北海道の貯蓄投資バ ランスに関す る考察
神 崎 稔 章
概 要
本稿 は1980年代後半か ら2006年に至 る長期デー タを用いた貯蓄投資バ ランス の観点か ら北海道経済 を傭轍 し直面する課題について考察 した。考察の結果, 北海道経済は,①全 ての時期 について一般政府の大幅な投資超過 と域際収支赤 辛,民間部門の貯蓄超過であ り,官依存下 にあること,② ただ し2000年代以降 の新たな傾向 として一般政府の投資超過縮小傾 向の下で財政移転が資本移転か ら社会保障給付 を主体 とした経常移転 に変容 して きたこと,が明 らか となった。
今後北海道が この ようなマネーフロー構造 に依存す ることな く経済成長 を確保 するには,民間部門の貯蓄 を活用 した投資拡大や移輸出型の産業振興等 に向け た経済経営が課題 となろう。
は じ め に
19世紀半 ば北海道 において政府の開拓が始 ま り今年で140年 を迎 える。北海 道開拓史の設置 (1869年),続 く北海道庁の設置 (1886年)以降,北海道は 日 本経済の一部 として組み込 まれて きた。第1期北海道拓殖計画 (1910年) に始 ま り,北方農業 を確立 させた第二次北海道計画,戦後 には,北海道開発法 (1950 午),北海道第1次5カ年計画 (1952年),そ して,高度経済成長期の第2期お よび第3期北海道開発計画へ と至 る1)0
高度経済成長期の国土政策は公共投資主導型の開発計画であ り,当然 なが ら
〔117〕
118 商 学 討 究 第60巻 第4号
北海道 もその対象 となって きたが2),1970年代後半以降,高度経済成長の終幕 と低成長時代 の幕 開けによって,北海道 を始め とす る地方への国家 による大規 模 開発計画 は限界 を迎 えた0第4期北海道開発計画 (1978年) は,一部,第3 期計画か ら引 き続 いている大型産業基盤整備 を中心 とす る成長戦略 と,新 たに 定住 圏構想 とい う開発 目標 を掲 げたが,計画 は頓挫 した。そ して,1980年代以 後,北海道経済 は,国家の公共投資依存 か ら脱却 し,独 自の地域 としての, 自 立的な産業構造の構築 とい う課題 を突 き付 け られてい くことなる。
第5期北海道経済開発計画 (1988‑1997年)では,全 国総合 開発 の都市 圏集 中是正 を受 け,北海道の国土資源活用が声高 に主張 された ものの,バ ブル経済 興隆の影響 によ り,投 資は リゾー ト開発 を始め とす る不動産へ と向か った。そ してバ ブル経済 は崩壊 し,北海道で も多額の不 良債権 を抱 えた北海道拓殖銀行 が破綻 した (1997年)01998年,各種 の経済政策が施 され,一般政府投 資超過 の増加が見 られた ものの,その後一定 して減少状態が続 いている。北海道経済 は 自立化の要請 を受 けつつ も,その道 を確立す ることがで きぬ まま現在 に至 っ ている3)。
北海道 における産業 は林業や鉱物,水産物生産 を基軸 とす る ものであ り,そ れ らは一次産品供給の場 としての役割 を担 って きた。そ して戦後成長政策下の 日本経済の高成長 を地域 に再編す るべ く,本道で も大規模工業の開発計画 を打 ち立てたが頓挫 した。その後北海道では様 々な成長戦略 を模索 している ところ であるが,その計画 は始 まったばか りである4)0
1)北海道開発法(1950)は同年の国土総開発法に,また北海道第一次五力年計画(1952 年)は同年の経済自立5年計画に,そ して第二期 ・第三期北海道開発計画は1961 年国民所得倍増計画や1962年中期経済計画,1967年経済社会発展計画や1971年所 得倍増計画に対応 して,出されたものである。
2)代表例は苫小牧大規模基地構想である。
3)多 くの北海道産業に関する研究があるが,大沼 (2002), 日本政策銀行北海道支 店企画調査課 (2000)が挙げられる。本稿は産業史の説明の多 くをこれらの先行 研究に依拠 している。
4)以後第6次北海道経済開発計画が策定される。現在,北海道では,観光業,食関 連産業活性化への取 り組み,バイオ・IT産業,環境等を成長戦略の軸に試行錯 誤がなされているが,自立的な産業構造確立は課題となっている。
北海道の貯蓄投資バランスに関する考察 119 この ように北海道経済の実体面では,基盤産業が様 々な経済条件や経済政策 によって振 り回 されるが,一方で,結論 を先取 りすれば,金融面では開発資金 に依存 したマネー フロー を形成す るとい う構造 を有 して きた5)。
