奈良教育大学学術リポジトリNEAR
小学校理科における児童自らが意欲的に学ぶための 場づくりに関する実践的研究
著者 吉岡 真志
雑誌名 奈良教育大学教職大学院研究紀要「学校教育実践研
究」
巻 5
ページ 11‑19
発行年 2013‑03‑29
その他のタイトル A Practical Study on Learning Environment regarding to Learning Motivation in Science Lesson at Elementary School
URL http://hdl.handle.net/10105/9395
関する実践的研究
A Practical Study on Learning Environment regarding to Learning Motivation in Science Lesson at Elementary School
吉岡 真志
奈良教育大学大学院教育学研究科教職開発専攻
Masashi Yoshioka
School of Professional Development in Education, Nara University of Education
<あらまし> 理科の学習に関して、国際的な学習調査であるTIMSS調査で「日本の児童 は理科の成績は上位であるにもかかわらず、意欲面で課題がある」という結果が示され、理 科における学習意欲を高める必要性が指摘されている。そこで、本研究では、理科の学習意 欲を高めるために、インストラクショナルデザインの理論のひとつであるARCS動機付けモ デルに注目し、授業デザインを行い実施した。実践した単元は小学校第6学年「電気の利用」
と小学校第5学年「天気の変化」である。結果、ARCS動機付けモデルを活用した授業デザ イン,教材の開発は、ある条件下で学習意欲の向上に寄与することが示された。
<キーワード> 小学校理科 インストラクショナルデザイン ARCS動機付けモデル
1. はじめに
日本の理科教育の課題を考えて行く上で、よく 国際的な学習調査が参考にされる。
その中の一つに IEA(国際教育到達度評価学会) が実施しているTIMSS調査(国際数学・理科教育動 向調査)がある。TIMSS調査結果を見ると、日本の 児童生徒の特徴として「理科の成績は上位である にもかかわらず、意欲面で課題が残る」というこ とが明らかになった。
そこで、平成20年1月に中央教育審議会答申「幼 稚園、小学校、中学校、高等学校および特別支援 学校の学習指導要領等の改善について」の中で「理 数教育の充実」が掲げられ、「理科を学ぶことの意 義や有用性を実感する機会をもたせ、科学への関 心を高める観点から実社会・実生活との関連を重 視する内容を充実する方向で改善を図る」とされ た。
これを受けて、平成20年3月に学習指導要領が
改訂され公示された。この新しい教育課程でも「基 礎的・基本的な知識及び技能を確実に習得させ、
これらを活用して課題を解決するために必要な思 考力・判断力・表現力その他の能力を育むととも に、主体的な学習に取り組む態度を養い、個性を 生かす教育の充実に努めなければならない」と記 述された。
これらTIMSS調査、中央教育審議会答申そして
学習指導要領などから、児童生徒一人ひとりが自 ら学ぼうとし、学び、学び続けるといった学習意 欲の向上が大きな課題の一つであることが分かる。
2. 研究の背景および目的
学習意欲を高める研究のひとつにインストラク ショナルデザインを用いたアプローチがある。イ ンストラクショナルデザインでは授業づくりに関 する基本的な考え方や、学習意欲を高める方法、
教師の関わり方の視点、教材の構成方法など、よ
り良い教育活動を目指して、さまざまな理論の提 案がされている(稲垣,2011)。そして、このような インストラクショナルデザイン理論の1つにケラ ーのARCS動機付けモデルがある(Keller,1987)。 ケラーの提唱するARCS動機付けモデルとは、授 業・教材を魅力あるものにするために学習意欲を
「Attention(注 意)」「Relevance(関 連 性)」
