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「起業活動が活発な国」では何が起こっているのか ~オランダを例に~

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「起業活動が活発な国」では何が起こっているのか

~オランダを例に~

堀     潔

目   次 1.本稿の意図~オランダでは、なぜ企業数が増えているのか~ 2.オランダにおける企業数の推移~最近 10 年で 1.6 倍~ 3.第二次大戦後のオランダ経済の変遷~「オランダ病」から「ポルダーモデル」へ~ 4.グローバル化の進行とオランダ経済~ Globalization と Diversity のなかで~ 5.まとめにかえて

1.本稿の意図~オランダでは、なぜ企業数が増えているのか~

 我が国では、この四半世紀ほどの間、さまざまな創業支援の取り組みにもかかわらず、起業活動は なかなか活発になっていない。一方で廃業が年間 3 万件にも達し、我が国の企業数は 1996 年に 510 万社であったものが、2009 年には 420 万社、2014 年には 380 万社にまで減少している。『中小企業 白書(2017 年版)』に掲載された総務省「就業構造基本調査」の調査結果によれば、起業に関心 を持つ人(=起業希望者)の数は、1990 年代後半には 160 万人前後いたが、以降減少の一途をた どり、2012 年には約 80 万人となり、15 年で半減してしまっている。起業を準備し実現に至る「起業家」 の数は毎調査年度で 30 万人ほどいて一定しているが、「起業希望者」の減少はこの国の将来にとっ て大きな不安要素である(図 1)。 図 1 起業の担い手の推移(単位:万人)1 (出所)『中小企業白書』第 2 ‐ 2 ‐ 1 図。筆者により一部改変。 (原資料)総務省「就業構造基本調査」再編加工

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 経済発展と起業との関係については、今世紀に入り、例えばひとりあたりGDP などで測った経済発 展のレベルが高くなるにしたがっていったんは起業活動が低調になるが、ある水準から逆に起業活動が 活発になっていく、という「U字型理論」が提唱されている(Audretsch and Thurik(2001)、GEM (2011)、Wennekers et al. (2010))。図 2 は GEM(2011)に掲載されたひとりあたりGDPと総合 起業活動指数(TEA)2との関係を表したものであるが、オランダの他スウェーデンやノルウェーなどス カンジナビア諸国といった欧州の小国で、我が国よりもひとりあたりGDP が大きく起業活動も盛んである

状況が見てとれる。

 先進国で起業活動が活発になる理由として、Audretsch and Thurik(2001)は、経済のグロー バリゼーションが進行するなかで、①アジアや中・東欧地域に膨大な低コストの熟練労働力が出現して おり、さらに② ME(=Microelectronics:マイクロエレクトロニクス)とICT(情報通信技術)が発 展したことによって、日常的な標準化された経済活動の多くが高賃金地域から低賃金地域にシフトして いる状況を挙げている。こうした状況の下で高い賃金が維持されるためには、標準化されていない知 識に基づいた(knowledge-based)経済活動が必要で、こうした知識ベースの経済活動の多くは「起 業家(entrepreneur)」によって行われるようになる、という。このような状況を後押しするように、(ク ラウドファンディングのような)資金調達の円滑化や電子商取引の普及による市場の拡大など、起業活 動を促進するような環境が整備され発展し続けていることも、一部の先進国において起業活動が活発 になる要因として挙げられている。 図 2 ひとりあたり GDP と総合起業活動指数(TEA)の関係 (出所)GEM (2011) p.27

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 こうした説明は一般的に、あるいは論理的には理解できるけれども、すべての先進国で同じように起 業活動が活発になっているわけではない。例えば、我が国でもクラウドファンディングも電子商取引も他 の先進国と比べても遜色ないほどに普及していると感じられるのに、なぜ我が国における起業活動は活 発にならないのか。こうした疑問の解明のために、起業活動が活発な国の例としてのオランダをとりあげ、 この国で何が起こっているのかを、以下の観点から観察してみたい3 ① 働き方としての「起業」。それほど多くを望まなければある程度の就業機会は無理なく得られ る、という状況で、就業よりも起業を選択する人はどういうメリットを感じているのだろうか。 雇われて働くことと比較しての起業、あるいは自己雇用のメリットが感じられるような制度的・ 社会的な要因はあるのだろうか。 ② グローバル化と各国経済社会の変化。欧州連合(EU)の成立からすでに四半世紀ほどの年 月が経過し、EU 域内でヒト・モノ・カネの動きが基本的に自由になったことで、欧州の企業 の国境を越えたグローバルな活動が進んだ。オランダの企業は、グローバル化に対応してど のように対応したのだろうか。 ③ 上記と関連して、域内各国には移民が増加し多民族共生社会が到来した。この動きはオラン ダの経済社会に何をもたらしただろうか。オランダでの起業動向にどのような影響を与えた だろうか。