だが近年の北海道では,三位一体改革以降,財政縮小 を余儀 な くしている
。
「今後 の経済財政及 び経済社会 の構 造改革 に関す る基本方針 (基本方針2001)」等 に基づ き,歳 出削減努力が行 われ,政府 は民 間中心 の持続的成長 と財政健全化 とい う課題 に取 り組 んでい る6)。 『道民経 済計算』 に よれ ば,確 か に2001年以 降財政縮小傾 向の加速化が見 て取 れる。 さらに財政縮小化 の中で財政移転 の中 身 も資本形成 を目的 とす る移転か ら社会保障や社会扶助金,社会福祉給付等 に よる経常移転へ と移 り変わってい く。加 えて,そ うしたマ ネーフローは域際収 支の赤字 と民 間部門の貯蓄超過 に裏づ け られる。近年の北海道の経済成長率 は 絶対 的かつ相対 的に も低下 してお り,マ ネーフロー構造 を改善すべ く,成長戦 略の見直 しが課題である ともい えよう7)。 こうした背景か ら,本稿 はデー タの 入手 しうる1980年代後半以降のマネー フローの構造 と変容 を主 に貯蓄投 資バ ラ ンスに よって捉 えることで北海道の経済 を傭轍 し,直面す る課題 について考察 す ることとす る。
ところで地域 の貯 蓄投 資バ ラ ンス に関す る先行研 究 は充実 してい る とい え る。地域 ブロック別 あるいは都道府県別の貯蓄投資バ ラ ンス を全 国的にみた先 行研 究 には峰岸 (2005),谷沢 (1999),佐野 (2000)等がある8)。峰岸(2005) は,内閣府経済社会研 究所 (旧経済企画庁経済研究所)が作成 した 『県民経済
5)斎藤 (2007)0
6)内閣府 (2009a) (2006)0
7)平成18年度の 『道民経済計算』によれば,追 (国)内総生産 (支出側,道内は上 段,国内は下段)の対前年度成長率 (▲はマイナス)は,以下の通 り。
1997年 1998年 1999年 2000年 2001年 2002年 2003年 2004年 2005年 2006年
^1.2 ^0.1 ^0.7 0.4 ^1.1 ^1.7 ^1.0 ^0.4 ^1.9 ^1.8 1.0 ▲1.9 ▲0.7 0.9 ▲2.1 ▲0.9 0.9 1.2 1.7 1.9 8)この他,地域の貯蓄投資バランスと金融機関の預貸率から地域間及び地域内の餐
金循環の現状を考察 した岩佐 (2009)や,都道府県別貯蓄投資バランスを用いて Feldstein&Horiokaパラ ドックスを検証 した堀江 (2005)がある。
120 商 学 討 究 第60巻 第4号
計算』 を県内総支出 といった主要系列表 ばか りでな く, 『国民経済計算』 にお ける 「制度部門別所得支出勘定」や 「経済活動別県内総生産及び要素所得」 な どの詳細 な勘定 も活用 して都道府県経済 を全体的に分析 し,都道府県別経済の 構造について論 じ,その一部の分析 として貯蓄投資バ ランスが用い られている。
その結果,大都市 に依存 しない地方経済の為 に,如何 に地元資金 を有効活用 し て民間に活力 を与 えるべ きか とす る問題点 を指摘 している。谷沢 (1999)は地 域別あるいは都道府県別の貯蓄投資バ ランスや財政移転 (財政収支の対県内総 支出比率) を算 出 し,地域経済の資金循環構造 を分析 している。 この他,佐野 (2000)は,1985・1990・1997年度の貯蓄投資バ ランス ・財政移転 ・域際収支 の関係 を都道府県別 ・地域別か ら解明 した。
しか しなが ら, これまでの研究では,貯蓄投資バ ランスの関係 を地域 に限定 した貯蓄投 資バ ランス論 については, 『道民経済計算』 を用 いて金融 システム との関連性 について言及 した斎藤 (2007)を除けばあま り例がない9)。ただ し, 斎藤 (2007)の対象期 間は,1990年代か ら2003年 までの貯蓄投資バ ランスに関 す る考察論文であるので,その前後 の時期 にまで拡張 した北海道のマ ネー フ ロー構造 を紐解 くことが望 まれる。
かかる北海道経済の貯蓄投資バ ランス等のデー タを算 出す る際に, 『道民経 済計算』 を利用す ることの便利 さがある。 『県民経済計算』 にない統計方法の 違いや基礎 資料の違いがあるか らである。 『道民経済計算』では,制度部門別 支出勘定や制度部門別資本調達勘定に関する統計が部門別 に整理 されてお り, そ うした統計 を利用 して,部門別の貯蓄投資差額に関す る正確 な算 出を行いえ る。 また 『道民経済計算』 では例 えば産業別国内総生産 を用いて北海道 と国を 比較する場合であって も,基礎資料の よ り充実 した 『国民経済計算』 を利用 し ている10)。
