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32:590 脳 卒 中 32 巻 6 号 (2010:11) 図 1 脳 内 出 血 手 術 適 応 フローチャート(2008 年 度 ) 図 2 出 血 部 位 による 手 術 施 行 率 症 例 数 の 少 ない 尾 状 核 出 血 を 除 けば, 小 脳, 皮 質 下, 被 殻 出 血 にて

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Academic year: 2021

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はじめに  1950 年代より降圧薬が普及し,わが国の脳出血の 死亡率は年々減少した.しかし最近は脳出血での死亡 率が横ばいになっているものの,脳卒中データバンク 2009 によると,脳卒中に占める脳出血の比率は依然 として 18%を占めており1),高血圧性脳出血の発症率 は減少していない.その背景には脳梗塞・心筋梗塞な どアテローム血栓症の増加と,加齢に伴う非弁膜性心 房細動の増加に伴い,高齢者の多くに抗血小板薬や抗 凝固薬が投与され,これらの投与が関与していると考 えられる.  脳実質内出血は,出血量が少ない場合でも破壊され る部位によっては後遺症を残すことが多く,内科的治 療を上回る外科的治療の有用性は依然として証明され ていない.出血量が多い場合に外科治療が選択される ことが多いが,それは機能的予後の改善ではなく救命 目的という意味合いが強い.このように脳実質破壊性 病変である脳内出血の外科治療の意義が不明確である にもかかわらず,学会などで論議される機会はむしろ 減っていると思われる.今回われわれは当施設での脳 出血治療における外科治療の現状と課題について,内 科的治療と比較検討した. 対象・方法  当院脳卒中センターないし脳神経外科に 2008 年 1 月より 12 月までの 1 年間に入院した脳内出血連続 152 例(男性 78 例,女性 74 例,平均年齢は 64.9 歳)を 対象とした.脳出血症例は当院での全脳卒中(脳梗塞 341 例,くも膜下出血 88 例等)のおよそ 26%を占めた. 出血部位によるその頻度は被殻出血 61 例(40%),視 床出血 38 例(25%),皮質下出血 28 例(18%),小脳出 血 12 例(8%),脳幹出血 6 例(4%),尾状核出血 6 例 (4%),その他 1 例であった.出血性梗塞や腫瘍,外 傷による脳出血は除外した.また,基底核を中心に大 脳半球広範囲に及ぶ出血は被殻出血に分類した. 方  法  当院に搬送された脳出血症例の治療方法は,後述の 手術適応に従って外科治療が選択され,それ以外の症 例は血圧管理を重視した保存的加療を行った.外科治療 を施行した症例では,血腫部位ごとに手術施行率とそ の手術方法,手術治療による血腫の摘出率を集計した. 症例の転帰は退院時の mRS(modified Rankin Scale) を用いて後方視的に検討した.入院時重症度と退院時 転帰を比較した検討では,回帰分析を用いて検定し, 危険率 5%以下で有意差ありとした. 手術適応  手術適応は,原則として「脳卒中ガイドライン 2009」2) に準拠し,当院での脳内出血の 2008 年度手術適応を フローチャートにして図 1 に記した.被殻出血につい ては血腫量 25~34 ml を内視鏡的血腫除去術,35 ml 以上の被殻出血に関しては意識レベルが JCS(Japan coma scale):200 までを開頭術とした.視床出血は健 側(出血対側)の側脳室まで脳室内穿破が及ぶものを適 1)杏林大学脳神経外科 2)杏林大学医学部付属病院脳卒中センター (2010 年 9 月 6 日受付,2010 年 9 月 7 日受理)

