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睡眠と完全主義傾向との関連に関する検討

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Academic year: 2021

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睡眠と完全主義傾向との関連に関する検討

―自己記入式質問紙調査および生理学的睡眠把握を用いて―

16003PCM 浦邉 綾子

I. 問題と目的

睡眠の不調を抱える人は5人に1人と言われ,

睡眠が阻害されると脳機能や免疫機能に悪影響 が及ぼされること,長期的な不眠がうつ病や生 活習慣病の発症に繋がることなど,睡眠障害と 心身の健康問題との関係が報告されている(兼 坂・大井田,2010)。しかし,自らの睡眠の質 を評価する方法や,良質な睡眠の保持増進のた めの具体的対応策は示されていない。

簡便に睡眠の質を測定する方法としては,近 年,精神性発汗から睡眠の質を調べる方法が提 案されている。その代表的なものに安眠チェッ カー(ライフケア技研株式会社)が挙げられ,

睡眠中の手掌発汗量から日常的な睡眠の質を簡 便に測定できるとされている(堀他,2015)。

また,本人の主観的な睡眠時間と睡眠ポリグラ フィ検査によって得られる生理指標は必ずしも 一致しないことが示されている(遠藤,1962)。

睡眠と完全主義傾向との関連では,自己志向 的完全主義のうち「失敗を過度に気にする傾向」

と「自分の行動に漠然とした疑いをもつ傾向」

が強いと自覚的な入眠困難の程度が強いことが 示されている(山田・安保・宮崎・根津,2012)。

そこで,本研究では,睡眠の質を簡便に測定 し,客観的な睡眠状態の把握及び自己記入式質 問紙調査による主観的な睡眠評価との差異の検 討を行う。また,完全主義傾向が主観的睡眠評 価および生理的睡眠状態に与える影響について 検討することで,睡眠の不調の早期発見・早期 対応の一助となる具体的対応策に繋げることを 目的とする。

II. 方法 1. 調査対象者

製造販売事業に従事する男女職員372名に対 して質問紙および安眠チェッカーを配布した。

回答は 371 名から得られ,欠損値のあった者,

服薬・アルコール・出張等による影響が考えら れる者,対象者の少なかった 19 歳以下および 60歳以上を除く男性 159名(平均45.01 歳,

SD9.49)を調査対象とした。

2. 調査方法

人事部保健担当者と連携の上,質問紙および 安眠チェッカー(7日分+予備)を配布し,匿名 性を保持するために質問紙および安眠チェッカ ー記録用紙は封筒に入れ密封した形で回収した。

3. 質問紙の構成

フェイスシート,新完全主義尺度(桜井・大 谷,1997),アテネ不眠尺度(SoldatosDikeos

Paparrigopoulos2000)から構成された。

III.結果

安眠チェッカーの値とアテネ不眠尺度得点と の間で,有意な相関は見られず(r = .096,n.s.),

両者の結果が必ずしも一致するものではないこ とが示された。また,睡眠に対する主観的評価 が悪い群ではそうでない群と比較して「完全で ありたいという欲求」と「失敗を過度に気にす る傾向」と「自分の行動に漠然とした疑いを持 つ傾向」が有意に高いことが示された。

重回帰分析の結果を念頭に置いて共分散構造 分析を行った結果,睡眠状態の主観的評価及び 客観的生理指標の背景にある完全主義傾向を説 明する一つのモデルが提示された(図 1)。「完 全でありたいという欲求」が「失敗を過度に気 にする傾向」を介在して「自分の行動に漠然と した疑いを持つ傾向」を強めた結果,主観的睡 眠評価および生理的な睡眠構造に悪影響を与え るという経路と,「完全でありたい欲求」が「自 分の行動に漠然とした疑いを持つ傾向」を強め た結果,主観的睡眠評価及び生理的な睡眠構造 に悪影響を与えるという経路の 2 つであった。

また「完全でありたいという欲求」は「自分に 高い目標を課する傾向」をも強めるが,「自分に

(2)

