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乳児期後半の意図理解の発達に関する縦断的研究

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Academic year: 2021

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†障害児教育専攻 障害児教育専修 指導教員:白石惠理子

原 著 論 文

乳児期後半の意図理解の発達に関する縦断的研究

The longitudinal study concerning development of

intention understanding in late infancy

Yohei NAKAMURA

キーワード:乳児,意図理解 問題と目的 乳児期後半 (6,7 か月〜12 か月) は,モノ やヒトとのやりとりの場面から自他の関係を捉 えていくことで,新しい人間関係を作り上げて いく時期である。この時期,どう自他の関係を 捉え,保護者との関係を契機として,他者とや りとりの関係を広げていくかは,重要な発達課 題になると考える。 そうした,乳児期後半のやりとりの発達にお けるひとつの重要な契機としては,いわゆる 「子ども−対象−他者」などで示される三項関 係 (triad relationship) の始まり (生後 9 か月 から 12 か月頃) があげられる1)。また,その 三項関係において対象を共有するための乳児の 能力としては,共同注意行動 (joint attention) の発達があげられるだろう。共同注意行動は, 9 か月頃から 14,5 か月頃まで発現時期は様々 だが,視線追従,指さし,協調行動,社会的参 照,模倣学習,物の提示,など,社会的な能力 と相互作用の中で捉えられている2),3) さて,これら三項関係に関する 9 か月頃のコ ミュニケーション行動の変化は,乳児が他者を 「意図的な行為者 (intentional agent)」として 理解しはじめる他者理解が背景にあると説明さ れる2),4),5)。9 か月以降の共同注意行動に伴 う他者とのコミュニケーション行動についての 先行研究は,この時期に他者理解や意図理解の 出現を想定しているものが多いが4),乳児は対 象やそれに向かう他者の視線・行為に注意を向 け,また対象を自ら操作する力を獲得していき ながら,次第にその対象に一緒に関わろうとす る他者の行為の存在や意図を感じていくように なると考えられる6),7)。なお,乳児のコミュ ニケーション行動を伴うやりとりは一方向的な ものではなく,いくらかでも双方向的なもので あることを踏まえると,意図というものは他者 とのやりとりの中で相互に調整されるもの5)

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捉える必要があるだろう。そうした,意図の調 整といわれるような姿は通常 1 歳半頃からみら れる5)とされるが,その兆しは乳児期後半で, やはり 9 か月頃の他者理解の変化が重要な意味 をもつと考える。 9 か月頃に他者の行為の存在や意図そのもの に気付き始め,その後,他者とのやりとりを通 して,乳児は次第にその意図の中身に気付いて いく。田中は,「生後第 2 の新しい発達の力」 の発生の時期にあたる 10 か月頃からの三項関 係でのやりとりの成立について以下のように述 べている8)。この時期,乳児はモノなど対象へ の操作性を高めていくが,その中で「『入れた こと』『なぐりがきした』という活動による行 為の事実を,子どもが第 2 者としての養育者 (相手) と共有して第 3 者となしえた」(以下, 行為の第三者化) と表現している。乳児の対象 への働きかけや行為が,周りの教育者からのこ とばかけや感情によって意味づけられることに よって,動作や行為などを含めた共有すべき対 象を獲得していくのだと思われる。ここでの第 3 者の共有は,操作を含めた行為に含まれる意 図の中身に注目しているといえ,「意図的な行 為者」としての他者理解の深まりを示している と推測される。 さて,そうした動作や行為の共有に含まれる 意図理解の姿については,乳児の側の主体的な 関与の視点を取り出しながら検討されている。 白石は,10 か月頃の「生後第 2 の新しい発達 の力」の発生をその兆しとする 11 か月頃の特 徴として,「相手と相手の持っているもの,相 手のしていることの関係をとらえた上で,そこ に自分をもうひとつの関係として関与させてい くことができるようになる」と説明している9) また,山本は,「(三項関係の成立と他者の能動 性の理解において) 相手と対象の関係を理解す るということ,相手の『意図』を理解するとい うこと,それに自分の行為を絡ませる」として いる (括弧書きは筆者追記)10)。これらの研究 は,子どもが他者の動作や行為を捉え,そこに どのように自己を関与させていくか,という視 点から意図理解の過程を捉えようとしており, 具体的なやりとりが中心となる乳児の,意図理 解の発達を検討する上で重要な指標が示されて いると考える。 以上,乳児が「意図的な行為者」としての他 者理解ないし,他者の動作や行為の意図理解を 深めていくことに関連した研究を取り上げてみ た。乳児期後半の三項関係においてコミュニ ケーション行動に質的な変化が起きる。特に共 同注意行動の発達や種々の社会的な能力の獲得 からも,この時期,乳児は次第に「意図的な行 為者」としての他者理解もしくは他者の行為の 意図理解を深めていくとされる。そして,その 深化の過程においては,乳児の側の主体的な関 与が重要な指標とされている。 しかし,意図理解という文脈で乳児期後半の コミュニケーション行動の発達的変化を捉えた とき,その変化の時期は先行研究の間で必ずし も一致していない。また,同様のコミュニケー ション行動に対しても,研究者によって,乳児 の意図理解のレベルの解釈は異なっていると言 える。このことはこの時期の乳児の心の理解を 研究として扱うことの難しさを示しており,本 研究においてもそれは同様である。ただ,先行 研究においてこの時期コミュニケーション行動 の変化が想定される中,改めてそれを実際の子 どもたちの姿の中で具体的に捉えなおしていく ことは必要ではないかと考える。実際の生活場 面での姿からみられる変化にしても,実験的な 観察場面での姿からみられる変化にしても,そ れぞれの持つ背景を踏まえながら,子どもたち の全体的な発達を臨床的に検討していくことは 重要であろう。さらに,乳児期後半は運動面の 発達等の影響も受けやすい時期であり,具体的 な事例を通して,個別性と普遍性の関係を視野 に入れた検討を行うことは,発達支援・育児支 援のあり方を考えていく上でも重要であろう。 そこで,本研究では,乳児期後半の,やりと り場面における乳児の意図理解について,その 発達的変化を臨床的に検討していくことを目的 とする。その際,特に乳児の側の主体的関与の 視点からも行動の変容を捉え,この時期の乳児 のコミュニケーション行動やそこでの意図理解 の過程について検討したい。なお,本研究では, 「可 逆 操 作 の 高 次 化 に お け る 階 層 ― 段 階 理 論」11)に依拠し,これまでも述べてきた,乳児 期後半,10ヵ月頃の「生後第 2 の新しい発達の