9)ただし,貯蓄投資バランスには着目しないものの道民経済計算を利用 して北海追 経済と財政に関するマクロ分析を行ったものとして関野 (2009)がある。
10)北海道庁総合政策部地域行政局参事 (経済調査)‑のヒアリング。ただし,都道 府県別の分析を行う場合,県民経済計算を利用するのが一般的である。
北海道の貯蓄投資バランスに関する考察 121 そ こで近年の 『道民経済計算年報』 を利用 しつつ, またで きる限 り長期の時 系列 を利用 しなが ら1980年代後半以降の北海道のマネーフローの構造 を僻轍す
ること自体 にも本論文の意義があるであろう。
本論文の構成は,以下の通 りである。
まず第1節では貯蓄投資バ ランスの定義についての整理 を行 う。
第2節では実際に貯蓄バ ランスの動向を追 うことで,北海道のマクロバ ラン スに関する構造について論 じる。
第3節では,域際収支 とその構成たる個 々の収支 に関する動向を行 うことで マネーフローの構造 を見 る。
第4節では, 『道民経済計算』 を用 いなが ら北海道産業の実状 を追試す るこ とで貯蓄投資バ ランスの課題 についての考察 を試みる。
最後 に結論 と今後の課題について述べ る。尚,「その他経常移転 (広義)」の 具体的な算 出方法 については別途補論 にまとめている。
1. 貯蓄 投 資バ ラ ンス に関 す る分 析
一般 に 『国民経済計算』ベースでの貯蓄投資バ ランスの計算式 は以下の手順 を もって論 じられている。 E :国民総支出
C:
消費支 出 Ⅰ :投 資 Ex:輸 出 Im :輸入, Inc:海外か らの要素所得の純受取,̲t:任意の時点, とす ると,
E̲t‑C̲t+Ⅰ̲t+Ex̲t‑Im̲t+Inc̲t
となる。
一方,所得決定式あ るいは貯蓄の定義式 は, Y :国民総所得, S:貯蓄, Trs:海外か らのその他の経常移転の純受取, とすると,
Yーt+Trs̲t‑C̲t+S̲t
である。
122 商 学 討 究 第60巻 第4号
従って,
Sーt‑ Lt‑Ex̲t‑Im̲t+Trs̲t十Inc̲t
つ まり貯蓄投資差額の貯蓄超過は,「海外か らのその他経常移転の純受取」
及び 「海外か らの要素所得の純受取」と一定 とすれば,純輸出の黒字に等 しい。
以上の関係 を道民ベースの諸概念 を用いて詳細に書 き表す と以下のようにな る。
道民総所得 (‑道民総生産)
‑租付加価値 (道内総生産) +道外か らの要素所得の純受取
‑純付加価値 (道内純生産) +固定資本減耗 +道外か らの要素所得の純受
‑道民所得 +固定資本減耗
道民総支出‑最終消費支出十総固定資本形成 +在庫品の増加 十 (財貨 ・サー ビスの移輸出一財貨 ・サービスの移輸入) +道外か らの要素所得の純受取
道民可処分所得 ‑道民所得 +道外か らのその他経常移転の純受取
‑最終消費支出+貯蓄
道民総所得 ‑道民総支出の関係すなわち(1)と(2)との関係 より,
道民所得 十固定資本減耗 ‑最終消費支出+総固定資本形成 +在庫品の増加 + (財貨 ・サービスの移輸出一財貨 ・サービスの移輸入) +道外か らの要素所 得の純受取
(3)と(4)の関係か ら,
貯蓄 +固定資本減耗 ‑ (総固定資本形成 +在庫品の増加) ‑ (財貨 ・サービ
北海道の貯蓄投資バ ランスに関する考察 123
スの移輸 出 一財貨 ・サー ビスの移輸入) +道外 か らの要素所得 の純受取 +道 外 か らのその他経常移転 の純受取
となる。 これが,財政移転 を控 除す る前 の貯蓄投 資バ ラ ンス式(5)であ る。
(5)をさ らに整理す る と,財政移転 を除いた本 来の貯 蓄投 資バ ラ ンス式 が得 ら れ る。す なわち,
貯 蓄 +固定資本減耗 ‑ (総 固定資本形成 +在庫 品の増加) ‑ (道外 か らの要 素所得 の純受取 +道外 か らのその他経常移転 の純受取) ‑財貨 ・サー ビスの 移輸 出 一財貨 ・サ ー ビスの移輸入)ll)
続 いてSp:民 間部 門の貯 蓄,Ip:民 間部 門の投 資,Sg:政府 部 門の貯 蓄, Ig:政府 部 門の投 資 とす る と, 『国民経 済計算』 ベ ースでの部 門別貯 蓄投 資バ
ラ ンス は,
