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航空保険における基礎概念に関する一考察

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航空保険における基礎概念に関する一考察

その他のタイトル Basic Concept of Aviation Insurance

著者 羽原 敬二

雑誌名 關西大學商學論集

38

3‑4

ページ 557‑574

発行年 1993‑10‑25

URL http://hdl.handle.net/10112/6414

(2)

関西大学商学論集第38巻第 3•4 号合併号 (1993年10月) 557)325 

航空保険における基礎概念 に関する一考察

羽 原 敬

1.  は じ め に

航空機が1903年に出現し開発されて以降,航空保険は,航空機の運航に関 連して発生する危険を担保する保険種目として生まれた。航空運送事業の発 達に伴ってその対象が拡がるとともに,現在各種の航空危険を担保するもの となっている。航空保険の定義は,学問上および実務上においてもまだ確立 しているとはいえない。航空保険 (aviationinsurance)は,航空機に関す る種々の危険を担保する保険の総称であり,特別な一つの保険ではなく,運 送事業において航空機に関連して生ずる様々な危険処理に適合した種類の保 険を組み合わせて構成されている種目である。わが国では航空保険は新種保 険の一つとして位置づけられており,陸上保険 (nonmarine)の一種であ るが,法理上の原則は,海上保険 (marine)から派生したものである。

そこで,本稿では,この航空保険の基礎概念について考察し,それらを明 確にすることを目的とした。

2.  航空保険制度の体系

航空保険制度の体系において,航空保険の分類!)は,被保険利益の態様を 基準にすれば,狭義には,(1)航空機保険(AircraftInsurance)として,① 機体保険,②第三者賠償責任保険,R乗客賠償責任保険から構成された基

(3)

38 第 3•4 号合併号

本的な内容を中心に,特約である,④捜索救助費保険,⑥航空機不稼働損 失保険,⑥航空機保険料保険, ⑦担保条件違反保険,ヽ⑧搭乗者・乗務員 傷害保険が任意付帯されたものをいい,広義には,その他に航空空保険の範 疇に属するものとして,(2)空港所有・管理者賠償責任保険の中に一つにま とめられている,①空港施設所有者賠償責任保険,②航空機保管業者賠償 責任保険,③航空機製造・修理業者賠償責任保険,(3)航空機装備品・予備 部品保険,(4)航空機製造物賠償責任保険, (5)航空機免許喪失保険, (6) 空貨物賠償責任保険,および (7)宇宙保険として,①人工衛星保険,R打 上げ前保険,⑧打上げ保険, ④打上げ第三者賠償責任保険, ⑥ 衛 星 軌 道 または寿命保険,⑥第三者衛星軌道賠償責任保険,⑦衛星再突入賠償責任 保険, ⑧人工衛星捕獲保険, ⑨宇宙機搭乗者賠償責任保険,⑩宇宙機器 製造物賠償責任保険, さらに (8)飛行船保険,(9)グライダー保険等, が含 まれる。なお, u0)航空戦争保険, U1)航空運送保険, u2)航空傷害保険は,主 たる引受け市場が必ずしも航空保険市場ではないが,制度上航空運送事業に 密接に関係し機能しているので,航空保険の体系の中に含められる。これら を明示すれば,表1のようになる。

航空保険では,海外再保険による危険分散が不可欠であるため,国際再保 険市場の中心であるロンドン・マーケットで使用されている英文証券に準拠 することが再保険取引上便利であることから, これを基本に取り入れた英 文約款が認可され,それによって引受けが行われていたが,国内で使用する

うえでは不便な点もあり, 19854月から和文の航空保険約款も採用して いる2)。各種航空保険につきすべて個別の約款が作成されているのではない が,航空保険の種類と対応する約款は次のとおりである。

航空機保険約款(機体•第三者賠償責任・乗客賠償責任)

貨物賠償責任保険約款

3  空港管理者・航空機保管業者・製造業者・修理業者賠償責任保険約款 4  航空運送保険約款

戦争保険約款(機体)

(4)

航空保険における基礎概念に関する一考察(羽原)

1航空保険制度の体系 航空保険 (AviationInsurance) 

(広義)

..,..—航空機不稼働損失保険

(Loss of  Use Ins.) 

