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税務会計の研究方法と課題

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(1)

Ⅰ は じ め に

 最初の動的会計論者とも評されるドイツのWilmowski, B. V.は,1895年 に『行政学雑誌』第3巻において「1891年6月24日の所得税法規定による 建物,機械,什器等の減耗,および鉱山における鉱物の実体消費に対する 減価償却」

Die Abschreibungen für Abnutzung von Gebäuden, Maschinen, Be- triebsgeräthschaften u.s.w. sowie für der Verbrauch der Substanz der Mineralmasse eines Bergwerks nach den Bestimmungen des Einkommensteuergesetzes von 24 Juni 1891 .

という長いテーマの論文を発表した1)。この「減価償却論」につい ての論文は,税法における所得会計理論との関係が取り扱われた最初の論

1

) Schmalenbach, E. : 

Dynamische Bilanz, 13 . verbessete und erweiterte Aufl., Köln/Opladen 1962 , S. 38 .

 161 商学論纂(中央大学)第

59

巻第5

6号( 2018

年3月)

税務会計の研究方法と課題

──税務会計の学的特質と大学における研究者の研究方法──

柳   裕  治

   目   次

Ⅰ は じ め に

Ⅱ 大学における税務会計講座と研究方法の類型

Ⅲ 大学における研究者の税務会計研究方法

Ⅳ 税務会計の学的特質と課税所得計算

Ⅴ 税務会計の所得概念と課税所得計算原理

Ⅵ お わ り に

(2)

文とされる。

 周知のようにドイツにおいては,19世紀末葉から20世紀はじめにかけ て,ドイツ資本主義が確立されるにともなって,会計理論の分野で従来支 配的な地位を占めていた静的財産計算理論が,しだいに動的損益計算理論 に推移していくことになった時代である。それ以降,シュマーレンバッハ

Schmalenbach, E

により動的会計理論

Dynamische Bilanz

が構築され,

税法においても会計理論との関係が研究対象とされることになったのであ る。すなわち,この時代に税務会計研究の萌芽が認められるのである。

 しかし,わが国において「税務会計」という用語が一般に使用され,

「会計と税法の関係」が研究領域とされ,大学の研究教育科目として設置 されるようになったのは第二次世界大戦後のことである。特にシャウプ勧 告が出された1950年以降は,申告納税制度の目的を達成するために導入さ れた青色申告制度により,会計の知識・技術が不可欠となり,会計的アプ ローチの税法研究が活発に行われるようになった。そして税務会計の研究 と教育の振興をはかることを目的として,1989年には「税務会計研究学 会」が設立されるに至った。会計学界においては,先達の精力的な研究に より,税務会計は独立の学問領域として認識されるまでに発展してきた。

しかしながら,税務会計という概念は,それを論ずる者の視点においてそ れぞれ異なる。

 税務会計が1つの科学

Wissenschaft

として成立するためには,Wöhe, G. 2)が述べているように,個別的な研究成果を1つの首尾一貫した理論体 系として形成しなければならない。したがって,税務会計の体系の構成は 研究方法論をもって始められなければならない。Löffelholz, J. 3)が述べて

2) Wöhe, G. :  Methodologishe Grundprobleme der Betriebswirtschaftlslehre, Meisenheim am Glan 1959 . S. 12 .

3) Löffelholz, J. :  Betriebswirtschaftliche am Scheidewege?, in Zeitshrift für

(3)

いるように「方法論は研究の最後にあるが,体系の最初にある。」といい うる。

 本稿では,税務会計とは,「何」を研究対象とし,「どのような研究方 法」により論究する学問領域であるかを,大学において研究・教育に携わ ってきた先達の見解をもとに考察し,さらに私の税務会計に対する研究方 法と基礎的思考について述べることとする。

 なお,本稿において取り上げた研究者は,原則として,戦後早くから税 務会計論の講義が設置されていた大学において,税務会計論を担当され,

単著として税務会計研究に関する著書を出版されている研究者に限定させ ていただいた。紙面の制約もあり,大学において税務会計の講義を担当さ れ,優れた研究業績を残されている研究者も多いが,すべての研究者を取 り上げることは出来ず,割愛させていただいた。なお,私の税務会計学に 対する研究方法論と基礎的思考の詳細については,本稿の税務会計の基本 的特質を述べた,Ⅳ 税務会計の学的特質と課税所得計算,Ⅴ 税務会計の 所得概念と課税所得計算原理のほかは,拙著『税法会計制度の研究─税務 財務諸表独立性の論理─』森山書店(2005年)を御一読いただきたい。

Ⅱ 大学における税務会計講座と研究方法の類型

 戦後の新制大学において,税務会計論の講座が設置されたのは昭和30年 代に入ってからである。関東の大学では,1956年に明治学院大学経済学部

(担当:新井益太郎助教授),1958年に中央大学商学部(担当:富岡幸雄講師)

等において設置され,また関西では,関西学院大学商学部,同志社大学商 学部等において設置され,国立大学では1960年に神戸大学経営学部(担 当:武田隆二講師)に設置されている4)。また,当時は経済社会における簿

Betriebswirtshaft, 22 . Jg. 1952 . S. 390 .

4) 税務会計研究学会特別委員会(委員長:坂本雅士)「税務会計教育に関す

(4)

記・会計学に関する研究・教育の必要性に応えて,中央大学商学部・日本 大学商学部・専修大学商学部に会計学科が創設されるなど会計の研究・教 育が活発となり,大学における税務会計に関する講座も飛躍的に増え 5)

 しかしながら,税務会計という概念は,それを論ずる者の視点において それぞれ異なり,大学において税務会計論の講座をどのような内容で講義 するかは,それぞれの担当者に委ねられている。すなわち,租税を研究対 象とする学問領域としては,税法学・財政学・会計学・経営学が存在し,

