軟質金属ラップによる硬脆材仕上加工の研究(第1報)
―溝付きラップ上の砥粒の動きについて―
向山芳世 山口政義 緒方勲 萩原隆徳 (昭和55年9月1日受理)Study on Finishing of High-Hard and Brittle
Materials by Soft Metal Lap (1st Report)
-Motion of Grain on the Grooved
Lap-YoshitsuguMUKOYAMA MasayoshiYAMAGUCHI IsaoOGATA TakanoriHAGIHARA Abstract In the finishing of high−hard and brittle materials, it is more effective to use grooved 1ap of soft metal for working eMciency and working accuracy. But, the investigation about the working mechanism of grooved lap isn’t enough, and the clear explanation of the machining mechanism hasn’t been made almost. In this paper, the motion of grain on lap was observed considering the relation grooved lap and grain as a rnodel of practical machining in the cases of two kinds lapping mach・ ines which were different moving mechanism each other, and was examined by the method of statistical analysis. As a result, the clues of explanation for machining mechanism of grooved lap were obtained.
1.はじめに
硬脆材料の仕上研摩加工の工程において,従来, ピッチ皿に弁柄,または酸化セリウムなどを水と混合 したものを用いる方法がとられてきたが,加工能率向 上のためと品質のバラツキを無くするために,ピッチ 皿の代わりに軟質金属やウレタンをラップに使用して 効果をあげてきている。特に,軟質金属研摩皿の場 合,皿の面に碁盤目状,放射線状,あるいはスパイラ ル状の溝をつけると加工量が増大し,大きな工作物で も,中央部まで砥粒がいきわたり,外縁だけが余分に 加工されるようなことがなく,全面が均一に加工され るとともに,ひっかききずの発生なども防止できる。 また,研削皿の摩耗も一様であり,加工精度のうえか らも良好な結果が得られる。しかし,溝付き皿の効果 の原因についての検討は十分でなく,その加工機構に ついてはほとんど明確にされていない。 本報は,スパイラル状溝付き皿の加工機構を解明す るために,溝付き皿と砥粒を模型化し,研摩皿上の砥 粒の動きを運動機構の異なる2種類の研摩機を用いて検討した結果について報告する。 2.研摩皿上の砥粒の運動測定と統計的解析方法
2.1実験方法
実験に使用した研摩皿(ラップ)は,実際の加工の 際の溝と砥粒が相似関係にあるスパイラル状の溝つき 皿をモデル化(図一1)したものである。このモデル化 した皿は中心の溝0から,外側に向う溝をそれぞれ A,B,C……Mと名付ける。使用した砥粒は,バレル 加工に使用する球状(φ3mm)のもの(メディア)で あり,灯油,マシン油,灯油とマシン油を混ぜ合わせ た油(1:1)に混合した条件と,液に混合せず砥粒の み(乾式)の場合とについて実験した。 測定はスパイラル状の溝の一つ一つに,ある個数の 砥粒をおき,種々の条件のもとで,10秒間加工機を稼 0.9 口 動させたとき,他の溝に飛び散ったり,移動した砥粒 の数を測定した。この得られた結果を回帰分析の方法 により,電子計算機により処理した。なお,使用した 研摩機はA,Bの2機種であり, A研摩機は,工作 物取付けの上皿が任意の角度に偏心できる機構のも のDであり,B研摩機は下皿が偏心回転する機構の もの2)である。 10 表一1 相 関 表 A 研摩機,下皿回転数2V=160rpmO溝 A溝 B溝 C溝
x ツ x ツ x ツ図一1皿の形状
5 3 10 71512
2013
2522
3024
3534
4038
4541
5049
10 8 20 14 34 22 40 33 50 39 60 48 70 59 80 66 90 79 100 87 110 98120116
130118
140130
