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<第23回山梨医科大学CPC記録> Parkinsonismを伴ったAutonomic Failureの1例 利用統計を見る

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Academic year: 2021

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症例提示 稲田秀俊研究生(神経内科) 症例: Y.K. 60 歳,女性(ID140-184-2 AN1221) 主訴:排尿障害,便秘,歩行障害 現病歴: 1993 年 10 月頃より膀胱炎を繰り返し 発症するようになった。1994 年 11 月頃から は高度の便秘,起立性低血圧,歩行時のふら つき等の症状が出現し増悪したために当科を 受診した。高度の自律神経症状に加え,振戦, 仮面様顔貌,固縮などの Parkinsonism を認 めたため多系統萎縮症(Shy-Drager 症候群) を疑ったが,確定診断には至らず Pakinson-ism を伴った progressive autonomic failure として経過観察していた。抗パーキンソン薬, 脳循環改善剤や種々の薬剤を試したが,その 後も更に症状は進行し 1996 年 3 月頃からは, 歩行困難な状態となったために 1996 年 4 月 9 日,当科に再入院した。 既往歴:特記事項なし。 家族歴:特記事項なし。 患者背景:喫煙歴なし,アルコールは機会飲酒 程度。 入院時身体所見:身長 151 cm,体重 38.5 kg, 血圧 110/72(臥位),76/58(立位)脈拍 80 拍/分 整,体温 37.0°C,仮面様顔貌で顔面 皮膚は脂ぎっている。心,肺所見に異常なし。 腸雑音の低下および腹部の著明な膨満を認め た。仙骨部に軽度の褥瘡を認めた。 神経学的所見: (大脳高次機能)意識清明,見当識障害なし。 (脳神経系)眼球運動に可動域制限なし。眼振 なし。舌尖偏位なし。構音障害あり。(小声 でやや早口で話し,不明瞭な言語だった)嚥 下障害あり。(とくに,米飯が飲込みにくく, パンを常食としていた) (運動系)四肢,体幹に明らかな麻痺はなかっ たが,MMT で 4 程度の全身的な筋力低下を 認めた。深部腱反射は両側上下肢ともに亢進 し,Babinski 反射が両側陽性だった。(錐体 路徴候) 項部および四肢に左右差なく固縮を認め, 両手に 5 Hz 前後の安静時振戦が見られた。 また Meyerson 徴候が陽性だった。(錐体外 第 23 回山梨医科大学 CPC 記録 日時:平成 11 年 1 月 13 日(水)午後 5 時 15 分∼ 6 時 45 分 場所:臨床講堂大講義室 司会:塩澤全司教授(神経内科),川生 明教授(病理学2)

Parkinsonism を伴った autonomic failure の 1 例

要 旨: 60 歳の女性。1 年半前,膀胱炎を反復し,便秘,起立性低血圧,歩行時のふらつきがあ り,高度の自立神経症状に加え,振戦,仮面様顔貌,固縮などを認め,Parkinsonism を伴った多 系統萎縮症とくに Shy-Drager 症候群が疑われ,薬剤投与により経過観察されていたが,症状が進 行したため再入院した。入院後肺炎と尿路感染による発熱が頻発し,運動機能はさらに低下,上 気道狭窄による呼吸困難,血圧の変動や不整脈が目立つようになり,徐々に心肺機能が低下して 入院後 1 年 9 カ月で死亡した。剖検の結果,脳病変として黒質,線状体,橋,延髄,小脳プルキ ンエ細胞層,脊髄中間質外側核の神経細胞の脱落とグリオーシス,glial cytoplasmic inclusion が 検出され,多系統萎縮症と診断されたが,Shy-Drager 症候群を確定するにはいたらなかった。後 輪状披裂筋の萎縮と器質化肺炎が認められ,両者に起因する呼吸困難により死亡したと判断され た。

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路徴候) (感覚系)表在覚,深部覚ともに異常はなかっ た。 (小脳系)指鼻試験,回内回外運動は左右両側 ともに拙劣だった。 (自律神経)排尿困難のためバルーンが留置さ れていた。また,極めて重度の便秘を認めた。 起立性低血圧が著明で臥位から座位への起き 上がり時にもめまいを訴えた。 (起居動作,歩行)臥位からの起き上がりには 軽度の介助を要したが,立位保持は可能だっ た。つたい歩きがなんとか可能だったが,前 屈姿勢でバランスを崩しやすかった。小刻み 歩行が見られたが,すくみ足は目立たなかっ た。 入院時検査所見: 血液検査 血算;すべて正常範囲。生化学; Alb 3.8 ↓,T. chol 238 ↑ 他はすべて正常 範囲。凝固系;異常なし。 心電図 異常なし

