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乳幼児の発達に関する縦断的研究(2)

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茨城大学教育学部教育研究所紀要14号特集(1981)239−246      239

乳幼児の発達に関する縦断的研究(2)

中原弘之・松田順子㌔川口隆司**

(1981年10月30日受理)

1 問題の所在

われわれは,0歳児の心身の発達障害を,早期に発見することをねらいとする,いわばスクリー ニングのための尺度開発を試みつつある。1)2)3)4)この作業と並行して,多くの心理テストに対する 批判5)を踏まえ,平均や偏差値との照合のみによって,発達の状態を即座に,かつ部分的に判定し ようとする従来の尺度が持つ構造上の問題点を改善することの必要性を確認した。しかし,このた めの作業には,少なくとも今後数年間の縦断的研究を計画しなければならない。0歳の時点で,心 身のある部分に遅滞を見出しても,それが数年後に全く問題にする必要がなくなるという多くの例 を記録しているからである。われわれは,前回の報告4)で,これらの一連の作業の出発点とも言う べき暫定尺度の原型を紹介した。この尺度には修正を加えねばならない幾多の箇所がある。そして,

今後数年間,発達を追跡記録することに同意してくれる研究協力者を確保し,発達の遅速が個人の 中でどのような様相を呈するものであるかを観察しなければならない。今回の報告の大半は,暫定 尺度の修正に注がれている。

2 研究目的

先行研究4)で紹介された暫定尺度を別の新たな0歳児に適用し,暫定尺度の修正を試みるかたわ ら,発達を中心とした育児上の指導,助言を行なうことを目的とする。

3 研究方法

3−1 調査内容

昨年までの研究に基づき,調査内容は,運動機能⑰,感覚・知覚(5),対人関係(7),習慣形成(1),

の4領域30項目の暫定尺度項目からなっている。これらの各項目に従って検査を実施する際,すべ ての検査者の等価な働きかけが可能であるように表現上の工夫を行ない,必要に応じて図解した。ま た,そのような働きかけに対して0歳児が示すであろう反応を具体的に記述し,どの反応に該当す るかが客観的に判断できるようにした。この反応項目にも必要に応じて図が添えられた。反応項目 数は,働きかけの30項目について必ずしも均一ではない。反応項目を1つしか持たない働きかけ項

目もあるし,5つの反応項目数を持つものもあり,全体で88反応項目数である。

*茨城大学教育専攻科   **水戸赤十字病院小児科

(2)

昭和55年9月〜同56年5月までの期間に生まれた乳児で,4カ月または9カ月に達したことに よって,水戸赤十字病院小児科の4カ月検診,9カ月検診に訪れた乳児を対象とした。4カ月の男 児9名,女児8名,9カ月の男児5名,女児2名である。このほか,昨年の研究段階から育児相談 が継続されている男児工名がいる。

3−3 調査手続と期日

水戸赤十字病院小児科の乳児検診で,発達検査を同時に実施した。昭和56年6月〜同年9月ま で,8月を除いて,ほぼ毎週実施した。さきの30項目の暫定尺度にそった検査が,受診児とその 母親を対象に実施された。今回は,働きかけ・反応項目用紙とは別に記録用紙を作成し,働きかけに 対する反応を,反応項目の番号で記入しうるようにした。いずれの反応項目にも該当しない場合は

○を記入した。

4 研究結果

       , S−1 暫定尺度の問題点

前述のような手順で実際に暫定尺度を適用してみると,働きかけ項目の内容の不備,反応項目内 容の不備,記録用紙の形式など,実用面でさまざまの不都合な点が見出された。そのため,昨年 までの暫定尺度に修正・改良を加えることが先決問題となつた。暫定尺度の項目の配置及び内容に 関する改良については次節で詳述するが,特に記録用紙についての問題点をここで指摘しておくこ とにする。