150137
160151
165155
10 9 20 17 30 20 40 24 53 36 60 42 70 48 80 57 90 76 100 86 110 95 x ツ x y150135
160148
170157
180170
190170
200198
210190
220209
230206
240236
250233
120 105260 249 130 112270 258 140 136290 269 10 4 20 18 30 21 40 30 50 42 60 55 70 52 76 61 80 67 90 76 100 80120102
140120
x ツ160150
180149
200175
220198
240197
260228
280253
300261
320275
340303
360340
380321
390337
D 溝 E 溝 F 溝 X X2 ツ 10 100 0 20 400 10 30 900 12 40 1600 24 50 2500 35 60 3600 40 70 4900 52 80 6400 55 90 8100 58 98 9604 76 120 14400 99 140 19600 105 160 25600 117 180 32400 159 200 40000 183 x x2 ツ x x2 ツ 220 48400 183 240 57600 196 260 67600 228 280 78400 253 300 90000 253 320 102400 274 340 115600 283 360 129600 306 380 144400 315 400 160000 312 420 176400 341 440 193600 348 460 211600 347 500 250000 355 10 100 4 20 400 11 30 900 13 40 1600 19 50 2500 22 60 3600 41 70 4900 50 80 6400 54 90 8100 72 100 10000 67 120 14400 76 140 19600 108 160 25600 127 180 32400 144 200 40000 144 220 48400 159 240 57600 176 x x2 ツ x x2 ツ 260 67600 183 280 78400 203 300 90000 224 320 102400 233 340 115600 229 360 129600 243 380 144400 275 400 160000 281 420 176400 248 440 193600 268 460 211600 294 480 230400 306 500 250000 277 530 280900 320 560 313600 318 590 348100 335 10 100 0 20 400 3 40 1600 6 60 3600 31 80 6400 49 100 10000 58 120 14400 64 139 19321 66 160 25600 93 180 32400 103 200 40000 90 220 48400 94 240 57600 95 260 67600 113 280 78400 99 300 90000 95 x x2 ツ 320 102400 127 340 115600 117 360 129600 119 380 144400 119 400 160000 114 430 184900 121 460 211600 128 490 240100 135 520 270400 119 550 302500 136 580 336400 117 610 372100 124 640 409600 173 670 448900 154 700 490000 1842.2統計的解析 実験により得られた結果をもとにして,相関表を作 成するために次のような設定を行った。 X;砥粒(メディア)をある一つの溝においたとき の数。 Pt;研摩皿を10秒間稼動した後に,砥粒(メディア) が飛び散ったり,移動したときのある領域(研 摩皿の中心部,研摩皿を運動稼動させる前に溝 に砥粒をおいた領域,研摩皿の外の領域)にあ る砥粒の数。 ここで,Xとyとの相関関係を示す表を作成した のち,その相関表から散布図(相関図)をつくり,回 帰曲線をグラフ上で仮定し,それらの曲線の係数(回 帰係数)を推定して,曲線を決定した。この場合の推 定方法は,単回帰分析法,重回帰分析法,ダミー変数 の3通りである。 3.実験および計算結果と考察 種々の条件において,研摩機が稼動した場合におけ る研摩皿上の砥粒の動きを測定し,その結果をもとに して,相関表,相関図(散布図),分散分析表を作成 し,回帰曲線をつくるわけであるが,得られた回帰曲 線は分散分析表より検討にパスしたものである。 