2.オランダにおける企業数の推移~最近 10 年で 1.6 倍~

 まず、オランダにおける起業(企業)の現状について統計的に確認する。図 3 はオランダ中央 統計局(Centraal Bureau voor de Statistiek : CBS)が発表する統計に基づく、オランダの企業数 の推移である。2007 年には 100 万社弱であったオランダの企業数は年々増え続け、2017 年初めに は 160 万社近くにまで増加している。この増加分のほとんどが従業者 1 名の「ひとりビジネス(以 下「ZZP」と記す)」4であり、従業者数 2 名以上の企業はこの間、逆に減少している。従業者 1 名の企業は 2007 年には全体の 63%ほどであったが、2017 年には 78%になっている。  ZZP は、我が国で言えば「個人事業主」あるいは「フリーランス」にあたる存在であるが、オ ランダでは、会社でも個人でも、独立して事業活動を行う者はすべて商工会議所(KvK : Kamer van Koophandels)に登録して、登録番号を取得する義務がある。つまり、我が国におけるフリー のカメラマンや翻訳家のように単発で仕事を請け負って報酬を得る個人であっても、商工会議所 の登録番号を持たなければならないし、オランダでは統計上、彼らも一個の「企業」としてカウン トされるのである。したがって、「企業」といっても自由業のような人たちもカウントされている分、 数字が大きめに表われているということを考慮しなければならないが、それにしても、オランダに おける人々の起業・独立志向は我が国のそれとは比べ物にならないほど旺盛である。「オランダで 働いている人の 6 人に 1 人は経営者」であると言われており5、とくに若い世代が起業に前向きで ある。2013 年には企業経営者の 11%が 30 歳以下であり、従業者規模でみて小規模な企業ほど若 い世代の経営者の割合が大きくなっている。また、図 1 と同じ GEM の TEA でみると、オランダ

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の 2013 年における 25 ~ 34 歳の 13%が起業準備または起業してから 3 年半以内の状態にあると 報告されており、35 歳以上の同指数と比べても高い水準にある6 図 3 オランダの企業数(単位・社。従業者規模別:各年初) (出所)オランダ中央統計局ウェブサイト(www.cbs.nl)“StatLine”より筆者作成

3.第二次大戦後のオランダ経済の変遷~「オランダ病」から「ポルダーモデル」へ~

 オランダの人口約 1700 万人(2016 年 3 月現在)。面積は約 42000 平方キロで、日本で言えば九 州と同じくらいの面積の国である。ドイツやフランス、イギリスなどの大国に比べればはるかに小 規模な国ではあるが、地図の上での大きさ以上に EU(欧州連合)全体のなかでのオランダの存在 感は大きい。空港、港湾、鉄道、高速道路といった交通インフラがよく整備され近隣主要国・都 市へのアクセスもよいため、貿易が盛んであり、外国からの直接投資も多く、多くの外国企業が欧 州統括本社あるいは貿易・金融の拠点をオランダに置いている。交通・物流インフラだけでなく、 オランダ国民が英語をはじめとする外国語に堪能であることや、外国企業に対する税制面での優 遇措置などがオランダへの直接投資のメリットとして従来から指摘されてきたことである7  そのような好条件の下にありながらも、最近半世紀ほどの歴史を振り返ると、オランダの経済社 会は国の内外にさまざまな問題を抱え、その対応に追われる歴史でもあったと言える。1960 年頃 に北海で発見されたガス田から採取される天然ガス売却収入によって高レベルの社会福祉制度を 構築するも、1970 年代後半にはいわゆる「オランダ病」8に悩み、経済の停滞と財政赤字、高失業 率の三重苦に悩んだ。その後、政府・経済界・労働組合の長い間の話し合いを経て、「ポルダーモ デル」と称するワークシェアリングによる雇用拡大と経済成長、財政収支改善の同時実現に成功し、 「オランダの奇跡」と各国から注目を集めた9。とくに 1996 年の労働時間差差別を禁止する法律の 導入によって、フルタイム労働とパートタイム労働が社会保障や昇進・昇給などの面で平等になり、