脳波 Diffuse theta basic pattern,slow wave in Rt. P-O areas. 画像:スライドにて提示。 臨床経過:入院時より,種々の脳循環改善薬や 抗パーキンソン薬を順次投与したが,臨床症 状に大きな変化はなかった。1996 年 5 月下 旬頃から,肺炎や尿路感染に伴う発熱が頻発 するようになり,喀痰培養からは MRSA や 緑膿菌がたびたび検出された。同年 8 月頃よ りイビキがひどくなった。またその頃より覚 醒時にも「ウーウー」という,うなり声をあ げるようになった。当初うなり声は指摘する と止めることができたが,徐々に止まらなく なったため耳鼻科に相談したところ,声帯が つねに震えている(振戦)ためであろうとの ことであった。同年 12 月からは,運動機能 が更に低下し,ほとんど寝たきりの状態とな った。また球麻痺症状が進行し誤嚥性肺炎を 繰り返すようになった。麻痺性イレウスもた びたび起こしたため 1997 年 1 月からは IVH 管理とした。その後も自律神経症状を中心に 徐々に症状は悪化した。たびたび肺炎や尿路 感染による発熱がみられたが,抗生剤によく 反応し全身状態は比較的落ち着いていた。同 年 10 月下旬より,39°C 台の高熱が続き急激 に全身状態が悪化した。肝機能低下に伴う低 アルブミン血症が進行し,抗生剤にも反応し にくくなった。また上気道狭搾によると考え られる呼吸困難が増悪したため 11 月上旬か らは経鼻挿管を行ったが,本人,家族の希望 により気管切開の施行や人工呼吸器の使用は 行わないこととした。12 月上旬からは発熱 に加え,血圧の変動や不整脈(主に上室性期 外収縮)が目立つようになった。徐々に心肺 機能が低下し,1998 年 1 月 4 日午後 9 時 28 分死亡した。 (血液所見) 1997 年 10 月 15 日 同年 12 月 22 日 (血算) WBC 5490/µl 8600/µl RBC 380 万/µl 224 万/µl Hb 12.0 g/dl 6.1 g/dl Ht 35.6 % 20.4 % Plt 37 万/µl 20 万/µl (生化学) TP 6.9 g/dl 5.6 g/dl Alb 2.7 g/dl 2.1 g/dl T.Bill 0.3 mg/dl 0.6 mg/dl ALP 483 IU/l 781 IU/l GOT 21 IU/l 15 IU/l GPT 42 IU/l 26 IU/l LDH 191 IU/l 180 IU/l γ-GTP 98 IU/l 129 IU/l BUN 30 mg/dl 10 mg/dl CRE 0.75 mg/dl 0.22 mg/dl UA 9.3 mg/dl 2.8 mg/dl Na 153 mEq/l 134 mEq/l K 3.4 mEq/l 3.3 mEq/l Cl 101 mEq/l 90 mEq/l CRP 5.5 mg/dl 21.3 mg/dl 剖検目的: 1)臨床診断は Shy-Drager 症候群としたが,病

