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奈良県における地域の食文化伝承に関する考察

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Academic year: 2021

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奈良県における地域の食文化伝承に関する考察

著者 鈴木 洋子, 冨岡 典子

雑誌名 教育実践総合センター研究紀要

巻 12

ページ 57‑60

発行年 2003‑03‑31

その他のタイトル Study on the Handing Down of Food Culture in Nara Prefecture

URL http://hdl.handle.net/10105/77

(2)

1.緒 言

先人の知恵により創造された価値ある生活様式と内 容は、文化として、時には社会状況や価値観の変化等 によって変容しながら受け継がれてきた。中には、そ の理由が近代の科学により裏付けられたものも数多く ある。我々は先人が築いてきた偉大な文化を保存する と同時に、次世代へ伝承する責任があり、一歩進んで 現代の生活に適合した再生と創造に意欲的に取り組む 姿勢をもつことが課せられている。

本研究において取り上げた食文化に対する若者の関 心は、昨今のグルメブームの追い風も受けて高く、興 味深い学習課題となり、他の文化に関心を抱く契機と なることが期待できる。食文化を学ぶことが食物観、

食事観等の形成に貢献し、自己の食生活の充実向上に 効果があるとする見方は、小中高等学校の「総合的な 学習の時間」1)2)3)や高等学校家庭科4)をはじめ、文 部・厚生・農林水産省の「食生活指針」5)に反映され ている。各地の自治体も食文化の伝承活動に力を注い でいる。埼玉県は「女性ふるさとの味伝承士」の名称

で、神奈川県は「ふるさとの生活技術指導士」の名称 で、岩手県は「食の匠」の名称で認定制度を設けてい る。また、長野県と滋賀県は県内に伝わる料理を無形 文化財にした。

これまで、行事食や郷土料理などの食文化は、家庭 内において伝えられてきたが、核家族化の拡大や食生 活の画一化・多様化・簡便化により、その指導力に翳 りが生じてきていると推察する。そこで、これからの 家庭・地域・学校における食文化の伝承指導に対する 示唆を得ることを目的に、地域住民、家庭科担当教師、

生徒の三者を対象に、郷土料理に対する認識と伝承意 識を調査、検証した。

2.研究方法

調査対象:表1に調査対象者と有効回答数を示す。桜 井市は奈良県においても、地域固有の食文化が豊富に 存在することから、地域住民の対象を桜井市域とした。

桜井地域住民(以下、地域住民と記す。)の回収率は 90%、奈良県下の公私立高等学校家庭科教師(以下、

鈴 木 洋 子

(奈良教育大学家政教育教室)

冨 岡 典 子

(桜井女子短期大学)

Study on the Handing Down of Food Culture in Nara Prefecture

Yoko SUZUKI

(Department of Home Economics Education, Nara University of Education)

Noriko TOMIOKA

(Sakurai women s Junior College)

要旨:食文化を学ぶことが食物観、食事観等の形成に貢献し、自己の食生活の充実向上に効果があるとする観点よ り、これからの家庭・地域・学校における食文化の伝承指導に対する示唆を得ることを目的に、奈良県桜井市域の 住民、奈良県下の高等学校家庭科担当教師、奈良県下の高校生の三者を対象に、郷土料理に対する認識と伝承意識 を調査、検証した。その結果、茶粥や柿の葉ずし等の奈良県固有の郷土料理に対する認識は、正月や節句などの全 国的な行事に伴う料理に比べると低いこと、家庭での伝承意識が高い反面、その実態が伴わない傾向にあること、

郷土料理を実践している高等学校が少ないことがわかった。

キーワード:食文化 food culture、郷土料理 local dishes、伝承 handing down、奈良県 Nara prefecture

(3)

高等学校家庭科教師と記す。)の回収率は60%、桜井 市内の私立高等学校に通う高校生(以下、高校生と記 す。)の回収率は100%であった。

調査方法:地域住民、高等学校家庭科教師、高校生の いずれも、調査用紙法で行った。地域住民と高校生は 留置法で、高等学校家庭科教師は郵送法で行った。

調査時期:地域住民は2000年11月から2001年1月に、

高等学校家庭科教師は2000年10月から11月に、高校生 は2001年10月に実施した。

表1 調査対象者(有効回答者)

3.結果及び考察

3.1.郷土料理に対する認識

地域に伝わる郷土料理の認識の有無を調べた結果を 表2に示す。居住または勤務地周辺に郷土料理が「あ る」の回答率は、地域住民の216人(54%)、高等学校 家庭科教師の30人(100%)、高校生の94人(62%)で、