3.1 A研摩機における結果 3.1.1研摩皿(下皿)の回転数N=160rpmの 場合 相関表の一例を表一1に示す。 ここで, y 下皿回転数N=160叩m −D− 500 単回帰分析法 y=−22.86789十1.10875x−O.()0063509ズ2 250 0 250 (e) 500 x y 100 50、 0 下皿回転数IV=160rpm −o一 300 200 ダミー変数法 100 (y=−1.22181→−0.92806x) 50 (a) 100 x y 下皿回転数N==160叩珊 −E− 500 単回帰分析法 y==−13.99153十〇.940718x−O.OOO61359x2 ダミー変数法 250 (y=−3.17875十〇.92806x) (c) 300 x 0 250 (f) 500x y 200 100 0 下皿回転数IV =160rpm −A一 ダミー変数法 (yニー3.47117十〇.92806x) 100 (b) 200 x y 400 200 下皿回転数N=160rpm −C一 ダミー変数法 (y=−10.62070十〇.92806x) 0 200 400 x (d) 図一2 相関(散布)図 500 下皿回転数N=160rpm −F一 単回帰分析法 y == 12.10390十〇.40550x−O.t)0030062x2 (9) 1000x
i)〔::驚黙灘㌻:
その溝(相関表の上に記す)に保持され ている砥粒の総数。 表一1においてG溝からは,その溝に砥粒をほとんど 保持できなくなってくるために相関表は省略した。 更に,表一2 分散分析表
A研摩機,下皿回転数N==160rpm i)1溝(め対1溝1(ツ) 0,A, B, C溝の分散分析表 (ダミー変数法) i’)カ欝:罐論魂㌶たとき,
ある溝を含めてその溝に一番近い内側溝 および外側溝の3つの溝に飛び散った砥 粒の総数。 ’ii)k舗獅纏錨遷㌶たとき,
皿の外に出る砥粒の総数。 等についても実験したが,相関表の記述は省略する。 相関図(散布図)の一例(i)を図一2に示す。表一2は ii)1溝(め対3溝(ッ) 0,A,B,C溝iの分散分析表ぷivl 58 囲 」・fS 旦|∬ IDFI」・fS
(ダミー変数法) R・・6644738E+・6川・・166・184E+・61 3131.・・9 El・…32234E+・41….・3・5571E+・21 Ti・・6685・6・E+・61・・1 Rl・・746・161E+・61・1…865・4・E+・61 244・9.43 E・・5799768E+・31 76i・・763127・E+・・l Tl・・746596・E+・61・・1 残差の不偏分散Vrの平方根〆=iT=7.2839 重相関係数Rrαte=0.99698 残差の不偏分散Vrの平方根]/「巧=2.7625 重相関係数Rrαte=0.99961 D溝iの分散分析表 (重回帰分析法) D溝の分散分析表 (重回帰分析法)svI
ss
lDFI
MS
Rl・・42・7・43E+・6i ・i・.21・8521E+・62143.36・svI
ss
DFI
MS
El・・2557738E+・41 26・。98374・4E+・2 T|…24262・E+・61・・1 R1・・51・4484E+・621・・2552242E+・617・・3.484 E|・・8396・79E+・31 26i・・322・26・E+・21 Tl・.5・・288・E+・61 2S 残差の不偏分散Vrの平方根]/一li ==9.9184 重相関係数Rrαte =O.99698 残差の不偏分散Vrの平方根γ/「巧=5.6827重相関係数Rrαte=O.99918 E溝の分散分析表 (重回帰分析法) E溝の分散分析表3∋ 58 rDFr MS 旦155 DF
R1…722881E+・61・1…86・44・E+・6i・66・.・55 Rl・.4945534E+・61・ (重回帰分析法)MS
0.2472767E十〇6 1355.538 El・・3363938E+・43・i・…2・312E+・31 T・・375652・E+・61 321 El・・5472586E+・41・・1・・1824・95E+・31 TI・・・…26・E+・61 32 残差の不偏分散Vrの平方根〆「巧=10.5892 重相関係数Rrate=0.99551 残差の不偏分散Vrの平方根1/r=13.5063 重相関係数R,αte=O.99451 F溝の分散分析表 (重回帰分析法) F溝の分散分析表 (重回帰分析法)sv
ss
IDF
MS
RI…48・84・E+・5同・・274・924E+・51….872・svl
ss
DFI