これらの学問領域において,企業の所得計算を対象とする研究は,主に税 法学・会計学において行われている。税法学

Steuerrechtswissenschaft

は,

課税の法的秩序を研究するものであり,課税を法律事象として理解するも のである。特に所得計算についてはドイツにおいては税法会計(貸借対照

表税法

Bilanzsteuerrecht

として展開されてきている。また,会計学におい

ては,一般的に,企業の課税所得計算を研究対象とする領域を税務会計論 という。この研究領域は,ドイツにおいては,税務会計(税務貸借対照表論

Steuerbilanzlehre

と し て, 経 営 経 済 的 租 税 論

Betriebswirtschaftliche

Steuerlehre

6)の一研究領域として展開されてきている。経営経済的租税論

とは,①企業の経営計画・組織・法形態の選択等への租税の影響を研究

る基礎研究(最終報告)」税務会計研究学会編『税務会計研究─中小法人会 計─』第28号(2017年7月)122頁。武田隆二『法人税法精説(平成17年版)』

森山書店,

2005

年,平成8年度版,序2頁。

5) 柳裕治「専修大学における会計教育の現状と課題─「会計学部」「会計研

究科」創設による一貫教育─」専修大学学会『専修商学論集』第

88

巻(

2008

年12月)219‑226頁。税務会計研究学会特別委員会(委員長:坂本雅士)「税 務会計教育に関する基礎研究(中間報告)」税務会計研究学会編『税務会計 研究─課税ベースのあり方─』第27号(2016年7月)165‑186頁。

6

) Wöhe, G. : 

Betriebswirtschaftliche Steuerlehre 1 / 2 , 7 . Aufl., München 1992 ,

S. 16‑18 .

(5)

する経営経済的租税作用論

Betriebswirtschaftliche Steuerwirkungslehre

,② 企業の租税計画・租税政策・会計政策を研究する経営経済的租税形成論

Betriebswirtschaftliche Steuergestaltungslehre

,③企業の課税所得計算を研 究する税務会計

Steuerliche Rechnungswesen

,④税法の形成・解釈への経 営経済的認識の適用可能性を研究する租税法形成論

Steuerrechtsgestal-

tungslehre

等を研究課題とする学問領域である。また,ドイツにおいて

は,今日,租税に関する問題を研究する経営経済的租税論・財政学・税法 学の3つを租税学

Steuerwissenschaft

という概念の下に統合した国家法 (行政法・財政法)の一部とされる研究領域が形成されている7)。しかし ながら,租税学は,独立の科学ではなく,むしろ租税に関連する問題範囲 を研究する,これらの学科間に存在する学問間の共同研究である8)  したがって,課税所得計算を研究対象とする税務会計とは,いかなる内 容のものを意味するかは論者により異なる。税務会計研究の方法として は,会計学的アプローチ,法学的(税法学的)アプローチ,財政学的アプ ローチおよび経営学的アプローチが考えられる。ここでは企業の所得課税 を研究対象とすることにすると,税務会計研究は主に会計学的アプローチ または法学的(税法学的)アプローチにより行われることになる。しかし,

会計学的アプローチ型には税務会計論型(理論的)・解説型(実践的)・現象 解明型(実践的)等,法学的アプローチ型にも税法会計(税務会計法)

(理論的)と解説型(実践的)等がある9)。なお,井上久彌教授は,会計学的 アプローチをその視点から,①課税所得計算体系と財務会計計算体系の

7

) Wöhe, G. : 

Betriebswirtschaftliche Steuerlehre 1 / 2 , 7 . Aufl., München 1992 , S. 30 .

8

) Wöhe, G. : 

Betriebswirtschaftliche Steuerlehre 1 / 2 , 7 . Aufl., München 1992 , S. 30 .

9

) 忠佐市『税務会計法(第4版)』税務経理協会,

1973

年,5頁(注5)。井 上久彌『税務会計論』中央経済社,1988年,4‑10頁。

(6)

差異の態様を論ずる差異分析型,②課税所得計算項目を財務会計理論体 系に取り組んで会計的意味を論ずる会計性格論型,③課税所得計算構造 と財務会計計算構造との関連性を論ずる関連作用型に区分されている10)

Ⅲ 大学における研究者の税務会計研究方法

1.成蹊大学における税務会計研究

 ⑴ 武田昌輔教授『新講・税務会計通論』(森山書店,1985年)

 武田教授は,国税庁・大蔵省を経て,成蹊大学経済学部において「税務 会計」の講義を担当され,「企業会計と税法との調整に関する研究」によ り1987年に成蹊大学から経営学博士の学位を授与されている。また,税務 会計研究学会を創設し初代会長として学界の発展に多大な貢献をされた。

 武田教授の税務会計に関する代表的研究書としては,『新講・税務会計 通論』(森山書店,1985年)がある。同書において,武田教授は,税務会計 を「法人税法上の課税所得を計算するための会計」と定義づけておられ る。しかし,税務会計は,「制度会計(商法会計,証券取引法会計のような法 的に強制される会計)ではなく,企業会計によって算定された利益を税法の 要請から修正・加工して課税所得を計算することを内容とする会計」とさ れている。したがって,「いかにも税務帳簿を備え,これに税務簿記を用 いて記入し税務財務諸表を作成し,これを統一的に拠らしめるものとして 税務会計原則が存するように思われるが,そうではなくて,企業会計の企 業の財務諸表に現われた利益を税法の要請によって修正,加工して課税所 得を計算することを内容とする会計を税務会計」11)というべきであるとさ れている。税務会計は,企業会計を前提とし,税法を支配している租税原 則によって修正・加工されたものであるが,租税原則のうちでもっとも重

10

) 井上久彌『税務会計論』中央経済社,

1988

年,

5

6

頁。

11) 武田昌輔『新講・税務会計通論』森山書店,1985年,9頁。

(7)

要とされるのは,課税公平の原則とされている。

 すなわち武田教授の税務会計は,実践的な会計アプローチによる税務会 計を提唱されている。

 ⑵ 成道秀雄教授『税務会計』(第一法規,2015年)

 成道教授は,成蹊大学大学院において,「減価償却の理論」の研究によ り成蹊大学から経営学博士の学位を授与され税務会計研究学会の監事を務 められた新井益太郎教授(演習),および武田昌輔教授に税務会計の指導 を受け,成蹊大学経済学部において税務会計の講義を担当し,税務会計研 究学会の第3代会長として学界の発展に貢献されている。