「Confidence(自信)」「Satisfaction(満足感)」の4 つの要因でとらえるモデルであり、授業における 学習者の分析や学習意欲を高めるための方策の検 討に利用することができることで知られている。
そこで、本研究の目的は、自ら意欲的に学ぼう とし、学び、学び続ける児童の育成を目指して、
ARCS動機付けモデルを使い、学習意欲を高める 学習環境の要件を明らかにすることとする。
3. 学習環境について
児童をとりまく学ぶ場としての学習環境には、
さまざまなものが考えられる。高垣(2010)は、学 習環境を「学習者を取り囲む外界のことであると し、基本的に物的要因と人的要因が考えられる」
としている。そこで、本研究では、学ぶ場を物的 要因と人的要因の2つに分類する。さらに、物的要 因を「教材」とし、人的要因を「教師の働きかけ と児童の活動」として、それらを1章で触れたイン ストラクションデザインのARCS動機付けモデル に照らし合わせて考え、児童の学習意欲向上のた めの手法を検討する。
3. 1. 学習意欲を高める物的要因について
ここではまず物的要因である教材について考え る。教材を使用するときには同じ教材であっても、
その使い方によっては学習意欲を高めることもあ れば、そうでないこともある。授業で学習意欲を 高めることに教材を使うためには、教材の意図を 明確にする必要がある。上田(2006)はARCS動機 付けモデルを教材に応用して、注意を引きつける
「Attention教材」、やりがいがありそうだと思わ
せる「Relevance教材」、やればできそうだと学習
への自信をもたせる「Confidence 教材」、達成感 や 自 分 の 成 長 か ら 満 足 感 を 感 じ さ せ る
「Satisfaction 教材」の4つに分類することで、
教材の活用意図を明確にしている。そこで、本研 究においても作成した教材を ARCS の4要因で 分類することで、教材の意図を明確にして活用す る。
3.2. 学習意欲を高める人的要因について 人的要因である、教師の働きかけと児童の活動 に関しては、授業構成のデザインコンセプトとし
て、ARCS動機付けモデルを理科の授業構成に応 用する。文部科学省が示している「小学校理科の 観察,実験の手引き」(2009)に理科の授業の一例と して、問題解決の過程が記載されている(表1)。
表1 理科授業の流れの一例
①自然現象へ の働きかけ
② 問 題 の 把 握・設定
③予想・仮説の 設定
④検証計画の 立案
⑤観察・実験 ⑥結果の整理 ⑦考察 ⑧結論の導出
先 に も 述 べ たARCS動 機 付 け モ デ ル は
「Attention(注 意)」 「Relevance(関 連 性)」
「Confidence(自信)」「Satisfaction(満足感)」の4 つの要因を示している。これら4つの要因を文部科 学省の示す理科授業の流れに照らし合わせて「教 師の働きかけと児童の活動」を考える際に,関係 が深いと予想される部分(以下領域と呼ぶ)を繋 げて考えると表2のようになる。
表2 ARCS動機付けモデルと関係づけた
理科授業
①自然現 象への働 きかけ
②問題の 把握・設 定
③予想・
仮設の設 定
④検証計 画の立案
⑤視察・
実験
⑥結果の 整理
⑦考察 ⑧結論の 導出
3. 3. 研究の全体図
上記ような物的要因と人的要因の両要因を効果 的に使用するために、Attention と関連が深い授 業の流れの領域で Attention 教材を使用し、
Relevanceの領域ではRelevance教材を使用する など、各関連の深い部分に適した教材を使用する 事にする。これらを踏まえて作成した研究の全体 像を図1に示す。
Attention領域 Confidence領域 Relevance領域 Satisfaction領域
小学校理科における自らが意欲的に学ぶための場づくりに関する実践的研究
研究仮設
児童の学ぶ意欲を高めるための学習環境を、人的要因を教師の働きか けと児童の活動、物的要因を教材とし、それらにABCS動機付けを照ら し合わせると、児童の学習意欲が向上するだろう。
1.自然現象への働きかけ
2.問題の把握・設定 Attention教材
