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1804年 フ ラ ンス抵 当法 の 基 本 的 性 格(4)

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1804年 フ ラ ンス抵 当法 の 基 本 的 性 格(4)

目 次 第1章 序 論 第2章 国 務 院

第1節 序 説(以 上 商 学 討 究 』 第50巻 第2・3合 併 号) 第2節 抵 当 観 の 確 定

第1款 ビ ゴ ・プ レ ア ム ヌ ウ報 告

第2款 レ ア ル報 告(以 上 商 学 討 究 』 第51巻 第1号) 第3款 雨 月12日

第4款 雨 月19日

第5款 ま とめ(以 上 商 学 討 究 』 第51巻 第2・3合 併 号) 第3節 トレ ヤ ー ル 草 案

第1款 ト レヤ ー ル 草 案 第1項 トレ ヤ ー ル 草 案 第44条 第2項 トレ ヤ ー ル 草 案 第49条 第3項 謄 記 規 定

第4項 小 括(以 上,本 号) 第2款 国 務 院 草 案 の 成 立 第3款 ま とめ

第4節 国 務 院 審 議 過 程 分 析 の 総 括 と問 題 提 起 第3章 妻 の 抵 当 権 の 機 能

第4章 検 討 結 語

〔187〕

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ヱ88 第52巻 第1号 第2章 国 務 院

第3節 トレヤ ール 草 案

トレヤ ー ル277)。 ア ル ノー は,彼 を ナ ポ レオ ン に よ る法 典 化 の作 業 に参 加 し た メ ンバ ー の 中 で,最 も 「熱 烈 な 革 命 家r6volutionnaireardent」278)の 一 人 で あ っ た と評 して い る。 確 か に,抵 当 法 制 定 過 程 に 限定 して も,彼 の観 念 は革 新 的 で あ り,1804年 の 抵 当法 が 批 判 を 受 けつ つ も現 在 に至 る まで 全 面 的 な修 正 を免 れ る こ とが で きた 原 因 の1つ は,こ の よ うな彼 の 先 見 性 に 由 来 す る もの で あ ろ う。 も っ と も,1804年 法 は 彼 の意 思 に 沿 っ た もの と は決 して 言 え な い の で あ るが … 。

第1ラ ウ ン ド(雨 月12日 ・19日)は,明 らか に彼 の 敗 北 で あ った が,ナ ポ レ オ ン 暗 殺 計 画 の発 覚279)(レ ア ル の 他 部 会 へ の移 動280))の た め で あ ろ うか, 彼 に は 第2ラ ウ ン ドが 用 意 さ れ る 。 そ して,こ の 第2ラ ウ ン ドで,彼 が 実 に巧 妙 な 方 法 で 自己 の 抵 当観 の 復 活 を試 み よ う と して も,そ れ は特 段 不 思 議 な こ と で は な い で あ ろ う。 もち ろ ん彼 の真 意 は,彼 の 草 案 審 議 中 の発 言 か らは 明 らか に され な い の で,草 案 の 抵 当 観 が(厳 密 な 意 味 で の)共 和 暦7年 法 の そ れ に 類 似 して い る の は,偶 然 の 一 言 で 片 づ け て し ま う こ と も可 能 な の か も しれ な い 。 しか し,結 果 的 に敗 北 に 終 わ る 第2ラ ウ ン ド後 の(す で に こ の 時 期 に は約 束 さ れ て い た281))第3ラ ウ ン ド(民 事 訴 訟 法 典 編 纂)が,こ の 第2ラ ウ ン ドで 実 現 で き なか っ た こ と を再 度 試 み て い る事 実(そ して最 終 的 に彼 は 法 文 上 は勝 利 を収 め る)は,彼 の 執 拗 な 性 格 を証 明 して お り,し た が って,彼 の 草 案 の根 底 に,彼 の 抵 当観 の 実 現 を見 る こ とは,私 の過 ぎた 想 像 で は なか ろ う。

純 粋 に時 間 的 な 理 由 で あ ろ うか 。 共 和 暦12年 風 月3日(1804年2月23日)の トレ ヤ ー ル 草 案282)(以 下 「TR草 案 」 と省 略 す る)は,雨 月19日 の 国 務 院 決 定283)に 従 っ て,破 殿 裁 判 所 案 に修 正 を施 した もの で あ る284)。 大 きな 修 正 点 は2点285)(た だ し先 取 特 権 規 定 を 除 く)。 まず 第 一 に,TR草 案 は,法 定 抵 当権 を登 記 か ら独 立 させ,そ こ か ら生 じ る利 害 調 整 を行 っ て い る。 特 に,TR

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1804年 フ ラ ン ス 抵 当 法 の 基 本 的 性 格(4) 189 トレヤ ール草 案 と破 殿裁 判所 案 の比較 表

トレヤール草 案 先取特 権及 び抵 当権」 に関す る破殿 裁判所 案

第1節 一 般規 定 第1条 一第3条

1

一般 規定 第1条 一第3条

第2節 先取特権 第4条 一第22条

1

第1節 先取特権 第4条 一第13条

第1款 動産上の先取特権 第8条 一第11条 第1款 不動 産上 の先取特 権 第8条 一第11条 第2款 不動産上の先取特権 第12条 第2款 動産上の先取特権 第12条 一第13条 第3款 動 産 及 び 不 動 産 上 の

先取特権 第13条 一 第14条

第4款 先取特権保存の方法 第15条 一 第22条

第3節 抵当権 第23条 一 第54条

1

第2節 抵当権 第14条 一第54条

第1款 法定抵当権 第30条 一 第31条 第1款 法定抵当権 第20条 一第31条

第2款 裁 判上 の抵当権 第32条 第2款 裁判 上の抵 当権 第32条 一第42条

第3款 合 意に よる抵 当権 第33条 一 第42条 第3款 合意 に よる抵 当権 第43条 一第54条 第4款 抵当権相互の順位 第43条 一第54条

第4節 先取特権及び抵当権 第3節 先取特権及 び抵当権

の 登記 の方法 第55条 一 第65条 の登 記の方 法 第55条 一第65条

第5節 登記 の抹 消及 び減殺 第66条 一 第74条 第4節 登記の抹消及び減殺 第66条 一第74条 第6節 第 三 取 得 者 に 対す る 第5節 第 三取 得 者 に対 す る

先取特権及び抵当権 先取特権及 び抵 当権

の 効果 第75条 一 第88条 の効 果 第75条 一第88条

第7節 先取特権及び抵 当権 第6節 先取特権及 び抵 当権

の消 滅 第89条 の消 滅 第89条

第8節 所 有 権 の 強化 並 び に 第7節 所 有権 の強 化 並 び に

先取特権及び抵当権 先取特権 及び抵 当権

か ら所 有 権 を 條 除 す か ら所 有権 を瀞 除 す

る方法 第90条 一 第102条 る方 法 第90条 一第102条

第9節 夫及び後見人の財産 上 に 登 記 が存 在 しな い 場 合 の 妻 及 び未 成 年の法定抵当権灘 除

の 方法 第103条 一 第105条

第10節 帳 簿 の 公 示 及 び保 存

,

第8節 帳 簿 の公 示 及 び保 存

吏 の責任 第106条 一第111条 吏の責 任 第103条 一第108条

草 案 に は,破 殿 裁 判 所 案 に存 在 し な い 第3節 第4款 抵 当 権 相 互 の順 位 』(第43 条 一第54条)と,第9節 夫 及 び後 見 人 の財 産 上 に登 記 が 存 在 しな い 場 合 の 妻 及 び 未 成 年 の 法 定 抵 当欄 條除 の 方 法 』(第103条 一第105条)が 新 た に設 け られ る。

第 二 に,破 殿 裁 判 所 案 で 不 明 瞭 で あ っ た謄 記 規 定 が 復 活 す る(実 際,国 務 院 草 案 に 至 る風 月3日 ・5日 ・10日 ・12日 の 国務 院 で の議 論 の 中 心 は,妻 の 法 定抵

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190 第52巻 第1号

当権 の 制 限 に 関 す るTR草 案 第49条 と,所 有 権 移 転 謄 記 に関 す る もの で,そ 他 の 条 文 は,そ れ ほ ど議 論 さ れ て い ない)。