昨年までは,月齢発達に伴う各項目の通過率を図式化した大型の記録用紙を用いていたが,実用 面上の不便さから,今年度は図式を廃して反応項目番号を記入するだけの記録表に改めた。この改 良によって用紙そのものはコンパクトになったが,記載事項と受診児の発達段階を直観的に把握す ることが困難になってしまった。そのために再び図式記録用紙に改めることにしたので,使用上も 印刷上も適切な大きさに縮少する必要がある。このために,項目数にも制限が及び,内容に再検討 を試みることになった。また,出生時の状況についても記録を求めているが,新たに乳児の栄養に ついて記入する欄を設けることにした。

4−2 尺度の修正と構成

前回までの尺度化の過程で,かなりの取捨選択と精選がなされてはいるものの,まだ検査遂行上 支障を感じたり,中には重複を思わせるものもあったので,この点に修正が加えられた。この修正 においては,働きかけ項目よりも,反応項目の修正の方が多くなされている。

まず,働きかけ1の「『ばあ一』と言いながら,笑顔でのぞきこむ」では,条件が不統一になり がちなので,「母親がだっこしているとき」という場面条件を補う。それに対する反応項目のうち,

2「手足をばたばたさせて応える」,3「声を出す」,4「声をたてて笑う」は,これまでの実施 上の経験から重要性が低いので省略し,1の「笑顔になる」と,5の「じっと見つめて不安な表情

(泣きだす)」を残し,5は2として「不安がる,顔をそらす,泣きだす」のように表現を改めた。

これは表情を変えない子どもと区別するための修正である。2の働きかけ項目に対する反応項目1 の「誰かれの区別なくだっこされる」は,身をのり出してだっこに応じる子どもと,応じない子ど

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中原他:乳幼児の発達に関する縦断的研究(2)      241

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中原他:乳幼児の発達に関する縦断的研究(2)      243

もとを区別するために,「誰かれの区別なく,すすんでだっこ」というようにした。働きかけ項目 3「だっこされてきたら,母親に呼びかけてもらう」は,子どもの具体的状況がはっきりしていない ので,「検査者がだっこして母親に呼びかけてもらう」というように具体化した。働きかけ項目8 の「積木(3×3×3cm)をさし出す」を「積木(3×3×3cm)を手渡す」とし,その反応項目1 の「手渡されればやっと持てる」を除外して,2,3,4を順次1,2,3とし,すべて図解で積 木の持ち方を示した。働きかけ項目11に対する反応項目の5「捕えたペンダントを左ご右へ持ちか えることができる」は除外する。これは子どもがそこまで行動を発展するためには,かなりの時間 が必要であり,実際上,不可能であるためである。働きかけ項目19,19 ,19 は働きかけ項目19 に統合したが,反応項目は,そのままである。働きかけ項目21に対する反応項目1の2「正しく 答える」は除外した。現在対象としている乳幼児の通過率が,極めて低いことと,反応項目1「何

らかの音声言語を発する(哺語でも可)」があれば,これについての反応を把握できるため,必要 性がないと判断した。働きかけ項目23に対する反応項目の1「こちらを見て,中止する」は,「と ちらを見たり,中止したりする」というように改める。子どもの示す反応はいろいろであるから,

それに即応できるようにした。働きかけ項目25に対する反応項目の2「コップから飲むことができ る」を「コップから飲ませることもできる」に改める。子どもの発達段階から考えて,自分で飲む ことにはまだ無理があるからである。働きかけ項目27「(0歳児)→おむつが汚れたときの赤ちゃ んの様子はどうですか,(1歳以上)→おしっこは教えますか」,および反応項目1〜4すべてを除外し た。この項目に対する母親の答え方があいまいで,回答の方向を誘導するようになってしまうこと,

さらにこの項目の役割は,他の項目で十分補えると判断したためである。働きかけ項目30「何か物 を持ってくるなどの用事をしますか」,およびその反応項目を除外した。対象としている子どもの 通過率が著しく低い上に,この質問をすることにより,母親の育児に対する不安を高める危険性も 考えられるので除外した。以上が,今回の検診を通してなされた内容の修正点である。このように