―航空機保険料保険 (Premium Ins.)  ー担保条件違反保険

(559)3

ns.) 

(Breach of Warranty Ins.)  三者賠償責任保険 (ThirdParty Liability Ins.)  与 賠 償 責 輝 険 (PassengerLiability Ins.) 

+航空機搭乗者・乗務員傷害保険 (PersonalAccident Ins.) 

‑Voluntary Settlement Clause(乗客賠償自主解決特約条項)

航空機装備品・予備部品保険 (AircraftSpare Parts Ins.)  航空貨物賠償責任保険 (FreightLiability Ins.) 

空港所有・管理者賠償責任保険 (AirportOwners and Operators Liability Ins.)  一空港施設所有者賠償責任保険

(Airport Premises Liability Ins.)  一航空機保管業者賠償保険

(Hangarkeepers Liability Ins.) 

1一航空機製造・修理業者賠償責任保険

; (Manufacturer's and Repairer's Liability Ins.)  :—航空示展会賠償責任保険

(Air Meet/Air Display Liability Ins.) 

ヒ飛行クラブ・学校賠償責任保険 (FlyingClub Liability Ins.)  航空機製造物賠償責任保険 (AviationProducts Liability Ins.) 

航空機免許喪失保険 (AirCrew Loss of Licence Ins.)  宇 宙 保 険 人工衛星保険 (SpacecraftIns.)  (Space Ins.)  |—打上げ前保険 (Pre-launch Ins.) 

—打上げ保険 (Launch Ins.) 

―打上げ第三者賠償責任保険

(Third Party Launch Liability Ins.) 

一人工衛星軌道または寿命保険(SpacecraftInOrbit or Life Ins.)  一第三者衛星軌道賠償責任保険

(Third Party Orbital Liability Ins.) 

一人工衛星再突入賠償責任保険 (Re‑entryLiability Ins.)  一人工衛星捕獲保険 (SatelliteRescue Ins.) 

一宇宙機器搭乗者賠償責任保険

(Spacecraft Passenger Liability Ins.) 

し宇宙機器製造物賠償責任保険 (SpaceProducts Liability Ins.)  飛行船保険 (AirshipIns.) 

グライダー保険 (GliderIns.) 

ホバークラフト保険 (Hovercraft,ACV (Air Cushion Vehicle)  Ins.)  航空運送保険 (Shipper'sInterest Ins.,  Cargo All Risks Ins.)  航空傷害保険 (TravellersAccident Ins.) 

(5)

38 第 3•4 号合併号 グライダー保険約款

航空機装備品・予備部品保険約款 8  航空保険料保険約款

人工衛星保険約款

10  定期航空会社用航空保険約款

特約の主なものは,以下に例示されるとおりである。

搭乗者傷害保険担保特約 捜索救助費担保特約 機体のみ担保特約 第三者賠償のみ担保特約 5  乗客賠償のみ担保特約

機体および第三者賠償のみ担保特約 機体および乗客賠償のみ担保特約 第三者賠償および乗客賠償のみ担保特約

, 戦争危険等不担保特約

10  暴動・航空機乗取り危険等担保特約 11  没収危険担保特約

12  放射能汚染免責特約 13  航空機騒音免責特約

14  化学作用汚染賠償責任不担保特約 15  米空軍に対する求償権放棄特約 16  共同被保険者特約

17  休航戻し特約 18  保険料分割払特約 19  共同保険特約

20  インダストリアル・エイド特約 21  航測専用機特約

22  二地点間機特約

(6)

航空保険における基礎概念に関する一考察(羽原)

(561)329 

1)原茂太一『イギリス法における航空保険』財団法人損害保険事業総合研究所, 1991 20‑24ページ; 松本吉平「11航空保険」,金澤理・西嶋梅治・倉澤康一郎編

『新種・自動車保険講座第4巻傷害・新種物保険」日本評論社,1976187‑190 ージ; R. D. Margo, Aviation Insurance 2nd ed.,  Butterworths, 1989, pp. 6‑9. 

