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(1)

保険会社経営の健全性確保について

植 村 信 保

■アブストラクト

この10年間で保険会社経営の健全性を確保する枠組みは,いわゆる 護送 船団 方式から, 自己規律 行政による規律 市場規律 の組み合わせ へと大きく変わった。ただ,平成生保危機で破綻した生保の経営内部を調査 したところ,いずれの規律もうまく機能しなかったことがわかった。現在で もソルベンシー・マージン比率等の健全性規制,保険会計やディスクロージ ャーなどには依然として改善の余地がある。とはいえ,ここにきて規制の見 直しや新たな経営指標を開示する動きも進んでいる。他方,破綻生保ではコ ーポレートガバナンスが十分でなかったことが破綻リスクを高めたと考えら れる。このため,経営組織の見直しなどガバナンス面を強化する取り組みが 非常に重要である。

■キーワード

ソルベンシー・マージン比率,ディスクロージャー,コーポレートガバナ ンス

1.はじめに

筆者は格付け会社のクレジットアナリストとして,過去10年以上,破綻し た生損保を含めて日本の保険業界の信用力分析に携わってきた。この間,日 本の保険業界はまさに激動の連続だった。損害保険業界ではカルテル料率制

*平成20年10月25日の日本保険学会大会(獨協大学)報告による。

/平成21年1月26日原稿受領。

(2)

度の廃止をきっかけに大手を中心とした再編が一気に進む一方,第一火災海 上保険,大成火災海上保険の中堅損保2社が破綻した。生命保険業界では,

バブル経済崩壊の影響で体力の低下した中堅生保の経営破綻が相次ぎ,大手 生保の経営も強く圧迫された。その後,2003年からの株価回復と各社の内部 留保拡充により生保の信用力は回復に向かったものの,足元の金融危機で株 価など資産価格が急落し,再び経営体力が圧迫されている。

このような激動の10年間を踏まえ,本稿では,①保険会社の健全性確保の 枠組みがどう変わったのか,②中堅生保の破綻とその要因について,③健全 性規制の動向,④会計とディスクロージャーの問題,⑤ガバナンス面の問題,

の5点について考察する。

2.健全性確保の枠組みの変化

1995年に保険業法が改正されるまでは,1939年に全面改正された保険業法 のもとで,いわゆる護送船団方式の保険行政が特徴だった。行政(大蔵省)

による保険会社への監督は事業範囲や商品,保険料率,契約者への配当,募 集制度,資産運用など,経営全般に及んでいた。大蔵省には保険会社から毎 年詳細な業務報告書が提出され,必要に応じ立入検査が実施された。さらに 大蔵省は,経営危機に陥った会社の保険契約を強制的に他の保険会社に包括 移転できる権限や,予定利率など既契約の基礎率を変更できる権限も持って いた 。保険会社経営の健全性確保の観点から大蔵省が進めてきたのは,純 保険料式という相対的に厚い責任準備金の積み立て推進が中心だった。加え て,経営のバッファーとして潤沢な株式含み益の存在があった。

しかし,1995年の保険業法改正をきっかけに,生保の健全性規制の枠組み は大きく変わった。

改正保険業法では 規制緩和・自由化の促進 公正な事業運営の確保 と ともに 保険事業の健全性の維持 が柱となり,問題会社の早期発見,早期

1) これらは1995年の保険業法改正で消滅した。

(3)

対応を目的に,監督当局が保険会社の経営危機を未然に防止する指標として ソルベンシー・マージン基準(比率)が導入された。ソルベンシー・マージ ンとは保険会社が責任準備金を超えて保有する支払い余力のことである。

1999年4月にはソルベンシー・マージン比率が早期是正措置の発動基準にも なった。生保の場合,通常予想される範囲のリスクについては従来通り責任 準備金を積み立てることで対応する一方,予測を超えるリスクに対する備え としてソルベンシー・マージンを確保する。つまり,保険会社の健全性は銀 行のように自己資本規制だけではなく,責任準備金とソルベンシー・マージ ンという二つの柱で支えられているのが特徴だ。

