人工知能学会研究会資料 SIG-AGI-009-03
ロボットの行動原理を形成した経験の提示が
行動の意図を人に想定させるか
Does Showing the Experience Forming
the Behavioral Principle of the Robot
Make Human Suppose the Intention of Action?
永吉秋平
1∗奥岡耕平
1大澤正彦
1,2今井倫太
1Shuhei Nagayoshi
1Kohei Okuoka
1Masahiko Osawa
1,2Michita Imai
1 1慶應義塾大学理工学部
1
Faculty of Science and Technology, Keio University
2日本学術振興会 特別研究員
(DC1)
2
Japan Society for the Promoton of Science, Research Fellow (DC1)
Abstract: Dennett cites three stances of physical, design, and intention as a stance for people to understand the object. In interaction with a robot, it has been claimed that smooth communication is performed when a person attributes an intentional stance to a robot. In this research, we made a hypothesis that showing the experiences of forming the behavioral principles of robots contributes to the attribution of the user’s intentional stance, and verified it through experiments.
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はじめに
近年、ソフトバンクのPepper*1に代表されるように、 コミュニーケーションロボットがさまざまな場面におい て導入されており、ロボットが人間と円滑にインタラク ションを行うことに対する需要が高まっている。人間と の円滑なインタラクションを実現するためには、人間が ロボットをどのような存在として捉えるかということに ついての理解が必要である。 Dennetは人間が何らかの対象の振る舞いを理解する 際に用いる認知バイアスとして3つのスタンスを提案し ている[1]。対象の振る舞いが物理法則に従っていると 解釈する”物理スタンス”、対象の振る舞いが設計に従っ ていると解釈する”設計スタンス”、対象の振る舞いが 意図によって合理的に生成されていると解釈する”意図 スタンス”の3つである。既存研究において、ロボット による人間との円滑なインタラクションを実現するため には、人間がロボットに対し意図スタンスを帰属するこ ∗連絡先:慶應義塾大学理工学部情報工学科 〒223-8522 神奈川県横浜市港北区日吉3丁目14−1 E-mail: [email protected] *1http://www.softbank.jp/robot 図1 実験に用いた映像の様子 とが重要であることが示されている[2]。 意図スタンスと設計スタンスの違いについて、寺田 ら[3]は意図を、対象となるロボットかそれを設計した 人間に帰属するかの違いであるとしている。つまり、ロ ボットの行動が設計者の設計によって実現されているも のではないと明示的に示すことができれば、ユーザーに 意図スタンスに捉えさせることが可能になると考えられ る。 そこで本研究では、ロボットが経験から学習して振る 舞いを決めていることを提示することで、振る舞いが設 計者の設計ではないことを明示的に示し、人のロボット に対する意図スタンスの帰属に寄与するという仮説を立 て、検証を行った。実験では、ロボットの振る舞いの映像とその行動原理 となった経験を示す映像を用意し、実験参加者に視聴し てもらい、ロボットの振る舞いに関するアンケートに回 答してもらった。また、ロボットの振る舞いと経験する 事象の性質がポジティブである場合とネガティブであ る場合についても比較を行った。アンケートの結果を分 析し、分析結果と実験参加者によるコメントから考察を 行った。 本論文の構成は以下の通りである。まず、第2章で意 図スタンスに関する従来研究を取り上げた後に、第3章 で本研究で検証する仮説について述べる。第 4 章では 実験について説明し、結果を示した上で、第5章で考察 を行う。最後に、 第6 章で結論を述べる。
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従来研究
