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外貨換算会計に関する アーサー・アンダーセンの見解(1)

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(1)

外貨換算会計に関する

アーサー・アンダーセンの見解(1)

嶺輝子

I はじめに

1975年に FASB から基準書第8号が公表 される以前においては,外貨建取引および外 貨表示財務諸表の換算について,多様な見解 および実務が存在していた。外貨建取引に伴 なう債権・債務の換算および決済によって生 ずる換算差額や為替差額の処理については,

1取引観(1取引基準)と2取引観(2取引 基準)という二つの見地があった。外貨表示 財務諸表の換算については,すべての在外事 業単位の財務諸表を親会社の通貨の見地から 換算すべきであるとする説,すべての在外事 業単位の財務諸表をそれぞれ当該現地通貨の 見地から換算すべきであるとする説,および,

各在外事業単位の状況に応じて,その財務諸 表を親会社の通貨の見地かまたは現地通貨の 見地から換算すべきであるとする説,の三つ の考えがあった。本論文において以下で検討 する,ビ、リグ・エイトの一つであるアーサー

・アンダーセソ会計事務所の見解は,外貨建 取引の会計処理については1取引観を,そし て,財務諸表の換算については親会社の通貨 の見地からの換算(本国主義)を,支持する 代表的な見解である。

このアーサー・アンダーセソの見解は,外 貨建取引および財務諸表の換算に関する会計 をめぐって論議のある,または論議すべき点 として、FASB が討議資料『外貨換算会計

に関する問題点の分析』で列挙した26項目(l)

に対する回答において,最も良く示されてい る。そこで,以下,『討議資料』の26項目に 及ぶ問題点に対する回答を中心に,基準書第 8号草案並びに基準書第52号草案および同改 訂草案に対するコメントを検討することによ って,アーサー・アンダーセソの見解を明ら かにする。このことによって,多くの多国籍 企業をクライアントとし,それら企業の会計 実務に助言・勧告をしている国際的会計事務

● ● ● ● ● ●

所の立場からの一方の考え方がみえてくると 期待される。(同じくビッグ・エイトの一つ であり,国際的会計事務所であるアーサー・

ヤングは,2取引観を,そして現地通貨の見 地からの換算=現地主義を支持する見解を表 明している。これについては,別の機会に検 討することにする。)

Ⅲ 『討議資料』に対する回答

『討議資料』に対するアーサー・アンダー センの回答は,外貨換算会計に関する全体的 なものと,個別的問題点に対するものとから 成っている。

l 全体的見解

アーサー・アンダーセソは,財務諸表の目

(1)FASBl,Discussion Memorandum:An Analysis ofIssues Related to Accounting for

ForeignCurrencyTranslation,February1974・

(2)

的について合意が得られるまで,外貨換算会 計に関する諸問題は,健全な基礎に基づいて 解決することが望めないとしている。という のは,討議資料で示されている諸見解は,財 務諸表の目的についての異なった認識から派 生する異なった観点から,外貨換算会計の問 題点にアプローチしていることを窺わせるか らである。同様に,討議資料に列挙された問 題点に対して回答を寄せる人々も,財務諸表 の目的に関するさまざまな見解に基づいて自 らの結論を下すように思われるとして,まず,

自ら考えるところの財務諸表の目的を明らか にしている。そして,外貨建取引から生ず る債権・債務の換算,および外貨表示財務諸 表の換算についての基本的見解を表明してい

(1)  財務諸表の目凶3) 

アーサー・アンダーセンは,財務諸表を,

企業がその経済資源とその変化についての情 報を伝達する主要な手段として位置づけ,r 務諸表の基本目的は,企業の経済資源の種類 および価値,当該経済資源に対する債権者お よび所有主の持分,それに,それぞれの期間 のそれら経済資源の種類および価値の変化,

に関する情報を伝達することである」と規定 する。財務諸表の基本目的についてのかかる 見解は,経済資源の原価がその価値の合理的 な指標を提供する限りにおいて,当該経済資 源についての有用な情報となるということ,

また,期間利益は,二時点聞における経済資 源の価値の変化を基礎として測定されること を意味する。

(2)  FASB2PublicRecord‑1974Vol.  ¥iPart 1: 

Discussion  Memorandum ‑Foreign  Currency  Translation, p. 536. 

(3)  Ibid., pp. 536‑537. 