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力」の発生を前後とした発達段階を踏まえつつ, 検討をおこなうこととする。 具体的には実験的な観察の方法を中心として, そこにある文脈,乳児の視線や行動,表情など から分析を行うこととした。方法としては,発 達の質的変化を丁寧に捉えるため,やりとり場 面を設定し縦断的に検討を行う。 方 法 1.協力児・観察期間 協力児は,乳児 1 名 (以下,A 児とする)。 A 児の出生時の状況や家族構成,運動発達な どについては,表 1 に示す。運動発達等の様子 については,保護者からの聴き取りによるもの である。やりとり場面の観察については,各月 齢の中頃と終り頃の特徴を捉える事を意識し, 各協力児につき 2 週間に 1 回の割合で実施した。 結 果,観 察 月・日 齢 は,9: 01,9: 15,9: 26, 10:12,11:01,11:17,12:07 となった。なお, 協力児とのラポール形成のため,本格的な観察 の前,2,3 回程度出会い,関係づくりに努め た。さらに観察期間,やりとり場面の観察を行 ないながら,残りの時間では協力児と一緒に遊 んで時間を過ごすなどした。 2.手続き 協力児 (保護者) と実験者 (以下,Tr) は 机を挟んで向き合うかたちで遊びを実施した。 協力児の姿勢については,基本的には保護者で の支座位姿勢とした。 やりとり場面の項目については,乳児期後半 の発達9),11),12),13)や,意図理解の発達14) 関する先行研究を参考にし,以下のように設定 した【「名前呼び」,「机トントン」,「鐘 (音の 鳴るおもちゃ) を振る」,「チョウダイ (どう ぞ) への反応」,「イナイイナイバー」,「果物の おもちゃ (イチゴ,レモン,オレンジ)」,「お もちゃと器」,「ボール (網状のボール,ビニー ルボールの 2 種類)」,「小鈴とビン」,「フタ付 き鍋」,「ブラシ」,「バイバイへの反応」】。手続 きの設定としては,先行研究14)にならい,ほ とんどの項目について,まずは遊ぶ対象を提示 し協力児が対象にどのように関るか観察した。 そうして,乳児の側のモノへの操作性や意図性 に注目した上で,筆者は乳児の意図理解ややり とりの深まりを把握するため,それぞれの働き かけを試行することを心がけた。 3.記録・分析方法 記録は,ビデオカメラを設置し録画を行なっ た。録画した観察場面の様子・保護者からの聴 き取りを文字化し,分析の資料とした。 分析方法については,大きく 2 つの方法を用 いた。1.まず実施した各やりとり場面の様子 から,いくつかのやりとり場面の様子を評定項 目として取り出し,評価基準を設定した。各評 定項目の評価基準とコーディングを表 2 に示す。 2.その上で,さらに詳細に検討を行うため, 協力児が発達的特徴を示したやりとり場面につ いて取り挙げ分析をした。操作面の高まりや, やりとりの深まりなど,行動の変容を捉え,時 期区分を取り出して分析することで,意図理解 の発達の質的な変化を検討した。 結果と考察 1.やりとり場面の評定結果 やりとり場面の評定結果を表 3 に示した。各 項目別に評定結果とその特徴をみていく。 「打ち合わせ」については 9:15 で通過して いた。「定位活動」の 3 項目については,「おも ちゃ−器」では 9:01 で器のフチに合わせてく 寝返り 6ヶ月 お座り 7ヶ月 ハイハイ 7ヶ月 つかまり立ち 8ヵ月 伝い歩き (+) 指さし A 児 名前 表 1 協力児について 女児 性別 2008.11.5 生年月日 第 3 子 出生順位 父,母,5 歳と 3 歳の兄 家族 38 週 在胎週数 2506g 体重 2ヶ月 首のすわり 5ヶ月

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るような関連動作がみられ,9:15 でしっかり と器の中に入れる姿がみられるようになった。 「鈴−ビン」では,9:26 で通過し,それ以降ほ とんどの課題で通過をしている。「フタ−鍋」 では,9:01 から 2 つを関係させフタを鍋に打 ち合わせていくような関連動作がみられ,そこ からやや経過をおいて 10:12 でフタを鍋に重ね て手を離すようなはっきりとした動作がみられ るようになった。「チョウダイへの反応」につ いては,9:01 で手の上に合わせてくるような ボールのやりとり 自分からイナイイナ イバーの動作をして みせる+布を下ろす ときなどに動作を調 整する発声 自分からイナイイナ イバーの動作をして みせる 相手のイナイイナイ バーに対して布を触 るなど関与してくる 相手のイナイイナイ バーや布かけに笑顔 で反応する イナイイナイバー 記号 (+−):明確な+評定の行動とはいえないが,協力児の中で+の基準と同等の行動だと思われた場合に用いている (括弧):対象としたやりとり場面の項目の中ではみられなかったが自然観察や,その他の項目の場面で見られた評定を示している 項目 表 2 各評定項目と評価基準とコーディング 通常の向きに持って 重ね鍋にフタをしめ る動作 フタにおもちゃを当 てる,フタを向きに かまわず鍋に打ちつ けるなど,定位的調 整に関連した動作が みられる 1 つのモノで遊ぶな ど,関連する動作な し フタ―鍋 自分から相手にモノ を差し出す 差し出された手に対 してモノを渡しきる 差し出された手にモ ノを合わせにくる置 きにくる 相手の手などに注目 するが差し出された 手への関与はみられ ない チョウダイへの反応 (モノの受け渡し) 相手に手渡す行動を 含め,相手に離す・ 投げる・転がす・な どボールのやりとり がみられる 離そうとしたり・転 がそうとしたり・投 げようとするボール への動作によって, やりとりがみられる 離そうとしたり・転 がそうとしたり・投 げようとするボール に関連する動作みら れない 両手把握でモノ同士 を打ち合わせるよう な関連する動作みら れない 打ち合わせ 対象を完全に入れる 動作がみられる 器 の 上 に 持 っ て く る,中に手を入れる が離さないで出して くるなどの動作みら れる 関連する動作みられ ない おもちゃ―器 定位活動 鈴をビンに入れる 鈴を持った手をビン と合わせるような動 作がみられる 関連する動作みられ ない 鈴―ビン ++ + ÷ − 正中線上,両手把握 でモノ同士を打ち合 わせるような動作み られる 両手把握が不完全な ままモノ同士を打ち 合わせるような動作 など イナイイナイバー 9:01 9:15 9:26 10:12 11:01 11:17 12:07 表 3 A 児の各場面の評定結果 + + ÷ ÷ ÷ − ボール ++ ++ ++ +− +− ÷ ÷ + − ÷ ÷ − ÷ おもちゃ―器 鈴―ビン フタ―鍋 定位活動 (+)(++) +(++) + (+) ÷ − ÷ チョウダイへの反応 (モノの受け渡し) + + + + + + + + 打ち合わせ (果物おもちゃ) 項 目 + + + + + + + ÷ + + + + + + −