ll)マクロ経済学のテキス トでは,資本移転及び統計上の不突合を軽視 した式 となっ ている。しか しなが ら 『国民経済計算』や 『道民経済計算』の実際の算出にあたっ ては,「資本移転の純受取CapitalTransfer」や,「統計の不実合StatisticalDis‑ crepancy」 を含む方程式体系 となっている。すなわち,道民貯蓄 +固定資本減 耗 ‑ (総固定資本形成 +在庫投資) 一統計上の不突合 +資本移転組受取 ‑財貨 ・ サービスの移輸出一財貨 ・サービスの移輸入 十道外か らの要素所得の純受取 十そ の他経常移転の純受取 +資本移転の純受取 ‑道外 に対する債権の変動,である。
中で も 「統計上の不突合」については注意を要する。道内総生産 (生産側) と道 内総生産 (支出側) とは,付加価値において理論上一致すべ きものであるが,双 方の推計に用いられる基礎資料や推計方法が異なるため,若干の不一致が生 じる。
『県民経済計算』では生産側の基礎資料などが多いことか ら,生産側の付加価値 を優先 させ,その不一致にかかる推計値の差額 を 「統計上の不突合」 として支出 側に計上 している。従って 「統計上の不突合」はその性格か らして各制度部門に 分割することは不可能である。 よって 『道民経済計算』統合勘定における 「統計 上の不突合」は,制度部門別勘定には計上 されていない。それ故に, 『道民経済 計算』 においても実際の貯蓄投資の差額は不突合 を含 まない数字 として算出する こととなる。 『道民経済計算』 における貯蓄投資差額 に資本移転の純受取分加 え た ものは,「純貸出/純借入 NetLending/NetBorrowing」 とも呼ばれる。内 閣府経済社会総合研究所 によれば,資本移転 とは,総資本形成など長期的な支出 の資金源泉であ り,支払側の資産または貯蓄か ら補われる移転であ り,政府の民 間企業に対する資本補助金 (鉄道の新線建設費に対する補助)等がこれに該当す る, としている。
124 商 学 討 究 第60巻 第4号
S̲t‑Lt‑(Sp̲t‑Ip̲t)+(Sg̲t一Ig̲t)‑Ex̲t‑Im̲t+Trs̲t+Inc̲t
道民ベースの諸概念 を用いて書 き表す と,以下(7)の通 りである。
壬(民 間部 門の道民貯蓄 +民 間部門の固定資本減耗) ‑ (民 間部門の総固定資 本形成 +民間部門の在庫品の増加) ‑ (民間部門の道外か らの要素所得の純受 敬 +民間部門の道外か らのその他経常移転の純受取)i+ j(政府部門の道民貯 蓄 +政府部門の固定資本減耗) ‑ (政府部門の総固定資本形成 十政府部門の在 庫 品の増加) ‑ (政府部門の道外か らの要素所得の純受取 +政府部門の道外か らのその他経常移転 の純受取)i ‑財貨 ・サー ビスの移輸 出 一財貨 ・サー ビス の移輸入
ここで本稿 における貯蓄投資バ ランスの統計の基礎 となる利用期 間について 述べ てお きたい。平成15年度 (平成12年度推計) よ り道民経済計算 は93SNA に移行 している。平成11年度以前の 『道民経済計算』は68SNA方式であるので, 本来であれば平成15年度以降の推計値 と直接接続す ることは困難である。限界 があることを認めつつ も,平成8年度 (1996年)以降の貯蓄投資差額 に関する データは平成18年度の 『道民経済計算』 か ら,平成2年度 (1990年)〜平成7 年度(1995年)の貯蓄投資差額 に関するデー タは平成15年度の 『道民経済計算』
か ら,昭和60年度 (1985年)〜平成元年度 (1989年)のデー タは平成11年度の
『道民経済計算』 を利用す る。貯蓄投資差額算出にあたって統計資料の限界が あることも併せて付記 したい。1985年以降の貯蓄投 資差額 を利用す る理 由は,
「資本移転の純受取」及び 「その他経常移転の純受取」の公表が昭和60年度版 の 『道民経済計算』であることによる。昭和59年度以前の道民経済計算 に示 さ れる部門別の貯蓄投資差額算 出は困難である12)。 『道民経済計算』 の前の名称 である 『道民所得推計』 に関する統計 も同様の課題がある。
12)北海道 (1986)によれば,推計範囲が旧来の推計から68SNA(新SNA方式)へ の移行期間にあたり,一部の推計を掲載 している。具体的には,①道内総生産と 道内総支出勘定,②経済活動別道内総生産,③道民所得の分配,④道民総支出,
北海道の貯蓄投資バランスに関する考察 125
2.北海道の貯蓄投資バランスの動向
以下では貯蓄投 資バ ランスを用 いて,北海道のマ クロ経済 を見てい くことと す る。そ こか ら北海道のマ ネー フローは,1980年代後半以降変わっていない こ
とが明 らか となる。