高校生の認識率が高いが、料理に対す認識のパーセン テイジは、認識の程度を詳細に指示しなかったためと 推察する。料理に対する認識度は、居住または勤務地 周辺に郷土料理が「ある」の回答者を母数としている。

認識の高かった料理は、「正月の雑煮やおせち料理」、

「節分のいり豆」などであった。「茶粥」や「柿の葉ず し」は奈良の郷土料理として一般図書や教科書6)など でも紹介されているが、正月や節句などの全国的な行 事に伴う料理に比べると認識度は低い。また、季節の 祭りに伴う料理には「秋祭り・高盛りの飯」、「夏祭 り・小麦もち」、「亥の子祭り・亥の子餅」などのよう に地域特有の料理があるが認識度は低かった。

地域住民の食文化の学習源(複数回答による調査)

は、母(75%)やその他の家族・親戚(22%)で、地 域(5%)や学校(4%)は少なかった。高校生の郷 土料理の調理体験は、17名(18%)があり、その体験 場所の内訳は「家庭・親戚」16名、「地域」1名、「学 校」0名であった。

表2 郷土料理の認識度(認識「あり」の結果)

*:居住地域に郷土料理が「ある」の回答者

**:勤務校周辺に郷土料理が「ある」の回答者 注)料理の説明は、文末に資料として添付

3.2.地域住民および高校生の郷土料理に対する伝 承意識

表3に地域住民の郷土料理に対する伝承意識を調べ た結果を示す。居住地域の郷土料理の認識の有無にか

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かわらず、郷土料理の伝承の必要性を6割以上が認め ており、主な理由には「地域や日本の伝統文化を大切 にしたい」、「行事食や郷土食などをつくり家族で共食 することが楽しい」、「子どもの精神の発達や生きる知 恵を身につけるため」などの回答が多かった。一方、

郷土料理を「伝えるつもりがない」や「どちらとも言 えない」の理由には「地域の伝統文化としてすでに形 だけのものになっていて伝承がなくなりつつある」、

「自分自身がつくれない」、「市販品が購入できる」、

「郷土料理は好まれない」などの回答が上位であった。

表4に高校生の郷土料理に対する習得意識及び伝承 意識を示す。カイ二乗検定の結果、習得意識と伝承意 識の間に1%の有意水準で差が認められ、習得意識に 比べ、伝承意識が高いことがわかった。「習得したく ない」理由には、「つくるのに手間がかかり、めんど うである」、「関心がない」、「市販品が購入できる」な どが上位であった。

地域住民の郷土料理の次世代への伝承手段と高校生 の習得手段(表5)の結果では、「家庭」の回答が多 く、「学校」や「地域」は期待されていない傾向にあ り、特に「学校」が「地域」より低くなっていた点に 注目したい。高校生の習得手段には、料理の本・テレ ビ、料理学校・講習会、インターネットなどの多様の 手段があげられており、自主学習能力の向上としてプ ラスに評価できる。

表3 地域住民の郷土料理に対する伝承意識

表4 高校生の郷土料理に対する習得・伝承意識

習得意識と伝承意識の間には1%の有意水準で有意差あり

(カイ二乗検定)

表5 地域住民の郷土料理の次世代への伝承手段と高 校生の習得手段(複数回答)

*:料理の本・テレビ(65人) 、料理学校・講習会(31人)、

インターネット(20人)を含む

3.3.高等学校家庭科における郷土料理の扱い 表6に高等学校家庭科において実践された行事食や 郷土料理を示す。実践校は7校(23%)であった。実 践された料理のうち郷土料理に相当するのは「茶粥」

と「柿の葉ずし」の二品で、正月料理をはじめとする 行事食は郷土の特色ある行事食として実践されたもの ではなく、日本の食文化理解を目標に実践されていた。

実際、正月のおせち料理を掲載した教科書が多い7)8)。 実践していない理由には「時間不足」82%、「教師自 身が作った経験がない」27%と、学習時間の不足が多 数を占めていたが、教師の力量も無視できない課題で あることが表出された。

これからの家庭科の食物領域の指導において重視し たい内容を、学習指導要領の記述9)に従い調査した結 果(表7)、「食生活管理」、「栄養と食事」が同点上位 で、次に「食品と調理」、「人間と食べ物(行事食・郷 土料理を含む)」の順で、行事食や郷土料理が実践さ れる可能性が低い傾向にあることがわかった。

