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日本語教 育実習事例研究

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(1)

日本語教 育実習事例研究

次第 に粗 雑 化 して い く上級 段 階の語 句 ・表現 の説 明分 析

丸 山 敬 介

1.事 例 と事 例 を採 取 した実 習授 業 の概 要

一 般 に 、実習生 は大変 な緊張状態 の中で実習 に臨むが、授業が進行 す るにつれ て少 しず つ精 神 的 な余 裕 が 生 まれ 学 習 者 や 自 己の 指 導 を客 観 的 に把 握 す る よ う に な る 。 そ れ は1回 の 実習 の 中 で も連 続 す る複 数 の 実 習 にお い て もい え 、 不 十 分 な が ら も学 習 者 の 理解 の様 子 を見 て 自 らの指 導 技 術 の 適 否 を評価 ・判 断 し、 必 要 に 応 じて そ の 軌 道 修 正 を施 す 。 したが っ て、 開始 当初 よ り中盤 か ら後 半 にか けて 客 観 的 に よ り適 切 で 望 ま しい指 導 を して い くよ う に な るの が 普 通 で あ る 。 もち ろん 学 習 者 や 学 習 項 目 ・実 習 生 の性 格 や興 味 の持 ち よ う に よ って さ ま ざ ま なケ ース が 実 際 に は起 こ るが 、 大 局 と して み れ ば 、 こ う した変 化 は実 習 指 導 教 師 が そ して実 習 生 自身 が 普 通 に抱 く感 想 で あ り、 の み な らず 彼 らが 得 る一 つ の 経 験 知 とい って

よか ろ う。

と こ ろ が 、次 に あ げ る2005年 に民 間 の養 成 機 関 で 採 取 した 上 級 段 階 にお け る 精 読 の 実 習 事 例 で は、 そ う した 過 程 とは 逆 に 、 開始 か ら中盤 辺 りまで は語 句 の意 味 や 用 法 を丹 念 に取 り上 げ 学 習 者 と問答 を しな が ら適 切 な情 報 を提 供 して い る の に もか か わ らず 、 開 始 後40分 を過 ぎた あ た りか ら指 導 項 目 と して取 り上 げ た こ とが ら は学 習 者 に と って 既 知 で あ る とい う明確 な根 拠 の な い前 提 に立 ちが ち とな り、 意 味 の説 明 も粗 雑 で 遺 漏 が 多 く全 体 と して 単調 な講 義調 の指 導 に な っ て い く 様 子 が 観 察 され る。 妥 当 性 を欠 く指導 は い ろい ろ な形 で 実 習 授 業 に 出現 す るが 、 初 級 段 階 で は授 業 進 行 の段 階 に関 係 な く指 導 項 目の 説 明 の し方 や練 習 の させ 方 な

どの特 性 に 関連 して起 こ る の に対 し、 こ う した 実 習 後 半 に行 くに した が っ て 説 明 が 粗 雑 化 して い く現 象 は 中上 級 こ と に新 聞 記 事 な ど生 の教 材 を使 っ た 上級 段 階 に

(2)

お い て散 見 さ れ、きわ め て特 徴 的 で あ る。本 論 は 、そ の 典 型 的 な例 と して この 事 例 を取 りあ げ前 半 部分 と後 半 部 分 と を比 較 す る こ とに よっ て そ の実 態 を具 体 的 に明 らか にす る と と もに、 そ れ を踏 ま え た今 後 の 課 題 を検 討 しよ う とい う もの で あ る。

分析 の 前 に 、分 析 対 象 と した 実 習 授 業 の概 要 を述 べ てお く。実 習 生 は企 業 退 職 者 で 、 日本 語 指導 の経 験 を ほ と ん ど持 って い な い が 、 こ の指 導 を行 うまで に 日本 語 の 構 造 的知 識 ・日本 語 教 育 の歴 史 と社 会 的 背 景 ・教 授 法(実 習 に 求 め られ る具 体 的 な技 術 ・知 識 な ど も含 む)な どの 基 本 的 知 識 は学 習 済 み で 、 さ ら に初 中級 段 階 にお い て複 数 回 の教 壇 実 習 を行 って い る。授 業 は 、成 人 の外 国 人4名 を対 象 に した ク ラス 形態 授 業 で あ っ た。 省 略 した りス キ ップ した りせ ず 、最 初 の導 入 か ら 最 後 の 発展 的 な話 し合 い な どの 活 動 まで 実 習 生 一 人 で通 して受 け持 ち 、実 習 に要 した 時 間 は75分8秒 で あ った 。

教 材 は 、 実 習生 自 らが 新 聞 な どか ら800〜1000字 程 度 の 記 事 を選 ん で くる こ と を 旨 と したが 、 本 論 で 使 わ れ た の は 『日本 経 済 新 聞 』 に2005年 の4月 か ら7月 ま で 連 載 され た現 代 の さ ま ざ ま な労 働 者 の あ り方 と働 くこ と の意 味 を 問い か けた 特 集 記 事 の あ る回1)で 、集 団就 職 で 東 京 に出 て きてパ ン屋 を 開 業 し今 日 まで 至 っ た親 とそ の家 業 を継 こ う と決 め た 息 子 を通 して 、誇 りを持 っ て 自分 の仕 事 に向 き あ う個 人事 業 主 の姿 を描 い た もの で あ る 。 以 下 の五 部 構 成 を なす 。

① 集 団就 職 の説 明

② 集 団就 職 で新 潟 か ら出 て 来 て パ ン屋 に勤 め た少 年 の紹 介

③ 独 立 した少 年 とそ の 後 の 発展

④ 高 校 時 代 遊 びほ う けて い た 息 子 の 、 家業 を継 ぐ意 志 の 表 明

⑤ 集 団就 職 時 代 と は価 値観 が 変 わ っ て しま っ た今 日の 働 く意 味 の 問 い か け 2.指 導 前 半 部 分 の妥 当性 の分 析

次 のNo.1〜45は 、実 習 開始 後7分38秒 か ら始 まっ た上 記 ① の 指導 で あ る2)。

① 集 団 就 職 の 説 明 No.T/S7:38

1

2 T 1

2

s1

「東 京 世 田 谷 区 の桜 新 町 」。東 京 に世 田谷 って い う ところ が あ るね 、ま あ 、だ い たい 日本 の 中流 の 、人 たち が一 番 住 んで る ところ です け どね 。

「50年 前 の1955年 、 地 方 の 中卒 者 」、 「中卒 者 」 っ て 何 で す?

中学 校 卒 業者 。

(3)

日本語教育実習事例研究

3

T

1

そ うで す ね 、 中学 校 を卒業 した 人 ね。

2

「を、 受 け入 れ る集 団就 職 」。S2さ ん、 「集 団就 職 」 っ て わ か ります?

3

「 集 団 」、 わ か り ま す?集 団 っ て 、 わ か り ま す 。 4

S2

「 集 団 」 は 、 み ん な が 集 ま っ て … 。

5 T 1 そ う そ う 。 そ う で す ね 、 ま 、 グ ル ー プ 。 2

就 職 」 は?

