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これからのICT・メディア市場で何が起こるのか

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2012 JAN. VOL.22

これからの

ICT・メディア市場で

何が起こるのか

村総合研究所では、IT 市場の主要分野を

対象とした市場予測を行う

「IT ナビゲーター」

を2000年から制作し、

「ブロードバンド」「モバイル」

「ネットビジネス」

「メディア」等の各市場における構

造変化を読み解いてきた。

 IT 市場は、新たな成長、フロンティアを求める

転換期を迎えており、近年は、携帯電話やインター

ネットアクセスといった通信ネットワークが飽和に近

づき、利用単価が減少傾向となる一方で、コンテン

ツ配信、ソーシャルメディアといったサービスが急

速な成長を遂げている。

 こうした状況を踏まえ、本特集では、

「モバイル

市場」「EC 市場」「コンテンツ配信市場」「電子書

籍市場」「ソーシャルメディア市場」「ポストアナログ

放送」を取り上げ、各市場の構造変化と新たな潮

流について解説している。また、これから注目され

る分野として「ビッグデータ」「医療情報化」につい

ての考察を加えている。

モバイル市場 

~スマホ普及の機会と脅威~

北 俊一

Shunichi Kita

EC の新潮流

田中大輔

Daisuke Tanaka

コンテンツ配信市場の変化と影響

三宅洋一郎

Yoichiro Miyake

電子書籍市場

前原孝章

Takaaki Maehara

ソーシャルメディア市場の隆盛

杉山 誠

Makoto Sugiyama

ポストアナログ放送時代の

映像サービス市場展望

寺田知太

Tomota Terada

ビッグデータビジネスの

興隆と課題

鈴木良介

Ryosuke Suzuki

医療情報化に関する

戦略・施策動向と期待領域

工藤憲一

Kenichi Kudo □ Branch Insight

インド市場への進出

~バイイングパワーの弱い

マスマーケットに集中せよ~

金星樹(キム・ソンス)

Kim,Sung-Soo

(2)

5

社会インフラとしての

M2M市場の拡大

 東日本大震災は、我々の社会に大き な非連続的なインパクトを与えた。そ の一つが、慢性的な電力供給不足と、 それに対応するための節電意識の高ま りである。  “スマートグリッド”については、過 去5年、CO2削減という文脈の中で、各 地で実証実験が行われるなど、じわじ わと前進してきた。今回の震災による 全国的かつ中長期的な電力供給量不足 という想定外の事態を受け、その取り 組みは一気に加速している。特にスマ ートメーターをネットワークにつなぎ、 各家庭内や中小事業所の電力使用状況 をリアルタイムに収集することで、電 力の需給調整に利用しようとする試み が活発化している。  同時に家庭用蓄電池としてのEV(電 気自動車)の利用も進みつつあり、携帯 電話のモジュールが、メーターや自動車 など様々な機器に埋め込まれ、NRIでは、 2016 年 度 に 全 携 帯 電 話 契 約 回 線 数 の10%を占めると予想している(図表4)。 こ う し た“M2M(Machine-to-Machine)” 市場の拡大もまた携帯電話市場拡大に 大きく寄与すると期待される。 せた販売台数が、2016年度において、 年間670万台まで拡大すると予測してい る(図表3)。その他、デジタルフォト フレーム、スマートテレビ、スマート STB(Set-top-box)など、ネットワーク につながる多様な“スマートデバイス”が 次々と登場し、それらとスマートフォン やタブレットとの相互連携が進んでいく であろう。  先行する取組みとして、LGは、自社 のスマートテレビとスマートフォン、タ ブレット等を連携させるともに、魅力的 な映画やドラマなどのコンテンツを囲い 込み、自社ユーザーに優先的に視聴させ ることで、自社ユーザーへの付加価値の 最大化を図っている。  ただし、その際には、ユーザーのID 管理と、認証・課金機能、そして、それ に紐付いたユーザーのライフログ管理が 必要となる。従って、メーカーは、商品 単体の競争力に加え、マルチデバイスで の総合力と、価値創造力が問われる時代 へと突入することになろう。今後は、家 電メーカーと携帯電話端末メーカーとの 合従連衡が進展し、グローバルで、一握 りの総合メーカーだけが生き残ることに なるだろう。 括請求による割引などの料金プランレベ ル、あるいはケータイショップで固定商 材を売るといった販売チャネルレベルで の融合に留まり、固定と移動の融合によ る“新たな付加価値”の創出はなされなか った。しかし、スマートフォンの急速な 普及によるモバイルトラヒックの固定ブ ロードバンドへのオフロードを契機に、 固定と移動の融合が一気に進展していく であろう。  つまり、携帯電話事業者は、固定ブロ ードバンドサービスとのバンドルが当た り前になり、その逆も当たり前となって いく。通信事業者は、従来の“ホモジー ニアス”なネットワーク環境から、“ヘテ ロジーニアス”なネットワーク環境の構 築を志向することにより、ユーザーに対 して、多様なネットワークをまたがって 最適な利用環境を提供していくことが求 められるようになっていく。  ICT政策においては、今後、従来の固 定と移動を分けた競争状況の評価では意 味をなさず、FMC市場での競争の評価 へと変えていかなければならない。その 際には、いよいよ、NTT東西とNTTド コモの関係整理を避けて通ることはでき ない。

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マルチデバイス化が

もたらす機会と脅威

 アップルは、iPhoneによってスマー トフォン市場を創造しただけでなく、 「iPad」によってタブレット市場をも創 造した。そこに、スマートフォン同様、 Android陣営との競争が加わり、Android OSが搭載されたタブレット、及び、電 子書籍端末が次々に登場している。  NRIは、タブレットと電子書籍を合わ により、音声APRUが逓減するシナリオ (ケース2)も考えられるため、市場に対 する注視が必要である。  データARPUの上昇は、決して手放し で喜べるものではない。フィーチャーフ ォンの20倍とも40倍とも言われる、一 人あたりのデータ利用量の激増により、 携帯電話のネットワークは逼迫しつつあ る。そのため携帯電話事業者は、より周 波数利用効率の高い通信方式(LTE)へ の早期移行や、新たな周波数帯の獲得と 活用に多大な設備投資が必要となり、そ れは利益を押し下げる要因となる。現在、 各事業者がこぞって取り組んでいるのが、 公衆無線LAN(ホットスポット)の拡 充や家庭内におけるWiFi環境の提供で ある。スマートフォンのデータトラヒッ クを、WiFiを経由して固定ブロードバ ンドへオフロードする(押しつける)こ とでネットワークの逼迫を回避しようと する狙いである。

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遂に始まったFMC(固定・移

動融合)と“ヘットネット”構築

 固定通信と移動通信の融合について は、過去、バンドル(併売)割引や一 フォームに乗り、日本メーカーが世界へ 打って出る(最後の)機会を得たと言える。

2

爆発するデータトラヒック

との戦い

 スマートフォンユーザーの増加は、デ ータAPRU(一人あたりの月額平均利用 料)の上昇をもたらし、過去数年間続い てきた減少傾向は、2012年度から増加 に転じるであろう(図表2、ケース1)。 ただし、標準シナリオ(ケース1)以外に、 よりスマートフォンのヘビーユーザーが 増加するシナリオ(ケース3)や、Skype 等のVoIPソフトやFacebook、Twitter等 のSNSによるメッセンジャーの利用拡大