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関連動作がみられたが,9:15 ではそれが見ら れなくなった。そして,9:26 で再び関連動作 がみられた後,10:12 で相手に渡すような行動 がみられるようになった。「ボール」について は,9:15 でボールを離したり・転がしたり・ 投げるといった動作がみられるようになり,相 手に手渡すといった行動を含めたボールを返す やりとりがみられるようになったのは 11:01 と なった。「イナイイナイバー」については,9: 15 から相手の操作する布に関与する行動がみ られ,9:26 と 10:12 で布を自分から操作して イナイイナイバーの動作を相手に向けてするよ うな姿がみられるようになった。そして,11: 01 にはその布を下ろす動作に対して発声が伴 うようになった。 2.各やりとり場面別の発達的な変化の検討 やりとり場面についてはいくつか実施してい るが,今回は A 児の発達的な変化の特徴を捉 えるために重要であると判断した,「おもちゃ と 器」,「チ ョ ウ ダ イ (ど う ぞ) へ の 反 応」, 「ボール」,の 3 つの場面について取り上げる。 また,10 か月前後の発達的な変化を捉えてい くために,9:01〜11:17 までを中心に検討した。 ①「おもちゃと器」での発達的変化 「おもちゃと器」については,大きく 3 つの 時期に区分できた。以下,A 児の器に対する アプローチの様子や Tr の定位操作に対する受 け止め方を中心に述べていく。 1 つ目の時期は,器へおもちゃを入れる定位 操作を獲得し,器への関心や「おもちゃ−器」 の関係への探索が強まる中,相手の定位操作に よる器への変化に注目し,自分も器への操作へ 傾倒していく時期 (〜9:26) である。特に 9:26 では,器とおもちゃの間で視線を行き来させな がら,全体的に真剣な表情で器に関わり,自分 の定位操作に対して器の中を確認していくよう な姿もあった。そのような姿から相手に対する 視線はみられなかったが,相手の定位操作に対 しては自分の手の動きを止めてジッと器に注目 すると,そこから自分も器からおもちゃを出し たり,さらに中に入れていくなど,「おもちゃ −器」の関係理解への探索的な操作に集中して いった。相手の操作による器の変化を捉えて, 自分もその器の操作により傾倒していく様子で あったといえる。ここでは,A 児と相手との あいだで,器への定位操作を介した間接的なや りとりでの調整関係がみられ始めたと考えた。 2 つ目の時期は,器やおもちゃの操作への意 図性を高めつつ,相手の定位操作による器への 変化に注目し,自分も同じ定位操作で関わって くる時期 (10:12〜11:01) である。A 児は転 がしたり,机の下に落とすなど,自分なりの操 作でおもちゃや器に関わっていた。そして,そ の結果を探索するような姿をみせながら操作を 繰り返し,遊びを展開していた。そのため,Tr や母親 (以下,Mo) から,働きかけの間をつ くることが困難ではあった。しかし一方で,相 手の定位操作に対しては注目を向け,自分も同 じ定位操作で関わってくる姿があった。A 児 と相手とのあいだで,器への定位操作を介した 間接的なやりとりでの調整関係がしっかりと成 立していたと考えられる。また,11:01 では, より自分の操作へのこだわりを強めるとともに, A 児の中で心理的な葛藤があったかのような イライラの姿が確認された。 3 つ目の時期は,定位操作をする相手への注 目を強め,自分の定位操作も相手と積極的に共 有するようになる時期 (11:17〜) である。こ こでは,これまでほとんど器に対して向けられ ることの多かった A 児の注目の向け方に劇的 な変化がみられた。特に相手の定位操作に対し ては,操作の前にしっかりと相手の表情を確認 した上で器に注目し,定位操作を確認すると, そこから再び相手に注目していくような姿がみ られるようになった。また自分の定位操作の際 にも,相手の表情を確認しつつ器に関わり,定 位操作をすると,そこから笑顔で Tr や Mo に 視線を送るような姿がみられた。ここでは前回 までの器を介したやりとりでの調整関係ではな く,より直接的に相手の操作や相手そのものに 関わっていき,相手の働きかけを積極的に取り 入れながらやりとりの調整が行われていると考 える。また,そこから A 児にとっての定位操 作の意味そのものが質的に変化したのではない かという印象も受けた。Tr が「入った」と声 をかけると,A 児からも「ハッタ」と息が出 るような音マネの声を出しながら,Tr にチ

