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インドの外貨換算会計

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1

インドの外貨換算会計

嶺 輝 子

1 はじめに

 インド企業の海外投資は,1960年代に入ってから開始されたが,プロジェクトの数は,10 を超えず,その所有株式総額は,1400万インド・ルピー(200万ドル未満)という状態であ った。しかし,1970〜78年の間に,インド企業による海外投資(そのほとんどが現物出資)

が急速に増大し,この8年間の海外投資総額は,1億9,200万インド・ルピー(2,400万ドル)

に達した。1979年には,インド政府は,経済成長の鈍化の打破を目指すとともに,インド多 国籍企業の要望を受け,従来の輸入代替戦略から輸出促進戦略に,政策の転換を図り,資本 主義経済と民間企業の活動自由化に向けて歩み出した。このことから,海外投資も爆発的に 増大し,1980年初めには,海外投資総額は,8億インド・ルピー(1億ドル)となった。イ

ンドの海外投資のほとんどが,製造業向けであり,しかも,少数株式所有の合弁事業形態に         ごロ

よるものであった。しかし,近年では,インドでも多国籍企業が増大し,現在では,過半        く ラ数株式所有の在外子会社を有する多国籍企業の数は,30を超えるまでになっている 。また,

投資先は,マレーシア,インドネシア,タイなどの東南アジアが中心であるが,アメリカな       くヨうどの先進国や,アフリカなどにも向けられている。

 一方,外国為替相場体制については,1971年のプレ・トソウッズ体制の終焉とともに,イン ド・ルピーも1975年4月に,イギリス・ポンドから切り離され,主要国際通貨の加重平均を 基にしたバスケット方式に移行した。この移行と海外投資の増大によって,インドでも,会 計上,外貨換算が重要な問題となってきた。インド会社法は,連結財務諸表の作成・・開示を 要求していない。単に,国内子会社および在外子会社の作成した貸借対照表,損益計算書,

取締役会報告書,監査役報告書などを,親会社の年次報告書に添付することを要求している にすぎない(インド会社法第212条)・その準め・複数の国に在外子会社を有する多国籍企業 の場合には,それぞれの現地国の法律や会計原則に準拠し,現地通貨で表示された在外子会

(1)絵所秀紀rS.ラルr第3世界多国籍企業の出現:インドの海外合弁事業』」経済志林50巻3・4号(1983年4

 月),310〜309頁。

(2)Shirin Rathore,℃urrency Translation Practices in Ind圭a −Relevance of an Accounting Standard, The Chartered Accountant, January l 989, p.697.

(3)絵所秀紀「前掲資料」,305頁。

(2)

社の財務諸表が,インド・ルピーに換算されないまま,親会社の年次報告書に添付されるこ          くの

とにもなるのである。このことは,財務諸表の利用者の立場からすれば,有用性に欠ける ものであるが,インド会社法が連結財務諸表の作成・開示を要求していない以上,かかる事 態も起こりうるのである。これに対して,在外支店の外貨表示財務諸表の場合には,本店の 財務諸表と合併されなければならないので,インド・ルピーへの換算が必要となる。

 以上のことから,インドでは,外貨建取引の会計処理のため,および,企業(本店)の財 務諸表に在外支店の外貨表示財務諸表を合併するために,外貨の「転換」(conversion)や「換

        く ラ       くの

算」(translation)が,問題になってきたのである。この実務的要請を満たすために,イ ンド勅許会計士協会は,外貨換算会計の指針として,1976年に,「外貨換算会計に関するス

       く ラ

ティトメソト」 を公表した。このステイトメントは,宗主国であるイギリスの標準会計実        務書第20号「外貨換算」(1983年) や,国際会計基準第21号「外国為替・レート変動の影響        く う

の会計処理」(1983年) よりも早い時期に公表されたものであり,流動・非流動法を勧告 している。この流動・非流動法は,アメリカやイギリスなどにおいては,理論的に問題があ るとして批判されてきた伝統的な古い換算方法であり,特に,今日のように,変動相場制に よって大幅かつ頻繁に通貨が変動する場合には,不適切であると考えられている。こういつ たことと,国際会計基準第21号の公表とにかんがみ,新しい外貨換算会計の指針となるべき 会計基準の制定が要望されていた。それに応えて,今回(1989年),インド勅許会計士協会 から,会計基準第11号として,国際会計基準と同一の名称の「外国為替レート変動の影響の

     く の

会計処理」 が公表されたのである。

 そこで,本論文では,1976年公表の「外貨換算会計に関するステイトメント」を指針とし

(4)Shirin Rathore, op. cit.,p.702.事実, The Bombay Burmah Trading Co.は,198112年度の年次報告書に,8つ

 の子会社の財務諸表を添付しており,そのうちの一組の財務諸表はインドネシア・ルピーで,また,別の一組は  ホンコン・ドルで表示されていたし,さらに,二組の財務諸表はマレーシア・ドルで表示されていた(Claire

 Marston, Financial Reporting in India, Croom Helm Ltd.,1986, p.46)。

(5)ここでいう「転換」は,ある通貨を別の通貨に物理的に交換することを意味する。これに対して,「換算」は,

 ある貨幣表示単位を別の貨幣表示単位に変更すること,すなわち,ある貨幣表示の金額を別の貨幣表示による等

 価額に再表示することを意味する。

(6)今日では,国際会計基準をはじめ,イギリスやアメリカなどの外貨換算会計基準は,在外支店と在外子会社と  を区別せず,在外事業体として同等に扱っている。日本の場合は,両者を区別して取扱っている。

(7)The Institute of Chartered Accountants in India, Statemellt on Account三ng for Foreign Currency Translation,

 1976.

(8)Statement of Standard Accounting Practice 20:Foreign Currency Translation, The Inst三tute of Chartered Ac−

 countants in England and Wales, April 1983.

(9)International Account1ng Standard 21:Accounting for the Effects of Changes in Foreign Exchange Rates, Inter−

 national Accounting Standards Committee, July 1983.