6 S2 就 職 」 は、 簡 単 にい え ば仕 事 に就 く。

7 T

1

そ うです ね、 「仕 事 に就 く」。 集 団 で 仕 事 に就 く制度 で す ね 。

2

「集 団 就 職 制 度 を初 め て 町 ぐる み で導 入 した 」。 「ぐ るみ 」 っ て わ か り

ます か?「 町 ぐるみ 」、S4さ ん 。 8 S4 ・ ●・

9

T

(S1に 向 か って)わ か り ます か 。 10

Sl

「ぬ い ぐ るみ 」 の 「ぐる み」

11 T あ 、 じ ゃ な い で す ね 。(笑 い)S3さ ん 、 わ か り ま す?

12

S3

な ん か 、 集 ま っ て … 。

13

T

1

「町 ぐる み 」 とい うの は、 町 全 体 で す ね 、 「町 ぐる み で 」。 は い 、 町 全 体 が そ うい う こ と を した とい うね 。

2

今 度 、 あ の、 高 校 野 球 っ て い うの が あ り ます ね 、8月 に。 で 、 み ん な 、応 援 し ます ね 。 「学校 ぐる み で 応 援 す る」 とか ね。 そ の 市 と か村 とか 、村 ぐる み で 応 援 す る場 合 で す ね。 「ぐる み」、 全 体 で 応 援 す る 、 ね 。 そ う い う と き に、 「ぐ るみ 」 とい うの を使 い ます ね 。

3

で ね 、 「集 団 就 職 」、 「今 か ら50年 前 、 集 団就 職 」。 ち ょ っ と、 見 え ま す か 。

(集団 就 職 の若 者 が 出発 す る地 方 の駅 、 彼 らを 出迎 え る東 京 の 駅 ・商 店 の写 真 、貼 っ て説 明)

4

ま あ、 こ れ が 「集 団 就 職 制 度 」 っ て い う もの で す 。 これ が20年 間 、 1950年 か ら20年 間 。 だ い た い 、 わ か って い た だ け ま した ね 、 ど うい う もの か とい うム ー ドが ね。

14

Sl 何 と な く、 文化 大 革 命 の写 真 み たい 。

15 T 1

だか らね 、 日本 もこ うい うね 、 こ れ、 頭 もお か っぱ 頭 って いい ま して ね 。 こ う い う時 代 が あ っ た ん で す よ。 わ か りま した?は い 。 こ れ が 、 そ れ を町 ぐる み で 導入 した ん です ね。

2

「最 初 は 人 身 売 買 か と疑 わ れ て ね 」。 「人 身 売 買 」。 「人 身売 買 」 って わ か ります か?

S4さ ん 、 わ か ります か 。 「人 身売 買 」。

16 S4 な ん と な く、 わ か り ま す 。

17 T 1

な ん とな く、 わか り ます?ま 、 あ の う、 ま あ、 い わ ゆ る ね 。 お金 を 払 っ て人 を、 こ う、 売 り買 い す る こ と をい い ます ね。 「か と疑 わ れ た」

とい うこ と は、 間 違 え られ た とい う こ とで す か らね。

2

「人 身」 て い う こ と ば は、 ま、 あ ん ま り使 わ ない ん で す け れ ど も。 普 段 よ く使 っ てい る こ との 中 で はね 、 「人 身事 故 」 っ て い う こ とば を よ

く使 い ま す ね。 「人 身事 故 」。

(4)

S3さ ん、 「人 身 事 故 」 っ て 聞 い た こ とあ ります か?

18 S3 問 い た こ とあ り ます け ど。 「人 身事 故 」 … 。

19 T 1

「人 身事 故」。事 故 です 。(「人 身事 故 」 板 書)交 通 事 故 とか 電 車 事 故 と か 、事 故 、起 こ します ね。 ぶ つか った りとか 。 そ の と き に、 人 が ぶ つ か っ て 、事 故 、起 こす 。 こ れ、 「人 身 事 故 」。 バ イ クが 、 バ イ ク、 オ ー トバ イ が 人 とぶ つ か っ て も 「人 身事 故 」。 人 身事 故 をす る と、警 察 は 非 常 に厳 しい で す よ。 こ う い う と き、 「人 身 事 故 」。 「人 身事 故」 とい うの は 、 結 構 、 ニ ュ ー ス とか 新 聞 な ん か で は使 い ます 。 「人 身」 っ て い うの は 、 これ ぐ らい です ね。 ま、 あ ん ま り、 あ の 、 聞 か な い と思 い

ます 。 は い。

2

で 、 「当 時 の 商 店 会 長 で 発 案 者 」。S4さ ん、 「発 案 者 」 っ て わ か りま す?

20 S4 発 案 者 」?

21 T

え え、 「発 案 者 」。 「商 店 会 長 」、 わ か り ます ね。 商 店 の会 長 さん 。

22 S4 う ん 。

23 T

発 案 」 てい うの は?

24 S4 「 発 案 」 … 。 そ の 、 初 め て 、 そ の … 。

25 T

1

そ うで す 。 「案 」っ て ア イ デ ィア で す ね。考 え を 、 「発 」で す か ら、発 し ます か ら、考 え を初 め て発 した 人 です ね 。こ の人 が 発 案 した 、考 え た。

2

「菅 沼 元 治86歳 は振 り返 る 」。

S2さ ん、 「振 り返 る」って どうい うこと?「 振 り返 る」って わか ります?

26

S2

わ か り ま す 。 あ の 、 一 度 、 … 。 前 の こ と を 、 思 い 出 す 。

27 T 1

そ うで す ね 。 実 際 は、 こ う、(後 ろ を 向 い て み せ る)人 が こ う、 こ う や っ て こ う向 くの が 「振 り返 る 」 です が 、 そ れ を、 逆 に、 過 去 の こ と を見 る の に 「振 り返 る」 を使 い ます ね。

2

「新 潟 県 高 田 市 、 現 上 越 市 の 、 職 業 安 定所 」。S3さ ん 、 「職 業 安 定所 」 わ か りま す か?

28 S3 職業 を 、仕 事 が あ る とい う こ と?

29

T 違 い ま す 。 知 っ て ま す?S2さ ん 。

30 S2 職業 を紹 介 す る場 所 。

31

T 1

そ うそ う。 今 、 「ハ ロ ー ワ ー ク」 っ て い う ね、 横 文 字 な ん で す ね 。 そ うそ う、 「ハ ロ ー ワ ー ク」。 い わ ゆ る 、仕 事 を紹 介 して くれ る 所 で す ね。 も し くは、 会 社 の人 で した ら、 仕 事 の 人 を ね 、 ど こ ど こ、 自分 は 何 人 ほ しい ん です け ど っ て い っ て、 い い に行 く所 で す ね 。

2

そ の 、 「職 業 安 定 所 に 頼 み 込 ん だ 末 、16人 を 受 け 入 れ た の が 始 ま り だ」。 こ の 中で わか りに くい と こ、 あ り ます か 。

いい で す か 、 だい たい わ か りま した か?

3

それ な らね 、 この 中で ね 、 「末 」 とい うのが 出 て きます ね 。 「末 」。 「 み 込 ん だ末 」。 「末 」 とい うの は ど うい う意 味 か わ か ります?

S1さ ん、 ど うで す か 。 32 S1 わか りませ ん。

33

T 「何kの 末 」。

(5)

日本語教育 実習事例研 究 34 Sl 結 果?

そ う です ね 。 そ うで す 。(「〜 末 」板 書)意 味 と して は、 い ろ い ろ した

1

後 で、 と う と う最 後 に、 まあ 、 結 果 み た い な もん で す ね 。 い ろ い ろ し た ん です 。 で す か ら、 そ の結 果 とい う よ うな 意 味 に な る ん で す ね 。 ち ょっ とね、 例 をあ げ ま し ょうか ね 。(「い ろ い ろ考 え た 末 、 車 を買 い ま し た。」 板 書)は い 、 わ か り ます?(板 書 を な ぞ りな が ら)こ れ は

2

ね 、 い ろ い ろ考 えた 末 、 車 を買 い ま した 。 まあ 、 ね 、 お金 ない ん だ け れ ど も、 ま あ い ろい ろ便 利 だ し、 ど う し よ うか な と こ うい ろい ろ考 え た 、結 果 、 車 を 買 い ま し た。 こ う い う と き使 う ん で す ね 。 「考 え た

末 」。

そ れ か ら ね 、 こ れ は 、 こ こ が 、 あ あ 、 ち ょ っ と ご め ん さ い 。 「タ 」 が 35 T

3 抜 け ま した ね。 こ こ は あ の、 「タ形 」 が 、 動 詞 の 場 合 、 「タ 形 」 が き ま

す ね 。 タ形 が きて ます 。

今 度 は名 詞 が 来 る場 合 ね 。 こ う い い ます 。(「粘 り強 い 交 渉 の 末 、 や っ と安 く して も らい ま した 。」 板 書)こ れ は ち ょっ と、 知 っ て お か な け

れ ば 、 ね 。 … は い 、 車 を 買 っ た と き に ね 。(「 交 渉 」 指 し て)こ れ 、 4 わ か り ま す 。 「 交 渉 」 っ て ね 、 あ の う 、 い ろ い ろ 、 や り 取 りす る こ と

で す ね 。 「粘 り強 い交 渉 の末 、 や っ と安 く して も らい ま した 。」 わ か り

ま す ね 。 こ れ ね 、 こ う い う と き に 使 う。 こ こ 名 詞 の 場 合 、 こ う 、 「の 」 が 付 くね 、 「交 渉 の 末 」。 こ う い う と き に 、 「 末 」 と い う の 、 使 う。

こ れ は ね 、 「 何 々 や っ た 末 、 う ま く い き ま し た 」、 ね 、 買 っ た 、 買 え た 5' の ね 。 「末 」、 う ま か っ た ん で す ね 。

う ま くい か ない と き もあ る 。 この 「末」 とい う とき、 何 て 使 う?

