国際労働力移動の空間
―フローから見た地域間移動と域内移動―
*平 岩 恵里子
1.はじめに 国際労働力移動を観察するには,主にストックのデータが利用され,国・地域間移動の量的な把 握から,様々な経済・社会面から受入れ国や送出し国に関する分析に使われる。その主な分析に利 用されるのが,UN DESA(国連経済社会局)による 232 の国・地域に関する移民のストックデー タ(男女別・年齢別)である1)。また,OECD 諸国のストックデータに限られるものの,OECD に よる公表データ(Database on Migration)も先進諸国に関する分析に利用される。World Bank も,およそ 200 の国・地域間における移動をストックデータとして公表している(Migration and Remittances Data)。 他方,フローに関しては,その把握の難しさから,世界の国・地域をカバーする十分なデータが 存在しないのが実情である。国によって統計データを把握するための機関が不十分である場合も多 く,フローの概念そのものが統一されていないことも原因である。UN DESA もフローに関してデー タを公表しているが,45 か国の統計に限られている。OECD が把握するフローのデータはもちろ ん OECD 諸国に限られる。したがって,グローバルな空間におけるフローベースの国・地域間移 動の比較は困難なことであった。そのような中,研究者はストックデータでは語られない人々の移 動やその背景を映すフローのデータを明らかにしようとしてきた。Abel(2013)は,比較研究に利 用できるフローのデータが欠落していることの背景として,1)送出し国や受入れ国など,国毎にデー タの収集方法や取り方に違いがある,2)フローのデータは国毎にそれぞれの担当機関が収集するが, その目的はひとえに自国が望むデータが優先される,3)多くの国では,フローのデータそのもの を収集するシステムを持たない,という点を挙げている。同論文では,一連のストックデータから フローのデータを推測する初の試みをしており,それを用いて Abel and Sander (2014)は 1990 年 から 2010 年の 20 年間における 196 か国の二国間フローデータを,5 年毎の 4 期に分けて提示する に至っている。そこで,本論文では,Sander, Able and Bauer(2014)による The Global Flow of People で得られ * 本研究は,南山大学 2019 年度パッヘ研究奨励金Ⅰ―A―2 の助成を受けている。感謝の意を表したい。
1) International migration stock: The 2017 revision では,すべての国・地域について,年齢別,性別,出身国別に, 1990 年から 2015 年まで 5 年間毎のストックデータが利用できる。
国際労働力移動の空間 86 るデータを利用し,1990 年以降 20 年間の地域間・地域内のフローを整理し,世界における人々の 移動の様相を把握する。その目的は,日本が置かれている国際労働力移動の空間がどのようなもの であるかを提示することにある。日本は建設,農業,介護,造船などの分野において人手不足が深 刻化していることを理由として,2019 年 4 月より新たな在留資格「特定技能」を創設した。日本 政府の外国人労働者受入れの方針は,専門的な職種のみを対象とした在留資格に限られており,い わゆる未熟練労働の受入れは認めていなかった。しかし,例えば日本の技術移転を目的とした「実 習制度」のもとで受け入れた実習生が実際には未熟練労働者として就労しているとの批判もあり, 今回の「特定技能」の創設はそうした批判に対応し,かつ,労働力不足解決のための政策と捉える ことができる。日本における外国人登録者数は 2018 年において 263 万人を超え,過去最高を記録 している。なかでも,ASEAN 諸国の出身者の増加が著しく,総数に占める割合は中国(28%)に 次いで 22%まで伸びている(法務省,2019)。どのような国から,どのように労働者を受け入れる のか,を考察するにあたって,日本を取り巻く人々の移動空間の様相を知ることは,これから日本 が送出し国と受入れ国の関係をどのように構築していくか,という課題を考えるうえで重要であろう。 以下,第 2 節において,Abel and Sanders(2014)に従い,世界を 10 の地域に分け,それぞれの 地域間とその域内の移動をどのように整理するか述べ,第 3 節でそれぞれの地域の様相と特徴を明 らかにする。その考察をもとに,第 4 節の結論では,日本の外国人労働者政策への含意を考察する。