ハ4s El・・7533523E+・41 28・・269・542E+・31 Rl…5673477E+・51・1・・2836738E+・・1….4417 Tl・・62352・・E+・・3・| E|・・782998・E+・41’2sl・・279642iE+・31 Tl・・6456475E+・・1・・1 残差の不偏分散Vrの平方根}/一▽ご=16.4029 重相関係数Rアate・・O.93765 残差の不偏分散Vrの平方根}/「再7=16.7225 重相関係数Rrate =O.93741分散分析表であり,やはり結果の一部(i)を記載す る。 表一2でS7;要因, SS;平方和, DF;自由度, MS; 平方和(不偏分散),F。;観測されたF(検定)値, .R;回帰, E;残差, T;総和である。 いま,研摩機(皿)を稼動させる前に,砥粒の置い てある溝をStart,研摩機(皿)を稼動させた後,回 帰曲線の対象となる溝または皿の外をFinishとする と,回帰曲線(実験式)は次のようになる。
(A)A研摩機
a)下皿回転数N=160rpmの場合
i)1溝@)対1溝(ッ)Start Finish 回帰曲線
O溝… O浄季 Or=:− 1.22181十〇.92806xA溝A溝Or=−3.47117十〇.92806x
B溝 B溝 Or =−3.17875十〇.92806x C溝 C溝Or ・=−10.62070十〇.92806x D溝 D溝iOr=−22.86789十1.10875x−0.OOO63509x2 iii) 1溝(x)対皿の外(or) E溝の分散分析表 (重回帰分析法)sv
ss
lDFI
MS
Rl・.935・2・9E+・・1・1・.46756・9E+・5273・3149 El・・51321・9E+・43・…71・7・3E+・31 T{・.9864425E+・Sl 321 残差の不偏分散Vrの平方根〆「X・=13.0794 重相関係数Rrate= O.97364 F溝の分散分析表 (重回帰分析法)sv
53
iDF
MS
R O.8104335E十〇6 2 0.4052168E十〇6 1485.573 E|・・76375・8E+・41 28・・272768・E+・31 T O.8180710E一ト06 30 残差の不偏分散Vrの平方根〆「巧=16.5157 重相関係数Rrαte=0.gg532 G溝の分散分析表 (単回帰分析法)sv
ss
iDF
MS
Ri・.・65・26・E+・711・.165・26・E+・71・2322・・3 E1・.4・2・…E+・33・・.・34・…E+・2 T・.・65・662E+・71 3・1 残差の不偏分散Vrの平方根1/Pt=3.6606 単相関係数r=0.99988 E溝i E溝 Or=・−13.99153十〇.940718x−O.OOO61359x2 F溝 F溝 pt= 12.10390十〇.40550x−0.0030062x2 ii)1溝(x)対3溝(〉,)Start Finish 回帰曲線
0溝 0,A溝 pt=0.755246十〇.97253x A溝 0,A,B溝 Or=2.47047十〇.97253x B溝 A,B,C溝iOr=3.816998十〇.97253x C溝i B,C,D溝iOr=−1.459827十〇.97253x D溝 C,D,E溝 Or =・−4.612663十1.03809x −0.OOO30866x2 E溝 D,E,F溝Or=−0.809067十〇.92161x −0.OOO40593x2 F溝 E,F,G溝Or=22.59309十〇.41099x −O.OOO30340x2 iii)1溝(x)対皿の外(or)Start Finish 回帰曲線
E溝皿の外rV ・・ 1.42250+0.07128x+O.OOO40521x2 F溝 皿の外Or=−22.61792+O.58gg24エ 十〇.00297236x2 G溝 皿の外rV=−12.20581+1.OOO746x a)のi),ii)の回帰曲線は,砥粒の保持,分散状態 を表わし,iii)の回帰曲線は,砥粒の散逸状態を表わ している。なお,iii)において, o溝からD溝まで は,ほとんど砥粒が研摩皿の外に飛び出さないので, 回帰曲線を決定することができない。なお,ここで1 溝(x)対1溝(ッ)とはStartのときの溝とFinish のときの溝とが同じ溝,1溝(x)対3溝(or)とは Startのときの溝とFinishのときの溝とが1溝:3 溝となること,1溝(x)対皿の外(ッ)とはStart のときは1溝でFinishのときは皿の場外を示すこと である。A研摩機においては,下皿回転N=146rpmで,1
溝(x)対1溝i(or),1溝@)対3溝(or),1溝(x) 対皿の外(or)の条件, B研摩機においては,下皿偏 心回転半径r=5mmで下皿回転数N=196rpm, r=5mmでN=260rpm, r=10mmでN・・196rpm, r
