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生命保険会社の経営破綻誘発効果の 定量分析

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生命保険会社の経営破綻誘発効果の 定量分析

王 美

■アブストラクト

日本で起きたバブルとその清算過程において生命保険会社7社が連続して 経営破綻した。この経営破綻に至るプロセスや要因については,多くの研究 があるものの,複数の要因が存在する。主として定性的な判断によりその主 因は,高い予定利率の設定,一時払い保険の大量販売,そして解約の急増とさ れることが多い。ただ,各要素のインパクトの大きさは明確ではなく,やや 思い込みの部分やALM運用などの有無により結果が異なる状況が存在する。

そこで,本稿では,バブル醸成からバブル崩壊までの金利の動きを想定で きる理論モデルを作成することにより,高予定利率の保険や一時払いの保険 が経営破綻に与える影響等を検証する。

まず,景気循環を想定した一般的な経済局面では,負債に合わせた債券運 用と毎年配当の留保(最終配当方式の採用)を行えば,年払いの養老保険と 比較して一時払いの養老保険のリスクはさほど高くない。また,低位の金利 局面から金利のピーク,そして,金利の急速な低下と長期の低金利局面とい うバブル期とその後の清算局面では, 大量 の一時払いの販売がバブル期 には大きな損失を誘発するものの,経営破綻が表面化するバブル清算期では 逆に収益を安定させる方に働くことが判明した。

■キーワード

生命保険会社の経営破綻,一時払い養老保険,解約率

関西部会報告による。

/

*平成26年6月14日の日本保険学会 6年11月19日原稿受

平成2 領。

(2)

1.はじめに

戦後,日本の生命保険業界は20社でスタートし,経済の成長とともに保険 会社も順調に成長した。大きく成長段階を仕分けると,戦後の復興期(1946 年〜1958年),高 度 成 長 期(1959年〜1972年),安 定 成 長 期(1973年〜1984 年),バ ブ ル 期(1985年〜1990年) ,バ ブ ル 清 算 と 低 成 長 期(1991年〜現 在)となるが,業界の最大の試練は,1990年代後半のバブル崩壊後に20社中,

7社が連続して経営破綻したバブル清算と低成長期であった。経営破綻原因 については,多くの要因が指摘されている。①高い予定利率商品の設定,② 一時払い養老保険の大量販売,③リスクの高い資産運用,④ALMの不在,

⑤解約の増加,等である。ただ,その多くは確かに現象としては存在したも のの,破綻への影響度などを計量的に計測した研究は少ない。

そこで,本稿では,資産と負債を同時決定する理論保険会社モデルを用い て,多くの先行研究で取り上げられた 一時払い養老保険の大量販売 など がバブル期およびバブル清算期と類似の金利変化に直面した場合に,経営破 綻に与えた影響はどの程度であったのか,また,そもそもそれは主要因であ ったのか,を計量的に計測することとする。

2.先行研究

⑴ 概 要

バブル清算期の生命保険会社の破綻の原因について,総括的な判断を見る と,茶野(2002)は1990年以降のバブル清算期には長期にわたる経済の停滞 と金融緩和政策により長い低金利局面と株価低迷等が発生し,①生命保険会 社の投資環境の悪化と②既存契約の高予定利率から逆ザヤ(資産運用利回り 1) 大塚忠義(2014) 生命保険業の健全経営戦略 ,6頁参照。大塚(2014)は 戦後から最初の破たんが起きるまでの50年間を復興期(1946年〜58年),高度 成長期(1959〜72年),安定成長期(1973〜84年),バブル期(1985〜95年)の 4つの時期に分け,日本国内20社生命保険会社の主な事業,料率・配当率,監 督官庁の規制方針の変遷およびその影響を分析している。

(3)

が平均予定利率を下回ること)が,一部の生命保険会社の経営破綻を誘発し たとした。また,久保(2005)はバブル期初期の一時払い養老保険など高予 定利率の貯蓄商品の積極販売やALMと乖離した資産ポートフォリオの構築 などが破綻原因であるとし,その根底には経営判断に基づく誤った販売戦略 や財務戦略があったとした。

一方,武田(2008)は連続的に破綻した生命保険会社7社の破綻とその処 理過程を整理し,破綻原因は,①経済的環境の激変を想定していない保険料 率の設定,②商品政策の失敗,③無理な資産運用の3つが要因としている。