1

スマートフォン普及が

もたらす機会と脅威

 2007年9月、総務省「モバイルビジネ ス研究会」が、携帯電話の通信料金と端 末価格の“分離プラン”導入を携帯電話事 業者に要請した。それを受けて、ドコモ とauが端末販売奨励金廃止プランと端 末割賦販売を開始した(ソフトバンクは それ以前から独自に導入)ことで、端末 価格が一気に上昇するとともに、買い換 えサイクルが長期化した。更に、2008 年9月のリーマンショックが加わり、国 内携帯電話販売数が激減し国内端末メー カーの再編(10社から5社へ)と、販 売代理店の再編を促した。しかし、縮み ゆく市場での生き残りを懸けた後ろ向き のM&Aでは市場に元気は出ない。  ところが、2007年夏、スマートフォ ンという波が押し寄せてきた。アップル が米国で発売した「iPhone」と、その対 抗馬として2007年末にGoogle社のオー プンOSである「Android」を採用したス マートフォンが日本に上陸し、従来の携 帯電話(フィーチャーフォン)の買い換 え市場を創造し、にわかに市場が活性化 してきた。  これまで減少傾向にあった携帯電話総 販売数は2011年度から増加に転じ、ス マートフォン販売比率は今後も上昇を続 けると予想される(図表1)。  日本の端末メーカーは、スマートフォ ン開発で出遅れたこともあり、現時点で の日本のスマートフォン市場においては、 アップル、サムソン、ソニーエリクソン といった、グローバルメガベンダーのシ ェアが圧倒的に高い。しかしながら、日 本 メ ー カ ー の 猛 追 が 始 ま っ て お り、 Androidという世界標準の端末プラット

北 俊一

ICT・メディア産業コンサルティング部 上席コンサルタント

~スマホ普及の機会と脅威~

(注) スマートフォン:通信事業者が技術仕様を策定していない、 いわゆるオープンOSを利用した端末 タブレット端末、モバイルWiFiルータ、データカード、M2M(モ ジュール)など、「携帯電話」以外の端末は含まず (注)PHSおよび WiMAXの回線数は含まない。 3,290 3,184 3,303 3,481 3,374 3,360 3,253 3,166 3,500 4,000 䟺୒ྋ䟻 266 776 1,697 2,142 2 275 , 3,166 2,500 3,000 3,024 2 407 2,275 2,372 2,346 2,320 1,500 2,000 䜽䝢䞀䝌䝙䜭䝷 䝙䜧䞀䝅䝧䞀䝙䜭䝷 2,407 1,606 1,338 1,099 988 907 846 500 1,000 0 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 䟺ᖳᗐ䟻 (円)7,000 6,135 6,132 6,000 5,559 5,295 5,225 5,378 5,478 5,391 5,740 䜵䞀䜽1 䜵䞀䜽2 䜵䞀䜽3 4,812 4,697 4,839 5,034 4,593 4,521 4,461 4,411 4,701 4,854 5,000 4,370 4,338 4,000 2007ᖳᗐ 2008ᖳᗐ 2009ᖳᗐ 2010ᖳᗐ 2011ᖳᗐ 2012ᖳᗐ 2013ᖳᗐ 2014ᖳᗐ 2015ᖳᗐ 2016ᖳᗐ 5,093 189 200 䟺Ⓤ୒ྋ䟻 144 170 160 180 62 76 87 113 120 140 30 42 53 84 60 80 100 㞹Ꮔ᭡⡘ 䝃䝚䝰䝇䝌 35 54 71 82 94 102 11 19 28 53 20 40 60 0 17 35 3 3 0 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 䟺ᖳᗐ䟻 6.2 6.7 7 䟺Ⓤ୒ྋ䟻 1.4 1.6 2.1 4 2 5.4 5 6 㞹Ꮔ᭡⡘ 䝃䝚䝰䝇䝌 0.5 0.8 3.3 4.2 3 4 2 8 3.4 4.0 4.6 4.6 0.1 0.5 2.2 2 3 0.2 0.8 2.1 2.8 0 0.1 0.2 0.9 0 1 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 䟺ᖳᗐ䟻 䟺༐ᅂ⥲䟻 ᦘᖈ㞹ヨ䟺ᕞ┘┊䜐䟻 137,831 24,000 27,000 30,000 120,000 150,000 ᦘᖈ㞹ヨ䟺ᕞ┘┊䜐䟻 䟺හ䟻㏳ಘ䝦䜼䝩䞀䝯䟺ྎ┘┊䜐䟻 102,724 14,854 18,000 21,000 90,000 9,000 12,000 15,000 60,000 2,249 3,000 6,000 30,000 0 0 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 䟺ᖳᗐ䟻 䟺༐ᅂ⥲䟻 図表1:日本の携帯電話端末販売台数予測 図表2:携帯電話のARPU予測 図表3:日本のタブレット/電子書籍販売台数予測 図表4:携帯電話の契約回線数予測

(3)

年 度に2 兆 1,663億 円となった。今 後は NFC*(Near Field Communication)の1

普及によりさらに市場が拡大し、2016年 度には4兆1,463億円となる。  諸外国では、NFCを活用したビジネス 環境の整備が急速に進んでいる。日本国 内においては、すでにおサイフケータイによ る電子決済サービスが一定規模にまで普 及しているが、NFCを活用したポイントや クーポンなど、決済に付帯するサービスが 広がりを見せるだろう。  決済分野においても、スマートフォンが 重要なデバイスとして注目される。消費者 は、「支払する」際に、これまでも携帯電話 を利用してきたが(おサイフケータイなど)、 今後はスマートフォンやタブレットを「支払 を受ける」ためにも用いるようになる。それ らの端末にカードリーダー機能を持たせ、 決済端末として利用するサービスは、すで に提供され始めており、今後利用が広が っていくと想定される。さらにその発展とし て、リアルとネットの決済の仕組みを共通 化する、という動きも出てくるだろう。決済 分野においても、リアルとネットの境界は、 徐々になくなってゆく。 *1 ICカードや携帯電話、PCなど、様々な機器間で近距 離通信するための国際標準規格。SuicaやICカード免許証 などの非接触ICカードに用いられている通信技術がベース となっている。 でサービスが始まったGoogle Walletでは、 クーポンサービスのGoogle Offersで購入 したクーポンをスマートフォンに入れて店 舗へ行き、電子マネーで決済すると、自 動的にその店の電子ポイントカードが作 成される仕組みが用意されている。今後は、 店舗やサービスの認知から、情報の配信、 店舗への誘導、そして再来店への仕組み を一括して提供するサービスが日本でも 登場してくるだろう。「ロイヤルカスタマー化」 というフェーズへの解決策なしに、O2O マーケティングの成功は期待できない。

4

決済でも、

リアルとネットの融合が進展

 ECがその対象範囲を広げ、オフラインに も影響を広げるのに伴い、決済手段にも 変化が生じている。具体的には企業がリア ルでもネットでも商品やサービスを販売し、 決済を行うようになるのに伴い、決済手段 もネットとリアルの両方に対応しようとする 動きが始まっている。  インターネットでの決済は、2010年度に は手数料収入ベースで3,417億円となっ た。EC市場の拡大に伴い、2016年度に は5,914億円に達する見込みである。一 方、主にリアルでの決済に利用される非 接触決済市場は、取扱高ベースで2010

