育種 breeding
家畜を、望ましい性質を目標に改良すること 特定形質の付与 その家畜が持っていない特定形質を次代に与える 特定形質の除去 その家畜が持っている形質を次代において除く 特定形質の遺伝的固定(ホモ化) 特定形質を確実に子孫に保持させたい場合 性能の向上 生産能力を一定の基準にまで高めようとする場合 家畜の性質 = 遺伝的要因 + 環境要因 育種では遺伝的要因を下のように改良する性能の向上の例
あるニワトリ品種から、体重の重い系統と軽い系統を作る 体重が重いもの を選抜 体重が軽いもの を選抜 交配 交配 体重の重いものと軽いものを選抜し、それぞれ交配させる *選抜(selection):育種のために親として選ぶこと家畜の育種と植物の育種の違い
家畜では遺伝子ホモの純系を作ることが難しい 植物は自家受粉をするため遺伝子ホモができやすい 家畜は有性生殖のため遺伝子的に雑種になる 近親交配は時間がかかるうえ有害遺伝子がホモになる おそれがある 同じ遺伝子型の個体を多数得ることが難しい 植物は無性生殖(栄養生殖)できるのでクローンが得 やすい 放射線や薬物による突然変異にあまり期待できない 倍数体を得られない 動物の倍数体は胚の段階で発生を中止してしまう形質
形質 生物のもつ特徴や性質のこと 遺伝形質 遺伝によって子孫に伝えられる形質のこと 量的形質 連続した数字で示される形質 複数染色体上の多数の遺伝子座 メンデルの法則に従わない 環境の影響を受ける 体重や身長、肉質など 質的形質 質的な違いで示される形質 少数あるいは単一の遺伝子座 メンデルの法則に従う 血液型や毛色、性別など 質的形質と量的形質では遺伝の仕組みが違う質的形質と量的形質の例
番号 毛色 離乳時体重 1 褐 161 2 粕 165 3 白 158 4 粕 163 5 褐 168 6 粕 155 質的形質 量的形質 ショートホーン種における毛色 および離乳時体重(kg) 変異 variation 表現型(値)に見られる 個体間の差異優性の法則
黒毛和種 有角pp
アンガス 無角PP
雑種第一代(F1) 無角Pp
雑種第一代で、2つの対立形質のうち片方だけが現れること 現れる方を優性、現れない方を劣性という 一代雑種ともいう ヘテロ接合体 ホモ接合体 遺伝子型 表現型 対立遺伝子ヒトの優性
優性 劣性 目の色 黒色 青色 髪の色 黒色 金色 耳垢 濡れている 乾いている 瞼 二重 一重 舌 巻ける 巻けない つむじ 右巻き 左巻き 額 富士額 富士額ではない この中で一つの遺伝子で説明できるのは耳垢だけらしい家畜の優性
形質 優性 劣性 ウシの角 無角 有角 ヤギの角 無角 有角 ウシの毛色 黒 褐色 ウシの毛色 褐色 赤色 ヘレフォードの顔の毛色 白色 多品種の有色 大ヨークシャーの毛色 白色 多品種の有色 ランドレースの毛色 白色 多品種の有色 ニワトリの羽色 黒色 褐色不完全優性(無優性)
白WW
褐色RR
F1 粕毛W
R
相対立する表現型の優劣がはっきりせず、ヘテロ接合体に おいて、2つの対立遺伝子のどちらの表現型でもない中間的 な表現型が現れること 中間雑種という共優性
血液型AAA
血液型BBB
血液型ABA
B
相対立する表現型がともに優性で、ヘテロ接合体において 両方の表現型が発現すること ABO式血液型 対立遺伝子が3つ以上の場合で多い分離の法則
F2 有角pp
F2 無角PP
F1 無角Pp
雑種第二代で、雑種第一代で隠れていた劣性形質が再び現れ、 優性形質と劣性形質が一定の比で分離すること F1 無角Pp
F2 無角Pp
F2 無角Pp
分離の法則
無角オスの配偶子 P p P p 無角メスの配偶子 対立遺伝子は個体内で1個の単位として保たれ、配偶子形成 時に再び1個ずつに分離する 有角pp
無角Pp
無角Pp
無角PP
P
p
P
p
独立の法則
褐毛和種 有角・褐色pp
bb
アンガス 無角・黒PP
BB
F1 無角・黒Pp
Bb
このF1同士をかけあわせる 異なる形質が互いに干渉せず独立して遺伝すること P、p:角の遺伝子 B、b:毛色の遺伝子独立の法則の続き
オスの配偶子 PB Pb pB pb PB Pb pB pb メスの配偶子独立の法則の続き
オスの配偶子 PB Pb pB pb PB Pb pB pb メスの配偶子 F2 有角 褐色 F2 無角 褐色独立の法則の続き
