個人差から注意の最適制御戦略を探る
著者
岩崎 祥一
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1 8530556平成18年i 19年度科学研究費補助金
(基盤研究(C))研究成果報告垂
平成20年4月
研究代表者 岩崎祥一
東北大学・大学院情報科学研究科教授
<はしがき>
この報告書は、 「個人差から注意の最適制御戦略を探る」と題した
平成18 ・ 19年度科学研究費補助金(基盤研究(C))で行った研究成果
をまとめたものである.I研究組織
研究代表者 岩崎祥一 (東北大学・大学院情報科学研究科教授) 研究分担者 和田裕一 (東北大学・大学院情報科学研究科准教授)交付決定額(配分額)
(金額単位 円) 直接経費 亊I ィニ N 合計 平成18年度 塔 テ 0 塔 テ 平成19年度 テ テ 300,000 テ3 テ 総計 テ テ 300,000 テ テ研究発表
(1)雑誌論文Shiho Miyazawa, Syoich Iwasaki (2007) Attentional capture by threatening stimulus: effect of
SOA. ResearchReportsofShokei GakuinCollege, 54, 103-Ill.他1編
(2)学会発表
Yukihisa Matsuda、 Syoichi lwasaki The relationship between two types of working memory and
spacial cueing tasks. (2007) 15th Annual Object Perception, Attention, & Memory, 2007年1 1月,
LosAngeles 他14編
(3)図 書
岩崎祥一・鈴木大輔「注意とヒューマンエラー」 三浦利幸,原田悦子編『事故と安全
第1章 個人差からみた注意機能の役割
研究の目的 注意の働きは、環境から個体の生存にとって不可欠な情報をもらさず取得 し、不要な情報は排除することにある。個体の生存にとって不可欠の情報には 2つの種類がある。 1つは、個体が抱える課題に関連した情報であり、もう1 つは、外界の(特に)個体の生存にとって有害かも知れない変化や危険を知ら せる情報(ohmanandMineka,2003)である。注意を適切に制御するためには、この 2つの情報源からバランスよく情報を得る必要がある.一しかし、この2つの情 報源にどのよ′ぅに注意を配分するのが最適であるかは簡単には決められない問 題である。当面する課題に注意を集中すれば、課題関連の情報を適切に処理す ることで課題の解決にうまくゆくかも知れないが、予期しない危険を知らせる 変化を見落とす可能性が出てくる。実際、古代ギリシャの数学者アルキメデス は、幾何の問題を解こうと地面に図形を描くことに夢中になる余り、図形を踏 みつけたローマ兵とトラブルになり、ローマ兵から殺されたという逸話が伝わ っている。これも、問題に注意を集中するあまり、外界からの重大な危険を知 らせる信号を見逃したために生じた悲劇だと解釈できそうである。逆に注意欠 陥多動症に見られるように、環境の変化に対する注意が支配的になりすぎる と、課題を遂行するために必要な情報を取り込むことに障害が出てくる(Barkley, 1997)0 一般に、課題関連の情報は能動的な(トップダウンの)注意の働きにより取 り込まれ、予期しない変化に関する情報は、刺激駆動型(ボトムアップ)の自 動的注意の働きにより受容されると考えられる。本研究の目的は、上記の2つ の注意制御のあり方がどのようにバランスされることが、最も適応的な注意制 御戦略であるか、また、注意の最適な配分のあり方が個々人の注意容量に依存 して変わるかどうかを、注意機能(いわゆる注意の容量を含む)の個人差(こ れは、作業記憶の容量と関係していると想定される)に着目して検討すること にある。 割り込みによる注意制御 能動的に注意を制御するだけでは主体と無関係に外界に生じた異変を見逃すことになりかねない。そうした外界の突発する事象は、刺激の物理的な変化を 伴って起こることが多い。そこで、そうした変化を検出して変化が生じた場所 に注意を自動的に向けることにより、非同期に起こる外界での出来事を無視し ないで適切な対応が可能になる。たとえば、薮から突然、イノシシが飛び出し てくるというような状況を考えるとき、薮がガザゴソと音をたてたり、薮が動 いたりすることで注意がその場所に向いて、事前にイノシシの飛び出しに備え ることができる.これは、注意の捕捉(attentional capture)現象(Yantis, 1993)であ る。 M. Posner達が工夫した空間手掛法を用いた実験では、何らかの空間的手掛 を提示し、その場所に自動的に注意が向いたことを反応指標に対する影響で検 出する(Posner, 1980)。この場合には、刺激の物理的な変化により注意がその場 所に引きつけられる(捕捉される)ので、主体の側としてはあらかじめ外部の 出来事の起こりそうな位置に対し注意を配分しておく必要がなく、効率よく注 意を制御できる。こうした外発的な注意制御は、あらかじめ予想できない出来 事に対し、事象駆動的に注意を配分することで、不必要な注意配分による処理 効率の低下を防ぐというメリットがある。これは、注意の割り込み機能と考え ることができる。ここで言う割り込みとは、コンピュータの用語でいうところ の割り込み(interrupt)を指す。コンピュータでは、非同期的に生ずる外部の事象 に適切に対応すべく、割り込み機能が用意されている。割り込みを知らせる信 号(割り込み信号)は、コンピュータの制御素子(CPU)に対し、周辺機器から 発せられる信号で、それが発せられると、 CPUは、その時行っていた処理を中 断し、 CPUのレジスターなどにある途中の状態を別のメモリー領域に待避し、 周辺機器からの信号を処理するプログラムをロードした上で外部機器から送ら れた情報の処理を行う。処理が終われば、待避した情報を元のレジスターなど に復帰した上で、元のプログラムを処理が中断した時点から再開するようにな っている。 伝統的な外発手掛による注意制御では、注意が捕捉される理由についてはあ まり考慮することなく、その現象面に注目して研究が行われている。そのた め、注意の捕捉と関連して議論されることはあまりないが、注意配分を制御す る必要性には、もう1つのケースがある。それは、処理に伴って生ずる問題に 対しての対応である.成人の行動の多くは、一連の習い覚えた自動的なルーチ ンからなり、能動的な制御は、あるルーチンから別のルーチン-の切り替えに
際して必要となるぐらいで、それ以外では、新規に何かを習得するような場面 を除くと、能動的な注意が処理に介入する必要性は少ない。自動的な処理は、 注意をほとんど必要としないので、能動的処理を行っている前頭葉の執行機能 -の負担が少ないという利点がある。しかし、こうした自動化した処理がうま くいかない場合も起こりうる。たとえば、ミスを犯したり、反応が競合するよ うな状況である。そうした状況に置かれた人は、自分が自動的に処理した結果 が必ずしも満足のいくものでないことを理解し、能動的に注意を制御すること でその状況に対応する必要がある。 脳は基本的にモジュール構造をとっているので、個々のモジュール内では 暗々の処理結束について情報を共有できても、モジュール間ではそうした共有 は難しい。従って、あるモジュールが処理した結果が、システム全体の課題遂 行にとって望ましいものでなかった場合には、能動的な注意制御を行っている 前頭前野の執行的注意機能を担っている部位は、このことを知る必要がある。 そのためにも割り込み機能が必要である。この割り込みは、前頭葉の内側面に ある前部帯状回の背側後部にあると考えられる。この部位は、 Ponserand petersen(1990)が前部注意システムと呼んだところである。 前部帯状回のこの部位は、ストループ課題のような自動化された反応以外の 反応(単語を読むのではなく色を答える)を選択する時に活動することが機能 的脳イメージング研究(e.g., carter, Mintun,and Cohen, 1995)から明らかになってい
