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経済危機下の国際的な人の移動の新たな動向と政策対応

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経済危機下の国際的な人の移動の新たな動向と政策

対応

著者

井口 泰

雑誌名

経済学論究

66

2

ページ

81-118

発行年

2012-09-20

URL

http://hdl.handle.net/10236/10783

(2)

経済危機下の国際的な人の移動の

新たな動向と政策対応

New Trends in International Migration

in and around Japan in the Context

of the World Economic Crisis

井 口   泰  

The objectives of this article are to identify new trends in international migration in and around Japan by exploring 1) the growing mismatches in the local labor markets which may lead to an inflow of foreign workers and 2) continuous reduction in labor costs by enterprises which may cause an outflow of foreign and Japanese personnel under the deflation. The main findings are: 1) the stock of foreign migrants is resilient to the shocks caused by the economic crisis, 2) the probability of hiring new school graduates and job changers is significantly higher at enterprises with experience of employing technical foreign staffs. The author proposes 1) the government should create institutional infrastructure for social integration of migrants, 2) the local governments should strongly help realize the rights and obligations of migrants, and 3) Japanese enterprises should undertake necessary reforms to prevent unexpected resignation of essential staff.

Yasushi Iguchi

  JEL:F22, F23, J11, J24, J61

キーワード:国際的な人の移動、労働市場の需給ミスマッチ、技術移転、外国人の社会統合 Keywords:international migration, mismatches in the labor market,

transfer of technology, social integration of migrants

1 問題の所在

本稿の目的は、2008年9月の世界経済危機の発生前後における日本をめぐ

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を促す要因とともに、デフレ下で労働費用を削減する動きなど人材流出を促す 要因の両面から論じ、今後の国・地方の政策及び企業の対応のあり方を論じる ことである。 2008年9月、アメリカの金融危機を契機に世界経済危機が発生し、これに 加え2010年以降は、欧州債務危機の深刻化が世界経済を動揺させている。そ の結果、欧米経済の成長力は急速に失われており、世界経済を牽引する役割を 失いつつある。特に、東アジア地域の新興国経済は、域内の直接投資と貿易、 それに活発な人の移動を基盤として、事実上の経済統合を進め、長期的に世界 経済の成長を支える存在となることが期待される。 加えて2011年3月の東日本大震災と原発事故、それに歴史的な円高に直面 したわが国にとっても、東アジア地域で着実に地域経済統合を進めることは、 国内の産業・雇用の不透明感を払しょくし、成長力を維持・回復する上で極め て重要な課題となっている1) 既に、1980年代後半以降、東アジアでは、日本からの貿易や直接投資を契機 に「工程間分業(production fragmentation)が進展し、2006年時点で、「ア セアン+3(日中韓)」の域内貿易比率は55%に達して、北米自由貿易協定の場 合の水準を超えた。そして世界経済危機後、東アジア諸国は同時的で大幅な財 政出動を行い、域内内需を拡大させて、欧米からの危機の波及を懸命に防ごう とした。ところが、同時に、所得格差の少ない経済発展を遂げてきたことで知 られた東アジア域内で、企業間や地域間の競争の激化とともに様々な経済格差 が拡大している(ADB2011)。 長い視点でみれば、アジア・太平洋地域内では、国・地域の経済発展には、 かなりの域内格差が存在し、東アジア域内の人口動態にも少なからぬ影響を与 えている。そして、国・地域の出生率低下の速度の違いは、タイムラグを伴い ながら、若年労働力の供給に影響を及ぼし、域内各国・地域の労働市場におけ る労働需給ミスマッチを拡大させてきた(Iguchi 2012)。各国内においては、 雇用・所得の格差を背景に人口移動が生じているが、事実上の経済統合の進 1) アジア・太平洋地域の経済統合の現状と展望については、21 世紀政策研究所(2012)を参照さ れたい。

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展で、国境を超える人の移動のポテンシャルが増大している(KOPEC2008)。 こうしたなかで、国際的な人の移動の管理・制御を、各国政府の一方的措置の

みで実施すること自体が困難になってきている(Hugo 2008)。

また、近年、世界貿易機関(WTO)における貿易自由化交渉では、先進国と

途上国の間の利害対立が先鋭化し、残念ながら、多国間協議が事実上機能しなく なっている。こうした問題を打開する意味でも、FTA(free trade agreement) やEPA(economic partnership agreement)に加え、各国間の多様な人材交 流を促進するなかで、先進国と途上国に互恵的な関係を生み出す努力が求めら れるよう。 しかし、二国間の自由貿易協定に、看護師や介護福祉士などの特定分野にお ける人の移動に関する約束を加えるやり方には限界がある。そもそも、このよ うな特定分野のみの交渉で合意された内容は、二国間の多様な人材移動を促進 する効果を持ち得ない。むしろ、貿易自由化交渉の原則である締約国間の「利 益の均衡」を達成するために、国際的な人の移動が、全く関係のない分野にお ける自由化交渉の取引材料とされる。これでは、二国間で好ましい国際移動の 枠組を形成するという効果を発揮することは至難の業である。 同時に、先進国と新興国の間の経済関係の変化は、先進国から新興国への人 材流失という問題が、今世紀になってから、深刻に受け止められるようになっ た。特に、わが国の場合、エレクトロニクス産業を中心に、退職した日本人専 門・技術労働者の韓国・中国企業への就職が、日本からの技術漏洩をもたらし ている懸念が生じていたが、鉄鋼業では、これが訴訟に発展し、関係企業はも はや事態を傍観することは許されない状況となっている。 これらのことを踏まえ、東アジアを中心に、経済統合と国際的な人の移動 の双方向的な動きを、理論的及び実証的な面から、可能な限り包括的に究明す ることが重要になってきた。ただし、その場合も、狭い意味の国益やナショナ リズムの視点にのみ縛られることなく、技術移転が国際紛争をもたらすリスク を回避し、送出国と受入国の双方の利益をもたらし、移動する人々のモチベー ションを生かす政策及び制度的枠組を探求する必要がある。 そこで以下では、

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第1に、最近の日本をめぐる国際的な人の移動の動向を規定する重要なグ ローバル経済及びアジア労働市場の諸要因を提起する。 第2に、世界経済危機の下、アジアの国際的な人の移動に、どのような変化 が生じているかを、国連統計をもとにして検討する。 第3に、世界経済危機の下、日本をめぐる国際的な人の移動に、どのような 変化が生じたか、そして、2011年3月の東日本大震災の後の複合的危機が人 の移動にどのような影響を及ぼしたかを、統計及びケーススタデイを基に検討 する。 第4に、日本企業が、複合的危機下で海外に向けた経営戦略を展開し、日本 人の学卒採用について厳しい選別を行うと同時に、内外で外国人の専門職採用 が積極化するなか、日本人雇用と外国人雇用がどのような関係にあるのかを、 計量的に分析する。 第5に、近年、改めて顕在化してきた日本企業から新興国企業への人材流出 問題をとりあげ、その背景、原因と対策について論じる。 第6に、世界経済危機の下で、国際的な人の移動に関して、近年、如何なる 政策が実施されてきたかを考察する。 最後に、以上の分析・検討を踏まえて、今後、国際的な人の移動について取 り組むべき最優先の課題を整理する。

2 日本をめぐる国際的な人の移動の環境変化

最近の日本をめぐる国際的な人の移動の環境は、東アジアにおける経済統合 の進展や日本のマクロ経済的な条件によって大きく変化している。本論文で、 日本をめぐる国際的な双方向の人の移動の動きを議論するにあたって、まず、 次の2つの要素を特に強調しなければならないと考える(井口2012b)。 第1は、国内ではデフレーションが続いているのに、新興国の台頭で、海外 ではインフレーションの傾向が強まってきたことである。 その結果、国内では、労働コスト圧縮の傾向が強まり、正規雇用の賃金停滞 と非正規雇用の増加傾向が続いている。これと若年人口の減少や高学歴化とが 相まって、国内地域の労働市場では労働需給ミスマッチが拡大している。その