3.予想・仮説の設定 Relevance教材 4.検証計画の立案
5.観察・実験 Confidence教材
6.結果の整理 Satisfaction教材 7.考察
8.結論の導出 吉岡 真志
4. 研究の手続きと方法
そこで「自ら意欲的に学ぼうとし、学び、学び 続ける児童の育成を目指す」といった主題に迫る ための授業実践を行うにあたって、次の①~③の 手続きを取ることとする。
① 授業実践する児童について、実態把握をする。
② ①で得た実態および育てたい児童像に基づい て、授業をデザインし実践する。
③ ②の授業実践を行うことで、①で得た児童の 実態がどのように変容したのか検証する。
また、授業実践を行った授業についての概要を 表3に示す。
表3 授業実践の概要
単元 時期 児童について 育てたい 児童像 1 電 気 の
利用
平成23年度 2月〜3月
奈良県大和郡山市 の公立A小学校
自ら学ぼう とする児童 2 天 気 の
変化
平成24年度 10月〜11月
奈良県生駒市の公 立B小学校
自ら学び続 ける児童
4. 1. 「授業実践する児童について、実態把握
をする」について
まず児童の実態把握をするための方法であるが、
本研究では児童が理科に対してどのような意識を もっているのかを知ることが非常に重要である。
そこで、全国学力・学習状況調査の「児童の質問 紙」で使用されたアンケート(2012)および、国立 教育政策研究所「平成17 年度特定の課題に関す
る調査報告(理科)」の「児童生徒質問紙」(2007) で使用された2種類のアンケートの文言を少し簡 単にし、「理科の学習に関するアンケート」と題し て作成した。このアンケートは全 17 項目から成 り立っており、それぞれの項目に関して4件法 (「そう思う」「どちらかといえばそう思う」「どち らかといえばそう思わない」「そう思わない」)で 回答ができるようにし、児童の本音を引き出すた めに無記名で実施する。作成した「理科の学習に 関するアンケート」を表4に示す。
次に、前学年までの関連する内容を中心に最低 限身に付けておいて欲しいことを測るための「前 提テスト」を作成した。
最後に、実践する単元について授業を受ける必 要があるのか、できていない部分を確かめ、どこ を重点的に教える必要があるのかを調べるための
「事前テスト」を作成した。
これら、「理科の学習に関するアンケート」「前 提テスト」「事前テスト」の3種類を実践実施1週 間前に実施することによって、児童の実態把握と する。
4. 2. 「①で得た実態および育てたい児童像に
基づいて、授業をデザインし実践する」
について
授業デザインは、3.1.および 3.2.で述べた物的 要因および人的要因に ARCS 動機付けモデルを 活用したものに、4.1.で述べた3種類のアンケー トより分かった児童の実態に基づいて行う。具体
番号 質問項目
1 理科の勉強は好きだ。
2 理科の勉強は大切だ。
3 理科の授業の内容はよく分かる。
4 自然の中で遊んだことや自然観察をしたことがある。
5 科学や自然について疑問を持ち、その疑問について人に質問したり、調べたりすることがある。
6 理科の授業で学習したことをふだんの生活の中で使うことができないか考える。
7 理科の授業で学習してきたことは、将来、大人になったときに役に立つ。
8 将来、理科や科学技術に関係する仕事をしたい。
9 理科の授業で、自分の考えをまわりの人に説明したり発表したりしている。
10 観察や実験を行うことが好きだ。
11 理科で勉強していることを観察や実験をして自分で確かめることは大切だと思う。
12 理科の授業で、自分の予想をもとに観察や実験の計画を立てている。
13 理科の勉強で、実験の結果が予想とちがったとき、その理由を調べようとしている。
14 理科の授業で、観察や実験の結果から、どのようなことが分かったのか考えている。
15 理科の授業で、観察や実験の進め方や考え方がまちがっていないかをふり返って考えている。
16 理科の授業でものをつくることは好きだ。
17 観察や実験の結果から、さらに疑問がわいてくることがある。
表4 作成した「理科の学習に関するアンケート」