36

S2 「あ げ く」。

そ うで す ね 、 「あ げ く」。 知 っ て ます ね。 「あ げ く」。(「あ げ く」 板 書)

1

こ こ は、 そ の 代 わ りに 、 「買 え ませ ん で した」。(「買 え ませ ん で した。」

板 書)ち ょっ とね 、 車 、 あれ で した ね 。 「あ げ く」 を使 う ん で す 。 こ

れ は 、 い ろ い ろ や っ た け ど う ま くい か な か っ た 。

37 T 2

(名詞 の例 の 板 書 を指 し なが ら)こ っ ち は 、 ど うな ります か ね 。 「粘 り 強 い 交 渉 の あ げ く、 安 く して も ら え ませ んで した」。 い ろ い ろや っ た ん だ け どだ め だ っ た 、 とい う こ と で す ね 、 だ め だ っ た 。 こ うい う と

き 、 「末 」 と か 「あ げ く」 を 使 う ん で す ね 。 は い 、 よ ろ し い で す か 。

3

そ れ で は 、 次 、 い っ て み ま し ょ う か ね 。

は い 、S2さ ん 、 読 ん で く だ さ い ま す か 。 38

S2 は い 。(第2段 落 読 み)

1

そ うで す ね 。 え え、 「翌 年 の経 済 白書 は」。

2

これ は 、政 府 が 出す 経 済 の実 態 を表 した 文 書 で す ね 。 3 そ こに 、 「もは や戦 後 で は ない 」 とい われ た 。

「もは や」 っ て ね 、 「今 と な っ て は既 に」 とい う意 味 な ん で す ね 。 これ

4

をね 、 ど うい うこ とを指 す か、 ち ょっ と これ を見 て 下 さい 。

(国民所 得 の グ ラ フ配 布 して戦 前 か ら高 度 成 長 期 まで を簡 単 に説 明) 39

T

5

は い 、 こ うい う意 味 で 、 「もは や 戦 後 で は な い 」 と、 こ う い っ た わ け で す ね 。 い い です か。

6

「と 、 宣 言 」。

(6)

7

「宣 言 」 とい う の は、 「宣 言 す る 」 とい っ て 、 政 府 や そ ん な と こ ろが 、 こ う だ とい う こ とです ね。

8 「日本 経 済 は復 興 期 か ら高 度 成 長 期 」、 グ ラ フ に も出 て い ます ね 。 9 「に入 り、商 店 や 工 場 は深 刻 な」。S4さ ん、「深 刻 」って 知 って ます か?

40 S4

う う ん 。 「 深 刻 」。 ち ょ っ と 、 今 、 説 明 で き な い 。.

41 T 1

うん 、大 変 だ とい うね 、 ひ ど く大 変 な こ とね。

2

「人手 不 足 」、 「人 手 不 足 」 は。S4さ ん、 わか ります か 、 「人 手 不足 」。

42

S4 人 が ない?

43

T 1

そ う です 、 人 の手 が 足 りない 。 不足 して い る ね 。

2 「に 陥 っ た 」。Slさ ん 、 「陥 っ た 」 っ て 何 で す か 。

44 S1 う う ん と。 悪 い 結 果 に な る こ と。

45

T 1

そ う で す ね 。 「陥 った 」 っ てい う の は ね 、穴 に 落 ち込 ん だ い う こ と で す ね 。(穴 に 入 る 図 を 描 い て)こ う ね 、 落 ち て 入 っ た。 ね、 「陥 っ た」 って 、 漢 字 の 「落 ち る」 と入 る で もい い で す ね 。 「陥 っ た」 ね。

2

「集 団就 職 は全 国 に拡 大 」。

3

「拡 大 」 は い い ね 。 広 が っ て 大 き く な っ て い く こ と 。

4

で 、 先 ほ どい い ま した け ど、 「金 の 卵 の 若 い 労 働 力 は列 車 に揺 ら れ、

不 安 と希 望 を胸 に都 会 に向 か っ た 」(先 の集 団就 職 の写 真 を掲 げ て) こ う い う感 じで ね 。 こ うや っ て ね 、不 安 、不 安 。 不 安 です ね。 心 配 そ う な顔 して ます ね 。 こ うい う感 じです 。 は い。

5

そ れ じ ゃ 次 、S4さ ん 、 読 ん で も ら え ま す か 。

23:25

こ こで 実 習 生 が 取 り上 げ た 語 句 ・表 現 とお の お の の指 導 の進 行 は、 以 下 の 通 り であ る。

語句 ・表現 取 り出 し(No.)学 習 の応 答(No.) 実習生が行った説明(No.)

i. 中卒者」 意 味 問 い(1‑2) Sl(2) 意味説明(和語化)(3‑1)

}意味繝 和語化)(7‑1)一写真見せて解説(13‑3)

→ 例(13‑2)

→例 文提 示(35‑2)→ 動詞(35‑3)・名 詞(35‑4) 2.集団就職」集 団」意 味 問 い(3‑3) S2(4) y カ タ カ ナ(5‑1)

就職」意 味 問 い(5‑2) S2(6) y 繰 り返 し(7‑i) 3. 〜 ぐる み 」 意 味 問 い(7‑2) S1(10)・S3(12) 意味説 明(言 い換 え)(13‑1)

4.人身売買」人身売買」意 味 問 い(15‑2) 一r S2(16) 意味説明(和語化)(17‑1)

人身」用 例 問 い(17‑2) S3(18) y 用例 説 明(19‑1)

5. 発案者」 発 案」 意味問い(23) y S4(24)

意味説明(和語化)(25‑1)

案〆発」

6. 振 り返る」 意 味 問 い(25‑2) y S2(26) 意 味 説 明(27‑1) 7. 職業安定所」 意 味 問 い(27‑2) → S2(28)・S2(30) 意 味 説 明(31‑1)

8. 〜 末」 〜 末」 意 味 問 い(31‑3) → Sl(32)・Sl(34) 意 味 説 明(35‑1)

〜あ げ く」類 義 語 問 い(35‑5) S2(36) H 動詞(37‑1)・ 名 詞(37‑2) 9. 経済 白書」 本文 読み 上 げ(39‑1) y 意味説明(39‑2) io. 「も はや 」 本文 読み 上 げ(39‑3) 意味 ・文 脈 的 意 味(39‑4)

ii. 宣言」 本文 読み 上 げ(39‑6) 意味説明(和語化)(39‑7)

12. 深刻」 意 味 問 い(39‑9) y S4(40) 意 味説 明(言 い換 え)(41‑1) 13. 「人手不足」 意 味 問 い(41‑2) y S3(42) y 意 味説 明(言 い換 え)(43‑i) 14. 陥 っ た 」 意 味 問 い(43‑2) 51(44) y 意味説明(図示)(45‑1)

15. 拡大」 本文 読み 上 げ(45‑2) 意味説明(和語化)(45‑3)

(7)

日本語教育実習事例研究

① で 取 り上 げ た語 句 ・表現 は 計15で こ れ らに な され た 説 明 は主 に 意 味 の 解 説 で あ るが 、 そ の 方 法 は、 お お む ね 、 三 つ の タ イ プ に分 け られ る。