して修正した尺度の男児用が4−3の尺度と事例のところで紹介されているが,女児用は巻末の資 料1,2を参照されたい。

4−3 尺度と事例

昨年度の乳児検診からひき続いて発達の経過を追い求めている事例がある。昭和56年1月20日 の時点で生後6ヵ月になった男児T.U.である。分娩は帝王切開であり,逆子であった。その他の 妊娠中,並びに出産当時の異常所見はないが,母乳から人工栄養に切り換えたときに強い拒否反応が あったこと,赤ちゃんらしい泣き方が全くなく,表情も固いこと,言語も他の赤ちゃんとくらべて 著しく遅れていること,などを母親が訴え,すでに専門のカウンセラーによる指導を必要とするほ どの育児ノイローゼ状態を呈していた。2回目の検診までの期間を1カ月置かれることにさえ不安 を示し,もっと頻繁に受診したい要求をなだめるのがやっとの思いであった。

このケースについての測定記録を,本年度においても継続し,昭和56年9月で6回目になるので 修正された暫定尺度上に記入してみた。図1,2がそれである。受診したときの週齢ごとに線を 引き,その上に通過していれば○,通過していなければ×を記入した。記入欄には,従来の資料に 基づく通過率(25%50%75%)が線で示されη・るので,このケースの○×が,どの程度の 遅速を意味するかがその都度判断されうる。3本線上で×が記録され続ける場合(例えば7「鬼の 面をさし出す」に対する反応2,3)には,その側面での発達の遅滞が示され,9「マーブルをさ

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その面での発達の早さが示される。このケースは母親の心配するような発達障害の認められるケー スではなく,毎回,記録を見せながら育児上のカウンセリングを実施し,最近はかなりの安定が認 められるようになった。

5 今後の課題

本研究では,先行研究で作成された暫定尺度を実際に乳児に適用し,その妥当性について修正で きる点は修正し,表現の客観性を高めた機能的な尺度を得ようとした訳である。今回修正した尺度 に,本年度検査した結果をあてはめて,各項目ごとの通過率を求めてみることにした。ただし,今 回の対象児の人数が,4ヵ月の男児9名,同女児8名,9カ月の男児5名,同女児2名,計24名な ので,勿論この尺度の信頼性・妥当性を検討するための対象数とはいえないが,この24名について 比較検討を加えてみると,全体としては,暫定尺度において50%の通過率を示す項目について,

24名の対象児のほぼ3分の2が通過している。さらに4カ月児についてみると,男・女ともにほ とんど遅れはみられず,心身ともに良好な発達を示しているといえる。ただし,未熟児で生まれた 女児1名については他の女児に比べて幾分の遅れが認められたが,追跡検査によって数カ月後に,

この遅れの解消が確認された。9ヵ月の男・女児についても,順調な発達が認あられているが,男 児の中に1名下肢の発達に幾分の遅れを示すケースが認あられた。このケースに対しては,今後,

継続的に検査を行なって,発達を観察する必要性を認め,保護者にこのことを助言した。

今後の作業としては,月齢の異なる多数の0歳児を対象として,この尺度を適用し,実用化をは かりたいと考えている。

1)中原弘之他(1979)「乳幼児の発育・発達に関する縦断的研究(1)−0歳児へのテンタティブ・アプロ 一チー一」『小児保健研究』35.5・P,254。

2)川口隆司他(1978)「乳幼児の発育・発達に関する縦断的研究(2)」『小児保健研究』36.5,p.323。

3)川口隆司他G979) 「乳幼児の発育・発達に関する縦断的研究(3)」『小児保健研究』37.5,p.315。

4)中原弘之他(1980) 「乳幼児の発達に関する縦断的研究(1)」r茨城大学教育学部教育研究所紀要』13 号,PP.131−140。

5)日本臨床心理学会改革委員会編『臨床心理学研究』(1972〜1973)の特集,並びに日本臨床心理学会編

『臨床心理学研究』(1974〜ユ976)の特集を資料に選んで検討を試みた。

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中原他:乳幼児の発達に関する縦断的研究(2)      245

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