的実践例は、次の5.および6.でそれぞれ述べる。
4. 3. 「②の授業実践を行うことで、①で得た
児童の実態がどのように変容したのか を検証する」について
本研究で、意識の変容を検証する視点を学級全 体での意識の変容と個人の意識の変容の2点から 考えることとする。
まず、一つ目の学級全体での意識の変容である が、この検証方法として4.1.で作成し実施した「理 科の学習に関するアンケート」と「事前テスト」
(「事前テスト」は「事後テスト」と名称のみ変更 し、内容は同じにする)を実践終了後1週間以内に 再度実施することによって、変容の検証を行う。
なお、「理科の学習に関するアンケート」はt検定 を用い「事前テスト」は内容をカテゴリーに分け、
それらの平均値の比較を行うことによって検証す る。
次に、個人の意識の変容であるが、この検証方 法として、児童のノートおよびワークシートの記 述を使用する。これらの記述内容の変化を追うこ とを通して検証をする。
5. 学習意欲を高める授業実践例1 5.1. 児童の実態把握
実践実施1週間前に「理科の学習に関するアン ケート」「前提テスト」「事前テスト」の3種類を 行った結果、次の① 〜③に示す、児童の実態が分 かった。
①「理科の学習に関するアンケート」より授業で ものをつくることが好きな児童が多いことが 分かった。
→「ものづくり」を行う時間を確保する。
②「前提テスト」より回路のつなぎ方を苦手とし ている児童が多いことが分かった。
→実験時に自分たちで回路を考えながら実験す るようにする。
③「事前テスト」より電熱線の発熱はその太さに よって変わることについて理解していない児 童が多いことが分かった。
→「電気による発熱」を独立した小単元にする ことで、電気を熱に変えることができること を集中的に行う。
5.2. 授業デザイン
本実践は自ら学ぼうとする児童の育成を目的と して実施した。そこで、次の④ 〜⑤を単元の中に 組み込み授業デザインを行うことにした。
④ Attention 教材を多く作成し、おもしろそう
だなと思う教材の工夫を行う。
⑤ 授業終了時に「興味をもったこと・もっと知 りたいこと」を考える時間を確保し、記述さ せることによって、授業を振り返り、学びた いことを整理する時間を設ける。
表5 作成した単元構成(電気の利用)
5.3. 教材について
使用したAttention教材について述べる。
① 風力発電機・圧電素子
これらは第1次で新エネルギーを紹介するとき に使用する。これらの教材は、新たな発電方法と して手に触り感じることで興味を引きつけるとい う目的のために使用する。なお、風力発電機は大 阪の電気店で購入した。圧電素子は、圧電素子に 発光ダイオードを付け、圧電素子をたたくと、発 光ダイオードが光るよう回路を組んだ。
② ドライヤー
ドライヤーは第2次「電気による発熱」で使用 する。電気は光や音以外にも、熱に変換すること ができるという意識づけのために使用する。
③ コンデンサを入れた回路と入れていない回路 これらは第3次「電気の蓄電」で使用する。こ れらの教材は電気を貯める器具があるのではない かという興味をもたせる目的で使用する。
見た目は同じような箱であるが、一方にコンデ ンサを接続した回路を組み見えないように入れて ある。このことより、手回し発電機を接続して、
豆電球を光らせたとき、コンデンサ入りの回路は 手回し発電機を止めても光り続けるが、コンデン サの入っていない回路では手回し発電機を止める と同時に豆電球も光らなくなる。
5.4. 実践の結果
本実践は、5.1.および 5.2.で述べた① 〜⑤を単 第一次 電気の発電・変換 全3時間
○電気のつくられ方 (1)
○電気の働き (1)
○電気の発電・変換を学んで (1) 第二次 電気による発熱 全2時間
○電気による発熱 (2) 第三次 電気の蓄電 全3時間
○電気の蓄電 (1)
○コンデンサの蓄電量 (2) 第四次 ものづくり 全2時間
○平行板コンデンサの作成 (2) 第五次 電気の利用まとめ 全1時間
○電気の利用を学んで (1) 吉岡 真志
元構成の中に組み込んで、自ら学ぼうとする児童 の育成を目指した授業実践を行った。