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ラッと視線を送るような姿も,相手と自分との 器への操作を対象化するような「行為の第三者 化」を伺わせた。 ②「チョウダイへの反応」での発達的変化 「チョウダイへの反応」については,大きく 4 つの時期に区分できた。以下,Tr の「チョ ウダイ」の働きかけに対する A 児の受け止め 方を中心に述べていく。 1 つめの時期は,相手の働きかけを感じ,A 児なりに応答してくる時期 (〜9:26) である。 9:01 では手に対して興味を持ち,ボールを合 わせてくるような姿だった。9:15 では働きか けた相手の手に反応して,動きを止めるなどし つつも,遊びを続けて微笑みかける姿であった。 そして 9:26 では,相手の手に対する定位的調 整の兆しといえるような,相手の手に反応しな がらそこに合わせるようにして鐘を置きに来る 姿がみられた。また,相手が触りに来たら手を 離すなどの姿からも,相手の働きかけに応じよ うとする姿勢が高まってきていることが伺えた。 2 つめの時期は,相手の働きかけに対して渡 すというかたちで応じるようになる時期 (10: 12) である。ただし,対象としたやりとり場面 の中では応じることはなく,「小鈴とビン」場 面の中で確認できた。そうした場面の違いに よって,A 児が相手の働きかけに応じるとき と応じないときがみられた。 3 つ目の時期は,働きかけに対して渡すとい うかたちで応じるとともに,やりとりを通して, その応答の姿に変化がみられた時期 (11:01) である。相手の働きに対する「ためらい」のよ うな姿を越えて相手に渡した中で,A 児が相 手への応答に嬉しそうな表情でポジティブな感 情をともなわせるような姿に変わっていたのは 印象的であった。また,相手に渡すことで,相 手との間で 1 つの鐘を交互に操作する役割交替 の雰囲気がみられ始めた。 4 つ目の時期は,働きかけに対して渡すとか たちで応じるとともに,自発的に手渡すように なる時期 (11:17〜) である。この時期は,先 の 3 つ目の時期のように表情こそ大きな変化は なかったが,ちょうだいのやりとりの理解も深 まり,手渡した後に相手の様子を確認するよう な姿もはっきりと確認できた。また,自由観察 場面ではあるが,相手に手渡す手段によって, 自発的に役割交替が作られるようになった。 ③「ボール」での発達的変化 場面の中での A 児の発達的変化については, 大きく分けて 3 つの時期に区分できた。以下, A 児のボール操作や Tr の働きかけに対する受 け止め方など,やりとりの変化を追って述べて いく。 1 つ目の時期は,A 児がボールを転がす操作 を探索しながら,やりとりが成立していく時期 (〜9:26) である。9:15 でボールを転がす方法 を見つけ手応えを感じているような姿をみせ, 9:26 では,ボールにグッと注目し,ボールを 転がそうと操作に意図を持って集中していくよ うな姿がみられた。それによって,かえって上 手く操作が出来ないような葛藤の姿がみられた。 また,そうして転がす操作を獲得し探索してい く中で,相手とのやりとりもかたちとして成立 しはじめた。 2 つ目の時期は,A 児がボールの操作を高次 化させ,相手に向けての意識や相手の誘いかけ の理解,相手の操作をみながら自分もボールへ の操作を調整してくるなど,やりとりの中での 相手への注目や構えが明確になっていった時期 (10:12〜11:01) である。離す操作などをつか んでいくことで,上手くいかない葛藤も落ち着 き,A 児もより自分の意図性を持って転がす ことが出来るようになった。そのおかげもあっ てか,相手に対するやりとりの意識も少しずつ 変わっていった。相手がボールを投げる前の視 線での確認や,ボールを受取った相手の反応や 表情を確認するような姿がみられ,誘いかけに 対しても相手を意識しながらボールを投げるよ うな場面がみられるようになった。また,11: 01 では手渡すという行動で応じる場面もみら れた。さらに,ボールを受取った後,やりとり を見通すように相手の手に注目を向けたり,相 手にボールが渡ると次にボールが転がってくる のを要求するような姿と同時に,待ち構えるよ うな姿がみられるようにもなった。ここまでく ると,ボールを交互に受け渡しするようなやり とりの意識もはっきりしたものになったことが 伺えた。一方で「おもちゃと器」の場面同様, A 児がイライラを募らせる雰囲気をみせた。