2.Abel and Sanders(2014)によるデータの整理と得られた知見
Czaika and de Haas(2015)は,社会・経済のグローバル化を受けて国際的な人の移動パターン がどのように変化してきたか,を理解するには,移動のボリューム(ストックの変化)だけでな く,移動の空間パターンがどのように変化しているかを観察する必要があると主張する。また,グ ローバリゼーションがもたらす変化は一様ではなく,地域毎に異なっており,同時に移民がどこか らどこへ移動するかについても同じパターンにはならない,と指摘している。その点で,Abel and Sanders(2014)が 196 か国における二国間での移動フローのデータを提示したことは,ストックデー タを基本として分析されてきた移動の様相に空間的な広がりをもたらすものである。彼らは,国連 (U.N.)が提供している移民ストックについて,1990 年,2000 年,2010 年のデータを用いている。 当該データは,国勢調査などから得られる出生地データに基づいており,1995 年と 2005 年の中間 年のデータを用いて 1990 年から 2010 年までの 5 年毎の変化を測り,Iterative Proportional Fitting (IPF)法2) を発展させストックデータの変化に合致するように人々の移動(フロー)を推計している。 その推計を 196 か国間で行い,最終的に circular plot (図 1)に落とし込み,移民がいつ,どこへ(国 と地域)移動したのか,をフローの大小と移動の方向性を視覚的に分かるようにした。地域の区分 は,北アメリカ,ラテンアメリカ,オセアニア,東南アジア,東アジア,南アジア,西アジア,旧 ソ連,ヨーロッパ,アフリカ,の 10 地域である。
本稿では,こうして Abel and Sanders(2014)が明らかにしたフローのデータを利用し,1990 年 2) Deming and Stephan(1940)によって提案され,表形式で表される各セルの数値を行及び列のそれぞれの合計 値に一致することを条件に,繰り返し計算で修正していくものである。本稿における移民フローの推計に関する詳 細な手法は Abel(2013)に述べられている。
から 2010 年まで,5 年間毎のフローのデータを地域毎に観察する。特に域内移動(同一域内への移動・ 同一域内からの移動)と域外移動(域外への移動と域外からの移動)にどのような変化と特徴があ るか,を明らかにする。その目的は,1 節でも述べたように,政策上は未熟練労働者に門戸を閉ざ していたものの 2019 年 4 月より方針を変え,未熟練労働者受入れを開始した日本をアジア地域に おいて起きている人々の移動空間に置いた時,グローバルな位置付けはどのように解釈できるか, を考察することである。また,アジア出身,特に ASEAN 諸国出身の在留外国人が急増している中で, 経済発展を遂げているアジアにおける人の移動が従来の米国やヨーロッパにおける人の移動と異な る様相を見せているのではないか,という視点を得ることも目的としたい。
次節に移る前に,Abel and Sanders(2014)が国毎のフローのデータから何を考察したか,確認 しておこう。まず,1990 年から 2000 年の 5 年間におけるフローとストックのデータからは,先進 諸国(more developed countries)内移動,及び後発開発途上国(least developed countries)3)から 開発途上国(less developed countries)への移動において,フローのデータはストックのデータよ りそれぞれ 13%,6%,低くなっている一方,後発開発途上国域内の移動に関してはフローで見る とストックより 7%高いことが示された。その原因として,当時,いわゆる「鉄のカーテン」が崩 壊したこと,また,アジアとアフリカで紛争が起きたことを指摘している。ストックデータでは, こうした現代社会における変動を捉えきれないことを示唆する。地域別の推計では,1990 年から 2010 年の 20 年間で最も大きなフローの動きが観察されたのは,南アジアから西アジアへの移動, ラテンアメリカから北アメリカへの移動,そしてアフリカ域内での移動,であった。アフリカにお ける人の移動が増加していることが,今後,移民のグローバルな移動パターンを形作るうえにおい て重要な要素になる,と従来の指摘があるものの,フローから見れば,圧倒的に域内の移動に過ぎ 3) 2018 年 12 月現在,アフガニスタンなど 47 か国が国連総会で認定されている。 図 1 地域間・地域内のグローバルな人の移 動(フロー)を示す circlular plot 出所) The Global flow of People by N.Sander,