貯蓄投資バ ラ ンスに関す る過去 の研究の如 く,地方の民 間部 門における貯蓄 は資金需要の旺盛 な大都市 に移動す るだけでな く,大都市か ら財 ・サー ビスの 移輸入 を受 けるが,その対価 としての資金流 出が大都市 に向か う。他方大都市 か ら地方 に向かっては,大都市で確保 した税収か ら得 られた財政支 出 (いわゆ る国か らの財政移転) による資金の流 れが生 じる13)0
以上の一般論 を貯蓄投 資バ ランスで説明す るのであれば,地方では民 間部門 の貯蓄超過,政府部門の貯蓄不足,域際収支の移輸 出不足 とな り,大都市では 民 間部 門の貯蓄不足 ,政府部 門の貯蓄超過,域際収支の移輸 出超過 となる (図
1)。
そ こで図2では,図1の枠組 み に従 って,「その他経常移転 の純受取」,「資 本移転 の純受取」,等の移転収支 を調整す る前 の北海道の貯蓄投 資差額 を図示
してみ よう。
例 えば1986年度の貯蓄投資差額 (対道民総支出比率)では,非金融法人企業 ・ 金融機 関 ・家計 ・対家計民 間非営利 団体 か ら構 成 される民 間部 門の貯蓄投資差 額が3.2%,一般政府 の貯蓄投 資差額が ‑1.8%,全部門の貯蓄投 資 を意味す る
「道外 に対す る債権 の変動」が1.1%となってい る。続 いて,1995年度 の貯 蓄 投 資差額では,民 間部 門の貯蓄投資差額が12.5%,一般政府の貯蓄投 資差額が
である。その後昭和60年度版より北海道 (1987)が名称を 『道民経済計算』‑ と 変更する。昭和60年度版によれば,初めて68SNAに沿って推計方法を全面的に 改定する中で,生産が部門間や道外の間での分配等を経てどのように割 り振 られ るのかを示す 「制度部門別所得勘定」を新たな統計 として加えた。これによって, 各部門別の 「その他経常移転の純受取」が体系化されるが,中でも平成11年度版 の 『道民経済計算』に示す1985年以降のデータが最 も情報量に富むデータである。
13)斎藤 (2007),佐野 (2000)を参照されたい。
126 商 学 討 究 第60巻 第4号
図1 貯蓄投資バランスと地方大都市間での資金移動
(出所)療藤 (2007)佐野 (2000)に筆者加筆
‑ 一般政府
‑ 民間部門
・+ 道
外 に
対するdtNEの変
動 (
統計上の不突合
控 除
後)岳 重 責 岳 重 義重責 畜 畜§室賀巨挙賀室
(年度)
図2 北海道の貯蓄投資差額 (移転等調整前)
(出所)北海道 (2009b)(2006)(2002)
北海道の貯蓄投資バランスに関する考察 127
‑1.3%であ り,「道外 に対す る債権の変動」が6.9%となっている。最後 に2006 年度の貯蓄投資差額の場合,民間部門の貯蓄投資差額が12.3%,一般政府の貯 蓄投資差額が2.9%,「道外 に対す る債権の変動」が12.7%となっている。
以上の数字か ら1980年代 には一般政府の貯蓄不足 を上 回る民間部門の貯蓄超 過が生 じた結果,「道外 に対す る債権 の変動」の増大が もた らされた。その後 一般政府の貯蓄不足 は解消 しほぼ均衡 した状況へ と向か うが,その一方で民間 部門の貯蓄超過は拡大 してい く。その結果民 間部門の貯蓄は道外 に向か うこと で,「道外 に対す る債権の増加」が生 じた といえよう。
だが北海道の場合 は国か らの財政移転 を享受 している傾向が強 く,図2に示 す貯蓄投資差額の動向は 「道外か らのその他の経常移転の純受取」,「道外か ら の資本移転の純受取」,そ して雇用者所得 と財産所得か ら構成 される 「道外か らの要素所得の純受取」が カウン トされた結果 として算 出された ものである。
従って,本来のマネーフローの姿 を見 るには,先述の 「道外か らの移転の純 受取」分 を控除 した貯蓄投資バ ランスを再算 出することが必要である。
以下図3では,道民経済計算 に示す制度部門別所得支出勘定か ら 「道外か ら のその他の経常移転組受取」 を計算 し, また制度部門資本調達勘定か ら 「道外 か らの資本移転の純受取」等 を控除 した貯蓄投資差額 (調整後) を示 した もの である14)。図3には推計方法が異 なることを踏 まえた上で, どの ような傾 向 にあるのかを数字で確認 してみることとしよう。
図3が示す ように,民間部門の貯蓄投資差額 (道民総支出対比) は1985年度 の7.0%か ら上昇 しその後 は2000年度の18.6%まで上昇 していることか ら貯蓄 超過が拡大する傾 向を有 していた。その後の民間部門の貯蓄投資差額は縮小 し 13.9%となった。2006年度の一方で,一般政府の貯蓄投資差額は,1985年度 ‑ 23%か ら拡大 し続ける。1990年代後後半 にはバ ブル崩壊や北海道拓殖銀行の破 たん後の景気対策の影響で一般政府の投資超過が拡大 した と推測 しうる。結果