(2)  外貨建取引から生ずる債権・債務 の 換 算

外貨残高(手許外貨)および外貨建債権・

債務は,貸借対照表日現在の為替レート(以 下,決算日レートと呼ぶ)で換算されなけれ ばならない。決算日レートでの換算は,外貨 建資産を貸借対照表日現在での実現可能価値 で,外貨建負債を貸借対照表日現在での支払 うべき金額で,表示する結果になる。外貨建 購入取引の場合,それによって生ずる支払勘 定が決済されるまで,その取引は未完了であ ると考える。したがって,実際のドル表示原 価は決済が完了するまで確定しないことにな り,為替レートの変動によって生ずる当該支 払勘定に係るドル表示額の変動(為替差額) は,購入資産の原価の修正として処理される べきである。このアーサー・アンダーセンの 見解は,正しく,外貨建購入取引とそれに伴 なう為替決済取引とは一体の取引であると考 える1取引観に基づく考え方である。これに 対して,外貨建借入ローンの場合には,通常 特定の購入取引に直接関連させることはでき ないので,当該ローンに係る為替差額は,そ の発生した期に,利得または損失として損益 計算に算入すべきであると述べている。

(3) 連結目的での在外事業単位の時価 (現在価値)主義財務諸表の換算 在外事業単位の現地通貨表示貸借対照表が 現在価値基準によって表示されている場合,

連結目的のためには,当該貸借対照表勘定は すべて決算日レートで換算されなければなら ない。決算日レートを資産の現地通貨表示現 在価値に適用することは,当該資産をドルに よる現在価値で表示する結果になるだろう。

同様に,負債についても,決算日レートで換 (4)  Ibid., p. 537. 

(5)  Ibid., pp. 537538. 

(3)

算することは,負債をドルによる現在価値で 表示する結果になるだろう。

また,現地通貨表示損益計算書のすべての 項目は,期中平均レートで換算されなければ ならない。各月の取引にその月毎の為替レー トを適用することは,期中平均レートでの換 算への好ましいアプローチであり,特に,当 該企業の事業が季節的なものであったり,期 中で為替レートに大きな変動が生じた場合に は,月次平均レートの適用は,唯一の望まし いものであるといえるかもしれない。

親会社の通貨と子会社の現地通貨との聞の 為替レートが変動した場合,子会社の現地通 貨表示財務諸表の換算によって換算差損益が 発生するが,かかる換算差損益は,その財務 諸表が換算される子会社ではなく,むしろ親 会社に発生するのである。しかしながら,換 算差損益は,子会社の財務諸表に表示されて いる金額に基づいて算定されるため,便宜上,

子会社の換算後財務諸表に計上されているに すぎない。この発生した換算差損益は,その 期の損益として報告されなければならない。

(4) 連結目的での在外事業単位の取得 原価主義財務諸表の換算

在外事業単位の財務諸表が取得原価基準に よって表示されている場合,連結目的のため には,財務諸表の基本目的(当該企業の経済 資源の現在価値およびその変化を報告すると 、ぅ,アーサー・アンダーセンの考える基本 目的)と,できるだけ合致するように換算す べきであるという観点からすれば,すべての 貨幣資産および負債は,決算日レートで換算 されなければならない。非貨幣資産の場合に は,その原価は現在価値とかなり隔たりがあ るので,非貨幣資産およびそれに係る評価勘 定や費用勘定の換算に決算日レートを適用す

(6)  Ibid., pp. 538540. 

ると,誤った結果を招くかもしれない。例え 1967年末に,ブラジルにおいて, 1000 

ドル相当のクロイゼル建原価で非貨幣資産を 取得したが,その資産を1973年末の為替レー トで換算すれば,たとえ当該資産に取得以来 全く減価が起こっていなくても,その金額は 436ドルになってしまう。何故,そういうこ とになるのか。それは,価格水準が変動して もクロイゼル表示原価を修正しなかった結 果,当該原価が経済的現実から相当かけ離れ たものになったからである。取得原価主義会 計のこういった欠陥は,換算過程においては 矯正できないのである。

取得原価で繰越される非貨幣資産に決算日 レートを適用することによって生ずる「差益」

(gains)の会計処理については,種々の例 外的取扱いがなされる。固定資産の保有利得 を当該資産の売却時まで,会計上,認識する ことを認めていない現時点では,非貨幣資産 に決算日レートを適用することによって生ず る当該資産の報告金額の増加額は,保有利得 に類似したものであるから,そのような一種 の保有利得を換算差益として損益計算書上で 報告することには,有用性の点で疑問がある といえる。先に示した財務諸表の基本目的か らすれば,非貨幣資産の価値増加額は,その 発生した期の保有利得として報告されるべき である。しかしながら,かかる基本目的によ って作成される財務諸表は,現実の経済利益 ではなく,むしろ一般物価水準の変動を反映 したものにすぎない正味経済資源の価値増加 を報告利益から除外するために,資本維持準 備金を報告するだろうo