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ボール遊びを続けることへの拒否感があった可 能性も伺えた。ただし,その中でも相手の誘い かけをきっかけにして,A 児が相手の操作に 注目を向け,それを受け止めるかのように自分 もボールへの操作を調整してくるような姿もみ られた。 3 つ目の時期は,相手の誘いかけに対する落 ち着いた対応でやりとりがなされた時期 (11: 17) である。落ち着いた対応と表現したが,相 手の誘いかけに対して,差し出された手を見な がらしばらく動きを止め,そこからボールを持 つ手を動かして転がすような姿であった。こう して相手の働きかけを理解するような間を持っ てやりとりが成立していたのが特徴的であった。 ボールが相手に渡ると次のボールが転がるのを 要求するような姿もみられ,ボールを受取ると すぐに Tr に向かってボールを転がし,やりと りを続けた。転がす操作を獲得するかたちでや りとりが成立しはじめたが,そこから次第に構 えとしてもはっきりとしたものになっていくこ とが伺える。 3.A 児の発達的な特徴についての考察 ここまで,A 児について評定項目の結果と 特徴的であったやりとり場面の発達的変化につ いて検討してきた。そこから A 児の発達的な 特徴について,いくつか考察をしておきたい。 ① A 児の発達的変化について まず,評定項目と,これまで取り上げてきた やりとり場面での発達的変化から,A 児の全 体的な発達の変化について外観しておく。これ までにあげた各やりとり場面の時期区分ごとの 特徴と,評定項目としてとりあげた「イナイイ ナイバー」での特徴などを表 4 に示した。 ○やりとりを通して,応 答の姿に変化がみられる ☆チョウダイの普遍化 ☆ポジティブな感情を込 める ☆役割交替の雰囲気 ☆イライラの姿☆行動の 前後の相手を伺うような 視線 ☆操作に初語的音声 11:01 ○相手の誘いかけに対し て落ち着いた対応でやり とり ○相手に手渡すようにな る ☆自発的な役割交替の展 開 ○定位操作をする相手へ の注目の増加 ○定位操作を相手と積極 的に共有する中での調整 関係 (行為の共有) ☆定位操作の意味の変化 11:17 おもちゃ−器 チョウダイへの反応 ボール イナイイナイバー他 ・実線で分けてあるものは,各やりとり場面での時期区分を示す ・点線で分けてあるものは,各やりとり場面での時期区分としては同様の特徴を示したが,特にその観察日にみられた 特徴を 示す ・太い線は,各やりとり場面での時期区分を踏まえた上での,全体的な発達的変化の時期区分を示す ・○は各時期区分で示した特徴,☆はそのときに示された印象的な姿や変化を示す 表 4 A 児のやりとり場面別の発達的変化 9:15 ○動作によるイナイイナ イバーの共有 ☆向き合う関係を外れた 自 発 的 な 探 索 (別 の 場 面) ○器への関心の高まり ○「おもちゃ−器」の関 係への探索 ○器への定位操作を介し た間接的なやりとりでの 調整関係のはじまり 9:26 ○ボールの操作の高次化 ○相手に向けての意識や 相手の誘いかけの理解 ○相手への注目や構えの 明確化 ○相手の働きかけに対し て渡すというかたちで応 じるようになる ☆場面による応答の違い ○器やおもちゃの操作へ の意図性の高まり ○器への定位操作を介し た間接的なやりとりでの 調整関係 ☆動作でアピール ☆相手の注意を誘う 10:12 ○「ダァ」という発声に よるイナイイナイバーの 共 有 (「ダ ァ」に よ る 普 遍化) ☆フタでも「ダァ」 ○相手の操作をみながら 自分もボールへの操作を 調整☆イライラの姿 ・布への関与 ○ボールを転がす操作を 探索しながら,やりとり が成立していく ○ 相 手 の 働 き か け を 感 じ,M 児なりに応じてく る ○器への定位操作の獲得 ○相手の定位操作への注目 9:01

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A 児は,9:26 までに「打ち合わせ」,「定位 活動」の 2 項目を通過し,「ボール」において も葛藤がありながら転がす操作を獲得していた。 操作面の発達は比較的早い時期から見られてい たといえ,特に 9:26 にはモノに対する操作へ の関心を非常に高めている姿が印象的であった。 なお,この 9:26 では,「フタと鍋」の最中に, 別のおもちゃに注目を向けると,自分から伝い 歩きで移動していくような姿もみられた。そし て,その前に手応えを感じていたと思われるビ ンを自分でつかみ,机の上に持って遊び始めた。 このような,向かい合う関係とは違うところに 自分の目標を向けていく探索的な行動がこの時 期に確認された。この時期の A 児は,イナイ イナイバーでの動作の共有など,相手との関係 を作れるようになってきた一方で,操作面の発 達を比較的早くから獲得しモノへの関心を強め てきていた。そのうえで,目の前のモノや相手 との関係とは違うところに自分の目標を見出す ような選択性を持ち始めたと推察される。した がって,9:26 までの時期の A 児の姿は,【モ ノに対する操作面や器などのモノの性質を理解 しながら,自分の意図性を発達させつつ,相手 とのモノを介したやりとりの兆しが見られはじ めた時期】であったと考える。 そこから,10:12 には「定位活動」の「フタ と鍋」においても両者を関係付けるような動作 が見られ始め,「ボール」では,自発的に離す ことが出来るようになっていた。そしてそのよ うな操作の高次化とあわせて,A 児は自分な りの意図性を高めるようにしてモノへの操作を 展開していくような姿をみせた。そうして,働 きかけの間を作るのが困難ではあったが,同じ 器に関りながら,器への定位操作を介した間接 的なやりとりの中で関係が調整されていく姿が 確認できた。また,相手にアピールをする姿, 相手の注意をこちらに引きこもうとする姿など, 相手を意識した関係づくりも深めている様子で あった。10:12 には「チョウダイへの反応」で 相手へ渡すようなやりとりが成立し始めた。 11:01 には「ボール」で相手に渡すことも含め たボールの返しがみられるようになり,相手に 向けての意識や相手の誘いかけの理解など,や りとりでの相手への注目や構えも明確なものに なっていた。「イナイイナイバー」でも自分か ら布を動かしながら「ダッ」と発声が伴うよう になることで動作を対象化しはじめると同時に, 相手とも動作を共有するようになる姿がみられ, 相手とのモノを介したやりとりはより深まって きていた。このようなことから,10:12〜11:01 の A 児の姿は,【操作の高次化とともに自分の 意図性を高めていく一方で,遊びや相手の意図 を理解しながらやりとりを深めていくような, 2 つの発達の側面が特徴的な時期】であったと 考える。 11:17 になるとは,A 児の中で相手との関係 の作り方を大きく変化させた姿をみせた。「お もちゃと器」では,A 児が自身の定位操作を 相手との関係の中で改めて自覚しはじめたかの ような姿をみせ,これまでの器への定位操作を 介した間接的なやりとりの調整から,「入れる」 という行為としてのやりとりの調整への変化が みられたことが伺えた。また相手にモノを渡す ことによって,より自発的に相手との関係を広 げていくことも出来るようになった。さらにこ の 11:17 では,例えば,それまでに大きな反応 はそれほどみられなくなっていた机をトントン と叩く遊びにも,強く気持ちを向けてきてくれ, 最後には,嬉しそうな表情や声を出して Tr の 手をつかんで動かし,「もっとしてよ」と要求 するような姿をみせ,Mo の方を振り向いて抱 きついていった。このように,11:17 の A 児 は,相手とのやりとりへの喜びを強く感じてい るかのような姿を時おり見せ,これまでの Tr の働きかけの中にまた違う意味や意図を自分か ら見出しているようであった。このように 11: 17 の A 児の姿は,【他者理解 (意図的な行為 者としての他者の存在の理解,他者の働きかけ の理解) が大きく変化する姿がみられた時期】 であったと考える。 以上,大きく 3 つの時期を,A 児の意図理 解の発達の変化の特徴としてあげることが出来 ると考えた。これについては,田中 (1987) を はじめ,これまでの発達段階での説明とも概ね 一致する姿であったと思われる。このような M 児の発達的変化の特徴を踏まえながら,い くつかの点について考察し言及したい。