と こ ろ で,法 定 抵 当権 の 非 公 示 性 の 是 非 は,妻 の債 権 保 護(無 能 力 者 保 護) と信 用(不 動 産)取 引 の 安 全 の何 れ を選 択 す るか とい う よ う な単 純 な も の で な い こ と は,前 節 まで の検 討 で 明 らか で あ る。 しか し,少 な くと も,ト レヤ ー ル の 内心 で は,そ の 非 公 示 性 が 不 動 産 取 引 の足 枷 と な っ て い る と理 解 され て い た (こ れ も単 純 に 非 公 示 抵 当 権 が 第 三 取 得者 あ るい は抵 当 権 者 へ の脅 威 と な る と い う よ う な 〔一 般 的 な〕意 味 で の 足 枷 で は な い こ と も前 節 で確 認 した)。 で は, 彼 は非 公 示 性 に起 因 す る 問 題 を甘 受 した の で あ ろ う か 。 い や,そ の 後 の 議 論 を 参 考 に す る こ とが 許 さ れ るの で あ れ ば,そ れ よ う な推 測 は 否 定 さ れ る べ きで あ ろ う。 そ う で あ れ ば,彼 が 法 定 抵 当権 の 非 公 示 性 を承 認 しつ つ,い か に,そ か ら生 じ る問 題 を 解 決 し よ う と した か,そ して,そ の彼 の 解 決 方 法 が,い か な る理 由 で,否 定 さ れ た か を 検 討 す る こ とが,1804年 法 の性 格 決 定 に お い て 重 要 な意 味 を有 して くる。 した が っ て,本 節 の検 討 が,先 の 二 大 修 正 点 の 前 者 を 中 心 とす る こ とは 必 然 的 な の で あ る 。 も っ と も,コ ー ド ・シ ビ ル全 体 か ら見 る と謄 記 規 定 の 問題 は 非 常 に重 要 で あ り,か つ,後 に み る 謄 記 規 定 の 突 然 の 消 滅 は,法 定 抵 当権 の 議 論 と無 関 係 とは 思 わ れ な い(謄 記 規 定 の 運 命 に 関 して は既 に 多 くの 紹 介 が あ る が,こ の 消 滅 原 因 は 法 定 抵 当 権 の議 論 の 延 長 で位 置 付 け ら れ て い な い)。 そ の た め,こ の 問 題 を避 け て通 る こ と は で き な い で あ ろ う(そ の 他 の規 定 の制 定 過 程 で重 要 と思 わ れ る もの は 脚 註 で簡 単 に紹 介 して い る)。

本 節 で は,ま ずTR草 案 の重 要 部 分 を概 観 し,そ こ か ら彼 の 意 図 を探 る(第 1款)。 特 に,後 の 第2135条 と な るTR草 案 第44条,同 じ く 第2140条 と な る TR草 案 第49条 が,重 要 で あ る。 そ して,次 に 国 務 院 の 議 論 に付 さ れ た 草 案 の 中 心 的 部 分 に修 正 が 加 え られ る経 緯 を概 観 す る(第2款)。

た だ残 念 な こ とが あ る。 トレヤ ー ル 草 案 の審 議 は,抵 当 法 の 性 格 を 知 る上 で 非 常 に興 味 深 い の で あ る が,こ こ で の 審 議 が,あ ま りに も法 定 抵 当権 の 問 題 に 集 中 した た め に,合 意 に よる抵 当権 の 公 示(登 記)と,そ の 「特 定 の 原 則 」 の 意 義 が,ほ とん ど論 じ られ て い な い286)。 問 題 は,こ の こ と を,い か に 理 解 す

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1804年 フ ラ ンス 抵 当 法 の 基 本 的 性 格(4)191

べ き か で あ る が,こ の 点 に つ い て は,後 に 検 討 す る こ と に な る で あ ろ う287)288)。

第1款 トレヤ ー ル 草 案

前 節 で確 認 した トレ ヤ ー ル の 法 定 抵 当 観 を 前 提 と しつ つTR草 案 を眺 め るの で あ れ ば,結 論 か ら述 べ る と,彼 の 試 み は,端 的 に 次 の よ うな もの で あ っ た と 思 わ れ る。 共 和 暦7年 法 は,法 定 抵 当権 を全 面 的 に 公 示 法 理 に服 させ る こ と に よっ て抵 当 権 自体 を公 示 す る こ とを 目的 と した が,TR草 案 は,夫 婦 財 産 契 約 で の 法 定 抵 当 権 の 全 面 的 放 棄 を承 認 す る こ と に よ っ て,(公 証 人 慣 行 に依 拠 〔 1394条 〕 した 不 完 全 な もの で あ る289)が)法 定 抵 当権 の 不 存 在 を公 示 し,こ れ に よ っ て,事 実 上,共 和 暦7年 法 と 同様 の 結 果 に到 達 しよ う と した の で あ る 。 とす れ ば,彼 に とっ て 草 案 中 で 重 要 な の は,国 務 院 決 定 の 中 心 で あ っ たTR草 案 第44条 で は な く,む し ろTR草 案 第49条 で あ っ た とい う こ とに な る。 ま た, 後 に見 る よ う に(本 節 第2款 第2項 参 照),彼 は 謄 記 を登 記 の 理 論 的 前 提 と し

て位 置 付 け て い た の で,こ の試 み が 実 現 され る こ とに よ っ て始 め て,コ ー ド ・ シ ビル に謄 記 制 度 を導 入 す る こ と に意 味 を与 え る こ とが で きる 。そ の意 味 で も, TR草 案 第49条 は 重 要 な も の で あ っ た 。 本 款 で は,第 一 修 正 点 の 法 定 抵 当権 規 定 中 の,国 務 院 決 定 の 中心 的 規 定 で あ るTR草 案 第44条(第1項)と,ト レヤ ー ル が 後 に 最 も執 着 す るTR草 案 第49条(第2項),そ して,最 後 に第 二 修 正 点 の 謄 記 規 定(第3項)を 検 討 す る こ とに よ って,ト レヤ ー ル の 目論 見 を 明 らか

に して い こ う290)。

第1項 トレヤ ール 草 案 第44条

(イ)抵 当 観 の 確 定 に至 る まで の 過 程 で 最 も 問 題 と な っ た の が,法 定 抵 当 権 と登 記 の 関係 で,国 務 院 は,法 定 抵 当 権 を登 記 に従 属 させ る共 和 暦7年 型 の 抵 当 観 を 否 定 し た(本 章 第2節 第4款)。 こ の 決 定 に 従 っ て,TR草 案 は,一 方 で全 て の 抵 当 権 が 登 記 され る とい う原 則 を掲 げつ つ(TR草 案 第43条 後 の 第2134条 〕),他 方 で 妻 の法 定 抵 当 権 の存 在(TR草 案 第30条 後 の 第2121条 〕 第2項291))と そ の 包 括 性(TR草 案 第31条 後 の 第2122条 〕)を 承 認 し,さ

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192 第52巻 第1号

に そ れ が 登 記 と は 無 関係 に成 立 す る こ と を 宣 言 す る(TR草 案 第44条)。 そ の た め に,合 意 に よる 抵 当権 と法 定 抵 当権 の 順 位 を 調 整 す る必 要 が あ っ た 。 そ こ で,抵 当権 に 関す る 節(第3節)に,破 殿 裁 判 所 案 に は存 在 し なか っ た新 た な 款,す な わ ち 『抵 当 権 相 互 の 順 位 』(第4款)が 設 け られ るわ け で あ る。 また, そ こ に は共 和 暦8年 草 案 に欠 け て い た 「嫁 資 」(本 章 第1節(ハ)(B)参 照) に つ い て の 規 定 も盛 り込 まれ て い る 。 まず は,国 務 院決 定 を 明文 化 したTR草 案 第44条 を分 析 して い こ う292)。