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結果、失業者が滞留しやすくなり、同時に、再就職がかなわず意欲を喪失した 無業者が増加する危険な兆候がある。 こうした状況下では、一方では、地域の労働需給ミスマッチを埋めるため、 外国人労働者が流入する圧力が強まる。他方では、高いポテンシャルの人材に 対して、企業は思いきった処遇ができず、高度人材は定着せず又は流出する危 険性が高まると考える。 第2は、直接投資や貿易の拡大で、日本と事実上の経済連携が進むアジア諸 国では、日本とは異なり、労働市場の流動性が高いことである。 アジア諸国の人材の多くは、勤務する企業で2∼3年の間に業績をあげ、そ れが処遇や昇進に反映されることを求める傾向が強い。これが、遅い選抜と長 期の雇用を特徴とする人事システムとマッチしなくなってきた。 日本国内と周辺アジア諸国の間で、国際的な人の移動が活発化するなかで、 低い流動性を前提とする日本企業の雇用システムのなかで、アジアの人材は、 日本企業に定着しないという深刻な問題が生じている。こうした状況下で、日 本企業が「ダイバーシテイ」経営を推進することで、外国人の雇用へのアクセ スを改善することが重要という指摘は少なくない(守屋ほか2011)。 しかし、国際的な人の移動における問題は、もともと双方向的である。アジ ア諸国からの人材の受入れの問題と同時に、日本人人材の育成・確保のあり方 を根本的に問い直さねばならない。特に近年、電子産業を中心に懸念が広がっ てきた日本人人材の新興国企業への流出が、深刻な技術漏洩を引き起こした問 題を考慮すべきであろう。 なお、日本国内では長引くデフレと賃金抑制などの下で、現在の雇用を続け ながら、転職を希望する日本人人材が増加していると指摘されている(厚生労 働省2011)。 この問題は、日本企業の多国籍化に伴って、グローバルな人材の採用をめ ぐって、各国労働市場の連動性が強まり始めたことを示唆している。従来、先 進国から途上国への国際移動は、移動先に技術移転もたらす効果などの面か ら、肯定的に捉えられることが多かった。今や、先進国と途上国の経済的な力 関係が逆転しかねない状況のなかで、国際的な離転職は、先進国の企業に深刻

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な影響を与える場合があることを認識しなければならない。 先進国と新興国の関係が歴史的な構造的変化に直面していることを背景に、 国際移動が双方向化していることに鑑み、これらを互恵的なものとするための 政策対応が必要になる、同時に、経済統合が進むアジアの環境のなかで、各国 が、出入国管理面だけでなく、社会統合政策面からも、国レベルで制度的イン フラを整備し、実際に、人材を受入れる地域・自治体レベル及び企業レベルで も、迅速な対応を促進しなければならない。

3 アジアにおける外国人人口とその移動

そこで次に、世界経済危機の持続するなか、アジア・太平洋地域の国際的な 人の移動に、どのような変化が生じているのかを、国連統計を基礎にして、検 討してみたい。 2010年時点で居住する外国人人口は、アジア地域全体で5300万人とされ、 世界全体の外国人人口の25%を占める。ただし、同地域の人口が世界人口の 61%を占めるのに対し明らかに低い。当該地域では、比較的短期の人の移動が 非常に頻繁で、移住目的の移動が少ない。そもそも、国連人口部は、滞在1年 以上の外国人人口を推定しており、外国人人口は、過小推計されている可能性 が高い点に注意すべきである(UN ESCAP 2011)。 (1) 2000年から2005年までの動向 まず、2000年から2005年にかけて、アジア地域では、国際的な人の移動 が、急速に拡大したことが推定される。国連人口部は、同時に、当該地域では、 域内の国際労働力移動(フロー)が、年間600万人を超える規模に達した点を 指摘した。 その背景には、域内の経済格差の存在がある。域内の国・地域の一人当たり GDPを比較すると、現在でも、送出国と受入国の間で、米ドル表示では10倍 以上に達する格差が持続している。これに加え、アジア地域における人口・労 働市場の動向が重要なことは、既に述べた通りである(Findlay A.M., Jones H, Davidson G.M. 1998、井口2008)。

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今世紀になり、国際的な人の移動がもたらす労働者送金(remittance)が 先進国から途上国への政府開発援助(ODA)の総額を上回り、対外直接投資 (FDI)の規模に迫る勢いにある。この労働者送金は、開発途上国のおける草 の根的な貧困対策の機能を果たし、途上国全体の国際収支の安定化に寄与して いることが強調されるようになった。 従来、労働者送金は、出稼ぎ労働者と家族の消費や土地・家屋の購入などに 充てられ、生産的目的にほとんど活用されないという見方が強調されたことと 比較すれば、これは極めて重要な問題提起であった。 東アジアにおいても、国際労働力移動の拡大に伴って、労働力送出国が国外 から受け取る労働者送金は増加傾向を持続している。ただし、近年、そこにも 大きな格差が生じている。専門職や熟練労働者を少なからず含むフィリピンの 労働者送金の総額は、低熟練労働者が大部分のインドネシアやベトナムの受け 取る労働者送金と比べると、海外労働者の人数の差以上に、送出国の国際収支 に与える効果が大きい。21世紀の国際労働力移動は、低熟練労働者の移動が 大半を占めてきた従来の特徴を変え、高熟練の労働者の比重の増加という傾向 を示している(Hugo 2010)。 表 1  国連統計によるアジア諸国の外国人人口(滞在 1 年以上)の推移(単位:千人)    資料出所:国連人口部  

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(2) 2005年以降の動向と世界経済危機 2005年から2010年までの期間において、2008年9月には、アメリカの金 融危機を発生源とする世界経済危機が、アジア・太平洋地域を襲った。しかし、 特に東アジアにおける外国人人口(ストック)では、一部諸国を除いて増加傾 向を続けたか、あるいは、減少した場合でも、その減少幅は、あまり大きなも のにはならなかった(IOM2011)。 東アジア諸国・地域において、外国人人口規模が、経済危機の影響を受けに くかった理由としては、特に、以下の2点を挙げることができよう。 第1は、東アジアでも、国際貿易、直接投資それに生産の急激な減少が見 られたものの、域内諸国が財政出動で内需を下支えした結果、アメリカやEU と比べて経済成長率の回復が迅速であった。 第2は、東アジアでは、一時的に受け入れた外国人労働者が、現地の人口構 造の変化に伴い発生した労働市場の需給ミスマッチを緩和している点が考えら れる。労働市場の需給ミスマッチを埋める働きをする外国人雇用は、景気変動 の影響を相対的に受けにくい。 実際、経済活動の低下と回復が生じるなか、出入国する外国人(フロー)の 急激な変動をもたらしたが、居住する外国人人口(ストック)は比較的安定し た状態にある。

4 日本における外国人雇用・人口の変化と政策課題

そこで、世界経済危機下において、日本をめぐる国際的な人の移動に、どの ような変化が生じてきたかをみてみよう。ここでは、それに加えて、2011年 3月の東日本大震災の後の複合的な危機が人の移動に及ぼした影響に注意した い(Iguchi 2012)。 2008年9月の世界経済危機の発生以後、わが国はデフレと人口減少・高齢 化に歯止めがかからず、雇用の非正規化の進展、名目所得の低下や地域間格差 の拡大傾向が続いていた。そして、2011年3月の東日本大震災後、日本は、歴 史的な円高、原発の停止とエネルギー制約の高まり、食品の安全性への危惧、 48年ぶりの貿易赤字と経済成長率低下など、複合的な危機に見舞われた。日

