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IRUCAA@TDC : 口腔機能と認知機能の関連についての近年の研究

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Posted at the Institutional Resources for Unique Collection and Academic Archives at Tokyo Dental College,

Available from http://ir.tdc.ac.jp/

Title

口腔機能と認知機能の関連についての近年の研究

Author(s)

釘宮, 嘉浩; 上田, 貴之

Journal

歯科学報, 119(6): 475-478

URL

http://doi.org/10.15041/tdcgakuho.119.475

Right

Description

(2)

はじめに

2007年に高齢化率が21%を超え,日本は超高齢社

会となった。生産年齢人口の減少と平均寿命の延伸

に伴う高齢化率の増加に起因して,疾病構造にも変

化が生じている。厚生労働省が行った2016年度の国

民生活基礎調査から,要介護状態となる原因疾患の

第一が脳血管疾患から認知症へと更新された

1)

。高

齢化率が上昇し続けている日本において,認知症は

既に Common Disease のひとつであるといえる。

認知症は,国際疾病分類第10版(ICD‐10)におい

て,「通常,慢性あるいは進行性の脳疾患によって

生じ,記憶,思考,見当識,理解,計算,学習,言

語,判断など多数の高次脳機能障害からなる症候

群」とされている

2)

。このように認知症は進行性の

疾患であるとされているが,明確な治療法は未だに

確立されていない。そのため,認知症の発症前から

の予防が喫緊の課題とされている。

歯科と認知機能

近年,歯科と認知症については,密接な関係があ

ることが報告されている。約1,

500名を対象とした

Takeuchi らの5年間の前向きコウホート研究で,

現在歯数が少ないほど認知症の発症リスクが高くな

ると報告された

3)

。さらに,約4,

400名を対象とした

Yamamoto らによる4年間の前向きコウホート研

究によって,現在歯がほとんどなく義歯未使用の者

は,現在歯数が20本以上の者と比較して,認知症発

症リスクが約1.

9倍高くなると報告されている。一

方で,現在歯がほとんどなくても義歯を使用するこ

とで認知症発症リスクを下げることができる可能性

があるとも報告されている

4−6)

(図1)。このように,

口腔衛生管理による現在歯の保護および,適切な補

綴治療が認知症の発症予防に重要であると考えられ

ている。

また,認知症の前駆状態を示す概念として,軽度

認知障害(MCI:Mild Cognitive Impairment)が近

年注目を浴びている。MCI の基準としては,わが

国では下記に示す Petersen らによって定義

7)

された

ものが広く用いられている。

・主観的なもの忘れの訴え

歯学の進歩・現状

口腔機能と認知機能の関連についての近年の研究

釘宮嘉浩 上田貴之

キーワード:認知症,認知機能,軽度認知障害,口腔機能, 舌口唇運動機能 東京歯科大学老年歯科補綴学講座 (2019年9月12日受付,2019年10月7日受理) http : //doi.org/10.15041/tdcgakuho.119.475 連絡先:〒101‐0061 東京都千代田区神田三崎町2−9−18 東京歯科大学老年歯科補綴学講座 釘宮嘉浩

Yoshihiro KUGIMIYA, Takayuki UEDA: Recentl studies

on the relationship between oral and cognitive function (Department of Removable Prosthodontics and

Gerodon-tology, Tokyo Dental College)

(Yamamoto et al:Psychosomatic Medicine,2012.)6)

図1 現在歯がほとんどなくなっており義歯を使用してい ない人は,現在歯が20本以上残っている人よりも認知 症発症のリスクが約1.9倍高くなる。しかし,現在歯 がほとんどなくても義歯を使用することで認知症発症 リスクを下げることができる。 475 ― 7 ―

(3)

・年齢と比較して記憶力が低下

(記憶検査で平均値の1.