社内の保険数理の専門家である 保険計理人 が責任準備金の十分性をチ ェックする仕組みも取り入れられた。一定シナリオのもとで将来シミュレー ションを実施し,例えば,低金利が続いても今後5年間に必要な責任準備金 を積み立てられるかどうかを保険計理人が確認するようになった 。

保険会社の健全性確保にあたり,これまで行政による規律に加え,会社自 らのリスク管理態勢やガバナンス面などの自己規律,ディスクロージャーや 格付け会社,株式市場,マスメディアなどを通じた市場規律を総合的に活用 しようという考え方になったのも大きな変化である。

3.中堅生保の経営破綻

健全性確保の枠組みが変わる一方,バブル崩壊後の厳しい環境のなかで保 険会社の経営破綻が相次いだ。例えば,1997年4月から2001年3月までの4 年間に中堅生保7社の経営が破綻し,保険契約者が多大な不利益を被るとい う事態が発生した。破綻した会社の数は7社だけとはいえ,当時の7社の総 資産シェアを合計すると10%以上に達する 。

しかも,同じ時期に生じた金融機関(銀行,信用金庫,信用組合)の破綻 処理では公的資金が注入され,預貯金が全額保護されたのに対し,生保の破

2) 一般に将来収支分析という。

3) 最近では2008年10月に中小生保の大和生命保険が経営破綻している。

(4)

綻処理は基本的に既契約者と,生命保険契約者保護機構などセーフティーネ ットを通じた他生保の契約者による負担で進められた。

そこで,筆者は独自に公表資料やインタビューによる調査をもとに,この 時期に発生した生保破綻の要因分析を行った。各社のディスクロージャー誌

保険業法改正(セーフティネット見直し)

2005年

金融審議会が生保の契約条件変更を容認 大成火災が更生特例法の適用申請

保険業法改正(契約条件の変更が可能に)

2003年

東京生命が更生特例法の適用申請 2001年

千代田生命が更生特例法の適用申請 協栄生命が更生特例法の適用申請

大成火災が安田火災、日産火災との合併を発表 大正生命に業務停止命令

クレアモントキャピタルが大正生命の増資引受け 保険業法改正(更生手続の導入)

第百生命に業務停止命令 第一火災に業務停止命令 2000年

東邦生命に業務停止命令 早期是正措置の導入

マニュライフ、第百生命から営業権譲受 第一火災と協栄生命が業務・資本提携 1999年

GEエジソン生命の設立(東邦生命から営業権譲受)

保有株式の原価法評価が認められる ソルベンシー・マージン比率の公表 生命保険契約者保護機構の設立 1998年

日産生命に業務停止命令 1997年

日米保険協議決着(損保料率自由化が決まる)

1996年

保険業法改正(SM基準導入、ディスクロージャー制度など)

94年度決算で生保7社が経常赤字に 1995年

(出所)筆者作成

保険会社の経営破綻など

(5)

や統計集など通常入手できる資料に加え,大蔵省の検査報告書 のような,

通常入手できない資料を情報公開請求により確保した。さらに,日本で初め て破綻生保の関係者(当時の経営者,企画・数理・財務部門等のスタッフ)

への大規模なインタビューを行い,経営に関する証言を集めることで,破綻 した中堅生保の内部で何が起こっていたのかを明らかにしようとした。

中堅生保の連鎖的な経営破綻がバブル崩壊後の厳しい経済環境のなかで発 生したため,破綻の主な要因は一般に,生保業界全体(あるいは何らかの特 定の属性を持つ会社群)に対して外部からの強いストレスがかかったことや,