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理診断はどうか。 2)死因は原疾患による呼吸不全と考えている が,それでよいか。 3)Shy-Drager 症候群では後輪状披裂筋の麻痺 による呼吸困難や突然死が多いとされている が,本症例ではいかがか。 検査値分析 尾崎由基男教授(臨床検査医学) 1997 年 10 月 CRP が高値を示すに付随して, ALP,γ-GTP,UA が増加している。特に ALP の増加は 800IU/l に達するほど著しい。ALP は 肝炎,薬物による肝障害などでは,ALP1 + 2 型,骨では ALP3 型,悪性腫瘍などでは ALP4 型が増加し,また免疫グロブリン結合型の出現 す る 場 合 も あ る 。 こ の ケ ー ス で は ,ALP の isozyme の測定は施行しておらず,isozyme か らの判定はできない。しかし,ALP,γ-GTP, L A P の 膜 酵 素 系 が 増 加 し て い る が , G O T , GPT の増加は軽度であることより,何らかの 薬剤性肝障害または肝臓における space occu-pying lesion が推定される。年齢,栄養状態よ り考え,この症例の 8–10 mg/dl は異常に高く, 尿酸排泄を妨げる薬剤の影響を考えざるをえな い。これらのデータを総合して判断すると,薬 剤の副作用が共通する因子として想定される。 CRP の異常高値に伴い出現した異常であるこ とも考え合わせると,抗生物質の影響が強く疑 われる。 画像診断 青木茂樹助教授(放射線部) 1994 年 11 月から 1997 年 7 月までに定期的に 6 回の MRI が施行されている。早期の MRI で も基底核にわずかな異常を認め,後期では小脳, 脳幹の著明な萎縮と橋の横走線維の T2 強調像 における高信号など,Multiple System Atrophy (MSA)の典型的 MRI 所見を呈した。また,後 期の MRI では基底核レベルの T1 強調像(非呈 示)で淡蒼球の高信号がみられた。長期経静脈 栄養や肝硬変などに伴う門脈体循環短絡でみら れる所見で,マンガンの貯蓄によるとされる。 MSA とは無関係と考えられる。 画像上,脳幹・小脳に著明な萎縮を呈する疾 患としては,遺伝性の脊髄小脳萎縮(MSA 1, 2, 3(Machado-Joseph),DRPLA など)と MSA で括られる非遺伝性の OPCA,SND(striatoni-gral degeneration),Shy-Drager 症候群がある。 遺伝性のものは遺伝子診断が可能となってきて いるようだが,MRI でも,MSA では横走線維 の T2 強調像高信号や被殻外側の線状の T2 強 調像高信号が高頻度に見られるのに対し,遺伝 性のものでは目立たないとされる。 病理所見と診断 平島奈緒子大学院生(病理学 1) <病理所見> (剖検番号 1221,死後 12 時間 27 分で解剖) 図 1. 頭部 MRI(94.11.30 施行) 基底核レベルの T2 強調軸位断像(従 来の SE 法)では,被殻が対称性に軽 度低信号を呈する。この被殻の低信号 の所見は,過去の報告で MSA の所見 とされたが,最近のルーチンに用いら れる高速 SE 法では捉えにくい。また, 僅かではあるが,被殻の外側に線状の 高 信 号 域 が 見 ら れ る ( 矢 尻 )。 現 在 MSA で初期から見られる所見とされ る。橋レベルの T2 強調軸位断像(非 呈示)ではまだ萎縮や信号は明らかで なかった。

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A.肉眼的所見 1.外表:身長 151 cm,体重 53 kg。軽度肥満。 腹囲 86 cm。表在リンパ節を触知しない。眼 球結膜に軽い黄染があり,眼瞼結膜に貧血を 認める。瞳孔は正円で,左右とも 6 mm。皮 膚に黄染なく,下腹部に 10 cm の帝王切開の 手術瘢痕あり。上下肢の筋肉に目立った萎縮 はないが,下腿に浮腫をみる。 2.体腔液:左胸水 300 ml,心嚢液 16 ml,腹 水少量,いずれも黄色透明。右胸水少量,淡 血性。 3.脳:(1,400 g)大脳は,浮腫の為か脳回が平 坦になってるところがある。前頭葉は特に右 側で萎縮気味。硬膜,軟膜に著変なし。脳幹 部は大脳と比べて相対的にかなり小さい(大 脳脚,橋,延髄と小脳のやせ)。脳室の軽度 の拡大も見る。黒質の面積が減少し,色素も 減っている。 4.消化管など:軽い炎症を小腸に認めるが, 他は著変なし。Cecum に山田Ⅳ型ポリープ を認める。 5.骨盤内臓器:膀胱粘膜にびらんを見る以外 著変なし。 6.腎臓:(左 280 g,右 280 g)左右共に被膜剥 離は容易だが,表面の凹凸が目立つ。両下極 の皮髄境界はやや不明瞭。 7.心臓:(400 g)心内膜は滑らか。心筋の肥 厚は認めない。心内膜も滑らかで血栓形成も 認めない。冠状動脈に有意な狭窄はない。 8.肺臓:(左 485 g,右 735 g)いずれも特に上 葉での胸膜との癒着が著しい。葉間胸膜にも 癒着がある。胸膜下の実質に炎症を見るが, 肺全体には広がっていない。肺門リンパ節の 腫脹がある。 9.肝臓:(1,800 g)被膜は滑らかで肝縁は鋭だ が,全体的に腫脹している。割面でも小葉構 造が不明瞭なところがある。胆嚢に 100 ml の debris を認めた。胆汁排泄試験陽性。 10.脾臓:(350 g)色は暗赤色で,腫大してい る。 11.甲状腺:(23.5 g) 12.副腎:(左 6.2 g,右 5.0 g) 図 2. 頭部 MRI(97.7.15 施行) A :橋レベルの T2 強調軸位断像では,橋,小脳の著明な萎縮と横走線維,中小脳脚 の高信号化が見られる。 B : T2 強調正中矢状断像では,脳幹・小脳の著明な萎縮が明らかである。テント上 の萎縮は著明でないこともわかる。