 成道教授は,税務会計で取り扱う領域を網羅した体系書として『税務会 計─法人税の理論と応用─』(第一法規,2015年)を著している。成道教授 は,税務会計は課税所得を計算するにあたり独自の基本的な考え方をも ち,また効率的な税務行政からは形式基準を設け,さらには租税特別措置 法等の租税を利用した種々の政策にも配慮しているが,それ以外について は公正妥当なる会計処理の基準(法法22 ④)に従った領域として定義づけ ておられる。具体的には企業利益を基礎として,これに加算・減算して課 税所得を計算することになるが,その加算・減算,すなわち税務調整の中 心となるものが法人税法の「別段の定め」等であるとしている。

 このような法人の課税所得の計算構造は,法人税法では確定した決算に 基づいて作成された申告書を提出しなければならないという確定決算主義

(法法74 ①)が採用されているからであるとしている。法人税法がこのよ うに会社法会計に依存している理由として次の2つを挙げている。その1 つは,法人税法が自己完結的に課税所得を計算するとなると,膨大な規定 を設けなければならず,便宜的に会社法会計によって公正なる会計慣行の もとに決定された企業利益を借用しているということである。もう1つ は,法人の取引には外部取引と内部取引があり,外部取引については当事

(8)

者間で客観的に検証可能な経理処理を行うことができるが,内部取引とし て,例えば減価償却費や引当金,評価損の計上等は法人の見積りまたは判 断によることとなるので,法人の最高意思決定機関である株主総会でもっ て承認されたものであれば,一応信頼のおける適正な経理処理とみなされ るということである。ここで経理処理とは,法人がその確定した決算にお いて費用または損失として経理「損金経理」(法法2 ⑮)することをいう が,「損金経理」を要件とせずに申告書上で損金算入を認める方式も考え られるとしている。これを申告調整主義(または分離主義)といい,アメリ カ税法で用いられているが,申告調整主義によると企業会計から離れて課 税所得を計算することになるので,企業会計からの干渉を受けることはな いが,自己完結的に税所得を計算しなければならないので,法人税法の条 文が複雑になる傾向があると疑問視されている12)

 すなわち成道教授も税務会計研究は,会計学的アプローチによる解説型

(実践的)研究を内容とするものである。

2.中央大学における税務会計研究

 ⑴ 富岡幸雄教授『税務会計原理』(中央大学出版部,2003年)

 富岡教授は,国税庁を経て,中央大学商学部において「税務会計論」の 講義を担当され,「税務会計学原理に関する研究」により1975年に中央大 学からは商学博士の学位を授与されている。また,税務会計研究学会の初 代副会長として学界の発展に多大な貢献をされた。

 富岡教授は,税務会計学の独自性を探求した研究書として大著『税務会 計学原理』(中央大学出版部,2003年)を著している。ここに「税務会計学 というのは,「税務会計」を研究対象とする学問であり,租税に関する会

12) 成道秀雄『税務会計論─法人税の理論と応用─』第一法規,2015年, 8頁。

(9)

計学的研究が,単に租税についての財務会計的,商法会計的研究の知識の そのままの集積にとどまるものではなく,同じ会計学である財務会計学や 管理会計学とは区別し,これと併存するとともに,ひたすら経済学や法学 と同じ優れた学問的体系のもとに,独自の方法論と,独創的に理論構築し た原理論と,ユニークな管理論をもったフレッシュな独立の科学として成 立する学科である。」13)として,新たなる知の体系の構築を希求し「総合 租税学」の構想を提起されている。

 富岡教授の税務会計学は,租税を会計学的に科学する学問であり,税務 会計学には,財政学や税法学等において十分に解明しえない課税上の諸問 題を会計学的アプローチによって精緻にして専門技術的に究明する独自の 役割があるとされる。その研究領域には,原理論的にしてアカデミックな 純理論的研究を展開する「税務会計原理論」の領域と,一方,実践科学的 には,企業経営管理における有用な役割を果たすタックス・マネジメント の研究を推進する実学としての「税務経営管理論」(「税務管理論」ともいう)

の領域,さらにこれら2つの研究領域に考察の前提を提供することを機能 としながら,税法および税務会計制度の基礎的理解と解明を担当する「税 務会計解明論」の領域が存するとされている。

 税務会計原理論とは,税法における課税標準の計算規定が,租税の基本 理念に照らし税務会計的に妥当であるかどうかを批判的に検討し,これに よって公正な課税標準の計測体系や税務会計制度の確立を図ることを主題 とした研究分野であるとされている。

 税務経営管理論では,企業の経営管理面における税務計画と税務統制の 問題を取り上げるとされている。つまり,「税引き後の経営純利益」の極 大化の実現を図るために,企業の経営活動をいかに事前的に計画し,この

13) 富岡幸雄『税務会計学原理』中央大学出版部,2003年,序ⅰ頁。

(10)

計画に基づいて経営活動をいかに統制するか,ということを研究主題とす る領域である。また,個人の財産管理においては,適切なタックス・プラ ンニングにより残留財産の極大化の実現をめざすことが課題とされる。

 また税務会計解明論とは,現実に法として定められ作用している実定租 税法規(課税実体規定)に準拠して課税標準の算定把握を行う「現実とし ての税務会計」である「実在的税務会計」を究明することを課題とする研 究領域であるとされている。この領域は,税務会計規定の一般的・基本的 理解を基礎として税務会計の独自的・特徴的論理の究明をなし,税務会計 システム・税務会計制度を具体的・実践的に解明することを中心として税 務会計知識を整理し修得するための研究領域である。

 そして税務会計学の研究対象としての税務会計とは,課税の基準となる 課税所得の計算や課税価額の評価を目的とする会計であり,会計的測定方 法によって確定される課税標準を採用する税目について,その課税標準の 算定把握についての財務的情報の測定および伝達のための会計であるとさ れている。したがって,税務会計学の研究対象となる税務会計は,租税現 象を要因としてもたらされる現象であり,租税目的のための会計である。