14)所得支出勘定や資金調達勘定に関する解説は,『道民経済計算』各号の他,白石 ・ 井野 (1994)が詳 しい。
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(%) 250
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商 学 討 究 第60巻 第4号
‑ 一般政府
‑ 民rpl辞門
‑ 道外に対するtL権 の交勤(土木移最 等移転を除く,統 計上の不突合蛙 陰故)
G a a a a a a aaa a aa a a Eig 望 望 g g Eg 冨 冨 ヨ 冒 冨 冒 巴 冠 器 冨 器 g S 冒 冨 82 2 8 2 辞 g
(年度)
図3 北海道の貯蓄投資差額 (移転等控除後)
(出所)北海道 (2009b) (2006) (2002)
1998年度 に一般政府の貯蓄投 資差額 は‑25.1%にまで拡大す る。 だがその後, 公共事業削減或いは三位一体 の行財政改革等 の影響 か ら徐 々に減少 し,2006年 度 には一般政府貯蓄超過が‑19.6%まで縮小す る。2000年代 のマ ネー フローは 民 間部 門 も一般政府 も縮小傾 向にある。
ただ し民 間部 門の貯蓄超過 を上 回る一般政府 の投資超過 とい う環境 は全 く変 わってお らず, トー タルでみた貯蓄 ・投 資の収支尻 は,「道外 に対す る債権 の 変動」 に見 られ るように,常 にマ イナスを記録 している。 よって北海道 におけ る貯蓄不足部分 については道外地域か らの移転 によって調達 しなければな らな
い。
図2における 「道外 か らの債権 の変動」 は,図3の 「道外 か らの債権変動」
北海道の貯蓄投資バランスに関する考察 129 に比べ て高 くなっている。その理 由は, 3つの所得移転組受取が民 間部門の貯 蓄超過 を拡大 させ, さらに政府部 門の投 資超過 を縮小 させているか らである。
この ように北海道経済 は総 じて常 に政府 に依存 した状況 にある といえよう。
3.北 海 道 の域 際収 支 の動 向
次 に北海道の貯蓄投 資差額の裏表の関係 にある経常県外収支の動 向について 見 てみ る。域際収支 については,一般 に,「財貨 ・サー ビスの移輸 出」か ら 「財 貨 ・サー ビスの移輸入」 を差 し引いた もの として とらえ られているが,本来的 な定義 は以下 に示す とお りである。
域際収支 ‑経常道外収支 +資本収支
経常道外収支 ‑財 ・サー ビスの移輸 出 一財 ・サー ビスの移輸入 +道外 か らの 要素移転 の純受取 +道外か らその他の経常移転の純受取
従 って,「経常道外収支」 の構 成項 目と して 「財貨 ・サー ビスの純移輸 出」
を含 む。他方, 「道外 か らの資本移転 の純受取」 のみが,資本調達勘定 (実物 取引) に計上 されているにす ぎず, またそれは一般政府か ら他 の制度部門 との 間でのみ生 じている。従 って本稿 では,「経常道外収支」 に焦点 を当てて分析 す ることす る。
図4が示す ように,1980年代半 ばか らの 「財貨 ・サー ビスの純移輸 出」が継 続的な入超状態 にある。 また財貨 ・サー ビスの純移輸 出を超 える 「道外 か らの その他 の経常移転純受取」 の持続的拡大が生 じている。 「道外 か らの要素所得 純受取」 に関 しては,1980年代 か ら1990年代前半 に至 るまで支払超過がみ られ た ものの,その後 は僅 か なが らの入超 となってい る。その結果,「経常道外収 支 (道民経済余剰)」 は上昇傾 向にある。
図4が示唆す るところは,北海道が 「その他 の経常移転 の純受取」 の傾 向的 拡大の影響 を受 け,それが結果 として 「道民経済余剰」 を拡大 させ ている, と い う点 にある。
さらに,移輸 出入 の赤字 を相殺 して有 り余 る部分 は,「道外 か らの資本移転
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商 学 討 究 第60巻 第4号
‑ 道外からの手兼所得の 純 受取
‑ 道外からのその他無常 移転の耗受取
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‑ 道長拝辞余剰