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13.下垂体:(1.0 g)直径 5 mm ほどの cyst を 認める。 14.骨髄:赤色髄で,osteoporosis がある。 B.組織学的所見 1.大脳:皮質の神経細胞は保たれている。(海 馬の神経細胞にも脱落はなく虚血による影響 は少ない。)脳室周囲に強い浮腫を認めるが, 死戦期の変化と考える。基底核では,被殻に 神経細胞の脱落と astrocyte や oligodendro-cyte の密度の上昇(gliosis)が目立つ。これ らの oligodendrocyte には,glial cytoplasmic inclusions(GCIs)が認められる。(Gallyas-Braak 染色) 2.中脳:黒質の神経細胞の著明な脱落,glio-sis。GCIs(+) 3.橋:橋核,横橋線維の減少。被蓋は保たれ ている。 4.延髄:オリーブ核の神経細胞の脱落,fibril-lary gliosis。迷走神経背側核,舌下神経核の 神経細胞にも同様の所見が見られた。 5.小脳:プルキンエ細胞の減少,ベルクマン グリアの増加。白質の面積も減少している。 6.脊髄:側柱から中間質外側核にかけて神経 細胞の減少がみられる。後索に比べ,側索, 前索の線維が減少してみえる。 7.消化管:小腸に focal な炎症細胞浸潤をみる の み 。 cecum の ポ リ ー プ は tubular ade-noma。 8.腎臓:被膜下に強い炎症細胞浸潤がある。 糸球体は多くは保たれているがところによっ て,間質内の強い炎症とともに尿細管の破壊 や糸球体の硬化を認めた。小静脈内に血栓を 認め,糸球体毛細血管内にも fibrin の析出を みる。 9.喉頭:後輪状披裂筋に group atrophy があ る。 10.心臓:心内膜下の fibrosis や心筋の核の大 小不同を認める。 11.肺臓:大部分の肺胞は開いているが,胸膜 の癒着が強いところでは種々の段階の器質化 肺炎の像がみられる。 12.肝臓:肝細胞索はやせていて,特に中心静 脈周囲の肝細胞の脱落,sinusoid の拡大と軽 い fibrosis が目立つ。(うっ血による虚血性 の萎縮。)石灰化住血吸虫卵を認める。 13.脾臓:著しいうっ血,リンパ小節の脱落を 認める。 14.膵臓:fibrosis を散見する。小静脈内に血 栓を認める。 15.甲状腺:著変なし。 16.副腎:皮質の細部がやや atrophic。 17.骨髄:hypercellular bone marrow。特に赤

芽球系の増加。 <病理診断>

1.黒質,線条体(被殻),橋,延髄,小脳プル キンエ細胞層,脊髄中間質外側核の神経細胞 の脱落と gliosis,glial cytoplasmic inclusions

図 3. 頭蓋底方向から見た脳全体像。 脳幹,小脳の著しい萎縮がある。

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の存在 2.後輪状披裂筋の萎縮 3.器質化肺炎と胸膜炎 4.間質性腎炎 5.肝,脾うっ血 6.心,腎,膵内小静脈の血栓形成 7.大腸の管状腺腫 図 4. 乳頭体レベルの大脳基底核(HE 染色, ルーペ像) 被殻の部分が薄く抜けてしまっている。 図 5. 橋(Holzer 染色,ルーペ像) 横橋線維の減少が見られる。

図 6. Glial cytoplasmic inclusions(GCIs)(Gallyas-Braak 染色)(× 3000)

