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ソレムのリズム理論による旋律線の研究

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45

ソレムのリズム理論による旋律線の研究

1234

5 研究の目的 グレゴリオ聖歌 ソレムのリズム理論 ソレムのリズム理論に基いた,ピアノ曲の旋律線研究  A バイエルより  B ソナチネより 結 び

1 研 究 の 目 的

 音楽を構成する要素は数多くある。その一つの要素であるリズムを研究する事に着眼したの は,ソレムのリズム理論に基くグレゴリオ聖歌を研究した結果である。グレゴリオ聖歌を研究 する.事は,私にとってはグレゴリオ聖歌を唱う事よりも,そのリズムの根本原理を学ぶ事であ った。まだ充分とは言いがたいが,このリズムの原理を適用して,ごく初歩の基礎的なピアノ 曲を分析し,更にリズムの扱い方如何で,同・一A楽曲の表現が如何に変りうるかをも研究してみ た。リズム,それは音符の長短や強弱の単なる配列ではなくて,それらを含めたエネルギーの 必然的,自然的な進行状態である。これを分析,研究する事によってソレムの所謂“生きたり ズム”の全容を体得したいとういのが私の研究の目的である。 2 グレゴリオ聖歌(Chant gr6gorien)  グレゴリオ聖歌とは,カトリック教会典礼で歌われる単旋律の聖歌である。記譜法は,初期 のアクセント記号あるいはアルファベットによる記譜法其の他から漸次発達し,現在では四線 譜上にネウマと呼ばれる形の音符で示される。その起源はユダヤの典礼で歌われた詩篇頒 (Psalmodie)がそのままキリスト教にとり入れられた事に始まる。その時にユダヤ聖歌の特 徴であるメリスマ(同一母音で唱われるネウマの集団)が受継がれた。このメリスマは,全西 欧音楽の母胎とみなされている。この初期キリスト教会の聖歌が6世紀末ローマ法王グレゴリ オー世によって集大成きれた後,歌唱についても理論についても,大いに研究されたが13世紀 頃から次第にその研究がなをざりにされていった。しかし19世紀に於るカトリック典礼の再興 の結果,フランスソレムのベネディクト会修道院のドン・モクロー師(1930残)によってその 七四

(2)

七=  46      ソレムのリズム理論による旋律線の研究 リズム理論が体系づけられた。彼の提唱した理論は,9世紀以来の写本の研究によるものであ るから,中世に於るグレゴリオリズム理論のかなり忠実なる再現である事は言うまでもない が,一般にリズム理論としても最も基本的なものであり,西欧音楽の根本的理解に役立つ事は 勿論,作曲法,指揮法に関しても多くの示唆を与えるであろう。

3 ソレムのリズム理論

A 原 譜 B ネウマの解説    便宜上,1個のネウマを8分音符♪に置きかえて書き直した。ネウマの詳細について    は省略する。 C テキスト    テキストはラテン語でその日本語訳は次の通りである。     聖なるかな 聖なるかな 聖なるかな 万軍の天主なる主 主の栄光は天地に満て     り いと高き処まで ホザンナ 主の御名によりて来る者に祝福あれ いと高き処     まで ホザンナ D 複合拍    グレゴリオ聖歌の拍子は,2拍子とる拍子の不規則な連続である。1拍に数えるべき    1音は単位拍と呼ばれ,2個或は3個の単位拍からなる拍子は複合拍と呼ばれる。こ    のD列は原譜の各音を複合拍に分けたものである。これに関する法則については省略    する。 E リズムの分析    A(α)一arsis,アルシスーと,⑪ (θ)一th6sis,テージスについて。    すべての運動は二つの要素に分けられる。例えば一つのボールが投げ上げられて地上    をバウンドしている状態を考える。 この場合ボールの運動は上方に向って飛躍する要素と,地上に於て休息する要素との 二つに分けられる。この二つの要素は音楽に於てもリズムの基本となる。例えば,

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と考えられる。グレゴリオ聖歌に閉る旋律線のリズムは,各複合体拍lcついて,それ がアルシスであるかテージスであるかに分ける。原則として複合拍第1拍がアクセン トを持つシラブルであるか又は旋律的に上昇している場合は,アルシス(A)。第1拍が