る。さらに、この部位は、被験者が反応エラーを犯した時にも活動する。そこ で、前部帯状回のこの部位は、葛藤モニター及びエラーモニターを行っている
と考えられている(Ridderinkhof, Ullsperger, Crone, & Nieuwenhuis, 2004)。つま
り、前部帯状回の一部は、処理が自動的に遂行できなかった時に、.その結果に 対して適切な対応をとるように、能動的な注意制御システムに知らせる役割を 果たしていると言え、これも一種の割り込み機能と考えることができる.コン ピュータでは、この種の割り込みが起こる状況としては、一例をあげるとゼロ で割り算を行った場合がある。コンピュータの演算では、ゼロの割り算は無限 ループとなるので、それを実行したとたん、そこでプログラムはスタックして しまう。これを防ぐ目的で、コンピュータのアーキテクチャー設計では、ゼロ での除算が起こると割り込み信号を発生してこの事態を知ることができるよう に設計されている。
エラーや葛藤が起きている状況は、ちょうどゼロでの除算のように、処理が 何らかの理由でうまくいかず、コンピュータが処理プログラムを割り込みによ り変更する状況と類似している。同じことが脳での処理でも起こっているので はないか。エラーや葛藤が起こると、能動的な制御システムは、状況にあった 適切な対応を選択するために処理を一時的に中断する。その結果として、たと えばストループ条件では、反応時間の遅延となって観測される。また、選択反 応時間課題では、反応エラー直後の試行では、反応時間が遅くなることが知ら れているが、これも能動的な制御機能による処理の見直しが反映したものと考 えられる。 割り込み信号の抑制 コンピュータでの割り込み信号によるプログラムの切り替えと同様の機能が 脳の情報処理にも備わっていると仮定すると、コンピュータでの割り込み処理 のもう1つの機能も、脳に実装されている可能性がある。それは、割り込み信 号の抑制である。コンピュータでは、割り込み信号にはその重要度に応じた重 みが設定されており、複数の割り込み信号が同時に発生した場合にはそれに応 じてどの割り込み信号を優先して受け付けるかが決まってくるようになってい る。さらに、当面する処理の重要度が高く、割り込みによりその処理が中断さ れると重大な影響が出る場合には、割り込みを禁止する仕組みも備わってい る。脳における割り込み処理にも同様の仕組みがあるのではないかと予想され る。つまり、注意制御の2つの仕組み、環境の変化による注意の捕捉と葛藤や エラーによる注意-の影響に関しても、それを割り込み信号による制御ととら えると、それを抑制する仕組みが必要ではないかと考えられる。 そうした割り込み信号の抑制は、脳の情報処理を全体として統括していると 考えられる前頭葉の執行的注意機能により制御されていると思われる。執行的 注意機能は、 Baddleyの作業記憶の執行機能に対応する(Engle, 2002)ので、割り 込み信号を制御する能力の個人差は、作業記憶の能力と密接に関連していると 考えられ、実際stroop課題を用いて作業記憶の個人差とStroop干渉との関係を検 討した研究では、作業記憶容量の大きな被験者は、これが小さな被験者と比較 して干渉を受けにくいことを示す証拠が得られている(KaneandEngle, 2003)0 そこで、前頭葉が関係することが知られている認知機能の個人差と注意制御機
能の個人差との関連性を調べることで、脳の割り込み処理が、コンピュータで の割り込み機能から類推される上記の仮定と合致しているかどうかを検討でき ると考えた。 注意を能動的に制御することがもたらす不利益 執行機能により注意の制御を行うことは、基本的に生体の生存にとって有用 な役割を担っているが、注意を能動的に働かせること、特にそれが必要な情報 の選択ではなく無用な情報の排除として作用する場合には、アルキメデスの逸 話にみられるように、外界に発生する危険を察知する時のような予期できない 外界での出来事に素早く対応するという意味からは、逆に不適応となるケース があることが考えられる。 最近、こうした注意を能動的に働かせることのマイナス面を示唆する研究が 見られる。注意研究の初期によく用いられた両耳分離聴を用いた研究では、注 意が情報処理の早い段階で関係ない処理を抑制(当時は、注意の作用はフィル タリングあるいは減衰と呼ばれており、処理に関係のない情報を抑制すること だと考えられていた)できることを実証した。しかし、研究が進むにつれ、そ うとばかり言えない知見がいろいろ出てきた。その中でも、興味深い知見とし ては、実験に参加した当人の名前を注意を向けなかった耳に提示してやると、 約1/3の人がそれに気がついたというものがあった。この初期の研究結果は、最 近(2001年)になって、再確認されている。その実験でもやはり約1/3の被験者 は、自分の名前に気がついたが、残りの2/3は気がつかなかった。この実験を行 った研究者は、そうした違いが作業記憶の能力の違いによるのではないかと考 えて、作業記憶の容量をあらかじめ測定しておき、それに基づき作業記憶能力 の高い群と低い群に被験者を分けた上で結果を分析し直してみたところ、作業 記憶の低い被験者では、約2/3の人が自分の名前に気がついたのに対し、作業記 憶が高い被験者では、自分の名前に気がついた人は20%だけだった。この結果 は、作業記憶が高い被験者は低い被験者に比べStroop干渉が少ないという別の 研究での結果を併せて考えると、作業記憶能力の高い人は、課題に注意を集中 することで、もう一方の耳から聞こえてくる自分と関係の深い情報の影響を抑 制したためにこのような結果になったと解釈できる。おそらく、アルキメデス は、作業記憶(ちなみに、作業記憶は流動性知能と同じものとされている)の
能力が高かったので、計算に夢中になるあまり、周りで起こっている出来事に 惑わされなかったものと推察される。 我々も、作業記憶により被験者を高低2群に分けた上で、彼らに対して Stroop条件(不一致と一致条件が50%でランダムに交代する)と非stroop条件 (記号や抽象及び具体名詞の色を答える)を、それぞれ数試行ずつのブロック とし交互に行わせる一種のTask-Switchi課題を用いた実験を行っている。その結 果、非Stroop条件のみを単独で行った事前のベースライン条件との差分をみる と、作業記憶容量の高い被験者の方がそれが低い被験者よりもむしろ非stroop 条件での反応時間の増加分が大きくなるという結果を報告している(Iwasaki, Kotozaki,Bai,2006)。これも、作業記憶容量の高い人は、干渉を抑制する力が強 く、いったんStroop条件を経験するとそこでの干渉抑制の構えが干渉がない非 Stroop条件に持ち越された結果、反応時間のより大きな遅延が生じたと解釈さ れた。 最近、より直接的に、注意を能動的に働かせることがかえって作業成績の低 下につながることを実証した研究が散見される。たとえば、 AttentionalBlink (AB)実験での二重課題による注意分散がAB効果を低減したという研究結果
(Arend, Jolmston, Shapiro, 2006; 01iversand Nieuwenhuis, 2005)や視覚探索実験で
能動的に注意を働かさないで、ターゲットが受動的に目に飛びこんで来るよう
な構えを取らせた方がシリアル探索の成績が良くなったという結果(Smile,Enns,
Eastwood, 皮 Merikle, 2006)、さらには複数の考慮すべき要因があるような商品
を選択するときには、じっくり検討するよりむしろ、直感的に選んだ方がより 望ましい選択ができたというちょっと考えるとパラドキシカルな結果
(Dijksterhuis, Bo§, Nordgren, &VanBaaren, 2006)も、何かに注意を向けると、注意を向 けた特定の対象の処理は改善しても、それ以外の複数の要因から発せられる信 号は、抑制によりかえって信号強度が低下するため気がつきにくくなった結果 だと解釈すると統一して理解が可能であると思われる。 本研究で行った実験 本研究では、以上のような観点から個人差に焦点を当てて注意機能を調べる 種々の実験的研究を行ってきた。それらをまとめると、
