「生きた系」の理論II (社会・人文科学序説)
~生命・心理・物質とは何か
("物理学”からの統一説明)
( 4 )
池田宗彰
A Theory "fo ginvLi "IIemsystS
(An niotcudortIn ot laicoS ecenciS & Human )ecneicS : What era ,efiL Psychology and r,etatM from eht
u n i f i e
d elpicirirp "fo?"csisyhP
( 4 )
目次
(序)
Muneaki Ikeda
(1 部)物理現象~宇宙のはじまりから
第I章 全 体 の 鳥 嗽 図
第II章 物 理 理 論
§1. 艤子論
1・1 「量子」の定義 1・2 古典力学 1
・3 羅子力学
1
・4 場の抵子論 1
・5 対称性と不確定性原理と「力の検出」
5
4 立正大学経済学季報第95 巻2号
1
・6 トンネル効果
(以上前稿•以下本稿以降)
§2. 「超ひも理論」
2
・1 ひも理論 2
・1 ・1 「ひも」の屎子力学 2
・・12 「ひも理論」の生い立ち 2
・・13 超ひもの特性)1( 2
・・14 超ひもの特性)2( 2
・・15 「超ひも理論」による粒子説の困難の解消 2・2 ひもの鼠子化
-T 双対性: 2つの宇宙 2
・2・1 「ひも」と宇宙 2
・・22 ひもの最子化
-T 双対性: 2つの宇宙 2
・3 不確定性原理の修正
§3. 宇宙論 3
・1 宇宙のはじまり
~真空の“ゆらぎ”と“トンネル効果”
3
・2 インフレーション
~宇宙の“指数関数的膨張”
3
・2・1 宇宙膨張のはじまり:ビッグバンの「初期」
3
・2・2 アインシュタイン方程式の導出過程 3
・3 「火の玉」宇宙(ビッグバン)
~バウンダリー制約無限:プランク分布(イ)
3
・3・1 元索分布から推論した宇宙の組成 3
・3・2 宇宙初期が高温であった理由 3
・3・3 宇宙最初の「3分」 3
・3・4 宇宙は曇り(後永遠に晴れ)
~バウンダリー制約無限:プランク分布(イ)
3
・4 宇宙の「晴れ上り」以降
~パウンダリー有限:プランク分布(イ)の継続 3
・4・1 「3゜K 背景放射」
3
・5 膨張と“構造”形成
一生命・心理へ("くりこみ”反転)
3
・5・1 宇宙内“構造"形成 3
- 5 -
2 生命空間・心理空間への宇宙の
“くりこみ“の反転
§4. くりこみ理論 4
・1 くりこみの数式表現 4
・1 ・1 伝播関数 4
・1 ・2 相互作用している場 4
・・13 ダイソン方程式 4
・2 くりこみの図による表現 4
・・21 図式化 4
・3 くりこみの表わす意味 4
・・31 ネゲントロピーと相互作用 4
・3・2 ネゲントロピーとプラウン運動 4
・4 認識空間のくりこみのまとめ
§5. プランク分布
-"バウンダリー”と対称性の関係
: 「晴れ上り」点が“対称性の見掛上の破れ”の分岐点 5
・1 プランク分布の「晴れ上り点」の左側のバウンダリー制約と右側の パウンダリー制約の違い
5
・2 プランク分布の“対称性粒子”と“仮想粒子の衣の岸さ”の“ラン ダムウオーク" (プラウン運動)の違い
5
・・21 "対称 l生粒子”の「プラウン運動」と“仮想粒子の衣の肛さ”の
「プラウン運動」との間の確率分布の相違 5
・・22 ランダムウオークの“無相閃"から「正規分布」の導出:“有
5
6 立正大学経済学季報第95巻2号
限相関”から「ベキ分布」の対応の導出 5・3 現実のデータをが)tは正規分布かベキ分布か
5・3・1 現実のデータ )?(t の分布
5・3・2 「金融工学」:“プラック・ショールズ方程式"の“誤り”の原因
§6. 不確定性原理
~ミクロとマクロの間の単位変換での普遍的有効性 6・1 不確定性原理と階層
6・1・1 ランダムウオークの例から 6・1・2 「不確定性原理」に戻って
6・1・3 「不確定性原理」と“くりこみ”のバウンダリーがの形成 6・1・4 「階屈上げ」の“二重性”
~社会化・グローパル化と文明化・文化化 6・2 「一般均衡」でのがの算出の2つの形
~形式論理の場合とくりこみの場合
6・3 が(バウンダリー)の存在によるランダムウオークの変容
(以上 稿•以 稿以
(2 部)生命・心理現象の発生
第III章 宇宙の構造形成過程での“認識空間”の発生
• “任意性”の発生進行
§1. "自己複製構造”の発生("自発性”の発生)
1・1 "自己複製構造”の発生と“認識空間”の発生
~自己複製ルール (RNA →DNA) と自己組織の“暗号”の発生
(→付論参照)
1・2 "認識空間”の進化
~脳の発生
1・3 対称性人類学:心とは何か)2(
§2 ... 量子”の“確率性”は“最子"の“自発性”と同義:“因果性”から
の離反 _ ..