(10)Account三ng Standard l l:Accounting for the Effects of Changes in Foreign Exchange Rates, The Institute of

 Chartered Accotmta皿ts in India,1989.

(3)

 インドの外貨換算会計       3 て形成された,インドの現行の外貨換算会計実務について考察するとともに,会計基準第11 号を,国際会計基準第21号や,インドの宗主国であるイギリスの標準会計実務書第20号と比 較する形で検討し,その問題点および特徴について論ずることにする。

2 現行の外貨換算会計実務

 インドにおける現行の外貨換算会計実務を,(1)外貨表示貸借対照表の換算,(2)外貨表示損 益計算書の換算,(3)外貨建取引の会計処理,および,(4)為替調整差額の会計処理に区分して,

以下,考察することにする。

  (1)外貨表示貸借対照表の換算

 外貨表示貸借対照表の換算方法には,①貸借対照表上の流動項目を決算日レートで,非流 動項目を取引日レート(取引が行われた時点で通用している為替レート)で換算する流動・

非流動法,②貸借対照表上の貨幣項目を決算日レートで,非貨幣項目を取引日レートで換算 する貨幣・非貨幣法,③貸借対照表上の,時価(または公正価値)基準で評価されている項 目を決算日レートで,原価基準で評価されている項目を取引日レートで換算するテソポラル 法,および④貸借対照表上のすべての資産および負債項目を決算日レートで換算する決算日 レート法がある。①〜③の換算法は,貸借対照表の換算に当たって,決算日レートと取引日 レートの両方を用いることから,複数レート・アプローチと呼ばれ,④の換算法は,貸借対 照表の換算に当たって,決算日レートのみを用いることから,単一レート・アプローチと呼 ばれている。複数レート・アプローチは,親会社(または本店)の国内事業の単なる延長で       むあるにすぎず,親会社の事業と密接不可分の関係にある事業を営む,従属的な在外事業体の 貸借対照表の換算に適したアプローチである。したがって,このアプローチでは,親会社の 報告通貨(自国通貨)の見地から,貸借対照表上の諸項目を発生させた取引を,当初から親 会社の報告通貨で測定したのと実質的に同じ結果になるように,貸借対照表を換算すること を目的とする。これに対して,単一レート・アプローチは,親会社の国内事業との相互依存

       む     り  ゆ

関係が弱く,実質的に自己充足的な事業を営む独立的な在外事業体の貸借対照表の換算に適 したアプローチであると考えられている。したがって,このアプローチでは,在外事業体の 現地通貨の見地から,その現地通貨で測定された貸借対照表上の諸項目間の相互関係を維持 する形で,貸借対照表を換算することを目的とする。

 「外貨換算会計に関するステイトメント」は,インドの在外事業体の性格を,親会社の国       くユリ内事業の単なる延長にすぎない従属的なものとみなし,複数:レート・アプローチに属する 流動・非流動法を推奨した。すなわち,先物為替予約によって為替リスクが回避されていな い限り,流動資産および流動負債項目を決算日レートで換算することを,非流動資産につい ては,歴史的原価主義に合致するように取引日レートーイソドでは「原初レート」(Origi一

(11) Shirin Rathore, op. cit., p.703.

(4)

4

nal Rate)と呼んでいる一で換算することを,そして,長期負債については,取引日レー トかまたは帳簿上繰越されたレートで換算することを勧告した。しかしながら,非流動資産 の所在する国の通貨に対して,為替レートの「永久的な変動」(Permanent Change:取引ま たは残高が最後に記録された,または修正された時のレートより2.25%を超える幅の為替 レートの変動)があり,インド・ルピーによる表示額が下落する場合には,それが重要であ る限り,その下落分,当該非流動資産の換算額は,引き下げられる(つまり,決算日レート で換算される)。同様に,長期負債の場合にも,為替レートの永久的な変動があった場合に        くユ う は,その変動後のレート(つまり,決算日レート)で換算されなければならない。「外貨 換算会計に関するステイトメント」による,このような流動・非流動法の推奨にもかかわら ず,現実の実務では,便宜上,在外支店の財務諸表を決算日レート法によって換算している        ラ

企業もあるようである。

  (2)外貨表示損益計算書め換算

 外貨表示損益計算書の換算は,一般に外貨表示貸借対照表の換算において採用される換算 方法に準じて行われる。従属的な在外事業体に適する複数レート・アプローチが採用される 場合には,損益計算書上の収益(利益を含む)および費用(損失を含む)項目は,それら個 々の発生取引を,それら取引の生起した日に,親会社(または本店)の外貨建取引と同じよ うに自国通貨に換算した場合の自国通貨表示金額と,実質的に同じになるように換算されな ければならない。これは,期中における各収益および費用発生取引を,その発生時点の為替

レート(つまり,取引日レート)で換算することによって達成される。しかし,取引の数が 多い場合には,すべての取引を個々に,その取引日レートで換算するということは,実行不 可能である。このことから,実務的には,近似的な結果が得られる期中平均レート(場合に よっては,加重平均レート)で換算されることになる(ただし,取引日レートで換算された 資産および負債に関連して発生した収益および費用項目については,当該資産または負債の       く 換算に用いられた取引日レートで換算される)。これに対して,独立的な在外事業体に適す る単一レート・アプローチ,すなわち決算日レート法が、貸借対照表の換算に採用される場 合1こは,損益計算書上の収益および費用項目も決算日レートで換算するのが,首尾一貫した

         く  ラ

方法であるといえる。しかし,決算日レートで損葦計算書を換算することにすると,中間 損益や,四半期毎の売上高とか収益を公表している場合には,この報告数値を修正したり,

(1勿 Shirin Rathore, op. cit., p.702;Claire Marston, op. cit., p.44.

(1⇒L.L6rsine, J. P. McAllister&R. N. Parik1, World Acco㎜ting, Vol.2,Matthew Bender&Co.,1986, p.

 IND−50.