=10mmでN=260rpm, r=21mmでN=196rpm,
r=21mmでN=260rpmの組合わせで,おのおの1
溝(x)対1溝(S,),1溝(x)対3溝(〉,),1溝@) 対皿の外(Pt)の条件についても実験した。また, A, B研摩機において上記の条件で,砥粒が液と混合し ない(乾式)場合,液〔マシン油,灯油,マシン油と 灯油(1:1)を混ぜたもの〕と混合した場合について 実験検討した。A研摩機で下皿回転数N ・160rpm で乾式の条件以外の相関表,相関図(散布図),分散分析表,回帰曲線などの結果の記述はすべて省略す る。
A研摩機において,下皿回転数が比較的小さいN
=146rpmのとき,0溝からE溝と外側になるにつれ て,僅かずつ砥粒の分散が始まり,F溝になると外周 に向かって除々に散逸するようになり,H溝になると ほとんどの砥粒が皿の外に出てしまう形となる。下皿 回転数が,160rpmと大きい条件では,0溝からC溝 の範囲では砥粒の分散は僅かであるが,D溝になると 砥粒が外周に向かって散逸し始め,F溝に至っては大 部分が皿の外に飛び散るようになる。B研摩機においては,下皿偏心回転半径r=5mm
で,下皿回転数N=196rpmの条件では, O溝から B溝にかけて砥粒の分散する運動領域は狭く,C溝か らE溝にかけては砥粒の分散がやや起きてくる。E溝 から砥粒の分散はほとんどなく,稼動前の溝に保持 される。下皿偏心回転半径r=5mmで,下皿回転数 N=260rpmと回転数が大きくなった条件では,0, A,B, E, F, Gの各溝において,砥粒の分散領域は 狭く,E,F,Gの溝では,0,A,B溝に比較して分 散割合いは少ない。C, Dの溝においては砥粒の数が 多くなると,分散する運動領域がやや広くなる。 下皿偏心回転半径r=10mm,下皿回転数N ・196 rpmの条件において,0, A, F, G, H,1, Jの各溝 では砥粒の運動領域は狭く,外側に向かうほど分散は 少なくなる。しかし,B, C, D, Eの各溝においては, やや砥粒の分散があり,特にC,Dの両溝では,分 散割合はB,Eに比較して大きくなる。下皿偏心回転 半径r ・10mm,下皿回転数N == 260rpmでは,0, A溝の砥粒分散領域が広く,BからJ溝にかけて, 砥粒分散の運動範囲は狭くなる。また,外周方向(J 溝方向)に行くにつれて砥粒の分散は除々に減少し, 砥粒が溝に保持されるようになってくる。更に,下皿偏心回転半径rを21mm,下皿回転数がN=196rpm
の条件では,0∼C溝に砥粒分散があり,特に,0, Aの両溝は分散が大きく,皿の外に砥粒が飛び出る。 D∼J溝では砥粒の運動領域は僅かながら順次狭くなってくる。下皿回転数Nを260rpmとすると,
すべての溝において,砥粒の散逸があるようになり, 大部分皿の外に砥粒が飛び散る。特に,この現象が顕 著なのは0,A, B, H,1, Jの各溝である。 以上の乾式の場合と異なり,粘性のある液と砥粒を 混ぜた状態のものを使用すると砥粒の様相は当然異 なってくる。A研摩機で,下皿回転数N=160rpmの 場合,マシン油と混ぜるとE溝まで砥粒の分散はな く,H溝から砥粒は皿の外に出始める。この場合,砥 粒の分散する運動領域は狭い。マシン油と灯油(1:1) の液を使用すると,G溝まで砥粒の分散はなく,H溝 から皿の外に飛散し始めるが,砥粒の分散運動領域は 非常に狭い範囲となる。灯油のみの場合は,マシン油 と灯油の混合液の場合に似た傾向を示す。 B研摩機において,マシン油を使用すると,下皿偏心回転半径rが5mm,10mm,21mmのすべての条
件において砥粒の分散がなく,この傾向は回転数が 196rpm,260rpmとも同一傾向を示す。液を灯油にす ると,上記の全条件において僅かに砥粒の分散がみら れてくるが,分散する運動領域は極めて狭い範囲であ る。マシン油と灯油(1:1)の混合油については,灯 油のみの場合とほぼ同一傾向となる。 研摩皿上の砥粒の動きの原因については,砥粒の渦 巻き運動,砥粒の溝越え運動,砥粒の衝突による移動 運動などが考えられる。 図一3において,P;砥粒の質点, m;砥粒の質量, r;質点Pの動径,ω;研摩下皿の角速度,μ;静摩 擦係数,〆;動摩擦係数,み;動径方向の力(遠心 力),馬;動径方向と直角方向の力,N;溝から受け る抗力とする。いま,抗力を動径方向と垂直方向に分 けてNr, N,とすると,原点Pの釣り合い式は Nγ=Fr=〃Zプω2 NμニFep=maq(aq;q方向の加速度)Nx=mg
となる。 渦巻き軌道 R, /’、、 !’ 砥粒の進む方向 図一3 溝と砥粒の関係(1)i)研摩下皿の回転数Nが時計方向の場合 質点Pが渦巻き軌道からはずれる条件は 君=wω2>N。 であり,この関係式が成立したとき,砥粒は溝からは ゴ ずれることになる。砥粒の飛び出る方向はPR1であ る。 ii)研摩下皿の回転数Nが反時計方向の場合 質点Pが渦巻き軌動に沿って運動するのは Nr==mrω2 Npa’=・maep という関係式が成立したときであり,このとき砥粒は 皿の中心部にあつまる。砥粒が軌道に沿って動く方向