そして,アーサー・アンダーセンは,取得 原価主義会計の下で,連結財務諸表の作成の ために最も役立つと確信する在外子会社の財 務諸表換算の一般的アプローチは,次のよう なものであるという。

(4)

①  取得原価基準によって表示されている 資産は,その取得された日の為替レート (以下,取引日レートと呼ぶ)で換算す る。ただし,在外事業との企業結合がパー チェス法で会計処理されている場合に は,親会社が在外子会社に対して投資し 持分を取得する以前に,当該親会社によ って取得されていた資産は,親会社が投 資し,持分を取得した日の為替レートを 適用して換算する。取引日レートで換算 した資産のドル表示額が,当該資産のド ルでの実現可能価値以下であることが明 らかな場合には,その換算後のドル表示 額は,減じられなければならない。

②  低価法で評価されている棚卸資産以外 の資産は, (a)その現地通貨表示原価に 取引日レートを適用することによって得 られる換算後原価と, (b)その現地通貨 表示市場価格に決算日レートを適用する ことによって得られる換算後市場価格,

のいずれか低い方の金額を換算額とす る。棚卸資産の場合には,原価で繰越さ れるものの,その原価が現在価値に近似

していることが多い。したがって,先に 示した財務諸表の基本目的にできるだけ 合致するようにするためには,棚卸資産 の現地通貨表示原価を決算日レートで換 算すべきである。ただし,現地通貨での 原価と現在価値との間に重要な差異があ る棚卸資産については,取引日レートで 換算する。

①  貨幣資産は,決算日レートで換算する。

①  負債は,決算日レートで換算する。

①  換算差損益は,為替レートが変動した 期の損益として報告する(通常,換算差 損益は,便宜上,子会社の換算後財務諸 表に計上される)。

⑤  繰延収益,減価償却費および非貨幣貸

借対照表項目の償却から生ずるその他の 費用項目は,それらに関連する繰延収益 または資産が貸借対照表に計上されてい たとすれば適用されるだろう為替レート で,換算する。

⑦  損益計算書に含まれるその他の諸勘定 は,適当な期中平均レートで換算する。

個別的問題点に対する見解

問 題 点 外 貨 建 て に よ る 購 入 ま た は 販売に基づく外貨リスクから 生ずる為替差額は1."、かなる 性質のものか。

外貨建売買取引に基づく外貨リスク(為替 リスクともいう)から生ずる為替差額の性質 については, (1)利得または損失であるとい う見解と, (2)輸入した資産の原価の修正ま たは輸出収益の修正であるとL、ぅ見解,の二 つがある。前者は2取引観の見地に,後者は 1取引観の見地に,基づいた見解である。

この問題点に対するアーサー・アンダーセン の見解については,すでに別稿で検討したの で,ここでは,単に,アーサー・アンダー セ ン が 取 引 観 に 基 づ き , 為 替 差 額 を 原 価 の修正(外貨建購入取引の場合)または売上 収益の修正(外貨建販売取引の場合)と解し ていると指摘するにとどめる。

問題点2:外貨建ての貸付ローンまた は借入ローンに基づく外貨リ スクから生ずる為替差額は,

いかなる性質のものか。

外貨建金融取引に基づく外貨リスクから生 ずる為替差額の性質については, (1)利得ま たは損失とみなす見解, (2)借入資金で購入 した資産の原価の修正とみなす見解,および

(7)  FASB 1, Op. cit., p.2  (para.6). 

(8)  拙稿1I外貨建取引の換算に関する問題点(I)J 経営と経済 69l (19896) 83~84頁。

(5)

(3)借入コスト(支払利息)または貸付報酬 (受取利息)の修正とみなす見解,の三つが ある。この問題点に対するアーサー・アン ダーセンの見解については,すでに別稿で検 討したので,ここでは,単に,アーサー・

アンダーセンが,外貨建借入ローン取引と特 定の資産の取得取引とを関連づけることの不 可 能 性 を 理 由 に 取 引 観 を 断 念 し 2取引 観に基づき,為替差額を利得または損失と解

していると指摘するにとどめる。

問題点3 :為替差額は,いつ記録され るべきか。

外貨建売買取引や外貨建金融取引に基づく 外貨リスクから生ずる,為替差額の認識時期 をめぐっては, (1)外貨建債権または債務の 決済時に認識するという見解, (2)為替レー トの変動時に認識するという見解,および (3)これまで換算に適用していた為替レート が一定比率以上に変動した時に認識するとい う見解,の三つがある。この問題点に対し て,アーサー・アンダーセンは,通常,為替 差額を生ぜしめる為替レートが変動した時に 為替差額を記録すべきであると主張する(こ の場合,問題になるのは,貸方為替差額も借 方為替差額と同じように会計処理すべきかど うかということであるが,アーサー・アン ダーセンは,両者とも為替レートが変動した 時に認識することを主張する) 。しかし,