(14)FASB Discusslon Memorandum:An Analysls of Issues Related to Accounting for Foreign Currency Transla−

tion, FASB, February l 974, p.69(paras.7−10);FASB, Statemept of Financial Acco㎜ting Standards No.8:

 Accounting for the Translation of Foreign Currency Transactions and Foreign Currency F童nancial Statements, Oc−

 tober 1975, para.13.

(15)FASB Discussion Memorandum, op. cit., p.70(para.17).

(5)

 インドの外貨換算会計       5 また,損益を遡及的に修正記帳したりすることが必要になる。そのため,通常,実務的には,

複数レート・アプローチの場合と同様,取引日レートまたは平均レートで換算される(ただ し,決算日レートで換算された資産および負債に関連して発生した収益および費用項目につ       ういては,決算日レートで換算される)ことになるかもしれない。

 インドの場合,「外貨換算会計に関するステイトメント」は,貸借対照表上の資産および 負債項目を,流動・非流動法によって換算することを推奨しているにもかかわらず,損益計 算書上の収益および費用項目の換算に,決算日レートか,または期中平均レートを適用する ことを勧告している。ただし,①減価償却費については,その計算の基礎となる固定資産の 換算に用いられたレートで換算することが,そして,②期首棚卸高および期末棚卸高につい ては,それぞれ,期首および期末において通用している為替レートで換算することが,要求      く 

されている。以上,説明してきたインドの外貨表示貸借対照表および損益計算書の換算に ついて,「外貨換算会計に関するステイトメント」で勧告された換算方法を要約すると,次 の表1のようになる。

表1「外貨換算会計に関するステイトメント」で勧告された外貨換算方法の要約 換 算 項 目

貸借対照表項目

流動資産 流動負債

非流動資産

 長期負債

損益計算書項目 期首棚卸高 期末棚卸高 減価償却費 その他の損益項目

換  算  レ

}決算日レート(先物鰭予約が付されて・・る場合には,当該先物レート)

取引日レート(為替レートの永久的変動により,インド・ルピー表示額が下落       する場合には,決算日レート)

取引日レート(為替レートに永久的変動があった場合には,決算日レート)

決算日レート(前期末瓢期首の決算日レート)

決算日レート

取引日レート(計算の基礎となる固定資産に適用されたレート)

決算日レートまたは期中平均レート

  (3)外貨建取引の会計処理

 外貨建取引は,通常,取引日に,その日に通用している為替レート(取引日レート)で,

先物為替予約が付されている場合には,その先物レートで,換算され,記録される。イシド

(16)FASB, Statement of Financial Accounting Standards No.52:Foreign Currency Translation, December 1981,

para.99.

(17)L.LOrsine, J. P. McAIIister&R. N. Parikl, op. cit., p. IND−48。

(6)

の場合,期中における外貨建貿易取引が多量である場合には,「基準レート」(Standard Rate:政府によってあらかじめ定められている見積為替レート)で換算することも認められ

   く  

ている 。

 次に,決算日において,外貨建取引の結果生じた外貨建貨幣資産および負債が,未決済の まま残存している場合,流動・非流動法が採用される場合には,外貨建短期貨幣資産および 負債のみが,決算日レートで換算される。これに対して,貨幣・非貨幣法,テソポラル法,

および決算日レート法が採用される場合には,すべての外貨建貨幣資産および負債が,決算 日レートで換算される。ただし,いずれの換算法による場合でも,先物為替予約が付されて いる場合には,当該先物レートで換算される。インドの場合,流動・非流動法が採用されて いるので,先物為替予約が付されていない限り,外貨建短期貨幣資産および負債は決算日レー

トで,その他の長期貨幣項目は取引日レートで,換算される。

 決済日には,いずれの換算方法が採用されるかに関係なく,すべての外貨建貨幣資産およ び負債が,決済日に通用している直物為替レートによって決済される。この点は,インドの 場合も同じである。もし,外貨建貨幣資産および負債が,その取得および発生の日から決済 されるまでの間に,為替レートが変動すれば,決算時または決済時に,あるいは両方の時点 で,為替調整差額(Exchange Adjustment)が発生することになる。

 外貨建取引の会計処理において最も論議があるのは,為替レートの変動によって生ずる為 替調整差額の処理の問題である。これについては,次の項で改めて検討することにする。

  (4)為替調整差額の会計処理

 為替調整差額とは,為替レートの変動が外貨表示資産および負債の報告通貨表示簿価に及 ぼす影響額である。これには,①ある通貨で表示されている財務諸表を,他の通貨(報告通 貨)によって再表示すること,②未決済の外貨建貨幣資産および負債(外貨による決済が予 定されている債権・債務)を,自国の通貨によって再表示すること,および③外貨建貨幣資 産および負債を,それら資産および負債が測定・記帳されたときの為替レートと異なる為替        ラレートで決済すること,から生ずる為替調整差額が含まれる(面前の図参照)。

 複数レート・アプローチが採用される場合,すでに述べたように,外貨表示財務諸表は,

当該財務諸表上の諸項目を発生させた取引を,当初から親会社の自国通貨で測定したのと実 質的に同じ結果になるように換算されることを基本的目的としているのであるから,その換 算の結果生ずる為替調整差額(次頁の図の①)と,未決済の外貨建貨幣資産および負債の換 算の結果生ずる為替調整差額(次頁の図の②)とは,基本的には同質のものと考えられる。

もちろん,実現した為替調整差額(次頁の図の③)とも同質ということになる。これに対し て,単一レート・アプローチが採用される場合には,③と②は,実現・未実現の差はあって

(1的 L.L. Orsine, J. P, McAllister&R. N. Parlkl, op. cit., p. IND−49.

(19)FASB Discussion Memorandum, op. cit., Appendix A.

(7)

インドの外貨換算会計

7

図 為替調整差額の種類

  為替調整差額

(Exchange Adlustment)

   取引為替調整差額

(Transaction Exchange Adjustment)

   換算為替調整差額

(Translation Exchange Adjustment)

     丁丁の①

 未決済取引〔に係るもの〕      決済された取引〔に係るもの〕

  (Unsettled Transaction)       (Settled Transaction)

     前頁の②       前頁の③

出所,FASB Discussion Memorandum:An Analysis of Issues Related to Accounting for Foreign Cur−

  rency Translation, FASB, February 1974, Appendix A.