不確定性原理”と人間(生物)批子の“自発性... 任意性”
§3 . 不確定性原理”は“正準共役”にある変数値の“パウンダリー”(分.. 布幅)同志の“背反関係" : .. ( • 任意性)増大
は,それら両変数の“並行関係”
~プランク分布からの説明
§4 ... 不確定性原理”は“賊子”の“階層に”無関係に有効~“仮想粒子”
も“階層上げ”に従う
§
5. "時代の流れ”・“社会的価値”と“個人”
§6 .. 認識内容”の進歩("因果性". - . 法則性”の進歩)と認識主体の.
“緩み”
§7. 認識のパウンダリー有限の場合にバウンダリー・ゼロと認識すると認 識が破綻する_EX. 経済万能理論(市場経済理論・計画経済理論)は,
政治・社会・文化のパラメターが“有限値”をもたない(→比較静学 の正当性)
§8. 緩んだ“認識主体”自身を対象とした学問は,その内容の“任意性”
は大きくなる
~社会・人文科学の“任意性”および自由な会話の“任意性"
§9 .. 不確定性原理"・“対称性”・“くりこみ”(再論).
§ 1 0
. •
~底流(マグマ)は“不確定性原理”
(付論)
(あとがき)
58 立正大学経済学季報第9 巻 25 号
(
1 部)物理現象~宇宙のはじまりから
§2. 「超ひも理論」
2•1 ひも理論
2• 1• 1 「ひも」の盪子力学
第II 章 物 理 理 論
前章末尾において,「超ひも」なる概念が,「量子」の概念の欠陥を消す可能 性について触れた.そこで,本節本項において最初に「ひもの理論」(「ひも」
の最子力学)の概略を述べておきたい.
本節 §().2 の記述は,主として,吉川圭二「超ひも理論と宇宙」 9819( 年, 裳華房)に依拠している.同著は,吉川氏の業績 ("T 双対性”の発見など)
を含む解説書であるが,さらに本格的なひも理論の内容(プロセス)を必要と する方は,.JiksnhicloP 「STRING THEORY .loV I」,8991( Cambridge
U n v
. )sserP .J,kisnhiclPo 「STRING THEORY .loV II」,1002( Cambridge U
n i v
. ,)sserP または, ミチオ・カク(太田信義訳)「超弦理論と M 理論」
( 1 9 8 9
, シュプリンガー・フェアラーク東京)などを参照されたい.
( 1
) ここでの「ひも」は,太さはないが長さのある物体とでも言うべきもの を言う.前章までで扱った「索粒子」または「場」は,空間の 1点の座標x を指定してそこに“粒子”または,“粒子”集合の塊が存在することを指す.
そしてその粒子の鼠子力学は(または場の贔子論は波動関数(または状態ベク トル)!JI ,x( )t をもってその粒子(または場)の状態を表わし, !JJI,x( )t 1
2 でその粒子(場)が,時刻tに場所xで見出される“確率”を表わす.そし て,波動関数!JI ,x( )t が時間と共にどのような変化をするかは,!JI ,x( t
) がシュレーディンガ一方程式に従うことから定まる.シュレーディンガー 方程式は,その“粒子の波動"!JI ,x( )t が,他の粒子(場)がどのように
分布しているかという状態の中でどのように伝搬するかを決める方程式である.