バブル期の事業環境により必然的にもたらされたものと考えられている。つ まり,生保破綻は バブル崩壊で株価が下がったから 1980年代に予定利 率の高い貯蓄性商品を集めすぎてしまったから 行政当局が生保をしっか り監督しなかったから 発生したとされることが多いようだ。一連の生保破 綻は個別会社の問題というよりは構造的な問題であり,個社の経営努力では どうしようもなかったという見方である。

しかし,個別事例を詳細に検証した結果,そのような理解は極めて表面的 であり,会社が破綻に至るにはビジネスモデルや経営者,経営組織といった,

その会社固有の内的要因が重要な意味を持っていたことが浮き彫りになった。

内的要因は1つではなく,複数の要因が重なっていることが多かった。こ れらの内的要因に経営環境の変化(外的要因)が加わった結果,財務構造の 悪化など将来の経営危機の兆候が生じている。この段階で経営が兆候に気づ き,適切な対応をとっていれば,その後の経営危機を回避できたのかもしれ ない。だが,再び何らかの内的要因が作用して,経営が適切な対応を取れな い状況が続く,あるいは,不適切な対応を行ってしまう。そこに,さらなる 経営環境の変化(外的要因)が加わる,といった内的要因と外的要因の連鎖 によって,最終的に経営破綻に追い込まれている。

中堅生保の破綻事例を個々に検証するなかで,破綻会社では自己規律,行 政による規律,市場規律のいずれもがうまく機能していなかったことが明ら

4) 破綻生保の直近3回分の付属資料が公開された。

(6)

かになった。ただし,生保の経営破綻が内的要因と外的要因の連鎖により生 じており,あくまで外部の存在である行政や市場による規律には限界もある。

このため,破綻リスクを高める内的要因をいかにコントロールするか,すな わち,自己規律をどう有効に機能させるかが,過去の破綻事例から得られる 最も重要な教訓と言えるだろう。

4.健全性規制の動向と今後の方向性

前述のとおり,95年の改正保険業法では行政による問題会社の早期発見,

早期対応を目的にソルベンシー・マージン比率が導入された。ところが,生 保の経営悪化が深刻化するなかでの導入となり,基準が甘くなったため,破 綻直前の比率が早期是正措置の発動基準である200%を上回っていたにもか かわらず,破綻する保険会社が続出した。

破綻リスクを高める内的要因 1.ビジネスモデル

歴史的背景の果たした役割╱過去の体験による影響╱

社内文化の問題╱創業家などの影響╱

採用した経営戦略・ビジネスモデルの問題╱他の構造問題

2.経営者に関するもの

トップの適性の問題╱トップの影響力の強さ╱

トップ周辺の不適切な行動╱経営内部の牽制機能の欠如

╱経営意識の欠如╱マネジメントの弱さ╱

状況認識の遅れや甘さ╱経営判断のミス

3.経営組織に関するもの

情報伝達機能の問題╱牽制機能の不備╱

リスク管理態勢の不備╱営業部門の発言力が強い╱

部門間の連携不足

(出所)筆者作成

(7)

セーフティーネットに想定外の負荷がかかり,1997年に創設された保険契 約者保護基金は日産生命の破綻処理で枯渇し,1998年に全社強制加入の生命 保険契約者保護機構を設立したものの,こちらの財源も相次ぐ経営破綻で不 足する事態となり,公的資金枠を設定するに至っている。さらに,2003年に は既契約の予定利率引き下げを可能とする保険業法改正が実現した。

加えて,保険会社を取り巻く事業環境が変わりつつあるのに伴い,想定外 の巨大災害リスクや長期の医療保障リスク,変額年金の最低保証リスクなど,

経営リスクも変化している。

その後,金融システム不安が遠のくなかで,行政は2007年頃からようやく ソルベンシー・マージン比率の抜本的な見直しに着手した。

金融庁が2007年に公表した報告書 ソルベンシー・マージン比率の算出基 ソルベンシー・マージン比率の算出方式

ソルベンシー・マージン比率 = ソルベンシー・マージン総額 リスクの合計額 × 1╱2

(注)早期是正措置の発動基準には他に 実質資産負債差額 もある

(出所)筆者作成 早期是正措置の発動基準

200%以上 非対象

100%以上200%未満

0%以上100%未満

0%未満

経営改善計画の提出と実行 支払能力の充実計画の提出と実行 配当・役員賞与の禁止や抑制 新規契約の保険料計算方法の変更 事業費の抑制

一部の営業所,事務所の廃止 子会社等の業務の縮小 など 業務の全部または一部の停止命令

(8)