 税務会計における会計的測定方法を媒介として確定される課税標準の代 表的なものとして,「所得」をあげておられる。したがって,税務会計と しては,法人所得税(法人税)および個人所得税(所得税)等のような所得 課税における課税標準である「課税所得」の概念構成および計測をめぐる 問題を課題とする「所得課税会計」が中心的テーマとなるとされている。

さらに,相続税や贈与税,固定資産税等のような財産課税における課税標 準である「課税財産」をめぐる財産評価の決定問題を取り上げる財産税務 会計があり,また消費課税における課税標準である「課税消費」について の「課税価格」をめぐる取引価格や消費価格の決定問題を課題とする「消 費税務会計」の部門も存するとされている。

(11)

 このように富岡教授の税務会計研究は,会計学的アプローチによる独得 の税務会計学の理論的研究を内容とするものである。

 ⑵ 矢内一好教授『米国税務会計史』(中央大学出版部,2011年)

 矢内教授は,国税庁,日本大学商学部等を経て,中央大学商学部におい て税務会計論の講義を担当し,「移転価格税制の理論」により2000年に博 (会計学)の学位を授与されている。また,税務会計研究学会の理事を されている。

 矢内教授は,主に米国の移転価格税制を研究した『移転価格税制の理 論』(中央経済社,1999年),『詳解日米租税条約』(中央経済社,2004年)など 多くの研究書を著している米国税制および国際税制論の研究者である。税 務会計というタイトルの研究書としては,上記のほか続編として『現代米 国税務会計史』(中央大学出版部,2011年),さらに『英国税務会計史』(中央 大学出版部,2014年)を出版されている。

 矢内教授の税務会計に関する体系化された著作はないため,研究方法に ついて詳細に知ることはできない。しかし,『米国税務会計史─確定決算 主義再検討の視点から─』において課税所得の計算構造論に関する考察と して,最後の章で税務会計の中核的問題である確定決算主義の問題を検討 している。わが国における法人の課税所得計算は,企業会計の視点から は,法人の確定した決算利益に基づいて計算(加算・減算)する方式を採 用し,企業会計と税務会計がいわゆる一体型となっていると理解されてい る。これに対して,米国,英国等の国々では,法人の課税所得計算は企業 会計から分離されている。この方式は一体型に対して分離型ということが できる。本書は,このような状況下における企業会計と税務会計のあり方 について,わが国と異なる分離型を採用する米国の税務会計を史的に考察 することにより検討しようとするものである。これまでの米国税務会計に 関する著作等においては,米国の税制が会計の発展とどのような関連を有

(12)

していたのかという点を深く掘り下げた検討が行われていないこと,また 現行の米国の法人の課税所得計算がなぜ分離型の制度になったのかという 点の説明があまり行われていないことから,これらの点を歴史的に遡って その発生から辿ることにより明らかにする必要があった。本書の研究の意 義は米国における税法と会計の関係を内外の多くの文献資料を丁寧に時系 列的に整理し,分析・検討を行うとともに,米国の税制・会計制度の理論 と実務の変遷も理解できるように工夫が凝らされているところにある。最 後の章では,課税所得計算における申告調整主義と確定決算主義の検討を 行い,企業会計と税務会計の分離も視野に入れた法人税制を検討すべきで あるという見解を述べている14)

 このように矢内教授の税務会計研究は,企業会計と税務会計の制度的計 算構造の関連性を歴史的に考証する会計学的アプローチによる解説型(実 践的)と特徴づけることができる。同様に『現代米国税務会計史』も『英 国税務会計史』も税制の変遷,企業会計と税務会計の関係について歴史的 に考証したものである。

3.日本大学における税務会計研究

 ⑴ 忠佐市教授『税務会計法』(税務経理協会,1973年2月)

 忠教授は,戦前には宇都宮地方裁判所判事,戦後は大蔵省主・国税庁に 勤務し,退官後日本大学商学部において教佃をとられ,「税務会計原論」

により1962年に中央大学から法学博士の学位を授与されている。税務会計 に関する著作として,『税法と会計原則』(中央経済社,1953年),『税務会計 原論』(中央経済社,1958年)のほか,法人の課税所得計算に関する代表的 な体系的研究書として『税務会計法(第4版)(税務経理協会,1973年(初版

14

) 矢内一好『米国税務会計史─確定決算主義再検討の視点から─』中央大学 出版部,2011年,254‑257頁。

(13)

1967年))

を著している。

 忠教授は,税務会計法という書名について,「主として法人税の課税所 得の計算の構造について,租税法令の規定を法学的手法によって解釈し,

その法律関係を解明しようとするものである。税務会計法という用語は,

わが国では聞きなれないが,税務会計とも呼ぶべきものを法学的にアプロ ーチするものであって,会計学的にアプローチするものではないことを明 確にするため,あえて,この書名を選んである。」15)とされている。すな わち税務会計法は,会計実務における会計に固有な論理と技術とが,課税 所得の構成および形成に関して,いかなる法の規整のもとにあるか,そし て,関係がある会計上の事実についていかなる法律関係にあるものとして 理解きれるべきであるか,を解明しようとするものであるとされている。

 このように忠教授の税務会計は,法人の課税所得計算について税法の規 定の解釈を通じて会計の論理と技術とがいかなる機能をもたせられている かを法的アプローチにより解明しようとする研究領域であると特質づけら れる。

 ⑵ 井上久彌教授『税務会計論』(中央経済社,1988年)

 井上教授は,国税庁退官後,忠佐市教授の後任として日本大学商学部に 勤務し,「企業集団税制の研究」により1995年に日本大学から博士(商学)

の学位を授与されている。また,税務会計研究学会の副会長を創設当初か ら務められ学界の発展に多大な貢献をされた。

 井上教授の税務会計に関する体系的研究書として,『税務会計論』(中央 経済社,1988年)がある。同書は,法人企業の課税所得と税額の計算制度 を対象とする研究書である。井上教授は,「企業所得課税を対象とする研 究には,政策論としての財政アプローチ,法解釈を中心とする法律アプロ

15) 忠佐市『税務会計法(第4版)』税務経理協会,1973年,序1頁。

(14)