Dennett[1] は人間が対象の振る舞いを捉える際に用 いるスタンスを物理スタンス、設計スタンス、意図スタ ンスの 3つのスタンスに分けて説明した。物理スタン スとは対象が物理法則に従っていると解釈するスタンス で、例えば「目覚まし時計が何故鳴るのか」という疑問 に対しては「歯車の動きによってベルが振動し空気の振 動が音になるから」といった解釈をする。設計スタンス とは対象がある意図のもとでの設計に従っていると解釈 するスタンスで、目覚まし時計の例で言えば「目覚まし 時計は決められた時刻に鳴るように作られているから」 と解釈をする。最後に、意図スタンスとは対象が意図を 持って動いていると解釈するスタンスで、目覚まし時計 の例で言えば「寝ている人を起こそうとしているから」 と解釈をする。 ロボットと人間のインタラクションにおいて人間がロ ボットに対して意図スタンスを帰属することが、円滑な 人ーロボット間のインタラクションの実現に重要である ことを山田は指摘している[4]。また武川 [2] の研究で は、人間がロボットに対して意図スタンスを帰属するこ とで、機械の複雑な振る舞いを意図に帰着させることで 直感的に理解でき、円滑な人―ロボット間のインタラク ションが可能になると述べている。 従来研究において、人間にロボットに対して意図スタ ンスを帰属させる様々な手法が提案されている。寺田ら [5]は、意図スタンスを帰属させる手法として、自律的 に動作する椅子と人間のインタラクションの実験を通し て、注意を向けることとリアクティブな動作が重要であ ることを示している。また、Gergely[6]らはエージェン トのゴール指向性の合理性を理解することが必要だと述 べている。 図2 実験に用いたコミュニケーションロボット3
仮説
寺田ら[3]は意図スタンスと設計スタンスの関係につ いて、設計スタンスは意図スタンスから分化するもので あると述べている。意図スタンスと設計スタンスの違い は、意図を対象となるロボットかロボットを設計した 人間に帰属するかの違いであるとしている。つまり、ロ ボットの振る舞いが設計者が直接設計した振る舞いでは ないと明示的に示すことができれば意図スタンスに帰属 させることができると考えられる。 そこで本研究では、 ロボットの振る舞いが設計者の 直接的な設計によるものではないことを明示的に示す方 法として、ロボットが経験に基づいて学習し、振る舞い を決定させていることを見せることによって設計者の意 図ではなく、ロボット自身の意図と判断されるのではな いかという仮説を立てた。実際にロボットを用いて実験 を行い、ロボットの行動原理を形成した経験を提示する ことの意図スタンスの帰属に対する影響を調査し、仮説 の検証を行った。4
実験
4.1
実験方法
本実験では前章で提案する仮説の検証を行うために、 ロボットの振る舞いの映像とその行動原理となった経験 を示す映像を作成し、実験参加者に視聴してもらうこと で経験の提示による意図スタンスの帰属に対する影響の 評価を行った。実験に用いた映像の様子を図1に示す。 実験では、図2に示す川崎ら[7]が開発したロボット を使用した。ロボットは両手の駆動と下部に搭載された 両輪の駆動が可能である。また、ロボットが発話する音 声として、清丸ら[8]が収集した音声データを利用した。 比較する条件として行動原理となる経験提示の有無に図3 実験に用いたオブジェクト(左上:ボール(青), 右上:ボール(黄),左下:箱(ピンク),右下:箱(緑)) 表1 制作した映像の内容 経験の性質 経験提示 経験パート 振る舞い パート あり ボールで 遊ぶ ポジティブ なし 箱で遊ぶ ボール を追う あり ボールで 痺れる ネガティブ なし 箱で 痺れる ボール から逃げる 加え、ロボットの振る舞いとその行動原理となる経験の 性質による影響を考慮し、振る舞いと経験が遊び等のポ ジティブな場合と怪我をした等のネガティブな場合によ る比較も行った。 実験に用いる映像は、ロボットがオブジェクトとのイ ンタラクションの結果何らかの経験を得る、経験パート とロボットがオブジェクトに対して何らかの振る舞いを 示す、振る舞いパートの2つで構成されている。表1に 制作した映像の内容を示す。経験提示ありの条件では経 験パートと振る舞いパートの両方で同じオブジェクトを 用いており、経験パートで示された経験が振る舞いパー トの行動原理となっていることを示した。対して、経験 提示なし条件では各パート間で異なるオブジェクトを用 いることで、経験パートで示された経験が振る舞いパー トの行動原理となっていないことを示した。経験提示の 条件間で、ロボットの振る舞いの違いによる影響をなく すために、同じ性質条件内において経験提示条件間の違 いはオブジェクトの違いのみとした。また、オブジェク トのカラーによる影響を考慮してカラーが違うもの2種 類用意し、計8パターンの映像を作成した。実験に利用 したオブジェクトを図3に示す。 実験参加者として平均年齢21.5歳、男性13名、女性 3名の合計16名に参加してもらった。また、実験参加 図4 経験提示の有無による比較 図5 経験のポジティブとネガティブによる比較 者の多くが工学系の学生であった。実験参加者のうち半 数はロボットの行動原理を形成した経験を提示する条件 で、もう半数には提示しない条件で行った。また、経験 と振る舞いの性質についての条件は1人の実験参加者に つき両方を行ってもらった。 実験の流れとして、まず教示として実験参加者に意図 スタンスと設計スタンスについて第2章と同様に例示を 用いて説明をした。次に、経験を提示する条件では行動 原理となる経験の映像を、提示しない条件では行動原理 とならない映像を視聴してもらい、視聴後どちらの参加 者にも同じロボットの振る舞いの映像を視聴してもらっ た。視聴後、映像で示された振る舞いについてアンケー トに回答してもらった。なお、経験の性質についての条 件においては実施順の影響をなくすためにカウンターバ ランスをとった。 アンケートでは設計スタンスを1、意図スタンスを7 として、映像で見たロボットの振る舞いに対する自身の 解釈がどちらのスタンスに近いかを7段階評価で答えて もらった。また、ロボットが映像に示すように振る舞っ た理由を自由記述してもらった。