2)和文約款作成に当っての基本的な考え方は,①航空機保険は,定期航空事業を 除き,和文約款による引受けを原則とする(但し,現行の英文約款は残るが,その 利用は海外で使用される場合等に限られる),R担保内容は,現行英文約款と基本 的に同じものとする,③作成に当たって,(a)現行約款の直訳を避け,約款の表現 をなるべく平易なものとする,(b)現行実務に即した規定の明確化,(C)現行約款の 規定を補足・修正するために用いられている特約条項は,できるだけ普通約款に組 入れ,構成を簡略化すること,などである(『インシュアランス」損保版3169

3.  航空保険の特質

損害保険の分類には,事故の発生場所によって,海上保険,陸上保険およ び空中保険に分類する方法がある。航空保険は,この考え方に基づく一つの 分野に属する保険群の総称である。

航空保険は,保険業法第12条ノ 31)により私的独占禁止法の適用を除外さ れており,いろいろな特異性をその制度の中に内包している。航空保険制度 の留意すべき特質としては,以下の諸点が挙げられる2)

(1)  危険の巨大性

航空機事故の予想最大損害額としては,航空機の機体価額が現在新型機1 機で約200億円であり,賠償責任は対旅客で1事故当り数百億円,対第三者 では事故の態様によって数百億円からそれ以上の損害も起こりうると評価さ れている3)。たとえば,大型機が500人以上の乗客および搭載可能最大量の 貨物を満載し,市街地上空を飛行中,同様の2機が衝突することを考えると,

運航者としては,乗客賠償責任保険および機外の人員および財物に対する第 三者賠償責任保険を手配する場合高額の付保を要すると判断すのるは当然で ある。このように航空機保険では1事故当りの責任負担額が巨額にのぽり,

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第 3•4 号合併号

巨大リスクを引受けることになる。

(2) 国 際 性

航空保険契約では,危険消化のために国際的規模で再保険の手段を用いて 危険の分散を図ることが,他の種目の保険に比べより重要である。特に,定 期運送事業の大型航空機については,外国の保険事業者や航空保険プールと 幅広く再保険契約4)を行っており, 海外の再保険市場と結び付いているた め,条件・料率等その動向による影響を受けやすく,航空保険は,国際的な 性質を強く持っている。また,航空運送事業本来の国際性として,航空機が 運航する各国の独自の国内法の相違に加え,各国間に存在する数多くの国際 条約の批准状態が国により異なるなど,法的環境も大きく違い,さらに搭乗 旅客は多国籍である。したがって,航空保険のもつ国際性ゆえの問題が生じ る結果となる。

(3)  事故原因の複雑性

航空機事故は,複数の要因が重なり合って発生することが多い。また,ぃ ったん事故が生じると全損の可能性が高いため,当該機が壊滅していたり,

乗務員が死亡してしまっている場合が多く,事故原因の解明が地表交通機関 の事故と比ぺ困難なことが特徴である。その結果責任の所在が明確になるま で保険者が保険金の支払いを猶予されないことも起こりうる。

(4) 投 機 性

リスクの大きさに対して小規模な航空保険市場においては,引受能力が不 安定になりやすい。航空保険契約に関しては,①保険の目的である航空機 の数が少ないこと,②各契約によって保険金額に大きな格差があること,

1事故で巨額な保険金支払いを生ずる可能性があること,が指摘される。

すなわち,航空保険の対象となる航空機は,大型ジェット機から小型機まで 含まれており,危険の規模に大きな差があるため,保険数理の前提となる大 数の法則を適用しうる規模には達していない。このため,航空保険市場は,

予想される事故の規模に対して小さく,極めて不安定になりやすい。したが って,保険業者の引受能力が不足すると,保険料率が大幅に上昇し,これが

(8)

航空保険における基礎概念に関する一考察(羽原) 563)381  事故の少ない時期に重なると,航空保険事業者は大きく利益を上げうるが,

他の保険業者が新規参入してくると,大幅な供給過剰が生じ,保険料率が急 速に低下する結果保険成績は赤字となり,供給不足の現象が生じるような変 動を繰り返している。そのため,航空保険経営は,保有,出再・受再保険の 運用に関しては投機性を有することとなる。