本 条 は後 の 第2135条 の プ ロ トタ イ プ で あ るが,そ こ に は まだ 第2項 以 下 が 存 在 し な い。

「TR草 案第44条 以 下 の抵 当権 は,全 て の登 記 とは無 関係 に成 立す る。

1未 成 年 は,財 産管 理 の ため に,後 見受 諾 の 日か ら後 見 人 に属 す る不動 産 に, そ して,法 律 に基づ い て 後見 監 督 人 が責 任 を負 う場 合 に は後見 監 督 人 の不 動 産上 に抵 当権 を有 す る。

2妻 は,嫁 資及 び夫 婦財 産契 約 の ため に,夫 に属 す る不動 産上 に婚姻 の 日か ら 抵 当権 を有す る[傍 点 は原 文 イ タ リック]。

本 稿 との 関 係 で 重 要 な の は,第2号 で あ る。 以 下 で は本 号 に対 す る数 点 の 疑 問 を提 示 す る に留 め,そ れ に対 す る評 価 は 後 に行 う(本 款 第4項)。

(ロ)本 号 自体 は,若 干 の 文 言 の 修 正 を経 て293),1804年 法 第2135条 第1 項 第2号 とな るの で あ る が,本 号 の 文 言 上 の 不 明 瞭 は1841年 ア ンケ ー トで も問 題 と さ れ て い る294)。 同 条 は,法 定 抵 当 権 成 立 時 を 「婚 姻 の 日か らacompter dujourdumariage」 と規 定 し て い る が,こ れ は具 体 的 に は何 時 を指 す の で あ ろ うか とい う点 で あ る 。 理 論 的 に は,婚 姻 の挙 式c616brationdumariageの (コ ー ド ・シ ビ ル 第165条 参 照)と,夫 婦 財 産 契 約 の 日が 考 え られ る が,そ い ず れ で あ る か は 法 文 上 明 らか で は な い295)。 確 か に,夫 婦 財 産 契 約 自体 が 存 在 しな けれ ば 夫 婦 財 産 契 約 日は 問 題 と な らな い の で,法 定 抵 当権 の 成 立 時期 が 前 者 で あ る こ と は明 らか で あ る。 しか し夫 婦 財 産 契 約 が 存 在 す る場 合 に 問 題 が

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1804年 フ ラ ン ス抵 当 法 の 基 本 的 性 格(4) ヱ93 生 じる 。 こ の場 合 に は夫 婦 財 産 契 約 日 と考 え るの が 自然 な の か も しれ ない が, 沿 革 的 に妻 の抵 当 権 は,公 証 人 証 書 に よ る抵 当 権 と密 接 な 関 係 を有 して お り, 仮 に,こ の 場 合 に 夫 婦 財 産 契 約 日に 法 定 抵 当権 が 成 立 す る の で あ れ ば,そ れ は

法 定」 抵 当権 と はい え な い の で は な い か と考 え られ る か らで あ る 。

こ の 点 に 関 して,共 和 暦8年 草 案 は,(理 論 的 な 正 否 は 別 と して も)明 確 な 規 定 を 設 け て い た296)。

共 和 暦8年 草 案 第3編 第6章 第19条 第1項 共 通 制 の 妻 は,夫 婦 財 産 契 約 上 の 全 て の 取 戻 権,譲 渡 され た 固 有 財 産 の 再 運 用leremploidesespropresali6n6s,

及 び 夫 と と も に 負 担 し た 債 務 の 補 償1'indemnit6desdettesauxquelleselle s'estoblig6eavecsonmariの た め に,そ の 点 に 関 す る 何 ら の 合 意 が 存 在 し な い 時 で あ っ て も,夫 婦 財 産 契 約 日,も し く は夫 婦 財 産 契 約 が 存 在 し な い 時 に は 婚 姻 の 挙 式 か ら,夫 の 財 産 上 に 法 定 抵 当 権 を有 す る[傍 点 は 引 用 者 に よ る]。」

共 和 暦8年 草 案 が,こ の よ う な規 定 を設 け て い た以 上,こ こ に疑 義 が 生 じる こ とは 当 然 に予 測 で きた は ず で あ る 。 そ こ で,な ぜ トレヤ ー ル は,こ こ ま で妻 の 法 定 抵 当 権 の 条 文 を簡 略 化 した の か が,疑 問 と して残 る 。

(ハ)法 文 の 簡 略 化 に対 す る疑 問 は,そ れ だ け で は な い 。 直 前 で 見 た 共 和 暦8年 草 案 の 条 文 は,「 再 運 用 」297)と 夫 と の 債 務 負 担 」298)に 起 因 す る債 権 を法 定 抵 当権 の 被 担 保 債 権 とす る 旨 を明 言 して い る。ま た,破 殿 裁 判 所 案 も, (法定 抵 当 権 を登 記 に従 属 させ る 以 上,共 和 暦8年 草 案 やTR草 案 と同 列 に扱 う こ とは で き な い の で あ る が,)そ れ に 関 す る規 定 を設 け て い た299)。

破 殿裁 判所 案 第27条 妻 は,譲 渡 され た財産 の再 運用,あ る いは夫 とと もに負担 した債務 の補 償 のた めの債 権 に関 して,当 該行 為 の後 に行 われ る登 記 の 日か ら の み,抵 当権 を有 す る。債 務 の補償 に関 して,妻 が 債務 を負担 した債権 者 が夫 の財 産上 に取 得 した登 記 は,そ の 日か ら,妻 にた め に行 わ れた もの と見 な され る。

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194 第52巻 第1号

何 れ の草 案 もが,こ の 問題 に 強 い 関心 を有 して い た の で あ る が,TR草 案 は, この 点 に何 ら言 及 して い な い 。 な ぜ で あ ろ うか 。 恐 ら く2つ の解 釈 が 可 能 で あ ろ う。

(A)ま ず,ト レヤ ー ル は,こ の2つ の 債 権 を 法 定 抵 当権 の 被 担 保 債 権 と しな い と考 え て い た可 能 性 は否 め な い 。とい う の も,こ の2つ の 妻 の 抵 当権(特 に そ の 成 立 時 期)は,(直 後 で 見 る よ う に)す で に 革 命 期 以 前 で さ え 問 題 視 さ れ て お り,ま た 彼 自身,妻 の 夫 との 連 帯 債 務 負 担 自体 に 否 定 的 だ っ た300)か

らで あ る。 さ ら に,彼 は 後 の 議 論 で 妻 が 婚 姻 時 に全 財 産 を夫 に贈 与 し得 る こ と を根 拠 に,妻 の 法 定 抵 当 権 の 全 部 放 棄 を正 当 化 す る(本 節 第2款 第1項 参 照) が,こ れ は 法 定 抵 当権 が 持 寄 財 産 返 還 だ け を 目的 とす る との理 解 に よ っ て の み, 論 理 的 と思 わ れ る。

い ず れ せ よ,こ の2つ の 債 権 を被 担 保 債 権 とす る こ とは 近 世 に お い て 問題 視 さ れ つ つ も,そ れ は非 常 に 重 要 な機 能 を有 して い た。 とす れ ば,仮 に彼 が これ らを被 担 保 債 権 か ら除外 す る意 図 を 有 して い た とす れ ば,そ れ は 法 定 抵 当権 の 性 質 を大 き く変 え よ う と試 み て い た とい う こ と を意 味 す るで あ ろ う。

(B)も ち ろ ん,彼 は 「嫁 資 及 び 夫 婦 財 産 契 約 の た め にpourraisonde leurdotetconventionsmatrimonialesマ マ」 とい う文 言 に,そ れ を含 ませ た と 考 え る こ と もで き,む しろ,こ の解 釈 の 方 が 自然 な の か も しれ な い 。 しか し, こ の解 釈 を採 る と,さ らな る疑 問 が 生 じる。 つ ま り,こ の 種 の 債 権 を担 保 す る 法 定 抵 当 権 と,そ れ 以 外 の もの との順 位 調 整 が,な ぜ 行 わ れ て い な い の か とい う そ れ で あ る。

とこ ろ で,TR草 案 第44条 は,後 に,第2項 ・第3項 ・第4項 が 追加 さ れ る 。 特 に本 稿 との 関係 で 重 要 な 国 務 院最 終 草 案 第44条(後 の 第2135条)第3項301) は,次 の よ うな規 定 で あ る 。