3

ファンを作るしくみが重要に

 O2Oに該当する代表的なサービスを、 購買行動と関連づけて示したのが図表2 である。サービスや商品を認知させ、情 報を検索、比較してもらったうえで来店 を促し、さらに評判を共有してもらいつつ、 その店舗の「お得意様」となってもらうま でのアプローチが、スマートフォン等を媒 体として、一連の流れとして提供されてい る。様々なサービスが一つまたは複数の 範囲を担っており、利用者はこれらを使 い分けているのが現状である。  この流れの中で、今後最も重要となる のが「ロイヤルカスタマー化(Loyal)」 のフェーズである。これまでのネットマーケ ティングのモデルでは、店舗やサービスを 検索し、おすすめ情報を配信して、来店 誘導するまでを目的としていた。たとえば グルーポンなどのフラッシュマーケティング では、店舗やサービスへの注目度を高め、 その店への来店を誘発することが目的とし て、50%引きなどのクーポンを限定的に 発行している。  その際、フラッシュマーケティングサイトは、 クーポンを購入した顧客に再度クーポン サイトに来てもらって、別のクーポンを買 ってもらいたいと考える。一方、フラッシ ュマーケティングサイトにクーポンを掲出し た店舗は、クーポンを使って店に来た顧 客に継続的に自分の店に来てもらいたい と考える。ここに、クーポンサイトと店舗と の間の利害のずれが起こっている。  それに対する新たな試みがある。例え ばFoursquareでは、特定の店舗への来 店数に応じてアプリケーション内で称号 がもらえる等のゲーム性を加えることで、 店舗への定着を促している。また、米国

2

スマートフォン・タブレット

の活用がカギ

 このような大きな変化のきっかけは、 スマートフォンの普及である。スマートフ ォンの登 場により、 消 費 者は常 時、 手 軽にインターネットにアクセスできる環境 を手にした。パソコンより気軽に使え、 携 帯 電 話よりも画 面が 大きく操 作 性が よいスマートフォンの普及によって、EC のあり方も変わりつ つある。 先 進 的な EC 企業は、自社独自のアプリをスマー トフォン向けに提供し、新たな販売チャ ネルとして活用し始めている。   携 帯 電 話 利 用 者の15 % 程 度を占め るスマートフォン 利 用 者 は、 位 置 情 報 サービスや SNSを駆 使して、 常に様々 な情 報にアクセスし、その 情 報を人か ら人 へと伝 搬させている。そしてこれ は企業側から見ると、いつでもどこでも、 特 定の消 費 者に対してインターネットを 利 用してアプローチする機 会を得たと いうことでもある。これまでのインター ネットを利 用した 販 促 活 動 は、 パソコ ンの 利 用を前 提にしたものであり、自 宅などで 腰を落ち着けて閲 覧されるこ とを前提に構成されていた。ところが、 スマートフォンによって、インターネット はより情 報 の 鮮 度が 重 視されるものと なった。 常 時オンライン 状 態にある消 費 者を、ECだけでなくリアルの店 舗で の購買にも誘引していく、オンライン・ ツー・ オフライン(O2O)と呼 ば れる 新たなアプローチが 注目されている。 代表的な例は上述のフラッシュマーケテ ィングであるが、それ以外にも、クチコ ミサイトや SNS 等をフル活用しながら、 消 費 者を購 買に導こうという試 みが 始 まっている。 市場の拡大余地は、まだまだ十分にある。  ECで主に販売、購入されているのは、 電化製品、衣料品、食品など、「モノ」 としての商品か、無形物である音楽など のデジタルコンテンツであった。一方で、 飲食店、美容院などが提供する「サービス」 は、個別の店舗がネットで予約を受け付 けることを除けば、インターネットではあま り販売されてこなかった。しかし現在、こ の分野にもEC化の波が押し寄せている。 これが「サービスのEC化」である。  グルーポンのような、いわゆるフラッシ ュマーケティングサイトで販売されるクーポ ンは、実際の店舗への集客を目的とした ものであるが、これらの対象になってい るのは、有形の商品を販売する店舗だけ でなく、レストランなどの飲食店や、美容 室、エステなど、サービスを提供する店 舗も多い。フラッシュマーケティングという 新たなビジネスモデルをきっかけに、これ までインターネット上で販売することが難し かったこれらのサービスのEC化が始まっ ている。サービス業では、旅行や交通分 野において、先行してネット利用が進んで いたが、それ以外の分野はほとんど空白 地帯であった。今後、これらの分野のネ ット販売が進むことで、EC市場は新たな 領域に突入する。

田中大輔

ICT・メディア産業コンサルティング部 上級コンサルタント

EC の新潮流

 EC(電子商取引)は新たな発展段階 に突入している。“O2O(オンライン・ツー・ オフライン)” の発展に伴い、飲食や美容 などの「サービスのEC化」が始まった。 それに呼応して、決済手段もネットとリア ルの融合が始まっている。  これらの動きは、スマートフォンの普及 と切り離しては考えられない。個人が常に ネットにつながり、リアルタイムでコミュニケ ーションを行えるようになったことが、新 たな購買スタイルを生む土壌となっている。

1

「サービスのEC化」で

市場拡大が加速

 NRIの予測では、BtoC EC市場は、 2010年度には7兆円に達し、2016年度 には14兆円へと倍増する見込みである(図 表1)。インターネットオークションも合わ せると、2010年 度 には8.5兆 円、2016 年度には15兆円強が、インターネットを介 して売買されることになる。しかし、内閣 府の国民経済計算によれば、2010年度 の日本の民間最終消費支出は、帰属家 賃(持ち家の居住者が自分に家賃を払っ ているとして換算した値)を除くと226兆 円であることから、7兆円という市場規模 は、その中でわずか3%にしか過ぎない。 154,607 8 670 9,122 9,782 121 184132,373 143,447154,607 8,259 8,391 8,670 97,847 109,714121,184 134 325144,825 8,726 8,374 8,257 72,995 85,541 64 269 77,167 89,590101,455 112,792123,703134,325 8,726 64,269 , 154,607 160 000 8 670 9,122 9,782 121 184132,373 143,447154,607 140,000 160,000 8,259 8,391 8,670 97,847 109,714121,184 100,000 120,000 134 325144,825 8,726 8,374 8,257 72,995 85,541 80,000 , 䜮䞀䜳䜻䝫䝷 C 64 269 77,167 89,590101,455 112,792123,703134,325 8,726 40,000 60,000 EC 64,269 , 20,000 0 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 䟺൦ළ䟻 䟺ᖳᗐ䟻 Loyal (再利用) Share (共有) Reach (送客) Attention (認知) (購買・利用)Action 䛖䜑䛰䛹 ౮᰹.com 䜴䝯䞀䝡䝷 Google Shopping Foursquare Google Wallet 図表2:O2Oでの購買行動と代表的なサービス      図表1:EC関連市場規模の推移と予測

(4)

テンツにおけるゲーム市場は、任天堂やソ ニー・コンピュータエンタテインメント等が 魅力的なゲーム機を販売、普及させてきた ため、その上で動くゲームについても日本の コンテンツが高いシェアを取ることができた。  ソーシャルゲームでも、上記のパッケー ジコンテンツと同様にMobage、GREE等の プラットフォーム事業者が、コンテンツプ ロバイダーと一緒に海外に進出している。 例えば、2011年10月1日に、バンダイナム コゲームスとDeNAは共同出資による新会 社を設立し、グローバル市場においてスマ ートフォンを中心としたソーシャルゲーム アプリなどのコンテンツ事業の展開を行っ ていくと発表している。  こうした取組みは、ゲーム分野に限らず、 日本のコンテンツが海外に出る際の1つの 成功要件となる可能性がある。例えば、書 籍においては、既に、日本メーカーが電子 書籍端末を海外で販売しつつあるが、コン テンツプロバイダーが、こうした動きと連 動することで、端末の販売の際にプロモー ションとして利用してもらったり、事前に 端末の仕様などを知ることにより、海外の コンテンツプロバイダーよりも先にコンテ ンツを提供できたりするなどメリットを享 受できる可能性があるからである。  海外進出の方法は、他にもいろいろ考え られる。例えば、NRIでは台湾経由で中国 などの大中華圏へ展開するモデルを提案し ている*2。日本の市場が一定規模存在して おり、日本で一定規模の売上を立てていら れるうちに、海外に進出してノウハウを築 こうという積極的な姿勢が、日本のコンテ ンツ産業に求められる。 *1 出所:一般社団法人 日本レコード協会 *2 台湾を活用した大中華圏におけるBtoCビジネス展開 NRI Knowledge Insight 2010年7月号

