628 299 66 0 0 34 847 A:LC433628, X16408 C:LC433629

(6)

マッピングについては,ウイルス・ウイロイドのリファ レンスに対するカバー率が感染種では高い傾向が認めら れた。

キクから抽出したRNA では,O.D. 260/280 より O.D. 260/230 で基準値を大きく下回る傾向が認められた。 RNA の吸光度は 260 nm を示し,O.D. 260/280 が低い場 合はタンパク質およびフェノール類等の混入が疑われ, O.D. 260/230 が低い場合は多糖類,塩基類,有機溶媒等 の混入が疑われる(Thermo Fisher Scientific, 2019)。キ クの葉には多糖類,ポリフェノール類(Adachi et al., 1999;Lai et al.,2007)が含まれており,サンプル量が 多い際はこれらを除去しきれないことで抽出の効率およ び純度の低下が生じたと考えられる。またRNA の分解 度については,抽出バッファー内にはRNase 阻害剤が 含まれているものの,一定量以上のサンプル量に対して は十分な効果を示せないことが一要因と推察された。な お,RNeasy Plant Mini Kit のプロトコルにおいても,植 物種によってRNA の収量に幅があり,抽出効率に関す る情報がない植物種についてはサンプル量を標準である 100 mg から 50 mg に減らすように記載されている。

Ribogreen は RNA および DNA を特異的に蛍光測定す る一方で,NanoDrop は 260 nm の吸光度から RNA 量を 測定しており,除去しきれなかったDNA に加えフェノー ルやタンパク質等が混入しても測定値が高くなる傾向が ある(BioTek,2019)。そのため,本報告で用いた RNA 抽出法においても,これらの混入が想定されるため,正 確なRNA 量を測定する必要がある際は,RiboGreen の 使用が望ましい。 O.D. 260/280 および O.D. 260/230 の基準を満たした RNA の多くは分解度が低いものの,一部で分解度が高 いサンプルが認められたことからRIN 値の測定による 分解度の確認は必要と考えられる。 mRNA-Seq で得られたデータ解析では,BLAST 検索 で抽出されたリード数の上位に感染ウイルス・ウイロイ ド種が多く含まれており,検索数は感染種を推測する上 での有益な情報となる。Kamitani et al.(2016)におい ても同様にウイルス種の抽出リード数と実際の感染の有 無には明らかな関連性が認められた。 BLAST 検索で抽出されたリード数上位に位置するウ イルス・ウイロイド種の中には感染が確認されていない ものも含まれていたが,リード長や相同性の低さから区 別することが可能と考えられた。また,CMV や TSWV の様に分節ゲノムを有するウイルスについては,それぞ れの分節ゲノムでのBLAST 検索での抽出リード数も判 断の基準となり,一部の分節ゲノムで抽出リード数が少 ない場合は非感染であると推察される。DMV について は,BLAST 検索で抽出されたリード数が少なかったこ とや,相同性が低かったことから,塩基配列が類似した リードが誤って抽出されたと考えられる。 リファレンス配列にマッピングした際のリードによ るカバー率については,CMV では RNA 1 および 2 では 95%以上となったもののRNA 3 では 50.8%と低い値を 示しており,分節ゲノムによりカバー率が異なる傾向 が認められた。TSWV でも同様に分節ゲノムによって カバー率が異なっており,さらにカバー率が最も高い RNA S でも 65.5%と比較的低く,RNA L および M では それぞれ 32.0%,23.9%とさらに低い値を示しており, ウイルス種間でもカバー率が異なることが明らかになっ た。この要因については明らかではないが,Kamitani et al.(2016)でもカバー率はウイルス種により 50~100% と幅が広くなっている。またJo et al.(2016)において はリードが集中的にマッピングされるウイルスゲノム部 位と全くされない部位が生じることが詳細に示されている。 CSVd,CChMVd ではカバー率がほぼ 100%と高い値 を示したことから,ゲノム長が約 400 bp と短いウイロ イドでは,高いカバー率が期待されると考えられる。 3系統のCSVd の塩基配列の多型を正確に検出し, さらに誤った塩基が全く検出されていないことから mRNA-Seq によるシーケンスの正確性の高さが確認され た。すでにmRNA Seq を用いたウイルスの全ゲノム解 読も行われており(Lee et al.,2014),既存のシーケンサー より得られる塩基配列数が多いことから効率的な解読が 可能となっている。 また,mRNA-Seq によるウイルス検出では新規ウイル スの探索もなされており,既存のウイルス種に一致しな かったリードでde novo assembly を行い,BLAST 検索 によりウイルス様の配列を選抜することで成功した事例 が報告されている(Kamitani et al.,2016)。 本報告で用いた2種のDNA ウイルスが検出されな かったことから,DNA ウイルスの検出に mRNA-Seq は 不適であることが示唆された。一方でsiRNA を対象と した網羅的検出ではDNA ウイルスも検出されているこ とから(Seguin et al., 2014),検出対象を考慮の上で手 法を選択するべきである。本報告で使用したmRNA-Seq で検出できるリード長は 150 bp 前後であり,植物の防 御反応により生じたウイルス由来のsiRNA を検出でき ないことが要因と考えられる。ただし,siRNA-Seq を用 いた場合は得られるリード長が20数bp と短いため,アッ センブルしたリードでBLAST 検索する必要がある。そ のためmRNA-Seq では長いリードが得られるため解析

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を省力化できる利点がある。 網羅的検出技術で植物のウイルス・ウイロイド感染を 確認した後は,病原体であることの証明が課題となる。 そのためには汁液接種などによる病徴再現が必要となる が,無駄な接種試験を避けるために,まず症状と感染の 有無の相関関係から病原ウイルス・ウイロイドの検討を つけることを推奨する。 以 上 の こ と か らmRNA-Seq に よ る 網 羅 的 検 出 は, RNA ウイルス・ウイロイドを対象とした際に実用性が 高いことが示された。mRNA-Seq の委託料の低価格化が 進んでおり,本手法の導入が進んでくると想定される。 本報告での結果によりmRNA-Seq による RNA ウイル ス・ウイロイドの網羅的検出に必要なRNA 抽出方法の 選択や解析データの解釈が可能になると考えられる。

摘   要

病原体の同定のためのウイルス・ウイロイド検定に は,特異的プライマーを用いたRT-PCR が主に使用され ているが,想定外の種や新系統のウイルス・ウイロイド が感染していた場合には,検出することはできない。そ のため,messenger RNA sequencing(mRNA-Seq)を利 用した網羅的にウイルス・ウイロイドを検出する手法の 活用が期待されている。本報告ではmRNA-Seq を用いて, 奈良県内圃場で採取したRNA ウイルス,DNA ウイルス 及びウイロイドの網羅的検出を試み,その中でRNA 抽 出およびデータ解析手法について検討を行った。 RNA 抽出バッファーへのキク植物体の投入量を減 少させることで,RNA の収量および品質が向上した。 mRNA-Seq により検出されたリードの数およびゲノムの カバー率を判断基準とすることで,RNA ウイルスであ るCMV,TSWV,ウイロイドである CSVd,CChMVd を 検出できた一方でDNA ウイルスである DMV,TYLCV は検出されなかった。さらにBLAST 検索で抽出された リードの相同性と相同性部位の長さが,ウイルス・ウイ ロイド感染の有無を判別する重要な情報になることが示 唆された。これらの結果からmRNA-Seq を用いること で網羅的にRNA ウイルス及びウイロイドを検出できる ことが示された。

引 用 文 献

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参照

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