一 つ は語 句 単 位 で 意 味 の み を与 え る もの で、 まず学習者 にその語句 の意味 を問 い か け 学 習 者 の応 答 を得 、そ の応 答 を受 け て 説 明 を行 う とい う基 本 パ ター ン を 持 って い る。 次 の 表 に見 る よ うに前 記8.と10.を 除 くも のが そ れ で 、 最 も数 が 多 い 。2番 目は、 そ う した基 本 パ タ ー ンを持 ち な が ら意 味 の み な らず 例 文 や 接 続 の形 な ど まで 取 り上 げ る タイ プ で 、8.「 〜 末」 が そ れ に あ た る。 最 後 に、 語 句 の 意 味 説 明 に始 ま って そ れ が発 展 し実 習 生 自 らが用 意 して きた資 料 に触 れ て 内容 を 深 く解 説 す る タ イ プ で 、2,「 集 団就 職 」 の 写 真 を見 せ て の発 展 的 説 明 ・10.「 も はや 」 が それ にあ た る。

最 初 の タ イ プ を詳 し くみ る と、 実 習 生 が 用 い た説 明 の手 法 は さ らに 次 の五 つ に 分 け る こ とが で きる 。A.和 語 化(和 語 を補 って 漢 字 語 彙 をや さ し く した もの)、

b.言 い 換 え(別 の こ とば で言 い 直 した もの)、c.解 説(や さ しい こ と ばで 説 明 した もの)、d.視 覚 化 働 作 や 図 で示 した もの)、e。 そ の 他 、 の 五 つ で あ る。

こ れ に沿 っ て説 明 さ れ た語 句 ・表 現 を分 類 した の が 次 で あ る。

a.和 語 化

1.

「中卒 者 」 中学 を卒業 した人

2.

「集 団就 職 」 集 団で仕事 に就 く制度

4.

「人 身売 買 」 お 金 を払 って 人 を売 り買 いす る

5.

発 案 」 考 え を初 め て 発 す る

11.

「宣言 」 政 府 や そ ん な と こ ろが 、 こ うだ とい う こ と

15.

「拡大 」 広 が っ て大 き くな って い くこ と

b.言 い 換 え

2.

「集 団」

グ ル ー プ

3. 「〜 ぐ る み 」

町全 体 が そ うい う こ と を した

12.

「深刻 」 ひ ど く大 変 な こ と

13. 「人 手不 足 」 人 の手 が 足 りない

C.解 説

7.

職業安定所 」 人を紹介する所/会社の人が何人ほしいっていいに行 く所 9. 「経 済 白書 」 政府が 出す経済 の実態 を表 した文書

d.視 覚 化

6. 「振 り返 る」 動作

14. 「陥 っ た 」

図示

e.そ の 他

2.

「就 職 」 繰 り返 し 「そ う です ね 、 『仕 事 に 就 く』」。

4.

「人 身 」 用例 あげ

(8)

以 上 を 見 る と、ll.「 宣 言 」 の 表 明 す る と い う意 味 合 い が 弱 い こ と、13.「 人 手 」 の 説 明 が な され て い な い こ と、9.「 経 済 白書 」 の 「実体 を表 した 文書 」 を も う少 しや さ し くい っ た ほ うが わ か りやす か った で あ ろ う こ とな ど を指摘 すべ きか も しれ な い が 、全 体 と して は こ れ らの手 法 を適 宜 使 っ て ほ ぼ 妥 当 な説 明 を与 え て い る こ とが わ か る 。

た と え ば5.「 発 案 」の 説 明 で は、S4の 「『発 案』… … 。そ の 、初 め て、そ の

… … 。」(No24)を 受 け て 「そ う で す 。 『案』っ て ア イ デ ィ ア で す ね 。考 え を 、

発 』で す か ら、発 し ます か ら、考 え を初 め て 発 した 人 で す ね。こ の 人 が発 案 した 、 考 えた 。」(No.25‑1)と 返 して い るが 、S4の 発 話 の 「初 め て 」を取 り上 げ そ れ を生 か す 形 で 「考 え を 『発』だ か ら、考 え を初 め て 発 した 人 」と した の は学 習者 の発 話

を積 極 的 に受 け 入 れ た和 語 化 説 明 で 、きわめ て 妥 当 な もの とい って よか ろ う。

また 、2番 目の 例 文 や 接 続 の形 な どま で取 り上 げ る タ イ プ で は 、8.「 〜 末 」 の 意 味 と して 「い ろ い ろ した 後 で 、 と う と う最 後 に」(No.35‑1)を まず 与 え 、 次 い で そ の例 文(No.35‑2)、 さ ら に 「末 」 に 動 詞 と名 詞 が接 続 す る と きの 形(No.

35‑3/35‑4)を 押 さえ て い る 。 さ らに、 悪 い 結 果 をい う と きに は 「あ げ く」 を使 う こ と とそ の 例 文(No.37‑1)、 「あ げ く」 の 名 詞 接 続 の 形 の確 認(No.37‑2)を してい る。 こ の レベ ル で 「末 」 が よい 結 果 ・「あ げ く」 が 悪 い 結 果 と単 純 に二 分 化 して 教 え る のが よい か ・長 い 議 論 や 検 討 を経 た結 果 と して は 「車 を買 う/買 わ な い 」 よ り もっ と適 切 な 例 が あ る の で は な い か ・「粘 り強 い 交 渉 」 が や や 難 解 で あ る とい っ た 問 題 点 を指 摘 せ ね ば な らな い が 、 これ も また 、 例 を あ げ な が ら意 味 ・接 続 ・類 義語 に言 及 して い る とい う点 で 、 お お む ね 妥 当 な 構 成 を持 っ た説 明

とい っ て よい もの と思 わ れ る 。

さ らに 、 最 後 の 資 料 を 用 い て 内 容 を 解 説 す る タ イ プ の2.「 集 団 就 職 」・10.

「もは や 」 で あ るが 、 そ れ ぞ れ 実 際 に な され た 説 明 は 以 下 の 通 りで あ る 。

2.「 集 団 就 職 」 の 説 明(No.13‑3の カ ッ コ 内):

「こ れ 、 写 真 で す け ど ね 。 こ れ 、 み な 、 そ う で す ね 。 こ う い う 、 そ の 、 中 学 生 が か ば ん 持 っ て 、 ね 、 こ う や っ て み ん な ず っ と 歩 い て 駅 ま で 行 き ま す ね 。

こ れ 、 駅 で す 。 汽 車 に 乗 る と き テ ー プ 持 っ て 、 わ あ 、 さ よ な ら っ て い っ て 、

も う 、 集 団 就 職 。 ま 、 田 舎 か ら都 会 へ 来 ま す か ら 、 も う お 別 れ な ん で す ね 、

(9)

日本語教 育実習事例研究

家 の 人 と 。 で 、 こ れ 、 や っ ぱ り、 テ ー プ 持 っ て 、 さ よ な ら っ て 振 っ て る わ け で す 。 そ の と き は ね 、 ま だ 、 汽 車 の 窓 は 開 い た ん で す 。 し か も ね 、 こ れ 、 蒸 気 機 関 車 。 蒸 気 機 関 車 っ て わ か り ま す?煙 、 ス チ ー ム 。 蒸 気 機 関 車 の 時 代 で す よ 。 こ れ っ て 、 皆 さ ん 、50年 前 で す よ 。

で 、 こ れ が ち ょ う ど 、 東 京 だ っ た ら東 京 の 町 に 着 い た ら 、 こ ち ら 側 が 、 そ の 、 商 店 の 社 長 さ ん 。 迎 え に 来 て る ん で す 。 こ ち ら 側 が 、 み ん な 、 た く さ ん 、 来 て る 。 「よ ろ し く」 っ て 。 で 、 こ う 、 会 社 へ 行 き ま す と 、 社 長 さ ん が 、 よ

く来 ま し た ね っ て あ い さ つ す る 。 で 、 こ こ に は ち ょ っ と 、 こ う 、 食 べ 物 と ジ ュ ー ス で ね 。 歓 迎 会 し て く だ さ っ た ん で す ね 。