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本人人口は戦後最大の20万人減少となり、外国人人口も流出超過が5万人に 達した。 (1) 外国人労働者と定住外国人の動向 わが国に在留する外国人は、世界経済危機前の10年間で約1.5倍に増加し た後、若干減少したものの、2011年末では208万人(総人口の1.7%)に達し た。しかも、定住化の進展で、永住権を有する外国人は既に96万人を超えて いる。 次に、外国人労働者についてみると、就労を目的とする在留資格を取得して 就労しているのは20万人程度(技能実習生を除く)である。これに、日系人労 働者と一般永住権取得者を合わると30万人以上で、合計60万人以上となる。 このほか、留学生などのアルバイト就労で10万人程度、技能実習生が13万 人程度(外国人研修生を合計し20万人)程度、不法残留者が10万人程度(不 法入国者の推定値と合計すると13万人)がいる。特別永住者を除く総計では、 2010年末現在で、推計94万人の外国人労働者が就労していると考えられる。 しかし、2008年9月の世界経済危機の発生後、2009年にはいると外国人人 口は流出超過に転じた。また、2011年3月の東日本大震災直後の1ケ月に、 外国人の出国は53万人(純流出は23万人)に達した。内訳は、中国人が18.5 万人、韓国人が10.7万人、アメリカ人が3.9万人のほか、インド人0.8万人、 ブラジル人0.7万人、フランス人0.7万人、ドイツ人0.6万人などとなった。 これは、各国の帰国指示又は帰国奨励措置によるところが大きい。在留資格で は、永住者が7.1万人、留学が7.0万人、日本人の配偶者等が2.7万人、人文 知識・国際業務が2.3万人、技術が1.4万人、技能実習が0.0万人、投資・経 営が0.5万人の減を記録した。 こうして、外資系企業の活動が一時的にせよ停滞し、外国人雇用に依存する 地域や産業で少なからぬ影響が出た。また、日本語学校への中国人留学生が急 減し、来年以降の留学生数にも影響する可能性がある。 この間の外国人登録数の変化をみると、2010年末に213万人であったが、 2011年3月末に209万人に減少したものの、同年6月末に209万人、同年9

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参考表  1990 年以降の外国人労働者数(特別永住者を除く)の推移(新改定推計) 1990 1995 2000 2005 2007 2008 2009 2010 就労目的の在留資 格を有する外国人 67,983 125,726 154,748 180,465 193,785 211,535 212,896 (207227)307235 うち高度人材 43,823 64,672 89,552 180,465 156,791 172,600 172,900 167,838 うち外国人ならでは の技能を有する者 24,110 23,324 65,196 51,488 36,994 38,894 39,996 39,429 技能実習生など特 定活動 3,260 6,558 29,749 87,324 104,488 121,863 130,636(100,008)72374 資格外活動でパー トタイム就労する外 国人留学生 10,935 32,366 59,435 96,959 104,671 99,485 106,588 111,480 日系人労働者 71,803 193,748 220,458 239,259 241,325 229,569 202,101 178,031 不法残留者 106,497 284,744 233,187 193,745 149,785 113,072 91,778 78,488 資格外活動 Unknown Unknown Unknown Unknown Unknown Unknown Unknown Unknown 一般永住権を有す る外国人― ─ 17,412 39,154 113,899 143,184 160,212 173,696 183,990 特別永住者を除く 外国人労働者総数 260000+α 620000+α 750000+α 910,000+α 930,000+α 930,000+α 920,000+α(86,000)+α940,000 外国人登録者総数 1,075,317 1,362,371 1,686,444 2,048,919 2,159,973 2,217,426 2,186,121 2,134,151 資料出所:筆者推計。   注)2010 年 7 月から、実務研修中の外国人研修生は、「技能実習Ⅰ」の在留資格を交付され、労働 法が適用され、労働者として扱われることになった。このため、旧研修生を含む技能実習生は、就労 目的の在留資格を有する外国人に計上している。なお、( )内は、旧法のままで計上した外国人労 働者数を示す。 月末に208万人と、ほぼ下げ止まった。ただし、再入国許可を得て帰国した者 の登録は抹消されていないことから、実際の在留者は登録数よりも少ないと推 定される。 政府観光庁によれば、日本への外国人旅行者(短期滞在者)は、2011年3月 は、前年比50.3%減の35.2万人、4月は、62.5%減の29.5万人、5月は50.4%減 の35.7万人、6月は36.4%減の43.3万人となった。 しかし、2012年になって、原発事故の安定などもあり、2012年になって、 外国人旅行者数は回復に向かっている。また、ブラジル人人口は減少基調に あったが、ようやく流入超過に転じつつあり、中国人、ベトナム人、インドネ シア人など、アジア系の外国人は増加基調を維持している。

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(2) 事実上の経済統合と多様な人材移動の増加 先進国経済の停滞にもかかわらず、東アジアでは、近隣国の文化、自然や社 会に対する関心の高まりと、送出国の一人当たり所得の向上、さらに、国際的 な交通手段の進歩やその低価格化が加わり、国際観光客が増加する傾向は持続 している。 また、若年層の大学進学率の高まりを背景に、国外への移動が有効な人的資 本投資として認識されるようになり、留学生の移動も活発化した。留学生のう ち、卒業後にビジネス経験を積むため、現地で資格変更して就労する者が増加 してきた。さらに、受入国で商用目的で短期滞在するビジネスマンの増加は、 商取引・国際貿易を促進する効果をもたらす。 国際貿易の増加によって、現地への直接投資が増加し、現地市場の中又は近 くに拠点を設け、長期滞在し事業活動を行う外国人人材も増加することになる。 このように、二国間又は多国間で、多様性のある人の移動は、東アジアのよ うに経済統合が進む地域の経済成長を推進する重要な力となっている可能性が ある2) 特に、今世紀になってから、日本と中国の間の人の移動は、旅行者、留学 生、技術者、永住者など極めて多様性に富んでいる点が注目される。両国の事 実上の経済統合の進展は、二国間の多様な人の移動によって事実上牽引される 点が重要である(図1)。 これに対し、日本とブラジルの間の人の移動は、あまりに日系人の移動に集 中してしまって、多様性に乏しいことがわかる。日本とブラジルは、距離が遠 隔であることだけでなく、両国の間の貿易や直接投資の規模は依然として低水 準で、経済連携協定の締結も行われていない(図2)。 さらに、日本とフィリピンの間の移動も、日本人の配偶者などの移動が多く、 多様性に乏しい。両国は経済連携協定を締結しているが、人材移動の多様性に 欠けることは、経済連携の進展を大きく阻害している可能性がある。(図3)。 東アジア域内で多様な人の移動を促進するうえで障害になるのは、受入国に 2) 佐藤・井口(2011)を参照。

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図 1  月間中国(台湾を含む)からの入国者・出国者の推移

図 2  月間ブラジルからの入国者・出国者の推移移

図 3  月間フィリピンからの入国者・出国者の推移

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おいて、外国人の社会統合を推進する制度インフラの整備の遅れである。 特に、言語や文化の異なる外国人が、受入国の社会で、経済・社会に参加 し、受入国の社会で相応の地位を得ることは容易でない。この問題は1世の外 国人について顕著であるが、受入国でそだった子どもたち(2世)が、受入国 で高度な教育を受けて、親の教育水準や経済水準を超えるためには、受入国の みならず、送出国からの支援も重要である。 こうした社会統合の施策が遅れると、受入国内では、言語・文化の違いか ら、コミュニケーションのとれない孤立した外国人の集団が形成されて、受入 国社会との摩擦や衝突事件が生じ、受入国と送出国の間の対立に発展する危険 があることに注意すべきである。 その意味で、地域の経済統合を支える多様な人の移動を促進するにあたって は、受入国内の社会統合の施策や3)、受入国と送出国の協力が、ますます重要 になる。 東アジアでは、日本や韓国において、外国人の社会統合の課題が、次第に大 きな課題となってきた。このため、外国人政策において、出入国管理政策に加 えて、受け入れた外国人の文化や言語を尊重するだけではなく、その権利を確 保し、義務の遂行を促すため、自治体と国の協力のもとに、社会統合政策を推 進できる制度的なインフラを形成する必要が生じている(井口2011)。