5SD 以下)

・日常生活動作は正常

・全般的な認知機能は正常

・認知症は認めない

すなわち MCI とは,記憶障害はあっても認知症

とは言えない状態であり,その有病率は11−17%と

報告されている

8)

。軽度に認知機能が低下した状態

である MCI は,認知症へ移行(コンバート)するも

のと,正常に戻る(リバート)ものもあることが知ら

れている。研究報告によりばらつきはあるものの,

MCI から認知症へのコンバートは5−15%/年,リ

バートは16−41%/年であると日本神経学会の認知

症疾患診療ガイドラインにより報告されている

2)

つまり,MCI からは正常な状態にリバートできる

可能性が高いといえる。

認知症はその治療法が未だ確立されていないこと

から,リバートの可能性がある MCI の段階から適

切な対応を取ることが重要である。本稿では,近年

の口腔機能と認知機能との関連を報告した論文を中

心として,当講座の研究成果をまじえながら解説を

行いたい。

口腔機能の低下から認知機能低下への経路

動物実験では,現在歯の喪失が認知機能の低下と

関連することが既に示されている

9)

。動物を対象と

した研究結果は非常に興味深いものであるが,それ

らの結果を単純に人間に当てはめることはできな

い。

近年の口腔機能と認知機能との関連を示したレ

ビューをみてみると,特に咀嚼能力と認知機能や歯

周病と認知機能との関連を報告したものが散見され

る。現在発表されているレビューを参照すると,咀

嚼能力の低下から認知機能の低下につながる経路

は,大きく分けて2通りあると考えられていること

がわかる

10)

。まず1つ目の経路は,咀嚼能力の低下

による脳血流量の減少によるものである

11,12)

。過去

の研究により,咀嚼を行うことで,脳血流量が上昇

することが明らかとなっている。特に,前頭部にお

い て,15%以 上 の 血 流 量 の 増 加 が 報 告 さ れ て い

13)

。また,当講座員の山本らによる研究において

も,ガムを噛む咀嚼運動が脳血流量の増加につなが

ることを報告している

14)

。加えて,ガムに似た弾性

をもちつつ義歯等に付着することのない弾性アプラ

イアンスを装着して咀嚼に類する運動(咀嚼様運動)

を行うことでも,前頭部の血流量を増加させること

ができることを明らかにした(図2)。

脳血流量の減少は,脳の神経活動の低下につなが

る可能性があると報告されている

11)

。当講座の研究

結果も踏まえた過去の報告から,適切な補綴治療お

よび口腔衛生管理が認知機能低下予防のための対策

のひとつとなると考えられる。咀嚼能力の低下を防

ぎ,適切な咀嚼運動を行える状態を維持させること

が重要である。

2つ目の経路として考えられているのが,咀嚼能

力の低下による栄養状態の悪化に よ る も の で あ

15)

。咀嚼能力の低下は,摂取する食品の選択に影

響を及ぼすことが明らかとなっている。咀嚼能力が

低下することで,摂取可能食品の制限や,食事摂取

量の減少がおこると栄養不足や体重減少を引き起こ

す。また,食品摂取の多様性の低下は,認知機能の

低下につながるとも報告されている

16)

。そのため,

我々歯科医療従事者は,患者の摂取する食品に関し

ても注意を払わなければならない。

咀嚼能力の回復を目的とした適切な補綴治療だけ

では,食品摂取に大きな変化は生じないと報告され

ている

17)

。食生活を改善し栄養摂取量を向上させる

前頭葉の脳血流の変化量 弾性アプライアンスを用いた咀嚼様運動 図2 弾性アプライアンスを用いた咀嚼様運動によって, 前頭葉の脳血流量が増加することが明らかとなった (文献14より引用)。 476 釘宮,他:口腔機能と認知機能についての近年の研究 ― 8 ―

(4)

ためには,適切な補綴治療だけではなく,積極的な

栄養指導が必要である

18)

歯周病が認知機能の低下に関連することは,約

4,

600名の大規模疫学研究

19)

だけでなく,約180名を

対象とした5年間の縦断研究

20)