( 2
) 「ひも」の鼠子力学は「粒子」(または場)の量子力学をまねることによ り作ることができる.
まず,時刻てにおける「ひも」の“位箇”と“形”を
Xμ(a, ):,- 2・(1 ・)1 で表わすとする.'l' は時刻を表わし,ぴはひもに刻み込んだ目盛と息えばよい.
こ こ で ぴ を 0か ら 冗 ま で 動 か せ ばXμ(<1, )T は 時 刻 て に お け る ひ も の
“形"を空間に描くことになる .giF(( 2・2・)1 参照).
もし,このひもが輪ゴムのように閉じたものであれば,
Xμ(0, )r-=Xμ( ,冗)r- 2・(2・)2 という周期条件をつけておけばよい.ひもの座標Xμ の添字μ は, μ=O が時 間成分を表わし,その他は空間成分を表わす.すなわち, 3次元空間であれば,
ぷ,"5<(');z, ふ,"5<( ')r- ぷ,"5<();z,
<
F i g
. 2•2•1>
X 2
a (
X(a,r)
゜ ふ
(・「ひも」の“位置”と形は,パラメター6を0から冗まで動かすことによって,ベ クトルX,'O( て)の描く軌跨で定まる.
・「閉じたひも」の場合は, X(O,
)
6
0 立正大学経済学季報第95 巻2号
は,時刻てにおいて,ひもにちょうど 6 という日盛のついた点の空間におけ る“位置”を表わす.時間成分X。位, )r は一般にぴ点の時間を表わすが,
実際には,例えば
x,。re( =r )r
のように, 6 の値に無関係にre( (パラメター)の関数として)時間 T を指定 できる.(ひもの座標 ・2(・2l) は時間成分に関しては余分な自由度を持ってい るので,その自由度を利用して便利な目盛づけを選ぶことができるが,その座 標系の取り方によって物理的な結果は変わらないようになっている.)
嬰するに,「ひも」の“形”が ・(2・21) で指定されていると,最子力学の場 合と同じように,「ひも」の波動関数(状態ベクトル)
り[Xμ] ・2(・2)3 を導入することができ,その“形”をした「ひも」を観測する確率は
I [fJl X
μ] 21 ・2(・2)4
で与えられることになる.すなわち, 1つのμX は,「ひも」の“ある形”を 表現しており,かつ
I μX![Jl] ド=μX[!lJ] *!Jl [Xμ] =一定(=規格化で)1
となるように,関数 ・2(・2)3 はシュレーディンガー方程式の解になっている のである(ただし,上記の*印は複索共役を表わす).
( 3
) ところで,‘‘現在時点”で物理学の最も基礎的な「原理」として,吉川圭 二(「超ひも理論と宇宙」,8991 裳華房)は,次の4原理を挙げている.
1つは「宇宙原理」で,宇宙は大きなスケール(数10 億光年以上)で平均し て眺めると,「宇宙は一様・等方」という内容を持っていて,これはある程度 観測で確かめられている事実だが,十分遠方のことはわからないので,これを 原理として採用する.
この原理を採用する根拠の1つは,この一様・等方性を仮定した上で,アイ
ンシュタインの“一般相対性理論”を用いると,ビッグパンとよばれる宇宙の 時間発展を記述する解が得られることにある.われわれの宇宙は, 731 億年前 に1点から爆発をおこし,その後現在まで膨張を続け,現在もその過程にある ことが,現在観測によって確かめられていて,われわれのいる地点から 1メガ パーセク(約263 万光年)離れた地点は,毎秒約100km の速さで遠ざかってい
る.この遠ざかる速度を「ハップル定数」 H という.
2番目の原理は,「等価原理」である.これはすでにわれわれが本書で見た ものである.すなわち,‘‘重力”と“慣l生力”とが同じものであると見倣すも ので,これについては多くの実験がなされ,高い精度でそれらの同等性が成り 立っていることがわかっているが,これを原理として採用しようというのがこ の原理である.この同等性の検証において重要な役割を果たすのが「重力定 数」 G である.