するとともに、利用時間などに制限がある 無料のサービスでは満足できないヘビーユ ーザーから、定額制で毎月一定額の料金を 獲得している。  これらのサービスは、いずれも無料とい うことを謳い文句として多くの会員を集め、 さらに無料のサービスでは満足できない人 からは料金を取るという「フリーミアムモ デル」を取っている。このモデルは、配信 ビジネスで成功するための1つのポイント と考えられる。  配信というサービス形態は、ネットを通 じて顧客管理等のサービスを自由に変更す ることができるため、多様なビジネスモデ ルを構築できる可能性がある。配信サービ ス市場は立ち上がったばかりであり、フリ ーミアムモデルに限らず、各コンテンツの 特徴を生かした新たなビジネスモデルの開 発が期待される。

4

海外市場の取り込みが必須

 新しいビジネスモデルを開発しても、長 期トレンドでは、国内のコンテンツ市場は 減少し続ける可能性が高い。その際に重要 となるのが海外市場の開拓である。特に、 人口が増加し経済も成長を続けているアジ ア諸国への進出は、日本のコンテンツ産業 のさらなる成長のために必須である。ただし、 コンテンツというジャンルは、言語の問題や、 文化や風習の違い等により、求められる要 件が異なり、コンテンツそのものを一から 作り直す必要があることも多いため、海外 進出が難しいという特性がある。また、コ ンテンツも単純に一括りにはできず、種類 ごとに課題や進出の難易度が異なる。   現在最も積極的に海外展開が行われてい るのがゲーム市場である。パッケージコン こういった傾向は他のコンテンツでも見受 けられ、長期的には市場が減少し続ける可 能性が高い。

3

配信サービスならではの

ビジネスモデルの登場

 前述のように、パッケージコンテンツ市 場規模は減少を続けているが、それを補う勢 いで配信市場が成長を遂げている分野があ る。それがゲーム分野である。具体的には、 Mobageの怪盗ロワイヤル等の「ソーシャル ゲーム」市場があげられる。家庭用ゲーム向 けのコンテンツ市場は縮小傾向にあるのに 対し、ソーシャルゲームという新たな領域で は市場が急速に成長している。ソーシャルゲ ームは、利用は無料だが、ゲームを有利に進 めるために、料金を支払って武器等のアイテ ムを購入する必要があるというビジネスモ デルを取ることが多い。Mobageを提供して いるDeNAの2011年3月期の売上高は1,127 億円であるが、このうちアイテム課金を中心 としたゲーム事業の売上が約8割を占めて いる。さらにこのビジネスは、利益率が高い ことが特徴である。DeNAの純利益は316億 円であるが、利益率は28%と非常に高い。  映像分野でも、新たなビジネスモデルで 成長しているサービスが存在する。動画共 有サイトのニコニコ動画である。こちらも サービス利用は無料だが、月額525円のプ レミアム会員になれば、コメントの書き込 みや動画の閲覧に際し、無料会員よりも優 遇される。このプレミアム会員数が、2011 年9月末の時点で139万人存在している。  音楽分野では、欧州のSpotifyがクラウド 型の音楽配信サービスを提供しているが、 利用者数は、世界で1,000万人を超えている。 無料のサービスで多くの会員を集め、その 会員に広告を配信することで広告費を獲得 向けの配信サービスが普及しているため、 年率7.9%の成長にとどまると予測している。

2

パッケージコンテンツ市場

は縮小傾向

 配信の市場が拡大する一方、書籍・映像 パッケージ(DVDソフト等)・音楽CD・ゲ ームソフト等のパッケージコンテンツ市場 は縮小傾向にある。その市場に代わって、 コンテンツ配信の市場規模が伸びているも のの、両方を足した合計の市場規模は縮小 を続けるものと予測する。  最も配信サービスが利用されている音楽 コンテンツの場合、配信とパッケージを足 した市場規模が、2005年に3,659億円だっ たが、2010年には2,842億円に下がってい る*1。特定アーティストのヒット作等により、 市場が変化していることもあるが、配信と パッケージを合わせた市場は減少傾向にあ るといえる。  この要因としては、以下の3つが考えら れる。 ①物理的なパッケージでコンテンツを提供 しないため、消費者から見た楽曲の価値 が下がり、料金を低く抑えざるを得なか ったこと。 ②従来は、CDアルバムの中の特定の1曲だ けを聞きたい場合でも、10曲程度入った 3000円前後のアルバムの単位で購入する 以外に方法がなかったが、配信サービス の普及により1曲単位での購入が可能に なったため、1顧客あたりの単価が下が ってしまったこと。 ③YouTubeやファイル共有ソフト等を用い た違法コンテンツの流通によって、本来 得られたはずの市場を奪われたこと。  音楽コンテンツは1つの事例ではあるが、 ートフォンやタブレット端末が普及したこ とにより、多くの人に高画質・高音質のコ ンテンツを提供できるようになった。特に、 映像や書籍分野ではその影響が大きく、画 面サイズが小さいために、従来の携帯電話(フ ィーチャーフォン)ではあえてそうしたコ ンテンツを見る気にならなかった層が、大 画面になれば視聴してもよいと考えるよう になると想定される。  映像分野の場合、インターネット接続テ レビの普及も市場に大きな影響を及ぼす。 映画やドラマ等を大画面のテレビで、放送 時間にとらわれず好きな時間に見たいとい うニーズは大きい。しかし、これまではテ レビにインターネットが接続されておらず、 PCでしか映像配信サービスを楽しむこと ができなかった。今後は、インターネット に接続されたテレビが増えることで、新た にそれ向けのコンテンツ配信市場が拡大す ると考えられる。  以上のように、スマートフォン、タブレ ット端末、インターネット接続テレビの普 及により消費者の利便性が高まることで、 音楽分野、映像分野、書籍分野、ソーシャ ルゲームいずれのコンテンツ配信市場も成 長を遂げる。NRIでは、分野別の将来市場 規模を図表1のように予測した。最も成長 率が高いのは書籍分野であり、今後、多く の事業者が電子書籍の配信サービスを開始 し、コンテンツの充実により年17.8%の勢い で成長を続ける。一方、音楽分野については、 既に「着うたフル」を中心とした携帯電話  コンテンツの配信サービスとは、ネット ワークを介して、音楽や映像などのコンテ ンツを携帯電話やPC、テレビなどで視聴 できるサービスのことである。本稿では、日 本における音楽・映像・書籍・ゲーム・分野の コンテンツ配信市場の変化とその変化が業 界全体に及ぼす影響について取り上げる。

1

コンテンツ配信市場の成長

 コンテンツ配信市場は、通信網が整備さ れ、端末が高度化したことにより成長を遂 げた。特に、携帯電話向けのサービスでは、 iモードを代表する携帯電話のプラットフォ ームが整備され、課金が容易になったため、 コンテンツプロバイダーが多くのコンテン ツを提供するようになった。  しかし、スマートフォンの登場により、 市場環境が大きく変わりつつある。具体的 には、プラットフォームがオープン化した ことにより、従来のコンテンツプロバイダ ーが作ったコンテンツに加えて、セミプロ や一般消費者が作ったコンテンツ等、多く のコンテンツが提供されるようになり、市 場の競争が激化している。また、スマート フォンではWebサイトや動画共有サイトの コンテンツを無料で楽しむことができるため、 消費者があえて料金を払ってまで有料のコ ンテンツを購入する必要がなくなり、1コ ンテンツあたりの単価が下がってきている。  画面サイズが大きく、操作性が高いスマ