F2 有角 黒 F2 無角 黒 F1 無角・黒Pp
Bb
F1 無角・黒Pp
Bb
角の有無と毛色は関係なく独立して遺伝している 無角・黒:無角・褐色:有角・黒:有角・褐色=9:3:3:1 無角:有角=12+4=3:1 黒:褐色=12+4=3:1独立の法則と配偶子
無角・黒Pp
Bb
P B p b P B p b P B p bP
B
P
b
p
B
p
b
配偶子が4種類できる独立の法則の例外(連鎖)
茶髪・水色Aa
Bb
A B a bA
B
a
b
配偶子は2種類しかできない 2つの遺伝子が同じ染色体にある場合 A B a b 2つの遺伝子が同じ染色体にあることを連鎖しているという相同組換え
A B a bA
b
a
B
減数分裂の際に相同染色体間で染色体が 入れ替わること 染色体で離れている遺伝子で生じやすい A B a b A B a b A b a B リコンビナーゼ家畜の量的形質
能力 形質 繁殖 一腹子数 受胎率 分娩間隔 多胎率 哺育 泌乳量 離乳時体重 増体重 強健性 抗病性 環境適応性 長命性 飼料利用 飼料要求率 飼料摂取量 生産 産肉 増体重 成熟体重 枝肉重量 可食肉量 皮下脂肪厚 肉質(脂肪交雑、肉のきめなど) 泌乳 乳量 乳脂率 乳脂量 無脂固形分 産卵 初産日齢 産卵数 卵重 卵殻強度量的形質の遺伝
長耳種 220 mmAABBCC
短耳種 100 mmaabbcc
ウサギの耳の長さは3つの染色体にある3つの対立遺伝子に よって決められている F1 160 mmA
a
B
b
C
c
A・B・Cのいずれか1つあれば耳が 20 mm長くなる 表現型値F2の遺伝子型(その1)とABCの数
abc Abc aBc abC abc aabbcc Aabbcc aaBbcc aabbCc Abc Aabbcc AAbbcc AaBbcc AabbCc aBc aaBbcc AaBbcc aaBBcc aaBbCc abC aabbCc AabbCc aaBbCc aabbCC ABc AaBbcc AABbcc AaBBcc AaBbCc AbC AabbCc AAbbCc AaBbCc AabbCC aBC aaBbCc AaBbCc aaBBCc aaBbCC ABC AaBbCc AABbCc AaBBCc AaBbCC0 1 1 1 2 2 2 3 1 2 2 2 3 3 3 4 1 2 2 2 3 3 3 4 1 2 2 2 3 3 3 4
F2の遺伝子型(その2)とABCの数
ABc AbC aBC ABC abc AaBbcc AabbCc aaBbCc AaBbCc Abc AABbcc AAbbCc AaBbCc AABbCc aBc AaBBcc AaBbCc aaBBCc AaBBCc abC AaBbCc AabbCC aaBbCC AaBbCC ABc AABBcc AABbCc AaBBCc AABBCc AbC AABbCc AAbbCC AaBbCC AABbCC aBC AaBBCc AaBbCC aaBBCC AaBBCC ABC AABBCc AABbCC AaBBCC AABBCC2 3 3 3 4 4 4 5 2 3 3 3 3 4 4 5 2 3 3 3 4 4 4 5 3 4 4 4 5 5 5 6 数 0 1 2 3 4 5 6 比 1 6 15 20 15 6 1 耳の長さ 100 120 140 160 180 200 220
A・B・Cの遺伝子の数
耳の長さはmm 実際には個体差が あるのでばらつき が生じる 全体としてこのような 分布になる量的形質は環境の影響を受ける
表現型値は遺伝子と環境の影響を受ける表現型値=遺伝子型値+環境偏差
AABBCCで 225 mmの場合 =遺伝子型値 220 mm + 環境偏差 5 mm AbBbCcで 150 mmの場合 =遺伝子型値 160 mm - 環境偏差 10 mm 環境偏差は個体毎に大きさや符号が違うので、 個体数が増えるにつれてゼロに近づく =遺伝子型値が推測できる遺伝子型効果:相加的遺伝子効果