3番目の原理は,「光速不変の原理」である.これはアインシュタインが
“特殊相対性理論”を発表したときに必要としたものである.これは,光速は どの慣性系から測っても常に一定であるというもので(慣性系とは1つの座標 系に対して一定の速度で動いている座標系の総称である),従って,光速c は, 観測する人の状態によらず一定だから, 1つの甚本的な自然定数で
c = 9.28452799 X 108m/ s と定義されている.
最後の原理は「闊子力学原理」である.索粒子が振舞うミクロの泄界を観察 すると,その索粒子は,詳しい実験によって,運動盤P を持つ粒子は,波長 入がド・プロイ式
,
l =2 祠PI
で与えられる波の性質を持つことがわかっており,これも原理として採用する ことにするのである。ここに出てくる h は「プランク定数」といい,この関 係式の要となっていると同時に,粒子が波の性質を持つことと等価である“不 確定性原理”の要にもなる定数である.
6
2 立 正 大 学 経 済 学 季 報 第95巻2号
<
F i g
. 2•2•2>
現時点での4つの「基本原理」と 4つの「定数」
(吉川, 8991 より転載)
原理名 関連する定数 宇宙原理: ハップル定数H"m/Mec'lOOk=
等価原理: 重力定数G=6.7xIO-"N 血kg-3 光速不変原理: 光速定数c=3 x IO'ms-•
鱚子力学原理: プランク定数tz=l.06XI0 呵 s
(
定数の次元 T - 1 L'M-1T-2
L T-1 ML2T-1
これら「4つの原理」を構成するパラメター(定数)を表にするとく.giF 2・2・2 〉のようになる.
( 3 '
) さて,上記の 4つの基本原理に従う基本理論があるとして,その構成要 索がどの位の大きさであるかを見ておきたい.く.giF 2・2・2 〉に掲げた自然界 の4つの基本定数,すなわち,ハップル定数H, 重力定数G, 光速定数,c プランク定数hが本質的な役割を果たす憔界は,人間の祉界に比べると極め て小さな世界であるが,極めて高いエネルギーの世界でもある.このことは,
これらの定数を使っていろいろな次元を持つ定数を計算してみると分かる.
まず長さの次元を持つ量は,
G t z 21i
プランク長さ:い(c3) = 6 .1 X 1,m53-0
次に,質鼠(あるいはエネルギー)の次元を持つ最は,
プランク質鼠: Mp=( 隠)211=2 .2X 1Q-8kg
プランクエネルギー:Ep= Mpc2 = 2 .1 X 1佃GeV また時間については,
プランク時間: = 5 4 . X ,S44-01 温度は,
プランク温度:R=互=__>i 4 X 1.1 K303 k
s
で与えられる.ただし, K は絶対温度の単位,んはポルツマン定数で次の鼠 で与えられる.
ポルツマン定数: ks= 3.18 X KJ/230-1
という具合である.これらプランク鼠が実現する世界は宇宙の出発点(あるい は現在の宇宙がプランクサイズであった頃のサイズ)である.
「ひも」の長さは,甚本定数の組合わせによって長さの次元を持つ鼠を構成
....
して出てくるもので, 2つの星が可能で, 1つはハップル定数から定まる現在 の宇宙半径であり,それは百数十万光年という巨大な長さである.他の1つは プランク長さである.プランク長さは,宇宙の始まりの頃の宇宙半径であり,
上記両者いずれも“宇宙半径”であり,われわれの議論と整合するがく.giF 1・・13 〉参照),当面,ひも理論に該当するプランク長さの方に注目することと する.
プランク長さは,ひもが基底状態(対称性から離れた安定状態)にあるとき の縮んだ長さと解することができる.われわれが現在索粒子物理学で得られる 最高のエネルギーlOOOGeV で実験しても,その実験の解像力は高々m1910- で
あるから,索粒子が「ひも」で出来ていても,プランク長さに比べれば,事実 上「粒子」として扱ってもさしつかえない. しかし,グラビトン(重力子)が 見えてくるようなエネルギー領域から,プランクスケールのエネルギー領域に 入ると,この世界を構成する甚本物質が「粒子」であるか「ひも」であるかに よって大きな違いがでてくる.