づ
はPR2である。 図一4は砥粒の溝越え運動(衝突による)を説明する ものであり,hは砥粒の位置から溝上部までの高さで ある。砥粒が1回も溝と衝突しないとき(皿が始動し たときに砥粒がもらったエネルギーのみ)に溝を越え るための条件は, 一ケ・・2>mgゐ・ ∴ v・〉〆29ん。 で,砥粒が1回溝に衝突して溝を越えるための条件は 一ケ・・2>mghi ∴ Vl>〆29乃1 となる。 また,砥粒がn回溝に衝突して溝を越えるための 条件は,÷…2>mghn
∴ Vn>レ/29/in である。したがって,溝を飛び出す砥粒の平均速度 豆は T−」ω+・・+・・1互〉〆万〆万±二’〆亙 n n−一.i>〆29を〆万
n i・=0 この関係式が成立するとき,もっとも多くの砥粒が溝 を飛び越える。 砥粒の衝突による移動運動を考えると,砥粒と溝と〆tj hx
溝を{則面から見たとき 図一5 溝と砥粒の関係(3) の衝突と砥粒同志の衝突とが考えられる。 i)砥粒と溝との衝突によって,砥粒が溝を移動す る場合 図一5で示す矢印は砥粒の移動方向を示す。いま,半 径aの砥粒(質量m)が,鉛直分速度v。,水平分速 度tt。,角速度ω。で回転しながら,跳ね返り移動する ものとし,衝突後の速度成分をVl, Ul,角速度をω1, 摩擦係数μ(μ’),反発係数e,回転半径aとすると, 砥粒がすべらないで回転していく場合のX方向の運 動量は 1 ’−x 図一4 溝と砥粒の関係(2) m(u一Uo)=−9 であり,〉,方向の運動量は m{v一(Vo)}=P となる。 砥粒が回転を伴うときのモーメントは mk2(ω一CV・)−2a, (ただしゐ2考・2) である。また,衝突後のov方向の速度は Vl=eカO である。 (1) (2) (3) (4) ここで,すべらないための条件をつけ加えると Ul=aωl l 21<μP (5) となる。 したがって,(1)∼(5)までの方程式を解くと 2(。一aω。)<μ(1+。)。。 (6)7
となり,この条件のとき砥粒はすべらなくて回転して いく。 また,砥粒がすべりながら回転していく場合を考え ると,エ方向の運動量は m(Ul−ao)=(∼ (7) or方向の運動量は(2)式,モーメントは(3)式,衝突図一6 溝と砥粒の関係(4) 後のPt方向の速度は(4)式である。すべるための条 件は 9 =Pt’P(ただし,μ’:動摩擦係数) (8) となる。 ii)砥粒同志の衝突による場合 砥粒と砥粒との間隔(の(図一6)が比較的大きいと きは,砥粒と砥粒とのかかわりあいが少ないので,砥 粒間の干渉が少なく,したがって,衝突後の速度V1, v2……Vnは大きくなり,砥粒の動きは活発となる。 一一方,砥粒と砥粒との間隔(のが比較的小さいと きは,砥粒同志の干渉が非常に多くあり,衝突後の速 度Vl, w2……Vnは極めて小さいものとなるために, 砥粒の動きはほとんどなくなる。 A研摩機は,主として研摩下皿を時計方向に回転さ せるので,砥粒の運動過程はほとんど渦巻き運動であ る。また,下皿回転数(N)が小さいときは,遠心力 (F, =〃mrω2)の角速度(ω)が小さいために,砥粒が皿 の外に散逸し始める溝は,0溝から遠くにあり(距離 rは大きい),下皿回転数が大きいときは,0溝の方 に近づく(rは小さい)。液(油)と混ぜ合わせて粘 性をもたせた場合は,粘性力が砥粒の動きに大きく影 響してきて,遠心力よりも大きくなっているために砥 粒の移動は起きない。B研摩機では下皿が反時計方向 に回転するために,砥粒が比較的大きい条件の場合の 砥粒の運動過程は,主として渦巻き運動の形となる。 しかし,下皿偏心半径(r)と下皿回転数(.N’))とが 大きくなると,渦巻き軌道から砥粒はずれる。また, 粘性をともなった場合は,A研摩機の場合と同様に, 遠心力よりも粘性力の方が大きくなり砥粒の動きはほ とんどなくなる。このようにA,B研摩機とも砥粒 の動きは主として渦巻き運動であり,溝越え運動,衝 突運動による砥粒の動きは少ないことが観察される。 一般にA研摩機では,ある溝を境にして内側の砥粒 はほとんど動かず,外側の砥粒は多くが散逸する形と なるので,ある程度粘性をもった液と砥粒の混合,下 皿回転数を小さめにすることなどが必要であり,B研 摩機の場合は,ある溝を境にして内側の砥粒は分散性 が大きく,外側の砥粒の動きが少ない。しかし,下皿 回転半径(r)と下皿回転数(N)を大きくすると砥 粒の散逸がでてくるため,適当な条件の選定が必要に なるとともに,低粘度の液の使用が好ましいことにな る。