その結果を4.3.で述べた検証方法に基づいて検 証を行った。
学級全体の意識の変容結果を述べる。まず、「理 科の学習に関するアンケート」から分かる変容で ある。このアンケートは無記名で行っているため、
児童群は同じであるが、個別の対応を取ることが できないため、対応のないt検定を行った。なお、
分析には統計解析ソフトSPSS21.0を使用した。
その結果、5%水準で有意な差が見られた項目は 次のとおりである(表6)。
表6 優位な差が見られた項目
番号 質問内容
2 理科の勉強は大切だ。
5 科学や自然について疑問を持ち、その疑問について人に質問し たり、調べたりすることがある。
7 理科の授業で学習してきたことは、将来、大人になったときに 役に立つ。
10 観察や実験を行うことが好きだ。
11 理科で勉強していることを観察や実験をして自分で確かめるこ とは大切だと思う。
12 理科の授業で、自分の予想をもとに観察や実験の計画を立てて いる。
13 理科の勉強で、実験の結果が予想とちがったとき、その理由を 調べようとしている。
14 理科の授業で、観察や実験の結果から、どのようなことが分か ったのか考えている。
15 理科の授業で、観察や実験の進め方や考え方がまちがっていな いかをふり返って考えている。
16 理科の授業でものをつくることは好きだ。
これらの項目のうち特に注目したい項目は、5 と12と14の3項目である。これらの項目は、自 ら学ぼうとする姿勢に関する項目であり、本実践 を通して、自分の身近なところに学習した内容が 活用することができないか、疑問をもったり、調 べたりしている児童が多くなったことを意味して いる。
「事前テスト」についてである。事前テストお よび事後テストの正答した割合を表7にのせる。
表7 「前提テスト」「事後テスト」の結果 質問内容 理解している児童の割合 [%]
事前テスト 事後テスト 電気は、つくりだしたり蓄え
たりすることができること
20 83
電気は、光、音、熱などに変 えることができること
31 95
電熱線の発熱は、その太さに よって変わること
10 79
手回し発電機の働き 33 92 コンデンサの働き 14 89 発光ダイオードの働き 13 88
これらのことは、理科の授業に対して意欲的に 取り組み、理科の学習内容や実験への興味・関心 だけでなく、理科を学ぶことの有用性を実感でき、
理科の学習の必要性を感じている児童が多くなっ たことを意味している。
次に、個人の意識の変容結果を述べる。これら は授業終了時に記述させていた「興味をもったこ と・もっと知りたいこと」に関しての児童の記述 について述べる。
【手回し発電機による実験を終えて】
•手回し発電機につなぐ物によって回す時の手ご たえがちがうのはなぜなのかなと思いました。
•手回し発電機を使って電気をつくることに興味 をもった。手回し発電機についてもっと知りたい。
•なぜ、反対に回すとつかないものとつくものがあ るのか。
【電熱線の発熱実験を終えて】
•電気は熱を作ることができることをはじめて知 りました。逆に、熱を使って電気を作ることはで きるのか疑問に思いました。
•時間をはかってやるのがおもしろかった。電熱線 をもっと太くしたやつをやってみたい。
•細い方が太い方より発電するけど、そしたら長い 方、短い方どちらの方がより発熱するのかをしら べたいです。
【コンデンサに電気を蓄える実験を終えて】
•他の班の実験でLEDが長持ちすることがわかり、
エコにはLEDを使うのがいいと思いました。
•やっていたらなんかおかしくなってグチャグチ ャになったけど、なんとかできました。
【単元「電気の利用」を終えて】
•LED(発光ダイオード)はどんな作りになってい るのかなと思いました。あんなに小さな点のよう
な物から光るのはふしぎだなと思いましたし、そ のLEDのしくみについても調べてみたいです。
•いろいろな実験をさせてもらって、色々なことを 知ることができました。私は理科が嫌いだったけ ど、ちょっと好きになりました。
これらの記述から各実験において子どもが自ら 調べたいというおもいをもって、実験を行った結 果、さらにさまざまな疑問をもつことができ、自 ら学ぼうとする姿勢を見ることができたといえる。