次のような場合には,例外として,為替差額 を繰延処理するのが適切であるという。すな わち,

「ある一部の国では,その通貨の価値が過

去,他の国の通貨の価値の変動と連動して,

または変動後間もないうちに,変動する傾向 にあった。このような関係は,通常,それら の国々が相互に重要な貿易相手国である場合 に限ってみられる。(1)為替差額を生ぜしめ る受取勘定または支払勘定の通貨建てである 現地通貨もしくは外貨のいずれかの平価切下 げまたは切上げによって,未実現為替差額が 生じ, (2)二つの通貨の聞に,過去に上で述 べたような関係があり,かっ, (3)貸借対照 表日に予期されていた相手方の通貨の平価切 下げまたは切上げが,財務諸表の公表前に起

こったー…・場合」 である。

要するに,上記のような場合には,当期に おける一方の通貨の平価切下げまたは切上げ によって,もう一方の通貨の平価も切上げま たは切下げが行われることが,貸借対照表日 にすでに判明していた(そして,そのことが,

財務諸表の公表前に事実となって起こった) のであるから,当期において起こった為替 レートの変動によって生じた為替差額の認識 を繰延べるのが適切であるということであ る。そして,このような為替差額の繰延処理 は,あくまでも公式の平価切下げまたは切上 げによって生ずる場合に限られ,通常の上下 変動をしている通貨の変動の場合には,その 変動した時に為替差額を認識すべきであると いうのが,アーサー・アンダーセンの見解で ある。

問題点4 :親会社の財務諸表に含めら れるとき,在外事業単位の財 務諸表にとって適切な測定単 位は何か。

(9)  FASB 1, Op. cit., p. 9 (para.29).  連結目的において在外事業単位の財務諸表 制 拙 稿2i外貨建取引の換算に関する問題点(2)J を,いかなる測定単位の見地から換算するか

経 営 と 経 済 的 巻2 (19899) 204 については, (1)親会社の報告通貨(本国主 FASB1op. cit., p.16 (para.37).  ) (2)在外事業単位の現地通貨(現地主義), 

(I~(I3) FASB2, op. cit., p. 542.  および(3)一部の在外事業単位にとっては親

(6)

会社の報告通貨,他のそれにとっては現地通 貨,という三つの見解がある{ぺ(1)の見解は,

在外事業単位の財務諸表の測定単位を現地通 貨から報告通貨に変更する方法で換算するこ と(つまり,報告通貨によって再測定したの と同じ結果になるように換算すること)を,

(2)の見解は,現地通貨を測定単位として維 持する方法で換算すること(つまり,現地通 貨での測定結果である財務諸表上の相互関連 性をそのまま維持し,単に表示単位のみを報 告通貨に変更するような方法で換算するこ と)を,要求する。 (3)の見解は,各在外事 業単位の状況に応じて,それぞれ(1)と(2) いずれかを選択するというものである。

この問題点に対して,アーサー・アンダー センは,本来,あたかも連結企業グループが 一つ以上の支庖または部門を持った単一の会 社であるかのように,親会社とその子会社の 財政状態,経営成績および財政状態の変動を 表示するのが連結財務諸表の目的である,と いう一般に支持されている見解に賛成し,か かる目的からすれば,連結財務諸表では,連 結企業グループの資産および負債は,それが どの場所に存在するかに関係なく,すべて同 ーの会計基準に基づいて報告されるべきであ り,また,連結財務諸表は,単一の見地ーー 親会社の見地ーから作成されるべきである と主張する。そして,親会社の報告通貨は,

親会社の連結財務諸表に含められる在外子会 社の財務諸表にとって適切な測定単位であ り,この測定単位は,親会社の見地から在外 子会社の財務諸表を再測定・表示する結果に なる。もしも,現地通貨を測定単位として用 いると,連結財務諸表に複数の見地を混在さ せることになり,連結企業グループがあたか も単一の企業実体であるかのように連結財務

(

14)  FASB 1, op. ci .tp. 23  (para.l). 