1.二重課題時の注意配分からみた老化による前頭葉機能の低下の影響 2.作業記憶容量と空間的注意機能との関連性 3. attentional blink事態での割り込み抑制を示す証拠 の3つの研究から構成されて_いる. 1は、能動的な注意制御の個人差を調べる目的で行った一連の研究である。 前頭葉機能は、高齢になると低下することが知られているので、この研究で は、高齢者と若年者を、二重課題事態で比較することをもくろんだ。そのた め、まず、能動的な注意制御がより明瞭に表れるprobe課題を考案し、その有効 性を確認した上で、この課題により高齢者と若年者の空間的注意制御を比較検 討した。なお、この実験は、我々の研究室の樫井美由紀さんが修論及び博士課 程での研究の一環として行ったもので、交通事故における注意が関係したヒュ ーマンエラー(危険の見落とし)の要因を探る目的で行ったものである。 2は、松田幸久君が博士論文のための研究の一部であり、空間的作業記憶と 言語的作業記憶の容量を測定し、それが空間的注意制御の2つのあり方一外発 的注意制御と内発的注意制御-とどのように関連するのかを個人差の観点から 検討したものである。当初の予想としては、外発的な注意制御は作業記憶の容 量とは関連しないが、内発的な注意制御は、能動的な注意の移動なので、作業 記憶の容量と関連すると考えた。 3は、当初この研究を計画した時点では想定していなかったが、注意制御を 割り込み機能と関連して考えているうちに思いついたアイデア(割り込みの抑 刺)を予備的に検討したものである。脳の情報処理における割り込み信号とし ては、外来の出来事が発するものと処理の結果に伴って発生するものとがある ことを既に述べたが、これらの割り込み信号を個別に抑制する(コンピュータ ではそうした個別の割り込み信号を選択的に抑制できるようになっている)可 能性もあるが、脳の抑制機能を考えたとき、そうした内容に応じた細かな割り 込み制御を行わなくても、全体として執行機能の必要に応じて割り込みを抑制 することで充分その目的が達成可能であろうと考えた。もし、そうだとする と、特定の割り込み信号の抑制を、別の割り込み信号抑制を指標にしてモニタ ーできるのではないかと考えた。具体的には、たとえば、刺激提示などに伴う 変化による外発的な割り込みを、執行的な注意制御システムが必要に応じて抑 制するとすると、その抑制は処理結果に問題が生じた場合の割り込み(葛藤モ
ニタ-やエラーモニター機能)抑制を指標にして検討できるのではないかと思 われる。 そこで、前部帯状回の葛藤モニターシステムが働くことが知られている Stroop課題やFlanker干渉課題での干渉効果がどの程度抑制されるかを指標とし て、外部の刺激が発する注意制御信号の抑制を間接的に測定することができる のではないかと考え、 Attentional Bli止(AB)事態でのT2に対する干渉抑制を調べ る実験を考案した。
Attentional Blinkとは、 rapid serial visual presentation (RSVP)と呼ばれる同一場
所に次々と刺激を提示するという刺激提示方法を用いた実験で見られる現象 (Shapiro,Amell,andRaymond, 1997)のことである.この実験では、通常、 Tlと T2という2つのターゲットがRSVPでの背景刺激の中に埋め込まれている。被 験者は、この2つのターゲットを報告することを求められる。 ABでは、被験者 のT2の報告成績がTlとのタイミング(lag)により変化し、多くの場合、 Iagl sparingとして知られているように、 Tl直後は成績が良く、 Tlとのlagが2-5の時 (個々の刺激は1個当たり100msec前後で提示されるので、 200-500msecの間) T2 の成績が低下する。これは、単なるマスキングのような末梢での干渉現象では なく、注意が関係しているより高次の過程が関係していることは、 AB効果が Tlを報告しない条件では生じないことからうかがえる。 AB効果がなぜ起こる のかについては、種々の説明が提案されているが、初期のRaymond達が唱えた gating仮説にヒントを得て、割り込み抑制の影響があると考えた。 Tlの処理が 完了しないうちにT2が提示されると、 T2の提示に伴う信号が、執行的注意機能 に割り込み信号を送りつける。しかし、この割り込みは当面する課題の処理に とって、注意資源を奪うことになるのでマイナスに作用する。そこで、執行的 注意機能はこの信号を抑制する。仮定により、この抑制はもう1つの割り込み 抑制に対しても有効に機能するので、干渉効果も併せて抑制されることにな る。従って、もし、 T2が干渉を生む課題であれば、 T2刺激での干渉の強さを指 標にすることで間接的にT2検出信号の抑制の程度をモニターできるのではない かと仮定した。 後述するように、具体的な実験のやり方は、 TlとT2のみを提示するスケルト ンABと呼ばれている方法によった。このやり方では、 RSVP提示と異なり、 Tl (これにはマスクが伴う)とT2のみが連続的に(ランダムに変動する時間差を
伴って)提示される。ここでの実験では、 Tlとして文字刺激を提示した後で、 ある時間間隔(SOA)をおいてT2を提示した。このT2は、フランカー課題とな っており、 T2の両脇には別の刺激がT2を挟む形で提示された。通常の(単独 の)フランカー課題と同様に、この刺激がT2と反応力デゴリーが一致する場合 と不一致の場合が設けられていた.一般にフランカー課題では、 Stroop課題と 同様に、一致条件に比べ不一致条件では、フランカー刺激が引き起こす干渉に より反応時間が遅延することが知られている(Eriksen, 1995)。これがフランカー 干渉効果である。 AB課題では、連続して提示される刺激は、それぞれその onsetに伴って一種の割り込み信号を発生すると考えられる。しかし、 Tlの処理 にd注意資源が必要な間は、次々提示されるTl以降の刺激が注意資源を奪わない よう、それらが発する割り込み信号を執行的注意により抑制していると考えら れる。脳での割り込み信号の抑制は、コンピュータのように個別に行われてい るのではなく、一括して行われると仮定した.もしそうだとすると、この割り 込み抑制は、内部の処理結果に問題が起きたことに伴う割り込み信号(これが 干渉を生む)も同時に抑制しているのではないかと考えた。つまり、 T2提示に より生ずる割り込み信号に対する抑制は、 T2でのフランカー干渉の抑制にも反 映されると予想した。
第2章 二圭課題時の注意の能動的制御
自動車運転中の携帯電話の使用に関するこれまでの議論は、自動車運転中の携 帯電話の使用が事故の危険性を増加させることの立証を目指した研究が中心で あった(Redelmeier& Tibshiran-i, 1997).航空機のパイロットと管制官の会話のよ うに、会話内容と外部の視覚情報とに対応関係がある場合は別として、会話の 生起タイミングや会話内容が運転行動と関連しない自動車運転中の携帯電請の 使用は、 2つの課題を同時に遂行する事態と見なせ、これは注意が運転と会話 にどのように配分されるかという二重課題の問題として捉えることができる。 このような二重課題の干渉についての研究は、以前より自動車運転中の携帯電 話使用と結び付けられてきた(e.g. Brownetal. 1969;川野他, 1998; Spence 皮 Read, 2003)。携帯電話を使用しながら運転をする場合に事故が起こる前提条件とし て、注意容量の不足があり、これはそれぞれの課題の注意容量の要求の程度と それらに注意を分配する優先権に依存して決まってくる。 これまでの先行研究では、自動車運転中の携帯電話の使用が、運転行動にマ イナスの影響を与える原因を検討しているものが多い。