で 、 こ う い う 人 た ち を 、 そ の 、 「 金 の 卵 」、 い わ れ て い た 。 非 常 に 大 切 な ね 、 貴 重 な 人 材 。 だ か ら 、 社 長 さ ん が ど う ぞ よ ろ し く っ て 、 礼 して い ら っ し ゃ る 。 威 張 っ て な い で し ょ 。 こ れ か ら 、 一 生 懸 命 働 い て 下 さ い っ て 、 こ う い う こ と

を い っ て ら っ し ゃ る 。」

10.「 も はや 」 の 説 明(No.39‑4の カ ッ コ内):

「これ を ね 、 こ れ の上 の ね 、 グ ラ フ を見 て 下 さい 。(グ ラ フ な ぞ りな が ら) この グ ラ フの 上 の 方 にね 、 こ こ に グ ラ フ 、 あ ります ね。 ず っ と見 て下 さ いね 。 こ っ ち か ら こ こ ま で は ね 、 戦 前 、 太 平 洋 戦 争 の前 な ん で す ね 。 前 の 経 済 の デ ー タ。 これ 、 国 民 一 人 当 た りの所 得 、 ね。 国民 一 人 当 た り、 ま、 稼 ぐ値 段 ね 。 こ れ だ け だ っ た ん で す 、 ず う と。 で 、 こ こ で 切 れ て ます ね 。 こ れ は、

ち ょっ と、 統 計 局 の 書 き方 が 、 こ こ デ ー タ 、二 つ 書 い て あ ります け ど、 違 う んで 切 れ て ます け ど。 こっ ち か ら後 ろ が 戦争 の後 な んで す ね 。

こ こ 見 て い た だ く と、 わ か りま す ね 。1955年 とい うの は1950と1960の 真 ん 中 で す ね 。真 ん 中 を ま っす ぐ、 ち ょっ と こ っち 見 て い た だ くと、 こ こ、

空 け とい た んで す け ど、 こ こに こ う線 が入 っ て い ます ね 。 これ と横 とを見 て い た だ くとね 、 同 じ数 字 に な りま した ね 。 とい うこ と は、 戦 争 が 終 わ っ て大 変 だ っ た け ど、 こ こで 、 ほ ぼ大 体 も とに戻 っ た と。 だか ら、 も う戦 後 で は な い ん だ と。 これ か ら は拡大 だ と、頑 張 れ と、 ま あ、 こ うい う んで す ね。 実 際 、

これ 、 頑 張 っ た んで す ね 。 高 度成 長期 。 グ ラ フ の デ ー タの 数 、 も のす ご いで す か ら。 これ 、 ち ょ っ と、小 さ くな っ て ま す け ど、 実 際 、 こ こ も ね、 グ ラ フ

(10)

0

の 取 り方 で は大 き くな りま す ね 。

2.「 集 団 就 職 」 の 説 明 で は3枚 の写 真 を用 意 し、 故 郷 を 出 る 中 卒 の 少 年 少女 ・ 東 京 の駅 で 出迎 え る 商 店 側 の人 間 ・商 店 で歓 迎 して い る従 業 員 の様 子 を説 明 し、

最 後 に 「金 の卵 」 を 出 して い る。No.14にS1の 「何 と な く、 文 化 大 革 命 の写 真 み た い。」 と の発 言 が あ る が 、 現 在 、 学 習 者 が 日常 目 に し耳 にす る 日本 とは ま っ た く別 の 光 景 が これ らの 写真 とそ の解 説 に よ って 明 らか に され てい る。 この授 業 にお け る 「集 団 就 職 」 の 説 明 と して は 十分 とい って よか ろ う。

ま た、10.「 も はや 」 の説 明 で あ るが 、 これ は集 団就 職 と違 っ て こ とば そ の も の の説 明 と して な され た もの で あ る 。 したが っ て、 まず 「『も はや 』 って ね 、 「 とな っ て は 既 に」 とい う意 味 な ん で す ね。」(No.39‑4)と 大 まか に い っ て お き、

さ ら に 「こ れ をね 、 ど うい う こ と を指 す か 、 ち ょ っ と こ れ を見 て 下 さい 。」 と い っ て 国民 所 得 の グ ラ フ を参 照 して い る 。 そ こ で敗 戦 直 後 に落 ち込 ん だ 国民 所 得 が1955年 に 戦前 の レベ ル に戻 っ た こ と を明 らか に した 上 で 、 「こ うい う意 味 で 、

『もは や 戦 後 で は な い』 と、 こ うい った わ け です ね。」(No.39‑5)と しめ く く っ て い る。 す な わ ち 、No.39‑4が 語 句 の 意 味 、No.39‑5が そ の 文 脈 上 の 意 味 と な っ てい る。 これ も、 グ ラ フ を用 い た 十分 な説 明で あ ろ う。

3.指 導 後半 部 分 の講 義 調 化 した指 導 の 分 析

3‑1.学 習 者 へ の 問 い か けの 欠 如

こ う して見 る と、No.1〜45の ① 集 団 就 職 の 説 明 は で は お の お の実 習生 な りの 工 夫 が 見 られ 、 そ の 結 果 、小 さな 課 題 は い くつ か指 摘 す べ き か も しれ ない が お お む ね妥 当 な意 味 の 説 明 が な され て い る とい え る。 と こ ろが そ れ が 、④ 「息 子 の 意 志 表 明」、 ⑤ 「今 日の 働 く意 味 の問 い か け 」 の部 分 か ら講 義 調 に変 化 す る。

開始 後42分 か ら約10分 間 の 指 導 を取 り出 してみ る と、 こ の 間 に取 り上 げ られ た語 句 ・表 現 は以 下 の 八 つ で 、 そ の 説 明 は 、前 半 の指 導 で 指 摘 した最 初 の タ イ プ、

語 句 単 位 で 意 味 の み を与 え る性 格 の もの で あ る。

こ の タ イ プの 説 明 で は、 まず 学 習 者 に そ の語 句 の意 味 を 問 い か け 、そ の応 答 を 受 け て説 明 を行 う とい う基 本 パ ター ン を持 っ て い る と した。 とこ ろが 、 こ こで は、

八 つ の う ち 問 い か け た もの 「○ 」3、 問 い か け て い な い も の 「×」5で あ る。 す

(11)

日本語教 育実習事例研究

語 句 ・表 現 問 い か け 実習生が行 った説明

16. 「後 を継 ぐ」 0 言 い換 え 後 」 を 「仕 事 」 に言 い 換 え

17.

「混 ぜ 返 す 」 X 解説 冗 談 を い って 話 を混 乱 させ る」

18.

「ほ う け る」 X 言 い換 え 夢 中 に な る」

19.

「意 識 」 X 言 い換 え 意 欲 」」 「考 え」

20. 「芽 生 え る」 X 解説 考 え が 出 て くる」

21.

修 業 す る」 0 解説 店 員 と して働 く」 お 寺 の修 行

22.

店 を構 え る」 X 視覚化 中腰 で手を構 え足 を踏ん張 るジェスチャー 0 23. 「価 値 観 」 0 解説 価 値 」=値 、 「観 」=考 え 方

な わ ち 、 こ の基 本 パ タ ー ン を踏 襲 して お らず 、 実 習 生 が説 明 の主 導 権 を握 っ て い る。5.「 発 案 」 の説 明 に あ った よ う な、 学 習 者 の 発 話 を積 極 的 に受 け入 れ そ れ を も とに 意 味 の 説 明 を組 み立 て て い こ う とい う姿 勢 は希 薄 で 、結 果 的 に 一 方 的 な説 明 に な って い る。 事 実 、 後 述 す る よ う に、16.「 後 を継 ぐ」 で は、S1の 「仕 事 を、

続 け る。」 とい う発 話 を取 り上 げ て い な い 。21.「 修 業 す る」 で は 、S2が 言 い よ どん で しま い応 答 が 得 られ て い な い 。23.「 価 値 観 」 で は 、 この 中 で 唯 一 学 習 者 の発 話 を取 り上 げ て い るが、 説 明が 十 分 な問 答 を形 作 って い ない 。

3‑2.個 々 の 語 句 ・表 現 の説 明 の分 析

次 にお の お の の 説 明 の 手法 を分 析 して お く。

16.「 後 を 継 ぐ」 の 説 明

42:48

1 T

S1さ ん 、 「後 を継 ぐ」 とい うの はわ か ります?