4.2
結果
アンケートの結果に対して、分散分析を行った結果交 互作用は認められなかったため、各要因間において比較を行った。ロボットの行動原理を形成した経験の提示の 有無を条件に比較した結果を図4に示す。比較した結 果、経験の提示の有無による有意差は認められず、提案 する仮説の実証には至らなかった。 次に、経験の性質 がポジティブであるかネガティブであるかを条件に比較 した結果を図5に示す。経験の性質による比較の結果と しては、各条件間に有意差は認められなかった。
5
考察
4.2章で示した結果から、ロボットの行動原理を形成 した経験の提示の有無の条件において有意差が見られ ず、仮説の実証には至らなかった。経験提示あり条件に おいて設計スタンス寄りに捉えていた実験参加者の自由 記述を見ると、「青いボールを近づけるとセンサーで近 づく仕組みになっているから」といった記述が多く見ら れた。対して、経験提示なし条件における自由記述にお いても同様に、「ボールとの距離を等しく保つように設 計されているから」といった記述が多く見られた。つま り、経験の提示の有無に関わらずロボットではなく設計 者の意図を感じ設計スタンスで捉えた参加者が多く、本 実験の経験提示の方法ではロボットが学習したというこ とが十分に伝わらなかったということが考えられる。 ロボットが学習していることを十分に伝達することが 出来なかった要因の一つとして、学習前後の変化を表現 することが出来ていなかったということが挙げられる。 つまり、ロボットが経験パート以前に振る舞いパートと 同条件の状況における振る舞いを提示しなかったため に、経験パートで示された経験によって振る舞いパート における振る舞いが獲得されたものである、ということ が明示化されず、ロボットが学習したということが明確 に伝わらなかったものと考えられる。 今回の実験参加者は多くが工学系の学生であり、ロ ボット内部の機構に対する理解が比較的深い。そのた め、意図スタンスよりも設計スタンスでロボットの振る 舞いを捉えやすかったということも一因であると思われ る。コメントでも「まさかとは思うが、それがロボット の好みであったから。だが、それも設定された行動とも 取れそう」といったものがあり、一度は意図スタンスで 捉えたにも関わらず、ロボットは設計されたものである という知識が先行して、設計スタンスで解釈し直してい る様子が見られた。 また、経験と振る舞いの性質に関して、ポジティブ条 件において「ボールを追うように設計されているから」 というコメントした実験参加者が、ネガティブ条件では 「黄色のボールが嫌いだから」とロボットの意図を想定 しているようなコメントをする参加者が数名存在した。 このことから、ポジティブな振る舞いよりネガティブな 振る舞いのほうが意図スタンスで捉えられやすい可能性 が考えられ、検討する必要があると思われる。6
おわりに
本研究では、人にロボットに対して意図スタンスを帰 属させる手法として、ロボットの行動原理を形成した経 験を提示することが影響するという仮説を立て、検証す るための実験を行った。実験の結果、経験の提示による 有意差は見られず、提案する仮説の実証には至らなかっ た。理由として、実験参加者に対し、ロボットが経験に 基づいて学習しているということが十分に伝わっていな かったことが挙げられる。今後は、本研究で見つかった 課題を踏まえて実験の方法を再考し、再検証を行う予定 である。参考文献
[1] Dennett, DC: MIT Press, The Intentional Stance, (1987) [2] 武川直樹: 情報通信 学会論文誌, 社会科学のアプ ローチに基づくコミュニケーションロボット・擬 人化エージェントの設計に向けて ──人間観察に よってデザインされたロボットは「不気味の谷」を 渡れるか?──, Vol. 93, pp. 1027–1033 (2010) [3] 寺田和憲,伊藤昭: 日本ロボット学会誌, 人間はロ ボットに騙されるか?―ロボットの意外な振る舞 いは意図帰属の原因となる―, Vol. 29, No. 5, pp. 445–454 (2011) [4] 山田誠二: 人工知能学会誌, HAI研究のオリジナリ ティ, Vol. 24, No. 6, pp. 810–807 (2009) [5] 寺田和憲,社本高志,梅海櫻,伊藤昭: 第21回人 工知能学会全国大会, 意図的人工物, p. 2D5 −7 (2007)
[6] G Gergely, Z N´adasdy, G Csibra, S B´ır´o: Cogni-tion, Taking the intentional stance at 12 months
of age,Vol. 56, Issue 2, pp. 165–193 (1995) [7] 川崎邦将,大澤正彦,今井倫太,長田茂美: 人工知 能学会 第6回汎用人工知能研究会, 認知的制約付 き擬人化キャラクターに着目したコミュニケーショ ンロボットの設計と開発, (2017) [8] 清丸寛一, 大澤正彦, 今井倫太: 人工知能学会第6 回汎用人工知能研究会,予測的認知を用いた非自然 言語による言語的 コミュニケーション, (2017)