例えば、 driving simulatorsを用いたcar-following situation (前の車の後に続いて運転する状況)で の携帯電話使用の実験において、運転中の非常に高い認知的負荷が、交通場面 において事故の危険性を増加させたとする研究(Alm&Nilsson, 1995)やチェン ジブラインドネス(change blindness)での、flickerパラダイムを用いた変化の検出 課題において、 hands-freeの携帯電話での会話が、変化の検出の妨げになる (McCarleyetal.2004)としたもの、あるいは、会話を行うことで視覚の注意の範 囲または機能的な視野を制限することを示したもの(Atchley 皮 Dressel, 2004) 、 もしくは携帯電話での会話そのものが運転に必要な情報に向けられるべき視覚 的注意を減らし、中心視の視覚情報による運転の能力を制限するため、結果と して動作制御にとって重要な情報の欠落をもたらす(Strayer& Jolmston, 2001 ; Strayereta1.2003)といったように、発話の課題を同時に行ったときの、運転に 付するマイナスの影響に関して様々な知見が得られている。 以上のように、運転場面での会話のもたらす認知的な干渉について検討が行 われてきているものの、これまでの自動車運転中の携帯電話の使用による運転 行動-の影響に関する先行研究からは、会話することそれ自身に要求される高次の認知処理について吟味した研究はまだ数が少ない。本研究の結果は、直接 この証拠を提供するものではないが、会話と平行して発生する運転操作に必要 な視覚情報処理-向けられた注意の減少について、その仕組みの一端を明らか にすることを目的としている。_ 会話をすることによる高次の処理で従来、全く考慮されてこなかった点は、 大脳半球の側性化である。脳には2つの大脳半球がありその心理学的な機能が 異なっているという説は、大脳半球の側性化、もしくはラテラリティと呼ばれ ており、一般に右利きの人では言語に関しては左半球優位とされている。この 左右の非対称性についてKinsboume (1970)は、損傷を受けていない脳では、注 意の定位は半球活性化に付随して非対称に偏り、 1つの半球が活性化される と、注意がその半球の反対側の視野に向けられるという半球活性化によるバイ アスモデルを提案している。 (Kinsboume, 1974)0 そこで本研究では、会話という聴覚情報の言語的な処理に伴って、視覚の注 意に偏りが生じるのではないかと考えた。以下に詳述するように、先の Kinsboumeの注意のモデルから予測されることは、言語に対する左半球の機能 特化に伴い言語情報を処理する際には左半球が活性化され、注意が左半球とは 反対の視野に向けられること、あるいは、言語的な聴覚情報を右耳もしくは左 耳の一方の方向から聞かせることによって一方の半球が活性化されると処理さ れる材料によらず、注意がその半球の反対側に向けられることの2つの可能性 が考えられる。これらを考慮し、本研究では以下の2つを目的とした。 目的の一つ目は、会話をすることそのものが、運転中の視覚の注意に影響を 及ぼすのかどうかを検証することにある。会話をすることは、 「聞く」という 情報の入力だけでなく、情報を処理し(考える) 、適切に返答する(言葉を産 出する、話す)という高次の処理が必要とされることから、言語課題が単に聞 こえてくるだけよりも、聴覚課題に対して答えさせたときの方が視覚課題のパ フォーマンスをより低下させると予測できる。二重課題を行う場合、一方の課 題で必要とされる注意資源が容量の限界に近づくと、同じ資源をめぐって他の 課題との間で相互に競合が生じ、その課題自体の遂行に、例えば反応時間が遅 くなったりエラーが多くなるといった支障が生じてくることが知られている。 ここでは、主となる課題(主課題)とそれとは独立した別の課題(副次課題) とを同時に行った場合(dual task)の副課題の成績と、副課題を単独で行った場合
(single task)の成績との差分を、主課題の注意容量-の要求度とする。 目的の2つ目は、会話をすることに伴う半球活性による注意の偏りの有無を検 討することにある。具体的には、自動車運転中の携帯電話での会話において、 携帯電話を右耳にあてた場合と左耳にあてた場合で視覚的注意配分に影響が見 られるか、また影響があるとしたら、そのあり方はどのようであるかを検証す ることであった。 本実験の主課題は、運転中の携帯電話使用を模して、 -ツドフォンの片側か らのみ聞こえてくる問題に口頭で答えてもらう聴覚による言語課題とした。刺 激は一方の耳のみに単独に与え、もう片方の耳は外部からの音をなるべく遮断 するようにした。 実験の副次課題は視覚探索課題とした。視覚探索課題は選択的注意課題とし
て、運転場面の実験でしばしば用いられている(e.g. Atchley 皮 Dressel, 2004)。本
実験では、ディスプレイ画面に配置されたいくつかの刺激の中からあらかじめ 教示された、他と異なる属性を持つ対象(probe刺激)を見つけだし、素早く反 応するもので、その探索時間からprobe刺激検出にともなう視覚的注意のあり方 (空間的注意配分)を推測した。 本研究で留意した点は、突然現れた視覚刺激が自動的に注意を奪う、注意の 自動的捕捉の要因である。従来、注意容量の指標として用いられたprobe刺激に 対する反応時間測定法では、 probe刺激そのものが刺激駆動的に注意を捕捉する 可能性が考慮されてこなかった。注意を捕捉する要因としては二つあり、一つ は突然の刺激の出現(abruptonset)による注意の捕捉であり、もう一方は一つだ け特徴の違うもの(singleton)が現れることによる注意の捕捉である(Yantis, 1996 )。これまでのこの分野の研究では、実験において用いられたprobe刺激そのも のが注意をどの程度奪うかが検討されておらず、注意配分での能動的 (top-doⅥm)の要因と自動的(bottom-up)の要因に関して厳密な統制がなされていな かった。そこで本研究では、実験で用いたprobe刺激そのものの出現が、自動的 注意の捕捉を起こしにくくする工夫をした上で会話が能動的注意配分に及ぼす 影響を検証することにした。実験では、あらかじめ実験参加者が、視覚的注意 を向ける位置を、画面中の6箇所(実験2では3箇所)に配置したリング(○)によ り指定した。注意の捕捉を抑制したことで、実験参加者は意図的に注意をしか るべき位置に移動する必要性が高くなり、能動的な注意制御に頼ってprobe検出
を行うと考えられる。実験では、 probe刺激の出現そのものが注意を自動的に捕 捉しにくくするように、実験に用いた視覚課題の全試行でチェンジブラインド ネス現象を利用し、突然の刺激の出現による注意の捕捉を抑えた。チェンジブ ラインドネスとは局所的な注意捕捉を抑制すると人々はしばしば視覚場面での 顕著な変化にさえ気がつかないという現象を言う。 (Simons&Ambinder,2005 )0 一方singletonによる注意の捕捉を抑えるために、画面の6箇所に配置したリン グの周辺に、 probe刺激(本実験では星型`☆')と同形の星型の刺激を視覚ノ イズとして定常的に配置した画面を作成した。同形の背景ノイズ刺激がある中 でprobeを検出するには焦点化された注意がprobeの位置に向けられる必要があ る。ただし、このノイズについては、 probe刺激そのものの知覚を妨害するもの ではなく、注意がprobe位置に向いていれば明瞭にそれを検出できるようにター ゲット位置とのスペース等を設定した。 本研究で検討される仮説としては、 1,二重課題において、聴覚による言語課題がただ聞こえてくるだけ(single task)よりも、聴覚課題に答えさせたとき(dualtask)の方が注意の容量をより 多く要求するのであれば、 singletaskよりも、 dualtaskの方が視覚探索課題 における反応時間は遅くなるであろう。 2a,今、聴覚情報の入力方向によって、視覚の注意に偏りが生ずると仮定 すると、 Kinsboume(1970)の注意のモデルにより、 2つの予測が立つ。 1つ目 は半球間に存在していると考えられる能力の差異に関係なく、情報を最初 に受け取った半球によってまず処理されると仮定し、例えば右耳から情戟 を入力した場合には左半球が活性化することで右視野の反応がよくなるこ とが予測される。また、左耳から情報を入力した場合はその反対になり、 右視野に比べて左視野の反応がよくなることが予測される。この仮説で は、入力耳と同側のprobe検出反応時間が反対側よりも早くなると予想す る。 2b,一方、言語情報のやり取りを行うことによって左半球が活性化し注意 が偏るとすると、言語処理を行っている脳の左半球の反対側である右視野 の反応がよくなることが予測される。したがって左視野に比べて注意の向 いている右視野の変化には気付きやすくなり、右視野の反応検出時間は早