も同質のものであるが,①と②は,異質のものと考えられるかもしれない。それはともあれ,

これらの為替調整差額を適切に会計処理するためには,その性質が明確にされなければなら

ない。

 為替調整i差額の性質を考える場合,二つの基本的立場がある。その一つは,「1取引観」,

(The One−Transaction Perspective)と呼ばれるものであり,もう一つは,「2取引観」

(The Two−Transaction Perspective)と呼ばれるものである。外貨建取引の場合,外貨建取 引と同時に,または将来,外貨での決済を必要とするが,1取引観では,この決済に係る外 貨の売買取引(為替決済取引)を,外貨建取引の不可欠な一部とみなす(つまり,決済が行 われるまで外貨建取引は完了しないと考える)のに対し,2取引観では,両者を,それぞれ 別個の取引とみなす(つまり,外貨建取引はその取引時点で完了し,為替決済取引は別個の 取引と考える)のである。このことから,為替決済取引が行われるまでの間に為替レートが 変動し,為替調整差額が生じた場合,1取引観では,その為替調整差額の性質を,外貨建取 引の測定額の構成要素,すなわち,取引日に測定・記録された仕入原価(購入原価)とか,

売上収益などの修正項目とみなす。これに対して,2取引観では,為替調整差額の性質を,

決済を遅らせたことによって為替リスクにさらされた結果生じた利得または損失とみなすの である。また,為替調整差額の処理法としては,①測定額の修正とする方法,②発生した期 間の損益として認識する方法,および③一部または全部を繰延べる方法,が考えられるが,

論理的には,1取引観の場合には①の処理法が,そして,2取引観の場合には②か③の処理 法が,採用されることになるだろう。

 以上の知識を念頭に,インドの外貨建取引の会計処理実務を概観してみよう。為替レート

(8)

の変動によって,将来,外貨による決済が予定されている外貨建貨幣資産および貨幣負債に ついて生ずる為替調整差額の処理に関して,「外貨換算会計に関するステイトメント」は,

流動資産および流動負債について生ずる為替調整差額と,非流動資産および長期負債につい て生ずる為替調整差額とを区別する。前者については,その発生した期間,つまり為替レー トが変動した期間,の損益として処理することを要求する。ただし,為替制限によって,利 益または資金の送金が禁止されている場合には,為替差損は,その発生した期間に損失とし て計上されるが,為替差益は,繰延べるために,別個の準備金勘定に振替えられなければな らない。そして,もし,同一通貨建ての流動資産および流動負債についてその後に為替差損 が生じたならば,その差損は,当該準備金勘定に借記され,相殺されることになる。

 流動・非流動法によれば,後者は,原則として,決算日には取引日レートで換算されるた め, 為替調整差額は発生しない(ただし,すでに述べたように,レートの永久的な変動があ った場合には,発生することになる)。インドでは,固定資産を外貨建ローンによって取得 することが多いためか,決算日に貸借対照表に計上されている資産の取得のための資金調達 の結果として発生した,長期負債に係る為替調整差額の処理に関しては,次のような特別の       く の

規定が設けられている。

 (・)もし,当該換算によって貸方差額が生ずるならば,その差額を準備金勘定に振替える。

  そして,その後の換算によって生ずる借方差額(差損)は,当該準備金勘定に借記する   ことができる。

 (b) もし,当該換算によって借方差額が生ずるならば,その差額を直ちに損益計算書に借   記しなければならない。しかしながら,その差額が重要である場合には,その差額を,

  その後の各年度の負債の返済額に比例して,その返済期間にわたって償却することもで   きる。

 (・)さらに,当該換算によって生ずる借方および貸方差額のうち,適当と思われる範囲ま   で,当該資産の原価(簿価)の修正として処理することもできる(この代替的処理法を   採用した場合には,換算日までの減価償却累計額の修正が必要である)。

 以上のような「外貨換算会計に関するステイトメント」の為替調整差額の処理に関する規 定から明らかなように,当該ステイトメントは,原則として2取引観の立場に立ち,為替調 整差額の性質を,利得または損失とみなしている。そして,保守主義の立場から,原則とし て差損は直ちに損失として認識するが,差益については,その利得としての認識を繰延べる 処理を勧告している。また,資産の取得のための資金調達の結果として発生した,長期負債 に係る為替調整差額の処理については,2取引観一保守主義に基づく立場を原則的に維持し ながらも,代替的に,資産の原価の修正処理という1取引観の立場に基づく処理法を認めて いる。しかし,為替調整差額の処理に関する現実の実務は,これ以上に多種多様である。

㈲ Shirin RathQre, op. cit., pp.702−703;Claire Marston, op. cit., pp.44−45.

(9)

インドの外貨換算会計

9

3 会計基準第11号の検討

 この節では,インド勅許会計士 協会によって公表された会計基準第11号「外国為替レート 変動の影響の会計処理」を,その規定順に従って,(1)外貨建取引の会計処理,(2)在外支店の 財務諸表の換算,(3)投資,および(4)開示,に区分して検討する。検討に当たっては,国際会 計基準第21号およびイギリスの標準会計実務書第20号と比較することによって,出来るだけ インドの会計基準の問題点と特徴を明確にするつもりである。

  (1)外貨建取引の会計処理    a 取引日における会計処理

 会計基準第11号によると,外貨建取引は,先物為替予約が付されている場合を除き,当該 取引時点で存在する為替レート(取引日レート)か,または基準レートを外貨額に適用して,

インド・ルピーで表示されなければならないと規定されている(20項)。基準レートは,通 常,取引数が多い場合に用いられることになる(4項)。国際会計基準第21号では,「外貨建 取引は,……(先物為替予約が付されていない限り)……,外貨建金額に対しその取引日に おける為替レートまたは実際のレートに近似する為替レートを適用して,当該事業体の報告 通貨で記録しなければならない」(24項)と規定されている。ここでいう,実際のレートに 近似する為替レートとは,期中平均レートや基準レートなど,実際のレートを基礎とした,