5 経済危機下の外国人雇用と日本人雇用の関係に関する経済分析

欧州の債務危機の持続と、アメリカ経済の停滞が続く2012年の時点におい て、日本の代表的企業は、成長力の高い新興国市場を重視する経営戦略への転 換を進めている。こうしたことから、例年の学卒者の就職市場においても、い わゆるグローバル人材が重視されるとともに、大企業においては厳格な採用姿 勢が目立つようになっている。こうしたなかで、学卒者も、従来の大企業志向 から、中堅・中小企業にも就職先を求める傾向が見え始めている。同時に、日 本の大企業が、海外での外国人採用や、国内での留学生の採用を増加させる傾

3) German Federal Ministry of Interior(2009)は、出入国管理政策とともに、社会統合政 策が、効果的な移民政策(migration policy)に不可欠なことを指摘する。

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向がみられるようになっている。 問題は、先進国の経済危機が継続し、新興国へと世界経済の重心が移動しつ つある現在において、外国人人材の登用が、国内の人材の登用を代替するよう な効果をもたらすのかどうかという点である。 (1) 先行研究と理論的背景 外国人雇用と日本人雇用の代替性又は補完性に関する研究は、労働経済学の 分野では、本来、極めてポピュラーな問題意識によるものであるのに、現実に はデータ入手の困難など技術的な問題が小さくなく、世界経済危機が外国人雇 用に大きな打撃を与え、各地で社会問題を引き起こしたにもかかわらず、関係 する研究実績は多いといえない。 井口(2009)は、外国人雇用と日本人雇用の関係を考察する際に、その背 景として日本人の人口変動の関係に着目した。関西学院大学少子経済研究セン ターの研究成果として、技能実習生の多い地域では若年人口比率が低いこと、 南米日系人の多い地位では、女性の雇用率や中高年の雇用率も高くなっている ことを報告した。そこで、①労働移動の自由がない技能実習生の場合は、日本 人若年層の減少によって生じた労働需給ミスマッチを埋める形で流入し(外国 人雇用に関する「労働需給ミスマッチ仮説」)、労働移動の自由な日系人の場合 も、日本人雇用との関係も補完的であることを指摘している。 中村ほか(2010)は、先に掲げた文献を全く参照しておらず、日系ブラジ ル人と技能実習生を区別せずに外国人労働者として扱ったうえで、外国人雇用 と日本人雇用の関係に関しては、地域における外国人比率の上昇が原因となっ て、日本人の若年層が当該地域での就職を忌避し、県外での就職や進学のため に移動していると主張した(外国人雇用に関する「クラウデイングアウト」仮 説)4) 長谷川(2010)は、井口(2009)を踏まえて、労働市場の需給ミスマッチ 概念を拡張したうえで、地域労働市場における失業率・無業率の決定要因を、 4) 「労働需給ミスマッチ仮説」は、フィールド・スタディにおいても裏付けられているが、「クラウ デイングアウト仮説」は、フィールド・スタディによっては立証されていない。

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多変量解析で分析した。その結果、今世紀にはいってから、日系ブラジル人の 雇用が、地域の失業率と負に相関するという関係を立証した。 志甫(2011)は、井口(2009)と同様に、外国人雇用と日本人雇用の関係 を、その背景にある日本人の人口変動の関係を考慮して統計的に検証した。そ こでは、技能実習生の多い地域では若年人口比率が低いこと、南米日系人の多 い地域では、女性の雇用率や中高年の雇用率も高くなっていることを、最新時 点の統計数値を用いて立証した。 井口(2011)は、関西学院大学少子経済研究センターの研究成果として、労 働移動の自由な日系人、労働移動は基本的に自由だが制約のある専門・技術労 働者や日系人、労働移動が自由でない技能実習生について、「ローケーション 選択」の理論を用い、それらの雇用分布の決定要因に関する多変量解析の結果 を紹介した。特に、労働移動の移動が自由な場合、産業が集積し、賃金の高い 地域に移動しており、そこでは、外国人と日本人の雇用に代替関係は認められ なかった。これに対し、技能実習生の場合、労働移動が自由でなく、繊維産業、 農業、食料品加工業などに多数就労する結果、平均賃金との相関はマイナスで あった。そこでは、若年労働者の減少を埋めるかのように技能実習生が増加し たことが示されている。 井口(2012a)は、本論文で行った計量分析と同様の個票データを使用し、 2009年8月の調査時点での過去1年間の日本人の学卒の雇用状況を被説明変 数とし、企業の海外戦略や職種別労働不足感、外国人専門・技術職の雇用経験 などを説明変数として、ロジステイック回帰を行った。それによれば、外国人 の専門・技術職の雇用経験のある企業では、その雇用経験がない企業に比べて、 3倍程度の確率で、日本人の学卒を採用したことがわかった。この研究では、 経済危機後の新たな個票データを用い、外国人雇用と日本人雇用の関係を特定 することができた。しかし企業の雇用慣行や採用実績の違いを十分に考慮する には至らなかった。以下における経済分析は、これらの過去の実証研究の及ば なかった部分を明らかにするために実施するものである。

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(2) データ 関西学院大学の少子経済研究センターは、世界経済危機からの回復過程にお ける企業活動の国際化の動きを把握するため、「兵庫県におけるグローバル化と 就労・生活環境に関する調査」(2009年8月時点)を実施した。このため、兵 庫県の協力を得て、総務省統計局に対し、企業・事業所統計調査の第二次使用 を申請した。総務省の承認を得た後、同調査を母集団とし、統計的手法に沿っ て調査対象企業を抽出した。 こうして兵庫県に立地する約4000社に対して、調査票を郵送した。その結 果、有効回答数は609社であった。調査全体の結果は、産業別・規模別の復元 率を計算し母集団に復元して集計した。本調査で使用した主要変数の記述統計 は、本論文の末尾の別表の通りである。 (3) 計量モデル 本論文では、2009年8月時点の企業の採用慣行について、①国内における 学卒者のみ採用を行う、②学卒者と中途採用者の両方の採用を行う、③中途採 用者のみの採用を行う、それに、④学卒採用も中途採用も行わないという4つ の採用パターンを設定し、各類型の実施の有無に影響を与える要因は何かにつ いて、採用パターンごとに二項ロジステイック回帰分析を行い、その結果を、 類型の間で比較することにした。 そこで、以下のような確率決定モデルを設定する。 Ln(P/1− P ) = a0+ a1X1+ a2X2+ a3X3+ a4X4+ a5X5+ a6X6 + a7X7+ a8X8+ a7X7+ a8X8+ a9X9+ a10X10 + a11X11+ µ  被説明変数(左辺)のLn(P/1− P )は、各採用パターンの有無に関するロ ジット変換を意味する。 11個の説明変数の一次方程式(右辺)については、各説明変数に対応する 係数やWald比(最小二乗法のt値に相当)やオッズ比などの統計量を、最尤 法を用いて推計することにした。なお、µは残差項である。説明変数と、その