G.J.Abel & R.Bauer from http://douwnload. gsb.bund.de/BIB/global_flow/
国際労働力移動の空間 88 ず,必ずしも注目すべき移動にはなりえないのではないか,と指摘している点は重要であろう。プッ シュ・プル理論が応用できるとするならば,アフリカにおける教育水準が上昇し,より高い技術を 持つ人々が増え,そこで初めてアフリカから先進国への移民が増加するのではないか,と Abel and Sanders(2014)は指摘している。 以上を踏まえて,次節では,地域毎にフローの動きと域内・域外移動の様相を見ていく。 3.フローから見た地域間と域内における人の移動 本節では,北アメリカ,ラテンアメリカ,東南アジア,東アジア,南アジア,西アジア,旧ソ連, ヨーロッパ,アフリカの 9 地域における移動におけるフローの様相と,域内移動シェアについて見 ていく4)。域内移動シェアは,「域内からの流入シェア」と「域内への流出シェア」で表す。「域内 からの流入シェア」は,流入してくる移民の出自が域内の国々である割合を,「域内への流出シェア」 は,移民として向かう先が域内の国である割合を指す。したがって,域内からの流入シェアが低い, ということは,その地域は域外から流入してくる移民が多いことを意味する。逆にそのシェアが高 い,ということは,同じ域内の隣国から流入してくる移民が多いことを指す。他方,域内への流出 シェアが低い,ということは,域外に移動先を選択する移民が多いことを意味し,そのシェアが高 いことは,多くが同じ域内の隣国へ移動している,ということを意味する。 それではまず北アメリカから見ていく(図 2)。流入が流出を上回っているのは改めて直感通り であり,その数においても 1990 年代後半の 5 年間で 900 万人を超えているのはこの地域だけである。 1990 年代後半の 5 年間を除き,域内からの流入シェアも域外への流出シェアも低いことは,アメ リカやカナダは移民先として選択されていることを確認できる。域外への流出シェアが突出してい る 1990 年代後半の 5 年間であるが,その前後する期間においてはカナダからの移民は欧州に向かっ ているが,この期間のみ欧州ではなく米国へ移動していることが観察される5)。 北アメリカと表裏の関係にあるラテンアメリカ(図 3)の特徴も直感通りで,移民の送出し地域 であり,その多くは域外に流出している。域外から流入も少なく,流入の動きはほぼ域内国からの ものである。 次にアジア地域を見ていく。東南アジア(図 4)は ASEAN 加盟国の地域として集計している。 送出し地域であり,なかでも 2000 年からその数が増加している。それ以前は米国への移民が多数 を占めていたが,2000 年以降は欧州や中東の産油国である西アジアも目的地となったことが増加 の原因である。また,域内流出シェアが 40%前後と比較的高く,域内流入シェアがさらに高くなっ ている点が特徴である。これは,域内での移動も盛んであることを示し,特にミャンマー,カン ボジアからタイへの流入が急増している点が注目される。こうした動きは,ASEAN 諸国が経済発 展を遂げつつあり,経済連携による貿易や投資活動が活発になっていることと軌を一にしている。 1995 年以後の 5 年間に域外への流出が減少し,域内流入シェアも低下している(それ以前と比較し, 域内からの流入する割合が減少)のは,それまではタイからヨーロッパやアジアの他地域に流出し 4) オセアニア地域を除いた。ニュージーランドとオーストラリアの 2 国のみであり,フローの数の点において他地 域に比較して少ないためである。 5) その背景については,今後の検討課題としたい。
ていたが,この期間にその流れがなくなっていることが一因となっている。その後 2000 年以降は 上述したようにタイは移民の受入れ国になっているのである。タイを発信源とするアジア通貨危機 がフローの流れを変える契機となっている可能性がある。 東アジアは中国を抱えており,送出し地域である(図 5)。2000 年から流出が急増しているのは, 中国から米国への移民である。中国−米国間の移民数は,メキシコ−米国間,インド−アラブ首長 国連邦間に続くボリュームである。日本においては,やはり 2000 年代になってブラジルからの流 入に代わり ASEAN 諸国からの流入が増加しており,日本における在留外国人に占めるシェアは中 国,韓国に続く。域内流出シェアより域内流入シェアが比較的高いのは,受入れ地域であると同時 に,域内での移動が顕著であることも示す。 図 2 北アメリカにおける移民フローと域内移動 シェア