それでは次に,「ひも理論」が出てきた経緯を辿ってみることにする.
2 -
1 ・2 「ひも理論」の生い立ち (
1
) 5091 年代末から0961 年代にかけての索粒子物理学では,“強い相互作用”
をする新しい粒子が続々と発見され分類されていった時代であった.ここで言 う粒子とは,核子nr易子・中性子)や中間子のように強い相互作用をする粒子
6
4 立正大学経済学季報第95巻2号
のことで,ハドロンとよばれているもののことである.(電子,μ粒子,ニュ ートリノなどではない.)その数が多くなると,それら全てが“索”粒子であ
るとは考えられなくなってきた.
そこで1956 年に坂田昌ー氏により「坂田模型」が提唱され,陽子 p, 中性子 n
, ラムダ粒子 Aの 3粒子が基本粒子で,他の粒子は全てこの粒子,及びその 反粒子から構成された複合粒子であると主張され,一般にそう考えられていた.
( a )
<
F i g
. 2•2•3> 「ハドロン」のレッジェ軌跡
pv Rea(M り6
5 --------+ - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
4-+---~--- 3 --+-
- - - - - - - - - - - - --ー - - - -
冗p
p(I=l,G=+)
冗(I=l,G= -) V(l ,―3ー,・・・・・・) P(O 2―,― ・, ・・・・)・
M'(GeV)' -1 3 4 5 6 (
b
) -ー----------------------2°-/-5-1---------------------・・--- J
^ ピ •
ン
●確認された粒子
□未確認の粒子
M2(GeV)2 012 3 4 5 6 7 8 910 (
a
) 中間子のレッジェ軌跡:直線が整数を切る所に粒子が現われる.
( b
) 重粒子(パリオン)のレッジェ軌跡:直線が半奇数を切る所に粒子が現われる.
(吉川)8991( から転載,一部省略)
( 2
) 坂田氏のこのアイディアは甚本的に正しかったが, 1691 年にゲルマンに よってその数学的構造が少し変更され,基本粒子をクオークという 3 種類の粒 子とする枠組が完成された(「クオーク模型」).これらの複合粒子(この場合 ハドロン)は,アイソスピン,I ストレンジネス,S 重粒子数(バリオン数)
などとよばれる「量子数」(固有値)で全てが分類できる.そして,これらの. . . . . .
粒子はそれぞれの励起状態があって,その励起状態が,質籠の二乗を横軸に,. . . . . . . . . . . . .
スピンを縦軸にとると,きれいに直線上に並ぶという特性が見られる .giF<( 2
・・23 〉).これをハドロンの「レッジェ軌跡」とよぶ.この図のようにスピン
(角運動雇)がその粒子の二乗に比例するということは,そのハドロンの構造 について大きなヒントを与えることになる.
( 2 '
) 他方, 6819 年にこれらのハドロンの“散乱過程”の特徴に注目し,ベネ
..
チアノ(イタリア)は1つの「散乱振幅」を提唱した.「散乱振幅」とは,粒 子同志の散乱を,その衝突エネルギーと,衝突過程で. . . . 1. つの粒子から他の粒子.
に移る運動鼠の関数として表わしたもので,それによると,どの“散乱過程"
........
がどのような“確率”で起こるかがわかることになる.. . . . . . . . . .
これは当時明らかにされつつあったハドロン同志の散乱の特徴をうまくとら
......
えていると同時に,その“散乱振幅"の構造を眺めてみると,散乱に関与する
...
粒子は無限に存在して,それらの粒子の質鼠の二乗とスピンとの関係が直線上. . . . . . . . . .
に並んでいることが判明した(レッジェ軌跡).
( 3
) このような特性を持つ物理的な実体は「ひも」であることに気付いて,
その力学模型が7019 年に南部陽一郎氏によって,また1971 年に後藤鉄男氏によ って提唱された.この様子を“次元解析”で確かめてみることにする.
