国際労働移動の方向
島田章
Abstract
In this paper, we deal with international labor movement in a two- country macroeconomic model to show that directions of international labor movement depend on factors initiating such movement. We in- vestigate cases where workers move between two countries because of differences in real consumption wages
•| nominal wages divided by the
consumer price index
•| and differences in expected real consumption
wages
•| real consumption wages multiplied by the probability of work-
ers being employed. We find that it is very likely that directions of in- ternational labor movement caused by differences in real consumption wages and expected real consumption wages are opposite.
1節 はじめに
本論文の目的は,国際労働移動をしょうじさせる要因の違いが国際労働移 動の方向を逆転させる可能性があることを明らかにすることである.具体的 には2国マクロ経済モデルにおいて国際労働移動が予想実質消費賃金率の差 によってしょうじるばあいと実質消費賃金率の差によってしょうじるばあい で,国際労働移動の方向が逆転する可能性があることを示す.
新古典派経済学的な方法による労働移動の分析はおもに,労働者全体の労 働移動の分析と労働者個人の労働移動の分析からなる.前者にはTodaro
(1969)やHarris and Todaro(1970)などがあり,後者にはTodaro and
2
経 営 と 経 済
Maruszko (1987)などがある.
これらの研究は国際労働移動と為替レートや政策当局の行動との関わりを 考慮、していないが, Agiomirgianakis(1998)は2国マクロ経済モデルをもち いて国際労働移動を分析することにより,国際労働移動と為替レートや政策 当局の行動との関わりを分析に反映させた1)
ところでAgiomirgianakis(1998)ではそれぞれの国の名目賃金率や雇用量 は,それぞれの国の組合と企業の交渉によって決定される.このため労働市 場は完全競争的ではなく,すべての労働者が雇用されるとはかぎらない.こ のような経済構造のもとで労働者は実質消費賃金率(三名目賃金率/消費者 物価指数)の低い国から実質消費賃金率の高い国へ移動すると仮定された.
Agiomirgianakis (1998)では労働の送り出し国の失業率や労働の受け入れ国 の失業率は国際労働移動に影響をおよぼさない.
しかし失業する可能性があるならば,労働者はかならずしも実質消費賃金 率の低い国から実質消費賃金率の高い国へ移動するとはかぎらないだろう.
たとえば実質消費賃金率の低い国ではほとんど確実に雇用され,実質消費賃 金率の高い国ではほとんど確実に失業するならば,労働者は実質消費賃金率 の低い国から実質消費賃金率の高い国ヘ移動しない.失業する可能性がある
1
)新古典派経済学をもちいた国際労働移動の分析の他には,新しい移民の経済学
(new economics of migration)が有力である。新しい移民の経済学によれば,労働移動は個人
ではなく家族によって決定され,家族の収入が不安定であるほど家族の構成員が外国
に働きに出る可能性が高い
(Stark1991).また新しい移民の経済学は,相対損失仮説
(relative deprivation hypothesis)を提唱する.
Stark( 1
984)や
Starkand Taylor( 1
991 ) な
どによれば,外国からの援助などによって所得格差が拡大すると,絶対的な所得が変化
しなくても相対的な所得が低下し,以前よりも貧しくなったと感じる人が増える.この
ことにより外国に働きに出る人が増える.
Massey et al.( 1
993,
1994)はさらに二重労働市
場論
(duallabor market theory),世界体制論
(worldsystems theory),ネットワーク論
(network theory),累積的因果関係
(cumulativecausation)などによる国際労働移動の説
明を紹介している.
ならば,労働者は実質消費賃金率の差ではなく予想実質消費賃金率(三実質 質消費賃金率×雇用確率)の差に関心をもっと考えられるから,予想実質消 費賃金率の低い国から予想実質消費賃金率の高い国へ移動すると仮定すべき である.現にTodaro(1969)やHarrisand Todaro(1970)は予想所得の差や予 想賃金の差によって労働移動がしょうじると仮定している.