ーチ,会計的意味論を中心とする会計アプローチ,利潤極大化を中心とす る経営アプローチなどがある。これらの研究は将来ともそのそれぞれの役 割を失うことはないであろう。」16)とされ,これらの方法論の統合された 研究領域を「税務会計論」と称し,税務会計論は一種の境界科学であり,

その研究は学際的な性格をもつとされておられる。

 しかし,井上教授は,税務会計論における企業所得課税に対する究極の 関心は,実定法の適用による課税所得と税額の計算であるから,その意味 では,法律アプローチが中核となる,とされている。企業課税所得の計算 原理は,財務会計原理の存在を前提として,それに対する依存または部分 修正という形で構成されているために,真の法の発見は,単純な法解釈論 だけでは得られず,会計論の助けを借りなければならならない。その財務 会計原理を実定法原理の内容として導入されるための論理構造の研究こそ 税務会計論と呼ぶにふさわしい領域である,とされている。

 すなわち,井上教授は,税務会計研究について,会計研究の視点から始 まり,法律アプローチと会計アプローチの統合されたアプローチによる理 論体系の形成を提唱されている。

4.専修大学における税務会計研究

 ⑴ 齋藤明教授『シュトイエルビランツの研究』(税務経理協会,1988年)

 斎藤教授は,税務会計の講義を担当し,「シュトイエルビランツの研究」

により1973年に駒澤大学から商学博士の学位を授与されている。また,税 務会計研究学会の理事を創設当初から務められた。

 齋藤教授は,税務会計に関する体系的研究書として,『シュトイエルビラ ンツの研究』(税務経理協会,

1988年)

を著している。同書は,わが国におけ

16) 井上久彌『税務会計論』中央経済社,1988年,序1頁。

(15)

る伝統的法人税務会計方法論を取り上げ,その現状分析を試みるとともに,

そこに存在するいくつかの理論的制度的欠陥をみいだし,税務財務諸表の 必要性を提唱し,税務財務諸表に固有な原理原則を展開し,科学としての 税務会計学の体系化を試みたものである。齋藤教授は,法的アプローチに より,「税務会計を企業の経営活動より生ずる課税所得の計算方法を税法 の会計規定に求め租税債務を計算把握するための会計」17)と定義する。

 すなわち齋藤教授は,税務会計研究について,法的アプローチによる法 的会計としての税務会計理論体系の形成を提唱されている。

 ⑵ 柳裕治教授『税法会計制度の研究』(森山書店,2001年)

 柳は,斎藤教授の後任として税務会計論の講義を担当し,「税法会計制 度の研究─税務財務諸表独立性の論理─」により2001年に駒澤大学から博 (商学)の学位(論文博士)を授与され,また税務会計研究学会の理事で あり,副会長を務めた。

 柳の税務会計に関する研究は,その研究方法を明確にするため「税務会 計」ではなく「税法会計」と称している。その研究内容は,ドイツおよび わが国の税法会計制度,とくに法人企業の課税所得計算構造に内在する諸 問題について税法的側面および制度会計的側面から分析・検討を試み,税 法会計制度の理論的基礎を形成することに向けられたものである。従来の 税務会計の研究は,そのほとんどが戦後,しかもシャウプ勧告が出た後の 1950年以降において本格的に行われ,今日まで税務会計論と称し,専ら企 業会計に影響を及ぼす税法規定の解説・検討・批判および税法と企業会計 原則との調整論議に終始してきたものが多く,会計学的視点からのアプロ ーチによる研究が活発に行われてきたところである。しかしながら,税法 会計(税務会計)は,課税所得計算について税法の法理念を実現する目的

17) 齋藤明『シュトイエルビランツの研究』税務経理協会,1988年,115頁。

(16)

で行う租税債務確定のための会計制度であり,法学的アプローチにより研 究されなければならないと考えている。したがって,税法会計の研究は,

正に課税所得計算を法学的側面の研究として位置づけられるものである。

 すなわち,柳は,税務会計研究について,法的アプローチによる税法会 計型(理論的)としての課税所得計算理論体系の形成を提唱している。そ の主な論点についての研究内容は,本稿,Ⅳ 税務会計の学的特質と課税 所得計算,Ⅴ 税務会計の所得概念と課税所得計算原理において述べる。

5.神戸大学における税務会計研究

 ⑴ 武田隆二教授『法人税法精説』(森山書店,2005年)

 武田教授は,神戸大学において1960年に国立大学で初めて設置された

「税務会計」の講座を担当され,「ドイツ会計学の展開に関する研究」によ り1966年に神戸大学から経営学博士の学位を授与されている。また,日本 会計研究学会会長,税務会計研究学会副会長等を歴任され日本の会計学・

税務会計学等の学界の発展に多大な貢献をされてきた。

 武田教授は,税務会計に関する体系的研究書として,『所得会計の理論

─税務会計の基礎理論』(同文館,1970年),『法人税法精説(平成17年版)

(森山書店,2005年(初版1982年))を著している。同書は,法人税法の基本 的に重要な内容を,主に会計学の視点から,全般にわたり解説したもので ある。武田教授18)は「税務会計は制度会計の一類型である。」とされ,「税 法の規定にしたがい課税所得の計算を扱う会計領域を税務会計」と定義さ れている。

 ここに「制度会計とは法律制度の枠内で営まれる会計行為を総称するも のである。法律にはそれぞれ法の目的が存在する。つまり,それぞれ法の

18) 武田隆二『法人税法精説(平成17年版)』森山書店,2005年,18頁。

(17)

目的が存在し,それぞれの法律によって実現されるべき基本的価値が法目 的として措定され,当該法目的を満たすことが法の理念となる。」とされ,

現実に企業の経理を規制する法律により制度会計を識別しなければならな いとされている。

 税務会計の中心課題は,法人税法の骨格が課税所得の算定にあることか ら,法人の課税所得の確定ということである。しかし,「税務会計は,た んにレックス・ラタ(「現行の法律」:実定法)の観点から課税所得の計算に 関する研究を行うだけでなく,レックス・フェレンダ(「これから発布され る法律:立法論)の観点からも体系的に考察する必要がある。」19)とされ,