(5)  担保内容の多様性

航空機を運航するためには,航空機の誘導,牽引,整備,清掃,手荷物・

貨物の搭載・処理,機内食の搭載など,さまざまな業務を多くの地点で行な う必要があるため,多様なリスクを担保することが求められる。したがって,

航空保険は,多種類の危険を総合的に担保する保険であり,総合保険性を有 している。また,航空保険において付保される被保険利益は,所有利益,責 任利益,費用利益,収益利益,代償利益などが個別に付保されるよりも,多

くの場合集合的に付保されており,集合利益性をも有している。

(6)  保険契約条件の柔軟性

航空保険においては,契約対象の航空会社の数は限られており,航空会社 の規模や運航路線,使用機材,旅客の構成など営業上の要素がそれぞれ大き く異なり,保険に対する需要要求もかなり相違しているため,契約更改時に は,航空運航事業者はまず担保条件や担保範囲について各々交渉することに なる。したがって,保険業者側の一方的な主張を認めざるをえないこともあ り,保険者との個別交渉による契約内容の設定・変更には,保険期間途中にお いても外的事情の変動により,料率下落時には料率や契約条件の変更を行う cancel rewriteなど他の種目にはないようなかなりの柔軟性がみられる。

(7)  企業保険性

航空保険の主要な契約者は,①定期・不定期の航空運送事業者,③航空 測量,写真撮影,報道取材,空中広告・宣伝,薬剤散布,医療・衛生活動,

操縦訓練, 視察調査, などの業務を請負う航空機使用事業者,⑧役員,従 業員, 招待客などの輸送目的 (industrialaid)で自家用機を有する一般事 業会社をはじめ,航空機製造業者,同修理業者,飛行クラプ,航空機操縦訓

(9)

38 第 3•4 号合併号

練 機 関 に ま で わ た り , 最 近 は 警 察 , 消 防 な ど 行 政 目 的 の た め に 航 空 機 ( ヘ リ コ プ タ ー を 含 む ) を 所 有 す る 官 公 庁 が 増 え て お り , ま た 自 家 用 機 を 保 有 す る 個 人 も 増 加 し て き て は い る が , 基 本 的 に 航 空 保 険 は , そ の 先 駆 を な す 海 上 保 険 と 並 ぶ 企 業 保 険 の 一 種 で あ る 。

1)保険業法第12条ノ3(共同行為に対する私的独占禁止法の適用除外)

「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の規定は左の各号に掲ぐる行為 に付ては之を適用せず,但し不公正な取引方法を用いるとき,相互に事業活動を不 当に拘束することにより一定の取引分野に於ける競争を実質的に制限することとな るとき又は一定の取引分野に於ける競争を実質的に制限することにより保険契約者 若は被保険者の利益を不当に害することとなるときは此の限に在らず」の規定によ

り,再保険プールとして航空保険プールのような共同組織の設立が可能となる。

また,航空保険事業を(航空機,航空機に依り運送せらるる貨物または航空機の 管理に際し,他人に与へたる損害を賠償する責任を保険の目的とする損害保障事業 をいい,旅行者の航空機搭乗中の傷害に因る損害を填補する損害保険事業を含む)

としている。

2) 矢尾板康夫「航空保険の現代的課題」,遠藤浩・林良平•水本浩監修同籾淳媒]法 大 系 第6巻担保・保証・保険契約」有斐閣,昭和59 328‑330ページ; 阿部紘 ー「定期航空会社の航空保険について」『空法」第33号,日本空法学会編,勁草書房,

1992 33‑41ページ; 野上鉄夫「航空保険論の基礎」『大森先生還暦記念商法・

保険法の諸問題」有斐閣,昭和47604‑606ページ; 亀井利明「海上保険概論」

成山堂書店,平成41‑4ページ; 大正海上火災保険閥編「各種新種保険の理 論と実務』海文堂,昭和56 213‑214ページ; 志津田一彦「損害保険における海 上保険の特殊性」,戸田修三•西島梅治編「保険法・海商法」青林書院, 1993年, 303 ページ; 山下陽生「第11章新種保険」木村栄一•高木秀卓編「損害保険概論」有斐 1993261ページ。