そこで本論文は2国マクロ経済モデルにおいて国際労働移動が予想実質消 費賃金率の差によってしょうじると仮定し,予想実質消費賃金率の差によっ てしょうじる国際労働移動が実質消費賃金率の差によってしょうじる国際労 働移動とどのように異なるかを調べる.
本論文では,おもにつぎの結果が得られる.本論文はそれぞれの国の組合 が雇用量にかんする目的と実質消費賃金率にかんする目的の達成を目指し,
いっぽうの国の組合は実質消費賃金率にかんする目的の達成を相対的に重視 し,たほうの国の組合は雇用量にかんする目的の達成を相対的に重視すると 仮定する.このような仮定のもとでは,組合が実質消費賃金率にかんする目 的の達成を相対的に重視する国の実質消費賃金率は,組合が雇用量にかんす る目的の達成を相対的に重視する国の実質消費賃金率よりも高い.これにた いし組合が実質消費賃金率にかんする目的の達成を相対的に重視する国で労 働者が雇用される確率は,組合が雇用量にかんする目的を相対的に重視する 国で労働者が雇用される確率よりも低い.ところで予想実質消費賃金率(自 然対数表示)の差は,実質消費賃金率(自然対数表示)の差と雇用確率(自然対 数表示)の差の和である.したがってもし実質消費賃金率(自然対数表示)の 差が雇用確率(自然対数表示)の差よりも予想実質消費賃金率(自然対数表示) の差にたいし大きな影響をあたえるならば,雇用量にかんする目的の相対的 な重要性の高い国の労働者が実質消費賃金率にかんする目的の相対的な重要 性の高い国へ移動する.このようなばあい予想実質消費賃金率の差による国 際労働移動の方向は,実質消費賃金率の差による国際労働移動の方向と同じ である.いっぽうもし雇用確率(自然対数表示)の差が実質消費賃金率(自然
4
経 営 と 経 済
対数表示)の差よりも予想実質消費賃金率(自然対数表示)の差にたいし大き な影響をあたえるならば,実質消費賃金率にかんする目的の相対的な重要性 の高い国の労働者が雇用量にかんする目的の相対的な重要性の高い国へ移動 する.このようなばあい予想実質消費賃金率の差による国際労働移動の方向 は,実質消費賃金率の差による国際労働移動の方向と反対である.
実質為替レートの変化による貿易収支の変化が2国の国民所得の差の変化 による貿易収支の変化よりも大きければ,予想実質消費賃金率にたいする雇 用確率の差の影響は実質消費賃金率の差の影響よりも大きい.このようなば あい予想実質消費賃金率の差による国際労働移動の方向は,実質消費賃金率 の差による国際労働移動の方向と反対である.
本論文の構成は,以下のとおりである. 2節は .2国間で対称的な経済構 造, 2国間で非対称的な組合の目的関数および2国の予想実質消費賃金率の 差による労働移動を仮定し,構造方程式を解く. 3節はまず,組合の最適化 問題を解く.つぎに予想実質消費賃金率の差によってしょうじる国際労働移 動の方向を調べる.そして実質消費賃金率の差によってしょうじる国際労働 移動の方向との比較をおこない,国際労働移動をしょうじさせる要因の違い によって国際労働移動の方向が逆転する可能性があることを示す. 4節は,
本論文をまとめ,今後改善すべき点をあげる.
2
節 モ デ ル
本節は 2国間で労働移動が可能な経済をモデル化する. 2. 1節は2国 間で対称的な経済構造を仮定し, 2. 2節は2国間で非対称的な組合の目的 関数を仮定する. 2. 3節は予想実質消費賃金率の差によって国際労働移動 がしょうじることを仮定する. 2. 4節は2.1節で仮定した構造方程式を解
2.1節 2国間で対称的な経済構造
本論文は , ]固とA国からなる2国経済を想定する . ]国の経済構造とA 国の経済構造は対称的である . ]国とA国は 2国間での財の取引と労働移 動をつうじて相互に依存しあっている.それぞれの国の経済主体はつの 企業とすべての労働者が所属する1つの組合からなる.本論文は政策変更が 2国経済におよぼす影響を議論しないため,政策当局は経済主体として明示 的にモデルに表れない.