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変数に係る仮説は以下の通りである。 X1:男性中高年比率。各企業における従業員のうち、45歳以上の者の比率を 計算して説明変数とした。男性中高年比率が高まると、学卒者の採用又は若年 者の採用が減少するという仮説をおくことができる。本仮説は、複数の若年雇 用の研究において、安定的に検証されている(玄田2000、玄田2008)。 X2:外国人専門職雇用歴:過去において専門・技術的な外国人を雇用した経 歴があるか、現在雇用している場合には1、そうでない場合は、ゼロとする。 専門職の外国人採用も、学卒採用又は中途採用と補完的であるという仮説を置 くことができる。 X3:非専門技術外国人雇用歴:過去において非専門・技術的な外国人(技能 実習生や日系人炉移動者を含む)を雇用した経歴があるか、現在雇用している 場合には1、そうでない場合は、ゼロとする。非専門職の外国人採用は、学卒 採用又は中途採用と補完的であるという仮説を置くことができる。 X4:専門技術職過剰感:専門技術職の労働者が不足である場合を1、不足でも 過剰でもない場合を2、過剰である場合を3として、ダミー変数を作成した。 過剰感が大きい場合は数値が大きくなり、採用行動が活発になるとの仮説を置 くことができる。 X5:事務職過剰感:事務職の労働者が不足である場合を1、不足でも過剰で もない場合を2、過剰である場合を3として、ダミー変数を作成した。過剰感 が大きい場合は数値が大きくなり、採用行動が活発になるとの仮説を置くこと ができる。 X6:営業・販売職過剰感:営業・販売職の労働者が不足である場合を1、不 足でも過剰でもない場合を2、過剰である場合を3として、ダミー変数を作成 した。過剰感が大きい場合は数値が大きくなり、採用行動が活発になるとの仮 説を置くことができる。 X7:技能工過剰感:技能工の労働者が不足である場合を1、不足でも過剰で もない場合を2、過剰である場合を3として、ダミー変数を作成した。過剰感 が大きい場合は数値が大きくなり、採用行動が活発になるとの仮説を置くこと

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ができる。 X8:単純工過剰感:単純工の労働者が不足である場合を1、不足でも過剰で もない場合を2、過剰である場合を3として、ダミー変数を作成した。過剰感 が大きい場合は数値が大きくなり、採用行動が活発になるとの仮説を置くこと ができる。 X9:雇用均等・両立支援。本調査において、企業が講じている男女雇用機会 均等のための措置(採用・昇進で男女を平等に取り扱う、男性中心の職場に女 性を配置する、女性労働者の能力発揮を強化してモラルアップを図る、雇用機 会均等に関する苦情処理機関を設置する、セクシャル・ハラスメントに関する ガイドラインを設定し周知する)と、両立支援に関する措置(女性登用を促進 するポジティブアクションを導入する、男性の育児休業の取得を奨励する、育 児休業からの復帰計画を作成する、企業内託児所を設置する、短時間正社員制 度を導入する、地域の保育所や保育サービスと連携する)の回答に1点を与 え、それぞれを合計したダミー変数である。この変数が高まることで、各卒・ 中途採用の活動で、相対的に優位にたてるという仮説をおくことができる。 X10:WLB(ワーク・ライフ・バランス)。本調査において、時間外労働の上 限を労使協定で定めている、特定の曜日について,残業しない日を定めている、 一定時刻以降には残業をしないまたは退社するガイドラインを定めている、週 または月単位で労使協定と別に残業時間抑制の目標値を定めている、年次休暇 の取得を積極的に促進している、育児(または介護)をする必要のある従業員 に時間短縮措置を適用している、長期休暇制度を設けている)の回答に1点を 与えて、合計したダミー変数である。この変数が高まることで、各卒・中途採 用の活動で、相対的に優位にたてるという仮説をおくことができる。 X11:従業員規模:従業員10人未満を1、10∼29人を2、30∼99人を3、99 ∼100人を5、100人以上を5とするダミー変数を作成した。規模が大きいほ ど、学卒の採用活動が活発で、規模が小さいほど、中途採用活動になるという 仮説を置くことができる。 なお、これらの変数の記述統計量は、本論文の末尾に参考表として掲載して いる。

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(4) 推計結果 推計の結果は、以下の表4-1∼表4-4に示す。 以上の推計結果のうち、特記すべき点を記すと以下のようになるだろう。 第1に、近年の日本における若年雇用問題の研究で、しばしば取り上げられ ている男性中高年比率の影響を見ておきたい。 表 4-1  学卒採用のみの場合(該当企業 137/全企業 609)) 係数 標準誤差 Wald 自由度 有意確率 オッズ比 数 変 明 説 男性中高年比率 .815 .660 1.526 1 .217 .442 外国人専門職雇用歴あり .335 .434 .596 1 .440 .715 非専門技術外国人雇用歴 .532 .296 3.231 1 .072 1.702 専門職過剰感 .072 .277 .068 1 .794 1.075 事務職過剰感 .011 .235 .002 1 .963 .989 営業販売職過剰感 .005 .245 .000 1 .984 .995 技能工過剰感 .099 .448 .049 1 .826 .906 単純工過剰感 .774 .380 4.159 1 .041 .461 雇用均等両立支援  .065 .069 .889 1 .346 1.067 WLB .013 .099 .016 1 .899 1.013 従業員規模 .045 .116 .154 1 .695 .956 定数 .884 1.211 .533 1 .465 2.421 2 対数尤度 Cox-Snell R 2 乗 Nagelkerke R 2 乗 557.687 .023 .033 表 4-2  中途採用のみの場合(該当企業 138/全企業 609) 係数 標準誤差 Wald 自由度 有意確率 オッズ比 数 変 明 説 男性中高年比率 .684 .857 .637 1 .425 .504 外国人専門職雇用歴あり .831 .471 3.121 1 .077 2.296 非専門技術外国人雇用歴 .548 .330 2.764 1 .096 1.730 専門職過剰感 .677 .303 5.008 1 .025 .508 事務職過剰感 .763 .261 8.526 1 .004 .466 営業販売職過剰感 .142 .282 .252 1 .615 1.152 技能工過剰感 .709 .496 2.046 1 .153 .492 単純工過剰感 .466 .423 1.211 1 .271 .628 雇用均等両立支援 .004 .082 .002 1 .961 .996 WLB .095 .114 .696 1 .404 1.100 従業員規模 1.143 .138 68.803 1 .000 3.136 定数 1.583 1.325 1.428 1 .232 4.868 2 対数尤度 Cox-Snell R 2 乗 Nagelkerke R 2 乗 427.592 .258 .367

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男性中高年比率は、学卒採用と中途採用の両方を行う場合と、学卒採用と 中途採用のいずれも行わない場合に、採用確率に対してマイナスの効果を及ぼ し、オッズ比は学卒採用と中途採用の両方を行う場合は0.1で、学卒採用と中 途採用のいずれも行わない場合に4.7となった。即ち、男性中高年比率が平均 より高いと、学卒採用と中途採用を両方行う企業では、採用行動をとる確率は 表 4-3  学卒と中途採用両方の場合(該当企業 87/全企業 609) 係数 標準誤差 Wald 自由度 有意確率 オッズ比 数 変 明 説 男性中高年比率 2.125 1.154 3.389 1 .066 .119 外国人専門職雇用歴あり .768 .466 2.715 1 .099 2.155 非専門技術外国人雇用歴 .333 .362 .849 1 .357 1.396 専門職過剰感 .277 .334 .689 1 .406 .758 事務職過剰感 .889 .298 8.901 1 .003 .411 営業販売職過剰感 .114 .309 .136 1 .712 1.121 技能工過剰感 .576 .562 1.048 1 .306 .562 単純工過剰感 .075 .479 .025 1 .875 .927 雇用均等両立支援ダミー .092 .097 .905 1 .341 1.096 WLB ダミー .025 .135 .035 1 .853 .975 規模ダミー 1.186 .154 59.432 1 .000 3.274 定数 .450 1.535 .086 1 .769 .637 2 対数尤度 Cox-Snell R 2 乗 Nagelkerke R 2 乗 328.380 .228 .369 表 4-4  学卒採用も中途採用も両方なしの場合(該当企業 180/全企業 609) 係数 標準誤差 Wald 自由度 有意確率 オッズ比 数 変 明 説 男性中高年比率 1.550 .640 5.863 1 .015 4.713 外国人専門職雇用歴あり .636 .559 1.297 1 .255 .529 非専門技術外国人雇用歴 .703 .378 3.459 1 .063 .495 専門職過剰感 .068 .311 .047 1 .828 .935 事務職過剰感 .779 .265 8.617 1 .003 2.179 営業販売職過剰感 .445 .276 2.597 1 .107 1.560 技能工過剰感 .156 .522 .090 1 .765 .856 単純工過剰感 .737 .445 2.745 1 .098 2.090 雇用均等両立支援ダミー .056 .074 .581 1 .446 .945 WLB ダミー .102 .110 .847 1 .357 1.107 規模ダミー .931 .145 40.950 1 .000 .394 定数 2.686 1.393 3.716 1 .054 .068 2 対数尤度 Cox-Snell R 2 乗 Nagelkerke R 2 乗 520.924 .196 .266 注)是正できない欠損値があったため、4 類型の合計は総サンプル数 609 に一致しない。  