出所) The Global flow of People by N.Sander, G.J.Abel & R.Bauer from http://douwnload.gsb.bund.de/BIB/ global_flow/ 筆者作成
図 3 ラテンアメリカにおける移民フローと域内移 動シェア
出所) The Global flow of People by N.Sander, G.J.Abel & R.Bauer from http://douwnload.gsb.bund.de/BIB/ global_flow/ 筆者作成
図 4 東南アジアにおける移民フローと域内移動 シェア
出所) The Global flow of People by N.Sander, G.J.Abel & R.Bauer from http://douwnload.gsb.bund.de/BIB/ global_flow/ 筆者作成
図 5 東アジアにおける移民フローと域内移動シェア 出所) The Global flow of People by N.Sander, G.J.Abel &
R.Bauer from http://douwnload.gsb.bund.de/BIB/ global_flow/ 筆者作成
国際労働力移動の空間 90 南アジアと西アジアにおける流出入はユニークである(図 6,図 7)。まず,南アジアは 1990 年 代前半に大規模な流出(約 7 百万人)と流入(6.5 百万人)を同時に経験している。域内流出シェ アと域内流入シェアの高さが物語るように,域内での移動がほとんどであり,パキスタンからア フガニスタンへの移民が占めていた。しかし,1990 年代後半に入り,両国の紛争によりその流れ は止まり,代わって中東産油国が移民の目的地となった。そのことが,域内流出シェアの低下に つながっている。以降,引き続いて同地域は産油国に労働力を提供する移民プールとなっている。 結果として,西アジア(図 7)はその裏返しとなっている。西アジアはアジア地域で唯一,受入れ が送出しを上回る地域である。2000 年以降,産油国の多くは南アジアから移民を受け入れており, 2005 年からの 5 年間で約 4.6 百万人がバングラデシュやインドから西アジアに向かっていた。した がって,域内流入シェアは低くなっており,域内流出シェアは高く域内に目的地があることになる。 ヨーロッパは移民の受入れ地域であるが(図 8),2000 年以降,その数は増加している。域内流 入シェアが低くなりつつあるのは,域外からの移民流入が増加していることを意味する。他方,域 図6 南アジアにおける移民フローと域内移動シェア 出所) The Global flow of People by N.Sander, G.J.Abel &
R.Bauer from http://douwnload.gsb.bund.de/BIB/ global_flow/ 筆者作成
図7 西アジアにおける移民フローと域内移動シェア 出所) The Global flow of People by N.Sander, G.J.Abel &
R.Bauer from http://douwnload.gsb.bund.de/BIB/ global_flow/ 筆者作成
図 8 ヨーロッパにおける移民フローと域内移動 シェア
出所) The Global flow of People by N.Sander, G.J.Abel & R.Bauer from http://douwnload.gsb.bund.de/BIB/ global_flow/ 筆者作成
内流出シェアは 80%を超えており,ヨーロッパから域外を目的地として流出する移民は少数であ る。流入する移民の出身国は様々な地域に散らばっており,長距離移動も多く,そうした多様性が ヨーロッパの特徴と言えよう。 旧ソ連については,圧倒的に域内の移動である点が特徴である(図 9)。2000 年代に入って流出 は減少傾向にあり,その多くは域内の隣国に移動している。その意味で移動先の多様性に欠けてい るのが旧ソ連地域である。 アフリカも 2000 年以降,移動数は減少しているものの(図 10),2000 年以降,流出が流入を上 回る地域である。域内流入シェアが 90%を超えているのは,Abel and Sanders(2014)が指摘した ように,アフリカに流入する移民は,アフリカ域内の隣国から流入しているのであり,域内移動が 特徴となっていることが確認できる。