6. 学習意欲を高める授業実践例2 6.1. 児童の実態把握
5.同様、実践実施1週間前に「理科の学習に関 するアンケート」「前提テスト」「事前テスト」の 3種類を行った結果、次の① 〜③に示す、児童の 実態が分かった。
①「理科の学習に関するアンケート」より授業で ものをつくることが好きな児童が多いことが 分かった。
→「ものづくり」を行う時間を確保する。
②「前提テスト」より小学校第4学年までの学習 内容は約80 [%]の児童が理解していることが 分かった。
→前学年までの復習より、これからの学年に向 けての発展的内容を含む時間を単元の中に組 み込むことにより、身に付いたことを生活の 中で活かすことができるようにする。
③「事前テスト」より天気を予想することについ て理解していない児童が多いことが分かった。
→「天気の変化の予想」を独立した小単元にす ることで、天気の変化の予想について集中的 に行う。
6.2. 授業デザイン
本実践は自ら学び続けようとする児童の育成を 目的として実施した。そこで、次の④ 〜⑤を単元 の中に組み込み授業デザインを行うことにした。
④Satisfaction 教材を多く作成し、やってよかっ
たなと思う教材の工夫を行う。
⑤授業終了時に「興味をもったこと・もっと知り たいこと」を考える時間を確保し、記述させ ることによって、授業を振り返り、学びたい ことを整理する時間を設ける。
表8 作成した単元構成(天気の変化) 第一次 雲の様子と天気の関係 全2時間
○天気の変化の様子 (2) 第二次 雲をつくる 全1時間
○雲をつくる (1)
第三次 天気の変化のきまり 全5時間
○天気の移り変わり (2)
○パラパラ天気の作成 (2)
○天気と観天望気 (1)
第四次 天気の変化の予想 全3時間
○季節ごとの天気の様子 (1)
○天気の変化の予想 (2)
6.3. 教材について
使用したSatisfaction教材について述べる。
① パラパラ天気(パラパラ雲・パラパラ雨) これは第3次「パラパラ天気の作成」で使用す る。この教材は児童全員分用意し、自ら作成させ ることで達成感を味わうことができるようにする。
そして、1日の雲画像を1時間ごとに切り取り パラパラマンガのように使用する。この教材は、
日本上空の天気が西から東へ変化する様子を確認 することができる。また、はやくできた児童のた めに、雲画像だけでなく降水量の変化を示したも のも作成できるようにする。
② 観天望気を科学的に説明できるモデル実験 これも第3次「天気と観天望気」で使用する。
これらの教材は観天望気を説明することができた ときの達成感を味わうことができるという目的で 使用する。「夕焼けがきれいに見えると次の日は晴 れ」と「朝虹は雨、夕虹は晴れ」という2種類の 観天望気を説明するために、机上に置ける大きさ の雲、虹の絵、太陽の絵や雨の絵などを作成し使 用する。
③ 天気予報をしてみようセット
これらは、第4次「天気の変化の予想」で使用 する。児童が気象予報士になって天気予報をする ときに必要な教材で天気予報をしたという達成感 を感じるという目的で使用する。主に、画用紙や マジックを使い天気予報を行うが、場合によって はインターネットを使って、雲画像をクラス全体 に示すこともできるようにする。
④ 発展的内容を含む学習
これらは単元全体を通してその都度、実施する。
発展的な内容を含めたものをA4でまとめ、ラミ ネート加工し、児童全員に配布する。ラミネート 加工することで理科室の中だけでなく、教室や家 庭でも見ることができるようにした。本実践で行 吉岡 真志
った、発展的内容は「雲の種類」「天気の種類」「さ まざまな観天望気」「低気圧と高気圧」の4つであ る。
6.4. 実践の結果
本実践は、6.1.および 6.2.で述べた① 〜⑤を単 元構成の中に組み込んで、自ら学ぼうとする児童 の育成を目指した授業実践を行った。
その結果を4.3.で述べた検証方法に基づいて検 証を行った。