また,植村(2008)は,破綻した中堅生命保険会社と破綻しなかった中堅保 険会社を比較する中で,①バブル崩壊後の厳しい経済環境など外部要因と② 経営等の保険会社の内部要因を詳しく検討している。その結果,外部要因が 生保経営に与える影響は小さくないものの,破綻誘発要因はむしろ個別の経 営(内部要因)にあるとした。

そして,大塚(2014)は,バブル期に発生した要因のみでは破綻の連鎖を 説明することは困難であるとし,それ以前の生命保険会社が高い成長を謳歌 した過程で内包した構造的な問題が重要な要因であるとした。

さらに,経営の関与が大きい 予定利率と逆ザヤの形成 と 一時払い養 老保険などの販売 の2点について更に詳しく先行研究を見てみよう。

⑵ 予定利率と逆ザヤの形成

茶野(2002)は,日本の生命保険業は1990年代以後の長期間に及ぶ持続的 な低金利政策により発生した逆ザヤが保険会社の財務健全性を蝕み,更に逆 ザヤが累積する事態が国民の生命保険業に対する信頼を低下させたとしてい る。その中で,信用力が相対的に劣る生命保険会社の解約が増加し,これが 最大の連鎖破綻の原因であるとした 。また,外部要因のインパクトの大き さを観察するため,主要国の1955年から2000年までの長期金利推移を考察し た。1980年代後半の日本の公定歩合操作は,地価上昇の抑制を目的としたた

2) 茶野努(2002) 予定利率引き下げ問題と生保将来 ,9頁参照。

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め,この金融政策のオペレーションにより日本の長期金利はピーク水準から の低下幅が極めて大きく,外部要因のインパクトは相当大きかったとしてい る。加えて,1995年の保険業法改正により標準責任準備金制度が導入される までは,明示的に予定利率と市場金利との関係を規定する規制は存在せず,

日本の生命保険会社が1980年代後半以降におかれてきた状況は,当時の欧米 の生命保険会社より健全性リスクに対して脆弱であったことを明らかにした。

そして,このような局面への対応は,既契約の予定利率の変更という手段以 外は効果が限定的であるしている。

武田(2008)も1997年から2001年にかけて発生した生命保険会社7社の経 営破たんに共通する破綻要因は,生命保険会社が相対的に低い保険料率(高 予定利率)を設定したことにあるとする。その結果,新規契約は予定利率の 改定が進んだものの,契約の大半を占める既契約の低い保険料率(高予定利 率)の改定が進まず,逆ザヤが発生した。これは保険会社の経営判断に問題 があったとしている。

同じ予定利率の設定問題について,茶野は外部の経済・金融要因や監督規 制という保険会社の外部要因が経営破綻に色濃く反映したとするのに対し,

武田はその厳しい外部環境は認めるにしても,保険会社の経営責任は重いと 判断している。一方,大塚(2014)は,1970年代から1990年代までの生命保 険会社の予定利率の変化を観察し,保険会社にとって予定利率の引き上げは 競争上不可避なものであったと考え,また,逆ザヤの発生は,予定利率の引 き下げ時期の遅れや機動性の無さではないとした 。

⑶ 高い予定利率の生命保険商品販売の影響

予定利率の設定や引下げに関する問題が,保険会社を取り巻く外部環境や 監督規制にあったとしても,保険商品の販売そのものは保険会社の固有の問 題である。そこで,商品政策と経営破綻の関係をみると,久保(2005)は経 営破綻した7社計とそれ以外の会社計に分け詳細な業績比較を行う中で,①

3) 大塚・前掲注1 20‑24頁参照。

(5)

破綻7社は80年代後半のバブル期に大量の一時払い商品を販売し売上高の押 上げに奔走した,②その後,解約・失効による流動性リスクが顕在化した,

という2点の特徴をあげている 。

武田(2008)も,1970年代後半の国民の生命保険に対する貯蓄ニーズに対 応した 短満期 保険の位置付けが経営破綻に直接的,間接的に関連してい るとしている。 短満期 商品の積極的販売は経営を圧迫し,健全性にも影 響を与えたとしている。また,大塚(2014)は,逆ザヤの発生の主因はバブ ル期に一時払い養老保険および一時払い個人年金を大量に販売したことにあ るが,バブル期の貯蓄性商品販売の重視は,破綻会社などの一部の会社のみ で見られた現象ではなくすべての会社で見られた。貯蓄性商品の販売拡大に よる逆ザヤと財務損失の拡大は,中堅生保が有する業界の 横並び体質 か ら自社の体力や特性を生かしきれなかったことによるとしている。