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10分の1以下となり、学卒採用と中途採用の両方を行わない場合、4.7倍に 高まると解釈できる。ただし、学卒だけ採用するか、中途採用だけしかしない 企業では、男性中高年比率は、統計的に有意な効果をもたないことが明らかに なった。 第2に、外国人専門職又は外国人非専門職の雇用が、日本人雇用に与える影 響について考察する。これは、採用の類型によって、結果が大きく異なること が注目される。 まず、学卒採用のみしか実施しない企業では、外国人専門職の雇用歴は、学 卒採用の確率に影響を及ぼさない。しかし、非専門技術外国人の雇用歴が有意 にプラスに影響し、採用確率を1.7倍としている。同時に、非専門技術外国人 の雇用歴の影響と同様、単純工の不足感が有意にプラスに影響している点が注 目される。学卒採用のみに依存する企業の場合、かえって、外国人専門技術職 歴ではなく、むしろ、非専門技術外国人雇用歴との関連が深いことが興味深い。 また、中途採用しかしない企業では、外国人専門職の雇用歴は、中途採用の 確率に、有意にプラスの影響を及ぼしており、その採用確率は2.2倍となる。 同様に、非専門技術外国人の雇用も有意にプラスに作用するが、その採用確率 への影響は1.7と小さい。同時に、専門職、技術職の過剰感は、採用確率に有 意にマイナスに作用しており、即ち、これら2つの職種の人材不足の影響が、 中途採用に影響しやすいことを示している。 さらに、学卒採用と中途採用の両方を実施する企業では、外国人専門職の雇 用歴に有意にプラスの影響を及ぼし、その採用確率は、外国人専門職の雇用歴 のない企業の2.1倍となっている。ところが、非専門技術外国人の雇用歴は、 この採用確率には影響を及ぼしていない。また、専門職過剰感は、採用確率に 有意にマイナスに作用しており、当該職種の人材過剰・不足の影響が、学卒採 用及び中途採用に影響しやすいことを示している。 最後に、学卒採用と中途採用のいずれの採用もしない企業では、外国人専門 職の雇用歴は、採用行動に影響を及ぼしていないが、非専門技術外国人の雇用 歴は、有意でマイナスの影響を及ぼしている。また、これに呼応するように、 事務職のみならず、単純工の過剰感が、不採用の確率に有意でマイナスの影響

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を及ぼし、これら過剰感のある場合には、採用の確率を有意に高めることを示 唆している。 以上のように、採用行動の類型別の二項ロジステイック回帰分析によって、 企業の男性中高年比率が、いずれの場合も採用行動に有意でマイナスの影響を 与えるなかで、学卒採用しかしない企業では、外国人専門職の雇用歴は、学卒 採用の確率を高めないが、中途採用のみの企業及び学卒採用と中途採用の両方 の企業では、外国人専門職の雇用歴は、明らかに採用確率に有意でプラスの影 響を与えていることに、特に注意する必要があろう。 このように、外国人専門職の雇用歴は、企業の採用慣行の違いによる格差は あるものの、日本人の正規雇用の採用にプラスの影響を与えることが裏付けら れた。 なお、企業の海外拠点の有無、ワーク・ライフ・バランスや、雇用均等・両 立支援の水準などは、2009月8月時点では、企業の採用慣行に有意な影響を 与えていなかった。しかし、今後、企業の海外経営戦略が進展し、人材確保の ための人事政策の改革が進む場合には、こうした要因も、企業の採用行動に有 意にプラスの影響を与えることが予想されるし、そのことを期待したいもので ある。

6 日本人人材の海外流出問題への対応

5) (1) 人材流出問題の顕在化 ここでは、近年、改めて顕在化してきた日本企業から、新興国企業への人材 流出問題について論じる。 日本でも昭和の初期まで人材の企業への定着率は低く、流動性の高い労働市 場が存在していた。しかし、国内の高度成長や国際展開における成功体験を経 て、日本の企業は、長期雇用と職能資格を基盤とする雇用システムが最適だと 考えるようになった。 長年、日本企業は、日本国内の流動性の低い労働市場を前提とし、同業他社 5) 本章は、井口(2012b)を基にして、修正加筆したものである。

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の賃金・処遇が少しくらい高かろうと、自社の人材は流出しないと考えてきた。 欧米企業や成長著しいアジア系企業では、流動性の高い労働市場のなかに あっても、高度な人材の選抜と確保のために思い切った措置を講じている。そ れは外資系人材コンサル会社の影響が大きい。 ところが、日本企業の雇用システムは、中国やタイなど東南アジア諸国など の流動性の高い労働市においては、人材確保の面で大きな弱点を持つことがあ きらかになった。日本企業において、人材の選別と昇進があまりに遅く、企業 内でアジアの人材のモチベーションを維持することが困難なのである。 アジアでも、15年から20年先には、選別と昇進の速さより、雇用の安定を 志向する人々が増加することが十分予想できる。その際には、老齢年金など社 会保障制度の整備や成熟化が進むことが条件である。長期的な安定を志向する より、短期間に稼得を増やすことを優先する傾向は、ここ10年程度では変化 しないだろう。 (2) 先進国から新興国への人材移動のメカニズム 技術者の転職による技術漏洩の問題は、最近発生し始めたことではないこと が明らかになっている。実は、日本では、既に1990年ころから、顕在化して いた。当時から、半導体製造技術や回路設計の部門で,日本企業を退職後、韓 国企業で活躍した人たちがいたという様々な証言がある。 これら移動は、日本から韓国,日本から中国という動きだけでなく、既成産 業から新興産業間でも起こっていた。例えば、「基礎テレコム産業」から、「付 加価値テレコム産業(インターネット型ICT産業)」への人材移動は極めて活 発だったという。 この場合は「定年後」の移動より、「早期退職勧告」や「人員整理」の背後 で転職が起きている場合が少なくない。極端な場合、「自己都合退職」する技 術者の裏に引き抜きがあったという指摘もある。 したがって、日本企業は、人材流出の問題を、「定年退職後」の問題に限定 すべきではない。手遅れにならないよう、先進国で生じた各種「引抜き」対策 を参考にして新たな対策をたてる必要がある。