準等について では,単に基準を厳しくするべきという提言ではなく, ソ ルベンシーの充実が,規制で求める水準に専ら依存したものとなっているの ではないかとの懸念がある 保険会社の経営陣自らが,ソルベンシー評価 の方向性を十分認識し,リスク管理の高度化への意識を相当程度高めていく 必要がある と保険会社(特に生保)のリスク管理態勢の現状に警鐘を鳴ら したうえで,中期的なあるべき姿として 経済価値ベースの支払い余力 を 示している。

現行の規制は資産(有価証券など)が時価評価,負債が取得原価という保 険会計に沿ったものであり,生保の企業価値を十分反映していない。例えば,

生保の契約は一般に長く,その間,会社は一定の利率(予定利率)を保証し ている。このため,負債に合わせて長期の債券を持てば,負債の金利リスク をヘッジすることになる。ところが,現行の規制では,仮に資産・負債をフ ルマッチングしていても,金利上昇時には債券価格の下落を通じ,経営内容 が悪化したと見なされてしまうおそれがある。そこで報告書では,技術的な 検討課題は残るものの, 2010年を見据えて不断の作業を進める と,経済 価値ベースの評価の実現を強く求めている。

金利低下の影響

(出所)筆者作成

(9)

このような経済価値ベースの評価を求める動きは,IASB(国際会計基準 審議会)の保険会計プロジェクト,IAIS(保険監督者国際機構)のソルベ ンシー基準検討,CEIOPS(欧州保険年金監督者会議)のソルベンシーⅡプ ロジェクトなど,国際的な動向に歩調を合わせた取り組みでもある。

5.会計とディスクロージャー

これまでディスクロージャーを通じた市場規律は,保険会社特有の用語や 財務諸表,保険事業に特有の収益・リスク構造,不十分な情報開示とアナリ スト機能の弱さなどから十分機能してこなかった。

例えば,東邦生命保険の破綻直前のディスクロージャー(1997年度決算)

からは,東邦生命が実質的に債務超過状態にあったことを把握するのは難し い。貸付金の8割が 金融・保険・証券 不動産業 サービス業 で占め られていたという不自然さはあるものの,リスク管理債権として公表されて

0 0 0

‑1,162 0

‑245

‑467

‑451

‑40

‑40 0

‑1,274 現預金

コールローン 金銭の信託 有価証券

公社債 株式 外国証券 その他の証券 貸付金

一般貸付 不動産及び動産 資産の部合計

645 480 554 11,486 1,368 3,021 5,316 1,780 9,304 8,613 1,953

25,708 負債及び資本の部合計 基金

法定準備金 剰余金

当期未処分剰余金 資本の部合計

保険契約準備金 責任準備金 借入金 貸倒引当金 価格変動準備金 負債の部合計

25,708 100 12

‑2,098

‑2,112

‑1,986 25,331 24,715 215 1,204 62 27,694

‑1,274 0 0

‑2,236

‑2,236

‑2,236 0 0 0 963 0 962 修正前 修正後 との差額 修正前

修正後 との差額

(出所)1999年東邦生命社員総代会資料より作成

東邦生命の貸借対照表(1999年3月末)

単位:億円

(10)

いた 破綻先債権 延滞債権 3ヶ月以上延滞債権 貸出条件緩和債権 の合計は1274億円と一般貸付の1割程度にとどまっており,約300億円の貸 倒引当金も計上していた。しかも,97年度決算では,米

