小学生が意欲的になる場面と動機
- 児童が意欲的に取り組んだ活動と動機との関連 -
○吉村宰(岡山大学教育学部) ・森陽子(岡山大学大学院教育学研究科)
1. 問題と目的
近年,学力観が大きく変化している.特に「自ら学び,自ら考える力」すなわち「生きる力」の育 成という観点から,「関心・意欲・態度」といった学習活動を支える基本姿勢が重要な学力として取 り上げられ,これを育成することが求められている.学力の育成にはその過程で必ず「評価」という 活動が必要となる.しかし,評価の対象となる学力が「関心・意欲・態度」であること,さらに総合 学習の時間の導入などにより具体的な教育活動の幅も広がっていることから,従来の枠組みでの評価 は非常に困難である.
意欲や態度・関心に関する心理学的研究は盛んであり,それなりに多くの知見も蓄積されている.
しかし,構成概念間の相関関係についての理解を深めるだけでは,実際の評価活動にはつながらない.
具体的かつ自然な教育活動場面での児童・生徒の関心・意欲・態度の実態をいかに把握するかの方法 を探っていく必要がある.
具体的かつ自然な教育活動場面での児童・生徒の関心・意欲・態度の実態を明らかにするには,ま ずは,児童・生徒がどのような活動をしているか,関心・意欲・態度がどうであるかを同時に把握し,
その対応関係の特徴を記述することが先決であると考える.
本研究では,児童によって報告された意欲的に取り組んだ授業中の活動場面についての自由記述回 答と動機に関する心理尺度得点との関連を調べることにより,具体的かつ自然な教育活動場面での児 童・生徒の関心・意欲・態度の実態理解を試みる.
2.方法
岡山市内公立小学校 6 年生 153 名を対象に,総合学習の単元「修学旅行を作る」の前後それぞれの 時期に質問紙による動機の測定を行った(間隔は約 3 ヶ月).2 回目の測定時には,併せて,総合学 習の活動の中で「がんばったこと」等についても尋ね,自由記述による回答を収集した.
2-1.動機の測定
動機の測定には既存の 8 種類の動機測定尺度(親和動機測定尺度,刺激欲求尺度,賞賛獲得欲求・
拒否回避欲求尺度,独自性欲求尺度,ユニークネス尺度,達成動機測定尺度,成功回避動機尺度:全 180 項目)を再構成したもの(全 39 項目,9 下位尺度)を用いた(Table 1).各質問項目に対し回 答者は, 「全くあてはまらない=0」および「全くその通り=5」を両極とする 0〜5 の数字を1つ○で 囲むことで回答した.
2-2.自由回答「がんばったこと」の分類手続きおよびその結果
総合学習「修学旅行を作る」の活動の中で「がんばったこと」についての自由回答をその内容に基 づき以下の手順で分類した(実際の計算は WordMiner 1.00 による) .
1. 自由回答を任意の要素(以降単語と呼ぶ)に分割
2. 単語を編集する(削除や置換)
3. 回答×単語の出現頻度に基づく対応分析を行う
4.
得られた数量得点に基づき回答のクラスター分析を行うTable 1 動機測定尺度の下位尺度と項目例
下位尺度名 項目例
賞賛獲得 みんなの注目を浴びたい
愛 着 物事がうまくいかない時,人と一緒にいることが一番の慰めになる 自己主張 人がどういう意見を言っていようが,自分の意見ははっきり言う
同 調 グループと一緒にいるとき,けんかなどにならないように,彼らに賛成している 自己向上 いつも何か目標を持っていたい
刺激追求 少々危険なことでも活動的な仕事の方が好きだ 自己確認 自分について考えることが多い
自己承認 まわりの人が私の存在に気づき,私らしさを認めてくれたらいいと思う 競争優勢 社会の高い地位を目指すことは重要だと思う
なお解析の対象とした単語は出現頻度2度以上の 48 語,解析の対象とした回答者はこの単語に対す る反応が少なくとも1つ以上ある 135 名である.クラスタ数の決定は,4 クラスタから 15 クラスタ までクラスタ数を変化させ,その内容を比較検討して行った.最終的に 7 クラスに分類することにし た. Table 2 に 7 クラスに分類した場合の各クラスタに特徴的に出現する単語およびクラス名を示し た.各クラス名はそれぞれ「がんばったこと」を表している.各活動内容の概要は次の通りである.