以上のように,経済・金融等の外部環境,監督規制,バブル期の商品政策,

その源にある経営判断等が逆ザヤの原因と破綻への道筋であるとされている。

ただ,定性的な判断が多く,各要因の計量的な影響度は不透明である。そこ で,次節では,多くの指摘があった商品政策,とりわけ, 一時払い 養老 保険の大量販売が経営破綻にどのような影響を与えたかをモデル保険会社を 用いて検証する。

3.モデル保険会社を用いた破綻原因の考察

第1節の分析から,高予定利率契約や一時払い保険の大量販売が各社の経 営破綻に深く影響している可能性が高い。そこで,その大きさを計量的に評 価するため,モデル保険会社を用いたシミュレーションを行う。

⑴ モデル保険会社の特徴

生命保険会社は,保険商品の販売とその結果発生する責任準備金などにつ いての資産運用が連動しており,それらは分離して計測することは合理性に

4) 久保英也(2005) 生命保険業の新潮流と将来像 93‑96頁参照。

(6)

乏しい。保険商品の保険料や責任準備金は死亡率,予定利率,事業費率 , そして解約率などに基づき計算される。その責任準備金は,経営としての投 資戦略に基づき資産ポートフォリオを組み,運用される 。従って,今回の モデル保険会社は負債側と資産側が連動した構造となっている。

ただ,日本では低価法が採用され資産や負債は簿価評価されている。日本 でも導入が検討される欧州のソルベンシーⅡでは資産,負債とも時価評価と なっている。このモデルは,責任準備金について簿価と時価の双方で計算が 可能であるが,ここでは,現行の会計基準に合わせる形を取り負債は簿価評 価とした。従って,資産は時価,負債は簿価となり,本来はアンバランスで はあるが実際の経営判断がこれで行われたため,この組み合わせを採用した。

モデル保険会社の特徴は以下の2点である。まず,負債側(保険商品,予 定利率,保険料,解約率など)および資産側(安全資産:債券とリスク資 産:株式の投資割合,現価に使用する金利イールドカーブなど)の前提数値 を多様に入れ替えることが可能である。次に資産側と負債側を一体として,

時価と簿価の双方で負債額の変化や時価資産の変化を計算できる。次に,純 資産額やリスク総額が一つのモデルで統合的に計算できることから,生命保 険会社の経営破綻過程を長期的かつ時系列で試算することができる。

なお,モデル保険会社の詳細については,王美・久保英也(2014)に詳細 に記載している。

⑵ 一般的な景気循環の中での 年払い 養老保険の収益

伝統的な生命保険商品は一旦契約すれば,その後,予定利率や保険金の変 更は行わない(一部の特別勘定商品を除く)。言い換えれば,保険会社が予 定利率を上回る資産運用を行い,それを損なうリスクはすべて保険会社が引 5) 事業費は本研究の対象ではないため,モデル保険会社においては事業費率を

勘案していない。今後の研究にはこれも反映したい。

6) 実務上利益が出るとき含み益という形で計上されているが,本研究では資産 の現在価値(時価)に反映する。

7) この部分年払い養老保険を例として分析する。

(7)

き受ける仕組みである。当該保険契約は長期契約が多いため,自ずと保険会 社は景気循環を受け止め,金利や株価の変化に直面しながら資産運用リスク を管理している。

そこで,まず景気の1循環を構成する景気の拡大局面(金利は上昇)と景 気の下降局面(金利は下降)について,各々養老保険のみを販売している保 険会社の資産額,負債額,利益額(配当金+内部留保)を計算する。

モデル保険会社は,①会社のキャッシュフローが定常状態(保険会社がス タートし,収入と支出が安定している状態,モデルでは設立後10年経過後)