aabbcc Aabbcc AaBbcc AaBbCc AABbCc AABBCc AABBCC ある遺伝子の作用が同じ形質に関与するほかの遺伝子の 作用に対して加算的であること A・B・Cが1つ増えると耳が 20 mm長くなる (+ 0 mm) (+ 20 mm) (+ 40 mm) (+ 60 mm) (+ 80 mm) (+ 100 mm) (+ 120 mm) 100 mm 120 mm 140 mm 160 mm 180 mm 200 mm 220 mm ある形質の相加的遺伝子効果の総和を育種価という (集団平均からの偏差で表示する) 優性効果 正常個体DD
離乳時体重 180 kg 矮小個体dd
離乳時体重 90 kg F1D
d
離乳時体重 180 kg 加算的ならD1個で45 kg になり135 kgになるはず 正常親>F1:部分優性、親=F1:完全優性、親<F1:超優性 ヘテロ接合体の遺伝子型値が、ホモ接合体の 遺伝子型値の平均から外れること遺伝子型効果:非相加的遺伝子効果
上位性効果(エピタシス) 異なる遺伝子座における遺伝子間の相互作用遺伝子型効果:非相加的遺伝子効果
上位性効果の例:補足遺伝子 一つの形質の発現に二組の対立遺伝子が必要な遺伝子 通常は二つの優性対立遺伝子があればその形質が発現する CP:Cp:cP:cp=9:3:3:1の場合、 紫:白=3:1にならず、紫:白=9:7になる (例)スイートピーの花の色 花の色を決める遺伝子にはCとPがある 両方があれば紫になり、なければ白に 相加的遺伝子効果遺伝子型効果の概略
a
b
優性効果 上位性効果 優性効果 優性効果は対立遺伝子間の相互作用 上位性効果は異なる遺伝子座間の相互作用 優性効果と上位性効果は雑種第一代には期待できるが その次世代では必ずしも期待できないA
B
遺伝子型効果:相加的遺伝子効果
aabbcc Aabbcc AaBbcc AaBbCc AABbCc AABBCc AABBCC ある遺伝子の作用が同じ形質に関与するほかの遺伝子の 作用に対して加算的であること A・B・Cが1つ増えると耳が 20 mm長くなる (+ 0 mm) (+ 20 mm) (+ 40 mm) (+ 60 mm) (+ 80 mm) (+ 100 mm) (+ 120 mm) 100 mm 120 mm 140 mm 160 mm 180 mm 200 mm 220 mm ある形質の相加的遺伝子効果の総和を育種価という (集団平均からの偏差で表示する)遺伝子型値と遺伝子型効果
遺伝子型効果は下の3つからなるので、 ・相加的遺伝子効果の合計:育種価 ・優性効果の合計:優性偏差 ・上位性効果の合計:相互作用表現型値=遺伝子型値+環境偏差
育種では遺伝子型効果がどれくらいあるかが重要になる 遺伝子型効果で遺伝子型値を表すと、遺伝子型値=集団平均+遺伝子型効果
遺伝子型値=集団平均+育種価+優性偏差+相互作用
育種価の求め方(あくまで簡単な例)
同じ系統の父母ウシと子ウシを全て同じ環境下で飼育する 父A 母A 子A 枝肉重量 395 kg X = 父A 母B 子B 枝肉重量 385 kg X = 父A 母C 子C 枝肉重量 420 kg X = 子の平均枝肉重量 400 kg-5
-15
+20
遺伝子型 遺伝子型 頻度 平均乳量 DD 0.36 2.4 AD 0.48 2.2 AA 0.16 1.8育種価の求め方(あくまで簡単な例)
乳牛のトランスフェリン型と乳量 遺伝子頻度:D、0.6;A、0.4 乳量の単位は1000 kg 乳牛の乳量はトランスフェリン 型と関係がある D遺伝子1個あたりの効果が 2.4 ÷ 2 = 1.2 で、 A遺伝子1個あたりの効果が 1.8 ÷ 2 = 0.9 だとすると、 遺伝子型ADの乳量は 1.2 + 0.9 = 2.1 になるはず D遺伝子の不完全優性がある 集団平均は 0.36 × 2.4 + 0.48 × 2.2 + 0.16 × 1.8 = 2.208 D遺伝子の平均効果は (0.36 × 2.4 + 0.48 × 2.2 ÷ 2) ÷ 0.6 - 2.208 = 0.112育種価の求め方(あくまで簡単な例)