l リーダー :班長や副班長としての仕事
l 集団行動 :集団の維持(けんかをしないようにまとめる,決めるなど)
l ガイドブック:修学旅行のしおりの作成
l 紙芝居 :修学旅行後に行われた5年生への修学旅行発表会での出し物の準備 l 発表会 :修学旅行後に行われた5年生への修学旅行発表会
l 資料収集 :ガイドブック作成のための資料収集 l な し :なし
3.「がんばったこと」別の動機プロフィールにみられる特徴
Fig.1〜Fig.8 に全体および各クラスごとの動機のプロフィールを示した.数値は各下位尺度におけ る 1 項目当たりの平均評定値である(0=全くあてはまらない,5=全くその通り).全体的な特徴とし て,「他人に自分を認められたい」という自己承認の欲求や自己向上欲求が高く,競争意識や「目立 ちたい」という賞賛獲得欲求,「周囲に遠慮せず自分の意見を主張する」という自己主張欲求が低い ことなどが挙げられる(Fig.1) .
「リーダー」の仕事をがんばった児童は,他と比較して,刺激追求が高く,賞賛獲得,自己承認が やや低いことが特徴的である(Fig.2).リーダーとしての仕事に意欲的に取り組むのは単に「目立ち たい」からや「認められたい」からではなく,「冒険的」な活動を行いたい,自分自身を高めたいと いう動機によると言えるだろう.
「紙芝居」と「資料収集」では,自己主張の平均評定値が活動の後で若干ではあるが高くなってい
る(Fig.5, Fig.7) .いずれの活動もグループ活動ではあるが作業自体は個別的要素が強い.個とグル ープの軋轢を経験する機会は多いと考えられる.こうした体験が自己主張の変化の背後にあるかもし れない.同様の傾向が「ガイドブック」にもみられる(Fig.4) .
きわめて特徴的なのが,クラス「なし」の動機プロフィールである(Fig.8).がんばったことがな い,ということの背後に動機の低さがあるのではないことが見て取れる.さらに興味深いことに,こ のクラスでは活動後の動機が他のクラスに比べ著しく増大していることである.「がんばった」かど うかは主観的なことがらなので,必ずしも教師の観察によって見いだすことができるとは限らない.
自由記述回答を解析することで得られた知見だと言えよう.
Table 2 出現頻度に基づく各クラスに特徴的な単語
クラス名 人数 特徴的な単語 クラス内頻度 全体頻度 検定統計量 p 値
リーダー 11 12 6.96 0.00
リーダー 13
班行動 7 7 5.56 0.00
決めた 11 15 3.83 0.00
バス 5 5 3.14 0.00
席 5 5 3.14 0.00
人 7 9 3.08 0.00
けんか 4 4 2.69 0.00
集団行動 17
しない 4 4 2.69 0.00
ガイドブック 16 ガイドブック 16 16 9.54 0.00
絵 8 8 5.55 0.00
書いた 8 10 4.88 0.00
紙芝居 4 4 3.62 0.00
紙芝居 13
模造紙 3 3 2.99 0.00
発表会 39 40 9.23 0.00
発表会 52
5年生 19 20 5.80 0.00
資料 7 11 4.03 0.00
調べた 5 6 3.80 0.00
自分 4 4 3.65 0.00
映画村 3 3 3.01 0.00
資料収集 15
探した 3 3 3.01 0.00
なし 9 なし 9 9 8.12 0.00
4.まとめ
本研究では,児童が意欲的に取り組んだ活動・場面を自由に記述させ,その動機のプロフィールと の関連を眺めることで,各活動ごとの動機プロフィールの特徴を描き出すことを試みた.その結果,
児童が意欲的に取り組んだ活動ごとに動機プロフィールが特徴的に異なることが示された.「関心・
意欲・態度」といった新しい学力の育成が課題となっている現状においては,こうした心理的な側面
での個人特性を的確に把握・評価する手法をさらに積極的に開発・確立していくことが必要だろう.
0 1 2 3 4 賞賛獲得
愛着
自己主張
同調 自己向上 刺激追求
競争 自己承認
自己確認
1回目 2回目
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自己主張
同調 自己向上 刺激追求
競争 自己承認
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1回目 2回目
Fig.1 活動前後の動機プロフィール_全体 Fig.2 活動前後の動機プロフィール_リーダー
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自己主張
同調 自己向上 刺激追求
競争 自己承認
自己確認
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Fig.3 活動前後の動機プロフィール_集団行動 Fig.4 活動前後の動機プロフィール_ガイドブック
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自己主張
同調 自己向上 刺激追求
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同調 自己向上 刺激追求
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Fig.5 活動前後の動機プロフィール_紙芝居 Fig.6 活動前後の動機プロフィール_発表会
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同調 自己向上 刺激追求
競争 自己承認
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同調 自己向上 刺激追求
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Fig.7 活動前後の動機プロフィール_資料収集 Fig.8 活動前後の動機プロフィール_なし