となった時点で,②保険契約高や各金利局面が示すイールドカーブの下で,

③責任準備金の残存期間と債券の期間をフルマッチングする投資を前提に保 険料や予定利率,資産額,負債額などを計算する。

想定した金利局面は3つである。すなわち,①ここ15年以上日本経済がお かれている低金利局面,②過去の平均金利の局面,③景気が回復する高金利 局面である。低金利局面は,日本銀行がゼロ金利政策導入を決めた1999年2 月15日の政策決定会合の翌日から2013年2月28日までの3,452日分の平均金 利とした。過去の平均金利は6カ月物金利が2%水準を維持した1994年9月 1日から1995年3月22日までの136日の平均金利とした。また,高金利局面 は,第2次石油ショック後の景気の立ち上がり時期である1983年2月1日か ら1984年1月31日までの1年間285日の平均金利とした。ただし,この金利 データは本来割引債の金利が必要だが,データ制約からやむなく財務省公表 の残存期間別利付国債の利回りを使用した。実際使用した金利は表1に示し た通りである。

(8)

この前提条件を基に,まず, 年払い 養老保険の販売だけを行うモデル 保険会社について,3つの金利局面におけるそれぞれの保険料,予定利率,

資産の現在価値(時価),責任準備金の簿価価値を計算した結果を表2に示 した 。

表1 3つの金利局面の金利の期間構造(%)

(出所)筆者が当該期間の平均金利を計算したもの。

低金利局面 平均金利局面 高金利局面 計算期間 1999.2.15〜

2013.2.28

1994.9.1〜

1995.3.22

1983.2.1〜

1984.1.31 データ数 3,452日分 136日分 285日分

1年 2年 3年 4年 5年 6年 7年 8年 9年 10年

0.291 0.406 0.546 0.713 0.871 1.031 1.191 1.352 1.494 1.615

2.588 3.002 3.463 3.84 4.183 4.526 4.667 4.667 4.674 4.738

6.708 6.815 7.039 7.408 7.653 7.657 7.342 7.578 7.743 7.801 予定利率

年払い保険料

1.18%

94,071円

4.38%

78,796円

7.53%

66,052円

8) 資産価値が負債価値よりやや大きいのは市場のイールドカーブで計算された 資産(時価)と一定予定利率での計算された負債(簿価)との差による。また,

シミュレーション期間の毎年の保険金の支払いと保険料の収入は同じとしてい るため,各年の死差損益は0である。

(9)

定常状態では,資産価値と準備金価値はほぼ一致しているが,その後の金 利変化に伴い,既存契約の予定利率はそのままであるのに対し,当該年の新 契約は市場金利に合わせてそれは変動することから,資産価値,責任準備金 価値,そして,利差益が変化する。一般的に資産の時価は,景気拡大局面

(金利上昇)で減少し,景気後退局面(金利低下)で増加するとされている。

ただ,この局面では利差益は,想定を超える解約がない場合には契約を満期 まで保有できることから安定的な利益を確保できる。これが,配当金もしく は内部留保の財源となる。

ここで,まず,低金利局面から平均金利局面へ10年間で変化した場合のシ ミュレーションを行う。その結果は,表3に示した 。

景気拡大局面では,保有資産(債券)の価値は金利上昇に伴いゆっくりと 毀損していくが,その後低金利時の契約が順次満期となり,順次平均金利局 面の契約と入れ替わっていく 。この過程の6年目までにおいては,低い予 定利率契約が高い運用利回りを享受(運用利回り―予定利率が拡大)できる ことから資産価値はむしろ増加する。その後は,低金利局面で契約した既存 契約が大きく減少し時価の資産はやや減少する。

9) 平均金利局面に入り,低金利局面で契約した既契約がすべてなくなるまで10 年かかるので,10年間をシミュレーション期間とした。低金利局面契約の利差 益は配当金として毎年還元もしくは内務留保される (表3に累計値として表示)。

10) 表3の例えば,定常状態から1年経過後の満期までの期間10年の債券は,こ の時点のイールドカーブで時価評価されている。(詳細は王美・久保 (2014)を 参考。)

4,540 4,584

7.53 66,052

高金利局面

4,907 5,012

4.38 78,796

平均金利局面

5,314 5,494

1.18 94,072

低金利局面

負債価値

(簿価:億円)

資産価値

(時価:億円)

予定利率 (%) 年間保険料

(円)

表2 年払い養老保険を販売するモデル保険会社の初期状況

(出所)筆者が計量モデルにより分析。

(10)

一方,負債は簿価であるため,金利上昇とともに予定利率も上昇するため,

責任準備金額は減少する。このため,金利上昇に伴い,資産から負債を差し 引いた純資産はプラスとなる。利差益は再投資され,すべての資産は平均金 利局面でのイールドカーブに従う債券ポートフォリオに変っていく。10年間 の利差益累計は,145億円のプラスになっている。