くなるであろう。この場合、聴覚情報の入力が左右のどちら側かいうこと とは関係なしに、注意は言語情報の処理に伴って、右視野に偏ることが予 測される。 3,最後に、注意の捕捉を抑えるために視覚課題のターゲットの周りにノイ ズを配置した条件(視覚ノイズあり)と、ノイズを配置しない条件(視覚 ノイズなし)では、 probe刺激の検出時間に差が出てくることが予測され る。 Singletonによる注意の捕捉を抑えることで注意の受動的な制御が抑え られたとすると、それが抑えられていないときに比べて、視覚ターゲット の検出時間は遅れるであろうと予測される。 実 験1 方法 実験参加者18歳から40歳の大学生、大学院生(平均年齢21.9歳)計30名(男 性26名、女性4名)が実験に参加した。実験参加者は全員右利きであり、各実 験参加者に対して実験の趣旨を事前に説明し、インフォームドコンセントを得 た。 刺激[視覚課題]試行の開始とともに画面の中心に十字形(+)が注視点として 表示された.音声は、注視点の提示後500msecからスタートした。注視点の秦 示から、 1500msec後に注視点を挟んだ6箇所にリング(○)が提示された。リング の位置は注視点を中心として、その左右に3つずつ表示された。リングの大き さは直径が1cm(0.640 )、手がかり刺激間の距離はリングの中央から隣のリング の中央まですべて9cm(5.70 )の等間隔だった。ここでは便宜上、画面の左端の リングからそれぞれ1-6の番号で呼ぶことにした。画面までの距離は90cm、注 視点から隣に表示されたリングまでの視角は2.850 であり、注視点から画面の 端までの視角は14.30 、画面の左端から右端までは28.60 であった。制御布置
の表示時間は1サイクル当り500msec(300msec on, 200msec off)とした。 1サイク
ルごとに200msecのブランク画面が挿入されているため、画面は明滅して見え
た。刺激提示開始から3-7サイクルで星形(★)のprobe刺激が6箇所の位置のいず れかに表示された。 probe刺激が表示されるタイミングと位置については、試行
ごとにランダムに設定した。 probe刺激が表示されてから4000msec過ぎると反応 がなくても画面からすべての表示が消え、 1試行終了とした。また、音声提示 開始から10.5秒後に次の試行が自動的に開始されるようにプログラムを作成し た。 画面には2つのパターンがあり、ひとつはsingletonの注意の捕捉を抑える目 的で、 6箇所の位置に表示されているリングの周りにprobe刺激と同形の'★' を視覚ノイズとして'●'に加えて提示したものであった。この画面のことを ここでは「視覚ノイズあり」と呼ぶことにした.もう一方は、リングの周り に'●'のみを提示した。この画面はsingletonによる注意の捕捉の影響を測定 するための統制条件として利用し、 「視覚ノイズなし」と呼ぶことにした。 さらに、先に述べたように、 changeblindness現象を利用しabmptonsetによる 注意の捕捉を抑えた上で、視覚ノイズあり条件と、視覚ノイズなし条件に分け てsingletonによる注意捕捉の影響を検証ができるようにした。尚、 「視覚ノイ ズあり」画面と「視覚ノイズなし」画面の提示確率は50%であった0 刺激提示画面については、図1を参照のこと。 [聴覚課題 言語課題の作成]実験に用いた聴覚用言語課題は、独自に作成し たクイズ問題であった.クイズ問題は感情喚起を伴わない一般常識問題とし、 解答は選択肢が「正解」か「不正解」かを判断し「マル」か「バツ」か口頭で 答えるものとした。 1間の長さは、視覚課題の時間と同期をさせるため最短で3 秒、最長でも6秒となるように設定した。問題の作成にあたって最も留意した 点は、実験参加者の問題に対する興味・関心の度合いと難易度である。実験参 加者に幅広く対応するために、難易度を小学校卒業程度、高校卒業程度、大学 卒業程度、一般常識問題の4段階に設定し、内容も様々なジャンルのもの(例え ば、ことわざ、生物、地理、歴史、時事問題、通信、スポーツなど)を含むよう にし、実験に必要な576間のすべてを作成した後に全体を均等に4つに分けた (問題例: 「オーロラは通常、南極や北極のような「極」の近くの空に現れ る」 ) 。それらをすべて実験者がICレコーダに録音した後、パーソナルコンピ ューターに音声データ(WAVファイル)として転送・保存した。 質問紙 本研究では実験によって得られた結果と、鈴木(2002);鈴木他,(2005)
によって開発された注意機能尺度(鈴木, 2002;鈴木他, 2005)およびBroadbentら
(Broadbent, Fitzgerald 皮 戸arkers, 1982)によって開発された、個人の失敗行動傾向 を測定するCFq(Cognitive Failure questiomaires)の2種類の質問紙との関連を分析 することで、注意の個人差や失敗行動傾向との関わりを検証した。注意機能尺 度は「分割因子」 、 「多動性因子」と「切り替え不全因子」と命名された3つ の下位尺度を含む計21項目からなる質問紙である。 装置 実験では、視覚課題提示および実験全体を制御するためにパーソナルコ ンピューター1台が用いられた。また、視覚課題の提示には画面の大きさが縦 3120mm,横565mmの26型液晶マルチメディアモニター(SHARP:IT-26Ml)が用 いられた。聴覚課題の提示は、上記パソコンからの信号で制御されたノート型 パ ソ コ ン(SAMSUNG:Plo)に よ り、密 閉型- ツド フ ォ ン (audio-teclmica:ATH-AD700)を使用して行ったo ディスプレイまでの距離を一定に保つためにあご台を用いた。また、実験参 加者の注視点が始めから右、もしくは左に偏っていないことを確認するため に、液晶モニターの中央下部にビデオカメラを設置し、実験参加者の許可を得 て目の動きを撮影した。 手続き 実験は実験参加者ごとに個別に行った。各試行の開始とともに、まず 画面中央に注視点が現れた。実験参加者には注視点を見ながら、左右両側に3 箇所ずつ表示されているリング(○)のうちのどれか1つが星印(★)に変わるの で、これを確認したら素早くキーボードのスペースキーを右手で押すように教 示した。 実験中は実験参加者には-ツドフォンをつけてもらい、片方の耳からクイズ 問題を聞かせた。その際、 singletask条件では、 -ツドフォンを通じて流れるク イズ問題を無視するように教示し、 dualtask条件ではクイズ問題に対して口頭 で回答させた。クイズ問題の内容が正しければ「まる」 、間違いだと思ったら 「ばつ」と、はっきり答えるように教示した。報告された回答は実験者がその 場で聞き取り、後で採点をした。 視覚課題の提示開始後500msecで聴覚刺激が始まるよう実験制御に用いられ たコンピュータによりタイミングを調節し、聴覚刺激の提示と回答に要する時