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もともと、戦後の人材の国際移動は、途上国から先進国へという人材移動が 中心で、その結果、先進国にプラスの経済効果が生じると考えられてきた。人 口規模の小さい途上国では、短期的に頭脳流出の悪影響が生じた証拠がある。 しかし、経済のグローバル化が進み、新興国による先進国への追い上げが激 しくなる一方、先進国の技術漏えいを防止する措置が、途上国の要求によって 実現しない事態も顕在化してきた。それは、1994年に実質妥結したウルグアイ ラウンドにおいて、TRIPS協定が、先進国の思惑と異なり、途上国への技術漏 洩を防ぐ効果を発揮しなかったことからもうかがわれる(経済産業省2011)。 人材の国際移動に関する経済理論からは、二つの効果が読み取れる。第1 は、途上国から先進国への人材の移動は、それ自体が、人的資本を形成する効 果を持っている(Borjas 2008)。第2に、移動した人材が、先進国で留学し、 学位取得後に就職し、先進国にとどまる限り、途上国への技術移転は生じない。 しかし、途上国のキャッチアップが進み、帰国して起業するなどの魅力が高ま ると、技術移転効果を発揮する(井口1997)。 実際には、途上国から先進国に人材が移動しても、必ずしも、途上国の人材 が枯渇し、経済発展を阻害するとは限らない。むしろ、途上国から先進国への 移動は、それ自体が、人的資源投資の性格を有し、国際移動によって養成され た人材を処遇できる産業・雇用が、先進国にしか存在しないため、先進国で経 済力を持てば母国を支援する力となる。 インドなどの新興国は、印僑のいる先進国を、「人材バンク」と見做してい る。今後、海外に滞在するインド人人材をどう活用するかが、今後のグローバ ルな経済戦略を進めるうえで、重要な手段となる。中国は、国費留学生は帰国 させているが、アメリカに私費で留学した中国人が増加し、全体の1割程度し か帰国しないことを問題視し始めている。こうして、中国のみならず、東南ア ジア諸国でも「リバース・ブレイン・ドレイン」(頭脳還流)政策を進め、帰 国者を優遇し、母国に貢献するよう勧めるが、それほど簡単ではない。 現在の世界における高度人材の移動は、基本的には、移動の自由を前提とし たものであって、各国は、出国を制限することはほとんどない。むしろ、国際 移動を制限する保護主義的な動きこそ、人的投資を妨げ、長期的に、先進国と

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途上国の利益にならないと考えられてきた。 アメリカでは、1990年の移民・国籍法改正で、HI-bビザや雇用目的の移民 のカテゴリーを設け、アジアから多数のIT労働者を国内に呼び込み、米国で 学位を取得した者の就労と滞在を認めた。高度人材の定着を図る企業は、手間 のかかるグリーンカードの取得にも積極的に行動した。こうした動きに刺激さ れ、欧州でも、留学生の受入れと併せ高度人材受入れの競争を引き起こした。 注意すべきは、東アジアでも、日本のみならず、シンガポール、韓国なども高 度人材の受入れ促進策を強化したことである。なお、日本でも、本年5月、高 度人材のポイント制度が導入されたが、日本は、諸外国との社会保障協定の締 結や、外国人の医療体制、インターナショナル・スクールなど、様々な制度的 インフラが不十分なので、入管法上の措置が、強力な人材のマグネットになっ たとはとてもいえない。 従来から、韓国や中国は、日本企業に対して、直接投資に伴い技術移転を要 求してきた。特に、合弁企業とすることで、実質的に技術移転を強要してきた 面もある。しかし、日本企業が、外資100%での進出にこだわり、特許で公開 しない最先端技術や、特許法では守りにくいノウハウなどを、日本国内で維持 するほど、韓国や中国の企業は、離職した技術者を通じた技術漏洩に力を入れ る可能性がある。離転職による人材が移動の場合、技術漏洩と、これによる損 害の発生を立証しにくいことが、その背景にある。 (3) 法的手段による技術漏洩防止対策 在職中の労働者については、雇用契約には明示していなくても、民法第1条 の信義誠実の原則の下で、在職中の従業員には「競業忌避義務」が効力を有す ると考えられている。しかし、従業員が退職した後、競争他社での競業を禁止 するのは決して容易ではない。 わが国でも、他の先進国と同様、転職行動を制限する規定を設けても、よほ どのことがない限り、憲法第22条第1項の職業選択の自由が優先される。判 例では、競業忌避の規定自体が、企業秘密に接する立場にないケースは無効と され、管理職でも期間や地域を限定し、給与を支給するなど代償措置がなけれ

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ば無効となった場合が多い。 同時に、先進諸国では、競争秩序を維持する政策の一環として、営業秘密や 知的財産の保持を定める法令が制定されてきた。わが国の場合、不公正競争防 止法のなかに、営業秘密、秘密保持命令違反罪が設けられている。2006年に は、その違反に関する刑罰が、100年以下の懲役又は1000万円以下の罰金へ と引き上げられた。 営業秘密としての技術の漏洩を抑止し、あるいは、そうした違法行為に対 する代償を法的に期待するのであれば、従業員に営業秘密の保持義務を課すこ とは最小限の前提といえる。このため、営業秘密などを保持する義務を、最小 限、就業規則に記載しておく必要がある。さらに、雇用契約のなかに退職後の 特約を定め、誓約書をとるなど、本人の同意を得る努力も重要となる。 実際に訴訟を提起するためには、これらに加え、技術漏洩の事実を立証し、 それによる損害の発生を明らかにする必要がある。現実には、これらの立証は 容易でなく、転職による技術漏洩の存在は隠されてしまう傾向がある。 もちろん、公開技術については、特許法に基づいて不正な技術漏洩に対処す ることが可能である。権利侵害を検証できる技術については、素早く特許申請 して、その優先度を主張すべきである。しかし、企業内で開発された作業のノ ウハウや部品の作り方など、完成品をみただけで侵害の存在を指摘できない場 合、そうしたアイディアを特許にすることは困難なので、結局、限られた人材 に当該技術を厳密に管理させる必要がある。 (4) 流動性の高い労働市場における人材確保対策 日本企業の評価システムは、労働市場の流動性が低いことを前提としてき た。しかし、日本企業の海外進出が進み、外国企業との国際競争が激化するな か、流動性の低い労働市場を前提とした人材システムでは、離転職に伴う技術 漏洩に対して、あまりに無防備になってしまう。アジアの流動性の高い労働市 場で、人材を企業内で確保するため、日本企業の人事システムとも併存できる 新たな仕組を導入する必要が出てくる。 特に、成長するアジア系企業が導入している仕組は、入社後、2∼3年程度

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で、ポテンシャルの高い従業員を選抜して、重点的な教育訓練を実施し、責任 ある仕事へ配置転換し、高い成功報酬を支給し、人材の離転職を防止するもの である。 アメリカ・カリフォリニア州のシリコンバレーに本社があるネット検索の大 手G社は、世界共通の人事システムを運営しているわけではなく、地域毎に 異なる人事システムを有する。しかし各地域で、入社後2∼3年で、ハイ・ポ テンシャル人材を選別し、集中的な教育訓練や人材配置計画を作成する点では 共通する。その際、ワークライフ・バランスの推進によって、従業員への個別 事情に配慮し業績の向上を促す。同社によれば、離職率は同業他社より低いと 説明しているが、公表はしていない6) なお、グローバル企業である石油関連E社の場合は、世界中どこで勤務しよ うとも、同じ仕事なら同じ給与と処遇を与える。これは、外資系金融機関やコ ンサル会社でも同様である。特徴的なのは、地域本部が、幹部職員の10人に 1人程度を選抜してリストアップし、重点的な人材養成及びグローバルなキャ リア形成を行うことである。こうした選抜された人材育成のため、幹部がかな りの時間と労力を用いて、有能な人材への思い切った投資を進め、同時に離転 職への対策を講じているという。 高度ポテンシャル人材が、離転職した場合、教育訓練費用や、ボーナスの、 例えば半額を返還する義務を課し、ストックオプションの権利を失うなどの方 法がとられる。 アジアでも、こうしたアメリカ企業の人材選抜と確保のためのノウハウは、 外資系人事コンサル会社の指導で急速に進んでいる7)。日本企業が人事コンサ ル会社をあまり活用しないため、アジアのなかで人材確保に関する人事システ ムの格差が広がる懸念もある。 6) 2012 年 3 月に、米国サンフランシスコ郊外でインタビュー調査した結果である。 7) 2012 年 9 月に、台北市のインターネット関連企業でインタビュー調査した結果である。