によっても明らかと

なっている。歯周炎に罹患している部位は,炎症性

サイトカインだけでなく,細菌毒素等の供給源とな

り,血液を介して中枢神経型の神経損傷を引き起こ

す可能性がある。認知機能低下予防の観点からも,

定期的な口腔衛生管理が重要であると考えられる。

Yamamoto らが提言している口腔機能の低下か

ら,認知機能低下ひいては認知症の発症へとつなが

る予想経路を図3に示す

5)

現在歯の喪失や義歯未使用によって咀嚼能力が低

下し,咀嚼による脳への刺激が少なくなることで,

認知機能の低下へつながる可能性がある。また,噛

みづらい生野菜や肉などの食品を避けることで栄養

が不足し,認知機能の低下へつながる可能性も考え

られる。加えて,歯周組織の慢性炎症に起因する炎

症性サイトカイン等が血液を介して脳にも影響する

可能性が考えらている。

舌口唇運動機能と認知機能

近年,前記の経路に加えて舌口唇運動機能の低下

が認知機能の低下につながる可能性があると報告さ

れている。

約5,

000名を対象とした横断研究において,口唇

運動が認知機能と関連することが報告された

21)

。ま

た,当講座でも,舌圧と舌の動き(オーラルディア

ドコキネシス,ODK)の低下が認知機能の低下につ

ながる可能性があることを報告している(図4)

22)

舌口唇運動機能の低下は,構音の不明瞭化から会

話困難感につながる可能性があると考えられてい

る。また,会話困難感は,社会参加の低下と関係す

ることが明らかとなっている

23)

。加えて,社会参加

が少ないことは認知症の発症との関連があることも

報告されている

24)

。これらの報告から,舌や口唇の

運動機能低下は,会話困難感に起因する社会参加の

低下を介して認知機能の低下につながる可能性があ

る。今後,縦断研究による検証が必要ではあるが,

舌や口唇の運動機能低下も認知機能の低下につなが

る経路の1つであるかもしれない。

対策と展望

現在までに報告されているレビューに当講座の研

究業績も含めて,口腔機能の低下から認知機能の低

下につながると考えられている経路について解説し

た。

増加する認知症への対応として,軽度に認知機能

が低下している MCI の段階から適切な対応を行う

ことが,我々歯科医療従事者にも求められている。

ランダム化比較試験で検証された報告

18)

が示すよう

に,咀嚼能力に対する治療だけでは栄養状態まで十

分に改善することは難しい。咀嚼能力の維持向上に

主眼を置いた処置だけではなく,患者の栄養状態の

把握や栄養指導を行うことも重要である。また,現

在歯の喪失を防ぐための口腔衛生管理も認知機能の

図3 口腔機能の低下から認知症発症への予想経路(文献 5より引用) 図4 図の矢印は,低下の方向を表している。舌圧と舌の 巧緻性が低下することが認知機能(MMSE)の低下に つながる可能性のあることを示した(文献22より引 用)。 歯科学報 Vol.119,No.6(2019) 477 ― 9 ―

(5)

維持につながると考えられる。

舌運動機能,特に舌圧に関しては,適切なリハビ

リテーションにより向上することが明らかとなって

いる

25)

。今までの器質的な部分のみの評価,治療だ

けではなく,機能の状態も含めて評価,治療,管理

することが求められている。我々歯科医療従事者

は,咀嚼能力に限らず,口腔衛生状態から口腔機

能,栄養状態に至るまで包括的な口腔健康管理を行

わなければならない。

今回は,レビュー論文と疫学論文を中心に引用

し,現在明らかとなっているエビデンスを報告し

た。今後は,マクロからミクロな目線で因果関係の

解明を含めて,詳細な研究が求められている。

文 献 1)内閣府:令和元年版高齢社会白書,2019. 2)日 本 神 経 学 会:認 知 症 疾 患 診 療 ガ イ ド ラ イ ン2017, 2017.

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478 釘宮,他:口腔機能と認知機能についての近年の研究

参照

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