ハドロンはn次元上に広がった一様な物質で出来ているとする. n=l なら 一次元のひも状に伸ぴた物体, n=2 なら二次元に広がった面, n=3 なら三次 元の立体と考える. n 次元の物体(ポソン,フェルミオンの別なく)の弾性定 数Xn は,単位体積 (n=l なら単位長さ, n=2 なら単位面積, n=3 なら単位体 積)だけ引き伸ばすのに必要なエネルギーで定義されるから, Xn の次元は,
エネルギーの次元がML2T-2 であることから,それを体積Ln で割って
6
6 立正大学経済学季報第95巻2号
因 =ML2T-2 Ln =ML2-nT-2
となる.角運動鼠(スピン])の次元は 1/]=ML 王
である.
( 2
・・2)5
さてそこで, n次元上に広がっている物体が角運動鼠]をもって自転して いるときに,その物体の回転によって生じるエネルギー(すなわち質鼠m)
と]の間の関係式を次元解析で導き出してみると次のようになる(レッジェ 軌跡の導出).
この計算で,相対論の効果をも考慮せねばならないから,光速 c は関係し てくることを考慮する.その関係式はA を無次元の定数, ,a,3/ y を実数と
して,
]=A 点 記Cr
と書けるとする. ・2(・2)5 の結果を用いると,この式の両辺の次元が一致する ためには, a=-1/n, f]=(n+l)/n, y=(n+2)/n 以外にないことがわかる.
(ただし光速 C の次元 ]c[ =LT-1 を使った.)この式は古典論で成り立つ式だ が,最子論の効果を考えるとプランク定数h が関係してき,かつh はそれ自 身角運動鼠の次元を持っているから,一般に]と m の間の関係式は
J =Anm<n+1>1n+ Bn ・2(・2)6 となる.ただし, B は無次元の定数, An は定数A を改めてAn=n/)2+n(cnlI-xA と慨き換えたものである.
( 2
・・2)6 式において n=l とすると,スピン]と質鼠m 叱 の 間 は1次式の 関係でなくてはならないことになる.すなわち物体が「ひも」 (n=l) とする と「レッジェ軌跡」と一致する.ハドロンは,ポース粒子であろうとフェルミ 粒子であろうと,ひも状に伸びていて, しかも,スピンが大きい励起状態では
それが速く回転しているのだと結論せざるを得ない.
<
F i g
. 2•2•4> ハドロンの構造
t , - - - - - - -
J
ニ
( a
) )(b
中間子族 重粒子(バリオン)族
・クオークは“ひも”状のグルーオンの束で結ぴつけられている. )
(" q: クオーク q: 反クオーク
このように,ハドロンがひも状の物体であることは,現在では,クオークが グルオンというゲージ粒子で構成されるひもで結ぴ付けられて出来たものと解 釈されている3( .giF<( 2•2·4>). . . .
'
) ところが,南部・後藤のひもはスピンが整数値をとる“ポース粒子"だ けを作り出す「ひも」であった.これだと,スピンの値が半奇数値をとる“フ.. ....
ェルミ粒子”が除外されてしまう.そこで,‘‘ポース粒子”と“フェルミ粒子”を共に生み出す「ひも」の理論. . . . . .
が1971 年に,フランスの.P ラモンと A. ヌヴォおよぴ,アメリカのシュワル ツによって作られた.これは「超ひも」とよばれているひもを対象とした理論 で,「超」というのは,“ポース粒子”(スピンが整数値をとる粒子)と“フェ ルミ粒子”(スピンが半奇数値をとる粒子)とが,“超対称性”の関係にあるこ
とを指す.
2•1•3 超ひもの特性)1( (
1
)元"に関して特殊な制約が必要とされる.すなわち,時空間の次元ところで,南部・後藤の「ひも」でも,「超ひも」でも,時空間の“次.. Dが,南 部・後藤の「ひも」では. . . . . D=26. ,. 「超ひも」ではD=lO でなければ“相対性理 論",すなわち光速不変の原理を満たさないのである.