学級全体の意識の変容結果を述べる。まず、「理 科の学習に関するアンケート」から分かる変容で ある。5.4 同様、このアンケートは無記名で行っ ているため、児童群は同じであるが、個別の対応 を取ることができないため、対応のないt検定を 行った。なお、分析には統計解析ソフトSPSS21.0 を使用した。
その結果、5%水準で有意な差が見られた項目は 次のとおりである(表9)。
表9 優位な差が見られた項目
これらの項目のうち特に注目したい項目は、5 と6と17の3項目である。これらの項目は、自 ら学び続けようとする姿勢に関する項目であり、
本実践を通して、内容を理解してよかったと実感 している児童が多く、授業で学んだことを実生活 に活かし、成果を味わうことができた児童が多く なったことを意味している。
「事前テスト」についてである。事前テストお よび事後テストの正答した割合を表10にのせる。
表10 「前提テスト」「事後テスト」の結果
これらのことは5.4.同様、理科の授業に対して 子どもに意欲的に取り組み、理科の学習内容や実 験への興味・関心だけでなく、理科を学ぶことの 有用性を実感でき、理科の学習の必要性を感じて いる児童が多くなったことを意味している。
次に、個人の意識の変容結果を述べる。これら は授業終了時に記述させていた「興味をもったこ と・もっと知りたいこと」に関しての児童の記述 について述べる。
【雲の様子の観察を終えて】
•私はいま、ちょうせんしてみたいことがあります。
それは、雲の形や名前を覚えることです。それと、
虹の色を覚えることです。
【観天望気を説明するモデル実験を終えて】
•観天望気についてもっと知りたいと思って、イン ターネットで調べたら、出てきました。
•朝、学校に登校するときに、ドアを開けると霧が 出ていました。そして思いました。「そういえば朝 霧は晴れ」って先生が言ってたわー。というとは、
晴れだー。とウキウキしながら学校に行ったら晴 れました。
【気象予報士になろうを終えて】
•下校のと中で空を見て明日の天気を当てられる ので、とてもうれしいです。
•天気予報を注意して見て、個人でも天気予報がで きるように努力してもおもしろいなぁと思います。
•私は授業をうけて、たくさん空を見て、天気を予 想するようになりました。
これらの記述から各観察において、子どもはそ の結果を受けて普段の生活に活かそうとし、自ら 学び続けようとする姿勢を見ることができたとい える。
7. 2つの実践研究から得られた知見
これら両実践研究から、自ら学ぼうとし、学び、
学び続ける児童の育成を行う要件として得られた 知見を述べる。
【自ら学ぼうとする児童の育成に関わって】
番号 質問内容
1 理科の勉強は好きだ。
3 理科の授業の内容はよく分かる。
5 科学や自然について疑問を持ち、その疑問について人に質問し たり、調べたりすることがある。
6 理科の授業で学習したことをふだんの生活の中で使うことがで きないか考える。
13 理科の勉強で、実験の結果が予想とちがったとき、その理由を 調べようとしている。
14 理科の授業で、観察や実験の結果から、どのようなことが分か ったのか考えている。
15 理科の授業で、観察や実験の進め方や考え方がまちがっていな いかをふり返って考えている。
17 観察や実験の結果から、さらに疑問がわいてくることがある。
質問内容 理解している児童の割合 [%] 事前テスト 事後テスト 雲の動きと天気の関係 94 98 天気の変化する方角 27 91 天気を予想することができ
るか
28 87
自ら学ぼうとする児童の育成に関わって得られ た知見は次の2つである。
① 新奇性や意外性で児童に驚きを与える必要が ある。
Attention 教材を授業で活用することによって、
新奇性や意外性で児童に驚きを与え、興味・関心 を引きつけることができた。このことで児童にさ まざまな疑問をもたせることができた。この疑問 が、学ぼうとする姿勢を育てることができた。
② 道具を使った操作は児童の理解を援助する上 で必要である。
コンデンサという児童にとって初めて見るブラ ックボックスを平行板コンデンサの作成という取 り組みを通して、半可視化する活動を行った。こ の結果、児童にとってコンデンサを今までより身 近なものに感じ、学ぼうとする姿勢を育てること ができた。