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応とし,内視鏡にて脳室内および脳内出血を摘出する こととした.皮質下出血は 25 ml 以上を開頭術に,小 脳出血は最大径 3 cm 以上を開頭術とした.血腫量の 測 定 に は, 電 子 画 像(Picture Archive Communication System: PACS)を用いて 1 スライスの面積をフリーハ ンドで測定し,スライス厚(天幕上 10 mm,後頭蓋窩 5 mm)を掛け,その和を近似値として算定した.な お手術適応の決定に際しては,患者の年齢,発症前の 日常生活レベル,脳卒中の既往,抗血栓療法の有 無,本人の意思(living will),家族の意向などを十分 考慮した. 結  果  脳出血 152 例中,手術施行例は 53 例(平均年齢 60.9 歳)であった.手術施行率とその方法(図 2,3)は,被 殻出血 21 例(開頭術 19 例,内視鏡 2 例),視床出血 8 例(内視鏡 5 例,穿頭ドレナージ術 3 例),皮質下出血 10 例(全例開頭術),小脳出血 8 例(全例開頭術),尾 状核出血 5 例(開頭術 1 例,内視鏡 4 例)であった.  術前,術後の血腫量を測定し,手術方法ごとの血腫 摘出率を計測(図 4,5)した.開頭術において,被殻 出血では全例 95%以上の摘出率であり,皮質下出血 では全摘出が 8 割を占めたが,小脳出血では全摘出は 1 症例のみであった.内視鏡手術においては,被殻出 血では全例 100%の摘出が可能であった.視床出血例 では,脳室内血腫を半分以上適出することが可能で あったが,実質内血腫を半分以上適出することができ たのは 6 割に留まった.  退院時の mRS では,小脳,皮質下出血の転帰は mRS 0~2 が約 4 割認められ,ほかの出血部位と比較 図 1 脳内出血手術適応フローチャート(2008 年度) 図 3 手術方法内訳 手術施行例の手術方法を出血部位別に表した.皮質下, 小脳,被殻出血で開頭術が選択されることが多い. 図 2 出血部位による手術施行率 症例数の少ない尾状核出血を除けば,小脳,皮質下,被殻 出血にて手術施行例が多い.

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すると比較的転帰は良好であった.また,脳幹出血の 転帰は不良であり,全体の死亡例の 3 割は脳幹出血で あった.  外科治療症例と内科治療症例にて,出血部位別に退 院時 mRS を解析(図 6,7)した.外科治療症例は前記 の如く 53 例(平均年齢 60.9 歳)であったが,内科治療症 例は 99 例(平均年齢 67.1 歳)であった.内科治療症例 において,小脳出血はほぼ全例転帰良好であったが, 視床出血と脳幹出血において死亡例が散見された.外 科治療症例においても小脳出血が他の部位と比較する と mRS 0~2 の予後良好例の割合が多く,被殻出血と 視床出血では死亡例がみられた.

 全症例の入院時重症度を GCS(Glasgow coma scale) で評価し,被殻出血と視床出血にて退院時転帰との関 係を検討した.内科治療症例においては,被殻出血, 図 6 内科治療症例転帰 小脳出血と皮質下出血において転帰良好例が多かった. 視床出血,脳幹出血にて死亡例が認められた. 図 7 外科治療症例転帰 外科治療例では小脳出血が最も転帰が良く,皮質下出血 がこれに続いた.被殻出血,視床出血にて死亡例が認め られた. 視床出血のいずれも入院時重症度が退院時の転帰と有 意に相関した(図 8A,B).外科治療症例は,被殻出 血と視床出血のいずれも入院時の重症度と退院時の転 帰において相関は認められなかった(図 9A,B). 考  察  当院での脳出血治療全体の手術介入は約 35%で あった.脳卒中データバンク 2009 では 17.0%3)(退院 時 mRS 記載症例に限る)となっており,当院での治 療対象となった母集団が重症である可能性が示唆され るが,全症例の mRS 0~2 は全体の 29.0%であり, データバンク 2009 での 33.0%4)(脳出血,退院時 mRS 0~2)と比較するとほぼ近似していた.また当院では 小脳,皮質下,被殻出血で手術施行例が多く,その手術 方法としては,開頭術が選択されることが多かった.

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開頭術で小脳出血の摘出率が低かった原因については, テント上出血との解剖学的差異に加えて術者の後頭蓋 窩手術への熟練度のばらつきが反映されている可能性 が示唆された.  昨今の内視鏡技術の進歩は目覚ましく,当院でもそ の低侵襲性から深部病変に対して積極的に内視鏡治療 を行っている.視床出血の過半数は内視鏡で手術され ていたが,その摘出率は決して高いものではなかった. 止血操作が開頭術と比べて困難であるという内視鏡手 技自体の技術的課題かもしれないが,急性水頭症合併 例に対して同時に第三脳室開窓術の実施も可能である こと等を考慮すると,今後の内視鏡治療での更なる成 績の向上が求められた.  内科治療症例では入院時重症度と退院時の転帰が相 関していた.当院では徹底した降圧(収縮期血圧 140 mmHg 以下)により入院後の血腫拡大は 7.6%に抑え られており5),来院時の神経症状が良好であるほど退 院時の転帰が良好であるという急性期降圧の有用性が 示唆されたとも言える.一方,外科治療症例では機能 予後の面で入院時重症度とは相関が認められなかった. 手術適応について本邦のガイドラインでは,現在のと ころ脳出血の手術治療に関しては非手術群と比較し, 予後,死亡率などの転帰が良好であったとするエビデ ンスレベルの高い報告はなく,手術適応の記述はいず れもグレード C どまりである.早期外科治療と保存 的治療の有効性を比較した STICH(Surgical Trial in Intracerebral Haemorrhage)study6)にても両群の治療 効果には差がなく,早期手術が保存的治療より有用で あるという結論は得られなかったが,これは STICH study の対象に外科治療とはならない小型出血例が多 く含まれているためと考えられる.Pantazis ら7)は血 腫量 30 ml 以上の脳出血(皮質下,被殻出血)に対して, 急性期開頭血腫除去術が機能予後の面で有効であると, 内科的治療群との比較で有意差を示した.しかしこの 報告は前向き無作為化試験であるが症例数が 100 人余 りと,STICH のような多施設試験に比べ症例数が少 ない.現在,機能予後に関しては手術の優位性は未だ 証明されておらず,血腫を積極的に摘出しても症状の回 復には限界があり,脳神経外科医の葛藤が窺い知れる. 著者らは,発症数日から 2 週間程度に遭遇する遅発性 図 9 外科治療症例の入院時重症度と退院時転帰(A:被    殻出血,B:視床出血) 入院時重症度と退院時転帰との間で一定の関係は認めら れなかった. 図 8 内科治療症例の入院時重症度と退院時転帰(A:被    殻出血,B:視床出血) 入院時軽症例ほど退院時転帰は良好であった.