(3)

         ソレムのリズム理論による旋律線の研究       47 語尾にあたるか又はその複合拍が旋律的に下行している場合は,テージス⑧と考えら れる。以下,各複合拍のリズム分析を試みる。次の各項の一連番号は,Fの複合拍番 号と一致する。

12345678

91011121314151617181920212223

4凸﹁Onb78

ワ臼9飼2ワ餌9θ アクセントのあるシラブルであるからA 語尾に当るから⑧ 旋律線の終止点であるから⑤ アクセントがあり,しかも旋律的に上昇するからA 2に同じ 3に同じ 音が巾広く上昇し又sanctusの言葉のアクセントを含むからA 旋律的には上昇するが,アクセントのないシラブルにあたるから⑨ 註D6−mi− nusの三つのシラブルは, A一・⑤一⑭である。 2に同じ 2に同じ 4に同じ アクセントのないシラブルで,しかも旋律的に下行するから⑭ 語尾でしかも旋律的終止点であるから⑭ 1に同じ 音が巾広く上昇するからA 2に同じ 音の高さとしては前の音より下っているが言葉にアクセントがついているからA 17の余韻とみなして⑭ 音が高まっているからA アクセントはあるが旋律的終止点であるから⑪ 3に同じ 言葉の始めでアクセントがつき,旋律が上昇するからA この複合拍の音だけをみると旋律的には下降しているが第A拍の第3間の音は, G16riaの旋律的グループの最高頂の点であって,複合拍22のアルシスのエネル ギーを更に引ついだものと考えられるからA 旋律線が下降するから⑧ 2に同じ 20に同じ 13に同じ 1に同じ 七一

(4)

48

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A e e A o o

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2 3 4

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(5)

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  LVIII一

一七〇 47 48 49 50 51 52 53 54 55

(6)

、L ノ弓ノ 50       ソレムのリズム理論による旋律線の研究    29 アクセントのあるシラブルにあたり,又音が巾広く上昇しているからA    30音はその前の複合拍第2拍目と同じ高さで保っているが,語尾であるから⑧

   3118に同じ

   32 19に【司じ    33 20に同じ

   3421に同じ

   35 このシルブルはBe−ne−di−ctusの単語に於ける第2アクセントにあたり,又旋      律的にも巾広く上昇しているからA    36 12に同じ    37 アクセントのあるシラブルで,又旋律線が上昇しているからA    38 18に同じ    39 26に同じ    40 27に同じ    41 17に同じ    42 18と同じ音形で⑧    43 19と同じ音形であるが語尾であるから⑤    44旋律線は下っているがアクセントのあるシラブルに当るからA    45 8に同じ    46 9に同じ

   4722に同じ

   48 23に同じ    49 アクセントのあるシラブルに当っていて,この複合拍としては旋律が上昇してい      るが,前の47,48で連続したアルシスの,旋律的下降の途上にあるものとみなし      て⑭    50 10に同じ    51音が巾広く上昇しているからA    52 アクセントのないシラブルで旋律的にも下降しているから⑤    53 11に同じ    54 18に同じ    55 13に同じ F 複合拍につけられた一連番号である。 G キロノミー(Chironomie)これはアルシス及びテージスの動きを孤線で可規的に表わし   たものである。 H シエマ(SCh6ma:図式)による分類。ソレム理論は更に,アルシス,テージスのあら

(7)