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②操作・やりとりの意味が相手との関係の中 で質的に変化していった可能性について ひとつは,A 児の操作・やりとりに対する 意味が,この時期に相手との関係によって質的 に変化していった可能性についてである。これ については,A 児の定位操作やチョウダイの やりとりの姿の変化にそのことが伺えた。 ⅰ) 定位操作の意味の質的な変化について A 児は定位操作を獲得した後についても, 器を介したやりとりの文脈の中でみていくと, 定位的調整の中身や A 児にとっての定位操作 の質の変化が 2 つのプロセスを踏んでなされて いった可能性が推察された。1 つは,「器への 定位操作を介した間接的なやりとりでの調整関 係」としたような事実であり,2 つは,これま で「行為の第三者化」といわれてきたような姿 に近いかたちでのやりとりの調整関係の事実で あった。 「意図的な行為者としての理解」を具体的な 姿としてどう位置づけるかの問題はあるが,恐 らくどちらのプロセスにも,乳児の側に働きか けられる相手としての他者理解は存在している と推測される。その上で,少なくとも両者の間 には質的な違いがあったと思われた。そして, この調整関係の変化にともなって,A 児の定 位操作も,自己の意図的な操作として完結する のではなく,相手との関係の中で改めて自分の 操作が自覚されるようになったのではないかと 思われる。その中身も,操作から相手との「入 れる」という行為としての意味合いを持ち始め たのではないかと考えた。これはより相手の 「入れる」という意図に迫るような姿であると いえる。ここでの姿から,相手の意図への理解 (意図的な行為者としての理解) の深まりとと もに,自分の意図への理解 (意図的な行為者と しての自覚) も深まったような,相補的な関係 が伺えた。「行為の第三者化」は,第三者をお 互いが対象化するような姿が捉えられていると いえるが,本研究の結果から,それは言葉かけ や感情での意味付けによる理解などとともに, 意図理解の相補的な関係での深まりの姿も意味 していることが改めて推察される。 変化の要因について詳しく検討することは難 しいが,11:17 での姿から,先にあげたような 他者理解の大きな変化や,言葉の理解の発達 (声掛けへの志向や意味づけの変化) が考えら れる。また A 児に特徴的であった相手への注 目の仕方でいえば,それまでの相手を伺いつつ 操作をしていくような視線や,ボールやチョウ ダイなどのやりとりの中で相手の存在を確認し ていくような探索的な視線の中に,その発達的 な意味があったと考えられる。さらに,他者理 解という意味では,11:01 の自由観察場面で Tr に対して恥ずかしそうにして,Mo の方に しがみつくような姿がはっきりと確認できた。 このような姿にも発達的な変化の兆しがあった と言えるかもしれない。 ⅱ) チョウダイのやりとりの意味の質的な変化につ いて チョウダイのやりとりについては,10:12 に 相手に渡すかたちで応じるような姿がみられる ようになった。そして,11:01 では,よりチョ ウダイのやりとりが普遍性を増しているかのよ うな姿をみせた。同時に,相手の働きかけに対 して,A 児に迷いのような間と,その後の渡 すやりとりの中でのポジティブな感情への変化 がみられたのも印象的であった。ここには,単 に相手に渡すという意図の理解ではなく,ある 時期から A 児が選択の意思をもち始めたがゆ えの心の揺らぎがあったとも推察できた。ただ 少なくとも,A 児が Tr とのチョウダイのやり とりに気持ちを込めて応じるようになったのは 大きな変化であり,A 児のチョウダイに対す る意味も質的に変化していたことが考えられた。 対象である鐘に対しての興味でいえば,A 児は特にこの時期に操作に対する手応えを強く 感じて,それをこちらに強くアピールするよう な姿であった。そして,その手応えを持って, 相手の働きかけに対して鐘を渡すことに対して ポジティブな感情を表現してきてくれた。この ことは,単に相手の働きかけに繰り返し手渡し で応じるのみの姿 (10:20) とは違い,相手に 渡すことに対して A 児がそこに自分の気持ち や意味を込めていくという意味で大変重要な姿 であると考える。ここから,この時期の他者に 応じる姿としては,相手の意図に応じる力のみ ならず,拒否のような姿も含め,そこに自分な りの気持ちや意思を持って意味をもたせること