「国 務 院 最 終 草 案 第44条 第3項 妻 は ,夫 とと もに負担 した債務 の補 償,及 び夫 に よ っ て 譲 渡 され た 固 有 財 産 の 再 運 用 の た め に,債 務 負 担 も し く は売 却 の 日 か ら, 抵 当 権 を 有 す る[傍 点 は 引 用 者 に よ る]。」

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1804年 フ ラ ン ス 抵 当 法 の 基 本 的 性 格(4) 195 これ は,明 確 に共 和 暦8年 草 案 の 立 場 を否 定 した もの で,次 の よ うな 理 由 で, 後 に 護 民 院へ の 非 公 式 伝 達 時 の所 見 に基 づ い て(TR草 案 第44条 の 後 身 で あ る) 国務 院 草 案 第44条 に付 加 され た もの で あ る 。 護 民 院立 法 部 曰 く。

「[被担 保]債 権 を 発 生 さ せ る 行 為 の 存 在 前 に ,抵 当権 が 存在 す る とい うの は正 当 で は な い 。 そ し て,妻 が,後 日 に債 務 を 負 い,あ る い は 売 却 を 行 っ た に も拘 わ ら ず,そ れ 以 前 に 夫 と契 約 を締 結 した 債 権 者 あ る い は 取 得 者 を 凌 駕 す る と い う の は 不 愉 快 で あ る 。[し た が っ て,]こ の 不 正 の 源 を消 滅 させ ね ば な ら な い 。」302)303)

詳 し く は別 稿 で 論 じ る予 定 で あ る が,共 和 暦8年 草 案 の 態 度 は,(ト レヤ ー ル や グ ル ニ エ が 語 る よ う に)パ リ高 等 法 院 判 例 の 立 場 で あ っ た304)。 勿 論, 護 民 院 は この 革 命 前 の 実 務 を批 判 し て い る の で あ る が,し か し,護 民 院 の発 言 だ け で は,な ぜ,夫 が,妻 を利 用 し て,自 らの 債 権 者 を凌 駕 させ る よ う な こ と を 行 う の か(夫 に何 の メ リ ッ トが あ る の か)が 明 らか で な い。 実 を言 う と,こ の よ う な批 判 は,既 に ポ チ エ の著 作 の 中 に 見 られ る 。 そ して,妻 の 抵 当権 が 夫 の信 用 獲 得 の 手 段 と して 利 用 され て い た事 実 が,こ の 批 判 か ら理 解 され る 。 ポ チ エ 曰 く。

「夫 の 全 て の 財 産 が ,夫 が単独 で債 務 を負 っ た婚姻 後の債 権者 に よって物 的差押 の 対 象 と な っ て い る に も拘 わ らず,夫 が,妻 と共 同 お よ び 連 帯 で 他 の 者 に 対 して 債 務 を負 担 し た 時,こ の 状 態 に お い て,妻 と彼 女 が 債 務 を負 っ た債 権 者 は,夫 婦 財 産 契 約 日の 抵 当権 を付 与 され ね ば な ら な い の で あ ろ うか?。 一 旧債 権 者 は,こ れ に対 して 異 論 を 呈 す る こ と に つ い て 非 常 に 正 当 な 理 由 を有 し て い る 。1.な ぜ な ら,こ の[後 続]債 務 は,偽 りの 債 務 の 疑 い が あ る か らで あ る。2.な ぜ な ら,そ れ が 偽

りで は な い と して も,旧 債 権 者 に 適 法 に 支 払 うべ き もの を 彼 か ら失 わ せ る た め に, 新 債 務 に 妻 を 介 入 させ る こ と に よ っ て,夫 が 旧 債 権 者 に 反 し た 行 動 を お こ な う こ

と は,不 正 だ か らで あ る[傍 点 は 引 用 者 に よ る]。」305)

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ヱ96 第52巻 第1号

こ の 一 節 の 真 に 意 味 す る と こ ろ は後 に 詳 し く見 る(も っ と も,こ の 点 につ い て は既 に 簡 単 に で は あ る が触 れ て い る 〔本 章 第2節 第1款 第3項(二)・ 同第 4款(ホ)参 照 〕)が,要 す る に,ポ チ エ は,妻 の 抵 当 権 の遡 及 効 は,妻 の た め で は な く,夫 の後 続 債 権 者 の た め(言 い 換 え る と夫 が 新 た な信 用 を得 る た め) に機 能 して お り,そ うで あ れ ば,(妻 の 保 護 と は無 関係 で あ る以 上,)こ の 判 例 に合 理 的 な 理 由 は な い とす る わ け で あ る 。 そ して,護 民 院 は,こ の 認 識 を共 有 し て い た か らこ そ,修 正 案 を提 出 した の で あ ろ う。

と こ ろ で,彼 が 再 運 用 と妻 の 連 帯 債 務 負 担 に起 因 す る債 権 を 法 定 抵 当権 の 被 担 保 債 権 に す る意 思 を有 して い た とす れ ば,法 文 か らの 論 理 的 帰 結 は,妻 の 有 す る全 て の 債 権 に 同 一 日付 の抵 当 権 を付 与 す る と言 う こ と に な る 。 で は,こ の こ と は,彼 が,こ の よ う な革 命 前 の 処 理 に 疑 問 を感 じて い な か っ た こ とを 意 味 す るの で あ ろ うか(言 い 換 え る と,後 続 債 権 者 に先 行 債 権 者 を凌 駕 す る手 段 を 与 え る こ とを 是 認 した の で あ ろ うか)。 あ る い は,こ の よ う な 問 題 自体 を認 識 して い な か っ た こ と を意 味 す る の で あ ろ うか 。 否 で あ る。 本 稿 は,妻 の連 帯 債 務 負 担 が 夫 の 債 権 者 に 妻 の 抵 当権 を利 用 させ る 目的 で行 われ て お り,そ れ が 妻 の保 護 に機 能 して い な い と,彼 が 認 識 し,か つ そ れ を 非 難 して い た こ と,さ ら に は連 帯 債 務 負 担 自 体 に 否 定 的 で あ っ た こ と を確 認 し て い る306)。 とす れ ば, (遡 及 効 を承 認 す る こ と に よ っ て)妻 の連 帯 債 務 負 担 を積 極 的 に是 認 す る よ う な規 定 を,な ぜ 存 続 させ た の か が 大 き な疑 問 と して残 る 。

恐 ら く,こ の よ う な様 々 な疑 義 を残 す 規 定 を設 け た こ とは,次 のTR草 案 第 49条 の 趣 旨 と関 係 して く るの で あ ろ う。 つ ま り,こ の よ う な遡 及 効 に 基 因す る 問題 を残 して お い て も,実 際 上,こ の よ う な 問 題 を顕 在 化 させ な い 工 夫 が 凝 ら さ れ て お り,そ れ がTR草 案 第49条 な の で あ る。

第2項 トレヤ ール 草 案 第49条

(イ)恐 ら く,ト レヤ ー ル に と っ て重 要 で あ っ た の は,TR草 案 第44条 で は な く,こ の(後 の 第2140条 の プ ロ トタ イ プ で あ る)TR草 案 第49条 で あ っ た と思 わ れ る。 実 際,国 務 院 で は本 条 を巡 っ て 激 しい 攻 防 が 繰 り広 げ られ る こ と

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1804年 フ ラ ン ス 抵 当 法 の 基 本 的 性 格(4) 197 に な るで あ ろ う。

本 条 は,法 定 抵 当権 の 事 前 放 棄 ・制 限 に 関 す る規 定 で あ る。 妻 の合 意 を条 件 と した 法 定 抵 当 権 の制 限 に 関す る 諸 条 文 は,ボ ナ パ ル トの 提 案 に よる もの307)

(婚 姻 前 の 制 限 に 関す るTR草 案 第49条,婚 姻 中 の制 限 に関 す る 〔後 に第2144 条 と な る〕第53条308)・ 〔後 に 第2145条 とな る〕第54条309))で あ るが,本 稿 は, 特 に 本 条 に注 目す る。