妥当な人為的レートを意味しているものと考えられる。標準会計実務書第20号も,取引日レー トによる換算を,そして,為替レートに著しい変動がない場合には,期中平均レートを近似 値として用いることができると規定している(46項)。いずれの規定も,大差はないといえ

る。

 しかしながら,外貨建取引に先物為替予約が付される場合には,その取扱いが異なること になる。すなわち,会計基準第11号は,「外貨建取引の決済日に必要なまたは入手可能なル ピー額を確定するために,先物為替予約が締結された場合,当該先物為替予約において特定 された先物レートを,当該外貨建取引を測定し,報告するための基礎として用いることがで きる」(21項)と規定している。これに対して,国際会計基準第21号は,「外貨建取引の決済 日に必要なまたは入手可能な報告通貨額を確定するために先物為替予約が締結された場合,

先物レートと当該予約開始日の直物レートとの差額は予約期間にわたって,損益に計上しな ければならない。短期の取引の場合には,それに関連する先物為替予約で特定された先物レー

トを,当該取引を測定し,報告するための基礎として用いることができる」(26項)と規定 している。この規定から明らかなように,国際会計基準では,長期取引の場合と短期取引の 場合の会計処理を区別し,前者については,あくまでも取引日レートでの換算を求め,後者 についてのみ,先物レートでの換算を認めるというものである。標準会計実務書第20号は,

インドの場合と同様,長期取引と短期取引を区別せず,一様に先物レートで換算することが できると規定している(46項)。

(10)

 先物為替予約が付されている外貨建取引を先物レートで換算することが認められるのは,

一つは,いやしくも先物為替予約によるヘッジにより,ある外貨建取引の決済レートが確定 している以上は,当該先物レートで当該取引を換算する方が,取引日レートで換算するより も,会計目的上,より合理的であるという考えからである。そして,もう一つの考えられる 理由は,先物為替予約はコミットメントであって,予約自体を貸借対照表に計上することは        く  できないので,この予約の経済的効果だけでも貸借対照表に反映させるためである。国際 会計基準は,先物為替レートと予約開始日の直物レートとの差(直先差金)を,主として,

二つの通貨市場における利子率の差を反映したもの(10項),つまり,為替予約時の差損益 を金融損益(プレミアムまたはディスカウント)と考える。したがって,原則として,その 差損益を,予約期間にわたって損益に含めることを要求するのである。ただ,短期取引の場 合には,両方のレートの差(直先差金)は,一般に小さいし,かつ短期間の内に決済される ことから,差損益の期間配分ということを考えず,外貨建取引を,先物レートで換算しても 差し支えないということである。外貨建取引にヘッジ目的の先物為替予約が付される場合,

その会計処理をめぐってはさまざまな見解があるので,この問題については,項を改めて検 討することにする。

   b 決算日における会計処理

 決算日に,未だ決済されていない,すなわち,外貨による受取りまたは支払いがなされて いない,外貨建(貨幣)資産および(貨幣)負債項目が存在する場合,会計基準第11号は,

それらの項目を,原則として決算日レートで転換することを要求するが,転換による影響(す なわち,転換によって生ずる為替差損益)を考慮して,(・)流動資産および流動負債と,(b)長 期負債に区別して,それぞれ,次のような別個の会計処理をしなければならないと規定する

(23項)。

 (a)流動資産および流動負債の場合

  1) 流動資産および(固定資産の取得に関連のない)流動負債の場合(24項のa)

   ① 決算日レートによる転換の結果が,全体として純差益になると見込まれる場合に     は,外貨建流動資産および流動負債項目を,決算日レートで再表示せず,斜辺のま     まとし,差益も認識してはならない。

   ②決算日レートによる転換の結果が,全体として純差損になると見込まれる場合に     は,外貨建流動資産および流動負債項目を,決算日レートで再表示するとともに,

    差損を損益計算書に借記しなければならない。

  2) 固定資産の取得のために発生した流動負債の場合(24項のb)

   ①決算日レートによる転換の結果として生じた差損益が重要である場合には,当該     固定資産の原価の修正とみなし,その簿価に含めなければならない。

②)宮田達郎「先物為替予約をめぐる会計問題」企業会計35巻6号(1983年6月),18頁。

(11)

 インドの外貨換算会計      11    ②決算日レートによる転換の結果として生じた差損益が重要ではない場合には,上     記1)に従って処理することができる。

 (b)長期負債の場合

  1) 固定資産の取得に関連のない長期負債の場合(25項のa)

   ①決算日レートによる転換の結果が,全体として純差益になると見込まれる場合に     は,外貨建長期負債項目を,決算日レートで再表示せず,簿価のままとし,差益も     認識してはならない。

   ②決算日レートによる転換の結果が,全体として純差損になると見込まれる場合に     は,⑦外貨建長期負債項目を決算日レートで再表示するとともに,差損を損益計算     書に借記しなければならない;㊥しかしながら,差損を繰延べ,当該差損を生ぜし     めた負債の残存返済期間にわたって,当期および次期以降の損益計算書に認識する     こともできる(ただし,かかる繰延処理は,将来,その長期負債項目について反復     的に為替差損が生ずると合理的に予測できる場合には,認められない)。

  2) 固定資産の取得のために発生した長期負債の場合(25項のb)

   ① 決算日レートによる転換の結果として生じた差損益が重要である場合には,当該     固定資産の原価の修正とみなし,その簿価に含めなければならない。

   ②決算日レートによる転換の結果として生じた差損益が重要ではない場合には,上     記1)に従って処理することができる。

 以上の規定から明らかなように,会計基準第11号は,従来の流動・非流動法と貨幣・非貨 幣法を折衷したハイブリジ法である修正流動・非流動法を採用したが,為替差損益の処理に        く  う