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すく,当院での調査でも,運動機能を軸とした評価で は手術効果が不明確であった.今後は脳出血の転帰を 死亡率や生活自立度のみで評価するのではなく,患者 や家族の満足度など心理学的因子に基づいた評価項目 の策定も求められると思われた.同時に重症例の手術 適応決定や救命効果の意義は大きな生命倫理学的な問 題も含んでおり,将来の再生医学や新たな機能回復手 段の開発,介入と合わせ取り組むべき課題であるとも 考えている. 結  論  脳内出血の予後良好例の多くは小脳,皮質下出血に 対する開頭術施行例であった.脳実質破壊性病変に対 する外科治療介入の効果を機能予後で判定するには限 界があり,新たな指標導入などが必要である. タバンク 2009.東京,中山書店,2009,pp 136–137 5) 脊山英徳,西山和利,高橋秀寿:急性期脳内出血 に対する厳格な血圧管理の安全性,有用性について の検討.The 28th Meeting of The Mt. Fuji Workshop on CVD 東京,ニューロン社,2009,pp 38–40 6) Mendelow AD, Gregson BA, Fernandes HM, et al:

Early surgery versus initial conservative treat-ment in patients with spontaneous supratentorial intracerebral haematomas in the International Surgical Trial in Intracerebral Haemorrhage (STICH): a randomised trial. Lancet 365: 387–397, 2005 7) Pantazis G, Tsitsopoulos P, Mihas C, et al: Early

surgical treatment vs conservative management for spontaneous supratentorial intracerebral hematomas: A prospective randomized study. Surg Neurol 66: 492–501; discussion 501–492, 2006

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Abstract

The current situation and issues of the surgical treatments result for brain hemorrhage

Koichi Okamura

1)2)

, Ryuichi Yamaguchi

1)

, Hidenori Seyama

1)2)

, Keisuke Maruyama

1)

,

Hiroki Kurita

1)2)

, Haruko Okano

2)

, Hirokazu Kobayashi

2)

, Kazutoshi Nishiyama

2)

, Hidetoshi Takahasi

2)

and Yoshiaki Shiokawa

1)2)

1)Department of Neurosurgery, Kyorin University Faculty of Medicine 2)Kyorin University Hospital, Stroke Center

The aim of this study to evaluate treatment results for brain hemorrhage at Kyorin University Faculty of Medicine. We treated consecutive 152 cases of brain hemorrhage. We studied to examine their treatment contents and mRS (modified Rankin scale) at the time of their discharge.

The surgeries were performed for 53 cases. Outcome of cerebellar and subcortical hemorrhage was relatively satisfactory compared to other bleeding sites and mRS: 0–2 was recognized in about 40% of the cases. In contrast, outcome of brain-stem hemorrhage was poor, and it caused 30% of overall mortality.

There has been no specific evidence regarding surgical intervention for brain hemorrhage. As for putaminal hemorrhage which is likely to develop pyramidal tract disorder, the functional prognosis tends to deteriorate easily compared to cerebellar and subcortical hemorrhage, and it was considered to be the limit for judging prognostic evaluation based on functional assessment. Decisions for surgical indication for severe cases and significance of lifesaving effects include important life ethical issues, which are to be worked on in order to establish decision making methods which can be effective with limited time and manpower and to combine them with the development and application of regenerative medicine in future.

参照

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