「TR草 案 第49条 夫 婦 財 産 契 約 に お い て ,当 事者 が夫 の 全 ての不 動 産 に登 記 を行 わ な い こ と を合 意 した 時,あ る い は,1つ の 不 動 産 も し くは 複 数 の 不 動 産 の み に 登 記 を 行 う こ と を 合 意 し た 時,夫 の 全 て の 不 動 産,あ る い は 登 記 で 指 示 さ れ なか っ た 不 動 産 は,妻 の 嫁 資 ・取 戻 権 の た め の 抵 当権 か ら解 放 さ れ る[傍 点 は 引 用 者 に よ る]。」

本 条 は,夫 の 不 動 産 を法 定 抵 当 権 か ら解 放 す る 手段 を与 え る こ と に よ っ て 夫 を保 護 す る と同 時 に,そ れ を公 示 す る こ とに 利 益 を付 与 し,よ っ て(後 に 第2136 条 と な る)TR草 案 第45条 と相 侯 っ て,夫 に よ る法 定 抵 当権 の公 示 を助 成 す る こ と を 目的 と して い る310)。 こ れ が ナ ポ レ オ ンの 発 言 か ら着 想 を得 て い る こ と は 明 か で あ る が,し か し彼 の 意 図 は 「特 定 」 不 動 産 上 の 法 定 抵 当 権 の放 棄(す な わ ち法 定抵 当 権 の 制 限)で しか な く,全 て の 放 棄 を認 め る もの で は な か っ た 。

(ロ)ト レヤ ー ル は,ナ ポ レオ ンの 発 言 を根 拠 と した 本 条 を巧 妙 に 利 用 し,

法 定 抵 当 権 の 事 実 上 の 廃 止 」 とい う方 法 に よ っ て,彼 の抵 当観 に適 合 的 な 抵 当 法 を起 草 し よ う と した 。本 稿 は次 の よ う な 理 由 で こ の よ う な仮 説 を提 示 す る 。 す な わ ち,彼 が 最 後 まで 頑 強 に 法 定 抵 当権 の 特 定 ・公 示 を主 張 して い た こ と, 法 定 抵 当権 制 度 自体 に懐 疑 的 で あ っ た こ と,そ の 非 公 示 性 に起 因 す る複 雑 な 不 動 産 取 引 方 法(妻 の 参 加)に 否 定 的 で あ っ た こ と,彼 の 夫 婦 観311),さ らに は TR草 案 第44条 の簡 潔 性 。 現 に,他 の 国務 院 メ ンバ ー 達 は,本 条 の 趣 旨 を,こ の よ う な もの と捉 え るで あ ろ う。

共 和 暦7年 法 は,妻 に法 定抵 当 権 の登 記 を要 求 した た め に,そ の発 生 に 合 意

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198 第52巻 第1号

を必 要 と は しな い が,そ の保 全 を欲 す る 者(妻)に 一 定 の行 為(登 記)を 要 求 した。 国 務 院 で は,ま さ に この 点 が 問 題 視 さ れ た の で あ る。 した が っ て今 後, 妻 の手 続 不 遵 守 に 制 裁 を加 え る こ とは で き な い。 と こ ろが,ト レヤ ー ル は,夫 婦 財 産 契 約 で の法 定 抵 当権 の 全 面 放 棄(法 文 上 は 法 定 抵 当権 の 全 面 的 未 登 記 の 合 意 で あ るが,後 の 議 論 で の トレ ヤ ー ル の 発 言 に よれ ば,本 条 は,法 定抵 当 権 自体 の 全 面 的 放 棄 の 有 効 性 を承 認 した もの で あ る)を 認 め,そ の 不 存 在 を全 面 的 に合 意 の 効 力 に従 属 させ た 。 こ れ に よっ て 法 定抵 当 権 に(実 質 的 に)合 意 的 性 質 を持 た せ,公 証 人 慣 行 を媒 介 と した(夫 婦財 産 契 約 の)公 示 機 能 を用 い た 法 定 抵 当 権 の 不 存 在 の 公 示 に よ っ て,法 定 抵 当権 を全 面 的 な 公 示 の 法 理 に服 さ し め よ う と した の で あ る。 つ ま り,夫 の 手 続 不 遵 守(夫 婦 財 産 契 約 締 結 と,夫 婦 財 産 契 約 へ の 法 定 抵 当権 全 面 放 棄 約 款 の 不 挿 入,あ る い は特 定 不 動 産 へ の 登

記)に 制 裁 を転 化 し,こ れ に よ っ て法 定 抵 当 権 の事 実 上 の全 面 公 示 化 を 試 み た との 推 測 が 可 能 で は なか ろ うか 。 恐 ら く,こ の規 定 の 行 き着 く先 は,夫 婦 財 産 契 約 に お け る法 定 抵 当 権 全 面 放 棄 約 款 の 一 般 化 で,結 果,登 記 の 不 存 在 は,当 該 不 動 産 が 法 定 抵 当権 か ら解 放 され て い る こ とを推 測 させ る よ う に な る 。確 か に,こ の よ う な規 定 が 存 在 す るの で あ れ ば,婚 姻 時 に不 動 産 を所 有 す る 夫,あ るい は,婚 姻 後 に不 動 産 を所 有 す る で あ ろ う夫 で,後 に信 用 取 引 を行 う可 能 性 の あ る者 は,夫 婦 財 産 契 約 で 取 り敢 え ず この よ うな 約 款 を挿 入 す る で あ ろ う こ と は,容 易 に想 像 で き る。 端 的 に,そ して,誤 解 を恐 れ ず に 言 うの で あ れ ば,

トレ ヤ ー ル は,法 定 抵 当権 の 廃 止 を試 み よ う と した の で あ る 。

(ハ)こ の よ う な理 解 は,国 務 院 決 定 に至 る まで の トレヤ ー ル の発 言 か ら 十 分 に推 測 可 能 な範 囲 を逸 脱 す る も の で は な い と思 わ れ る。 そ して,こ の よ う に解 す る こ とに よ っ て始 め て,TR草 案 第44条 の簡 潔 性 が 理 解 可 能 とな る。 彼 が 真 の 意 味 で 登 記 か ら独 立 した 形 で の法 定 抵 当権 の 存 続 を承 認 す るつ も りで あ れ ば,TR草 案 第44条 は,革 命 前 の 学 説 を 参 考 に しつ つ 極 め て複 雑 な利 害 調 整 を行 わ ね ば な らず,し た が っ て,こ の規 定 は非 常 に 複 雑 な もの と な らざ る を得 ない 。 と こ ろが,彼 が そ の よ う な努 力 を怠 っ た こ と は,法 定 抵 当権 をTR草 第49条 に よ っ て公 示 の 法 理 に 従 属 させ よ う と した,あ る い は 法 定 抵 当権 を廃 止

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1804年 フ ラ ンス抵 当法の基 本 的性格(4)199

しよ う と した か ら に他 な らな い 。 つ ま り,法 定 抵 当 権 は夫 婦 財 産 契 約 段 階 で 放 棄 され る運 命 に あ る の で,そ こか ら生 じ る 問 題 を 詳 細 に規 定 す る必 要 は な い と考 え た の で は な か ろ うか 。 実 際,国 務 院 で は,こ の 全 面 的 放 棄 の合 意 の 有 効 性 を トレヤ ー ル は 強 硬 に 主 張 す る で あ ろ う。

もっ と も,こ の よ う な推 測 に対 して は反 論 が 予 測 され る。 つ ま り,TR草 は夫 の 登 記 義 務 規 定(TR草 案 第45条 後 の 第2136条 の 原 型 〕)に よ っ て そ の 公 示 化 を試 み て お り,そ の不 存 在 の公 示 と い う方 法 を採 る 必 要 が な い とい う も の で あ る。 し か し,TR草 案 第45条 に よ っ て そ れ が 公 示 さ れ た と して も,(登 記 に よっ て 登 記 日 に抵 当権 が 対 抗 力 を有 す る とい う構 造 に な っ て い な い 以 上,) そ の こ とは 法 定 抵 当 権 の遡 及 効 に よる 問 題 に何 ら解 決 方 法 を与 え る もの で は な い 。 そ の 結 果,や は りTR草 案 第45条 が 存 在 した と して もTR草 案 第44条 は複 雑 な規 定 と な ら ざ る を得 な い はず で あ る。 つ ま り,ト レヤ ー ル が 法 定抵 当 権 の 存 続 を 前 提 にTR草 案 第45条 を 公 示 の為 の 中心 的 規 定 と考 えて い た とす れ ば, TR草 案 第44条 が 簡 潔 で あ る理 由 は 説 明 で き ない の で は なか ろ うか 。