それぞれの国の名目賃金率と雇用量は,企業と組合のあいだでmonopoly union modelにしたがった交渉によって決定される2) すなわち組合は,労 働需要曲線によってあたえられる企業の利潤を最大にする名目賃金率と雇用 量の複数の組合せのなかから,組合の目的関数を最大にする名目賃金率と雇 用量の組合せを選ぶ.
2国間での労働移動が可能であるため , ]国出身の労働者がA国へ移動す ることやA国出身の労働者がJ国へ移動することができる . ]国出身の労働 者 (A国出身の労働者)がA国(J国)へ移るばあい , ]国組合 (A国組合)はJ
国出身の労働者(A国出身の労働者)だけからなり ,A国組合 (J国組合)はA 国出身の労働者 (J国出身の労働者)と
J
国出身の労働者 (A国出身の労働者) からなる.それぞれの国の企業は,それぞれの国の組合から労働者を雇って 1種類の 財を生産する . ]国企業 (A国企業)によって生産される財は , ]国 (A国)で 需要されるばかりでなく,輸出をつうじて
A
国 (J国)でも需要される.それぞれの国の貨幣市場はつである.貨幣が唯一の金融資産であり,
J
国通貨(A国通貨)はJ
国居住者(A国居住者)によってのみ保有されると仮 定する.2国経済の構造方程式をつぎのように仮定する.本論文の構造方程式は,
2) Monopoly union model
については,
Dunlop( l
944)や
Oswald(1985)などを参照せよ.
6
経 営 と 経 済
J ensen (1993), Zervoyianni (1997), Agiomirgianakis (1998)および島田(1999) などの構造方程式と同様である.変数は特に断らないかぎり,自然対数表示 である.
y=α1, y
牢
=al*,0く
αく1.
(1)ド‑古川)+占
lna,1*=‑占
ω‑附 占
lna ωZ 三
e+ρ * ρ ( 3 )y‑y*=bz, b>O. (4)
q
三
p+α,q*三
ρ牢 一
α,0く C く
1/2. (5)ωc 三 ω -q , w~ 三 ω *-q 牢 (6)
m=ρ+y, m*=ρ*+y
牢
(7)(1)式は , ]国企業の生産関数とA国企業の生産関数である . ]国企業の生 産高 (J国の国民所得)yはJ国の雇用量lによって決まり ,A国企業の生産 高(A国の国民所得)y* はA国の雇用量
f
によって決まる.それぞれの国の 資本ストックは一定(自然対数表示で0)と仮定する.αは自然対数表示され ていない定数である.(2)式は , ]国企業の労働需要関数とA国企業の労働需要関数である.ここ でωはJ国の名目賃金率, ρはJ国財価格 ,w*はA国の名目賃金率, ρ*は
A 国財価格である •
]国企業の労働需要関数はJ国企業の利潤最大化から導 出され ,A国企業の労働需要関数はA国企業の利潤最大化から導出される.すでに述べたように雇用量は労働需要によって決定されるから, (2)式をつう じて雇用量が決定される.
(3)式は,実質為替レート zの定義式である.ここでeは,A国通貨1単位 あたりのJ国通貨の単位数で測った名目為替レートである.
(4)式は , ]国の貿易収支均衡条件式とA国の貿易収支均衡条件式である.
2国経済であるため,これらは共通である . ]国財にたいする需要とA国財 にたいする需要は,実質為替レートの変化やy‑y*の変化によって変わる.