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人々は多様な働き方の選択をすることが可能になった。  これを機会に、週 3 日や午前中だけ働くといったパートタイム労働がオランダではかなり一般 的な働き方となった10。数十年前にはオランダでも「男性は外で働き、女性は家庭を守る」という ライフスタイルがあるべき姿のように考えられていたが、現在では夫がフルタイム、妻がパートタ イムで働く「1.5 人稼ぎ手モデル」が一般的になっている。いまやインターネットが社会に普及し、 テレワークなどを利用すれば必ずしも会社に通わなくても仕事ができるような技術的環境が整って きたこともあり、いつでもどこでも仕事ができる、時間と場所に縛られない働き方がさらに可能に なってきている11。こうなると人々の働き方は、もはや「企業の従業員」というよりはむしろ「企 業と契約して働く個人事業主」に近いものになる。このように考えると、多くの「ひとりビジネス」 が生まれているオランダの現状は、「ポルダーモデル」が生んだ柔軟性の高い働き方の延長線上に 現れた現象として理解することができるのではないだろうか。

4.グローバル化の進行とオランダ経済~ Globalization と Diversity のなかで~

(1) 主要企業の経営再編と雇用環境  1992 年のマーストリヒト条約(欧州連合条約)調印、および翌年の EU 成立以降、オランダは 全体として、英独仏など欧州の大国に囲まれた地理的な特殊性や前述のような優れたインフラに 恵まれたこともあり、市場の統合と拡大に伴い貿易や直接投資などの面でベネフィットを享受して きている。しかしその反面、個々の企業は厳しい国際競争に直面することになる。1990 年代まで は、オランダにもそれなりの規模の鉄鋼メーカーや製薬メーカー、航空機メーカーなどが存在した が、少なからぬ数の企業が倒産、あるいは他社の傘下に組み込まれるなどして競争力を失っていっ た12。製造業以外でも、オランダ最大の銀行 ABN AMRO13や大手航空会社 KLM も他国企業の 傘下に組み込まれ、小売業でもインターネット販売が普及する一方で実店舗の売り上げが伸び悩 み、2016 年には国内第 2 位の百貨店 V&D が倒産するなど、かつての有名企業が苦境に追い込ま れる事例は枚挙にいとまがない。  厳しさを増す国際競争のなかでは、いかに大企業と言えども安泰とは言い難い。企業によって は積極的に事業を再編して特定分野に特化したり、好業績にもかかわらず人員削減などの合理化 を行ったりすることも珍しくない14。また企業によっては、事業の将来見通しが不確実ななかで、 従業員雇用を ZZP との契約に置き換える動きも顕著になってきている15。従業員を雇用しない ZZP が増加している背景には、グローバル化のなかで、企業経営と雇用が安定せず、ひとりひと りが自らの仕事と生活を自らの意思で切り拓いていかなければならない厳しさも垣間見える。 (2) 多民族共生国家の形成と苦悩~外国系住民の増加~  「グローバル化」のひとつの側面として、現在、総人口の 4 分の 1 近くを占める外国系住民16 巡る状況もみておきたい。表 1 は 1997 年、2007 年および 2017 年の 3 か年のオランダの人口に関 するデータを並べたものである。この 20 年間にオランダの総人口は約 10%、数にして 150 万人ほ