さ ら に次 の よ う な批 判 も考 え られ 得 る 。TR草 案 第44条 の 簡 潔 性 は,前 記2 債 権 の被 担 保 債 権 性 を否 定 す る もの で あ り,そ う で あ る とす れ ば,TR草 案 第 49条 で 法 定 抵 当権 の 廃 止 を 試 み ず と も,難 問 は解 決 され る と。確 か に,後 述(本 款 第4項)の よ う に 著 者 はTR草 案 第44条 の 趣 旨 を そ の よ う な もの と捉 え て い る。 そ して,こ れ に よ っ て 妻 の 債 務 負 担 の利 益 は減 殺 され る こ とに な るで あ ろ う。 しか し,こ の こ と はそ の利 益 を完 全 に 否 定 す る こ と に は な らず,ま た仮 に, こ れ に よ っ て そ れ が 否 定 され た と して も,法 定 抵 当権 の 非 公 示 性 に基 因 す る 問 題 は,そ れ に留 ま る わ け で は な い 。 した が っ て,TR草 案 第44条 の被 担 保 債 権 の 制 限 は,ト レヤ ー ル に と って は最 後 の 「保 険 」 の 意 味 しか 有 さ な か っ た と思 わ れ る 。

第3項 謄 記規定

(イ)法 定抵 当権 の全面放棄 約款 の承 認が,法 定抵 当権 の廃止,言 い換 え るな らば全 ての抵 当権 の全面的公示 法理へ の従属化 の 目論見 と密接 に絡 んでい

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200 第52巻 第1号

る との推 測 は,後 の 謄 記 を巡 る議 論 を概 観 す る こ と に よ っ て,よ り強 固 な もの と な る で あ ろ う。 後 述 の よ うに,ト レヤ ー ル は謄 記 を抵 当権 公 示 の 前 提 と捉 え て お り,し た が っ て 謄 記 導 入 の 決 定 前 に,抵 当 権 の全 面 登 記 を獲 得 して お く必 要 が あ っ た は ず で あ る。 と こ ろ が,後 の 彼 は,謄 記 導 入 に は,(少 な く と も TR草 案 第49条 と比 較 す る と,)そ れ ほ ど熱 意 を示 して い な い。なぜ で あ ろ う か。

国 務 院 に お け る謄 記 規 定 の議 論 以 前 の 議 論 ら しい 議 論 は,TR草 案 第49条 の 全 面 放 棄 約 款 の 承 認 の有 無 だ け で あ っ た。 そ して,そ の 承 認 が 否 定 され た後 の, 謄 記 導 入 に 熱 意 的 で な い ト レヤ ー ル 。 当該 約 款 が 法 定抵 当 権 の全 面 的 公 示 と密 接 な 関 係 に あ る こ と を推 測 す る論 拠 は,ま さ に こ こ に あ る。 詳 し くは後 述 す る

と して,草 案 中 の 謄 記 規 定 を見 て お こ う。

(ロ)ト レヤ ー ル は,所 有 権 の 有 償 的移 転 の 謄 記 に 関 す る規 定 を復 活 させ る 。破 殿 裁 判 所 案 は,共 和 暦7年 法 を基 礎 と し なが ら も,謄 記 に 関 し て は非 常 に不 明 瞭 な 条 文 を設 け て い た312)。 しか し,ト レヤ ー ル は 明 確 に共 和 暦7年 へ の復 帰 を試 み る。

「TR草 案 第90条 ① 第 三取 得者 が先 取 特権 ・抵 当権 の源 除 を欲 す る所 有権 の 移転 契約 は,当 該 財 産の位 置 す るア ロ ンデ ィスマ ン内 の抵 当権 保 存吏 に よっ て,そ の全 体が 謄記 され る ことを要 す る。

謄記 は,こ の 目的 の ため に設 け られた帳 簿上 に行 わ れ,保 存吏 は,申 請 者 に 対 して その確 認 を与 え る義務 を負 う。

「TR草 案 第91条 所 有 権 の 移 転 証 書 は ,謄 記 され なか った時,同 じ売 主 と契 約 を 締 結 し,か つ 本 条 の 規 定 に 従 っ た 第 三 者 に 対 抗 す る こ と を得 ず 。」

「TR草 案 第92条 ① 保存 吏 の帳 簿へ の 所有 権 の移 転名 義 の単 な る謄記 は,不 動産 上 に存在 す る抵 当権 ・先取 特権 を源除 す る もので はな い。

それ は,新 所有 者 に,前 所有 者 に属 す る権 利 を伴 って のみ 移転 す る。 新所 有 者 は,そ の不 動 産 が 目的 と され たの と同 じ先 取 特 権 あ るい は抵 当権 を 負担 す

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1804年 フ ラ ン ス 抵 当 法 の 基 本 的 性 格(4) 201

る 。」

破 殿 裁 判 所 案 に は,TR草 案 第92条 に該 当 す る もの しか な か っ た(破 殿 裁 判 所 案 第90条)が,ト レヤ ー ル は,そ の条 文 の 直 前 に2つ の条 文 を設 け た。 まず TR草 案 第90条 で,謄 記 を條 除 の前 提 と して 位 置 づ け,さ らに,TR草 案 第91 条 に 共 和 暦7年 法 第26条 を修 正 した 条 文 を置 くわ け で あ る。 つ ま り,こ こで は 源 除 の 前 提 と し て の謄 記 と,所 有 権 移 転 対 抗 要 件 と して の謄 記 とい う,2つ 機 能 が 担 わ され た。 彼 が,こ の よ う な 条 文 を設 け るで あ ろ う こ と は,先 行 す る 議 論 か ら容 易 に想 像 す る こ とは で き た で あ ろ う。 した が っ て,こ こで は 条 文 を 示 す だ け に留 め て お く。

第4項 小 括

(イ)本 稿 との 関 係 で 重 要 と思 わ れ た 破 殿 裁 判 所 案 と トレヤ ー ル草 案 の 相 違 点 は,以 上 の3点 で あ る。 も ち ろ ん,そ の 他 に も相 違 点 は 多 数 存 在 す る(な お 先 取 特 権 規 定 は,両 者 聞 に,か な りの 相 違 が あ るが 本 稿 で は 省 略 す る)が, そ の 何 れ もがTR草 案 の 性 格 を 決 定 付 け る よ う な もの と は思 わ れ なか っ た た め に,本 稿 で は 省 略 した 。 そ の 中 の い くつ か を,こ こで 簡 単 に 指 摘 して お く。

(A)破 殿 裁 判 所 案 は,裁 判 上 の抵 当 権 に 関 し て詳 細 な 条 文 を設 け て い た (第32条 一第42条)が,TR草 案 は,(後 に 第2123条 と な る)第32条(第3節 第2款)の1条 文 を 有 して い る に過 ぎな い(破 殿 裁 判 所 案 第32条 ・第33条 ・第 35条 に修 正 を加 え 一 つ に纏 め た の がTR草 案 第33条 第1項,破 殿 裁 判 所 案 第41 条 がTR草 案 同 条 第2項,破 殿 裁 判 所 案 第42条 がTR草 案 同 条 第3項 とな る。

破 殿 裁 判 所 案 第32条 第2項 ・第34条 ・第36条 一第40条 に 該 当 す る 条 文 はTR草 案 中 に は存 在 しな い)。 全 く根 拠 の な い 推 測 な の で あ る が,TR草 案 は,破 殿 裁 判 所 案 にか な りの 手 直 しを して い る に も拘 わ らず,各 節 毎 の 開 始 条 文 数 は, ほ ぼ 対 応 関 係 に あ る(前 掲 「比 較 表 」参 照)。 第3節(破 殿 裁 判 所 案 の 第2節) は,第4款 に数 多 くの 条 文 を割 くこ と を余 儀 な くさ れ た の で,第2款 を短 くす