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(年丘)
図4 北海道の経常道外収支
(出所)北海道 (2009b) (2006) (2002)
の純受取」分増大 と重 な りあって,図2に示す北海道経済全体でみた貯蓄投資 差額のプラス方向での増大一 その内訳 は民間部門 (のプラス方向での)拡大 と 一般政府 (のマイナス幅の減少)一 に影響 している。従 って,北海道経済全体
としての貯蓄投資差額である 「道外 に対する債権の変動」は黒字 に転 じる。そ の結果 として形成 された余剰資金 (貯蓄) は道外‑流出することになる。
次 に図5は 「道民経済余剰 (経常道外収支)」 と 「資本移転の純受取」の合 計 を対道民総所得比 にて示 した ものである。
図5によれば,「道民経済余剰」 と 「道外か らの資本移転 (純)」の合計につ いては,景気対策 との関係で1980年代後半 よ り増大 しまた1990年度か ら1993年 度 までの期 間及び1996年度か ら1999年度 までの期間において上昇す る局面がみ
北海道の貯蓄投資バランスに関する考察 131
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(年J()
図5 道民経済余剰と資本移転純受取
(出所)北海道 (2009b) (2006) (2002)
られたが,2000年代 になると傾向的に低下 している。
他方では,「道外か らのその他の経常移転純受取」 を実体 とす る 「道民経済 余剰」が,1990年代後半か ら伸 びている。 さらに2000年代 になると,「道民経 済余剰」が 「道外か らの資本移転の純受取」 を上回る。
以上 より,国か らの財政移転の中身 も,従来の開発資金か ら社会保障給付等 を主体 とした資金‑ と変容 して きた といえよう。
4.北海道の産業構成 と貯蓄投資バランスの課題
第4節では, 『道民経済計算』 を使 って,1980年代以降の北海道の産業構成 について概観 し将来の貯蓄投資バ ランスが抱 える課題 について考察する。第3
132 商 学 討 究 第60巻 第4号
節 までの分析か ら北海道のマネーフローの構造 (すなわち,財政移転依存や域 際収支の赤字,民間部門の貯蓄超過) を見たが,他方で実体面はどの ような様 相であるのであろうか。結論 を先取 りすれば,1980年度以降の産業構成の動向 は変遷 を遂げつつ も,これ までのマネーフロー構造 は不変であった といえよう。
今後の貯蓄投資バ ランスの課題 は,民間部門の貯蓄 を生か した投資の活用 と, 域際収支 を改善 させ るような移輸出型の産業振興 を行 うことであると考 える。
図6は道内総生産の産業別構成比 を第1次産業,第2次産業,第3次産業 に 分類 した ものである。図6が示す ように,1980年代以降の道内の第1次産業は 極めて低 いシェアにあ り,第2次産業の シェアは第1次産業 よ りはるかに高い シェアであるものの減少傾向の一途 を辿 っている。第3次産業は最 も高いシェ
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(年L() 図6 道内総生産の産業別構成比(1)
(注)輸入 品に課せ られる税金等調整項 目があって合計 は100%をこえる (出所)北海道 (2009a) (2009b) (2006) (2002)
北海道の貯蓄投資バランスに関する考察 133 アをキープす るばか りか上昇傾 向にある。
続いて図7は,第1次産業か ら第3次産業 に分類 した産業別構 成比 を個別 に 細分化 した ものである。
▲ ▲ ・▲. i.・..▲
+ JL JL 林 集
一一▲一一 水 産 業
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= t九・ガス・水辻兼 一一一 卸売・小売暮
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= 不 動 産 !E
‑■ 正幸l・遺伝暮
二 サービス集 政府サービス 生産者
= 対 妻tl.民間非 官制サービス生産者
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図7 道内総生産の産業別構成比(2)
(出所)北海道 (2009a) (2009b) (2006) (2002)