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ど増加している。この増加分のうち 130 万人は外国系住民で、しかもそのうちの 95 万人は非欧米 系(non-western background)で、出身国別に言えば、とくにトルコやモロッコ出身の移民とそ の家族が多い(彼らの多くはイスラム教徒である)。もともと外国人に対する寛容な社会風土とい うこともあり、オランダへの EU 域外からの移民や難民の流入は長い間続いてきたが、1997 年か らの 20 年間に限って言えば、移民(第一世代)と同じくらいの数の第二世代(オランダで生まれ た人のうち、両親のどちらかが移民である人)がオランダで生まれ、育っている。  しかしながら、2001 年のアメリカ同時多発テロを機に、オランダでもイスラム系移民に対する 差別や偏見が問題化した。2004 年には高校教師がトルコ系の生徒に射殺されたり、有名映画監督 がイスラム原理主義者のモロッコ系住民に殺害されたりなどの衝撃的な事件が発生、一気に民族 間の対立が社会問題となり、その後、非欧米系住民への差別や移民・難民排斥の運動が高まりを 見せた。  現在でも、オランダ系と非欧米系住民との間には、所得水準や失業率、大学教育を受けた人の 割合、犯罪率など各種の統計指標において、なお一定の格差が見られる。もちろんこれは平均値 的な統計上の観察結果であり、非欧米系住民のすべてが低所得なわけでも犯罪者であるわけでも ない。ただ、上記のような突発的事件を契機にして非欧米系住民への差別や移民・難民排斥の運 動が高まりを見せるなど社会不安が起こりかねないので、これら諸格差の縮小と多様な民族のオ ランダ社会への統合を目指した諸施策が今世紀初頭からとられて来ている17  起業は、第二世代も含めた移民系の人々にとっては、オランダ社会において自らの経済的地位 を確立し社会参加を果たすためのひとつの方法となりうる。かつては、オランダ系と非欧米系の間 では、起業家となる人の割合に一定の差があったようであるが、今日では出身国・地域別に見た 中小企業経営者の構成もオランダ全体の人口構成とほぼ同じになっている18。それだけこの国に住 む外国人の起業が一般的になってきていることにも注目する必要がある。 表 1 オランダの人口構成(出身国・地域別) 1997 2007 2017 1997 ~ 2017増加数 1997 ~ 2017増加率 総人口 15,567,107 16,357,992 17,081,507 1,514,400 9.7% オランダ系 13,012,818 13,187,586 13,218,754 205,936 1.6% 外国系 2,554,289 3,170,406 3,862,753 1,308,464 51.2%  うち非欧米系 1,221,128 1,738,452 2,173,723 952,595 78.0%  うち欧米系 1,333,161 1,431,954 1,689,030 355,869 26.7% 移民第一世代計 1,310,705 1,601,194 2,001,175 690,470 52.7%  うち非欧米系 785,999 1,014,476 1,199,972 413,973 52.7%  うち欧米系 524,706 586,718 801,203 276,497 52.7% 移民第二世代計 1,243,584 1,569,212 1,861,578 617,994 49.7%  うち非欧米系 435,129 723,976 973,751 538,622 123.8%  うち欧米系 808,455 845,236 887,827 79,372 9.8% (出所)オランダ中央統計局ウェブサイト(www.cbs.nl)“StatLine”より筆者作成

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5.まとめにかえて

(1) 我が国の「起業政策」への示唆~総合政策としての「起業政策」の構築を~  本稿では、起業(企業)が増えている先進国の例としてオランダをとりあげ、とくに「ひとりビ ジネス」が増えていることに注目しつつ、その背景を以下の 3 つの局面から説明した。(1)「ポル ダーモデル」と呼ばれるワークシェアリングと柔軟な働き方の実現の流れの延長線上にある、企業 の枠にすらとらわれない柔軟な働き方のひとつの形態としての「起業」への関心の高まりと増加。(2) EU 統合とグローバル化の進展の結果としての産業構造変化、雇用機会の減少の結果としての「起 業」の増加。(3)外国系住民の増加と彼らの経済的自立の手段としての「起業」への関心の高ま り19。オランダの経験から学べることは、より多くの人々が起業に関心を持ち、起業が増えてい くための「起業政策」が、いわゆる「働き方改革」や移民政策のあり方とも密接に連動している、 ということである。  最近数年間、海外での起業を志す日本人の間でオランダが起業・移住先として注目され、オラ ンダでの起業を考える人々の支援や相談を行うオランダ在住の日本人起業家も現れ始めている。 起業のために必要な手続きが簡単なことに加えて、英語が通じることや、教育の質に定評がある ことなどから、起業家本人とともに移住する配偶者や子どもたちのことも考慮して起業・移住先を 検討する起業希望者も多い、と聞く。「起業が盛んな国」というのは、ただ会社を設立しやすいと いうことだけでなく、住む人の安心や将来への希望を持つことのできる社会でもあるのかもしれな い。そう考えれば、今後の創業支援政策に求められるものは、労働政策、社会政策、教育政策な どとあわせた「総合政策」なのである。 (2) 「個人事業」「フリーランス」についての実態把握の必要性  また、冒頭でも紹介したように、オランダで増えている企業の多くが従業者数 1 名の ZZP であっ た。CBS の調べによれば、ZZP 経営者のうち 4 割ほどは他の会社での給与や年金収入などの別の 収入源があり、いわゆる「副業」として事業を行っており20、約 8 割の ZZP 経営者が自らの仕事 をエンジョイしている、という21。オランダ滞在中、何人かの ZZP 起業家から「自分らしいライフ スタイルを実現するために起業した」という声を聞いた。オランダにおいては、「起業」は自由な ライフスタイルの表現手段なのかもしれない。  翻って我が国でも、オランダにおける ZZP と同じような働き方をする人たちは相当数存在する ように思われる。「個人事業主」や「フリーランス」と呼ばれる人たちであるが、近年では 1000 万 人以上がフリーランスで働いていて、その数は増え続けているとも聞く22。フリーランスとしての 働き方は我が国では量的に把握することが難しいし、給料や年金など主たる収入源がある人たち の「副業」としての起業や、さまざまな事情で柔軟に働きたい人たちがひとつの働き方としてフ リーランスを選択するなど、その内容は非常に多様である。多様であるがゆえに定義づけが難しく、 実態把握が難しいのではあるが、我が国において「起業に関心を持つ人は少ない」という我々が持っ ている“常識”を疑う意味でも、こうした人々の活動の実態に目を向けて実態把握をする必要があ