3)航空保険契約においては,各航空企業の総保有航空機 (fleet)につき包括的に1 枚の保険証券 (combinedpolicy)1機ごとに機体価額 (hullvalue)を約定し,

1事故あたりの賠償責任限度額 (liability limit)を決めて引受ける方法が採られ ている。

保険料の算定方法としては,機体 (hull)の保険料については,機体保険料 (Premium for Hull)=保有航空機価額の合計 (AFVAverage Fleet Value) X 

機体保険料率 (Ratefor Hull)により計算される。保有航空機数の多い場合には,

保険期間(通常1年)の途中で保有航空機 (fleet)に新しく編入されたり,あるい

(10)

航空保険における基礎概念に関する一考察(羽原) (565)333  は削除される機体がでてくるが, 自動的にこれらも保険の対象となり. AFVに加 減されることになっている。保険料率自体は,①当該保有機の最大機体価額, ②  AFVの規模,⑧事故歴,④整備状態の良否, などの要素を総合的に検討して決 定される。

賠償責任 (liability)の保険料は,賠償責任保険料 (Premiumfor Liability)=  有償旅客キロ (RPK=RevenuePassenger Kilometers)*XT,ox賠償責任保険 料率 (Ratefor Liability)によって計算される。 この保険料率も機体の場合と同 じく,①賠償責任額の規模,②RPKの大きさ,⑧事故歴.④整備状態の良否,

などの要素を総合的に考慮して決定される。

*有償旅客1名を 1km輸送した場合を lRPKとし,有償旅客数に各飛行区間 の大圏距離を乗じたものの合計。

(岡田修三「航空保険のリスク・マネジメント」『航空運航システム研究会雑誌J

8号,航空運航システム研究会, 1992 32‑33ページ。)

4)航空再保険の仕組み

(海外再保険契約)

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'‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑ I 

BAIC (British Aviation Insurance Company)およびA & GIC (Aviation & 

General Insurance Company)は,ともに保険会社市場における航空保険専門のプ ール会社である。 LAUA(Lloyd's Aviation Underwriters'Association)は, ロ イズ市場の航空保険者の利益を代弁する機関であり. AIOA (Aviation Insurance  Offices'Association)は,保険会社市場における同様の機関である。

USAIG (United States Aircraft Insurance Group)および AAU(Associatee  Aviation Underwriters)は,米国における航空保険を専門に引受ける保険会社団 体である。

4.  航 空 機 運 航 者 の 責 任 と 関 係 法 規

(1) 航 空 法

現 在 , 航 空 連 航 者 に か か わ る 法 律 と し て 昭 和27年 に 制 定 さ れ た 航 空 法I)

(11)

第 3•4 号合併号

は,主に航空行政に関する航空公法であり,航空機運航者と地上あるいは航 空機内の第三者との間に生じうる法律問題を律する航空私法は制定されてい ない。したがって,これらの諸問題は,民法,商法などの一般法により処理 されている。

(2)  乗客に対する賠償責任

航空機運航者が人員または物品の輸送を業とする運送事業者である航空会 社の場合には,運送約款,ワルソ一条約2)(国際連送),商法577条の運送人 に関する規定,民法415条の債務不履行に関する規定,民法709条の不法行為 に関する規定等が, 賠償責任体系となる。運航者が一般運送事業者以外の 一般の運航者の場合には,民法709条の不法行為責任に関する規定のみとな る。わが国では,航空運送人の責任に適用する固有の法律がなく,国際運送 についてはワルソ一条約が直接適用され,国内運送においては,商法の陸上 運送人に関する規定および民法の債権と不法行為に関する規定が類推または 準用されているため,運送約款の果たす役割が非常に大きい。

航空運送は,通常運送約款に基づいて行われるので,事故が発生した際の 損害賠償は顧客と逓送業者との当事者間の自治規定である運送約款がまず第 ーに適用される。

ワルソ一条約については,既に批准された国際法規であるため,憲法第98 条第2項により法律と同等の効力を有し,航空に関する特別法の効力をもっ て民法,商法などの一般法に優先して適用される。したがって,航空運送事 業者に対する損害賠償に関する法的責任は,運送約款,ワルソ一条約,商法,