三宅洋一郎

ICT・メディア産業コンサルティング部 主任コンサルタント

コンテンツ配信市場の変化と影響

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(5)

ことになる。このことは、企画数(新刊 の数)を更に増やすことが可能になるこ とを意味する。  電子書籍化に伴い、これまで出版社が 取っていた在庫リスクが無くなる(返品 の負担を考えなくて良くなる)。これによ り、これまで「売れないかもしれない」 という事でお蔵入りしてしまってきた企 画の出版や、コンテンツの海外販売を実 現しやすくなる。出版した書籍がヒット するかどうかの見極めはベテランの編集 者にも難しく、しばしば博打にも例えら れる。新刊の数を低リスクで増やせるこ とは、難しい見極めを必要としなくなる 意味でプラス面が大きい。  電子書籍化により絶版という概念を排 する事ができるので、過去の資産(絶版 本など)を売上に変えることも可能となる。 また、書籍販売のECサイトでは、棚の制 約が緩和されるため、年間数冊しか売れ ないことを理由にリアルな書店には置い ておくことが難しい本からも大きな収益 が得られている(いわゆる「ロングテール」)。 電子書籍化により、前述の新刊数の増大 と併せて、ロングテールのテール部分を 更に伸ばすことが可能になる。  電子書籍市場の中長期的な拡大に向け ては、これらの電子書籍ならではのメリ ットを最大限活用し、前述のようなビジ ネスモデルの多様化や、新たな価値を創 出していくことが求められる。 *1 2011年10月20日 日本経済新聞 1面 *2  情 報 通 信 に 関 す る ア ン ケ ー ト 2011年8月 実 施 n=2,069 *3 アンケートによると、自炊を行っている利用者のタブ レット所有率は、回答者平均の6.5倍、スマートフォン所有 率は2.2倍となっている

*4 アマゾンはMVNO(Mobile Virtual Network Operator、 仮想移動体サービス事業者)としてKindle利用者に対して通 信サービスを提供している。 *5 使われている部品の原価から、Kindle端末の粗利益率 は高いと想定される。 たKindleは、待機画面の表示時に広告を表 示することで、広告が表示されない同型 端末よりも販売価格が25ドル抑えられて いる。この広告は、利用者からの投票に より選別され(Admash)、また利用者は自 分の端末に表示される広告テーマを自身 の嗜好に合わせて選択することができる。  このように、米国では電子書籍の利用 者が大きく拡大した結果、ビジネスモデ ルの多様化が進んでいる。

5

中長期的な市場拡大の鍵は

電子化による新たな価値創出

 今後は、読書に適したタブレット端末 やスマートフォンの普及拡大、および電 子書籍コンテンツの充実を受けて、日本 でも電子書籍の市場は一層拡大すると見 られる。短期的には新刊などのコンテン ツをさらに充実させることで、ユーザー 数を増やすことが課題となる。中長期的 には「電子化ならでは」の付加価値提供が、 電子書籍市場拡大の鍵になると見られる。 なぜなら、書籍の電子化は、書籍の提供 者と利用者の双方に新たな価値を創出す ると考えられるためである。  書籍の電子化により、提供者にとって は、読者市場のマーケティングが可能と なる。紙の書籍の場合は、著者や出版社 と読者間のコミュニケーションは非常に 限定的であった。しかし、電子化により、 読者の属性情報・購買情報の収集や、イ ンターネット上で著者・出版社・読者間 で直接的なコミュニケーションが行うこ とが容易になる。  また、電子書籍を配信するにあたっては、 紙の購入、物流にかかる費用などが必要 ないため、一点一点の書籍の単位で事業 を考えると、損益分岐点は大きく下がる ように電子書籍ビジネスにおいて複数の 事業領域をカバーし、電子書籍市場の成 長段階や外部環境変化等に応じて最適な 収益モデル・ビジネスモデルを柔軟に選 択してきた。  アマゾンは当初、コンテンツを安価に 抑え、端末で収益を得るモデルを目指し、 出版社との間で、同社のサイトで販売す る電子書籍コンテンツの販売価格を独自 に決定できるという契約(ホールセール 契約)を交わしていた。このため、コン テンツの販売価格を低く抑えることができ、 一部のコンテンツを赤字で販売した。す なわち、コンテンツビジネスの収益を犠 牲にし、Kindleの普及を推進してきたと 考えられる*5  その後の外部環境変化を受けて徐々に このモデルは変化した。この背景には、 iPhoneやAndroidOSを搭載したモバイル 端末の急速な普及、出版社との間の契約 形態の変化があった。  アマゾンがKindleの初代機を発売開始し た2007年11月以降、iPhoneや各種Android 搭載端末など、通信機能を有するモバイル デバイスが続々と市場に投入され、電子書 籍の閲覧が可能な端末が一気に普及した。 アップルは電子書籍アプリケーション iBooksをリリースした際、コンテンツの売 価は出版社が決定し、アップルは売価の一 部を受け取るという契約を出版社との間に 交わした。これを機に、アマゾンも出版社 との契約形態を同様のものに変えざるを得 なかったと言われている。これらの変化に より、かつて自社の利益を抑えてコンテン ツを安価に提供していたアマゾンも、コン テンツ販売から収益を得るビジネスモデル へと転換することとなった。  2011年春以降、アマゾンは広告から収 益を得る試みを開始した。4月に発売され  コンテンツ別の内訳をみると、新刊の 書籍が最も自炊されており、自炊された 新刊の書籍は年間111億円に上ると推計 される(図表1)。 図表1:「自炊」書籍市場規模(2010年度) 111 120 ᑚㄕ䝿ᐁ⏕᭡䝿 䝗䜼䝑䜽᭡ 䟺䝓䞀䝍䜯䝔䞀䟻 111 55 ᑚㄕ䝿ᐁ⏕᭡䝿 䝗䜼䝑䜽᭡ 䟺䝓䞀䝍䜯䝔䞀䟻 ᑚㄕ䝿ᐁ⏕᭡䝿 䝗䜼䝑䜽᭡ 䟺ᩝᗔᮇ䟻 55 64 ᑚㄕ䝿ᐁ⏕᭡䝿 䝗䜼䝑䜽᭡ 䟺ᩝᗔᮇ䟻 䜷䝣䝇䜳 0 20 40 60 80 100 出所:「情報通信サービスに関する調査(NRI)」を基に推計  これらの市場は、電子書籍サービスの 拡大によって取り込むことが可能である (但し、コンテンツの金額市場は、電子化 により紙の書籍の場合よりも金額が小さ くなる可能性がある)。  自炊を行っている利用者は、その大半 がスマートフォンやタブレット端末を所 有している割合が高いことから*3、これら の端末を使って自炊した書籍を読んでい る可能性が高いと考えられる。今後のス マートフォンやタブレットの普及拡大を 受けて、電子書籍の潜在的な市場はます ます拡大し、コンテンツ整備ニーズはさ らに高まると考えられる。

4

多様化する収益モデル・

ビジネスモデル

 Kindle発売以降、米国では電子書籍市場 が急拡大している。この急拡大と併せてビ ジネスモデルも大きく変化している。  アマゾンは、電子書籍ビジネスにおいて、 端末やコンテンツの販売、コンテンツを 配信する通信サービスまで一貫して提供 し、「端末売上」「コンテンツ販売マージン」 「通信」という電子書籍事業全体での収益 最大化を目指している*4。同社は、この 性があるため、今後もこれらの企業の動 きに注視する必要があろう。