ここに「税務会計論」としての研究領域が成立するとされている。

 すなわち武田教授の税務会計研究は,会計学の視点から法人税法に基づ く課税所得計算の理論的な研究を内容とする制度会計論的考察を特徴とす るものである。

 ⑵ 鈴木一水教授『税務会計分析』(森山書店,2013年)

 鈴木教授は,「税務計画を前提とした日本における課税所得計算制度と 企業の税務会計構造に関する研究」により2012年に神戸大学より博士(経 営学)の学位を取得されている。本書は,この博士学位論文を基礎に『税 務会計分析』として公刊されたものと思われる。また,税務会計研究学会 の副会長を務めている。

 鈴木教授は,「税務会計とは,企業の活動やその他の事象を識別,測定,

記録,分類,整理し,企業の所得に対する課税の基礎となる所得金額と税 額を計算し,その結果を報告する過程である。」と定義され,税務会計は,

法人税等の課税の基礎となる所得金額と税額の計算と報告を扱う企業会計 の1つであるとされている。税務会計は,実施の時期によって事前計算・

19) 武田隆二『法人税法精説(平成17年版)』森山書店,2005年,28頁。

(18)

報告と事後計算・報告に分かれる。事後計算・報告とは,申告期限までに 行われる1事業年度(および法人の場合はそれを構成する上半期)の課税所得 金額と税額の計算およびその結果の報告である。これに対して,事前計 算・報告とは,企業活動に関連する税額等をあらかじめ見積り,経営者に 伝えるものである。

 しかしながら,従来の税務会計研究は税務関係法令に関する立法・解釈 論として発展してきた。そこでは,課税所得の計算規定を体系的かつ一貫 性があるように構成するための,税制の趣旨や目的に沿った概念の明確化 や課税所得計算の技術的考察に焦点が絞られ,税務会計の内部報告の側面 や,税制が企業行動に及ぼす影響の分析は,軽視されてきたと指摘されて いる。

 そこで鈴木教授は,税務会計を税務計画(税法規定を所与として税引き後 キャッシュフローを最大化するための計画)に基づく企業活動を記録計算そし て報告する過程として広く捉え,税務法令が経営者の意思決定に及ぼす影 響や利害関係者間での税負担や資源の配分過程を説明し予測することを重 視する現象解明型税務会計研究の必要性を展開しているのである20)

6.各大学における税務会計研究者の研究方法論

 ⑴ 駒沢大学:長谷川忠一教授『近代税務会計論』(ダイヤモンド社,

1975年)

 長谷川教授は,「税務監査の基礎理論」の研究により1975年に駒澤大学 から商学博士の学位を授与され,税務会計に関する体系的研究書として

『近代税務会計論(4訂)(ダイヤモンド社,1975年)を著している。長谷川 教授は,税務会計とは,「納税主体の内外に生起した租税現象を会計的に

20) 鈴木一水教授『税務会計分析』森山書店,2013年,15頁。

(19)

捕捉し,これを実定法規定に照らして具体的な納税義務とすること,すな わち,所得課税の税目については,その課税標準額を実定租税法規に準拠 して適正に計算することである。」21)と定義し,直接的研究対象は,課税 所得の計算的把握で,その研究方法は,合法的な税法の解釈と合理的な会 計理論の応用とされている。納税主体の租税現象を会計学的アプローチに より捕捉算定するという点からは,広義の会計学の一面をもつことは確か であるが,税務会計自体の理論的体系と実践をもたなければならないとさ れている。長谷川教授は,所得課税を目的とした場合の課税標準額を適法 かつ公正に認識測定するには,納税義務者が自らの所得を実定法規に基づ いて計算する民主的な納税原則(平等性の原則・適法性の原則・確実性の原則)

を基盤とした税務会計原則の確立が必要であるとされている。

 このように長谷川教授の税務会計は,納税原則に基づく法的会計学とし ての税務会計の理論的な研究を内容とするものである。

 ⑵ 桃山学院大学:中田信正教授『税務会計要論』(同文舘出版,2008年)

 中田教授は,税務会計の体系的研究書として『税務会計要論(16訂版)

(同文舘出版,2008年(初版1982年))を著している。中田教授は,桃山学院 大学において税務会計論の講義を担当し,「アメリカ税務会計論」の研究 により1992年に関西学院大学から商学博士の学位を授与されている。ま た,税務会計研究学会の理事を務められている。

 中田教授は,「企業の行う会計は,企業の経営活動と財政状態に関する 価値計数的情報を扱うものである。それは,有用な価値計数的情報の提供 によって,利害関係者に対する会計責任を履行するとともに,利害関係者 の意思決定に役立つことを目的としている。会計を行う主体は企業であ り,経営者の貴任において,直接には会計者(アカウンタント)によって会

21) 長谷川忠一『近代税務会計論(4訂)』ダイヤモンド社,1975年,8頁。

(20)

計実践がなされる。会計は他の領域と関連していくつかの側面をもってい る。会計者はこれらの会計の諸側面につき総合的に会計実践を行う。」22)

とされ,企業における会計者が行う総合的な会計業務のうち税務的側面を 税務会計と概念づけられている。

 会計者が税務につき関心をもつ分野として,主要な部分は 課税所得 (課税所得金額と税額の計算および申告をいかに行うか─税法会計) 務計画論(合理的な租税負担を可能にする税務計画とは何か─税務管理会計) あり,さらに関連分野として 税金に関する財務報告論(算出された法人 税額を財務諸表にどのように表示するか─法人税等の会計─税効果会計)の3つ がある。課税所得論は,税務会計の主要部分に占めるものであり,税法に 基づく課税所得および税額の算定と報告について,理論的かつ実践的な研 究を行うものである。通常,税務会計といわれる場合はこの分野をいい,

その意味では「狭義の税務会計」と表現することもでき,また,税法に基 づく会計という点では「税法会計」と呼ぶこともできる。

 このように中田教授は,会計実践的アプローチによる税務会計を展開さ れている。

 ⑶ その他大学における税務会計研究者

 ここに紹介したのは大学における研究者のほかにも,税務会計研究に関 連された多くの研究業績を残されている,アメリカ税務会計を研究され

『税務会計の歴史的展開』(法律文化社,1972年)を著された佐橋義金教授

(名城大学),法人本質観に基づいたアプローチによって法人所得課税シス テムを解明しようと試みた『税務会計研究の基礎』(九州大学出版会,1994 年)を著された末永英男教授(熊本学園大学)『税務会計法』(税務経理協会,