ソレムのリズム理論による旋律線の研究 51    ゆる組合せをいくつかのシエマに分類し,各々のシエマが持つダ・fナミックの方向を    く及び〉の形で表わした。それらの分類法については省略する。  1 此所に書かれたく及び〉は,Hによって分けられた各々のシエマの持つダイナミックの    方向を表わし,更にアンシーズ(incise:句)フラーズ(Phrase:段落)のダイナミッ    クをも示したものである。これによって,小部分から全体に到るまでのダイナミックの    配分が明瞭になる訳である。  以上で,先に掲げた楽譜並びにそれに附随した諸項目についての説明を終ったのであるが, これらが即ちソレムリズム理論の骨子である。グレゴリオ聖歌のリズムは,定量音符が考えら れて音楽が小節線で区切られる以前の,より自由な,より自然なリズムである。しかしその自 由さと自然さはテキストであるラテン語のリズムの正確にして秩序ある配列の上に立ってはじ めて自由であり自然であり得たのである。ソレムは,その自由と秩序の関係を明らかにした結 果,あらゆるリズムの本質を解明する事に成功したのである。  4 ソレムのリズム理論に基いた,ピアノ曲の旋律線研究  ソレムのリズム理論によれば,グレゴリオ聖歌のリズムは,それぞれの複合拍に就いて,そ れがアルシスであるかテージスであるかを分析するのであるが,この理論に基いて,我々がし ばしば教材として用いているピアノ曲の旋律線のリズムを分析する場合には,必ずしも常に1 小節をリズムの単位拍と考える事は出来ない。例えば3拍子はその形の上では1個の強拍と2 個の弱拍とから成立っているが,リズムとしては次の三様が考えられる。即ち,

り(

      一   一

        3拍子    3拍子

     例 モーツァルト ソナタ ト長調より ii)

a

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A−O

 A・e2 A.02

  一     一

  3拍子   3拍子

   {列  バィエノレ57番より A−O・ ︸六八

(8)

52 iii)

b

ソレムのリズム理論による旋律線の研究

)」

A→・θ  Aウ・θ

J

J

−曲」

り よ 番 25 ル エ イ バ 例

A−e

A−e

   c

       A−o A−o A−e A一一e

しかし上記の楽譜a及びbと,cを比較してみると, cの場合は, て次のようなリズムも考えられる。

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       A一一一一一e A一一一一一〇

      つまり,cは3拍子の各音が持つリズムであり, dはフソーズを構成する各小節が持       つリズムである。    以上述べた諸条件を考慮に入れて,以下バイエル,ソナチネの一部を例にとって,その旋律   線のリズムを分析し,或いはダイナミックの配分を明らかにし,更にはリズムの解釈と楽曲表   現の関係にも言及してみたいと思う。

芙   Aバイエルより

七   No.10 プレ■一一ズのリズムについて。 A 2 3 8 4

4 5 ”   ●型 一  層    r △   層  P 覧 一 ■         、  A● ,〆   畠  一 ● 一膠  一   7   L 一 ■」 一 、.藍 A    ●厘  凹 u8囚L 蝋 1 一   Ih  l L 曜   ‘   星 s    I   I 干 1   層   .▼ P   【   」 , 、 「層   μ  1

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(9)

ソレムのリズム理論による旋律線の研究  INaL’Xs 53 i l s

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A

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各小節内に放るリズムは次の通りである。 @ @ @

      A−e A−o

この形は全曲に互ってくり返されているが,楽曲全体は次のようなフレーズに分けら れる。

    A一 A

  I 12345678

    A一 A−

  1 9 10 11 12 13 14 15 16

    A一 A’一

  1 17 18 19 20 21 22 23 24 1及び豆の旋律線は次の形をとっている。

       A   A    A

それに対して夏は次のように考えられる。

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1

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       A   O A   O

なお右手と左手のリズムの対比は次の様に考えられる。

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ρ

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@A  A  A  AAAA  A  A  θ

@ ①    ②    ③    ④    ⑤    ⑥   ⑦   ③ 一六六

(10)

54 ソレムのリズム理論による旋律線の研究     ④は右手の休息の間に左手が躍動し曲全体の進行を助ける。     ⑧は④に対して両手共に休息して旋律線の終止を告げている。 No・25 プレ■・一ズのリズムとエネルギーの方向について。 1!

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A

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A   o A   e

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@ @ @ @ 」 六五     ③④の小節で低音部のdiminuendoに対して高音部の上昇する音には,次の小節の      アルシスに入る準備のエネルギーがある。そのエネルギーの方向を表わす為にスラ      一aとスラーbが⑤の第1拍上で出合っていると解釈する事が出来る。     ⑨⑩の2小節では,反対に低音部を次の小節⑪へ導入するのに必要なエネルギーが内      在し,それは更に⑪⑫の高音部にも二つがれて,この楽曲全体を通じてのダイナミ      ックの最高点が,其処におかれている。 No.32 リズムとスラーについて。

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(11)