われわれの時空間は,時間が1次元と空間が3次元で合計4次元である. し
6
8 立正大学経済学季報第59巻2号
かし,例えて,残りの016次元時空であっても,何かの原因で次元空間が小さく縮んでいる可能性はあり得るのである.このよ. . . . . . . . . . . . . . . . . . 3次元空間は広く拡がってい
うなことは特に重力が関係してくるとあり得ることである.実際,重力がこの 理論に関与してくることはすぐに確かめられた.
( 2
) 「超ひも」がどのような“スピン状態”を生み出すかを調べてみると
<
F i g
. 2・2・5 〉に示したようになることが分かる.
この図から読み取れる特徴は,
(イ) スピンが整数,およぴ半奇数の両方の状態が生み出される.
(口) 質鼠がゼロの状態の「超ひも」のスピンの大きさは,プランク定数 hを単位にして, 2 , 3,2/ 1,,2/1 0の5種類に限られる.
(ハ) 質鼠がゼロでない「超ひも」の粒子状態は無限個現れる(ただし,
質星がゼロでない粒子状態は,およそプランク質最程度の重い粒子
<
F i g
. 2•2•5> 「超ひも」のレッジェ軌跡
(スピン)J
―――
―――
―――
/ /
―/ ――
―――
―――
―――『一―
2/3-21/l-2
m2
(質量の二乗)
(
.;;翡’能:言,ご贔悶:::, プランク質量程度の値をもつので,実験で)
であり,人工の加速器では生成できないので,質鼠ゼロの粒子だけ が粒子として観測可能である).
( 3
) ( ( ( •北
海道大学)と,それと独立に.Jシュワルツ(アメリカ)およぴ.Jシャーク. . .
(フランス)で,彼等は,それまで「ひも」模型を強い相互作用をするハドロ. . . . . . . . ンの理論に適用してきた方針を転換し,これを重力子(グラヴィトン)やクオ. . . . . . . . . . . . . .
ークなど全ての物質の基本構成要索の理論に適用すべきであると提案した.
2•1•4 超ひもの特性()2
前項において,「超ひも理論」は,重力を含む全ての相互作用を統一する理 論になる可能性に触れた.く.giF 2・2・5 〉から読み取れる 3つの特性について,
さらに詳論しておきたい.
( 1
) まず(イ)の性質は南部・後藤模型がポース粒子のみを生み出すのに対し,
「超ひも」はそれと同時にフェルミ粒子も生み出すのだから,こちらの方が統 ー理論としての資格を持つこと,およぴ,南部・後藤模型はタキオンという虚 数の質屈を持つ粒子をそのスペクトルの中に含むという欠陥を持っている, と いう 2点を付け加えておきたい.(ただし,南部・後藤模型は,理論が簡単で あるという特徴があるために,いろいろな「ひも」の性質を検討する際に,ま ずこの模型で調べてみるという“試薬”としての役割を広く果たしている.)
( 2
) 次に(口)の性質であるが,実はこれが決定的な特性である.前節におい て,索粒子論は標準理論とよばれる枠内できれいにまとめることができること,
およぴそこに現れる甚本粒子は,未采丘,全て質最がゼロの粒子で構成されて おり,それらの一部が,ヒッグス粒子により質最を与えられていることを述べ た.すなわち,光子,グルオン, W,土ozなどは全てスピンが1で質鯖がゼロ
のゲージ粒子の本来の姿であり,またレプトン(電子など)やクオークなどの 粒子はスピン2/1 で質贔ゼロのフェルミ粒子が本来の姿である.さらに,ヒッ グス粒子はスピンがゼロである.これらは全て(口)の結論に含まれている.
( ...
2 '
) 一方,“重力”は重力子(グラヴィトン)を物体間に交換して生ずるカ だが,その重力子はスピンが2で質贔ゼロの粒子である.従ってこれも(口)に
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0 立正大学経済学季報第95 巻2号
. . . . . . . . .
含まれる.(ただし,前述のように,現実に観測される粒子は,光子,グラヴ ィトンを除いて小さな質批を持って現れる.(ニュートリノも質鼠ゼロと考え られていたが,カミオカンデ(岐阜県神岡町の実験施設)で,先年小柴昌俊氏. . . . .