実質為替レートの減価(depreciation)すなわちzの上昇は , ]国財の競争力 を高めJ国財の輸出を増加させ ,A国財の競争力を低めA国財の輸出を減少 させる.またy‑y*の増加は , ]国の輸入を増加させ ,A国の輸入を減少さ せる. 2国間での資本移動がないので , ]国の貿易収支TBおよびA国の 貿易収支TB*は,
TB=‑TB*=α1Z
一
α2(y‑y*),α10α2>0,と表される.ごごで αl'α2 は自然対数表示されていない定数である •
]国の 貿易収支とA国の貿易収支が均衡するためには,y‑y*= α(dα2)Z,
が成立しなければならない.αdα2を bで置き換えれば(4)式が得られる.実 質為替レートの変化がy‑y*の変化よりも貿易収支を大きく変化させるなら ばb>lであり ,y‑y*の変化が実質為替レートの変化よりも貿易収支を大
きく変化させるならば b く l である •
bは自然対数表示されていない定数で ある.(5)式は , ]国の消費者物価指数qの定義式とA国の消費者物価指数どの 定義式である . ]国の消費者物価指数をJ国財価格(非自然対数表示)とJ国 通貨表示の A国財価格(非自然対数表示)の幾何平均の自然対数値とし ,A国 の消費者物価指数をA国財価格(非自然対数表示)とA国通貨表示の
J
国財価 格(非自然対数表示)の幾何平均の自然対数値とする.これらと (3)式から, (5) 式が得られる .cは自然対数表示されていない定数である.(6)式は , ]国の実質消費賃金率ωcの定義式と A国の実質消費賃金率w;
の定義式である.
(7)式は , ]国の貨幣市場の均衡条件式とA国の貨幣市場の均衡条件式であ る.ここで m はJ国の名目貨幣ストック m*は
A
国の名目貨幣ストック である.すでに述べたように本論文は,政策変更が2国経済におよぼす影響 を議論しない.このためmとm*は分析をつうじて一定であると仮定する.8
経 営 と 経 済
2.2節 2国間で非対称的な組合の目的関数
本論文は]ensen(1993), Zervoyianni(1997) , Agiomirgianakis(1998)およ び島田(1999)などと異なり , ]国組合の目的関数とA国組合の目的関数が非 対称的であると仮定する.
u= ‑(t‑lf)2+gwc' U
牢 =‑
(t*-I*f)2+g*w~ , g>g*>O.ここで lfは
J
国の完全雇用量でJ
国組合の雇用量の目標値,l*fはA国の完 全雇用量でA国組合の雇用量の目標値である3) それぞれの国の組合は,現 実の雇用量を完全雇用量に近づけることと実質消費賃金率を高めることを目 指す .g>g*は, ]国組合にとっての実質消費賃金率にかんする目的の雇用 量にかんする目的にたいする相対的な重要性がA国組合にとっての実質消費 賃金率にかんする目的の雇用量にかんする目的にたいする相対的な重要性よ りも高いことを意味している.gとfは,自然対数表示されていない定数 である.2.3節予想実質消費賃金率の差による国際労働移動
本論文は予想実質消費賃金率の差によって2国間で労働移動がしょうじる と仮定する4) 本論文はこの点でAgiomirgianakis(1998)と大きく異なる.
本論文は , ]国の予想実質消費賃金率がA国の予想実質消費賃金率よりも高 ければ(低ければ), A国出身の労働者(J国出身の労働者)がJ国(A国)へ移 動すると仮定する.
具体的にはJ国のすべての労働者が等しい確率で雇用されることとA国の すべての労働者が等しい確率で雇用されることを仮定する.このようなばあ い
J
国の予想実質消費賃金率は 1‑lf+Wcと表され ,A国の予想実質消費賃3
)両国の完全雇用量は,
2.3節で定義する.
4 )ただし 3 節では比較のために実質消費賃金率の差によって 2国間で労働移動がしょうじ
るばあいも検討する.