ソレムのリズム理論による旋律線の研究 55

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   この楽曲に於ては特にスラーについて考察した。即ち,①②③④⑤⑥⑦⑧

   に於ては,いつれも2小節単位で,Aと⑧ が一組となっている。しかもこれらAと    ⑭の交互連続は先に述べた,No.10のllの部分に於けるような, A→⑭→A→⑧の    シエマWではなく⑭,A→⑭の シエマW が連続しているものである。更に⑨から    ⑯までのスラーをみてそれが意味するであろうところのリズムを考えてみると,上記    のようになる。此の部分では,リズムは小節線の制約をはなれてより自由に動き,前    半の規則正しさとは異った起伏を示している。⑰から⑳まではもとの規則正しさに戻    っている。 No・42 フレーズと音強との関係について。

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(12)

ソレムのリズム理論による旋律線の研究 まず・ズ・についてみると・・分の・拍子の此の曲では・」.・脚・な・てい・ と考えられる。 1の欄はリズムを分析した後シエマに分類し又,スラーとの関係はシエマを十の印で 結ぶ事によって示した。 1の欄は各シエマの持つ音強である。 1の欄では各フレーズの音強を示したが,音強の配分をより詳しくみるために最初の  4小節について次のようら比較を試みた。        {

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aは最初の2小節がそれぞれ独立したフレPtズをなしていて,その各々にはいつれも Diminuendo.である。しかしこの二つのフレーズが並置される場合,最初を強く, あとを弱くとゆう形及びその反対が考えられる。なおフレーズ。はフレーズa,b に対して,旋律線が上昇しつつ,一つの頂点を作っているから,音強は前のフレー  ズよりも,より強調さるべきである。

(13)

ソレムのリズム理論による旋律線の研究 57 bは基本的にはaと同じ音強の配分なのであるが,最初の2小節で一つのフレーズを  作っているから,これら二つの小節のいつれをより強くするにしても,この2小節  は一つのエネルギーを持つべきであり,その意味に於てこそこの2小節は音をつな  いで演奏されるのである。・ cは上記のa,bと基本的には同じであるが,4小節に互って一つのフレーズである  から,第2小節後半の附点4分音符から第3小節の音強の申心に向って,充分に音  を拡げてゆく必要がある。 次に曲全体のフレーズの区分と音強について略記する。なお音強は”’一→”一→’の 順で弱まるものとする。

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No。57 ダイナミックの中心,及びスラーの解釈について。

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Forteで始まるこの曲は③④にダイナミックの申心がおかれ,曲の後半は,全体的に テージスの要素を多く含んでいる。なお楽譜第1段目リズムをシエマに分類してみた

(14)

一六一  58       ソレムのリズム理論による旋律線の研究     のち,楽譜に予め指定されたスラーとの関聯をしらべてみると,これらのスラーの意     味するところが明瞭に理解される。 No.93 スラーの解釈について。

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  一コ口曲の第1音はその音に先行する予備的アルシスの休息点と考えられる。(楽譜    の下にXの文字で表した。)   一スラーaで括られた音群は,この曲のりズム主題であり,そのリズムは,

   の\しであ・e一(Ylの文字磁)

    A 一一一 e 一スラーbはaの定型が敷術されたもので,リズムは

の魁であ・て・(耳㊥しではな…(Y2)

  A一.e e A A e

−dはY2が一層発展したものとみる。 (Y2α) 一eは形の上ではY2と同じであるが,ダイナミックがfの方向に向っている。(Y3) 一fはY3のエネルギーを受けつぎ,又この曲前半のすべてのフレーズの申心となつ  ている。(Y3a)

(15)

ソレムのリズム理論による旋律線の研究 59     一9ではY2が更に発展し,且つ,テーティックなY2をアルシックに表返したよう      である。(Y4)     一hではYlが裏返されている。(Yla)     一iはY4を更に強調している。(C4a)     一jはY1の定型にY3のエネルギーが重ねられたものとみられる。     一kはPは新しい形とみられ,jに始まったダイナミックの頂点を形作っている。      (Xa)     一1は此の曲冒頭のX−y’が表に返った形とみられ,口強は次第に増大されて,最後      の小節の第一音に,1のすべてのエネルギーが集められた上,オクターヴ上に向っ      て充分投げひろげられるのである。 No.102 リズムとエスプレッションについて。