神経細胞は脱落し,その部分に gliosis がおこり,増加した glia 内には GCIs が見られる。

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<死因> 上記 2 と 3 の両者に起因する呼吸不全。 考察(1) 平島奈緒子(病理学 1) 脊髄小脳変性症の中で,全身性の自律神経症 候 を 主 徴 す る 非 遺 伝 性 の 変 性 疾 患 を S h y -Drager 症候群と呼ぶが,本症候群は単独では 発症せず,常にオリーブ橋小脳萎縮症(OPCA) や線条体黒質変性症(SND)と併存する。従 って,この 3 者を包括する概念として多系統萎 縮症(Multiple system atrophy, MSA)が提唱さ れるようになった。 臨床的には失調症状,Parkinson 病様症状, 自律神経症状からなるが,本例のように自律神 経症状が前景に立って,他の症状とに差があっ たりすることはよくあると言われている。 本例は当初は画像的に脳幹部の萎縮があまり 明らかでなかったため,MSA と確定されなか ったとのことだったが,約 4 年間の経過の中で 確実に萎縮が進み,臨床徴候も自律神経症状を 中心として悪化がみられたため,Shy-Drager 症候群と診断された。 病理組織学的にみると,強弱はあるにしても MSA で傷害されるほとんど全てのところに病 変が存在した。大脳基底核(被殻)に強い病変 がみられることも,Parkinsonism が目立った 図 7. 喉頭横断面(HE 染色,ルーペ像) 披裂軟骨の後方に見られるのが後輪状披 裂筋。

図 8. 後輪状披裂筋内には group atrophy が見られる。(HE 染色)(× 1500)

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ことに一致する。今回,診断の鍵となったのは oligodendroglia 由来であると考えられている glial cytoplasmic inclusion(GCI)が Gallyas-Braak 染色にて証明されたことである。この GCI は MSA に特異的に出現するとされ(組織 的に健常な部位にも出現する),MSA の診断に 大きく寄与している。 また声門開大筋である後輪状披裂筋に group atrophy がみられたことも特徴的であった。こ の筋は迷走神経の枝である反回神経によって支 配されているので,迷走神経の核も傷害されて いる本症例の場合は神経原性筋萎縮がおこった ことも説明できる。 中枢神経の変性疾患は,経過中に組織で評価 することができないので終末像を見ることにな ってしまうのだが,本例のように病理学的にか なりのところまで説明できる場合もあるので, 今後も症例を重ねていきたい。 考察(2) 新藤和雅医員(神経内科) 本症例は,振戦,筋固縮,動作緩慢など一見 Parkinson 病にみられる運動障害がすべてそろ っているようにみえるが,細かく診ると振戦は 動作時や姿勢時を中心とするもので,安静時の 薬丸め様ではない。歩行障害も小刻みながら運 動失調の要素を含むため左右によろけ易い傾向 が見られた。また,各種の抗 Parkinson 病薬に 対する反応がみられずに症状が進行し,初発症 状から約 2 年で歩行不能となっていることも特 発性の Parkinson 病とは大きく異なる点であ る。さらに,尿閉や麻痺性イレウスに近い高度 の便秘が病初期からみられたことも,Parkin-son 病としては非典型的であり,Parkinの便秘が病初期からみられたことも,Parkin-sonism を主体とする変性疾患の中でも Shy-Drager 症 候群など自律神経障害が前面に出た疾患を考え させた 1 つの理由となっている。その後,起立 性低血圧や発汗障害からくるうつ熱など汎自律 神経障害とみなされる状態に加え,画像上も脳 幹・小脳の萎縮が明らかになってきたことか ら,最終的に Shy-Drager 症候群型の多系統萎 縮症と臨床的に診断した。 これまで,自律神経障害を伴う神経変性疾患 については用語の混乱がみられ,1920 年代に 使われるようになった idiopathic orthostatic hypotension(IOH)は今だ欧米では使われる ことがある。1960 年代の Shy-Drager 症候群 (SDS)を 1 つの疾患単位としてまとめた報告 から OPCA,SND,SDS の 3 疾患を包括する概 念としての multiple system atrophy(MSA)の 提唱へと繋がり,1989 年には MSA の病理学的 な大きな特徴とされるグリア細胞質内の封入体 が発見され,1996 年には米国自律神経学会議 で MSA の定義がなされるに至った。その時ま とめられた consensus statement では本症例の ような場合は SDS 型 MSA と呼ぶべきとされて おり,今回はその statement に従って診断を行 った。今後,さらに詳細な検討は必要と思われ るが,MSA を 1 つの疾患概念とみなす傾向は 定着しつつある。

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