1996年)

を著している鈴木豊教授(青山学院大学名誉教授),『税務会計の理

22) 中田信正『税務会計要論(16訂版)』同文舘出版,2008年,3頁。

(21)

論』(中央経済社,1995年)を著している菅原計(東洋大学名誉教授),『基本 テキスト税務会計論』(同文館,2003年)を著している八ツ尾順一教授(大 阪学院大学・近畿大学),税務会計における減価償却を研究された『減価償 却の理論と実務』(税務経理協会,2010年)を著された野田秀三教授(桜美林 大学),税務会計の制度的な面から法人税の理論と実務について解説した

『要点解説税務会計基礎講座』(大蔵財務協会,2016年)を著された平野嘉秋 教授(日本大学商学部)など多くの大学の研究者がいるが,紙面の関係で割 愛させていただいた。

Ⅳ 税務会計の学的特質と課税所得計算

1.税務会計の定義と課税所得計算

 近代市民社会における税法の目的は,国民の私有財産権の保障である。

また近代租税法制度の基本原理として,租税法律主義が法治国家における 重要な欠くことのできない原則であることはいうまでもない。税務行政 は,法治行政主義の一環としての法定主義によるものということができ る。しかし,その法定主義は,とりわけ法治主義とは別に特に租税法律主 義がいわれていることから,他の行政と異なり,厳格な法定主義が求めら れなければならない23)。このことは,国民の財産権を保障し法律生活の安 定を図るため,近代国家においては等しく認識され,日本国憲法も,「納 税の義務」を定めた憲法第30条と「租税法律主義」を定めた憲法第84条と いう2つの明文規定をおいて認めているところである。

 かかる租税法律主義とは,納税義務の確定という法効果を発生させる要 件に関する実体規定および手続規定のすべては,法律をもって定められな ければならないことを要求するものである。したがって,納税義務ないし

23) 新井隆一『租税法の基礎理論』日本評論社,1986年,102頁。

(22)

租税債務の成立(発生)から確定までの税法会計の過程における課税要件 の実体的内容のすべては,租税法律として定められなければならない。そ して,その規定は,具体的・個別的に明確であることを要し,法律が政 令・省令等に委任する場合も一般的・白紙的委任は許されないといわなけ ればならないのである。

 税法会計においては,納税義務者は,申告納税制度の下で,租税法律に 従い,自己の課税物件の実質的内容を自ら確認し,その課税標準を自ら算 定し,自ら税務行政庁に通知(申告)し,その税額を納付しなければなら ない。したがって,納税義務は,租税法律に定められた課税要件を充足す る事実の実体的内容の認定とその充足の確認があって成立・確定するもの であり,それは租税法律に定められた計算規定に求められなければならな く,ほかの法律に白紙的に委任するような立法・解釈・適用,および商慣 習・会計慣行等の抽象的・不明確なことを内容とする不確定概念は,でき 得る限り排除されることが要請される。このことは課税所得の計算に関す る規定についても,法的安定性・予測可能性の確保24)のため,当然租税 法律主義から要求されなければならないのである。

 このような税法の基本原理の中にあって,わが国法人税法は,課税所得 の計算の基礎となる益金・損金の認識基準については,計算上最も重要な 原則であるにもかかわらず,この点に関して若干の特例的な規定を置いて いるほかは,具体的な規定を欠いている。そのため,益金・損金の認識基 準の問題については,従来,法律の明文規定を欠いたまま,種々議論され てきているところである。したがって,租税法律主義を最高法原則とする 税法において,なぜこのようなことが許容されるのか疑問の存するところ である。

24) 金子宏『租税法』弘文堂,2017年,75頁。

(23)

 このような性格を有する税務会計ないしは税法会計は,「税法の会計規 定に基づいて企業の課税所得および税額を計算し,納税義務(租税債務)

を確定するための会計制度」と定義し,税法学的アプローチによる法的会 計と特質づけられる税法会計制度として理論体系の形成を展開していく必 要がある25)

2.課税所得計算と公正処理基準の法的性格

 法人の各事業年度の所得金額は,各事業年度の益金の額から当該事業年 度の損金の額を控除した金額として計算される。ここに益金は収益を構成 要素とし,損金は原価,費用,損失を構成要素とするものである。そして その益金の額に算入すべき収益および損金に算入すべき原価,費用,損失 は,会計包括規定たる「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」

(公正処理基準)に従って計算されるものとされている(法法22④)  この公正処理基準の規定は,昭和42年の法人税法の改正において導入さ れたものである。これは,法人の課税所得の計算が,収益,原価,費用,

損失という企業会計の概念を構成要素とするものであるから,それらは企 業が継続して適用する健全な会計慣行によって計算する旨の基本規定を設 けるとともに,税法においては企業会計に関する計算原理規定は除外し て,必要最小限度の税法独自の計算原理を規定することが適当であるとい う基本的見解を表明したものとされている。この規定の創設の背景には,

課税所得は,本来,税法,通達という一連の別個の体系のみによって構成 されるものではなく,税法以前の概念や原理を前提としているものであっ て,絶えず流動する社会経済事象を反映する課税所得については税法に完

25) 柳裕治『税法会計制度の研究─税務財務諸表独立性の論理─』森山書店,

2005

年,「はしがき」1頁。柳裕治「第1章 税務会計の制度的基礎」柳裕 治編著『税務会計論(改訂版)』創成社,2016年,1頁。

(24)

結的にこれを規制するよりも,適切に運用されている会計慣行にゆだねる ことの方がより適当と思われる部分が相当多いという考え方があったとい われている。したがって,この規定の性格は,従来の税法の基本的な考え 方を明確にしたのであって,創設的な規定と解すべきではなく,宣言的・