る こ とに よ っ て 数 字 合 わせ を行 っ た の で は な か ろ うか 。

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202 第52巻 第1号

(B)目 的 物 に 関 す る 「特 定 の 原 則 」 を規 定 す る(後 の 第2129条 と な る) TR草 案 第38条 は,破 殿 裁 判 所 案 第48条 と全 く同 一 の 条 文 で あ る 。 しか し,そ の 例 外 規 定 に は,破 殿 裁 判 所 案 とTR草 案 は見 過 ごす こ との で き な い相 違 を含 ん で い る 。 つ ま り,破 殿 裁 判 所 案 に お い て,特 定 の 場 合 に は 将 来 財 産 に抵 当権 を設 定 す る こ とが 可 能 で あ る が,そ の場 合,債 務 者 が 財 産 を 取 得 す る 度 に,債 権 者 は,そ の 財 産 に 対 して登 記 を行 わ ね ば な らな い 旨が 明 記 され て い た(そ

結 果,将 来 財 産 へ の抵 当 権 は,必 然 的 に,当 該 財 産 へ の登 記 時 に順 位 を取 得 す る こ と に な る)(破 殿 裁 判 所 案 第49条313))。 と こ ろが,TR草 案 第39条(若 の 文 言 修 正314)を 経 て 第2130条 と な る)で は,登 記 に関 す る叙 述 が 消 え て い る。

本 条 は,国 務 院 で 全 く議 論 さ れ て い な い315)の で,修 正 の趣 旨 は 不 明 で あ るが, 登 記 規 定 の 意 図 的 な削 除 は,将 来 財 産 の抵 当 権 が 最 初 の 登 記 日に 順 位 を取 得 す

る か の よ うな 印 象 を与 え る316>。

また,破 殿 裁 判 所 案 第49条 は,将 来 財 産 へ の 抵 当権 設 定 に よっ て,担 保 目的 物 が被 担 保 債 権 に比 して 過 剰 とな っ た場 合 の 登 記 減 殺 を承 認 す る 。(後に 第2130 条 と な る)TR草 案 第39条 は,こ の 部 分 を 削 除 して お り,こ れ に よ っ て,合 意

に よ る抵 当権 の 登 記 が 減 殺 の 対 象 と な らな い こ とを 明 らか に して い る。

(C)破 殿 裁 判 所 案 第76条 は,弁 済 期 未 到 来 の抵 当 権 者 が,取 得 者 に よ っ て 行 わ れ る條 除 手 続 か ら弁 済 を受 け る(破 殿 裁 判 所 案 第91条 第5項 の)理 論 的 前 提 と して(共 和 暦7年 法 の 立 場 を 否 定 す る)重 要 な条 文 で あ っ た317)。 と こ ろが,TR草 案 は,第76条 に該 当 す る条 文 を削 除 して お り,結 果,外 観 的 に は, 弁 済 期 未 到 来 抵 当 権 の源 除 手 続 で の 取 扱 が不 明 瞭 とな っ て い る318)。

(D)以 上 が 破 殿 裁 判 所 案 とTR草 案 の重 要 な相 違 点 で あ る 。 そ の 他 の規 定 に つ い て は,概 ね 破 殿 裁 判 所 案 と同 一 の理 論 が 維 持 され て い る 。 例 え ば,債 権 額 の 「特 定 」 に 関 す る規 定(〔 後 の 第2132条 と な る 〕TR草 案 第41条)は, 表 現 こそ 違 うが 趣 旨 は破 殿 裁 判 所 案 第51条 と同 じで あ る。 ま た,登 記 の 存 続 期

問 に 関 す る破 殿 裁 判 所 案 第63条319)も 維 持 され て い る(〔後 に 第2154条 とな る〕

TR草 案 第63条)。

(ロ)本 款 の 最 後 と して,こ こで 簡 単 に トレヤ ー ル の 草 案 に対 す る評 価 を

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1804年 フ ラ ン ス 抵 当 法 の 基 本 的 性 格(4) 203 下 して お こ う。 彼 の草 案 は,先 に 国 務 院 で 決 定 さ れ た3つ の 原 理 を用 い て,破 殿 裁 判 所 案 を 修 正 した もの で あ っ た が,国 務 院 の 決 定事 項 自体 に 明確 に反 して

い る 点 は な い 。謄 記 に 関 す る規 定 も,国 務 院 で は 直 接 の 論 点 と は な っ て お らず, こ れ を草 案 に 盛 り込 ん だ こ と も,決 して 国 務 院 へ の 違 背 とは言 えな い で あ ろ う。

む しろ,コ ー ド ・シ ビル 制 定 の,こ こ ま で の 審 議 過 程 か ら は,謄 記 規 定 の挿 入 は,十 分 に 予 想 す る こ とが で きた320)。 しか し,彼 の 草 案 を全 体 と して 考 察 し た時,そ れ は 国 務 院 の 決 定事 項 の 理 念 に,必 ず し も適 合 的 で あ る わ け で は な い 。 なぜ な ら,国 務 院 の 考 え は 共 和 暦7年 法 の基 礎 理 論 は承 認 す るが 妻 の 抵 当権 を 例 外 扱 い す る と言 う もの で あ っ た が,彼 の草 案 の 「試 み」 は,巧 妙 な 方 法 で, そ れ す ら も共 和 暦7年 法 の 理 論 に従 属 させ る こ と に他 な ら な か っ た か らで あ

る。

TR草 案 は 一 瞥 す る と登 記 か ら独 立 した 法 定 抵 当権 の 存 在 を 認 め つ つ,そ か ら生 じ る 問題 を夫 の 登 記 義 務 規 定 に よ っ て補 お う と して い る よ うに見 え る。

仮 に,こ れ がTR草 案 の 基 本 構 造 で あ る とす れ ば,法 定抵 当 権 の 遡 及 効 に基 因 す る 問 題 に は全 く手 付 かず とい う こ と に な る 。 とす れ ば,ポ チ エ や破 殿 裁 判 所 が 提 起 した 問題 は,こ こ で顧 み られ て い な い とい う評 価 を 下 さ ざ る を得 な い。

しか し,こ の 評価 に は与 し得 な い。 な ぜ な ら,彼 は抵 当 観 の 確 定 に至 る ま で の 過 程 で,幾 度 とな くこ の 問 題 を意 識 させ られ,そ して 実 際,意 識 して い た か ら で あ る 。 従 っ て,こ の 問題 に 全 く取 り組 ま な か っ た とは 考 え るべ きで は な い。

で は,ど の よ うな 方 法 で,そ の 問題 を解 決 し よ う と した の で あ ろ うか 。 恐 ら く 二 段 構 えの 対 策 が 施 さ れ て い た と思 わ れ る 。TR草 案 を理 論 的 に考 察 す る の で あ れ ば,主 意 的 に,そ れ は 法 定 抵 当権 の 事 前 全 面 放 棄 に担 わ され て い た と考 え ざ る を得 な い。 そ して,放 棄 が 予 定 され て い た か らこ そ,法 定 抵 当権 をめ ぐる 複 雑 な 規 定 が 省 略 され て い た の で は な か ろ うか 。 勿 論,全 て の 法 定抵 当 権 が 放 棄 さ れ る と は 限 ら ない 。 しか し,そ れ が 放 棄 され な い場 合 で あ っ て も,そ の被 担 保 債 権 が 限 定 され る の で あ れ ば,法 定 抵 当権 の 遡 及 効 か ら生 じる複 雑 な取 引 方 法 が(僅 か で は あ る が)合 理 化 され る。 そ こ で,TR草 案 第44条 は,再 運 用 と連 帯 債 務 負 担 に 基 因す る債 権 を被 担 保 債 権 か ら除 外 す る こ とに よっ て,副 次

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204 第52巻 第1号 的 に,そ れ を解 決 し よ う と した の で あ る。

こ の よ う に,TR草 案 第44条 の 簡 潔 性 は,法 定抵 当 権 が 放 棄 さ れ る 運 命 に あ る との予 測 を前 提 に,そ れ を詳 細 に規 定 す る必 要 性 が 感 じ られ なか っ た との 消 極 的 理 由 と同 時 に,仮 に放 棄 され な か っ た 場 合 で あ って も,そ の 簡 潔 性 に よ っ て 遡 及 効 に 由来 す る 問 題 は部 分 的 に で は あ るが 解 決 で きる とい う積 極 的 理 由 に