A遺伝子の平均効果は (0.16 × 1.8 + 0.48 × 2.2 ÷ 2) ÷ 0.4 - 2.208 = -0.168 遺伝子型DDの育種価は D遺伝子効果 0.112 × 2 = 0.224 遺伝子型ADの育種価は A遺伝子効果 -0.168 + D遺伝子効果 0.112 = -0.056 遺伝子型AAの育種価は A遺伝子効果 -0.168 × 2 = -0.336 遺伝子型DDの平均乳量 2.4- 集団平均 2.208 = 0.192 遺伝子型ADの平均乳量 2.2 - 集団平均 2.208 = -0.008 遺伝子型AAの平均乳量 1.8 - 集団平均 2.208 = -0.408 この値と育種価との差が優性偏差になる 遺伝子型 DD AD AA 遺伝子型頻度 0.36 0.48 0.16 平均乳量 2.4 2.2 1.8 遺伝子型値 0.192 -0.008 -4.08 育種価 0.224 -0.056 -0.336 優性偏差 -0.032 0.048 -0.072育種価の求め方(あくまで簡単な例)
乳牛のトランスフェリン型と乳量における遺伝子型値と 育種価、優性偏差 遺伝子頻度:D、0.6;A、0.4 乳量の単位は1000 kg、集団平均:2.208育種価の応用(新潟県の肉牛)
枝肉重量 ロース芯面積 バラの厚さ 皮下脂肪厚 脂肪交雑 育種価 -25.87 6.17 0.08 -0.74 1.66 評価 D A D A A 母牛「やすまさひめⅠ」のDランクの形質を向上させたい 新潟県では育種価をA~Dにランク付けしている(上位四分の一をA、その次をBとしている) 育種価 111.23 12.53 1.24 0.20 1.85 父牛「勝忠平」と交配させる できるであろう子牛「太郎」の育種価 育種価 42.68 9.35 0.66 -0.27 1.76 評価 A A B B Aより正確に育種価を予測するために
BLUP法(Best Linear Unbiased Prediction) 年次や季節等の環境要因を補正して育種価を予測する方法 血統情報も組み込むことができるので、ウシの育種価予測 にはこの方法を用いることが多い 量的形質は環境の影響を受ける 家畜の能力を調べる場合、以下の影響を受けてしまう ・飼育した場所等の飼養条件 ・飼育した季節や年次 ・飼育者 ・飼育された集団の遺伝的変化 したがって、正確に育種価を予測することは難しい
遺伝率
広義の遺伝率=遺伝分散÷表現分散
表現型値がどの程度その遺伝子型値によって決まるかを示す狭義の遺伝率=育種価分散÷表現分散
表現型値がどの程度育種価によって決まるのかを示す育種価=遺伝率×表現型値(集団平均からの偏差)
表現型に見られる変異のうち、どれだけが親から子に 遺伝する変異であるかを示す 親子回帰や分散分析(この授業では省略)で推測可能遺伝率の基本的な考え方
とある形質における、親の分布 この部分だけ選抜する この部分の平均値 その子供の分布 遺伝率ゼロの場合 値が高いものを選んでも 平均値は親と同じ =全く受け継がれない 遺伝率1の場合 値が高いものを選ぶと 親と同じ平均になる遺伝率の基本的な考え
表現型値にみられる変異のうち、どれだけが親から子に 遺伝する変異であるかを示すもの 体重がグループ平均よりも 30 kg 多い雌雄を交配させて子を作る Aグループ 体重の遺伝率 0.4 30 kg × 0.4 = 12 kg 子の体重は平均よりも 12 kg 多い 環境要因が無い場合の値であることに注意 Bグループ 体重の遺伝率 0.1 30 kg × 0.1 = 3 kg 子の体重は平均よりも 3 kg 多い遺伝率の推定値
家畜 形質 推定遺伝率 ウシ 脂肪交雑 0.40 ロース芯面積 0.70 皮下脂肪厚 0.40 乳脂率 0.40 泌乳量 0.35 ブタ 皮下脂肪厚 0.70 1日あたり増体量 0.40 ニワトリ 卵重 0.50 産卵率 0.10 遺伝率が小さいものほど環境の影響を受けやすい 遺伝率が高いものほど親に似る遺伝相関の推定値
家畜 形質 平均遺伝相関係数 乳牛 乳量と乳脂率 -0.43 乳量と脂肪生産量 0.81 肉牛 生時体重と離乳時体重 0.46 1日増体量と飼料要求率 -0.76 1日増体量と枝肉等級 0.25 1日増体量とロース芯面積 0.49 ブタ 1日増体量と飼料要求率 -0.76 1日増体量と背皮下脂肪厚 0.25 1日増体量とロース芯面積 -0.25 遺伝相関が高いと、片方の形質を変えるともう片方も 変わってしまう >0.7:高い 0.4~0.6:中程度 <0.3:低い強いヘテローシス 弱いヘテローシス なし 強健性 産子数 体長 子ブタの初期発育 肥育ブタの飼料効率 背脂肪の厚さ 子ブタの育成率 肥育ブタの後期発育 ロースの大きさ