の後継者の戸塚洋二氏(故人)によって質鼠を持つことが発見され,そのこと. . . .
によって,“ニュートリノ振動”という,. . . . . . . . . . . 3 つのニュートリノ間の交換現象の. . .
可能性が出てき,標準理論が書き換えられる必要が生じてきた.戸塚氏は,ノ ーベル賞確実といわれ乍ら,最近逝去された.)
( 2
"
) 残るのはスピンが23/ の粒子だが,「超対称性」を持つ理論では,スピン 2の粒子が存在するとそれに伴なって必ずスピン23/ の粒子(グラヴィトンの 反粒子グラヴィティーノ)が存在しなければならない.. . . . . もしグラヴィティーノ.
の存在が実験で確認されれば,「超ひも」は,重力相互作用も標準理論も,“全 てを含んだ統一理論”である可能性が非常に強くなる.. . . . . . . . .
( 3
) 次に(ハ)の性質によって現れる粒子の質鼠はどの程度の大きさかという 問題である.「超ひも理論」が重力相互作用も含む究極の理論なら,この理論 に現れる基本定数は,.giF< ・22・2 〉の基本定数によって定まっていると考え られる.そこで定まる質鼠の次元を持つ定数は,既述した“プランク質黛”以 外にはない.従ってこの「超ひも理論」に現れる質雇がゼロでない最も軽い粒 子は,やはりプランク質鼠程度の値を持っていることになる.われわれが現在 の実験で検出可能な質雇の上限が200GeV 程度であることを考えると,これら の重い粒子は現在見つかっていなくても不息議ではない.この200GeV t( ク オークの質最にあたる)は,“プランク質量”に比べるとその111-01 音の小ささ
.......
であるから,われわれの知っている粒子は全て事実上質聾ゼロと考えてさしつ かえない.
( 4
) 最後の問題は,前述した時空間の“次元" ("臨界次元”という)である.
.....
われわれの時空は4次元だから,残りの6次元空間は縮んでいて現在の観測手 段では検出不能なほど小さくなければならない.どれだけ小さいかというと,
<
F i g
. 2・2・2 〉から作り得る長さの次元を持った鼠以外にないので,宇宙半径 を別にすれば,これも“プランク長さ”以外にはない.当分検出不能である.
2•1•5 「超ひも理論」による粒子説の困難の解消
今までに,粒子説に甚づいた現在の標準理論の困難な点をいくつか述べた.
これらの困難が超ひも理論ではどのように解決されるかを述べたい.
( 1
) 理論に含まれるパラメターが多すぎる問題
標準理論では,自由にとれるパラメターが02 近く存在すると述べたが,「超 ひも理論」においてパラメター数は2つしか存在しない.標準理論が重力を除 いて構成されていたのに対し,今度は煎力相互作用も理論に含むのであるから,
より統一された理論になることは間違いない.
「超ひも理論」が含む2つのパラメターの1つは“重力定数”(重力の結合定
数G) である.
ひも理論の枠内では,これはディラトンとよばれる一般に時間によって変化 するスカラー粒子(スピンがゼロ)の漸近的な値(時間を無限大に持っていっ たときの極限値)で決まる (G ←のディラトン:,;,e ののがディラトン).デ
...
ィラトンは非線形方程式の解として定まるので.いくつかの解があり,そこか. . . . . . . . . . . . . .
ら1つを選ぴ出すという自由度が残っているのである.
もう 1つのパラメターは“ひものバネ定数 x" で,これはプランクエネルギ ーの大きさの最になる.
この2つを選ぶと,理論上は,電磁相互作用の結合定数(電荷)や,その他 の相互作用の結合定数は自動的に決定されるはずである.
( 2
) 発散の困難の解消
「ひも」の理論では.標準理論のときに現われた“発散の困難”は解消され る.
粒子の自己エネルギーの発散を例にとり,ひもの理論での本質的な違いを説 明したい.
まず, 1つの粒子がある時刻にもう 1つの粒子を放出して, しばらくした後 その放出した粒子を吸収する過程を考える.これは,粒子説のときの“不確定 性原理"が許す範囲内で起こる.すなわち
LltLIE~tz/2~tz ・2(・2)7