図7によれば,第1次産業では農業及 び水産業が低下傾 向にあるだけでな く, その水準 も5%を上 回ることはない。 さらに第1次産業の一つである林業 は範
1次産業の中で最 も低 い シェアであることが見 て取 れる。
第2次産業では,鉱業が低下傾 向にある中,建設業の シェアは高 く,1980年 か ら1996年の間に10%か ら15%の間で推移 している。1980年代前半の製造業 は 建設業 と並行 した シェアであることか ら大 きな シェアではあったが,バ ブル崩 壊以降は緩やかなが ら低迷 している。 だが興味深 いのは1986年 には製造業 と同 じ位 の水準 であった建設業の シェアが2002年以降 ともなると製造業の シェアを
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下回っている点である。北海道の公共事業 に投 じる額が減少 しつつあると推測 しうる15)。1980年代の北海道経済で最 も大 きなウェイ トを占めているのはサー ビス業であ り,傾向的に上昇 してお り,その次 に大 きいシェアであるのが政府 サービス産業である。サー ビス業 と政府サービスの合計は,1980年の26.3%か ら2006年の39.3%にまで上昇 してい く。従 って,北海道 とい う地域の中での産 業構成 は,第1次産業‑第2次産業‑第3次産業 とい う変遷 を辿 っている。
では,我が国における北海道の産業の位置づけはどの ように評価 されるであ ろ うか。 ここで評価の判断材料 として特化係数 とい う指標 を利用す る。特化係 致 とは,北海道の産業別生産構成比 を分子 とし,全国の産業別生産構成比 を分 母 とした場合 に算出される値 をさす。 よって,全国を1とおいた場合 に,北海 道の占める割合が1よ り大 きくなれば程,その地域の任意の産業 は全国 と比較 して相対的に特化 している産業であるとする意味合いを持つ。図8で全 国 と比 較 した北海道の産業構成の様相 を見てみ よう。
図8によれば,第1次産業は少な くとも全国の2倍以上の産業特化 を占めて いる。第3次産業 に関 しては1980年代か ら殆 ど変化することな く全国平均であ る1を若干上回る程度である。第2次産業では,1980年代以降0.6か ら0.7の間 にあるが,1990年代後半か ら漸次的に低下 しつつある。
続いて図9は図 8を詳細 に図示 した特化係数である。
図9が示す ように, まず着 目すべ きは水産業及び林業の高 さにある。林業 は 1998年か ら1991年 にかけて急激 な上昇 (2.5‑8.0)を示 し,バブル崩壊以降は 2001年 に1.3まで急落するが,その後2007年 には2.6まで上昇す る。水産業 は1990 年の4.0か ら1996年の1.2まで低下す るが,その後2007年 には2.6まで上昇 して いる。農業は水産業 と林業の前 に日立たな くなっているが,それで も1980年度 か ら2007年度の間,1.6か ら2.1‑徐 々に上昇傾向にあるといえよう。第2次産
15)『道民経済計算』に示す公的固定資本形成は1990年代後半以降減少傾向にある (た だし平成9年度北海道拓殖銀行破後の倒産や雇用悪化に対する経済対策から増加 した平成10年度を除 く)。平成16年度建設業の対道内総生産比率を算出すれば, 北海道は全国第4位である。
北海道の貯蓄投資バランスに関する考察
▲▼
135
ー 第1次 産 業
‑ 第2 次 産 業
+ 第3次 産 *
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(辛)
図8 道内総生産の産業別特化係数(l)
(荏)統計の制約上,全国は暦年,道は年度 (出所)北海道 (2009a) (2009b) (2006) (2002)
業 において特 に目立 った特徴の一つは建設業である。全国か ら見た北海道の建 設業は,依然 として特化係数が1を上回ってお り,北海道が全国に比較 して依 然 として公共投資に依存す る傾向は払拭 されずにいる。ただ し,建設業 も1990 年代後半以降減少傾向にあ り,財政縮小の影響であると推測 される。他方,第
2次産業 における製造業の特化係数は 1を大 きく下回ってお り,製造業 は北海 道におけるウイークポイン トであると考 えられる。第3次産業 に 目を向ければ, 政府サー ビス生産者の特化係数が高 く,続いて運輸 ・通信業 となっている。逆 に低いのは金融 ・保険業の順 となっている。
この ように,構成比でみた北海道産業は第3次産業中心であるが,北海道の