2

コンテンツ拡充が進むも、

人気コンテンツの電子化が

遅れている

 前述のように配信サイトが急増してい る電子書籍市場だが、併せて各配信サイ トにおけるコンテンツの充実も進んでいる。 新刊点数と電子書籍のコンテンツ数は、 米国でアマゾンがKindle事業を始めた際 の水準を既に上回っている。アマゾンで はベストセラー作品の大半を電子書籍コ ンテンツとして購入可能であるが、日本 では大手の配信サイトであってもベスト セラー作品の多くを読むことができない。  多チャンネルサービスにおける欧州サ ッカーのように、コンテンツ配信サービ スを普及させるにはキラーコンテンツが 不可欠といえる。電子書籍配信サービス においては、いわゆる「ベストセラー」 がキラーコンテンツに当たると言える。 市場拡大に向けてはベストセラー作品の 更なる電子化が望まれる。

3

電子書籍市場の潜在力

としての「自炊」市場

 新刊などの分野で電子書籍コンテンツ の整備が不十分である状況を受けて、配 信サイト経由ではなく、利用者自身がス キャナー等で書籍を読み取り電子化する、 いわゆる「自炊」を行う向きもある。  NRIが実施したアンケート*2によると、 2010年度に自炊によって電子化された書 籍(新刊・コミック・文庫本)の市場規 模は、230億円と推計され、これは同年 度の書籍市場全体の2.8%に上る。

電子書籍市場

前原孝章

ICT・メディア産業コンサルティング部 主任コンサルタント

1

様々なプレイヤーが

相次いで配信サイトを開設

 アメリカにおけるアマゾン(Kindle) の成功により注目を集めている電子書籍 であるが、日本での電子書籍市場の立ち 上がりは諸外国に比して早く、2010年に は620億円に達している。これは米国と ほぼ同等の市場規模である。この大半を 携帯電話(フィーチャーフォン)向けの 配信が占めている点が諸外国と比較した 特徴である。  2010年以降は、携帯電話以外の端末へ の配信サービスへの新規参入が相次いだ。 2010年5月のソニー(SONY)、凸版印刷、 KDDI、朝日新聞社による電子書籍配信事 業での連携・参入を皮切りに、出版社、 携帯通信事業者、印刷会社、端末機器メ ーカ等が相互に連携し、電子書籍事業に 参入する動きが活発化している。  2011年6月には、国内インターネット 通信販売大手の楽天が、ソニー、パナソ ニック、紀伊国屋書店と連携して電子書 籍事業に参入することを表明、8月には配 信サイト「Raboo」をオープンさせた。  また、同年9月には出版社20社が「出 版デジタル機構(仮称)」の設立に合意し た。それら以外の出版社も書籍コンテン ツの電子化に積極的に取り組む動きを見 せていることから、出版業界の今後の動 きも注目される。  さらに、米国最大手のアマゾンが日本 においてもサービスを近々スタートさせ るとの報道があった*1。出版社との交渉 は続けられているが、その際、国内の事 業者とは大きく異なる取引条件などを提 示していると言われる。アマゾンの参入 は配信サービスの形態や電子書籍コンテ ンツの価格設定等に変化をもたらす可能 (億円)

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 多くの企業に対して、ソーシャルアド は、インターネット広告に求める“購買へ のつながりの高さ”を実現する可能性が極 めて高い。  ソーシャルアドのメリットは、中小企 業においても享受できる。現在では、検 索をきっかけとした検索連動広告などが、 中小企業のインターネット広告プラット フォームであるが、ソーシャルアドは次 の新しい中小企業の広告のプラットフォ ームになりうるのではないかと考える。  制作や出稿に高額の費用を要する大が かりな広告ではなく、店舗の紹介と友人 のおすすめ情報が記載されているような 簡易なソーシャルアドが中小企業向けに 展開されることは十分考えられる。また セルフポスティング(広告主が直接入稿 すること)の機能も用意されることで、 中小企業が広告代理店などの仲介業者を 挟むことなく、自らの力で広告を行うこ とができることも、ソーシャルアドが中 小企業の新たなインターネット広告のプ ラットフォームになりうるという考えを 後押しする要因となる。  さらに、ソーシャルメディア上に発信 されるユーザーの位置情報に連動した Push型の広告配信や位置情報連動クーポ ンサービスなど、新たなサービス形態が 出始めており、ソーシャルアドは、これ まで中小企業にとって大きなハードルで あったプロモーションを助ける手段にな りうる。  日本でも既に3,000万人以上が使って いる現在、規模に関わらず企業がソーシ ャルメディアをどのように活用するか、 議論すべき時期にきている。 *1 mixiのボイス、Twitterのタイムラインのような、テキス トのフローを表示する機能を指す  2011年6月にmixiで行われたNIKEiDの イベントが大々的なソーシャルアドのト ライアルの1つであった。効果としては、 PC、モバイルのどちらにおいても、CTR(Click Through Rate:広告表示回数に対してクリ ックされた割合)が従来のバナー広告と 比較して10倍以上という結果が発表され ている。20代から30代前半が中心である mixiのユーザー層との相性が良い広告商品 であったことを加味しても、高い効果で あることが伺える。このことからも、従 来はバナー広告へ出稿していた企業が、 ソーシャルアドに注目するきっかけとな った。  ソーシャルアドに期待される効果は、 ①詳細なターゲティング広告(ハイパー ターゲティング)が可能になる、②拡散 するスピードが早く、拡散する領域も広い、 ③購入までのスピードが早まる、④グル ープで購入するという新たな消費形態の 立ち上がり、の4点が主なところである。 ③新たなプロモーション活動の展開  企業から見ると、狙いたい層にリーチ(到 達)でき、リーチした層が反応(例:い いね! ボタンを押す)することで想定以 上のスピードでもって想定以上の領域に 拡散できることがメリットである。  人がモノを購入するとき参考にする“口 コミ”には、“量”と“質”という2つの側面 がある。信頼できる友人などの意見、す なわち“質”の口コミしか得られなかった 時代から、インターネットの登場により人々 は“量”の口コミを入手できるようになった。 そしてソーシャルアドは、その“量”と“質” 両方の口コミを効率的に参照しながら、 最適なモノを最適な購入方法(共同購入 やレンタルなど)で手に入れるという、 次なる消費スタイルのステージへと導く ことになる。 広告が主流であり、先述したようなソーシ ャルメディアの特性を活かしたものは少な かった。  今後は、①利用者数の拡大と、それに伴 う②ユーザー間コミュニケーション量の増 加、および③ソーシャルグラフ(リアルと ネット両方での人間関係)を活かした独自 性のある広告開発によるメディア価値の高 まり、という3点から、高い成長率での市 場拡大が予想され、2016年には約580億円 まで拡大すると推計される(図表2)。様々 なソーシャルメディア広告の開発が期待さ れることから、市場規模は利用者数の増加 率より高い割合で成長すると見込まれる。 図表2:ソーシャルメディア広告市場予測 139 191 237 294 368 460 578 0 100 200 300 400 500 600 700 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 䟺൦ළ䟻 䟺ᖳ䟻 139 191 237 294 368 460 578 出所:NRI ②注目されるソーシャルアド  ソーシャルメディア上の広告は、バナー 広告からソーシャルグラフを活かしたソー シャルアドへと移っていく。ソーシャルア ドとは、ソーシャルメディア上の人間関係 のつながりを活かした広告(通常のバナー 広告に自分の友人の情報が付加された広 告)のことである(図表3)。ソーシャル アドを通じて当該商品・サービス情報を入 手した人は、欲していた商品・サービスで あり、また、友人のおすすめであることか ら購入を即決する可能性が高く、場合によ っては友人と一緒に購入するような行動に も発展すると言われている。 図表3:ソーシャルアドの概念図 バイラルを生み出すための領域 従来のバナー広告領域 ཪெ᝗ሒ䜘⾪♟ 䝊䜱䜽䝌䝿⏤ാ䜘⾪♟ 例)企業名や商品名が記載 例)●●さんがイイネと言っています の「いいね!」ボタンなど)が行いやすく なっていることから、情報の伝達速度も格 段に増している。 ③関係性の可視化  ソーシャルメディアによって、人間関係 が可視化されることもこれまでと大きく変 わった点である。可視化されることで、人 間関係を作ったり断ち切ったりという「関 係性の構築・断絶」や、多人数ないし長期 間における「関係性の維持」、さらにはコ ミュニケーション量の調整や特別な場の形 成といった「階層化」という3点を容易に 行うことができるようになり、いわゆる“コ ミュニケーションコスト”が低下した。  具体例を1つ挙げると、携帯電話の電話 帳に電話番号やメールアドレスが登録され ていても、時間の経過とともに疎遠になっ た友人に対して、再度コミュニケーション を取ることは障壁が高くなる。ところが、 このような友人とソーシャルメディアで繋 がっておくと、ストリーム機能によって相 手の状況を把握でき、相手も自分との関係 を認識できるために、これまでより気軽に コミュニケーションを取れ、その結果、容 易に関係性を復活・維持することが可能に なっている。  以上をまとめると、ソーシャルメディア は、今日的なコミュニケーションを行う上 で切っても切り離せないツールになってい ると考えられる。