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るのではないだろうか。 1 ここでいう「起業希望者」とは、有業者の転職希望者のうち「自分で事業を起こしたい」又は、無業者のうち「自 分で事業を起こしたい」と回答した者をいう。また「起業準備者」とは、起業希望者のうち「開業の準備をし ている」と回答した者を、「起業家」とは、過去 1 年間に職を変えた又は新たに職についた者のうち、現在は 会社等の役員又は自営業主となっている者をいう。

2 Total Entrepreneurial Activities の略。15 歳から 64 歳までの総人口のうち、起業準備または起業してから 3 年半以内の状態にある人の割合を示したもの。 3 筆者は 2015 年 9 月より 1 年間、在外 研究の機会を得てオランダ・ロッテルダム市にある Hogeschool Rotterdam(ロッテルダム応用科学大学:RUAS)に客員研究員として滞在し、主にオランダを中心とした欧 州における創業支援や起業家教育、起業家育成の実態、とりわけ大学等高等教育機関の果たす役割について調 査研究活動を行ってきた。本稿はこの在外研究の機会に得られた知見の一部をまとめたものであり、参考文献 や資料等出所の明記されていない情報は、基本的に筆者が現地にて見聞したことを手掛かりに記述している。 4 ZZP は“zelfstandigen zonder personeel”というオランダ語の略で、直訳すれば「従業員なしの自営業」である。 5 CBS (2015) p.26. 2013 年には、就業人口が約 830 万人であったのに対して企業数が約 130 万であった。 6 Stel et al. (2014) p.24.

7 EU からの離脱の是非を問う 2016 年 6 月の英国での国民投票で「離脱」が過半数を占めた結果を受けて、数 多くの企業が欧州における事業の拠点を英国から他の EU 加盟国へ移転させることを検討していると言われる。 2016 年 6 月 30 日付の New York Times 紙はロンドンにある金融関係各社の拠点の移転先としてアムステルダ ムが最適、との記事を掲載している。 http://www.nytimes.com/2016/07/01/business/after-brexit-finding-a-new-london-for-the-financial-world-to-call-home.html (最終アクセス日:2017 年 8 月 30 日) 8 経済状態の悪化に伴い、経済成長下で増大させた社会保障負担が財政を圧迫し、財政赤字が急増する現象の こと。英エコノミスト誌が 1977 年に「オランダ病」と称したことから広まった。 9 当時の事情は長坂(2000)、水島(2012)に詳しく記述されている。 10 週 30 時間以下の労働者を「パートタイム労働者」としたとき、オランダの雇用者全体に占めるパートタイム比 率は、2005 年に 35.7%であったものが 2015 年には 51.7%と過半を占めるようになった。OECD “Employment Outlook”(各年版)より。 11 中谷(2015)は、オランダ人 50 人の「ワークヒストリー」を聴き取りによって調査し、「夫婦ともにパートタイ ムの場合」「夫がフルタイム、妻がパートタイムの場合」「専業主婦の場合」などいくつかのパターンに分けて、 オランダにおける人々の典型的な働き方を明らかにしている。