ついては,従来から一般に行われていた実務を承認したものの(9項),「外貨換算会計に 関するステイトメント」で要求されていた以上に保守主義的な処理を要求している。すなわ ち,外貨建流動資産や固定資産の取得に直接関連のない流動負債および長期負債項目を決算 日レートで転換した結果が,全体として純差益になると見込まれる場合には,差益を,損益 計算書上のみならず貸借対照表上においても,一切認識しない(つまり,取引日レートで転 換したのと同じ結果にするということである。「外貨換算会計に関するステイトメント」で は,為替差益を準備金勘定に振替えることを要求していた)が,純差損になると見込まれる 場合には,すべての差損を損益計算書において認識するという,徹底した実現主義=保守主 義的処理である。また,固定資産を外貨建長期または短期負債による資金調達で取得した場 合には,当該負債について生じた為替差損益は,それが重要である限り,当該固定資産の原

¢2)インドでは,外貨建貨幣資産および負債を決算日レートで転換・再表示するとともに,かかる転換の結果とし

 て生じた差益を,適当な勘定,例えば,「為替変動勘定」(Exchange Variation Accoullt)という一種の準備金勘定

 に振替えるという処理法も,一般的な実務として行われてきた。この場合には,その後の転換の結果として損益  計算書に認識される差損の額は,当該為替変動勘定に計上されている金額を控除したものとなる(9.2項のbに付  された注)が,かかる代替的処理法は,会計基準第11号では認められていない。

(12)

価に含めるという1取引観に基づく会計処理も,従来通りである。ただし,「外貨換算会計 に関するステイトメント」では,固定資産を外貨建短期負債による資金調達で取得した場合 については,特に触れられていなかった。そのため,当該負債について生じた為替差損益は,

通常の流動負債の場合のそれと同じように,会計処理される可能性があった。会計基準第11 号では,固定資産を外貨建短期負債で取得した場合も,長期負債で取得した場合とその為替 差損益の取扱いが同じになることが明確にされた。なお,為替差額が固定資産の忽諸(原価)

に含められる場合には,当然,修正原価を基礎として減価償却費が計算され,残存耐用年数 にわたって引当てられることになる(27項)。

 国際会計基準第21号は,「各貸借対照表日に,事業体の取引から生ずる外貨建貨幣項目は,

…… i先物為替予約が付されていない限り)……,決算日レートを用いて報告しなければな らない」(25項)と規定している。そして,外貨建短期貨幣項目および長期貨幣項目の換算 から生ずる換算差額は,原則として,当期の損益に含めなければならない(27項および28項)。

ただし,「事実上在外事業体に対する親会社の正味投資額の追加または減額となる集団内会 社間貨幣項目から生ずる換算差額は,結合財務諸表または連結財務諸表の株主持分に含めな ければならない」(29項)し,また,「外貨建借入金およびその他の外貨建取引が在外事業体 に対する正味投資額のヘッジとして,実質上,意図され,かつその役割をはたしている場合,

当該借入金または取引から生ずる換算差額は,正味投資額から生ずる換算差額に対応する範 囲まで,株主持分に含めなければならない」(30項)のである。インドには,この29項およ び30項に該当する規定はない。

 外貨建長期貨幣項目については,その発生した換算差額を繰延べ,関連する貨幣項目の残 存期間にわたり,当期および次期以降の損益に含めることができる(ただし,かかる繰延処 理は,将来も,当該項目について継続的に換算差額が生ずると合理的に見込まれる場合には,

認められない)。この点は,インドの場合と同じである。また,通貨の大幅な平価切下げま たは価値下落があり,それらに対してヘッジする実際的手段がない状況下において,その平 価切下げまたは価値下落の直後に購入した資産のために直接発生した外貨建短期または長期 負債に係る換算差額は,当該資産の帳簿価額(原価)に含めることができる。「ただし,修 正した帳簿価額は,取替原価か当該資産の使用または売却による回収可能額かのいずれか低 い額を超えてはならない」(31項)と規定されている。すでに述べたように,会計基準第11 号では,固定資産を外貨建負債による資金調達で取得した場合には,無条件で,当該外貨建 負債について生じた為替差損益(換算差額)を,当該固定資産の原価に含めることができる。

これに対して,国際会計基準第21号では,大幅な通貨の平価切下げまたは価値下落があり,

かつ,それらに対してヘッジする実際的手段がない,という条件が満たされる場合に限り,

換算差額を資産の原価に含めるという,1取引観的処理を認めているのである。ただ,修正 簿価を取替原価か実現可能価値のいずれか低い額に制限するという規定は,インドにはない。

しかし,国際会計基準第21号には,換算差額の処理について,差損(借方差額)となる場合

(13)

 インドの外貨換算会計      13 には,損失として認識するが,差益(貸方差額)となる場合には認識しないという,インド のような保守主義的規定はみられないのである。

 イギリスの場合はどうであろうか。標準会計実務書第20号によると,財務諸表が経営活動 の結果について真実かつ公正な概観を示すことができるように,外貨建取引も会計処理しな ければならないという(2項)。この目的にそって,外貨建貨幣資産および負債は,決算日

レートか,または取引条件として決済レートが定められており,それが適当である場合には,

その確定したレートで換算しなければならない。また,外貨建売買取引に先物為替予約が付 されている場合には,その先物レートで換算することができると規定している(48項)。そ して,短期貨幣項目について生ずる為替差損益は,ほどなくキャッシュ・フローに反映され ることが確実であるから,当期の経常損益の一部とレて報告しなければならない。ただし,