諸表を作成すべきであるという基礎概念に反 することになるというのが,アーサー・アン ダーセンの見解である。

現地通貨を測定単位として用いる(現地主 義の)論拠のーっとして,在外子会社の独立 性(または自立性)ということが主張される ことがあるが,この点について,アーサー・

アンダーセンは,次のように述べている。多 国籍企業の各事業単位は,親会社から独立し て事業を行ってはし、ない。むしろ,各事業単 位は,親会社によってコントロールされてい るといえる。もし,事業単位が親会社によっ てコントロールされていないというのであれ ば,かかる事業単位は,連結の範囲から除外 されるべきである。近年,多くの多国籍企業 は,その子会社の財務活動に関して集中管理 体制を確立している。かかる財務の集中管理 体制を採用する目的は,為替差損を生むエク スポージャー,為替管理が多国籍企業内の事 業単位聞のカネおよびモノの移転に及ぼす有 害な影響,通貨の転換コストおよび借入コス ト,を最少限にすること,それに,多国籍企 業内の各事業単位に対して適正な運転資本を 保証することである。こういった目的で多国 籍企業が財務の集中管理体制の採用へと進む 傾向は,さまざまな機関によって開催される 多数の国際通貨管理セミナーや,この主題を 取扱っている多数の書物によって証明されて いる。この財務の集中管理強化の傾向は,明 らかに,在外子会社が親会社から独立的に事 業を営んでいるとする主張に反するものであ る。

上記のアーサー・アンダーセンの主張は,

重要な事実を指摘している。アメリカ系多国 籍企業のなかには,集中管理を強化する方向

(15)  FASB2, op. ci .tp. 543.  (16)  FASB2, op. ci .tp. 544. 

(7)

に進んでいるものもあれば,在外子会社の自 主性に委ねようとしているものもある。在外 子会社(生産および販売子会社)の数が1

2社で,親会社の事業への影響度が低い場合 には,各在外子会社に事業を自由に営ませて も親会社にとって影響が少ないので,ことさ ら人手や金をかけて積極的に在外子会社を管 理する体制を整える必要もなかった。したが って,親会社の財務部門が,資本の面で在外 子会社をコントロールする傾向にあった。と ころが,在外子会社の数が増大し,世界各地 に生産拠点や販売拠点が設置され,親会社の 事業に重要な影響を与えるようになった場 合,在外子会社の自主性に任せることはでき なくなり,統合された世界的戦略に基づいて,

資本のみならず,人材,物,技術,情報など の経営資源の最適配分を図るためには,戦略 的な意思決定の権限を親会社に集中した一元 的コントロールが必要となるのである(もち ろん,日常的な意思決定の権限は,各子会社 に委ねられる)。また,同一多国籍企業内で も,親会社が集中管理を行っている在外子会 社(例えば,戦略的に重要な子会社,または 発展途上国にある子会社)と,自主性に委ね られている在外子会社が混在することもあ る。したがって,もし,現地主義支持者達の ように在外子会社の独立性を根拠にするので あれば,結局,多国籍企業は,本国主義を採 用することになるものと現地主義を採用する ことになるものとに二分されることになり,

さらに,同一多国籍企業内で本国主義が適切 な在外子会社と現地主義が適切なそれとが混 在するということにもなる。このように,在 外子会社の独立性を現地主義の根拠とする主 張は,多国籍企業の在外子会社に対するコン トロールが一様でない状況からして,最終的 には,先に示した三つの見解のうちの三番目 の「一部の在外事業単位にとっては親会社の

報告通貨,他のそれにとっては現地通貨」が,

測定単位として適切であるとする見解に帰着 することになるように思われる。

現地主義支持のもう一つの論拠として,外 貨リスクにさらされているのは,在外事業単 位の個々の資産および負債の一部ではなく,

すべてであり,すべての資産および負債の価 値が為替レートの変動によって増減する,と いうことが主張されている。この点について,

アーサー・アンダーセンは,次のように述べ ている。為替レートの変動によって資産およ び負債の価値も変化するというのは,本当で ある。資産の価値は,現地での個別物価の変 動によっても変化する。ある資産が,現地通 貨表示財務諸表において取得原価基準で評価 されており,現地で起こった価値の変化を無 視されている場合に,為替レートの変動から 生ずる価値の変化のみを認識しようとして も,それは不完全なものに終わってしまう。

財務諸表の基本目的が経済資源の現在価値お よびその変化の報告であるということに合意 がみられない限り,資産および負債の現在価 値測定は達成されない。したがって,取得原 価主義会計の枠内にとどまっている限り,資 産および負債の価値の変化を生ぜしめる一部 の要因のみを認識し他の要因を無視する結 果になるような現地主義換算手続は,採用さ れるべきではない。