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一六〇

(16)

五九 oo

ソレムのリズム理論による旋律線の研究

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一同一の旋律に就ても,そのリズム解釈によって,いかにエスプレッションが変りう  るかを知る事が出来れば,逆に,ある旋律に予め与えられたエスプレッションを表  すには,いかなるリズムを用いればよいかがわかり,更には演奏者自身が選びうる  幾つかのエスプレッションの妥当性について検討する場合に,一つの基準が与えら  れる訳である。 一この曲の最初の2小節に互るフレーズについてアルシスの多いものから少いものへ  順に次のようないくつかのリズム解釈を掲げ,それぞれの持つエスプレッションを  しらべてみた。 a b

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−a殆ど各音がアルシスで非常に躍動的な表情を持ち,軽快さを表すのに適している ^ 1 ,   デ午= =\L l      l 1 ■嘔  h ‘● ”  匿 曜\L I 1 1

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(17)

ソレムのリズム理論による旋律線の研究 61  と思われる。 一bこれも躍動的であるが,第1小節第4拍で一度テーtジスにする事によって第2小  節の旋律が強調きれてくる。 一cSol・fa;Sol・doの二組に特別の意味を持たせたものである。 一dゆったりした,堂々とした感じ。 一eなだらかな,やさしい流れである。 一以上五つの異ったエスプレッションがあり得る訳であるが,この曲の場合には,楽  譜に予めDolceと指定されているから, a, bのいつれでもなく,又, cである  事を裏づけるべき左手の動きもなく,eを選ぶのが適当と思われる。 一しかし,同一旋律が第13小節,第14小節では別の意味を持っていて,此処ではあと  の第14小節から新しいエネルギーがはじまり,それが次の第15小節をへて第16小節  の第1音まで一つのフレーズとして表わすべきものとされている。リズムは次のよ  うに解釈される。

夢6i離∋ 1

箒…謹

   A一一 o一 A−A−o 一 A 一 e

     @    @    o

 なお上記の最後の音Faは,このフレーズにに属するものであって,次の第16小節  のフレーズには属さない 一第16小節にある次のフレーtズには,二つのリズム解釈があり得る。 a つ 1触     △ 一9・ 」「  −     量」曜 F「 γ 翫 」. ’8  F  「F  I 1 4 酌【M冨 1  L ’

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@ A一一 A−A一一一θ

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   aの方がより軽快でbの方がよりレガーtトな表現である。いつれを選んでも間    違いではないが,第7小節のリズム群と第8小節のリズムとの関係から推して    第16小節では,むしろ前者aのリズムを選んだ方が妥当と考えた。 一第20小節最後の2音は共にアルシスでこれら2音はあとに無音のテ■一一・ジスを従えて  いると考えられる。従ってこの無音のテージスを生かす為はに,最後の2音を長く 五八

(18)

62       ソレムのリズム理論による旋律線の研究    延ばす事なく小節線上で切ってしまうべきだと思われる。    B ソナチネより

No.1第1楽章

 バイエルの数目を素材として,ソズム,スラー,音強,ダイナミック等の個々の,或はそ  れらの関聯性の研究をしてきたが,ソナチネNo・1に於ては,それらを綜合的に考察し  てみたいと思う。

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(19)

         リレムめリズム理論による旋律線の研究       6S

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(20)

五五 64 ソレムのリズム理論による旋律線の研究

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       以下省略  O−v@ 一楽曲全体の旋律線の特長は,右手第2,第25,第28,第35小節其の他に現れる次の  音型であると考えられる。

∫丁刀7

 そしてこの音型は曲首のテーマdo−mi−solの上昇するエネルギーの中から生れ  出たもののように思われる。したがって最初の3小節はアルシスの連続と考えた  い。 一飛躍的な第1∼4小節に対して第5∼8小節は,テージスの要素を多く含んだ旋律  線の下降を示している。くわしく調べてみると,第3小節の最後の音から第4小節