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が出来始めているかどうかも重要であると思わ れた。 さらに,やりとり場面の中でいえば,「繰り 返し」の意味も大きいと考えられる。一度相手 に渡った後,また戻ってきて自分が遊ぶ。そし て相手に誘いかけられて…といったような繰り 返しの中で,相手の次の行動に対する期待や予 期のようなものも生まれてくるのだと思われる。 特に相手の意図を理解しようとし始めているこ の時期の乳児にとって,そうした「繰り返し」 やりとりすることの意味は大きいと考えられた。 ③ 10:12〜11:01 でのイライラの姿について もうひとつは,A 児のイライラの姿につい てである。Mo の話からイライラの姿は家庭で も 10:12 に見られ始め,観察場面では 11:01 に その様子がはっきりと伺えた。 心理的な葛藤については,体調の問題なども 含めて様々な要因が関係しているであろう。た だ,この時期,A 児が自身の意図性を強めて いくと同時に,相手の意図を理解してやりとり を深めていくような 2 つの発達的側面があった ことを踏まえると,発達的に意味のある葛藤の 姿だったといえる。Mo の「思ったようにいか へんしなぁ」「つもりと違うことが多いねん なぁ」という言葉を借りるならば,A 児が発 達していく上で,本人の意図と周囲の状況との ズレ,もしくは周りの他者の意図と A 児の意 図のズレがあった可能性が考えられる。例えば, 10:12 の「小鈴とビン」の場面で,A 児が Tr に対してやらされることに対する拒否の反応を 示した場面があった。本人の意図性が高まって きている中で,相手の働きかけに応じるだけの 存在ではなくなっていることは事実であると思 われる。 11:01 のやりとりの場面の姿でいえば,「お も ち ゃ と 器」と「ボ ー ル」(ま た「フ タ 付 き 鍋」) で A 児がイライラするような姿がみられ た。一方,「チョウダイへの反応」(鐘) や「イ ナイイナイバー」の場面ではイライラした姿は 少なく,特に「チョウダイへの反応」の場面で は Tr に対してポジティブな感情が返ってきた ことはこれまで述べてきた。こうした課題によ る違いがみられたのも,この時期の乳児の周囲 の意図と自分の意図の関係を捉える上で重要な 点であると考える。 イライラした姿が見られなかった「チョウダ イへの反応」の場面では,鐘が対象となってい た。A 児は鐘を振りながらこちらに笑顔でア ピールしてくるなど,鐘の操作に非常に手応え や喜びなどを感じていたと考えられる。また渡 すというやりとりに応じることについてもポジ ティブな感情が返って来るなど,こちらの誘い かけによって鐘での遊びを続けることに対する 拒否感もこのような状況ではみられなかった。 さらに「イナイイナイバー」の場面では,動作 に対して「ダッ」という発声を伴わせるととも に,相手のイナイイナイバーに対しても同じよ うに発声をつけていくなどの姿がみられた。イ ナイイナイバーを他者とより普遍的なものとし て共有していく時期であったといえる。このよ うな場面での様子を踏まえると,イライラが見 られなかった場面では,遊びの仕組みや相手の 意図を理解でき,それと同時に自分の意図を遊 びの中で展開しながら本人も手応えを得られて いたと推察される。「フタ付き鍋」の場面にお いて,Tr がフタを使って「バッ」と声をかけ ながらフタをあげる動作を提示すると,イライ ラしていた様子の A 児もそれを見て,こちら に注目しつつ,フタを「ダッ」と持ち上げ開け 閉めして遊びを繰り返すような姿がみられた。 この事実も,A 児が,相手の意図を理解なが ら,自分の意図を持って遊びに手応えを感じて いこうとする気持ちの現われだと考えられる。 一方で,イライラした姿のみられた「おも ちゃと器」の場面では,器に対する定位操作を 獲得して,自分なりの意図性を持って器やおも ちゃに関わり遊びを充分に展開してきたといえ る。よって 1 つには,この時期の A 児にとっ てこの場面は,遊びに充分な手応えを感じるこ とが出来なくなってきていた可能性が考えられ る。また,それと関連して,次の 11:17 では相 手の操作への注目の変化やそこでのおもちゃに 対する新たな遊び方の積極的な取り入れの姿が みられた。また相手にモノを手渡したり,相手 の頭にもブラシをあててみるなど,役割交替に よる遊びの広がりもみられた。それを考えると, その前の段階にあった 10:12〜11:01 の A 児に とって,相手との関係の中で自分から新しい意

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図を持って遊びを展開していくまでには至って いなかったと考えられる。また,同様にイライ ラや拒否のような姿がみられた,「ボール」の 場面について,12:07 の姿では,自分から机の 下で転がしてみるなど,新たな遊び方を自分で 発見していくような様子が確認できた。ここか ら「ボール」の場面においても,こちらの働き かけが本人の意図性や手応えに十分に応えるこ とが出来ているかという問題と同時に,A 児 が自分から新しい意図を持って遊びを展開する までには至っていなかった可能性も考えられた。 ここまで課題による A 児の姿の違いを考え てきた。自分なりの意図を持ち始める時期だか ら こ そ,A 児 は,や り と り の 場 面 の 違 い に よってその中身の理解や遊びの姿に差がみられ たのではないか。そして,相手の働きかけや遊 びが理解されてくると,場面によって本人の意 図とのズレが生じ拒否の反応も生まれてくるの だといえる。ただし,次の 11:17 の姿と比較す るならば,その自分なりの意図が,場面や相手 との関係の中で少なからず限定されてくるのも この時期の A 児の姿からみられる特徴であっ たと思われる。なお,11:17 の時期に,他者の 意図への理解とともに自分の意図への理解が深 まったかのような姿がみられた。そのことを踏 まえると,それ以前の A 児は,自分の中での 意図性は高まっていながら,他者の意図理解と ともに本人の意図性も自分の中で上手く対象化 できていなかった可能性も推察される。イライ ラした姿には,拒否の感情など自分の思いは高 まっていながら,それを上手くつかみきれない ような自己への葛藤があったとするのは考えす ぎであろうか。 他方,これまであげてきたいくつかの可能性 は,裏を返せば,この時期の子どもたちに対す る働きかけや誘いかけの大切さを示していると いえる。自分なりの意図を持ちはじめた A 児 に対しては,本人が手応えを持って新しい遊び を意図して展開していけるための支えが必要で あったと思われる。 ま と め 本研究では,乳児期後半の,やりとり場面に おける乳児の意図理解について,その発達的変 化を臨床的に検討していくことを目的とした。 縦断的にやりとり場面を分析し,発達的変化を みていくことで,大きく 3 つのことが示唆され た。繰り返しになるが,まとめとして以下順に 述べていく。 1.相手の意図を理解していくこと・自己の意 図を高めていくことの 2 つの発達的側面 1 つには,10 か月頃,「生後第 2 の新しい発 達の力」を獲得していく時期に,乳児は相手の 意図を理解していく (行為者としての他者理解 を深めていく) 過程にある中で,自己の意図性 も高めていくような,対立的ともいえる 2 つの 発達的側面があることが示唆された。川田は役 割交替の構造における三項関係の本質として, 他者と対象を共有する「共有化機能」と“自己 主張”の出現などによる他者との「差別化機 能」の側面の両機能の複合体として捉えようと している15)。本研究の子どもたちから得られ た事実もそれらの枠組みと共通する部分をいく らかもっていると思われる。川田では役割交替 の構造への視点から食事場面を対象としていた。 本研究は,他者との交換性を高めていくやりと り場面において,縦断的に変化を追っていく中 で,操作面などの発達特徴を一定踏まえつつ, 一方でこうした子どもたちの意図理解を介した 関係性の発達の姿についても,いくらか確認す ることができたのではないかと思われる。 2.他者との三項関係におけるやりとりの調整 関係の発達 (2 つの質的な変化のプロセス) 2 つには,乳児期後半,他者との三項関係に おけるモノを介したやりとりの調整関係の発達 において,他者との意図理解,やりとりの文脈 から,2 つの質的な変化のプロセスが存在する 可能性が示唆された。他者とのやりとりを経る 中で,他者の意図理解 (他者理解) とともに, 乳児の中での操作の意味 (自己の意図への自 覚) も大きく変化していくのだと考えられる。 特に今回の事例では,やりとりの文脈における 相手への注目や表情の変化を丁寧に分析するこ とで,それら操作面と意図理解の質的変化の関

