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二圭課題時の注意の能動的制御:

ドキュメント内 個人差から注意の最適制御戦略を探る (ページ 38-71)

高齢者と若年者の比較

自動車運転中の携帯電話の̲使用に関するこれまでの議論は、自動車運 転中の携帯電話の使用が事故の危険性を増加させることの立証を目指し

た研究が中心であった(Redelmeier 皮 Tibshirani, 1997)。自動車運転中の

携帯電話の使用は、 2つの課題を同時に遂行する事態と見なせ、これは 注意が運転と会話にどのように配分されるかという二重課題の問題と し て捉えることができる。このような二重課題の干渉についての研究は、

古くから自動車運転中の携帯電話使用と結び付けられてきた(e.g.,

Brown,Tickner,&Simmonds, 1969;川野・西田・橋本・森脇, 1998;Spence

& Read, 2003) 。携帯電話を使用しながら運転をすることが事故につな がるのは、注意を 2つの課題間で共有することで個々の課題の注意容量 の不足が生ずることに起因する。さらにHartley(1992)はメタ分析の結果 から、同時に2つの課題を遂行する二重課題の能力には年齢による違い があり、若齢者の方が高齢者より も課題遂行能力が高いことを指摘して

いる。

Li&Lindenberger(2002)は認知負荷が加えられると、高齢者の知覚及

び知覚運動能力は若齢者より も損なわれやすく、二重課題に対するパフ ォーマンス・コストが大きいことを指摘している。また前頭前部皮質は 年齢に依存して萎縮が見られることが fMRI を用いた研究から示されて

おり(e.g., Cabeza, Daselaar, Dolcos, Prince, Budde, & Nyberg, 2004 ; Ra∑,

Gunning‑Dixon, Head, Rodrigue, Williamson, 皮 Acker, 2004) 、これに伴

い高齢者では前頭葉外側の作業記憶と注意機能に関連する機能の低下が

示されている(Johnson,Mitchell,Raye,&Greene, 2004) 0

加齢による事故の危険性を考えたときに、事故頻度に直接的に影響す

る危険察知能力に関連する要因として有効視野に生じる加齢変化の影響

が指摘される(Ball,Owsley, Sloane,Roenker,&Bruni, 1993 ;石松・三浦,

2003)0 Sekuler,Bennett,&Mamelak,(2000)の有効視野の大きさの評価を

目的としたradiaHocalization (放射状の位置判断課題)の実験では、注

意分割の影響としては周辺部での位置判断におけるエラー率が年齢とと もに増加することが示された。このことから高齢者の有効視野は負荷を 敏感に反映してその大きさが変化することを示唆している。そのため能 動的な視覚探索の効率低下も顕著に生ずることが示されている(内田・

ワード・ブローカース・片山,2000)0

高齢者はこのような障害物を検出できる周辺視野範囲の縮小のほか に日常生活においてしばしば物と出来事が混乱し、関連した物を探し出 すための時間が増大するという視覚探索の活動に伴う困難を報告する

(例えば,山崎・北島・熊田・小木, 2004)。このことは交差点を右左

折する場合のミラー確認行動および左右‑の視線移動、信号の変化など 必要な情報を選択・獲得していく ことが必要とされる自動車の運転につ いても例外ではない。高齢者の視覚探索は、選択的注意、分割的注意、

空間的な位置の特定の遅延などの問題があることに加え、無関係な情報 を抑制することの困難さを伴い、これらの注意関連機能はいずれも加齢

の影響を受けやすいことが示されている(Hartley,1992)。

選択的注意とは、処理すべき情報を選択する際に働く注意で、運転堤 面の実験では指定された刺激(ターゲット)を複数の項目の中から見つけ 出すという視覚探索課題が選択的注意課題としてしばしば用いられてい

る(e.g.,Atchley 皮 Dressel, 2004)0

ターゲットが妨害刺激と単独の特徴において異なる場合、ターゲット の検出は効率的であり、この場合の検出までの反応時間は妨害刺激数に

依存せず、注意は特徴のボトムアップ処理によって主に影響される。タ ーゲットが一つの特徴によって妨害刺激から区別できる場合、並列処理 のシステムは、直接に注意をターゲット‑導く ことができ、検出に要す る時間は表示された妨害刺激の数には依存しない。この現象は、「ポップ アウト」と呼ばれる。一方妨害刺激の特徴がターゲットと類似している 場合は注意を要する処理となり、探索は個別に項目を捜さなければなら ず、反応時間は項目数に比例して増加する。この場合、ターゲットを単 独の特徴の違いによって妨害刺激から弁別することができないので、タ ーゲットに対する注意はト ップダウンの誘導で決定される(Madden, 2007)。視覚のターゲットの特徴が1つであるときは特徴探索においてポ