間はprobe刺激が出現し検出反応が生ずるのに十分と思われる時間となるよう、 3秒から6秒とした。実験参加者は画面のprobe刺激に反応してから聴覚課題に答 えた。聴覚課題の入力方向およびクイズ問題、 duaトsingleの課題の順番は実験 参加者によってカウンターバランスした。また、クイズ問題に答えさせた時 (dualtask)の、実験参加者全員のクイズの平均得点を算出し、平均から大幅 に逸脱した実験参加者は課題の負荷が適切ではなかったと判断して、結果から 除くことにした。 全体的な実験デザインは、実験の説明と教示の後、実験に用いた視覚課題と 練習用に用意した聴覚課題を使用して練習試行を十分に行った。その後、 single taskかdualtaskのどちらかを行い、 1ブロックが終わると休憩をはさんで2ブ ロック目(singletaskかdualtaskのまだ行われていない方)の課題を行った。こ の休憩時に注意機能尺度とCF(〕(Cognitive Failure (〕uestiomaire)の質問紙に記入
してもらい、その場で回収した。 実験参加者が1回のブロックで行う試行数は144試行で、これをdualtaskのブ ロックとsingletaskのブロックとで2ブロックの合計288試行行った。 1ブロッ ク内の試行の内訳は、 「視覚ノイズあり条件と視覚ノイズなし条件」の2条件 × 「ターゲットの出る位置」の6条件の計12試行からなり、これを12セットく り返し、全部で144試行とした。 実験の所要時間は質問紙の記入時間を含めて約80分程度であった。 要因計画 2(聴覚情報の入力方向:右,左)×2(課題:dual, single)×2(視覚ノイズの 有無)×6(probeの提示位置)の4要因計画。聴覚情報の入力方向(右耳,左耳) は、被験者間要因であり、その他は被験者内要因であった。 結果 今回の課題では、 200ms以下を除外した上で、 probeの検出反応時間のばらつ きを考慮して、代表値として中央値を採用した。さらに全体の度数分布に基づ き反応時間が2000ms以上の試行は事故が起こる危険性の高い「見逃し」と見な してその頻度を数え、別途分析を行った。 尚、聴覚(verbal)課題(クイズ問題)の得点の平均値を表1に示す。今回の実験
では聴覚課題の得点によりデータから除外された実験参加者はいなかった。 反応時間 尚早反応として200ms以下を除外し、 2000ms以上反応に時間がかか った「見逃し」の試行も含_めて中央値を求め、分析を行った結果、課題 (dual/single) (F(1,28)-31.329, p<.001) ,ノイズ(有/無) (F(1,28)-57.211, p<.ool) , probeの出た位置(ト6) (F(5,140)-42.619,p<.001)の主効果が有意 であり、課題×probeの出た位置(F(5,140)-2.817,p<.05) ,ならびに視覚ノイズ ×probeの出た位置(F(5,140)-15.362, p<.001)の交互作用が有意であった。課題 ×probeの出た位置の交互作用が有意となったことからくPrObeの出た位置ごと の課題の単純効果の検定の結果、 probeの出た1-6の全ての位置において有意な 効果が得られた(位置の1と6はpく001,その他の位置はp<.05) 。このことから
probeがどの位置に出現してもsingletaskよりも、 dual taskの方が視覚探索課題に
おける反応時間が遅くなることが示され、聴覚による言語課題が聞こえてくる だけのとき(singletask)よりも、聴覚課題に答えさせたとき(dualtask)の方が注意 の容量をより大きく要求し、単純効果の検定を考慮すると画面の両端の位置で その差が顕著なことが明らかとなった。 またノイズの主効果が有意であったことから、 singletonによる注意の捕捉の 影響が周辺に配したノイズにより抑制されることが示され、本実験の刺激布置 が従来のものと比べて、能動的な注意配分により依存していたことが確認され た。視覚ノイズ×probeの出た位置の単純効果の検定の結果、画面の中央付近の 3と4の位置では有意ではなく、その他の画面の周辺の1,6の位置わく.001) 、 5の 位置付く.01) , 2の位置(p<.05)でのみノイズの有無の効果が見られた。つま り、視覚ノイズの効果は画面の周辺部において顕著に現れたことになり、注意 が主に向けられていたと思われる中央部では視覚ノイズはprobe検出に影響を及 ぼさないことが確認された。 聴覚情報の入力方向(右耳/左耳)の有意な主効果は得られなかったが (F(1,28)-.313,p-.580) 、これと関連する交互作用は、聴覚の入力方向×画面 の位置(F(5,140)-2.020, p-.079)が有意傾向であり、また、聴覚の入力方向×課題 ×視覚ノイズ×probeの提示位置の4要因の交互作用が有意傾向となった (F(5,140)-2.275,p=.0503)0 視覚ノイズの主効果が有意で、かつprobe位置との交互作用も見られたので視覚
ノイズあり条件単独で、聴覚の入力方向,課題, probeの出た位置の3要因の分 析を行ったところ、課題(F(1,28)-12.088, p<.005)およびprobeの出た位置 (F(5,140)-33.066,p<.001)の主効果が見られた。しかし、聴覚入力方向×課題 ×probeの出た位置の交互作用は見られなかった(F(5,140)-1.884, p-.1009) 0 probeの出た位置間の多重比較では、 1の位置(一番左側)は6の位置(一番右側)を 除くすべての位置との間で有意であり(p<.001) 、また6の位置は1の位置を除く すべての位置と有意差付<.001)が得られたが、そのほかの位置では有意な効果 が得られなかったことから、画面の両端(1と6)でのみ反応時間が遅くなり、そ e)1両端同士(1と6)で比較すると、画面の左右では反応時蘭に差がなかったこと が分かる。さらに視覚ノイズあり条件単独で左右両端(1と6)のみを取り出して 分析した結果、課題の主効果が見られ(F(1,28)-5.057,p<.05)、視覚ノイズあり条
件下においてdualtaskのときのほうが、 singletaskのときよりも、 probeの検出に
時間がかかることが示された。 見逃し 反応時間が2000ms以上の見逃しの個数をアークサイン変換後に反応時 間と同様の4要因の分散分析を行った結果、視覚ノイズの有無(F(1,28)-15.356, p<.001) 、 probeの出た位置(F(5,140)-6.505,p<.001)の主効果がみられた。 probeの出た位置の主効果における多重比較の結果、画面の一番左側が、画面の 一番右側を除くすべての位置との間で有意差が見られたのに対し、画面の一番 右側(6の位置)では、その他のどのprobeの出た位置とも、有意差は見られず、こ のことから画面の左側のみがその他の位置に比べて、遅延反応が多くなってい ることが判明した。また、視覚ノイズの有無×probeの出た位置 (F(5,140)-6.808, p<.001) 、聴覚入力の方向×課題×probeの出た位置 (F(5,140)-3.234,p<.01) 、聴覚入力の方向×課題×視覚ノイズの有無 (F(1,28)-7.037,p<.05) 、聴覚入力の方向×課題×視覚ノイズの有無×probeの 出た位置(F(5,140)-2.415, p<.05)の4交互作用において有意差が得られた。 視覚ノイズの有無×probeの出た位置の交互作用を分析するために視覚ノイズの ある条件とない条件を個別に分析したところ、視覚ノイズがある場合にのみ probe位置の効果が有意であり(F(5,140)-7.488,p<.001) 、個別に比較を行ったと ころ、 probeの出た位置は、画面の1の位置(一番左側)と2,3,4,5の位置、もしくは 画面の6の位置(一番右側)と2,3,4,5の位置でのみ有意であった(p<.001) 。このこ
とから、視覚ノイズがない場合と比較して視覚ノイズがある場合に、画面の周 辺において見逃しが多くなるが、画面の左右で見逃しの割合に有意な差は見ら れないことがわかる。 さらに詳しく検討するため、視覚ノイズあり条件下での1と6の位置のみを取 り出して分析した結果、聴覚入力の方向×課題×probeの出た位置の交互作用が 見られたので(F(1,28)-4.505,p<.05) 、この視覚ノイズありの条件下において1 と6の位置でのdual taskからsingle taskの値を引いた差分を計算し、その結果につ