4.結論
本稿では,国際労働力移動研究の基礎となる人の移動に関するデータ整備状況について概観し, 近年,推計手法が進んできた二国間移動におけるフローのデータの中でも,1990 年から 2010 年の 20 年間における 196 か国の二国間フローデータを推計した Abel and Sanders(2014)の知見を用いて, 地域毎の移動を整理しその特徴を考察した。以下,改めて特徴を概観したのち,日本をどのように 位置付けることができるのか考察する。 北アメリカにおけるフローの動きは,1990 年代後半の 5 年間を除いて大きな変化はなく,ラテ ンアメリカ,及びアジア地域など域外から移民の受入れ地域であり続けている。ラテンアメリカも またフローの動きに大きな変化がない点では北アメリカと同様であり,一部ヨーロッパへの移動が あるものの,メキシコからアメリカへの移動を中心として域外への移民送出し地域であり続けてい る。 一方,フローの方向性やボリュームに変化があり,かつ域内移動が観察されるのがアジア地域 である。まず,東南アジアは地域全体としては受入れ地域であるが,2000 年以降,それまで送出 し国であったタイが受入れ国になり,隣国のミャンマーやカンボジアから流入が続いていることも 図9 旧ソ連における移民フローと域内移動シェア 出所) The Global flow of People by N.Sander, G.J.Abel &
R.Bauer from http://douwnload.gsb.bund.de/BIB/ global_flow/ 筆者作成
図10 アフリカにおける移民フローと域内移動シェア 出所) The Global flow of People by N.Sander, G.J.Abel &
R.Bauer from http://douwnload.gsb.bund.de/BIB/ global_flow/ 筆者作成
国際労働力移動の空間 92 あり,東南アジア地域は域内での移動が盛んな点が特徴である。タイを中心とした ASEAN 諸国は 貿易や投資を中心として経済発展の軌道に乗りつつあることも背景にあろう。東アジアも域内流入 シェアが 60%前後と高く,隣国からの移動が多い一方,中国からアメリカへの移動もグローバル な人に移動の中で大きな特徴となっている。 南アジアと西アジアは,対照的な存在であり,フローの方向性とボリュームにおいて大きな変 化が観察されるユニークな地域である。アジア地域の中にあって,唯一,受入れ国で西アジアは, Abel and Sanders(2014)が指摘したように,中東産油国に南アジアから大量の移民が流入しており, したがって年を追うごとに域内流入シェアは低くなっている。他方,南アジアは 1990 年代後半か ら西アジアへの労働力供給プールになっており,それまで高かった域内流出シェア(80%)が一転 して 20%を切るまでに低下した。 アフリカと旧ソ連も域内移動を特徴としている。いずれも受入れ地域であり,域内流入シェアも 域内流出シェアが共に高い。ただ,アフリカはそのフローのボリュームにおいて旧ソ連を遥かに凌 いでいる。 フローにおいて比較的安定した傾向を持つ北アメリカやラテンアメリカ,フローの方向性やボ リュームにおいて変化に富むアジア地域,そして域内移動に特徴を持つアフリカと旧ソ連,出身国 の多様性に特徴を持つのがヨーロッパであった。一貫して受入れ地域であるが,移民の出身国は多 岐にわたり,あらゆる国,地域の人々の目的地となっている。 こうしたフローの動きからは,ストックの動きからは見えづらい動きの方向性が観察でき,同時 に,経済活動の変化や紛争などのような政治的な変化がもたらす国や地域間の関係性をより深く観 察することができる。その意味で,ダイナミックな動きを見せるアジア地域に日本が位置している 意味は何であろうか。日本は 1990 年以降ブラジルから多くの労働者を受け入れてきたが,すでに その動きは止まり,代わって東南アジア,特にタイを中心とする ASEAN 諸国からの労働者流入が 増加している。しかしながら,そうした労働者の出身地であるアジア域内においては,政治的な背 景や経済的な状況次第で短期間に大きく変化することをフローの動きから観察できた。しかも,そ の多くは未熟練労働者の動きである(Iguchi, 2017)。日本が未熟練労働者に門戸を開く制度を整備 したとて,その背後でダイナミックに動いている人の移動の実際を見れば,日本が望むような労働 者が望むような時期に来るとは限らないのではないか。もしそれを望むならば,経済的かつ政治的 な変化を受けにくい制度を担保するような二国間の取り決めや手続きを整えておく必要がある。そ の意味で,今の日本の外国人労働者政策はナイーブに過ぎよう。 参考文献