金率は [*_[*I+W~ と表される.そしてもし,
[̲[1+ωc> [*̲[*1
+w~ ,
ならば A 国出身の労働者が d{[_[I+wc
一
([*-[牢1+ ω~)} だけ J 国へ移動し,もし,
[̲[1+ωc
く
[*̲[*1+ω7,ならば J 国出身の労働者が d {Z*-[ザ+ω~_([̲[1+ω'J}だけA国へ移動す ると仮定する.dは,自然対数表示されていない正の定数である.
このような仮定のもとでは
J
国の完全雇用量yとA国の完全雇用量[*1は それぞれ,[1 = I+d{[‑[I
+ ωc 一 ([*_[*1+ ω~)}
, [*I=I*+d{Z*‑[*1+ ω~-
([̲[1 +wJ},(8.1) (8.2) と定義される.ここで7は国際労働移動がおこらないばあいのJ国の完全雇 用量 ,1*は国際労働移動がおこらないばあいのA国の完全雇用量である.
1=1*を仮定するの.
組合の目的関数,予想実質消費賃金率および完全雇用量の仮定から明らか なように,本論文は外国人労働者を含むすべての労働者が組合への参加と雇 用にかんして等しい機会をもっていると仮定する.
2.4節雇用量,国民所得,財価格,実質為替レート,消費者物価指数 および実質消費賃金率
(1)式から(7)式をもちいて,]固とA国の雇用量,]国とA国の国民所得(生 産高), ]国財価格とA国財価格,実質為替レート, ]国とA国の消費者物 価指数, ]固と
A
国の実質消費賃金率をJ国とA
国の名目賃金率とJ固とA
国の名目貨幣ストックの関数として表す.5) 3
節で
1=1*に具体的な値を仮定する.
n u
‑ ‑
l=m‑w+1na.
l*=m*‑u戸+lnα. y=α(m‑w) +α1nα. y*=α(m*‑w
牢
)+α1na・
ρ= (1‑a)m+aw‑a1na
・
ρ
牢
=(1‑a)m牢
+αω*ー α1na.イ
{m‑w‑(m*‑w*勺)}q=(一α十写切)(切m一切切卸ω)+m一ヲ(mが*一Wが州*勺)一d q*= 一(α+T切)(mが*一
W
〆凶*勺)+m*一す(切m一ωω)一d ω叫
c=か(1ト一α+ヲ切)(ωω一mω)一写(ωωV勺)牢+a1W叫~=
か(l一a+呼吻管切)(ω一牢mが州牢勺)一写(ωω m)十伽経 営 と 経 済
(9.1) (9.2) (9.3) (9.4) (9.5) (9.6) (9.7)
(9.8)
(9.9)
(9.10)
(9.11)
貨幣市場の均衡条件式((7)式)をみたす国民所得と財価格の組合せによって できる曲線を総需要曲線とよべば,総需要曲線は右下がりである.また縦軸 に財価格をとり,横軸に国民所得をとれば,総需要曲線は名目貨幣ストック の増加によって右上にシフトする.それぞれの国の労働需要関数((2)式)をそ れぞれの国の生産関数((1)式)に代入した式をみたす国民所得と財価格の組合 せによってできる曲線を総供給曲線とよべば,総供給曲線は右上がりであ り,名目賃金率の上昇によって左上にシフトする.それぞれの国の国民所得 と財価格は,それぞれの国の総需要曲線と総供給曲線の交点であたえられ る.名目貨幣ストックの増加は国民所得と財価格を大きくし,名目賃金率の 上昇は国民所得を減少させ財価格を上昇させる((9.3)式, (9.4)式, (9.5)式 および(9.6)式参照).国民所得が雇用量の増加関数であるから,名目貨幣ス トックの増加は雇用量を増加させ,名目賃金率の上昇は雇用量を減少させる ((9. 1)式および(9.2)式参照).