2

S1

う ん 、 は い 。 仕 事 を 、 … 。

3

T そ う そ う 。

4 Sl

仕 事 を 、続 け る。

5 T

そ うそ う そ う。 お 父 さん の 仕 事 を継 ぐの を、 「後 を継 ぐ」 とい うの ね 。 は い。

ま ず16.「 後 を継 ぐ」 で 明確 に す べ き は 「継 ぐ」 の 意 味 と 「後 」 と は何 の 後 か を確 認 した 上 で の 「後 を継 ぐ」 の 意 味 だ と思 われ るが 、S1の 仕 事 を、続 け る」

(No.4)は 厳 密 に い え ば 「後 」 の 部 分 が 不 明 確 で そ の た め に実 習 生 はNo.5で

「お 父 さ んの 仕 事 を」 と補 っ た もの と考 え られ る。 けれ ど も、S1が 考 え た 「続 け

(12)

る」 は取 り上 げず 「お 父 さん の仕 事 を継 ぐ」 と して 、 結 局 、 「継 ぐ」 は説 明 さ れ て い ない 。本 来 な らば 、 「お父 さ ん の仕 事 を続 け る」 とす べ きで あ った ろ う。

17.「 混 ぜ 返 す」 の説 明 43:25

1 T 1

2

3

4

混 ぜ 返 そ う と して 涙 が 」。 「混 ぜ 返 す 」 とい う の は 、 ど うい う い う こ とか わ ります?

こ れ は ね、 あ の う、 冗 談 を い っ て ね 話 を混 乱 させ る こ と を い う ん で す 。 混 ぜ 返 す 、 混 ぜ て ひ っ く り返 す ん です ね 。 「混 ぜ る」、 そ の通 り、

混 ぜ 返 す 。 そ の 話 を 混 ぜ て返 す っ て い う こ とは 、 ま、 そ の な ん で す ね、 混 乱 させ て しま う ん です ね 。

息 子 さ ん はね 、 息 子 は で すね 、 そ の う、パ ン屋 に な る っ て い っ て る の に ね、 お 父 さ ん は です ね 、そ の う会 社 員 が サ ラ リー マ ンの ほ う が い い ん じ ゃ ない で す か っ て い っ て る わ け、 せ っ か く息 子 が い っ て るの に ね、 こ う、 ひ っ く り:返して ます ね 。 これ を 、 「混 ぜ 返 す 」。 わ か ります か 。 ね。 そ うい い ます ね 。

けれ ど も、 そ うい っ とい て、 涙 で声 が詰 ま っ た ん で す よ。 「涙 」、 わ か るね 。 「声 が 詰 ま る」 とい うの は 、声 が 出 な くね、 そ の と き、涙 が ね。

い っ てお き なが ら涙 で 声 が 、 矛 盾 して ます け どね。 は い 。

17.「 混 ぜ 返 す 」 は、 高 校 時 代 ろ くに勉 強 も しな か っ た 息 子 に 同 じパ ン屋 をや りた い と告 げ られ 、 うれ し涙 に詰 ま りなが ら も父 は 「休 み の あ る会 社 員 の ほ うが い い ん じゃ な い の か 。」 とや り返 す 、 とい う文脈 で 使 わ れ て い る 。 この記 事 の 中 の 最 も感 動 的 な 一 節 で あ る。 そ こ で 実 習 生 は 、 「混 ぜ 返 す 」 の 意 味 を 「冗 談 を い っ て話 を混 乱 させ る こ と」(No.1‑2)と 解 説 して い る 。

け れ ど も、こ の解 説 は 辞 書 的 な説 明 と して は 誤 りで は なか ろ うが 、学 習 者 に は 文 脈 上 か な り難 しい もの で は な い か 。No.1‑3の サ ラ リー マ ンの ほ うが い い ん じゃ な い です か」 と した 父 の 発 言 は 冗 談 とは取 りに くい 。息 子 に対 す る将 来 設 計 の ア ドバ イ ス と取 る ほ うが 学 習 者 の 理解 と して は 自然 で あ る。 しか も、そ うい っ た 父 親 が そ の 後 で 涙 を流 して い る(No.1‑4)。 こ こで の 「混 ぜ 返 す 」は、息 子 の真 摯 な意 思 表 明 に ま と もに取 り合 わ な か っ た こ と をい う もの と取 るの が 自然 で あ る 。

さ ら に、 実 習生 の 「混 ぜ て ひ っ く り返 す 」 「混 ぜ て ひ っ く り返 す=混 乱 さ せ る」(No.1‑2)と い う 説 明 は 説 明 に な っ て い な い。 文 脈 上 、何 を混 ぜ る の か 、

「ひ っ く り」 が 何 で 、 何 を ど うす る のが 「ひ っ く り返 す 」 な の か を理 解 す る手 が か り を学 習者 は得 てい な い。 そ れ ゆ え 、 うれ し さ ・意外 さ ・経験 者 ゆ え の厳 し さ の 述懐 ・戸 惑 い ・逡 巡 ・期 待 … …、 そ れ らが な い まぜ に な っ た 父 親 の気 持 ち とそ

(13)

日本語教 育実習事例研究 れ を表 す この 「混ぜ 返 す」 の意 味 を、 学 習 者 は十 分 に理 解 で きて い な い もの と考 え ざ る を得 ない 。

18.「 ほ う け る 」 の 説 明 44二20

1 T 1

2

「高 校 時代 に は 家 に も帰 らず 遊 び ほ う け た」。 「ほ う け る」とい うの は、

わか ります?

こ れ は ね 、 「夢 中 に な る」 と か ね 。 「遊 び ほ う け る」、 ま、 こ ん なふ う に しか使 い ませ んね 。 「遊 び に夢 中 に な っ た 」 と、 ね。

19.「 意 識 」 の 説 明 44:32

1T「 意 識 」。 「意 識 」い うの は 、 意欲 とか ね 、考 え とか ね。

次 に 、18.「 ほ うけ る」・19.「意 識 」 の 説 明 はぞ ん ざい で 突 き放 した 感 が あ る 。

混 ぜ 返 す 」 の 文 脈 上 の 意 味 を把 握 して お れ ば 、働 く こ との 意 味 ・意 義 な ど とは ま っ た く無縁 の 生活 を送 っ てい た息 子 が 、 金 を稼 ぐ とい う こ と ・自分 の た つ き を 自分 で 整 え る とい う こ と ・人 と 出会 い 子 を持 ち家 庭 を営 む とい う こ と ・もの を作 る とい う こ と ・そ の もの が他 人 と関 わ りを持 つ とい う こ こ と な ど に思 い をい た す よ う に な る とい う流 れ の 中 で こ の2語 が 使 わ れ て い る のが わ か る。 そ れ を考 えれ ば 、 「ほ う け る」 は 「夢 中 に な る 」 と同 じ意 味 合 い を 持 つ こ と、 補 助 動 詞 して は

「遊 び ほ う け る」 以 外 に使 わ ない こ と(No.1‑2)、 「意 識 」 は 「意 欲/考 え」 と 同 じとい った 説 明(No.1)が 不 十 分 なの は明 らか で あ る。

20.「 芽 生 え る 」 の 説 明

..