問題点5:在外事業単位の現地通貨と 親会社の報告通貨との聞の為 替レートが変動した場合,在 外事業単位の資産および負債 のうちのどれが修正されるべ

きか。

在外事業単位の資産および負債のうち,為 替レートの変動によって,その報告通貨表示 額を修正しなければならないものの範囲につ いては, (1)すべての在外事業単位のすべて

(8)

の資産および負債, (2)一部の在外事業単位 のすべての資産および負債, (3)すべての在 外事業単位の一部の資産および負債,そして (4)一部の在外事業単位の一部の資産および 負債,という回答が考えられる。在外事業 単位の取得原価主義財務諸表を,連結目的の ために,財務諸表の基本目的にできるだけ合 致する方法で換算するという見地からすれ ば,すべての貨幣資産および負債が決算日 レートで,そして,非貨幣資産およびそれに 係る評価勘定や費用勘定が取引日レートで換 算されるべきであるというのが,この問題点 に対するアーサー・アンダーセンの考えであ る。つまり,すべての在外事業単位の貨幣 資産および負債が,為替レートの変動によっ て修正されるべきであるというのである。何 故,そうなのかについては,先の全体的見解 (4)で,すでに検討した。

問題点6 棚卸資産は,いかなるレー トで換算されるべきか。

棚卸資産を取引日レートで換算するか決算 日レートで換算するかの決定に,当該棚卸資 産が現地で調達されたものかそれとも輸入さ れたものか,あるいは棚卸資産の売価を為替 レートの変動に応じて変更することができる か否か, というような棚卸資産の事情が影響 を与えるかどうかということが,問題にな る。取得原価主義財務諸表での棚卸資産の 換算に適用されるべき為替レートについての アーサー・アンダーセンの見解は,先の全体 的見解の(4)で,すでに一部触れたように,

棚卸資産の原価が現在価値に近似している場 合には決算日レートが,現在価値とかなり掛 け離れている場合には取引日レートが,適切

FASB1, Op. ci .tp.  31  (para.3).  (18)  F ASB 2, Op. cit., p.  545. 

(19)  FASB 1, Op. cit., pp. 32‑39 (paras.5 ‑25). 

であるというものである。棚卸資産の原価が,

取引日レートで換算される場合には,その換 算後の報告通貨表示原価と時価(現地通貨表 示市場価格に決算日レートを適用することに よって決定された報告通貨表示市場価格)と を比較しいずれか低い方の金額で表示しな ければならない。

問題点7:固定資産は,いかなるレー トで換算されるべきか。

固定資産の換算については, (1)取引日レー トを適用すべきであるとする説, (2)決算日 レートを適用すべきであるとする説, (3) る一定の条件の下では取引日レートを,他の 条件の下では(または原則として)決算日レー トを適用すべきであるとする説,および(4) (3)の逆の説,がある

( 2 :

この問題点に対する

アーサー・アンダーセンの見解は,次のよう である。

固定資産のような長期非貨幣資産の原価が 現在価値に近似するということは,特に,今 日のような世界的なインフレ環境において は,まず考えられないことである。今日の会 計原則では,非貨幣資産に係る保有利得は,

当該資産が売却されるまで認識されない。取 得原価で繰越される非貨幣資産に決算日レー トを適用することによって生ずる換算差益 は,保有利得に類似したものであるから,そ れを損益計算書で利得として報告することに は,有用性の点で疑問がある。したがって,

取得原価主義会計では,在外子会社によって 所有されている固定資産は,親会社が当該資 産に対する持分を取得した時の為替レートで 換算されるべきである。それは子会社が当該 資産を取得した時の為替レートであるが,企

0) FASB 2, Op. cit., p.  545. 

1) FASB 1, Op. cit., pp. 48‑55 (paras.3354). 

~Z) FASB2, op. cit., pp. 546‑547. 

(9)

業結合がパーチェス法で会計処理されている 場合には,親会社による在外子会社の買収以 前に当該子会社が所有していた資産について は,買収日の為替レートで換算される。とい うのは,親会社が報告通貨で支払った買収金 額は,子会社のさまざまな分離可能な資源お よび財産権の公正価値を基準にして,それら 資産に配分されるから,それら資産は,その 配分された金額になるように換算されなけれ ばならないからである(なお,アーサー・ア ンダーセンは特に触れてはいないが,企業結 合が,もう一方の会計処理法である持分プー リング法によって処理されている場合には,

在外子会社の所有していた資産は,その子会 社が取得した時の為替レート=取引日レート で換算される)。かかる場合において,公正 価値で示された資産価値の一部が, (例えば 減価償却費として)税務上控除できない場合 には,税効果上,引当金を設ければよい。