J国の名目貨幣ストックの増加またはJ国の名目賃金率の低下は, ]国の 国民所得の増加をつうじて
J
国の純輸出を減少させる. ]国の貿易収支が均 衡するためには,実質為替レートが減価 (zが上昇)しなければならない((9.7)式参照).A国の名目貨幣ストックの減少またはA国の名目賃金率の 上昇は ,A国の国民所得の減少をつうじてA国の純輸出を増加させる. A国 の貿易収支が均衡するためには,実質為替レートが減価 (zが上昇)しなけれ ばならない((9.7)式参照).
J国の名目貨幣ストックの増加は直接的にJ国財価格を上昇させる((9.5) 式参照)とともに,間接的にJ国の国民所得の増加と実質為替レートの減価
(zの上昇)をつうじてJ国通貨表示のA国財価格を上昇させる.このためJ
国の名目貨幣ストックの増加は, ]国の消費者物価指数を上昇させる((9.8)
式参照).これにたいしJ国の名目賃金率の低下は直接的にJ国財価格を低 下させる((9.5)式参照)いっぽう,間接的に
J
国の国民所得の増加と実質為 替レートの減価 (zの上昇)をつうじてJ国通貨表示のA国財価格を上昇させ る.このためJ
国の名目賃金率の低下がJ
国の消費者物価指数におよぼす影 響は定まらない((9.8)式参照).A国の名目貨幣ストックの増加またはA国の名目賃金率の低下は ,A国の 国民所得の増加と実質為替レートの増価(appreciation,zの低下)をつうじ て, ]国通貨表示のA国財価格を低下させる.このためA国の名目貨幣スト ックの増加またはA国の名目賃金率の低下は, ]国の消費者物価指数を低下 させる((9.8)式参照)•
I国の名目貨幣ストックの増加 ,A国の名目貨幣ストックの減少またはA 国の名目賃金率の上昇は
J
国の消費者物価指数の上昇をつうじて, ]国の実 質消費賃金率を低下させる((9.10)式参照).J国の名目賃金率の上昇は,直接的にJ国の実質消費賃金率を上昇させる.
またJ国の名目賃金率の上昇は実質為替レートの増価 (zの低下)とJ国の消 費者物価指数の低下をつうじて,間接的に
J
国の実質消費賃金率を上昇させ12
経 営 と 経 済
る.いっぽうJ国の名目賃金率の上昇はJ国財価格の上昇とJ国の消費者物 価指数の上昇をつうじて,間接的にJ国の実質消費賃金率を低下させる.前 二者の効果が後者の効果を上回るので , ]国の名目賃金率の上昇はJ国の実 質消費賃金率を上昇させる((9.10)式参照).
A国の名目貨幣ストックの増加は直接的にA国財価格を上昇させる((9.6)
式参照)とともに,間接的にA国の国民所得の増加と実質為替レートの増価 (zの低下)をつうじて
A
国通貨表示のJ
国財価格を上昇させる.このため A国の名目貨幣ストックの増加は ,A国の消費者物価指数を上昇させる ((9.9)式参照).これにたいしA国の名目賃金率の低下は直接的にA国財価 格を低下させる((9.6)式参照)いっぽう,間接的にA国の国民所得の増加と 実質為替レートの増価(zの低下)をつうじてA国通貨表示のJ
国財価格を上 昇させる.このためA国の名目賃金率の低下がA国の消費者物価指数におよ ぼす影響は定まらない((9.9)式参照)•J
国の名目貨幣ストックの増加またはJ
国の名目賃金率の低下は , ]国の 国民所得の増加と実質為替レートの減価(zの上昇)をつうじて ,A国通貨表 示のJ
国財価格を低下させる.このためJ
国の名目貨幣ストックの増加また はJ
国の名目賃金率の低下は ,A国の消費者物価指数を低下させる((9.9)式 参照).A国の名目貨幣ストックの増加 , ]国の名目貨幣ストックの減少またはJ
国の名目賃金率の上昇は ,A国の消費者物価指数の上昇をつうじて ,A国の 実質消費賃金率を低下させる((9.11)式参照).
A国の名目賃金率の上昇は,直接的にA国の実質消費賃金率を上昇させる.