GE

キャピタルとの 提携に伴う営業権譲渡益700億円などを原資に400億円超の不良債権の償却を 進めていた。わずか1年後に1000億円近い追加引き当てを求められるとは到 底考えられなかっただろう。

生損保の経営破綻などを受けて,保険会社のディスクロージャーは段階的 に整備されてきた。しかし,負債面を中心に依然として改善の余地が大きい。

例えば,2000年度から基礎利益と逆ざや額が業界統一指標として公表され,

2006年度からは主要生保を中心に三利源損益の内訳も開示されるようになっ た。しかし,三利源損益はうまく活用しなければ経営を間違った方向に導く ことにもなる。例えば,東京生命保険の三利源損益の推移をみると,1989年 度にはそれまでの費差損から費差益に転じ,死差益も利差益も拡大した。と ころが,実態は一時払い商品の販売で付加保険料が一時的に膨らんだための 費差損解消であり,高い予定利率の契約を大量に抱え,資産運用面でもリス クを抱えていた。

現在の保険会計は,保険会社の経営内容を必ずしも十分に反映していない。

例えば保険料は現金主義,費用は発生主義で認識することから,収入と支出 三利源損益の推移

単位:億円 88/3 89/3 90/3 91/3 92/3 93/3 94/3 95/3 96/3 費差益 ‑29 ‑25 12 ‑15 ‑34 ‑30 ‑22 ‑36 ‑24 死差益 123 143 156 153 157 139 164 168 186 利差益 70 60 119 95 66 ‑18 ‑141 ‑216 ‑275 合 計 165 178 287 233 189 91 2 ‑85 ‑113

(出所)東京生命の検査報告書より作成

(11)

の対応期間のずれが生じてしまい,結果として新契約が好調だと利益が圧迫 されやすい。しかも,監督会計に財務会計が加わった中途半端なものになっ ているという言い方もできる。当然ながら,このような保険会計に基づいた 情報開示から生保経営を把握するには限界がある。

これに対し,近年では エンベディッド・バリュー(EV) のように保険 会計の枠組みを超えた情報開示の試みも始まっている。現行の保険会計では 新契約獲得から会計上の利益の実現までにタイム・ラグがある。これに対し,

EV

では将来の利益貢献が新契約獲得時に認識されるため,会計による財務 情報を補強することができる。

EV

の本来の目的はあくまでも潜在的な株主価値を把握するための情報で あるが,将来の支払い余力やその変動可能性を判断する材料としても役に立 つ。EVそのものだけではなく,計算の前提条件とその変更,前提条件を変 更した場合の影響も開示されており,重要な手掛かりとなる。

もっとも,実際に開示されている各社の

EV

を見ると,依然として課題も 大きいことがわかる。例えば,運用利回りなどの前提条件が変わると

EV

大きく変動し,保険事業による

EV

の増減と区別しにくい。リスクに関して は割引率だけで勘案するため,資産運用リスクをとるほど

EV

が大きくなる という計算上の問題もある。しかも会社によって前提条件が異なるため,会 社間の比較は難しい。これに対し,MCEV(市場整合的な

EV

)など,EV の弱点を改良した指標も登場しており,今後の動向に期待したい。

保険会計そのものの見直しも進みつつある。IASBでは保険契約の国際会 計基準を検討しており,保険負債(責任準備金)をいわば時価評価する方向 で議論が進んでいる。

(12)

6.ガバナンス面

破綻した保険会社では,コーポレートガバナンスが十分でなかったことが,

破綻リスクを高めることにつながった。損保でも,例えば2001年に海外再保 険取引に絡む多額損失で破綻した大成火災海上保険の事例をみると,破綻直 前の同社はリスクの高い航空保険の引き受けに過度に集中し,かつ,再保険 によるリスク移転も十分に行われていなかったが,自社が抱えている保険引 き受けリスクを経営陣が正しく把握していなかったという問題が大きい。