にかけて現れ・JJ♪の形櫛小節w・受けつ・湘・と見・事が出来・.し

 かしこの二つを比較すると楽譜上の次のような相違が見られる。

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一1の第1音は直前の附点音符のアルシスの動きの中に属するもので,これを軽く弾  く事によって次の第2音のアクセントが生きてくると考えられる。これに対して1  のエネルギーは第1音によって決定されるべきであるから,第1音はむしろテヌーt  トさせて,次の第2音,第3音へ充分レガートに進むようにしなければならない。  @一一@ 一此所では左一1::ecテー・が現れる.まずテー・は∫刀」の鯉に恥れて第・  小節に現れ,更にその形が和声をちがえて模倣され或はオクターヴに強調される事

(21)

ゾレムめリズム理論による旋律線の研究 65  によって第16小節の頂点に達する。

 @N@

一①∼⑯の起伏のはげしさに対して,この間はなだらかな感じである。其処に現れる  8分音符の音列は,既に第7小節に出て来たものと同様である。楽譜に指定された  dolceを表現する為にも,①∼⑳は1小節をリズムの単位として,一つの息で弾く  べきものと思われる。同じ形は,旋律的に強調されて第21,22小節に現われ,更に  第23小節で一層凝縮されて第24小節のForteに直進する。  @一一@ 一第24∼25小節,及び26∼27小節は第1∼4小節の発展型とみる事が出来,それが ∫刀」の音型でつなげられていると考えられる.第24∼25小節はF・・t…ee26  ∼27小節はPianoにというニュアンスの変化をつけたあと,第28∼29小節では旋  律線は上昇しつつ,左手和音の助けによって一層強められ,曲首から第31小節に互  る提示部のエネルギーが第30小節の第1音に集められたと考えられる。この最高頂  点のエネルギーはいわば岩を打つ烈しい浪が光に砕けてキラキラ舞落ちるように,   30∼31小節の下降する旋律線の申で消えてゆく。

謬一⑲  /。い

      e’re 一此所で新しいリズムAA(∋が第30∼31小節の中から生れる。このリズムから第35  小節以下のリズムa(下図が)出来,更に経過的な第39,40小節をへて,第41小節  に到ると,リズムb(下図)となり,それは左手のリズム。下図と交互に且つ対等  に並べられて第41∼44小節に亘る一連のフレーズが作られている。 a c

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一第45小節は第44小節の縮少された形であり,第45小節の低音部のリズム(上図b)  は第46小節で高音部へ置きかえられ,この同じ音型を更に積み重ねる事によって次  第にCrescendoが要求される。リズムb(上図)は第48小節ではリズムe(上図)  になったと考えられる。したがって第48小節のリズムは下記aのようであってbで  はないe 一なお第32∼49小節に於けるダイナミックの申心は48の第1拍目におかれていると考  えられる。 五四

(22)

66 ゾレムめリズム理論による旋律線の研究 a b ^ 8vα.一_.一r__._.一.一

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5 結

び  我々が或る楽曲の演奏様式を研究するに際して,楽譜は既に作曲者によって決定されている といえども,なお且つ我々はその音色や強弱,緩急のバランスを選択し得るのである。選択の 基準は,あるいは音楽史的考証による事もあれば,又民族性や慣習による事もあるのである が,単にリズムの解釈如何によって同じ楽曲の表現様式が全く異ったものになり得る事は既に 述べた通りである。一方,与えられた音符の一群と,それに指定された諸記号を解明する場合 にリズムの面から検討する事も一つの方法である。即ち我々は楽譜から殆んど直感的にあるリ ズムの全体を一挙に把握してしまう事がしばしばであり,それが決して結論として誤っていな いものである事が多いのであるが,直感したものが果して如何なるものであったかを客観する 為にも,ソレム理論が我々に,一つの根拠を示唆してくれるのである。私の試みた旋律線の研 究は,以上の二万面に互ってその可能性を明らかにしょうとしたものである。ゆうまでもな く,私が此処に述べ来った研究は,あくまでも様式に関するものであって演奏に関するもので はない。したがってリズムの研究によって得た或る様式を演奏する為に,いかなるテクニック を用いるか,叉そのテクニックを得る為に,いかなるメカニックの練習を必要とするかとゆう 事は,別の次元に於て研究されるべきである事を附け加えておく。       (本学助教授一ピアノ) 垂

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