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今後急成長を遂げる

ソーシャルメディア広告市場

①ソーシャルメディア広告市場の拡大  2011年のソーシャルメディア広告の市場 規模は約190億円と推計される。これまで ソーシャルメディア上で見られた広告は、 従来のインターネットサイトと同じような

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ソーシャルメディアの登場によ

るコミュニケーションの変化

 ソーシャルメディアの主たる目的はコミ ュニケーションである。ここでは、ソーシ ャルメディアの登場により、コミュニケー ションがどのように変化したのかを見る。 ①手段の変化  ソーシャルメディア登場以前のコミュニ ケーションは「同期/非同期」「コミュニ ケーション人数」のパターンによって、電 話、メール、チャット、ブログなど手段が バラバラに存在していた。ところが、ソー シャルメディアの登場により、ソーシャル メディアという1つのプラットフォーム上 で、すべてのコミュニケーションが完結す るようになった。  例えば、複数人での非同期コミュニケー ションは古くは交換日記やメーリングリス ト、BBS(電子掲示板)などの手段が用い られてきたが、ソーシャルメディア上のス トリーム機能*1ですべてまかなうことが可 能となっている。コミュニケーションごと に手段を選ぶのではなく、「とりあえずソ ーシャルメディアで発信しよう」という形 に人々の行動が変化してきているといえる。 すなわち、コミュニケーションのゲートウ ェイとして、ソーシャルメディアが位置づ けられるようになっている。 ②情報伝達の変化  これまでのコミュニケーション手段と比 較すると、ソーシャルメディアでは情報の 発信・受信が行いやすいのも大きな特徴で ある。今までは面倒で発信すらしなかった 層が情報発信するようになったり、発信し た情報を一度に友人全員へ簡単に共有でき たりと、情報拡散が非常に行いやすくなっ ている。また友人が選択した情報を評価し、 再発信するという“情報の仲介”(Facebook ICT・メディア産業コンサルティング部 主任コンサルタント

杉山 誠

ソーシャルメディア市場の隆盛

1

ソーシャルメディアの利用者数

は3,000万人以上にのぼる

 ソーシャルメディアはネットワーク系 (mixi、Facebook等)、映像系(Youtube等)、 ゲーム系(GREE、Mobage等)など多岐に わたる。そこで、まず本稿で取り上げるソ ーシャルメディアの範囲を設定したい。現 実の人間関係をクラウド環境上に移す、も しくはインターネット上で新たな人間関係 を構築することでコミュニケーションネッ トワークを形成できる様々なサービスのう ちで、mixi、Twitter、Facebookの3つを今 回は対象とする。  日本では2004年にGREEやmixiがサービ スを開始し、SNS(ソーシャルネットワー クサービス)の市場が立ち上がった。当初 は若者のコミュニケーションツールという 位置づけで、20代を中心に利用者数が瞬く 間に増加した。NRIでは、2011年時点で ソ ー シ ャ ル メ デ ィ ア(mixi、Twitter、 Facebook)を1つでも利用している人は、 約3,200万人(ユニークユーザー数:複数 サービス利用者は1人として計算)と推計 している(図表1)。  ここにきてFacebookやTwitterの注目度 が高まっていることを勘案すると、利用 者数はさらに伸びていくことが見込まれ、 2016年には約3,900万人に達すると予測する。 図表1:直近1年間におけるソーシャルメディア の利用者数(15歳以上、PC保有者) ユニークユーザー mixi Twitter Facebook ⣑2,100୒ெ ⣑2,000୒ெ ⣑970୒ெ ※Twitter、mixi、Facebookの利用者合計から重複利用者を除いたユーザー数 ⣑3,200୒ெ (注)2011年9月にNRIが実施した「ソーシャルメディアの利 用のアンケート」、総務省「通信利用動向調査」および「人口 推計」から推計。エリアは日本に限る。

(7)

 市場全体が飽和、縮小に向かって行く 中、各プレイヤーは新規顧客の獲得と既 存顧客の囲い込み、および新たな収益基 盤の獲得に向けて、料金プラン、各種ポ イント制度等の割引施策、マルチデバイ ス対応、新サービスの開発等に取り組ん でいかなければならない。

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「ゆでガエル」状態に甘んじず、

賢くリスクを取る

 インターネットの普及に伴い、「テレビ は終わった」というような過度な悲観論は 決してあてはまらない。図表2に地上デジ タル放送と有料多チャンネル放送の市場規 模予測(2010年時点の市場規模を100とし た指数)を示した。新聞やラジオ広告市場 縮小が続く中、これらの映像サービス市場 は堅調に推移していく。仮に、海外で成功 した事業者が、全く新しい映像サービスを 日本に持ち込んだとしても、日本という国・ 文化に根付いた映像サービスが、突如とし て消えてなくなるとは考えにくい。  一方で、これまで述べたような新たな 映像サービスの登場による競争激化に加 え、国内人口および世帯の縮小は、避け られないトレンドである。このトレンド に目をつぶることは、まさしく「ゆでガ エル」状態にあると言わざるを得ない。 経営者には、過度な悲観論に一喜一憂し ないと同時に、「ゆでガエル」状態に陥ら ない冷静かつ賢くリスクを取る経営が求 められよう。 *1 NRIでは①インターネット経由の映像をテレビ画面で 視聴できる、②高い処理能力を持つCPUを搭載し、スマ ートフォンのようにゲーム等のアプリをテレビで利用で きる機能を保有するテレビ端末、またはセットトップボ ックス等のテレビ周辺機器を、スマートテレビと定義し ている。 ル放送も開始されている。従来、有料放 送のみであったWOWOWが一部無料放送 を開始する動きもあり、BSデジタル放送 の実視聴世帯数や視聴時間は、今後も増 加傾向が予想される。  このように広告価値の高い視聴者層を 持ち、視聴世帯数も順調に増加していな がら、BSデジタル放送は現時点でそれを 広告費に反映しきれていない。視聴率デ ータの整備等、広告価値を客観的に証明 できる仕組み作りにより、広告市場の拡 大が期待される。