確認的な規定と理解されなければならないとされている。

 ところで「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」の内容につい ては,法的に何ら説明するところがない。したがってその基準が何を意味 するかは条文の上からは不明である。そこで,企業会計の実務の中に慣習 として発達したものの中から,一般に公正妥当と認められたところを要約 したとされる企業会計審議会の「企業会計原則」等を指すものであるとい う見解もないではない。しかし,「企業会計原則」等は,それ自体がここ で要求される法的規範たる一般に公正妥当と認められる会計処理の基準か どうかは疑問である。それゆえに,判例の積み重ねによって次第に客観的 に決定されるものということになる。

 すなわち,法人税法の会計包括規定たる「公正処理基準」は,ドイツ商 法・税法の正規の簿記の諸原則

Grundsätze ordnungsmäßiger Buchführung :

 

GoB

と同じように,不確定法概念であり,未解決な立法の部分である。

それは,個々のケースの判決に必要な規範を固有の法律形成によって獲得 する能力を裁判官に与えているということができる。

 このような会計包括規定の指示は,概念の不確定性とその内容の変化に よる順応性とで会計の変化に応えるという立法技術をもって,Aprath, W. 26)がいうように「立法の偉業」

eine Großtat unserer Gesetzgebung

と評 価することができるかもしれない。しかしながら,税法の最高法原則とし ての租税法律主義から種々の批判があることはいうまでもない。

26

) Aprath, W. : 

Grundsätzliches zum Gewinnbegriff in Betriebswirtschaftslehre

und Steuerrecht, in :  Steuerberater Jahrbuch 1950 , S. 148 .

(25)

3.不確定法概念たる会計包括規定の解釈方法

 ドイツにおいては,不確定法概念たる正規の簿記の諸原則の本質観につ いては,貸借対照表法

Bilanzrecht

の領域において,商法・税法上法的 に創設されて以来活発な論議が行われてきている。それは,特に伝統的見 解, す な わ ち 正 規 の 簿 記 の 諸 原 則 の 本 質 観 を「 商 人 的 慣 習 」 と す る

Schmalenbach, E. 27)を代表とする伝統的な帰納法による見解と,正規の簿

記の諸原則を年度決算書の目的から展開する演繹法による見解とが対立的 に論じられてきた。

 演繹法は,Döllerer, G. 28)等の主張する商法的演繹法とLeffson, U. 29) の主張する経営経済的演繹法に区別される。経営経済的演繹法とは,経営 経済的に容認される簿記と年度決算書の一義的で矛盾のない,一般的に容 認された目的を前提とし,この前提のもとでのみ経営経済的に容認される 正規の簿記の諸原則を獲得しうるとする方法である。また,商法的演繹法

27) Schmalenbach, E.

は,正規の簿記の諸原則を,「実際において行われてい

ることではなく,誠実で尊敬に値する商人の実際において正しいとされてい る 慣 行 に 基 づ く 諸 原 則 」 と 説 明 す る(Schmalenbach, E. : 

Grundsätze ordnungsmäßiger Bilanzierung, in :  Zeitschrift für handelswissenschaftliche Forschung 1933 , S. 232 .)。また,Hertlein, A.

は,「実際において正規の尊 敬に値する商人の同一でかつ継続している慣行に基づいて形成されている諸 原 則 」 と 定 義 す る(Bühler, O./Scherpf, P. : 

Bilanz und Steuer, 7 . Aufl., München 1971 , S. 51 .)。 さ ら に, 同 様 な 概 念 規 定 を す る 論 者 と し て,

Trumplaer, H. ( Trumplaer, H. :  Die Bilanz der Aktiengesellschaft, Base l 1950 , S. 80 .),Anderson, V. (Anderson, V. :  Gr undsätze ordnungsmäßiger Bilanzierung in der Rechtsprechung der Finanzgerichte, Heidelberg 1965 , S.

20 .)

および

Heinen, E. (Heinen, E. :  Handelsbilanz, 4 . Aufl., Wiesbaden 1968 . S. 81 f.)

等がいる。

28

) Döllerer, G. : 

Grundsätze ordnungsäßiger Buchführung Bilanzierung deren Entstehung und Ermittlung, in :  Betriebs-Berater, 1959 , S. 1217‑1221 .

29

) Leffson, V. : 

Die Grundsätze ordnungsmäßiger Buchführung, Düsseldorf

1976 , S. 45 .

(26)

とは,法目的から出発してそこから正規の簿記の諸原則を獲得する方法で ある。

 さらにBaetge, J. 30)等が主張する,法学における一般的解釈方法の援用

による法解釈学的方法がある。しかし,この法解釈学的方法はこれまで主 導的地位を占めていた演繹法を排除する正規の簿記の諸原則の獲得法では ない。それは演繹法,さらには帰納法の要素も含むすべての影響要因を認 識する,発展的・調整的な獲得プロセスを意味している。

 このように,不確定概念たる会計包括規定の解釈方法論としては,大き く3つの方法に区分される。しかしながら,固有の法理念・目的を有する 法会計制度においては,法目的を達成するためには,その内容を演繹的に 獲得する必要があると考える。したがって,税法においては,法人税法第 22条第4項の「公正処理基準」は,税法の原理原則から演繹的にその内容 が形成されることが要請されると解されなければならない31)。なお,

Schneider, D.は,ドイツ税法が不確定法概念たる「正規の簿記の諸原則」

GoB

に依存した課税所得計算構造を採用しているのは,平等な課税の 後退であると批判している32)

Ⅴ 税務会計の所得概念と課税所得計算原理

1.企業利益計算と課税所得計算

 法人税法は,法人の所得に対して租税を課すものであり,その基礎は企 業の利益ということになる。

30

) Baetge, J. : 

Bilanzen, 3 . Aufl., Düsseldorf 1994 , S. 47 .

31) 東京高等裁判所平成25年7月19日判決(平成25年(行コ)117号)におい

て,法人税法

22

条4項「公正処理基準」の内容を「税会計処理基準」という 概念を用いて税法固有の観点から判断されると判示している(『訟務月報』

60

巻5号

1089

頁)。

32) 木下勝一『会計規準の形成』森山書店,1990年,236頁。

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