民法の順序で適用および準用されることになる。

運送約款を含めて,これらの何れもが,運送人の側で自己に過失がなかっ たことを立証しない限り,運送人が損害賠償の責を負う旨規定されている。

挙証責任の問題については,運送約款およびワルソ一条約(第20条第13)

では, 「運送人は, 運送人およびその使用人が損害を防止するための必要な すべての措置を採ったこと,またはその措置を採ることができなかったこと を証明したときは, 責任を負わない」という免責抗弁を規定している。

(12)

航空保険における基礎概念に関する一考察(羽原) (567)335  た,商法第5774)では,運送人が「注意を怠らざりしことを証明」する必 要があるとされている。

さらに,民法上の債務不履行に関する規定も,挙証責任は加害者の側にあ るとしている。すなわち,運送業者の責任は,不法行為責任5)を除くその他 のいずれの場合も過失推定主義に立脚している。

しかし,現実の航空機事故に際しては, 運送人の側に帰責事由がなくと も,当該機が損壊したり,乗務員が死亡している場合が多いため,過失のな かったことを立証することが困難となり,実際の適用では無過失責任にかな

り近い形態となっている。

(3)  第三者に対する賠償責任

航空機が他の航空機あるいは地上の第三者に損害を与えた場合の法律上の 損害賠償責任については,わが国に特別立法が存在しないので,民法709

(航空企業の従業員によって引き起こされた損害は民法715条)による不法 行為に基づき損害賠償責任を負うことになり,加害者である航空機の運送者 の側に故意または過失があってはじめて損害賠償責任が生じる結果となる。

故意または過失が加害者にあったことの立証責任は,被害者の側にあるが,

技術的に高度な専門の知識を要する航空機事故の原因に関して,被害者が航 空機運航者側の責任を追及するには困難が伴う場合が多い。つまり,航空機 事故による第三者への賠償責任について問題になるのは,民法の過失責任主 義であるが,政府機関の航空事故調査委員会による事故原因の解明が行われ るため, 立証の問題は必ずしも被害者の不利にはならないと考えられてい る。そのため,運航者に高度な注意義務を課すなどの実務的な方法により,

現行の過失責任主義の枠内で解決されている%

運航者と地上の第三者との国際的な取決めについては,ローマ条約 (Rome Convention) nがあるが,日本をはじめ世界の主要国はいずれも同条約を批 准していない8)。 その主な内容は,①運航者に対する厳格責任の適用,R 限定責任の原則の採用,⑧責任限度額の設定,④支払いを担保するための 強制保険および金銭寄託などの保証制度,⑥裁判管轄の明定, より成って

(13)

38 第 3•4 号合併号 いる9)

現 在 , 航 空 機 の 地 上 第 三 者 に 与 え る 損 害 の 規 律 に つ い て は , 各 国 の 国 内 法 が 重 要 な 地 位 を 占 め て い る が , わ が 国 の 場 合 前 述 の と お り , 特 別 法 が な い た め , 一 般 法 に よ っ て 解 決 を 図 ら ざ る を え ず , 地 上 損 害 が 一 過 性 の 原 因 に よ る 場 合 に は , 加 害 者 と 被 害 者 の 間 に 契 約 関 係 の な い 限 り , 加 害 者 の 責 任 は 不 法 行 為 責 任 と な る 。 ま た , 国 家 が 航 空 機 に よ る 地 上 損 害 の 原 因 に 加 功 し て い る 場 合 は , 国 家 賠 償 の 責 任 を 負 う こ と に な る10)

1)航空法第1条(この法律の目的)

この法律は,国際民間航空条約の規定並びに同条約の附属書として採択された標 準,方式及び手続に準拠して,航空機の航行の安全及び航空機の航行に起因する障 害の防止を図るための方法を定め,並びに航空機を運航して営む事業の秩序を確立