12 例えばオランダ最大の製鉄メーカー、Koninklijke Hoogovens は 1999 年に British Steel に買収された後、 Tata Steel の傘下に入った。小型旅客機で有名だった航空機メーカー Fokker は 1992 年にダイムラー・ベンツ 傘下の DASA に一旦は買収されたが、後に倒産した。

13 ABN AMRO 銀行は 2007 年に Royal Bank of Scotland(英)、Fortis(オランダ・ベルギー)、Santander(スペイン) の三社連合に買収されたが、翌年のリーマン・ショックを機に、オランダ政府が ABN AMRO のオランダ国内 部門を国有化、2015 年にオランダで再上場を果たしている。 14 大槻(2016)。とくに第 6 章参照。 15 最近の事例では、フードデリバリーサービスの Deliveroo(https://deliveroo.nl/)がオランダでの事業で、配 達従業員(デリバリースタッフ)を現在の雇用形態から、段階的に、フリーランサーへ置き換える予定である。 Deliveroo は、「これによって企業側は柔軟に配達員の数を変動させることができるし、働く側には働く時間の 自由だけでなく、他の会社でも働く自由が与えられることになる」と説明している。オランダの大衆紙 AD が 2017 年 8 月 22 日に報じた。https://www.ad.nl/economie/alle-deliveroo-bezorgers-worden-zzp-er~ac04306a/  (最終アクセス日:2017 年 8 月 31 日) 16 自身がオランダ以外の国から移住してきた場合(第一世代)、および自身はオランダで生まれていてもその両親 のどちらかが移民である場合、その人は統計上、「外国系住民」(foreign background)とカウントされる。

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17 水島(2012)を参照。とくに第 4 章に 2000 年以降のオランダ政府のさまざまな「統合化」へのとりくみが記述 されている。 18 Jansen et al. (2003) p.11 および CBS (2015) p.32 を参照。 19 これらと並んで、教育機関の果たす役割が人々の起業への関心に一定の役割を果たしている。本稿では紙幅の 都合で言及しなかったが、起業促進に果たす教育の役割について、オランダで行われていることは注目に値す る。堀(2017b)を参照されたい。 20 CBS のプレスリリースによる。https://www.cbs.nl/nl-nl/nieuws/2016/04/loopbaan-of-bijbaan-als-zzp-er- (最 終アクセス日:2017 年 8 月 31 日) 21 CBS のプレスリリースによる。https://www.cbs.nl/nl-nl/nieuws/2016/21/zelfstandigen-positief-over-eigen-inzetbaarheid (最終アクセス日:2017 年 8 月 31 日) 22 ランサーズ株式会社(本社:東京都渋谷区、代表取締役社長:秋好陽介)が実施した「フリーランス実態調査」 2017 年版では、「日本における広義のフリーランス数が推計 1,122 万人に達する」と発表されている。https:// www.lancers.co.jp/news/pr/12286/ 参考文献 堀 潔(2005) 「『起業教育のための産学連携』の必要性~オランダの起業教育事例に学ぶ~」, 三井逸友編著(2005)『地域インキュベーションと産業集積・企業間連携~起業家形成 と地域イノベーションシステムの国際比較~』御茶の水書房,第 1 章所収 堀 潔(2006) 「オランダにおける大学インターンシップ制度」、桜美林大学産業研究所『大学 インターンシップ制度の国際比較研究』第 3 章所収 堀 潔(2007) 「オランダにおける「早期離学」の動向と就業資格制度」『桜美林大学産業研究 所年報』第 25 号 堀 潔(2017a) 「産学官連携によるイノベーションと人材育成」,関智宏・中山健編著(2017)『21 世紀中小企業のネットワーク組織』同友館,第 6 章所収 堀 潔(2017b) 「オランダにおける起業(企業)増加の背景~ Globalization と Diversity の進展 のなかで~」『中小企業季報』(大阪経済大学),2017 No.3,10 月 水島治郎(2012) 『反転する福祉国家~オランダモデルの光と影~』岩波書店 長坂寿久(2000) 『オランダモデル』日本経済新聞社 中谷文美(2015) 『オランダ流ワーク・ライフ・バランス~「人生のラッシュアワー」を生き抜く人々 の技法』世界思想社 大槻紀夫(2016) 『オランダから見える日本の明日~<しあわせ先進国>の実像と日本飛躍のヒン ト』悠書館 リヒテルズ直子(2010)『オランダの共生教育~学校が<公共心>を育てる~』平凡社

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参照

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