よ っ て説 明 さ れ る とい う こ と に な る。

そ して,こ の 「試 み 」 は,法 定 抵 当権 を取 り除 くこ とに よっ て,隠 れ た 抵 当 権 か ら第 三 者 を保 護 しよ う と し た とい う単 純 な もの で は な か っ た 。とい う の も, 法 定 抵 当権 の 全 面 的 放 棄 を認 め る こ と,あ る い は 被 担 保 債 権 限 定 の理 論 的 帰 結 は,妻 の法 定 抵 当権 に 担 わ され た 役 割 を,全 面 的 に 否 定 す る こ と を意 味 す るか らで あ る。 前 節 ま で の 検 討 は,妻 の 法 定 抵 当 権 が複 雑 な方 法 で 様 々 な機 能 を有 して い た こ と を推 測 させ,そ れ が 夫 婦 の 財 産 管 理 全 体 を基 底 す る性 格 を 有 す る 可 能 性 が あ る こ とを確 認 して い る。 ま た,妻 の法 定 抵 当 権 は夫 の 信 用 授 受 と も 無 関 係 で は な さ そ うで あ る。 とす れ ば,当 該 合 意 の 承 認 は,婚 姻 解 消 後 の 妻 の 保 護(無 能 力 者 保 護 機 能)を 犠 牲 にす る こ と を意 味 す る だ け で な く,コ ー ド ・ シ ビル 全 体 に お い て そ れ が(特 に婚 姻 中 に)担 っ て い た 役 割 を 否 定 す る こ と に 繋 が り,こ の こ と は コー ド ・シ ビ ル の全 体 構 造 に修 正 を加 え よ う とす る もの で あ っ た 。 そ して,そ の 目的 は,法 定 抵 当権 の 複 数 の 法 分 野 との相 互 依 存 関 係 を 切 断 す る こ と に よ っ て,不 動 産 取 引 を簡 易 化 す る こ と にあ っ た と思 わ れ る 。 従 っ て,ト レヤ ー ル草 案 は,国 務 院 決 定 事 項 との 関係 で 非 常 に迂 遠 な方 法 を 採 ら ざ る を得 な か っ た が,明 確 に,共 和 暦7年 法 と 同 一 の 理 念 を実 現 し よ う とす る

もの で あ っ た との 評 価 を下 す こ とが 可 能 で あ る と思 わ れ る。

(ハ)ト レヤ ー ル 草 案 の評 価 が 以 上 の よ う な もの で あ り,か つ,そ れ が 正 当 な も の で あ れ ば,こ の草 案 を国 務 院 が 無 条 件 で 承 認 す る こ と は な い で あ ろ う。

次 で 検 討 す る よ う に,TR草 案 は,そ の個 別 条 文 の 審 議 で,多 くの 批 判 に 曝 さ れ る こ とに な る。 と りわ け論 争 の 中心 とな るの が,彼 の 草 案 の 中核 的 部 分 を成 すTR草 案 第49条 ・TR草 案 第91条 の取 り扱 い で あ っ た 。

(19)

1804年 フ ラ ンス 抵 当 法 の 基 本 的 性 格(4) 205 277)ト レ ヤ ー ル(Jean‑BaptisteTREILHARD,1742‑1810)は,コ ー ド ・ シ ビ ル

起 草 者 に は 数 え ら れ な い が,ア ル ノ ーArnaudに よ っ て 「コ ー ド ・シ ビ ル の 職 人 達lesartisansduCodecivil」 の1人 と 呼 ば れ る ほ ど に,全 制 定 過 程 に お い て 重 要 な 役 割 を 果 た し て い る(cf.Arnaud,supranote6&pp.34‑35,p.318;Soboul,

smpranote68,pp.1044‑1046;Tular(1,smpranote68,p.1653;Granddiction‑

naire,smpranote6&t,15,p.'452;TREILHARD(J.),lean‑Baptiste TREILHARZ),MinistrePleniPotentiairedelaR2PubliqueauCongr2sdeRas‑

tadt,th合se,Paris,1939.)。

弁 護 士 の 息 子 で あ る 彼 は,自 身 も1761年 に パ リ 高 等 法 院 付 け の 弁 護 士 の 職 を 得 て い る 。 憲 法 制 定 議 会 で は,ま ず 聖 職 者 委 員 会Comit6eccl6siastiqueの メ ン バ ー と な り,そ の 際,教 会 財 産 の 没 収 に 努 め(cf.Sagnac,supranote87,p.167,note

4.),ま た 聖 職 者 世 俗 基 本 法Constitutioncivileduclerg6の 起 草 に 参 加 す る 。 さ ら に 民 事 身 分6tatcivil制 度 の 導 入 に 尽 力 。1791年 に は 憲 法 制 定 議 会 議 長 に 選 任 さ れ る が,立 法 議 会 に は 選 出 さ れ な か っ た た め パ リ 刑 事 裁 判 所 の 所 長 を 勤 め る 。 1792年 に 国 民 公 会 に 再 選 さ れ,そ こ で ダ ン ト ンDanton派 と 親 密 な 関 係 に あ っ た と 言 わ れ る 。 テ ル ミ ドー ル9日 は,彼 を 安 心 さ せ た こ と で あ ろ う 。 な お,テ ル ミ ド ー ル9日 の 約1ヶ 月 後 に 提 出 さ れ た カ ン バ セ レ ス 第2草 案(共 和 暦2年 実 月 〔ブ リ ュ ク チ ドー ル 〕8日 〔1794年8月25日 〕)に は,彼 の 署 名 も 付 さ れ て い る(cf.

Fenet,t.1,p.139.)。 そ の 後,彼 は 五 百 人 会 議 に 入 り エ ミ グ レ と 宣 誓 拒 否 僧 の 取 り 締 ま り に 賛 同 。 そ の 後,ラ シ ュ ッ タ ッ トRastadt会 議 に お い て 全 権 委 任 大 使 と し て 派 遣 さ れ,そ の 際 に ボ ナ パ ル ト と 親 密 な 関 係 に な る 。1798年5月9日,フ ン ソ ワ ・ ド ゥ ・ヌ シ ャ トーFrangoisdeNeuchateauが 籔 引 き で 総 裁 政 府 か ら 排 除 さ れ た の を 受 け て,彼 が 総 裁 に 選 出 さ れ る も,憲 法 違 反 を 理 由 に 翌 年6月16日 に 辞 職 。 ブ リ ュ メ ー ル18日 後 は,ま ず は パ リ 控 訴 裁 判 所 副 所 長(共 和 暦8年 芽 月

〔ジ ェ ル ミ ナ ル 〕14日 〔1800年4月4日 〕)に 指 名 さ れ(な お 本 稿 ・註306)参 照), 次 に 国 務 院 の メ ン バ ー に 選 出(共 和 暦10年 ブ リ ュ ク チ ドー ル 実 月 〕27日 〔1802 年9月14日 〕)さ れ る 。 そ こ に お い て コ ー ド ・シ ビ ル の み な ら ず ナ ポ レ オ ン 諸 法 典 の 起 草 で 重 要 な 役 割 を 果 た す こ と に な る(彼 の 国 務 院 で の 活 動 に つ い て Treilhard,op.cit.,pp.23‑24.参 照)。 特 に,本 稿 と の 関 係 で は,彼 が 民 事 訴 訟 法

典(1806年)の 起 草 者 の1人 で あ る こ と が 重 要 で あ る(本 稿 ・註281)参 照)が, 詳 し く は 後 に 見 る 。

278)Arnaud,smpranote68,p,34.

279)本 稿 「基 本 的 性 格(2)」 註170)参 照 。 280)Maleville,t.4,p.191.

281)共 和 暦 ユ0年 芽 月(ジ ェ ル ミ ナ ル)3日(ユ802年3月4日),彼 は 民 事 訴 訟 法 の 起 草 を 命 じ ら れ る(Locr6,t1,p.89.)。

282)Fenet,t,15,pp.326‑351.

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