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飽和期に突入する

有料多チャンネル放送市場

 有料多チャンネル放送市場は消費者 ニーズが一巡し、デジタル放送への対応 が済んだことから、今後、飽和期を迎え る。さらに、ブロードバンドの普及やそ の上で提供される映像系サービスの充 実、BSデジタル放送のチャンネル数増 加やモバイルマルチメディア放送の開始 といった影響を受け、有料多チャンネル 放送においては解約意向が高まることが 懸 念 さ れ る。 結 果 と し て、 2016年度末までには、有料多 チャンネル放送市場は飽和から 縮小へと段階が移行する恐れが あり、プレイヤー間で明暗が分 かれていくと思われる。  解約意向のある世帯を多く抱 えているCATV、CS放送は契 約者数が縮小していき、光ファ イバーの普及や映像視聴に必要 な機器(セットトップボックス) の高度化といった追い風の吹く IP放送の利用者が拡大していく ものと予想される。 益の最大化を実現していくかという戦略 を構築する必要がある。

3

アナログ停波に伴う

新たな有料放送市場の登場

 アナログ放送停波により、電波の有効 利用が進み、モバイルマルチメディア放 送の開始とBSデジタル放送のチャンネル 数の増加が実現する。モバイルマルチメ ディア放送は、スマートフォンを中心と した携帯電話への積極的な搭載により 2016年度末までに累計5,000万台近くの規 模で搭載端末が普及することが予想される。 SNSと連動したサービスや災害情報番組等、 消費者ニーズの高いサービスを販促戦略 とマッチさせることができれば、契約数 も順調に増加していくであろう。  BSデジタル放送は、高年層、高所得者 層といった、今後の消費を牽引していく 層からの支持を集めつつある。デジタル 放送対応受信機の普及によって、BSデジ タル放送視聴世帯数は順調に増加してお り、2010年度末で3,000万世帯を超えてい る。2011年10月からは、新たなBSデジタ イルマルチメディア放送を受信する機能 の搭載も、スマートフォンを中心に進む と考えられ、映像コンテンツを視聴する 利用者数、および1人あたりの視聴時間が、 今後増加していくと見られる。  加えて、iPadやソニータブレットのよ うなタブレットの普及も予想される。テ レビ離れが顕著で、かつ新しい端末やサ ービスへの対応が早い20~40代の若年層 を中心として、ワンセグ放送やモバイル マルチメディア放送等の映像コンテンツ が様々な端末で視聴されるようになって いく。  一方、デジタルテレビの普及により、 インターネット接続が可能なテレビが普 及している。今後、無線LAN環境が一般 家庭でも整えられていくことにより、テ レビのネット接続がさらに加速すること が予想され、インターネット経由で、映 像コンテンツだけではなく、ゲーム等の アプリケーションも利用できるスマート テレビ*1の普及も予想される。NRIは、今 後発売されるテレビが「スマート化」し、 家庭における無線LAN環境整備が進むこ とにより、2016年には770万世帯がスマー トテレビを利用することになると予測し ている(図表1)。その結果、スマートテ レビを通じて映像に接触する時間が増加 すると同時に、放送局、VOD(ビデオオ ンデマンド)サービスを提供する事業者、 コンテンツアグリゲータ、アプリケーシ ョンプロバイダーといった様々なプレイ ヤーが、広告市場とコンテンツ市場を巡り、 視聴時間を激しく奪い合う状況が繰り広 げられるであろう。  地上波放送局やBS放送局等、広告を主 な収益源としてきた事業者は、これまで の広告収入にのみ頼ったビジネスモデル を脱し、いかに収益源を多様化させ、収 信機購入補助施策といった取り組みが功を 奏した結果といえる。  この結果、2009年度、2010年度の2年間 に、デジタル放送の受信世帯数がそれぞれ 500万世帯以上増加した。アナログ停波に 伴って、実際に地上波テレビ放送の視聴 をやめた世帯はおよそ80万世帯程度、テ レビ台数の減少は900万台程度であったと 推測される。当初懸念されていた数百万世 帯の地デジ難民の発生、数千万台のテレビ 普及台数の減少といった最悪シナリオは避 けることができた。

2

映像コンテンツを視聴する端末

が増加し、同時にテレビで利用

するコンテンツが増える

 ポストアナログ放送時代には、映像視聴 端末の多様化と、テレビ画面の奪い合いと いう2つの変化が起きる。映像の視聴端末 は、これまではテレビが主であったが、今 後はスマートフォンやタブレット等、その 種類は多様化する。また、テレビで利用さ れるコンテンツは、これまで地上波やBS 放送等の放送番組が主であったが、今後は インターネット上の動画コンテンツやテキ ストコンテンツ、各種アプリケーション等、 様々なコンテンツが利用されるようになる。  ワンセグ放送の普及によ り、携帯電話(スマートフ ォンを含む)でテレビ番組 を視聴するなど、放送コン テンツをインターネット経 由で視聴する習慣が消費者 に浸透してきた。今後は無 線回線の高速化がさらに進 み、高精細の動画をよりス ムーズにダウンロードでき るようになる。また、モバ ICT・メディア産業コンサルティング部 上級コンサルタント

寺田知太

映像サービス市場展望

 2011年7月24日、地上アナログテレビ放 送が、東北3県を除いて終了した。国内の ほぼ全てのテレビがデジタル対応した現在、 テレビを中心とする映像サービスは新たな 展開を見せ始めている。本稿では、アナロ グ終了後の映像サービス市場を、アナログ 停波の影響、映像サービス市場で生じてい る映像視聴端末の多様化とテレビ画面の奪 い合い、有料サービス市場の動向の順に概 観する。

1

アナログ停波によるテレビ

視聴世帯数とテレビ台数の

減少は限定的

 日本におけるアナログ放送の停波につい ては、長らく停波延期論がささやかれてき た。この背景には、2000年代後半までの デジタル放送視聴世帯数の伸びが十分では なかったことや、米国がアナログ放送の停 波を延期したこと等があった。しかし、日 本では大きな混乱もなく、停波が実現した。  これは、総務省を中心とした官民連携に よる各種の取り組み、具体的にはテレビ放 送等におけるマスメディア向け広告等の周 知活動の徹底、テレビ受信者支援センター (デジサポ)のような草の根活動の強化、 さらにエコポイント制度による直接的な受 䟺୒ୠᖈ䟻 1 532 1 600 1,800 1 126 1,320 1, 1,200 1,400 , 808 762 798 956 1, 800 1,000 䜨䝷䝃䞀䝑䝇䝌䝊䝰䝗ฺ⏕ୠᖈ 䜽䝢䞀䝌䝊䝰䝗ฺ⏕ୠᖈ 770 713 775 809 410 659 400 600 0 27 85 181 316 511 410 632 0 200 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 䟺ᖳᗐ䟻 2,000 60 80 100 120 0 20 40 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 100 77 99 100 78 ᆀ୕䝋䜼䝃䝯ᨲ㏞ᗀ࿈ᕰሔ 䟺ᖳ䟻 䝭䜼䜮ᗀ࿈ᕰሔ ኣ䝅䝧䝷䝑䝯ᨲ㏞䜹䞀䝗䜽ᕰሔ ᩺⪲ᗀ࿈ᕰሔ 図表1:家庭におけるスマートテレビ利用状況 (注):2010年時点の市場規模を100とした指数 図表2:地上デジタル放送と有料多チャンネル放送の 市場規模の推移(予測)

参照

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