破綻リスクを高める内的要因をいかにコントロールするか,すなわち,自 大同生命 太陽生命

12,630 7,386

‑99

‑61

‑150

‑165

554 407

‑155

‑32

‑3,324

‑1,969

462 182

9,907 5,749

T&D保険グループのEVの変動 1,640

‑2,036

‑1,570 594 418

‑90 462

552

‑152 182

EVのうち新契約分 334

‑2,723

‑1,951

‑772 9,907

5,329 4,577 12,630

7,280 5,349

‑1,637

‑902

‑735 5,749

4,847 902 7,386

5,749 1,637 EV(EmbeddedValue)

修正純資産 既契約の将来価値

増減 2008/3 2007/3

増減 2008/3 2007/3

大同生命 太陽生命

感応度5(事業費率10%減少)

感応度4(解約失効率10%低下)

感応度3(株式・不動産価値10%下落)

感応度2(リスク・フリー・レート0.5%低下)

感応度1(リスク・フリー・レート0.5%上昇)

<前提条件を変更した場合のEVへの影響>

2008年3月期EV 2008年3月期新契約EV

運用関係収益差異

前提条件と2008年3月期実績の差異 予定収益

保険関係の前提条件変更 株主配当

2007年3月末EV

<前年度からの主なEV変動要因>

(出所)T&Dホールディングス決算資料より作成

太陽生命と大同生命のエンベディッド・バリュー(EV)

単位:億円

(13)

己規律をどう有効に機能させるかが,過去の破綻事例から得られる最も重要 な教訓である。

ガバナンス面を強化するために必要な取り組みは経営組織の見直しである。

ガバナンスが働きやすい組織の構築ができれば,経営者に起因する破綻リス クを小さくできる可能性がある。まずは経営内容の実態を目に見えるように して,正しい判断ができる環境を作ることが何より重要だ。

リスク管理態勢についても同様のことが言える。1980年代後半の中堅生保 に リスク という感覚が全くなかったわけではない。例えば金利リスクに 関しては,ALMこそ実施していなかったものの,財務部門や数理部門が高 コスト資金の急拡大を問題視していたケースが多く見られた。問題はこれら が経営に生かされなかったことにある。

近年ではリスク管理の普及や

IT

技術の進展等により高度な

ALM(資産,

負債の総合管理)や統合的なリスク管理が可能となっている。だが,どんな に形を整え,きちんと数値を算出しても,経営に活用されなければリスク管 理にはならない。中堅生保の破綻事例はリスク管理の実効性を高める取り組 みの重要さを示唆している。リスク管理を形骸化させないためには,経営陣

大成火災の再保険取引の仕組み

(出所)あいおい損保会社説明会資料(2001年12月)から作成

(14)

がリスク管理への意識を高めていくことに加え,経営内部での牽制機能の強 化や,行政や市場からの規律が働くような仕組み作りが求められよう。やは りガバナンス面が重要ということに他ならない。

7.おわりに

自由化後10年間を 経営の健全性確保 という切り口から考察してきた。

護送船団から 自己規律 行政による規律 市場規律 の組み合わせとい う健全性確保の枠組みが大きく変わるのと同時に,破綻する保険会社が続出 するなど保険会社の健全性を確保するのが難しい時期でもあった。しかし,

徐々にではあるものの,新しい枠組みは定着する方向にある。

2008年9月のリーマン・ショック以降,金融市場の混乱が続き,生損保の 経営が再び圧迫されている。それでも,生損保の経営危機が深刻化した2003 年頃に比べると,今のところ保険業界は比較的落ち着いているように見える。

今後はどうだろうか。もちろん,今後の危機の深刻度合いにもよるが,この 10年間の経験や取り組みが試されていると言えよう。

(筆者は格付投資情報センターチーフアナリスト) 参考 献

植村信保[2008]: 経営なき破綻 平成生保危機の真実 日本経済新聞出版社

参照

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