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連についていくらか示すことができたのではな いかと考える。また,この 2 プロセスの間にあ たる時期 (10:12〜11:01) に相手とのやりとり の中で,乳児が相対的に自分の目的意識や意図 性を高め,器への遊びを展開していくような姿 や,次に述べる心理的葛藤の姿がみられた。本 研究の結果から,意図理解の発達は,他者の意 図理解と同時に自己の意図を自覚していく特徴 があるとするならば,そうした事実も発達的特 徴として注目すべきであると考える。それは, この時期の一般的な発達診断の指標としても重 要な検討点ではないだろうか。 3.「生後第 2 の新しい発達の力」を獲得して いく時期の乳児への支援 縦断的な事例検討から「生後第 2 の新しい発 達の力」を獲得していく時期の乳児に注目して いくことで,この時期の乳児に対する支援に対 していくらかの示唆がえられた。これについて は,この時期の乳児は,他者の意図を理解して いく中,自分の意図の高まりとの間で心理的な 葛藤のような姿をみせる可能性が示唆された。 今回の事例において,それは,やりとりを拒否 するような行動やイライラの感情などで現れる 場合が考えられた。 A 児の姿から,乳児期後半,他者との三項 関係でのやりとりが築かれ始める一方で,次第 に外界のモノへの探索心から,他者とのやりと り場面においても,目の前の関係から外れるな ど,乳児の中で選択性をおびていくような姿が みられるようになることが考えられた。そして, 「生後第 2 の新しい発達の力」が発生する前後, 相手の意図を理解していき,自己の意図性も高 めながら,やりとりを成立させていく過程がみ られた。その中で,次第に主客の固定的な関係 を変えていくような主体的な姿がみられてくる ことが,重要な発達的な変化だと考える。今回 の,やりとりを拒否するような姿やイライラの 感情も,「生後第 2 の新しい発達の力」の発生 の中で自他の関係を変えていこうとする発達の 過渡期にある乳児にとっての発達的な姿とも考 えられる。 そうした過渡期にある乳児に対して,その意 図を尊重するようなこちらの支援のあり方を考 える必要がある。例えば,A 児は操作面の発 達は比較的早くみられたが,発達的にみて操作 面にややマイペースさがみられるような乳児に 対してはより必要になってくることである。具 体的には,一人ひとり選択性を持った乳児に対 しては多様なやりとりの場面を設ける必要があ ることが考えられた。ここには,操作を深めな がらしっかりと遊びきることや,やりとりの中 でそれぞれの子どもたちにとって魅力的な世界 が目の前に存在しているかといった問題がある。 また,誘いかけに応じるような形のやりとりの みならず,相手とモノの関係を捉えながら,主 体的にやりとりの調整がなされていくような働 きかけを工夫することが考えられた。最後にな るが,Mo の子どもの姿への気づきという点で, 10 か月健診などの機会があることの重要性も 伺うことができた。 引用文献 1 ) 浜田寿美男 (1995) 三項関係.『発達心理学辞 典』ミネルヴァ書房. 2 ) Tomasello (1999) 大堀壽夫・中澤恒子・西村 義樹・本多啓訳 (2006)『心とことばの起源を さぐる』勁草書房. 3 ) 子安増生 (2000)『心の理論 心を読む心の科 学』岩波書店. 4 ) 木下孝司 (2002) 乳児期から幼児期における 「心の理解」に関する研究展望.児童発達研究. 5.27-43. 5 ) 赤木和重 (2008) 乳児の意図理解の発達.加藤 義信編『資料でわかる 認知発達心理学入門』 ひとなる書房. 6 ) 大藪泰 (2004)『共同注意 新生児から 2 歳 6 カ月までの発達過程』川島書店. 7 ) 麻生武 (1997) 乳幼児期の“ふり”の発達と心 の理解.心理学評論.40 (1).41-56. 8 ) 田中杉恵 (1978) 発達における階層間の移行の 診断についての覚えがき―連結可逆操作獲得 の階層から次元可逆操作獲得の階層への発達 について―.障害者問題研究.14.3-12. 9 ) 白石正久 (1989) 乳児期後半.荒木穂積・白石 正久編『発達診断と障害児教育』青木書店. 10) 山本登志哉 (1990) 幼児のやりとりの変化をど う読むか―〈意図〉を鍵として―.『発達 43』 ミネヴァ書房. 11) 田中昌人 (1987)『人間発達の理論』青木書店. 12) 田中昌人・田中杉恵 (1982)『子どもの発達と 診断 2 乳児期後半』大月書店.

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13) 松田千都 (2008) いないいないばぁ遊び―対面 的なやりとりによる世界のひろがり―.都筑 学編『やさしい発達心理学 乳児から青年ま での発達プロセス』ナカニシヤ出版. 14) 岸本英嗣 (2005) 生後 8 カ月〜12ヵ月における 二者間交流での意図理解と主体的関与に関す る研究.滋賀大学大学院教育学研究科論文集. 8.133-145. 15) 川田学・塚田みちる・八木下暁子 (2002) 三項 関係とは何を準備する構造なのか? (1) ― “自己主張”の発生メカニズムをめぐって―. 日本発達心理学会第 13 回大会発表論文集.

参照

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