【自ら学び続ける児童の育成に関わって】
次に自ら学び続ける児童の育成に関わって得ら れた知見は次の2つである。
① 達成感や満足感を与えることによって理科に 対する有用性を感じさせる必要がある。
Satisfaction 教材を授業で活用することによっ
て、達成感や満足感を与えることができた。この ことで、理科に対する有用性を実感させることが でき、さらに調べてみようといった学び続ける姿 勢を育てることができた。
② 本物の情報に出会わせることが必要である。
天気を予想してみようという授業で、明日の天 気を予想するという、だれもわからないことに対 してインターネットなどを活用し、今までの知識 を有効活用しながら情報を扱うことで、児童の思 考を活性化し、さらに調べてみようといった学び 続ける姿勢を育てることができた。
8. 今後の取組に向けて
本研究は、学習環境のうち物的要因として教材 に着目し、人的要因として教師の働きかけと子ど も達の活動に目を向け、これらをARCS動機付け モデルに照らし合わせて授業のデザインを考えて きた。そしてある条件下で児童の学習意欲の向上 に機能する教材開発と教師の働きかけ等の要件を 明らかにしようと研究を進めてきた。
そして、2つの授業実践を通して、児童の学習意 欲が高まったのかということについて分析し、学 習意欲の向上に関しての成果を得た。しかし、先 の7までに述べたが,これらの実践は断続的で、継
続的に調査をしたものではなく、検証としては不 十分な点が残る。
例えば、井上・池田(2008)では中学生を対象と して、アンケート調査を行った結果、理科嫌いは 中学校において急速に進行しているとの報告をし ている。
それを検証するため、私立の中等教育学校、1 年生40名、3年生55名、計95名にどのような点で 小学校理科と比べてつまらなくなったのかという 質問をしたところ、図2に示すような回答であっ た。
図2 小学校理科と比べてつまらなくなった点
実験回数に関する項目は小学校の先生がどのよ うな先生であるかによるが、やはり、過半数を超 えて「計算が多くなった」ことや「内容が難しく なった」ことがつまらない理由であると答えてい る。
しかし、どのような点で小学校理科と比べてお もしろくなったのかという質問に対しては、図3 に示すような回答であった。
図3 小学校理科と比べて面白くなった点
「実験が高度になった」や「内容が難しくなっ た」ことが面白くなった点であると回答している 生徒が75 [%]を超えている。より高度な内容を扱 うことで生徒のやる気が刺激されている様子がう かがえる。
このような生徒のおもいを大切にして、ARCS 動機付けモデルに示されている「おもしろそうだ 吉岡 真志
な」「やりがいがありそうだな」「やればできそ うだな」「やってよかったな」というおもいを、
理科という教科の本質に照らし合わせて考えてい きたい。また小学校・中学校・高等学校(中等教育 学校)と学校種が変わっても理科が好きな子ども たちの育成を目指す異校種連携の取組についても 検討していきたい。
9. 謝辞
本研究にあたり奈良教育大学の小柳和喜雄氏、
山本吉延氏には丁寧なご指導を頂いたことに感謝 申し上げます。また、実践研究をさせていただい た、教職員をはじめ、児童生徒、保護者のみなさ まにお礼申し上げます。
さらに、本論文で述べた活動は平成23年度奈良 教育大学後援会学習奨励費により活動を行った。
ここに感謝申し上げます。
参考文献
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•国立教育政策研究所
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実践のため のインストラクショナル・デザイン」.日本教
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•高垣マユミ(2010)『授業デザインの最前線Ⅱ』, 北大路書房.
•上田理恵子(2006)「生徒の興味・関心を高める理 科教材」,『平成 18 年度奈良県教育研究所研究 紀要・研究集録』