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(5) アイビーリーグとグローバル人材の養成 アメリカのアイビーリーグの大学(ハーバード大学、イエール大学、プリン ストン大学など)は、多くの世界的リーダーを生みだすことで知られる。確か にリーダーシップは、教えられて身に付くものではない。しかし、自分のリー ダーシップを、実践しながら会得する意欲を育む効果は大きい。 シンガポール国立大学のビジネス・スクールが実施するリーダーシップ・ト レーニングは、学ぶこと及び考えることを基本とし、組織でのリーダーシップ を教える。これは、明らかに、米国のアイビーリーグの大学を意識したもので ある。しかし、日本の大学生の大多数はリーダーシップを考えたことすらな く、リーダーを支える重要性やスキルを学ばずに社会に放り出される。 そもそも、個人が経済的な成功を達成することを支援するのが、大学の本来 の目的ではないという見方がある8)。ところが、日本の大学は、そのことを完 全に忘れてしまっている。アメリカのアイビーリーグの大学のリーダーシップ とは、個人の経済的成功を超えたところ人生の価値を置き、チームのモチベー ションと自主性を引き出す点にあるようにみえる。 日本では、大学が、自らを経済的な成功の手段とすることに専念しているよ うにみえる。結果的に、こうした大学は、世界から信頼を得るリーダーを生み 出せなくなっている。 そうしたなか、バブル崩壊後、中止していた企業からの海外留学を復活さ せ、海外体験を増加させる動きがみられる。そのこと自体は、評価すべきであ るが、それによって海外で通用する「グローバル人材」が育つと考えるのは短 絡的に過ぎる。 現実に、東アジアに進出した日系企業に派遣された日本人管理職に対する現 地従業員の評価の低さには、愕然とさせられる。日本人管理職が評価されるの は、「調整能力」や「本社との関係」だけであり、現地従業員からみれば、説 明責任を果たせず、モチベーションを挙げられず、リーダーシップに欠けると いう結果が出ている(白木2012)。 8) 2011 年 5 月、アメリカ・コネチカット州のイエール大学訪問時に得た知見に基づく。

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そもそも、「グローバル」人材の養成を語る前に、「アジア」人材を語る必要 がある。日本人が、あまりにアジアのことを知らないからである。アジアを知 り、アジアの人材と強力して仕事をするには、定評のあるアジアのビジネス・ スクールで修業する機会を活用すべきである。 ところが、日本企業は、ビジネス・スクール(MBA)コースを評価せず、利 用しないことで世界的に有名である。また、日本では、理工系人材に、MBA をとらせて、技術的な創造力と経営のセンスを組み合わせる機会を与えないこ とも、技術系人材の処遇が伸びない背景にあると考えられる。 米国の主要企業は、優秀な人材がMBAコースへの参加を支援し、修了者 への報酬面でも報いている。ところが、日本企業は、MBA自体に批判的な企 業が多い。確かに、日本の大企業は、以前からアメリカのハーバード・ビジネ ス・スクールに優秀な社員を送ってきた。しかし、帰国後に、その人材を生か せた事例は少ない。そこで、東アジア周辺国のMBAコースで武者修行させる ことが考えられる。強力なリーダーシップを発揮した人材は、周囲の動きにと らわれない探究心を維持したり、ハンデイキャップを乗り越えて、強い意志を 育んだり、自分の生き方に目覚めていた場合が多い。 日本の教育システムにおいては、一般的に、学生自身が学問に対して自ら情 熱を見出すような教育をしていない。一定の課程をこなすことのみを要求し、 学ぶ側に受け身の姿勢が定着してしまう。このようなことを続けていれば、学 校時代に、自ら強い目的意識を発見し、使命感を見出すような機会は巡ってこ ないだろう。それは、教育が、個人が将来、リーダーシップを発揮するための 基礎的条件を、学校教育が奪っていることを意味する。 (6) 経済界の対応のあり方 日本のエレクトロニクス産業から、韓国や中国への人材流出と技術漏洩が 問題になってから久しい。2012年の現在、同じ問題が、鉄鋼産業にも波及し、 日本の経済界にショックが走った。これが次第に、わが国を支える自動車産業 に波及する事態を危惧する関係者が増えている。その意味で、人材流出による 技術漏洩の問題に対しては、自動車産業こそが先導して改革を進め、東アジア

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における日本経済の競争上の地位の確保と向上を実現すべきである。 第1に、現在焦点となっている技術系人材の流出の防止には、管理職に比 べて見劣りする技術系人材の処遇改善を進める必要がある。同時に、技術系人 材に、国際的に通用するマネジメント能力を高める機会を与えることが重要で ある。 第2に、アジアのような流動的な労働市場に対応し、人材の選別と集中的な 投資及びな人事制度及び法律上の措置を組み合わせることで、離転職の機会費 用を高め、離転職を効果的に防止すべきである。その際、高度ポテンシャル人 材の選別を1回きりとするのでなく、再度の挑戦を可能とすることや、長期安 定雇用により技能・技術を維持する生産現場を尊重する雇用慣行の伝統を失わ ないようにしてもらいたい。 また、定年に達したOBやOGについても、本人の専門性を生かせるよう に、トレーナーや講師としての仕事を与え、退職後も毎年定期的に交流会を設 け、企業との関係を希薄にしない工夫が重要である。 第3に、人材の評価制度の客観化を進め、人材評価を直属上司の個人的な判 断に任せず、複数の判断を基にし、人事部が説明責任を果たせる公正な判断と すべきである。さらに、高度ポテンシャル人材の選別・育成や、成果を達成す るのに必要なワークライフ・バランスの施策は、経営戦略とも整合性のある長 期的視野にたったものとすべきである。 第4に、日本人の後継人材の育成に当たっては、企業は、高校・大学との 連携を強めるとともに、企業が「人を使う」のでなく、企業において、「互い に学ぶ」、「人を育てる」文化を再生させねばならない。そこでは、日本語だけ 日本人だけの、日本の中でしか通用しない論理を排除し、特にアジアと一体に なった経営を目指さねばならない。総労働費用の管理は必要であるが、企業文 化の改革により、人材育成には重点的に資源を投入する姿勢を明確にすること が重要である。

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7 国際的な人の移動に関する政策の動向

9) 以上のような外国人人材の受入れ増加や日本人人材の流出の顕在化などの 動向を踏まえて、世界経済危機の下で、国際的な人の移動に関して、如何なる 新たな政策が実施されてきたかを整理する。 ① 改正入管法の施行 2009年7月、出入国管理及び難民認定法と、住民基本台帳法が改正された。 これにより、2010年7月から、技能実習の在留資格が新設され、研修生にも 労働法が全面適用され、受入れ団体の責任が強化された。 2012年7月には、在留カードが導入されて、外国人登録法が廃止され、同 時に、外国人台帳が、デジタルな全国ネットワークで住民基本台帳のなかに創 設される。 これにより、2007年の雇用対策法と併せ、外国人の居住や就労場所が把握 できるようになり、在留する外国人の権利の確保と義務の遂行を促し、地域・ 自治体レベルで日本人と外国人の共生に向けた取り組みが実効性を高めること が期待される。 しかし、現状では、外国人の社会保険や雇用保険の加入状況を、外国人雇用 状況届や住民基本台帳と照合して確認することすらできない。厚生労働省が、 外国人の氏名をカタカナで記載し、パスポートのアルファベット表記に統一し ていないためである。 ② 定住日系外国人対策の動向 2010年8月に、定住日系外国人対策指針が、2011年3月に、その行動計画 が決定された。 これにより、定住日系外国人への限定はあるものの、①日本語で生活できる ために、②子どもを大切に育てていくために、③安定して働くために、④社会 のなかで困ったときのために、⑤お互いの文化を尊重するための5分野の施策 について明記された。 しかし、行動計画は、依然として、個々の関係省庁の施策を集めたもので、 9) 井口(2012a)を基礎として、修正加筆したものである。

図 3  月間フィリピンからの入国者・出国者の推移

参照

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