, もって航空の発達を図ることを目的とする。

なお,現行の航空事業に関するその他の法制としては,航空機製造事業法,航空 機抵当法,空港整備法等があげられる。

2) The Warsaw Conventionおよび TheHague Protocol

The Convention for the  Unification  of  Certain  Rules  Relating  to  Inter national Transportation by Air(国際航空運送についてのある規則の統一に関す る条約)およびTheProtocol to Amend the  Convention  for  the  Unification  of Certain Rules Relating to International Carriage by Air Signed at Warsaw  on 12  October 1929 (192910月12日にワルソーで署名された国際航空運送につ いてのある規則の統一に関する条約を改正する議定書)。

運送契約による旅客の出発地と到達地がいずれもワルソ一条約の締約国にある場 合,または両地とも同一の締約国にあるが予定寄航地が他の国にある場合には,ヮ ルソ一条約が適用される国際運送(ワルソー運送)となる(条約1条)。 この要件 に該当しない国際運送(ワルソー運送)には条約の適用はなく,準拠法の決定によ り適用法規が決まる。また,ワルソー運送の場合においても, 1955年ヘーグ議定書 を批准した国と, していない国があり, 1929年のワルソー原条約が適用される運送 1955年ヘーグ議定書で改正されたワルソ一条約が適用される運送の区別がなされ る。したがって,同一の航空機に乗合わせた旅客でも,それぞれの契約によって適 用法規が異なることになる。(田村諄之輔•平出慶道「現代法講義保険法•海商法』

青林書院, 1992 283‑287ページ。)

原茂太一「航空旅客運送契約」,遠藤浩・林良平・水本浩監修『現代契約法大系第 7巻サービス・労務供給契約」有斐閣,昭和63 40‑58ページ。

(14)

航空保険における基礎概念に関する一考察(羽原)

ワルゾ一条約体制

(569)337 

モントリオール 1追加議定書

(Montreal  Protocol No. I)  1975年 ーSDR

モントリオール 2辿Jl1議定書

¥Montreal  Protocol Nu 2)  1975年 ーSDR

モントリオール 4追加議定書

!Montreal  Protocol Nn4)  1975年 ーSDR

ワルソ一条約1929

(Warsaw Convention)  1933213日発効

グアダラハラ条約 1971

(Guadalajara  Convention) 

旅客および手荷物 19645月1日発効

` 冒 

\ │モントリオール協定1966

モントリオール 3追加議定書

(Montreal Protocol Nn3)  1975年 ーSDR

(Montreal  Agreement) 

航空会社と米国民間航空 委員会(CAB)の民間協定

1966516日発効 マルタ協定 1975

(Malta  Agreement) 

ヨーロッパ航空会社の 民間協定

(参考文献.•I.H. Diederiks‑Verschoor,  An Introductiou  to  Air Law,  4th  ed.,  Kluwer, 1991, p. 98.) 

3) Article 20 

1.  The carrier  shall  not  be  liable  if  he  proves  that  he and his  agents  have taken all  necessary  measures to  avoid the  damage or  that  it  was  impossible for him or them to take such measures. 

4)商法第577条(損害賠償責任)

運送人は自己若くは運送取扱又は其使用人其他運送の為め使用したる者が運送品 の受取引渡保管及び運送に関し注意を怠らざりしことを証明するに非されば運送 品の滅失,毀損又は延着に付き損害賠償の責を免ずることを得ず。

なお,陸上運送人の責任に関する商法第590条および第591条は,航空運送人の責 任にも類推適用されるというのが一般的な考え方である。

5)不法行為責任のみが被害者の側に挙証責任を課しているため,被害者にとって不 法行為責任を追求することは,不利と考えられている。(大正海上火災保険昧編,

前掲書, 233ページ。)

6)同上書, 232ページ; 落合誠一・大塚龍児・山下友信『商法I総則・商行為J 斐閣, 1988 182‑201ページ; 田村諄之輔•平出慶道,前掲書, 283-287ページ。

7) 1933年に, TheConvention for  the  Unification of  Certain  Rules  Relating  to Damages caused by Aircraft to Third Parties  on the  Surface(航空機に よる地上第三者に対する損害に関する規則の統一のための条約)が署名され, 1941

参照

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