またA国の名目賃金率の上昇は実質為替レートの減価 (zの上昇)とA国の消 費者物価指数の低下をつうじて,間接的にA国の実質消費賃金率を上昇させ る.いっぽうA国の名目賃金率の上昇はA国財価格の上昇とA国の消費者物 価指数の上昇をつうじて,間接的にA国の実質消費賃金率を低下させる.前 二者の効果が後者の効果を上回るので ,A国の名目賃金率の上昇はA国
の実質消費賃金率を上昇させる((9.11)式参照).
3
節 国 際 労 働 移 動
本節はまず,それぞれの国の完全雇用量を両国の名目賃金率と両国の名目 貨幣ストックの関数として表す.つぎに組合の最適化問題を解き,それぞれ の国の雇用量,実質消費賃金率および雇用確率を求める.そして予想実質消 費賃金率の差を実質消費賃金率の差と雇用確率の差によって表し,国際労働 移動の方向を決定する.さらに予想実質消費賃金率の差によってしょうじる 国際労働移動の方向を実質消費賃金率の差によってしょうじる国際労働移動 の方向と比較する.
(9.1)式と(9.2)式から, ]国の雇用量とA国の雇用量の差は,
1‑1
牢
=‑{ω‑m‑(ω牢
‑m*)},' a i ハ U ︑ ︑ ︐ ︐ 〆
/l
︑であり,また(9.10)式と(9.11)式から, ]国の実質消費賃金率とA国の実質 消費賃金率の差は,
i ノ
ac¥ωc-w~=(l-a+ τ){ω -m ー(がーが)
,}' t 〆 ︑ ︑
唱EEA 唱EA︑ ︑ ︐ ︐ 〆
である.(10)式と(11)式をJ
国の完全雇用量の定義式((8.1)式)とA国の完 全雇用量の定義式((8. 2)式)に代入する.日)〆一
dl叫‑ ; ‑ ' " .( ,
2ac¥‑dlf+ (1 +d)l*f=l*‑d( ‑a+
¥
~,一
b } ){ω‑m‑(がーが)}• これらの式をlfと l*fについて解くと,d(‑α+
矧
lf=l+¥l+2dO/{ω‑m‑(ω*‑m*) } , (12. 1)
14
経 営 と 経 済
d!‑α+
矧
l
牢
I=Z*十 ¥ O~{ω*-m 宇一 (w-m) },
1+2d (12.2)
が得られる6). ここでd(‑a
十
α2CIb) / (1 + 2d)の符号は定まらない.J
国組合(A国組合)は ,A国 (J国)の名目賃金率と両国の名目貨幣ストッ クを所与として , ]国 (A国)の名目賃金率を操作することにより J国組合 (A国組合)の目的関数の最大化を目指す . ]国組合の最適化問題は,max U subject to (9.1), (12.1), (9.10), であり ,A国組合の最適化問題は,
m.ax U* subject to (9.2)
,
(12.2),
(9.11),
である.
J国組合の目的関数最大化の 1階条件は,
( 1
ι ア
))cm‑w)̲d(一
α呼
)(m‑w)‑‑d‑4‑
2jl+~(-a十字) 1 '
1 +2d
(13.1) であり ,A国組合の目的関数最大化の l階条件は,
批 一
b一n m
d一 上
+ 一 十
α
一
α一 寸 l 一
2一 一 一 一
1/ I I I
‑ d
一
ど 一 +
一2
一 一
川
w
m
初 一 ム
d
ー ﹁ ー 一 日 ノ
σ 工
id 帥
w + +
一
m
p
し 一 一α 7 h U 9 u
一つ d
ー ﹁ ー 一 n L
σ
一 十 J u w
一
(13.2) である. (13.1)式および(13.2)式から,
6 )モデルを解くさい,計算の簡単化のために ,
l=l*=lnaを仮定する.
m‑w
1‑a+竿 l‑a十竿
=‑l d(‑G:
判
(g+g*) 4n+u
、
(g‑g*),m'‑w
牢 牢
(14. 1)
l
一
α+竿 1‑a+竿o
、
(g+g*)+‑(‑‑.1 けi o n ( g ‑ g * ), rd(-a+~判 r 2 d (
‑a+2~c)
14H+、
I J
~i 4~ 1-1、 H~H1 + 2d I ":t I
~ I
1 + 2d I I(14.2) が得られる.ここで1+d( ‑a+2ac!b) / (1 +2d) >0,1 +2d(‑α+2ac!b) / (1 +2d)
>0である.