高い目標を課する傾向」自体は主観的な睡眠評 価及び生理的な睡眠構造に影響は認められない ことが示された。

IV. 考察

従来の知見と同様に,安眠チェッカーの値と アテネ不眠尺度との間で有意な相関は見られず,

本人の主観的な睡眠評価と生理的な睡眠状態と の間に差異が認められた。自己記入式質問紙で は,対象者自身が自覚している睡眠状態につい てはスクリーニングが可能であるが,自覚でき る睡眠の不調がなく,対象者自身が気づいてい ない場合は,質問紙上では「正常」と捉えられ てしまうことがあると考えられる。

また,主観的な睡眠評価と客観的な睡眠状態 に差が生じる要因として完全主義傾向の各側面 の関係性が強く関与していることが示された。

大谷(2004)は「失敗を過度に気にする傾向」

を「己の不完全さに気付き,(それを認められず)

自分を責めている状態」であるとし,林(2006),

古井(2007)は完全主義は全能感の表れである としている。完全欲求と失敗への恐れが共に高 いということは,全能感を手放すことができず 自己の不完全さを認められない状態であること を示していると考える。その場合,自らの睡眠 状態に対する要求水準は高くなるため睡眠に対 する満足感が得られにくく,主観的な不眠の訴 えが実際の睡眠状態を上回ると考えられる。一 方で完全欲求が高く失敗への恐れが低いという ことは,全能感を強く抱いており自己の不完全

さを自覚していないと考える。そのため,完全 欲求が高いことを美徳だと考え,実際の睡眠の 質の悪さに対する自覚は乏しく,主観的な睡眠 評価に反映されない可能性が考えられる。

したがって,主観的に歪められた睡眠不安を 解消するためには,睡眠現象についての科学的 な正しい知識の普及,不眠による仕事への直接 の影響や症状についての面談を行うことが有用 である。不眠の心理的原因や解決法の見当をつ け,クライエントが自分の思い込みに気付いて いけるような支援が必要となる。しかし,主観 的な不眠の訴えが強い場合でも,完全欲求は低 く,失敗への恐れの高さが目立つ場合は企業内 ではなく外部医療機関の受診を勧め,薬物とカ ウンセリングの併用で効率の良い治療を促す必 要があると考える。一方,自覚的には不眠を訴 えていないが実際には睡眠がとれていない者に 対しては全能感の表れとされる完全主義を,よ り現実的な自己肯定感や自信に繋げ,完全か不 完全かではなく能力の限界を受け入れた有能感 として,現実的な自己像を築き上げるような臨 床心理学的視点を持った援助が必要になるもの と思われる。

以上の結果から,睡眠状態についての自己評 価をそのまま受け止め,不調の訴えがない場合 は健常であるという考えは危険であり,睡眠状 態の改善に取り組む際には,訴え以上に完全主 義傾向を客観的に把握し,可能であれば生理指 標によるスクリーニングを行うことが有用であ るといえるだろう。睡眠に対する不調の訴えに 対して,個別面接を通して完全主義傾向に目を 向けた支援を行い,必要であれば医療機関およ び相談機関への受診を勧めるといった心身両面 からの支援が有用である。完全主義傾向にアプ ローチすることで睡眠に対する不調の訴えの理 解および早期発見・早期対応することが可能に なることが考えられる。

なお,本研究は愛知淑徳大学大学院心理医療 科学研究科倫理委員会での承認を得ている。

完全でありたいという欲求

安眠チェッカー 平均値 アテネ不眠尺度

得点

自分の行動に漠然とした 疑いを持つ傾向 失敗を過度に気にする

傾向

自分に高い目標を 課する傾向

R2=.31 .56***

1 完全主義傾向が主観的睡眠評価と生理的睡眠状態に及ぼす影響。

*p<.05 ***p<.001 .31***

.20*

.16*

.53***

.33***

R2=.28

R2=.10

R2=.22

R2=.02

参照

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