逆に,景気の後退局面では,表4に示したように,表3の景気拡大局面と は逆の動きが生じる。すなわち,保有資産の価値は金利低下と共に増加する が,低金利局面で契約した契約が徐々に増加し,運用利回りが低下する。利 差益 は債券の運用利回りの低下と予定利率の低い新規契約の増加に伴う 責任準備金の増加により,10年間の累計で,135億円のマイナスになる。懸 念される純資産も7年目でマイナス74億円となるものの,10年末にかけ回復 していく。

表3 景気拡大局面における資産,負債,利益の変化(年払い養老の場合)

(出所)筆者が計量モデルにより分析。

11) マイナスは利差損を意味する。

(11)

2つの局面の利差益を比べると,景気の拡大局面の利差益は145億円のプ ラスに対し,後退局面でのそれは135億円のマイナスと1景気循環を通して みれば収益のバランスは崩れていない。すなわち,①現行の会計方式(資 産:時価,負債:簿価)を前提とし,②負債の期間にマッチングした債券運 用を行い,③新規契約の予定利率を迅速に市場金利に合わせ変更し,④毎年 配当ではなく最終配当を採用,そして,⑤大きな解約が発生しない場合には,

確実に健全性は維持される。

つまり茶野(2002)が指摘する既契約の予定(保証)利率変更以外には外 部環境の変化に対応できないという主張は基本的には正しいものの,上記の 5つの条件がそろえば,経営破綻は避けられる可能性が高い。

⑶ 経営破綻が連続したバブル期とその後の清算期の 年払い 養老保険の 損益

次に,バブル期とバブル清算期に特有の金利を想定し,また保険会社が新 表4 景気後退局面における資産,負債,利益の変化(年払い養老の場合)

(出所)筆者が計量モデルにより分析。

(12)

規契約の予定利率を迅速に市場金利に合わせ変更した場合に同保険会社の財 務収支はどう変化するであろうか。バブル期は低金利局面(概して,大規模 な金融緩和の後発生)から金利が上昇し,ピーク後長期間にわたり,低金利 局面が持続する。

(出所)筆者が計量モデルにより分析。

表5 バブル期および同清算期における資産,負債,利益の変化(年払い養 老保険の場合)

(13)

日本のバブル期を参考に,①景気拡張局面を5年(プラザ合意からバブル ピークまで約5年),後退局面を10年(失われた10年と呼ばれている)とし,

②また,経営破綻の一要因となった高予定利率契約の販売高を2割増加とし たシミュレーション結果を表5に示した。ちなみに表5のカッコ内の数字は 販売量の変化を示し,例えば,1.2倍は販売量が2割増加したことを示す。

当初は金利上昇に伴い資産価格の下落から純資産は負となるが,その後持 ち直し,6年目でピークとなる。その後減少するが大きなマイナスにはなら ない。また,利差益も9年目のピークで100億円を超え,その後低下するも のの,こちらも大きなマイナスには至っていない。

その動きを図1にまとめた。資産評価額は,7年目まで増加するのに対し,

負債(簿価)は保有契約全体への予定利率の波及に時間がかかるため,資産 額(時価)の動きにラグを持ち変化している。11年目から一時純資産がマイ ナスとなるがその額はわずかである。利差益の累積額も9年目でピークとな り,その後金利の低下とともに減少する。

図1 バブル期の金利を想定した資産,負債,利差益の動き(単位:億円)

(14)

以上の分析から,①金利上昇時に年払い養老保険を大量に販売している場 合には純資産が大きくマイナスになるが,景気の拡大局面では企業業績も良 いことから同リスクは顕在化しない。②金利がピークから低下する局面に移 った段階で,純資産がマイナスになる事態が発現する。それを埋めるために 資本が減少するが,利差益を配当しないで内部に留保すればこれを相殺し,

この状態もしのぐことが可能である。③高定利率商品の販売の程度により,

この数字は大きく変動するため,当該保険会社が保有するソルベンシーの多 寡に応じて同商品の販売高をコントロールする必要がある。

⑷ 解約が経営破綻に与える影響

久保(2005) は保険会社の経営破綻に至るまでの流れの最後は 風評に よる流動性リスクの顕在化 と述べ,また,植村(2008)も 不安を感じた 契約者による解約などの資金流出現象が起きた としている。高予定利率契 約の大量販売による⑶の事態に加え保険会社の健全性に不安を感じた契約者 の解約行動がこれを加速する。