いて分析した結果、聴覚入力の方向の主効果が得られ(F(1,28)-5.326,pく05 ) 、聴覚情報を右側から入力したときよりも左側から入力したときのほうが、 plrbbeの出た位置の左右に関係なく全体的に見逃しが多くなることが示された. 一方視覚ノイズなしの条件下では、全ての要因において有意な効果は見られな かった。 尚、注意機能尺度の質問紙(鈴木ら2004)および、 CFq(Cognitive Failure questionnaires)の結果については、別途詳細を述べることとし、ここでは省略す る。 考察 実験では課題(dual/single)の効果が見られたことから、話を聞くのみよりも、 話に返答したときの方が、 probe検出の成績を悪くすることが確認された。しか し聴覚情報入力の方向とprobeの出た位置の交互作用が見られなかったため、反 応時間については、聴覚情報の入力方向による視覚の左右での注意の偏りは確 認できなかった。 視覚ノイズの効果が有意であり、視覚ノイズあり条件の場合に、ノイズなし 条件に比べ、特に周辺部においてprobeの検出が遅延することが示された。この 結果から、 singletonによる注意の描捉の影響を極力抑えることで、能動的な注 意配分により依存した実験状況が作られたと言える。 また、聴覚情報の入力方向の違いによる影響は、反応時間が2000ms以上の遅延 反応でもみられなかった。ただし、聴覚情報が左耳から入力された場合に、右 耳から入力した場合と比較して全体として見逃しが多くなった。このことは、 左耳から入力があるとprobeに気づきにくくなることを示唆しており、左半球で
の言語処理と関係していることも考えられる。 実 鹸2 日的 実験1では実際に会話を行うことが運転に必要な注意を減らし、認知的な干渉 が生じるという結果が導き出されたが、聴覚情報の入力方向が視覚の左右-の 注意配分に影響を及ぼすか否かは確認できなかった.しろ、しビデオカメラで撮 影-した実験参加者の目の動きをチェックしたところ、実験参加者の注視点は始 めから右、もしくは左に偏ってはいなかったものの、モニターの中心からほと んど動いていないことがわかった。このため、注視点を与えたことで注意が左 右いずれの側にも十分移動しなかった可能性も考えられる。さらに、実験1の 結果より、視覚ノイズの有無の効果が画面の中央付近でみられなかったことか ら、実験参加者がモニターの中央により注意を向けていたことが考えられる。 また、聴覚入力の方向については、被験者間要因となっていたため、個人差が 影響した可能性がある。これらのことを考慮し、実験2では注視点の表示を無 くし、視覚課題のprobe刺激の出る位置数を6箇所から3箇所に減らすことによっ て、実験参加者一人あたりの所要時間、要因数とprobeの提示位置あたりの試行 数を変えずに、聴覚情報入力の方向を被験者内要因として、再びprobe検出と聴 覚の言語課題との二重課題実験を行った。 方法 実験参加者 実験1とは別の18歳から22歳(平均年齢19.4歳)の大学生15名(男性6 名,女性9名)が実験に参加した。また実験の参加者は全員右利きだった。実験1 と同様に、各実験参加者に対して実験の趣旨を事前に説明し、インフォームド コンセントを得た。 刺激および手続き 刺激布置等は実験1とほぼ同様であったが、視覚課題の probeの出る位置を、画面左、中央、右の3箇所にした。ここでは便宜上、画面 の左端のリングから1-3の番号をつけて呼ぶことにした。また聴覚課題は実 験1と同様の言語課題を使用したが、 1題あたりの出題時間の長さを全て6秒程
度に揃えた。 装置と手続きは実験1と同様であった。実験参加者が1回のブロックで行う 試行数(出題数)は72試行、これをdualtaskのブロックとsingletaskのブロック とで2ブロック、聴覚の入力方向が右耳から聞かせるブロックと左耳から聞か せるブロックとで2ブロックの合計4ブロック行った。 1ブロック内の試行の内 訳は、 「視覚ノイズの有無」の2条件× 「ターゲットの出る位置」の3条件、こ れを12セットくり返し、全部で72試行とした。 72試行を4ブロック行ったた め、合計で28S試行となり、実験の所要時間は、質問紙の記入時間を含めて約 90分程度であった。 聴覚情報の入力方向(右,左)を被験者内要因とし、聴覚の入力方向および課 題の順番は被験者間で相殺された。 質問紙 注意機能尺度(鈴木, 2002;鈴木他, 2005)、 CF(∼(Cognitive Failure
Questionnaires; Broadbent, Fitzgerald &Parkers, 1982)、日本版アイゼンク性格検査 (Eysenck PersonalityInventory ;岸本 陽一構成) 、日本版sTAI (State Trait AmietyInventory;水口公信/下仲順子/中里克治 構成) 、発話傾向尺度(岩 男, 1995)の5種類の質問紙を使用した。 要因計画 2(聴覚情報の入力方向:右,左)×2(課題:dual, single)×2(視覚ノイズの 有無)× 3(probeの提示位置)の4要因計画。すべて被験者内要因であった。 結果 反応時間の尚早反応として200ms以下を除外し、 「見逃し」とした遅延反応の 試行も含めて中央値を求め、 4要因の分散分析を行った。実験1では反応に 2000ms以上時間がかかった遅延反応試行が全体の1.90%、視覚ノイズありの試 行において3.00%であったのに対して実験2の場合は2000ms以上時間がかかった 試行が全体の0.86%、視覚ノイズありの試行において1.06%と少なかったため、 実験2では遅延反応の基準として1500ms以上(試行の全体においては1.69%、視 覚ノイズありの試行において2.08%)を用いた。 尚、聴覚(verbal)課題(クイズ問題)の得点の平均値を表2に示す。今回の実
験では聴覚課題の得点によりデータから除外した実験参加者はいなかった。 反応時間 反応時間の4要因の分散分析の結果、課題(F(1,14)-21.177,p<.001 ) 、ノイズの有無(F(1,14)=15_・650, p<.005)およびprobe位置(F(2,28)-33.292, p<・001)の主効果が有意であった。 probe位置の主効果における多重比較の結 果、画面の左側(1)と右側(3)の組み合わせ以外は有意でありわく.05) 、両端が中 央に比べ反応が遅れたものの、画面の左右で反応時間に差は見られなかった。 これらの結果は、先の実験1の結果と類似している。しかし、これらと関連す る交互作用はすべて有意ではなかった。 聴覚情報の入力方向(右耳/左耳)の有意な主効果は得られなかったが (F(1,14)-0.043,p-.839) 、これと関連する交互作用は、聴覚の入力方向×課題 ×視覚ノイズが有意傾向であった(p-.0569)0 視覚ノイズの主効果が有意であり、かつ2次の交互作用が有意傾向であったの で、視覚ノイズあり条件単独で、聴覚の入力方向,課題, probeの出た位置の3 要因の分析を行ったところ、課題(F(1,14)-13.140,p<.005) 、およびprobeの出 た位置(F(2,28)-28.303, p<.001)の主効果が有意であった。 probeの出た位置の 主効果における多重比較の結果、画面の左側(1)と画面の右側(3)の組み合わせ以 外は有意であり(p<.05) 、このことより視覚ノイズあり条件下でも画面の左右 両端で反応時間には違いがなかったことが確認された。また、視覚ノイズあり 条件において聴覚入力の方向×課題の交互作用が有意であり(F(1,14)-4.643, p<.05) 、この交互作用における単純効果の検定の結果、聴覚入力の方向が左側 のときは有意差が見られたが(F(1,14)-14.699,p<.005) 、聴覚入力の方向が右 側のときは有意差が見られなかった(F(1,14)-0.765,p-.3966) 。一方視覚ノイ ズなしの条件下では、課題(ど(1,14)-13.567,p<.005) 、およびprobeの出た位置 (F(2,28)-23.668,p<.001)の主効果が有意であったものの、聴覚入力の方向が 関与する有意な効果は見られず、これらのことから、注意を能動的に配分する 必要性が高いノイズあり条件でのみ聴覚入力の方向が影響している可能性が示 されたといえる。 見逃し 反応時間が1500ms以上の見逃しの個数をアークサイン変換後に反応時 間と同様の4要因の分散分析を行った結果、視覚ノイズの有無の主効果
