武田久義著 生命保険会社の経営破綻
⎜ 成文堂,2008年1月,前書5頁,目次4頁,本文256頁,あとがき 3頁 ⎜
戦後の日本経済が高度成長から安定成長そして成熟経済を迎えるなかで,
わが国生保は経済環境に応じて経営内容を迅速かつ適切に変化させていかな ければならなかった。だが,生保は日本経済の動きに十分な対応ができなか ったため,1997年4月に戦後初の生保破綻を引き起こし,4年間に都合7社 の生保が次々と破綻していった。
本書はそうした生保の経営と経済環境の変化を的確に描き出しながら,生 保破綻の原因を克明に探求している。その構成を見ていくと,第1章で破綻 した7社について詳細な事実関係を紹介し,第2章から第4章にかけて経営 の失敗について分析している。
このうち第2章では逆ザヤを生み出した保険料率の設定にかかわる問題点 について触れ,第3章では国民の金利選好意識の高まりを背景にした商品政 策の失敗を説明しながら,第4章では保険料収入の増大から急膨張した大量 の資金を効率的に運用する体制が長期にわたって慣らされた護送船団行政か ら十分な対応ができなかったことを指摘している。そして第5章では生保の セーフティネットである経営危機対応制度について考察し,第6章では将来 の生保の姿について述べている。
本書を通して読者に最も訴えたかったことは,もちろん生保破綻の原因で あろう。リスク管理の仕事を担う生保が,なぜ潰れてしまったのか。本書で はその原因を次のように3点指摘している。
第一に生保破綻の主要な原因として,バブル崩壊と長期にわたる低金利政 策から 大量の逆ザヤ が発生したことを挙げている。バブル期に設定した 高い予定利率の商品は運用環境が急激に悪化したため,運用利回りが予定利 173
【書 評】
率を下回ってしまった。しかも株式の含み損そして不良債権も抱えたため,
純資産は一気に枯渇し,経営体力のない生保から破綻に向かっていった。
第二にそうした深刻な事態を招いた 経営の失敗 を破綻の原因として挙 げている。生保が保険料率,商品政策,そして資産運用を中心に適切に管理 すれば最悪の事態を招かなかったであろう。それにもかかわらず,生保破綻 が生じたのは戦後の長期にわたって実施された護送船団行政に生保自身が依 存し過ぎたためであると分析している。グローバリゼーションの波が確実に 日本経済に浸透し,いつまでも過去の行政に頼るわけにはいかない。その関 係を断ち切れなかったことが生保破綻の遠因として挙げている。
第三に生保破綻の原因として国民の生保に対する 信頼の喪失 を挙げて いる。生保は長期間にわたる保障を仕事とするので,破綻しないことが大前 提である。そのため,1997年4月に起きた戦後初の生保破綻は業界だけなく 契約者にとっても極めてショッキングな大事件であった。その結果,生保へ の不信感から大量の解約・失効が発生し,生保経営は不安定となり,連鎖破 綻が起きてしまった。それはまさに銀行の取付けと似た現象でもあった。
このように生保破綻の原因を大きく3つ指摘している。だが,本書ではこ れらは間接的要因であり,生保破綻の根本的要因はバブル期に爆発的に売れ た一時払い養老保険と変額保険にあると独自の解釈を展開している。つまり,
金利選好意識の高まりのなかでこれらの商品が急激な売れ行きを見せ,大量 の資金が流入したため,十分な運用が出来なかったことが生保破綻の直接的 原因に繫がったと分析している。
確かに生保が時代の変化を敏感に嗅ぎ取り,迅速な対応ができるだけの柔 軟な経営システムを備えていれば洪水のように大量の資金が流れ込んでも適 切に運用できたであろう。当時の状況を詳細な資料と綿密なデータから追求 した結果,こうした解釈に行きついたものと思われる。
しかしながら,生保破綻をめぐる通常の解釈は違う。一般に生保破綻の原 因は資産負債総合管理(ALM=Asset Liability Management)の欠如で あると解釈される傾向が強い。生保商品は終身保険や個人年金などに代表さ
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れるように満期が20年から30年といった超長期である。それに対して運用は 貸付であれ有価証券投資であれ,それよりも期間が短い。
そのため,高い予定利率の商品を販売した後に,運用環境が悪化し,金利 水準が低下すれば逆ザヤが発生し,時間が経過するにつれて最終的に破綻に 至ってしまう。こうした現象は生保だけにあてはまるのではなく,銀行でも 発生する。実際,1980年代後半から1990年代はじめに起きた米国での貯蓄貸 付組合(S&L)の銀行破綻はまさにこのメカニズムが作用したためであっ た。
したがって,破綻を回避する方法は商品と運用の期間を一致させるように 商品そのものを開発するか,あるいは運用を改善させるしかない。そうすれ ば金利がどのように変動しようとも,逆ザヤは発生しないことになる。わが 国生保は金利が自由化されるなかで,欧米生保と同様に
ALM
の管理手法を 積極的に取り入れなければならなかった。それにもかかわらず,規制金利時代のなごりから経営システムを変えられ なかった。その意味では本書で指摘されているように過去の行政から断ち切 れなかったことが生保破綻の原因といえるかもしれない。だが,通常の解釈 のもとでは根本的原因は
ALM
の不備であり,大量の資金流入ではない。もちろん,洪水のように大量の資金が生保に流入し,それに対応できなか ったことは十分に理解できる。しかし,ALMの立場から純粋に解釈すれば,
一時払い養老保険の満期は5年ないし10年であるので,運用期間だけを考え れば逆ザヤは起きにくかったのではないかと推測される。まして,変額保険 は特殊な商品で,運用上のリスクをほとんど契約者が負うので,経営破綻に 結びつかないであろう。
このように見ていくと,大量の資金流入とそれを受け入れる運用体制の不 備を生保破綻の根本的原因として指摘するのは難しいと思われる。しかし,
それはあくまでも
ALM
という一視点から見た評価に過ぎない。いくらALM
が十分であっても資金が短期間に大量に流入すれば運用効率は急激に 悪化し,予定利率を下回る状況に陥るであろう。それゆえ,本書のアプロー保険学雑誌 第 602号
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チは理論的視点よりも現実に起きた現象を冷静に観察しながら整理したもの であり,別の側面から生保破綻をとらえた分析といえるかもしれない。
最後に生保の将来の姿についても触れている。その内容は生保の仕事が伝 統的な保障業務から総合金融機関としての業務に向かっていくことを示して いる。情報化社会の進展に伴ってボーダーレス化が広がり,金融機関相互の 壁が低くなる。そのことを十分に認識しながら,生保は経営戦略としてグロ ーバルな方向に進むのか,それともローカルな方向を目指すのかを明確に打 ち出し,それを達成するための内部体制の構築を図る必要性も訴えている。
このことは重要な指摘であろう。
少子高齢化社会を本格的に迎え,満足のゆく金融サービスを提供するには それぞれの金融機関の特色を活かした商品を生み出していかなければならな い。生保は他の金融機関と競合しながらも独自の商品を提供していく必要が ある。そのためには生保が破綻しては元も子もない。生保破綻の研究は契約 者に保険サービスを確実に提供し続けるうえで大事なテーマといえる。これ からのさらなる研究の発展を期待している。
(評者:専修大学商学部教授 小藤 康夫)
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