1 T 1

2

「 芽 ば え る 」。 「 芽 」。 木 の 「メ 」 の 「メ 」 は 、 こ れ を 書 き ま す 。 木 の

「 芽 」 の 「 芽 」 ね 。

だ か ら 、 「 芽 ば え る 」っ て の は 、 木 か ら 芽 が 出 る の と い っ し ょ に 、 考 え が 、 こ う 、 出 て く る こ と で す ね 。

続 く20.「 芽 ば え る 」 で は 、 「木 の 『メ』 の 『メ』 は、 こ れ を書 く」(No.1‑1) とあ るが 、 これ も明 らか に学 習者 が 知 って い る とい う前 提 に 立 った もの で あ る。

「芽 」 そ の もの は 旧 「日本 語 能 力 検 定 試 験 」 の 基 準3)で は2級 レベ ル の 語 彙 と さ れ て い る。 実 習 生 が そ の こ と を心 得 てい た とは思 え な い が 、 こ の場 合 、 た と え2 級 語 彙 で あ った と し も学 習者 の 日常 に は な じみ が 薄 く説 明 の た め の 語 彙 と して 適

(14)

切 で あ った か 疑 問 で あ る 。 少 な く と も前 後 の流 れ か ら して 突 飛 で あ り、 た とえ ば 、 枝 な り土 な りの絵 とそ こか ら出 た 芽 の絵2枚 を描 き、 これ を何 とい う→ 「芽 」 と い う→ 芽 が 出 て くる の が 「芽 ば え る」→ だか ら、 「芽 ば える 」 は こ こで は 「考 え が 生 まれ る」 こ と、 とい っ た 説 明 の ほ うが 学 習 者 の 理 解 に沿 って い る とい える 。

21.「 修 業 す る 」 の 説 明

46;50

1 T

有 名 店 で 修 業 し」。 「修 業 」、 「修 業」 っ て わ か り ます か?S2さ ん 、

修 業 」 っ て何 で す か?

2

S2

「 修 業 」 は … 。

3 T

1

修 業 っ て い うの は ね、 そ の店 、 行 って ね 、 そ の 店 員 さん と して働 くん で す。 い ろ ん な こ と、 教 えて も ら え るわ け ね 。

2

お 坊 さ ん も、 お 寺 で シ ュ ギ ョウ す る と か い い ま す ね 。 あ あ い う シ ュ ギ ョウ。 「行 を修 め る、 修 め る」 とい い ます ね 。 い い で す か 。

さ ら に、 「修 業 す る」 の 意 味 と して 「そ の 店 に行 っ て店 員 と して 働 く。 い ろい ろ な こ とを教 え て も ら う」(No.3‑1)と して い るが 、 こ こ で の 「修 業 」 は、 そ う した ア ルバ イ トの よ う に も取 れ る軽 い 意 味 で は な く、 トレー ニ ング や訓 練 の意 味 、 さ らに い え ば徒 弟 的 な意 味 合 い を持 って 使 わ れ て い る。 そ う した訓 練 を受 け る真 摯 さ ・訓 練 の厳 し さが こ の 説 明 か ら は伝 わ らな い。 ま た 、 お 寺 の 「行 を修 め る」

(No.3‑2)は こ こ で は何 ら必 要 で な い ばか りで な く、 「修 行 」 で あ っ て 「修 業 」 で は ない 。 しか も、 既 知 の もの と して取 り上 げ て い る。

22.「 店 を構 え る」 の 説 明 47:20

1 T 1 2

「構 え る 」。 「 構 え る 」 と い う の は 、(体 で 構 え て 見 せ て)、 こ う 、 ぐ っ と構 え る こ と で す ね 。

ま 、 「店 を 出 し た 」 と い う こ と で す ね 。

ま た、 「店 を構 え る 」で は相 撲 の力 士 の よ う に足 を 踏 ん 張 る ジ ェ ス チ ャ ー を し て 見 せ て い る(No.1‑1)が 、そ こか ら 「店 を 出 した」(No.1‑2)へ 行 くに はや は り飛 躍 が あ る。これ は 、 「構 え る」とい う の は 「建 て る」の 意 味 とす るか 、あ る い は 「構 え る/建 て る」の 違 い の 説 明 を 回避 す る な ら 「店 を構 え る」で 一 つ の か た ま りで 、意 味 は 「店 を 開 く/店 を持 つ」、と した ほ うが 明解 だ った ろ う と思 わ れ る 。

(15)

日本語教育実 習事例研究 23.「 価 値 観 」 の説 明50:30

1 T

「ニ ー トの 増 加 な ど働 く価 値 観 」、 「価 値 観 」 っ て わ か り ます か?S3 さん 、 「価 値 」 って わか ります?

2

S3 価 値 観 」 とい うの は… 。 お 金 の考 え方 。

3

T

1

そ うそ う、 「価 値 」 と い う の は、 い ろ ん なの もの の 値 とか い い ます ね 、 これ は価 値 が あ る とか価 値 が な い とか い ます ね 。

2

そ の「観 」 と い うの は考 え 方 な の ね 、 だ か ら、価 値 観 とか 人 生 観 とか い い ます ね 。 人生 の 考 え 方 は人 生 観 。 お 金 の 考 え方 は価 値 観 とか ね。

ま、 お 金 だ け じ ゃな い で す け ど。 もの の見 方 もあ ります け ど ね。

最 後 に 「価 値 観 」 で あ るが 、 これ は 「集 団就 職 か ら半 世 紀 経 っ て働 く価 値 観 が す っ か り変 わ っ た」、 とい う文 脈 の 中 で 使 わ れ て い る もの で あ る。 実 習 生 は 「 値 」 と 「観 」 を 分 け 、 「価 値 」 は 「い ろ い ろ の も の の 値 」(No.3‑1)、 観 」 は

考 え 方 」(No.3‑2)と 説 明 し よ う と意 図 して い る。確 か に もの ご と一 つ 一 つ に 下 した 評価 の 総体 が 「価 値 観 」 で あ り、 この 意 図 自体 は妥 当 で あ る 。

け れ ど も、 この 問答 を子 細 に見 てみ る と、 実 習 生 は、 まず 「価 値 観 」 の 意 味 を 問 うた の に す ぐに そ れ を 「価 値 」 の 意 味 の 質 問 に言 い 換 え て い る(No.1)。 そ れ に対 してS3は 、 当 初 実 習 生 の最 初 の 質 問 通 り 「価 値 観 」 で 答 え よ う と した も の の 、 実 習 生 の言 い 換 え に沿 っ て 「価 値 」 の意 味 と して 「お金 の考 え方 」 を 出 した も の と考 え られ る(No.2)。 教 材 中 の 「価 値 観 」 は労 働 観 ・労 働 意 識 の こ と で あ り、 金 銭 が そ の一 部 を なす と して も こ こで の価 値観 は 、即 、金 銭 感 ・金 銭 感覚 で は な い 。 した が っ てS3の 「お 金 の 考 え方 」 は誤 りで あ る が 、 そ れ を導 い た の は 実 習 生 の 「価 値 」 の 意味 の質 問 で あ った とい え る。

け れ ど も、 続 く 「そ うそ う、」 以 下 の 「価 値 と はい ろい ろ の もの の値 」 「価 値 が あ る と か価 値 が ない とか い う」(No.3‑1)と い う発 話 は 、 そ のS3の 「お 金 」 に 引 きず られ た 実 習 生 の 説 明 で あ る 。 す な わ ち、No.3‑1は お金(=値 打 ち)に 大 き く傾 い た 説 明 とい え る。 そ れ を認 め修 正 した の が 、 「お 金 の 考 え方 は価 値 観 と か ね 。 ま、 お 金 だ け じゃ ない で す け ど。 もの の見 方 もあ ります け どね 。」(No。3‑

2)で あ る 。後 の2文 の 主 語 と考 え られ る の は 明 らか に価 値 観 で あ り、 価 値 観 の 意 味 と して実 習 生 が 述 べ た か っ た の は 「もの の 見 方 」 で あ っ た と思 わ れ る 。

した が っ て、 「価 値 」 は 「い ろ い ろ の も の の 値 」・「観 」 は 「考 え 方 」 とい う 説 明 の意 図 は妥 当 だ と して、 た と え ば、 「働 く価 値 観 」とい うの は働 く と きの い ろ い ろ な もの の見 方(=「 観 」)→仕 事 の お も し ろ さ とお金 と どち らが 大 切 か 、仕 事 と