Abel, G.J., 2013, “Estimating Global Migration Flow Tables Using Place of Birth Data,” Demographic Research, Vol. 28, Article 18, pp. 505―546.
Abel, G.J., and Nikola Sander, 2014, “Quantifying Global International Migration Flows,” Science, Vol. 343(6178), pp. 1― 25.
Czaika, M. and H. de Haas, 2015, “The Globalization of Migration: Has the World Become More Migrator y?”
International Migration Review, Vol. 48, No. 2, pp. 283―323.
Deming, W., and F. Stephan, 1940, “On a least squares adjustment of a sampled frequency table when the expected marginal totals are known”, The Annals of Mathematical Statistics 11, pp. 427―444.
OECD, Database on Migration, OECD Stat, Paris. Available from http://www.oecd.org/migration/mig/ oecdmigrationdatabases.htm
Sander, Nicola, Guy J. Abel and Ramon Bauer, 2014, The Global flow of People, http://download.gsb.bund.de/BIB/ global_flow/ (last accessed 2019―10―01).
United Nations, International migration stock, DESA, New York, Available from https://www.un.org/en/development/ desa/population/migration/index.asp
World Bank, Migration and Remittances Data, World Bank, Washington D.C., Available from https://www.worldbank. org/en/topic/migrationremittancesdiasporaissues/brief/migration-remittances-data
国際労働力移動の空間 94
Changes in Migration: International and Intraregional Labor Flow
Eriko H
IRAIWA要 旨
国際労働力移動に関するフローの統計データは十分に把握されておらず,グローバルな空間におけ るフローの移動を検討することが困難であった。そのような中,196 か国の二国間フローデータを推 計した Abel and Sander(2014)に基づき,本稿では北アメリカ,ラテンアメリカ,東南アジア,東 アジア,南アジア,西アジア,旧ソ連,ヨーロッパ,アフリカの 9 地域における移動におけるフロー の様相と,域内移動シェアについて考察した。4 つの地域を包含するアジア地域におけるフローのデー タからは,経済的,政治的要因などによって人の動きの方向性と規模が容易に変化していることが分 かった。また,隣国同士を含めた域内での移動も活発であり,アジア地域が伝統的な移民の様相を見 せる北アメリカやラテンアメリカ,ヨーロッパとは異なる空間であると捉えることができた。ダイナ ミックに人々が移動するアジア地域に位置する日本は,新たに未熟練労働者に門戸を開く政策に転換 したが,日本が望む人材を望む期間のみ導入することは困難であろう。