表6 高等学校家庭科において実践された行事食・郷 土料理

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表7 高等学校家庭科食物領域の重点指導内容

4.まとめと今後の課題

食文化を学ぶことが食物観、食事観等の形成に貢献 し、自己の食生活の充実向上に効果があるとする観点 より、これからの家庭・地域・学校における食文化の 伝承指導に対する示唆を得ることを目的に、奈良県桜 井市域の住民、奈良県下の高等学校家庭科担当教師、

奈良県下の高校生の三者を対象に、郷土料理に対する 認識と伝承意識を調査、検証した結果、以下のことが 明らかになった。

・茶粥や柿の葉ずし等の奈良県固有の郷土料理に対す る認識は、正月や節句などの全国的な行事に伴う料 理に比べると低い。

・地域住民及び高校生の伝承意識は、高い傾向にある。

・地域住民のこれまでならびに次世代への伝承手段 は、母親を中心とする家庭が優先され、高校生も習 得手段には家庭を望んでおり、学校や地域の教育力 に対する期待は薄い。

・高等学校家庭科における実践例は少なく、時間不足 を理由に、その傾向は今後益々強くなることが推察 される。

生活文化の伝承には、家庭や地域における体験を通 して伝承される体験伝承と、新聞、テレビなどの情報 媒体を通して知識として学習、伝承される知識伝承が ある。学校教育は、学習方法によりいずれにも入る。

今回の調査結果より、家庭の伝承意識が高いことを評 価する一方、郷土特有の料理に対する認識が低かった 現実を真摯に受けとめると、実際の指導に疑問を抱か ざるを得ない。

本来、児童および青少年の育成には、学校と家庭と 地域が三位一体となって推進するべきではあるが、家 庭の教育力は衰退を続け、学校教育への依存が益々強 くなる傾向にある。地域の教育力の必要性が問われる ようになったのは、学校の週休2日制が導入されてか らのことである。これからの学校と家庭と地域の教育 力の連携の強化に、食文化は絶好のテーマである。食 文化の背景にある先人の知恵と、それを支えてきた願 いを理解させるには、地域の経験者を指導者とする地 域の生活に根ざした取り組みが必要である。文化の根

底にある理論を理解させるには学校の教育力が有効で あり、実践の拡大には家庭の教育力が効果を発揮する。

学校と家庭と地域の三位一体の教育力こそが、新たな る文化の創造につながるだろう。そのために、学校教 育においては、総合的な学習時間の活用など、教科の 枠にとらわれることなく、学習機会の拡充に努めるこ とが肝要であると考える。

引用・参考文献

1)文部省、小学校学習指導要領解説総則編、東京書 籍、p44(1999)

2)文部省、中学校学習指導要領解説総則編、東京書 籍、p4(1999)

3)文部省、高等学校学習指導要領解説家庭編、開隆 堂出版、pp9−10(2000)

4)文部省、高等学校学習指導要領解説家庭編、開隆 堂、p66(1999)

5)厚生省、健康づくりのための食生活指針策定検討 会、南江堂(2000)

6)樋口恵子ほか、新家庭一般、一橋出版、p127

(2000)

7)伊 藤 セ ツ ほ か 、 家 庭 一 般 新 訂 版 、 実 教 出 版 、 pp126−127(1999)

8)一番ケ瀬康子ほか、家庭一般-生活をかえる-、一 橋出版、pp126−127(2000)

9)前掲3)pp61−62 資 料

小麦もち:もち米に精白した小麦を同量加え、これを 蒸して搗く。適当な大きさにちぎって、き な粉(砂糖入り)をまぶして供する。

亥の子餅:くるみもちともいう。蒸したもち米を搗き、

一口大に丸める。青大豆を煮て、舌にさわ らぬくらい細かく摺り潰したくるみ(あえ 衣)をつくり、もちにくるみと砂糖をかけ て供する。

おみ:米(または冷やごはん)、こいも、大根(夏は なすびやかぼちゃ)、揚げを入れて炊き、さら に、ゆでたそうめんとねぎを入れ、味噌味で仕 上げる。

けんべ:そうめんのふし(そうめんをさおにかけて干 焼き  すときにできる曲がった端のところ)や、そ うめんくずを水につけてふやかしたものをよ く捏ね、それを平たく伸ばして油のひいた焼 き鍋で焼く。焼きたてに味噌を塗り、くるく ると巻いて供する。

参照

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