その取引自体が異常項目とみなされる場合には,それによって生ずる為替差損益も,異常項 目の一部として報告されることになる(8項および49項)。長期貨幣項目について生ずる為 替差損益も,成果の真実かつ公正な概観を示すために,発生主義の概念に基づいて,当期の 損益として認識しなければならない(10項および50項)。「差損については認識するが差益に ついては繰延べるということは,有利な為替レートの変動が生じたということを事実上否定 することになり,非論理的であるのみならず,当期の企業の業績の公正な測定を防げること でもある」(10項)として,真実かつ公正な概観の表示=発生主義の原則の立場から,保守 主義的処理を否認している。この点が,インドの場合と根本的に異なっている。しかし,例 外として,外貨建ての当該通貨の交換性または市場性に関して疑問がある場合には,当該為 替差益の金額,または,当該為替差益のうち損益計算書に計上されるべき同一項目について の過去の為替差損を超える金額,を当期の損益として認識することを制限すべきかどうかに ついて,慎重性の原則に基づいて考慮する必要があると規定している(11項および50項)。

 なお,会社が在外持分投資のために,あるいは,現存の在外持分投資に関する為替リスク をヘッジするために,外貨建借入を行うという特殊な場合には,会社は,いかなる為替レー トの変動に対しても,経済的にカバーされることになるので,為替レート変動時に差損益を 計上することは,不適当である(28項)。したがって,かかる場合には,会社は,その在外 持分投資を外貨表示のままとし,各会計期末に決算日レートで換算した金額を,簿価(貸借 対照表価額)とすることができる。そして,その場合には,毎期,前期末の簿価との差額(事 実上,為替レートの変動による為替差損益)を準備金として計上する一方,当該外貨建借入 負債を決算日レートで換算した結果として生ずる為替差損益についても,当期の損益とせず,

準備金の変動として認識し,両者を相殺しなければならない。この処理法は,次のような要 件を満たす場合に限り適用できる(29項および51項)。

「(・)いかなる会計期間においても,借入について生ずる為替差損益を,持分投資について   生ずる為替差額がある限り,相殺することができること;

 (b)その為替差損益が相殺過程において用いられる外貨建借入は,利益からであれ,その

(14)

  他からであれ,全体として当該投資が生み出すことができると期待される現金総額を超   えないこと;

 (・)採用した会計処理方法を毎期,継続して適用すること」(51項)。

 インドでも,上記のような特殊な外貨建借入取引が行われているかどうか不明であるが,

会計基準第11号には,上記のような代替的処理法を認める規定はない(この規定は,国際会 計基準第21号の29項および30項に該当するものと考えられる)。

   c 決済日における会計処理

 会計基準第11号によると,同一会計期間内に行われた外貨建取引に係る決済であれ,別の 会計期間に行われた外貨建取引に係る決済であれ,決済によって生じた為替差損益は実現損 益であるため,差損のみならず差益についても,その決済が行われた期間の損益として認識 しなければならない。ただし,固定資産の取得のために発生した金額に係る為替差損益につ いては,当該固定資産の比価(原価)に含めなければならない(22項および26項)。この場 合,減価償却費が修正簿価を基礎として計算されることは,すでに述べた通りである。

 国際会計基準第21号も,貨幣項目の決済から生ずる換算差額は,当期の損益に含めなけれ ばならないと規定している(27項)。そして,標準会計実務書第20号も,決済された取引に 係る為替差損益は,当該取引が異常項目として扱われるものでない限り,サベて当期に経常 損益として報告しなければならないと規定している(49項)。このように,決済によって生 じた為替差損益の処理については,それが実現損益であることから,いずれの規定も大差は なく,会計上も,ほとんど問題がないようである。

 以上の外貨建取引の会計処理についての検討から明らかなように,会計基準第11号,国際 会計基準第21号および標準会計実務書第20号は,いずれも2取引観の立場に立っているが,

会計基準第11号は,固定資産の取得のために発生した外貨建負債について生ずる為替差損益 を当該固定資産の元価に含める,1取引観に基づく会計処理を要求している。国際会計基準 面21号は,大幅な通貨の平価切下げまたは価値下落があり,それらに対してヘッジする実際 的手段がないという限られた条件下においてのみ,資産を取得するために発生した外貨建負 債について生ずる為替差損益を,資産の簿価に含めることを認める。そして,標準会計実務 書第20号は,かかる場合でも,為替差損益を資産の簿価に含めることを一切認めず,2取引 観の立場を貫いているのである。また,会計基準第11号と,国際会計基準第21号は,外貨建 長期貨幣負債について生じた為替差損を繰延べ,当該負債の残存返済期間にわたって償却す る処理方法を認めているが,標準会計実務書第20号は,かかる繰延・償却法を認めていない のである。

   d 先物為替予約が付された場合の会計処理

 外貨建取引(によって取得または発生する貨幣項目)に,ヘッジ目的としての先物為替予 約が付される場合がある。会計基準第11号,国際会計基準第21号および標準会計実務書第20 号は,外貨建短期取引に為替予約が付された場合については,同じ会計処理法を,代替的処

(15)

 インドの外貨換算会計      15 理法として認めている。しかし,外貨建長期取引に為替予約が付された場合には,会計基準 第11号と標準会計実務書第20号は,外貨建短期取引の場合と同じ会計処理を認めているが,

国際会計基準第21号は,外貨建短期取引の場合とは異なる会計処理を要求している(草案の 段階では,長期取引と短期取引の区別はなされていなかった一27項)。以下,具体例を用 いて,各会計処理法を示すことにする。

  1) 外貨建短期取引に為替予約が付された場合

 [例1] 1989年11月1日に,代金3ヵ月後払いで商品20,000ドルを輸入するとともに,

     3ヵ月後実行の20,000ドルの(ドル買いルピー売りの)為替予約を締結した。決      算日は,12月31日である。なお,取引日における直物レートは,1ドル=12ルピー,

     先物レートは,1ドル=11ルピーであり,年末には,1ドル竃11.30ルピーにな      つたとする。

 第1法(2取引観に基づく原則的な処理法)

  取引日(1989年11月1日)における仕訳:

   仕  入   240,000  外貨建買掛金 240,000……20,000×12=240,000   決算日(1989年12月31日)における仕訳:

   外貨建買掛金  14,000  為替差益    14,000……20,000×(12−11.30)=14,000   決済日(1990年1月31日)における仕訳:

   外貨建買掛金 226,000  現  金   220,000……20,000×11=220,000        為替差益    6,000……20,000×(11.30−11)=6,000  会計基準第11号,国際会計基準第21号および標準会計実務書第20号のいずれにおいても,

2取引観に基づく原則的な処理法を選択すれば,上記のような会計処理になる。ただ注意す べきことは,インドの場合,外貨建流動貨幣項目を決算日レートで転換した結果が,全体と

して純差益になる場合には,上記の決算日における仕訳は不要となり,決済日における仕訳 は,次のようになる。

   外貨建買掛金 240,000  現  金   220,000……20,000×11=220,000        為替差益    20,000……20,000×(12−11)誕20,000  第2法(先物レートを用いる代替空処理法):

  取引日(1989年11月1日)における仕訳=

   仕  入   220,000  外貨建買掛金 220,000……20,000×11=220,000・

  決算日(1989年12月31日)における仕訳:

   仕訳不要

  決済日(1990年1月31日)における仕訳:

   外貨建買掛金220,000現金 220,000……20,000×11=220,000   2) 外貨建長期取引に為替予約が付された場合

 [例2] 1989年1月1日に,3年満期で100,000ドル(年利10%)を借りるとともに,

(16)

    3年後実行の同額の(ドル買いルピー売りの),為替予約を締結した。1989年1     月1日の直物レートは,1ドルニ12ルピー,先物レートは,1ドル=9.50ルピー     であった。その後の直物レートは,1989年末が1ドル=11.30ルピー,1990年末     が1ドル=10.50ルピーであったとする。

第1法(インドおよびイギリスにおける原則的処理法であるが,国際会計基準では認めら     れていない):

 取引日(1989年1月1日)における仕訳:

  現  金  1,2001000   外貨建借入金 1,200,000……100,000×12=1,200,000  決算日(1989年12月31日)における仕訳:

  外貨建借入金  70,000  為替差益  70,000……100,000×(12−11.30)=70,000   支払利息   113,000  現  金 113,000……100,000×10%×11.30=113,000  決算日(1990年12月31日)における仕訳:

  外貨建借入金  80,000  為替差益  80,000……100,000×(11.30−10.50)=80,000   支払利息   105,000  現  金 105,000……100,000×10%×10.50=105,000  決算日=決済日(1991年12月31日)における仕訳:

  外貨建借入金 1,050,000  現  金 950,000……100,000×9.50=950,000       為替差益 100,000……100,000×(10.50−9.50)=100,000   支払利息    95,000 現  金 95,000……100,000×10%×9.50=95,000 第2法(インドおよびイギリスにおける代替的皮理法であるが,国際会計基準では認めら     れていない):

 取引日(1989年1月1日)における仕訳:

  現  金  1,200,000  外貨建借入金 950,000……100,000×9.5=950,000        為替予約差益 250,000……100,000×(12−9.50)

       =250,000  決算日(1989年12月31日)における仕訳:

  支払利息   113,000 現  金   113,000  決算日(1990年12月31日)における仕訳:

  支払利息   105,000  現  金   105,000  決算日=決済日(1991年12月31日)における仕訳:

  外貨建借入金 950,000  現  金   950,000   支払利息   95,000  現  金   95,000

第3法(国際会計基準で要求されている処理法)=

 取引日(1989年1月1日)における仕訳:

  現金1,200,000外貨建借入金 950,000

       繰延為替予約差益 250,000

(17)

         インドの場合,転換の結果が全体として純差益になる,つまり,全体と して未実現差益を計上することを回避しようとしているので,もし全体として純差益になる ようであれば,取引日および決算日において差益を計上することができないことに留意すべ きである。それはともあれ,上記の例から明らかなように,どの処理法が採用されるかによ って,漁期の利益が異なることになる。為替予約日における直物レートと先物レートとの差 が,二つの通貨市場における金利差を反映したものと考えられる場合には,為替予約差損益 を決済日までの各期間に配分する第3法が合理的であるが,そうでなければ,為替差損益を 実際に発生した期間に計上する第1法によるべきであろう。予約時に為替予約差損益を一括 計上する第2法は,短期取引の場合ならばまだしも,長期取引の場合には不適切であるとい

える。

   (2)在外支店の財務諸表の換算

 インドでは,連結財務諸表の作成が義務づけられていないことから,会計基準第11号でも,

在外子会社の財務諸表の換算は意図されていない。これに対して,国際会計基準第21号やイ ギリスの標準会計実務書第20号では,在外支店と在外子会社を含めた在外事業体の財務諸表 の換算が意図されているが,それらは,在外事業体を,親会社の事業にとって密接不可分な 構成部分となっている従属的な在外事業体と,そうではない独立的な在外事業体に分類して いる。在外支店は,通常,前者に属することが多いが,在外支店でも,現地で資金調達をし,

本店の事業とは別個の事業を営んでいる場合には,後者に属することになる。以下,(・)貸借 対照表の換算,(b)損益計算書の換算,および(・)換算差額の処理,に区分して検討することに

する。

   a 貸借対照表の換算

 会計基準第11号によると,貸借対照表上の流動資産,流動負債および長期負債項目は,決 算日レートで換算しなければならない(29項)。固定資産については,通常,歴史的原価概 念に合致するように,原初レート,つまり取引日レートで換算しなければならない(15項お よび30項)。ただし,固定資産に関連のある負債については,その決算日レートによる換算 インドの外貨換算会計      17  決算日(1989年12月31日)における仕訳:

  繰延為替予約差益 83,333 為替予約差益 83,333・一・250,000÷3=83,333   支払利息     113,000  現  金   113,000

 決算日(1990年12月31日)における仕訳:

  繰延為替予約差益  83,333  為替予約差益 83,333   支払利息     105,000  現  金   105,000  決算日=決済日(1991年12月31日)における仕訳:

  繰延為替予約差益  83,334  為替予約差益  83,334   外貨建借入金   950,000  現  金   950,000   支払利息     95,000 現  金   95,000 例2においても,

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