(14.1)式および(14.2)式から,
l‑α+竿
‑ ‑ D
(‑a与 n r z d (
‑a十 字
IT(g‑g*)く
0,(14.3)I J. I 1 + 2d 1 1 J. I 1 + 2d が得られる.
(14.1)式を(9.1)式に代入し,
(1 4.2) 式を (9.2) 式に代入する •
]国の雇用 量とA国の雇用量はそれぞれ,l‑a+竿 l‑a+竿
l= 7
. f ,
2~c\ 1 (g+ g*)一
( ) i o川
(g‑g*),411
+~(-a+ず)lJl+d(-4III
1 + 2d1
":t1
~ I 1 + 2d1 1
J. I 1 + 2d(15. 1) 1‑a+竿 1‑a+竿
=7*‑ ~川 (g+g*) + ( ?n
l ' ¥
1( Q ? / 1 1 ' ¥
1 (g‑g*),l i d
(‑a+判
4~1
+、 df L ‑ ! ‑
iI4~ 十日
"71J. I 1+2d IIJ. I 1+2d(15.2)
16
経 営 と 経 済
と決まる.
(15.1)式および(15.2)式あるいは(10)式および(14.3)式から,
l‑α+竿
')nA'
ペ
2ac¥1 (g‑g*)く
0, 一 円J1,引寸d引d寸(ト一寸α叶 + 竿 豹 引 ) バ │ 札
1f,2μ叶
2ddI J.
,
1 + 2d I I J.,
1 + 2d(15.3)
が得られる. (15.3)式によれば,実質消費賃金率にかんする目的の相対的な 重要性が高く雇用量にかんする目的の相対的な重要性が低いJ国組合の雇用 量は,実質消費賃金率にかんする目的の相対的な重要性が低く雇用量にかん する目的の相対的な重要性が高いA国組合の雇用量よりも小さい.
(14.1)式と(14.2)式を(9.10)式と(9.11)式に代入する . ]国の実質消費賃 金率とA国の実質消費賃金率はそれぞれ,
一 一
(l‑G)(l‑J) (lーイ)(l‑a+均日
l + A l h 4 M M a l t4~1+
I J., '.,
1 +n.
2d !I'~ I ..4‑1I J.' 1+ い字'.,
1 + 2nY'~11+
d 1L )Iド ,
2dL'.,
1+2十字~
n.u'~ d I (g‑g*),、 , 、 , 、 ( 1 6.1)
一 一
(l‑a)(1‑J) (lーイ)(l‑a+均一
+ { n b l(g+f)
一
{ l i b l(g‑f),‑ i
ld(‑a+プ ) 1 '
5 '5 / J1 I d(‑a十字)1[1I 2d(-Jjf)l'~
‑ . .
I J.
,
1 + 2d I ..‑I J.' 1 + 2d I I J.
,
1 + 2d I, 、 , 、 ,
(16.2) と決まる.
(16.1)式および(16.2)式あるいは(11)式および(14.3)式から,
*
ー (lーイ)(1‑α+
字 )
‑ J ぃ
d(‑a十字)1 r1
, 叶
2a十字nCげ
)>0 (16.3)臼 IJ . ' 1 + 2d I I J. , 1 + 2d
が得られる. (16.3)式によれば,実質消費賃金率にかんする目的の相対的な 重要性が高く雇用量にかんする目的の相対的な重要性が低いJ国組合の実質