(16)

個 人 の生 活 とど ち ら を優 先 させ るか 、企 業 の社 会 に対 す る貢 献 とは何 か … …、 そ う した こ と を ど う考 え る か(=「 価 値 」)→そ ん な い ろ い ろ な考 え 方 を ま とめ て 自 分 は働 くと い う こ と を ど う見 て い るか 、 そ れ が 「価 値 観 」、 な どと い った 段 階 を踏 ん だ説 明 をす れ ば よか った の で は な い か と思 わ れ る。

こ う して見 て み る と、④ 「息 子 の 意志 表 明 」 ⑤ 「今 日の 働 く意 味 」 の 部 分 にお け る説 明 の 方 法 ・質 は① 「集 団就 職 」 の説 明 と大 き く異 な る。 学 習 者 に問 い か け て 理 解 につ なが る よ うな もの を引 き出 そ う とす る姿 勢 が 希 薄 で あ り、 取 り上 げ た 語 句 の 説 明 で用 い た手 法 が粗 雑 で あ ま り練 られ て い ない 。

そ の 結 果 、外 国人 に対 す る 日本 語 授 業 とい う よ りも、 た と えて い うな らば 日本 人児 童 生徒 を対 象 に した 国語 科 の授 業 の よ う な様 相 を呈 して い る とい え る 。

4.指 導 が粗 雑 化 して い く理 由 と今 後 の課 題

4‑1.学 習 者 の 日本 語 能 力の 過 大 評 価

こ う した講 義 調 の 授 業 に な る理 由 と して 考 え られ る の は 、 第一 に普 段 あ ま り外 国人 に接 した こ との ない 実 習 生 が 実 際 の学 習者 とや り取 り して み て そ の 日本 語 能 力 を高 く評 価 しす ぎる こ と、 第 二 に 、 そ の結 果、 こ とばの 細 か な説 明 の 必 要 性 を 過 小 評 価 して し ま う こ とだ と考 え られ る。

・これ ら は裏 腹 の 関係 にあ るが、① を見 る と、 た と え ばNo.6/26/30/36/44な に、確 か に学 習者 の 発 想 の 鋭 さ ・日本 語 の用 法 の 巧 み さが うか が わ れ る。No .6 は 、 実 習 生 に 「就 職 」 の 意 味 を 聞 か れ 「簡 単 にい えば 仕 事 に就 く」 と返 した もの で あ るが 、 「簡 単 に い え ば」 の こ と わ り表 現 、 「仕 事 に就 く」 とい う慣 用 句 を用 い て 答 え て い る。No.26は 、 「振 り返 る 」 を 問 わ れ て 「前 の こ と を、 思 い 出す 」 と 言 い換 え た もの だが 、 過不 足 の な い 的確 な答 えで あ る。 さ ら に、No .30は 職 業 安 定 所 」 とは何 を指 す か と問 われ て 即座 に 「職 業 を紹 介 す る場 所 」 と述 べ た もの で あ るが 、 これ も同 様 に他 に言 い よ うが な い 応 答 で あ る。 また 、No .36は 、 実 習 生 が 「Vた 末 に、 〜 」 の 意 味 を 説 明 す る 際 し 「い ろ い ろ した 後 で 、 う ま くい っ た(=よ い 結 果 に な っ た)」 と した上 で 、 じゃ、 う ま くい か な か っ た 場 合 に は他 の どの よ うな 表現 を使 うか と問 うた の に対 し、 同 じ く即 座 に 「あ げ く」 と一 言 発 し た も の で あ る が 、 実 習 生 の 求 め た 通 り の答 え だ っ た4)と 思 わ れ る。 最 後 に、

No.44は 「陥 っ た」 と は何 か と問 わ れ 「悪 い 結 果 に な る こ と」 と返 した もの で 、

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日本語教 育実習事例研究 文 脈 上 ほ ぼ 妥 当 とい って よか ろ う。

こ こで 取 り上 げ た実 習 は精 読 の 授 業 で あ り、そ こ で は も と も と逐語 的 な解 釈 に 傾 きや す い 。文 字 化 した ① ④ ⑤ で は 「〜 、わ か り ます か/知 っ て い ま す か 」で 指 導 す る語 句 ・表 現 を取 り出 して い る のが 頻 繁 に観 察 され る5)が 、そ れ は こ う し た授 業 の性 格 に も起 因す る も の と考 え られ る。す なわ ち、実 習 生 は 内容 理 解 と語 句 の 意 味 ・用 法 を指 導 の 中心 課 題 と して据 え 、後者 に 関 して は教 材 全 体 を そ の対 象 と して一 つ 一 つ 精 査 しその 指 導 法 を丹念 に練 っ た 上 で 実 習 に 臨 ん だ もの と思 わ れ る 。 とこ ろ が 、以 上 の よ う な学 習 者 の 的 を射 た 素 早 い 応 答 に じか に接 して しま う と、

そ の 高 い 日本 語 能 力 に驚 き素 直 に 感 心 して しま う。さ らに 、こ とば を逐 語 的 に取 り上 げ お の お の 調べ て きた情 報 を細 大 漏 ら さず 与 える 指 導 法 に揺 ら ぎ を感 じ る。

け れ ど も、 こ こで まず 重 要 なの は 日本 語 能 力 を理 解 力 と運 用 力 とに 分 け る こ と で あ っ て、 理 解 力 に比 して 運 用 力 は劣 る こ と、 運 用 力 を支 え る の は や は り語 句 ・ 表 現 に関 す る知 識 で あ る こ とを指 導 の基 本 に置 くべ きで あ ろ う と思 わ れ る。 す な わ ち 、 実 習 生 が 高 く評価 す る の は主 に学 習 者 の 日本 語 理 解 力 で あ って 、 鋭 い 辞 書 の 記 述 的 な発 話 を した か ら とい っ て そ れ が直 接 的 に運 用 能 力 の 高 さ を保 障 す る も の で は な い。 た と え ば、No.44で 「陥 っ た」 の意 味 を問 われ て 「悪 い 結 果 に な る こ と」 と返 した の を ほ ぼ妥 当 と した が 、Slが 、 「陥 る 」 は 基 本 的 には 状 態 性 の語 句 しか と ら な い 。教 材 中 の 「人材 不 足 」 は 「状 態 」 で あ る。 した が っ て、 「陥 る

=悪 い 結 果 に な る こ と」 とい う理 解 の ま まで は 「失 敗/不 合 格/敗 北 … … に 陥 っ た」 な ど と用 い て しま う可 能 性 は否 定 で き ない 。

さ らに も う一 つ の 問題 点 は、 揺 ら ぎ を感 じた 結 果 、 指 導 方法 の修 正 を、 逐 語 的 に取 り上 げ はす る もの の 意 味 と用 法 の 説 明 は情 報 を 減 ら しポ イ ン トだ け に す る、

同 義 語 や 関 連 す る 語句 に そ の場 で 思 い を巡 ら し言 及 す る、 テ ィー チ ャー ・トー ク (以下 、 「TT」)に 気 を使 わ な い 、 の 三 方 向 に持 っ て しま う点 で あ る 。 特 に1点 目 は説 明 の粗 雑 化 ・遺 漏 を誘 発 しが ち で 、16.「 後 を継 ぐ」 の 「継 ぐ」 の説 明 欠 落(No.5)、17.「 混 ぜ 返 す 」 の 字 義 通 りの 解 説(No.1‑2)、21.「 修 業 」 の 説 明 不 足(No.3‑1)、22.「 店 を構 え る」 の ジ ェ ス チ ャー(No.1‑1)、23.「 価 値 観 」 の錯 綜 した 説 明(No.3‑1/3‑2)は 、 こ う した 姿 勢 を反 映 してい る もの と考 え ら れ る 。 さ ら に、18.「 ほ う け る 」/19.「意 識 」 の 他 の 語 の 持 ち 出 し(No.1‑2/No:

1‑1)、21.「 修 業 」 の 「修 行 」 へ の 言 及(No.3‑2)、20.「 芽 ば え る 」 の 「木 の

参照