ップアウトが起こるため、周辺距離が視野の中心から半径100 程度の領 域では高齢者も一般的に効率的な探索を示すが、高齢者は若齢者と比較

して反応が遅く、正確ではない(e.g., Owsley, Burton‑Danner, 皮 Jackson,

2000 ; Burton‑Danner, Owsley, 皮 Jackson, 2001)0

一方妨害刺激の特徴がターゲットと類似しているような難しい探索 課題において、項目数と探索時間の関係は若齢者より も高齢者の方が典 型的に傾きが大きく、これはトップダウンでの探索の効率の加齢による

低下を示すとされている(Madden&Whiting,2004)0

Madden, Spaniol, Whiting, Bucur, Provenzale, Cabeza, White, 皮 Huettel,

(2006)は、視覚的注意に関係する脳の機能から見て、年齢による変化と しては前頭葉と頭頂葉の皮質領域の活動が、若齢者よりも高齢者のほう が全体的に大きいことを示し、課題がトップダウンのコントロールを必 要とするとき、パフォーマンスは若齢者と比較して高齢者では前頭一頭頂 皮質の活動とよ り関係すると している。

これまでの自動車運転中の携帯電話の使用における先行研究では、運

転行動にマイナスの影響を与える原因を検討しているものが多い。例え

ば、若齢者を対象と した driving simulators を用いた car‑following

situation (前の車の後に続いて運転する状況)での携帯電話使用の実験 において、運転中の非常に高い処理の負荷が、交通場面において事故の

危険性を増加させたとする研究(Alm&Nilsson,1995)やrlickerパラダイ ムを用いたチェンジブラインドネス(change blindness)事態での変化の検 出課題において、 hands‑rree の携帯電話での会話が、̀変化の検出の妨げ

になるとしたもの(McCarley, Vais, Pringle, Kramer, Irwin, & Strayer,

2004)、あるいは、会話を行うことで視覚の注意の範囲または有効視野が

制限されることを示したもの(Atchley&Dressel,2004) 、あるいは携帯

電話での会話そのものが運転に必要な情報に向けられるべき視覚的注意 を減らし、中心視の視覚情報による運転の能力を制限するため、結果と して動作制御に重要な情報の欠落をもたらすというように(e.g.,Strayer

&Johnston,2001; Strayer,Drews,&Johnston,2003)、会話を同時に行った

ときの、運転に対するマイナスの影響を示す様々な知見が得られている。

Strayer& Drews, (2004)は、高性能のdriving simulatorsを用いてハン

ズフリーの携帯電話の会話の影響を高齢者と若齢者の両方で調査し、携 帯電話の会話が高齢者と若齢者の両方において運転行動の悪化をもたら

したことを示した。さらにMcCarley, et al. (2004)は変化の検出課題を

若齢者と同様に高齢者(平均年齢68.4歳)でも行っており、若齢者と高 齢者の両方において会話は変化の見落しの頻度を増やし、変化の検出と 確認に必要な探索能力を減らすことを示した。しかしこの影響の表れ方 は若齢者と高齢者とで異なり、若齢者では会話は変化の検出に必要なサ

ッケ‑ドの数を増加させたが、高齢者では会話は変化の検出のために必 要な眼球運動の数の増加にはつながらなかった。

会話をすることによる高次の処理で従来、これまで全く考慮されてこ なかった点は、大脳半球の側性化である。人間には2つの大脳半球があ りその心理学的な機能が異なっているという説は、大脳半球の側性化、

もしくはラテラリティ と呼ばれており、一般に右利きの人では言語に関 しては左半球優位と されている。こ の左右の非対称性について Kinsbourne (1970)は、損傷を受けていない脳では、注意の定位は半球活 性化に付随して非対称に偏り、 1つの半球が活性化されると、注意がそ の半球の反対側の視野に向けられるという半球活性化によるバイアスモ

デルを提案している。 (Kinsbourne,1974)。

そこで本研究では、会話という聴覚情報の言語的な処理に伴って、視 覚的注意に偏りが生じるのではないかと考え、この点を確認する目的で 実験を行った。以下に詳述するように、先のKinsbourneの注意のモデル から予測されることは、言語に対する左半球の機能特化に伴い言語情戟 を処理する際には左半球が活性化され、注意が左半球とは反対の右視野 に向けられる、あるいは、言語的な聴覚情報を右耳もしくは左耳から聞 かせることによって入力側の半球が活性化されると仮定すると、処理さ れる材料によらず、注意がその半球の反対の視野に向けられるという 2 つの可能性が考えられる。これらを考慮し、本研究では加齢が視覚探索 にどのような影響を及ぼすのか、また、高齢者と若齢者とでは会話が能 動的な注意配分にどのような違いを及ぼすのかということについて、聴 覚情報の入力方向と、視覚probeを指標とした視野の部位との関連を検 証することを目的と して行った。

注意分割の加齢による影響(dual task cost)についての研究では、高齢

者は若齢者より もその影響が大きいかどうかという議論には決定的な答

えが示されていない。例えば、 strayer 皮 Drews(2004)は、携帯電話での

ドキュメント内 個人差から注意の最適制御戦略を探る (ページ 38-71)

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