そこで,解約が加速する場合のシミュレーションを行う。解約は保有契約 の流出であるが,ここではモデル構造の制約から新契約の減少という形で表 現した。つまり,解約率の5%増加を⑶の分析の6年以降の新規契約が基準 ケースの8割となる想定を置き,シミュレーションを行った。本来は保有契 約を減じるべきであるが,現実には低予定利率の保有契約がまずは解約され るため,新契約で調整してもその差は大きくないと考えられる。分析結果は 表6に掲載した。

解約に伴い純資産と利差益の減少幅が大きくなる。14年目の純資産は解約 無しの場合がマイナス30億円に対し,解約有りの場合にはマイナス48億円と 18億円の悪化がみられる

同様に,解約率10%の増加を解約額を新契約の40%(2013年度の生命保険 会社計とほぼ同じ新契約:保有契約=1:4)として計算すると,純資産の

12) 久保・前掲注8 96頁参照。

(15)

マイナス額は65億円まで拡大する。自己資本比率3%の会社を前提とすると 純資産の3%は約100億円であることから,利差損(33億円)と併せた金額 も約100億となり,経営に大きな影響があることがわかる。

⑸ 一時払い 養老保険の影響

久保 (2005) は経営破綻前の7社計の業績とそれ以外の会社計との業績比 較を行う中で80年代後半のバブル期に大量の 一時払い 商品を販売し,売上 高の押上げを追求している点が破綻会社の特徴としている。猪ノ口 (2013) 表6 解約を反映したバブル期および同清算期における資産,負債,利益の

変化(年払い養老保険の場合)

(出所)筆者が計量モデルにより分析。

13) 久保・前掲注8 93‑96頁参照。

14) 猪ノ口勝徳 民間生命保険会社の予定利率の変遷と生保商品動向 共済総研 レポート2013.2 4‑13頁参照。

(16)

は保険研究所 インシュアランス統計号 から,1981年度〜94年度の個人保 険新契約における一時払い契約の保険料を表7のようにまとめ, この数値 の多くは一時払い養老保険と考えて差支えない としている。一時払い養老 保険が80年代後半のバブル期から1990年のバブルピークにかけて急増したこ とが分かる。この一時払い養老保険は保険会社の経営に少なからず影響を与 えた可能性が高い。

そこで,⑶の保険商品を 年払い 養老保険から 一時払い 養老保険に 替え,シミュレーションを行った。表8は,モデル保険会社の販売商品を 年払い 養老保険と 一時払い 養老保険に分け,資産,負債,利差益の 差を見たものである。年払い養老保険については既出の表4と表5の数字を 再掲載した。

まず,年払い契約のみを販売するモデル保険会社の当初資産は5,409億円 に対し,一時払いの同値は9,366億円と一時払い養老保険を販売することに よる資産の集積効果が高いことがわかる。経営目標に総資産の増加を掲げた 場合,それを達成するには一時払い養老保険の集中販売が効率的であること を示している。また,理論計算した予定利率の水準も年払い契約に比して,

低金利局面で0.4%程度,平均金利局面で0.3%程度高めに設定することが可 能である。一時払い養老保険は保険会社にとって魅力ある商品ということに

表7 一時払い保険の保険料収入の推移 単位:億円

収入保険料 収入保険料

1981 1,816 1986 42,750 1991 22,137 1982 4,462 1987 52,703 1992 24,778 1983 6,683 1988 54,838 1993 24,060 1984 13,983 1989 50,139 1994 16,262 1985 27,646 1990 28,003

(出所)猪ノ口(2013)から抜粋。

収入保険料

(17)

なる。

しかし,リスクの観点から一時払い養老保険を見ると年払いでは景気拡大 局面の10年累計利差益収入がプラス145億円,景気後退局面の同収入がマイ ナス135億円と景気1循環の中ではほぼバランスがとれるのに対し,一払い 養老保険は,各々プラス20億円,マイナス49億円とマイナス額が2.5倍とな っている。また,年始の純資産は,一時払いがマイナス1,139億円に対し,