(F(1,14)-7.300,p<.05)および聴覚の入力方向×課題×視覚ノイズの有無× probeの出た位置の4要因間の交互作用が有意であった(F(2,28)-4.212, p<.05) 0 また、視覚ノイズあり条件単独で3要因の分析を行ったところ、聴覚情報の入 力方向×課題×probeの出た位置の交互作用が見られ(F(2,28)-5.982,p<.01) 、 この視覚ノイズありの条件で、 1と3の位置でのdualtaskからsingletaskの値を引 いた差分について分析した結果、聴覚入力の方向に有意傾向が見られ (F(1,14)-3.595,p-.0788) 、聴覚情報を右側から入力したときよりも、左側か ら入力したときのほうが、 probeの出た位置の左右に関係なく全体的に見逃しが 多くなる傾向があることが示された。 務帯電話を普段、利き手側(本実験では右側)か、もしくは利き手と反対側 (本実験では左側)の耳に当てるのかを、本実験の参加者15人に対して聞き取 り調査をしたところ、 2人が左耳に、残りの13人が右耳に電話をあてると回答 した。右耳にあてる人が大部分で、左右の耳別の分析が困難だったため、今回 は分析の対象としなかった。
また、注意機能尺度、 cFq(Cognitive Failure questiomaires)、日本版アイゼンク
性格検査(Eysenck PersonalityInventory) 、日本版sTAI ( State Trait Anxiety Inventory) 、発話傾向尺度の5種類の質問紙の結果については、実験1と同様 に、詳細を別途述べることとし、ここでは省略する。 考察 実験では課題(dual/single)の効果が見られたことから、二重課題法のverbal (言語)課題の効果が示され、話を聞き流すよりも、話に答えさせたときのほ うが、 probe検出の成績を悪くすることが確認された。また、視覚ノイズあり条 件と、視覚ノイズなし条件ではprobe刺激の検出時間に有意な差があり、視覚ノ イズあり条件の場合に視覚ターゲットの検出時間が遅くなった。このことから 視覚ノイズあり条件では、注意の自動的な働きが極力抑えられたと見なせる。 これらの結果は実験1と一致したo この視覚ノイズあり条件下では、聴覚入力方向と課題の交互作用が有意であっ たことからsingletonによる注意の捕捉を抑制すると、聴覚入力方向が左側のと きに有意にprobe検出が遅くなることが示された。同様に、遅延反応の頻度から
も、聴覚情報を右側から入力したときより、左側から入力したときのほうが、 probeの出た位置の左右に関係なく全体的に見逃しが多くなる傾向があることが 示された。 総合考察 本研究の目的は、自動車の運転中において携帯電話を用いて会話をする際に 会話そのものが運転中の視覚性注意にどのように影響するのか、また聴覚情報 の入力方向が視覚的注意配分に影響を及ぼすのか、ということについて検証す ることであった。 実験1 ・ 2ともに、 singletaskよりもdualtaskの方が視覚探索課題における反応時 間が遅くなることが示され、このことから聴覚による言語課題が単に聞こえて くる(singletask)よりも、聴覚課題に答えさせたとき(dual task)の方が注意の容量 をより大きく要求し、 probe検出の成績を悪くすることが確認された。この結果 はStrayer& Johnston(2001)らの知見と一致し、携帯電話による会話それ自体が、 運転行動に向けられる視覚的注意を減少させることを実証したと言える。 本研究のもう1つの目的である、聴覚情報の入力方向(右耳から聞かせる か、左耳から聞かせるか)の違いによる注意の偏りに関しては、左右の位置に よる違いが見られなかったことから、情報の入力方向に応じて注意が一方に偏 るとは言えないことになる。ただし、入力が左耳の時に「見逃し」が増える傾 向が見られたことから、左からの言語情報入力があると左右半球間で干渉が生 じることにより注意容量が低下する可能性が窺えた。 また、本研究ではprobe刺激が自動的な注意の捕捉を起こしにくくするように工 夫した上で、会話が能動的注意配分に及ぼす効果を検証した。実験の結果、視 覚ノイズの効果が見られたことから、 singletonにより注意が捕捉されることが probe検出を容易にすることが確認できた。 abruptonsetとsingletonによる注意の 捕捉をともに抑えることで、より注意の能動的制御が必要とされる条件で主課 題による注意配分-の影響が検討出来たといえる。 また、聴覚情報入力の方向が視覚的注意配分に及ぼす影響として、実験1およ び2の両方から、聴覚情報が左耳から入力された場合に、右耳から入力した場 合と比較して反応時間が遅延する(実験2)とともに遅延反応が画面(視覚)の左
右に関わらず全体的に多くなることが示され、左耳から入力があると注意容量 が低下することが示唆された。さらにこの影響が見られたのは視覚ノイズあり 条件下であり、自動的な注意が働きやすい条件で聴覚情報の入力方向に関する 影響はみられず、注意の制御がより能動的なときに入力方向の影響が現れるこ とが示された。 本研究では、実験によって会話をするといった高次な認知処理が視覚の注意 配分に影響するという結果が導き出された。このことは、運転場面を考慮する と、携帯電話の形態が、 handheldか、もしくはhands-fTreeか、ということに関わ らず、会話自身が事故を引き起こす要因となりうること、特に右耳よりも左耳 や使用したときに、子供の飛び出しのような外界の意味のある事象-の気づき が悪くなる可能性が示唆された。
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1 500 1 400 1300 1 200 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 1 0 0) 8 7 LIL_ (Su)匡皆喧嘩 0 0 0 0 0 0 6 5 4 - 劔劔剪 1 2 3 4 5 6 画面左側 probeの出た位置 画面右側 【図2】実験1視覚ノイズあり条件での反応時間
藍jifk]
l虫棚Q)1SelOtBu!S. -1SellenP 6 4 2 0 0 0 0 0 0 2 4 6 0 0 0 0 0 0 画面左側 probeの出た位置 画面右側 【図31実験1視覚ノイズあり条件での見逃し (2000m8以上の遅延反応)の割合
+入力左町
二一阜二越廼些」0.04 虫棚Q)1SeTGIIau!S-1Set一enP 3 2 1 0 1 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 画面左側 probeの出た位置 画面右側 【図4】実験2視覚ノイズあり条件での見逃し (1500ms以上の遅延反応)の割合 . -■一・入力左側 L・一・入力右側
【表11聴覚(verbal)課題の得点の平均点と標準偏差(144問の全問正解を100として算出) 聴覚(verbal)課題 平均値(range) 標準偏差 右耳入力群 左耳入力群 75.2(80・64) 4.78 75.6(84・69) 4. 17 【表2】聴覚(verbal)課題の得点の平均点と標準偏差 (72間×dualtask2ブロックの全問正解を100として算出) 聴覚(verbal)課題 平均値(range) 標準偏差 右耳入力 左耳入力 73.2(8 1・60) 5.82 75.5(84・66) 4.93