固定資産およびその他の非貨幣資産の,換 算後財務諸表での報告金額は,それら資産の 報告通貨による実現可能価値を超えてはなら ない。例えば,現地通貨の平価切下げ後にお いては,在外子会社は,その固定資産および その他の資産の報告通貨表示原価を回収する だけ,生産物の現地売価を値上げすることが できないかもしれない。そういった場合には,

見込まれる回収不能部分を控除するための評 価勘定が,換算後財務諸表に設けられなけれ ばならない。なお,この場合の報告通貨表示 実現可能価値は,在外子会社によって将来支 払われる法人所得税を考慮に入れたものでな ければならない。というのは,現地通貨の平 価切下げ(または,親会社の報告通貨の平価 切上げ)によって,子会社が将来,利益を報 告し,法人所得税を支払うようになると期待 されるが,報告通貨表示では,法人所得税控 除前の利益はゼロ(または,ほんのわずか)

になり,法人所得税控除後には,損失を報告 するという事態になるかもしれないからであ る。こうL、った場合には,固定資産が税引後 実現可能価値で表示されるように,換算後財 務諸表に,評価勘定が設けられなければなら ないのである。

上記のように,アーサー‑アンダーセンは,

棚卸資産のみならず固定資産についても,低 価法のテストを要求していることに注意しな ければならない。

問題点8:長期負債は, " 、かなるレー トで換算されるべきか。

長期負債の換算について,長期負債のうち 流動化部分については,決算日レートを適用 する点で合意がみられるが,非流動化部分に ついては,取引日レートを適用すべきである とする説ι決算日レートを適用すべきであ るとする説とが対立している。アーサー・

アンダーセンによれば,長期負債は支払われ るべき金額で表示されるべきであるから,そ のためには,長期負債は,決算日レートで換 算されなければならないという。また,長 期負債に係るプレミアムまたはディスカウン トの換算についても,社債プレミアムは非貨 幣負債であるので取引日レートで,他方,社 債ディスカウントは貨幣項目であるので決算 日レートで換算すべきであるとする説や,未 償還の社債に係る未償却プレミアムおよびデ ィスカウントは,いずれも決算日レートで換 算すべきであるとする説などがあるが,アー サー・アンダーセンは,この点については何

も触れていない。

問題点9 繰延所得税は,いかなる レ ー ト で 換 算 さ れ る べ き

~3) FASB 1, op. cit., pp. 59‑60 (paras.6370). 

~4) FASB2, op. ci .tp.  547. 

~5) FASB 1, op. cit., p.  61  (para.71). 

(10)

AU  

••

繰延所得税は,会計上の損益計算と税務上 の所得計算との間での,収益(益金)および 費用(損金)の認識期間の相違によって生ず る。繰延所得税(借方項目の場合,または貸 方項目の場合)の換算については, (1)取引 日レートを適用すべきであるとする説, (2)  決算日レートを適用すべきであるとする説,

および(3)繰延所得税を生じさせた項目を分 析して,それが貨幣項目であれば決算日レー トを適用し,非貨幣項目であれば取引日レー トを適用すべきであるとする説,がある。

この問題点に対して,アーサー・アンダーセ ンは,次のような見解を述べている。

繰延所得税の換算は,当該繰延所得税を生 じさせる認識期間の相違を発生させる資産ま たは負債と結びつけて考えるのが適切であ る。つまり,次のように,繰延所得税に関連 する資産または負債に適用するのと同ーの

レートで換算すべきである。

①  決算日レートで換算される資産または 負債項目に係る認識期間の相違に帰する 繰延所得税については,決算日レートで 換算する。

②取引日レートで換算される資産または 負債項目に係る認識期間の相違に帰する 繰延所得税については,取引日レートで 換算する。

上記のことは,取引日レートで換算される 固定資産に係る費用項目(減価償却費)を取 引日レートで換算するというのと同じ論理で ある。

問題点10:優先株は,いかなるレート で換算されるべきか。

優先株の換算に関する論争は,優先株の性

6) FASBl, op. cit., pp. 62‑63 (paras.7780). 

FASB2op. cit., p. 547. 