年払いはマイナス495億円などの一時払い養老保険に特化した場合,純資産 の変動幅が2倍以上の不安定な財務構造を有することとなる。

しかしながら,保険会社の健全性が最も問題になる景気後退期においては,

200億円程度のプラスの純資産を常に確保し,安定感がある。一時払い養老 保険は,保険料全額をすぐに市場金利で投資できることがリスクを低減して いるとも言える。

表8 一時払い契約と年払い契約との比較

(注1)年払いの予定利率は,低金利局面で1.18%,平均金利局面で4.38%,高金 利局面で7.58%。

(注2)一次払いの予定利率は,低金利局面で1.58%,平均金利局面で4.66%,高 金利局面で7.71%。

(出所)筆者が計量モデルにより分析。

(18)

次に,一時払い養老保険について,バブル期とバブル清算期における資産,

負債,利差益の動きを見てみよう。既出の表5の通り,金利上昇局面では一 時払い養老保険の販売量が1.2倍となる想定である。金利上昇局面において は,保険料を一気に投入した後金利が上昇するため,純資産は大きなマイナ スとなるが,この段階では経営破綻懸念から発生する解約の増加は考えにく く(ただ,平常時には利回りの高い金融商品を求めて解約が増える場合も考 えられる),問題は小さいと考えられる。予定利率が高い分,利差益は年払 いに比べ小さいものの数字は安定している。

このように,一時払い養老保険は,負債の期間(正確にはデュレーショ ン)に応じた債券運用をしている限りにおいて,金利低下時に安定的な純資 産の状況となり経営破綻を引き起こす要因とはならない。

したがって,経営破綻のより大きい要因は,久保(2005)が指摘するよう

表9 バブル局面,バブル清算局面における年払いおよび一時払い契約の収 益差異

(出所)筆者が計量モデルにより分析。

(19)

に一時払い養老の大量販売以上にALM(資産負債の統合管理)の欠如が最 大の経営破綻誘発要因ということになる。すなわち,①保険会社が毎年の市 場金利に適合する形で予定利率を設定,②金利変動以外のキャピタルロスを 生む資産である内外の株式や不動産に投資をしない,③負債とデュレーショ ンを合わせた債券投資,を実行すれば一時払い養老の大量販売も破綻リスク を高めることにはならないと言える。

4.結 語

1990年代後半から2000年にかけて日本で発生した生命保険会社の連続経営 破綻の要因分析には多くの重要な先行研究があるが,定性的判断を主眼とし たものが多く,定量的にその要因を分析することも不可欠である。

本稿では資産と負債を同時決定する理論モデルを用いた分析により,新た な知見を得た。

すなわち,一時払い養老保険の大量販売が経営破綻を引き起こすというの は一面では正しいが,ALMを的確に運営している場合にはむしろ破綻防止 のバッファーとなる可能性がある。また,解約率の5%程度(新契約換算20

%の減少)の増加では解約による経営破綻誘発効果はさほど大きくないが,

解約率が10%の増加(新契約換算で40%の減少)になると,その効果は大き くなることもわかった。

一方で,これらの理論モデルではすべての経営破綻要因を説明することは 難しいのも事実である。今後,理論モデルの更なる改善に努め,より多様な 視点から生命保険会社の保険商品戦略や投資戦略が経営の健全性に与える影 響を明らかにしていきたい。

(筆者は滋賀大学大学院経済学研究科博士後期課程)

【主要参考 献】

[1] 猪ノ口勝徳(2013) 民間生命保険会社の予定利率の変遷と生保商品動向 共済総研レポート,pp.4〜13。

(20)

[2] 王美(2014) 中国生命保険会社の健全性監督の変遷とソルベンシー指標に おける金利リスクの評価 生命保険論集188号,pp.50〜68.

[3] 王美,久保英也(2014) 金利変化がソルベンシーⅡとソルベンシー・マー ジン基準に与える影響 保険学雑誌625号,pp.1〜28.

[4] 植村信保(2008) 経営なき破綻―平成生保の危機の真実― 日本経済新聞 出版社。

[5] 大塚忠義(2014) 生命保険業の健全経営戦略 日本評論社。

[6] 久保英也(2005) 生命保険業の新潮流と将来像 千倉書房。

[7] 武田久義(2008) 生命保険会社の経営破綻 成文堂。

[8] 茶野努(2002) 予定利率引き下げ問題と生保業の将来 東洋経済新報社。

参照

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