格をいかに解するかに焦点が当てられている ように思われる。この問題点については,

(1)優先株によって投資されたすべての金額 が,その投資日の為替レート(すなわち取引 日レート)で換算されるべきであるとする (2)普通株に類似した優先株の場合には 取引日レートで,また長期負債に類似した優 先株の場合には決算日レートで,換算される べきであるとする説,および(3)優先株の償 還日までは決算日レートで,償還日後も流通 している場合には取引日レートか償還最終日 の為替レートで,換算されるべきであるとす る説,がある 。この問題点については,アー サー・アンダーセンは,次のような見解を述 べている。

優先株については,その経済的実質を最も 良く反映するような方法で換算しなければな らない。すなわち,すべての重要な点で,普 通株に類似した特質を有する優先株は,普通 株と同じく,取引日レートで換算しなければ ならない。また,転換優先株の場合,転換が 行われないという証拠がない限り,普通株の 特質を有していると推定されるべきである。

これに対して,普通株の特質よりも,むしろ 長期負債の特質に近い特質を有する優先株 は,決算日レートで換算しなければならない。

優先株の償還のための減債基金が設けられて いる場合には,当該優先株は,長期負債の特 質を有するものと考えられる。

問題点11:収益および費用勘定は,い かに換算されるべきか。

収益および費用勘定の換算については,

(1)取引アプローチ (A Transaction  Ap‑

proach)(2)決算日レート・アプローチ(A Closing Rate Approach)とがある。前者に

~8) FASB 1, Op. ci .tpp. 63‑64 (paras.8385). 

~9) ASB 2, Op. cit., p. 547. 

(11)

おける換算の目的は,現地通貨表示損益計算 書項目を,現地での個々の取引がその生起し た日にドル(報告通貨)に換算されたとすれ ば得られたであろうドル金額と,実質的に等 しくなるように換算することである。したが って,このアプローチの下では,期中での各 取引を個々に,その生起した時の為替レート で換算する必要がある。しかしながら,期中 において大量の取引が行われる場合には,各 取引を個々に,その時の為替レートで換算す るということは,実務上不可能である。そこ で,損益計算書は期中での各取引の累積的結 果を表わしたものであるから,個々に取引日 レートを適用することに代えて,平均レート の利用が考えられる。平均レートとしては,

期中(年間)平均レート,月間平均レート,

週間平均レートなどが,そして,それぞれに ついて,加重平均と非加重平均とが考えられ る。これに対して,決算日レート・アプロー チにおける換算の目的は,現地通貨表示損益 計算書における項目聞の諸関係を,換算後損 益計算書においても維持するように換算する ことである。このアプローチの下では,すべ ての収益および費用勘定が,決算日における 為替レートで換算されることになる。このア プローチは,すべての資産および負債を決算 日レートで換算する場合に採用され,貸借対 照表と損益計算書の換算に一貫性を保持しよ うとするものである。この問題点に対して,

アーサー・アンダーセンは,次のような見解 を述べている。

収益および費用勘定の換算には,取引アプ ローチが用いられるべきである。したがって,

繰延収益,売上原価,減価償却費および非貨 幣貸借対照表項目の償却から生ずるその他の

0) F ASB , Op. cit., pp. 68 ‑71  (paras. 5 17). 

~1) FASB2, op. cit., pp. 547548. 

費用は,それらに関連する繰延収益または資 産が貸借対照表に計上されていたならば換算 するのに適用される為替レートで,換算され るべきである。その他の(つまり,資産およ び負債に関連のなし、)収益および費用勘定は,

期中の適当な平均レートで換算されるべきで ある。その場合,各月毎の取引を,その月の 平均レートで換算するという方法が望まし く,特に, (1)会社の事業が季節的であった り,または(2)期間中に,現地通貨か親会社 の報告通貨に,重要な平価切下げないし切上 げが起こったような場合には,唯一の適切な 方法であるといえる。

先に検討した連結財務諸表の目的に照ら し,本国主義を支持するアーサー・アンダー センの立場からすれば,収益および費用勘定 の換算に取引アプローチを採用し,取引日

レートまたは適当な平均レートを適用すべき であるという結論に達するのも,当然の論理 の帰結であるといえる。これに対して,現地 主義を支持し,すべての資産および負債を決 算日レートで換算すべきであると主張する人 々の場合には,必ずしも,決算日レート・ア ブローチを採用し,収益および費用勘定の換 算に決算日レートの適用を主張するとは限ら ない,ということに注意すべきである(例え ば,現地主義者であるパーキンソンは,収益 および費用勘定の換算に取引日レートの適用 を主張しているし,また,現地主義の立場 に立つ FASB基準書第52号も,取引日レート または平均レートの適用を規定している)。

~2) R.  MacDonald  Parkinson, Translation  of  Foreign  Currencies, Canadian  Institute  of  Chartered Accountants, 1972, p. 96  (para.l06).  FASB 3, Statement of  Financial Accounting 

Standards No.52 : Foreign Currency Translation,  December 1981, para.12. 

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